説明

紡糸巻取機

【課題】紡糸部から送出された複数の糸を分配する分配ガイドにおける糸の屈曲角度を大きくしつつ、糸へのダメージを抑える。
【解決手段】紡糸機から連続的に紡糸されて供給される複数の糸10は、2つのゴデットローラで下方の巻取ユニットに送られ、巻取ユニットにおいて、複数の支点ガイド13に分配されたうえで、ボビンホルダに装着された複数のボビンに巻き取られる。支点ガイド13は、半径が3mm以上8mm以下の円柱形状を有しており、その外周面に糸10が掛けられる。また、支点ガイド13は、回動させることによって、糸10との摺動位置を変更することができるようになっている。また、支点ガイド13に掛けられた糸10は、支点ガイド13の上方に設けられた規制ガイド25に形成されたスリット25aを通過するように配置されることで、支点ガイド13の軸方向への移動が規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸部から送出された複数の糸を複数のボビンに巻き取る紡糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の紡糸巻取機においては、紡糸機から送出された複数の糸が、一対のゴデットローラを経て、ボビンホルダの軸方向に沿って配列された複数の分配ガイド(綾振り支点ガイド)に1本ずつ分配される。分配ガイドに分配された糸は、分配ガイドにおいて屈曲されて、ボビンホルダに装着されたボビンに向けて送られ、ボビンに巻き取られる。
【0003】
ここで、特許文献1に記載の紡糸巻取機では、上述したように、分配ガイドにおいて糸が屈曲されるため、糸の屈曲角度(巻き付け角度)が大きいと、分配ガイドから糸に加わる面圧が大きくなり、糸に大きなダメージを与えてしまう。一方、ゴデットローラを高い位置に配置すれば、屈曲角度を小さくすることはできるが、ゴデットローラを高い位置に配置するため、装置の大型化につながる。また、紡糸機から送出される糸の本数が多く、多数の分配ガイドがボビンホルダの軸方向に配列される場合には、ボビンホルダの軸方向に関して、外側の分配ガイドがゴデットローラから大きく離れることとなり、外側の分配ガイドにおける糸の屈曲角度が大きくなる。そのため、糸の屈曲角度を小さくするためには、紡糸部から送出される糸の本数が多い場合ほど、ゴデットローラを高い位置に配置する必要があり、装置の大型化が大きな問題となる。
【0004】
このような問題を解決するために、特許文献2に記載の巻取装置では、分配ガイドを、回転自在に支持されたものとすることによって、あるいは、駆動装置によって回転されるものとすることによって、糸の走行に合わせて分配ガイドが回転するようにしており、これにより、ゴデットローラが低い位置に配置され、分配ガイドにおける糸の屈曲角度が大きくなるような場合でも、糸に与えるダメージが小さくなるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−272835号公報
【特許文献2】特表2005−534825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の巻取装置では、分配ガイドを回転自在に支持されたものとした場合には、糸が高速で走行するのに合わせて、分配ガイドが高速で回転するため、分配ガイドとその支持軸との間に介在する軸受の摩耗などを抑制するために、頻繁にメンテナンスを行う必要がある。
【0007】
一方、分配ガイドを駆動装置によって回転されるものとした場合には、分配ガイドには駆動装置からトルクが加わっており、分配ガイドと接触する糸には、このトルクによる力が作用する。ここで、駆動装置から分配ガイドに加わるトルクの大きさは、分配ガイドの回転数によって決まるものであるため、糸にはその太さなどに関わらず、同程度の力が作用することとなる。そのため、糸が細い場合には、分配ガイドから糸に作用する力が大きく、糸に大きなダメージを与えてしまう虞がある。
【0008】
