説明

紫外線とブレンステッド酸とを用いた吸水性樹脂粒子の表面架橋方法

【課題】むらなく分布した均一な表面架橋を有するSAP粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】a)表面およびコアを有し、60モル%超の中和度を有する吸水性樹脂粒子を準備する工程と;b)前記吸水性樹脂粒子の表面上に1種または2種以上のブレンステッド酸を添加する工程と;c1)100〜200nmの波長を有する真空紫外線を前記吸水性樹脂粒子に照射する工程、あるいはc2)前記ブレンステッド酸に加えて、ラジカル生成剤分子を前記吸水性樹脂粒子の表面に添加し、201〜400nmの波長を有する紫外線を前記吸水性樹脂粒子に照射する工程、のいずれかの工程と;を含む、吸水性樹脂粒子の表面架橋方法により、上記課題は解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外(UV)線を用いた、表面架橋された吸水性樹脂(SAP)粒子の製造方法に関する。該製造方法は、比較的中和度の高いSAP粒子を用い、さらにブレンステッド酸を添加するものである。
【背景技術】
【0002】
吸水性樹脂(SAP)は、本技術分野において周知である。SAPは、おむつ、小児用パンツ、成人失禁用製品、女性用ケア製品などの吸収性物品において、これらの全体的な体積を低減しつつ、これらの製品の吸収倍率を増加させる目的で一般的に用いられている。SAPは、自重の数倍に相当する量の液体を吸収し、保持することが可能である。
【0003】
SAPの工業的な生産は、1978年に日本で始まった。初期の吸水剤は、架橋されたデンプングラフトポリアクリレートであった。SAPの工業的な生産においては、最終的に部分中和ポリアクリル酸が初期の吸水剤に取って代わり、SAPにおける主要な重合体となっている。SAPは小粒子の形態で用いられることが多い。部分中和ポリアクリル酸は通常、部分的に中和され、わずかに架橋された重合体ネットワークを有し、当該重合体ネットワークは親水性で、水または生理食塩水などの水溶液に一旦浸されると膨潤することができる。重合体鎖間の架橋によって、SAPは水に溶解しない。
【0004】
水溶液を吸収した後、膨潤したSAP粒子は非常に軟化し、容易に変形する。変形すると、SAP粒子間の空間が遮断され、これにより液体に対する流れ抵抗が急激に増大する。これは一般的に「ゲルブロッキング」と称される。ゲルブロッキングの状況下において液体は、SAP粒子間の間隙中の流れよりもずっと遅い拡散のみによって、膨潤したSAP粒子間を移動することができる。
【0005】
ゲルブロッキングを低減させるために一般的に用いられている方法の1つは、粒子をより硬くするというものであり、これにより膨潤したSAP粒子が原形を保持して、粒子間に空間を作り出し、または当該空間を維持することが可能となる。硬さを増大させる周知の手法は、SAP粒子の表面上に露出しているカルボキシル基を架橋するというものである。この手法は一般的に、表面架橋と称される。
【0006】
この技術は、例えば、表面架橋され界面活性剤で被覆された吸水性樹脂粒子およびその調製方法に関する。表面架橋剤は、SAP粒子の表面上のカルボキシル基と反応する少なくとも2つのヒドロキシル基を有するポリヒドロキシル化合物でありうる。ある技術においては、表面架橋は150℃以上の温度で行われる。
【0007】
最近になって、オキセタン化合物および/またはイミダゾリジノン化合物を表面架橋剤として用いることが開示されている。表面架橋反応は加熱下で行われ、この際の温度は好ましくは60〜250℃である。あるいは、表面架橋反応は、光照射処理(好ましくは紫外線を用いる)によってもまた、達成されうる。
【0008】
上述した工業的な表面架橋プロセスの欠点は、比較的長時間、一般的には少なくとも約30分間を要するということである。しかしながら、表面架橋プロセスに時間がより必要とされると、より多くの表面架橋剤がSAP粒子中に浸透し、その結果、粒子内部の架橋が増加し、SAP粒子の性能に悪影響を及ぼしてしまう。従って、表面架橋の工程所要時間は短いことが好ましい。さらに、短い工程所要時間は、全体として経済的なSAP粒子製造プロセスという観点からも好ましい。
【0009】
一般的な表面架橋プロセスの他の欠点は、多くは約150℃以上という比較的高温下においてのみ、表面架橋が起こるということである。かような温度では、表面架橋剤が重合体のカルボキシル基と反応するのみならず、重合体鎖の内部または重合体鎖間の近接するカルボキシル基の無水物の生成や、SAP粒子中に含まれるアクリル酸ダイマーのダイマー開裂といった他の反応もまた、活性化される。これらの副反応もまたコアに影響し、SAP粒子の性能を低下させる。加えて、高温にさらすことでSAP粒子の着色が引き起こされうる。従って、これらの副反応は一般的には好ましくない。
【0010】
吸水剤を製造するために酸を用いることは、米国特許第5,610,208号に開示されている。当該特許は、カルボキシル基を含む吸水性樹脂と、無機酸、有機酸、およびポリアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤並びにカルボキシル基と反応しうる架橋剤とを混合することを含む吸水剤の製造方法に関する。混合物は、100〜230℃の温度範囲で加熱処理される。
【0011】
本技術分野において公知のSAPは、例えば水酸化ナトリウムを用いて、一般的には、部分的に中和されている。しかしながら、中和は表面架橋の必要性とのバランスに注意しなければならない。本技術分野において公知の表面架橋剤は、重合体鎖に含まれる遊離カルボキシル基と比較的高速で反応するが、中和されたカルボキシル基とは非常にゆっくりと反応するのみである。従って、あるカルボキシル基は、表面架橋または中和の双方ではなくいずれか一方のみに用いられうる。本技術分野において公知の表面架橋剤は、好ましくは、カルボキシル基と反応し、脂肪族基とは反応しない。
【0012】
SAP粒子の製造プロセスにおいては一般的に、表面架橋を行う前に遊離カルボキシル基の中和をまず行う。実際、中和工程は、単量体を重合し架橋してSAPを形成する前に、プロセスの極めて初期に行われることが多い。かようなプロセスは「前中和プロセス」と称される。あるいは、SAPは重合中または重合後に中和されてもよい(「後中和」)。さらに、これらの選択肢の組み合わせもまた可能である。
【0013】
SAP粒子の外表面上の遊離カルボキシル基の全体数は、上述した中和によって制限されるだけではなく、遊離カルボキシル基は均一に分布しているわけではないとも考えられている。従って、現在のところ、むらなく分布した表面架橋を有するSAP粒子を得ることは困難である。むしろ、多くの場合SAP粒子は、表面架橋がかなり密集した領域、すなわち、表面架橋の数が比較的多い領域と、表面架橋がまばらな領域とを有する。この不均一性は、SAP粒子の好ましい全体的な硬さに悪影響を及ぼす。
【発明の開示】
【0014】
従って、本発明の目的は、中和度の高いSAP粒子を用いて、むらなく分布した均一な表面架橋を有するSAP粒子を製造する方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、表面架橋SAP粒子の経済的な方法を提供することである。
【0016】
さらに、ゲルブロッキングを回避するための十分な硬さ(時に「ゲル強度」と称される)と、十分な膨潤能(時に「ゲル体積」と称される)との双方を有するSAP粒子を得ることは困難である。一般的に、SAP粒子のゲル強度の増大はゲル体積に悪影響を及ぼし、逆もまた同様である。
【0017】
従って、本発明の他の目的は、表面架橋をSAP粒子のまさに表面のみに限定し、性能の低下を最小化することである。このように、SAP粒子のコアは大きく影響を受けるべきではなく、当該コアへさらに導入される架橋は最小限に保つべきである。
【0018】
さらに、本発明の目的は、SAP粒子の表面架橋方法であって、迅速に行われ、当該方法の効率を増大させうる方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、SAP粒子の表面架橋方法であって、無水物の生成やダイマー開裂といった好ましくない副反応を低減させるために中程度の温度で行われうる方法を提供することである。
【0020】
発明の要約
本発明は、a)表面およびコアを有し、60モル%超の中和度を有する吸水性樹脂粒子を準備する工程と;b)前記吸水性樹脂粒子の表面上に1種または2種以上のブレンステッド酸を添加する工程と;c1)100〜200nmの波長を有する真空紫外線を前記吸水性樹脂粒子に照射する工程、あるいはc2)前記ブレンステッド酸に加えて、ラジカル生成剤分子を前記吸水性樹脂粒子の表面に添加し、201〜400nmの波長を有する紫外線を前記吸水性樹脂粒子に照射する工程、のいずれかの工程と;を含む、吸水性樹脂粒子の表面架橋方法に関する。
