説明

細胞の構造及びその構成要素を分析する方法

複数のウィルス顆粒(16)を有する細胞(14)を提供する。第一ウィルス顆粒(22)の第一イメージ(20)及び第二ウィルス顆粒(34)の第二イメージ(32)を電子顕微鏡により撮像する。第一ウィルス顆粒が第一成長ステージにあり、第二ウィルス顆粒が第二成長ステージにあることを特徴付ける。第一イメージ(20)及び第二イメージ(32)を、ピクセルデータに基づき、夫々第一グレースケールプロファイル(24)及び第二グレースケールプロファイル(46)に変換する。第一グレースケールプロファイル(24)及び第二グレースケールプロファイル(36)を、夫々第一テンプレート及び第二テンプレートとして保存する。第三イメージの第三ウィルス顆粒を同定する。第三イメージを第三グレースケールプロファイルに変換する。第三グレースケールを第一テンプレート及び第二テンプレートと比較して、第三ウィルス顆粒の成長ステージを特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ウィルス形態を含んだ細胞構造を分析する方法に関するものである。
【0002】
これまで、ウィルスやその他の成分を含む細胞構造を区別して分析するために、多くの努力がなされてきた。利用可能なイメージ技術を用いて、細胞部分を表示し、ウィルスを区別するための多様なイメージ分析方法が開発された。例えば、低温電子顕微鏡が使用されてきたが、細胞の構造及びウィルス顆粒は充分きれいに表示されなかった。また、標的を定め、繰返し、高精度にて細胞の構成要素を表示して、細胞の構成要素の成長ステージを正確に特定することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらのことは、従来の分析方法が充分に有効ではなかった理由の一部を説明するものであり、そのことから、細胞とウィルス顆粒の構造をより高精度にて分析する方法が希求されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明に従う方法は、上述した概要の問題を解決するものである。具体的には、この発明に従う方法は、細胞の構造及びその構成要素を分析するものである。まず、複数のウィルス顆粒を含む細胞構造を提供する。次いで、電子顕微鏡技術を用いて、第一ウィルス顆粒の第一イメージ及び第二ウィルス顆粒の第二イメージを撮像する。次いで、第一ウィルス顆粒が第一成長ステージにあり、第二ウィルス顆粒が第二成長ステージにあることを特徴付ける。次いで、第一イメージ及び第二イメージを、それらイメージのピクセルデータ及びその他の情報に基づき、夫々第一グレースケールプロファイル及び第二グレースケールプロファイルに変換する。次いで、第一グレースケールプロファイル及び第二グレースケールプロファイルを、夫々第一テンプレート及び第二テンプレートとして保存する。次いで、第三イメージの第三ウィルス顆粒を同定する。次いで、第三イメージを、第三グレースケールプロファイルに変換する。次いで、第三グレースケールプロファイルを第一テンプレート及び第二テンプレートと比較して、第三ウィルス顆粒の成長ステージを特定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
図1〜4は、ウィルス顆粒等の構成要素を含む細胞構造を分析するステップにかかるこの発明に従う方法を示す。ウィルス顆粒の分析は、この発明の一例として図示されたものであり、この発明はウィルス顆粒の分析に限定されるものでない。この方法は、細胞などの構造内における任意の適した構成要素を分析することができる。この発明に従う方法の重要な特徴は、個々のウィルス顆粒から、固有のグラフ又はグレーレベルプロファイルが作成されることにある。また、多様なウィルス顆粒は異なった成長ステージにあることから、この発明に従う方法は、ウィルス顆粒の種類を特定するだけでなく、個々のウィルス顆粒の成長ステージをも特定することができる。
【0006】
一般に、まず、細胞構造14のイメージ12は、透過型電子顕微鏡(TEM)といった好適な技術により撮像される。そのイメージには、多様な成長ステージにあるウィルス顆粒が含まれる。例えば、ウィルス顆粒を、図2Aに示すような空の又は相当に初期段階にあるウィルス顆粒の成長ステージや、図3Aに示すような中間段階のウィルス顆粒の成長ステージや、図4Aに示すようなより成長した段階のウィルス顆粒の成長ステージなどを含む、三ステージ以上の成長ステージに分類することが可能である。
【0007】
