説明

細胞および組織のRNAおよび形態の保存

【課題】特別な化学物質、装置、および技術を必要とせず、室温で使用することができる細胞または組織の保存および/または貯蔵のための溶液、その製造方法及び使用法を提供する。
【解決手段】約10%ポリエチレングリコールおよび90%メタノールを含有する保存溶液。この溶液中に保存されたおよび/または貯蔵された組織は、様々な方法により、化学染色および/または抗体結合を含む、細胞学または組織学のために処理を行うことができ;抗原、DNA、およびRNAは、処理された組織から、多収量でかつ最小限の分解もしくは分解を伴わずに得ることができる。この溶液の利点は以下を含む:経済性および安全性、永久保管用材料への容易なアクセス、ならびに細胞分析および遺伝的分析の両方との適合性。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容が本明細書に参照として組入れられる、2002年5月10日に出願された、仮出願第60/379,015号の恩典を請求するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
1.発明の技術分野
本発明は、特に周囲温度で細胞または組織の保存するための、ポリエチレングリコール(PEG)およびメタノールを含有する組成物に関する。これは、細胞または組織の貯蔵に使用することもできる。本発明の組成物により保存されたおよび/またはその中に貯蔵された細胞または組織は、冷蔵または凍結を必要とせずに、その形態学的特徴、同系の(cognate)抗体によるその抗原の認識、およびその核酸(例えば、DNAおよびRNA)の完全性を維持する。
【0003】
2.関連技術の説明
細胞学的および組織学的処理によって、細胞および組織はそれぞれ生体からの摘出後に、それらの自己融解を妨害される。更に、個々の細胞の構造および組織内のそれらの構成は、このような処理により安定化される。しかし、臨床状況において細胞および組織を処理するためにはほとんどの場合において洗練された手法および専用の器具が必要である。従って、標本は通常、医師の診療所または手術の状況において採集され、中央の病理検査室に輸送される。細胞または組織の保存および/または貯蔵のための適当な組成物は、自己融解が防止されること、ならびに細胞の形態、抗原、および核酸が処理がおこなわれるまで維持されることを確実にすることが必要である。
【0004】
更に遺伝子分析は、それら自身より重要であるか、または病理学における細胞染色、酵素アッセイおよび免疫学的技法を補完するようになってきている。変異体遺伝子の発現または正常遺伝子の過剰発現は、核酸の分析により試験することができる。RNAのインサイチューでの検出は、様々な種類の細胞を含む組織内で転写産物を局在化することができ;これは、選別された細胞または切除された組織の様々な部位から抽出されているRNAを検出することにより、実現することもできる。突然変異は、DNAまたはRNAにおいて認めることができる。選別された細胞または切除された組織の細胞学的/組織学的分析および遺伝的分析を交互に使用し、細胞および分子レベルで病理学的事象を相関することができる。遺伝的分析は、分解が防止されおよび巨大分子構造が安定化される場合にのみ可能であろう。しかし、多くの保存用組成物および固定液は、核酸(例えば、DNA、および特にRNA)の構造に、不可逆的損傷(例えば、偏在するヌクレアーゼ酵素の活性、ホスホジエステル結合の加水分解、および/または塩基の脱アミド化)を引き起こし、ならびにそれらの収量を減少し、これにより診断および研究用途のための遺伝的技術の有用性を制限する。結果的に、新鮮な細胞または組織内の核酸の保存には、細胞学的、組織学的、免疫学的、および遺伝的技術の組合せによる試験を可能にするために、通常即時処理または凍結のような特別な取扱いが必要である。
【0005】
本明細書において開示された組成物は、米国特許第6,207,408号(特許文献1);国際公開公報第01/44783号(特許文献2);および、国際公開公報第01/44784号(特許文献3)に開示されたような、従来の組織処理または他の処理法において有利にするために使用することができる。従来の技術は、Thompsonの論文(Selected Histochemical and Histopathological Methods、スプリングフィールド, IL:Thomas、1966)(非特許文献1)、SheehanおよびHrapchakの論文(Theory and Practice of Histotechnology、セントルイス、MO:Mosby、1973)(非特許文献2)、BancroftおよびStevensの論文(Theory and Practice of Histological Techniques、ニューヨーク、NY:チャーチヒルリビングストーン、1982)(非特許文献3);BoonおよびKokの論文(Microwave Cookbook of Pathology、ライデン、NL:Coulomb、1989)(非特許文献4);WoodsおよびEllisの論文(Laboratory Histopathology、ニューヨーク、NY:チャーチヒルリビングストーン、1994)(非特許文献5)などの参考文献に全般的に説明されている。
【0006】
米国特許第3,389,052号(特許文献4);第3,546,334号(特許文献5);第5,104,640号(特許文献6);第5,256,571号(特許文献7);第5,849,517号(特許文献8);および、第6,204,375号(特許文献9);Florellらの論文(Mod. Pathol.、14:116-128, 2001)(非特許文献6);Bostwickらの論文(Arch.Pathol. Lab. Med.、118:298-302, 1994)(非特許文献7);Dimulescuらの論文(Mol. Diagnosis、3:67-71, 1998)(非特許文献8);Maxwellらの論文(J. Clin. Pathol.、52:141-144, 1999)(非特許文献9);Shibutaniらの論文(Lab. Invest.、80:199-208, 2000)(非特許文献10);および、Gillespieらの論文(Am. J. Pathol.、160:449-457, 2002)(非特許文献11)は、保存液および固定液を説明している。
【0007】
本発明の組成物は、新規であり自明ではない。これらは、PEGおよびメタノールを含む非水溶液であり、これは、分解を防止するために、標本を冷却または凍結する不便さを伴わずに、単離された細胞または固形組織中の、形態学的特徴、同系の抗体による抗原の認識、および核酸(例えば、DNAおよびRNA)の完全性を保存する。従って単離された細胞または固形組織は、長期間、周囲温度で保存することができる。本発明による更なる利点および改善点は、以下に考察している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,207,408号
【特許文献2】国際公開公報第01/44783号
【特許文献3】国際公開公報第01/44784号
【特許文献4】米国特許第3,389,052号
【特許文献5】米国特許第3,546,334号
【特許文献6】米国特許第5,104,640号
【特許文献7】米国特許第5,256,571号
【特許文献8】米国特許第5,849,517号
【特許文献9】米国特許第6,204,375号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Thompsonの論文(Selected Histochemical and Histopathological Methods、スプリングフィールド, IL:Thomas、1966)
【非特許文献2】SheehanおよびHrapchakの論文(Theory and Practice of Histotechnology、セントルイス、MO:Mosby、1973)
【非特許文献3】BancroftおよびStevensの論文(Theory and Practice of Histological Techniques、ニューヨーク、NY:チャーチヒルリビングストーン、1982)
【非特許文献4】BoonおよびKokの論文(Microwave Cookbook of Pathology、ライデン、NL:Coulomb、1989)
【非特許文献5】WoodsおよびEllisの論文(Laboratory Histopathology、ニューヨーク、NY:チャーチヒルリビングストーン、1994)
【非特許文献6】Florellらの論文(Mod. Pathol.、14:116-128, 2001)
【非特許文献7】Bostwickらの論文(Arch.Pathol. Lab. Med.、118:298-302, 1994)
【非特許文献8】Dimulescuらの論文(Mol. Diagnosis、3:67-71, 1998)
【非特許文献9】Maxwellらの論文(J. Clin. Pathol.、52:141-144, 1999)
【非特許文献10】Shibutaniらの論文(Lab. Invest.、80:199-208, 2000)
【非特許文献11】Gillespieらの論文(Am. J. Pathol.、160:449-457, 2002)