【0021】
発明の開示
本発明に係るSAPは、好ましくは部分中和α,β−不飽和カルボン酸の単独重合体、または、部分中和α,β−不飽和カルボン酸が、自身と共重合可能な単量体と共重合されてなる共重合体を含む。さらに、SAPに好ましく含まれる前記単独重合体または共重合体は脂肪族基を含み、当該脂肪族基の少なくともいくらかは、少なくとも部分的にはSAP粒子の表面に含まれる。
【0022】
SAPは、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース;ポリビニルアルコールおよびポリビニルエーテルのような非イオン性型;ポリビニルピリジン、ポリビニルモルフォリニオンおよびN,N−ジメチルアミノエチルまたはN,N−ジエチルアミノプロピルアクリレートおよびメタクリレート、並びにこれらの対応する第4級塩のようなカチオン性型といった、置換および非置換の天然および合成の重合体を含む種々の化学形態で入手可能である。
【0023】
一般的に、本発明で有用なSAPは、スルホン酸、より一般的にはカルボキシル基のようなアニオン性の官能基を複数有する。本発明で好適に用いられる重合体の例としては、重合可能な不飽和酸含有単量体から調製される重合体が挙げられる。よって、かような単量体としては、少なくとも1つの炭素−炭素オレフィン性二重結合を含有するオレフィン性不飽和の酸および無水物が挙げられる。より詳細には、これらの単量体は、オレフィン性不飽和のカルボン酸および酸無水物、オレフィン性不飽和のスルホン酸、並びにこれらの混合物から選択されうる。
【0024】
酸以外の単量体もまた、通常は少量であるが、SAPの調製に用いられうる。かような酸以外の単量体としては、例えば、酸含有単量体の水溶性または水分散性のエステルや、カルボン酸基またはスルホン酸基を全く含有しない単量体が挙げられる。よって、任意の酸以外の単量体としては、以下のタイプの官能基を含有する単量体が挙げられる:カルボン酸またはスルホン酸のエステル、ヒドロキシル基、アミド基、アミノ基、ニトリル基、第4級アンモニウム塩基、アリール基(例えば、スチレン単量体由来のようなフェニル基)。これらの酸以外の単量体は周知の材料であり、例えば米国特許第4,076,663号および米国特許第4,062,817号により詳細に記載されている。
【0025】
オレフィン性不飽和のカルボン酸およびカルボン酸無水物の単量体としては、アクリル酸それ自体、メタクリル酸、エタクリル酸、α−クロロアクリル酸、α−シアノアクリル酸、β−メチルアクリル酸(クロトン酸)、α−フェニルアクリル酸、β−アクリロキシプロピオン酸、ソルビン酸、α−クロロソルビン酸、アンゲリカ酸、桂皮酸、p−クロロ桂皮酸、β−ステリルアクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アコニット酸、マレイン酸、フマル酸、トリカルボキシエチレンおよび無水マレイン酸により代表される(メタ)アクリル酸類が挙げられる。
【0026】
オレフィン性不飽和のスルホン酸単量体としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルトルエンスルホン酸およびスチレンスルホン酸のような脂肪族または芳香族のビニルスルホン酸類;スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルスルホン酸および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のようなアクリルおよびメタクリルスルホン酸が挙げられる。
【0027】
本発明によるSAPは、好ましくはカルボキシル基を含有する。これらの重合体には、加水分解されたデンプン−アクリロニトリルグラフト共重合体、部分中和加水分解デンプン−アクリロニトリルグラフト共重合体、デンプン−アクリル酸グラフト共重合体、部分中和デンプン−アクリル酸グラフト共重合体、ケン化酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、加水分解されたアクリロニトリルまたはアクリルアミド共重合体、これらの共重合体のいずれかがわずかにネットワーク架橋された重合体、および、部分中和ポリアクリル酸、および、部分中和ポリアクリル酸がわずかにネットワーク架橋された重合体、部分中和ポリメタクリル酸、および、部分中和ポリメタクリル酸がわずかにネットワーク架橋された重合体が含まれる。これらの重合体は、単独で、または2以上の異なる重合体の混合物の形態で用いられうる。混合物として用いられる場合、個々の重合体が部分中和されている必要はなく、得られる共重合体が部分中和されていればよい。これらの重合体材料の例は、米国特許第3,661,875号、米国特許第4,076,663号、米国特許第4,093,776号、米国特許第4,666,983号、および米国特許第4,734,478号に開示されている。
【0028】
本発明での使用に最も好ましい重合体は、部分中和ポリアクリル酸がわずかにネットワーク架橋された重合体、部分中和ポリメタクリル酸がわずかにネットワーク架橋された重合体、これらの共重合体、およびこれらのデンプン誘導体である。最も好ましくは、SAPは部分中和され、わずかにネットワーク架橋されたポリアクリル酸(すなわち、ポリ(アクリル酸ナトリウム/アクリル酸))を含む。本発明で用いられるSAPは、60〜95モル%、より好ましくは65〜95モル%、さらに好ましくは70〜95モル%、さらに好ましくは75〜95モル%中和されている。ネットワーク架橋によって重合体は実質的に水不溶性となり、ヒドロゲルを形成する吸水性樹脂の吸収倍率が部分的に決定される。これらの重合体をネットワーク架橋する工程、および一般的なネットワーク架橋剤は、米国特許第4,076,663号により詳細に記載されている。
【0029】
α,β−不飽和カルボン酸単量体を重合するのに適切な方法は、本技術分野において周知の水溶液重合である。α,β−不飽和カルボン酸単量体および重合開始剤を含む水溶液が、重合反応に供される。当該水溶液は、前記α,β−不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な単量体をさらに含んでもよい。少なくともα,β−不飽和カルボン酸は、単量体の重合の前、重合中、または重合後のいずれかにおいて部分中和されている必要がある。
【0030】
水溶液中の単量体は、通常は紫外(UV)線活性化のような活性化のための光開始剤を用いることによる標準的な遊離ラジカル技術により重合される。あるいは、レドックス開始剤が用いられてもよい。しかしながら、この場合、高い温度が必要となる。
【0031】
吸水性樹脂は、水不溶性となるためにわずかに架橋されていることが好ましい。所望の架橋構造は、所望の水溶性単量体、および分子単位中に少なくとも2つの重合可能な二重結合を有する架橋剤の共重合により得られうる。前記架橋剤は、水溶性重合体を架橋するのに有効な量で存在する。架橋剤の好ましい量は、所望の吸収倍率の程度および吸収された液体を保持するための所望の強度、すなわち所望の加圧下吸収性能により決定される。一般的に、架橋剤は、用いられる単量体(α,β−不飽和カルボン酸単量体および可能なコモノマーを含む)100重量部あたり0.0005〜5重量部の量で用いられる。100部あたりの架橋剤の量が5重量部を超えると、得られる重合体の架橋密度が高くなりすぎ、吸収倍率が低下し、吸収された液体を保持するための強度が高くなる。架橋剤が100部あたり0.005重量部未満の量で用いられると、重合体の架橋密度が低くなりすぎ、吸収されるべき液体と接触した場合にかなり粘つき、水溶性となって、特に加圧下における吸収性能が低下する。当該架橋剤は、一般的には水溶液に溶解する。
【0032】
あるいは、架橋剤を単量体と共重合するために、重合後に重合体鎖を別の工程で架橋することもまた、可能である。
【0033】
重合、架橋および部分中和の後、湿潤状態のSAPを脱水(すなわち、乾燥)して、乾燥SAPを得る。脱水工程は、強制空気オーブン中で約1または2時間、約120℃の温度まで湿潤状態のSAPを加熱することにより、または、約60℃の温度で一晩、湿潤状態のSAPを加熱することにより、行われうる。乾燥後にSAP中に残存する水の量は、主に乾燥時間および乾燥温度に依存する。本発明によれば、「乾燥SAP」とは、残存水の量が、乾燥SAPの0.5重量%から乾燥SAPの50重量%まで、好ましくは乾燥SAPの0.5〜45重量%、より好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは0.5〜15重量%、最も好ましくは0.5〜5重量%のSAPを意味する。以下、そうでないと特記しない限り、「SAP粒子」の語は乾燥SAPの粒子を意味する。
【0034】
