細胞、小胞、ナノ粒子およびバイオマーカーを分離および単離するためのエキソビボの多次元システム
動電、誘電泳動、電気泳動および流体の力を多次元的に組み合わせて、高導電率(イオン)強度の生物学的サンプルおよび緩衝液中で細胞、ナノベシクル、ナノ微粒子およびバイオマーカー(DNA、RNA、抗体、タンパク質)を分離する装置および技法について記載する。開示される実施形態では、連続および/またはパルス誘電泳動(DEP)力、連続および/またはパルスフィールドDC電気泳動力、微小電気泳動および制御された流体現象の組み合わせを、電極のアレイと共に利用する。特に、チャンバーDEP装置と、流体、電気泳動およびDEPの力を組み合わせて適切な規模に設計された比較的大型の電極アレイ装置とを使用すれば、比較的大量および/または臨床的意義がある量の血液、血清、血漿または他のサンプルを、より迅速かつ効率的に直接解析することができる。本発明により「シームレスな」サンプルの応答診断システムおよび装置の作製が可能になる。記載した装置および技法を用いれば、分子、ポリマー、ナノ要素およびメソスケール物質の三次元高次構造体へのアシスト型自己組織化(assisted self−assembly)を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年4月3日に出願された、「細胞、小胞、ナノ粒子およびバイオマーカーを分離および単離するためのエキソビボの多次元システム(Ex−Vivo Multi−Dimensional System for the Separation and Isolation of Cells,Vesicles,Nanoparticles and Biomarkers)」を発明の名称とする米国仮特許出願第61/042,228号明細書の利益を主張するものであり、その開示内容全体を参照によって本明細書に援用する。
【0002】
連邦政府により資金提供を受けた研究および開発に基づきなされた発明の権利に関する記載
本研究は、NIH Grant/Contract CA119335の支援を受けて実施した。米国政府はこの発明に一定の権利を有する場合がある。
【背景技術】
【0003】
生体分子の研究および臨床診断では、血液、血漿、血清、唾液および尿のような複雑な体液サンプル中から希少な細胞、細菌、ウイルスおよびバイオマーカー(たとえばDNA、RNA、抗体、他のタンパク質など)を分離すること、および同定することはどちらも重要であると同時に課題にもなっている。また、バイオナノテクノロジーの登場によって、数多のナノベシクルおよびナノ粒子内に薬剤および造影剤を封入する薬物送達法がもたらされた。こうした方法により、現在では血流中にとどまる残存ナノベシクルおよびナノ粒子を同定および分離することも重要になっている。血液のような複雑なサンプルから特定の細胞、ナノベシクルおよび生体分子のサンプルを調製および単離するには、種々の物理的、電気的および生物学的技法および機構を使用することができる。こうした技法および機構として、遠心分離、ゲル濾過、親和結合、DC電気泳動、ならびにラボオンチップ(lab−on−a−tip)、マイクロ流体デバイスおよびサンプルの応答(sample−to−answer)システムに組み込まれた様々な組み合わせが挙げられる。
【0004】
こうした従来の技法(または組み合わせ)の多くは工程に比較的時間がかかり、問題および限界がないわけでない。特に、希少な細胞(癌細胞、胎児細胞および幹細胞)、少数の細菌およびウイルス、または非常に少数の特定の抗体、タンパク質、酵素、DNAおよびRNA分子の単離については、依然として困難なままである。臨床診断の場合も、希少な細胞およびバイオマーカーの検出がサンプルサイズによって、すなわち、重症患者、高齢者および乳児から採取される血液が比較的少量にとどまる場合があることによって制限される場合がある。このため、非効率なものになるか、または原サンプルの高度な希釈が必要とされるサンプル調製工程は失敗するか、あるいは比較的低濃度の範囲での細胞および他の疾患関連マーカーの単離となり信頼できない場合が多い。これは、特に癌、残存病変、母体血中の胎児細胞/DNA/RNA、血液中の細菌およびウイルス(敗血症性感染)の早期検出、ならびに大量の空気中、水中または食料品の中の少数の病原体(たとえば細菌、ウイルスなど)およびバイオテロ病原体の検出の際に問題となる。
【0005】
AC電場を使用して細胞およびナノ粒子の操作を行う交流動電技術は、細胞[参考文献2〜5を参照]、バイオマーカー(DNA[参考文献5〜8]、タンパク質[参考文献9]など)、さらには薬物送達ナノベシクル[参考文献10]の分離の際に特に注目されるいくつかの仕組みを提供する。こうした技術は、3つの現象:(1)電極上の界面の電荷により界面の液体が流動するAC電気浸透;(2)電界により発生する熱勾配により溶液が全体的に流れる電熱による流動(electrothermal flow);および(3)AC電界中の粒子と媒体との間の誘電率の差により粒子の運動が誘起される誘電泳動(DEP)[参考文献10]に明確に分類される。残念ながら、従来のDEPおよび関連する動電効果の形態には、臨床的意義があるサンプル調製および診断のためのこうした科学技術の有用性を損なう問題がある。
【0006】
第1に、選択性の速度および制御の点からDEPによる分離を効率的に行うには通常、<10〜100mS/m程度の比較的低い導電率で行う必要がある[参考文献11]。加えて、溶液のイオン強度が増加し、導電率が10mS/mを超えると、正またはDEPの高電場領域(通常電極の周囲または電極上)ではナノ粒子またはDNAバイオマーカーなどの所望の物質/分析物が単離できにくくなる。このため、イオン強度が100〜200mM(導電率は約500〜1000mS/m)の範囲にある血液または血漿などの生物学的サンプルを大幅に希釈する、および/または処理した後でないと、DEPによる分離を行うことができない[参考文献13、14]。このことだけで、希少な細胞または少数のバイオマーカーの検出を必要とする臨床診断におけるDEPの有用性が損なわれる場合が多い。サンプル(1mlの血液)を100〜1000倍希釈する場合、それは非常に大きなサンプル量を処理しなければならず、著しく時間がかかる場合がある。最初に遠心分離または濾過などの物理的手段により細胞を濃縮してから、低い導電率の緩衝液に希釈する場合、こうした工程は時間がかかるだけでなく、費用がかさむうえ、サンプルが大きく変質する原因ともなる。DEPを幹細胞の分離に用いる得る場合、イオン強度が低く生理的とは言い難い緩衝液に希釈するため、感受性の高い幹細胞が変質する可能性があり、その後の細胞の分化に影響する恐れもある。また、血液由来のDNA、RNAおよびタンパク質バイオマーカーの単離は、その後の臨床診断、特に癌化学療法[参考文献15]、残存病変[参考文献16]および癌の早期検出[参考文献17]のモニタリングも重要である。
【0007】
DEPはDNAおよびタンパク質の単離に使用されてきたが、DEPを用いてDNAの検出を行うには、やはり問題点と限界がある。第1の問題は、この場合もDEP解析の前に血液サンプルを希釈する、および/または処理する必要があることである。血中を循環する臨床的意義がある無細胞DNAおよびRNAバイオマーカーの場合、DNA/RNAの量、そのサイズおよび塩基組成(突然変異および多型)の発見および測定が重要である[参考文献17〜19]。遠心分離、濾過および洗浄の手順を含む、または必要とするサンプル処理では、その工程で破損または溶解された正常細胞からDNA分子が遊離するばかりでなく、臨床的意義があるDNAがより小さなフラグメントに剪断される恐れがある。異質のDNAフラグメントの遊離、および処理に伴う臨床的意義があるDNAの破壊は、こうした手順を用いた診断的価値を大きく低下させ、かつ失わせる。さらに、こうしたサンプル処理は極めて非効率的であり、こうした手順において血液中のDNAの最大60%およびRNAの90%超が失われる可能性がある[17]。
【0008】
第2の問題点は、DNA、タンパク質およびナノ粒子の分離に使用されてきたDEPによる分離装置のほとんどで、粒子捕集部として機能する電極間の距離を非常に小さくして(6μmまたはそれ以下)作製された金の多点微小電極を使用するか、あるいはアレイ間の距離が6〜8ミクロンまたはそれ以下の、凹凸を有するバンドを配列させた(castellated)金の微小電極アレイを使用していることである[参考文献18〜19]。こうした金の微小電極アレイ装置は、ガラス基板材料に金をスパッタリングして製造されるのが一般的である。さらに、ナノ電極を使用するDEP法もいくつかある[参考文献20]。こうした方法の問題は、DNAまたは他の生体分子を捕捉する実際のスペースが比較的小さく、ナノ電極からの距離が増大すると(たとえば>10nm)、電界効果が大きく低下するため、元来アレイの処理量が少ないことである。この種の装置をサンプル調製(たとえば、1〜10mlの血液の処理)に対応させる規模にすると、DEP電界により調べられる実際のサンプル面積が電極近傍に限られ、大部分のDNAが見逃されたり、あるいは極めて長いサンプル処理時間が必要になったりすると考えられる。数十ナノメートルのナノ電極内を通るよう液体の流れを抑制するように装置を設計する場合、やはり処理時間が非常に長くなるか、あるいは、かなり大型(x−y次元)の装置が必要とされるであろう。他の動電効果および浸透力(osmotic force)による流体の制御されない渦電流など、種々の他の問題も存在する。他のDEP用途では、血液由来の細菌、および癌細胞のDEPによる分離を行うのに、間隔を約200μmとして多孔性ヒドロゲルで被覆した円形の白金微小電極(直径50μm〜80μm)を用いたアレイも使用されきた[参考文献13、14]。こうしたDEPによる分離の場合、やはり血液サンプルを遠心し、小さな細胞画分をイオン強度が低い緩衝液に再懸濁していた[参考文献13、14、24〜26]。
【0009】
AC動電技法の第3の一般的な問題は、重要な、または臨床的意義がある分離を行うには、多くの場合、得られる感度と特異性の比が十分に高くないことである。誘電泳動(DEP)を用いて、100万に1つの割合で、効率的に希少な細胞の分離を行う細胞分離は、行いにくい。疾患の早期診断の多くでは希少な細胞または低レベルのバイオマーカーの検出が必須であるため、感度と特異性の比をできる限り向上できることが重要である。一般に、大半のDEP装置は、単純な統計上の理由から、1〜10mlの比較的大量の血液サンプルが必要とされる場合があり、かつ希少な細胞または低レベルのバイオマーカーを単離および検出するという臨床の実体に即して適切な規模に設計できない。DEP装置を大型サンプル用に設計する場合、装置は非効率となるうえ、高導電率条件で作動することができず、したがってサンプルの希釈がさらに必要になる。
【0010】
AC動電技法の第4の問題は、複雑な生物学的サンプル(たとえば血液、血漿、血清など)において希少な細胞、細菌、ウイルス、DNA、RNAおよびタンパク質などの分析物およびバイオマーカーについて、効率的(損失が少なく)かつ高度に選択的な分離工程を行うことである。こうした物質はどれもサイズ範囲が2〜3桁異なる場合があるが、一方でサイズおよび組成がより類似した物質間で効率的な分離を実現する必要もある。重要な例として、DNAナノ微粒子(20〜50kb)、高分子量DNA(5〜20kb)、中分子量DNA(1〜5kb)および低分子量DNA(0.1〜1kb)の分離が挙げられる。
【0011】
最後にAC動電(DEP)装置および技法の最も重大な問題は、溶液の導電率が上がり(>100mS/m)、AC周波数が下がり(<20kHz)、電圧が高くなる(>20ボルト pt−pt)とより顕著になる電気化学反応が生じることである。本文書の詳細な説明のセクションで示すように、こうした電気化学は、泡立ち、加熱、流体の乱流、電極の劣化および不安定な分析物の破壊など、いくつかの悪影響を引き起こす恐れがある。こうした悪影響はDEP装置全体の性能を大きく限定し、DEPの高電場領域における特定の物質(細胞、ナノ粒子、DNAおよびタンパク質)の蓄積、単離および検出の妨げとなるほか、細胞および分析物をDEPの低電場領域に単離するのを妨害する。
【0012】
細胞およびナノ粒子の分離には、他の種類のAC動電装置も使用されているが、高導電率溶液中で有効であることは証明されていない。AC動電およびDEP装置の非有効性に対する最も説得力のある論拠の1つは、DEPが、生物学的研究および臨床診断で繁用されているDC電気泳動と異なり、実用的用途でまったく使用されていないことである。高導電率の生物学的サンプルおよび緩衝液中で分離が可能な高い性能特性を持つ誘電泳動が行われることが望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態は、血液もしくは他の生物学的サンプルまたは緩衝液中の希少な細胞、細菌、ウイルス、薬物送達ナノベシクルおよびナノ粒子、細胞オルガネラおよび構造体(核、ミトコンドリア、液胞、葉緑体、カイロミクロン(cylomicron)など)、循環血中の無細胞DNA/RNAバイオマーカーおよび他の疾患関連の細胞ナノ微粒子(たとえば癌細胞、疾患細胞または損傷細胞が血液、リンパ液または器官に放出する部分的に分解された細胞成分)、抗体、抗体複合体、タンパク質、酵素ならびに薬剤および治療剤を直接分離および同定するため、AC動電および誘電泳動(DEP)、DC電気泳動、装置上の微小電気泳動、および流体技術を独自に多次元的に組み合わせることを含む新規のサンプル調製、サンプルの応答およびポイントオブケアのシステム、装置、方法および技法に関する。開示された実施形態では、複雑なサンプル調製、生体分子の分離および診断解析の実施に使用する、新規のチャンバー装置および多孔性の構造体で積層された強固な電極(ミクロおよび/またはマクロサイズ)のアレイを組み込んだ他の装置により、連続および/またはパルス動電/誘電泳動(DEP)力と、連続および/またはパルスフィールドDC電気泳動力と、装置上の微小電気泳動によるサイズ分離と、流体の制御(外部からのポンピングおよび/またはDC/AC動電による)とを組み合わせて使用する。
【0014】
本明細書はまず、電極が別々のチャンバーに配置され、内側のチャンバー内に孔または穴構造体を介してAC DEP電界を通過させることにより正(positive)のDEP領域および負(negative)のDEP領域が形成される新規の動電学的DEP装置およびシステムを開示する。細胞、ナノ粒子およびバイオマーカーを移動させるため、様々な幾何形状を用いて所望の正のDEP(高電界)領域および負のDEP(低電界)領域を形成してもよい。こうした孔または穴構造体は、多孔性材料(ヒドロゲル)を含んでいても(すなわち充填されていても)よいし、または多孔性の膜状構造で被覆されていてもよい。電極を別々のチャンバーに分離することで、こうした孔/穴構造を持つDEP装置では、DEP工程において内部の分離チャンバー内でどのような電気化学作用、加熱または無秩序な流体の移動も基本的に起こらない(図1および図2を参照)。
【0015】
本明細書はさらに、DEP、電気泳動および流体の力を組み合わせて臨床的に意義がある量の血液、血清、血漿または他のサンプルを比較的高イオン強度/導電率条件下でより直接的に解析できるように一定の規模で区切られた(x−y次元の)強固な電極アレイ、および戦略的に配置された(x−y−z次元の)補助電極構成体の使用を開示する。本明細書は、強固な電極構造体(たとえば白金、パラジウム、金など)を1種または複数種の多孔性材料(天然または合成の多孔性ヒドロゲル、膜、制御されたナノポア材料および薄層誘電体材料)の層で積層することで、電極上または電極近傍で起こる任意の電気化学(電界)反応、加熱および無秩序な流体の移動の作用を抑制しつつも、細胞、細菌、ウイルス、ナノ粒子、DNAおよび他の生体分子の効率的な分離が可能になることを開示する(図3〜8)。より高分離能の分離を達成するには、AC周波数の交差点のほか、第2の分離の際に装置上(アレイ上)のDC微小電気泳動を使用することもできる。たとえば、DNAナノ微粒子(20〜50kb)、高分子量DNA(5〜20kb)、中分子量DNA(1〜5kb)およびより低分子量のDNA(0.1〜1kb)フラグメントの分離である(図9〜12)。装置を小さく区切れるということは、こうした装置上で様々な血液細胞、細菌およびウイルスならびにDNAを並行して同時に分離できることを意味する(図13〜16)。
【0016】
本発明の実施形態はさらに、より選択的かつ効率的に細胞(たとえば癌および幹細胞)を分離する温度制御の使用に関する。したがって、一態様では、本発明の実施形態は、癌細胞、細菌、ウイルス、ナノベシクル(薬物送達)、ナノ粒子、高分子量DNAナノ微粒子、細胞オルガネラ、タンパク質、抗体および抗体複合体、ならびに疾患および代謝状態の他の様々な臨床的意義があるバイオマーカーについて、血液をモニターおよび/または解析するのに使用できるエキソビボでのサンプル調製、シームレスなサンプルの応答、ラボオンチップおよびポイントオブケア(POC)の診断システムに関する。こうしたエキソビボのシステムおよび装置は、AC電界を用いた分析物および臨床的意義がある物質の分離、単離、高度な濃縮および検出を行うことで、血液のモニターまたはスキャンが可能である。このシステムを用いれば、以下に限定されるものではないが、免疫化学;DNA/RNAプローブハイブリダイゼーション;ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ローリングサークル増幅(RCA)、鎖置換増幅(SDA)およびジェノタイピング、配列解析、遺伝子発現のための他の技法など、さらに複雑な解析を目的としてこうした物質をすべて同一のサンプルチャンバー(シームレスなサンプルの応答)内で、あるいは関連する分析装置および/または収集システムにより選択的に収集することができる。本発明により構成された新規の装置は、迅速な分子診断を無希釈の血液サンプルを用いてすばやく行うことができる、ポイントオブケア(POC)のシームレスなサンプルの応答システムであってもよい。本発明による別の新規の装置は、患者の血液をシャントに循環させ、迅速に解析(バイオマーカーDNA、薬剤または薬物送達ナノベシクルのレベルの測定および癌細胞の単離)を行い、希釈による、または物理的/化学的なサンプルの変質を最小限にとどめて(閉ループにより)患者に戻すことが可能なエキソビボの癌化学療法モニタリングシステムであってもよい。さらに、こうしたエキソビボのシステムは、特に救命医療場面での他の治療剤、疾患および患者の傾向のモニタリングに使用してもよい。
【0017】
本発明を利用する本開示のシステム、装置、方法および技法は今回、従来のDEPによる分離の大部分が使用していたよりも高導電率(>100mS/m)のイオン強度条件下、低AC(DEP)周波数(<20kHz)および高電界強度(>20電圧 最大振幅(pk−pk))で細胞、ナノ粒子およびバイオマーカー物質の分離を可能にする。さらに具体的に言えば、より高イオン強度条件下だけでなく、血液、血漿、血清および無希釈の緩衝液などの複雑な生物学的サンプル中で直接DEPによる分離を行うこともでき、今やDEPの高電場領域でナノスケール(500nm〜5nm)の分析物および物質の単離が可能であると同時に、電極間のDEPの低電場領域でより大きな物質(細胞、ミクロン粒子など)を単離することもできる。
【0018】
新規の装置を用いれば、現在ナノ粒子および生体分子の分離に好ましい方法である、凹凸を有するバンドを配列させた(castellated)DEP電極アレイの使用に伴って起こる電気化学、加熱および無秩序な流体による作用が抑制される。別の態様では、装置および方法において、区切られたアレイ内に強固な複数の電極がより巨視的な規模の構成を使用してもよい。この電極構成により、これまでより大きなサンプル量をより迅速および効率的に調べられるばかりでなく、基本的に非常に少量の癌細胞、細菌、ウイルス、ナノ粒子およびナノ微粒子、および非常に低濃度のDNA、RNAバイオマーカーおよび抗体複合体を、非常に多くの正常な細胞を含む複雑なサンプル、すなわち血液から単離することができる。基本的に、「適切な規模に設計された」巨視的な電極システムを使用すると、百万個の細胞からある特定の細胞(または他の物質)を発見する工程が、千個の細胞からある特定の細胞を発見することに切り替わる。すなわち、サンプルが多くの小さな電極群に分散され、階層的な並列選別機構が形成される。この分離工程を血液の処理に応用すると、比較的小さいサイズのDNA、RNAおよび比較的高分子量のDNAをタンパク質および細胞から取り出すことができる。電極のサイズ(直径10〜100ミクロン、距離20〜100ミクロン)および希釈を抑えたサンプルが使用可能であることにより、今回の分離工程は、各部が個々に100〜1000枚の電極を含んでもよい2〜100個のアレイ部を備えた規模のアレイ装置上で迅速かつハイスループットで実施できる。さらに、この装置には、x−y−z次元に戦略的に配置された補助電極を組み込むことも考えられる。
【0019】
本明細書に記載の実施形態は、開示されたアレイ装置およびシステムを用いると、(他のAC動電現象と共に)直径が約500nm以下のナノ粒子全体に固有のクラウジウス‐モソティ(Clausius Mossotti)因子効果に基づき、比較的低周波数範囲(10〜50kHz)でナノ粒子および細胞ナノ微粒子を比較的大きなサイズの物質(細胞およびミクロンサイズの粒子)から分離することができることを示す。本明細書はさらに、AC動電現象を流体と一緒にする場合、その工程で過剰な熱の発生が緩和されることを開示する。本明細書はさらに、流体およびDC電気泳動をAC動電現象と組み合わせると、細胞とタンパク質とを共に図示した装置の下方のアレイ部の方に効率的に移動させられる一方で、強い負電荷を帯びたDNAナノ微粒子およびDNA分子を、装置の上方のアレイ部の方に濃縮することができることを開示する。このため、図示した装置の異なるアレイ部を用いれば、装置の下方のアレイ部での赤血球、白血球、癌細胞の分離およびタンパク質の除去;中央のアレイ部での細菌、ウイルス、ナノ粒子およびナノベシクルの分離;および上方のアレイ部でのDNAナノ微粒子およびDNA分子の分離による多重化など、より選択的な分離工程を行うことができる。
【0020】
最後に、本明細書はさらに、別々の電極チャンバーおよび孔/穴構造体が単独の分離チャンバーに結び付けられている装置、および同時に、あるいはその後に第2のサイズ分離工程を行う際に使用できる、ナノポーラス材料(厚さ1ナノメートルから1ミリメートル)で積層された強固な電極アレイ装置を開示する。たとえば、図示した装置の上方のアレイ部を用いてDNA成分の複雑な混合物を濃縮できれば、AC動電現象およびDC電気泳動力の組み合わせを用いて、高分子量DNA(5〜50kb)、中分子量DNA(1〜5kb)およびより低分子量のDNA(0.1〜1kb)からDNAナノ微粒子を分離する第2の分離を実現することができる。さらに、図示した実施形態では、ナノポーラス層内のDC微小電気泳動を用いて様々なDNAフラグメントのサイズ分離が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各電極が別々のチャンバーに配置され、DEP電界が細孔構造体を通過して内側のチャンバー内で発生する、新規動電学的DEP装置を示す。
