説明

紫外線硬化型防曇組成物

【課題】
著しく向上した防曇性能をもち、かつその防曇性能の耐久性に優れ、熱成形ができさらに耐摩耗性に優れた紫外線硬化型防曇組成物を提供する。
【解決手段】
ポリエーテルジオールと芳香族または環状脂肪族ジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとの反応生成物である2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(a)、官能基の数が2以下のモノマー(b)、希釈溶剤及び光重合開始剤の各成分少なくとも一種類からなり、上記ポリエーテルジオールが、ポリエチレンオキシド、または、エチレンオキシドを60モル%以上含有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム共重合体で、固形分重量比(a)/(b)が50/50〜98/2であることを特徴とする紫外線硬化型防曇組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型防曇組成物、とくに著しく向上した防曇性能をもち、かつその防曇性能の耐久性に優れ、熱成形ができさらにハードコート同等の優れた耐摩耗性を有する紫外線硬化型防曇組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種プラスチック材料は、その軽量性、透明性、加工性および割れにくさと割れた場合の安全性の観点から、特にスポーツゴーグル、ヘルメットシールド、安全メガネ、安全シールド等の人体の保護具用途、また各種表示機器や計器カバー、レンズ、センサーカバー等の産業用途、住宅店舗における間仕切りやショーケース等の住設用途、自動車、鉄道車両等の間仕切りや棚、計器カバー、窓ガラス等の輸送関連用途に用いられている。これらの用途に使用されるプラスチック材料は、息のかかる近傍や、高温高湿の環境下、または表裏の温度差の大きい環境下で使用した場合、表面に結露や曇りが発生し、視野や視認性の低下、センサー類の誤作動など、便利性や安全性の低下を引き起こしやすいという欠点がある。
【0003】
この欠点を解消するために、従来より種々の防曇処理に関する検討が進められてきた。例えば、基材表面に、界面活性剤を主成分とする組成物を塗布し防曇被膜を形成する方法がある。しかしながら、界面活性剤が水と接触するだけで容易に溶出してしまい防曇性が短期間で低下してしまい耐久性の点で実用性のないものであった。また、界面活性剤を有する被膜は、保管中にその界面や保護フィルムへの移動がおこり、製品の外観が著しくそこなわれるという問題も有していた。
【0004】
そこで、防曇性の耐久性を向上すべく、ポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの親水性ポリマーを塗布し、熱硬化により硬化した被膜により防曇性をもたせる方法も提案されているが、耐久性の向上はみられるものの、充分な防曇性能とはいえず、さらに耐摩耗性などの機械的強度が実用上不足している、あるいは、ゴーグル等に熱成形すると、成形時の熱により防曇性が低下する、といった問題がある。
【0005】
耐摩耗性を向上すべく、親水性重合体と架橋剤の組合せによる防曇被膜を形成する方法が提案されているが、防曇性の耐久性や、耐摩耗性が充分でなく、熱成形時に防曇性が極端に低下するなどの問題があった。さらに、有機珪素含有の防曇性組成物も提案されており、比較的高い耐摩耗性、および防曇性、その耐久性も有しているものの、熱成形そのものができず、ゴーグル等の加工品への応用ができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−090876号公報
【特許文献2】特公昭53−018347号公報
【特許文献3】特開昭53−028587号公報
【特許文献4】特公昭52−047754号公報
【特許文献5】特開平08−176466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決し、著しく向上した防曇性能をもち、かつその防曇性能の耐久性に優れ、熱成形ができさらに耐摩耗性に優れた紫外線硬化型防曇組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定のポリエーテル系ジオールと、芳香族または環状脂肪族系のポリイソシアネートの組み合わせによるイソシアネート化合物と、官能基数が2以下のモノマーとの組成物により本発明の目的を達成できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリエーテルジオールと芳香族または環状脂肪族ジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとの反応生成物である2