説明

紫外及び可視光応答性チタニア系光触媒

【課題】 優れた可視光応答性を示す光触媒を提供する。
【解決手段】 一般式TiSixNyO2+2x-y(0.01<x<1、0.003<y<0.3)で表され、その吸収スペクトルが、300nmにおける吸光度を1とした場合に、450nmにおける吸光度が0.1以上であり、かつ600nmにおける吸光度が0.1以下であるチタニア系触媒とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた可視光応答性を示すチタニア系光触媒に関する。本発明に係る触媒は、建造物や機器の壁面、床、天井、什器、ガラス、鏡、照明、紙、布、板等にコーティングして、これらに付着する有機物を分解したり、抗菌機能を持たせたりすることができる。更には、水の分解等にも利用することができる。
【背景技術】
【0002】
光照射により有機物分解反応や水の分解反応等に対して触媒作用を示す光触媒として、チタニア(酸化チタン)がよく知られている。この光触媒作用は、チタニアがそのバンドギャップエネルギーより大きいエネルギーをもつ光を吸収すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯には正孔が生成して、これらが触媒表面で外部の物質と酸化・還元反応を起こすことにより生じる(特許文献1等参照)。
【0003】
また、チタニアは、紫外光を照射することにより、超親水性を示すようになる。このため、表面にチタニアが塗布されたガラスや鏡等に紫外光を照射することにより、ガラスや鏡の曇りを防止等することができる(特許文献2等参照)。
【0004】
しかし、チタニアは紫外光領域においてのみ光応答性(触媒活性)を示し、太陽光に多く含まれる可視光領域においては光応答性を示さない。このため、従来のチタニアでは、太陽光エネルギーを十分利用できない。また、紫外光照射が行えないような場所では、この種の触媒を利用することができないという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するものとして、チタニアにクロムや鉄等をドーピングしたり、チタニアをアンモニアで処理する方法等が提案されている。このような処理が施されたチタニア触媒は、可視光に対して応答性を示すようになる(特許文献3〜5等参照)。従って、例えば室内(例えばトイレや風呂など)において、蛍光灯などの光を照射することにより、有機物を分解し、防汚・脱臭作用等を示すようになる。
【0006】
【特許文献1】特開平10−121266号公報
【特許文献2】国際公開第96/29375号パンフレット
【特許文献3】特開平9−192496号公報
【特許文献4】国際公開第01/010552号パンフレット
【特許文献5】特開2003−200057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでに提案されている可視光応答性光触媒は、可視光領域における光の吸収が非常に小さい。このため、例えば有機物分解反応において、十分高い効率で反応を進行させることができない。高い反応効率が得られるようにするためには、可視光領域において大きな光吸収性を有する触媒とする必要がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、紫外光領域だけでなく、可視光領域においても優れた応答性を示す光触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る紫外及び可視光応答性チタニア系光触媒は、一般式TiSixNyO2+2x-y(0.01<x<1、0.003<y<0.3)で表され、300nmにおける吸光度を1とした場合に、450nmにおける吸光度が0.1以上、かつ600nmにおける吸光度が0.1以下である吸収スペクトルを有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る光触媒は、主にアナタース型結晶構造を有するチタニアの結晶格子中のテトラへドラルホールやTiの部位に、Siが挿入或いは置換されたシリカ修飾チタニア(図1)において、少なくとも触媒表面近傍の構造内部にTi-N結合が形成された構造を有する。本願においては、このような構造を有する触媒を窒素導入シリカ修飾チタニアと呼ぶ。
【0011】