【図2】図1に示す新規動電学的DEP装置の表面の孔/穴形状体を示す。
【図3】例示的な流体およびサンプルを表示した、本発明により構成された電極配置を示す。
【図4】本発明による電極にパルスを印加した図1の電極配置を図示する。
【図5】分離結果を改善するため電極を選択的に活性化した、図1の電極配置を示す。
【図6】パルスAC DEP/DC電気泳動/制御された流体の流れの組み合わせを印加する前の血液サンプルの分離工程のより詳細な模式図を示す。
【図7】パルスAC DEP/DC電気泳動/制御された流体の流れを組み合わせた最初の段階の血液サンプルを示す。
【図8】パルスAC DEP/DC電気泳動/制御された流体の流れを組み合わせた最終段階の血液サンプルを示す
【図9】上方のアレイ部でのパルスAC DEPおよびDC電気泳動の組み合わせによる、蛍光染色したDNAナノ微粒子(nanopariculate)、非常に高分子量のDNAおよび中から比較的低分子量のDNAの選択および分離を示す。
【図10】上方のアレイ部でのパルスAC DEPおよびDC電気泳動の最初の組み合わせによる、蛍光染色したDNAナノ微粒子、超高分子量(vh MW)DNAおよび中〜比較的低分子量(MW)のDNAの選択および分離を示す。
【図11】上方のアレイ部でのパルスAC DEPおよびDC電気泳動の最終的な組み合わせによる、蛍光染色したDNAナノ微粒子(nanopariculate)、超高分子量DNAおよび中〜低分子量DNAの選択および分離を示す
【図12】DNAナノ微粒子(nanopariculate)および非常に高分子量のDNAの除去と、アレイ上でのDC電気泳動による中および低分子量のDNAフラグメントのサイズ分離とを示す。
【図13】装置の下方のアレイ部での赤血球および白血球に対する最初のパルスAC DEPの印加を示す。
【図14】装置の下方のアレイ部での赤血球および白血球に対する最終的なパルスAC DEPの印加を示す。
【図15】装置の中央のアレイ部での細菌、ウイルスおよびナノベシクルを分離するための最初のパルスAC DEPを示す。
【図16】装置の中央のアレイ部での細菌、ウイルスおよびナノベシクルを分離するための最終的なパルスAC DEPを示す。
【図17】中および高導電率条件下での60nmおよび200nmのナノ粒子のDEPによる分離を示す。
【図18】中および高導電率条件下での200nmのナノ粒子のDEPによる分離を示す。
【図19A−D】中および高導電率条件下での60nmのナノ粒子のDEPによる分離に関する3D蛍光強度画像を示す。
【図19E−H】中および高導電率条件下での200nmのナノ粒子のDEPによる分離に関する3D蛍光強度画像を示す。
【図20】高導電率条件での60nmのナノ粒子のDEPによる分離に関する実像を示す。
【図21】60nmおよび200nmのナノ粒子における導電率の上昇に対するナノ粒子の蛍光強度の上昇に関するグラフを示す。
【図22】60nmおよび200nmのナノ粒子に関する実験結果とDEPの理論的交差曲線とを導電率の関数としたグラフを示す。
【図23】非被覆白金電極およびヒドロゲル被覆白金電極を用いて導電率を上げた(電極が黒ずむ)ときの200nmのナノ粒子のDEPによる分離に関する実像を示す。
【図24】ナノ粒子の非存在下での高導電率DEP後の電極損傷に関する光学顕微鏡画像を示す。
【図25】高導電率DEP後の電極損傷および200nmのナノ粒子の融合に関するSEM画像を示す。
【図26】高導電率DEP後の60nmのナノ粒子および電極損傷に関する蛍光画像を示す。
【図27】ステップ1を構成する、血液中の高分子(hmw)DNAに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図28】ステップ2を構成する、血液中の高分子DNAに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図29】ステップ3を構成する、血液中の高分子DNAに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図30】ステップ4を構成する、血液中の高分子DNAに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図31】ステップ5を構成する、血液中の高分子DNAに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図32】複雑なサンプルを用いたシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図33】PCRおよびイムノアッセイ解析を用いた、複雑なサンプルに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図34】PCRおよびイムノアッセイ解析および検出を用いた、複雑なサンプルに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本文書は、以下に限定されるものではないが、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、唾液、生検サンプル、細胞培養物(幹細胞)、細菌および発酵培養物など適切な量の高導電率(イオン強度)の生物学的および臨床サンプルならびに緩衝液から細胞、ナノベシクルおよびナノ微粒子、細菌および/またはウイルス、さらには臨床的意義がある一連の他の疾患バイオマーカーを分離および同定することができるように、誘電泳動(DEP)などのAC動電学、DC電気泳動学、微小電気泳動および流体光学を多次元的に独自に組み合わせた新規のサンプル分離およびサンプルの応答システム、装置、方法および技法を教示する。本発明の開示された実施形態により、細胞、ナノ粒子および他の分析物のDEPによる分離を無希釈のサンプル(血液、血漿、生体用緩衝液)中で直接を行うことができるが、一方においてこの実施形態は、ある程度希釈したサンプルまたは緩衝液、あるいは他のサンプル調製手順を経たサンプルに対して、開示された装置および方法を使用することを排除するものではない。
【0023】
規定の直径および離隔距離を持つ強固な電極を備えた新規のマルチチャンバー装置および電極アレイ装置を用いることにより、高導電率(イオン強度)の溶液中でうまく働くDEPを行うことが可能になる。こうした新規のDEP装置は、高導電率条件下で起こる電気化学反応の進行に起因する泡立ち、加熱および他の悪影響により効率が低下したり、あるいは複雑な生物学的サンプルおよび高イオン強度の緩衝液から特定の分析物または物質が分離、濃縮および検出されるのを妨げたりしないように設計される。問題のあるAC動電および誘電泳動分離装置の大部分にとって、高導電率条件下でDEPによる分離を行うことは大きな課題となっており、そこには限界があった[参考文献1〜28]。ヒドロゲルを被覆した電極を備えたマイクロアレイ装置を用いて、ある程度高い導電率でのDEPによる分離を短時間実現できたとしても、こうした装置の場合、サンプルの分離手段および診断装置としてうまく働かなかった[参考文献13、14、24〜28]。
【0024】
このDEPにおける導電率の限界を分かりやすくするため、本明細書に記載の第1の例として、まず低伝導度緩衝液中のナノ粒子のDEPによる分離を示す。この例では、ミリQ水(5.5μS/m)中で60nmのDNA誘導体化ナノ粒子と10μmの粒子との分離を行う。分離は10kHz AC、10ボルト 最大振幅(peak−to−peak:pk−pk)で行った。図17aは、微小電極アレイ上にランダムに分布する10μmの粒子にAC電界を印加する前に白色光を照射したときの初期状態を示す。赤色蛍光検出における初期状態では、マイクロアレイ全体で60nmのDNA誘導体化蛍光ナノ粒子からのものと予想される赤色蛍光がぼやけて見える(図17bを参照)。AC DEP電界をわずか30秒間印加しただけで、10μmの粒子のほとんどが、負のDEPの低電場領域に非常に整然と配列した状態で濃縮された(図17cを参照)。1分間のAC電場の印加後には、60nmのDNA誘導体化ナノ粒子が、微小電極上の正のDEPの高電場領域に濃縮された(図17dを参照)。微小電極上の高い蛍光強度とその周辺領域における蛍光強度の低下から、ほとんどのナノ粒子が高電場領域に濃縮されたことが示唆される。次の例は、0.01×TBE(1.81mS/m)中で10μmの粒子と混合した200nmのナノ粒子のDEPによる分離を3kHz AC、10ボルト 最大振幅で行ったものを示す。最初の白色光の図は、電場を印加する前のランダムに分布する10μmの粒子を示し(図17e)、緑色蛍光の図は、高電場領域に200nmのナノ粒子が蓄積されていないことを示す(図17f)。10分未満で、10μmの粒子は低電場領域に濃縮され(図17g)、200nmのナノ粒子は正のDEPの高電場領域に高度に濃縮された(図17h)。こうした低伝導度でのDEPの結果は全般に、文献に引用された他の低伝導度でのDEPによるナノ粒子の分離と一致しており、古典的なDEP理論から予想されるものである[参考文献11〜14]。
【0025】
次の一連のDEPの例は、伝導度が100mS/mより大きい緩衝液溶液における60nmのDNA誘導体化ナノ粒子、200nmのナノ粒子および10μmの粒子の分離を示す。1×TBE(0.109S/m)において、AC電場を20分間印加した後、白色光条件下で200nmのナノ粒子と10μmの粒子との分離を行ったところ、10μmの粒子が低電場領域に濃縮されることが示された(図18a)。緑色蛍光を照射したところ、200nmのナノ粒子は、微小電極の上の正のDEPの高電場領域に濃縮された(図18b)。1×PBS(1.68S/m)を用いて行ったDEP実験では、20分後、10μmの粒子が低電場領域に濃縮される(図18c)。高導電率の1×PBS緩衝液実験における20分後の緑色蛍光画像を、一部の小さい泡を除去してから増幅して撮影した(図18d)。この画像は、200nmのナノ粒子が4枚の微小電極の正のDEPの高電場領域に濃縮したことを示す。しかしながら、微小電極は、このとき著しく黒ずみ、微小電極のうち2枚は泡だっていた。200nmのナノ粒子が主にこうした4枚の微小電極に濃縮されたという観察結果は、微小電極からやや高い電場が発生することと整合する。
【0026】
1×PBS緩衝液中の高導電率実験を60nmのDNA誘導体化ナノ粒子を用いて行っても、同様の結果が得られた。すなわち、60nmのナノ粒子は、微小電極の3枚でやはり正のDEPの高電場領域に濃縮することが観察された。その後、三次元ピークを与えるMATLABを用いて、数学的モデルにより蛍光画像の解析を行ったところ、高電場領域における蛍光ナノ粒子の濃縮がより明らかになった。60nmのDNA誘導体化ナノ粒子を用いた1×TBEの実験では、3D蛍光データにより0分時点(図19a)から2分時点(図19b)、8分時点(図19c)および16分時点(図19d)にかけて強度が顕著に高まることが示された。同様に、1×PBS中における200nmのナノ粒子の3D蛍光データでも、0分時点(図19e)から8分時点(図19f)時点、16分時点(図19g)および20分後(図19h)に強度が顕著に高まることが示された。
【0027】
1×PBS中の60nmのDNA誘導体化ナノ粒子でもやはり、蛍光画像(図20a)に見られるように濃縮が認められる。この3D蛍光画像データはさらに、0分(図20b)から8分(図20c)および20分(図20d)にかけて同様の蛍光の増加も示される。図20aに示す微小電極の1枚(3列目2行目)の内部活性化(in−activation)により、電界パターンが若干変化している。緩衝液1×TBE、0.1×PBS(0.177S/m)および1×PBSを用いた実験の0分、0.5分、1分、2分、4分、8分、16分および20分時点での蛍光データ全体は、MATLABを用いて編集した。60nmのDNA誘導体化ナノ粒子に関する結果をグラフ(図21a)に、200nmのナノ粒子に関する結果をグラフ(図21b)に示す。こうした例は、経時的に蛍光ナノ粒子の濃縮が増加することを示す。より重要なのは、こうした例はさらに、緩衝液の伝導度が大きくなるにつれ蛍光ナノ粒子の全体の濃縮が著しく低下する、すなわち、導電率条件が上昇するにつれ物質を濃縮するのに要する時間がかなり長くなることを示すことである。
【0028】
ここで図22は、60nmのDNA誘導体化ナノ粒子および200nmのナノ粒子のクラウジウス‐モソティ因子(Re(K(ω)))の実部に関する理論曲線および実験結果の範囲と伝導度とを示す。グラフは、こうした例で使用した伝導度に対するRe(K(ω))の理論値が負であると考えられ、したがってナノ粒子が低電場領域に蓄積するはずであることを示す。しかしながら、実際の結果は、ナノ粒子の蓄積が高電場領域で続くことを示す。残念ながら、こうした高導電率条件下(>100mS/m)では、泡立ち、電極の黒ずみ、電極の故障が起こり、DEPに要する時間がかなり長くなるため、分離が相対的に非効率的なものになる。
【0029】
こうしたDEPに関する悪影響は、ナトリウム(Na+)およびクロライド(Cl−)電解質を含むイオン強度が比較的高い緩衝液を用いたときに起こる電気化学活性の増加に起因することが発見されている[参考文献29〜30]。こうした作用の理解を深めるには、これまでよりうまく機能し頑強な分子診断用途のDEP装置を開発する必要があった。高導電率条件下における微小電極/ナノ粒子/電解質の不都合な相互作用を明確に示す別の例を、今回本明細書に記載の実施例に示す。こうした例では、様々な導電率(イオン強度)条件下、ヒドロゲルを含む白金微小電極構造体(図23A〜F)およびヒドロゲル層を含まない白金微小電極構造体(図23G〜H)を用いて、200nmの黄色−緑色蛍光ポリスチレンナノ粒子を、10ミクロン球から分離して、検出を行った。全緩衝液(0.01×TBE、1×TBE、1×PBS)の結果から、200nmの緑色蛍光ナノ粒子が微小電極のDEPの高電場領域に分離および濃縮され、10μmの球が微小電極間の低電場領域に濃縮されることが示される。この場合も、0.01×TBEにおいて200nmのナノ粒子の濃縮が最も大きいようであり、緩衝液のイオン強度が1×PBSまで増すにつれ濃縮は小さくなる(図23B、23D、23Fおよび23Hを参照)。ナノ粒子の濃縮は、ヒドロゲルを含む微小電極の中心で、非被覆の微小電極の外周囲で起こりやすい(図23A、23C、23E、23G)。導電率が最も高い緩衝液(1×PBS)では、ヒドロゲル被覆微小電極(図23E)および非被覆の微小電極(図23G)のどちらも電極がかなり黒ずんでいる。
【0030】
こうした図面には示されていないが、1×PBS緩衝液中ではDEPから4分後、ヒドロゲル被覆および非被覆の微小電極のどちらも微細な泡立ちが増加することも観察された。ただし、微細な泡立ちは、非被覆の微小電極の方でより顕著なようであった。さらに、AC電圧を20ボルト 最大振幅よりも上げたとき、1×PBS緩衝液では、ほとんど全部の電極において無秩序な泡立ちも起きる。ヒドロゲル被覆および非被覆の白金微小電極ではどちらもナノ粒子の濃縮および黒ずみが観察され得たが、非被覆の微小電極では走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して電気化学作用を解析し、ナノ粒子の濃縮および付着を確認する状況となった。
【0031】
次の一連の例では、高伝導度の1×PBS緩衝液中で非被覆の微小電極を用いてナノ粒子の存在しない状態でDEPを行った。微小電極アレイを洗浄し、乾燥させてからSEMを用いて画像化した。最初の図24Aは不活性な対照微小電極の光学顕微鏡画像を示し、さらに3000Hz、10ボルト 最大振幅でのDEPから10分後の活性化微小電極(図24B)を示す。活性化微小電極が著しく黒ずんでいるのが、はっきりと観察される。次に図24Cおよび24Dは、同じ不活性な微小電極および活性化微小電極のSEM画像を示す。SEM画像では、活性化微小電極の著しい損傷および劣化がはっきりと観察される。図24Eおよび24Fは微小電極のSEM画像の拡大図であり、微小電極の周囲付近で起こる白金層の劣化が一層はっきりと示される(図24F)。
【0032】
高導電率の1×PBS緩衝液中に200nmのナノ粒子が存在する状態でDEPの例を同様に行った。最初に、図25Aは、高伝導度の1×PBS緩衝液において3000Hz、10ボルト 最大振幅でのDEPから2分後の不活性な対照微小電極のSEM画像を示す。この活性化していない対照微小電極では、この構造体にランダムに分布する200nmのナノ粒子がほとんどないことが示される。図25Bは、対照微小電極の辺縁のSEM画像の拡大図を示し、白金微小電極の辺縁の間の領域にいくつかのナノ粒子がランダムに捕集されているように見える。図25Cは、200nmのナノ粒子が存在する状態で2分間活性化された微小電極のSEM画像を示す。たくさんのナノ粒子が濃縮され、特に微小電極の辺縁に付着している。拡大画像(図25D)では濃縮されたナノ粒子の集合体が非常によく分かり、微小電極の辺縁で白金がやや劣化していることが窺われる。次に図25Eおよび25Fは、200nmのナノ粒子を用いたDEPから5分後の活性化微小電極の画像を示す。ここでも200nmのナノ粒子の濃縮および集合体形成がはっきりと観察されるが、この場合、白金微小電極構造がより激しく損傷および劣化しているようである。図25Gは図25Dの微小電極辺縁のSEM画像の拡大図であり、やはりナノ粒子の集合体形成が示される。最後に、図25Hは劣化した微小電極(図25Fで見られる)の画像の拡大図であり、ナノ粒子の集合体がナノ粒子の融合または溶融集合体と一緒に散在していることが示される。こうしたナノ粒子の融合集合体は、DEPによる活性化時間が長くなったときの強い電気化学活性(熱、H+およびOH−)によるものである。
【0033】
もう1つの一連の例では、高導電率の1×PBS緩衝液中で、ヒドロゲルを含まない微小電極構造体を用いて、40nmの赤色蛍光ナノ粒子を、10ミクロン球からDEPにより分離し検出した。図26AはDEPによる活性化前の微小電極の赤色蛍光画像であり、40nmのナノ粒子の濃縮は示されない。図26Bは、10,000Hz、10ボルト 最大振幅で4分間DEPにより活性化された後の微小電極の赤色蛍光画像であり、このときは微小電極の周囲に40nmのナノ粒子の濃縮がはっきりと示される。図26CはSEMによる高倍率画像であり、微小電極の損傷および40nmのナノ粒子の集合体形成を示す。
【0034】
こうした例は、DEPを高導電率条件下(>100mS/m)で行うと電気化学活性の増加が起こることをはっきりと示す。この非常に強い電気化学反応により微細な泡立ち、および微小電極の黒ずみが起こる。より重要なのは、著しい微小電極の劣化が起きており、最終的に電極の故障を引き起こし、かつDEPによる活性化時間が長くなるにつれ、この微小電極の破損が進むことが見て取れることである。劣化した微小電極構造体でポリスチレンナノ粒子の融合が観察されたことから、DEPはAC動電工程であるにもかかわらず、かなりの加熱が起きていることが示唆される。こうした結果は、O2、H2、H+、OH−、熱および泡を発生させると思われるDC電解反応が原因と考えることができる。1×PBS緩衝液中にナトリウム(Na+)、カリウム(K+)およびクロリド(Cl−)電解質が存在すると、DEP中に微小電極の表面上に認められる全体的な腐食状態を助長する恐れがある。大部分の生物学的および臨床サンプルならびに緩衝液は、導電率の高いことに加えて、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)およびクロライド(Cl−)の濃度が比較的高い。こうした結果から、強固とは言い難い金スパッタ電極を使用する古典的なDEPが、低い導電率条件でしか行うことができない(参考文献29、30)、すなわち、電極が数秒で破損される恐れがある理由がすぐに明らかになる。
【0035】
ヒドロゲル被覆白金微小電極を用いれば、高導電率条件でナノ粒子を確かに分離することができるが、それでもヒドロゲル被覆白金微小電極は以下の理由から依然としてどのような実用的な用途にも適していない。第1に無秩序な泡立ちが顕著になり、電極が故障すれば、血液を用いたどの種のサンプルの応答分子診断に対しても装置自体が信頼できないものになる。軟膜および全血からナノ粒子の分離を行う別の実験では、泡立ち、電極の黒ずみおよび電極の故障が観察された。ナノ粒子が高電場領域に単離され得ても、ナノ粒子を流体の洗浄により取り出すことは困難であったことから、不都合な加熱によりナノ粒子がアレイ表面に融合していた可能性があることが示唆される。第2に、生物学的サンプルの分離、およびその後の分子解析(たとえばPCR、イムノアッセイなど)では、こうした加熱および強い電気化学反応が細胞、DNA、タンパク質および他のほとんどの分析物に激しい損傷を与えると考えられる。第3に、分離効率を向上させる(濃縮される分析物の総量を増やす)には、DEP時間を長くする必要があり、これがさらに多くの悪影響を引き起こすと考えられる。第4に、高いAC電圧(たとえば20ボルト、最大振幅)を用いて濃縮速度を上げた場合、これも、さらに強い泡立ちおよび電気化学作用を引き起こすことになるであろう。今回、このような古典的なDEP装置および導電率の限界の根底にある理由が発見されたことで、これまでよりもうまく働くDEPサンプル調製装置、および新規のシームレスなサンプルの応答診断システムを開発する機会がもたらされた。こうした新規のDEP装置を用いれば、希少な細胞、ナノ粒子および種々の重要な疾患バイオマーカーを血液、血漿、血清および他のほとんどの生物学的サンプルならびに緩衝液中で直接単離、濃縮および検出することができる。
【0036】