SAPは、種々の形状の粒子でありうる。「粒子」の語は、顆粒、繊維、フレーク、球、粉末、プレートレット、およびSAPの技術分野の当業者に周知の他の形状および形態を意味する。例えば、当該粒子は、約10〜1000μm、好ましくは約100〜1000μmの粒子径を有する顆粒またはビーズの形態でありうる。他の実施形態において、SAPは、繊維の形状、すなわち細長い針状のSAP粒子でありうる。これらの実施形態において、SAP繊維は約1mm未満、通常は約500μm未満、好ましくは250μm未満50μm以上の最小径(すなわち、繊維の直径)を有する。繊維の長さは、好ましくは約3〜100mmである。本発明での使用にはあまり好ましくないが、繊維は織られうる長いフィラメントの形態であってもよい。
【0035】
本発明のSAP粒子は、コアおよび表面を有する。本発明によれば、乾燥SAP粒子は表面架橋工程に供される、すなわち、本発明の方法によって、乾燥SAP粒子はその表面が架橋され、当該粒子のコアにおける架橋数は実質的に増加しない。
【0036】
「表面」の語は、粒子の外部に面した境界を意味する。多孔質のSAP粒子については、露出した内表面もまた、表面に属する。本発明について、SAP粒子の「表面」は、完全で連続した、外部に面する乾燥SAP粒子の6体積%を意味し、これに対し「コア」は、当該体積の94体積%を意味し、乾燥SAP粒子の内部領域を含む。
【0037】
表面架橋されたSAP粒子は、本技術分野において周知である。従来技術の表面架橋方法において、表面架橋剤はSAP粒子の表面に添加される。表面架橋されたSAP粒子において、SAP粒子の表面における架橋のレベルはSAP粒子のコアにおける架橋のレベルよりもかなり高い。
【0038】
一般的に用いられる表面架橋剤は、熱的に活性化されうる表面架橋剤である。「熱的に活性化されうる表面架橋剤」との語は、一般的には150℃程度の高温にさらされた場合のみに反応する表面架橋剤を意味する。従来技術において公知の熱的に活性化されうる表面架橋剤は、例えば、SAPの重合体鎖間にさらに架橋を構築しうる二官能または多官能の剤である。一般的な熱的に活性化されうる表面架橋剤としては、例えば、二価もしくは多価のアルコール、または、二価もしくは多価のアルコールを生成しうるこれらの誘導体が挙げられる。かような剤の代表例は、アルキレンカーボネート、ケタール、およびジ−またはポリグリシジルエーテルである。さらに、(ポリ)グリシジルエーテル、ハロエポキシ化合物、ポリアルデヒド、ポリオール、およびポリアミンもまた、周知の熱的に活性化されうる表面架橋剤である。架橋は例えば、カルボキシル基(重合体に含まれる)とヒドロキシル基(表面架橋剤に含まれる)とのエステル化反応により形成される。一般的には、重合体鎖のカルボキシル基の比較的大部分が重合工程前に中和されることから、通常はごくわずかのカルボキシル基のみが本技術分野において公知の当該表面架橋工程のために使用される。例えば、70モル%中和された重合体においては、10個中3個のカルボキシル基だけが、共有結合を介した表面架橋に使用される。
【0039】
本発明の方法は、SAP粒子の表面架橋に用いられる。従って、SAP粒子に含まれる重合体鎖は、分子単位中に少なくとも2つの重合可能な二重結合を有する、本技術分野において公知の架橋剤によりすでに架橋されている。
【0040】
本発明の方法においては、SAP粒子の表面において、異なる重合体鎖の主鎖中に含まれる炭素原子間で直接共有結合が形成される。
【0041】
必要であれば、表面架橋分子もまた、本発明の方法に用いられてもよい。SAP粒子に表面架橋分子が添加される実施形態においては、SAP粒子の表面に含まれる重合体鎖間にさらなる共有結合が形成される。かようなさらなる共有結合は、前記表面架橋分子の反応生成物を含む。
【0042】
本発明に係る「直接共有結合」とは、架橋分子に含まれる原子のような中間の原子を介することなく、重合体鎖が共有結合のみによって互いに結合される共有結合である。これに対し、重合体鎖間の公知の架橋反応はどれも、当該重合体鎖間に共有結合を生じるが、架橋分子の反応生成物は重合体鎖間に取り込まれる。従って、公知の表面架橋反応は、直接共有結合を生じるのではなく、架橋分子の反応生成物を含む間接的な共有結合を生じる。当該直接共有結合は、第1の重合体鎖の主鎖中の炭素原子と第2の重合体鎖の主鎖中の炭素原子との間で形成される。この結合はSAP粒子の内部で粒子内に形成され、より詳細には当該結合はSAP粒子の表面において形成される。これに対し、SAP粒子のコアにはかような直接共有結合が実質的に存在しない。
【0043】
重合体鎖の「主鎖」とは、直接的に重合体鎖を形成する炭素原子を意味する。原理的には、仮に反応によって重合体鎖の主鎖の一部である炭素原子が除去されたとしたら、この反応はまた、当該重合体鎖において当該炭素原子が元来含まれていた箇所において重合体鎖を切断することになる。
【0044】
必要であれば、表面架橋分子もまた、本発明の方法に用いられてもよい。SAP粒子に表面架橋分子が添加される実施形態においては、SAP粒子の表面に含まれる重合体鎖間にさらなる共有結合が形成される。かようなさらなる共有結合は、前記表面架橋分子の反応生成物を含む。
【0045】
本発明の異なる重合体鎖の架橋は、別々のSAP粒子を互いに結合させることを意図するものではない。よって、本発明の方法は、異なるSAP粒子間のいかなる感知可能な粒子間結合をももたらさず、SAP粒子の内部での粒子内直接共有結合を生じるのみである。よって、かような粒子間の直接共有結合が仮に存在したとしても、さらなる粒子間の架橋材料が必要とされる。
【0046】
2つの炭素原子間の共有結合によって重合体鎖を互いに直接結合させる本発明の方法は、従来の表面架橋に代えて、またはこれに加えて、SAP粒子を表面架橋するために用いられうる。
【0047】
照射線で活性化可能なラジカル生成剤分子
100〜200nmの波長を有する紫外線(真空紫外、以下VUVと称する)が本発明の方法に用いられる場合、表面架橋の効果を向上させるために、照射線で活性化可能なラジカル生成剤分子が任意で用いられうる。しかしながら、VUVを用いる場合にはラジカル生成剤の使用は必須ではなく、ラジカル生成剤が実質的に表面架橋方法の総コストに追加されうるので、実際には、コスト削減のためにラジカル生成剤を用いない場合もある。VUVを用いることで、表面架橋反応を開始するのにラジカル生成剤は必ずしも必須ではなくなる。
【0048】
201〜400nmの波長を有する紫外線が本発明の方法で使用される場合、表面架橋反応を行うためにラジカル生成剤分子を添加する必要があり、ラジカル生成剤分子がなければ、ラジカル反応を開始することができない。
【0049】
照射線で活性化可能なラジカル生成剤分子(以下、ラジカル生成剤と称する)は、SAP粒子の表面に含まれる重合体鎖の重合体主鎖に位置する炭素中心ラジカルを生成しうる。この反応は、UV照射によって起こる。異なる重合体鎖に含まれるこれらの炭素中心ラジカルの2つが互いに反応し、これにより重合体鎖間に直接共有結合を生成することができる。
【0050】
照射によって、ラジカル生成剤のいくらかが、第1段階として、通常は酸素中心で、第2段階においてSAP粒子の表面の重合体主鎖に含まれる炭素原子と反応して重合体主鎖中に炭素中心ラジカルを生成しうる中間体ラジカルを生成する。
【0051】
ビニル単量体の重合を開始させるのに一般的に用いられるいかなる光開始剤も、原則として、本発明における表面架橋のためのラジカル生成剤として添加されうる。かような光開始剤は一般的に、ビニル単量体のラジカル連鎖重合を引き起こすように作用する。光開始剤への紫外線の照射により生成する反応性中間体種は、SAP粒子の表面の重合体鎖の重合体主鎖に含まれるC原子のC−H結合から水素原子を引き抜くことができると考えられている(本発明ではそれと同時に架橋が開始される)。
【0052】
もっとも好ましくは、照射線で活性化可能なラジカル生成剤分子は、UV照射により均一開裂(いわゆる光開裂)するペルオキソ結合(O−O)を含む。
【0053】
しかしながら、反応性中間体種はまた、UV照射により寿命の短いいわゆる励起三重項状態へと変換されるケトン類であってもよい。三重項状態にあるケトンもまた、重合体主鎖に含まれるC原子のC−H結合から水素を引き抜くことができ、これにより当該ケトンはアルコールへと転化する(いわゆる光還元)。
【0054】
本発明のラジカル生成剤は、水溶性であることが非常に好ましい。水溶性ラジカル生成剤は、25℃にて、1重量%以上、好ましくは5重量%以上、もっとも好ましくは10重量%以上の水への溶解度を示すものである。
【0055】
本来は水溶性でないラジカル生成剤は、例えば分子構造中にカルボキシレートやアンモニウムなどの荷電基を導入するといった誘導体化により、水溶性となりうる。一例として、ベンゾフェノンは容易にベンゾイル安息香酸へと誘導体化されうる。しかしながら、ラジカル生成剤は、もともと水溶性である、すなわち、水溶性とするためにある官能基の導入が必要とされないことが好ましい。もともと水溶性であり照射線で活性化可能な一般的なラジカル生成剤は、アルカリ金属もしくは他の無機過硫酸塩または誘導体化された有機過硫酸塩のような過酸化物である。水溶性アゾ開始剤も同様に用いられうる(例えば、市販のV−50やVA−086(和光純薬工業株式会社製))。無機過酸化物は一般的に、水溶解度の要求を満足するが、有機化合物は一般的に誘導体化を必要とする。最も好ましい水溶性ラジカル生成剤は、過硫酸ナトリウムである。