ウィルス顆粒16は、しばしば線状に変形しており、円形ではなく楕円形となっている。正確な半径密度プロファイルを作成するためには、ウィルス顆粒は半径方向に対称性を有している必要がある。このことから、この発明に従う分析方法にて、最良の結果を得るためには、かかる変形を元に戻す必要がある。このことは、楕円形のウィルス顆粒を略円形に換算して戻すことにより達成される。第一半径及び楕円形の幾何学的配置が、変形を特定し、変形を換算して戻すことを可能とする。
【0008】
古い楕円形イメージの個々のピクセル位置から、円形のウィルス顆粒のイメージを作成することができる。かかる変形調節を全てのウィルス顆粒に実施することが好ましい。下記のように、半径方向に対称性を有するウィルス顆粒構造は、グレーレベルプロファイルに変換される。かかるプロファイルを用いて、ウィルス顆粒構造の中心位置からウィルス顆粒構造の殻部のペリフェリまでのグレーレベルの平均を算出して、その構造が示される。ウィルス顆粒の円形への換算は、顆粒半径を測定し、ウィルス顆粒の壁部厚さを測定する際に特に有効である。
【0009】
具体的には、図2Aは、細胞内における相当に未熟すなわち空のウィルス性のウィルス顆粒のイメージ20を示し、図2Bは、それに対応したグレーレベルプロファイル24のグラフ25を示す。また、グレースケールプロファイルを使用せずに、数学的なアルゴリズムにより、ウィルス顆粒構造を表示する技術を開発することも可能である。図4Aに示し、下記に記載されるように、ウィルスのDNAがウィルス顆粒22内に入り、ウィルス顆粒は、徐々に成長し、密集したDNAコアを有するウィルス顆粒へと成長する。
【0010】
ウィルス顆粒22は、その中心28からウィルス顆粒の隔壁30の中心へと半径方向外側に延びる半径26を有する。ウィルス顆粒22内にウィルスの構成要素が実質的に入っていない場合には、中心部分は略白色であり、プロファイル24におけるグレーレベル値がグラフ25の左側にて高い値を示す。殻部30はより暗い色を有しており、殻部領域がグラフ25の右側に対応していることから、プロファイル24におけるグレーレベル値がグラフ25の右側にて徐々に低下している。
【0011】
図3Aは、完全には成長していないウィルス顆粒34のイメージ32を示す。ウィルス顆粒34は、ウィルス顆粒にウィルスDNAをパッケージングすることに役立つ、付加的なウィルスタンパク質を含んでいる。ウィルス顆粒壁は、ウィルス顆粒の寸法及びウィルス顆粒壁の層厚を特定し得るタンパク質層を含んでいる。図3Bは、グラフ38にて、対応するグレーレベルプロファイル36を示す。ウィルス顆粒34は、その中心50からウィルス顆粒の表面殻部52の中心へと半径方向外側に延びる半径26を有する。黒色又は暗い色のリング40は、プロファイル36にて極小値42として示され、白色のリング44はプロファイル36にて極大値46として示される。リング及び殻部の開始位置と終了位置は、グレースケールプロファイルの導関数を分析することで特定される。
【0012】
同様に、図4Aはより成長したウィルス顆粒56を示し、図4Bは、グラフ60にてそれに対応したグレーレベルプロファイル58を示す。ウィルス顆粒56は、その中心64からウィルス顆粒の表面殻部66の中心へと半径方向外側に延びる半径62を有する。白色のリング68はプロファイル58にて極大値70として示される。
【0013】
この発明に従う方法の重要な特徴は、グレースケールプロファイルに基づき、ウィルス顆粒を客観的に説明する、テンプレートを作成できることにある。また、テンプレートは数学的な手法により作成することもできる。例えば、テンプレートは、同一の成長ステージにある多数のウィルス顆粒の平均的な特徴に基づき作成することができる。そして、テンプレートをデータベースに保存し、ウィルス顆粒を含む新たなイメージを分析して特徴付ける際には、かかるテンプレートを引き出して使用することができる。1000枚のイメージが撮像された場合には、多様な成長ステージにあるウィルス顆粒を算出することが可能となる。かかる方法により、付加的なTEMイメージを撮像することで、細胞内におけるウィルスの生産量を定量することができる。
【0014】
より具体的には、中間体のウィルス顆粒のテンプレートグレーレベルプロファイルを作成し、かかるプロファイルは電子顕微鏡写真にてこれらの顆粒を同定することに使用することができる。かかるテンプレートグレープロファイルを作成するには、ウィルス顆粒の中心位置と凡その寸法を知っておく必要がある。ピクセルにて示されているウィルス顆粒の凡その寸法(半径)は、ウィルス顆粒のイメージの倍率及び実寸法、又はイメージを指標として推定することができる。分析対象物の中心位置は、マニュアル操作により、または、テンプレートマッチングにより特定することができる。また、中心位置は、変形調節後に、楕円の中心位置として自動選択されることが好ましい。上述したように、グレーレベルプロファイルは、曲線プロファイルとして、可視化することができ、ピークの山部が明るい半径領域を示し、谷部が暗い半径領域を示す。