本記述は次に、複雑なサンプル調製を行うのに使用できる本発明の新規の装置と共に、特定の分析物の分離および濃縮、さらにその後の分子診断解析および検出に結び付く連続および/またはパルス動電/誘電泳動(DEP)力、連続および/またはパルスDC電気泳動力、装置上(アレイ上)の微小電気泳動サイズ分離、および流体の制御(外部からのポンピングおよび/またはDC/AC動電による)の組み合わせを開示する。これには、以下に限定されるものではないが、(1)蛍光抗体、非蛍光抗体、抗体誘導体化ナノ粒子、抗体誘導体化ミクロスフェア、抗体誘導体化表面(DEP装置上の特定の場所)、ビオチン/ストレパビジンおよび様々なレクチンを含む免疫化学およびリガンド結合法を用いた標識分析物のDEPによる分離および検出、ならびに/またはDEPによる分離後の非標識分析物のその後の検出;(2)特定の細胞、細菌、ウイルス、DNA、RNA、核、膜、細胞オルガネラおよび細胞ナノ微粒子を検出するため、一般的および/または特異的染色物、蛍光色素、蛍光ナノ粒子、量子ドットをDEP前またはDEP後に使用すること(DEPは本質的に「標識を用いない」手法であり、その交差周波数により細胞、ナノ粒子および他の分析物を同定することができることを念頭に置くことが重要である。標識については、検出感度を向上させ、個々の物質を同定し、より詳細な解析を行うために使用される);および(3)蛍光プローブin−situハイブリダイゼーション(FISHなど)による細胞、核、DNAおよびRNAの事後分析(post analysis);および(4)以下に限定されるものではないが、PCR、RCA、SDAならびに他のジェノタイピング、シーケンシングおよび遺伝子発現技法(どの技法もDEPによる分離が起こる同一チャンバー区画で行うことができる)など細胞、核、DNAおよびRNAのよく知られた分子解析方法の使用を含めることができる。
【0037】
上記の例は、装置の別のもう1つのチャンバーでその後の解析を行ったり、またはサンプルの装置以外での解析、保管または記録保存のため分析物をサンプル収集チューブに移動させたりすることを除外するものではない。さらに、解析のために使用してもよい他の種類の検出法として、以下に限定されるものではないが、放射性同位元素法、比色分析法、化学発光法、電気化学法、または分析物、生体分子および細胞が単離されたならば、これらのバイオセンシングまたはナノセンシングを行うための他の方法が挙げられる。本明細書に記載の装置および工程は、無希釈の血液または他の複雑な臨床または生物学的サンプルと一緒に直接使用してもよい完全に「シームレスな」サンプルの応答診断システムと考えるとができる。本明細書に例示するDEP装置を用いたシームレスなサンプルの応答法については、以下でさらに詳述する。
【0038】
図27は、血液サンプルを装置に直接導入し、この場合は、非常に低濃度の高分子量(hmw)DNAおよび/またはRNAを、DEPを用いて無希釈の全血サンプルから分離するシームレスなサンプルの応答診断の第1のステップを示す。ただし、以下に限定されるものではないが、希少な細胞、ナノ粒子、細胞ナノ微粒子、抗体、免疫複合体、タンパク質およびRNAなど、ほとんどどのような分析物でも分離、濃縮および検出することができ、サンプルとしては、以下に限定されるものではないが、血漿、血清、尿および唾液を挙げることができる点に留意されたい。
【0039】
次に図28は、血液細胞(赤および白)を負の(DEP)低電場領域に移動させ、高分子量DNA(RNA)を正の(DEP)高電場領域に濃縮させる適切なAC周波数および電圧でDEP電界を印加するサンプルの応答診断工程の第2のステップを示す(図では、ドーム構造がDEPの高電界強度領域を表す)。
【0040】
図29は、単純な流体の洗浄により血液細胞をDEPアレイ装置から除去し、一方、高分子量DNA(RNA)はDEPの高電場領域に高度に濃縮された状態のままである第3のステップを示す。より大きなサンプル量を処理するため、さらに高導電率溶液中の比較的低いAC低周波数(<20kHz)、高電圧(>20ボルト pt−pt)で顕著になる加熱を抑える機構として、DEP装置全体に連続的、パルスまたは間欠的な流体の流れを使用することは本開示の範囲内である。
【0041】
図30は、DNA(RNA)特異的蛍光色素(たとえばサイバーグリーン、OliGreen、エチズイムブロミド、TOTO、YOYO、アクリジンオレンジなど)を加えてDNA(RNA)のin−situ標識を行うこの工程の次のステップを示す。この工程では、DEP装置全体に適切な蛍光色素の溶液をフラッシュして、DNAまたはRNAを染色する。DNA/RNAについては、染色が進行している間、DEP電界を維持してそのままの状態に保てばよい。ここで、落射蛍光検出システムを用いて蛍光染色DNA/RNAを検出および定量することができる(図31)。マイクロアレイ装置の解析を行う蛍光検出システムおよび装置は、分子生物学および臨床診断の技術分野において公知であり、種々のシステムが市販されている。
【0042】
以下に限定されるものではないが、(1)PCR、分子ビーコンを用いたリアルタイムPCR、RCAおよびSDAなど、他の分子解析検出方法および技術を使用すること;(2)後で蛍光レポータープローブを用いて解析/検出を行うため、DEPによる分離工程において、サンプルDNA/RNAをハイブリダイズして、DEP装置の特定の場所に固定化したプローブ(DNA、RNA、pNAなど)を捕捉すること;(3)後で蛍光レポータープローブを用いて解析/検出を行うため、DEP濃縮場所からDNA/RNAを遊離し、これをPCR、RT−PCR、RCAまたはSDAを用いて増幅し、変性させてから、部位選択的DC電気泳動を用いてその単位複製配列を再びハイブリダイズしてDEP装置に固定化したプローブを捕捉すること;(4)配列特異的DNA/RNA/pNAプローブを用いて蛍光in−situハイブリダイゼーションを使用すること;(5)DNA/RNAを遊離し、DEPあるいは電気泳動(DC電場)的に装置上の別の特定の位置に移動させること;および(6)より詳しい解析または保管を目的としてDNA/RNAを遊離し、(流体により)装置の別のチャンバーまたはサンプル収集チューブに移動させることは、本開示の範囲内である。
【0043】
図32は、サンプルの応答装置を用いて、希少な細胞、細菌、ウイルス、細胞ナノ微粒子またはCNP(細胞膜、核、高分子量DNA、高分子量RNA、液胞、小胞体、ミトコンドリアなど)、タンパク質、抗体複合体および他のバイオマーカーを、より高度に多重化されたDEPにより全血からどのように分離できるかを示す。次に図33は、装置に濃縮されている特定の分析物の同定に使用することができる分子解析方法を示す。こうした方法として、以下に限定されるものではないが、蛍光染色、蛍光イムノアッセイ、FISHおよびPCR、RCAおよびSDA法が挙げられる。最後に、図34は、よく知られた蛍光法および他の検出法を用いた細胞、細菌、ウイルス、CNPおよび抗体複合体の最終的な検出を示す。
【0044】
本開示はさらに、本明細書に記載のサンプルの応答装置およびシステムの分析および診断能力を向上させるために使用できる独自の方法について記載する。DNAおよびRNAの単離および検出の場合、DEPを用いて高分子量DNA/RNAは効率的に単離および濃縮できるのに対し、より低分子量のDNAおよびRNA(<10kb)については、DEPによる単離が難しくなる。この場合、二本鎖(ds)DNA特異的抗体および一本鎖(ss)DNA特異的抗体が利用可能であり、これを用いてより低分子量のDNAおよびRNAを標識し、より大きなナノ構造体(>5nm)を作製する。こうしたより大きなDNA−抗体複合体は、DEPによってより効率的に単離および濃縮することができる。
【0045】
また、本明細書に記載の装置を用いれば、種々の新規の抗体検査が可能になる。より具体的には、比較的大きな抗体複合体から単一抗体を分離する能力がDEPにあれば、臨床サンプルから比較的大きな抗体−抗原複合体の形成をDEPにより分離できる多くの1抗体および2抗体アッセイを開発することができるということである。この場合、蛍光抗体および/または二次抗体をサンプルに直接加えてもよく、DEPを印加すると、蛍光標識した抗体−抗原複合体だけがDEPの高電場領域に濃縮され、その後検出されることになる。こうしたDEPを用いた抗体アッセイは、以下に限定されるものではないが、薬剤、ホルモン、代謝産物およびペプチドなどの小分子抗原;さらには以下に限定されるものではないが、タンパク質、酵素および他の抗体などのより大きな抗原に使用してもよい。また、抗体、ビオチン/ストレプトアビジン、レクチン、タンパク質、酵素、ペプチド、デンドリマー、アパタマー、量子ドット、蛍光ナノ粒子、カーボンナノチューブ、ならびに選択的標識および検出目的で設計された他のナノ物質と結合する選択的リガンドを用いて、以下に限定されるものではないが、細菌、ウイルス、バクテリオファージ、ナノ粒子、CNPの検出を行うなど、比較的大きな複合体の形成に基づく、他の多くの類似したDEPによるアッセイを可能にすることも本記述の範囲内である。最後に、DNA/RNA/pNA捕捉プローブをDEP装置に装着または固定化するだけでなく、以下に限定されるものではないが、抗体、ビオチン/ストレプトアビジン、レクチン、タンパク質、酵素、ペプチド、デンドリマーおよびアパタマーなど他の種々の結合物質をDEP装置に装着させてもよい。こうした固定化リガンドによりDEP電界を停止した後も分析物はDEP装置に選択的に結合した状態にある。
【0046】
本明細書に記載の今回の新規のDEP装置は、通常であれば、固定化に使用される大部分の生体分子(たとえばDNA、RNA、抗体、タンパク質など)、さらに検出および解析のためDEPにより装置上の特定の高電場領域に単離および濃縮される分析物およびバイオマーカーを損傷または破損する不都合な泡立ち、加熱および電気化学作用をなくすか、または大幅に抑制することにより上述のすべての方法を可能にすることに注目されたい。
【0047】
本明細書はまず、電極が別々のチャンバーに配置され、内部のサンプルチャンバー内に孔または穴構造体を介してAC DEP電界を通過させることにより正のDEP領域および負のDEP領域が形成される新規の動電学的DEP装置およびシステムをより詳細に開示する。サンプルチャンバーで細胞、ナノ粒子およびバイオマーカーを移動させるため、様々な幾何形状を用いて所望の正のDEP(高電界)領域および負のDEP(低電界)領域を形成してもよい。こうした孔または穴構造体は、多孔性材料(アガロースまたはポリアクリラミイドヒドロゲル)が充填されていてもよいし、または多孔性の膜状構造(ペーパー、セルロース、ナイロンなど)で被覆されていてもよい。こうした多孔性膜に積層された構造体は厚さが1ミクロンから1ミリメートルであってもよいが、一層好ましくは10ミクロンから100ミクロンであり、細孔サイズは1ナノメートルから100ミクロンであるが、一層好ましくは10ナノメートルから1ミクロンである。電極を別々のチャンバーに分離することで、こうした独自のDEP装置では、どのような電気化学作用、加熱または無秩序な流体の移動も、DEP工程において内側の分離チャンバー内で起こる分析物の分離に影響を与えることは基本的にない。こうしたチャンバー装置は、非常に高いAC電圧(>100ボルト 最大振幅)で作動させもよく、DEPだけでなく、サンプルチャンバー内でDC電気泳動による移動および電気泳動法を行うのに使用することもできる。一般に、こうした装置およびシステムは、AC周波数範囲1000Hz〜100mHz、1ボルトから2000ボルト 最大振幅までの幅があってもよい電圧、DC電圧1ボルト〜1000ボルト、流量10マイクロリットル/分から10ミリリットル/分、温度範囲1℃〜100℃で作動可能である。図1および図2にチャンバー装置を示す。こうした装置は、種々の孔および/または穴構造(ナノスケール、マイクロスケール、さらにはマクロスケール)を用いて作製してもよく、細胞、ナノ粒子または他の物質が内側のチャンバーに拡散または移動するのを制御、制限または防止できる膜、ゲルまたは濾過材料を含んでも構わない。一方で、AC/DC電界、溶質分子、緩衝液および他の小分子はチャンバーを通過することができる。
【0048】
図1および図2は、本発明により構成することができるチャンバー装置の最も基本的な形態である。本発明による装置では種々の構成が想定される。こうした装置としては、多重電極およびチャンバー装置、再構成可能な電界パターンを作製できる装置、DC電気泳動法と流体法とを組み合わせた装置;サンプル調製装置、その後の検出および解析を含むサンプル調製および診断装置、ラボオンチップ装置、ポイントオブケアおよび他の臨床診断システムまたは形態があるが、これに限定されるものではない。図1は、本明細書の本教示によるサンプル処理装置の模式図であり、装置100がハウジング106内に複数の電極102と電極を含むチャンバー104とを含むことを示す。装置のコントローラ108は、本明細書に詳述されるように電極102を独立に制御する。
【0049】
図2は、各々が少なくとも1枚の強固な白金電極を備える6つの電極チャンバー104と共に図示した装置100の上面図を示す。図2は、中心に主要な分離チャンバー110を1つ形成した装置を示し、分離チャンバー110にはヒドロ−ゲルが充填された様々なサイズの18個の孔/穴構造体112が配置される(内側のチャンバーは孔または穴を被覆する多孔性膜を有していてもよい)。孔/穴構造体は、3群の6つの孔/穴構造体で構成される。分離チャンバー110の上方部は物理的に隔てられていないのに対し、下方部分は9つの区画(明るい破線(light dashed line)で示す)に分けられている。こうした区画は各々、電極チャンバーと流体接触しているが、相互には接触していない。AC DEP電界を電極に印加すると、電界が孔112を通過し、細孔構造体の上に正のDEPの高電場領域が、細孔構造体の間に負のDEPの低電場領域が形成される。サンプルは、入口220および出口222を介して装置に添加し、装置から取り出すことができる。装置は別の入口224および出口226を含んでいてもよい。図1および図2に示す装置は、高導電率DEPチャンバー装置の一形態に過ぎない。多数の孔/穴および様々な幾何形状を持つ多くの異なる種類の装置を作製してもよいことを理解すべきである。
【0050】
別の装置の実施形態は、電流型動電および誘電泳動分離装置(current electrokinetic and dielectrophoretic separation devices)で問題となる電気化学作用および加熱を抑制できる規定の直径および離隔距離を持つ強固な電極の電極アレイを使用することを含む。強固な電極(たとえば白金、パラジウムおよび金)を適切に組み立てて被覆すれば、分離工程での電気化学反応生成物の悪影響を抑制し、非常に高い電圧を印加できるため、分離時間を大きく改善することが可能である。さらに、電流装置は比較的処理量が小さいが、本明細書に記載のこの実施形態はあるシステムを設けることでこの問題を解決した。このシステムは多重並列部アレイを使用し、装置を1つの大きな分離ゾーンとして用い、次いで個別制御される分離ゾーンに切り換えることで、システム全体の感度および選択性を向上することができる。他の従来のシステムで見られる第3の問題は、サイズおよび組成が比較的類似したサンプル成分を分離できないことである。この問題は、本明細書の記述に従ってDEPアレイ装置自体で微小電気泳動など第2の分離工程を直接行うことができる装置を提供することで解決される。
【0051】
負の誘電泳動(DEP)力は、正のDEP力よりも比較的弱く、したがって負のDEPを受ける物質は流体により移動し得るのに対し、正のDEPを受ける物質はそのままとどまることになる。ここに記載される実施形態では、流体力とDC電気泳動力とを逆方向に使用することで、血液および他のサンプル中のDNAフラグメントおよび電荷が大きいDNAナノ微粒子を細胞およびタンパク質から分離することができる。このように複数のAC周波数、パルスDC電気泳動および微小電気泳動を用いれば、DNAナノ微粒子およびDNAフラグメントのより完全なサイズ分離を達成することができる。
【0052】
このように高導電率条件(血液、血漿、血清など)下でDEPを行えるようになった新規のシステムおよび装置の商業用途には現在、ポイントオブケア診断、治療剤および薬物モニタリング、環境および給水モニタリング、ならびにバイオテロ病原体検出などの多くの研究および臨床診断用途が挙げられよう。こうしたシステムを用いれば、希少な細胞(癌細胞、胎児細胞、造血幹細胞)、細菌、ウイルス、DNA/RNAおよびDNAナノ粒子バイオマーカー、薬物送達ナノベシクル、さらには正常または異常タンパク質などの多くの分析物および物質を検出することができる。
【0053】
実験用AC DEPおよびDC電気泳動分離システム(以下の実施例のセクションで詳述する実験室内卓上型)を構築して、この新規のプロトタイプ装置を改良するための実験を行った。こうした(上述した)装置から得られる結果は、古典的なDEPがなぜ低い導電率溶液に限定されてきたかの重要な発見に結び付く。
【0054】
今回の新規の装置は、強固な白金の平面並列電極アレイを使用する。この電極は直径がほぼ約1〜1000ミクロン、離隔距離が10〜5000ミクロンで、5〜100ミクロン厚のヒドロゲル(アガロース、ポリアシルアミド)または多孔性膜層で被覆されている。この新規の装置では、電界線の密度が他の従来の古典的DEPシステムほど高くなく、さらにここで重要なのはDEPの高電界の蓄積領域が実際の電極表面から実質的にやや距離があるため、加熱および電気化学の問題が抑えられる。従来の電極設計と大きく異なる点の1つは、特に電界強度が比較的高く、溶液導電率が高いときに電気化学反応により劣化および破損しやすい白金または金スパッタ電極を使用しないことである。新規の装置の電極は、ワイヤーまたはロッドを含め純白金または純金材料で構成される。第2の相違は、1つの大きな分離の問題を、非常に制御しやすくなった、いくつにも分かれている分離の問題に切り換えることで、百万に及ぶ比較的類似した物質(細胞、ナノ粒子、バイオマーカー)から1種類の物質だけを単離するように分離効率を高められることである。本明細書に記載の装置はこれを、区切りを設けた多重アレイを使用し、並行して行われる制御された選別工程により達成する。これを実現するには、アレイ装置全体に複雑な生物学的サンプル(血液)を分布させ、その成分をより小さな分離部(領域)に分離して、所望の分析物または物質を分離および単離できる大型アレイ装置内で、10〜100またはそれ以上の電極の、個々に制御されるアレイのサブセットを使用する。複雑なサンプルの分離の問題をより小さな部分に分割することは、感度と特異性の問題を解決するのに最も有望である。すなわち、この方法により、サンプル全体の迅速かつ高度なスループットが可能になるだけでなく、サンプル中の固有の細胞または他の物質を単離および同定する調査(分離)時間を相対的に長くすることもできる。最後に、最後の問題は、多次元階層(multi−dimensional hierarchical)選別装置を作製することで解決できる。この解決法は、負のDEPは正のDEPよりも力が弱く、負のDEPを受ける細胞または他の物質は流体の制御により移動させることできるのに対し、正のDEPを受ける分析物または物質の方はDEPの高電界領域に濃縮されたままであるということを利用する。流体の制御およびパルスDC電気泳動を逆方向に使用することで、複雑な生物学的サンプル中のDNA/RNAおよび荷電したナノ微粒子を細胞およびタンパク質から分離することができる(これは、細胞およびDNAを分離するDEPの本質的な能力に付加したものである)。
【0055】
流体の制御およびパルスDC電気泳動と、複数のAC周波数、すなわち最初の電極アレイのサブセットにCNPおよび高分子量DNA/RNAナノ微粒子を捕集するための低周波、および他の電極アレイのサブセットに細胞、徐々に大きくなる粒子(細菌およびウイルス)を捕集するためのより高いAC周波数の使用とを組み合わせると、ほとんどの細胞および物質をサイズ別に完全に分離することができる。電極については、必要に応じて、より微細な分離が局所的に行えるように、サイズ分離全体を全体として維持しながら異なる周波数に切り換えてもよい。
【0056】
強固な白金平面電極アレイ構造体および補助電極を含む装置であって、そこに複雑な生物学的サンプル(血液、血漿、血清)を直接導入すると、1つまたは複数のファンクションジェネレータからの制御されたAC信号により誘電泳動力が発生し、制御されたDC電源により電気泳動力が発生する装置を含む分離システムについて記載する。また、装置の入口および出口はこのシステムを介して、制御された流量で流体(水、緩衝液など)の通過を制御できる。さらにこのシステムは、装置上で起こっている分離工程(目視および蛍光)のモニタリング、検出、定量および記録を行う光学/落射蛍光顕微鏡およびデジタルカメラも含む。この装置は、最終的には動電効果、誘電泳動力、電気泳動力、微小電気泳動および流体を制御することで可能になる多重化並列階層選別システム(multiplexing,parallel hierarchical sorting system)である。こうした新規の多重サンプルの応答工程は、従来の装置に見られる不都合な泡立ち、加熱および電気化学作用が新規のDEP装置によりなくなるか、または大幅に抑制されることで可能になることに留意されたい。
【0057】
図3に示す装置は、サンプル流体が流動できるハウジング302を備えた平面白金電極アレイ装置300の一形態に過ぎない。装置を通る流体パターンは、大きな矢印で示しており、図の上端の入口端部304から下部の出口端部306および側方の分析物出口308への理想的サンプルの流れを表す。装置は複数のAC電極310を含む。例図を簡潔にするため、図3に示す電極310はごく一部に過ぎないが、図面の小さい白丸はそれぞれ構成が類似した電極を表すことを理解すべきである。拡大した3×3電極アレイ312の1つを、装置300内のサンプル流体を示すため図面の右側に図示する。このサンプルは、ミクロンサイズの物質または細胞314(拡大図に示す一番大きな黒塗りの丸)、比較的大きいナノ微粒子316(中間サイズの黒塗りの丸)および比較的小さいナノ微粒子または生体分子318(一番小さいサイズの丸)の組み合わせからなる。比較的大きいナノ微粒子316は、サンプル中に分散する高分子量DNA、ヌクレオソームまたはCNPもしくは細胞残屑を表す場合がある。比較的小さいナノ微粒子318は、タンパク質、比較的小さいDNA、RNAおよび細胞断片を表す場合がある。図の平面電極アレイ装置300は60×20電極アレイであり、3つの20×20アレイに区切ることができ、アレイは別々に制御できる一方、同時に作動させることも可能である。電気泳動のため、図の上部にある補助DC電極320は正電荷に切り換えることができ、図の底部にあるDC電極322は負電荷に切り換えることができる。制御されたACおよびDCシステムは各々、連続および/またはパルスの形で使用することができる(たとえば比較的短い時間間隔でそれぞれパルスをオンオフすることができる)。サンプルの流れの側面に沿った平面電極アレイ324は、ナノポーラス材料で積層されている場合、DC電気泳動力およびAC DEPを発生させるのに使用することができる。加えて、アレイおよび/または補助電極の平面電極を用いれば、ナノポア層内においてx−y−z次元で微小電気泳動の分離工程を行うこともできる。一般にこうした装置およびシステムは、AC周波数範囲1000Hz〜100mHz、1ボルトから2000ボルト pt−ptまでの幅があってもよい電圧、DC電圧1ボルト〜1000ボルト、流量10マイクロリットル/分から10ミリリットル/分、温度範囲1℃〜100℃で作動可能である。コントローラ108(図1)は、電極310、320、322、324をそれぞれ独立に制御する。コントローラは、ソケットおよびプラグ接続(図示せず)などにより装置100に外部接続されていてもよいし、または装置ハウジングに組み込んでもよい。電極の導電線は、図を簡潔にするため図面に示していない。
