説明

細胞に代表される粒子の選択および/または処理のための方法

【解決手段】外部刺激の印加に対して高感度な第1の粒子の選択または処理のための方法は、外部刺激の印加を通じて、第1の力場(FMAN)を通じた第1の粒子(CELL)の編成に含まれる、少なくとも1つの選択された第1の粒子の透過化を生じるステップを備え、少なくとも1つの透過化されるべき選択された第1の粒子に十分に接近して配置される第2の力場(FZAP)を生成する。をからなるステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞からなる粒子もしくは細胞もしくは細胞物質を含む粒子に代表される粒子の選択および/または処理のための方法に関するものであり、主に、個々の細胞に対する解像力を有する手順の実施に応用される。細胞「処理」とは、以下において、個々の粒子もしくは細胞またはそれらのグループに対して実施することができるあらゆるタイプの動作を意味するものと理解される。
【背景技術】
【0002】
G. Medoroに属するPCT/WO 00/69565特許は、閉じられた誘電泳動電位ケージと、場合によっては集積センサと、の使用を通じた粒子の操作および検出/認識のための、装置ならびに方法を記載している。記載された方法は、二次元空間において各粒子の位置をその他の全ての粒子と無関係にどのように制御するかについて教示している。流体媒質中に懸濁している粒子を捕捉するために使用される力は、負の誘電泳動である。操作動作の個々の制御は、電極アレイの各素子に関連付けられたメモリ素子および回路と、同じ基層内に集積されたセンサと、のプログラミングを通じて行われる。デバイスは、細胞を分離することを可能にするが、それらの細胞を第1のマイクロチャンバから流体的に分離された第2のマイクロチャンバに向かって移動させることを必要とする。さらに、細胞を形質転換するための方法は想定外である。
【0003】
Becker et al.の米国特許6,294,063は、プログラム可能な力の分布を通じた固形、液状、または気体の生物学的物質のパッケージの操作のための、方法ならびに装置を記載している。該特許は、センサの使用についても言及している。この場合も、細胞の分離は、細胞をデバイス全体を経て物理的に移動させることによってのみ生じることができる。
【0004】
粒子の操作のためのさらなる力は、電熱流動(ETF)またはAC電気浸透などの、電気流体力学的(EHD)流動によって生成される粘性摩擦力である。NG. Green, A. Ramos and H. Morgan, J. Phys. D: Appl. Phys. 33 (2000)では、EHDが、粒子を移動させるために使用されている。例えば、PCT WO 2004/071668 A1は、いわゆる電気流体力学的流動を利用した、粒子を一部の電極上に集めるための装置を記載している。
【0005】
Medoro et al.のイタリア特許出願BO2005A000481では、電極アレイによって粒子を操作するためのいくつかの方法と、それらの検出のためのいくつかの方法および装置と、が報告されている。さらに、国際特許出願第PCT/IT02/00524号では、第1の生物学的実体を第2の生物学的実体(例えばDNAを含有するリポソーム、すなわちマイクロビーズ)と接触させて形質転換させることができる方法が記載されており、ここで、第1の生物学的実体は、第1の電極のマトリックスによって画定された表面上に固定化され、これらの第1の電極は、少なくとも一部を選択的に作動可能でなおかつアドレス可能であり、少なくとも1つの第2の電極に面するように並べられ、誘電泳動ケージによって移動された第2の生物学的実体と接触される。
【0006】
本願出願人のPCT IB 2006000636特許出願は、不均一で時間変化する力場と、集積型の光学式またはインピーダンス計式のセンサと、を通じた粒子の特徴付けおよび/またはカウントのための、方法ならびに装置に関する。力場は、粒子(固形、液状、もしくは気体)についての安定平衡点のセットによって特徴付けられる正もしくは負の誘電泳動、電気泳動、または電気流体力学的運動であってよく、同じ方法は、誘電体上のエレクトロウェッティングとして知られる効果を用いた液滴(液体粒子)の操作にも適しており、サンプル中に存在する粒子を決定論的にまたは統計的に移動させることを目的としてこのような各粒子の位置の制御に作用すること、それらの存在を集積型の光学式もしくはインピーダンス計式のセンサによって検出すること、および/またはそれらを効率的にカウントするもしくは操作する目的でそれらのタイプを特徴付けること、を意図している。
【0007】
