説明

細胞シグナル伝達経路に基づいた分析、試薬およびキット

本発明は、薬物をスクリーニングして、それらが疾病または障害の治療または予防に有効か否かを判断するための分析システム、PAM(経路分析マトリックス)、を目標とする。この分析システムは、多くの疾病が複雑な経路を含むことを考慮に入れて、特定の疾病または障害の疾病経路中の複数のノードに対する特定の薬物の効果を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する事例の相互参照
本出願は、2004年11月30日に出願された米国仮特許出願第60/631,435号の利益を主張し、それは参照によりその全体を本明細書に組み入れられる。
【0002】
背景
本出願は、一般に特定の疾病経路に対する薬物の効果を決定する分析システム、およびこの分析システムを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトゲノムの包括的青写真によって、多くの新しい疾病特異的分子標的が急速に同定され、多くの新薬物発見プログラムの基礎となるであろう、という大いに期待された展望は、実現が遅れている。多くの遺伝子および予測された遺伝子産物が、標的検証およびリード化合物最適化の領域で新しい難問を創り出した。新しい遺伝子に関する情報が増大するにつれて、細胞生物学を律するシグナル伝達経路およびネットワークの複雑さについての我々の理解も増す。細胞経路における一つの遺伝子の機能についての包括的な理解にも、何年もかかるであろう。単一の孤立した標的に注目した創薬研究は、細胞の環境に戻した時に、有効性が劣るまたは有害反応を示す薬物を同定する危険性がある(Knowles, J., and G. Gromo, Nature Rev. Drug Discovery 2:63-69 (2003); Walters, W.P. and M. Namchuk, Nature Rev. Drug Discovery 2:259-266 (2003))。
【0004】
経路の複雑さが、多数の成分、成分の機能の冗長度、成分間の相互作用、および成分間の時間的および空間的関係から生ずる。製薬会社は、多くの将来性ある標的が存在するが、限られた数のみが実現可能な小分子標的であること、およびそれらの遺伝子の複雑な疾病経路中における役割についてはほとんどなにも知らないこと、を認識している(Hopkins, A.L. and C.R. Groom, Nature Rev. Drug Discovery 1:727-730 (2002); Drews, J., Science 287:1960-1964 (2000))。さらに、標的は、非常に選択的な小分子物質による阻害または活性化が可能である必要があるだけでなく、疾病表現型に対する細胞応答を仲介する経路のノードで作用しなければならず、しかし、関連するまたはネットワーク化された経路に望ましくない効果を引き起こしてはならない。これらの特性は、細胞の環境の外で分離しては適切に評価することができず、経路の決定的に重要なノードを、それらの互いの時間経過的関係を評価するような方法で測定しなければならない。
【0005】
創薬の新しい解決法が、重要な疾病生物学を調節する経路における複雑さと冗長度に取り組むという難問に対処するために必要である。患者の中で同定される複数の、過剰発現され、突然変異し、修飾され、および転移された標的は、どのように薬物分子を発見し最適化するべきかの改変へ導く。動的な細胞経路の環境中における複数のノードとしての標的を測定する創薬手法は、インビボからインビトロへのギャップを埋め、発見過程を、患者の中で同定される複数標的の実相に近いものにすることになろう。一例として、癌におけるグリベックの成功は、ABL−BCRの選択的阻害にではなく、むしろ標準発見モデルによっては予測されていなかった形の、複数のキナーゼ標的の阻害によるものである。実際、グリベックの有効性は、そのABL−BCRに対するだけでなく、c−KitおよびPDGFrに対する固有の特異性にもよるものであることが、開発の相当遅い段階において発見された(O'Brien, S.G. et al, N. Engl. J. Med. 348:994-1004 (2003); Buchdunger, E. et al, J. Pharmacol. Exp. Ther. 295:139-145 (2000); Heinrich, M.C. et al, J. Clin. Oncol. 21:4342-4349 (2003))。従来の創薬アプローチは多重標的へのチャレンジに取り組んでいない。経路分析マトリックス(PAM)が、生物学的複雑さの状況下で薬効を測定する手段を提供することになろう。適切な時点での、経路ノードの活動の個々の測定値の集成が、経路応答の時間的な指紋を提供するであろう。経路の指紋は次に、増殖、移動、管形成、およびプロスタノイド合成などの細胞応答と関連づけられることになろう。
【発明の開示】
【0006】
第1の実施態様により、疾病または障害の治療または予防に有効か否かを判断するために化合物をスクリーニングするための分析システムを提供する。分析システム、PAM、は:マイクロアレイプレート;マイクロアレイプレートの6つ以上のウエルに分配された、少なくとも2つの処理された細胞系統または細胞溶解物(各ウエル中にはただ1つだけの処理された細胞系統または細胞溶解物が存在する);および少なくとも6つの異なる試薬(少なくとも1つが、処理された細胞系統または細胞溶解物によって占められたマイクロアレイプレートの6つ以上のウエルの各々の中に、存在する)、を含む。
【0007】
第2の実施態様により、疾病または障害の治療または予防のために有効な化合物をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、マイクロアレイプレートの6つ以上のウエルに少なくとも6つの異なる試薬(マイクロアレイプレートの6つ以上のウエルの各々に少なくとも1つ)を加える工程;関心対象の薬物で処理された全細胞または細胞溶解物を、マイクロアレイプレートの6つ以上の試薬を含むウエルに加え、分析反応を行なう工程、を含む。
【0008】
第3の実施態様により、化合物をスクリーニングして、それらが障害の治療および予防に有効か否かを判断するためのキットを提供する。
【0009】
発明の詳細な説明
本発明は、疾病を治療するための薬物を同定するための、新規な分析システムを提供する。この新規なアプローチは、単一標的ではなく、多重標的の疾病経路を探査する工程を含む。より生理学的に適切な分析システムを薬物スクリーニングに用いることによって、従来の創薬アプローチと比較して、より効果的な薬物候補を得て、コストを低下させ、スケジュールが短縮することになろう。
【0010】
経路の複雑さは、成分数の多さ、成分の機能の冗長度、成分間の相互作用、成分間の時間的・空間的相互関係から発生する。製薬会社は、多くの将来性のある標的が存在するが、限られた数だけが実現可能な小分子標的となるであろうこと、またそれらの遺伝子の複雑な疾病経路中における役割をほとんど知らないこと、を認識している(Hopkins, A.L. and CR. Groom, Nature Rev. Drug Discovery. 1 :727-730 (2002); Drews. J., Science, 287:1960- 1964 (2000))。標的はさらに、極めて選択的な小分子実体による阻害または活性化が可能である必要があるだけでなく、疾病表現型に対する細胞応答を仲介する経路のノードで作用しなければならないが、関連する経路またはネットワーク経路に対する望ましくない効果を引き起こしてはならない。これらの特性を、細胞の環境の外で分離して適切に評価することは不可能であり、それらの経路の重要なノードを、それら相互間の時間経過の関係を評価する手法によって測定しなければならない。
【0011】
その分析システムを経路分析マトリックス(PAM)と呼ぶ。PAMが、生物学的複雑さの状況下で薬物の効果を測定する手段を提供することになろう。PAMシステムを、過剰発現、突然変異、修飾、または脱局在化を示すデータに基づいて、疾病との関連が示される経路のノードの組合せ上に構築し、また細胞モデル中のシグナル伝達強度および経路動力学をモニターする際の重要性によって、他のノードを選ぶ。このバイアスのないアプローチにより、多重標的指向化合物の選択および最適化が可能になる。PAMは、疾病経路の重複点、即ちノードを同時にモニターするために、ハイスループットのマイクロプレート方式で、分析技術の最適化された組合せまたはマトリックスを利用する。そのアプローチは、前以て単一標的を決めないで、むしろ化合物の経路に対する効果に、最良の標的または標的の組合せを決定させる。経路に対する阻害剤または刺激剤の影響は、経路のノードのデータに由来する独自の指紋となるであろう。次に、経路の指紋は、増殖、移動、細管形成、およびプロスタノイド合成のような細胞応答と関連するであろう。細胞および動物モデルにおける経路ノードの指紋を、リード薬物の最適化を進めるために用いることになろう。指紋分析は、ゲノム分析およびプロテオーム分析において、新規なバイオマーカーを同定するために適用され、成功を収めてきた (Baily, WJ. and R. Ulrich, Expert Opin. Drug Saf, 3:137-151 (2004); Livesey, FJ. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 101 :1374-1379 (2004); Gerritsen, M.E.et al, Microcirculation, 10:63-81 (2003))。
【0012】
PAMが、標的選択および検証をリード化合物の同定と併合し、それにより、より広い範囲を標的の対象にして、同時に新規な創薬に要する時間を減少させる。PAMはまた、動物モデルにおけるインビボでの性能をよりよく予測するデータを産み出す可能性が高い。シグナル伝達経路の諸段階の到達点が、タンパク質・タンパク質間相互作用、タンパク質リン酸化、細胞の増殖および移動などの、特異的な結果または表現型となる。分析データと表現型との相関性は、インビボの動物モデルの結果の理解へ近づく一歩である。発見過程での初期におけるよい予測分析手段が、薬物候補の選択を改善し、インビボテストのためのよりよいバイオマーカーを提供することになろう。
【0013】
薬物をスクリーニングして、それらが障害の治療または予防に有効か否かを判断するためのPAMシステムは、マイクロアレイプレートを含む。標準サイズのマイクロアレイプレートは96個のウエルを持っているが、384個および1536個ウエルのプレートなどの、他のサイズのマイクロアレイプレートを用いることもできる。マイクロアレイプレートには、組織または細胞培養のためのプレート、即ち組織培養プレートが含まれる。以下にマイクロアレイプレートのレーンに言及するときは、レーンの数はプレートの方向に依存することになる。例えば96ウエルプレートでは、各々が12行の8レーン、または各々8行の12レーンのいずれかが、方向に依存して存在する。もし、例えばPAMによって研究される経路に8を超えるノードが存在する場合には、8行の12レーンが存在するように、プレートの方向を決めるのが有利であろう。各ノード分析の試薬を2つ以上重複して用いることもできる。
【0014】
PAMシステムはまた、PAMに用いるマイクロアレイプレートの各ウエル中に、処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を含み、その際、1つ以上の処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物がマイクロアレイプレートのウエル中に分配されて存在し、またいずれの単一のウエル中にも、1つのみの処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が存在するように注意する。好ましくは、マイクロアレイプレートの少なくとも6つのウエルを用いる。細胞系統とは、長期間培養で維持され、また通常、細胞に無限の培養寿命を与える自然発生的形質転換過程を経験している一定の細胞集団を意味する。一次細胞は、組織(しばしば胚組織)に直接由来する培養細胞である。それらは形質転換された細胞系統とは異なる。細胞系統および一次細胞の両方が、組換えにより標的遺伝子の発現によって修飾されることが可能である。