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、細胞または組織の保存および/または貯蔵のための組成物を提供することである。この組成物は、ポリエチレングリコールおよびメタノールを含有する。これは、実質的に周囲温度よりも低い融点を有する非水溶液であるため好適である。細胞は、細胞学のために保存または貯蔵することができ;組織は、組織学のために保存または貯蔵することができる。細胞または組織由来の抗原または核酸を分析してもよい。形態の保存は、顕微鏡で評価することもできる。抗原および核酸の保存は、細胞または組織からの抽出後の少なくとも部分的な分解されない抗原および核酸の収量、または細胞もしくは組織への増強された抗体結合および相補的プローブハイブリダイゼーションによって評価することができる。この組成物を製造および使用する方法も提供される。
【0011】
本発明の別の目的は、この組成物を伴う標本ホルダー(holder)およびバルクコンテナ(container)である。
【0012】
本発明に従い保存および/または貯蔵された細胞または組織は、更に、細胞学的、組織学的、免疫学的および/または遺伝的に分析するために処理することができる。単離された細胞は、ペレット、塗沫、または懸濁液の形で提供することができ;含浸後に得られた組織の切片またはブロックも提供することができる。保存され、貯蔵されまたは処理された単離された細胞または固形組織から抽出された核酸(例えば、DNAまたはRNA)は、更に本発明の別の態様である。
【0013】
更なる本発明の態様は、以下に詳細に説明されるか、または本明細書において明らかにされたことから当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】RNAが変性条件下で分離される、臭化エチジウム染色したアガロースゲルを示している。組織を、様々な組成物中で3日間(A)または1週間(B)、約25℃でインキュベーションし、RNAを、Trizol RNA単離キット(Gibco BRL社)を用いて抽出した。各試料(AからF)を、2つ組のレーンで流した(1および2)。
【図2】ヘマトキシリンエオシン染色した組織切片を示す。組織は、10%ポリエチレングリコールおよび90%メタノール(A、C、E)またはRNA-later(B、D、F)のいずれかの中で、48時間(A-B)、72時間(C-D)、または1週間(E-F)、約25℃でインキュベーションした。これらは、常法または米国特許第6,207,408号に開示された方法のいずれかで処理し、その後染色した。倍率は、400x(A-F)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の具体的態様の説明
本明細書に説明された組成物は、それらの化学的単純性、組織の形態学的および遺伝的特徴を保存する能力、ならびに周囲温度利用の簡便性および実践性のために開発された。細胞または組織は、そこで貯蔵することができ、ならびに細胞学、組織学、および/または遺伝的分析のための記録保存用給源として利用することができる。これは、前向き研究または後ろ向き研究のために保存および/または貯蔵されてもよい。好ましくはないが、本発明の組成物中の貯蔵は、他の保存剤および/または固定液と細胞または組織を接触した後であってもよい。
【0016】
細胞は、ペレットまたは浮遊液であり、好ましくは生物学的液体(例えば、腹水、血液、脳脊髄液、リンパ液、胸膜滲出液)、臓器吸引液もしくは体腔洗浄液からの細胞浮遊液、または細胞塗沫(例えば、頚管(cervix))からの、単離された細胞であることができる。細胞は、酵素的および/または機械的解離により単離されてもよい。これらは、保存および/または貯蔵前に維持または増殖のために生存細胞として培養されてもよい。細胞は、洗浄および遠心によりペレットへ収集されてもよく;これらは、スライドまたは他の基板上に収集されてもよい。血液および他の単細胞浮遊液に関して、細胞は、沈降または密度勾配遠心分離、被覆したもしくはしていないプラスチックプレート上でのパニング、ガラスウールもしくは他のクロマトグラフィーマトリックスの通過、ロゼット形成、光散乱もしくは蛍光標識抗体による選別、抗体で被覆した磁気粒子への結合、またはそれらの組合せにより単離されてもよい。細胞は、罹患したもしくは罹患した疑いのある(健常または疾患)、もしくは他の病理に冒された、動物またはヒト対象から得られた、癌性(良性もしくは悪性)または前癌性であることができる。これは、剖検もしくは生検(例えば、カテーテル挿管または静脈切開)、または他の液体採取により得てもよい。細胞は、生体またはインビトロ培養物から採取された後1〜30分以内に、本組成物と接触するように配置されなければならないが、この時間は、これらを氷上で冷却することにより延長することができる。細胞は、保存および/または貯蔵することができる。
【0017】
細胞は、細胞学のために処理されてもよい。これらは、スライド上に塗沫され、および顕微鏡で検査される。抗原または抗体は、検出可能である比色、酵素、蛍光、発光、磁気、または放射性部分により、直接または間接に標識することができる。細胞は、抗体パニングまたは選別による抗原発現、または他のアフィニティクロマトグラフィーに従い、同定および/または単離することができる。細胞計算器によって分析することができ、またセルソーターは、そのような細胞を、DNA/RNA含量、サイズ、生存度、蛍光標識した抗体の結合、またはそれらの組合せにより分離することができる。磁気は、抗体被覆した磁気ビーズに結合する細胞を親和性精製するものであってもよい。細胞は、細胞周期、分裂、増殖、またはオルガネラにより特徴付けることができる。負または正の選択(例えば、アフィニティーまたは選別技術)を使用し、細胞集団を単離することができる。
【0018】
組織は、本明細書に説明したように処理することができる。これは、例えば、実質組織、結合組織または脂肪組織、心臓または骨格筋、腎臓、肝臓、皮膚、平滑筋または脾臓などの、固形組織であることができる。任意に、石灰化された組織は、更なる処理前に、無機質脱落する必要があることがある。しかし「組織」は通常、生物学的液体(例えば、腹水、血液、胸膜滲出液)、臓器吸引の細胞浮遊液、もしくは体腔の洗浄液からの単独の細胞、または細胞塗沫を意味する。この組織は、罹患したもしくは罹患した疑いのある(健常または疾患)、もしくは他の病理に冒された、動物またはヒト対象から得られた、腫瘍(良性または悪性)、癌性または前癌性であることができる。これは、剖検、生検(例えば、内視鏡検査または腹腔鏡検査)、または手術切片から得ることができる。組織は、死後または体から摘出後1〜30分以内に本組成物と接触するように配置しなければならないが、この時間は、氷上での冷却により延長することができる。組織片(例えば、スライスまたはブロック)は、本発明の組成物と共に保存されるかおよび/またはその中に貯蔵されることができ;保存および/または貯蔵された組織は、媒体中に包埋することもできる。組織は、隣接切片に適用された異なる分析を使う連続再構成により分析することができる。負または正の選択(例えば、光学ピンセット、またはレーザーアブレーションによる微小解剖)を用い、細胞集団を単離することができる。
【0019】
従来の組織学的処理は、通常反応性生体分子を架橋する固定剤(例えば、アルデヒドを含有する水溶液様緩衝したホルマリン)に関連しているが、時には凝固剤または沈殿剤(例えば、ケトン)であるような固定剤が使用される。組織標本は、しばしば段階的に連続した(例えば、70%〜100%)エタノールを通して脱水し、その後含浸前に連続してキシレンで透明化する。処理は通常、数時間または数日(例えば、一晩)かけて行われる。
【0020】
米国特許第6,207,408号に開示された方法に従う組織学的処理は、時間、温度、および圧力の様々な条件下での、一連の非水溶液中でのインキュベーションにより構成することができる。この組織は、固定され、脱水され、任意に透明化され、かつ含浸されるか;あるいは、組織は、硬化されかつ含浸される。各工程の境界は、一連の溶液のひとつの化学成分は2種またはそれ以上の活性を有する(例えば、固定剤、脱水剤、および透明化剤)ので、重複してもよい。組織処理は、45分間、1時間またはそれ以下、90分間またはそれ以下、もしくは2時間またはそれ以下で完了することができる。迅速および連続した処理は、組織標本の厚さの減少、混合物で構成される一連の非水溶液の使用、マイクロ波エネルギーによる加熱、減圧下または希釈による組織標本の溶媒/溶質交換の推進、機械的攪拌、増強剤もしくは界面活性剤の添加、またはそれらの組合せにより実現される。
【0021】
この混合物は、少なくとも1種の固定剤、少なくとも1種の脱水剤、および少なくとも1種の組織を透明化するおよび/または脂肪を除去する物質(例えば、アルコール、ケトン、キシレンから選択される)を含有することができる。別の混合物は、少なくとも1種の透明化剤および少なくとも1種の含浸剤(例えば、キシレン、ワックス)を含有することができる。組織標本は、異なる鎖長の混合物(例えば、周囲温度で、液体である鉱油および固形物であるパラフィン)で構成されたワックス溶液中に含浸してもよい。多くの化学物質は複数の活性を有するが、好ましい混合物は1種よりも多い化学物質を含む点が注目されるべきである。好ましくは、混合物は、少なくとも2または3種の異なる化学物質を含む(例えば、イソプロパノール、PEG、およびアセトン;イソプロパノール、アセトンおよびパラフィン)。組織標本は、適切に拡散しうるように、それらの最小寸法を3mmまたはそれ以下にすることができ:例えば、組織スライスまたはブロックの厚さは、0.5mm〜3.0mmの間、好ましくは2.0mmまたはそれ以下、より好ましくは1.5mmまたはそれ以下、最も好ましくは1.0mmまたはそれ以下であることができる。その開示は本明細書に参照として組入れられている米国特許第6,207,408号を参照のこと。