【0056】
ラジカル生成剤を水溶液中で供給する利点(従って、水溶性ラジカル生成剤を用いる利点)は2つある。1点目は、水溶液によりSAP粒子の表面の効率的な湿潤が促進されるということである。よって、ラジカル生成剤分子は、実際には粒子表面へと輸送され、そこで表面架橋反応を開始させる。
【0057】
2点目は、SAP粒子表面の効率的な湿潤により、SAP粒子の表面に含まれる重合体鎖の可動性が高まるということである。これにより、重合体主鎖に含まれる炭素原子と、照射によりラジカル生成剤が変換されてなる反応性中間体種との2分子反応が促進される。この効果は、実際には今日最も広く用いられているSAP粒子であるポリ(メタ)アクリル酸からなるSAP粒子にとって特に有利である。ポリアクリル酸は106℃のガラス転移温度を有しており、ポリアクリル酸のナトリウム塩は、100モル%の中和度では200℃を超えるガラス転移温度を有するが、本発明の架橋反応は一般的には100℃未満の温度で行われる。水の存在下では、部分中和ポリアクリル酸のガラス転移温度は有意に低下する。例えば、65モル%中和ポリアクリル酸ナトリウムのガラス転移温度は、5重量%の水の存在下での約150℃から、35重量%の水の存在下では室温未満へと低下しうる。しかしながら、この効果を利用するためには、SAP粒子のまさに表面における実際の局所的な水濃度が重要である。
【0058】
本発明の架橋が実際にはSAP粒子の表面に限定されるのを確実にするためには、水が拡散により粒子の全体積に亘って均一に分布しないようにすべきである。従って、UV照射工程は、ラジカル生成剤を含む水溶液をSAP粒子上に添加してから1時間以内に行われるべきであり、より好ましくは10分以内であり、もっとも好ましくは1分以内である。
【0059】
有機溶媒は、一般的に水に比べて高価であり、環境の観点からもより問題となりうることから、水溶性ラジカル生成剤がかなり好ましい。しかしながら、上述した誘導体化により水溶性とされていない有機ラジカル生成剤も用いられてもよく、水よりも有機溶媒中に添加されうる。例としては、紫外線が照射されると光還元を起こすことが知られている、ベンゾフェノンまたはその他の適当なケトンが挙げられる。別の例としては、紫外線が照射されると光開裂を起こすことが知られている過酸化ジベンゾイルまたはその他の有機過酸化物が挙げられる。
【0060】
本発明の方法において、ラジカル生成剤は、好ましくはSAP粒子の25重量%未満、より好ましくは15重量%未満、最も好ましくは1〜5重量%の量で添加される。ラジカル生成剤は一般的に、水溶液中で添加される。あるいは、あまり好ましくはないものの、ラジカル生成剤および水が2段階で添加されてもよいが、照射時には双方が表面に存在していなければならない。水の量は、好ましくはSAP粒子の25重量%未満であり、より好ましくは15重量%未満であり、最も好ましくは5〜10重量%である。経済的な理由からは、添加される水の量を可能な限り少なく維持し、表面架橋後の乾燥工程を短縮または完全に省略することが好ましい。
【0061】
表面架橋分子
表面架橋分子は、SAP粒子の表面に含まれる重合体鎖の主鎖に位置する上述した炭素中心ラジカルと反応しうる少なくとも2つの官能基を有する任意の化合物である。表面架橋分子中の官能基が炭素中心ラジカルと反応することにより、新たな共有結合が生成し、架橋分子が重合体主鎖にグラフトされる。
【0062】
表面架橋分子の官能基は、好ましくはC=C二重結合である。より好ましくは、架橋分子は3つ以上のC=C二重結合を含む。あるいは、当該官能基はまた、CH−X部分(Xはヘテロ原子である)であってもよい。CH−X部分の好ましい例は、エーテル(CH−O−R(Rはアルキル残基である))である。
【0063】
本発明の好ましい架橋分子は、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチルプロパントリアクリレートもしくは他のトリアクリレートエステル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、ブタンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、テトラアリルオルソシリケート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラアリロキシエタン、ジアリルフタレート、ジエチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルアミン、1,1,1−トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルシトレート、またはトリアリルアミンといった、多官能のアリルおよびアクリル化合物である。
【0064】
あるいは、架橋分子は、スクワレン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、イコサペンタエン酸、ソルビン酸またはビニル末端シリコーンからなる群から選択される。
【0065】
アリル二重結合を有する化合物は一般的に、アクリル二重結合を有する化合物よりも好ましい。最も好ましい本発明の架橋分子は、塩化ジアリルジメチルアンモニウムである。
【0066】
表面架橋分子が添加される場合、当該分子は、SAP粒子のUV照射の前に、例えば(必要に応じて蒸発させてもよい)不活性溶媒を用いた溶液中で噴霧塗布により添加されるべきである。表面架橋分子は、添加直後に蒸発しうるジクロロメタンのような有機溶媒中で添加されうる。SAP粒子を湿らせる実施形態では、表面架橋分子は、懸濁液として、または表面架橋分子が水溶性の場合は溶液として、水とともに添加されてもよい。
【0067】
さらに、表面架橋分子がラジカル生成剤とともに添加される実施形態では、ラジカル生成剤に対する表面架橋分子のモル比は、好ましくは0.2〜5の範囲であり、より好ましくは0.33〜3であり、最も好ましくは1〜3である。
【0068】
ラジカル生成剤をさらに用いることなく、表面架橋分子のみを用いる実施形態(VUVの場合のみ適用可能)では、表面架橋分子は好ましくは乾燥SAP粒子の0.1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%の濃度で添加される。
【0069】
表面架橋分子は、ラジカル生成剤(VUVを用いる場合には必要に応じて)を含む水溶液中で添加されうるように、水溶性であることが好ましい。あまり好ましくない水不溶性の表面架橋分子が添加される場合には、当該分子は必要な場合のラジカル生成剤を含む水溶液中に乳化もしくは懸濁されてもよく、または別途添加されてもよい。水不溶性の表面架橋分子はまた、添加直後に蒸発しうるジクロロメタンのような有機溶媒中で添加されうる。
【0070】
表面架橋分子および/またはラジカル生成剤は、流動層噴霧チャンバによりSAP粒子上に噴霧されうる。同時に、乾燥を達成するためにIR照射が用いられてもよい。IR光に代えてまたはこれと組み合わせて、従来の任意の乾燥装置が乾燥に用いられてもよい。しかしながら、本発明のある実施形態、例えば、少量の溶液中に溶解した少量の表面架橋分子および/またはラジカル生成剤のみが用いられる場合には、乾燥がほとんどまたは全く必要ない。
【0071】
本発明の方法によれば、表面架橋分子および/またはラジカル生成剤は常に、UV照射の前に、またはUV照射と同時に、SAP粒子上に添加される。
【0072】
ラジカル生成剤がない場合、および表面架橋分子がない場合の反応機構(VUVのみ使用する場合に適用可)
中間体炭素中心ラジカルの生成に寄与する複数のメカニズムが認識されうる。ある程度、これらのメカニズムは同時に起こりうる。
【0073】
100〜200nmの波長を有するUV(真空紫外(vacuum UV)、以下VUVと称する)照射によって、O−H結合の均一開裂を経て水分子からヒドロキシルラジカルが生成する。これらの反応性が高く短寿命のラジカル種は、SAP粒子の表面の重合体鎖の主鎖に含まれる炭素−水素結合(C−H結合)から、水素原子を引き抜くことができ、前記炭素中心ラジカルが生成する。
【0074】
基本的に、重合体鎖の主鎖に含まれる炭素−水素結合から水素原子を引き抜く代わりに、重合体鎖から完全なカルボキシル基を引き抜くこと(脱炭酸反応)も可能である。この反応の結果として、SAP粒子の表面に含まれる重合体鎖の主鎖に、炭素中心ラジカルが生成する。
【0075】