【0015】
「処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物」とは、一次細胞または細胞系統または細胞溶解物を、ウエルまたはマイクロアレイプレートに加えてノード分析を行なう前に、細胞培養中である条件に曝すことを意味する。処理された細胞溶解物は、細胞培養中で関心対象の薬物または化合物に曝された一次細胞または細胞系統の溶解によって得られる細胞溶解物であろう。「条件」とは、関心対象の薬物または化合物、リガンド、RNAi、増殖条件(培地、温度、pH、O2)、を意味する。「関心対象の薬物または化合物」とは、関心対象の1つ以上の薬物または化合物を意味する。使用する薬物または化合物の量は、用いるスクリーニングの条件に依存し、したがって処理される細胞毎に変化する可能性がある。例えば、多くの化合物ライブラリーは1mg/mlで調製するが、濃度は所与の化合物の分子量によって変化することになろう。
【0016】
PAMシステムはまた、マイクロアレイプレートの1つ以上のウエル中に、未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を含む可能性がある。未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が、行なう分析の対照の役割をするであろう。言いかえれば、検査されている疾病経路の各ノードに対して、対照として用いられる少なくとも1つの未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物があるべきであり、関心対象の薬物の活性をテストするために疾病経路のその特定のノードに対して行なう分析を、対照に対しても行なうべきである。
【0017】
例えば、プレート中に96個のウエルが存在してもよいが、96のウエルすべてを用いる必要はないであろう。1つのノードが1を超すレーンを占めてもよい。さらに、レーンで利用できるウエルより少数の分析を行なう場合には、レーン内のすべてのウエルを用いなくともよい。したがって、一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が、特定の分析に用いられるマイクロアレイプレートの1つのウエルの中にのみ存在することもあろう。ウエルに存在する一次細胞、細胞系統または細胞溶解物の量は、その特定のウエルで何を分析するかによって変わる可能性がある。当業者は、PAMで行なわれる各々の分析について、どれだけの量の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を用いる必要があるかを知っているであろう。
【0018】
マイクロアレイプレートのいずれか1つのウエル中には、処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物の1つのみが存在するが、2つ以上の処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を、PAMシステムで用いなければならない。テストする条件は、薬物濃度、リガンド濃度、1つ以上のRNAi分子の存在、増殖条件、処理時点であろう。例えば、最初のレーンには、条件Aで処理された細胞系統が存在する。第2のレーンには、条件Bで処理された細胞系統が存在する。第3のレーンには、条件Cで処理された細胞溶解物が存在する、などである。言いかえれば、個々のウエルが1つだけの処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を有する限り、複数の処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が、マイクロアレイプレートのウエル中に、任意の配置で存在してよい。マイクロアレイプレート中のレーンの配置はPAMを行なう個々の科学者に任せられるけれども、どんな型の分析が行なわれるかによって、レーンを組織するとよいであろう。例えば、経路の2つのノードがPCR分析を必要とする場合は、マイクロアレイプレートのそれらのレーンは、隣り同士に位置するべきである。あるいは、経路中のノードの出現に従って、マイクロアレイプレートを時間順に組織してもよい。したがって、経路のノード1がレーン1になり、経路のノード2がレーン2になる、などであろう。もちろん、経路の単一のノードが1を超えるレーンを必要とする場合は、マイクロアレイプレートの構成をそれに従って調節することができる。
【0019】
PAMシステムはまた、処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が占めている各々のマイクロアレイプレートのウエル中に、試薬を含む。1つを超える試薬が、各ウエルに存在してもよい(したがって、「試薬」とは1以上の試薬を意味する)。好ましくは、PAMシステムでは、6以上の試薬を用いる。使用する試薬は、その特定のウエルで行なわれる分析に依存することになる。したがって、レーン1、行1でキナーゼ分析が行なわれる場合は、キナーゼ分析用試薬(抗-ホスホ抗体、捕獲抗体、二次抗体、化学発光検出試薬)がウエル中に存在することになろう。レーン2、行1でレポーター遺伝子分析が行なわれる場合は、レポーター遺伝子試薬(β−ガラクトシダーゼ基質、その他)が、ウエル中に存在する、などであろう。
【0020】
PAMシステムは、さらにリガンドを含んでよい。「リガンド」とは、1以上のリガンドを意味する。使用するリガンドの量は用いるノード分析に依存し、したがって条件を変える可能性がある。PAMシステムで用いることができるリガンドには、成長因子、サイトカイン、ケモカイン、ペプチド、ホルモン、脂質、レセプター、可溶性レセプター、小分子、抗体、抗体断片、アプタマー、核酸、ポリマー、炭水化物、アミノ酸が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0021】
本発明の方法で分析される「薬物」または「化合物」には、小分子化合物、siRNA、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体断片およびアプタマーが非限定的に含まれる。
【0022】
本発明の分析システムおよび方法の中で用いられる細胞系統には以下のものが含まれる、しかしそれらに限定されるわけではない:細胞系統
【表1】




および一次細胞((前)脂肪細胞、ヒト;星状細胞、マウス;星状細胞、ラット;B細胞、ヒト;心筋細胞、ラット;CD34+細胞、ヒト;軟骨細胞、ヒト;樹状細胞(DC)、ヒト;胚繊維芽胚細胞(MEF)、マウス;胚幹(ES)細胞、マウス;冠動脈内皮細胞(HCAEC)、ヒト;肺微小血管内皮細胞(HMVEC−L)、ヒト;皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC−d)、ヒト;臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、ヒト;臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、ヒト;大動脈内皮細胞、ヒト;気管支上皮細胞(NHBE)、ヒト;気管支上皮細胞(NHBE)、ヒト;気管支上皮細胞、サル;乳腺上皮細胞(HMEC)、ヒト;乳腺上皮細胞(HMEC)、ヒト;前立腺上皮細胞(PrEC)、ヒト;気管上皮細胞、ヒト;肺胞上皮細胞、ラット;角膜上皮細胞、ヒト;腎臓上皮細胞、ヒト;乳腺上皮細胞、マウス;皮膚繊維芽細胞(NHDF-成人)、ヒト;皮膚繊維芽細胞(NHDF-胎児)、ヒト;包皮繊維芽細胞、ヒト;白膜繊維芽細胞、ヒト;肝細胞、マウス;肝細胞、ラット;角化細胞、成人、ヒト;角化細胞、新生児、ヒト;マクロファージ、ヒト;マクロファージ、マウス−BALB/c;マクロファージ、マウス−C57BL/6;メラニン細胞(NHEM−neo)、ヒト;間葉系幹細胞(MSC)、ヒト;単球、ヒト;筋線維芽細胞、ヒト肝臓;筋線維芽細胞、ラット肝臓;ナチュラルキラー細胞(NK)、ヒト;神経幹細胞(NSC)、マウス;神経幹細胞(NSC)、ラット;ニューロン、マウス;ニューロン、ラット;オリゴデンドロサイト、ラット;有足細胞;腎臓近位細管細胞、ヒト;大動脈平滑筋細胞(AoSMC)、ヒト;大動脈平滑筋細胞(AoSMC)、ラット;冠状動脈平滑筋細胞、ヒト;平滑筋細胞(SMC)、ラット;間質細胞、ヒト頚部;T細胞、マウス−BALB/c;T細胞、マウスC57BL/6;刺激されたT細胞、ヒト;未刺激のT細胞、ヒト;栄養胚葉細胞、マウス、任意のこれらの細胞の組換え修飾細胞、または疾病経路の研究に役立つ任意の真核細胞系統。ヒトの疾病経路をテストしているとき、細胞系統は、好ましくはヒトの細胞系統であろう。
【0023】
本発明の分析システムおよび方法の中で用いられる試薬には、必須および非必須アミノ酸、無機塩類、有機化合物、微量元素、放射性ヌクレオチド、血清、成長因子、抗生物質、ビタミン、オリゴヌクレオチド、ならびにポリメラーゼが含まれる、しかしそれらに限定されるわけではない。
【0024】
本発明はまた、疾病の治療または予防に対する有効性について化合物をスクリーニングする方法であって、1、2のまたはそれ以上の一次細胞または細胞系統を、ある条件(上に規定された)で、組織培養プレートのウエルもしくは容器中で処理する工程、および任意で、処理された一次細胞または細胞系統を溶解する工程、および処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を、マイクロアレイプレートの2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30のウエルに、好ましくはマイクロアレイプレートの6以上のウエルに、どの単一のウエルにも1つのみの一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が存在するように注意して加える工程、を含む方法を目的とする。マイクロアレイプレートのウエルは、6つ以上の試薬(一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を加えることになるマイクロアレイプレートの各々のウエルに少なくとも1つの試薬)を含んでもよい。あるいは、一次細胞、細胞系統または細胞溶解物の後に、ウエルに試薬を加える。さらに別の他の実施態様では、マイクロアレイプレートに一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を移す前に、処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を有する組織培養プレートに試薬を加える。一旦、試薬、および一次細胞、細胞系統または細胞溶解物をマイクロアレイプレートに加えると、分析を実行し、その結果を測定する(蛍光、比色、化学発光、無標識、放射計読み出し、その他により)。経路の2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30のノードを代表するする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30の分析を行なう。好ましくは、経路の少なくとも6つのノードを代表する少なくとも6つの分析を行なう。PAMで用いる試薬および/または分析をそれぞれ、薬物をスクリーングするその疾病の疾病経路の特定のノードを測定するために選ぶ。一旦分析用の反応を行ったならば、当業者はデータを分析して、薬物または化合物が、PAM疾病経路中のテストする6以上のノードの各々を阻害するかまたはそれに影響を与えて、ノードの活動の指紋を生成するかどうか調べることになろう。薬物の指紋は、薬物が、標的の1つまたは組合せを阻害することにより疾病経路を修飾する点でどれだけ有効であったか、したがって、その疾病を治療または予防する方法において有用であり得るかを示すであろう。薬物の指紋はまた、医薬品化学の手法を通じて薬物の特異性および性能を改善するためのデータを提供することになろう。上に議論したように、この方法中で用いられる一次細胞、細胞系統、細胞溶解物および試薬は、特定のウエル中でどんな型の分析が行なわれるかに依存して変わることになろう。リガンド(上に定義したような)をマイクロアレイプレートの1つ以上のウエルに加えてもよい。