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(a)、官能基の数が2以下のモノマー(b)、希釈溶剤及び光重合開始剤の各成分少なくとも一種類からなり、上記ポリエーテルジオールが、ポリエチレンオキシド、または、エチレンオキシドを60モル%以上含有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム共重合体で、固形分重量比(a)/(b)が50/50〜98/2であることを特徴とする紫外線硬化型防曇組成物を要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の紫外線硬化型防曇組成物は、特定のポリエーテルジオールと芳香族または環状脂肪族ジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとの反応生成物である2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(a)、および官能基の数が2以下のモノマー(b)、を主成分とし、その重量比(a)/(b)を特定の範囲とすることにより、優れた防曇性能をもち、かつその防曇性能の耐久性に優れ、熱成形ができさらにハードコート同等に耐摩耗性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(a)は、イソシアネート化合物と水酸基を有するアクリレートモノマーとの反応生成物であり、該イソシアネート化合物は、ポリオールとしてのポリエーテルジオールと、ポリイソシアネートとしての芳香族または環状脂肪族ジイソシアネートとを反応させて得られるものであり、ポリエーテルジオールとして、ポリエチレンオキシド、または、エチレンオキシドを60モル%以上含有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム共重合体が用いられる。
【0012】
このように2官能ウレタンアクリレートオリゴマーは、ソフトセグメントとして親水性のエチレンオキシド重合骨格またはエチレンオキシド−プロピレンオキシドの共重合骨格を有し、ハードセグメントのイソシアネートには芳香族構造または環状脂肪族構造を有するという特徴がある。親水性部分であるエチレンオキシド重合骨格またはエチレンオキシド−プロピレンオキシドの共重合骨格は、良好な防曇性を有し、界面活性剤のように溶出により防曇性能が無くなるようなことはない。ただ、このエチレンオキシド重合骨格またはエチレンオキシド−プロピレンオキシドの共重合骨格は、柔軟な分子構造であるため、塗膜を柔らかくして耐摩耗性などの強度を低下させる影響を及ぼす。この欠点を補うのが、分子構造的に剛直で、塗膜の耐摩耗性、硬度、耐熱性などを向上させることができる芳香族構造または環状脂肪族構造のイソシアネート骨格である。このソフトセグメントであるエチレンオキシド重合骨格またはエチレンオキシドプロピレンオキシドの共重合骨格と、ハードセグメントであるイソシアネートとしての芳香族構造または環状脂肪族構造とのバランスにより、防曇性と耐摩耗性などの塗膜強度および防曇性や塗膜自体の耐久性を得ることができるものである。
【0013】
上記の通り、本発明のポリエーテルジオールとしては、ポリエチレンオキシド、または、エチレンオキシドを60モル%以上含有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム共重合体が用いられる。ポリエーテルジオールがエチレンオキシド構造を持たない場合、防曇性を得る事ができない。また、エチレンオキシドのホモ構造では、オリゴマーの結晶化がおこりやすく、取り扱いが困難になる場合があり、結晶化しにくいエチレンオキシドプロピレンオキシド共重合物も使用できるが、この際は、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が重要であり、エチレンオキシドが60モル%以上含有されたものを用いる必要がある。エチレンオキシドの含有量が60モル%未満であると、防曇性が低下するばかりでなく、硬化後の塗膜表面の粘着性が高くなり、ゴミが付着しやすいなどの問題が発生するためである。従って、取り扱いで問題が生じない場合は、エチレンオキシドのホモ構造を選択し、結晶化などが取り扱い上問題となる場合は、エチレンオキシドプロピレンオキシド共重合物を選択することが望ましい。
【0014】
また、本発明のポリエーテルジオールは様々な分子量のものが使用可能であるが、好ましくは、平均分子量400以上のものを用いることが望ましい。平均分子量400以上において、防曇性がより高まるからである。
【0015】