【0058】
サンプル中の細胞および粒子ならびに他の物質は、拡大した3×3電極部312にしか図示されていないが、電極アレイ全体に均一に分布すると考えられる。流体の流量は、比較的大きい粒子が受ける負のDEPより強いが、比較的大きい粒子が受ける正のDEPよりも弱い力を示すような流量である。
【0059】
図4は、パルスがオンオフ(1秒間隔でオンオフ)される上部DC電極320および底部DC電極322を示す。これらの電極によりDNA、RNAおよび小型ナノ微粒子を図面の上部にある正のDC電極320へと押しやる電気泳動の短いパルスが与えられる。60×20電極アレイは、独立に制御される3種類の部分すなわちサブアレイに分けられるものとして表示してある。上部20列のAC電極アレイ402は、比較的低い周波数の正のDEPおよびAC動電現象により通常電極の方に移動する比較的小さい物質がその電極に捕集され、同時にこうした周波数で比較的大きい細胞および物質が負のDEPを受けることで一定の流体により装置の低部に移動するように比較的低周波のAC電場に調整される。AC電極の中央20列404は、ミクロンサイズの粒子および細胞を流す一方で、大きなサブミクロン粒子(たとえばウイルス)を保持する。最後に、AC電極の最後の20列406は、必要に応じて、所望の細胞およびミクロンサイズの粒子の捕捉に使用できる高いAC周波数に調整することができる。
【0060】
図5は、「百万個の細胞中の1個の細胞」単離する、すなわち希少な細胞を検出するための分離機構を示す。完全な電極アレイを用いることで、分離の問題を多重並列化して簡素化することができる。これは、分離を改善するのに必要なだけの電極アレイを作動させさえすれば実現することができる。全細胞が均一に分布しているならば、光学検出(すなわち落射蛍光)により解析できる特定の分離領域にアレイを効率的に分割することで、正のDEPを受けているある特定の細胞をその周囲の全細胞から分離することが可能になるはずである。図5では、中間サイズの黒塗りの丸502がリンパ球、赤血球および同種のものなど、ある特定の1種の10μmの細胞を表し、AC電極の第3の部406のAC電極506上に1つだけある黒塗りの丸504は、サンプル中の他の502と異なる種類の唯一の「百万個の細胞中の1個の細胞」を表す。この細胞は、正の誘電泳動を受けるため、他の細胞と区別しやすい唯一の細胞でもある。誘電泳動を使用するだけでも、唯一の「百万個の細胞中の1個の細胞」である504細胞型を、区別されていない502細胞型から分離できるはずである。これについては、分離の問題を、より分離および解析しやすい小型のまとまりに分散させるのに十分な数のAC電極があれば、さらに実現しやすくなる。細胞型の分離の問題がこうした形で分散されるならば、図5に示す3×3アレイなど特定の電極アレイ部を1回解析するだけで、目的の唯一の粒子504の発見が可能になるはずである。また、選択性および効率性を高めた細胞の分離(たとえば癌および幹細胞の分離)を行うには、温度制御が有効である場合がある。
【0061】
図6は、パルスAC DEP/DC電気泳動/制御された流体の流れの組み合わせを施す前の血液サンプル分離工程のより詳細な模式図を示す。図6の図は、血液などの複雑なサンプル中で認められるであろうと推定される様々な診断用およびバイオマーカー物質の一部を示す。そうした物質として、赤血球および白血球、細菌、ウイルス、ナノベシクル、DNA/RNAナノ微粒子、DNAおよびRNAフラグメントの組み合わせ、ならびにタンパク質を挙げることができる。図6図はさらに、中間密度のナノポア層604、低密度のナノポア層606、およびAC電極310の真上にある高密度のナノポア層608で覆われた平面白金アレイ電極310も示す。
【0062】
図7は、パルスAC DEP/DC電気泳動/制御された流体の流れの組み合わせの最初の段階における血液サンプルを示す。図7では、アレイ装置300全体を利用して、様々なクラスの物質を各電極サブアレイ部402、404、406(それぞれ上方、中央、下部)に濃縮し始める全体的な分離工程が行われる。
【0063】
次に図8は、パルスAC DEP、DC電気泳動および制御された流体の流れの組み合わせの最終段階における血液サンプルを示す。図8では、様々な物質がそのしかるべき電極アレイ部402、404、406に濃縮されている。この例では、DNAナノ微粒子および比較的小さいDNAフラグメントを上方のアレイ部402に、細菌、ウイルスおよびナノベシクルを中央のアレイ部404に、細胞およびタンパク質を下方のアレイ部408に示してある。
【0064】
図9は、上方のアレイ部402においてパルスAC DEPおよびDC電気泳動により、蛍光染色したDNAナノ微粒子、非常に高分子量のDNA、および中〜比較的低分子量のDNAの選択および分離が行われるAC電極アレイの拡大図を示す。このときこれらの物質は上方のアレイ部において濃縮および単離されているため、適当なDNA蛍光色素試薬による選択的な染色が可能になり、ここで第2の分離工程を行うことができる。
【0065】
図10は、上方のアレイ部402においてパルスAC DEPおよびDC電気泳動の組み合わせにより、蛍光染色したDNAナノ微粒子、非常に高分子量のDNA、および中〜比較的低分子量のDNAの最初の選択および分離が行われるAC電極アレイの拡大図を示す。この最初の工程では、DNAナノ微粒子が、この非常に大きなDNA物質を通さない細孔サイズを持つ中間のナノポア層の上部に濃縮され始める一方、より中分子量および低分子量のDNAフラグメントはより低密度のナノポア層に移動される。
【0066】
図11は、上方のアレイ部402においてパルスAC DEPおよびDC電気泳動の組み合わせにより、蛍光染色したDNAナノ微粒子、非常に高分子量のDNA、および中から比較的低分子量のDNAの最終的な選択および微小電気泳動による分離が行われるAC電極アレイの拡大図を示す。装置300の作動のこの時点で、DNAナノ微粒子および非常に高分子量のDNAは中間密度のナノポア層604の上部に十分に濃縮および単離され、より中分子量および低分子量のDNAフラグメントは内部の低密度ナノポア層606内に濃縮される。
【0067】
図12は、DNAナノ微粒子および非常に高分子量のDNAの除去後に中および低分子量のDNAフラグメントがアレイ上でDC電気泳動によりサイズ分離されるAC電極アレイ402の拡大図を示す。DNAナノ微粒子および非常に高分子量のDNAは装置300の別の部分でさらに解析されるのに対し、より中分子量および低分子量のDNAフラグメントは、ナノポア層604、606、608内の微小電気泳動によりサイズ分離することができる。図12は、AC電極310aの中に正に荷電しているものもあれば、負に荷電しているAC電極310bもあることを示す。
【0068】
図13は、装置300の下方のアレイ部406上で最初のパルスAC DEPが赤血球および白血球に印加されるAC電極アレイの拡大図を示す。この工程では、サンプル中のタンパク質を装置の別の要素上で除去および/または解析しながら、下方のアレイ部406上でAC DEPにより細胞および他のミクロンサイズの物質をさらに分離し区別することができる。
【0069】
図14は、装置300の下方のアレイ部406上で最終のパルスAC DEPが赤血球および白血球に印加される電極アレイの拡大図を示す。装置の作動のこの時点で、赤血球および白血球はDEPの高電場および低電場領域に分離されており、その後赤血球は除去し、白血球はさらに区別することができる。すなわち、癌細胞を単離する工程を開始することができる。
【0070】
図15は、装置300の中央のアレイ部404上で最初のパルスAC DEPにより細菌、ウイルスおよびナノベシクルが分離されるAC電極アレイの拡大図を示す。図15の図は、独立に制御できるアレイ装置300の小区画部が重要な追加の分離工程を行うのにどのように使用し得るかを示す例である。
【0071】
図16は、装置300の中央のアレイ部404において最終のパルスAC DEPにより細菌、ウイルスおよびナノベシクルが分離される電極アレイの拡大図を示す。この場合も、この中央のアレイ部上での分離工程が、アレイの他の小区画部上で行われる、これ以外の分離工程と同時に、かつ独立に実施できる点に注目すべきである。たとえば上方のアレイ部上ではDNAフラグメントの分離を行うことができ、同時に他の(下部)アレイ部上では細胞の分離を行うこともできる。
【0072】
最後に、並列多重電極アレイは細胞の階層的選別と併用して、電極の列内に規定の領域を作製することができ、サイズは類似しているが、誘電特性が異なる特定の粒子を捕集することができる。種々の診断および治療用途において動電、誘電泳動、電気泳動および流体の力および効果をすべて相互に併用すれば、装置における分離の感度および効率を向上させることができる。最も重要なのは、こうした高性能で臨床的に有用な分離工程が実現されるのは、動電、電気泳動および流体の力および効果が、適切な規模に設計され、制御された電極アレイ装置上で独自に組み合わされる場合に限られることである。損失がなく(lossless)、標識しない場合がある(potentially label less)並列分離法である誘電泳動は、この種の分離だけでなく、様々な用途に使用される細胞およびナノ粒子の分離の水準をさらに大きく改善するため、非常に多くのサンプル調製を必要とするだけでなく、サンプルの損失がより大きいフィールドフローフラクション、蛍光励起細胞分取(FACS)または磁気による細胞分離などの従来型に近い分離法と併用してもよい。
【0073】
図示した実施形態の他の態様については、標識(光学蛍光、発光、電気化学、磁気など)を分離対象の細胞、ナノ粒子およびバイオマーカーに加えると、標識が物質のサイズ、伝導度および検出性に作用するため、本明細書に記載の多重化は一層効率的になると考えられる点を指摘しておきたい。
【0074】
現時点では、上述のDEPによる分離機構は初期の実施例データ段階にある。細胞、ナノ粒子および高分子量DNAなどの生物材料を加えて分離を行う上記のような電極アレイ構造を用いて、プロトタイプシステムを構築した。この場合、アレイ構造内の電極のサブセットは、デスクトップまたはワークステーションコンピューターなどの従来のコンピューター上で実行可能な好適なソフトウェアプログラミングの制御下で作動するファンクションジェネレータにより選択的に電圧が加えられる。この器具を用いれば、個々の電極を制御することができる。このプロトタイプシステムは、分離実験のモニタリングおよび記録に関連する落射蛍光顕微鏡を備える(追加説明のための以下の実施例のセクションを参照)。
【0075】
種々の分離および単離の用途としては、血液、他の体液または任意の緩衝液から、たとえば造血前駆細胞などの成体幹細胞を単離するための希少な細胞の検出;癌検出および他の診断を目的とした血液、他の体液または他の緩衝液中の細胞と、タンパク質と、DNA/RNAフラグメントとの粗分離(gross separation);研究、診断および治療を目的とした血液、他の体液または他の緩衝液からの癌細胞の単離が挙げられる。また、環境モニタリングのための、さらに病原体およびバイオテロ病原体の迅速な検出のための使用も想定される。最後に、本発明に記載のシステム、装置および技法は、薬剤ナノ粒子およびナノベシクル以外にも、量子ドット、金属ナノ粒子、カーボンナノチューブ(CNT)、ナノワイヤー、さらにはミクロンおよびサブミクロンのCMOS装置および要素など、種々の非生物学的物質の分離、単離および精製にも使用し得ることが想定される。図示した実施形態においては、基本的に水性または混合溶媒系に懸濁または可溶化できるどのような巨大分子またはナノ要素も、本明細書に記載の技法を用いて処理することができる。また、我々は現在、こうした新規の装置により、DNAおよび他のバイオ誘導体化(bioderivatized)ナノ粒子、ナノ要素およびメソスケールの物体の誘導自己組織化を行うことができると考える。これは、診断剤、治療剤送達によるインビトロマイクロサージャリーを行うため、すなわち凝結塊およびプラークを除去し、アテローム性動脈を修復するため血流中に導入できる(同名の映画から着想を得た)高度に統合された細胞サイズの「ミクロ決死隊(Fantastic Voyage)」装置など、新規のDNAジェノタイピングおよびシーケンシング技術($1000ゲノム)およびナノ/マイクロバイオ/ケムセンサーへの応用;およびナノ電子、ナノ光学、光起電、燃料電池、バッテリー、ナノ材料および多くの他の異種材料集積(heterogeneous integration)への応用につながる可能性がある。
【0076】
本明細書に記載の装置および技法を用いれば、分離操作により、少なくとも1種の生物材料を電極の小区画部の1つに保持しながら、サンプル流体の残りを装置から洗浄して、試薬をサンプル処理装置に導入し、続いてサンプル処理装置内に保持された生物材料種と導入した試薬を反応させることで「サンプルの応答」の結果を得ることができる。上述のように、試薬は、蛍光色素、抗体、または同種のものを含んでもよい。このサンプルの応答法を用いれば、上記のようにPCR操作および同種のものなど種々の作業を行うことができる。
【0077】
本発明の理解を得られるように、現時点での好ましい実施形態によって本発明について上述してきた。しかしながら、装置、システムおよび分離機構には本明細書に具体的に記載してはいないものの、本発明に該当する多くの構成および配列順序がある。したがって、本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態に限定されるものとして見なすべきではなく、本発明がむしろ、生物学的分離システム全般に対して広い適用性を有することを理解すべきである。このため、添付の特許請求の範囲の範囲内にある改変、変更または等価な配列および実装はすべて、本発明の範囲内と見なすものとする。
【実施例】
【0078】
緩衝液および伝導度の測定
5倍濃縮トリス・ホウ酸・EDTA(TBE)緩衝溶液をUSB Corporation(USB、Cleveland、Ohio、USA)から入手し、脱イオンミリQ超純水(55nS/cm)を用いて0.01×TBE、0.1×TBEおよび1×TBEの濃度に希釈した。ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(1×PBS)溶液をInvitrogen(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)から入手し、ミリQ水を用いて0.1×PBSに希釈した。適切な伝導率標準液(conductivity standards)で調整した2セル(範囲:10〜2000μS)および4セル(範囲:1〜200mS)電極を用いてAccumet Research AR−50 Conductivityメーター(Fisher Scientific、Fair Lawn、NJ、USA)で伝導度の測定を行った。以下の緩衝液伝導度を測定した:0.01×TBE−18.1μS/cm;0.1×TBE−125μS/cm;1×TBE−1.09mS/cm;0.1×PBS−1.77mS/cm;および1×PBS−16.8mS/cm。
【0079】
粒子、ナノ粒子およびDNAの誘導体化
NeutrAvidinを表面被覆した蛍光ポリスチレンナノ粒子(FluoSpheres)をInvitrogen(Invitrogen、San Diego、CA、USA)から購入した。ナノ粒子の直径は0.04μm(40nm)および0.2μm(200nm)であった。40nmのポリスチレンナノ粒子は赤色蛍光(ex:585/em:605)であり、200nmのポリスチレンナノ粒子は黄色−緑色蛍光(ex:505/em:515)であった。より大きな10.14μmのカルボキシル化ポリスチレン粒子をBangs Labs(Bangs Labs、Fishers、IN、USA)から入手した。ビオチン化DNAオリゴヌクレオチド配列をTrilink Bio Technologies(Trilink、San Diego、CA、USA)から入手した。40nmのナノ粒子の誘導体化に使用した51merの一本鎖DNAオリゴヌクレオチドは配列が[5]’−ビオチン−TCA GGG CCT CAC CAC CTA CTT CAT CCA CGT TCA CTC AGG GCC TCA CCA CCT[3]’であった。使用した23merの第2の一本鎖DNAオリゴヌクレオチドは配列が[5]’−ビオチン−GTA CGG CTG TCA TCA CTT AGA CC[3]’であった。まず40nmのNeutrAvidinナノ粒子を様々な濃度のトリス・ホウ酸・EDTA(0.01×、0.1×、1×TBE)またはリン酸塩緩衝生理食塩水(0.1×、1×PBS)緩衝液に懸濁して、ビオチン化DNAオリゴヌクレオチドでこのナノ粒子の誘導体化を行った。この混合物に、51merのss−DNA配列に対して400:1(DNA:40nmのナノ粒子)の割合の量で、23merのss−DNA配列に対して6500:1(DNA:40nmのナノ粒子)の割合の量でss−DNAオリゴヌクレオチドを加えた。DNAを加えたら、この溶液を高速度で20秒間ボルテックスし、次いで約20分間反応させた。40nmのDNA誘導体化ナノ粒子の実験では、0.5μLの原液を299μLの適当な緩衝液に加えてDNAナノ粒子混合物を作製した。200nmのナノ粒子の実験では、0.5μLの原液を299μLの適当な緩衝液に加えた。最後に、このサンプルに10.14μmのポリスチレン粒子原液1μLを加え、次いでサンプルを約10秒間ゆっくりと混合した。これでサンプルをマイクロアレイカートリッジ装置に充填する準備が整った。
【0080】
DEP微小電極アレイ装置
本試験に使用した微小電極アレイ装置は、Nanogen(San Diego、CA、USA、NanoChip(登録商標)100Cartridge)から入手した。アレイの円形微小電極は直径が80μmで、白金製であった。このマイクロアレイは10μm厚の多孔性ポリアクリルアミドヒドロゲル層で被覆されている。マイクロアレイは、アレイ上にガラス窓で覆われた20μLのサンプルチャンバーを形成するマイクロ流体カートリッジに封入される。個々の微小電極の電気的接続部は、カートリッジの底部にピンで留められている(pinned out to)。9枚の微小電極の3×3サブセットだけを使用してDEPを行った。チェッカーボードアドレッシングパターン(checkerboard addressing pattern)内の9枚の微小電極に交流(AC)電界を印加した。このチェッカーボードアドレッシングパターンにおいて、各微小電極は最近接電極と反対のバイアスを持つ。このパターンによる形成される非対称な電界分布に対応するコンピューターモデルは、既に考察されている[27]。このモデルでは、正のDEP電界の最大値(高電場領域)が微小電極(上)に存在し、負のDEP電界の最小値(低電場領域)が電極間の領域に存在することが示される。一般に、低い導電率溶液におけるDEPの場合、60nmのDNAおよび200nmのナノ粒子は微小電極の正または高電場領域に濃縮されると予想され[28]、10ミクロン粒子は微小電極間の負または低電界DEP領域に濃縮される[29]。この以前のモデルの計算は、5×5微小電極セットを対象に行われた[27]。各実験の前に、マイクロアレイカートリッジを、200μLの適当な緩衝液で5分にわたり10回フラッシュする。カートリッジを5分間静置し、次いで200μLの緩衝液でさらに2回洗浄する。次いでナノ粒子混合物を含むサンプル溶液を合計150μLゆっくりとカートリッジに注入し、最終的に約20μLのサンプル量がカートリッジに残る。
【0081】
実験構成、測定、蛍光およびSEM解析
本マイクロアレイ装置は、100枚の各微小電極に印加される電圧を個々に制御できる特注の切り換えシステム(我々の実験室において設計および構成された)を用いて制御した。微小電極を、Agilent 33120A Arbitrary Function Generator(Agilent、Santa Clara、CA、USA)を用いて適切なAC周波数および電圧に設定した。AC周波数は、10ボルト 最大振幅で1000Hz〜10,000Hzの範囲であった。実験に使用した波形はすべて正弦波であった。実験は、適切な励起および発光フィルター(緑色蛍光Ex505nm、Em515nm;赤色蛍光Ex585nm、Em605nmを使用してJenaLumar落射蛍光顕微鏡(Zeiss、Jena、Germany)の10×PL Fluotar対物レンズで可視化した。バックライト画像および蛍光画像はどちらもOptronics 24−bit RGB CCDカメラ(Optronics、Goleta、CA、USA)を用いて撮像した。画像データは、Adobe Premiere Pro(Adobe Systems Inc、San Jose、CA、USA)あるいはWindows Movie Makerを用いてラップトップコンピューターに接続されたCanopus ADVC−55ビデオキャプチャカード(Canopus、San Jose、CA、USA)により処理した。最終の蛍光データは、0分時点、30秒時点、1分時点、2分時点、4分時点、8分時点、16分時点および20分時点にビデオの個々の蛍光画像フレームをMATLAB(Mathworks、Natick、MA、USA)に入力して解析した。グラフは、微小電極全体の蛍光強度値に関するMATLAB解析により得られたデータからExcelを用いて作成した。MATLABを用いて作成した。グラフの作成には以下のデータを使用した:σp(200nm)=18mS、σp(40nm+DNA)=50mS Ks=0.9nS、εp=2.55ε0。r=30nmおよびr=100nm。f=3kHz。DEP実験の終了後、FCOSマイクロアレイの表面からすべての流体を除去し、Phillips XL30走査型電子顕微鏡(SEM)で視覚化した。SEMを用いてマイクロアレイの表面上の最終的なナノ粒子層を画像化した。
【0082】
本記述に引用した参考文献は以下の通りである:
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27.U.S.Patent NQ.6,403,367,367 Bl,June 11,2002,Cheng et al.,Integrated Portable Biological System.24.
