説明

紡糸巻取機

【課題】屈曲角度θを管理上限屈曲角度θk以下とすると共にガイドの数を増やさず、第二ゴデッドローラの設置位置を高くする必要性を下げる。
【解決手段】紡糸巻取機1は、紡糸部2と、この紡糸部2で紡糸された糸条Yの糸道に沿って順に配される第一ゴデッドローラ3及び第二ゴデッドローラ4と、第二ゴデッドローラ4から送糸される糸条Yを巻き取るテイクアップボビン7を複数支持するボビンホルダー5と、第二ゴデッドローラ4から送糸される糸条Yを綾振る際の綾振支点を定める複数の綾振支点ガイド6と、を備える。テイクアップボビン7は同軸状となるようにボビンホルダー5に支持される。第二ゴデッドローラ4の軸方向4jを、テイクアップボビン7の軸方向7jに対して直交させる。綾振支点ガイド6にて管理上限屈曲角度θkを超える角度で屈曲する糸条Yは、この綾振支点ガイド6の上流側近傍に近傍ガイド9を設けて屈曲させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として特許文献1(特公平2−41490号公報)は、従来の紡糸巻取機に言及している。この紡糸巻取機は、本願図1に示されるように、紡糸部から溶融紡糸された合成繊維糸条(以下、単に糸条とも称する。)を第一ゴデッドローラと第二ゴデッドローラに順に巻き掛け、この第二ゴデッドローラから送糸された糸条を綾振支点ガイドと往復運動するトラバースガイドとを用いて綾振りながら巻取ボビン上に巻き取って、複数のパッケージを同時に形成するように構成されている。
【0003】
具体的には、上記巻取ボビンはボビンホルダーによって支持されており、複数の巻取ボビンは各巻取ボビンの軸方向に沿って並設され、この各巻取ボビンの並設方向と上記の第二ゴデッドローラの軸方向とが平行となっている。そして、図1(a)の正面視で上記第二ゴデッドローラの軸方向に対して垂直な方向に各糸条が第二ゴデッドローラから送出されるよう、第二ゴデッドローラの下流側直近において、第二ゴデッドローラから送出される各糸条の糸道を規制する糸道規制ガイドが設けられている。そして、この糸道規制ガイドを通過した糸条は上記正面視で放射状に広がり、やがて上記綾振支点ガイドに至ると共に、トラバースガイドの往復運動によって巻取ボビンに対して綾振られながら巻き取られ、やがて、パッケージが形成される。
【0004】
上記の構成で、各ガイドにおける糸条の屈曲角度θは、各ガイドごとに異なる値となる。特に、綾振支点ガイドにおける糸条の屈曲角度θは、上記ボビンホルダーの延在方向中央から延在方向端部へ向かうにつれて大きくなる。糸道規制ガイドにおける糸条の屈曲角度についても同様である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、昨今、一台の紡糸巻取機で同時に形成するパッケージの数を増やして生産性を向上すべく、図2に示されるようにボビンホルダーが一層長尺化する傾向にあり、ボビンホルダーの端部に相当する綾振支点ガイドにおける糸条の屈曲角度θが一層大きくなってきた。一方で、この屈曲角度θが大きくなると糸条の品質が悪化するため、本願出願人においては、この屈曲角度θに、操業上、所定の上限値(例えば15度など)を設けて管理している。つまり、上記の長尺化傾向に伴い、上記の屈曲角度θ、特に、ボビンホルダーの端部に相当する綾振支点ガイドにおける糸条の屈曲角度θを上記の上限値(以下、管理上限屈曲角度θkとも称する。)以下に抑えるレイアウトの実現が困難になってきた。
【0006】
そこで、図2において二点鎖線で示すように、第二ゴデッドローラの下流側直近に配される糸道規制ガイドを綾振支点ガイドから離れる方向へ離隔させることが考えられる。即ち、第二ゴデッドローラの設置位置を一層高くしようとするものである。これによれば、図2において符号θ2で示されるように、ボビンホルダーの端部に相当する綾振支点ガイドにおける糸条の屈曲角度θを、図1に示されるような小さい値にすることができる。しかし、このように上記第二ゴデッドローラの設置位置を高くすると、紡糸巻取機を収容する建屋の建造コストが嵩むし、作業性が悪化するし、冷暖房効率が低下してしまう。
【0007】
そこで、上記のように第二ゴデッドローラの設置位置を一層高くすることに代えて、糸条の糸道にガイドを追加することが考えられる。これによれば、各々のガイドにおける糸条の屈曲角度θを小さい値にすることができる。しかし、この場合、ガイドを追加したことで、糸条の走行に対する抵抗が増し、むしろ、糸条の品質が悪化する虞がある。
