説明

細胞ヘモグロビンの測定方法

血液試料の細胞ヘモグロビンの測定方法が、血液試料と透過試薬とを混合し、そして赤血球の細胞膜を透過し赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすように試料混合物をインキュベートし;透過試薬の更なる反応を阻害するように中和試薬を添加し;試料混合物中の赤血球の側方散乱シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定し;そして得られた側方散乱シグナルを用いて、各赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbcell)を得ることを含む。この方法はさらに、同時蛍光測定を用いて網状赤血球を区別することにより、網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)を測定することを含む。この方法はまた、中和試薬中に蛍光抗体を添加し、そして抗体に結合されたヘモグロビン変異型の蛍光シグナルを検出することにより、成熟赤血球又は網状赤血球内のヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを測定することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年2月7日付けで出願された第11/052,269号明細書の一部継続出願であり、前記明細書の全体を本明細書で援用する。
【0002】
本発明は、個々の成熟赤血球及び網状赤血球の細胞ヘモグロビン及びヘモグロビン変異型を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
赤血球の細胞ヘモグロビンは、臨床診断のための重要なパラメータである。血液分析装置では、血液試料の赤血球数(RBC)及び総ヘモグロビン(Hgb)から、その血液試料の平均赤血球ヘモグロビン(MCH)が導出される。総ヘモグロビン(Hgb)は、溶解済血液試料のヘモグロビン濃度の分光光度測定によって得られる。MCHは、全ての赤血球の平均測定値であって、個々の赤血球のヘモグロビン含量を表すものではない。
【0004】
対照的に、フローサイトメーターにおける細胞ヘモグロビンの測定は、セル・バイ・セル測定であり、このセル・バイ・セル測定は、MCHを介しては入手できない診断情報を提供する。Campbell他、Cytometry 35, pp 242-248 (1999)は、蛍光抗ヘモグロビンA抗体を使用して、個々の赤血球中のヘモグロビンをフローサイトメトリー分析している。Burshteyn他(米国特許出願公開第2004/0214243号明細書)は、抗全ヘモグロビン抗体を使用して、ヘモグロビンをフローサイトメトリー分析している。赤血球が極めて高い濃度のヘモグロビンを有するので、抗体を使用して総細胞ヘモグロビンを測定するためには、多量の蛍光抗体が必要とされる。さらに、抗体結合の立体障害による潜在的なアーチファクト、又は細胞内のヘモグロビンの密度が高いことによる蛍光の消滅が生じる。従って、抗体の使用に頼ることなしに、総細胞ヘモグロビンの測定を可能にする方法を有することが望ましい。
【0005】
他方において、マルチ・アングル光散乱測定を用いた血液分析において、ヘモグロビンのセル・バイ・セル測定が開発されている。光散乱測定を容易にするために、典型的には、測定前に、赤血球を球状化するために等張性の中性球状化試薬を用いて血液試料を処理する。未処理の赤血球を光散乱測定によって測定すると、これらの赤血球は、凹面状の細胞がフローセルを通過するのに伴って種々異なる配向を有し得るので、不均一な散乱結果を生む。球状化試薬と混合すると、赤血球は球状になり、これにより均一な散乱結果をもたらすことができる。しかしながら、細胞ヘモグロビンを検出するための光散乱測定は複雑であり、典型的には、光散乱シグナルの複数の角度が利用される。例えば、Bayerの血液分析装置は、Mei理論に基づく複雑な光散乱測定を用いて赤血球のセル・バイ・セル測定を可能にする。市販のフローサイトメーターは、前方・側方散乱装置を備えてはいるものの、球状化された赤血球の前方・側方散乱シグナルは、細胞ヘモグロビンと相関せず、従って、細胞ヘモグロビンの定量的測定のためには使用されていない。さらに、球状化試薬によって処理された赤血球は、大型の細胞内マーカー、例えば抗体に対して透過性ではなく、従って、抗体を利用したヘモグロビン変異型の測定には適していない。
【0006】
ヘモグロビンの変異型及び異常型を同定及び/又は定量化することが、種々の疾患、例えば鎌状赤血球病、サラセミア、及び糖尿病の臨床診断にとって重要である。ヘモグロビンA1Cの測定は、最も頻繁に用いられるヘモグロビン変異型測定の1つであり、糖尿病患者に対する重要な臨床尺度である。
【0007】
総ヘモグロビンの約90%が非グリコシル化型であることが知られている。非グリコシル化ヘモグロビンの大部分が、HbA0と呼ばれる非グリコシル化HbAである。糖化ヘモグロビンとは、ヘモグロビン部分に種々の糖が結合することによって形成された一連の僅かなヘモグロビン成分を呼ぶ。ヒトの赤血球は、グルコースに対して自由透過性である。各赤血球内部では、周囲のグルコース濃度に対して正比例する比率で、糖化ヘモグロビンが形成される。グリコールとヘモグロビンとの反応は非酵素的、不可逆的、そして低速であるので、総ヘモグロビンのうちの一部だけが1つの赤血球の寿命(120日間)中に糖化される。結果として、糖化ヘモグロビンの測定は、血液グルコース・レベルの加重「移動」平均を提供する。この加重移動平均は、長期間の血液グルコース・レベルをモニタリングするために使用することができ、前の2〜3か月にわたる平均血液グルコース濃度の正確な指標を提供する。この指標の最も重要な臨床用途は、糖尿病患者における血糖コントロールの評価にある。
【0008】
ヘモグロビンA1C(HbA1C)は、糖化ヘモグロビンの1つの特定のタイプであり、そして糖尿病に関する最も重要なヘモグロビン種である。HbA1Cは、糖尿病以外の人では総ヘモグロビンのほぼ3〜6%であり、そして良好にコントロールされていない糖尿病患者では20%以上である(Goldstein他、Clin. Chem. 32: B64-B70, 1986)。HbA1Cの濃度の測定は、糖尿病を診断してモニタリングするのに有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って上記に基づいて、個々の赤血球中の総ヘモグロビン含量と特定のヘモグロビン変異型とを同時に測定するのを可能にする方法を有することが望ましい。さらに、例えば成熟赤血球及び網状赤血球の両方におけるような、異なる赤血球亜群に対して同時にこのようなセル・バイ・セル測定を行うことを可能にする方法を有することも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1実施態様の場合、本発明は血液試料の細胞ヘモグロビンの測定方法に関する。