説明

索状体の配索構造

【課題】ハーネス等の索状体とシートフレームとの接触による索状体の損傷を、簡単な構成で確実に防止することが可能な索状体の配索構造を提供する。
【解決手段】索状体HをシートフレームFに形成された索状体挿通孔15dに挿通する索状体の配索構造において、索状体挿通孔15dはシートフレームFを構成する板材15に形成され、索状体挿通孔15dの周縁は、板材15が略垂直に折り曲げられた折曲部15fを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、索状体の配索構造に係り、特に索状体の損傷を防止する索状体の配索構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両用シートにおいて電装品が取り付けられることが一般的である。そして、このような電装品に電力を供給したり、電装品によって特定の部材を稼働させたりするため、車両用シートの周囲にはハーネス等の索状体が配索される。
【0003】
このような電装品の例として、たとえば、リクライニングモータやスライドモータ等のモータ類や、サイドエアバッグ等の安全装置が挙げられる。そして、モータ類や安全装置を稼働させるための電力供給、及び制御信号の送受信を行うため、これらの電装品からは、適当な長さのハーネスが延設される。
【0004】
そしてこのとき、ハーネスは、外部からの干渉による損傷を防ぐため、適度な撓み部分を備えた状態で、シートフレームに固定されるのが一般的である。しかし、ハーネスとシートフレームとの接触部分においては、摩擦によりハーネス(特に内部導線を被覆する部分)が損傷する虞がある。
【0005】
したがって、特許文献1では、ハーネス(特許文献1では「ワイヤハーネス」と記載されている)を外部干渉から適切に保護するため、プロテクタをハーネスに取り付ける技術が開示されている。このプロテクタの内部では、ハーネスが浮いた状態で支持されているため、プロテクタとハーネスとの干渉により、ハーネスが損傷する可能性が低い。
【0006】
ところで、ハーネスをシートフレーム周辺に配索する際、シートフレームの一部に孔を設け、その孔にハーネスを挿通させる場合がある。このとき、ハーネスを挿通させる孔は、シートフレームを構成する各フレーム(サイドフレームや、下部フレーム等)の一部を矩形等に切除して形成されることが多い。
【0007】
しかし、各フレームを切除して構成された孔は、その周縁(エッジ)が鋭く尖っていることがあり、その部分にハーネスが当接し、強く押圧する力が加わった場合、ハーネスが損傷しやすくなる可能性がある。
【0008】
これに対し、特許文献2には、シートフレームのサイドフレーム(特許文献2では「サイドプレート」と記載されている)に形成された孔(特許文献2では「開口」と記載されている)のエッジ部よりも、孔の内側に延設されたホルダーアーム部を備えたクリップによって、ハーネスをサイドフレームに固定する技術が開示されている。このとき、ホルダーアーム部は、ハーネスを狭持するホルダー部を備えており、ホルダーアーム部が孔の内側まで延設されているため、ホルダー部は孔の内側において浮いた状態でハーネスを保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−57967号公報
【特許文献2】特開2001−30819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1において開示された技術では、ハーネスに対し、別途作成されたプロテクタを取り付けることにより、ハーネスを外力から保護する。しかし、プロテクタを取り付ける作業が複雑であり、さらに、プロテクタを取り付けることによって空間的な制約を受ける。すなわち、ハーネスを配索する部分の構造が大型化するという問題点があった。
【0011】
したがって、フレームの一方の面から他方の面にハーネスを貫通させて配索したい場合には、大きな孔を形成する必要があるため、ハーネスを貫通させて配索する部分において、大きなプロテクタを備える技術は適していない。
【0012】
一方、特許文献2において開示された技術では、上記構成のクリップを備えるだけで、フレームに設けられた孔の内部において、ハーネスを浮かせた状態で配索することができるため、孔の周縁(エッジ)とハーネスとの摩擦によるハーネスの損傷を防止することができる。
【0013】
しかし、ホルダー部からハーネスが脱落してしまった場合や、クリップがフレームから脱落してしまった場合には、ハーネスが孔の周縁(エッジ)に直接当接することになるため、より確実にハーネスの損傷を防止可能な技術が求められていた。また、特別なクリップを用いることなく、容易にハーネスを配索可能な技術が望まれていた。