本発明の目的は、分配ガイドにおける糸の屈曲角度が大きい場合に、糸の太さによらず、屈曲された糸のダメージを最小限に抑えることが可能であり、頻繁にメンテナンスを行う必要のない紡糸巻取機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る紡糸巻取機は、複数のボビンが軸心に沿って直列に装着されており、紡糸部から送出された複数の糸を前記複数のボビンに巻き取る巻取軸と、前記紡糸部から送出された前記複数の糸を屈曲させて前記巻取軸に装着された前記複数のボビンにそれぞれ分配する複数の分配ガイドと、を備え、前記分配ガイドの糸との摺動面における曲率半径が3mm以上8mm以下となっていることを特徴とする。
【0010】
本発明によると、分配ガイドの糸との摺動面における曲率半径を3mm以上8mm以下とすることにより、分配ガイドにおいて、糸をある程度大きく屈曲させた場合でも、糸に与えるダメージを抑えることができる。これにより、分配ガイドにおける糸の屈曲角度を大きくすることが可能となり、紡糸巻取機の高さを低くすることができる。また、分配ガイドは、糸の走行中に回転するものではないため、糸に回転する分配ガイドから大きな力が作用して糸にダメージを与えてしまうこともなく、分配ガイドに対して頻繁にメンテナンスを行う必要もない。
【0011】
第2の発明に係る紡糸巻取機は、第1の発明に係る紡糸巻取機において、前記分配ガイドにおける糸の屈曲角度が30°以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明によると、分配ガイドにおける糸の屈曲角度が30°以下であれば、分配ガイドの糸との摺動面における曲率半径を3mm以上8mm以下とすることにより、糸に与えるダメージを抑えることができる。
【0013】
第3の発明に係る紡糸巻取機は、第2の発明に係る紡糸巻取機において、前記分配ガイドの糸との摺動位置を変更する摺動位置変更機構をさらに備えていることを特徴とする。
【0014】
分配ガイドの同じ部分が長期間、糸と摺動すると、分配ガイドの当該部分における、糸を滑りやすくするための処理などが劣化してしまう。しかしながら、本発明によると、分配ガイドの糸の摺動位置を変更することができるので、分配ガイドの寿命を長くすることができる。
【0015】
第4の発明に係る紡糸巻取機は、第3の発明に係る紡糸巻取機において、前記分配ガイドは、その外周面において糸と摺動する円柱形状を有しており、前記摺動位置変更機構は、前記分配ガイドを前記円柱の軸を中心に回動させることによって、前記分配ガイドの糸との摺動位置を変更するガイド回動機構を備えていることを特徴とする。
【0016】
本発明によると、分配ガイドが円柱形状である場合には、分配ガイドをその軸を中心に回動させることによって、分配ガイドの糸との摺動位置を変更することができる。
【0017】
第5の発明に係る紡糸巻取機は、第4の発明に係る紡糸巻取機において、前記ガイド回動機構は、複数の前記分配ガイドに巻き掛けられることで、複数の前記分配ガイドを互いに連結させる無端状のベルトと、前記ベルトを駆動するベルト駆動装置と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
本発明によると、1つのベルト駆動装置を駆動するだけで、ベルトによって互いに連結された複数の分配ガイドの、糸との摺動位置をまとめて変更することができる。
【0019】
第6の発明に係る紡糸巻取機は、第1〜第5のいずれかの発明に係る紡糸巻取機において、前記分配ガイドが、前記巻取軸の軸方向と交差する所定方向に延びており、前記摺動位置変更機構が、前記分配ガイドを前記所定方向に移動させることによって、前記摺動位置を変更するガイド移動機構を備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明によると、分配ガイドが巻取軸の軸方向と交差する所定方向に延びている場合には、分配ガイドを所定方向に移動させることによって、分配ガイドの糸との摺動位置を変更することができる。
【0021】