本発明で用いられるジイソシアネートは、芳香族または環状脂肪族ジイソシアネートであるが、芳香族系イソシアネートとしては、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフチレン1,5−ジイソシアネート(NDI)、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられ、環状脂肪族系イソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添MDI、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水添XDI(H6XDI)等を挙げることができる。
【0016】
水酸基を有するアクリレートモノマーとは、2−ヒドロキシルエチルアクリレート、2−ヒドロキシルプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどの片末端がOH基、片末端アクリレートのモノマーであり、ジイソシアネートにアクリレート基を付加し、紫外線硬化型ウレタンアクリレートオリゴマーとするために使用される。付加されたアクリレートは、ウレタンアクリレートオリゴマーの合成の過程ではそのまま残り、紫外線照射時に反応する官能基としての役割を果たすものである。
【0017】
本発明における官能基の数が2以下のモノマー(b)は、基材との良好な密着性を得るためのものであり、基材に対して適度な相溶性を有し、組み合わされる2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(a)と相溶するもので有ればよい。しかしながら、モノマーの種類によっては(a)成分の特徴である優れた防曇性を阻害しこれを低下させる可能性がある。また、基材との相溶性が高すぎるか、分子の大きさが小さすぎると、塗膜を乾燥〜硬化させる際の加熱によりモノマーが基材に浸透しすぎてしまい密着性が得られなくなったり、基材を侵して界面構造を荒らすなどでヘーズが高くなったり、表面が凹凸になるなどの外観上の不具合も発生させる。逆に、相溶性が不足したり、分子が大きすぎると、充分な密着性を得にくい。本発明で用いることが出来るモノマーとしては、次のものを挙げることが出来る。
【0018】
4−ヒドロキシブチルアクリレート(HBA)、Nビニルピロリドン(NVP)、シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、N−ビニルホルムアミド(NVF)、アクリロイルモルホリン(ACMO)、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、下記式(1)で表されるエトキシモノ(メタ)アクリレートならびにアクリルアミド、下記式(2)で表されるアクリル酸アミド化合物、下記式(3)で表されるエチレンオキシドジアクリレート化合物、下記式(4)で表されるエトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、下記式(5)で表されるエトキシ化水添ビスフェノールAジアクリレート、下記式(6)で表されるエトキシ化シクロヘキサンジアクリレート。
【化1】

(Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはメチル基またはフェニル基を示し、mは5〜20を示す)
【化2】

(Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖をもったアルキル基、またはアルキルケトン基を示す)
【化3】

(mはエチレンオキシドの平均付加モル数を示し、4〜20である)
【化4】

(mとnはエチレンオキシドの平均付加モル数を示し、m+nが4〜20である)
【化5】

(mとnはエチレンオキシドの平均付加モル数を示し、m+nが4〜20である)
【化6】

(mとnはエチレンオキシドの平均付加モル数を示し、m+nが4〜20である)
【0019】
2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(a)と、官能基の数が2以下のモノマー(b)との重量比(a)/(b)は、50/50〜98/2、より好ましくは70/30〜95/5である必要がある。(a)の比率が50%未満では、塗膜の耐摩耗性が極端に低下してしまい、同時に、場合により、ヘイズの上昇や外観表面の凹凸などの外観不良が発生する。(b)の比率が2%未満では、塗膜の耐久密着性が不十分となる。
【0020】
本発明で用いられる希釈溶剤は、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(a)、および官能基の数が2以下のモノマー(b)の良溶媒で無くてはならず、また防曇組成物を基材に塗布して形成された塗膜を加熱乾燥させる際に、外観を悪化させず平滑性を保てる適度な速度にてかつ充分に乾燥される必要がある。
【0021】