【0008】
一方、上記の特許文献1には、綾振支点ガイドにおける糸条の屈曲角度について一切言及がない。
【0009】
従って、以上説明したように、上記の屈曲角度θを管理上限屈曲角度θk以下とすると共にガイドの数を図1に示される従来例と比較して増やさないという前提条件のもと、ボビンホルダーを長尺化するには、やはり、第二ゴデッドローラの設置位置を一層高くする他なく、何らかの技術的なブレークスルーが必要となってきた。
【0010】
本願発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ガイドにおける糸条の屈曲角度θを管理上限屈曲角度θk以下とすると共にガイドの数を図1に示される従来例と比較して増やさないという前提条件のもと、第二ゴデッドローラの設置位置を高くする必要性を下げることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本願発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本願発明の観点によれば、以下のように構成される、紡糸巻取機が提供される。即ち、紡糸巻取機は、複数の糸条を紡糸する紡糸部と、この紡糸部で紡糸された前記糸条の糸道に沿って順に配され、該糸条を引き取る、第一ゴデッドローラ及び第二ゴデッドローラと、前記第二ゴデッドローラから送糸される上記糸条を巻き取るための巻取ボビンを複数、支持するボビンホルダーと、前記第二ゴデッドローラから送糸される上記糸条を前記巻取ボビンに対して綾振る際の綾振支点を定める複数の綾振支点ガイドと、を備える。前記複数の巻取ボビンは同軸状となるように前記ボビンホルダーに支持される。前記第二ゴデッドローラの軸方向を、前記ボビンホルダーによって支持される前記巻取ボビンの軸方向に対して直交させる。前記の綾振支点ガイドにて所定の角度を超える角度で屈曲する糸条は、この綾振支点ガイドの上流側近傍にガイドを設けて屈曲させた。
【0013】
このように、前記複数の巻取ボビンが同軸状となるように前記ボビンホルダーに支持されると、前記第二ゴデッドローラから前記綾振支点ガイドへ向かう複数の糸条のうち何れかは、前記綾振支点ガイドにて、上記糸条の品質との兼ね合いで決定される所定の角度(管理上限屈曲角度)を超える角度で屈曲する場合がある。そこで、このような糸条は、前記綾振支点ガイドの上流側近傍にガイドを設けて屈曲させることで、上記糸条の前記綾振支点ガイドにおける屈曲角度を前記管理上限屈曲角度以下とすることができる。
【0014】
また、上記糸条の前記綾振支点ガイドにおける屈曲角度に加えて、前記綾振支点ガイドの上流側近傍に設けた上記ガイドにおける糸条の屈曲角度の存在により、巨視的に見れば、上記糸条が前記綾振支点ガイドにおいてあたかも前記管理上限屈曲角度を超える角度で屈曲していることになるので、上記糸条の品質を悪化させることなく、前記第二ゴデッドローラの設置位置の高さを抑えることができる。例えば、前記綾振支点ガイドにおける上記糸条の屈曲角度と、上記ガイドにおける上記糸条の屈曲角度と、を共に前記管理上限屈曲角度とすれば、上記ガイドが前記綾振支点ガイドの上流側「近傍」に配されることにより、巨視的に見れば、上記糸条が前記綾振支点ガイドにおいてあたかも前記管理上限屈曲角度の2倍の角度で屈曲していることになる。
【0015】
また、図1に示される従来例と比較して、前記第二ゴデッドローラの軸方向の向きが90度変わっており、これにより、従来例における上記糸道規制ガイドを不要とすることができる。
【0016】
また、上記糸道規制ガイドを不要とすることができたことに伴って、図1に示される従来例と比較して、上記糸条を屈曲させるガイドの数は増えることとはならないので、上記糸条に対するガイドの抵抗の観点からは、上記糸条の品質は悪化することがない。
【0017】
このように、上記構成によれば、ガイドにおける上記糸条の屈曲角度θを管理上限屈曲角度θk以下とすると共にガイドの数を図1に示される従来例と比較して増やさないという前提条件をクリアしており、なおかつ、前記第二ゴデッドローラの設置位置を高くする必要性を下げることができる。
【0018】
また、前記第二ゴデッドローラの設置位置を高くする必要性が下がったことによる付随的な効果として、前記紡糸巻取機を収容する建屋の建造コストが嵩んだり、作業性が悪化したり、冷暖房効率が低下してしまう、などといった諸問題を緩和できる。
【0019】