第7の発明に係る紡糸巻取機は、第1〜第6のいずれかの発明に係る紡糸巻取機において、前記分配ガイドに掛かった糸が、前記分配ガイドと摺動する部分における走行方向と直交する方向に移動するのを規制する規制手段をさらに備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明によると、糸が分配ガイドから抜け落ちてしまうのを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、分配ガイドを、糸との摺動面における曲率半径が3mm以上8mm以下のものとすることにより、分配ガイドにおける糸の屈曲角度がある程度大きい場合でも、糸に与えるダメージを抑えることができる。これにより、分配ガイドにおける糸の屈曲角度を大きくすることが可能となり、紡糸巻取機の高さを低くすることができる。 また、分配ガイドは、糸の走行中に回転するものではないため、糸に回転する分配ガイドから大きな力が作用して糸にダメージを与えてしまうこともなく、分配ガイドに対して頻繁にメンテナンスを行う必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る紡糸巻取機の概略構成図である。
【図2】図1の支点ガイド及びその周辺部分の斜視図である。
【図3】図2の内部を上方から見た図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】支点ガイドにおける糸の巻き付け角度、糸が支点ガイドから受ける面圧などを示す図である。
【図6】種々の半径の支点ガイドを用いて糸を分配したときの、糸物性の測定結果を示す図である。
【図7】変形例1の図4相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0026】
紡糸巻取機1は、巻取ユニット3と、巻取ユニット3よりも図1における紙面奥側に配置された枠状のフレーム14と、紡糸機2から供給された複数の糸10を引き取る2つのゴデットローラ11、12と、下流側のゴデットローラ12に巻き掛けられた複数の糸10を巻取ユニット3のボビンホルダ7に装着された複数のボビンBにそれぞれ分配し、且つ、トラバースガイド8による綾振り時に支点となる複数の支点ガイド13(分配ガイド)を備えている。
【0027】
そして、紡糸巻取機1は、図1に示すように、上方にある紡糸機2において紡糸され、紡糸機2から図1の紙面直交方向に配列された状態で連続的に供給される複数の糸10を、2つのゴデットローラ11、12で下方の巻取ユニット3に送り、この巻取ユニット3で巻き取っている。
【0028】
巻取ユニット3について説明する。巻取ユニット3は、紡糸機2の下方に配置されており、2つのゴデットローラ11、12を介して紡糸機2から供給された複数の糸10を、複数のボビンBにそれぞれ巻き取って複数のパッケージPを形成する。
【0029】
この巻取ユニット3は、本体フレーム5と、本体フレーム5に回転可能に設けられた円板状のターレット6、ターレット6に一端が支持され、複数のボビンBが軸心7aに沿って直列に装着される2本のボビンホルダ7(巻取軸)、ボビンホルダ7に装着された複数のボビンBの上方にそれぞれ配置され、ボビンBに巻き取られる糸10を綾振る複数のトラバースガイド8、本体フレーム5に対して上下方向に移動可能であり、ボビンホルダ7に装着されたボビンBに対して離接するコンタクトローラ9などを有している。
【0030】
巻取ユニット3は、ボビンホルダ7を図示しない駆動モータにより回転させることで、このボビンホルダ7に装着された複数のボビンBを回転させ、回転する複数のボビンBにそれぞれ糸10を巻き取る。このとき、ボビンBに巻き取られる糸10は、その直前にボビンBの軸方向に往復移動可能なトラバースガイド8によって、後述する支点ガイド13を支点としてボビンBの軸方向に綾振りされ、パッケージPを形成する。また、コンタクトローラ9は、ボビンBへの糸巻き取り時に、パッケージPに所定の接圧を付与しながら回転して、パッケージPの形状を整える。
【0031】
2つのゴデットローラ11、12は、図1に示すように、巻取ユニット3の本体フレーム5の上方において、フレーム14に回転可能に支持されており、その軸心11a、12aがボビンホルダ7の軸心7aと直交している。ゴデットローラ11、12は、図示しない駆動モータによって駆動される駆動ローラである。ゴデットローラ11は紡糸機2の直下に配置されている。ゴデットローラ12は、ゴデットローラ11の上方の、ボビンホルダ7の軸方向に関してゴデットローラ11からずれた位置に配置されている。