この希釈溶剤としては、例えば比較的乾燥速度の速いメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、イソブタノールなど、比較的乾燥速度が中程度のメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、比較的乾燥速度の遅いn−ブタノール、ジアセトンアルコール、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどを単独であるいは混合して使用することができる。またこれらの希釈溶剤に(a)、(b)の溶解性に影響を及ばさない程度の少量のケトン類、エステル類、芳香族炭化水素系の溶剤を混合することも可能である。ケトン類、エステル類、芳香族炭化水素の溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエンなどがある。
【0022】
本発明で用いられる光重合開始剤は、光重合性化合物が紫外線によって硬化する際の重合開始剤としての機能を有しており、公知のものを使用することができる。例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン又はベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸等の芳香族ケトン類、ベンジル等のアルファージルボニル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、アセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパノン−1等のアセトフェノン類、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン等のアントラキノン類、2,4−ジメチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等のアルファーシルオキシム類、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン類等を使用することができる。これらのうち、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン等のアセトフェノン類、ベンゾフェノン等の芳香族ケトン類が特に好ましい。
【0023】
本発明の防曇組成物に、初期の防曇性能を若干高める目的で、補助的に界面活性剤を添加することも可能である。添加可能な界面活性剤としては、一般的な非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤等から選択することができる。これらのうち、特に非イオン系界面活性剤又は陰イオン系界面活性剤が好ましくこれらを組み合わせることも好ましい。
【0024】
また、本発明においては、塗布時の塗膜の基材への濡れ性や均一性、表面の平滑性および硬化した塗膜の表面スリップ性を得るために、シリコーン系、アクリル共重合物系等の表面調整剤を添加することが好ましい。
【0025】
シリコーン系表面調整剤としては、ポリジメチルシロキサンや、これを変性した変性シリコーン系のものが使用される。変性シリコーン系としてはポリエーテル変性体、アルキル変性体、ポリエステル変性体などが好ましく、特にポリエーテル変性体が好ましい。また、これらを組み合わせて使用することも可能である。
【0026】
本発明の防曇組成物よりなる防曇塗膜は、組成物の混合〜希釈〜塗布〜乾燥〜硬化の工程にて得ることが出来る。塗膜の厚みは、5μm以上80μm以下とする。防曇性の観点からは塗膜を厚くするほど良いが、80μmを超えると塗膜の硬化性が低下し、耐摩耗性や密着性の低下が発生し、5μm未満では、充分な防曇性能が得られない。また塗布方法としては、水平式の塗布搬送設備を有するロールコーター、スプレーコーター、カーテンフローコーター、スリットダイコーターなどが適している。
【0027】
基材に本発明の防曇組成物を塗布した後、基材および雰囲気の温度を上げ、充分に希釈溶剤を蒸発させしかる後に紫外線を照射し塗膜を硬化させる。紫外線照射には、一般の有電極型や無電極型の高圧紫外線灯やメタルハライドランプが使用可能である。
【0028】
基材としては、一般の透明プラスチックが使用可能ではあるが、本発明の用途として想定する、スポーツゴーグル、ヘルメットシールド、安全メガネ、安全シールド等の人体の保護具用途、また各種表示機器や計器カバー、レンズ、センサーカバー等の産業用途、住宅店舗における間仕切りやショーケース等の住設用途、自動車、鉄道車両等の間仕切りや棚、計器カバー、窓ガラス等の輸送関連用途においては、ポリカーボネート樹脂を基材とすることが、その軽量性、透明性、加工性および割れにくさと割れた場合の安全性の観点から最も好ましい。その他の、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等の一般的な透明樹脂も使用可能である。
【実施例】