上記の紡糸巻取機は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第二ゴデッドローラと前記綾振支点ガイドとの間に、上記糸条に交絡を付与するインタレースノズルを設ける。このインタレースノズルは、上記糸条に対する交絡の付与が行われるノズル本体と、このノズル本体を挟むように配される一対のノズルガイドと、から構成される。前記一対のノズルガイドのうち何れか一方は上記のガイドとして用いる。前記一対のノズルガイドのうち他方は上記糸条の屈曲には用いない。以上の構成は、前記インタレースノズルを導入した構成におけるガイドの数を削減できるメリットがある。また、前記一対のノズルガイドのうち他方を上記糸条の屈曲には用いないことで、図1に示される従来例と比較して、上記糸条を屈曲させるガイドの数は増えることとはならないので、上記糸条に対するガイドの抵抗の観点からは、上記糸条の品質は悪化することがない。
【0020】
上記の紡糸巻取機は、更に、以下のように構成される。即ち、上記綾振支点ガイドにて前記所定の角度以下の角度で屈曲する上記糸条に対しては、上記糸条に対して張力を付与する糸張力付与ガイドを設ける。即ち、上記綾振支点ガイドにおける屈曲角度が前記所定の角度以下となる上記糸条では、張力が不足する場合がある。そこで、以上の構成によれば、このような糸条の張力を補うことができる。また、図1に示される従来例と比較して、上記糸道規制ガイドを不要とすることができたことに伴って、上記糸条を屈曲させるガイドの数は増えることとはならないので、上記糸条に対するガイドの抵抗の観点からは、上記糸条の品質は悪化することがない。
【0021】
上記の紡糸巻取機は、更に、以下のように構成される。即ち、上記綾振支点ガイドにて前記所定の角度以下の角度で屈曲する上記糸条に対しては、上記ガイドを設けない。このように、上記ガイドが必ずしも必要ではない上記糸条から積極的に上記ガイドを排除することで、図1に示される従来例と比較して、ガイドの数を少なくすることができ、もって、前記紡糸巻取機の製造コストを下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<第一実施形態>
以下、図面を参照しつつ、本発明の第一実施形態を説明する。図3は、本願発明の第一実施形態に係る紡糸巻取機の正面図である。図3に示されるように、本実施形態に係る紡糸巻取機1は、紡糸部2と、第一ゴデッドローラ3及び第二ゴデッドローラ4と、ボビンホルダー5と、綾振支点ガイド6と、を主たる構成として備える。
【0023】
上記の紡糸部2は、複数の糸条Yを紡糸する。本実施形態において、糸条Yは合成繊維糸条である。上記紡糸部2は、本実施形態において12本の糸条Yを同時に紡糸するように構成される。
【0024】
上記の第一ゴデッドローラ3及び第二ゴデッドローラ4は、上記の紡糸部2で紡糸された糸条Yの糸道に沿って順に配され、この糸条Yを引き取る。
【0025】
詳しくは、第一ゴデッドローラ3は、紡糸部2の鉛直下方に配され、紡糸部2で紡糸された複数の糸条Yが糸条Y間の平行な状態を維持したまま巻き掛けられるよう、紡糸部2で紡糸された複数の糸条Yの糸道をすべて含む平面として特定できる紡糸平面の面方向に対して軸方向3jが平行であって且つ水平方向となるように設置される。
【0026】
第二ゴデッドローラ4は、第一ゴデッドローラ3の上方に配され、第一ゴデッドローラ3の軸方向3jに対して第二ゴデッドローラ4の軸方向4jが直交し且つ水平方向となるように配置される。換言すれば、第一ゴデッドローラ3の軸方向3jと、第二ゴデッドローラ4の軸方向4jと、は紡糸巻取機1の平面視で直交する関係とされる。従って、上記の第一ゴデッドローラ3と第二ゴデッドローラ4との間において複数の糸条Yの糸道によって特定できるゴデッド間糸走行面は、第一ゴデッドローラ3から第二ゴデッドローラ4へ至る際に90度、S撚り(若しくはZ撚り)の方向に捩じれるようになっている。
【0027】
ボビンホルダー5は、第二ゴデッドローラ4から送糸される上記糸条Yを巻き取るためのテイクアップボビン7(巻取ボビン)を複数(本実施形態では12個)、回転自在に支持する。詳しくは、ボビンホルダー5は、上記複数のテイクアップボビン7が同軸状となるように、上記複数のテイクアップボビン7を回転自在に、且つ、テイクアップボビン7の軸方向7jにおいて相互に所定の間隔を空けて等間隔となるように、支持する。また、このボビンホルダー5の軸方向5jは、本実施形態において第一ゴデッドローラ3の軸方向3jに対して平行であって且つ水平方向となるように設定される。従って、本実施形態に係るボビンホルダー5の軸方向5jは、上記の第二ゴデッドローラ4の軸方向4jに対して直交し且つ水平方向となるように設定される。換言すれば、第二ゴデッドローラ4の軸方向4jは、ボビンホルダー5によって支持される複数のテイクアップボビン7の軸方向7jに対して紡糸巻取機1の平面視で直交するようになっている。