本発明者らは、このような構造を有する光触媒のうち、一般式TiSixNyO2+2x-y(0.01<x<1、0.003<y<0.3)で表され、300nmにおける吸光度を1とした場合に、450nmにおける吸光度が0.1以上、かつ600nmにおける吸光度が0.1以下である吸収スペクトルを有する光触媒が、紫外光だけでなく、可視光領域の光に対して高い応答性を示し、従来の可視光応答性光触媒に比べて高い触媒活性を示すことを見出した(本願において示す一般式及び組成式は、触媒の表面部分の組成を表す。)。このうち、300nmにおける吸光度を1とした場合に、450nmにおける吸光度が0.2以上かつ600nmにおける吸光度が0.05以下である吸収スペクトルを有する光触媒、及びx,yが0.03≦x≦0.3、0.005≦y≦0.03である光触媒が、特に優れた触媒活性を示す。
【0012】
以上のような光触媒は、例えば、上述のシリカ修飾チタニアに、アンモニア処理等の窒素導入処理を行うことにより得ることができる。x,yの値は、シリカ修飾チタニア作製時の原料の混合比と、窒素導入処理時の処理条件、例えば、アンモニア処理により窒素原子を結晶構造中に導入する場合には、アンモニアガスの流量や、加熱温度、加熱時間等を調整することにより、適宜変化させることができる。また、必要に応じて、酸化雰囲気下で加熱処理を行うことによっても、x,yの値を変化させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る光触媒は、従来の可視光応答性光触媒と比較して、優れた可視光応答性を示す。このため、本発明に係る光触媒を用いれば、太陽光を含めた紫外領域から可視領域の光を効率よく利用でき、従って、有機物の分解等の反応を高い効率で行うことができる。また、本発明に係る光触媒は優れた可視光応答性を示すため、室内のように十分な光強度が得られない場所であっても、高い有機物分解等の効果を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(シリカ修飾チタニアの合成及びシリカ修飾チタニアへの窒素導入処理)
チタン酸テトライソプロピル25g、オルトケイ酸テトラエチル1.83g、1,4-ブタンジオール100mLを混合後(Si/Ti仕込み比(モル比)0.1)、オートクレーブに載置した。系内を窒素で置換した後、2.3℃/分で室温から300℃まで昇温し、300℃で2時間保持した。温度を300℃付近に保持したままオートクレーブのバルブを開き、溶媒を溜去して、キセロゲル生成物とした。これを空気中において500℃で30分間焼成して、概ねTiSi0.1O2.2の組成を有するシリカ修飾チタニアを得た。なお、この方法で得られたシリカ修飾チタニアをXG(x)(xはSi/Ti仕込み比)と表す。
また、同様にオートクレーブで反応を行った後、放冷し、洗浄、乾燥を行い、空気中において500℃で30分間焼成して、概ねTiSi0.1O2.2の組成を有する(上記の方法で得られるものと同一の組成を有する)シリカ修飾チタニアを得た。この方法で得られたシリカ修飾チタニアをGT(x)(xはSi/Ti仕込み比)と表す。
なお、上記においては、特開2000-254493号公報に記載の方法に従ってシリカ修飾チタニアの合成を行ったが、チタニアの結晶構造中にSiを挿入又は置換できる限りにおいては、それ以外の方法を用いてもよいのはいうまでもない。
【0015】
以上のようにして得られたシリカ修飾チタニア0.3gをチューブ内に充填した後、チューブ内にアンモニアガスを100mL/min流し、450〜700℃で1時間加熱処理を行った。これにより、均一かつ効率よくアンモニア処理を行い、結晶構造中に窒素が導入された、一般式TiSixNyO2+2x-yで表される窒素導入シリカ修飾チタニア光触媒を得た。なお、処理時間は加熱温度に従い適宜変更する必要があるが、長時間加熱処理を行うと、TiN相が生成し、その結果触媒活性が低下することとなる。このため、処理時間は30分〜1時間程度とするのが望ましい。また、加熱温度は450〜700℃とするのが望ましい。
【0016】
シリカ修飾していないチタニア(以下、「チタニア」とする。)に対しても同様にアンモニア処理を行い、窒素導入チタニア光触媒を得た。
【0017】
これらの光触媒の紫外−可視吸収スペクトルを図2に示す。図2(a)が窒素導入シリカ修飾チタニア光触媒XG(0.1)の吸収スペクトルであって、図2(b)が窒素導入チタニア光触媒XG(0)の吸収スペクトルである(図中、温度はアンモニア処理温度を、組成式は触媒の表面組成を表す)。