本願出願人の名義の2006年3月27日付けのイタリア出願第TO2006A000226号では、粒子の処理(例えば洗浄や培養など等)のための方法および装置が記載されており、ここで、第1の流体中に懸濁している粒子は、層流様式で、少なくとも1つの、第1のマイクロチャンバまたは同マイクロチャンバの第1の領域に導入され、第2の流体は、層流様式で、それ自体が第1の流体と混じらない方式で、少なくとも1つの、上記マイクロチャンバの第2の領域または第2のマイクロチャンバに導入され、マイクロチャンバ内では、所定の方向へのみ粒子の移動を引き起こして同粒子を懸濁状態で第2の流体へと移らせるために、粒子に作用する少なくとも1つの力場(F)が発生され、装置は、一方向に沿って一列に並べられた少なくとも3つのマイクロチャンバを含むものが使用されると好ましく、各マイクロチャンバは、その直前および直後のマイクロチャンバと、マイクロチャンバの列方向に垂直な方向に互い違いに配された2つのオリフィスを通してつながれる。
【0008】
最近では、論文:A single cell electroporation chip, Lab on a Chip, 2005, 5 (1), 38 - 43, Michelle Khine, Adrian Lau, Cristian Ionescu-Zanetti, Jeonggi Seo and Luke P. Leeにおいて、個々の細胞に対して実施されるエレクトロポレーションを通じて細胞膜の透過性をどのように増加させるかが記載されている。こうすれば、そうでなければ原形質膜を透過することができないであろう極性物質(色素、薬、DNA、たんぱく質、ペプチド、およびアミノ酸など)を細胞内に導入することができる。
【0009】
論文:Flow-through micro-electroporation chip for high efficiency single-cell genetic manipulation, Sensors and Actuators A: Physical. Volume 104, Issue 3, 15 May 2003, Pages 205-212, Yong Huang, Boris Rubinskyは、とりわけ、生物学やバイオテクノロジーなどの分野で大きな関心を持たれている個々の細胞の遺伝子操作について記載している。これは、個々の細胞を正確に操作するためにマイクロ流体チャネルを利用するエレクトロポレーションチップによって得られる。知られているように、エレクトロポレーションは、強い電場を使用して細胞膜の中に構造的な再配列を導入する技術である。したがって、膜電位が膜の誘電穿孔電圧(0.2〜1.5V)を超えると、膜に孔が形成され、そうして、外部の物質が膜を通り抜けて、その中に含有される細胞質に達することが可能になる。
【0010】
個々の細胞のエレクトロポレーションは、細胞集団内で細胞ごとに生じる変動を研究すること、および例えば個々の細胞に特定の表現型を提供して特定の個々のたんぱく質の表現を活性化するまたは抑制することによって細胞内化学を研究すること、を可能にすることもあって、興味を持たれている技術である。したがって、チップ上に実装されたマトリックスの使用に基づく技術を使用すれば、DNAおよびたんぱく質の表現型と、特定の細胞標的(例えば受容体)に方向付けられた化合物(例えば薬)と、の両方に関連付けられたHTS(ハイスループットスクリーニング)試験装置を完成することが可能である。
【0011】
個々の細胞のエレクトロポレーションは、通常使用されている「バルク式」のエレクトロポレーションの手順に対してさらに有利な技術である。「バルク式」のエレクトロポレーションの手順は、非常に高い電圧(>103V)を必要とし、個々の細胞の浸透性を有効に制御することができないので、例えば、事前に空けられた孔を閉じなおすのが困難である。
【0012】
個々の細胞のエレクトロポレーションを達成するためにこれまで成されてきた試みは、炭素繊維でできたマイクロ電極の使用(Lundqvist et al., 1998)や、電解質を充填されたキャピラリー、マイクロピペット、およびマイクロ製造されたチップなどのその他の技術を含む。
【0013】
マイクロ製造されたデバイスは、個々の細胞を分離するにも電場の焦点を合わせるにも理想的である。
【0014】
最後に、論文:“Controlling cell destruction using dielectrophoretic forces”, A. Menachery and R. Pethig, IEE Proc.-Nanobiotechnol., Vol. 152, No. 4, August 2005は、溝付き構造のすなわちポリノミアルな電極における、様々な種類の細胞についての細胞の溶解に関する研究を報告し、混合中に存在する様々な種類の細胞の溶解または差別的エレクトロポレーション(あるタイプの細胞の溶解またはエレクトロポレーションは実施されるが別のタイプの細胞は維持されるような周波数および振幅を選択すること)を提起している。
【0015】
しかしながら、電極は、細胞より大幅に大きいので、このアプローチの使用は勧められず、個々の細胞をそれらのタイプによらずに選択的に破壊する/エレクトロポレーションするためにこのアプローチを使用することは、恐らくは不可能である。事実、比較的大きな電極に対する位置(したがってそれらが受ける場の強度)は、大きく変動するので、このような方法は、異なる細胞に対して均一的に働くことができない。