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年4月3日に出願された、「細胞、小胞、ナノ粒子およびバイオマーカーを分離および単離するためのエキソビボの多次元システム(Ex−Vivo Multi−Dimensional System for the Separation and Isolation of Cells,Vesicles,Nanoparticles and Biomarkers)」を発明の名称とする米国仮特許出願第61/042,228号明細書の利益を主張するものであり、その開示内容全体を参照によって本明細書に援用する。
【0002】
連邦政府により資金提供を受けた研究および開発に基づきなされた発明の権利に関する記載
本研究は、NIH Grant/Contract CA119335の支援を受けて実施した。米国政府はこの発明に一定の権利を有する場合がある。
【背景技術】
【0003】
生体分子の研究および臨床診断では、血液、血漿、血清、唾液および尿のような複雑な体液サンプル中から希少な細胞、細菌、ウイルスおよびバイオマーカー(たとえばDNA、RNA、抗体、他のタンパク質など)を分離すること、および同定することはどちらも重要であると同時に課題にもなっている。また、バイオナノテクノロジーの登場によって、数多のナノベシクルおよびナノ粒子内に薬剤および造影剤を封入する薬物送達法がもたらされた。こうした方法により、現在では血流中にとどまる残存ナノベシクルおよびナノ粒子を同定および分離することも重要になっている。血液のような複雑なサンプルから特定の細胞、ナノベシクルおよび生体分子のサンプルを調製および単離するには、種々の物理的、電気的および生物学的技法および機構を使用することができる。こうした技法および機構として、遠心分離、ゲル濾過、親和結合、DC電気泳動、ならびにラボオンチップ(lab−on−a−tip)、マイクロ流体デバイスおよびサンプルの応答(sample−to−answer)システムに組み込まれた様々な組み合わせが挙げられる。
【0004】
こうした従来の技法(または組み合わせ)の多くは工程に比較的時間がかかり、問題および限界がないわけでない。特に、希少な細胞(癌細胞、胎児細胞および幹細胞)、少数の細菌およびウイルス、または非常に少数の特定の抗体、タンパク質、酵素、DNAおよびRNA分子の単離については、依然として困難なままである。臨床診断の場合も、希少な細胞およびバイオマーカーの検出がサンプルサイズによって、すなわち、重症患者、高齢者および乳児から採取される血液が比較的少量にとどまる場合があることによって制限される場合がある。このため、非効率なものになるか、または原サンプルの高度な希釈が必要とされるサンプル調製工程は失敗するか、あるいは比較的低濃度の範囲での細胞および他の疾患関連マーカーの単離となり信頼できない場合が多い。これは、特に癌、残存病変、母体血中の胎児細胞/DNA/RNA、血液中の細菌およびウイルス(敗血症性感染)の早期検出、ならびに大量の空気中、水中または食料品の中の少数の病原体(たとえば細菌、ウイルスなど)およびバイオテロ病原体の検出の際に問題となる。
【0005】
AC電場を使用して細胞およびナノ粒子の操作を行う交流動電技術は、細胞[参考文献2〜5を参照]、バイオマーカー(DNA[参考文献5〜8]、タンパク質[参考文献9]など)、さらには薬物送達ナノベシクル[参考文献10]の分離の際に特に注目されるいくつかの仕組みを提供する。こうした技術は、3つの現象:(1)電極上の界面の電荷により界面の液体が流動するAC電気浸透;(2)電界により発生する熱勾配により溶液が全体的に流れる電熱による流動(electrothermal flow);および(3)AC電界中の粒子と媒体との間の誘電率の差により粒子の運動が誘起される誘電泳動(DEP)[参考文献10]に明確に分類される。残念ながら、従来のDEPおよび関連する動電効果の形態には、臨床的意義があるサンプル調製および診断のためのこうした科学技術の有用性を損なう問題がある。
【0006】
第1に、選択性の速度および制御の点からDEPによる分離を効率的に行うには通常、<10〜100mS/m程度の比較的低い導電率で行う必要がある[参考文献11]。加えて、溶液のイオン強度が増加し、導電率が10mS/mを超えると、正またはDEPの高電場領域(通常電極の周囲または電極上)ではナノ粒子またはDNAバイオマーカーなどの所望の物質/分析物が単離できにくくなる。このため、イオン強度が100〜200mM(導電率は約500〜1000mS/m)の範囲にある血液または血漿などの生物学的サンプルを大幅に希釈する、および/または処理した後でないと、DEPによる分離を行うことができない[参考文献13、14]。このことだけで、希少な細胞または少数のバイオマーカーの検出を必要とする臨床診断におけるDEPの有用性が損なわれる場合が多い。サンプル(1mlの血液)を100〜1000倍希釈する場合、それは非常に大きなサンプル量を処理しなければならず、著しく時間がかかる場合がある。最初に遠心分離または濾過などの物理的手段により細胞を濃縮してから、低い導電率の緩衝液に希釈する場合、こうした工程は時間がかかるだけでなく、費用がかさむうえ、サンプルが大きく変質する原因ともなる。DEPを幹細胞の分離に用いる得る場合、イオン強度が低く生理的とは言い難い緩衝液に希釈するため、感受性の高い幹細胞が変質する可能性があり、その後の細胞の分化に影響する恐れもある。また、血液由来のDNA、RNAおよびタンパク質バイオマーカーの単離は、その後の臨床診断、特に癌化学療法[参考文献15]、残存病変[参考文献16]および癌の早期検出[参考文献17]のモニタリングも重要である。
【0007】
DEPはDNAおよびタンパク質の単離に使用されてきたが、DEPを用いてDNAの検出を行うには、やはり問題点と限界がある。第1の問題は、この場合もDEP解析の前に血液サンプルを希釈する、および/または処理する必要があることである。血中を循環する臨床的意義がある無細胞DNAおよびRNAバイオマーカーの場合、DNA/RNAの量、そのサイズおよび塩基組成(突然変異および多型)の発見および測定が重要である[参考文献17〜19]。遠心分離、濾過および洗浄の手順を含む、または必要とするサンプル処理では、その工程で破損または溶解された正常細胞からDNA分子が遊離するばかりでなく、臨床的意義があるDNAがより小さなフラグメントに剪断される恐れがある。異質のDNAフラグメントの遊離、および処理に伴う臨床的意義があるDNAの破壊は、こうした手順を用いた診断的価値を大きく低下させ、かつ失わせる。さらに、こうしたサンプル処理は極めて非効率的であり、こうした手順において血液中のDNAの最大60%およびRNAの90%超が失われる可能性がある[17]。
【0008】
第2の問題点は、DNA、タンパク質およびナノ粒子の分離に使用されてきたDEPによる分離装置のほとんどで、粒子捕集部として機能する電極間の距離を非常に小さくして(6μmまたはそれ以下)作製された金の多点微小電極を使用するか、あるいはアレイ間の距離が6〜8ミクロンまたはそれ以下の、凹凸を有するバンドを配列させた(castellated)金の微小電極アレイを使用していることである[参考文献18〜19]。こうした金の微小電極アレイ装置は、ガラス基板材料に金をスパッタリングして製造されるのが一般的である。さらに、ナノ電極を使用するDEP法もいくつかある[参考文献20]。こうした方法の問題は、DNAまたは他の生体分子を捕捉する実際のスペースが比較的小さく、ナノ電極からの距離が増大すると(たとえば>10nm)、電界効果が大きく低下するため、元来アレイの処理量が少ないことである。この種の装置をサンプル調製(たとえば、1〜10mlの血液の処理)に対応させる規模にすると、DEP電界により調べられる実際のサンプル面積が電極近傍に限られ、大部分のDNAが見逃されたり、あるいは極めて長いサンプル処理時間が必要になったりすると考えられる。数十ナノメートルのナノ電極内を通るよう液体の流れを抑制するように装置を設計する場合、やはり処理時間が非常に長くなるか、あるいは、かなり大型(x−y次元)の装置が必要とされるであろう。他の動電効果および浸透力(osmotic force)による流体の制御されない渦電流など、種々の他の問題も存在する。他のDEP用途では、血液由来の細菌、および癌細胞のDEPによる分離を行うのに、間隔を約200μmとして多孔性ヒドロゲルで被覆した円形の白金微小電極(直径50μm〜80μm)を用いたアレイも使用されきた[参考文献13、14]。こうしたDEPによる分離の場合、やはり血液サンプルを遠心し、小さな細胞画分をイオン強度が低い緩衝液に再懸濁していた[参考文献13、14、24〜26]。
【0009】
AC動電技法の第3の一般的な問題は、重要な、または臨床的意義がある分離を行うには、多くの場合、得られる感度と特異性の比が十分に高くないことである。誘電泳動(DEP)を用いて、100万に1つの割合で、効率的に希少な細胞の分離を行う細胞分離は、行いにくい。疾患の早期診断の多くでは希少な細胞または低レベルのバイオマーカーの検出が必須であるため、感度と特異性の比をできる限り向上できることが重要である。一般に、大半のDEP装置は、単純な統計上の理由から、1〜10mlの比較的大量の血液サンプルが必要とされる場合があり、かつ希少な細胞または低レベルのバイオマーカーを単離および検出するという臨床の実体に即して適切な規模に設計できない。DEP装置を大型サンプル用に設計する場合、装置は非効率となるうえ、高導電率条件で作動することができず、したがってサンプルの希釈がさらに必要になる。
【0010】
AC動電技法の第4の問題は、複雑な生物学的サンプル(たとえば血液、血漿、血清など)において希少な細胞、細菌、ウイルス、DNA、RNAおよびタンパク質などの分析物およびバイオマーカーについて、効率的(損失が少なく)かつ高度に選択的な分離工程を行うことである。こうした物質はどれもサイズ範囲が2〜3桁異なる場合があるが、一方でサイズおよび組成がより類似した物質間で効率的な分離を実現する必要もある。重要な例として、DNAナノ微粒子(20〜50kb)、高分子量DNA(5〜20kb)、中分子量DNA(1〜5kb)および低分子量DNA(0.1〜1kb)の分離が挙げられる。
【0011】
最後にAC動電(DEP)装置および技法の最も重大な問題は、溶液の導電率が上がり(>100mS/m)、AC周波数が下がり(<20kHz)、電圧が高くなる(>20ボルト pt−pt)とより顕著になる電気化学反応が生じることである。本文書の詳細な説明のセクションで示すように、こうした電気化学は、泡立ち、加熱、流体の乱流、電極の劣化および不安定な分析物の破壊など、いくつかの悪影響を引き起こす恐れがある。こうした悪影響はDEP装置全体の性能を大きく限定し、DEPの高電場領域における特定の物質(細胞、ナノ粒子、DNAおよびタンパク質)の蓄積、単離および検出の妨げとなるほか、細胞および分析物をDEPの低電場領域に単離するのを妨害する。
【0012】
細胞およびナノ粒子の分離には、他の種類のAC動電装置も使用されているが、高導電率溶液中で有効であることは証明されていない。AC動電およびDEP装置の非有効性に対する最も説得力のある論拠の1つは、DEPが、生物学的研究および臨床診断で繁用されているDC電気泳動と異なり、実用的用途でまったく使用されていないことである。高導電率の生物学的サンプルおよび緩衝液中で分離が可能な高い性能特性を持つ誘電泳動が行われることが望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態は、血液もしくは他の生物学的サンプルまたは緩衝液中の希少な細胞、細菌、ウイルス、薬物送達ナノベシクルおよびナノ粒子、細胞オルガネラおよび構造体(核、ミトコンドリア、液胞、葉緑体、カイロミクロン(cylomicron)など)、循環血中の無細胞DNA/RNAバイオマーカーおよび他の疾患関連の細胞ナノ微粒子(たとえば癌細胞、疾患細胞または損傷細胞が血液、リンパ液または器官に放出する部分的に分解された細胞成分)、抗体、抗体複合体、タンパク質、酵素ならびに薬剤および治療剤を直接分離および同定するため、AC動電および誘電泳動(DEP)、DC電気泳動、装置上の微小電気泳動、および流体技術を独自に多次元的に組み合わせることを含む新規のサンプル調製、サンプルの応答およびポイントオブケアのシステム、装置、方法および技法に関する。開示された実施形態では、複雑なサンプル調製、生体分子の分離および診断解析の実施に使用する、新規のチャンバー装置および多孔性の構造体で積層された強固な電極(ミクロおよび/またはマクロサイズ)のアレイを組み込んだ他の装置により、連続および/またはパルス動電/誘電泳動(DEP)力と、連続および/またはパルスフィールドDC電気泳動力と、装置上の微小電気泳動によるサイズ分離と、流体の制御(外部からのポンピングおよび/またはDC/AC動電による)とを組み合わせて使用する。
【0014】
本明細書はまず、電極が別々のチャンバーに配置され、内側のチャンバー内に孔または穴構造体を介してAC DEP電界を通過させることにより正(positive)のDEP領域および負(negative)のDEP領域が形成される新規の動電学的DEP装置およびシステムを開示する。細胞、ナノ粒子およびバイオマーカーを移動させるため、様々な幾何形状を用いて所望の正のDEP(高電界)領域および負のDEP(低電界)領域を形成してもよい。こうした孔または穴構造体は、多孔性材料(ヒドロゲル)を含んでいても(すなわち充填されていても)よいし、または多孔性の膜状構造で被覆されていてもよい。電極を別々のチャンバーに分離することで、こうした孔/穴構造を持つDEP装置では、DEP工程において内部の分離チャンバー内でどのような電気化学作用、加熱または無秩序な流体の移動も基本的に起こらない(図1および図2を参照)。
【0015】
本明細書はさらに、DEP、電気泳動および流体の力を組み合わせて臨床的に意義がある量の血液、血清、血漿または他のサンプルを比較的高イオン強度/導電率条件下でより直接的に解析できるように一定の規模で区切られた(x−y次元の)強固な電極アレイ、および戦略的に配置された(x−y−z次元の)補助電極構成体の使用を開示する。本明細書は、強固な電極構造体(たとえば白金、パラジウム、金など)を1種または複数種の多孔性材料(天然または合成の多孔性ヒドロゲル、膜、制御されたナノポア材料および薄層誘電体材料)の層で積層することで、電極上または電極近傍で起こる任意の電気化学(電界)反応、加熱および無秩序な流体の移動の作用を抑制しつつも、細胞、細菌、ウイルス、ナノ粒子、DNAおよび他の生体分子の効率的な分離が可能になることを開示する(図3〜8)。より高分離能の分離を達成するには、AC周波数の交差点のほか、第2の分離の際に装置上(アレイ上)のDC微小電気泳動を使用することもできる。たとえば、DNAナノ微粒子(20〜50kb)、高分子量DNA(5〜20kb)、中分子量DNA(1〜5kb)およびより低分子量のDNA(0.1〜1kb)フラグメントの分離である(図9〜12)。装置を小さく区切れるということは、こうした装置上で様々な血液細胞、細菌およびウイルスならびにDNAを並行して同時に分離できることを意味する(図13〜16)。
【0016】
本発明の実施形態はさらに、より選択的かつ効率的に細胞(たとえば癌および幹細胞)を分離する温度制御の使用に関する。したがって、一態様では、本発明の実施形態は、癌細胞、細菌、ウイルス、ナノベシクル(薬物送達)、ナノ粒子、高分子量DNAナノ微粒子、細胞オルガネラ、タンパク質、抗体および抗体複合体、ならびに疾患および代謝状態の他の様々な臨床的意義があるバイオマーカーについて、血液をモニターおよび/または解析するのに使用できるエキソビボでのサンプル調製、シームレスなサンプルの応答、ラボオンチップおよびポイントオブケア(POC)の診断システムに関する。こうしたエキソビボのシステムおよび装置は、AC電界を用いた分析物および臨床的意義がある物質の分離、単離、高度な濃縮および検出を行うことで、血液のモニターまたはスキャンが可能である。このシステムを用いれば、以下に限定されるものではないが、免疫化学;DNA/RNAプローブハイブリダイゼーション;ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ローリングサークル増幅(RCA)、鎖置換増幅(SDA)およびジェノタイピング、配列解析、遺伝子発現のための他の技法など、さらに複雑な解析を目的としてこうした物質をすべて同一のサンプルチャンバー(シームレスなサンプルの応答)内で、あるいは関連する分析装置および/または収集システムにより選択的に収集することができる。本発明により構成された新規の装置は、迅速な分子診断を無希釈の血液サンプルを用いてすばやく行うことができる、ポイントオブケア(POC)のシームレスなサンプルの応答システムであってもよい。本発明による別の新規の装置は、患者の血液をシャントに循環させ、迅速に解析(バイオマーカーDNA、薬剤または薬物送達ナノベシクルのレベルの測定および癌細胞の単離)を行い、希釈による、または物理的/化学的なサンプルの変質を最小限にとどめて(閉ループにより)患者に戻すことが可能なエキソビボの癌化学療法モニタリングシステムであってもよい。さらに、こうしたエキソビボのシステムは、特に救命医療場面での他の治療剤、疾患および患者の傾向のモニタリングに使用してもよい。
【0017】
本発明を利用する本開示のシステム、装置、方法および技法は今回、従来のDEPによる分離の大部分が使用していたよりも高導電率(>100mS/m)のイオン強度条件下、低AC(DEP)周波数(<20kHz)および高電界強度(>20電圧 最大振幅(pk−pk))で細胞、ナノ粒子およびバイオマーカー物質の分離を可能にする。さらに具体的に言えば、より高イオン強度条件下だけでなく、血液、血漿、血清および無希釈の緩衝液などの複雑な生物学的サンプル中で直接DEPによる分離を行うこともでき、今やDEPの高電場領域でナノスケール(500nm〜5nm)の分析物および物質の単離が可能であると同時に、電極間のDEPの低電場領域でより大きな物質(細胞、ミクロン粒子など)を単離することもできる。
【0018】
新規の装置を用いれば、現在ナノ粒子および生体分子の分離に好ましい方法である、凹凸を有するバンドを配列させた(castellated)DEP電極アレイの使用に伴って起こる電気化学、加熱および無秩序な流体による作用が抑制される。別の態様では、装置および方法において、区切られたアレイ内に強固な複数の電極がより巨視的な規模の構成を使用してもよい。この電極構成により、これまでより大きなサンプル量をより迅速および効率的に調べられるばかりでなく、基本的に非常に少量の癌細胞、細菌、ウイルス、ナノ粒子およびナノ微粒子、および非常に低濃度のDNA、RNAバイオマーカーおよび抗体複合体を、非常に多くの正常な細胞を含む複雑なサンプル、すなわち血液から単離することができる。基本的に、「適切な規模に設計された」巨視的な電極システムを使用すると、百万個の細胞からある特定の細胞(または他の物質)を発見する工程が、千個の細胞からある特定の細胞を発見することに切り替わる。すなわち、サンプルが多くの小さな電極群に分散され、階層的な並列選別機構が形成される。この分離工程を血液の処理に応用すると、比較的小さいサイズのDNA、RNAおよび比較的高分子量のDNAをタンパク質および細胞から取り出すことができる。電極のサイズ(直径10〜100ミクロン、距離20〜100ミクロン)および希釈を抑えたサンプルが使用可能であることにより、今回の分離工程は、各部が個々に100〜1000枚の電極を含んでもよい2〜100個のアレイ部を備えた規模のアレイ装置上で迅速かつハイスループットで実施できる。さらに、この装置には、x−y−z次元に戦略的に配置された補助電極を組み込むことも考えられる。
【0019】
本明細書に記載の実施形態は、開示されたアレイ装置およびシステムを用いると、(他のAC動電現象と共に)直径が約500nm以下のナノ粒子全体に固有のクラウジウス‐モソティ(Clausius Mossotti)因子効果に基づき、比較的低周波数範囲(10〜50kHz)でナノ粒子および細胞ナノ微粒子を比較的大きなサイズの物質(細胞およびミクロンサイズの粒子)から分離することができることを示す。本明細書はさらに、AC動電現象を流体と一緒にする場合、その工程で過剰な熱の発生が緩和されることを開示する。本明細書はさらに、流体およびDC電気泳動をAC動電現象と組み合わせると、細胞とタンパク質とを共に図示した装置の下方のアレイ部の方に効率的に移動させられる一方で、強い負電荷を帯びたDNAナノ微粒子およびDNA分子を、装置の上方のアレイ部の方に濃縮することができることを開示する。このため、図示した装置の異なるアレイ部を用いれば、装置の下方のアレイ部での赤血球、白血球、癌細胞の分離およびタンパク質の除去;中央のアレイ部での細菌、ウイルス、ナノ粒子およびナノベシクルの分離;および上方のアレイ部でのDNAナノ微粒子およびDNA分子の分離による多重化など、より選択的な分離工程を行うことができる。
【0020】
最後に、本明細書はさらに、別々の電極チャンバーおよび孔/穴構造体が単独の分離チャンバーに結び付けられている装置、および同時に、あるいはその後に第2のサイズ分離工程を行う際に使用できる、ナノポーラス材料(厚さ1ナノメートルから1ミリメートル)で積層された強固な電極アレイ装置を開示する。たとえば、図示した装置の上方のアレイ部を用いてDNA成分の複雑な混合物を濃縮できれば、AC動電現象およびDC電気泳動力の組み合わせを用いて、高分子量DNA(5〜50kb)、中分子量DNA(1〜5kb)およびより低分子量のDNA(0.1〜1kb)からDNAナノ微粒子を分離する第2の分離を実現することができる。さらに、図示した実施形態では、ナノポーラス層内のDC微小電気泳動を用いて様々なDNAフラグメントのサイズ分離が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各電極が別々のチャンバーに配置され、DEP電界が細孔構造体を通過して内側のチャンバー内で発生する、新規動電学的DEP装置を示す。
【図2】図1に示す新規動電学的DEP装置の表面の孔/穴形状体を示す。
【図3】例示的な流体およびサンプルを表示した、本発明により構成された電極配置を示す。
【図4】本発明による電極にパルスを印加した図1の電極配置を図示する。
【図5】分離結果を改善するため電極を選択的に活性化した、図1の電極配置を示す。
【図6】パルスAC DEP/DC電気泳動/制御された流体の流れの組み合わせを印加する前の血液サンプルの分離工程のより詳細な模式図を示す。
【図7】パルスAC DEP/DC電気泳動/制御された流体の流れを組み合わせた最初の段階の血液サンプルを示す。
【図8】パルスAC DEP/DC電気泳動/制御された流体の流れを組み合わせた最終段階の血液サンプルを示す
【図9】上方のアレイ部でのパルスAC DEPおよびDC電気泳動の組み合わせによる、蛍光染色したDNAナノ微粒子(nanopariculate)、非常に高分子量のDNAおよび中から比較的低分子量のDNAの選択および分離を示す。
【図10】上方のアレイ部でのパルスAC DEPおよびDC電気泳動の最初の組み合わせによる、蛍光染色したDNAナノ微粒子、超高分子量(vh MW)DNAおよび中〜比較的低分子量(MW)のDNAの選択および分離を示す。
【図11】上方のアレイ部でのパルスAC DEPおよびDC電気泳動の最終的な組み合わせによる、蛍光染色したDNAナノ微粒子(nanopariculate)、超高分子量DNAおよび中〜低分子量DNAの選択および分離を示す
【図12】DNAナノ微粒子(nanopariculate)および非常に高分子量のDNAの除去と、アレイ上でのDC電気泳動による中および低分子量のDNAフラグメントのサイズ分離とを示す。
【図13】装置の下方のアレイ部での赤血球および白血球に対する最初のパルスAC DEPの印加を示す。
【図14】装置の下方のアレイ部での赤血球および白血球に対する最終的なパルスAC DEPの印加を示す。
【図15】装置の中央のアレイ部での細菌、ウイルスおよびナノベシクルを分離するための最初のパルスAC DEPを示す。
【図16】装置の中央のアレイ部での細菌、ウイルスおよびナノベシクルを分離するための最終的なパルスAC DEPを示す。
【図17】中および高導電率条件下での60nmおよび200nmのナノ粒子のDEPによる分離を示す。
【図18】中および高導電率条件下での200nmのナノ粒子のDEPによる分離を示す。
【図19A−D】中および高導電率条件下での60nmのナノ粒子のDEPによる分離に関する3D蛍光強度画像を示す。
【図19E−H】中および高導電率条件下での200nmのナノ粒子のDEPによる分離に関する3D蛍光強度画像を示す。
【図20】高導電率条件での60nmのナノ粒子のDEPによる分離に関する実像を示す。
【図21】60nmおよび200nmのナノ粒子における導電率の上昇に対するナノ粒子の蛍光強度の上昇に関するグラフを示す。
【図22】60nmおよび200nmのナノ粒子に関する実験結果とDEPの理論的交差曲線とを導電率の関数としたグラフを示す。
【図23】非被覆白金電極およびヒドロゲル被覆白金電極を用いて導電率を上げた(電極が黒ずむ)ときの200nmのナノ粒子のDEPによる分離に関する実像を示す。
【図24】ナノ粒子の非存在下での高導電率DEP後の電極損傷に関する光学顕微鏡画像を示す。
【図25】高導電率DEP後の電極損傷および200nmのナノ粒子の融合に関するSEM画像を示す。
【図26】高導電率DEP後の60nmのナノ粒子および電極損傷に関する蛍光画像を示す。