この方法は、血液試料と透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして赤血球の細胞膜を透過し、そして赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのに十分な第1の期間にわたって、第1試料混合物をインキュベートし;第1試料混合物に中和試薬を添加することにより第2試料混合物を形成し、そして透過試薬と赤血球との更なる反応を阻害するのに十分な第2の期間にわたって、第2試料混合物をインキュベートし;第2試料混合物中の赤血球の側方散乱シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定し;そして側方散乱シグナルを用いて、血液試料の赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbcell)を得ることを含む。この方法はさらに、フローサイトメーター上での測定を実施する前に、第2試料混合物中に固定試薬を添加することにより、赤血球を固定することを含む。
【0011】
更なる実施態様の場合、本発明は、血液試料中の網状赤血球の細胞ヘモグロビンの測定方法に関する。この方法は、血液試料のアリコートと核酸色素試薬と混合することにより染色済試料を形成し、そして、色素が細胞内RNAに結合するのを可能にするのに十分な第1の期間にわたって、染色済試料をインキュベートし;染色済試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして透過試薬が成熟赤血球及び網状赤血球の細胞膜を透過し、そして赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのを可能にするのに十分な第2の期間にわたって、第1試料混合物をインキュベートし;第1試料混合物に中和試薬を添加することにより第2試料混合物を形成し;透過試薬と成熟赤血球及び網状赤血球との更なる反応を阻害するのに十分な第3の期間にわたって、第2試料混合物をインキュベートし;第2試料混合物中の成熟赤血球及び網状赤血球の、所定の波長における側方散乱シグナル及び蛍光シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定し;蛍光シグナル、又は蛍光シグナルと側方散乱シグナルとの組み合わせを用いて、成熟赤血球から網状赤血球を区別し;そして側方散乱測定によって網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)を得ることを含む。
【0012】
別の実施態様の場合、本発明は、血液試料のヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを測定する方法に関する。この方法は、血液試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして透過試薬が赤血球の細胞膜を透過し、そして赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのを可能にするのに十分な第1の期間にわたって、第1試料混合物をインキュベートし;ヘモグロビン変異型に対して特異的な蛍光抗体を含有する中和試薬を第1試料混合物に添加することにより、第2試料混合物を形成し;抗体が細胞内部のヘモグロビン変異型に結合するのを可能にするのに十分な第2の期間にわたって、第2試料混合物をインキュベートし;そして、透過試薬と赤血球との更なる反応を阻害し;第2試料混合物中の赤血球の、所定の波長における側方散乱シグナル及び蛍光シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定し;得られた側方散乱シグナル及び蛍光シグナルを使用して、赤血球の細胞ヘモグロビン変異型(Hgbvariant)及び細胞ヘモグロビン(Hgbcell)を得;そして得られたHgbvariant及びHgbcellを使用して、ヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを得ることを含む。ヘモグロビン変異型は、糖化ヘモグロビン、胎児性ヘモグロビン、又はヘモグロビンの異常型を含む。
【0013】
さらに別の実施態様の場合、本発明は、血液試料中の網状赤血球の細胞ヘモグロビン変異型の測定方法に関する。この方法は、血液試料のアリコートと核酸色素試薬と混合することにより染色済試料を形成し、そして、色素が細胞内RNAに結合するのを可能にするのに十分な第1の期間にわたって、染色済試料をインキュベートし;染色済試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして透過試薬が成熟赤血球及び網状赤血球の細胞膜を透過し、そして赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのを可能にするのに十分な第2の期間にわたって、第1試料混合物をインキュベートし;ヘモグロビン変異型に対して特異的な蛍光抗体を含有する中和試薬を第1試料混合物に添加することにより、第2試料混合物を形成し;抗体が細胞内部のヘモグロビン変異型に結合するのを可能にするのに十分な第3の期間にわたって、第2試料混合物をインキュベートし;そして、透過試薬と成熟赤血球及び網状赤血球との更なる反応を阻害し;第2試料混合物中の成熟赤血球及び網状赤血球の、2つの所定の波長における蛍光シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定し;蛍光シグナルを用いて、成熟赤血球から網状赤血球を区別し、そして網状赤血球の細胞ヘモグロビン変異型を得ることを含む。
【0014】
セル・バイ・セル測定はさらに、第2試料混合物中の成熟赤血球及び網状赤血球の側方散乱シグナルの測定を含む。この方法はさらに、側方散乱シグナルを使用して、網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)を得;そして細胞ヘモグロビン変異型及びHgbreticを使用して、網状赤血球のヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを得ることを含む。
【0015】
別の観点において、本発明は、血液細胞の細胞膜を透過し血液細胞内部でヘモグロビンの凝集を引き起こすための水性透過試薬;並びに、緩衝剤、及び、透過試薬と血液細胞との反応を阻害するための重量オスモル濃度調節剤を含む中和試薬を含むフローサイトメトリー試薬系に関する。試薬系はさらに固定試薬を含むことができる。透過試薬は、有効量のN−アシルサルコシン又はその塩を含み、この試薬は、4〜6のpHと、9.0 mS/cm未満の導電率によって定義される低いイオン強度とを有している。
【0016】