【0029】
<ウレタンアクリレートの調整>
(1)温度計、攪拌機、不活性ガス導入口、空気導入口及び還流冷却器を備えた1リットルの四つ口フラスコにトリレンジイソシアネート(TDI)150部と平均分子量400のポリオキシエチレンジオール350部を仕込み、窒素雰囲気下80℃で5時間反応させた。その後、40℃迄冷却し、次に2−ヒドロキシエチルアクリレートを150部加え、空気雰囲気下80℃で4時間反応させ、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(1)を得た。
(2)上記(1)と同様だが、脂肪族ジイソシアネートであるイソシアネートをヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)150部とし、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(2)を得た。
(3)上記(1)と同様だが、ポリエーテルジオールを平均分子量600のポリオキシプロピレンジオール300部として、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(3)を得た。
(4)上記(1)と同様だが、ポリエーテルジオールを、平均分子量600で、エチレンオキシドを70モル%含有する、ポリオキシエチレンジオールとポリオキシプロピレンジオールのランダム共重合体300部として、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(4)を得た。
(5)上記(1)と同様だが、ポリエーテルジオールを、平均分子量600で、エチレンオキシドを50モル%含有する、ポリオキシエチレンジオールとポリオキシプロピレンジオールのランダム共重合体300部として、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(5)を得た。
【0030】
<実施例1>
用いた各成分は次の通りである。
(a):2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(1)
(b):エチレンオキシドの平均付加モル数10のビスフェノールAジアクリレート
希釈溶剤:イソプロピルアルコールおよびメチルセロソルブの1:1溶液
光重合開始剤:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンと1−[4−(2−ヒドロキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンの1:1混合物、
【0031】
また、シリコーン系表面調整剤として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン溶液
(ビックケミー社製、商品名BYK−306)を使用した。
【0032】
固形分重量比(a)/(b)が、80/20となるよう配合し、さらにこれらの成分が溶液中40重量%となるように、上記希釈溶剤で希釈した。この際、あらかじめメチルセロソルブに溶解していた光重合開始剤を固形分比4%となるように希釈溶剤の一部として添加した。さらに、組成物100重量部に対し、0.1重量部のシリコーン系表面調整剤を添加した。組成物は充分に攪拌混合した後、密閉容器に保存した。
【0033】
基材として板厚1.5mmの透明ポリカーボネートシート(筒中プラスチック工業株式会社製「ポリカエース」)を準備し、金属製バーコーターを用いて、乾燥膜厚が30μmとなるように組成物を塗布した。つぎに、塗布したポリカーボネートシートを50℃の熱風循環型オーブンに入れ乾燥した。20分間乾燥した後、160W/cmの高圧水銀灯(ウシオ電機株式会社製)を用い、速度5m/分のコンベア上にポリカーボネートシートを載せ、水銀灯とポリカーボネートシートとの距離15cmで、ポリカーボネートシートに紫外線照射を行い、組成物を硬化させた。防曇塗膜が形成されたシートについて次の通り性能を評価した。
【0034】
<外観>
目視で、硬化した塗膜を観察し、次のように評価した。
◎:塗膜表面が平滑で、どの角度から見ても透明なもの
○:塗膜表面が平滑で、極端に斜めにするとやや透明性を損ない曇って見えるが実用的には問題の無いレベルのもの
△:塗膜表面が平滑性でないか、斜めから見ると曇って見え、実用上問題があるもの
×:塗膜表面が荒れているか、平面を正面から見ても曇りがあり、全く実用性のないもの。
<防曇性1>
シートの表面に呼気を5回吹きかけて、目視にて曇りの度合いを観察し次のように評価した。
○:呼気を3回以上吹きかけても一切曇りは観察されない
△:呼気を1〜2回吹きかけても呼気は観察されないが、呼気を3回以上吹きかけると曇りが観察される。
×:呼気を1回吹きかけると曇りが観察される。
<防曇性2>
上記「防曇性1」の評価で△および○となったもののみを対象として、欧州規格EN168に準じ防曇時間を測定し次のように評価した。