【0032】
また、ゴデットローラ12は、例えばリニアモータなどの昇降機構16により、複数の支点ガイド13の並び方向の略中央の上方に位置する糸巻取位置(図1の実線で示す位置)と、糸巻取位置よりも下方のゴデットローラ11に近接した糸掛け位置(図1の二点鎖線で示す位置)との間で移動可能となっている。
【0033】
複数の支点ガイド13は、糸巻取位置にある下流側のゴデットローラ12よりも下方であって、複数のトラバースガイド8の上方において、複数のトラバースガイド8及びボビンホルダ7に装着された複数のボビンBの真上に、ボビンホルダ7の軸心7aに沿って複数のボビンBの軸方向に関する中心の間隔と同じ間隔で並んで配置されている。
【0034】
複数の支点ガイド13は、図2〜図4に示すように、ボビンホルダ7の軸方向と直交する水平な方向(ボビンホルダ7の軸と交差する所定方向)に延びた、半径Rが3mm以上8mm以下の円柱形状を有しており、ゴデットローラ12から送られてきた糸10は、支点ガイド13の外周面に掛けられる。すなわち、支点ガイド13は、糸10との摺動面における曲率半径が3mm以上8mm以下となっている。
【0035】
また、支点ガイド13は、例えばセラミックス材料からなり、図2〜図4に示すように、その基端部がガイド支持部材21に取り付けられている。さらに、複数の支点ガイド13のうち、互いに隣接する2つの支点ガイド13に対応するガイド支持部材21には、それぞれベルト22が巻き掛けられている。また、最も外側に配置された2つの支点ガイド13のうちの1つに対応するガイド支持部材21(図3において最も右側に配置されたガイド支持部材21)の、隣接するガイド支持部材21と反対側には、プーリ23が設けられており、当該ガイド支持部材21とプーリ23との間にもベルト22が巻き掛けられている。プーリ23はモータ24に取り付けられており、モータ24を駆動してプーリ23を回動させると、ベルト22によって互いに連結された複数のガイド支持部材21及びこれらのガイド支持部材21に取り付けられた支点ガイド13が、その軸方向を中心に回動する。そして、支点ガイド13が回動すると、支点ガイド13の糸10との摺動位置が変更される。すなわち、本実施の形態では、ベルト22、プーリ23及びモータ24を合わせたものが、本発明に係る摺動位置変更機構を構成する、本発明に係るガイド回動機構に相当する。
【0036】
ここで、糸10と摺動する支点ガイド13の外周面には、糸10との摩擦を低減するために、糸10を滑りやすくする処理が施されている。しかしながら、支点ガイド13の外周面の同じ部分が長期間、糸10と摺動すると、支点ガイド13の当該部分の上記処理が劣化してしまう。
【0037】
そこで、本実施の形態では、上述したように、支点ガイド13を回動させることによって支点ガイド13の糸10との摺動位置を変更することができるようになっており、これにより、支点ガイド13を長寿命にすることができる。なお、支点ガイド13の糸10との摺動位置の変更は、例えば、紡糸巻取機1を所定時間動作させる毎に、支点ガイド13を一定角度回動させることによって行う。
【0038】
また、ベルト22により、複数のガイド支持部材21及びモータ24に取り付けられたプーリ23が互いに連結されており、モータ24を駆動すると、プーリ23及び複数の支点ガイド13が回動するため、複数の支点ガイド13の糸10との摺動位置をまとめて変更することができる。
【0039】
また、各支点ガイド13のすぐ上方には、それぞれ、規制ガイド25が設けられている。規制ガイド25には、ボビンホルダ7の軸方向に延びているとともに、図2の奥側の端において開口したスリット25aが形成されている。支点ガイド13に掛けられた糸10は、スリット25a内を通るように配置され、スリット25aの壁によって、支点ガイド13の軸方向(所定方向)へ移動することが規制される。これにより、糸10が支点ガイド13から抜け落ちてしまうのを防止することができる。
【0040】