本発明の利点は、添付の図面と関連して記述される以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、血液の種々異なる画分(左上は血清;右上はウシ血清アルブミン;左下は可溶性細胞画分、及び右下は膜画分)におけるタンパク質の沈殿に対する透過試薬の効果を示す図である。
【図2A】図2Aは、本発明の方法を用いて得られた血液試料の前方散乱対側方散乱(対数スケール)を示すスキャッタグラムである。
【図2B】図2Bは、球状化試薬処理を用いて得られた血液試料の前方散乱対側方散乱(対数スケール)を示すスキャッタグラムである。
【図3A】図3Aは、本発明の方法を用いて得られた16の血液試料の平均側方散乱値(サイトメトリーにおけるSSと記す)と、血液分析装置上で報告された同じ血液試料のMCH値との線形相関曲線を示す。
【図3B】図3Bは、球状化試薬処理を用いて得られた同じ血液試料の平均側方散乱値と、MCH値との線形相関曲線を示す。
【図4A】図4Aは、本発明の1実施態様の方法を用いて得られた血液試料の側方散乱対FL1(対数スケール)を示すスキャッタグラムである。
【図4B】図4Bは、核酸色素試薬を使用することなしに処理された同じ血液試料を示すスキャッタグラムである。
【図5A】図5Aは、網状赤血球及び成熟赤血球のHbA1cを別個に検出するために2つの波長で側方散乱及び蛍光を同時に測定する際に得られた血液試料の側方散乱対FL1(対数スケール)を示すスキャッタグラムである。
【図5B】図5Bは、網状赤血球及び成熟赤血球のHbA1cを別個に検出するために2つの波長で側方散乱及び蛍光を同時に測定する際に得られた血液試料のFL1対FL4(半対数スケール)を示すスキャッタグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1つの観点において、本発明は、側方散乱測定を用いて血液試料の細胞ヘモグロビンを測定する方法を提供する。ここでは、細胞ヘモグロビンは、個々の赤血球中のヘモグロビンの量(ピコグラム)である。細胞ヘモグロビン(Hgbcell)はまた、セル・バイ・セル測定によって得られるためセル・バイ・セル・ヘモグロビンとも一般に呼ばれる。
【0019】
1実施態様の場合、この方法は下記ステップ、すなわち:
(a) 血液試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして赤血球の細胞膜を透過し、そして赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのに十分な第1の期間にわたって、第1試料混合物をインキュベートし;
(b) 第1試料混合物に中和試薬を添加することにより第2試料混合物を形成し、そして透過試薬と赤血球との更なる反応を阻害するのに十分な第2の期間にわたって、第2試料混合物をインキュベートし;
(c) 第2試料混合物中の赤血球の側方散乱シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定し;そして
(d) この測定から得られた側方散乱シグナルを用いて、赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbcell)を得る
ステップを含む。
【0020】
好ましくは、この方法はさらに、セル・バイ・セル測定の前に、第2試料混合物中に固定試薬を添加することにより、赤血球を固定することを含む。
【0021】
本明細書で使用する透過試薬は、細胞透過化・安定化試薬とも呼ばれ、フローサイトメトリー測定のために細胞膜を透過して細胞成分を保存する上でのその機能は、同時係属中の特許出願第11/052,269号明細書(全体を本明細書で援用する)に記載されている。
【0022】
1実施態様の場合、透過試薬は、下記分子構造:
1−CO−N(CH3)CH2COOX1
(上記式中、R1は炭素原子数8〜18のアルキル又はアルキレン基であり、そしてX1はH、Na+、又はK+である)によって表されるN−アシルサルコシン又はその塩と、試薬のpHを7未満に調節するためのpH調節剤とを含む水溶液である。透過試薬は好ましくは、pHが約4〜約6の弱酸性である。より好ましくは、試薬のpHは約4.6〜約5.6である。
【0023】
好ましくは、pH調節剤は強塩基又は強酸であり、従って、pHを所望の範囲内で調節するために、少量の化学薬品を使用することができる。1つの好ましい実施態様の場合、N−アシルサルコシン遊離酸が使用され、そしてpHを4〜6に調節するために、ピロリジン、強有機塩基、又はNaOH、強無機塩基が使用される。N−アシルサルコシン塩が使用されるならば、強酸、例えばHCLを使用してpHを調節することができる。さらに、pHを維持するために有機緩衝剤を使用することができる。1つの実施態様例において、4.19のpKa1及び5.57のpKa2を有するコハク酸が使用される。
【0024】
透過試薬は、9.0mS/cm未満の導電率によって定義される低いイオン強度とを有する。しかし、これは僅かに低張性であるにすぎず、その重量オスモル濃度は約240〜約280mOsm/kg H2Oである。
【0025】
透過試薬に細胞を曝露すると、細胞内タンパク質凝集は、低いイオン強度下でより効果的であることが判っている。本発明の目的上、水性試薬組成物のイオン強度は、試薬の導電率によって定義される。細胞内タンパク質凝集は、透過後の細胞統合性を保つために必要であると考えられる。イオン強度が余りにも高いと、例えば、試薬の導電率が9mS/cmよりも高いと、試薬は細胞内タンパク質をもはや凝集することができず、これらの細胞はこれらの統合性を失う。好ましくは、透過試薬の導電率は1.2mS/cm未満である。イオン化合物、例えば塩は、試薬のイオン強度の主要な因子なので、試薬中の塩濃度は低いことが好ましい。
【0026】
遊離酸形態のN−アシルサルコシン、及びその塩は市販されている。金属イオンを試薬中に導入しない遊離酸形態を使用することが好ましい。遊離酸形態のN−アシルサルコシンは水溶性ではない。これはエタノール溶液中に予め溶解し、次いで水溶液中に添加することができる。試薬のpHがpH調節剤によって4〜6に調節されると、N−アシルサルコシンは溶解することができ、溶液中にアニオンの形で存在する。
【0027】
N−アシルサルコシンの好適な例は、N−オレオイルサルコシン、N−ステアロイルサルコシン、N−ラウロイルサルコシン、N−ミリストイルサルコシン、N−ココイルサルコシン、及びこれらの塩を含む。好ましくは、R1のアルキル又はアルキレン基の炭素原子数は12である。1つの好ましい実施態様の場合、N−ラウロイルサルコシンが使用される。
【0028】
更なる実施態様の場合、透過試薬はさらに、下記分子構造:
2−O−SO32