【0014】
本発明の目的は、車両用シートに備えられるハーネス等の索状体の配索構造において、ハーネス等の索状体とシートフレームとの接触による索状体の損傷を、簡単な構成で確実に防止することが可能な索状体の配索構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題は、本発明の請求項1に係る索状体の配索構造によれば、索状体をシートフレームに形成された索状体挿通孔に挿通する索状体の配索構造であって、前記索状体挿通孔は前記シートフレームを構成する板材に形成され、前記索状体挿通孔の周縁は、前記板材が略垂直に折り曲げられた折曲部を備えてなること、により解決される。
【0016】
このように、ハーネス等の索状体が配索されるシートフレームは、少なくともその一部が板材によって形成されており、その板材によって形成された部分において索状体を挿通させるための孔が設けられている。そして、その孔の周縁において、板材が折り曲げられた折曲部を備えていると、シートフレームに索状体を配索する際、索状体挿通孔の折曲部が索状体に当接する。したがって、索状体は単に板材を切除して形成した孔に挿通させる場合と比較して、広い面積をもって折曲部に当接するため、索状体の狭い範囲に大きな外力が加わることなく、損傷を防止することができる。
したがって、折曲部が索状体に当接し、折曲部によって索状体を支持することが可能であるため、索状体に大きな負荷が加わることによる索状体の損傷を防止することができる。また、特別に配索用の部材を設けることがないため、作業工程が簡素化される。
【0017】
また、請求項2のように、前記索状体挿通孔の幅は、前記索状体の外径よりも大きく形成されてなると好適である。
このように、索状体挿通孔の幅(内径)は、索状体の外径よりも大きく形成されていると、索状体挿通孔の幅(内径)と索状体の外径を略等しくし、索状体を嵌合させる場合と比較して、索状体挿通孔の折曲部と索状体との摩擦が起きにくくなるため、好適である。また、索状体は索状体挿通孔内で容易に移動することが可能であるため、索状体が動くような外力が加わった場合であっても、一定範囲で遊び部分を持たせることができるので、索状体にかかる負荷を低減することができる。
【0018】
さらに、請求項3のように、前記索状体挿通孔は、略円形に形成されてなると好適である。
一般に、ハーネス等の索状体は断面円形状に形成されていることが多い。したがって、索状体挿通孔が円形に形成されていると、索状体を支持する索状体挿通孔の折曲部との接触面積が大きくなり、形状が適合する。したがって、より索状体にかかる負荷を低減することができる。
【0019】
また、請求項4のように、前記折曲部は、前記シートフレームの内側に向かって折り曲げられてなると好ましい。
シートフレームには、クッションパッドが載置され、さらに表皮材によって被覆されるのが一般的である。したがって、シートフレームの外側(すなわち、乗員が着座しない左右または上下方向の外側)に配索された索状体は、クッションパッドによってシートフレームの内側方向へ押圧される。このとき、シートフレームの内側に向かって折曲部を折り曲げ、外側には平滑な面を備えることにより、索状体はクッションパッドに押圧されても、損傷することが防止される。また、折曲部を内側に形成すると、クッションパッドと折曲部との摩擦が防止されるため、クッションパッドも損傷しにくくなり、より好適である。
【0020】
さらに、請求項5のように、前記シートフレームは、側方に位置する一対のサイドフレームと、該一対のサイドフレームの下方を連結する下部フレームと、を備え、前記板材は、少なくとも前記一対のサイドフレーム及び前記下部フレームのいずれかであると好適である。
このように、索状体挿通孔を、シートフレームのサイドフレーム、下部フレームに設けることができる。サイドフレームと下部フレームは、一般に、板材によって構成されることが多く、さらにこれらフレームの周辺には、安全装置や電装品が取り付けられることが多い。したがって、安全装置や電装品から延設されるハーネス等の索状体を挿通させるための索状体挿通孔を、サイドフレーム及び下部フレームに設ける構成とすると、より確実に索状体の損傷を防止することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の索状体の配索構造によれば、折曲部を備えた索状体挿通孔に索状体を挿通させるため、索状体と、シートフレームを構成する板材(板材によって形成されたフレーム)との接触による索状体の損傷を防止することができる。また、折曲部を索状体挿通孔に形成するという簡単な構成であるため、作業工程が複雑化することがない。