【0028】
上記の綾振支点ガイド6は、第二ゴデッドローラ4とテイクアップボビン7との間に配され、第二ゴデッドローラ4から送糸される上記糸条Yをテイクアップボビン7に対して綾振る際の綾振支点を定める。詳しくは、綾振支点ガイド6は、各テイクアップボビン7に対して一対一の関係となるように、ボビンホルダー5の軸方向5jと同じ向きで、複数並設される。この綾振支点ガイド6は、トラバースされる際に糸条Yがガイドから外れることのないよう、例えば、図6(b)に示されるように、走行する糸条Yの周囲を完全に取り囲む型式となっている。
【0029】
上記の紡糸巻取機1は、更に、図略のトラバース装置と、テイクアップボビン7(又はパッケージP、以下同様。)に対して圧接してテイクアップボビン7を回転させるフリクションローラ8と、を備える。上記のトラバース装置は、第二ゴデッドローラ4から綾振支点ガイド6に案内された糸条Yを綾振支点ガイド6の下流側でテイクアップボビン7に対して綾振る。トラバース装置は、図略のトラバースガイドを備え、このトラバースガイドをテイクアップボビン7の軸方向7jに沿って往復運動させることによって、該トラバースガイドに掛けられた糸条Yをテイクアップボビン7に対して綾振るように構成される。フリクションローラ8は、ボビンホルダー5の軸方向5jに対して平行に配される。
【0030】
以上の構成で、本実施形態に係る紡糸巻取機1における糸条Yは、以下のような経路を採る。即ち、紡糸部2から送出された糸条Yは、第一ゴデッドローラ3と第二ゴデッドローラ4に対して順に巻き掛けられる。そして、第二ゴデッドローラ4から送出される複数の糸条Yは、本図左右方向に幅広に点在する綾振支点ガイド6へ向かって放射状に案内される。綾振支点ガイド6に案内された糸条Yは、図略のトラバース装置によって綾振られながら、テイクアップボビン7上に巻き取られる。この結果、各テイクアップボビン7上には所定形状、所定径のパッケージPが形成される。
【0031】
次に、管理上限屈曲角度θkを説明する。即ち、ガイドにおける糸条Yの屈曲角度θが大きくなればなるほど、その屈曲から受ける糸条Yの品質のダメージも大きくなる。従って、ガイドにおける糸条Yの屈曲角度θは、やみくもに大きな値とすることができない。そこで、本願出願人は、糸条Yの品質確保の観点から、ガイドにおける糸条Yの屈曲角度θに所定の上限値を設けている。この上限値を、以下、管理上限屈曲角度θkと称する。そして、本願出願人は、この管理上限屈曲角度θkを例えば、15度に設定している。
【0032】
そして、本実施形態に係る紡糸巻取機1は、更に、近傍ガイド9(ガイド)を備える。以下、この近傍ガイド9について詳細に説明する。
【0033】
本実施形態において第二ゴデッドローラ4は、ボビンホルダー5の軸方向5jにおいて、ボビンホルダー5の延在方向中央に相当する位置に配置される。従って、第二ゴデッドローラ4から各綾振支点ガイド6へ向かって案内される糸条Yの、綾振支点ガイド6における、屈曲角度θについて言えば、ボビンホルダー5の延在方向端部に対応する屈曲角度θは、ボビンホルダー5の延在方向中央に対応する屈曲角度θと比較して大きな値となる。本実施形態では、複数の綾振支点ガイド6のうち、紙面左端から数えて1番目、2番目、3番目となる綾振支点ガイド6と、紙面右端から数えて1番目、2番目、3番目となる綾振支点ガイド6と、における糸条Yの屈曲角度θが特に大きく、これら6つの綾振支点ガイド6における糸条Yの屈曲角度θのみが上記の管理上限屈曲角度θkを超えることとなっている。
【0034】