【図27】ステップ1を構成する、血液中の高分子(hmw)DNAに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図28】ステップ2を構成する、血液中の高分子DNAに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図29】ステップ3を構成する、血液中の高分子DNAに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図30】ステップ4を構成する、血液中の高分子DNAに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図31】ステップ5を構成する、血液中の高分子DNAに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図32】複雑なサンプルを用いたシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図33】PCRおよびイムノアッセイ解析を用いた、複雑なサンプルに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【図34】PCRおよびイムノアッセイ解析および検出を用いた、複雑なサンプルに関するシームレスなサンプルの応答工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本文書は、以下に限定されるものではないが、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、唾液、生検サンプル、細胞培養物(幹細胞)、細菌および発酵培養物など適切な量の高導電率(イオン強度)の生物学的および臨床サンプルならびに緩衝液から細胞、ナノベシクルおよびナノ微粒子、細菌および/またはウイルス、さらには臨床的意義がある一連の他の疾患バイオマーカーを分離および同定することができるように、誘電泳動(DEP)などのAC動電学、DC電気泳動学、微小電気泳動および流体光学を多次元的に独自に組み合わせた新規のサンプル分離およびサンプルの応答システム、装置、方法および技法を教示する。本発明の開示された実施形態により、細胞、ナノ粒子および他の分析物のDEPによる分離を無希釈のサンプル(血液、血漿、生体用緩衝液)中で直接を行うことができるが、一方においてこの実施形態は、ある程度希釈したサンプルまたは緩衝液、あるいは他のサンプル調製手順を経たサンプルに対して、開示された装置および方法を使用することを排除するものではない。
【0023】
規定の直径および離隔距離を持つ強固な電極を備えた新規のマルチチャンバー装置および電極アレイ装置を用いることにより、高導電率(イオン強度)の溶液中でうまく働くDEPを行うことが可能になる。こうした新規のDEP装置は、高導電率条件下で起こる電気化学反応の進行に起因する泡立ち、加熱および他の悪影響により効率が低下したり、あるいは複雑な生物学的サンプルおよび高イオン強度の緩衝液から特定の分析物または物質が分離、濃縮および検出されるのを妨げたりしないように設計される。問題のあるAC動電および誘電泳動分離装置の大部分にとって、高導電率条件下でDEPによる分離を行うことは大きな課題となっており、そこには限界があった[参考文献1〜28]。ヒドロゲルを被覆した電極を備えたマイクロアレイ装置を用いて、ある程度高い導電率でのDEPによる分離を短時間実現できたとしても、こうした装置の場合、サンプルの分離手段および診断装置としてうまく働かなかった[参考文献13、14、24〜28]。
【0024】
このDEPにおける導電率の限界を分かりやすくするため、本明細書に記載の第1の例として、まず低伝導度緩衝液中のナノ粒子のDEPによる分離を示す。この例では、ミリQ水(5.5μS/m)中で60nmのDNA誘導体化ナノ粒子と10μmの粒子との分離を行う。分離は10kHz AC、10ボルト 最大振幅(peak−to−peak:pk−pk)で行った。図17aは、微小電極アレイ上にランダムに分布する10μmの粒子にAC電界を印加する前に白色光を照射したときの初期状態を示す。赤色蛍光検出における初期状態では、マイクロアレイ全体で60nmのDNA誘導体化蛍光ナノ粒子からのものと予想される赤色蛍光がぼやけて見える(図17bを参照)。AC DEP電界をわずか30秒間印加しただけで、10μmの粒子のほとんどが、負のDEPの低電場領域に非常に整然と配列した状態で濃縮された(図17cを参照)。1分間のAC電場の印加後には、60nmのDNA誘導体化ナノ粒子が、微小電極上の正のDEPの高電場領域に濃縮された(図17dを参照)。微小電極上の高い蛍光強度とその周辺領域における蛍光強度の低下から、ほとんどのナノ粒子が高電場領域に濃縮されたことが示唆される。次の例は、0.01×TBE(1.81mS/m)中で10μmの粒子と混合した200nmのナノ粒子のDEPによる分離を3kHz AC、10ボルト 最大振幅で行ったものを示す。最初の白色光の図は、電場を印加する前のランダムに分布する10μmの粒子を示し(図17e)、緑色蛍光の図は、高電場領域に200nmのナノ粒子が蓄積されていないことを示す(図17f)。10分未満で、10μmの粒子は低電場領域に濃縮され(図17g)、200nmのナノ粒子は正のDEPの高電場領域に高度に濃縮された(図17h)。こうした低伝導度でのDEPの結果は全般に、文献に引用された他の低伝導度でのDEPによるナノ粒子の分離と一致しており、古典的なDEP理論から予想されるものである[参考文献11〜14]。
【0025】
次の一連のDEPの例は、伝導度が100mS/mより大きい緩衝液溶液における60nmのDNA誘導体化ナノ粒子、200nmのナノ粒子および10μmの粒子の分離を示す。1×TBE(0.109S/m)において、AC電場を20分間印加した後、白色光条件下で200nmのナノ粒子と10μmの粒子との分離を行ったところ、10μmの粒子が低電場領域に濃縮されることが示された(図18a)。緑色蛍光を照射したところ、200nmのナノ粒子は、微小電極の上の正のDEPの高電場領域に濃縮された(図18b)。1×PBS(1.68S/m)を用いて行ったDEP実験では、20分後、10μmの粒子が低電場領域に濃縮される(図18c)。高導電率の1×PBS緩衝液実験における20分後の緑色蛍光画像を、一部の小さい泡を除去してから増幅して撮影した(図18d)。この画像は、200nmのナノ粒子が4枚の微小電極の正のDEPの高電場領域に濃縮したことを示す。しかしながら、微小電極は、このとき著しく黒ずみ、微小電極のうち2枚は泡だっていた。200nmのナノ粒子が主にこうした4枚の微小電極に濃縮されたという観察結果は、微小電極からやや高い電場が発生することと整合する。
【0026】
1×PBS緩衝液中の高導電率実験を60nmのDNA誘導体化ナノ粒子を用いて行っても、同様の結果が得られた。すなわち、60nmのナノ粒子は、微小電極の3枚でやはり正のDEPの高電場領域に濃縮することが観察された。その後、三次元ピークを与えるMATLABを用いて、数学的モデルにより蛍光画像の解析を行ったところ、高電場領域における蛍光ナノ粒子の濃縮がより明らかになった。60nmのDNA誘導体化ナノ粒子を用いた1×TBEの実験では、3D蛍光データにより0分時点(図19a)から2分時点(図19b)、8分時点(図19c)および16分時点(図19d)にかけて強度が顕著に高まることが示された。同様に、1×PBS中における200nmのナノ粒子の3D蛍光データでも、0分時点(図19e)から8分時点(図19f)時点、16分時点(図19g)および20分後(図19h)に強度が顕著に高まることが示された。
【0027】
1×PBS中の60nmのDNA誘導体化ナノ粒子でもやはり、蛍光画像(図20a)に見られるように濃縮が認められる。この3D蛍光画像データはさらに、0分(図20b)から8分(図20c)および20分(図20d)にかけて同様の蛍光の増加も示される。図20aに示す微小電極の1枚(3列目2行目)の内部活性化(in−activation)により、電界パターンが若干変化している。緩衝液1×TBE、0.1×PBS(0.177S/m)および1×PBSを用いた実験の0分、0.5分、1分、2分、4分、8分、16分および20分時点での蛍光データ全体は、MATLABを用いて編集した。60nmのDNA誘導体化ナノ粒子に関する結果をグラフ(図21a)に、200nmのナノ粒子に関する結果をグラフ(図21b)に示す。こうした例は、経時的に蛍光ナノ粒子の濃縮が増加することを示す。より重要なのは、こうした例はさらに、緩衝液の伝導度が大きくなるにつれ蛍光ナノ粒子の全体の濃縮が著しく低下する、すなわち、導電率条件が上昇するにつれ物質を濃縮するのに要する時間がかなり長くなることを示すことである。
【0028】
ここで図22は、60nmのDNA誘導体化ナノ粒子および200nmのナノ粒子のクラウジウス‐モソティ因子(Re(K(ω)))の実部に関する理論曲線および実験結果の範囲と伝導度とを示す。グラフは、こうした例で使用した伝導度に対するRe(K(ω))の理論値が負であると考えられ、したがってナノ粒子が低電場領域に蓄積するはずであることを示す。しかしながら、実際の結果は、ナノ粒子の蓄積が高電場領域で続くことを示す。残念ながら、こうした高導電率条件下(>100mS/m)では、泡立ち、電極の黒ずみ、電極の故障が起こり、DEPに要する時間がかなり長くなるため、分離が相対的に非効率的なものになる。
【0029】
こうしたDEPに関する悪影響は、ナトリウム(Na+)およびクロライド(Cl−)電解質を含むイオン強度が比較的高い緩衝液を用いたときに起こる電気化学活性の増加に起因することが発見されている[参考文献29〜30]。こうした作用の理解を深めるには、これまでよりうまく機能し頑強な分子診断用途のDEP装置を開発する必要があった。高導電率条件下における微小電極/ナノ粒子/電解質の不都合な相互作用を明確に示す別の例を、今回本明細書に記載の実施例に示す。こうした例では、様々な導電率(イオン強度)条件下、ヒドロゲルを含む白金微小電極構造体(図23A〜F)およびヒドロゲル層を含まない白金微小電極構造体(図23G〜H)を用いて、200nmの黄色−緑色蛍光ポリスチレンナノ粒子を、10ミクロン球から分離して、検出を行った。全緩衝液(0.01×TBE、1×TBE、1×PBS)の結果から、200nmの緑色蛍光ナノ粒子が微小電極のDEPの高電場領域に分離および濃縮され、10μmの球が微小電極間の低電場領域に濃縮されることが示される。この場合も、0.01×TBEにおいて200nmのナノ粒子の濃縮が最も大きいようであり、緩衝液のイオン強度が1×PBSまで増すにつれ濃縮は小さくなる(図23B、23D、23Fおよび23Hを参照)。ナノ粒子の濃縮は、ヒドロゲルを含む微小電極の中心で、非被覆の微小電極の外周囲で起こりやすい(図23A、23C、23E、23G)。導電率が最も高い緩衝液(1×PBS)では、ヒドロゲル被覆微小電極(図23E)および非被覆の微小電極(図23G)のどちらも電極がかなり黒ずんでいる。
【0030】
こうした図面には示されていないが、1×PBS緩衝液中ではDEPから4分後、ヒドロゲル被覆および非被覆の微小電極のどちらも微細な泡立ちが増加することも観察された。ただし、微細な泡立ちは、非被覆の微小電極の方でより顕著なようであった。さらに、AC電圧を20ボルト 最大振幅よりも上げたとき、1×PBS緩衝液では、ほとんど全部の電極において無秩序な泡立ちも起きる。ヒドロゲル被覆および非被覆の白金微小電極ではどちらもナノ粒子の濃縮および黒ずみが観察され得たが、非被覆の微小電極では走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して電気化学作用を解析し、ナノ粒子の濃縮および付着を確認する状況となった。
【0031】
次の一連の例では、高伝導度の1×PBS緩衝液中で非被覆の微小電極を用いてナノ粒子の存在しない状態でDEPを行った。微小電極アレイを洗浄し、乾燥させてからSEMを用いて画像化した。最初の図24Aは不活性な対照微小電極の光学顕微鏡画像を示し、さらに3000Hz、10ボルト 最大振幅でのDEPから10分後の活性化微小電極(図24B)を示す。活性化微小電極が著しく黒ずんでいるのが、はっきりと観察される。次に図24Cおよび24Dは、同じ不活性な微小電極および活性化微小電極のSEM画像を示す。SEM画像では、活性化微小電極の著しい損傷および劣化がはっきりと観察される。図24Eおよび24Fは微小電極のSEM画像の拡大図であり、微小電極の周囲付近で起こる白金層の劣化が一層はっきりと示される(図24F)。
【0032】
高導電率の1×PBS緩衝液中に200nmのナノ粒子が存在する状態でDEPの例を同様に行った。最初に、図25Aは、高伝導度の1×PBS緩衝液において3000Hz、10ボルト 最大振幅でのDEPから2分後の不活性な対照微小電極のSEM画像を示す。この活性化していない対照微小電極では、この構造体にランダムに分布する200nmのナノ粒子がほとんどないことが示される。図25Bは、対照微小電極の辺縁のSEM画像の拡大図を示し、白金微小電極の辺縁の間の領域にいくつかのナノ粒子がランダムに捕集されているように見える。図25Cは、200nmのナノ粒子が存在する状態で2分間活性化された微小電極のSEM画像を示す。たくさんのナノ粒子が濃縮され、特に微小電極の辺縁に付着している。拡大画像(図25D)では濃縮されたナノ粒子の集合体が非常によく分かり、微小電極の辺縁で白金がやや劣化していることが窺われる。次に図25Eおよび25Fは、200nmのナノ粒子を用いたDEPから5分後の活性化微小電極の画像を示す。ここでも200nmのナノ粒子の濃縮および集合体形成がはっきりと観察されるが、この場合、白金微小電極構造がより激しく損傷および劣化しているようである。図25Gは図25Dの微小電極辺縁のSEM画像の拡大図であり、やはりナノ粒子の集合体形成が示される。最後に、図25Hは劣化した微小電極(図25Fで見られる)の画像の拡大図であり、ナノ粒子の集合体がナノ粒子の融合または溶融集合体と一緒に散在していることが示される。こうしたナノ粒子の融合集合体は、DEPによる活性化時間が長くなったときの強い電気化学活性(熱、H+およびOH−)によるものである。
【0033】
もう1つの一連の例では、高導電率の1×PBS緩衝液中で、ヒドロゲルを含まない微小電極構造体を用いて、40nmの赤色蛍光ナノ粒子を、10ミクロン球からDEPにより分離し検出した。図26AはDEPによる活性化前の微小電極の赤色蛍光画像であり、40nmのナノ粒子の濃縮は示されない。図26Bは、10,000Hz、10ボルト 最大振幅で4分間DEPにより活性化された後の微小電極の赤色蛍光画像であり、このときは微小電極の周囲に40nmのナノ粒子の濃縮がはっきりと示される。図26CはSEMによる高倍率画像であり、微小電極の損傷および40nmのナノ粒子の集合体形成を示す。
【0034】
こうした例は、DEPを高導電率条件下(>100mS/m)で行うと電気化学活性の増加が起こることをはっきりと示す。この非常に強い電気化学反応により微細な泡立ち、および微小電極の黒ずみが起こる。より重要なのは、著しい微小電極の劣化が起きており、最終的に電極の故障を引き起こし、かつDEPによる活性化時間が長くなるにつれ、この微小電極の破損が進むことが見て取れることである。劣化した微小電極構造体でポリスチレンナノ粒子の融合が観察されたことから、DEPはAC動電工程であるにもかかわらず、かなりの加熱が起きていることが示唆される。こうした結果は、O2、H2、H+、OH−、熱および泡を発生させると思われるDC電解反応が原因と考えることができる。1×PBS緩衝液中にナトリウム(Na+)、カリウム(K+)およびクロリド(Cl−)電解質が存在すると、DEP中に微小電極の表面上に認められる全体的な腐食状態を助長する恐れがある。大部分の生物学的および臨床サンプルならびに緩衝液は、導電率の高いことに加えて、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)およびクロライド(Cl−)の濃度が比較的高い。こうした結果から、強固とは言い難い金スパッタ電極を使用する古典的なDEPが、低い導電率条件でしか行うことができない(参考文献29、30)、すなわち、電極が数秒で破損される恐れがある理由がすぐに明らかになる。
【0035】
ヒドロゲル被覆白金微小電極を用いれば、高導電率条件でナノ粒子を確かに分離することができるが、それでもヒドロゲル被覆白金微小電極は以下の理由から依然としてどのような実用的な用途にも適していない。第1に無秩序な泡立ちが顕著になり、電極が故障すれば、血液を用いたどの種のサンプルの応答分子診断に対しても装置自体が信頼できないものになる。軟膜および全血からナノ粒子の分離を行う別の実験では、泡立ち、電極の黒ずみおよび電極の故障が観察された。ナノ粒子が高電場領域に単離され得ても、ナノ粒子を流体の洗浄により取り出すことは困難であったことから、不都合な加熱によりナノ粒子がアレイ表面に融合していた可能性があることが示唆される。第2に、生物学的サンプルの分離、およびその後の分子解析(たとえばPCR、イムノアッセイなど)では、こうした加熱および強い電気化学反応が細胞、DNA、タンパク質および他のほとんどの分析物に激しい損傷を与えると考えられる。第3に、分離効率を向上させる(濃縮される分析物の総量を増やす)には、DEP時間を長くする必要があり、これがさらに多くの悪影響を引き起こすと考えられる。第4に、高いAC電圧(たとえば20ボルト、最大振幅)を用いて濃縮速度を上げた場合、これも、さらに強い泡立ちおよび電気化学作用を引き起こすことになるであろう。今回、このような古典的なDEP装置および導電率の限界の根底にある理由が発見されたことで、これまでよりもうまく働くDEPサンプル調製装置、および新規のシームレスなサンプルの応答診断システムを開発する機会がもたらされた。こうした新規のDEP装置を用いれば、希少な細胞、ナノ粒子および種々の重要な疾患バイオマーカーを血液、血漿、血清および他のほとんどの生物学的サンプルならびに緩衝液中で直接単離、濃縮および検出することができる。
【0036】
本記述は次に、複雑なサンプル調製を行うのに使用できる本発明の新規の装置と共に、特定の分析物の分離および濃縮、さらにその後の分子診断解析および検出に結び付く連続および/またはパルス動電/誘電泳動(DEP)力、連続および/またはパルスDC電気泳動力、装置上(アレイ上)の微小電気泳動サイズ分離、および流体の制御(外部からのポンピングおよび/またはDC/AC動電による)の組み合わせを開示する。これには、以下に限定されるものではないが、(1)蛍光抗体、非蛍光抗体、抗体誘導体化ナノ粒子、抗体誘導体化ミクロスフェア、抗体誘導体化表面(DEP装置上の特定の場所)、ビオチン/ストレパビジンおよび様々なレクチンを含む免疫化学およびリガンド結合法を用いた標識分析物のDEPによる分離および検出、ならびに/またはDEPによる分離後の非標識分析物のその後の検出;(2)特定の細胞、細菌、ウイルス、DNA、RNA、核、膜、細胞オルガネラおよび細胞ナノ微粒子を検出するため、一般的および/または特異的染色物、蛍光色素、蛍光ナノ粒子、量子ドットをDEP前またはDEP後に使用すること(DEPは本質的に「標識を用いない」手法であり、その交差周波数により細胞、ナノ粒子および他の分析物を同定することができることを念頭に置くことが重要である。標識については、検出感度を向上させ、個々の物質を同定し、より詳細な解析を行うために使用される);および(3)蛍光プローブin−situハイブリダイゼーション(FISHなど)による細胞、核、DNAおよびRNAの事後分析(post analysis);および(4)以下に限定されるものではないが、PCR、RCA、SDAならびに他のジェノタイピング、シーケンシングおよび遺伝子発現技法(どの技法もDEPによる分離が起こる同一チャンバー区画で行うことができる)など細胞、核、DNAおよびRNAのよく知られた分子解析方法の使用を含めることができる。
【0037】
上記の例は、装置の別のもう1つのチャンバーでその後の解析を行ったり、またはサンプルの装置以外での解析、保管または記録保存のため分析物をサンプル収集チューブに移動させたりすることを除外するものではない。さらに、解析のために使用してもよい他の種類の検出法として、以下に限定されるものではないが、放射性同位元素法、比色分析法、化学発光法、電気化学法、または分析物、生体分子および細胞が単離されたならば、これらのバイオセンシングまたはナノセンシングを行うための他の方法が挙げられる。本明細書に記載の装置および工程は、無希釈の血液または他の複雑な臨床または生物学的サンプルと一緒に直接使用してもよい完全に「シームレスな」サンプルの応答診断システムと考えるとができる。本明細書に例示するDEP装置を用いたシームレスなサンプルの応答法については、以下でさらに詳述する。
【0038】
図27は、血液サンプルを装置に直接導入し、この場合は、非常に低濃度の高分子量(hmw)DNAおよび/またはRNAを、DEPを用いて無希釈の全血サンプルから分離するシームレスなサンプルの応答診断の第1のステップを示す。ただし、以下に限定されるものではないが、希少な細胞、ナノ粒子、細胞ナノ微粒子、抗体、免疫複合体、タンパク質およびRNAなど、ほとんどどのような分析物でも分離、濃縮および検出することができ、サンプルとしては、以下に限定されるものではないが、血漿、血清、尿および唾液を挙げることができる点に留意されたい。
【0039】
次に図28は、血液細胞(赤および白)を負の(DEP)低電場領域に移動させ、高分子量DNA(RNA)を正の(DEP)高電場領域に濃縮させる適切なAC周波数および電圧でDEP電界を印加するサンプルの応答診断工程の第2のステップを示す(図では、ドーム構造がDEPの高電界強度領域を表す)。
【0040】
図29は、単純な流体の洗浄により血液細胞をDEPアレイ装置から除去し、一方、高分子量DNA(RNA)はDEPの高電場領域に高度に濃縮された状態のままである第3のステップを示す。より大きなサンプル量を処理するため、さらに高導電率溶液中の比較的低いAC低周波数(<20kHz)、高電圧(>20ボルト pt−pt)で顕著になる加熱を抑える機構として、DEP装置全体に連続的、パルスまたは間欠的な流体の流れを使用することは本開示の範囲内である。
【0041】
図30は、DNA(RNA)特異的蛍光色素(たとえばサイバーグリーン、OliGreen、エチズイムブロミド、TOTO、YOYO、アクリジンオレンジなど)を加えてDNA(RNA)のin−situ標識を行うこの工程の次のステップを示す。この工程では、DEP装置全体に適切な蛍光色素の溶液をフラッシュして、DNAまたはRNAを染色する。DNA/RNAについては、染色が進行している間、DEP電界を維持してそのままの状態に保てばよい。ここで、落射蛍光検出システムを用いて蛍光染色DNA/RNAを検出および定量することができる(図31)。マイクロアレイ装置の解析を行う蛍光検出システムおよび装置は、分子生物学および臨床診断の技術分野において公知であり、種々のシステムが市販されている。
【0042】
以下に限定されるものではないが、(1)PCR、分子ビーコンを用いたリアルタイムPCR、RCAおよびSDAなど、他の分子解析検出方法および技術を使用すること;(2)後で蛍光レポータープローブを用いて解析/検出を行うため、DEPによる分離工程において、サンプルDNA/RNAをハイブリダイズして、DEP装置の特定の場所に固定化したプローブ(DNA、RNA、pNAなど)を捕捉すること;(3)後で蛍光レポータープローブを用いて解析/検出を行うため、DEP濃縮場所からDNA/RNAを遊離し、これをPCR、RT−PCR、RCAまたはSDAを用いて増幅し、変性させてから、部位選択的DC電気泳動を用いてその単位複製配列を再びハイブリダイズしてDEP装置に固定化したプローブを捕捉すること;(4)配列特異的DNA/RNA/pNAプローブを用いて蛍光in−situハイブリダイゼーションを使用すること;(5)DNA/RNAを遊離し、DEPあるいは電気泳動(DC電場)的に装置上の別の特定の位置に移動させること;および(6)より詳しい解析または保管を目的としてDNA/RNAを遊離し、(流体により)装置の別のチャンバーまたはサンプル収集チューブに移動させることは、本開示の範囲内である。
【0043】
図32は、サンプルの応答装置を用いて、希少な細胞、細菌、ウイルス、細胞ナノ微粒子またはCNP(細胞膜、核、高分子量DNA、高分子量RNA、液胞、小胞体、ミトコンドリアなど)、タンパク質、抗体複合体および他のバイオマーカーを、より高度に多重化されたDEPにより全血からどのように分離できるかを示す。次に図33は、装置に濃縮されている特定の分析物の同定に使用することができる分子解析方法を示す。こうした方法として、以下に限定されるものではないが、蛍光染色、蛍光イムノアッセイ、FISHおよびPCR、RCAおよびSDA法が挙げられる。最後に、図34は、よく知られた蛍光法および他の検出法を用いた細胞、細菌、ウイルス、CNPおよび抗体複合体の最終的な検出を示す。
【0044】
本開示はさらに、本明細書に記載のサンプルの応答装置およびシステムの分析および診断能力を向上させるために使用できる独自の方法について記載する。DNAおよびRNAの単離および検出の場合、DEPを用いて高分子量DNA/RNAは効率的に単離および濃縮できるのに対し、より低分子量のDNAおよびRNA(<10kb)については、DEPによる単離が難しくなる。この場合、二本鎖(ds)DNA特異的抗体および一本鎖(ss)DNA特異的抗体が利用可能であり、これを用いてより低分子量のDNAおよびRNAを標識し、より大きなナノ構造体(>5nm)を作製する。こうしたより大きなDNA−抗体複合体は、DEPによってより効率的に単離および濃縮することができる。
【0045】