【0015】
ウィルス顆粒の殻部等を示す、ある種の半径厚さは、細胞質内のウィルス顆粒の形態を測定したときに、ウィルス顆粒の被蓋の程度に関する情報を提供する。イメージ又はプロファイルから直接的に厚さを測定する際の問題は、ウィルス顆粒の開始位置と終了位置を特定することが困難であることにある。この問題を解決するために、プロファイルの勾配情報を利用することができる。第一勾配により、グレーレベルが曲線に沿ってどのように変化するかが測定される。グレーレベルがプロファイルに沿って暗い色から明るい色へと移行する場合には、勾配は負の数値となり、グレーレベルが明るい色から暗い色へと移動する場合には、勾配は正の数値となる。プロファイルに全く変化が無い場合、プロファイルにて極大値、極小値をとる場合には、勾配は0になる。このことから、殻部の厚さは勾配の極大値と極小値との間のピクセル数として表すことができる。この方法は、殻部の開始位置と終了位置を測定する客観的な方法である。勾配曲線の極大値及び極小値の勾配が0であることから、これら極値を探索するためには、第二勾配(勾配曲線の勾配)が計算に処される。
【0016】
この方法により、多くのウィルス顆粒のグレーレベルプロファイルが作成される。作成されたグレーレベルプロファイルの曲線は、標準ガウス関数のコンボリューションにより平滑化処理される。ウィルス顆粒壁及びウィルス顆粒殻部における曲線の様式は、直線状ではなく、谷部として表示され、ウィルス顆粒構造の全体を表す。
【0017】
かかる関数の導関数は、ウィルス顆粒壁の開始位置を表す、下方への曲線が最も急勾配となる位置にて極小値となる。また、かかる関数の導関数は、ウィルス顆粒壁の外側の終端位置を表す、上方への曲線が最も急勾配となる位置にて極大値となる。これら極値を取る位置は、プロファイルの第二導関数の零交差として検出され、極値間の距離は、ウィルス顆粒壁の厚さを表す。
【0018】
上述したように、ウィルス顆粒の半径は、ウィルス顆粒の中心位置と、ウィルス顆粒壁の中心位置との間の距離として算出される。ウィルス顆粒壁の中央位置は、平滑化処理された曲線の第一勾配の零交差である、ガウス平滑化処理されたプロファイルの極小値として推定される。
【0019】
この発明に従う方法のその他の重要な特徴は、事後的に新たなイメージを撮像した場合に、ウィルス顆粒の成長ステージの新たな統計と、多様な成長ステージにあるウィルス顆粒数の過去の統計とを比較することにある。このことは、ウィルス顆粒を、医薬品物質等の活性型の化学物質に暴露して、かかる物質のウィルス顆粒のウィルス生産への影響を解析する際に特に効果的である。例えば、既存の又は新たな物質は、ウィルス生産のいずれの部分又は成長ステージのどの過程に影響するか又は停止させるかを特定するために使用される。例えば、ウィルスが6段階の成長ステージを有する場合であって、第4の成長ステージのウィルスが存在しないときには、医薬品物質が第4の成長ステージの前で成長を阻害していることを示す。この方法は、新たな医薬品がどの成長ステージにて影響するように設計すべきかを特定するために使用することもできる。
【0020】
また、新規の異なるウィルス形態を同定し、従来のウィルス形態との相違を説明することが可能である。
【0021】
この発明に従う方法のその他の特徴は、バイオテクノロジー技術を使用した方法により、siRNA等の特定のタンパク質をウィルスから除去して、かかるタンパク質の除去がウィルスの形態及びそれに対応したグレースケールプロファイルに影響するかを分析できることにある。例えば、ウィルス顆粒内の特定のタンパク質の形成を阻害する医薬品物質を設計して、かかる阻害によるグレースケールプロファイルへの影響を調査することができる。特定のタンパク質の除去は、ある成長ステージから、それ以降の成長ステージへの以降を阻害する可能性がある。この方法により、特定のタンパク質の除去がいずれの成長ステージに影響を与えるかを特定することが可能となる。
【0022】
この発明に従う方法を、好適な構成及び実施例にて説明してきたが、特許請求の範囲に記載の発明の思想及び範囲を逸脱しない限りは、それらの代替及び変更が可能であることには留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ウィルス顆粒を含む細胞の概略図である。
【図2A】第一成長ステージにあるウィルス顆粒の顕微鏡写真のイメージ図である。
【図2B】図2Aに示すウィルス顆粒のグレースケールプロファイルの概略図である。
【図3A】第二成長ステージにあるウィルス顆粒の顕微鏡写真のイメージ図である。
【図3B】図3Aに示すウィルス顆粒のグレースケールプロファイルの概略図である。