【0016】
溶解は、クロスオーバー周波数(それを越えると細胞が負の誘電泳動(nDEP)から正の誘電泳動(pDEP)に変化するような周波数)と、それを超えると膜の緩和定数の超過ゆえに膜の電位が弱められるような周波数と、の間に含まれる周波数範囲の場を使用して導入されることが好ましい。
【0017】
WO2005/075656およびUS2005/0070018A1などの最近出版されたその他の文献は、マイクロ電極のアレイまたはマトリックスの使用に基づく個々の細胞のエレクトロポレーションのための装置に関し、このような電極のアレイまたはマトリックスは、(上記国際特許出願にしたがって)その上に細胞が付着され培養される、またはエレクトロポレーションされるべき細胞を電極につなぐための導電性のマイクロワイヤと、細胞を移動させるためのマイクロ流体チャネルと、を備える。このような装置は、細胞を決定論的に編成する可能性を与えず、電極に対する細胞の位置は、偶然性のものとなる。したがって、エレクトロポレーションの瞬間に細胞が受けている電場は、かなり変動的なものとなり、このため、印加される刺激は、ときに統計的に過剰になったり(細胞の死を引き起こす)不足したりして、細胞のエレクトロポレーションを欠いている。エレクトロポレーションプロセスの成功率は、このため、準最適なものとなり、あまり効果的でない。
【発明の開示】
【0018】
本発明の目的は、細胞に代表される粒子を含有する流体サンプルに働きかけて、1つまたは複数の細胞の形質変換を行うための、方法ならびに装置であって、既知の技術について説明された制限および/または欠点がないような、方法ならびに装置を提供することにある。
【0019】
とりわけ、本発明の目的は、サンプル中に存在する各粒子の位置の制御に作用することによって、このような粒子を決定論的に移動させること、各細胞に選択的に働きかけること、および/またはエレクトロポレーションなどの動作をより有効的に実施すること、を意図している。
【0020】
以下において、「複数の粒子」または「粒子」という用語は、細胞、細胞成分、ウィルス、リポソーム、ニオソーム、マイクロボールなど、天然または人工の、マイクロメートル規模またはナノメートル規模の実体を意図している。ときには、細胞という用語も使用されるが、これは、別段の定めのない限り、粒子の検出および特徴付けのための、上述された最も広い意味での非限定的な使用例として意図されるべきである。
【0021】
したがって、本発明は、請求項1に記載の方法に関するものである。
【0022】
とりわけ、不均一で時間変化する力場と、集積型の光学式センサと、が使用される。力場は、粒子(固形、液状、または気体)についての安定平衡点のセットによって特徴付けられる正もしくは負の誘電泳動、電気泳動、または電気流体力学的運動であることが可能である。
【0023】
このように、既知の技術の限界は、本発明によって克服される。
【0024】
本発明にしたがった方法の実施は、例えば外来遺伝物質の導入によって有効的にかつ選択的に細胞を形質転換することを可能にする。さらに、形質転換されたと考えられる細胞のサンプルを、低率で存在する汚染物質からも正確に精製することを可能にする。最後に、関心対象の数個の細胞を不均一なサンプルから迅速に分離することを可能にする。全ては、同じマイクロ電極アレイに基づく単一の技術を採用して成され、このようなマイクロ電極アレイは、それを組み込まれたマイクロチャンバ内で細胞を移動させるため、およびそれらの細胞のエレクトロポレーションを生じさせるため、の両方に使用される。
【0025】
添付の図面の図を参照にして成される、本発明のいくつかの非限定的な実施形態に関する以下の説明から、本発明のさらなる特徴および利点が明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の目的は、粒子の操作および/または形質転換、および/または粒子の最適エレクトロポレーション条件の研究、および/または粒子の検出のための、方法を実施することにある。
【0027】
本発明の方法は、個々の粒子または複数粒子のグループ(BEADS)を安定平衡位置(CAGE)に向けて引き付ける不均一な力場(F)の使用に基づく。このような場は、例えば、負(NDEP)もしくは正(PDEP)の誘電泳動の場(DEP)、電気泳動の場(EF)、または電気流体力学的(EHD)運動の場であることが可能である。
【0028】
細胞に施される処理は、細胞膜の一時的透過化を引き起こすことができる局在的電場の印加に基づくものである。
【0029】
方法は、また、例えば特定の電極に接近している粒子のタイプをチェックする必要がある全てのステップにおいて、好ましくは光学式および/またはインピーダンス計式のタイプの集積型センサを使用することもできる。あるいは、同様の情報は、マイクロチャンバの中身を検査することを可能にする顕微鏡に結合された非集積型の光学式センサを通じて得ることもできる。
【0030】
力の生成