請求項2の索状体の配索構造によれば、索状体挿通孔の幅(内径)が索状体の外径よりも大きく形成されるため、索状体に対して摩擦による大きな負荷がかかることなく、また、索状体の動きに対する自由度が向上するので、より索状体の損傷を防止する効果が高い。
請求項3の索状体の配索構造によれば、索状体挿通孔が円形に形成されているため、断面円形状に形成されることが多い索状体の形状に沿うことができる。そして、索状体挿通孔と索状体の接触面積を大きくとることができるため、索状体にかかる負荷を軽減することができ、索状体の損傷を防止することが可能となる。
請求項4の索状体の配索構造によれば、シートフレームに載置されるクッションパッドの影響をうけることなく、索状体にかかる負荷を低減可能であるため、より索状体の損傷を防止することができる。
請求項5の索状体の配索構造によれば、サイドフレームや下部フレームの周辺に配設されることが多い安全装置や、電装品から延設されるハーネス等の索状体の配索を好適に行うことが可能であり、これらの索状体の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るシートの概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るシートフレームの概略斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るシートフレームの背面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るシートバックフレームの概略断面説明図である。
【図5】図4のA−A線に相当する概略断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るサイドフレームと下部フレームの拡大説明図である。
【図7】図6のB−B線に相当する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることはもちろんである。
【0024】
図1乃至図7は本発明の一実施形態に係るものであり、図1はシートの概略斜視図、図2はシートフレームの概略斜視図、図3はシートフレームの背面図、図4はシートバックフレームの概略断面説明図、図5は図4のA−A線に相当する概略断面図、図6はサイドフレームと下部フレームの拡大説明図、図7は図6のB−B線に相当する概略断面図である。なお、本明細書のシートフレームFの方向に関する説明において、「内側」とは、シートフレームFにおいて乗員が着座する側、すなわち、サイドフレーム15,15によって挟まれ、シートフレームFによって区画される空間が位置する側であり、「外側」とは、シートフレームFにおいて乗員が着座しない側を指すものである。また、「左右方向」とは、シートバックフレーム1の幅方向を指すものである。
【0025】
図1乃至図7を参照して、本発明の索状体の配索構造を備えた車両用シートSについて説明する。なお、以下の説明において、本発明の索状体の配索構造に関し、サイドエアバッグ40が備えられていないサイドフレーム15を例に挙げて詳述するが、本発明の索状体の配索構造は、これに限定されず、他方のサイドフレーム15、下部フレーム17等に備えることができる。
【0026】
(車両用シートSの構成)
車両用シートSは、図1で示すように、シートバックS1(背部)、着座部S2、ヘッドレストS3より構成されており、シートバックS1(背部)及び着座部S2はシートフレームFにクッションパッド1a,2aを載置して、表皮材1b,2bで被覆されている。なお、ヘッドレストS3は、頭部の芯材(不図示)にパッド材3aを配して、表皮材3bで被覆して形成される。また符号19は、ヘッドレストS3を支持するヘッドレストピラーである。なお、本実施形態ではシートバックS1とヘッドレストS3が別体となって形成されている例を示したが、シートバックS1とヘッドレストS3が一体となって形成されたバケットタイプとしても良い。
【0027】
車両用シートSのシートフレームFは、図2で示すように、シートバックS1を構成するシートバックフレーム1、着座部S2を構成する着座フレーム2から構成されている。
着座フレーム2は、上述のようにクッションパッド2aを載置して、クッションパッド2aの上から表皮材2bによって覆われており、乗員を下部から支持する構成となっている。着座フレーム2は脚部で支持されており、この脚部には、図示しないインナレールが取り付けられ、車体フロアに設置されるアウタレールとの間で、前後に位置調整可能なスライド式に組み立てられている。
また着座フレーム2の後端部は、リクライニング機構11を介してシートバックフレーム1と連結されている。
【0028】