そこで、本実施形態では、綾振支点ガイド6における屈曲角度θが特に大きく管理上限屈曲角度θkを超える角度で屈曲する糸条Yは、綾振支点ガイド6の上流側近傍に上記近傍ガイド9を設け、この近傍ガイド9を用いて屈曲させることとする。換言すれば、綾振支点ガイド6における屈曲で得ていた屈曲角度θを、綾振支点ガイド6と近傍ガイド9とにおける双方の屈曲で分担しようとするものである。即ち、図3において、θ≒θ2+θ3の関係が成立する。θ>θkの関係が成立しており、θ2は、近傍ガイド9を設けることによって緩和された、綾振支点ガイド6における、糸条Yの屈曲角度θであり、θ2≦θkの関係が成立する。θ3は、近傍ガイド9における糸条Yの屈曲角度θであり、θ3≦θkの関係が成立する。なお、この綾振支点ガイド6は、例えば図6(a)に示されるように、走行する糸条Yの周囲を完全には取り囲わないU字状のセラミックガイドとして構成される。本実施形態において、その他の綾振支点ガイド6の上流側には近傍ガイド9を設けない。
【0035】
更に詳しく説明すると、本実施形態において、θ2=θk、θ3=θk、の関係が成立する。従って、複数の綾振支点ガイド6のうち紙面左端から数えて1番目の綾振支点ガイド6から紙面右端から数えて1番目の綾振支点ガイド6までの水平距離をLとし、複数の綾振支点ガイド6のうち紙面左端から数えて1番目の綾振支点ガイド6から該綾振支点ガイド6に案内される糸条Yに対して設けられた近傍ガイド9までの水平距離をmとし鉛直距離をh1と、複数の綾振支点ガイド6から第二ゴデッドローラ4までの鉛直距離をhとすると、h1=m/tanθ2=m/tanθk、h−h1=(L/2−m)/tan(θ2+θ3)=(L/2−m)/tan(2×θk)、の関係が成立する。第一式の右辺を第二式に代入すると、h=(L/2−m)/tan(2×θk)+m/tanθkが得られる。そして、本実施形態では、近傍ガイド9は、複数の綾振支点ガイド6のうち紙面左端から数えて1番目の綾振支点ガイド6の「近傍」に設けられているので、巨視的に見れば、上記式においてm≒0とみなすことができ、従って、上記式は更に、h=(L/2)/tan(2×θk)となる。ここで、θkが15度前後のとき、tan(2×θk)≒2×tanθkとみなすことができるので、上記式は更に、h=((L/2)/tanθk)/2となる。一方、上記近傍ガイド9を設けない場合は、h=(L/2)/tanθkの関係が成立する。これらの数式によれば、本実施形態において近傍ガイド9を設けた場合、設けない場合と比較して、hを略半減できることがわかる。なお、上記の考察では、複数の綾振支点ガイド6のうち紙面左端から数えて1番目の綾振支点ガイド6を中心としてhの大小を考えたが、この綾振支点ガイド6は、上記hの高さの確保必要性に関して最も支配的であるので、第二ゴデッドローラ4の設置位置の高さの確保必要性に関して考察するに際し、上記の考察だけで十分であることを理解されたい。
【0036】
(まとめ)
(請求項1)
以上説明したように上記実施形態において紡糸巻取機1は、以下のように構成される。即ち、紡糸巻取機1は、複数の糸条Yを紡糸する紡糸部2と、この紡糸部2で紡糸された前記糸条Yの糸道に沿って順に配され、該糸条Yを引き取る、第一ゴデッドローラ3及び第二ゴデッドローラ4と、前記第二ゴデッドローラ4から送糸される上記糸条Yを巻き取るためのテイクアップボビン7を複数、支持するボビンホルダー5と、前記第二ゴデッドローラ4から送糸される上記糸条Yを前記テイクアップボビン7に対して綾振る際の綾振支点を定める複数の綾振支点ガイド6と、を備える。前記複数のテイクアップボビン7は同軸状となるように前記ボビンホルダー5に支持される。前記第二ゴデッドローラ4の軸方向4jを、前記ボビンホルダー5によって支持される前記テイクアップボビン7の軸方向7jに対して直交させる。前記の綾振支点ガイド6にて管理上限屈曲角度θkを超える角度で屈曲する糸条Yは、この綾振支点ガイド6の上流側近傍に近傍ガイド9を設けて屈曲させた。
【0037】
このように、前記複数のテイクアップボビン7が同軸状となるように前記ボビンホルダー5に支持されると、前記第二ゴデッドローラ4から前記綾振支点ガイド6へ向かう複数の糸条Yのうち何れかは、前記綾振支点ガイド6にて、上記糸条Yの品質との兼ね合いで決定される管理上限屈曲角度θkを超える角度で屈曲する場合がある。そこで、このような糸条Yは、前記綾振支点ガイド6の上流側近傍に近傍ガイド9を設けて屈曲させることで、上記糸条Yの前記綾振支点ガイド6における屈曲角度θを前記管理上限屈曲角度θk以下とすることができる。
【0038】