先行技術にしたがうと、粒子を移動させるための力を基層上の電極(EL)アレイを通じて生成するための、様々な方法がある。通常は、本願出願人の先行特許権(図1)にしたがって、カバー(LID)が使用される。カバーは、電極であることが可能であり、液体に懸濁した状態の粒子(BEADS)を通常は中に見ることができるマイクロチャンバを画定する。誘電泳動(DEP)の場合、印加される電圧は、加算記号(+)で示される周期的な同位相電圧(Vphip)および減算記号(−)で示される周期的な逆位相電圧(Vphin)である。「逆位相電圧」という用語は、180度位相のずれた電圧を意味する。場は、空間領域(CAGE)内の粒子に作用する力を生成し、それらを平衡点(PEQ)に向けて引き付ける。負のDEP(NDEP)の場合は、もしカバー(LID)が導電性の電極であれば、既知の技術にしたがって、閉じられた力のケージを生成することが可能である。この場合、平衡点(PEQ)は、もし隣接する電極が逆位相のVphip(+)につながれなおかつカバー(LID)が位相Vphin(−)につながれていれば、Vphin(−)につながれた各電極に対応して確立される。この平衡点(PEQ)は、液体中において、電極に対して隔たれているのが普通であるので、粒子(BEADS)は、定常状態で浮揚している。正のDEP(PDEP)の場合、平衡点(PEQ)は、電極を上に設けられた表面に対応する状態で見受けられるのが普通であり、粒子(BEADS)は、定常状態でそれに接触している。PDEPの場合、その平衡点は電場の最大に対応するので、カバー(LID)内においてさらなる電極の存在は不要である。電気流体力学的(EHD)運動の場合、電極の構成は、粒子を流動の最小点に向かわせるような何らかの流動を生成する。
【0031】
以下では、簡単のため、本発明の方法の説明において、粒子を移動させるための実行力として、閉じられた負の誘電泳動ケージを使用することは、単に、本発明の目的のための非限定的な例であると見なされる(このため、電極として作用する蓋を使用する必要がある)。当業者ならば、以下で説明される方法および装置を、異なる実行力の使用および異なるタイプの粒子に合わせてどのように一般化するかが明らかである。
【0032】
誘電泳動操作によって補助される粒子のエレクトロポレーション
粒子は、例えば電極それら自体に第1の振幅および第1の周波数の正弦波電圧を印加することによって、上記実行力の1つによって、2つの電極間のギャップに接近して配置される。ギャップは、10μm未満であることが好ましく、通常は、1〜2μmの付近であるので、集積回路の供給電圧(例えば2.5V、3.3V、または5V)に適合する低電圧の刺激でも、粒子の可逆的透過化を引き起こすことができる膜電位を決定するのに十分である。
【0033】
この刺激は、第2の振幅および第2の周波数の正弦波インパルスの列で構成されることが好ましい。
【0034】
図1は、本発明の好ましい実施形態にしたがって、力場、および電極に印加される電圧「パターン」(または電極の(+)状態もしくは(−)状態の構成の複合体である)の、経時変化を断面図で示している。図1(a)において、細胞(CELL)は、nDEPにあり、第1の平衡点(MPEQ)において液体中に懸濁している。図1(b)では、電極(EL)に印加される電圧のパターンはもちろん、印加される電圧の周波数、および随意には振幅も変化するので、細胞が受ける力もまた、pDEP(FZAP)に変化する。しかしながら、電圧のパターンの変化のおかげで、エレクトロポレーションされるべき細胞(CELLZ)のみが大きな力を受け、したがって、新しい安定平衡点(ZPEQ)に向けて引き付けられる。電場は、その点に接近したところで最も強く、周波数は、細胞をエレクトロポレーションするのに足る膜電位が決定されるような大きさである。このようにして、懸濁状態で存在する少なくとも1つの化合物(PL)が、細胞の中に浸透することができる。
【0035】
このような化合物は、粒子を浸された流体中に溶解している化学的化合物(色素、薬物、ペプチド)であることが可能である。あるいは、化合物は、既知の技術にしたがって原形質などであってもよいし、または所望のタイプおよび量の第2のPL粒子が、懸濁状態で流体中に存在してもよい。
【0036】
図2は、個々の細胞のエレクトロポレーションを示している。細胞は、図2(a)では、nDEP(周波数=50kHz、対電極の頂点間電圧=3.3V、対蓋の頂点間電圧=6.6V)の中に捕捉されている。図2(b)は、蛍光画像を示している。場は、次いで、pDEP(2つの500kHzインパルス、対電極の頂点間電圧は2V、対蓋の頂点間電圧は4V)に変化し、選択された細胞は、穿孔を経て、カルセイン(実験を行う目的で細胞内に予め込められている)の放出および蛍光の減少を引き起こされる(図2(c))。
【0037】
蛍光検出をともなう光学式タイプの集積型センサを用いると(本願出願人の先行特許を参照せよ)、例えば緑色蛍光たんぱく質(GFP)の発現を通じてなどして有効な形質転換をチェックすることができる。
【0038】
エレクトロポレーション刺激の最適化のための方法