【0025】
別の実施態様では、処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を、組織培養プレートの6以上のウエルまたは容器へ分離して入れ、試薬、リガンドなどをそれに加える。次に、組織培養プレートのウエルまたは容器中の処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物について分析を行なうことになろう。この実施態様では、組織培養プレートの6つ以上のウエルまたは容器中に、任意で、未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が存在し、処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物に対して行なう分析の各々を、対照として未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物に対しても行なう。
【0026】
PAMで用いられる分析技術には次のものが含まれる、しかしそれらに限定されるわけではない:タンパク質タンパク質間相互作用分析(BRET、FRET、PCA、InteraX、免疫沈殿分析、NMR、質量分析法、2−ハイブリッド分析、SPR、BIND、ELISA、ELISPOT、ビーズに基づいた捕獲法(即ちLuminex)、FMAT、SPA、シンチレーションマイクロプレート、レポーター遺伝子分析、非変性ゲルシフト分析を含む);タンパク質・DNAまたはRNA間相互作用分析(BRET、FRET、PCA、InteraX、免疫沈殿分析、NMR、質量分析法、2−ハイブリッド分析、SPR、BIND、ELISA、ELISPOT、ビーズに基づいた捕獲法(即ちLuminex)、FMAT、SPA、シンチレーションマイクロプレート、レポーター遺伝子分析、ゲルシフト分析、キャピラリー電気泳動を含む);タンパク質小分子間相互作用分析(免疫沈殿法、NMR、質量分析法、2−ハイブリッド分析、SPR、レポーター遺伝子分析、BIND、ELISA、ELISPOT、ビーズに基づく捕獲法(即ちLuminex)、FMAT、SPA、シンチレーションマイクロプレート、キャピラリー電気泳動を含む);キナーゼ分析(マイクロ流体工学、マイクロアレイ、ELISA、SPA、シンチレーションプレート、放射計測アレイ、HPLC、ATP枯渇分析、キナーゼカスケード分析、FRET、HTRF、TRF、DiscoverX、PCA、InteraX、SPR、レポーター遺伝子分析、バイオセンサー分析、ウエスタンブロットを含む);プロテアーゼ分析(FRET、蛍光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測、SPA、シンチレーションプレート、ウエスタンブロットを含む);ホスファターゼ分析(マイクロ流体工学、マイクロアレイに基づいた分析、ELISA、SPA、シンチレーションプレート、放射計測、HPLC、FRET、蛍光、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析);解糖酵素分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);還元酵素分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);ホスホリパーゼ分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);酸化酵素分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);エステラーゼ分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);リガーゼ分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);デヒドロゲナーゼ分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);エノラーゼ分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);ヌクレアーゼ分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);デアミナーゼ分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);ポリメラーゼ分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);トランスフェラーゼ分析(蛍光分析、化学発光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);トポイソメラーゼ分析(蛍光分析、HPLC、マイクロ流体工学、ELISA、放射計測分析、SPA、シンチレーションプレート、他の放射計測分析を含む);タンパク質修飾分析(リン酸化、脂質化、タンパク質分解的切断、キャップ形成、および糖鎖形成分析を含む);代謝物質分析(脂肪酸取り込み分析および解糖分析を含む);遺伝子発現分析(PCR、TaqMan、bDNA、ハイブリッド捕獲、FISHおよびレポーター遺伝子分析を含む);タンパク質発現分析(ELISA、マイクロアレイ分析、質量分析法、SPR、BIND、レポーター遺伝子分析);アポトーシス分析(アネキシン結合、カスパーゼ、Tunel、DNA断片、膜透過性、およびミトコンドリア膜電位により測定する);毒性分析(ATP、dBrd取込み、およびミトコンドリア膜電位);細胞増殖分析(ATP、dBrd取込み、放射計測分析、テロメア長、およびミトコンドリア膜電位);転位分析(DiscoverX、InteraX、PCA、蛍光顕微鏡、蛍光性細胞イメージング、蛍光タンパク質、または抗体を用いる);細胞運動分析(コンダクタンス分析、膜電位分析、およびチェンバー分析を含む);細胞接着分析(ELISA、フローサイトメトリー、FMAT、レポーター遺伝子分析、およびキナーゼ分析を含む);細胞侵入分析(細胞膜分析。コラーゲン分析、およびECMatrix細胞侵入分析を含む);形態分析(顕微鏡分析、および細胞イメージング分析を含む);膜電位分析(蛍光分析、化学発光分析、マイクロ流体工学を含む);およびセカンドメッセンジャー分析(Ca、cAMP、IP3、cGMP、プロスタグランジン、ロイコトリエン、リン脂質、アラキドン酸およびNO、の分析を含む)。当業者は、これらの分析の各々を行なう方法を知っているであろう。
【0027】
行なわれる分析がウエスタンブロットまたはPCR分析、あるいは分析反応を行った後にゲル泳動の実行または追加の工程の遂行を必要とする任意の同様の分析である場合は、本発明の方法はさらに、ゲル泳動の実行その他のそのような工程を遂行する工程を含む。
【0028】
提供する実施例は、糖尿病網膜症および加齢黄斑変性症の治療のための薬物を同定するためのPAMの使用を目指しているが、PAMを、他の疾病の治療のための薬物を同定するために、および他の経路に影響する薬物を同定するために、同様に用いることができる。本発明で用いられるであろう情報伝達および制御経路には、次のものが含まれる、しかしそれらに限定されない:クロマチン調節およびアセチル化;MAPKシグナル伝達(成長因子、Gタンパク質共役レセプター、有系分裂促進物質、成長因子および炎症性サイトカインによって刺激される、有糸分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(および突然変異体MAPK)シグナル伝達カスケード);アポトーシス、細胞死、およびFas/CD95、TNFR−1、TNFR−2、APO−3L、APO−2Lのレセプターシグナル伝達、それらのエフェクター分子FADD、TRAF2、Daxx、TRADD、RIP、ならびにそれらの突然変異体;カスパーゼアポトーシス、細胞死、および成長因子およびサイトカインなどの生存因子のレセプターシグナル伝達、ならびにそれらの突然変異体、あるいは生存因子の除去;Akt/PKB(およびそれらの突然変異体)のシグナル伝達経路、ならびにGPCR、RTK、インテグリンおよびサイトカインレセプターの活性化によって刺激される下流のエフェクター;TNFa、IL−1b、熱ショック、アニソマイシン、亜ヒ酸、酸化ストレス、アミノ酸欠乏、低酸素症、UV損傷、ヘム欠乏、または、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ニューロペプチドなどのリガンドによるレセプター活性化などのストレス因子によって刺激され、また、p38mapk、erk、pdk1/2、akt、GSK3b、PKR、PERK、GCN2、HRI、elF2、elF4、p70S6キナーゼ、および下流のシグナル伝達分子に、突然変異体を含めて影響を与える、翻訳制御を調節する経路;炎症性サイトカインレセプター、GPCR、および成長因子レセプターの刺激による、PKC/ホスホリパーゼ(およびそれらの突然変異体)の活性化; 成長因子除去、UVストレス応答、複製の老化、TGFb、接触阻害、細胞周期/チェックポイントに影響を与え、またp53、myc、smad、ATM/ATR、HIPK2、DNAーPK、p16INK4a、p18INK4c、p19INK4d、p15INK4b、p27KIP1、p21CIP1、Chk1/2、cdc25a、cdc25B/C、GSK−3b、CDK2、CDK4/6、cdc2、サイクリンB、サイクリンD、サイクリンE、およびすべての下流のエフェクターならびに突然変異体の活性に影響を与えるDNA損傷、などの刺激;Jak/Stat経路、IL6レセプター/gpl30活性化によって刺激される下流のエフェクター(および突然変異体)と成長因子のクロストーク(即ちEGFR);B細胞レセプター、T細胞レセプター、IL−1r、TNFr、成長因子レセプター(即ちBMP、EGF、HGH、インスリン、NGF、TGFα)、LTβr、CD40、BR3およびそれらの下流のエフェクター分子、ならびに突然変異体、の活性化によって刺激されるNF−κBシグナル伝達;レセプター刺激を介するTGF−β/SMADシグナル伝達、ならびに、転写因子、コリプレッサー、およびコアクティベイターを含む下流のエフェクター、ならびにそれらの突然変異体;アクチン細胞骨格再編成、細胞運動、生存、増殖、微小管重合をもたらす、細胞骨格および細胞−細胞接触シグナル伝達、ならびにシグナル伝達に含まれる経路分子;低酸素症、虚血、熱ショック、アディポネクチン、およびレプチンによって刺激されるAMPKシグナル伝達を介するグルコース代謝またはステロール/イソプレノイド合成の阻害、脂肪酸酸化;インスリンレセプターシグナル伝達、ならびにTNFr1、Glut4、およびSNARE複合体とのクロストーク、ならびにナトリウム輸送、アポトーシス、グリコーゲン合成、脂肪酸合成、脂肪分解、およびタンパク質合成、増殖に影響を与える下流のシグナル伝達分子(突然変異体を含む)に対する効果;下流のシグナル伝達分子を含むB細胞抗原レセプターおよびT細胞レセプターシグナル伝達を介する、リンパ細胞シグナル伝達、およびCD19、CD22、CD45、CD4、CD28、LFA−I、カルシウムチャンネル、およびそれらの下流のシグナル伝達分子、ならびに突然変異体とのクロストーク;核内レセプターのリガンドを介する活性化、コアクティベイターおよびコリプレッサーとの相互作用、および遺伝子発現の転写/抑制;アダプター分子および下流のシグナル伝達分子、ならびにそれらの突然変異体を含む、frizzledレセプターを介するWnt/β-カテニン シグナル伝達;レセプター型チロシンキナーゼ(KDR、KIT、FLT、PDGFRaおよびb、Tie2、FGFR1〜4、Ret、EphB、EGFR、HER2〜4、IGF1−R、ALK、INS−R、およびそれらの突然変異体)、ならびに細胞質チロシンキナーゼ(jak1〜3、tyk、csk、lyn、src、fyn、fcr、blk、fak、pyk2、syk、zap−70、abl、btk、およびそれらの突然変異体)シグナル伝達経路、これにはcbl、gab、crk、dok、grb、およびshcなどのアダプタータンパク質が含まれる。