水分子は、例えば、乾燥SAP粒子中に含まれる残余の水分子でありえるし、さらに噴霧添加によってわずかにSAP粒子を湿潤することによって、好ましくは水蒸気として与えられうる。湿潤は、例えば、残余水分含量が比較的少ない(乾燥SAP粒子に対して0.5重量%未満)SAP粒子が用いられる場合に望ましい。
【0076】
ラジカル生成剤(VUVを用いる場合は任意)が存在する場合、および任意の表面架橋分子が存在する場合の反応機構:
光開裂を起こすラジカル生成剤分子は活性な結合を有する。UV照射により、この活性な結合が開裂し、これにより、2つのラジカル(R・およびR・)が生成する。
【0077】
ラジカル生成剤分子(いわゆる前駆体分子)に含まれる活性な結合が、当該分子を2つの同一の部分に分ける場合には、この均一開裂により2つの同一のラジカルが生じる場合がある。あるいは、この均一開裂により2つの異なるラジカルが生じる場合もある。
【0078】
生成したラジカルは、今やSAP粒子の表面の重合体鎖の主鎖に含まれる脂肪族C−H基と反応し、重合体主鎖中に炭素中心ラジカルを生成しうる。かような炭素中心ラジカルの2つは互いに反応し、重合体主鎖に含まれる炭素原子間に直接共有結合を生成しうる。
【0079】
重合体鎖の主鎖に含まれる炭素−水素結合から水素原子を引き抜く代わりに、重合体鎖から完全なカルボキシル基を引き抜くこと(脱炭酸反応)も基本的には可能である。この反応の結果、炭素中心ラジカルがSAP粒子の表面に含まれる重合体鎖の主鎖に生成する。
【0080】
必要であれば、表面架橋分子が本発明の方法にさらに用いられうる。かような実施形態において、ラジカル生成剤分子から生成したラジカルは、架橋分子に含まれるC=C二重結合の1つと反応し、架橋分子と最初のラジカルとの反応生成物からなるラジカルを生成しうる。
【0081】
重合体鎖セグメント内の炭素中心ラジカルは、このラジカルと反応しうる。この反応の反応生成物は重合体鎖であり、この際、ラジカル生成剤分子と架橋分子との反応生成物は重合体主鎖の炭素原子に共有結合する。
【0082】
その後、ラジカル生成剤分子から生成したラジカルは、架橋分子の第2のC=C二重結合と反応しうる。
【0083】
2つの重合体鎖間に架橋を形成するためには、炭素中心ラジカルは、同一のSAP粒子の表面の別の重合体鎖に含まれる別の炭素中心ラジカルと結合する。
【0084】
従って、何らラジカル生成剤や表面架橋分子を添加しない、上述のVUV単独の場合の反応とは異なり、ラジカル生成剤および表面架橋剤分子をさらに含む場合の反応は、SAP粒子の表面内の2つの異なる重合体鎖の主鎖に含まれる2つの炭素原子間の直接共有結合は生じない。しかしながら、ラジカル生成剤および表面架橋剤分子をさらに用いる場合には、直接共有結合へと導かれる上記反応が、追加的に起こるであろう。
【0085】
さらに、ラジカル生成剤のみを使用することも可能であり、この場合には、重合体主鎖に炭素中心ラジカルが生成する。かような実施形態では、直接共有結合のみが形成され、ラジカル生成剤は、SAP粒子の表面に共有結合することはない。
【0086】
VUVを使用する実施形態では、ラジカル生成剤をさらに用いることなく、表面架橋分子のみを添加することも可能である。かような実施形態では、VUV照射によってSAP粒子の表面に含まれる重合体主鎖に形成される炭素中心ラジカルが、表面架橋分子のC=C二重結合の1つと反応する。これにより、表面架橋分子はSAP粒子の表面に共有結合し、表面架橋分子の元のC=C二重結合に含まれる2つのC原子のうちの1つでラジカルが生成する。このラジカルは、SAP粒子表面内の別の(近くの)重合体鎖から再び水素原子を引き抜くことが可能であり、それ故、この別の重合体鎖の重合体鎖にさらなる炭素中心ラジカルが生成することとなる。この炭素中心ラジカルは、第1のC=C二重結合を含み、SAP粒子とラジカル反応によって既に共有結合している表面架橋分子に含まれる第2のC=C二重結合と今や反応することができる。結果として、表面架橋分子の反応生成物によってSAP粒子の2つの重合体鎖が架橋される。
【0087】
照射により光開裂を起こすラジカル生成剤分子を用いる場合の正味の反応は、2つの重合体鎖セグメント間での架橋の形成であり、この際当該架橋は、2つのC=C二重結合を有する1つの架橋分子と2つのラジカル生成剤分子との反応生成物を含む。
【0088】
表面架橋分子をさらに用いると、反応時間が短くなることで反応効率がより向上しうる。理論に拘束されるわけではないが、表面架橋分子の非存在下での、UV照射で開始される表面架橋反応の律速段階は、2つの異なる重合体鎖に含まれる2つの炭素原子間で直接共有結合を形成する、2つの炭素中心ラジカルの再結合であると考えられる。この再結合は2次の速度論に従う、すなわち、反応速度は、互いに乗じられる双方の反応物(すなわち、結合する2つの炭素中心ラジカル)の濃度に比例する。
【0089】
しかしながら、表面架橋分子を添加する場合には、第2の反応物である表面架橋分子から生成するラジカルの濃度が非常に高く、反応を通じて当該濃度は定数とみなされうることから、表面架橋分子から生成するラジカルと重合体鎖に含まれる炭素中心ラジカルとの間の反応は、擬1次の速度論に従う、すなわち、反応速度は炭素中心ラジカルの濃度のみに比例すると考えられる。擬1次速度論の反応は、2次速度論の反応よりも速度論的に好ましい、すなわち、反応速度が大きいことが知られている。
【0090】
光開裂を起こすラジカル生成剤分子に代えて、カルボニル基を含み、照射により光還元を起こすラジカル生成剤分子を用いることも可能である。本発明の好ましい実施形態において、かようなラジカル生成剤分子はケトンである。
【0091】
UV照射により、このタイプのラジカル生成剤分子は「励起状態」(三重項状態)に遷移する。よって、これらはまだラジカルには変換してはいないが、照射前よりもずっと反応性が高い。
【0092】
次の段階において、励起状態にあるラジカル生成剤分子は、SAP粒子の表面の重合体鎖の主鎖に含まれる脂肪族C−H基と反応して水素ラジカルを引き抜き、これにより、この重合体鎖に位置する炭素中心ラジカルおよびケチルラジカルを生成する。
【0093】
このケチルラジカルは、今や架橋分子の1つのC=C二重結合と反応できる。あるいは(または表面架橋分子を用いない実施形態のみにおいて)、2つのケチルラジカルは互いに再結合していわゆるピナコール、例えば、開始剤がベンゾフェノンの場合はベンズピナコール、を生成しうる。
【0094】
本発明の好ましい実施形態においては、双方のタイプのラジカル生成剤分子について、表面架橋分子は3つ以上のC=C二重結合を有する。かような実施形態においては、3つ以上の重合体鎖セグメントが、上述した反応に従って互いに架橋されうる。かような実施形態において、架橋に含まれるラジカル生成剤分子の反応生成物の数は、架橋分子に含まれるC=C二重結合の数に等しい。
【0095】
本発明によれば、1つのタイプの架橋分子のみが用いられてもよいし、あるいは、化学的に異なる2種以上の架橋分子が添加されてもよい。同様に、1つのタイプの照射線により活性化可能なラジカル生成剤分子のみが用いられてもよいし、あるいは、化学的に異なる2種以上の照射線により活性化可能なラジカル生成剤分子が添加されてもよい。
【0096】
均一に分布した表面架橋を有するSAP粒子を確実に得るためには、ラジカル生成剤(VUVが用いられる場合には任意、他の全てのUV照射に対しては必須)および必要な場合の表面架橋分子はSAP粒子状に均一に分布する必要がある。従って、表面架橋剤は好ましくは噴霧によりSAP粒子上へ添加される。
【0097】
また、従来技術から知られている表面架橋と比較して、本発明による表面架橋は有意に速い。高温で行われる従来技術の表面架橋反応は、通常45分間程度かかる。時間がかかるこの工程のために、SAP粒子の製造プロセスが望まれるよりも非経済的となっている。これに対し、本発明による架橋プロセスは有意に短い反応時間内、一般的には数分以内で行われ、従って、SAP粒子の製造時間の点で全体的な改善が可能となる。その結果、エネルギーコストが削減され、処理量が向上する。
【0098】
さらに、表面架橋反応が速やかに進行することから、SAP粒子の表面上に添加されるラジカル生成剤分子(VUVが用いられる場合には任意に添加される)および必要な場合の表面架橋分子がSAP粒子の内部へ浸透する時間がより短くなる。よって、従来技術の表面架橋と比較して、表面架橋をSAP粒子の表面に実際に限定し、SAP粒子のコアにおける好ましくないさらなる架橋反応を回避することがより容易となる。
【0099】