【0022】
包埋媒体は、ニトロセルロース、プラスチック、樹脂およびワックスであることができる。組織処理は、生体ポリマー(例えば、核酸、蛋白質、抗原)の自己融解および分解の原因となる酵素を不可逆的に失活するために利用される。従って、包埋された組織のブロックまたはそれらの切片は、貯蔵することもできる。核酸(例えば、DNAまたはRNA)は、好ましくは包埋している媒体の除去後に、組織または切片から抽出することができる。組織切片は、厚さ3μm〜6μm(ニトロセルロースまたはワックス)であるか、または厚さ0.5μm〜1μm(プラスチックまたは樹脂)である。
【0023】
本発明の組成物中に保存された組織による研究は、従来の保存液よりも、核酸のより良い保存を示している。新鮮な組織は、本発明の組成物と接触され、検査室へ配送直後に細胞学、組織学、免疫学および/または遺伝的試験のために処理されるか、または記録保存用材料を貯蔵し、ならびに将来の研究および他の用途への利用を可能にする。先行技術と比べ、遺伝的材料の収量、記録保存型における遺伝的材料の安定性、遺伝的材料のサイズおよび完全性、ならびに減少した遺伝的材料の化学物質修飾において、改善が認められる。連続再構成は、隣接切片に、同じまたは異なる分析を使用することができる。試料は、異なる時点で保存され、後の分析のために保存され得る。保存された組織は、前向き研究または後ろ向き研究に適している。
【0024】
本発明の保存的組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)などを含有する。PEGは、周囲温度よりも低い融点を有することが好ましい。これは、平均分子量約800ダルトンまたはそれ以下、好ましくは約600ダルトンまたはそれ以下、より好ましくは約400ダルトンまたはそれ以下、更により好ましくは約300ダルトンまたはそれ以下を有し;平均分子量は、0〜約800ダルトンの間、約100〜約600ダルトンの間、または約200ダルトン〜約400ダルトンの間である。用語「約」は、PEGの平均分子量について言及する場合、10、25または50ダルトンの変動が許容されることを意味する。より大きい分子量のPEG(例えば、平均分子量1000またはそれよりも大きい)は、好ましくないが、これらは、分子量分布の5%、10%または20%未満の量で存在することはできる。PEG400の融点は、約4℃〜約8℃であり、およびPEG600は約20℃〜約25℃である。この組成物において使用されるPEGの融点は、37℃またはそれ以下、32℃またはそれ以下、27℃またはそれ以下、22℃またはそれ以下、15℃またはそれ以下、10℃またはそれ以下、もしくは5℃またはそれ以下であり;貯蔵時に冷蔵または冷硬(chilled)される組織については、より低い融点が好ましい。
【0025】
本発明のPEG濃度は、約20%(v/v)またはそれ以下、より好ましくは約15%(v/v)またはそれ以下、約5%(v/v)またはそれ以上、約10%(v/v)またはそれ以上、およびそれらの中間の範囲である。用語「約」は、1%(v/v)または2.5%(v/v)の変動を伴うPEG濃度を意味する。PEGは、その分子量に応じて約1.1〜1.2g/mlの密度を有し、そのためここで示された濃度は、比重として1.1を使用し、質量および容量の測定値の間で変換することができる。
【0026】
本発明の保存的組成物は、メタノールなども含有する。例えば、エタノールのようなアルコールは、形態学的分析および遺伝的分析の両方ための組織保存については有効ではない。しかしほとんどの組織学の技術者は、メタノールよりもエタノールを好み、メタノールの揮発性、可燃性および経費のために、アルコール間で代替する動機とはならない。しかし本発明の内容に従い、メタノールは、組織の効果的保存には必要である。反応基を架橋する固定液(例えば、アルデヒド、ケトン)は必要ではない。
【0027】
本発明におけるメタノール濃度は、約95%(v/v)またはそれ以下、より好ましくは約90%(v/v)またはそれ以下、約80%(v/v)またはそれより多く、約85%(v/v)またはそれより多く、およびそれらの中間の範囲であることができる。用語「約」は、2.5%(v/v)または5%(v/v)の変動を伴うメタノール濃度を意味する。メタノールは、密度約0.79g/mlを有し、そのためここで示された濃度は、比重として0.79を使用し、質量および容量の測定値の間で変換することができる。
【0028】
例えば攪拌/振盪、マイクロウェーブ、超音波、周囲温度からの加熱または冷却、凍結、または迅速な処理のような特別な手法は、本発明に従う効果的保存には必要ではない。本発明は、周囲温度(例えば、42℃、37℃、または30℃未満;15℃〜30℃の間、または20℃〜25℃の間)での保存および/または貯蔵を可能にしている。従って、低温(例えば、約4℃または15℃未満)は保存には必要ではないが、貯蔵に使用することはできる。1gの組織について、本組成物約10ml〜25mlを、保存および/または貯蔵媒体として使用することができる。組織への本組成物の通過を確実にするために、組織は薄切することができる(例えば、スライスの最小寸法が約1mm、1.5mm、2mm、2.5mm、3mm、3.5mm、もしくは4mmまたはそれ以下)。貯蔵は、1週間、2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、または1年以上でありうる。
【0029】
本発明の組成物(すなわち、周囲温度で非水溶液)は、望ましい濃度を実現するために適当な量でのPEGおよびメタノールの混合により製造することができる。少量の他の化学物質は、それらが保存剤として作用する組成物の能力に影響しないならば、容認することができる。この組成物は最初は、追加の水を含有しないが、PEGおよびメタノールの吸湿特性または後の組織からの水の抽出のために、少量の水が存在してもよい。
【0030】
本発明の組成物は、組織ホルダー内に提供することができ、これは組織を含浸しおよび漏出を避けるために優先的に適合される。ホルダーは、総容量30ml〜50mlであってもよく、これは組成物中に含浸されるべき1gまたはそれよりも大きいサイズの組織片(例えば、少なくとも総容量の50〜90%)に対して十分な大きさである。例えば、取付けられたまたは個別の密閉具(例えば、嵌合された蓋またはキャップ)を備えるガラスまたはプラスチック製のバイアルを使用することができ;あるいは、密封可能な部分を備えたプラスチックバッグは、含浸を確実にするために空の空間を排除する必要がある。好ましくは、漏出を防止するために、不透明でない(nonopaque)バイアル上にねじ込まれるガスケットを伴うスクリュー式キャップである。より大きい容量(例えば、リットルまたはガロン)は、ボトル、バケツまたは飲み口のついた大型ガラス瓶(carboy)中で提供することができる。それらをその中に配置することができ、ならびにそれが小さい組織片を取り囲みおよび溶液交換を促進するようなホルダーを、コンテナ(例えば、ヒンジ付きカセット、メッシュバッグ、多孔質スポンジ)と共に提供されることができる。このホルダーは、固形組織に適合させることができ、その結果それらの小片は、この組成物中に含浸される。優先的には、固形組織は、ホルダー内のエアポケットを減らすことによりおよび/またはそこにコンテナを有することにより、全ての表面が取り囲まれる。
【0031】
組織ホルダーは、1カートン中に半ダースからグロスの単位の間(例えば、25または100)で包装することができ;ホルダーおよびコンテナは、組織を収集するための使い捨て用のキット中に個別包装されてもよい。個別の識別子(例えば、英数字の印刷、バーコード)または識別子(例えば、組織給源または実施される分析に関する情報)をカスタマイズするために記入可能な表面で、各ホルダーに印をつけることは都合が良いであろう。その中に含まれたスライドまたは綿棒を有する、血液もしくは粥状(pap)塗沫または単独の細胞浮遊液のための異なるホルダーは、固形組織に有用性が制限されているので、好ましくない。
【0032】
組織処理
固定は、組織標本の硬化で開始し、ならびに蛋白質を安定化しおよび分解を停止することにより、形態を保存する。化学的固定を伴わないならば、内在性酵素は、細胞を異化代謝および融解し、ならびに組織の形態は変更されるであろう。固定が不十分であるという表れは以下を含む:組織構造の解離、組織切片中の泡/孔、不良で不規則な染色、縮んだ細胞、細胞質の凝塊、核クロマチンの凝縮および不明瞭さ、ならびに赤血球の自己融解/溶血。長期曝露は、組織を壊れやすく縮んだものにするため、アセトンによる固定は、通常数時間ではなく数分で実現される。ホルマリンによる固定とは対照的に、ケトンおよびアルコールは、それらとの化学的反応を伴わない凝固または沈殿により蛋白質を物理的に安定化することで組織を固定すると考えられる(例えば、アルデヒドが媒介した反応基を架橋)。
【0033】
脱水は、組織標本から水を除去し、硬化を促進する。組織標本中の水の脱水剤との交換も、続いて起こる脱水剤の含浸に使用された材料との交換も促進する。この溶媒/溶質交換は、脱水に揮発性溶媒を用いることにより増強される。標本の脱水の失敗は、不適切な含浸、切片作成時のリボン形成の不良、水が除去されない部分の組織切片内の裂け目、構造の解離、組織切片中の水の結晶、および染色不良につながることがある。
【0034】