図2(a)と図2(b)を比較してわかるように、窒素導入シリカ修飾チタニア触媒XG(0.1)及び窒素導入チタニア触媒XG(0)はいずれも紫外及び可視領域の光を吸収するものの、XG(0.1)は、XG(0)と比べて400〜520nmの可視光領域において非常に大きな吸収を有する。しかし、XG(0.1)、XG(0)のいずれにおいても、アンモニア処理温度が上昇するに従い組成式におけるyの値が大きくなり(窒素含有量の増加)、また、吸収スペクトルの長波長領域の吸光度が大きくなった(300nmの吸光度に対する600nmの吸光度の割合の増加)。XG(0.1)における窒素の割合は、600℃でアンモニア処理を行った場合、0.044(対Ti比)と急激に大きくなり、300nmにおける吸光度に対する600nmにおける吸光度は0.1よりも大きくなった。各触媒の組成式、及び吸収スペクトルの450nm及び600nmにおける吸光度(300nmにおける吸光度を1とした)は、表1及び表2の通りである。なお、各触媒組成は、X線光電子分光分析装置(XPS)により測定した。
【0018】
【表1】

【表2】

【0019】
この長波長領域の吸収は、TiN相による光の吸収を示している(この触媒の触媒活性については図6参照)。アンモニア処理による触媒の構造変化について確認するために、X線回折(XRD)測定を行った。
図3(a)がアンモニア処理前後のシリカ修飾チタニア触媒のXRDパターン図であって、図3(b)がアンモニア処理前後のチタニア触媒のXRDパターン図である。
アンモニア処理前には、いずれにおいてもアナタース型のチタニアに特徴的なピーク(CuKα線の回折角2θ=25°,37°,48°,54°,55°,63°,69°)が現れている。しかし、700℃で1時間以上アンモニア処理を行うことにより、チタニア触媒では、TiN相に特徴的なピーク(CuKα線の回折角2θ=37°,43°,63°)が現れた。シリカ修飾チタニアでも、長時間アンモニア処理を行うことによりTiN相に特徴的なピークが現れた。
【0020】
本発明者らは、アンモニア処理時(窒素導入処理時)のTiN相の生成を防ぎ、450nmにおける吸光度が0.1以上、かつ600nmにおける吸光度が0.1以下である吸収スペクトルを有する触媒とすることにより、触媒活性を飛躍的に向上させることが可能であることを見出した。このような触媒は、例えば、以上のようにして作製された触媒に対して、アンモニア処理後に酸化雰囲気下で加熱処理を行うことにより作製することが可能である。この際、加熱温度は、望ましくは300〜600℃、更に望ましくは300〜450℃とする。
【0021】
表3に、アンモニア処理後、空気中において400℃で30分間加熱処理(焼成)を行ったシリカ修飾チタニア触媒XG(0.1)の触媒の組成式、及びこれらの触媒の吸収スペクトルの450nm及び600nmにおける吸光度(300nmにおける吸光度を1とした)を示す。また、図4にこれらの触媒の吸収スペクトルを示す。
表3及び図4からわかるように、アンモニア処理を行った後に空気中で加熱処理を行うことにより、触媒中の窒素の割合が明らかに低下し、その吸収スペクトルの長波長領域の吸収の増大は抑えられ、一般式TiSixNyO2+2x-yにおいて、x,yが、0.01<x<1、0.003<y<0.3であって、300nmにおける吸光度を1とした場合に、450nmにおける吸光度が0.1以上、かつ600nmにおける吸光度が0.1以下である吸収スペクトルを有する触媒が得られる。
【0022】
【表3】

【0023】
以上のようにして得られたアンモニア処理シリカ修飾チタニア触媒の光触媒活性については、有機色素であるローダミンBを用いて、この分解速度を測定することにより確認した。なお、触媒としては、600℃でアンモニア処理したものを用い、アンモニア処理後に焼成を行わないものについては、アンモニア処理後に水洗して使用した。
【0024】
1.0×10-5mol/LのローダミンB(以下、「RhB」とする。)溶液100mLに、アンモニア処理後焼成したシリカ修飾チタニア触媒XG(0.1),XG(0.2)、アンモニア処理後焼成したシリカ修飾チタニア触媒GT(0.1),GT(0.2)、アンモニア処理したシリカ修飾チタニア触媒XG(0.1),XG(0.2)、又はアンモニア処理したチタニア触媒XG(0)を20mg分散させ、撹拌しながら、室温で光照射を行った。この際、光源として青色LED(日亜化学(株)製、NSPB510S)を用いた。青色LEDの発光スペクトルを図5に示す。
【0025】
2〜10時間光照射を行った後、この分散液の一部を採取して濾過し(ミリポア製 MillexLG)、RhBの特徴的な吸収波長(554nm)の吸光度から、残存するRhB量を求めた。時間経過に伴うRhBの残存量を図6に示す。
図6からわかるように、本発明に係る光触媒は、従来の光触媒に比べて時間当たりのRhB量の減少が大きく(RhB分解速度が非常に速く)、非常に高い触媒活性を有している。
【0026】