また、本明細書に記載の装置を用いれば、種々の新規の抗体検査が可能になる。より具体的には、比較的大きな抗体複合体から単一抗体を分離する能力がDEPにあれば、臨床サンプルから比較的大きな抗体−抗原複合体の形成をDEPにより分離できる多くの1抗体および2抗体アッセイを開発することができるということである。この場合、蛍光抗体および/または二次抗体をサンプルに直接加えてもよく、DEPを印加すると、蛍光標識した抗体−抗原複合体だけがDEPの高電場領域に濃縮され、その後検出されることになる。こうしたDEPを用いた抗体アッセイは、以下に限定されるものではないが、薬剤、ホルモン、代謝産物およびペプチドなどの小分子抗原;さらには以下に限定されるものではないが、タンパク質、酵素および他の抗体などのより大きな抗原に使用してもよい。また、抗体、ビオチン/ストレプトアビジン、レクチン、タンパク質、酵素、ペプチド、デンドリマー、アパタマー、量子ドット、蛍光ナノ粒子、カーボンナノチューブ、ならびに選択的標識および検出目的で設計された他のナノ物質と結合する選択的リガンドを用いて、以下に限定されるものではないが、細菌、ウイルス、バクテリオファージ、ナノ粒子、CNPの検出を行うなど、比較的大きな複合体の形成に基づく、他の多くの類似したDEPによるアッセイを可能にすることも本記述の範囲内である。最後に、DNA/RNA/pNA捕捉プローブをDEP装置に装着または固定化するだけでなく、以下に限定されるものではないが、抗体、ビオチン/ストレプトアビジン、レクチン、タンパク質、酵素、ペプチド、デンドリマーおよびアパタマーなど他の種々の結合物質をDEP装置に装着させてもよい。こうした固定化リガンドによりDEP電界を停止した後も分析物はDEP装置に選択的に結合した状態にある。
【0046】
本明細書に記載の今回の新規のDEP装置は、通常であれば、固定化に使用される大部分の生体分子(たとえばDNA、RNA、抗体、タンパク質など)、さらに検出および解析のためDEPにより装置上の特定の高電場領域に単離および濃縮される分析物およびバイオマーカーを損傷または破損する不都合な泡立ち、加熱および電気化学作用をなくすか、または大幅に抑制することにより上述のすべての方法を可能にすることに注目されたい。
【0047】
本明細書はまず、電極が別々のチャンバーに配置され、内部のサンプルチャンバー内に孔または穴構造体を介してAC DEP電界を通過させることにより正のDEP領域および負のDEP領域が形成される新規の動電学的DEP装置およびシステムをより詳細に開示する。サンプルチャンバーで細胞、ナノ粒子およびバイオマーカーを移動させるため、様々な幾何形状を用いて所望の正のDEP(高電界)領域および負のDEP(低電界)領域を形成してもよい。こうした孔または穴構造体は、多孔性材料(アガロースまたはポリアクリラミイドヒドロゲル)が充填されていてもよいし、または多孔性の膜状構造(ペーパー、セルロース、ナイロンなど)で被覆されていてもよい。こうした多孔性膜に積層された構造体は厚さが1ミクロンから1ミリメートルであってもよいが、一層好ましくは10ミクロンから100ミクロンであり、細孔サイズは1ナノメートルから100ミクロンであるが、一層好ましくは10ナノメートルから1ミクロンである。電極を別々のチャンバーに分離することで、こうした独自のDEP装置では、どのような電気化学作用、加熱または無秩序な流体の移動も、DEP工程において内側の分離チャンバー内で起こる分析物の分離に影響を与えることは基本的にない。こうしたチャンバー装置は、非常に高いAC電圧(>100ボルト 最大振幅)で作動させもよく、DEPだけでなく、サンプルチャンバー内でDC電気泳動による移動および電気泳動法を行うのに使用することもできる。一般に、こうした装置およびシステムは、AC周波数範囲1000Hz〜100mHz、1ボルトから2000ボルト 最大振幅までの幅があってもよい電圧、DC電圧1ボルト〜1000ボルト、流量10マイクロリットル/分から10ミリリットル/分、温度範囲1℃〜100℃で作動可能である。図1および図2にチャンバー装置を示す。こうした装置は、種々の孔および/または穴構造(ナノスケール、マイクロスケール、さらにはマクロスケール)を用いて作製してもよく、細胞、ナノ粒子または他の物質が内側のチャンバーに拡散または移動するのを制御、制限または防止できる膜、ゲルまたは濾過材料を含んでも構わない。一方で、AC/DC電界、溶質分子、緩衝液および他の小分子はチャンバーを通過することができる。
【0048】
図1および図2は、本発明により構成することができるチャンバー装置の最も基本的な形態である。本発明による装置では種々の構成が想定される。こうした装置としては、多重電極およびチャンバー装置、再構成可能な電界パターンを作製できる装置、DC電気泳動法と流体法とを組み合わせた装置;サンプル調製装置、その後の検出および解析を含むサンプル調製および診断装置、ラボオンチップ装置、ポイントオブケアおよび他の臨床診断システムまたは形態があるが、これに限定されるものではない。図1は、本明細書の本教示によるサンプル処理装置の模式図であり、装置100がハウジング106内に複数の電極102と電極を含むチャンバー104とを含むことを示す。装置のコントローラ108は、本明細書に詳述されるように電極102を独立に制御する。
【0049】
図2は、各々が少なくとも1枚の強固な白金電極を備える6つの電極チャンバー104と共に図示した装置100の上面図を示す。図2は、中心に主要な分離チャンバー110を1つ形成した装置を示し、分離チャンバー110にはヒドロ−ゲルが充填された様々なサイズの18個の孔/穴構造体112が配置される(内側のチャンバーは孔または穴を被覆する多孔性膜を有していてもよい)。孔/穴構造体は、3群の6つの孔/穴構造体で構成される。分離チャンバー110の上方部は物理的に隔てられていないのに対し、下方部分は9つの区画(明るい破線(light dashed line)で示す)に分けられている。こうした区画は各々、電極チャンバーと流体接触しているが、相互には接触していない。AC DEP電界を電極に印加すると、電界が孔112を通過し、細孔構造体の上に正のDEPの高電場領域が、細孔構造体の間に負のDEPの低電場領域が形成される。サンプルは、入口220および出口222を介して装置に添加し、装置から取り出すことができる。装置は別の入口224および出口226を含んでいてもよい。図1および図2に示す装置は、高導電率DEPチャンバー装置の一形態に過ぎない。多数の孔/穴および様々な幾何形状を持つ多くの異なる種類の装置を作製してもよいことを理解すべきである。
【0050】
別の装置の実施形態は、電流型動電および誘電泳動分離装置(current electrokinetic and dielectrophoretic separation devices)で問題となる電気化学作用および加熱を抑制できる規定の直径および離隔距離を持つ強固な電極の電極アレイを使用することを含む。強固な電極(たとえば白金、パラジウムおよび金)を適切に組み立てて被覆すれば、分離工程での電気化学反応生成物の悪影響を抑制し、非常に高い電圧を印加できるため、分離時間を大きく改善することが可能である。さらに、電流装置は比較的処理量が小さいが、本明細書に記載のこの実施形態はあるシステムを設けることでこの問題を解決した。このシステムは多重並列部アレイを使用し、装置を1つの大きな分離ゾーンとして用い、次いで個別制御される分離ゾーンに切り換えることで、システム全体の感度および選択性を向上することができる。他の従来のシステムで見られる第3の問題は、サイズおよび組成が比較的類似したサンプル成分を分離できないことである。この問題は、本明細書の記述に従ってDEPアレイ装置自体で微小電気泳動など第2の分離工程を直接行うことができる装置を提供することで解決される。
【0051】
負の誘電泳動(DEP)力は、正のDEP力よりも比較的弱く、したがって負のDEPを受ける物質は流体により移動し得るのに対し、正のDEPを受ける物質はそのままとどまることになる。ここに記載される実施形態では、流体力とDC電気泳動力とを逆方向に使用することで、血液および他のサンプル中のDNAフラグメントおよび電荷が大きいDNAナノ微粒子を細胞およびタンパク質から分離することができる。このように複数のAC周波数、パルスDC電気泳動および微小電気泳動を用いれば、DNAナノ微粒子およびDNAフラグメントのより完全なサイズ分離を達成することができる。
【0052】
このように高導電率条件(血液、血漿、血清など)下でDEPを行えるようになった新規のシステムおよび装置の商業用途には現在、ポイントオブケア診断、治療剤および薬物モニタリング、環境および給水モニタリング、ならびにバイオテロ病原体検出などの多くの研究および臨床診断用途が挙げられよう。こうしたシステムを用いれば、希少な細胞(癌細胞、胎児細胞、造血幹細胞)、細菌、ウイルス、DNA/RNAおよびDNAナノ粒子バイオマーカー、薬物送達ナノベシクル、さらには正常または異常タンパク質などの多くの分析物および物質を検出することができる。
【0053】
実験用AC DEPおよびDC電気泳動分離システム(以下の実施例のセクションで詳述する実験室内卓上型)を構築して、この新規のプロトタイプ装置を改良するための実験を行った。こうした(上述した)装置から得られる結果は、古典的なDEPがなぜ低い導電率溶液に限定されてきたかの重要な発見に結び付く。
【0054】
今回の新規の装置は、強固な白金の平面並列電極アレイを使用する。この電極は直径がほぼ約1〜1000ミクロン、離隔距離が10〜5000ミクロンで、5〜100ミクロン厚のヒドロゲル(アガロース、ポリアシルアミド)または多孔性膜層で被覆されている。この新規の装置では、電界線の密度が他の従来の古典的DEPシステムほど高くなく、さらにここで重要なのはDEPの高電界の蓄積領域が実際の電極表面から実質的にやや距離があるため、加熱および電気化学の問題が抑えられる。従来の電極設計と大きく異なる点の1つは、特に電界強度が比較的高く、溶液導電率が高いときに電気化学反応により劣化および破損しやすい白金または金スパッタ電極を使用しないことである。新規の装置の電極は、ワイヤーまたはロッドを含め純白金または純金材料で構成される。第2の相違は、1つの大きな分離の問題を、非常に制御しやすくなった、いくつにも分かれている分離の問題に切り換えることで、百万に及ぶ比較的類似した物質(細胞、ナノ粒子、バイオマーカー)から1種類の物質だけを単離するように分離効率を高められることである。本明細書に記載の装置はこれを、区切りを設けた多重アレイを使用し、並行して行われる制御された選別工程により達成する。これを実現するには、アレイ装置全体に複雑な生物学的サンプル(血液)を分布させ、その成分をより小さな分離部(領域)に分離して、所望の分析物または物質を分離および単離できる大型アレイ装置内で、10〜100またはそれ以上の電極の、個々に制御されるアレイのサブセットを使用する。複雑なサンプルの分離の問題をより小さな部分に分割することは、感度と特異性の問題を解決するのに最も有望である。すなわち、この方法により、サンプル全体の迅速かつ高度なスループットが可能になるだけでなく、サンプル中の固有の細胞または他の物質を単離および同定する調査(分離)時間を相対的に長くすることもできる。最後に、最後の問題は、多次元階層(multi−dimensional hierarchical)選別装置を作製することで解決できる。この解決法は、負のDEPは正のDEPよりも力が弱く、負のDEPを受ける細胞または他の物質は流体の制御により移動させることできるのに対し、正のDEPを受ける分析物または物質の方はDEPの高電界領域に濃縮されたままであるということを利用する。流体の制御およびパルスDC電気泳動を逆方向に使用することで、複雑な生物学的サンプル中のDNA/RNAおよび荷電したナノ微粒子を細胞およびタンパク質から分離することができる(これは、細胞およびDNAを分離するDEPの本質的な能力に付加したものである)。
【0055】
流体の制御およびパルスDC電気泳動と、複数のAC周波数、すなわち最初の電極アレイのサブセットにCNPおよび高分子量DNA/RNAナノ微粒子を捕集するための低周波、および他の電極アレイのサブセットに細胞、徐々に大きくなる粒子(細菌およびウイルス)を捕集するためのより高いAC周波数の使用とを組み合わせると、ほとんどの細胞および物質をサイズ別に完全に分離することができる。電極については、必要に応じて、より微細な分離が局所的に行えるように、サイズ分離全体を全体として維持しながら異なる周波数に切り換えてもよい。
【0056】
強固な白金平面電極アレイ構造体および補助電極を含む装置であって、そこに複雑な生物学的サンプル(血液、血漿、血清)を直接導入すると、1つまたは複数のファンクションジェネレータからの制御されたAC信号により誘電泳動力が発生し、制御されたDC電源により電気泳動力が発生する装置を含む分離システムについて記載する。また、装置の入口および出口はこのシステムを介して、制御された流量で流体(水、緩衝液など)の通過を制御できる。さらにこのシステムは、装置上で起こっている分離工程(目視および蛍光)のモニタリング、検出、定量および記録を行う光学/落射蛍光顕微鏡およびデジタルカメラも含む。この装置は、最終的には動電効果、誘電泳動力、電気泳動力、微小電気泳動および流体を制御することで可能になる多重化並列階層選別システム(multiplexing,parallel hierarchical sorting system)である。こうした新規の多重サンプルの応答工程は、従来の装置に見られる不都合な泡立ち、加熱および電気化学作用が新規のDEP装置によりなくなるか、または大幅に抑制されることで可能になることに留意されたい。
【0057】
図3に示す装置は、サンプル流体が流動できるハウジング302を備えた平面白金電極アレイ装置300の一形態に過ぎない。装置を通る流体パターンは、大きな矢印で示しており、図の上端の入口端部304から下部の出口端部306および側方の分析物出口308への理想的サンプルの流れを表す。装置は複数のAC電極310を含む。例図を簡潔にするため、図3に示す電極310はごく一部に過ぎないが、図面の小さい白丸はそれぞれ構成が類似した電極を表すことを理解すべきである。拡大した3×3電極アレイ312の1つを、装置300内のサンプル流体を示すため図面の右側に図示する。このサンプルは、ミクロンサイズの物質または細胞314(拡大図に示す一番大きな黒塗りの丸)、比較的大きいナノ微粒子316(中間サイズの黒塗りの丸)および比較的小さいナノ微粒子または生体分子318(一番小さいサイズの丸)の組み合わせからなる。比較的大きいナノ微粒子316は、サンプル中に分散する高分子量DNA、ヌクレオソームまたはCNPもしくは細胞残屑を表す場合がある。比較的小さいナノ微粒子318は、タンパク質、比較的小さいDNA、RNAおよび細胞断片を表す場合がある。図の平面電極アレイ装置300は60×20電極アレイであり、3つの20×20アレイに区切ることができ、アレイは別々に制御できる一方、同時に作動させることも可能である。電気泳動のため、図の上部にある補助DC電極320は正電荷に切り換えることができ、図の底部にあるDC電極322は負電荷に切り換えることができる。制御されたACおよびDCシステムは各々、連続および/またはパルスの形で使用することができる(たとえば比較的短い時間間隔でそれぞれパルスをオンオフすることができる)。サンプルの流れの側面に沿った平面電極アレイ324は、ナノポーラス材料で積層されている場合、DC電気泳動力およびAC DEPを発生させるのに使用することができる。加えて、アレイおよび/または補助電極の平面電極を用いれば、ナノポア層内においてx−y−z次元で微小電気泳動の分離工程を行うこともできる。一般にこうした装置およびシステムは、AC周波数範囲1000Hz〜100mHz、1ボルトから2000ボルト pt−ptまでの幅があってもよい電圧、DC電圧1ボルト〜1000ボルト、流量10マイクロリットル/分から10ミリリットル/分、温度範囲1℃〜100℃で作動可能である。コントローラ108(図1)は、電極310、320、322、324をそれぞれ独立に制御する。コントローラは、ソケットおよびプラグ接続(図示せず)などにより装置100に外部接続されていてもよいし、または装置ハウジングに組み込んでもよい。電極の導電線は、図を簡潔にするため図面に示していない。
【0058】
サンプル中の細胞および粒子ならびに他の物質は、拡大した3×3電極部312にしか図示されていないが、電極アレイ全体に均一に分布すると考えられる。流体の流量は、比較的大きい粒子が受ける負のDEPより強いが、比較的大きい粒子が受ける正のDEPよりも弱い力を示すような流量である。
【0059】
図4は、パルスがオンオフ(1秒間隔でオンオフ)される上部DC電極320および底部DC電極322を示す。これらの電極によりDNA、RNAおよび小型ナノ微粒子を図面の上部にある正のDC電極320へと押しやる電気泳動の短いパルスが与えられる。60×20電極アレイは、独立に制御される3種類の部分すなわちサブアレイに分けられるものとして表示してある。上部20列のAC電極アレイ402は、比較的低い周波数の正のDEPおよびAC動電現象により通常電極の方に移動する比較的小さい物質がその電極に捕集され、同時にこうした周波数で比較的大きい細胞および物質が負のDEPを受けることで一定の流体により装置の低部に移動するように比較的低周波のAC電場に調整される。AC電極の中央20列404は、ミクロンサイズの粒子および細胞を流す一方で、大きなサブミクロン粒子(たとえばウイルス)を保持する。最後に、AC電極の最後の20列406は、必要に応じて、所望の細胞およびミクロンサイズの粒子の捕捉に使用できる高いAC周波数に調整することができる。
【0060】
図5は、「百万個の細胞中の1個の細胞」単離する、すなわち希少な細胞を検出するための分離機構を示す。完全な電極アレイを用いることで、分離の問題を多重並列化して簡素化することができる。これは、分離を改善するのに必要なだけの電極アレイを作動させさえすれば実現することができる。全細胞が均一に分布しているならば、光学検出(すなわち落射蛍光)により解析できる特定の分離領域にアレイを効率的に分割することで、正のDEPを受けているある特定の細胞をその周囲の全細胞から分離することが可能になるはずである。図5では、中間サイズの黒塗りの丸502がリンパ球、赤血球および同種のものなど、ある特定の1種の10μmの細胞を表し、AC電極の第3の部406のAC電極506上に1つだけある黒塗りの丸504は、サンプル中の他の502と異なる種類の唯一の「百万個の細胞中の1個の細胞」を表す。この細胞は、正の誘電泳動を受けるため、他の細胞と区別しやすい唯一の細胞でもある。誘電泳動を使用するだけでも、唯一の「百万個の細胞中の1個の細胞」である504細胞型を、区別されていない502細胞型から分離できるはずである。これについては、分離の問題を、より分離および解析しやすい小型のまとまりに分散させるのに十分な数のAC電極があれば、さらに実現しやすくなる。細胞型の分離の問題がこうした形で分散されるならば、図5に示す3×3アレイなど特定の電極アレイ部を1回解析するだけで、目的の唯一の粒子504の発見が可能になるはずである。また、選択性および効率性を高めた細胞の分離(たとえば癌および幹細胞の分離)を行うには、温度制御が有効である場合がある。
【0061】
図6は、パルスAC DEP/DC電気泳動/制御された流体の流れの組み合わせを施す前の血液サンプル分離工程のより詳細な模式図を示す。図6の図は、血液などの複雑なサンプル中で認められるであろうと推定される様々な診断用およびバイオマーカー物質の一部を示す。そうした物質として、赤血球および白血球、細菌、ウイルス、ナノベシクル、DNA/RNAナノ微粒子、DNAおよびRNAフラグメントの組み合わせ、ならびにタンパク質を挙げることができる。図6図はさらに、中間密度のナノポア層604、低密度のナノポア層606、およびAC電極310の真上にある高密度のナノポア層608で覆われた平面白金アレイ電極310も示す。
【0062】
図7は、パルスAC DEP/DC電気泳動/制御された流体の流れの組み合わせの最初の段階における血液サンプルを示す。図7では、アレイ装置300全体を利用して、様々なクラスの物質を各電極サブアレイ部402、404、406(それぞれ上方、中央、下部)に濃縮し始める全体的な分離工程が行われる。
【0063】
次に図8は、パルスAC DEP、DC電気泳動および制御された流体の流れの組み合わせの最終段階における血液サンプルを示す。図8では、様々な物質がそのしかるべき電極アレイ部402、404、406に濃縮されている。この例では、DNAナノ微粒子および比較的小さいDNAフラグメントを上方のアレイ部402に、細菌、ウイルスおよびナノベシクルを中央のアレイ部404に、細胞およびタンパク質を下方のアレイ部408に示してある。
【0064】
図9は、上方のアレイ部402においてパルスAC DEPおよびDC電気泳動により、蛍光染色したDNAナノ微粒子、非常に高分子量のDNA、および中〜比較的低分子量のDNAの選択および分離が行われるAC電極アレイの拡大図を示す。このときこれらの物質は上方のアレイ部において濃縮および単離されているため、適当なDNA蛍光色素試薬による選択的な染色が可能になり、ここで第2の分離工程を行うことができる。
【0065】
図10は、上方のアレイ部402においてパルスAC DEPおよびDC電気泳動の組み合わせにより、蛍光染色したDNAナノ微粒子、非常に高分子量のDNA、および中〜比較的低分子量のDNAの最初の選択および分離が行われるAC電極アレイの拡大図を示す。この最初の工程では、DNAナノ微粒子が、この非常に大きなDNA物質を通さない細孔サイズを持つ中間のナノポア層の上部に濃縮され始める一方、より中分子量および低分子量のDNAフラグメントはより低密度のナノポア層に移動される。
【0066】
図11は、上方のアレイ部402においてパルスAC DEPおよびDC電気泳動の組み合わせにより、蛍光染色したDNAナノ微粒子、非常に高分子量のDNA、および中から比較的低分子量のDNAの最終的な選択および微小電気泳動による分離が行われるAC電極アレイの拡大図を示す。装置300の作動のこの時点で、DNAナノ微粒子および非常に高分子量のDNAは中間密度のナノポア層604の上部に十分に濃縮および単離され、より中分子量および低分子量のDNAフラグメントは内部の低密度ナノポア層606内に濃縮される。
【0067】
図12は、DNAナノ微粒子および非常に高分子量のDNAの除去後に中および低分子量のDNAフラグメントがアレイ上でDC電気泳動によりサイズ分離されるAC電極アレイ402の拡大図を示す。DNAナノ微粒子および非常に高分子量のDNAは装置300の別の部分でさらに解析されるのに対し、より中分子量および低分子量のDNAフラグメントは、ナノポア層604、606、608内の微小電気泳動によりサイズ分離することができる。図12は、AC電極310aの中に正に荷電しているものもあれば、負に荷電しているAC電極310bもあることを示す。
【0068】
図13は、装置300の下方のアレイ部406上で最初のパルスAC DEPが赤血球および白血球に印加されるAC電極アレイの拡大図を示す。この工程では、サンプル中のタンパク質を装置の別の要素上で除去および/または解析しながら、下方のアレイ部406上でAC DEPにより細胞および他のミクロンサイズの物質をさらに分離し区別することができる。
【0069】
図14は、装置300の下方のアレイ部406上で最終のパルスAC DEPが赤血球および白血球に印加される電極アレイの拡大図を示す。装置の作動のこの時点で、赤血球および白血球はDEPの高電場および低電場領域に分離されており、その後赤血球は除去し、白血球はさらに区別することができる。すなわち、癌細胞を単離する工程を開始することができる。
【0070】
図15は、装置300の中央のアレイ部404上で最初のパルスAC DEPにより細菌、ウイルスおよびナノベシクルが分離されるAC電極アレイの拡大図を示す。図15の図は、独立に制御できるアレイ装置300の小区画部が重要な追加の分離工程を行うのにどのように使用し得るかを示す例である。
【0071】
図16は、装置300の中央のアレイ部404において最終のパルスAC DEPにより細菌、ウイルスおよびナノベシクルが分離される電極アレイの拡大図を示す。この場合も、この中央のアレイ部上での分離工程が、アレイの他の小区画部上で行われる、これ以外の分離工程と同時に、かつ独立に実施できる点に注目すべきである。たとえば上方のアレイ部上ではDNAフラグメントの分離を行うことができ、同時に他の(下部)アレイ部上では細胞の分離を行うこともできる。
【0072】
最後に、並列多重電極アレイは細胞の階層的選別と併用して、電極の列内に規定の領域を作製することができ、サイズは類似しているが、誘電特性が異なる特定の粒子を捕集することができる。種々の診断および治療用途において動電、誘電泳動、電気泳動および流体の力および効果をすべて相互に併用すれば、装置における分離の感度および効率を向上させることができる。最も重要なのは、こうした高性能で臨床的に有用な分離工程が実現されるのは、動電、電気泳動および流体の力および効果が、適切な規模に設計され、制御された電極アレイ装置上で独自に組み合わされる場合に限られることである。損失がなく(lossless)、標識しない場合がある(potentially label less)並列分離法である誘電泳動は、この種の分離だけでなく、様々な用途に使用される細胞およびナノ粒子の分離の水準をさらに大きく改善するため、非常に多くのサンプル調製を必要とするだけでなく、サンプルの損失がより大きいフィールドフローフラクション、蛍光励起細胞分取(FACS)または磁気による細胞分離などの従来型に近い分離法と併用してもよい。
【0073】
図示した実施形態の他の態様については、標識(光学蛍光、発光、電気化学、磁気など)を分離対象の細胞、ナノ粒子およびバイオマーカーに加えると、標識が物質のサイズ、伝導度および検出性に作用するため、本明細書に記載の多重化は一層効率的になると考えられる点を指摘しておきたい。
【0074】
現時点では、上述のDEPによる分離機構は初期の実施例データ段階にある。細胞、ナノ粒子および高分子量DNAなどの生物材料を加えて分離を行う上記のような電極アレイ構造を用いて、プロトタイプシステムを構築した。この場合、アレイ構造内の電極のサブセットは、デスクトップまたはワークステーションコンピューターなどの従来のコンピューター上で実行可能な好適なソフトウェアプログラミングの制御下で作動するファンクションジェネレータにより選択的に電圧が加えられる。この器具を用いれば、個々の電極を制御することができる。このプロトタイプシステムは、分離実験のモニタリングおよび記録に関連する落射蛍光顕微鏡を備える(追加説明のための以下の実施例のセクションを参照)。
【0075】