電極アレイ上には、細胞を配置することができ、より効果的な刺激を迅速に決定するために、それらの各細胞またはグループに対して振幅および/または周波数のパラメータが異なる刺激を試すことができる。
【0039】
例えば、エレクトロポレーションは、上述のように、集積型の光学式センサによってチェックすることができる、または通常は膜を貫通することができない色素(色素すなわち着色物質)(例えばトリパンブルー)の、細胞内への考えられる導入を監視することによってチェックすることができる。
【0040】
図3は、上述された手順にしたがったエレクトロポレーションの前および後におけるトリパンブルーに染まった細胞を、図3(a)および図3(b)にそれぞれ示している。図3(b)では、トリパンブルーが細胞の中に浸透したことがわかる。集積型の光学式センサを用いれば、エレクトロポレーションの発生はもちろん色素の浸入も検出することができる。
【0041】
あるいは、色素の孔開口部における外側への拡散によって生じる細胞内に存在する色素の分散は、制御することができる。例えば、細胞内の蛍光カルセインは、外側に放出されて、上述のように、細胞蛍光の減少を決定することができるであろう。
【0042】
方法は、エレクトロポレーションの割合の依存曲線を、印加される刺激の関数として定めるために、強度が増大する刺激を個々の細胞に繰り返し印加して、エレクトロポレーションされた細胞の数を測定することを想定している。
【0043】
各細胞についてエレクトロポレーション刺激を調整するための方法
電極アレイの上には、細胞を配置することができ、それらの上には、強度が増大する刺激を試すことができる。そして、通常は膜を貫通することができない色素の、考えられる浸入を、集積型の光学式センサによって制御することができる。
【0044】
以上説明されたことに基づくと、本発明は、外部刺激の印加に対して高感度な第1の粒子の選択または処理を行うことを可能にすること、そしてこのような外部刺激の印加を通じて少なくとも1つの上記第1の選択された粒子の透過化を生じるステップを提供すること、が明らかであり、とりわけ、
a)第1の粒子(CELL)を、上記粒子と同程度または上記粒子より小さい寸法を有する選択可能電極のアレイの電極(EL)に接近させるステップと、これらの電極には、第1の力場(FMAN)を通じて上記第1の粒子(CELL)を編成するために、上記電極(EL)を選択的に通電して第1の構成(PMAN)の電圧を印加可能であることと、
b)透過化されるべき少なくとも1つの第1の選択された粒子(CELL)に十分に接近して配置され、上記少なくとも1つの第1の選択された粒子を刺激の長さの少なくとも何分の一かにわたって透過化状態にするのに適した上記刺激を上記少なくとも1つの第1の選択された粒子に印加するような、第2の力場(FZAP)を生成するために、第2の構成(PZAP)の電圧を印加するステップと、
を提供する。
【0045】
本発明にしたがった方法は、さらに、
c)透過化状態にある上記少なくとも1つの第1の選択された粒子を、少なくとも1つの第2の粒子に接触させるステップを含み、
ステップb)およびc)は、図1に概略的に示されるように、透過化状態にある上記少なくとも1つの第1の選択された粒子の中に上記少なくとも1つの第2の粒子を浸透させるように行われる。
【0046】
第1の粒子は、流体の中に浸され、ステップc)は、第2の粒子をその流体の中に浸すことと、上記ステップb)を、透過化状態にある上記少なくとも1つの第1の選択された粒子の中に少なくとも1つの上記第2の粒子を浸透させるのに十分な時間にわたって実行させることと、によって行われる。
【0047】
あるいは、第2の粒子は、流体の中に浸され、次いで、少なくとも1つの選択された上記第2の粒子は、好ましくは、選択可能電極のアレイの電極(EL)を選択的に通電してそれらの電極に適切に選択された一連の電圧構成を印加することによって得られる力場(FMAN)を、少なくとも1つの上記選択された第2の粒子に印加することによって、透過化状態に維持されている上記少なくとも1つの第1の選択された粒子に向かって移動される。
【0048】
場によって印加される刺激は、選択された第1の粒子を刺激自体の除去後も所定の時間にわたって透過化状態に維持するような刺激であり得ると共に、ステップc)は、したがって、第1の粒子を浸された流体の中に第2の粒子を浸すことと、選択可能電極のアレイの電極(EL)を選択的に通電してそれらの電極に一連の所定の電圧構成を印加することによって得られる力場(FMAN)を、透過化状態にある第1の粒子に印加することによって、それらの粒子を第2の粒子に向かって移動させることと、によって行われる。
【0049】
図4、図5(a)、図5(b)を参照すると、第1の粒子は、第1の流体の中に浸され得、例えば、第1の流体中に既に懸濁されて含有され得る。ステップc)は、第1の流体に隣接した第2の流体の中に第2の粒子を浸すこと(第2の流体の中には、例えば、第2の粒子が既に浸されていることが可能である)と、電極を通電してそれらの電極に一連の所定の電圧構成を印加することによって得られる適切な力場(FMAN)を、第1の流体中に存在する透過化状態にある(エレクトロポレーションされた)粒子に印加することによって、それらの粒子を第1の流体から第2の流体へと移動させることと、によって行うことができる。続いて、自身の中に第2の粒子を収容するように形質転換された第1の粒子を、適切な構成または順序の電圧を電極に再び印加することによって、第1の流体の中に戻すことができる。