(上記式中、R2は炭素原子数8〜18のアルキル又はアルキレン基であり、そしてX2はNa+、K+、NH4+、又はNH2C(CH2OH)3(すなわちトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)である)によって表されるアニオン性界面活性剤を含むこともできる。好ましくは、アニオン性界面活性剤のR2のアルキル又はアルキレン基の炭素原子数は12である。好適な例は、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンラウリルスルフェートを含む。好ましい実施態様の場合、以後Trisラウリルスルフェートと呼ぶトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンラウリルスルフェートが使用される。
【0029】
透過試薬中に、N−アシルサルコシン又はその塩、又はアルキル又はアルキレンスルフェート界面活性剤と組み合わせは、試薬が細胞膜を透過して細胞内マーカーの透過を可能にする一方、フローサイトメトリーによる分析の際の細胞マーカーとの特異的結合のために細胞膜及び細胞構成物質を実質的に保存するのに十分な量で存在する。両界面活性剤の濃度は、約0.01 mM〜100 mM、好ましくは0.1 mM〜10 mM、より好ましくは1 mM〜5 mMであってよいことが判っている。1実施態様例において、2.3 mMのN−ラウロイルサルコシンを使用した。別の例において、0.5 mMのTrisラウリルスルフェートと2.2 mMのN−ラウロイルサルコシンとの混合物を使用した。
【0030】
上記濃度の界面活性剤は、弱酸性pHでポリペプチド及びタンパク質の凝集を引き起こす特性を有している。この弱酸性pHは、細胞内抗原部位を変性させず、又は細胞膜を破壊しない。
【0031】
好ましくは、透過試薬はさらにウシ血清アルブミン(BSA)を含む。ウシ血清アルブミンは、水溶液中の界面活性剤の溶解度を向上させ、また透過試薬の長期間の使用及び貯蔵にとって有益である。
【0032】
任意には、透過試薬はさらに、有機重量オスモル濃度調節剤を含むこともできる。重量オスモル濃度調節剤の好適な例として、サッカリド、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、又はグリセロールが挙げられる。好ましくは、サッカリド、又はグリセロールが使用される。サッカリドは多糖、例えば二糖、又は単糖であってよい。実施例1の組成物Dに示されている1実施態様例において、スクロースが使用される。
【0033】
さらに、透過試薬は1種又は2種以上の保存剤を含むこともできる。好適な例は、試薬の貯蔵寿命を長くするために抗菌剤及び抗酸化剤を含む。保存剤は、試薬の機能を妨げない量で存在することができる。1実施態様の場合、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン及び2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンが、抗菌剤として使用される。Rohm and Hass(Philadelphia, PA在)によって製造された5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンとの組み合わせが、Proclin(登録商標)150及びProclin(登録商標)300の商品名で市販されている。
【0034】
実施例1は、本発明の透過試薬の4種の組成例を示す。
【0035】
血液細胞と混合されると、本発明の透過試薬は細胞膜を効果的に透過し、これにより、後続の細胞分析のために細胞内マーカーが細胞内へ透過することが可能になり、そして透過試薬はまた、細胞内部で細胞内タンパク質凝集を引き起こすことが判っている。しかしながらこれと同時に、透過試薬は、例えば細胞内マーカーと結合する、細胞構成物質、例えば細胞内及び細胞表面抗原部位、DNA及びRNA分子、並びに細胞骨格要素を保存する。透過時には、赤血球はまた球状化され、これにより、細胞の形状及び配向の影響を受けることなしに、光散乱測定による赤血球の正確な測定が可能になる。
【0036】
本発明の目的上、「細胞構成物質」は、細胞内部、及び細胞膜の表面上、例えば細胞表面抗原部位の細胞成分を含む。「細胞内構成物質」は、細胞内部の細胞成分を意味し、これらの一例としては、細胞内タンパク質、例えば赤血球内部のヘモグロビン及びヘモグロビン変異型、細胞骨格要素、DNA及びRNAが挙げられる。細胞骨格要素の一例としては、チューブリン及びスペクトリンが挙げられる。本明細書で使用する「細胞マーカー」という用語の一例としては、細胞内タンパク質の抗原部位、細胞表面抗原部位、又は細胞骨格要素に対して特異的な抗体;DNA又はRNA分子に対して特異的な核酸色素及び核酸プローブ、例えばオリゴヌクレオチド・プローブが挙げられる。好ましくは、細胞マーカーには、蛍光色素が標識付けられる。さらに、細胞内構成物質に対して特異的な細胞マーカーは、細胞内マーカーとも呼ばれる。
【0037】
実施例6は、実施例1の組成物Cを使用した場合の、タンパク質凝集に対する透過試薬の効果を示している。図1は、実施例6において記載した血清成分、可溶性細胞画分(サイトゾル)、及び膜調製物の沈殿に対する透過試薬の効果を示している。ウシ血清アルブミンを除く各調製物において、細胞画分と透過試薬との混合物の光学濃度は、タンパク質凝集により著しく増大した。可溶性細胞画分中に存在するヘモグロビン濃度が高いため、光学濃度は可溶性細胞画分中で最も増大した。なお、光学濃度は、ヘモグロビンが吸収しない650nmで測定された。従って、光学濃度の増大は、混合物の不透明性により引き起こされた。膜画分では、光学濃度の増大はより少ない。これについては、界面活性剤によって膜の脂質部分が溶解されることにより、結果が隠されたと理解することができる。さらに、この例は、透過試薬中、例えば実施例1の組成物C中のウシ血清アルブミンの存在が、試料混合物の不透明性に影響を及ぼさないことを示した。
【0038】
好ましくは、血液試料は、希釈比約200:1〜約8000:1の透過試薬と混合する。血液試料は、所定の期間にわたって透過試薬と一緒にインキュベートすることにより、透過試薬と細胞との反応を容易する。好ましくは、インキュベーション時間は約30秒〜約5分、より好ましくは約2分〜約3分である。
【0039】
その後、中和試薬を添加することにより、透過反応を停止する。中和試薬は高張性であり、事実上中性であり、pHは7.0を僅かに上回る。第1試料混合物との混合されると、中和試薬は試薬混合物のpHを中性にもたらし、そして試料混合物のイオン強度及び重量オスモル濃度を増大させる。このようなものとして、中和試薬は、透過試薬の更なる反応を効果的に阻害する。
【0040】
中和試薬は、重量オスモル濃度調節剤と緩衝剤とを含む。好ましくは、重量オスモル濃度調節剤は、1種又は2種以上のアルカリ金属塩、好ましくはアルカリ金属ハロゲン化物、例えば塩化ナトリウム又は塩化カリウムである。中和試薬の重量オスモル濃度は、好ましくは約800〜約1,200mOsm/kg H2Oである。緩衝剤は、中性pHを提供する有機又は無機緩衝剤であってよい。緩衝剤のpHは好ましくは約7.1〜約7.5、より好ましくは約7.2〜約7.4である。