本発明の他の利点は、中和工程に関する。α,β−不飽和カルボン酸単量体は、重合工程の前に中和されることが多い(前中和)。単量体の酸基を中和するのに有用な化合物は一般的に、重合工程に有害な影響を及ぼすことなく酸基を十分に中和するものである。かような化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、およびアルカリ金属重炭酸塩が挙げられる。好ましくは、単量体の中和に用いられる化合物は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または炭酸ナトリウムもしくは炭酸カリウムである。その結果、重合体のα,β−不飽和カルボン酸に含まれるカルボキシル基は少なくとも部分的に中和される。水酸化ナトリウムが用いられる場合、中和により、水中で負に荷電したアクリレート単量体および正に荷電したナトリウムイオンに解離するアクリル酸ナトリウムが生じる。本技術分野において周知の表面架橋剤は重合体のカルボキシル基と反応することから、中和度は表面架橋の必要性とバランスをとる必要がある。これは、双方の工程がカルボキシル基を利用するためである。
【0100】
最終的なSAP粒子が膨潤状態にある場合、これらが水溶液を吸収した後には、ナトリウムイオンはSAP粒子内を自由に移動可能である。おむつまたは小児用パンツのような吸収性物品において、SAP粒子は一般的に尿を吸収する。蒸留水と比較して、尿は、少なくとも部分的には解離した形態で存在する塩を比較的大量に含む。液体は解離した塩のイオンにより生じる浸透圧に抗して吸収される必要があることから、尿に含まれるこの解離した塩により、SAP粒子中への液体の吸収はより困難となる。SAP粒子内を自由に移動可能なナトリウムイオンはこの浸透圧を低減させるため、このナトリウムイオンは粒子中への液体の吸収を強く促進する。従って、中和度が高いと、SAP粒子の性能および液体の吸収速度が顕著に増大しうる。
【0101】
さらに、中和度が高いと、一般的に材料の費用が削減され、その結果、SAP粒子の全体的な製造コストも減少する。重合体を中和するのに通常用いられる水酸化ナトリウムは一般的に、今日のSAPの重合体の中で最も好ましいアクリル酸と比較してより安価である。従って、中和度の増加は所定量のSAPに含まれる水酸化ナトリウムの量を増加させる。その結果、SAPを製造するのに必要なアクリル酸が少なくなる。従って、本発明の方法は、SAP粒子を製造するのに経済的に魅力ある方法を提供するものである。
【0102】
本発明のさらに他の利点は、表面架橋工程時の好ましくない副反応の削減である。従来技術において周知の表面架橋は高温(通常は約150℃かそれ以上)を必要とする。かような温度では、表面架橋が達成されるのみならず、多くの他の反応、例えば、重合体内での無水物の生成やアクリル酸単量体により予め生成したダイマーのダイマー開裂、が起こる。これらの副反応はSAP粒子の性能を低下させるため、極めて好ましくない。
【0103】
本発明による表面架橋工程は必ずしも高温を必要とせず、中程度の温度でも行われうることから、これらの副反応はかなり削減される。本発明によれば、表面架橋反応は、好ましくは100℃未満の温度、好ましくは80℃未満の温度、より好ましくは50℃未満の温度、さらに好ましくは40℃未満の温度、最も好ましくは20℃と40℃との間の温度で行われうる。好ましくない副反応を避けるため、SAPの乾燥は100℃より高く150℃より低い温度で、好ましくは120℃より低い温度で行われうる。
【0104】
また、従来技術において周知の表面架橋工程で通常用いられる約150℃かそれ以上の高温では、SAP粒子は時に白色から黄色っぽく変色する。本発明の方法において表面架橋に必要とされる温度は低いため、SAP粒子の退色の問題は顕著に減少しうる。
【0105】
本発明の方法による表面架橋は、好ましくはないが必要であれば、本技術分野において周知の熱により活性化可能な1以上の表面架橋剤(例えば、1,4−ブタンジオール)とともに行われてもよい。しかしながら、この場合には、UV照射および高温(通常は140度超)が必要である。かような実施形態においては、得られるSAP粒子の表面には、熱により活性化可能な表面架橋剤の反応生成物が含まれる。
【0106】
ラジカル生成剤および/または表面架橋分子を添加する実施形態においては、本発明の方法は必要であれば、未反応の表面架橋分子および/またはラジカル生成剤分子を洗い流すための、または副反応により生成した分子を洗い流すための洗浄工程をさらに含んでもよい。
【0107】
UV照射
本発明において、SAP粒子は紫外線(UV)照射に曝される。電磁波スペクトルのUV領域は、100〜380nmの波長範囲で定義され、以下の範囲に分けられる:UV−A(315〜400nm)、UV−B(280〜315nm)、UV−C(200〜280nm)、および真空紫外(VUV)(100〜200nm)。
【0108】
VUV線の使用
好ましくは、パルスまたは連続的なキセノン(Xe−)エキシマー照射源が用いられる。周知のエキシマーレーザーと比較して、エキシマーランプは準単色のインコヒーレントな照射線を放出する。インコヒーレントエキシマー照射線の生成は、特定のガス雰囲気下で例えばマイクロ波放電または誘電体バリア放電(DBD、無声放電)によって行われうる。
【0109】
好ましいXe照射は160〜200nmのVUVスペクトル領域で比較的広いバンドを示し、14nmの半値全幅(FWHM、半値幅)、波長が172nmでピークとなる。本発明の方法で用いられるVUVスペクトルのうち好ましい波長は160〜200nm、より好ましくは波長が172nmでピークを有する。
【0110】
ラボスケールに適したパルスXeエキシマー照射源は、電力が20Wまたは100WであるXeradex(登録商標)(オスラム社、ミュンヘン、ドイツ)の商品名で入手可能である。しかしながら、工業的に適用される一般的な量で表面架橋SAP粒子に対して本発明の方法を用いる場合には、照射源の電力は10kWかさらに高い電力が必要となる。
【0111】
10kWまでの電力を有する連続的Xeエキシマー照射源は、Heraeus Noblelight社(ハーナウ、ドイツ)から購入可能であり、より小さい照射源はUsio Ltd.(例えば、Ushio Deutschland、Steinhoring)から購入可能である。
【0112】
201〜400nmの波長の紫外線の使用:
光開始剤の有無、濃度、および性質に依存してUV−A、UV−BまたはUV−C領域内の紫外線、市販の水銀アークあるいはメタルハライド線源を用いることができる。照射源の選択はラジカル開始剤の吸収スペクトル、および場合により表面架橋に用いられる装置の形状に依存する。本発明では前述の好ましい開始剤と組み合わせて、UV−B領域が最も好ましいことが判明した。照射源は場合によってはガスで冷却することも可能であり、このために、冷却ジャケットに照射源を組み込む、または冷却ジャケットを含んでいてもよい。
【0113】
本発明の方法は、中心に棒状の照射源を有し、放射相称の形状を有する流動層リアクター内で、または紫外線曝露のための振動プレートを用いて行うことができる。
【0114】
しかしながら、本発明の方法において、ブレンステッド酸並びに添加される場合のラジカル生成剤および表面架橋分子はSAP粒子上に均一に添加される必要がある。さらに、全てのSAP粒子が確実に紫外線に均一に曝されなければならず、個々のSAP粒子が長時間紫外線に曝されないことを避けなければならない。従って、紫外線曝露中SAP粒子を攪拌する必要があり、例えば非常に緩やかな剪断またはより激しい攪拌によって攪拌を行ってもよい。
【0115】
VUV線を本発明の方法に用いる場合、コスト削減のために本発明の方法は通常大気下で行われることが好ましい。しかしながら、通常大気下では酸素が部分的にVUV線を吸収するので、VUV線のカバー範囲が制限される。さらに、酸素によるVUV吸収によって、オゾンが生成する。よって、操作員がオゾンと接触しないように、好ましくは換気した、容器内にプロセス用装置を設置することが望ましい。
【0116】
しかしながら、(酸素が照射線を吸収しないように)VUV線のカバー範囲を広げるためには、本発明の方法は窒素下で行うこともまた可能である。窒素中でのVUVのカバー範囲は、通常大気中のVUVのカバー範囲と比べて格段に広い。これにより、装置デザインおよび工程設計において自由度が広がる。
【0117】
また、水分子もVUV線を吸収するので、高い大気湿度も避けなければならず、表面架橋が比較的一定割合行われるように、大気湿度は実質的に長時間一定に保たなければならない。大気湿度をコントロールし、大気湿度を比較的低いレベルに抑えるために、SAP粒子の水分含量は、好ましくは比較的低いレベルで、一定に維持する必要がある。
【0118】
201〜400nmの波長を有する紫外線を本発明の方法に用いる場合、コスト削減のために本発明の方法は通常大気下で行われることが好ましい。また、理論に拘束されるわけではないが、照射時の中間体過酸化物ラジカルの生成によってバイラジカルである酸素が反応機構に関与しうるので、通常大気によれば表面架橋の結果が改善されると考えられる。従って、反応に供されるラジカルの数が増加し、これにより今度はSAP粒子の表面の重合体鎖の主鎖に炭素中心ラジカルが生成しうる。201〜400nmの波長を有する紫外線では、湿度は重要ではない。なぜなら、当該領域では水分子が吸収しないからである。