任意で、脂肪が、溶媒により組織標本から除去されるが、その理由は脂肪は、透明化および含浸を損うからである。不適切な脂肪除去は、結果的に、組織切片に人為産物を散在させ、組織切片に皺をよらせ、染色を不十分にする。同じく任意で、組織標本が透明化される。透明剤(clearant)は、それらが含浸剤と混和性でない場合は、組織標本の脱水および/または脱脂に使用された溶媒を抽出する。この組織は、「透明」となることができ、およびその不透明性は抽出により低下することができる。
【0035】
最後に、一旦組織標本が適宜固定および脱水された場合は、これは、ニトロセルロース、プラスチック、樹脂、またはワックスのような物質で含浸および/またはその中に包埋されることにより硬化される。形態の適当な保存を伴う組織標本の適当な硬化が、含浸された標本がブロック中に配置され、およびミクロトームナイフで10μmまたはそれよりも薄い切片が切削される前に必要である。好ましい含浸材料は、市販のワックス配合物、異なる融点のワックス混合物(例えば、液体鉱油および固形パラフィン)、ならびにPARAPLAST培地である。パラフィンが、本明細書の実施例における使用のために選択されているが、その理由は、これは安価であり、取扱いが容易であり、およびリボン薄切がこの材料により提供される構造の一貫性(coherence)により促進されるからである。
【0036】
含浸後、組織標本は包埋され、ブロックを作成する。組織標本の包埋に使用される物質は、好ましくは含浸に使用された材料と同じであるが、異なる含浸剤も使用することができる。ブロック化された組織標本は、ミクロトーム上に搭載し、0.5μm〜50μmの間、好ましくは2μm〜10μmの間の切片を切削することができる。組織切片は更に、組織化学染色、抗体結合、インサイチュ核酸ハイブリダイゼーション、増幅、またはそれらの組合せのために処理することができる。この組織標本は、顕微鏡で検査することができるが、細胞特性を試験するための他の技術を使用することができる(例えば、自動化されたフローサイトメトリーまたはスキャンサイトメトリー、生体ポリマー検出または配列決定、オートラジオグラフィー、蛋白質または核酸の電気泳動)。
【0037】
本発明で製造されるガラススライド上のワックスで含浸した切片について、ワックスは溶融され、および染色または免疫組織化学の前に除去することができる。この組織切片は、再水和され、その後染色または抗体により以下に説明したように分析される。染色が完了するかまたは組織化学反応が発生した後、このスライドは、カバースリップをかけ、および顕微鏡下で観察することができる。あるいは、染色されたまたは抗体修飾した標本は、サイトメトリーのための器具で試験することができる。この組織ブロックは、後の試験のために保存することができる。
【0038】
細胞および分子分析
ヘマトキシリンエオシン染色は、一般に細胞学および組織学のために使用され、ならびにこれは、病理学者による比較の標準として使用することもできる。しかし他の色素および染色を使用してもよい。組織に内在する、または抗体および他の親和性結合剤のための標識として使用される酵素は、基質の適切な選択により原位置で局在化され得る。この酵素および基質は反応し、検出可能な生成物を形成する。
【0039】
抗体抗原およびリガンド受容体結合は、蛋白質の配列特異性検出のための基本である。蛋白質は、クロマトグラフィーまたは電気泳動により、少なくとも部分的純粋に、分離および単離することができる。これらは、アレイへの特異的結合、ウェスタンブロット、免疫沈降(IP)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および免疫組織化学法(IHC)により検出されてもよい。
【0040】
本方法により保存された組織切片は、免疫組織化学法を施すことができる。抗原は、本発明、および適宜選択された組織処理条件により保存される。非特異的結合部位はブロックされ、抗原は、特異的抗体(すなわち、一次抗体)により結合され、および結合していない抗体は除去される。プローブまたはシグナル発生部位が標識された場合は、一次抗体は直接検出されるが、しかしこれはプローブを、一次抗体に特異的に結合する蛋白質(例えば、二次抗体)に結合することが好ましい。二次抗体は、一次抗体の重鎖または軽鎖定常領域に対し生じることができる。これは、各々の一次抗体は多くの二次抗体に結合するので、抗原抗体複合体により発生されたシグナルを増幅する。あるいは増幅は、ビオチンストレプトアビジンのような他の特異的相互作用を通じて生じることができる。抗体結合は、高価な試薬の使用を減らしおよび高い結合率を維持するために、小さい容量で行われ;この小さい容量の蒸発は、高湿チャンバーにおけるインキュベーションにより減少される。このシグナル発生部分は、そうでなければ組織中に存在しない酵素であることが好ましく:例えば、アルカリホスファターゼ、およびホースラディッシュペルオキシダーゼを、二次抗体に付着またはストレプトアビジンに複合することができる。可視的に検出することができる、色素、蛍光、または発光生成物を生じる基質は、これらの酵素について利用可能である。
【0041】
抗原の染色パターンは、対比染色により明らかにされた細胞構造の状況で抗原の発現を局在化するために使用することができる。抗原発現を使用し、細胞または組織の型、発達段階、腫瘍診断マーカー、退行性(degenerative)代謝過程、または病原体感染を同定することができる。
【0042】
抗原抗体結合は、オートラジオグラフィー、エピ蛍光顕微鏡、または電子顕微鏡により、各々、放射能、蛍光、またはコロイド状金属プローブによっても、可視化することができる。あるいは抗原は、組織切片から抽出されるか、または直接検出もしくは試験されてもよい。例えば、免疫組織化学法の代わりに、抗原を抽出し、非変性または変性ポリアクリルアミドゲル上で分離し、およびウェスタンブロットで検出することができる。
【0043】
同様のプローブを使用し、遺伝的突然変異または転写産物を同定するために、インサイチュハイブリダイゼーションにより、組織切片中の核酸を検出してもよい。あるいは、核酸(例えば、DNAまたはRNA)は、組織切片から抽出しおよび直接検出もしくはさもなければ試験するか、または更なる遺伝的分析の前に増幅することができる。
【0044】
本発明は、処理の前後の組織からの核酸(例えば、DNAまたはRNA)の調製と両立する。分子生物学的技術については、Ausubelらの著書(Current Protocols in Molecular Biology、ニューヨーク、NY:Greene、2002)ならびにSambrookおよびRussellの著書(Molecular Cloning、第3版、ウッドベリー、NY:CSHL、2001)を参照のこと。
【0045】
本発明の組成物および手法は、遺伝的分析のための材料を保存し、ならびに組織の室温保存および/または貯蔵を可能にする。従って、病理検査室において日常的に採集された組織について、遺伝的研究が可能である。染色または抗体結合により選別された細胞の分析、および遺伝的分析のためのそれらからの核酸の調製により、細胞学的観察を、遺伝的情報に関連づけることができる。同様に、ひとつの切片の染色または抗体結合による分析、および遺伝的分析のための隣接切片からの核酸の調製により、組織学的観察を、遺伝的情報に関連づけることができる。解剖学的詳細は、連続切片の再構成により認めることができる。例えば、同一切片の罹患領域および健常領域を比較し、遺伝的差異(例えば、染色体配列換え、突然変異、転写レベル)を比較することができ、複数の時点で採取した試料中の遺伝的差異を比較することにより、病歴または疾患進行を特徴付けることができ、ならびに原発性癌から転移への腫瘍の発達を、遺伝的差異の蓄積を辿ることにより評価することができる。
【0046】
突然変異は生殖系列であってよく、および疾患の遺伝的素因の追跡に使用することができ、または突然変異は体細胞であってよく、および病因における遺伝的変更を決定するために使用することができる。この疾患は、代謝性または神経性疾患、悪性疾患、発達欠陥症、または感染性物質に起因するものであってよい。
【0047】
遺伝的分析のために、ホルムアルデヒド誘導したDNA異常が排除され、および記録保存用材料からの核酸の抽出が増強される。保存および/または貯蔵された組織からのRNAの研究は、診断および研究の用途に関する多くのこれまで利用できなかった道を開いた。リボヌクレアーゼを阻害または失活する従来のRNA保存剤(例えば、塩化アンモニウムまたは硫酸アンモニウム、βメルカプトエタノール、ジエチルピロカーボネート、グアニジンチオシアナート、胎盤リボヌクレアーゼインヒビター、尿素)は、本発明に従い新鮮な組織を保存するためには不要であるが、保存された組織からのRNAの抽出および単離の間は使用することができる。N-ラウリルサルコシンおよび/または他の界面活性剤(例えば、TRITON X-100)を使用し、細胞膜を溶解しおよびリボヌクレオ蛋白質複合体を解離することができる。RNAは、塩化リチウムにより沈殿されるが、5.8Sより小さいRNAの喪失を、イソプロパノールによる優先的高塩沈殿により最小化することができる。RNAを抽出および単離する市販のキットを利用することができる(例えば、Ambion社、BD Biosciences Clontech社、Invitrogen社、Promega社、Stratagene社)。RNA単離技術は、Chirgwinら(Biochemistry、18:294-299(1979));ChomczynskiおよびSacchi(Anal. Biochem.、162:156-159(1987))および、米国特許第4,843,155号、第5,010,183号、第5,234,809号、および第5,346,994号により説明されている。固形組織は、凍結され、ならびに乳鉢および乳棒により粉末に粉砕され、DOUNCEまたはPOLYTRON装置においてホモジナイズされ、激しく攪拌され、音波処理され、ビーズもしくはフリーザーミルが使用されるか、またはそれらが組合せられる。粗または一部のみ精製されたDNAまたはRNA調製物は、遺伝的に分析することができる。