【0029】
本発明はまた、薬物をスクリーニングして、それらが疾病の治療または予防に有効か否かを判断するためのキットを目標とする。これらのキットは、マイクロアレイプレート、2つ以上の細胞系統または細胞溶解物、および少なくとも1つの試薬を含む。
【0030】
糖尿病網膜症と加齢黄斑変性症の背景
人間集団が老いると共に、失明へ至る条件を備えた50歳を超える人々の数が増加している。失明をもたらす2つの主要な疾病は、増殖糖尿病網膜症(DR)および加齢黄斑変性症(AMD)である(Clark, A.F. and T. Yorio, Nature Rev. Drug Discovery, 2:448-459 (2003); Witmer, A.N. et al, Progress in Retinal and Eye Research, 22:1-29 (2003))。毎年、20歳より上の130万人のアメリカ人が、時間と共に増殖網膜症に進行する可能性のある糖尿病網膜症と診断されている。網膜の領域を酸素欠乏または虚血にさせる循環疾患が、その疾病の進行を助ける。血管形成または新しい異常な血管増殖の進展がこの症状を特徴づける。目の異常血管形成によって特徴づけられる別の疾病が、滲出型AMDである。国立眼科研究所(NEI)によれば、米国の170万人以上がAMDに罹患している。現在20人の高齢者のうち1人が加齢黄斑変性症に罹患しており、また人々がより長生になり、ベビーブーマーが引退に達するので、頻度は、2020年までに295万人を超すものと予想される。浸出型AMDは一般的ではないが(10%)、通常はより有害であり、失明に至る。
【0031】
虚血が引起こす眼内血管形成における、血管形成およびその鍵となる仲介物であるVEGF−Aの役割が、様々なVEGF阻害剤を用いて、様々な動物の研究で直接実証された(Witmer, A.N. et al; Aiello, L.P. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.. 92:10457-10461 (1995); Adamis, A.P. et al, Arch. Ophthalmol, 114:66-71 (1996); Robinson, G.S. et al, FASEB J., 15:1215- 1217 (2001); Ozaki, H. et al, Am. J. Pathol., 156:697-707 (2000); Campochiaro, P.A. and S.F. Hacckett, Oncogene, 22:6537-6548 (2003); Ferrara, N., Endocrine Reviews, 25:581-611 (2004))。血管形成眼障害の治療のための、VEGFを標的とする多くの抗血管形成分子(組換えヒト化抗VEGF Fab(rhuFab VEGF)および2−フルオロピリミジンRNAオリゴヌクレオチドリガンドアプタマーを含む)を、現在AMD患者で調査している(Witmer, A.N. et al; Chen, Y. et al, J. MoI. Biol. 293:865-881 (1999); Ruckman, J. et al, J. Biol. Chem., 273:20556-20567 (1998))。浸出性AMDを有する患者に与えたアプタマー、Macugen(Pegaptanib)、の臨床研究の結果が、プラセボと比較して、失明を減少させること示している。しかし、効果の大きさは、光力学療法で達成された結果よりも著しく大きいようには見えなかった(Ferrara, N., Endocrine Reviews, 25:581-611 (2004); Doggrell, S.A., Expert Opin. Pharmacother., 6:1421-1423 (2005))。Genentechで開発されたヒト化抗体断片であり、血管内皮成長因子Aに結合し阻害するよう設計されたLucentisは、滲出性AMDを有する患者での第III相試験で視覚の改善を示す(Michels, S. and PJ. Rosenfeld, Klin. Monatsbl. Augenheilkd., 222:480-484 (2005))。これらの治療は、硝子体内注射により目へ薬物を繰り返し送達する必要がある。目に局所的に送達することができる小分子治療薬が治療に良いであろうが、しかしそれには、特異的な血液−水溶液、および血液−網膜関門を乗り越える必要があろう(Clark, A.F. and T. Yorio, Nature Rev. Drug Discovery, 2:448-459 (2003))。開発中の他の抗血管形成標的および分子は、現在、VEGF−A阻害剤、PKC−β阻害剤、インテグリンアンタゴニストおよびステロイド治療薬に限定されている(Witmer, A.N.; Ferrara, N.)。PKC−βおよびVEGFR2/KDRの小分子阻害剤は、臨床試験で評価中である(Compochiaro, P.A., Invest. Opthalmol. Vis. Sci., 45:922-931 (2004))。臨床研究での最近の発見は、現在まで開発された多くの抗血管形成薬物が、臨床研究において失望させる結果を生んでいることを示した(Ton, N.C. and G.C. Jayson, Curr. Pharm. Des., 10:51-64 (2004); Shepherd, F.A. and S.S. Sridhar, Lung Cancer, 41:63-72 (2003))。
【0032】
実験的発見および臨床所見の間の相違は、VEGFシグナル伝達経路の不均一性および冗長度に起因している。複数のレセプターおよび成長因子が、血管形成の仲介に関わっていた(これらの因子のリストについては、 Witmer, A.N. et al, Progress in Retinal and Eye Research. 22:1-29 (2003); および Ferrara, N. Endocrine Rev.. 25:581-611 (2004)を参照のこと)。VEGFR2/KDRに仲介されるカスケードが複雑であるだけでなく(図2)、他のVEGFレセプター、VEGFR1/Flt−1およびニューロピリン−1(NP−1)が、さらに描像を複雑にする(Zachery, L, Biochem. Soc. Trans. 31 :1171-1177 (2003); Cross, M. J., et al, Tr. Biochem. Sci., 28:488-494 (2003))。これらの相互作用はまだ詳細には理解されていない。血管形成の制御は、正および負のレギュレーターの動的平衡により調節されている。VEGF−A、FGF、アンジオポエチン、形質転換成長因子αおよびβ(TGF−α、TGF−β)、肝細胞成長因子(HGF)、結合組織成長因子(CTGF)、インターロイキン8(IL−8)およびLL−37が血管形成を正に調節し、一方でトロンボスポンジン、アンジオスタチン、エンドスタチンおよび色素上皮由来因子(PEDF)が、血管形成を負に調節することが知られている(Witmer, A.N., et al, Progress in Retinal and Eye Research. 22:1-29 (2003); Koczulla, R., et al, J. Clin. Invest., 111:1665-1672 (2001))。VEGFと真には独立していないシグナル伝達経路を活性化することが示された血管形成因子が下流のどこかに収斂している可能性があり、それによりVEGFの上流の阻害を回避する可能性が生ずる。多様性もまた、種々の組織からの内皮細胞の異なる役割のレベルで報告されている(Conway. E.M. and P. Carmeliet, Genome Biology. 5:207 (2004))。これは、癌などの1つの治療適用のために開発された抗血管形成薬物が血管形成介在眼疾病で同じ有効性を示すわけではないことを示唆する。これらの相互作用をすべて一つずつ解明するためには、数年間の研究を要することは明らかである。対照的に、我々がここで提案しているバイアスのないアプローチは、これらの経路の複数の、および/または決定的な部分を遮断する分子の同定に特によく適しているように見える。
【0033】
細胞レベルのVEGFは、生存、増殖、移動、血管の透過性、細管形成、NO、およびプロスタノイド合成を含む多面的機能、ならびに遺伝子発現を媒介する(Zachery, I, Biochem. Soc. Trans., 31:1171-1177 (2003); Cross, M. J., et al, Tr. Biochem. Sci.. 28:488-494 (2003))。血管形成生物学を支配する細胞経路の鍵分子プレーヤーおよび相互接続性についての多数の知識が増大している。VEGFは、その主なレセプターであるKDRを介して、シグナル伝達経路の、広範で複雑な統合されたネットワークを開始する(Carmelier, P., Nat. Med., 6:389-395 (2000); Ferrara, N., Curr. Opin. Biotechnol., 11:617-624 (2000))。模式図(図1)が、KDRを介するシグナル伝達ならびに他の膜結合分子とそれらの下流のエフェクター間の相互作用についての我々の現在の理解のマップを提供する。どの鍵となる経路が血管形成に関係するのかを決めるために、これらの経路ノードの多くが分離してまたは連続して研究されてきた。リガンドが結合するとKDRが二量体化し、レセプターの細胞質ドメインのチロシン残基を自己リン酸化する。6個のチロシンがリン酸化されることが知られているが、これらの部位の多くの機能は分かっていない(Wu, L., et al, J. Biol. Chem., 275:6059-6062 (2000); Takahashi, T., et al, EMBO J., 20:2768-2778 (2001); He, H., et al, J. Biol. Chem., 274:25130-25135 (1999))。ホスホ−チロシン残基は、Grb2、Nck、Shc、SHP−1、SHP−2、およびHCPTPAなどの、SH2を含むタンパク質の相互作用部位であると仮定されている。SH2を含むタンパク質、VEGFR関連蛋白質(VRAP)は、VEGFが活性化したKDRとTyr951を介して相互作用し、またPLCγはTyr−1175で結合する(Dougher-Vermazen, et al, Biochem. Biophys. Res. Commun., 205:728-738 (1994); Wu, L., et al, J. Biol. Chem., 275:6059-6062 (2000))。
【0034】
VRAPが、PLCγおよびPI3KをKDRに対して往復させるためのアダプタータンパク質として働く役割を有する可能性が提案されている。さらにc−Srcが、VEGFに依存する方式でPLCγの活性化を仲介している可能性も報告されている(He, H., et al, J. Biol. Chem., 274:25130- 25135 (1999))。VEGFがKDRを介して、ホスホリパーゼC−γ(PLCγ)、プロテインキナーゼC(PKC)、Ca2+、ERK(細胞外シグナル調節プロテインキナーゼ)、Akt、Src、焦点接着キナーゼ(FAK)、およびp38MAPK経路、の活性化をもたらすことが文献によく記述されている(Takahashi, T., el al , EMBO J., 20:2768-2778 (2001); Zachary, I. And G. Gliki, Cardiovasc. Res.. 49:568-581 (2001); Gerber, H.P., et al, J. Biol. Chem., 273:30336-30343 (1998); Thakker, G.D., et al, J. Biol. Chem., 274:10002-10007 (1999); Abedi, H. and I, Zachary, J. Biol, chem., 272:15442-15451 (1997); Takahashi, T., et al, Oncogene, 18:2221-2230 (1999); Gliki, G., et al, Biochem. J., 353:503-512 (2001))。これが、遺伝子発現、細胞の生存および移動に対する長期効果をもたらす。増大している多数のデータが、経路ネットワークの非常に複雑な描像を描き出している。