そして、以上のような構成を有する紡糸巻取機1においては、図1に示すように、紡糸機2から供給された複数の糸10は、下方に搬出され、まず、ゴデットローラ11の軸心11aに沿って並んで巻き掛けられる。その後、ゴデットローラ11に巻き掛けられた複数の糸10は、斜め上に平行に走行しながら糸巻取位置にあるゴデットローラ12に架け渡される。そして、ゴデットローラ12に巻き掛けられた複数の糸10は、複数の支点ガイド13にそれぞれ糸掛けされ、支点ガイド13において屈曲されて、下方の巻取ユニット3に搬送される。
【0041】
ここで、支点ガイド13において糸10が屈曲されると、図5に示すように、糸10には支点ガイド13から接触面圧Fが加わり、糸10の支点ガイド13に対する巻き付け角度θ(糸10の屈曲角度)が大きくなるほど、この接触面圧は大きくなる。そして、接触面圧Fが大きくなるほど、糸10に与えるダメージが大きくなる。
【0042】
一方、巻き付け角度θは、支点ガイド13に糸10を送るゴデットローラ12が高い位置にある場合ほど小さくなる。そのため、ゴデットローラ12を高い位置に配置して巻き付け角度θを小さく(例えば、15°以下に)すれば、糸10が支点ガイド13から受ける接触面圧Fも小さくなり、糸10のダメージを低減することができる。しかしながら、ゴデットローラ12を高い位置に配置すると、装置の大型化につながる。
【0043】
さらに、紡糸機2から供給される糸10の本数は、近年、多くなる傾向にあるが、これに対応して、多数の支点ガイド13が設けられている場合には、ボビンホルダ7の軸方向に関して、外側の支点ガイド13がゴデットローラ12から大きく離れることとなり、外側の支点ガイド13における糸10の巻き付け角度θが大きくなる。そのため、ゴデットローラ12を高い位置に配置して、巻き付け角度θを小さくしようとすると、糸10の本数が多くなるほど、ゴデットローラ12を高い位置に配置する必要があり、装置の大型化が大きな問題となる。
【0044】
そこで、本実施の形態では、巻き付け角度θを大きく(例えば、30°程度に)した場合であっても、糸10が支点ガイド13から受ける接触面圧Fが小さくなるように、支点ガイド13を、その外周面が糸10の摺動面となる円柱形状とすることによって、支点ガイド13の糸10との摺動面における曲率半径を大きくしている。
【0045】
しかしながら、巻き付け角度θが同じであれば、支点ガイド13の半径R(糸10との摺動面における曲率半径)が大きくなるほど、糸10の支点ガイド13と摺動する部分の長さが長くなる。そのため、支点ガイド13の半径Rを大きくしすぎると、支点ガイド13との摺動によって糸10に与えるダメージが大きくなってしまう。
【0046】
すなわち、支点ガイド13における糸10の巻き付け角度θを大きくした場合に、糸10に与えるダメージを極力小さく抑えるためには、支点ガイド13から糸10に加わる接触面圧Fと、糸10の支点ガイド13と摺動する部分の長さとを考慮して、支点ガイド13の半径R(糸10との摺動面における曲率半径)を適切な範囲に設定する必要がある。
【0047】
そこで、本実施の形態では、これらを考慮し、糸10に与えるダメージを極力抑えることができるように、円柱形状とした支点ガイド13の半径Rを3mm以上8mm以下としている。これにより、ゴデットローラ12の位置を低くして、巻き付け角度θを大きくした場合でも、以下に説明するように、支点ガイド13において糸10に与えるダメージを極力抑えることができる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明の実施例について図6を用いて説明する。図6は、種々の半径Rの支点ガイド13を用いて、ゴデットローラ12から送られてきた糸Yを分配したときの、支点ガイド13の下流側における糸10の糸物性の測定を行った実験結果を示す図である。ここで、糸物性とは、屈曲させてない糸10を引っ張って伸ばした場合に、糸10が破断するときの引っ張り応力に対する、屈曲させた糸10を引っ張って伸ばした場合に、糸10が破断するときの引っ張り応力の比率を示しており、この値が高いほど、支点ガイド13において糸10に与えられるダメージが小さいことを示している。また、図6は、糸10を、ポリエステル材料のFDYで、150deのマルチフィラメントとし、支点ガイド13における糸10の巻き付け角度θを30°、糸10の走行速度を4800m/min、支点ガイド13よりも上流側の部分における糸張力を0.25gr/deとした場合の実験結果を示している。ここで、ボビンBに巻き取られた糸10を、確実にこの後の使用などに耐えられるものとするためには、糸物性が90%以上であることが好ましいが、図6の結果から、支点ガイド13の半径Rが3mm以上8mm以下とすれば、90%以上の糸物性を確保することができることがわかる。