【0050】
第1の粒子が流体の中に浸されている場合は、説明された方法は、あるいは、
c)第1の粒子を浸された流体の中に、少なくとも1つの溶液化合物を導入するステップと
d)上記化合物を、透過化状態にある(電極を通して事前にエレクトロポレーションされている)第1の粒子の中に浸透させるステップと、
を含むことができる。
【0051】
第1の粒子が、電極のアレイを備えたマイクロチャンバの中に含まれた第1の流体の中に浸されている場合は、本発明にしたがった方法(図4)は、
c)第2の流体を、その第2の流体が第1の流体と混じらないように層流運動で動作させることによってマイクロチャンバの中に導入するステップ(図5a)と、
d)少なくとも1つの溶解された化合物を、第2の流体の中に導入するステップ(明らかに、マイクロチャンバの中に第2の流体を導入するステップの前に行うことも可能なステップである。図5a)と、
e)上記選択可能電極のアレイの上記電極(EL)を選択的に通電して上記電極に一連の所定の電圧構成を印加することによって得られる力場(FMAN)を、透過化状態にある第1の粒子に印加することによって、それらの粒子を第1の流体から第2の流体へと移動させるステップ(図5b)と、
f)上記化合物を、エレクトロポレーションを受けて透過化状態にある選択された第1の粒子の中に浸透させるステップであって、第1の粒子が第2の液体/流体の中に浸された間に生じ得る、あるいは、付与された刺激が、その刺激をまだ第1の流体中にある間に印加された第1の粒子を刺激の除去後も所定の時間にわたって透過化状態に維持してそれらの第1の粒子をまだ透過化状態にある間に第2の流体へと移動させるのに適したものである場合に、生じ得る動作である、ステップと、
を含む。
【0052】
概して、第1の粒子は、上記電極のアレイを備えたマイクロチャンバの中に含まれなおかつ互いに交じり合わないように層流運動で動作することによって上記マイクロチャンバの中に導入されたものである複数の異なる流体の中に浸すことができる。
【0053】
好ましくは、上述のように、第1の粒子は、例えば細胞など、透過化可能でなおかつ溶解可能な膜を有する生物学的実体であり、刺激は、選択された粒子の膜電位を膜の透過化を生じるような値にすることから成る。本発明にしたがい、エレクトロポレーションされるべき粒子を中に浸された流体は、常に、このような膜電位による孔の形成を引き起こすのに十分な場の最大位置に細胞を引き付けるためにpDEPに移行することが可能であるよう比較的低い電気伝導性を呈するように選択される。
【0054】
最後に、本発明の方法の、考えられる変形形態にしたがうと、強度が増大する刺激を複数の上記選択された第1の粒子に印加することと、印加された各刺激について、単一チップの上記電極のアレイと一体化されたセンサを通じて、透過化状態に存在している粒子の数を測定することと、が提供される。例えば、第1の粒子は、流体の中に浸されており、その流体は、少なくとも透過化状態にある上記第1の粒子の中に浸透したときにセンサによって検出されるのに適している化合物を含む。
【0055】
各細胞についてエレクトロポレーション刺激を事前に調整するための方法
細胞の特性に依存して、刺激の最適値に関する情報が(例えば上記の方法のように特性解析に続いて)入手可能である場合は、以下の方法を「事前に」採用することが可能である。
【0056】
電極のアレイの上では、エレクトロポレーションされるべき各細胞の例えば寸法などの特性を、センサ(好ましくはチップに集積された光学式および/またはインピーダンス計式のセンサ)によって事前に検出することと、各特定の細胞について、そのエレクトロポレーションの成功率を場所ごとにまたは電極ごとに局所的に最適化するように、局所的に印加されるべき刺激をプログラムすることと、が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】操作装置の中で実施される本発明にしたがった方法のステップを、立断面で概略的に示した図である。
【図2】図1の方法の実際の実行を、図1の装置の上から撮影した一連の写真で示す説明図である。示す説明図である。
【図3】エレクトロポレーションの前および後におけるいくつかの細胞を、一連の写真で示す説明図である。
【図4】本発明にしたがった方法の一例としての実行手順を概略的に示す説明図である。
【図5a】本発明にしたがった方法の一例としての実行手順を概略的に示す説明図である。
【図5b】本発明にしたがった方法の一例としての実行手順を概略的に示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部刺激の印加を通じて少なくとも1つの選択された第1の粒子の透過化を得るステップを備え、外部刺激の印加に対して高感度な第1の粒子の選択または処理のための方法であって、