【0048】
RNAは、溶液中でまたは固形基体(例えば、懸濁液中またはシートとしてのクレイ、シリカ、フィルターメンブレン、常磁性ビーズ、セルロース)への結合により、単離されおよび少なくとも部分的に精製することができる。例えばRNAは、オリゴ(dT)への結合、分別調製、電気泳動、クッション(cushion)を通した沈降、浮揚浮遊(buoyant flotation)などにより、DNA、蛋白質、および他の生体分子から分離することができる。溶液または他の試薬中のリボヌクレアーゼのジエチルピロカーボネート(DEPC)による失活が推奨される。
【0049】
組織から抽出されたRNAの量は、UV吸光度(吸光係数1 OD280/cmは、40μg/ml RNAである)または化学量論的色素結合により測定することができる。夾雑物は、UV吸光度により評価することができ:実質的に純粋なRNAについてOD260/OD280の比は、1.8〜2.0の間であるが、組織給源は、この比に2倍を超えるバイアスをかけることがある。RNAの強力な二次構造は、非変性電気泳動後臭化エチジウム(EtBr)染色したアガロースゲル上で移動を可視化することを困難にしており:多重バンドまたはスメアが、未変性の(native)条件下で分離された単独のRNA種から生じることがある。従って、変性条件(例えば、アルデヒド、ホルムアミド、尿素)下でのアガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動が、RNAの完全性を評価するために好ましい。真核細胞からの総RNAは、比2:1の28Sおよび18SリボソームRNA(rRNA)のはっきりしたバンド、ならびに約6Kb〜約0.5KbのメッセンジャーRNA(mRNA)のスメアとして、変性条件下で移動するであろう。28S rRNAバンドは、18S rRNAバンド強度のおよそ2倍であり;mRNAのスメアは、2.0Kb〜1.5Kbの間でより強い。ポリアデニル化(ポリA+)RNAについて、mRNAスメアのみが可視化される。rRNAバンドの濃度計測は、分解の程度を定量化することができる。あるいは、mRNAは、プライマーにより逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を施し、異なるサイズの生成物のラダーを増幅することができる。比較的大きい生成物は、比較的小さい生成物の前に還元され、その理由は比較的長いRNAは、比較的短いRNAよりもより迅速に分解されると予想されるからである。
【0050】
本発明に従い保存された組織から抽出されたRNAは、遺伝子工学により操作されるかおよび/またはアッセイされる。例えばRNAは、公知の技術(例えば、RNA依存性RNAポリメラーゼによる直接転写、DNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されたプロモーターを含む二本鎖DNAの転写、RNA依存性レプリカーゼによる複製)により増幅することができる。RNAは、cDNAへ逆転写することができ:次にcDNAは、公知の技術により増幅される(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応またはPCR、リガーゼ(ligation)連鎖反応またはLCR、転写媒介性増幅(transcription mediated transcription)またはTMA、転写また複製)。RNAに対応する二本鎖DNAが生成される場合は、その後RNAまたはcRNAのいずれかが、DNA基質の末端で、プロモーターまたはプライマーのいずれかを用いて転写される。固形基体上の標的核酸の捕獲は、RNA、cRNAまたは対応するDNAの局在化または濃縮のための、ハイブリダイゼーションの前、途中、または後に可能である。
【0051】
ストリンジェントなハイブリダイゼーションは、核酸の配列特異的同定を基にしている。DNAは、サザンブロッティングにより検出することができ;RNAは、ノーザンブロティングにより検出することができる。溶液中において、DNAまたはRNAは、ヌクレアーゼ保護により検出することができる。核酸は、クロマトグラフィーまたは電気泳動により少なくとも部分的に精製するために、分離および単離することができる。
【0052】
多重分析を使用し、同時に並行して様々な遺伝子の発現をモニタリングすることができる。このような多重分析は、基体(例えば、ビーズ、ファイバー、膜、またはチップ)上に配置された標的核酸(例えば、RNA、cRNAまたは対応するDNA、一本鎖または二本鎖DNA)に対し相補的なプローブを用い行うことができる。アレイは、プローブでスポットすることができるか、またはプローブは、平坦な基体上の原位置で合成することができ;このプローブは、順序のあるライブラリーとして個々のビーズまたはファイバーに付着することもできる。実時間相対RT-PCR、多プローブリボヌクレアーゼ保護アッセイまたは多プライマー対増幅のような、同時解決(simultaneous solution)法は、各転写産物を、分子量を基に分離することにより解離されている異なる長さの検出された生成物と会合する。遺伝子発現プロファイリングまたは配列同定は、アレイまたは連続的遺伝子発現解析(SAGE)技術を用い行うことができる。
【0053】
アミノ酸配列は、保存および/または貯蔵された組織からの、エドマン分解、ゲル電気泳動もしくはクロマトグラフィー、または質量分析(例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化またはエレクトロスプレーイオン化と組合わせた飛行時間型、トリプル-四重極、四重極-TOF、またはイオントラップ検出)により決定することができる。ヌクレオチド配列は、保存および/または貯蔵された組織からの核酸(またはそれらの増幅産物)について行われる、マキサムギルバート法、サンガー法、またはシーケシングバイハイブリダイゼーション(SBH)法により決定することができる。しかし前述の技術は、それらの配列を決定する必要なく、抗原および核酸を検出および/または同定することができる。
【0054】
下記実施例は、本発明の有用性を説明し、および有効性を実証している。比較例において、先行技術と比較した本発明の利点が示されている。これらの例は、本発明を単に例証することが意図され、およびその実施を制限またはさもなければ限定することは意図されていない。
【実施例】
【0055】
実施例1:DNA抽出
DNAは、様々な溶液(例えば、10%ポリエチレングリコール300および90%メタノール)中に保存した後、AquaPure Genomic DNA単離キット(Bio-Rad Laboratories社)を用い、下記のように組織切片から抽出した:
新鮮なミンチしたマウスの肝臓組織または10%PEG/90%メタノール中に保存された同じ組織20mgを、300μ溶解液が入った1.5mlの微量遠心管中に入れた。このライゼートへ、プロテイナーゼK溶液(20mg/ml)1.5μlを添加し、および倒置混合した後、一晩55℃でインキュベーションした。このライゼートに、RNAse A溶液(4mg/ml)1.5μlを添加し、穏やかに攪拌し、および37℃で60分間インキュベーションした。試料を、室温に冷却し、および蛋白質沈殿溶液100μlを添加した。試料を、20秒間激しく攪拌し、その後16000gで3分間遠心した。DNAを含有する上清を、新たなチューブに移し、100%イソプロパノール300μlで沈殿させた。試料を混合し、および16000gで1分間遠心した。DNAペレットを、70%エタノールで洗浄し、引き続き15分間風乾した。DNAを、DNA水和溶液100μlに溶解し、濃度をUV分光計により決定した。
【0056】
DNA 10mgをTaqI、EcoRIまたはBamHI制限エンドヌクレアーゼを用い消化した。DNA 1μgにつき酵素5ユニットを使用し、適当な制限酵素緩衝液を総容量200μlで用い、一晩消化した。DNAが消化されたことを確認するために、20μlを、0.8%アガロースゲル上に流した。
【0057】
DNA結果:
1. 保存された組織は、新鮮な組織と類似量のDNAを提供した。
2. 組織がホルマリン中に保存された場合、新鮮な組織または10%PEG/90%メタノール中に保存された組織と比べ、約30%未満のDNAが抽出された。
3. 10%PEG/90%メタノール中に保存された組織から抽出されたゲノムDNAを、通常の制限酵素で消化し、およびこれは新鮮な組織またはホルマリン固定した組織由来のDNAと同等の量であった。
【0058】
実施例2: RNA抽出
RNAは、様々な溶液(例えば、10%ポリエチレングリコール300および90%メタノール)中に保存した後、Trizol RNA単離キット(Gibco BRL社)を用い、下記のように組織切片から抽出した:
新鮮な組織または10%PEG/90%メタノール中に保存された同じ組織50mgを、約1mlのTrizol試薬中に配置し、およびポリトロンホモジナイザーを用いて粉砕した。試料を、室温で5分間インキュベーションし、およびクロロホルム0.2mlを添加し、その後15秒間手で混ぜ合わせた。試料を、12000gで15分間5℃で遠心した。水相を除去し、およびイソプロピルアルコール0.5mlを用いて沈殿した。室温で10分間インキュベーションした後、試料を5℃に冷却し、12000gで10分間遠心した。RNAペレットを、70%エタノールで洗浄し、15分間風乾し、およびリボヌクレアーゼ非含有H2Oの100μl中に溶解した。抽出したRNA量を、UV分光光度計により決定した。その量は、変性アガロースゲル上でのRNAの分離により評価し、28Sおよび18SリボソームRNAバンドの強度を比較した。
【0059】
実施例3:組織切片中の抗原の検出
米国特許第6,207,408号に開示されているように、新鮮な組織を処理した後、組織切片に対し免疫組織化学法を行うことができる。比較のために、様々な溶液(例えば、10%ポリエチレングリコール300および90%メタノール)中で保存し、その後米国特許第6,207,408号に従い処理した後、免疫組織化学法を行った。結果を、通常の方法で処理された保存された組織と比較した。
【0060】
子宮平滑筋腫、悪性黒色腫、腎の腎盂腎炎、および正常肝について試験した。下記の抗体を使用した:上皮マーカー(例えば、スペクトルの広いサイトケラチン、サイトケラチン7、上皮膜抗原);メラノサイトマーカー(例えば、S100プロテイン、メランA、チロシナーゼ、HMB-45);核抗原(例えば、エストロジェンおよびプロゲステロン受容体、Ki-67);白血球抗原(例えば、CD45、CD68、CD31);筋肉マーカー(例えば、デスミン、クラデスモン(cladesmon)、筋肉アクチン);内皮細胞マーカー(例えば、第VIII因子関連抗原、CD31);および、肝細胞および腎細胞抗原。全ての組織について、免疫組織化学的結果は、肝細胞抗原に対する抗体とのより低い反応性以外は、ホルマリン中に固定されたものに類似していた。
【0061】
免疫組織化学的手法(工程12から18は、Dako Autostainer装置において行った):
1.パラフィン切片を3ミクロンに切削した。
2.スライドを58℃の炉(または好ましくは37℃の炉)中に30分間放置することにより、パラフィンを溶融した。
3.スライドをキシレンで10分間脱ワックスした。
4.スライドを、漸減するエタノール溶液(すなわち、無水のふたつのバス、95%のふたつのバス、および90%ひとつのバス)により、各々1分間再水和した。
5.内因性ペルオキシダーゼを、6%過酸化水素水(H2O2)溶液で10分間ブロックした。
6.スライドを、1分間水道水中に沈め洗浄した。
7.スライドラックを、1分間PBSバス中に沈め放置した。
8.緑色染色皿中の標的検索(DAKO S1699)20mlと、180ml dH2Oの添加により、標的検索(TR)を調製した。スチーマーにdH2Oを添加し、スチームのスイッチを入れた。標的検索液を含有する染色皿をスチーマーの内側に配置し、およびこれを30分間加熱した。TR溶液は、90℃に加熱しなければならない。
9.スチーマーから染色皿を取り出し、スライドを皿の内側に配置し(手袋使用)、および20分間スチームを通した。
10.スチームを通した後、スライドを同じコンテナ内で30分間冷ました。
11.スライドを、PBS緩衝液中に、室温で配置した(あるいは、スライドを、この緩衝液中に、2分間〜18時間貯蔵し、その後染色を継続した。)。
12.組織切片を、(a)アビジン溶液(DAKO X0590)と10分間インキュベーションした。その後アビジン溶液を、洗浄除去し、および組織切片を、(b)ビオチン溶液(DAKO X0590)と10分間インキュベーションした。ビオチン溶液を洗浄除去し、その後染色法の第一工程を適用した。
13.特異的一次抗体を、各スライドに添加し、次に高湿チャンバーにおいて30分間インキュベーションした。
14.スライドを、ラックに戻し、ラックをPBSバスに2分間沈めた。過剰なPBSを、各スライドから乾燥除去した。架橋溶液(DAKO LSAB+Kit、ビオチン化した抗マウス、抗ウサギおよび抗ヤギ)を添加し、および高湿チャンバーにおいて25分間インキュベーションした。
15.スライドを、ラックに戻し、ラックをPBSバスに2分間沈めた。
16.過剰なPBSを、各スライドから乾燥除去した。ストレプトアビジンペルオキシダーゼ複合体を添加し、および高湿チャンバーにおいて25分間インキュベーションした。
17.ラックをPBSバスに2分間沈め、その後スライドを、DAB色素原(DAKO K3468)と反応させた。これらのスライドを、新たなPBSで4分間洗浄した。
18.スライドを乾燥し、ヘマトキシリンで対比染色した。注意:核抗原については、過剰なPBSをスライドから乾燥除去し、および1%硫酸第二銅を5分間塗布した。スライドを、水道水で2分間洗浄し、その後0.2%ファストグリーン中に1、2秒間置いた。
19.スライドを、一連のアルコール溶液により脱水し、その後キシレンで透明とし、カバースライドを置いた。
【0062】
実施例4:様々な化学組成の比較
好ましい組成物は、10%ポリエチレングリコール300(PEG)および90%メタノールの非水溶液である。形態およびRNAは同じ組織標本において保存されるので、形態学的分析および遺伝的分析の両方に順応可能である保存用組成物が必要と仮定し、様々な溶液を、新鮮な、固形組織の特徴、および米国特許第6,207,408号および通常の方法に従う組織処理とのそれらの適合性の両方について、周囲温度で保存するそれらの能力について評価した。
【0063】
RNAは、新鮮な組織が、ホルマリン(すなわち、水性緩衝液中の10%ホルムアルデヒド)、グルタルアルデヒド、またはメタカム(すなわち、60%メタノール、30%クロロホルム、および10%酢酸)のいずれかと15分間接触された後、完全に分解した。新鮮な組織をイソプロパノール(45%、55%または100%)に1時間固定した後、RNAを、部分的に分解した。アセトンまたはエタノールのいずれかの中で24時間固定した新鮮な組織は、RNAを含んだが、しかし一貫した結果は生じなかった。他方、新鮮な組織が、PEGまたはメタノールのいずれかと接触された場合は、RNAは、最大3週間は周囲温度での分解に対して保護された。
【0064】
10%PEGおよび90%メタノール中で保存された新鮮な組織の形態は、ホルマリン固定した組織と同じ品質であった。同様に、10%PEGおよび90%メタノール中に保存された新鮮な組織に対し行った免疫組織化学法は、ホルマリン固定した組織と同じ品質であった。形態は、少なくとも7日間は室温で維持された。RNAは、周囲温度で最大3週間保護された;RNAは、4℃で少なくとも3週間保護され;RNAは、37℃で少なくとも3日間保護された。
【0065】
(表1)RNAの室温(約25℃)での保存

++ 28Sおよび18SリボソームRNAバンドの分解なし
+ 28Sおよび18SリボソームRNAバンドの分解および/またはより低いバンド強度
0 バンド無し
* 恐らく組織内の水含有のための、一致しない結果
【0066】
細胞または組織の保存について、ポリエチレングリコール300(PEG)濃度は、約10%〜約20%であり、およびメタノール(MeOH)濃度は約80%〜約90%である。ここで、組織(例えば、腎臓、肝臓、皮膚、子宮)を、この溶液と、約25℃で、1時間から7日間接触した。形態維持(HISTO)は、通常の組織処理(米国特許第6,207,408号に開示されたようにプログラムされたTissue Tek)または米国特許第6,207,408号に従う組織処理の後に評価し;同時に、RNA(RNA)の保護は、米国特許第6,207,408号に従う組織処理後に評価した。組織は、手作業により処理し、リボヌクレアーゼまたは他の分解酵素の混入を防いだ。満足できる組織形態は、(+)で示し、および最適下限の形態(すなわち、切片の断片化、不規則な色素染色、免疫組織化学的変動性)は、(+/-)で示した。RNA品質は、++、+および0で表した(表1の凡例参照)。
【0067】
(表2)PEGおよびメタノール濃度の変動

【0068】
表2および図1は両方とも、10%PEGおよび90%メタノールが、形態およびRNAの両方を保存する組成物を提供することを示している。28Sおよび18SリボソームRNAバンドの間の比に加え、高分子量mRNAのスメアは、抽出されたRNAの品質を確認した。メタノール単独の組成物は、RNAは保存したが、長期間の100%メタノールとの接触による組織硬化は、組織学的分析の障害であった。別の極端な例で、高濃度のPEGは、RNAを保存したが、形態は保存しなかった。しかし本発明の組成物は、組織の形態およびRNA内容物の両方を保存した。
【0069】
本発明の組成物による組織保存には、温度低下は必要なかった。保存および貯蔵は、周囲温度(例えば、約25℃)で可能である。従って、冷蔵または冷凍施設は、組織標本の輸送または貯蔵時には不要である。
【0070】
実施例5:RNAlaterによる比較
RNAlater(Ambion社)は、Florellらにより「病理学診断のための組織の完全性、および分子分析のためのRNAの両方」を保存するものとして説明されている(Mod. Pathol.、14:116-128(2001))。RNAlaterの化学組成は、本発明とは異なるが、通常の組織処理または米国特許第6,207,408号に従う組織処理を用い、形態が保存されたかどうかを決定した。
【0071】