【0035】
最近、Koczulla et al,は、LL−37、ヒトのカテリシジン抗菌ペプチドおよびGタンパク質共役レセプターFPRL−1の血管形成における役割を報告した(Koczulla, R., et al , J. Clin. Invest., 111 : 1665- 1672 (2003))。この経路は独立して血管形成を仲介することが実証された。FPRL−1レセプターは内皮細胞で発現され、またLL−37は特異的に内皮細胞増殖を媒介する(Koczulla, R., et al (2003); Keitoko, M., et al, J. MoI. Cell Cardiol., 29:881-894 (1997))。マウス相同体、CRAMP、の遺伝子破壊は、創傷修復の間の血管新生の減少を示した(Koczulla, R. et al (2003))。LL−37はまた、FPRL−1レセプターを通じて、ヒト末梢血の好中球、単球およびT細胞を化学誘引する機能を示した(Yang, D., et al, J Exp. Med., 192: 1069 (2000))。この点については、シグナル伝達の機構はよく理解されていない、しかしLL−37がERK1/2、p38MAPKおよびJNKを活性化することを示唆する証拠がある(Koczulla, R., et al (2003); Prenzel, N., et al, Nature, 402:884 (1999); Ferguson, S.S.G., et al, Science, 274:363-366 (1996)。
【0036】
ヘテロ三量体Gタンパク質の、Flt−1およびKDRのシグナル伝達経路中での役割が、文献に報告された(Zeng, H., et al, J. Biol. Chem., 278:20738-20745 (2003); Zeng, H., et al, J. Biol. Chem., 277:46791-46798 (2002); Zeng, H., et al , J. Biol. Chem., 277:4003-4009 (2002))。Gq/11タンパク質がKDRの細胞内ドメインに結合し、その活性を上方調節する証拠がある(Zeng, H., et al (2003))。Gq/11特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドが、KDRリン酸化、MAPK活性化および細胞増殖を遮断することが観察された。インスリンレセプター、インスリン様増殖因子レセプターおよびPDGFレセプター(Alderton, F., et al, J. Biol. Chem., 276:28578-28585 (2001); Kuemmerle, J.F. and K.S. Murthy, J Biol. Chem., 276:7187-7194 (2001))を含むこのスーパーファミリーの他のメンバーが、それらのシグナル伝達用にヘテロ三量体Gタンパク質を利用することが示された。これらの結果は、血管形成のための、より大きく、より集積されたネットワークを示唆する。
【0037】
以下の実施例において、PAMを、化合物をスクリーニングして血管形成阻害剤を同定するために用いた。この目的のために、PAM中で8つの分析を用いた:1)KDR/VRAPまたはKDR/Gαq相互作用細胞に基づくバイオセンサー;2)FPRL−1/β2アレスチン相互作用細胞に基づくバイオセンサー;3)srcキナーゼ;4)p38MAPK;5)Ca2+流束またはcAMP産生;6)Akt;7)ERK1/2カスケード;および8)表現型(細胞増殖/細胞生存の測定)。以下の実施例は、用いる分析およびこれらの分析を遂行するための細胞系統を調製する方法について述べる。
【実施例1】
【0038】
細胞に基づくバイオセンサーの調製
細胞に基づくバイオセンサーの構築は、β−ガラクトシダーゼの2つの不活性な欠失変異体、ΔαおよびΔω、の相補性を利用するシステムを用いる(Mohler, W. A. and H.M. Blau, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 93:12423-12427 (1996))。これら2つの相補的酵素断片は、互いに低い親和性を有しており、各々は酵素的に不活性である。関心対象の2つの相互作用するタンパク質、AおよびBは、β−ガラクトシダーゼの2つの突然変異体形との融合タンパク質として発現する。AおよびBが相互作用する場合は、β−ガラクトシダーゼ突然変異体が互いに補完し合い、活性酵素を形成する。もしタンパク質が相互作用しなければ、または相互作用が妨げられれば、β―ガラクトシダーゼ突然変異体は不活性のままである。細胞に基づくバイオセンサーは、関心対象のタンパク質−タンパク質間相互作用の直接の読取法を提供する。酵母の2ハイブリッド法と異なり、相互作用を直接リアルタイムで、また生理学的に重要な細胞区画内でモニターする。このシステムを用いると、単純なβ−ガラクトシダーゼ酵素分析により、蛍光読取または化学発光読取のどちらかを用いて、タンパク質−タンパク質間相互作用をモニターすることができる(Rossi, F., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 9r:8405-8410 (1997); Blakely, B.T., et al, Nature Biotech., 18:218-222 (2000); Rossi, F.M.V., et al, Methods Enzymol., 328:231-251 (2000))。
【0039】
細胞系統を構成するために用いる包括的なプロトコルについてここで述べる。それは Yan, Y-X., et al. (J. Biomol. Screen., 7:451-459 (2002)) および Palmer, M., et al. (U.S. Patent No. 6,893,827) により詳しく記述されている。InteraX(商標)ベクター(図3A〜3D参照)はApplied Biosystemsから市販されている。所与のタンパク質−タンパク質間相互作用のための、機能的な、細胞に基づく分析を構築するために、第1の関心対象タンパク質のオープンリーディングフレームを、pIX3またはpIX6ベクター(それぞれ図3Aおよび3Bを参照のこと)のいずれかへクローニングして、そのタンパク質がβ−ガラクトシダーゼのΔα突然変異体との融合タンパク質として発現できるようにする。これが親の細胞系統となり、複数の相互作用融合パートナーが、レトロウイルス感染によりその中へ送達されることになろう。関心対象の第2のタンパク質を、pIX9またはpIX12ベクター(それぞれ図3Cおよび3Dを参照のこと)のいずれかへクローニングして、第2のタンパク質を、β−ガラクトシダーゼΔωとの融合タンパク質として発現できるようにする。分析構造を能率化するために、KDRΔαの親から始めて、Δω融合パートナーを平行して生成することができる。これは、GPCRβ2アレスチン相互作用ペアについて、アレスチン親細胞系統を用いて実施され、成功している(M. Palmer,未発表)。βgal活性の検出には、一定時点で停止し、2時間後までにグロー発光によって読取ることができる、単純な混合と読取りのプロトコルを用いる。
【0040】
機能的EGFレセプターの二量体化(Blakely, B.T., et al, Nature Biotech.. 18:218-222 (2000); Graham, D.L., et al, J Biomol. Screen., 6:401-411 (2001))、EGFr・Grb2相互作用(M.Palmer 未発表結果)、およびβ2アドレナリンレセプター・β2アレスチン相互作用(Yan, Y-X., et al (2002))、の測定用技術が、成功裡に実施された。レトロウイルスベクターを関心対象の遺伝子の送達に用いる。しかしプラスミドに基づくベクターを用いてもよい。ΔαおよびΔω突然変異体の構成的相互作用をもたらすことになるので、融合タンパク質が高度に過剰発現されないことが重要である。1個の細胞当たり106コピーより少ない発現が理想的である。レトロウイルスの発現は、細胞DNAへの組込み部位が単一であるために、より低い発現をする細胞系統を与える傾向がある。全長のKDRレセプターが、ΔαおよびΔωの両方との融合として発現された(M.Palmer 未発表結果)。FPRL−1、VRAP、またはGαqの発現に関して、問題に遭遇するかどうかは分かっていない。Δαへの融合が、問題のあるタンパク質の発現を改善する場合があることが発明者らによって見出された。選択するバックグラウンドの細胞は、HUVEC細胞になるであろう、しかしHMVEC(Cambrex)などの代わりの細胞系統を利用することもできる(Ades, E. W., et al, J. Invest. Dermatol. 99:683-690 (1992); Shao, R. and X. Guo, Biochem. Biophys. Res. Commun.. 321:788-794 (2004))。HUVECは、KDRおよびFPRL−1の両方を内在的に発現する。これがバイオセンサー機能の邪魔をしたことは過去にない(未発表結果)。これらの細胞のトランスフェクションが、jetPEI−HUVEC(PolyPLusトランスフェクション)のような新しいトランスフェクション試薬の使用により、さらによく成功するようになってきた。
【実施例2】
【0041】
FPRL−1/β2−アレスチン相互作用バイオセンサー
リガンドが結合すると、大部分のGPCRはβ−アレスチンの、レセプターC末端の細胞質側の領域とのリン酸化に依存する相互作用により、下方制御される(Ferguson, S. S. G., et al, Science, 274:363-366 (1996); Krupnick, J.G., et al, J. Biol, chem.. 272: 18125 -18131 (1997); Lohse, M.M., et al, Science. 248:1547-1550 (1990); Lohse, M.M., et al, J. Biol. Chem., 267:85558-85564 (1992); U.S. Patent No. 6,893,827)。レセプターは、内在化のために、クラスリンでコートされた陥入へ向けられる。この一般的な機構を、GPCRの活性化を測定するために利用することができる。FPRL−1が、リガンド依存性の方式で内在化されることが報告され、またFPRレセプターファミリーがアレスチンと相互作用することが示された。GPCR・アレスチン相互作用を測定する一般的方法が発展した(Graham, D.L., et al, J. Biomol. Screen., 6:401-411 (2001); U.S. Patent 6,893,827)。レセプター活性化のこの直接測定は、Ca2+流束またはレポーター遺伝子読み出しなどの間接法の制限を克服する。間接法は、同じ経路に影響する、または経路間クロストークする他のGPCRレセプター活性化による、偽陽性の問題を有する場合がある。細胞系統構築は、Yan et al. (Graham, D. L., et al, J. Biomol. Screen., 6:401-411 (2001); U.S. Patent 6,893,827)に記述されている以前に公表されたプロトコルに従う。
【実施例3】
【0042】
KDR/VRAP相互作用バイオセンサー