【0041】
さらに、中和試薬はさらにウシ血清アルブミンを含むこともできる。ウシ血清アルブミンは、細胞構成物質、具体的には細胞内抗原部位、例えばそれぞれの抗体との結合のための糖化ヘモグロビン(HbA1c)又は胎児性ヘモグロビン(HbF)の抗原部位の統合性を保存するのを支援する。好ましくは、ウシ血清アルブミンの濃度は約0.4〜約1.2mMである。
【0042】
さらに、中和試薬はさらに抗菌剤を含む。1実施態様例において、アジ化ナトリウムが使用される。アジ化ナトリウムは強力な抗菌剤である。強力な抗菌剤は、中和試薬が中性pHを有し、高濃度のウシ血清アルブミンを含有するので、この中和試薬に特に適している。実施例2は、中和試薬の組成例を示している。
【0043】
好ましくは、実施例2に示された中和試薬は、透過試薬に対する比約1.5〜約1.8で使用される。中和試薬の添加後、形成された第2試料混合物をさらに所定の期間にわたってインキュベートすることにより、透過試薬の反応を効果的に停止して試料混合物を安定化する。このインキュベーション時間は好ましくは約5分〜約30分、より好ましくは約8分〜約12分である。その後、第2試料混合物は、吸引し、そして測定のための側方散乱検出手段を備えたフローサイトメトリーの機器上で測定することができる。
【0044】
後で詳細に説明するようなHbA1cの測定において、特定のヘモグロビン変異型を測定しようとする場合、当該ヘモグロビン変異型に対して特異的な抗体を中和試薬中に添加することができる。透過試薬によって細胞膜が透過されるのに伴って、これらの大型抗体分子は細胞膜を貫通し、そして細胞内タンパク質の抗原部位に結合することができる。
【0045】
典型的には、試料混合物は、バッチ毎にフローサイトメーター上で測定される。調製済試料混合物は、測定前に相当な時間、わたって2、3時間にわたって待機してもよい。従って、本発明の方法では、第2試料混合物に固定試薬をさらに添加することにより、細胞を固定することができる。
【0046】
固定試薬は、固定剤と、重量オスモル濃度調節剤と、緩衝剤とを含む。好ましくは、固定剤は、例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、又はグルタルアルデヒドを含むアルデヒドである。重量オスモル濃度調節剤は、1種又は2種以上のアルカリ金属塩、好ましくはアルカリ金属ハロゲン化物、例えば塩化ナトリウム又は塩化カリウムである。好ましくは、固定試薬は高張性であり、その重量オスモル濃度は、好ましくは約1,100〜約1,400mOsm/kg H2Oである。緩衝剤は、中性pHを提供する有機又は無機緩衝剤であってよい。固定試薬のpHは好ましくは約6.9〜約7.3であり、このpHは中和試薬によって達成された中性pHを維持する。
【0047】
さらに、好ましくは固定試薬はキレート剤、例えば硫酸デキストラン、EGTA、及びホウ酸をも含む。固定試薬中の硫酸デキストラン、EGTA及びホウ酸の組み合わせは、ホルムアルデヒドとリン酸緩衝生理食塩水を含む、一般に使用される固定試薬と比較して、最終試料混合物中の細胞凝集を効果的に防止できることが判っている。実施例3は、固定試薬の組成例を示す。
【0048】
前述のように、本発明は、ヘモグロビン及びその変異型をフローサイトメーター上で測定するための血液試料を調製するための試薬系を提供する。試薬系は上記の透過試薬及び中和試薬を含み、そして好ましくはさらに固定試薬を含む。
【0049】
実施例7は、側方散乱測定によって細胞ヘモグロビンを測定するための本発明の方法を示している。ここでは、フローサイトメトリーにおいて知られている側方散乱シグナルという用語は、フローセルの開口部を通過する粒子又は血液細胞によって発生する、入射光から約90°又は直角を成す光散乱シグナルを意味する。前方散乱シグナルは、入射光から10°未満で測定される光散乱シグナルを意味する。側方散乱測定という用語は、光学検出器による側方散乱シグナルの測定を意味する。市販の全てのフローサイトメーターは、前方散乱シグナル及び側方散乱シグナルの測定を可能にする検出システムを備えている。
【0050】
なお、実施例7では、透過試薬の添加前に血液試料と混合するために、球状化試薬を使用する。後で説明する本発明の更なる実施態様から明らかなように、網状赤血球の細胞ヘモグロビンの測定に際しては、網状赤血球内の核酸を染色する。このことは、媒質として球状化試薬を有する核酸色素試薬を使用して達成される。成熟赤血球及び網状赤血球の両方における細胞ヘモグロビンを測定するための一般的な試料調製法を提供するために、血液試料と透過試薬との反応の前に、球状化試薬を使用する。しかし言うまでもなく、網状赤血球を区別しなくてもよいときには、血液試料の細胞ヘモグロビンの測定のために、球状化試薬との混合は必要とならない。なぜならば、上記のように、本発明の透過試薬自体が赤血球を球状化するからである。
【0051】
図示のように、本発明の方法を用いて、16の全血試料を調製した。調製済の試料混合物は、FC500 MPLフローサイトメーター上で分析した。これにより得られた、1血液試料の前方散乱対側方散乱のスキャッタグラムが図2Aに示されている。このスキャッタグラムにおいて、測定された大部分の血液細胞集団は、処理済赤血球であった。各血液試料の平均側方散乱値がこの集団内で得られた。
【0052】
比較の目的で、これらの16の試料のそれぞれから別のアリコートを、本発明の試薬系なしで、球状化試薬を使用して調製した。4μlの血液試料を、実施例4の球状化試薬200μlと混合した。1分間のインキュベーション後、3μlの懸濁液を240μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と混合することにより、球状化試料を形成した。球状化試料を、同じFC500 MPLサイトメーター上で分析した。図2Bは、図2Aに示されたのと同じ血液試料の前方散乱対側方散乱のスキャッタグラムを示した。
【0053】
図示のように、本発明の方法を用いて得られた血液試料の平均側方散乱値は、球状化試薬及びPBSの処理によって得られた血液試料の平均側方散乱値よりも著しく高かった。これらの16の血液試料の中で、本発明の方法を用いて得られた平均側方散乱値は、平均して約4〜5倍高かった。
【0054】
これらの16の全血試料を、Sysmex XE 2100血液分析装置上でも分析した。この分析装置によって報告された赤血球指数から、血液試料のそれぞれに対して、平均赤血球ヘモグロビン(MCH)を得た。なお、血液分析装置上では、溶解された血液試料の総ヘモグロビン濃度(Hgb、グラム/デシリットル)、及び血液試料の赤血球数(RBC、数/リットル)からMCH(ピコグラム)が計算された。
【0055】