◎:防曇時間20秒超(著しく向上した防曇性)
○:防曇時間15秒〜20秒以下(優れた防曇性)
△:防曇時間5秒〜15秒以下(弱い防曇性で、用途が制限される)
×:防曇時間5秒以下(非常に低い防曇性で実用性無し)
<塗膜の初期密着性>
碁盤目テープ法(JIS K5400に準拠)を行い、剥がれなかった升目の数により次のように評価。
◎:100(非常に強い密着性)
○:80〜99(実用上問題のない密着性)
△:50〜79(実用上問題が発生する可能性が大きい)
×:20〜49(密着力が弱く全く実用性がない)
××:0〜19または碁盤目の外まで大きく剥離(密着性なし)
<耐摩耗性>
ASTM D1044に準じて、テーバー式摩耗試験(CS10F摩耗輪、荷重500g 300回転)を行い、発生したヘイズを同時に評価したハードコート(ハードコートポリカーボネート板/筒中プラスチック工業株式会社製EC100R 基材:1.5mm)と比較して次のように評価。
◎:ヘイズの変化がハードコートの値+5%以下(ハードコート並みの優れた耐摩耗性)
○:ヘイズの変化がハードコートの値+5%超〜10%(優れた耐摩耗性で、実用上問題なし)
△:ヘイズの変化がハードコートの値+10%超〜15%(耐摩耗性はあるが、実用上問題がおこる可能性がある)
×:ヘイズの変化がハードコートの値+15%超〜耐摩耗性はなく、実用上問題がある)
<熱成形性>
試料を170℃設定の熱風循環型オーブンで7分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして半径30mmの木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形をおこない、その後、外観を観察し、次のように評価した。
○:クラックや塗膜剥離の発生および外観の変化が無い(優れた成形性)
×:クラックや塗膜剥離の発生または白濁や表面の肌が荒れるなど外観の変化が発生する(成形性がない)
<塗膜の耐久密着性>
上記「塗膜の初期密着性」評価で○および◎のもののみを対象として、沸騰水中に試料を60分浸した後、水分をふき取り、室温中で2時間以上乾燥させた後で、上記碁盤目テープ法にて次のように評価。但し、初期の「防曇性2」の評価結果が△あるいは×のものについては、この評価をしなかった。
◎:90〜100(非常に強い密着性)
○:60〜89(実用上問題のない密着性)
△:30〜59(実用上問題が発生する可能性が大きい)
×:0〜29(実用上問題となる)
<防曇耐久性1/耐温水>
60℃の温水中に試料を100時間浸した後、塗膜の剥離(全面または一部分)が発生したものを除き、上記「防曇性2」の評価を行い次の通り評価した。但し、初期の「防曇性2」の評価結果が△あるいは×のものについては、この評価をしなかった。
◎:初期と同一の防曇性を示したもの(良好な防曇耐久性)
○:初期より1ランク低い防曇性で、結果が△〜○のもの(有る程度の防曇耐久性で、用途が制限される可能性がある)
×:初期より2ランク以上低い、または結果が×のもの(防曇耐久性に劣る)
××:塗膜の全面または一部分に剥離が発生したため、防曇性2の評価を実施できなかったもの(塗膜自体の耐久性または耐久密着性に問題が有るもの)
<防曇耐久性2/耐熱>
80℃の熱風循環式オーブン中に試料を100時間静置した後、塗膜の剥離(全面または一部分)が発生したものを除き、上記「防曇性2」の評価を行い次の通り評価した。
◎:初期と同一の防曇性を示したもの(良好な防曇耐久性)
○:初期より1ランク低い防曇性で、結果が△〜○のもの(有る程度の防曇耐久性で、用途が制限される可能性がある)
×:初期より2ランク以上低い、または結果が×のもの(防曇耐久性に劣る)
××:塗膜の全面または一部分に剥離が発生したため、防曇性2の評価を実施できなかったもの(塗膜自体の耐久性または耐久密着性に問題が有るもの)
<防曇耐久性3/耐熱成形性>
上記成形品について、上記「防曇性2」の評価を行う。但し、初期の「防曇性2」の評価結果が△あるいは×のものについては、この評価をしなかった。
◎:加熱成形前と同一の防曇性を示したもの(良好な防曇耐久性)
○:加熱成形前より1ランク低い防曇性で、結果が△〜○のもの(有る程度の防曇耐久性で、用途が制限される可能性がある)
×:加熱成形前より2ランク以上低い、または結果が×のもの(防曇耐久性に劣る)
【0035】
<実施例2>
(a)/(b)を70/30とした以外実施例1と同様。
【0036】
<実施例3>
(a)/(b)を95/5とした以外実施例1と同様。
【0037】
<比較例1>
(a)/(b)を40/60とした以外実施例1と同様。
【0038】
<比較例2>
(a)/(b)を100/0とした以外実施例1と同様。
【0039】
<比較例3>
(a)の替わりに、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(2)を用いた以外実施例1と同様。