VRAPは、SH2ドメインおよびC−末端のプロリン豊富ドメインを含む389アミノ酸のタンパク質である(Wu, L., et al, J. biol. Chem., 275:6059-6062 (2000))。それは、ヒト臍帯静脈内皮細胞で、並びに多数の他の組織および細胞タイプで発現される。それは、VEGFに依存する方式で、KDRの細胞内ドメインへ結合する。この相互作用は、よくは特徴決定されておらず、広い組織発現パターンおよびKDRシグナル伝達中の潜在的な役割により、さらなる研究に値する。組換えシステムでのVRAPの発現は報告されていない、したがってこれは少し困難かもしれない。バイオセンサー対と同様のサイズのタンパク質を融合物として発現させることは、過去には問題ではなかった。しかし、SH2ドメインを含む短縮版を用いることが必要かもしれない。細胞系統構築は、上述のようなプロトコルに従うことになろう。
【実施例4】
【0043】
KDR/Gαq相互作用バイオセンサー
VEGFが結合すると、KDRの細胞内(IC)ドメインがGq/11タンパク質と相互作用しそれを活性化する、新規なシグナル伝達経路が同定された(Zeng, H., et al, J. Biol. Chem., 278:20738-20745 (2003))。Gq/11タンパク質のKDRICドメインとの相互作用は、レセプターリン酸化の上流で生じ、Gαq活性化の際のGαqサブユニットの放出が、KDRレセプターのリン酸化と相乗的に作用して、PLCγを活性化し、Ca2+ 動員を増加させるという説が提案されている。この経路は、血管形成における多くの興味深い新しい標的を明らかにすることができた。KDRΔαまたはΔω突然変異体融合物親細胞系統に、第2の相互作用突然変異体に融合させたGαqサブユニットを含むコンストラクトを感染させることにより、以前に記述されたものと同様の方法で、このバイオセンサーが構成されるであろう。
【実施例5】
【0044】
バイオセンサー細胞系統のテストおよび検証
融合タンパク質の発現レベル、およびリガンド誘導時のバックグラウンド対信号比に基づいて、クローンを選択する。融合タンパク質の発現レベルを、ウエスタン分析によって推定し、β−ガラクトシダーゼELISAで定量することができる。クローンを、VEGFまたはLL−37による刺激の際のβgal活性の増加についてテストする。KDR/VRAPおよびKDR/Gαq細胞系統の、VEGF−A(121および165)(1〜20nM)、他の成長因子(VEGF−B、EGF、PIGF)および中和抗体(MAB3572、R & D Sytems)に対する用量応答関係をテストし、応答の特異性を決定する。同様に、FPRL1/β2アレスチンを、LL−37(1〜20μg/ml)やWペプチド(WKYMVm)(0.5〜20μg/ml)およびFPRL−1に対する抗血清などの他の既知のリガンドに対する用量応答関係についてテストすることになろう(Koczulla, R., et al, J. Clin. Invest., 111 :1665-1672 (2001))。
【実施例6】
【0045】
キナーゼ分析(Src、p38MAPK、Akt、ERK)
多くのキナーゼが、KDRの下流のシグナル伝達において重要な役割を果たす。有糸分裂促進経路が、PKCおよびERKによって強く影響される。cSrcは、報告されているPLCγおよびFAK活性に対する効果から、多数の経路に関係していると推定される(He, H., et al, J. Biol. Chem., 274:25130-25135 (1999); Abu-Ghazaleh, R., et al, Biochem. J., 360:255-266 (2001))。Aktおよびp38MAPKは、VEGFによって仲介される内皮細胞の長期生存および移動において、重要な役割を果たしている(Gerber, H.P., et al, J. biol. Chem., 273:30336-30343 (1998); Thakker, G.D., et al, J. Biol. Chem., 274 :10002-10007 (1999))。この経路分析マトリックスの検証においてプローブとして働く、これらのキナーゼに対する多数のよく特性決定された阻害剤もさらに存在する。キナーゼ活性変化の検出のために選ばれる方法は、内在的な活性レベルを測定することができる程十分に敏感である必要があろう。予備的な結果に基づいて、感度は、ELISAに基づく方法を用いる必要がある。特異的なキナーゼの内在的リン酸取り込みをELISAによって選択的に捕捉し、定量することができる、ホスホ特異的な抗体の大きなライブラリー(Cell Signaling and Biosource)が存在する。各ELISAを、プロトコル、細胞数、感度、および読取り時間の均一性が得られるように最適化する。大部分の市販キットは、検出共役用に比色用または蛍光性の基質を利用する。化学発光基質を用いる改変は、感度と頑強性を改善することになろう。Cell Signaling and Biosourceは、マトリックスにおける最高の性能のために、すぐに成形可能なSrc、p38MAPK、Akt、およびERKのための市販のキットを提供している。
【実施例7】
【0046】
Ca2+ 流束またはcAMP産生
FPRL−1は、7回膜貫通ドメインGi−タンパク質共役レセプターファミリーに属する。HUVEC上でのLL−37によるFPRL−1の刺激は、百日咳毒素感受性であることが示され(Koczulla, R., et al, J. clin. Invest., 111:1665-1672 (2003))、これはGタンパク質のGi(阻害性G)サブファミリーの1つ以上のメンバーとの共役を示す。PLCγの活性化は、ジアシルグリセロール(DAG)およびイノシトール1、4、5三リン酸(IP3)の産生をもたらす。PLCγ活性化に応じて細胞内貯蔵部位からカルシウムが放出され、プロスタサイクリンおよびNOの下流での産生に影響を及ぼす(Gliki, G., et al., Biochem. J., 353:503-512 (2001))。Fura−2、Fluo−4、およびカルシウムグリーンなどの色素を用いる細胞内Ca2+レベルの蛍光測定用の標準方法が適用される。細胞に色素を予め負荷し、次に時点を定めて、カルシウム流束の測定のための基準線および時間窓を決定する。応答は迅速であり、最大応答が1分未満のうちに得られる。FPRL−1の活性化は、さらにcAMP産生を下方調節する。別のセカンドメッセンジャー分析は、変換によって生成されたcAMPレベル変化を定量することになる。cAMPの阻害を測定するためには、cAMPを刺激するために、はじめにホルスコリンで細胞を処理しなければならない。これが化学発光読取りに適したELISAに基づく方法である(Applied Biosystems, DiscoverX)。
【実施例8】
【0047】
表現型分析
細胞の表現型、細胞増殖、および/または細胞死を、生存細胞数測定法を用いて測定する。Cambrex (East Rutherford, NJ) から得た発光分析用 ViaLight(商標)
−HS High Sensitivity Cytotoxity and Cell Proliferation BioAssay Kitを用いる、細胞増殖および細胞毒性の測定を、HUVEC用に最適化する。細胞増殖または細胞生存の線形検出が、100ほどの少数から106までの細胞で可能である。48時間に亘る、2OnM VEGFでの、HUVEC増殖について見られた典型的な信号対雑音比は、2倍であり、10%の標準偏差を有する。代わりに、ATPおよびADPレベルの両方の測定が、細胞増殖対細胞死を示す比率測定を提供する。
【実施例9】
【0048】
経路分析マトリックス(PAM)
上に記述した8つの分析は、96ウエルマイクロプレート分析マトリックスに組み込むことになろう。図4A中の1〜8のカラムが個々の分析ノードを表わす(あるいは、もっと多くの分析ノードをテストする場合には、96ウエルマイクロプレートを、12までの分析ノードをテストするように用いることができる)。HUVEC細胞を、48ウエルプレート中で非密集の最適密度(100,000細胞)まで増殖させることになろう。細胞の処理および化合物のテストをこれらのウエル中で行う。所定の終点時に、個々の分析用読み出しのために96ウエルPAM分析システムに細胞溶解物を移すことにする。最適化は、終点時、バイオセンサー相互比較、増殖分析および移動分析などの経路の他の細胞に基づく読み出しとの相関性、のテストを含むことになろう。試薬の添加にも分析作業過程を単純化するための最適化が必要であろう。ロボットプラットフォームを、すべての試薬添加を時限方式で扱うようにプログラムすることも可能であろう。最適の分析終点を、1分〜24時間のスケジュールを合理的な間隔でカバーするように研究して決めることになろう。下流のシグナル伝達における特異性および効力の両方が、重要な測定であろう。データが3つのノード終点に対して最も大きな差異を示す時点を選択することが、この点については考えられる。さらに、ある所与のノードが長時間に亘って、または様々な因子に応答して十分に差異のある応答を与えないないという場合がある可能性も存在する。それを新しいノードと置き換える必要があるであろう。これが必要なスケジュールに適合しても、しなくても、我々は7つのノードだけで続けることになろう。7より少ないノードでは、重要な血管形成シグナル伝達経路を、不十分にしかカバーできないことが生じるであろう。ノード応答および内部制御を最大にするためには、膜に近接した経路を、そして次にさらに下流の経路を測定することが重要である。例えば、KDR/VRAP相互作用を阻害することは、PLC、Ca動員、PI3K、およびAKT活性に対する下流効果を持つであろう。PI3Kの阻害は、AKT活性および細胞の生存率の変化をもたらすことになろう。
【0049】
データ解析および視覚化ソフトウェア、Spotfire(商標)によって、結果をExcelから効率的にアップロードし、予期された活性に基づいてデータを有効に分析して、小分子阻害剤活性をクラスターに分けるだけでなく、予期しない関係を見つけることが可能になる。それは、既に遺伝子発現アレーデータの経路クラスター化分析およびリード化合物最適化のための小分子構造・活性分析に適用されてきた(Shapshak, P., et al, Front Biosci., 9:2935-2946 (2004); Cunningham, M.J., J. Pharmacol. Toxicol. Methods, 44:291-300 (2000))。経路動力学に対するより大きな理解を得るための、複数の経路ノードおよび時点のレベルの分析が、EGFrシグナル伝達について、文献(Kholodenko, B.N., et al, J. Biol. Chem., 274:30169-30181 (1999))に記述されている。
【実施例10】
【0050】
血管形成阻害剤のテスト
市販の8つの化合物を、標的ノードの分子プローブとして作用させるために選択した。これらの分子は、KDRおよびFPRL−1経路中で選択された適切な標的ノードに阻害効果を有することが報告されている。さらに、GPCRに向けられた284化合物のライブラリーを、用量依存的および時間依存的に、PAM中でテストすることになろう。表1の較正用化合物を、次の基準に基づいて選択する:(1)文献に活性が報告されている;(2)細胞透過特性を示す;(3)報告された標的に対して >5倍の選択性を示す;および(4)標的が、KDRまたはFPRL−1/LL37シグナル伝達経路中の、特性決定されたノードである。これらの化合物は、薬物リード化合物として働くためのものではなく、むしろ報告された結果に基づく分析プラットフォームの検証を提供し、かつデータ解析ツールの開発を始めるデータセットを提供するのが目的である。化合物、CNRX0167、SU5416、Go6976、SB203580がインビボでテストされ、適切な標的および経路に対する活性が示された(Gelaw, B. and S. Levin, Surgery, 130:497-501 (2001); Patel, N., et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 306:838-845 (2003); Martiny-Baron, G., et al., J. Biol. Chem., 268:9194- 9197 (1993); Jacob, T., et al., Eur. J. Vasc. Endovasc. Surg., 29:470-478 (2005))。SU5416は創傷治癒モデルでの血管形成を遮断することが示された(Gelaw, B., et al. (2001))。興味ある化合物の化合物指紋は、新血管新生の進行の2つの主要な指標である、細胞増殖および透過性の両方の遮断における有効性を示すべきである。高濃度における標的以外への効果もまた、選択的および非選択的なクラスの活性化合物に対して生成されたパターンを評価するために重要であろう。報告されたIC50またはKiで、およびそれより上で、化合物をテストすることになる。