リクライニング機構11は、少なくともリクライニング機構11の回動軸に沿ったリクライニングシャフト11aを備えており、リクライニングシャフト11aは、シートバックフレーム1(より詳細には、一対のサイドフレーム15,15)の下方に備えられた一対の側方部17a,17a(メンバーサイド)に設けられたシャフト挿通孔(不図示)からシートフレームFの外側に突出するように貫通して配設されている。
【0029】
シートバックS1は、シートバックフレーム1に、上述のようにクッションパッド1aを載置して、クッションパッド1aの上から表皮材1bにより覆われており、乗員の背中を後方から支持するものである。本実施の形態において、シートバックフレーム1は、図2で示すように、略矩形状の枠体となっており、サイドフレーム15,15と上部フレーム16と下部フレーム17とを備えている。
【0030】
2本(一対)のサイドフレーム15,15は、シートバック幅を構成するため、左右方向に離間して配設され、上下方向に延在するように配設されている。サイドフレーム15は、図2で示すように、シートバックフレーム1の側面を構成する延伸部材であり、平板状の側板15aと、この側板15aの前端部(乗物前方側に位置する端部)からU字型に内側へ屈曲し、折り返した前縁部15bと、後端部からL字型に内側へ屈曲した後縁部15cとを有している。
【0031】
そして、一対のサイドフレーム15の上端部側を連結する上部フレーム16が、サイドフレーム15から上方に延出している。なお、上部フレーム16は、一方のサイドフレーム15から上方に延設された後、屈曲し、他方のサイドフレーム15まで延設されている。
【0032】
図2で示すように、管状部材としての上部フレーム16は、略矩形状に屈曲されており、上部フレーム16の側面部16aは、サイドフレーム15の側板15aに対して上下方向に沿って一部が重なるように配設され、この重なり部分においてサイドフレーム15に固着接合される。
【0033】
また、上部フレーム16の上方には、ヘッドレストS3を配設するためのピラー支持部18,18が備えられている。そして、ピラー支持部18,18には、管状部材からなるヘッドレストピラー19,19が挿入され、固定される。このピラー支持部18,18には、ヘッドレストS3を支持するヘッドレストピラー19,19がガイドロック(不図示)を介して取り付けられ、ヘッドレストS3が取り付けられるようになっている。
なお、上記シートバックフレーム1の構成は一例であり、ヘッドレストピラー19,19が取り付けられる構成は、その他、公知の構成を用いることができる。
【0034】
シートバックフレーム1の下部フレーム17は、側方部17a,17a及び中央部17bによって構成されている。中央部17b(メンバーセンター)は、左右方向に離間して配設された一対の側方部17a,17aを連結するように形成され、側方部17a,17aに対して固着接合されている。
【0035】
本発明の板材としての下部フレーム17の側方部17a,17aは、同じく板材としてのサイドフレーム15,15の側板15a,15aの下側の一部に重ねられ、連結されている。したがって、シートフレームFは、この部分において、二枚の板材が重ねられた構成を有している。そして、二枚の板材(すなわち、サイドフレーム15の側板15a及び下部フレーム17の側方部17a)には、後述のクリップ30を係止する第1の固定部材係止孔としてのクリップ係止孔15e及び第2の固定部材係止孔としてのクリップ係止孔17cが形成されている。なお、クリップ係止孔15e、17c及びクリップ30の詳細は後述する。
【0036】
側方部17a,17aは、側板15a,15aの下方を延長するように形成されており、着座フレーム2との関係で、支障のない範囲で延長されている。なお、このとき、側方部17a,17aは下部フレーム15,15の側板15a,15aの内側に当接して配設されている。
【0037】
なお、本実施形態のサイドフレーム15,15、側方部17a,17a及び中央部17bは、それぞれ個別の板片によって別部材として形成されている構成を示したが、一体に形成されていても良い。
【0038】
また、側方部17aにおいて、リクライニングシャフト11aが貫通して配設される挿通孔の上方には、側方部17aをサイドフレーム15に取り付けるための取り付け孔が複数形成されていてもよい。サイドフレーム15の下方には、側方部17aの一部が重ねられた際に、取り付け孔と整合する位置において孔が設けられており、このサイドフレーム15に形成された孔と側方部17aの取り付け孔とを貫通するようにボルト等の接合手段が貫通され、サイドフレーム15と側方部17aとが接合される構成としても良い。
【0039】