また、上記糸条Yの前記綾振支点ガイド6における屈曲角度θに加えて、前記綾振支点ガイド6の上流側近傍に設けた上記近傍ガイド9における糸条Yの屈曲角度θの存在により、巨視的に見れば、上記糸条Yが前記綾振支点ガイド6においてあたかも前記管理上限屈曲角度θkを超える角度で屈曲していることになるので、上記糸条Yの品質を悪化させることなく、前記第二ゴデッドローラ4の設置位置の高さを抑えることができる。例えば、前記綾振支点ガイド6における上記糸条Yの屈曲角度θと、上記近傍ガイド9における上記糸条Yの屈曲角度θと、を共に前記管理上限屈曲角度θkとすれば、上記近傍ガイド9が前記綾振支点ガイド6の上流側「近傍」に配されることにより、巨視的に見れば、上記糸条Yが前記綾振支点ガイド6においてあたかも前記管理上限屈曲角度θkの2倍の角度で屈曲していることになる。
【0039】
また、図1に示される従来例と比較して、前記第二ゴデッドローラ4の軸方向4jの向きが90度変わっており、これにより、従来例における上記糸道規制ガイドを不要とすることができる。
【0040】
また、上記糸道規制ガイドを不要とすることができたことに伴って、図1に示される従来例と比較して、上記糸条Yを屈曲させるガイドの数は増えることとはならないので、上記糸条Yに対するガイドの抵抗の観点からは、上記糸条Yの品質は悪化することがない。
【0041】
このように、上記構成によれば、ガイドにおける上記糸条Yの屈曲角度θを管理上限屈曲角度θk以下とすると共にガイドの数を図1に示される従来例と比較して増やさないという前提条件をクリアしており、なおかつ、前記第二ゴデッドローラ4の設置位置を高くする必要性を下げることができる。
【0042】
また、前記第二ゴデッドローラ4の設置位置を高くする必要性が下がったことによる付随的な効果として、前記紡糸巻取機1を収容する建屋の建造コストが嵩んだり、作業性が悪化したり、冷暖房効率が低下してしまう、などといった諸問題を緩和できる。
【0043】
付言するならば、上記の構成によれば、第二ゴデッドローラ4と綾振支点ガイド6との間を走行する糸条Yの走行距離が短くなるので、風などに起因する糸条Yの品質の低下の虞を緩和できる。
【0044】
ところで、上記実施形態において、第二ゴデッドローラ4の軸方向4jは、ボビンホルダー5によって支持されるテイクアップボビン7の軸方向7jに対して直交させることとした。しかし、第二ゴデッドローラ4とテイクアップボビン7は図3から判る通り鉛直の向きに離れて配置されるので、第二ゴデッドローラ4の軸方向4jと、テイクアップボビン7の軸方向7jと、は交差しない。一方、紡糸巻取機1の平面視においては、第二ゴデッドローラ4の軸方向4jと、テイクアップボビン7の軸方向7jと、は直交すると言える。このような事情から、本願明細書における「直交」は、以下のように解釈するものとする。即ち、「軸方向Aに対して軸方向Bが直交する」とは、「軸方向Aに対して直交する方向の視野(上記実施形態では、例えば、紡糸巻取機1の平面視がこれに該当する。)において、軸方向Aと軸方向Bが直交するように映る。」を意味する。
【0045】
(請求項4)
また、上記の紡糸巻取機1は、更に、以下のように構成される。即ち、上記綾振支点ガイド6にて前記管理上限屈曲角度θk以下の角度で屈曲する上記糸条Yに対しては、上記近傍ガイド9を設けない。このように、上記近傍ガイド9が必ずしも必要ではない上記糸条Yから積極的に上記近傍ガイド9を排除することで、図1に示される従来例と比較して、ガイドの数を少なくすることができ、もって、前記紡糸巻取機1の製造コストを下げることができる。
【0046】
以上に本発明の好適な第一実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0047】
(1)即ち、例えば、紡糸部2と第一ゴデッドローラ3との相対的な位置関係、第一ゴデッドローラ3と第二ゴデッドローラ4との相対的な位置関係、紡糸部2と第二ゴデッドローラ4との相対的な位置関係は、何れも、上記実施形態に例示の位置関係に限定されない。
【0048】
(2)各ガイドの型式は例示の型式に限定されない。
【0049】
(3)ボビンホルダー5によって同時に支持されるテイクアップボビン7の数は、例示の12個に代えて、例えば、8個や10個、16個など、それ以下であっても、それ以上であってもよい。
【0050】
(4)上記糸条Yは、合成繊維糸条としたが、これに代えて、天然繊維糸条であってもよい。
【0051】
(5)上記近傍ガイド9をすべての糸条Yに対して設けてもよい。
【0052】
<第二実施形態>
次に、図4を参照しつつ、本願発明の第二実施形態を説明する。図4は、本願発明の第二実施形態に係る紡糸巻取機の正面図である。以下、本実施形態が上記第一実施形態と相違する点を中心に説明し、重複する説明は適宜に割愛する。
【0053】