【0051】
【表2】

【0052】
テストした化合物数は、高スループットのロボット工学を利用する完全自動プロトコルを必要としない。分析の開始および停止時間、ならびに分析ウエルへの化合物および試薬の添加を同期させるために、96ウエルマイクロプレートのピペッティングステーションを利用する。
【実施例11】
【0053】
インビボモデル中の活性生体分子のテスト
実施例10で見出された2〜3の活性生体分子を、次に、PAMシステムで見られた効果の相関性を決定するために、創傷血管形成分析でテストする。このインビボモデルは、選択された化合物によって達成された毛細管増殖減少の定量化を行う。創傷モデルを、これらの分子の、VEGFにのみに依存するわけではない多因子的プロセスである自発的血管形成を阻害する潜在能力を評価するために用いる。創傷治癒の細胞生物学の動力学および調節は、網膜において新血管形成の基となる原因と多少異なるかもしれないが、VEGFR−2/KDRレセプターによって仲介されるVEGFシグナル伝達が、糖尿病性黄斑浮腫の進行および「滲出性」AMDに明白に関係していることは、よく理解されている。
【0054】
先に述べた明細書が本発明の原理を教示し、説明の目的で実施例も提供されているので、当業者には、この開示を読むことによって、本発明の真の範囲から外れることなく、形式と詳細の様々な変更を行なうことができることが理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】内皮細胞中の血管形成シグナル伝達の経路図。この経路図は、 Zachery, I. (Biochem. Soc. Trans. 31:1171-1177 (2003)) および Cross, MJ., et al. (Trends in Biochem. Sci. 28:488-494 (2003)) 中のシグナル伝達模式図から改変した。略号:cPLA2、細胞質ホスホリパーゼA2;eNOS、内皮酸化窒素合成酵素;Erk、細胞外調節キナーゼ;HSP27、熱ショックタンパク質27;MAPKAP 2/3、MAPK活性化プロテインキナーゼ−2および3;NO、酸化窒素;PGI2、プロスタサイクリン;PIP3、ホスファチジルイノシトール(3,4,5)三リン酸;Sck、Shc様タンパク質;SPK、スフィンゴシンキナーゼ;VEGF、血管内皮成長因子;VEGFR−2、血管内皮成長因子レセプター;VRAP、VEGFR結合タンパク質;PIP2、ホスファチジルイノシトール(4,5)ビスリン酸;DAG、sn−1,2−ジアシルグリセロール;IP3、イノシトール(1,4,5)−三リン酸;PKC、プロテインキナーゼC;ER、小胞体;PI3K、ホスホイノシチド3キナーゼ);FAK、焦点接着キナーゼ;p38MAPK、p38細胞分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ;GRK、Gタンパク質共役レセプターキナーゼ。
【図2】分析開発戦略の模式図。親細胞が、1つのバイオセンサー構成部分に融合された全長のKDR、または1つのバイオセンサー構成部分に融合されたFPRL−1を発現する。第2のバイオセンサーに融合された相互作用パートナーを、レセプター細胞系統へ感染させる。2つのバイオセンサー細胞系統(ノード1aまたはノード1bおよびノード2)を計画するが、2つだけを選択してマトリックスに取り込むことになろう。バイオセンサー細胞系統、ノード1aおよび1b、の選択は、ベクター構築の容易さおよび融合タンパク質発現に依存することになろう。残りの6つのノードを、3つのバイオセンサー細胞系統(KDR/VRAPまたはKDR/GαqおよびFPRL−1/β2アレスチン)のいずれにおいても測定することができ、ノード標的タンパク質の内在レベルを測定することになる。
【図3A】InteraX(商標)系ベクター。pIX3/6およびpIX9/12ベクターはレトロウイルスベクターであり、5’および3’の長い末端反復(LTR)、および哺乳類のゲノム中へDNA塩基配列を安定して挿入するためのモロニーマウス白血病ウイルス(MuMoLV)からのウイルスのパッケージングシグナル(Psi+)を含む。LTRはまた、プロモーターおよび処理機能のための配列を含む。pIX3/6ベクターは、E. coli中での選択用のAmpR(アンピシリン耐性)遺伝子を含み、またGeneticin(商標、G418)抗生物質の存在下で安定した哺乳類細胞系統を選択するためのネオマイシン耐性遺伝子を含む。pIX9/12ベクターは、E. coli中での選択用のAmpR遺伝子を含み、またハイグロマイシンの存在下での安定した哺乳類細胞系統選択用のハイグロマイシン耐性遺伝子を含む。
【図3B】InteraX(商標)系ベクター。pIX3/6およびpIX9/12ベクターはレトロウイルスベクターであり、5’および3’の長い末端反復(LTR)、および哺乳類のゲノム中へDNA塩基配列を安定して挿入するためのモロニーマウス白血病ウイルス(MuMoLV)からのウイルスのパッケージングシグナル(Psi+)を含む。LTRはまた、プロモーターおよび処理機能のための配列を含む。pIX3/6ベクターは、E. coli中での選択用のAmpR(アンピシリン耐性)遺伝子を含み、またGeneticin(商標、G418)抗生物質の存在下で安定した哺乳類細胞系統を選択するためのネオマイシン耐性遺伝子を含む。pIX9/12ベクターは、E. coli中での選択用のAmpR遺伝子を含み、またハイグロマイシンの存在下での安定した哺乳類細胞系統選択用のハイグロマイシン耐性遺伝子を含む。
【図3C】InteraX(商標)系ベクター。pIX3/6およびpIX9/12ベクターはレトロウイルスベクターであり、5’および3’の長い末端反復(LTR)、および哺乳類のゲノム中へDNA塩基配列を安定して挿入するためのモロニーマウス白血病ウイルス(MuMoLV)からのウイルスのパッケージングシグナル(Psi+)を含む。LTRはまた、プロモーターおよび処理機能のための配列を含む。pIX3/6ベクターは、E. coli中での選択用のAmpR(アンピシリン耐性)遺伝子を含み、またGeneticin(商標、G418)抗生物質の存在下で安定した哺乳類細胞系統を選択するためのネオマイシン耐性遺伝子を含む。pIX9/12ベクターは、E. coli中での選択用のAmpR遺伝子を含み、またハイグロマイシンの存在下での安定した哺乳類細胞系統選択用のハイグロマイシン耐性遺伝子を含む。
【図3D】InteraX(商標)系ベクター。pIX3/6およびpIX9/12ベクターはレトロウイルスベクターであり、5’および3’の長い末端反復(LTR)、および哺乳類のゲノム中へDNA塩基配列を安定して挿入するためのモロニーマウス白血病ウイルス(MuMoLV)からのウイルスのパッケージングシグナル(Psi+)を含む。LTRはまた、プロモーターおよび処理機能のための配列を含む。pIX3/6ベクターは、E. coli中での選択用のAmpR(アンピシリン耐性)遺伝子を含み、またGeneticin(商標、G418)抗生物質の存在下で安定した哺乳類細胞系統を選択するためのネオマイシン耐性遺伝子を含む。pIX9/12ベクターは、E. coli中での選択用のAmpR遺伝子を含み、またハイグロマイシンの存在下での安定した哺乳類細胞系統選択用のハイグロマイシン耐性遺伝子を含む。
【図4A】本発明で用いられる96ウエルプレートの可能な配置の描写。ノードは、経路の時間スケール(初期または後期の事象)、分析検出モード(蛍光、化学ルミネセンス)、分析作業の流れ(添加数、プレート中のまたはプレート外での検出)、によってグループ分けされる。A、B、C = 時点、分析条件(+/−リガンド)、化合物、化合物の用量、RNAi。
【図4B】本発明で用いられる96ウエルプレートの可能な配置の描写。ノードは、経路の時間スケール(初期または後期の事象)、分析検出モード(蛍光、化学ルミネセンス)、分析作業の流れ(添加数、プレート中のまたはプレート外での検出)、によってグループ分けされる。A、B、C = 時点、分析条件(+/−リガンド)、化合物、化合物の用量、RNAi。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物が疾病を治療または予防するために有効か否かを判断するために、薬物をスクリーニングするための分析システムであって:
− マイクロアレイプレート;
− 前記マイクロアレイプレートの6つ以上のウエル中の少なくとも2つの一次細胞、細胞系統または細胞溶解物(一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を、薬物をスクリーンニングする対象の疾病の特定の疾病経路を代表するように選択し、いずれの単一のウエルにも1つのみの一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が存在するように注意して、また、前記一次細胞または細胞系統を、組織培養プレートのウエルまたは容器の中で、少なくとも1つの関心対象薬物で処理した後に、それらを、あるいは一次細胞または細胞系統培養物から得られる細胞溶解物を、マイクロアレイプレートのウエルに加える);および
− 6つ以上の試薬(一次細胞、細胞系統または細胞溶解物によって占められる前記マイクロアレイプレートの各ウエル中に少なくとも1つ);
を含む、分析システム。
【請求項2】
前記関心対象薬物が、小分子、siRNA、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体断片およびアプタマーから成る群より選ばれる、請求項1記載の分析システム。
【請求項3】
前記関心対象薬物の用量が組織培養プレートのウエルまたは容器毎に異なる、請求項1記載の分析システム
【請求項4】
マイクロアレイプレートの少なくとも6つ以上のウエルが未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を含む、請求項1記載の分析システム
【請求項5】
マイクロアレイプレートの1つ以上のウエルの中にリガンドをさらに含む、請求項1記載の分析システム。
【請求項6】
マイクロアレイプレートのレーンによって異なるリガンドを用いる、請求項5記載の分析システム。
【請求項7】
細胞系統または細胞溶解物によって占められる前記マイクロアレイプレートの1つ以上のウエル中にiRNAをさらに含む、請求項1記載の分析システム。
【請求項8】
前記細胞系統がHMVECおよびHUVECから成る群より選ばれる、請求項1記載の分析システム。
【請求項9】
前記細胞溶解物が、HMVEC細胞の培養物から得られた細胞溶解物およびHUVEC細胞の培養物から得られた細胞溶解物より成る群より選ばれる、請求項1記載の分析システム。
【請求項10】
前記試薬が、必須および非必須アミノ酸、無機塩類、有機化合物、微量元素、血清、成長因子、抗生物質およびビタミンから成る群より選ばれる、請求項1記載の分析システム。
【請求項11】
疾病を治療または予防するための有効性について薬物をスクリーニングする方法であって:
− 一次細胞または細胞系統を、組織培養プレートのウエルまたは容器中で関心対象薬物により処理する工程(複数の一次細胞または細胞系統を、各々それ自身の組織培養プレートのウエルまたは容器中で処理する);
− 任意で一次細胞または細胞系統を溶解する工程;
− 処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を、いずれの単一のウエルにも1つのみの一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が存在するように注意して、マイクロアレイプレートの6つ以上のウエルに加える工程;