両試料アリコートから得られた平均側方散乱値と、血液分析装置上で得られたMCHとの相関関係を別々に分析した。図3A及び3Bには、線形相関分析の結果を示した。図3Aに示すように、本発明の方法を用いて得られる平均側方散乱値は、MCHと良好な相関関係を有しており、相関係数(r2)は0.9202であった。このことは、本発明の方法を用いて得られた側方散乱シグナルが、赤血球の細胞ヘモグロビンの直接的な測定値であることを示した。対照的に、図3Bに示すように、球状化試薬処理によって得られる側方散乱値はMCHと良好に相関せず、相関係数(r2)は0.2812である。
【0056】
言うまでもなく、細胞ヘモグロビンが得られたら、Hgbcellを赤血球数で掛け算することにより、血液試料の総ヘモグロビン濃度を得ることができる。赤血球数は、独立して、又はフローサイトメトリーの機器がカウントを容易にするための流体体積測定装置を有する場合には、上記測定と一緒に得ることができる。
【0057】
なお、本明細書中に記載された細胞ヘモグロビン(Hgbcell)は、個々の赤血球内の総ヘモグロビン含量であり、この総ヘモグロビン含量は、その赤血球内に存在する全てのヘモグロビン変異型を含む。さらに、血液試料の平均側方散乱値は、測定される全ての赤血球の平均側方散乱シグナルの平均値であり、これら全ての赤血球は、血液試料中に存在する成熟赤血球及び未熟赤血球、例えば網状赤血球の両方を含む。
【0058】
別の観点において、本発明は、血液試料中の網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)を測定する方法を提供する。本明細書中では、網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)という用語は、個々の網状赤血球内の総ヘモグロビンを意味し、この総ヘモグロビンはその赤血球内に存在する全てのヘモグロビン変異型を含む。網状赤血球の細胞ヘモグロビンは一般に、網状赤血球細胞ヘモグロビン(CHr)と呼ばれ、この網状赤血球細胞ヘモグロビン(CHr)は、Bayer Diagnostics (Tarrytown, New York在)製のAdvia(登録商標) 120血液分析装置上の報告パラメータのうちの1つである。
【0059】
網状赤血球の細胞ヘモグロビンを測定するためには、赤血球の大部分である成熟赤血球から網状赤血球を区別することが必要である。本発明の方法は、後で詳細に説明するように、フローサイトメーター上の1シグナル・ステップ測定で、網状赤血球の区別、及び網状赤血球の細胞ヘモグロビンの測定を可能にする。
【0060】
1実施態様の場合、網状赤血球の細胞ヘモグロビンの測定方法は:
(a) 血液試料のアリコートと核酸色素試薬と混合することにより染色済試料を形成し、そして、色素が細胞内RNAに結合するのを可能にするのに十分な第1の期間にわたって、染色済試料をインキュベートし;
(b) 染色済試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして透過試薬が成熟赤血球及び網状赤血球の細胞膜を透過し、そして赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのを可能にするのに十分な第2の期間にわたって、第1試料混合物をインキュベートし;
(c) 第1試料混合物に中和試薬を添加することにより第2試料混合物を形成し;透過試薬と赤血球との更なる反応を阻害するのに十分な第3の期間にわたって、第2試料混合物をインキュベートし;
(d) 第2試料混合物中の成熟赤血球及び網状赤血球の、所定の波長における側方散乱シグナル及び蛍光シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定し;
(e) 蛍光測定、又は蛍光測定と側方散乱測定との組み合わせを用いて、成熟赤血球から網状赤血球を区別し;そして
(f) 側方散乱測定によって網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)を得る
ステップを含む。
【0061】
上記血液試料の細胞ヘモグロビンの測定方法と同様に、網状赤血球の細胞ヘモグロビンの測定方法も好ましくはさらに、機器上での測定の前に、細胞を固定するために固定試薬を添加することを含む。
【0062】
核酸色素試薬は、RNA分子に対して特異的な蛍光核酸色素と、界面活性剤と、試薬を等張性に維持するための1種又は2種以上の塩とを含む水溶液である。好ましくは、実施例5に示すように、核酸色素試薬中にはアクリジン・オレンジが使用される。界面活性剤は、細胞膜を小型色素分子に対して透過性にする。実施例4に示された球状化試薬は、n−ドデシルベータ−D−マルトシドを含有する。この界面活性剤は、米国特許第6,271,035号明細書(全体を本明細書で援用する)に教示されているように、細胞内部の核酸の急速な染色を容易にするために使用されている。実施例4の球状化試薬は、細胞膜を蛍光色素分子に対して十分に透過性にするがしかし、細胞膜は大型生体分子、例えば抗体に対しては透過性ではない。この試薬は、核酸色素試薬の媒質として使用される。好ましくは、核酸色素試薬は本質的に中性又は弱塩基性である。核酸色素試薬は、有機緩衝剤、例えば低濃度のHEPESを含有している。リン酸塩は透過試薬の反応を妨害するおそれがあるので、核酸色素試薬中では避けるべきであることが判っている。さらに任意には、核酸色素試薬は、細胞を保護するために低濃度の固定剤及びサッカリド、例えばホルムアルデヒド及びD(+)トレハロースをも含む。
【0063】
好ましくは、血液試料を核酸色素試薬で約50倍に希釈する。核酸色素試薬と一緒に血液試料をインキュベートする第1の期間は典型的には、約30秒〜約3分、好ましくは約1分である。RNAの染色後、染色済試料のアリコートを透過試薬と、好ましくは、透過試薬:染色済試料の比約15:1〜約100:1で混合する。中和試薬及び固定試薬をさらに添加した後、この実施態様例における血液試料の総希釈率は約4000倍である。第1試料混合物及び第2試料混合物のインキュベーション時間、より具体的には透過試薬及び中和試薬の添加後のそれぞれのインキュベーション時間については、血液試料の細胞ヘモグロビン(Hgbcell)を測定する過程において前述した。
【0064】
なお、網状赤血球内のRNAを染色する目的で、上記のような前染色ステップを用いる代わりに、核酸色素を透過試薬又は中和試薬中に添加することもできる。しかし、透過試薬及び中和試薬との反応前に前染色ステップを用いることは、診断分析における実用的な利点を有する。本発明の試薬系を用いた更なる処理において染色済試料を小体積しか使用しないので、最終試料混合中の色素濃度は極めて低い。このことにより、蛍光測定のシグナル対バックグラウンド比が改善され、管、及びその他の機器成分との色素の非特異的結合が防止される。
【0065】