種々の分離および単離の用途としては、血液、他の体液または任意の緩衝液から、たとえば造血前駆細胞などの成体幹細胞を単離するための希少な細胞の検出;癌検出および他の診断を目的とした血液、他の体液または他の緩衝液中の細胞と、タンパク質と、DNA/RNAフラグメントとの粗分離(gross separation);研究、診断および治療を目的とした血液、他の体液または他の緩衝液からの癌細胞の単離が挙げられる。また、環境モニタリングのための、さらに病原体およびバイオテロ病原体の迅速な検出のための使用も想定される。最後に、本発明に記載のシステム、装置および技法は、薬剤ナノ粒子およびナノベシクル以外にも、量子ドット、金属ナノ粒子、カーボンナノチューブ(CNT)、ナノワイヤー、さらにはミクロンおよびサブミクロンのCMOS装置および要素など、種々の非生物学的物質の分離、単離および精製にも使用し得ることが想定される。図示した実施形態においては、基本的に水性または混合溶媒系に懸濁または可溶化できるどのような巨大分子またはナノ要素も、本明細書に記載の技法を用いて処理することができる。また、我々は現在、こうした新規の装置により、DNAおよび他のバイオ誘導体化(bioderivatized)ナノ粒子、ナノ要素およびメソスケールの物体の誘導自己組織化を行うことができると考える。これは、診断剤、治療剤送達によるインビトロマイクロサージャリーを行うため、すなわち凝結塊およびプラークを除去し、アテローム性動脈を修復するため血流中に導入できる(同名の映画から着想を得た)高度に統合された細胞サイズの「ミクロ決死隊(Fantastic Voyage)」装置など、新規のDNAジェノタイピングおよびシーケンシング技術($1000ゲノム)およびナノ/マイクロバイオ/ケムセンサーへの応用;およびナノ電子、ナノ光学、光起電、燃料電池、バッテリー、ナノ材料および多くの他の異種材料集積(heterogeneous integration)への応用につながる可能性がある。
【0076】
本明細書に記載の装置および技法を用いれば、分離操作により、少なくとも1種の生物材料を電極の小区画部の1つに保持しながら、サンプル流体の残りを装置から洗浄して、試薬をサンプル処理装置に導入し、続いてサンプル処理装置内に保持された生物材料種と導入した試薬を反応させることで「サンプルの応答」の結果を得ることができる。上述のように、試薬は、蛍光色素、抗体、または同種のものを含んでもよい。このサンプルの応答法を用いれば、上記のようにPCR操作および同種のものなど種々の作業を行うことができる。
【0077】
本発明の理解を得られるように、現時点での好ましい実施形態によって本発明について上述してきた。しかしながら、装置、システムおよび分離機構には本明細書に具体的に記載してはいないものの、本発明に該当する多くの構成および配列順序がある。したがって、本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態に限定されるものとして見なすべきではなく、本発明がむしろ、生物学的分離システム全般に対して広い適用性を有することを理解すべきである。このため、添付の特許請求の範囲の範囲内にある改変、変更または等価な配列および実装はすべて、本発明の範囲内と見なすものとする。
【実施例】
【0078】
緩衝液および伝導度の測定
5倍濃縮トリス・ホウ酸・EDTA(TBE)緩衝溶液をUSB Corporation(USB、Cleveland、Ohio、USA)から入手し、脱イオンミリQ超純水(55nS/cm)を用いて0.01×TBE、0.1×TBEおよび1×TBEの濃度に希釈した。ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(1×PBS)溶液をInvitrogen(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)から入手し、ミリQ水を用いて0.1×PBSに希釈した。適切な伝導率標準液(conductivity standards)で調整した2セル(範囲:10〜2000μS)および4セル(範囲:1〜200mS)電極を用いてAccumet Research AR−50 Conductivityメーター(Fisher Scientific、Fair Lawn、NJ、USA)で伝導度の測定を行った。以下の緩衝液伝導度を測定した:0.01×TBE−18.1μS/cm;0.1×TBE−125μS/cm;1×TBE−1.09mS/cm;0.1×PBS−1.77mS/cm;および1×PBS−16.8mS/cm。
【0079】
粒子、ナノ粒子およびDNAの誘導体化
NeutrAvidinを表面被覆した蛍光ポリスチレンナノ粒子(FluoSpheres)をInvitrogen(Invitrogen、San Diego、CA、USA)から購入した。ナノ粒子の直径は0.04μm(40nm)および0.2μm(200nm)であった。40nmのポリスチレンナノ粒子は赤色蛍光(ex:585/em:605)であり、200nmのポリスチレンナノ粒子は黄色−緑色蛍光(ex:505/em:515)であった。より大きな10.14μmのカルボキシル化ポリスチレン粒子をBangs Labs(Bangs Labs、Fishers、IN、USA)から入手した。ビオチン化DNAオリゴヌクレオチド配列をTrilink Bio Technologies(Trilink、San Diego、CA、USA)から入手した。40nmのナノ粒子の誘導体化に使用した51merの一本鎖DNAオリゴヌクレオチドは配列が[5]’−ビオチン−TCA GGG CCT CAC CAC CTA CTT CAT CCA CGT TCA CTC AGG GCC TCA CCA CCT[3]’であった。使用した23merの第2の一本鎖DNAオリゴヌクレオチドは配列が[5]’−ビオチン−GTA CGG CTG TCA TCA CTT AGA CC[3]’であった。まず40nmのNeutrAvidinナノ粒子を様々な濃度のトリス・ホウ酸・EDTA(0.01×、0.1×、1×TBE)またはリン酸塩緩衝生理食塩水(0.1×、1×PBS)緩衝液に懸濁して、ビオチン化DNAオリゴヌクレオチドでこのナノ粒子の誘導体化を行った。この混合物に、51merのss−DNA配列に対して400:1(DNA:40nmのナノ粒子)の割合の量で、23merのss−DNA配列に対して6500:1(DNA:40nmのナノ粒子)の割合の量でss−DNAオリゴヌクレオチドを加えた。DNAを加えたら、この溶液を高速度で20秒間ボルテックスし、次いで約20分間反応させた。40nmのDNA誘導体化ナノ粒子の実験では、0.5μLの原液を299μLの適当な緩衝液に加えてDNAナノ粒子混合物を作製した。200nmのナノ粒子の実験では、0.5μLの原液を299μLの適当な緩衝液に加えた。最後に、このサンプルに10.14μmのポリスチレン粒子原液1μLを加え、次いでサンプルを約10秒間ゆっくりと混合した。これでサンプルをマイクロアレイカートリッジ装置に充填する準備が整った。
【0080】
DEP微小電極アレイ装置
本試験に使用した微小電極アレイ装置は、Nanogen(San Diego、CA、USA、NanoChip(登録商標)100Cartridge)から入手した。アレイの円形微小電極は直径が80μmで、白金製であった。このマイクロアレイは10μm厚の多孔性ポリアクリルアミドヒドロゲル層で被覆されている。マイクロアレイは、アレイ上にガラス窓で覆われた20μLのサンプルチャンバーを形成するマイクロ流体カートリッジに封入される。個々の微小電極の電気的接続部は、カートリッジの底部にピンで留められている(pinned out to)。9枚の微小電極の3×3サブセットだけを使用してDEPを行った。チェッカーボードアドレッシングパターン(checkerboard addressing pattern)内の9枚の微小電極に交流(AC)電界を印加した。このチェッカーボードアドレッシングパターンにおいて、各微小電極は最近接電極と反対のバイアスを持つ。このパターンによる形成される非対称な電界分布に対応するコンピューターモデルは、既に考察されている[27]。このモデルでは、正のDEP電界の最大値(高電場領域)が微小電極(上)に存在し、負のDEP電界の最小値(低電場領域)が電極間の領域に存在することが示される。一般に、低い導電率溶液におけるDEPの場合、60nmのDNAおよび200nmのナノ粒子は微小電極の正または高電場領域に濃縮されると予想され[28]、10ミクロン粒子は微小電極間の負または低電界DEP領域に濃縮される[29]。この以前のモデルの計算は、5×5微小電極セットを対象に行われた[27]。各実験の前に、マイクロアレイカートリッジを、200μLの適当な緩衝液で5分にわたり10回フラッシュする。カートリッジを5分間静置し、次いで200μLの緩衝液でさらに2回洗浄する。次いでナノ粒子混合物を含むサンプル溶液を合計150μLゆっくりとカートリッジに注入し、最終的に約20μLのサンプル量がカートリッジに残る。
【0081】
実験構成、測定、蛍光およびSEM解析
本マイクロアレイ装置は、100枚の各微小電極に印加される電圧を個々に制御できる特注の切り換えシステム(我々の実験室において設計および構成された)を用いて制御した。微小電極を、Agilent 33120A Arbitrary Function Generator(Agilent、Santa Clara、CA、USA)を用いて適切なAC周波数および電圧に設定した。AC周波数は、10ボルト 最大振幅で1000Hz〜10,000Hzの範囲であった。実験に使用した波形はすべて正弦波であった。実験は、適切な励起および発光フィルター(緑色蛍光Ex505nm、Em515nm;赤色蛍光Ex585nm、Em605nmを使用してJenaLumar落射蛍光顕微鏡(Zeiss、Jena、Germany)の10×PL Fluotar対物レンズで可視化した。バックライト画像および蛍光画像はどちらもOptronics 24−bit RGB CCDカメラ(Optronics、Goleta、CA、USA)を用いて撮像した。画像データは、Adobe Premiere Pro(Adobe Systems Inc、San Jose、CA、USA)あるいはWindows Movie Makerを用いてラップトップコンピューターに接続されたCanopus ADVC−55ビデオキャプチャカード(Canopus、San Jose、CA、USA)により処理した。最終の蛍光データは、0分時点、30秒時点、1分時点、2分時点、4分時点、8分時点、16分時点および20分時点にビデオの個々の蛍光画像フレームをMATLAB(Mathworks、Natick、MA、USA)に入力して解析した。グラフは、微小電極全体の蛍光強度値に関するMATLAB解析により得られたデータからExcelを用いて作成した。MATLABを用いて作成した。グラフの作成には以下のデータを使用した:σp(200nm)=18mS、σp(40nm+DNA)=50mS Ks=0.9nS、εp=2.55ε0。r=30nmおよびr=100nm。f=3kHz。DEP実験の終了後、FCOSマイクロアレイの表面からすべての流体を除去し、Phillips XL30走査型電子顕微鏡(SEM)で視覚化した。SEMを用いてマイクロアレイの表面上の最終的なナノ粒子層を画像化した。
【0082】
本記述に引用した参考文献は以下の通りである:
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3.Becker,F.F.;Wang,X−B.;Huang,Y.;Pethig,R.;Vykoukalt,Y.;Gascoyne,P.R.C.Separation of Human Breast Cancer Cells From Blood by Differential Dielectric Affinity.Proceedings of the National Academy of Sciences,92:860−864;1995.
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル流体中の生物材料を分離するためのサンプル処理装置であって、
前記サンプル流体を供給し、前記サンプル流体を電極アレイに導く少なくとも1つの入口と、
前記電極アレイから前記サンプル流体を受け取る少なくとも1つの出口
とを含み、
前記電極アレイは、電極の少なくとも1つの小区画部が、電極の残りの小区画部と異なるように帯電することができることにより、異なるように帯電した前記電極によって、前記電極においての異なるように帯電した誘電泳動(DEP)力領域(force region)を構成し、前記異なるように帯電したDEP力領域によって、前記生物材料の分離を開始できるように形成された複数の電極を含む、サンプル処理装置。
【請求項2】
前記電極アレイは、
前記装置の前記入口と前記出口との間の平面領域に配列される複数の交流(AC)電極と、
前記AC電極に隣接して配列される複数の直流(DC)電極
とを含む、請求項1に記載のサンプル処理装置。
【請求項3】
前記DC電極は、前記AC電極の前記平面領域の外側に延在する、請求項2に記載のサンプル処理装置。
【請求項4】
前記AC電極の少なくとも1つの小区画部は、前記残りのAC電極の小区画部と、電流の周波数が異なるAC電流が流される、請求項2に記載のサンプル処理装置。
【請求項5】
前記電極は、電解作用による腐食に対して抵抗性がある強固な材料で構成される、請求項1に記載のサンプル処理装置。
【請求項6】
多孔性材料が電解作用による腐食に対して抵抗性を示すように、前記多孔性材料の積層が前記電極に形成されている、請求項1に記載のサンプル処理装置。
【請求項7】
前記装置から分析物の流れを排出する少なくとも1つの分析物の出口をさらに含む、請求項1に記載のサンプル処理装置。
【請求項8】
生物材料を分離するためのシステムであって、
請求項1に記載のサンプル処理装置と、
前記サンプル処理装置の前記電極に選択的に電圧を加え、前記生物材料の分離を開始させるように形成されるコントローラ
とを含む、システム。
【請求項9】
前記生物材料から分離される生物学的成分の前記分離工程および解析のモニタリングに関連する検出システムをさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
生物材料を分離する方法であって、
前記生物材料を、電極の少なくとも1つの小区画部が、電極の残りの小区画部と異なるように帯電できることにより、異なるように帯電した前記電極によって、前記電極において異なるように帯電した誘電泳動(DEP)力領域を構成できるように形成された、複数の前記電極を有する電極アレイを備えたサンプル処理装置に供給すること、
前記電極を選択的に電圧を加え、前記異なるように帯電した電極によって、前記電極において異なるように帯電したDEP力領域を構成すること、
前記異なるように帯電したDEP力領域によって、前記生物材料を、前記サンプル処理装置の分析物の出口に供給される少なくとも1種の分離された分析物成分と前記生物材料の残りの成分とに分離すること
を含む、方法。
【請求項11】
分離される生物学的成分の分離工程および解析のモニタリングをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記分離することは、前記電極の小区画部の1つに少なくとも1種の生物材料が保持されることを含む、請求項10に記載の方法であって、
前記サンプル処理装置に試薬を導入すること、
前記サンプル処理装置において前記導入した試薬を前記保持された生物材料種と反応させること
を含む、方法。
【請求項13】
前記試薬は蛍光色素を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記試薬は抗体を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記反応させることは、前記保持された生物材料種についてPCR操作を行うことを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
生物材料を分離するためのシステムであって、
電界が外側の電極チャンバーから通過できる孔(ポータル、穴)を持つ内側のチャンバー構造体により区切られ、かつ各々が電極を有する2つ以上の異なる電極チャンバー構造体と、前記生物材料を供給する前記内側のチャンバーへの入口と、前記生物材料の分離された成分を前記内側のチャンバーから受け取る少なくとも1つの分析物の出口と、前記生物材料の残りの成分を受け取る別の出口と、
前記電極に選択的に電圧を加え、前記生物材料の分離を開始させるように形成されたコントローラと、
分離された生物学的成分の分離工程および解析のモニタリングに関連する検出システムと
を含む、システム。
【請求項17】
生物材料を分離する方法であって、
前記生物材料を、外側の電極チャンバー構造体を有する内側のチャンバー構造体、前記生物材料を供給する入口、前記生物材料の分離された成分を前記内側のチャンバーから受け取る少なくとも1つの分析物の出口、前記生物材料の残りの成分を受け取る出口、および分離された生物学的成分の分離工程および解析のモニタリングに関連する検出システムに、前記電極を選択的に電圧を加えることにより供給すること、
前記生物材料を、前記内側のチャンバー構造体の分析物の出口に供給される少なくとも1種の分離された分析物成分と、前記生物材料の残りの成分とに分離すること
を含む、方法。
【請求項18】
請求項11〜15のいずれかに記載のシステムが、分子、ポリマー、DNAおよびタンパク質誘導体化ナノ粒子、量子ドット、ナノチューブおよび同種のものなどのナノ要素、ならびにメソスケールの成分の三次元高次構造体、材料および装置へのアシスト型自己組織化(assisted self−assembly)を行うのに使用される、方法。
【請求項1】
サンプル流体中の生物材料を分離するためのサンプル処理装置であって、
前記サンプル流体を供給し、前記サンプル流体を電極アレイに導く少なくとも1つの入口と、
前記電極アレイから前記サンプル流体を受け取る少なくとも1つの出口
とを含み、
前記電極アレイは、電極の少なくとも1つの小区画部が、電極の残りの小区画部と異なるように帯電することができることにより、異なるように帯電した前記電極によって、前記電極においての異なるように帯電した誘電泳動(DEP)力領域(force region)を構成し、前記異なるように帯電したDEP力領域によって、前記生物材料の分離を開始できるように形成された複数の電極を含む、サンプル処理装置。
【請求項2】
前記電極アレイは、
前記装置の前記入口と前記出口との間の平面領域に配列される複数の交流(AC)電極と、
前記AC電極に隣接して配列される複数の直流(DC)電極
とを含む、請求項1に記載のサンプル処理装置。
【請求項3】
前記DC電極は、前記AC電極の前記平面領域の外側に延在する、請求項2に記載のサンプル処理装置。
【請求項4】
前記AC電極の少なくとも1つの小区画部は、前記残りのAC電極の小区画部と、電流の周波数が異なるAC電流が流される、請求項2に記載のサンプル処理装置。
【請求項5】
前記電極は、電解作用による腐食に対して抵抗性がある強固な材料で構成される、請求項1に記載のサンプル処理装置。
【請求項6】
多孔性材料が電解作用による腐食に対して抵抗性を示すように、前記多孔性材料の積層が前記電極に形成されている、請求項1に記載のサンプル処理装置。
【請求項7】
前記装置から分析物の流れを排出する少なくとも1つの分析物の出口をさらに含む、請求項1に記載のサンプル処理装置。
【請求項8】
生物材料を分離するためのシステムであって、
請求項1に記載のサンプル処理装置と、
前記サンプル処理装置の前記電極に選択的に電圧を加え、前記生物材料の分離を開始させるように形成されるコントローラ
とを含む、システム。
【請求項9】
前記生物材料から分離される生物学的成分の前記分離工程および解析のモニタリングに関連する検出システムをさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
生物材料を分離する方法であって、
前記生物材料を、電極の少なくとも1つの小区画部が、電極の残りの小区画部と異なるように帯電できることにより、異なるように帯電した前記電極によって、前記電極において異なるように帯電した誘電泳動(DEP)力領域を構成できるように形成された、複数の前記電極を有する電極アレイを備えたサンプル処理装置に供給すること、
前記電極を選択的に電圧を加え、前記異なるように帯電した電極によって、前記電極において異なるように帯電したDEP力領域を構成すること、
前記異なるように帯電したDEP力領域によって、前記生物材料を、前記サンプル処理装置の分析物の出口に供給される少なくとも1種の分離された分析物成分と前記生物材料の残りの成分とに分離すること
を含む、方法。
【請求項11】
分離される生物学的成分の分離工程および解析のモニタリングをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記分離することは、前記電極の小区画部の1つに少なくとも1種の生物材料が保持されることを含む、請求項10に記載の方法であって、
前記サンプル処理装置に試薬を導入すること、
前記サンプル処理装置において前記導入した試薬を前記保持された生物材料種と反応させること
を含む、方法。
【請求項13】
前記試薬は蛍光色素を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記試薬は抗体を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記反応させることは、前記保持された生物材料種についてPCR操作を行うことを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
生物材料を分離するためのシステムであって、
電界が外側の電極チャンバーから通過できる孔(ポータル、穴)を持つ内側のチャンバー構造体により区切られ、かつ各々が電極を有する2つ以上の異なる電極チャンバー構造体と、前記生物材料を供給する前記内側のチャンバーへの入口と、前記生物材料の分離された成分を前記内側のチャンバーから受け取る少なくとも1つの分析物の出口と、前記生物材料の残りの成分を受け取る別の出口と、
前記電極に選択的に電圧を加え、前記生物材料の分離を開始させるように形成されたコントローラと、
分離された生物学的成分の分離工程および解析のモニタリングに関連する検出システムと
を含む、システム。
【請求項17】
生物材料を分離する方法であって、
前記生物材料を、外側の電極チャンバー構造体を有する内側のチャンバー構造体、前記生物材料を供給する入口、前記生物材料の分離された成分を前記内側のチャンバーから受け取る少なくとも1つの分析物の出口、前記生物材料の残りの成分を受け取る出口、および分離された生物学的成分の分離工程および解析のモニタリングに関連する検出システムに、前記電極を選択的に電圧を加えることにより供給すること、
前記生物材料を、前記内側のチャンバー構造体の分析物の出口に供給される少なくとも1種の分離された分析物成分と、前記生物材料の残りの成分とに分離すること
を含む、方法。
【請求項18】
請求項11〜15のいずれかに記載のシステムが、分子、ポリマー、DNAおよびタンパク質誘導体化ナノ粒子、量子ドット、ナノチューブおよび同種のものなどのナノ要素、ならびにメソスケールの成分の三次元高次構造体、材料および装置へのアシスト型自己組織化(assisted self−assembly)を行うのに使用される、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図21】
【図22】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図23D】
【図23E】
【図23F】
【図23G】
【図23H】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図24D】
【図24E】
【図24F】
【図25A】
【図25B】
【図25C】
【図25D】
【図25E】
【図25F】
【図25G】
【図25H】
【図26A】
【図26B】
【図26C】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図17】
【図18】
【図19A−D】
【図19E−H】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図21】
【図22】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図23D】
【図23E】
【図23F】
【図23G】
【図23H】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図24D】
【図24E】
【図24F】
【図25A】
【図25B】
【図25C】
【図25D】
【図25E】
【図25F】
【図25G】
【図25H】
【図26A】
【図26B】
【図26C】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図17】
【図18】
【図19A−D】
【図19E−H】
【図20】
【公表番号】特表2011−516867(P2011−516867A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503234(P2011−503234)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/039565
【国際公開番号】WO2009/146143
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/039565
【国際公開番号】WO2009/146143
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
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