マウス肝臓を、10%PEGおよび90%メタノールまたはRNAlater中に、48時間、72時間または1週間保存した。図2は、形態は、10%PEGおよび90%メタノール中でインキュベーションした組織においては保存されたが、RNAlaterは、周囲温度では形態を保存しなかったことを示している。RNAlater中での組織の約25℃でのわずかに48時間インキュベーション後に、核膜の崩壊および核クロマチンの凝縮が存在した。RNAlater中での延長されたインキュベーションにおいて、形態学的特徴の進行性の喪失が存在した。しかし組織の10%PEGおよび90%メタノール中での室温でのインキュベーションは、形態学的特徴を少なくとも3週間保存した。
【0072】
実施例6:マウスおよびヒト組織試験
マウスおよびヒトの両試料を、本試験に使用した。初期相において、マウス肝臓組織を用い、UMFIX(すなわち、10%ポリエチレングリコール300および90%メタノール)の巨大分子に対する作用を決定した。マウス肝臓は、3ヶ月齢のC57BL/6雌のマウスから摘出した。質量約50mgの組織キューブを、直ちにUMFIXまたは10%リン酸緩衝したホルマリンに浸した。同様のサイズのキューブを、液体窒素で瞬間凍結し、-75℃で対照標本として使用するために保存した。
【0073】
試験の後期相において、ヒト組織を、分子アッセイ、ならびにUMFIXの組織形態、更に組織化学的および免疫組織化学的特徴に対する作用の決定の両方に使用した。ヒト組織(例えば、副腎、乳房、結腸、眼、食道、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、骨格筋、膵臓、副甲状腺、耳下腺、前立腺、皮膚、小腸、脾臓、甲状腺、扁桃腺、および子宮)を、マイアミ大学ジャクソンメモリアルメディカルセンターにおいて手術後、1〜30分で採集した。代表的試料を、主に大きい手術により摘出した標本から採取した。主な手術標本を、10%中性の緩衝したホルマリン中で固定し、および通常の技術を用い一晩処理した。平行して組織ブロックを、UMFIXおよび10%中性緩衝したホルマリン中で固定し、管理されたRNase非含有条件下で、迅速処理技術により処理した(Moralesら、Arch. Pathol. Lab. Med.、126:583-590(2002))。隣接切片も、液体窒素中で瞬間凍結した。マウスおよびヒト組織は、UMFIX中で、1時間から8週間の期間、4℃および周囲温度(22℃)の両方で保存した。
【0074】
PCR、RT-PCR、および実時間PCR
PCRは、マウスG3PDHプライマー(Clontech社、パロアルト、CA)を用い、0.5μgのRNase処理した単離されたDNAおよびQiagen Taq PCR Mastermix(Qiagen社、バレンシア、CA)を使用し行った。あるいは、同じプライマーを、Qiagen社Quantitect Cybergreen MastermixおよびBio-Rad社(ヘラキュレス、CA)のiCyclerと共に使用した。DNAのPCR条件は、以下であった:95℃で15分間;94℃で45秒、60℃で45秒、72℃で2分間を35サイクル;および、72℃で7分間維持。更に、マウスG3PDHプライマー(Biosource社、カマリロ、CA)を、0.5μgのDNase処理したRNAと共に、実時間RT-PCRで、Qiagen社Quantitect Cybergreen MastermixまたはQiagen社Quantitect Probe Mastermixを、Bio-Rad社iCycler上で使用した。PCR条件は、50℃で30分間の最初の逆転写、それに続く95℃で20分間のTaq活性化、それに続く95℃ 15秒、60℃ 1分間の40サイクルであった。
【0075】
発現プロファイリング
総RNAは、UMFIX処理した組織から処理およびパラフィン包埋の前後に抽出し、その後アポトーシス関連遺伝子のナイロンベースのcDNAマイクロアレイ(HS-002-12、Superarray社、ベセスダ、MD)について製造業者の指示に従い使用した。X線濃度計測の結果は、Chemimager 5500 Gel Documentation System(Alpha Innotech社、サンレンドロ、CA)により得た。データは、Genesisソフトウェア(Genesis社、グラツ、オーストリア)を用い解析した。統計解析は、Statisticaソフトウェア(StatSoft社、タルサ、OK)を使って行った。
【0076】
タンパク質単離および検出(ウェスタンブロット)
総タンパク質を、標準プロトコールを用い抽出した。簡単に述べると、マウス肝臓の試料を、組織1mgにつき20μlのT-PER試薬(Pierce Biotechnology社、ロックフォード、IL)中でホモジナイズした。タンパク質濃度は、標準としてウシ血清アルブミンを使用するクマーシータンパク質アッセイ(Bio-Rad社)を用い測定した。2Dゲルのために、タンパク質抽出物を、ReadyPrep(商標)2-Dスターターキット(Blo-Rad社)の指示に従い使用した。簡単に述べると、11.0cm IPG(pH3〜10)ストリップを、一晩室温で、8M尿素、2%CHAPS、50mMジチオスレイトール(0.2%w/v)、BioLyte(登録商標)3/10アンホライト、およびブロモフェノールブルーの10mlを含有する再水和緩衝液185μl中の、タンパク質250μgと共にインキュベーションした。その後再水和したストリップを、Immunoelectrophoresis Focusing Chamber(Bio-Rad社)に移し、製造業者の推奨するプロトコール(30,000V/時間で5.3時間)に従い流した。次にストリップを6M尿素、2%SDS、0.375M Tris-HCl(pH8.8)、20%グリセロール、および2%(w/v)DTTの混合液中で10分間平衡化し、その後DTTを含まないが、ヨウ化アセトアミドを添加した同じ緩衝液において10分間平衡化した。次にこれらのストリップを、11.0cmのCriterion Gels上に載せ、1X Tris/グリシン/SDS泳動緩衝液を用い、Criterion System(Bio-Rad社)において200V1定圧で65分間電気泳動を行った。その後ゲルを、10%メタノールおよび7%酢酸で30分間洗浄し、Sypro-Rubyタンパク質染色(Bio-Rad社)で一晩染色した。10%メタノールおよび7%酢酸で10分間洗浄した後、ゲルを、ddH2Oですすぎ、CCDカメラを装着した、Chemimager 5500 Gel Documentation System(Alpha Innotech社)を用い分析した。Tiff画像を、PDQuestソフトウェア(Bio-Rad社)を用い、自動化されたスポット合わせについて解析した。あるいは、組織をホモジナイズし、および沸騰している溶解緩衝液(10mM Tris、pH7.4、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、1%SDS)4.1mlの15〜20秒間の添加により、タンパク質を単離した。次に6X電気泳動試料用緩衝液(360mM Tris、pH6.8、600mM DTT、12%SDS、60%グリセロール、0.018%ブロモフェノールブルー)0.9mlを添加し、よく混合した。試料を、再度95℃で30秒間ヒートブロックにおいて加熱した。
【0077】
ウェスタンブロット転写を、Becton Dickinson Powerblot Serviceにおいて行った。抗体を、様々な細胞局在および異なる分子量を伴うタンパク質に結合するそれらの活性を基に選択した。抗体は、Caveolin 1、カゼインキナーゼIIα、βカテニン、Bcl-2、アダプチンβ、GDNFR-α、PKCα、PAF53、NF-κB(p65)、ホスホリパーゼCγ(BD社、レキシントン、KY)に対するものであった。リン酸化されたリン酸化タンパク質の保存を試験するために;5種のタンパク質を選択した(Caveolin、ERKI、GSK-3β、p38α/SAPK2a、Stat1)。これらの5種のタンパク質の未変性およびリン酸化された状態に対する抗体を使用した。加えて、別の13種の抗体を、対照として流した。簡単に述べると、タンパク質66μgを、4〜15%勾配SDS-PAGE(Bio-Rad社、Criterion IPG Well Comb)の幅全体に広がる各ウェルに負荷した。このゲルを、150Vで1.5時間流し、その後、Immobilon-Pメンブレン(Millipore社、ベッドフォード、MA)に、Hoefer TE湿式電気泳動転写装置(Amersham Biosciences社、ピスカタウェイ、NJ)を用い、200mAで2時間かけて移した。転写後、この膜を、ゼラチンブロッキング緩衝液中に1時間含浸した。次にこの膜を、膜を通じて40チャネルを分離する、ウェスタンブロット用マニホールドに取付けた(clamp)。各チャネルにおいて、一次抗体混合物を添加し、37℃で1時間インキュベーションした。ブロットを、マニフォールドから取り除き、洗浄し、およびAlexa68O蛍光色素(Molecular Probe社、ユージーン、OR)に複合した二次ヤギ抗マウス免疫グロブリンと共に37℃で45分間インキュベーションした。この膜を洗浄し、乾燥し、およびOdyssey Infrared Imaging System(LICOR社、リンカン、NE)を用いスキャンした。
【0078】
結果