実施例8は、網状赤血球と、網状赤血球の細胞ヘモグロビンとの同時の測定例を示している。血液試料を、先ずアクリジン・オレンジを含有する核酸色素試薬と混合することにより核酸を染色し、次いで、透過試薬、中和試薬、及び固定試薬によって続いて処理する。調製済試料混合物をFC500 MPLフローサイトメーター上で分析した。こうして得られた、側方散乱対FL1のスキャッタグラムを図4Aに示す。FL1は、網状赤血球内の染色済RNAに由来する、488nmで測定された蛍光シグナルである。
【0066】
図4Aに示すように、網状赤血球は、成熟赤血球よりも著しく強い蛍光シグナルを有した。網状赤血球群は、スキャッタグラムにおいて成熟赤血球の右側に位置した。網状赤血球は、FL1のヒストグラムを使用するか、又は側方散乱対FL1の二次元スキャッタグラムを使用して、成熟赤血球から区別することができる。比較として、未染色血液試料のスキャッタグラムを図4Bに示す。この図において、成熟赤血球からの網状赤血球の分離は認識できなかった。
【0067】
図4Aに示されたスキャッタグラムの差分分析を、成熟赤血球から網状赤血球を分離するために実施した。個々の網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)を、試料混合物中の全赤血球に関して上述したのと同様に、個々の網状赤血球の側方散乱シグナルから得た。
【0068】
別の観点において、本発明は、血液試料のヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを測定する方法を提供する。1実施態様の場合、この方法は、
(a) 血液試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして透過試薬が赤血球の細胞膜を透過し、そして赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのに十分な第1の期間にわたって、第1試料混合物をインキュベートし;
(b) 当該ヘモグロビン変異型に対して特異的な抗体を含有する中和試薬を第1試料混合物に添加することにより、第2試料混合物を形成し;抗体が細胞内部のヘモグロビン変異型に結合するのを可能にするのに十分な第2の期間にわたって、第2試料混合物をインキュベートし、そして、透過試薬と赤血球との更なる反応を阻害し;
(c) 第2試料混合物中の赤血球の、所定の波長における側方散乱シグナル及び蛍光シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定し;
(d) 得られた蛍光シグナル及び前記側方散乱シグナルを使用して、赤血球の細胞ヘモグロビン変異型(Hgbvariant)及び細胞ヘモグロビン(Hgbcell)を得;そして
(e) 得られたHgbvariant及びHgbcellを使用して、ヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを得る
ステップを含む。
【0069】
同様に、固定試薬は、フローサイトメーター上での測定前に試料混合物に添加することができる。本明細書中では、ヘモグロビン変異型という用語は、全てのヘモグロビン変異型、例えば胎児性ヘモグロビン、糖化ヘモグロビン(HbA1C)、及びヘモグロビンの異常型、例えば鎌状赤血球病及びサラセミアに見いだされる異常型を含む。細胞ヘモグロビン変異型(Hgbvariant)という用語は、個々の赤血球内のヘモグロビン変異型の量である。ヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージという用語は、個々の赤血球内の総ヘモグロビンの特定のヘモグロビン変異型のパーセンテージを意味する。上に定義された用語を使用して、ヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージは、100倍したHgbvariant及びHgbcellの比率である。
【0070】
上記のように、当該ヘモグロビン変異型に対して特異的な抗体を中和試薬に添加することができる。透過試薬と反応すると、細胞膜は、これらの大型抗体分子に対して透過性になる。抗体は細胞膜を透過し、細胞内タンパク質の抗原部位に結合する。HbA1cを測定する方法の場合、蛍光モノクローナル抗HbA1c抗体を使用する。本明細書中、蛍光抗体という用語は、蛍光色素に共有結合された抗体を意味する。
【0071】
1実施態様の場合、蛍光モノクローナル抗HbA1c抗体は、抗HbA1c−FITC抗体であり、この抗HbA1c−FITC抗体は、抗HbA1c抗体に共有結合されたフルオレセインN−イソチオシアネート(FITC)を有する。FITCは525nmに吸収極大を有する。別の実施態様の場合、蛍光抗HbA1c抗体は、抗HbA1c−Alexa Fluor 647抗体であり、この抗HbA1c−Alexa Fluor 647抗体は、蛍光色素Alexa Fluor 647を抗体に共有結合することにより調製された。Alexa Fluor 647は647nmに吸収極大を有する。
【0072】
第1試料混合物及び第2試料混合物のインキュベーション時間、より具体的には透過試薬及び中和試薬の添加後のそれぞれのインキュベーション時間については、血液試料の細胞ヘモグロビン(Hgbcell)を測定する過程において既に説明したとおりである。
【0073】
実施例9は、抗HbA1c−Alexa Fluor 647抗体を使用して、網状赤血球及び成熟赤血球内のHbA1cを測定する例を示している。しかし、言うまでもなく、RNAの染色ステップなしに、全赤血球のHbA1cを測定するために、同じ方法を用いることもできる。全赤血球のHbA1cを測定する際には、成熟赤血球からの網状赤血球の区別は必要とならない。
【0074】
フローサイトメーター上で、機器を較正するために基準対照を一般に使用する。基準対照は典型的には、既知のヘモグロビン濃度、又は等価のヘモグロビン濃度、既知の側方散乱強度及び蛍光強度を有する蛍光粒子から形成されている。これらの典型的な一例としては、合成粒子、ヒト又は動物の血液細胞、及び処理を施されたヒト又は動物の血液細胞が挙げられる。較正されると、細胞HbA1cの定量的測定値、すなわち個々の赤血球内のこのヘモグロビン変異型の絶対量をフローサイトメーター上で得ることができる。
【0075】
さらに別の観点において、本発明は、血液試料中の網状赤血球の細胞ヘモグロビン変異型の測定方法を提供する。網状赤血球の細胞ヘモグロビン変異型(Hgbvariant-retic)という用語は、個々の網状赤血球内のヘモグロビン変異型の量である。
【0076】
1実施態様の場合、網状赤血球の細胞ヘモグロビン変異型の測定方法は、
(a) 血液試料のアリコートと核酸色素試薬と混合することにより染色済試料を形成し、そして、色素が細胞内RNAに結合するのを可能にするのに十分な期間にわたって、染色済試料をインキュベートし;