さらに、一方のサイドフレーム15の側板15aには、サイドエアバッグ40等の安全装置や、電装品が備えられている。そして、これら安全装置又は電装品からは、電力供給及び信号の送受信を行うためのハーネスHが延設されており、シートバックフレーム1に取り付けられる。
【0040】
(ハーネスHの固定構造)
以下、図3乃至図5を参照して、ハーネスH等の索状体の固定構造について説明する。
ハーネスHは、サイドエアバッグ40等の安全装置や、リクライニングモータ、スライドモータ等の電装品にその一端が接続されており、これらの安全装置または電装品に電力及び操作信号を送受信するためのケーブルを備えている。そして、そのケーブルは、他の部材との摩擦による損傷を防止するため、適当な強度及び可撓性を備えた材料で被覆されている。
【0041】
ハーネスHは、固定部材としてのクリップ30が複数取り付けられており、下部フレーム17の長手方向(より詳細には、中央部17bの長手方向)に沿って固定される。また、ハーネスHは、サイドエアバッグ40から延出されているものもあり、このように、複数のハーネスHがシートフレームFに取り付けられる。
【0042】
このとき、下部フレーム17を構成する中央部17bには複数のクリップ係止孔17d,17e、側方部17a,17aにはクリップ係止孔17cがそれぞれ形成されており、これらのクリップ係止孔17c,17d,17eに対し、ハーネスHに取り付けられたクリップ30がそれぞれ圧入されることにより、ハーネスHが下部フレーム17等のシートフレームFの構成部材に取り付けられる。このとき、クリップ30は、シートフレームFの後方から圧入され、内側にクリップ30が突出する構成となる。
【0043】
なお、下部フレーム17の中央部17bに形成されるクリップ係止孔17e,17eは、後方へ突出した凸部上に形成されている。これにより、クリップ係止孔17e,17e近傍の強度が向上するため、クリップ30の取り付けを安定して行うことができる。
【0044】
そして、ハーネスHの一部は、下部フレーム17からサイドフレーム15,15の外側に回り込むように屈曲して延設されている。サイドフレーム15の外側に配設される部分のハーネスHに係止されたクリップ30は、側板15aに形成された第1の固定部材係止孔としてのクリップ係止孔15eを介して、さらに下部フレーム17の側方部17aに形成された第2の固定部材係止孔としてのクリップ係止孔17cに挿入される。すなわち、クリップ30は、サイドフレーム15の側板15aと、下部フレーム17の側方部17aとが密着して重ねられた部分において貫通し、固定される。
【0045】
サイドフレーム15に形成されたクリップ係止孔15e及び下部フレーム17の側方部17aに形成されたクリップ係止孔17cは、略同心円状に切除された孔であり、クリップ係止孔15eの内径は、クリップ係止孔17cの内径よりも内側に形成されている。なお、図4は、説明のため、クリップ係止孔15e,17cにおいてクリップ30が取り付けられていない状態を説明するものである。
【0046】
つまり、クリップ係止孔15eの直径は、クリップ係止孔17cの直径よりも小さく形成されている。換言すると、クリップ30が差し込まれる側に形成されたクリップ係止孔15eは、クリップ30の挿入部32が配設される側のクリップ係止孔17cよりもその直径が小さく形成されている。
【0047】
次に、図5を参照して、クリップ30の構成について説明する。
クリップ30は、ハーネスHを保持するホルダー部31と、ホルダー部31から延設され、シートフレームFに挿通され、上記のクリップ係止孔15e,17cに嵌合して係止される可撓性の挿入部32と、ホルダー部31と挿入部32との間に設けられる付勢部33とを備えている。なお、クリップ30は、他のクリップ係止孔17d,17eに固定可能であり、汎用性が高いが、特にクリップ係止孔15e,17cに係止された状態のクリップ30について説明する。
【0048】
クリップ30のホルダー部31は、ハーネスHが挿通可能であり、且つハーネスHとクリップ30が位置ずれすることのないように、適度な開口径を備えている。したがって、ハーネスHは、ホルダー部31に嵌合する構成である。また、ホルダー部31はC字形状に形成されており、ハーネスHを狭持する構成としても良い。その他、ハーネスHを保持することが可能であれば、公知の構成を適宜用いることができる。
【0049】
そして、ホルダー部31から延設される挿入部32は、略円錐台の先細り形状に形成されている。この挿入部32は、拡径、縮径が可能な可撓性を備えており、クリップ係止孔15e,17cに圧入する際に縮径が容易となるように、適宜、空洞部34が形成されている。空洞部34は、挿入部32を撓みやすくするため、先端部37側から、後述の第2の段差部36までの範囲において形成されていると好ましい。