【図4A】第三成長ステージにあるウィルス顆粒の顕微鏡写真のイメージ図である。
【図4B】図4Aに示すウィルス顆粒のグレースケールプロファイルの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィルス顆粒を分析する方法であって、該方法は、
複数のウィルス顆粒(16)を有する細胞(14)を提供するステップと、
第一ウィルス顆粒(22)の第一イメージ(20)及び第二ウィルス顆粒(34)の第二イメージ(32)を撮影するステップと、
該第一ウィルス顆粒が第一成長ステージにあり、該第二ウィルス顆粒が第二成長ステージにあることを特徴付けるステップと、
該第一イメージ(20)を該第一ウィルス顆粒(22)の第一線形グレースケールプロファイル(24)に変換するステップと、
該第二イメージ(32)を第二線形グレースケールプロファイル(36)に変換するステップと、
該第一グレースケールプロファイル(24)を第一テンプレートとして保存するステップと、
該第二グレースケールプロファイル(36)を第二テンプレートとして保存するステップと、
第三イメージの第三ウィルス顆粒を同定するステップと、
該第三イメージを第三グレースケールプロファイルに変換するステップと、
該第三グレースケールを該第一テンプレート及び第二テンプレートと比較し、該第三ウィルス顆粒の成長ステージを特定するステップとを含むことを特徴とするウィルス顆粒分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記第三ウィルス顆粒を活性型の化学物質に暴露するステップを更に含むウィルス顆粒分析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記第三イメージを作成した後に、前記第三ウィルス顆粒の第4イメージを作成するステップを更に含むウィルス顆粒分析方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記第三ウィルス顆粒の成長ステージを特定するステップを更に含むウィルス顆粒分析方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記同定された成長ステージに基づき、前記化学物質が前記第三ウィルス顆粒に与える影響を特定するステップを更に含むウィルス顆粒分析方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、第四イメージを第四グレースケールプロファイルに変換し、前記化学物質の前記第三ウィルス顆粒への影響を客観的に特定するステップを更に含むウィルス顆粒分析方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、楕円形のウィルス顆粒を円形のウィルス顆粒に換算するステップを更に含むことを特徴とするウィルス顆粒分析方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記グレースケールプロファイル(24、36、58)の導関数を算出して、ウィルス顆粒壁の開始位置及び終了位置を特定するステップを更に含むことを特徴とするウィルス顆粒分析方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記グレースケールプロファイル(24、36、58)の導関数を算出して、タンパク質層の開始位置及び終了位置を特定するステップを更に含むことを特徴とするウィルス顆粒分析方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法であって、前記ウィルス顆粒(24)からタンパク質を除去して、修正グレースケールプロファイルを作成するステップを更に含むことを特徴とするウィルス顆粒分析方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate


【公表番号】特表2008−535519(P2008−535519A)
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506452(P2008−506452)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/005571
【国際公開番号】WO2006/112928
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(507339869)インテリジェント ヴァイルス イメージング インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】