【0119】
ブレンステッド酸
比較的高い中和度を有するSAP粒子を使用して、紫外線を用いる表面架橋を行う場合、ブレンステッド酸が表面架橋プロセスを大幅に向上しうる。
【0120】
本発明の方法においては、60モル%またはそれ以上、すなわち60〜95モル%、より好ましくは65〜95モル%、さらに好ましくは70〜95モル%、そして最も好ましくは75〜95モル%の中和度であるSAP粒子に対して表面架橋のためのUV照射を行う。当該方法の効果を向上させるために、ブレンステッド酸がSAP粒子上に添加される。
【0121】
SAP粒子の重合体に含まれるカルボキシル基(COOH)の電子吸引効果(文献では−I効果で知られている)が、表面架橋反応に直接的に含まれるものではないが(上記参照)、本発明の表面架橋方法の全般的な反応速度と効率とに寄与していると考えられる。これはおそらく重合体主鎖中のカルボキシル基の近接位にあるC−H基からの水素の引き抜きが加速して起こっていることによるものであり、その結果重合体主鎖にある炭素中心ラジカルが生成する(上記参照)。
【0122】
しかしながら、対応するカルボン酸塩(Naのような一価の金属カチオンであるMを有するCOOM)の形で存在するので、比較的高い中和度のSAP粒子ではカルボキシル基の多くが脱プロトン化(COO)している。カルボン酸塩の「−I効果」はプロトン型と比べると弱いことが知られている。UV照射を用いる表面架橋における比較的中和度の高いSAP粒子のかような問題点はブレンステッド酸を添加することによって中和の全般的な概念に影響を与えることなく克服しうるものである。ブレンステッド酸はプロトン(H)を放出することができ、これによりSAP粒子の表面にあるカルボン酸塩がプロトン型COOHに変換する。
【0123】
同様に、脱炭酸反応すなわちC−H基からプロトンを引き抜く代わりにカルボキシル基ごと引き抜くことによってSAP粒子に含まれる重合体主鎖の炭素中心ラジカルが生成する場合、SAP粒子の表面にあるプロトン化COOH基の数が増加し、UV照射を用いる表面架橋の効果によい影響を与える。COOH基はCOOM基よりもずっと速く脱炭酸反応が起こる。
【0124】
比較的高い中和度のSAP粒子を1またはそれ以上のブレンステッド酸で処理することによって、SAP粒子の表面が選択的に中和度の低い状態に調節され、その結果より効率的な反応が起こる。同時に、これらのSAP粒子は、SAP粒子のコアでは比較的高い中和度の保たれたままであり、上述のように高い中和度であることは経済的に好ましい。
【0125】
ブレンステッド酸に加えて、ルイス酸を添加することもでき、好ましくはアルミニウムカチオンAl3+であり、この際Al3+は硫酸アルミニウムAl(SOの形で添加されることが好ましい。
【0126】
ブレンステッド酸はプロトン(H+)を放出することができれば、どんな有機化合物や無機化合物であってもよい。本発明に用いられる好ましいブレンステッド酸は、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸;酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸などの飽和有機カルボン酸;分子量が50〜5000g/molの分子量である低分子量ポリアクリル酸などのオリゴマー、またはポリマーの有機酸および飽和無機酸である。本発明に用いられる好ましい飽和無機酸はホウ酸である。本発明による最も好ましいブレンステッド酸は、無機酸および飽和有機カルボン酸であり、無機酸はカルボン酸よりもさらに好ましい。本発明において、塩酸が最も好ましいブレンステッド酸である。
【0127】
ブレンステッド酸のpKa値(解離指数)はSAPの繰り返し単位の共役酸のpKa値より低くなければならない。SAP粒子中の重合体がポリ(メタ)アクリル酸の場合、通常pKaは4〜5である。本発明の方法で添加されるブレンステッド酸は、好ましくはpKa値が5未満、より好ましくは4未満、最も好ましくは3未満である。例えば、本発明で用いられる最も好ましいブレンステッド酸であるHClの場合、pKa値は−6である。
【0128】
しかしながら、pKa値とは別に、照射している間のSAP粒子の粒子流動挙動への酸の作用も、最終的に本発明の方法で選択されるブレンステッド酸に影響を与えうる。SAP粒子を凝集させるブレンステッド酸もあるし、SAP粒子の流動特性によい影響をもたらす(そして流動促進剤として作用する)ものもある。それ故適切なブレンステッド酸の選択は与えられた条件に依存して決定する必要があるであろう。
【0129】
本発明の方法で添加されるブレンステッド酸の量はSAP粒子の重量に対して0.005〜10重量%の範囲が好ましく、0.01〜5.0重量%がより好ましく、0.1〜3.0重量%が最も好ましい。ブレンステッド酸の量は、用いられるブレンステッド酸、(添加される場合は)ラジカル生成剤および(添加される場合は)表面架橋分子にもまた依存する。通常、比較的弱いブレンステッド酸または比較的高分子のブレンステッド酸を添加する場合には、より強いブレンステッド酸やより低分子量のブレンステッド酸よりもブレンステッド酸の添加量はより多くなければならない。同様に、pKa値がより低いブレンステッド酸はより高いpKa値であるブレンステッド酸よりもより少ない量必要であろう。
【0130】
最も好ましいブレンステッド酸であるHClは、SAP粒子の重量に対して0.1〜1.0重量%の範囲で添加することが好ましい。
【0131】
原理的に、ブレンステッド酸の混合物もまた用いられうる。しかしながら、当該方法を全般的に複雑にするので、あまり好ましくない。
【0132】
ブレンステッド酸は溶液、乳液または懸濁液として水中に添加することが好ましく、当該水は、添加される場合にはUV活性化可能なラジカル生成剤および表面架橋分子もまた含む。水溶液中でのブレンステッド酸の通常の濃度は、1〜2mol/lである。あるいは、(添加される場合には)ラジカル生成剤および/または表面架橋分子と別にブレンステッド酸を添加することもできる。
【0133】
同様に、ブレンステッド酸はアルコール中、例えばイソプロパノールに溶解または懸濁して添加することもできる。水の代わりにアルコールを用いる利点としては、アルコールはそれほどSAP粒子に浸透しないことが挙げられる。従って、コアにブレンステッド酸が移動するのを避けるために、浸透深度をコントロールすることがより容易となる。その結果、SAP粒子の表面に表面架橋反応が実質的に限定されるのを確実にすることがより容易となる。アルコールはSAP粒子のUV照射の前に(蒸発によって)除去してもよい。
【0134】
アルコールと水との混合物中にブレンステッド酸を添加する場合、混合物の浸透深度(そしてブレンステッド酸の浸透深度)は、アルコールおよび水の比率を適切に選択することによって注意深く調節されうる。
【0135】
水にあまり溶解しないブレンステッド酸を選択した場合には、ブレンステッド酸の水懸濁液を添加することもまた望ましい。それによって、ブレンステッド酸が実際にSAP粒子の表面に留まり、水と一緒にコアに移動しないことが確実となりうる。
【0136】
ブレンステッド酸はUV照射の前にSAP粒子上に添加されうる。ブレンステッド酸が水に含まれる形で添加される場合には、ブレンステッド酸の相当量がコアに移動しないことを確実にするためUV照射を行う直前にブレンステッド酸を添加することが好ましい。特にブレンステッド酸が水に含まれる形で添加される場合は、好ましくは、ブレンステッド酸はUV照射前10分以内、より好ましくは5分以内、最も好ましくはブレンステッド酸の添加およびUV照射の間の時間が1分以内である。
【0137】
SAP粒子はブレンステッド酸に対して緩衝作用があるので、持続的にブレンステッド酸が過剰的に確実に供給されるように例えば噴霧によってUV照射中ブレンステッド酸を連続的に添加することが望ましい。UV照射前のブレンステッド酸の最初の添加に加えて、UV照射中ブレンステッド酸を連続的に添加することもできるし、UV照射の間にのみブレンステッド酸を添加することもできる。
【0138】
例えばDegussa Corp.から市販されている親水性非晶質シリカのような、本技術分野において周知の流動促進剤が、例えばSAP粒子の水の含量が比較的高い場合に、凝集を避けるのを助ける目的で、必要に応じてSAP粒子に添加されてもよい。この流動促進剤は、一般的にはSAP粒子の重量に対して0.1〜10重量%で添加される。
【0139】
用途
本発明の方法により製造されるSAP粒子は、脱脂綿、使い捨ておむつ、および体液を吸収するための他の衛生材料並びに農業用途、好ましくは吸収性物品の吸収性コアに有用である。
【0140】
試験方法
SAP粒子の性能は遠心分離保持容量値(CRC)として記載されることが多い。CRCの試験方法は、EDANAの方法441.2−02に記載されている。
【0141】