なお、以上で用いたシリカ修飾チタニア触媒及びチタニア触媒の比表面積(BET表面積)、結晶子径及び嵩比重、シリカ修飾チタニアXG(0.1)のO1s X線光電子分光測定(XPS)及びシリカ修飾チタニア中のSi/(Si+Ti)と格子体積の関係は、図7〜図9に示す通りである。
図7の表から、シリカ修飾チタニア触媒は、シリカ修飾していない従来のチタニア触媒と比較して、大きなBET表面積を有していることがわかる。これは、シリカ修飾により、触媒活性が向上することを意味している。更に、シリカ修飾チタニア触媒においては、Siの割合が増すにつれてBET表面積は大きくなり、また、結晶子径は小さくなっている。これは、Siの割合を高めることにより、触媒活性が向上することを意味している。実際、図6において、XG(0.2)はXG(0.1)に比べて高い触媒活性を示した。ただし、Siの割合を大きくしすぎると、チタニア本来の触媒機能を十分示さなくなるため、Si/Tiは1よりも小さくなるようにすべきである。
図8のXPSスペクトルでは、532eV及び530eVにピークが現れており、シリカ修飾チタニア触媒(XG(0.1))においては、アナタース構造のチタニア中の酸素と、Si-O-Ti結合中の酸素の少なくとも2種類の酸素が存在していることがわかる。
図9のシリカ修飾チタニア触媒中のSi/(Si+Ti)と格子体積の関係においては、シリカ修飾チタニア触媒中のSiの割合が増加するにつれて格子体積が小さくなっており、シリカ修飾によって格子定数が変化することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】アナタース型チタニアの結晶構造図。
【図2】(a)アンモニア処理したシリカ修飾チタニア触媒XG(0.1)の吸収スペクトルを表した図、(b)アンモニア処理したチタニア触媒XG(0)の吸収スペクトルを表した図。
【図3】(a)アンモニア処理前後のシリカ修飾チタニア触媒XG(0.1)のXRDパターンを表した図、(b)アンモニア処理前後のチタニア触媒XG(0)のXRDパターンを表した図。
【図4】アンモニア処理後、更に空気中で加熱処理を行ったシリカ修飾チタニア触媒XG(0.1)の吸収スペクトルを表した図。
【図5】青色LEDの発光スペクトルを表した図。
【図6】光触媒を分散したRhB溶液の光照射時間とRhB残存量の関係を表した図。
【図7】シリカ修飾チタニア触媒の比表面積、結晶子径、嵩比重を示した表。
【図8】シリカ修飾チタニア触媒のO1s XPSスペクトルを表した図。
【図9】シリカ修飾チタニア触媒中のSiの割合と格子体積の関係を表した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式TiSixNyO2+2x-y(0.01<x<1、0.003<y<0.3)で表され、300nmにおける吸光度を1とした場合に、450nmにおける吸光度が0.1以上、かつ600nmにおける吸光度が0.1以下である吸収スペクトルを有することを特徴とする紫外及び可視光応答性チタニア系光触媒。
【請求項2】
300nmにおける吸光度を1とした場合に、450nmにおける吸光度が0.2以上、かつ600nmにおける吸光度が0.05以下である吸収スペクトルを有することを特徴とする請求項1に記載の紫外及び可視光応答性チタニア系光触媒。
【請求項3】
一般式TiSixNyO2+2x-yにおいて、x,yが、0.03≦x≦0.3、0.005≦y≦0.03であることを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外及び可視光応答性チタニア系光触媒。
【請求項4】
チタニアの結晶構造中にSiが挿入又は置換されたシリカ修飾チタニアに対して、アンモニア雰囲気において450〜700℃で加熱処理を行い、更に酸化雰囲気において300〜600℃で加熱処理を行うことを特徴とする紫外及び可視光応答性チタニア系光触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−21112(P2006−21112A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200959(P2004−200959)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月24日 社団法人電気化学会主催の「第71回 大会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月30日 触媒学会発行の「第93回 触媒討論会 討論会A予稿集」に発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】