【0040】
<比較例4>
(a)の替わりに、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(3)を用いた以外実施例1と同様
【0041】
<実施例4>
2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(1)の替わりに、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(4)を用いた以外実施例1と同様。
【0042】
<比較例5>
(a)の替わりに、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(5)を用いた以外実施例1と同様。
【0043】
実施例1〜4および比較例1〜5の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0044】
表1に示されている通り、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(a)と官能基の数が2以下のモノマー(b)との重量比が本発明の範囲である実施例1〜実施例3では、呼気テストによる防曇性1はもちろん、より厳しいEN168の防曇テストによる防曇性2においても優れた防曇性を有していることがわかる。かつ、その防曇性が熱や湿度において失われない耐久性を有しており、さらに基材への充分な密着性や、成形性、耐摩耗性にも優れていることがわかる。これに対して、上記(a)と(b)との重量比が本発明の範囲を逸脱する比較例1あるいは比較例2では、初期防曇性の低下、耐摩摩耗性の低下を起こし(比較例1)、耐久密着性、および防曇耐久性の低下を起こし(比較例2)ている。
【0045】
また、ポリオキシエチレンジオールとポリオキシプロピレンジオールのランダム共重合体で、エチレンオキシドを70モル%含有したポリエーテルジオールを用い、本発明の範囲内にある実施例4では、実施例1と同様の評価結果を得られたのに対し、本発明の範囲外であるエチレンオキシドを50モル%しか含有していないポリオキシエチレンジオールとポリオキシプロピレンジオールのランダム共重合体を用いた比較例5では、呼気テストによる防曇性1はもちろん、より厳しいEN168の防曇テストによる防曇性2にて、最低ランクとなり、必要な防曇性が得られなかった。また、比較例5では、表面粘着性のため熱成形時に外観不具合が発生し、熱成形にも対応できていなかった。
【0046】
本発明の範囲を逸脱した、イソシアネートが直鎖脂肪族系のヘンキサメチレンジイソシアネートを使用した2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(2)を(a)成分の替わりに用いた比較例3では、優れた防曇性は得られたものの、耐摩耗性に劣り、耐久密着性、防曇耐久性に劣る。また、本発明の範囲を逸脱した、ポリオキシプロピレンジオールをジオール成分として用いた2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(3)を(a)成分の替わりに用いた比較例4では、防曇性が全く得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルジオールと芳香族または環状脂肪族ジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとの反応生成物である2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(a)、官能基の数が2以下のモノマー(b)、希釈溶剤及び光重合開始剤の各成分少なくとも一種類からなり、上記ポリエーテルジオールが、ポリエチレンオキシド、または、エチレンオキシドを60モル%以上含有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム共重合体で、固形分重量比(a)/(b)が50/50〜98/2であることを特徴とする紫外線硬化型防曇組成物。
【請求項2】
ポリエーテルジオールの平均分子量が400以上である請求項1記載の紫外線硬化型防曇組成物。

【公開番号】特開2009−287038(P2009−287038A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208140(P2009−208140)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【分割の表示】特願2004−111781(P2004−111781)の分割
【原出願日】平成16年4月6日(2004.4.6)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】