ある圧力下でのSAP粒子の挙動を示すのに一般的に用いられるパラメータはAAP(加圧下吸収倍率)である。AAPは、4.83kPaの圧力下、EDANAの方法442.2−02に従って測定される。
【0142】
SAP粒子からなるゲル層の透過性は通常、食塩水流れ誘導性(SFC)として測定される。SFCを測定するための試験方法は、1996年10月8日にGoldmanらに対して発行された、米国特許第5,562,646号に記載されている。本発明については、Jayco溶液に代えて0.9%NaCl溶液を用いるように、米国特許第5,562,646号の試験方法を改変する。
【0143】
吸水性樹脂粒子の4.83kPaでの加圧下吸水倍率(AAP)は、本発明の方法の実施後に好ましくは1g/g以上増加する。
【0144】
また、吸水性樹脂粒子の食塩水流れ誘導性(SFC)は、本方法の実施後に好ましくは10(×10−7・cm・s・g−1)以上増加する。
【実施例】
【0145】
ベースポリマー
ベースポリマーとしては、2005年2月17日に出願された「被覆水膨潤性材料を含む吸収性物品」という名のWO2005/014066A1の実施例1.2に記載された水膨潤性重合体を用いる。しかしながら、ベースポリマーの中和度は、WO2005/014066A1の実施例1.2では75モル%であるが、当該実施例に必要とされるように、それぞれ70モル%および85モル%に調節する。また、30.5g/g(実施例1)および31g/g(実施例2)のCRC値を有するSAP粒子を得るためには、MBAAの量を通常の手法で適宜調節する必要がある。このCRC値は、基本的にはWO2005/014066A1の実施例1.2に記載されているCCRC法と同様の手法により調節されうることに留意すべきである。
【0146】
実施例1:
ラジカル生成剤である過硫酸ナトリウム3部、HCl(ブレンステッド酸)0.6部を水7部に溶解した。
【0147】
上述のベースポリマーのみから構成され、70モル%の中和度である表面架橋されていないSAP粒子の100重量部とラジカル生成剤である過硫酸ナトリウムおよびブレンステッド酸のHClを含む水溶液とを激しく攪拌しながら混合した。混合は10分間行った。
【0148】
その後すぐに、SAP粒子を10分間2kW中圧水銀ランプを使ってUV照射した。照射源とSAP粒子との距離はできるだけ短くし、本実施例では約10cmである。混合は照射工程を通して続けて行った。混合および照射は通常大気下で行う。
【0149】
SAP粒子の100部は10gに相当し、SAP粒子の粒径分布は150〜850μmである。
【0150】
比較例1:
比較例1はブレンステッド酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様である。
【0151】
実施例2
実施例2は上述のベースポリマーのみからなるSAP粒子の中和度が80モル%である点で実施例1と異なる。また、水を7部ではなく8部添加した。そのほかの点では、実施例2は実施例1と同様である。
【0152】
比較例2:
比較例2はブレンステッド酸を添加しなかったこと以外は実施例2と同様である。
【0153】
実施例および比較例のSFC、AAPおよびCRCの値は表1にまとめた。
【0154】
実施例3:
実施例3はブレンステッド酸としてHClを添加する代わりに、1.6部のブレンステッド酸であるHSOを添加した点が実施例1と異なる。また、水を7部ではなく8部添加した。そのほかの点では、実施例3は実施例1と同様である。
【0155】
ベースポリマーのみからなる初めのSAP粒子(それぞれ70モル%中和および85モル%中和)並びにUV照射テスト後の実施例1、2、3および比較例1、2のSAP粒子のSFC、AAPおよびCRCの値を、上述した試験方法に従って決定する。
【0156】
【表1】

【0157】
表面架橋を有しない(よって、ベースポリマーのみからなる)SAP粒子については、SAP粒子の表面に導入された架橋によってSAP粒子が膨潤状態に制限されることがないため、CRC値は一般的にかなり高い。表面架橋後、SAP粒子のCRC値は低下する。
【0158】
これに対し、表面架橋されていないSAP粒子についてのAAPおよびSFCの値はとても低い(SFCの場合、値は0の場合もありうる)。このSAP粒子はかなり柔らかいため、加圧下で容易に変形する(低いAAP)。その結果、ゲルブロッキングが起こり、これによりSFC値がとても低くなる。
【0159】
通常、ベースポリマーのみからなる表面架橋されていないSAP粒子と比較してSFCおよびAAPの値の増大並びにCRC値の低下は、表面架橋が実際に起こっていることの間接的な証拠である。
【0160】
よって、本実施例によれば、本発明の方法により、ベースポリマーが実際に表面架橋されていることが示される。
【0161】
発明の詳細な説明に引用された全ての文献は、関連する部位が、参照により本明細書に引用される:いかなる文献の引用も本発明との関係でそれが従来技術であると認めるものと解釈されるべきではない。
【0162】
本発明の特定の実施形態を例示して説明したが、本発明の思想および範囲を逸脱することなく種々の変更および改変がなされうることは、当業者にとって自明である。従って、添付の特許請求の範囲には、本発明の範囲内のかような全ての変更および改変が包含されうるものとする。
【0163】
本明細書で値を定義するための寸法はいずれも技術的な寸法であり、本発明の文脈では文字通り理解されるべきではない。よって、本明細書で言及されている寸法と機能的に均等な寸法を有する全ての実施形態は、本発明の範囲に包含されるものとする。例えば、「40mm」の寸法は、「約40mm」の意味に理解されるべきである。
【0164】
明細書、請求項、図面および要約を含む8月23日に出願されたヨーロッパ特許出願第05018264.1号の全体の開示は、全体として本明細書に参照として引用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)表面およびコアを有し、60モル%超の中和度を有する吸水性樹脂粒子を準備する工程と;
b)前記吸水性樹脂粒子の表面上に1種または2種以上のブレンステッド酸を添加する工程と;
c1)100〜200nmの波長を有する真空紫外線を前記吸水性樹脂粒子に照射する工程、あるいは
c2)前記ブレンステッド酸に加えて、ラジカル生成剤分子を前記吸水性樹脂粒子の表面に添加し、201〜400nmの波長を有する紫外線を前記吸水性樹脂粒子に照射する工程、のいずれかの工程と;
を含む、吸水性樹脂粒子の表面架橋方法。
【請求項2】
前記c1)工程において、前記ブレンステッド酸に加えて、ラジカル生成剤分子を前記吸水性樹脂粒子の表面に添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも2つの官能基を有する表面架橋分子を前記吸水性樹脂粒子上にさらに添加し、この際、前記官能基がC=C二重結合またはCH−X部分(ここで、Xはヘテロ原子である)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ブレンステッド酸が、塩酸、硫酸およびリン酸からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ブレンステッド酸を、前記吸水性樹脂粒子に対して0.005〜10重量%の濃度で添加する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記吸水性樹脂粒子への紫外線照射中、前記ブレンステッド酸を連続的に添加する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記c1)またはc2)の工程が100℃未満の温度で行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記吸水性樹脂粒子の4.83kPaでの加圧下吸水倍率(AAP)が、方法の実施後に少なくとも1g/g増加する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記吸水性樹脂粒子の食塩水流れ誘導性(SFC)が、方法の実施後に少なくとも10(×10−7・cm・s・g−1)増加する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−506131(P2009−506131A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534502(P2006−534502)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【国際出願番号】PCT/JP2006/316792
【国際公開番号】WO2007/023978
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】