a)前記第1の粒子(CELL)を、前記粒子と同程度または前記粒子より小さい寸法を有する選択可能電極のアレイの電極(EL)に接近させるステップと、これらの電極には、第1の力場(FMAN)を通じて前記粒子(CELL)を編成するために、前記電極(EL)を選択的に通電して第1の構成(PMAN)の電圧を印加可能であることと、
b)透過化されるべき少なくとも1つの選択された第1の粒子(CELL)に十分に接近して配置され、前記少なくとも1つの第1の選択された粒子を刺激の長さの少なくとも何分の一かにわたって透過化状態にするのに適した前記刺激を前記少なくとも1つの選択された第1の粒子に印加するような、第2の力場(FZAP)を生成するために、前記電極に第2の構成(PZAP)の電圧を印加するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、さらに、
c)透過化状態にある前記少なくとも1つの選択された第1の粒子を、少なくとも1つの第2の粒子に接触させるステップを備え、
前記ステップb)およびc)は、透過化状態にある前記少なくとも1つの選択された第1の粒子の中に前記少なくとも1つの第2の粒子を浸透させるように行われること、
を特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記第1の粒子は、流体の中に浸され、前記ステップc)は、前記第2の粒子もさらに前記流体の中に浸された状態で、前記ステップb)を、透過化状態にある前記少なくとも1つの選択された第1の粒子の中に少なくとも1つの前記第2の粒子を浸透させるのに十分な時間にわたって実行させることによって行われること、を特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、
前記第1の粒子は、流体の中に浸され、前記ステップc)は、前記第2の粒子もさらに前記流体の中に浸された状態で、前記選択可能電極のアレイの前記電極(EL)を選択的に通電して前記電圧に一連の所定の電圧構成を印加することによって得られる力場(FMAN)を、少なくとも1つの前記選択された第2の粒子に印加することによって、少なくとも1つの前記選択された第2の粒子を、透過化状態に維持されている前記少なくとも1つの選択された第1の粒子に向かって移動させることによって行われること、を特徴とする方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、
前記刺激は、前記少なくとも1つの選択された第1の粒子を刺激の除去後も所定の時間にわたる透過化状態の維持に適しており、前記第1の粒子は、第1の流体の中に浸され、前記ステップc)は、前記第2の粒子もやはり前記第1の流体の中に浸された状態で、前記選択可能電極のアレイの前記電極(EL)を選択的に通電して前記電極に一連の所定の電圧構成を印加することによって得られる力場(FMAN)を、透過化状態にある少なくとも1つの選択された第1の粒子に印加することによって、その粒子を前記第2の粒子に向かって移動させることによって行われること、を特徴とする方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、
前記第1の粒子は、第1の流体の中に浸され、前記ステップc)は、第1の流体に隣接した第2の流体の中に前記第2の粒子を浸された状態で、前記選択可能電極のアレイの前記電極を選択的に通電して前記電極に一連の所定の電圧構成を印加することによって得られる力場(FMAN)を、前記少なくとも1つの選択された第1の粒子に印加することによって、その粒子を第1の流体から第2の流体へと移動させることによって行われること、を特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
前記ステップb)およびc)は、前記少なくとも1つの選択された第1の粒子が第2の流体の中に浸されているときに、あるいは、もし前記刺激が前記少なくとも1つの選択された第1の粒子を刺激の除去後もその粒子を第1の流体から第2の流体へと移動させるのに十分な所定の時間にわたって透過化状態に維持するのに適していれば、前記少なくとも1つの選択された第1の粒子が第1の流体の中に浸されているときに、前記少なくとも1つの選択された第1の粒子に対して行われること、を特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
前記第1の粒子は、流体の中に浸され、
前記方法は、さらに、
c)第1の粒子を浸された流体の中に、少なくとも1つの溶液化合物を有するステップと、
d)前記化合物を、透過化状態にある前記少なくとも1つの選択された第1の粒子の中に浸透させるステップと、
を備えること、を特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、
前記第1の粒子は、前記電極のアレイを備えたマイクロチャンバの中に含まれた第1の流体の中に浸され