図4に示されるように、複数の綾振支点ガイド6のうち、紙面左端から数えて1番目、2番目、3番目と紙面右端から数えて1番目、2番目、3番目となる綾振支点ガイド6以外の綾振支点ガイド6における糸条Yの屈曲角度θは、上記の管理上限屈曲角度θkを超えていない。上記第一実施形態では、これらの綾振支点ガイド6に案内される糸条Yに対しては近傍ガイド9を設けないこととした。本実施形態でも、同様に、これらの綾振支点ガイド6に案内される糸条Yに対しては近傍ガイド9を設けないこととする。
【0054】
しかし、本実施形態では、上記第一実施形態と異なり、これらの綾振支点ガイド6に案内される糸条Yに対して、該糸条Yに対して張力を付与するための糸張力付与ガイド10を設ける。具体的には、複数の綾振支点ガイド6のうち中央に配置される4つの綾振支点ガイド6に案内される糸条Yに対して、該糸条Yに対して張力を付与する糸張力付与ガイド10を設ける。
【0055】
詳しくは、この糸張力付与ガイド10は、例えば図6(a)に示されるように、走行する糸条Yの周囲を完全には取り囲わないU字状のセラミックガイドとして構成される。そして、この糸張力付与ガイド10は、第二ゴデッドローラ4から綾振支点ガイド6に至るまでの間の任意の箇所に設けられる。即ち、糸張力付与ガイド10は、例えば、綾振支点ガイド6の上流側近傍に設けられ、又は、第二ゴデッドローラ4の下流側近傍に設けられ、又は、第二ゴデッドローラ4と綾振支点ガイド6とのちょうど中間付近に設けられる。更には、糸張力付与ガイド10は、近傍ガイド9が添設される糸条Yの糸道を含むことで特定される平面上に設けられ、又は、この平面とは異なる平面上に設けられる。この糸張力付与ガイド10は、糸条Yの糸道を若干屈曲させるように配置される。詳しくは、糸張力付与ガイド10は、糸条Yの糸道を例えば1〜5度、屈曲させるように配置される。そして、この糸張力付与ガイド10による屈曲により、糸張力付与ガイド10に掛けられる上記糸条Yは、適度な張力が付与されるようになっている。
【0056】
(請求項3)
以上説明したように本実施形態において上記の紡糸巻取機1は、更に、以下のように構成される。即ち、上記綾振支点ガイド6にて前記管理上限屈曲角度θk以下の角度で屈曲する上記糸条Yに対しては、上記糸条Yに対して張力を付与する糸張力付与ガイド10を設ける。即ち、上記綾振支点ガイド6における屈曲角度θが前記管理上限屈曲角度θk以下となる上記糸条Yでは、張力が不足する場合がある。そこで、以上の構成によれば、このような糸条Yの張力を補うことができる。また、図1に示される従来例と比較して、上記糸道規制ガイドを不要とすることができたことに伴って、上記糸条Yを屈曲させるガイドの数は増えることとはならないので、上記糸条Yに対するガイドの抵抗の観点からは、上記糸条Yの品質は悪化することがない。
【0057】
<第三実施形態>
次に、図5を参照しつつ、本願発明の第三実施形態を説明する。図5は、本願発明の第三実施形態に係る紡糸巻取機の正面図である。以下、本実施形態が上記第一実施形態と相違する点を中心に説明し、重複する説明は適宜、割愛する。
【0058】
本実施形態では、上記第一実施形態と異なり、第二ゴデッドローラ4と綾振支点ガイド6との間に、上記糸条Yに交絡を付与するインタレースノズル11を設ける。このインタレースノズル11は、上記糸条Yに対する交絡の付与が行われるノズル本体12と、このノズル本体12を挟むように配される一対のノズルガイド13a、13bと、から構成される。ノズルガイド13a、13bは、ノズル本体12内を走行する糸条Yのバタツキを抑えるためのガイドである。このノズルガイド13a、13bは、例えば、図6(a)に示されるように、走行する糸条Yの周囲を完全には取り囲わないU字状のセラミックガイドとして構成される。そして、上記一対のノズルガイド13a、13bのうち上流側のノズルガイド13aは近傍ガイド9として用い、上記一対のノズルガイド13のうち他方のノズルガイド13bは上記糸条Yの屈曲には用いない。即ち、このノズルガイド13bは、単に糸条Yの糸道に沿わせるだけとする。
【0059】
(請求項2)