− 一次細胞、細胞系統または細胞溶解物によって占められた前記マイクロアレイプレートのウエルへ、6つ以上の試薬を加える工程(一次細胞、細胞系統または細胞溶解物によって占められた前記マイクロアレイプレートのウエルの各々に少なくとも1つの試薬を加える);
− 前記マイクロアレイプレートの各ウエルについて分析反応を行なう工程(各試薬および/または分析は、薬物をスクリーンニングする対象の疾病の疾病経路中の特定のノードについて測定するために選ばれる);および
− 関心対象薬物が疾病経路の各ノードに対して有する効果を分析し、それにより関心対象の薬物が疾病の治療または予防に有効であろうか否かを判断する工程;
を含む方法。
【請求項12】
前記関心対象薬物が、小分子、siRNA、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体断片およびアプタマーから成る群より選ばれる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記関心対象薬物の用量が細胞培養物毎に変化する、請求項11記載の方法。
【請求項14】
マイクロアレイプレートの各レーンの少なくとも1つのウエルが、未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物、および1つ以上の試薬を含む、請求項11記載の方法。
【請求項15】
マイクロアレイプレートのウエルの1つ以上にリガンドを加える工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項16】
マイクロアレイプレートのレーンによって異なるリガンドを用いる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
一次細胞、細胞系統または細胞溶解物によって占められた前記マイクロアレイプレートのウエルの1つ以上にiRNAを加える工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項18】
前記細胞系統が、HMVECおよびHUVECから成る群より選ばれる、請求項11記載の方法。
【請求項19】
前記細胞溶解物が、HMVEC細胞培養物から得られた細胞溶解物およびHUVEC細胞培養物から得られた細胞溶解物から成る群より選ばれる、請求項11記載の方法。
【請求項20】
前記試薬が必須および非必須アミノ酸、無機塩類、有機化合物、微量元素、血清、成長因子、抗生物質およびビタミンから成る群より選ばれる、請求項11記載の方法。
【請求項21】
疾病を治療または予防するための有効性について薬物をスクリーニングする方法であって:
− 一次細胞または細胞系統を、組織培養プレートのウエルまたは容器中で関心対象薬物により処理する工程 (複数の一次細胞または細胞系統を、各々それ自身の組織培養プレートのウエルまたは容器中で処理する);
− 任意で一次細胞または細胞系統を溶解する工程;
− マイクロアレイプレートの6つ以上のウエルに6つ以上の試薬を加える工程(一次細胞、細胞系統または細胞溶解物によって占められる前記マイクロアレイプレートのウエルの各々に少なくとも1つの試薬を加える);
− 処理された一次細胞、細胞系統、または細胞溶解物を、いずれの単一のウエルにも1つのみの一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が存在するように注意して、マイクロアレイの試薬を含む6つ以上のウエルへ加える工程;
− 前記マイクロアレイプレートの各ウエルについて分析反応を行なう工程(各試薬および/または分析は、薬物をスクリーンニングする対象の疾病の疾病経路中の特定のノードついて測定するために選ばれる);および
− 疾病経路の各ノードに対して関心対象薬物が有する効果を分析し、それにより関心対象薬物が疾病の治療または予防に有効であろうか否かを判断する工程;
を含む方法。
【請求項22】
未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を、1つ以上の試薬と共に含むマイクロアレイプレートの6つ以上のウエルが存在し、処理された一次細胞、細胞系統、または細胞溶解物に対して行なわれた分析の各々を、対照として未処理の一次細胞、細胞系統、または細胞溶解物に対しても行なう、請求項21記載の方法。
【請求項23】
マイクロアレイプレートのウエルの1つ以上にリガンドを加える工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
マイクロアレイプレートのウエルによって異なるリガンドを用いる、請求項23記載の方法。
【請求項25】
処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物によって占められた前記マイクロアレイプレートのウエルの1つ以上にiRNAを加える工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項26】
前記細胞系統がHMVECおよびHUVECから成る群より選ばれる、請求項21記載の方法。
【請求項27】
前記細胞溶解物がHMVEC細胞培養物から得られた細胞溶解物およびHUVEC細胞培養物から得られた細胞溶解物から成る群より選ばれる、請求項21記載の方法。
【請求項28】
前記試薬が必須および非必須アミノ酸、無機塩類、有機化合物、微量元素、血清、成長因子、抗生物質およびビタミンから成る群より選ばれる、請求項21記載の方法。
【請求項29】
疾病を治療または予防するための有効性について薬物をスクリーニングする方法であって:
− 一次細胞または細胞系統を、6つ以上の組織培養プレートのウエルまたは容器中で関心対象薬物により処理する工程 (複数の一次細胞または細胞系統を、各々それ自身の組織培養プレートのウエルまたは容器中で処理する);
− 任意で一次細胞または細胞系統を溶解する工程;
− 6つ以上の試薬を組織培養プレートの6つ以上のウエルまたは容器に加える工程 (組織培養プレートのウエルまたは容器の各々に少なくとも1つの試薬を加える);
− 試薬および処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を、いずれの単一のウエルにも1つのみの一次細胞、細胞系統または細胞溶解物が存在するように注意して、マイクロアレイプレートの6つ以上のウエルへ加える工程;
− 前記マイクロアレイプレートの各ウエルについて分析反応を行なう工程(各試薬および/または分析は、薬物をスクリーンニングする対象の疾病の疾病経路中の特定のノードについて測定するために選ばれる);および
− 関心対象の薬物が疾病経路のノードの各々に対して有する効果を分析し、それにより関心対象の薬物が疾病の治療または予防に有効であろうか否かを判断する工程;
を含む方法。
【請求項30】
未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を、1つ以上の試薬と共に含むマイクロアレイプレートの6つ以上のウエルが存在し、処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物に対して行なわれる分析の各々を、対照として未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物に対しても行なう、請求項29記載の方法。
【請求項31】
マイクロアレイプレートのウエルの1つ以上にリガンドを加える工程をさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項32】
マイクロアレイプレートのウエルによって異なるリガンドを用いる、請求項31記載の方法。
【請求項33】
処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物によって占められた前記マイクロアレイプレートのウエルの1つ以上にiRNAを加える工程をさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項34】
前記細胞系統がHMVECおよびHUVECから成る群より選ばれる、請求項29記載の方法。
【請求項35】
前記細胞溶解物がHMVEC細胞の培養物から得られた細胞溶解物およびHUVEC細胞の培養物から得られた細胞溶解物から成る群より選ばれる、請求項29記載の方法。
【請求項36】
前記試薬が必須および非必須アミノ酸、無機塩類、有機化合物、微量元素、血清、成長因子、抗生物質、およびビタミンから成る群より選ばれる、請求項29記載の方法。
【請求項37】
疾病を治療または予防するための有効性について薬物をスクリーニングする方法であって:
− 一次細胞または細胞系統を、6つ以上の組織培養プレートのウエルまたは容器中で関心対象薬物により処理する工程 (複数の一次細胞または細胞系統を、各々それ自身の組織培養プレートのウエルまたは容器中で処理する);
− 任意で一次細胞または細胞系統を溶解させる工程;
− 6つ以上の試薬を6つ以上の組織培養プレートのウエルまたは容器に加える工程(組織培養プレートのウエルまたは容器の各々に少なくとも1つの試薬を加える);
− 前記組織培養プレートの各ウエルまたは容器中で分析反応を行なう工程(各試薬および/または分析は、薬物をスクリーンニングする対象の疾病の疾病経路中の特定のノードについて測定するために選ばれる);および
− 関心対象の薬物が疾病経路のノードの各々に対して有する効果を分析し、それにより関心対象の薬物が疾病の治療または予防に有効であろうか否かを判断する工程;
を含む方法。
【請求項38】
未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物を、1つ以上の試薬と共に含む組織培養プレートの6つ以上のウエルまたは容器が存在し、処理された一次細胞、細胞系統または細胞溶解物に対して行なわれた分析の各々を、対照として未処理の一次細胞、細胞系統または細胞溶解物に対しても行なう、請求項37記載の方法。
【請求項39】
組織培養プレートのウエルまたは容器の1つ以上にリガンドを加える工程をさらに含む請求項37記載の方法。
【請求項40】
組織培養プレートのウエルまたは容器によって異なるリガンドを用いる、請求項39記載の方法。
【請求項41】
処理された一次細胞、細胞系統、または細胞溶解物によって占められた前記組織培養プレートのウエルまたは容器の1つ以上にiRNAを加える工程をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項42】
前記細胞系統がHMVECおよびHUVECから成る群より選ばれる、請求項37記載の方法。
【請求項43】
前記細胞溶解物がHMVEC細胞の培養物から得られた細胞溶解物およびHUVEC細胞の培養物から得られた細胞溶解物から成る群より選ばれる、請求項37記載の方法。
【請求項44】
前記試薬が必須および非必須アミノ酸、無機塩類、有機化合物、微量元素、血清、成長因子、抗生物質、およびビタミンから成る群かより選ばれる、請求項37記載の方法。
【請求項45】
化合物をスクリーニングして、障害を治療または予防することに対して有効か否かを判断するためのキットであって:
− 1枚以上のマイクロアレイプレート;
− 2つ以上の細胞系統および/または細胞溶解物;および
− 6つ以上の試薬、
を含むキット。
【請求項46】
1つ以上のリガンドをさらに含む、請求項45記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2008−521436(P2008−521436A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544420(P2007−544420)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/042980
【国際公開番号】WO2006/060335
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(507180342)セル・ネットワークス・エルエルシー (1)
【氏名又は名称原語表記】Cell NetwoRx LLC
【Fターム(参考)】