【0049】
なお、図6は、巻き付け角度θが30°の場合を示しているが、巻き付け角度θが30°よりも小さい場合には、支点ガイド13の半径Rが同じであれば、巻き付け角度θが30°の場合と比較して、接触面圧Fが小さく、糸10の支点ガイド13と摺動する部分の長さが短いため、糸10のダメージは巻き付け角度θが30°の場合よりも小さくなる。したがって、巻き付け角度θが30°よりも小さい場合にも、支点ガイド13の半径Rを3mm以上8mm以下とすれば、90%以上の糸物性を確保することができる。また、糸10の種類、太さ、走行速度などが上述の例と異なる場合でも、巻き付け角度θが30°であれば、上述の実験結果と同様の糸物性になると推測される。
【0050】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成については、適宜その説明を省略する。
【0051】
上述の実施の形態では、ベルト22によって隣接する2つのガイド支持部材21(支点ガイド13)、及び、最も外側のガイド支持部材21とモータ24に取り付けられたプーリ23とが、それぞれ、ベルト22により連結されており、モータ24を回転させることによって、支点ガイド13の糸10との摺動位置をまとめて変更することができるようになっていたが、これには限られない。
【0052】
例えば、1本のベルトが、全てのガイド支持部材21とプーリ23にまたがって巻き掛けられていてもよい。あるいは、複数の支点ガイド13に対して個別にモータが設けられており、支点ガイド13を個別に回動させることができるようになっていてもよい。
【0053】
また、支点ガイド13を回動させることによって、支点ガイド13の糸10との摺動位置を変更することにも限られない。一変形例(変形例1)では、図7に示すように、支点ガイド13の先端と反対側に、エアシリンダ30が設けられており、エアシリンダ30のピストン31が、支点ガイド13の先端と反対側の端部に取り付けられている。そして、図示しないポンプなどにより、エアシリンダ30の内部空間32の気圧を変化させると、ピストン31が支点ガイド13と一体的に、支点ガイド13の軸方向に沿って移動する。具体的には、支点ガイド13は、内部空間32の気圧を上昇させると軸方向の先端側に移動し、気圧を低下させると基端側に移動する。
【0054】
そして、このように支点ガイド13をその軸方向に移動させることにより、支点ガイド13の糸10との摺動位置を変更させることができ、これにより、支点ガイド13を長寿命にすることができる。すなわち、変形例1では、エアシリンダ30が、本発明に係る摺動位置変更機構を構成する、本発明に係るガイド移動機構に相当する。
【0055】
ここで、変形例1では、エアシリンダ30により、支点ガイド13をその軸方向に移動させたが、エアシリンダ30によって支点ガイド13をその軸方向に移動させることには限られず、油圧シリンダや、さらには別の機構によって、支点ガイドをその軸方向に移動させてもよい。
【0056】
また、支点ガイド13の糸10との摺動位置を変更するための機構として、上述の実施の形態では、支点ガイド13を回動させる機構(ベルト22、プーリ23、モータ24)のみが設けられ、変形例1では、支点ガイド13をその軸方向に移動させる機構(エアシリンダ30)のみが設けられていたが、これらの機構の両方が設けられていてもよい。この場合には、支点ガイド13の寿命はさらに長くなる。
【0057】
また、以上の例では、支点ガイド13の糸10との摺動位置を変更するための機構が設けられていたが、このような機構は設けられていなくてもよい。
【0058】