【0050】
このように、挿入部32において適当な可撓性を備える必要があるため、クリップ30は、合成樹脂等によって形成されていると好ましい。
【0051】
挿入部32の外周には、第1の固定部材係止孔としてのクリップ係止孔15eに係合する第1の段差部35と、第2の固定部材係止孔としてクリップ係止孔17cに係合する第2の段差部36とがテーパー状に形成されている。第1の段差部35は、ホルダー部31側に形成されており、第1の段差部35の外径は、クリップ係止孔15eの内径と略等しいか、またはクリップ係止孔15eの内径が若干大きく形成されている。
【0052】
第2の段差部36は、第1の段差部35と先端部37との間に形成されており、第2の段差部36の外径は、第1の段差部35の外径よりも大きく形成されている。また、第2の段差部36の外径は、クリップ係止孔17cの内径と略等しいか、またはクリップ係止孔17cの内径が若干大きく形成されている。
【0053】
そして、第1の段差部35と、第2の段差部36とは、その高さが、それぞれクリップ係止孔15e及びクリップ係止孔17cの高さ、すなわちサイドフレーム15の側板15a及び下部フレーム17の側板17aの板厚と略等しくなるように形成されている。
【0054】
したがって、第1の段差部35は、クリップ係止孔15eに、第2の段差部36は、クリップ係止孔17cに対して係合しやすくなり、クリップ30がさらに強固にシートフレームFに取り付けられる。
【0055】
このように、二枚の板材が重ねられた部分においてクリップ30を挿通し、さらにクリップ係止孔15eとクリップ係止孔17cとの内径を上記関係とすることにより、クリップ30は、挿入部32の挿通後、挿入部32が拡径しやすく、強固に取り付けられる。さらに、内側のクリップ係止孔17cの内側においてクリップ係止孔15e及び第1の段差部35が物理的に保護されるため、より取り付け強度を向上させることができる。
【0056】
一方、二枚の板材にそれぞれ形成されるクリップ係止孔15e,17cの内径を、互いに同じ大きさとすると、クリップ30が押し込みにくくなるため好ましくない。また、クリップ30が押圧される側(すなわち、ハーネスHがホルダー部31によって保持されている側)に形成されるクリップ係止孔と、挿入部32が押し込まれる側に形成されるクリップ係止孔の大きさが、本実施形態と逆である場合は、クリップ係止孔が小さく形成されている部分でのみ(すなわち、一箇所でのみ)クリップ30が係合する。したがって、クリップ30の取り付け強度を向上させることができない。
【0057】
そして、クリップ30を強固に取り付けるため、クリップ30には、さらに付勢部33が備えられている。付勢部33は、挿入部32の何れの部分よりもその径が大きくなるように形成された皿状の部分であり、ホルダー部31と挿入部32との間に形成されている。付勢部33はクリップ係止孔15eの周囲、すなわちサイドフレーム15の側板15aを挿入部32側へ押圧する。これにより、クリップ30の挿入部32はシートフレームFの外側(図5の下方側)、すなわちクリップ30が抜き取られる方向に付勢されるため、第1の段差部35及び第2の段差部36が、クリップ係止孔15e及びクリップ係止孔17cに対して係合しやすくなる。
【0058】
また、付勢部33によって、クリップ係止孔15e及び第1の段差部35が外側から覆われて物理的に保護されるため、より強固にクリップ30を固定することができる。
その結果、クリップ30はシートフレームFに対し、強固に取り付け可能である。
【0059】
以下、クリップ30の取り付け方法を説明する。まず、クリップ30の先端部37をシートフレームFの内側(すなわち、下部フレーム17側)に向けて、外側(すなわち、サイドフレーム15側)から押圧し、挿入部32を、クリップ係止孔15e,17cに圧入する。なお、クリップ係止孔15eの内径は、少なくともクリップ30の先端部37の外径よりも大きく形成されている必要がある。
【0060】
このように、クリップ30の挿入部32がクリップ係止孔15e,17cを通過し、クリップ係止孔15e,17cに挿通される際、挿入部32は先端部37から第2の段差部36にかけて形成された傾斜部が縮径する。そして、挿入部32をクリップ係止孔15e,17cに対して十分に深く差し込んだとき、クリップ係止孔15eと比して十分に大きな径をもって形成された付勢部33がストッパの役割を果たし、クリップ30の挿入が押し止められる。
【0061】