凍結したおよびUMFIX保存した組織から抽出したマウス肝臓RNAの性質および量は同等である一方で、ホルマリン固定した組織は、先に示した、28Sおよび18SリボソームRNAバンドの非存在により示されるような、著しく分解されたRNAを生じた。ホルマリン固定した組織から抽出したRNAは著しく分解されたが、これを、RT-PCRにより少量の生成物を増幅するために使用した。しかし新鮮なマウス肝臓またはUMFIXに1または24時間曝された肝臓組織からのRNAと比較し、ホルマリン中に1または24時間固定された肝臓組織由来の有意に多いRNAが、定量的RT-PCRに必要であった。組織から抽出したDNAで示されたように、RNAの質は、UMFIXに対するより長期曝露により実質的に異ならなかったが、ホルマリンによる長期固定については顕著に異なった。UMFIX中で1日後、高分子量RNAを、25/35試料から抽出した。同様の成功が、2〜7日(19/22試料)および8〜30日(16/18試料)で達成された。
【0079】
管理されたRNase非含有条件下で、迅速処理技術により硬化および含浸され、ならびにパラフィン中に包埋されたUMFIX保存された肝臓組織は、新鮮な凍結組織からのものと同等の損なわれないRNAを生じた。これは、アガロースゲル電気泳動における28Sおよび18SリボソームRNAバンド間の比の観察に加え、定量のためのアジレントRNA 6000ナノチップの使用によっても確認された。更にUMFIXに曝露され、迅速処理技術により処理され、およびパラフィン中に包埋されたヒト組織(例えば、脳への転移癌)は、1日、4週間、および8週間の室温貯蔵後に分解されないRNAを生じた。新鮮な試料ならびに1日、4週間、および8週間の室温貯蔵後にUMFIX保存されたパラフィン包埋された組織から抽出されたRNAの発現プロファイリングは、94種のアポトーシス関連遺伝子についての同等のパターンおよび強度を生じた。cDNAマイクロアレイを使用する発現レベルは、最大8週間の処理後の様々な時点で類似していた(Pearson係数、r>0.85、p<0.05)。これらの結果間の小さい差異は、組織不均一性が原因であった。
【0080】
UMFIX中に1時間保存したマウス肝臓は、新鮮な試料で得られるものと同一のタンパク質スポットの二次元ゲルパターンを明らかにした。UMFIX保存された試料で観察された個別のスポットとは対照的に、ホルマリン固定した組織からのタンパク質抽出物は、個別のスポットを伴わないスメアを生じた。更に、PDQuestソフトウェアにより、マッチングの判定は容易になったが、新鮮な試料とホルマリン曝露した試料の間で類似性は観察されなかった。PDQuestソフトウェアが補助したゲル上のスポットの数および位置の評価は、UMFIX試料と新鮮な組織のタンパク質抽出物の間のかなりの相同性を示した。同じ知見が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により観察され;個別のバンドが、新鮮な試料およびUMFIX保存された試料で観察されたのに対し、ホルマリン固定した試料は、区別できないスメアを生じた。同様に、PAGEからのウェスタンブロットは、UMFIX保存した試料のホルマリン固定した試料と比べ強力な個別のバンドを示した。抗体は、それらの分子量および細胞局在を基に選択した。10種の試験した抗体および12種の対照抗体の全てを、固定した試料とUMFIX中で1時間反応させ:それらの抗体の20種が、最大24時間固定した試料中で強力な検出可能なバンドを有した。対照的に、わずかに6種の抗体が、ホルマリン中に固定した試料中で反応性であり、これはかなり低い強度を伴った。
【0081】
リン酸化試験のために選択した5種のタンパク質のウェスタンブロットの結果は、新鮮な試料と1時間UMFIX保存された試料の間で類似していた。これらのタンパク質の2種は、24時間固定後に失われた。ホルマリン固定した試料において、ただひとつの未変性のおよび1種のリン酸化された試料が、1時間で検出され、24時間処理した試料からの結果ではなかった。
【0082】
本クレームの意味内にある全ての変更および置換ならびにそれらの法律的同等物の範囲は、クレームの範囲内に包含されるものとする。転換句「〜を含む」を使用するクレームは、「特許請求の範囲」内である他の要素の包含を可能にし;本発明は、この用語「〜を含む」の代わりの、転換句「〜により実質的になる」(すなわち、それらが本発明の操作に実質的影響を及ぼさないならば、「特許請求の範囲」内である他の要素の包含を可能にする。)、ならびに転換句「〜によりなる」(すなわち、本発明に通常関連される不純物または重要でない活性以外のクレーム内に列記された要素のみが可能である)を使用するこのような請求項によっても説明される。これら3種の転換句はいずれも、本発明の請求において使用することができる。
【0083】
本明細書に説明された要素は、クレームに明確に記されない限りは、請求された本発明を制限するものとして構成されるものではないことは理解されなければならない。従って本クレームは、クレームに読み込まれた本明細書からの限定の代わりに、付与された法的保護の範囲を決定するための基礎である。
【0084】
更にクレームの限定間または限定内の特別な関係は、そのような関係がクレームに明確に記されない限りは、意図されない(例えば、製品請求の成分の配置または方法請求の工程の順番は、そうであることが明確に陳述されない限りは、その請求を限定するものではない。)。本明細書に明らかにされた個々の要素の全ての可能性のある組合せおよび入れ替えは、本発明の局面であると考えられ;同様に、本発明の説明の一般化は、本発明の一部であると考えられる。
【0085】
前述のことから、本発明は、その精神または本質的特徴から逸脱することなく、他の具体的形で実施することができることは当業者には明らかであろう。本発明に提供される法的保護の範囲は、本明細書によるよりも添付された「特許請求の範囲」により説明されるので、説明された態様は、単なる例証と考えられるべきであり、制限するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜20%ポリエチレングリコール(PEG)および80〜95%メタノールを含む非水溶液である、細胞または組織の保存および/または貯蔵のための組成物。
【請求項2】
非水溶液が、10〜15%ポリエチレングリコール(PEG)および85〜90%メタノールを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
非水溶液が、約10%ポリエチレングリコール(PEG)および約90%メタノールを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
非水溶液が、約10%ポリエチレングリコール(PEG)および約90%メタノールから実質的になる、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
非水溶液が、約10%ポリエチレングリコール(PEG)および約90%メタノールからなる、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
PEGが、分子量600ダルトン未満である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
PEGが、分子量400ダルトンまたはそれよりも小さい、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも細胞または組織を保存および/または貯蔵するための、請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項9】
PEGおよびメタノールを混合することを含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物の製造法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物を含有し、および少なくとも細胞または組織を保持するように適合された、細胞または組織のホルダー。
【請求項11】
少なくとも細胞または組織が、請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物と接触することを含む、細胞または組織を保存する方法。
【請求項12】
少なくとも部分的に保存された細胞または組織が、請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物と接触することを含む、細胞または組織を貯蔵する方法。
【請求項13】
細胞または組織の少なくとも一部から核酸を抽出することをさらに含む、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
核酸がRNAである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
請求項13または14記載の方法により単離された核酸。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−168386(P2010−168386A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30163(P2010−30163)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【分割の表示】特願2004−543192(P2004−543192)の分割
【原出願日】平成15年5月12日(2003.5.12)
【出願人】(500132878)ザユニバーシティー オブ マイアミ (5)
【Fターム(参考)】