また、上述の実施の形態では、支点ガイド13の上方に、糸10が支点ガイド13の軸方向に移動して、支点ガイド13から抜け落ちてしまうのを規制する規制ガイド25が設けられていたが、糸10が支点ガイド13から抜け落ちてしまうのを防止するための構成は、これには限られない。例えば、支点ガイド13がその先端部において径が大きくなっているなど、別の構成によって、糸10が支点ガイド13から抜け落ちてしまうのを防止してもよい。
【0059】
さらには、支点ガイド13がその軸方向に十分に長いものであり、糸10が支点ガイド13の軸方向に移動しても、支点ガイド13から抜け落ちる虞のない場合には、上述したような、糸10が支点ガイド13から抜け落ちてしまうのを防止するための構成はなくてもよい。
【0060】
また上述の実施の形態では、支点ガイド13が、ボビンホルダ7の軸方向と直交する方向に延び、外周面が糸10との摺動面となった円柱形状を有していたが、支点ガイド13は、ボビンホルダ7の軸方向と交差する、ボビンホルダ7の軸方向と直交する方向に対して傾斜した方向に延びていてもよい。また、支点ガイドは、円柱形状であることにも限られず、糸10との摺動面における曲率半径が3mm以上8mm以下となるような別の形状であってもよい。また、支点ガイドの糸10との摺動面における曲率半径は、一定でなく、部分ごとに異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 紡糸巻取機
7 ボビンホルダ
13 支点ガイド
22 ベルト
23 プーリ
24 モータ
25 規制ガイド
30 エアシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のボビンが軸心に沿って直列に装着されており、紡糸部から送出された複数の糸を前記複数のボビンに巻き取る巻取軸と、
前記紡糸部から送出された前記複数の糸を屈曲させて前記巻取軸に装着された前記複数のボビンにそれぞれ分配する複数の分配ガイドと、を備え、
前記分配ガイドの、糸との摺動面における曲率半径が3mm以上8mm以下となっていることを特徴とする紡糸巻取機。
【請求項2】
前記分配ガイドにおける糸の屈曲角度が30°以下であることを特徴とする請求項1に記載の紡糸巻取機。
【請求項3】
前記分配ガイドの、糸と摺動する摺動位置を変更する摺動位置変更機構をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の紡糸巻取機。
【請求項4】
前記分配ガイドは、その外周面において糸と摺動する円柱形状を有しており、
前記摺動位置変更機構は、前記分配ガイドを前記円柱の軸を中心に回動させることによって、前記摺動位置を変更するガイド回動機構を備えていることを特徴とする請求項3に記載の紡糸巻取機。
【請求項5】
前記ガイド回動機構は、
複数の前記分配ガイドに巻き掛けられることで、複数の前記分配ガイドを互いに連結させる無端状のベルトと、
前記ベルトを駆動するベルト駆動装置と、を備えていることを特徴とする請求項4に記載の紡糸巻取機。
【請求項6】
前記分配ガイドが、前記巻取軸の軸方向と交差する所定方向に延びており、
前記摺動位置変更機構が、前記分配ガイドを前記所定方向に移動させることによって、前記摺動位置を変更するガイド移動機構を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の紡糸巻取機。
【請求項7】
前記分配ガイドに掛かった糸が、前記分配ガイドと摺動する部分における走行方向と直交する方向に移動するのを規制する規制手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の紡糸巻取機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−23787(P2013−23787A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160825(P2011−160825)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】