このとき、挿入部32がクリップ係止孔15e,17cを通過した後、縮径した挿入部32は拡径して通常の状態に戻り、第1の段差部35及び第2の段差部36がそれぞれクリップ係止孔15e及びクリップ係止孔17cに係合する。したがって、第1の段差部35及び第2の段差部36の二箇所によってシートフレームFに係止されるため、クリップ30がより強固に係止される。さらに、クリップ係止孔15e,17cは、従来、二枚の板材(サイドフレーム15の側板15a及び下部フレーム17の側方部17a)が重ねられた部分であるため、クリップ30を固定するための部材を別途作成する必要が無く、また、クリップ30を押し込むだけでよいので、その構成が簡単であり、作業工程が煩雑となることがない。
【0062】
本実施形態では、サイドフレーム15及び下部フレーム17が重ねられた位置においてクリップ係止孔15e、17cがそれぞれ設けられた構成を例示したが、二枚の板材が重ねられた部分であれば、その他の部材に対して径が異なるクリップ係止孔をそれぞれ形成し、上記構成のクリップ30を固定しても良いのは勿論である。
【0063】
ただし、シートフレームFのサイドフレーム15,15の近傍、さらにはサイドフレーム15,15の下方部分には、サイドエアバッグ40等の安全装置や電装品等が取り付けられることが多いため、サイドフレーム15,15と下部フレーム17とが重ねられた部分には、ハーネスH等の索状体が最も多く配置される。そして、サイドフレームと下部フレームとが重ねられた部分は、ハーネスH等の索状体が屈曲して集中しやすい部分であるため、上記構成により、クリップ30を強固に取り付け可能であると信頼性の高い車両用シートSを提供することができる。
【0064】
(ハーネスHの配索構造:ハーネス挿通孔15dの構成)
以下、図6及び図7を参照して、ハーネスH等の索状体の配索構造について説明する。
また、サイドフレーム15には、図6及び図7に示すように、索状体挿通孔としてのハーネス挿通孔15dが形成されている。なお、図6及び図7は、簡略化のため、クリップ30を省略して図示している。
ハーネス挿通孔15dは、ハーネスHをシートフレームFに挿通させるための孔であり、板材としてのサイドフレーム15に形成されている。
【0065】
ハーネス挿通孔15dの周縁は、サイドフレーム15の側板15aが、シートフレームFの外側から内側に向かって略垂直に折り曲げられた折曲部15fを備えており、折曲部15fの折り曲げられた幅は、少なくとも、サイドフレーム15の側板15aの板厚よりも幅広に形成されている。なお、この折曲部15fは、ハーネス挿通孔15dの周縁の全てに形成されている必要はなく、少なくとも、ハーネスHが当接する部分、例えばシートフレームFの下方側の周縁に形成されていればよい。
【0066】
ハーネス挿通孔15dの内側にハーネスHが挿通された際、ハーネスHはその縁部分に擦れることがあるが、単に板材を切除して形成された孔とするのではなく、幅広の折曲部15fを形成することによって、ハーネスHが損傷するのを防止することができる。
【0067】
そして、ハーネス挿通孔15dは、ハーネスHの外径よりもその内径(幅)が大きく形成されている。このように、ハーネス挿通孔15dの幅を、ハーネスHの外径よりも大きく形成することにより、両者を略等しくなるように形成した場合と比較して、摩擦によりハーネスHにかかる不可がより低減する。
【0068】
そして、ハーネス挿通孔15dを介してハーネスHをシートフレームFの外側から内側、または内側から外側に挿通させることができるため、ハーネスHを無理に折り曲げる必要がなく、配線がより行いやすくなる。なお、図6及び図7においては、ハーネスHをサイドフレーム15の外側から内側へ挿通させた例を示している。
【0069】
さらに、ハーネス挿通孔15dは、略円形状に形成されているため、矩形上に形成されたものと比較して、ハーネスHにかかる負荷を小さくすることができる。一般に、ハーネスHは断面円形状に形成されることが多いため、円形のハーネス挿通孔15dとすることにより、ハーネスHとの接触面積が大きくなるため、負荷を軽減しやすい。
【0070】
また、ハーネス挿通孔15dの折曲部15fは、シートフレームFの内側に向かって折り曲げられている。このように、シートフレームFの内側に向かって側板15aを折り曲げることにより、シートフレームFの外側に折曲部15fが突出することない。一般に、シートフレームFの外側には、クッションパッド1a,2aが載置されるため、ハーネスHは、クッションパッド1a,2aによりシートフレームF側に押圧される構成となる。このとき、折曲部15fが内側に形成されることにより、サイドフレーム15の外側の面において、ハーネス挿通孔15dの周縁が滑らかな面で形成されているため、ハーネスHが押圧されても、ハーネスHは損傷しにくい。したがって、折曲部15fが内側に折り込まれていると、ハーネスHが保護されやすい。