以上説明したように上記実施形態において紡糸巻取機1は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第二ゴデッドローラ4と前記綾振支点ガイド6との間に、上記糸条Yに交絡を付与するインタレースノズル11を設ける。このインタレースノズル11は、上記糸条Yに対する交絡の付与が行われるノズル本体12と、このノズル本体12を挟むように配される一対のノズルガイド13a、13bと、から構成される。前記一対のノズルガイド13a、13bのうち上流側のノズルガイド13aは上記の近傍ガイド9として用いる。前記一対のノズルガイド13のうち下流側のノズルガイド13bは上記糸条Yの屈曲には用いない。以上の構成は、前記インタレースノズル11を導入した構成におけるガイドの数を削減できるメリットがある。また、前記一対のノズルガイド13a、13bのうち下流側のノズルガイド13bを上記糸条Yの屈曲には用いないことで、図1に示される従来例と比較して、上記糸条Yを屈曲させるガイドの数は増えることとはならないので、上記糸条Yに対するガイドの抵抗の観点からは、上記糸条Yの品質は悪化することがない。
【0060】
以上に本発明の好適な第三実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0061】
即ち、例えば、上記一対のノズルガイド13a、13bのうち上流側のノズルガイド13aを近傍ガイド9として用いることに代えて、ノズルガイド13a、13bのうち下流側のノズルガイド13bを近傍ガイド9として用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1(a)は従来例の紡糸巻取機の正面図であり、図1(b)は従来例の紡糸巻取機の側面図である。
【図2】大型化傾向にある紡糸巻取機の正面図である。
【図3】本願発明の第一実施形態に係る紡糸巻取機の正面図である。
【図4】本願発明の第二実施形態に係る紡糸巻取機の正面図である。
【図5】本願発明の第三実施形態に係る紡糸巻取機の正面図である。
【図6】ガイドの外観図である。
【符号の説明】
【0063】
1 紡糸巻取機
2 紡糸部
3 第一ゴデッドローラ
4 第二ゴデッドローラ
5 ボビンホルダー
6 綾振支点ガイド
7 テイクアップボビン
9 近傍ガイド
θ 屈曲角度
θk 管理上限屈曲角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸条を紡糸する紡糸部と、
この紡糸部で紡糸された前記糸条の糸道に沿って順に配され、該糸条を引き取る、第一ゴデッドローラ及び第二ゴデッドローラと、
前記第二ゴデッドローラから送糸される上記糸条を巻き取るための巻取ボビンを複数、支持するボビンホルダーと、
前記第二ゴデッドローラから送糸される上記糸条を前記巻取ボビンに対して綾振る際の綾振支点を定める複数の綾振支点ガイドと、
を備え、
前記複数の巻取ボビンは同軸状となるように前記ボビンホルダーに支持され、
前記第二ゴデッドローラの軸方向を、前記ボビンホルダーによって支持される前記巻取ボビンの軸方向に対して直交させると共に、
前記の綾振支点ガイドにて所定の角度を超える角度で屈曲する糸条は、この綾振支点ガイドの上流側近傍にガイドを設けて屈曲させた、
紡糸巻取機。
【請求項2】
請求項1に記載の紡糸巻取機であって、
前記第二ゴデッドローラと前記綾振支点ガイドとの間に、上記糸条に交絡を付与するインタレースノズルを設け、
このインタレースノズルは、上記糸条に対する交絡の付与が行われるノズル本体と、このノズル本体を挟むように配される一対のノズルガイドと、から構成され、
前記一対のノズルガイドのうち何れか一方は上記のガイドとして用い、
前記一対のノズルガイドのうち他方は上記糸条の屈曲には用いない、
紡糸巻取機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紡糸巻取機であって、
上記綾振支点ガイドにて前記所定の角度以下の角度で屈曲する上記糸条に対しては、上記糸条に対して張力を付与する糸張力付与ガイドを設ける、
紡糸巻取機。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の紡糸巻取機であって、
上記綾振支点ガイドにて前記所定の角度以下の角度で屈曲する上記糸条に対しては、上記ガイドを設けない、
紡糸巻取機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−111964(P2010−111964A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284990(P2008−284990)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】