前記方法は、さらに、
c)第2の流体を、その第2の流体が第1の流体と混じらないように層流運動で動作させることによって前記マイクロチャンバの中に導入するステップと、第2の流体は、少なくとも1つの溶解された化合物を含むことと、
d)前記選択可能電極のアレイの前記電極(EL)を選択的に通電して前記電極に一連の所定の電圧構成を印加することによって得られる力場(FMAN)を、前記少なくとも1つの第1の粒子に印加することによって、その粒子を第1の流体から第2の流体へと移動させるステップと、
e)前記化合物を、透過化状態にある前記少なくとも1つの第1の粒子の中に浸透させるステップと、
を備え、前記ステップa)およびb)は、前記少なくとも1つの第1の粒子が第2の流体の中にあるとき、あるいは、前記刺激が前記少なくとも1つの選択された第1の粒子を刺激の除去後もその粒子を第1の流体から第2の流体へと移動させるのに十分な所定の時間にわたって透過化状態に維持するのに適している場合には、前記少なくとも1つの第1の粒子が第1の流体の中にあるとき、に行われること、を特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の方法であって、
前記第1の粒子は、前記電極のアレイを備えたマイクロチャンバの中に含まれなおかつ互いに交じり合わないように層流運動で動作することによって前記マイクロチャンバの中に導入されたものである複数の異なる流体の中に浸されること、を特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の方法であって、
前記第1の粒子は、例えば細胞など、透過化可能でなおかつ溶解可能な膜を有する生物学的実体であり、前記刺激は、前記少なくとも1つの選択された粒子の膜電位を膜の透過化を生じるような値にすることであること、を特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法であって、
前記少なくとも1つの選択された粒子の透過化が生じたかどうかをチェックするステップであって、好ましくは単一チップの前記電極のアレイと一体化されたセンサを通じて実施されるステップを備えること、を特徴とする方法。
【請求項13】
請求項2または8に記載の方法であって、
前記少なくとも1つの選択された第1の粒子の中への、前記少なくとも1つの前記第2の粒子または前記化合物の浸透が生じたかどうかをチェックするステップであって、好ましくは単一チップの前記電極のアレイと一体化されたセンサを通じて実施されるステップを備えること、を特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の方法であって、
前記粒子は、流体の中に懸濁され、前記流体は、比較的低い電気伝導性を示すように選択されること、を特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の方法であって、
強度が増大する刺激を複数の前記選択された第1の粒子に印加することと、印加された各刺激について、単一チップの前記電極のアレイと一体化されたセンサを通じて、透過化状態に存在している粒子の数を測定することと、を提供することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
前記第1の粒子は、流体の中に浸され、前記流体は、少なくとも透過化状態にある前記第1の粒子の中に浸透したときに前記センサによって検出されるのに適している化合物を含むこと、を特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1ないし15のいずれかに記載の方法であって、
第1の粒子の既知の特性に依存して、前記電極を通じて印加されるべき刺激の最適値に関する情報を集めるステップと、
選択された第1の粒子を特定するための前記既知の特性を、好ましくはチップ上に集積されたセンサを通じて事前に検出するステップと、
選択された各特定の第1の粒子の透過化の成功率を最適化するように、局所的に印加されるべき刺激をプログラムするステップと、
を提供すること、を特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【公表番号】特表2009−533045(P2009−533045A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504849(P2009−504849)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【国際出願番号】PCT/IB2007/000973
【国際公開番号】WO2007/119154
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(508127694)シリコン・バイオシステムズ・エス.ピー.エー. (6)
【氏名又は名称原語表記】SILICON BIOSYSTEMS S.P.A.
【Fターム(参考)】