【0071】
上記のように、折曲部15fを備えたハーネス挿通孔15dを備えることにより、ハーネスHの保護のために設けられる被覆部材を簡素化することが可能であるため、より軽量な車両用シートSを提供することができる。さらに、ハーネスHをハーネス挿通孔15dに挿通させる際、折曲部15fによって縁部分が丸められているため、作業者はより安全、且つ容易にハーネスHを挿通させて配索することが可能となる。
【0072】
なお、本実施形態において、折曲部15fを備えたハーネス挿通孔15dは、サイドフレーム15に形成された例を示したが、その他の板材によって形成された部材(例えば、下部フレーム17等)に設けられていても良い。また、図6及び図7では、クリップ30を省略して図示したが、ハーネス挿通孔15dの近傍において、ハーネスHがクリップ30によってサイドフレーム15、または下部フレーム17に固定されていると、折曲部15fとハーネスHとの接触部分にかかる負荷が小さくなるため、好ましい。
【0073】
また、本実施形態において、ハーネスHは、下部フレーム17近傍に取り付けられる例を示したが、その他の部分において取り付けられていても良い。
【0074】
このように、ハーネスH等の索状体の配索構造において、ハーネス挿通孔15dの周縁に折曲部15fが形成されていることにより、ハーネスHの損傷をより確実に防止することができる。また、ハーネスHの保護のために特別な部材を別途取り付ける必要がないため、構成が簡単であり、作業工程が複雑化することがない。
【0075】
なお、上記実施形態では、具体例として、自動車のフロントシートのハーネスHの配索構造について説明したが、これに限らず、後部座席のシートバックについても、同様の構成を適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0076】
S 車両用シート
S1 シートバック
S2 着座部
S3 ヘッドレスト
F シートフレーム
H ハーネス(索状体)
1 シートバックフレーム
2 着座フレーム
1a,2a,3a クッションパッド(パッド材)
1b,2b,3b 表皮材
11 リクライニング機構
11a リンクライニングシャフト
15 サイドフレーム(板材)
15a 側板
15b 前縁部
15c 後縁部
15d ハーネス挿通孔(索状体挿通孔)
15e クリップ係止孔
15f 折曲部
16 上部フレーム(管状部材)
16a 側面部
17 下部フレーム(板材)
17a 側方部
17b 中央部
17c,17d,17e クリップ係止孔
18 ピラー支持部
19 ヘッドレストピラー
30 クリップ(固定部材)
31 ホルダー部
32 挿入部
33 付勢部
34 空洞部
35 第1の段差部
36 第2の段差部
37 先端部
40 サイドエアバッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
索状体をシートフレームに形成された索状体挿通孔に挿通する索状体の配索構造であって、
前記索状体挿通孔は前記シートフレームを構成する板材に形成され、
前記索状体挿通孔の周縁は、前記板材が略垂直に折り曲げられた折曲部を備えてなることを特徴とする索状体の配索構造。
【請求項2】
前記索状体挿通孔の幅は、前記索状体の外径よりも大きく形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の索状体の配索構造。
【請求項3】
前記索状体挿通孔は、略円形に形成されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の索状体の配索構造。
【請求項4】
前記折曲部は、前記シートフレームの内側に向かって折り曲げられてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の索状体の配索構造。
【請求項5】
前記シートフレームは、側方に位置する一対のサイドフレームと、該一対のサイドフレームの下方を連結する下部フレームと、を備え、
前記板材は、少なくとも前記一対のサイドフレーム及び前記下部フレームのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の索状体の配索構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−136102(P2012−136102A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288495(P2010−288495)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】