(b) 染色済試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして透過試薬が成熟赤血球及び網状赤血球の細胞膜を透過し、そして血液細胞内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのを可能にするのに十分な期間にわたって、第1試料混合物をインキュベートし;
(c) 当該ヘモグロビン変異型に対して特異的な蛍光抗体を含有する中和試薬を第1試料混合物に添加することにより、第2試料混合物を形成し;抗体が細胞内部のヘモグロビン変異型に結合するのを可能にするのに十分な期間にわたって、第2試料混合物をインキュベートし;そして、透過試薬と成熟赤血球及び網状赤血球との更なる反応を阻害し;
(d) 第2試料混合物中の成熟赤血球及び網状赤血球の、2つの所定の波長における蛍光シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定し;
(e) 蛍光シグナルを用いて、成熟赤血球から網状赤血球を区別し、そして各網状赤血球の細胞ヘモグロビン変異型(Hgbvariant-retic)を得る
ステップを含む。
【0077】
各試薬の添加後のインキュベーション時間は前述の通りである。
【0078】
上記から明らかなように、この方法はさらに、ステップ(d)において第2試料混合物中の赤血球の側方散乱シグナルをセル・バイ・セル測定することを含むこともできる。網状赤血球を区別すると、側方散乱シグナルを使用して、各網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)を得ることができる。次いで、Hgbvariant-retic及びHgbreticを使用して、各網状赤血球内のヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを得ることができる。
【0079】
実施例9は、血液試料中に存在する網状赤血球及び成熟赤血球のHbA1c及び細胞ヘモグロビンを測定する例を示している。血液試料を、先ずアクリジン・オレンジを含有する核酸色素試薬と混合することにより核酸を染色し、続いて、透過試薬で処理した。次いで、抗HbA1c−Alexa Fluor 647抗体を含有する中和試薬を添加し、そして試料混合物をインキュベートすることにより、抗体とHbA1cとの結合を可能にした。固定試薬をさらに添加することにより、血液細胞を固定した。調製済試料混合物をFC500 MPLフローサイトメーター内に吸引し、そして側方散乱シグナル及び488nm(FL1)及び647nm(FL4)の蛍光シグナルをこの機器上でセル・バイ・セル測定した。こうして得られた側方散乱対FL1のスキャッタグラムを図5Aに示し、またFL1対FL4のスキャッタグラムを図5Bに示す。
【0080】
側方散乱対FL1のスキャッタグラムを使用した差分分析によって、成熟赤血球から網状赤血球を区別した。上記のように、側方散乱シグナルを使用して、網状赤血球(Hgbretic)及び成熟赤血球(Hgbcell)の細胞ヘモグロビンを得た。
【0081】
図5Bに示すように、このスキャッタグラムにおいても、成熟赤血球から網状赤血球を分離した。個々の網状赤血球又は個々の成熟赤血球のHbA1Cを、その細胞のFL4シグナルを使用して測定した。基準対照、例えば同じ色素を標識付けされた蛍光ビード又は細胞を使用して、網状赤血球(HbA1C-retic)及び成熟赤血球(HbA1C)の細胞糖化ヘモグロビンを得た。HbA1C-reticとHgbreticとの比から、個々の網状赤血球内のHbA1Cのパーセンテージを得た。同様に、成熟赤血球のHbA1Cと細胞ヘモグロビンとの比から、個々の成熟赤血球内のHbA1Cのパーセンテージを得た。
【0082】
下記例は本発明を例示するものであり、特許請求の範囲内で定義された本発明の範囲を限定するものとして決して解釈してはならない。言うまでもなく、前記開示内容に従って、種々の他の成分や比率を採用してもよい。
【0083】
実施例1:透過試薬組成物
組成物A
下記透過試薬組成物を調製した:
【表1】

【0084】
より具体的には、N−ラウロイルサルコシンの原液を最初に製造した。1.0gのN−ラウロイルサルコシン(Fluka)を1.5mlのエタノール(96%)中に予め溶解した。180μmのピロリジン(Aldrich)を95mlの脱イオン水中に添加した。次いでN−ラウロイルサルコシン/エタノール溶液をピロリジン溶液中に添加し、pHをピロリジン及びHClによって5.6に調節し、そして溶液を脱イオン水で100mlに調節することにより原液を形成した。試薬の総体積を脱イオン水で100mlに調節する。6.25mlの原液を脱イオン水で100mlに希釈し、そしてpHをピロリジン及びHClで5.3に調節することにより、透過試薬組成物を調製した。0.22μmの孔サイズの滅菌ナイロンフィルターを通して試薬を濾過した。組成物Aの導電率は0.1mS/cmであった。
【0085】
組成物B
下記透過試薬組成物を調製した:
【表2】

【0086】
試薬組成物の導電率は0.25mS/cmであった。上記のように、N−ラウロイルサルコシンを原液として添加した。
【0087】
組成物C
下記透過試薬組成物を調製した:
【表3】

【0088】
試薬組成物の導電率は0.5mS/cmであった。上記のように、N−ラウロイルサルコシンを原液として添加した。
【0089】
組成物D
下記組成に従って下記透過試薬を調製した:
【表4】

【0090】
より具体的には、スクロース、Proclin 300、コハク酸、及び1.2mlのピロリジンを先ず900mlの脱イオン水と混合した。N−ラウロイルサルコシンを添加し、そしてこの混合物を、N−ラウロイルサルコシンが完全に溶解するまで撹拌した。次いで、ウシ血清アルブミンを添加し、そして溶解した。体積を1リットルの最終体積の約99%に調節し、そしてpHを希釈ピロリジン(10%v/v)で5.4に調節した。pH調節は1M塩酸で行うこともできる。試薬体積を1リットルに調節し、そして0.22μmの孔サイズの滅菌ナイロンフィルターを通して試薬を濾過した。試薬の導電率は0.99mS/cmであり、重量オスモル濃度は268mOsm/kg H2Oであった。Proclin 300は、Zymed laboratories (South San Francisco, California在)から得た。
【0091】
実施例2:中和試薬組成物
下記組成に従って水性中和試薬を調製した:
【表5】

【0092】
より具体的には、HEPES、塩化ナトリウム、及びウシ血清アルブミンを先ず脱イオン水中に溶解した。試薬体積を最終体積の約60%に調節した。1M水酸化ナトリウムをpH7.0に調節した。アジ化ナトリウムを添加し、そして体積を最終体積の約95%に調節し、そしてpHをさらに1M水酸化ナトリウムで7.25に調節した。試薬体積を最終体積に調節し、そして0.22μmの孔サイズの滅菌ナイロンフィルターを通して試薬を濾過した。試薬の重量オスモル濃度は1,095mOsm/kg H2Oであった。
【0093】
実施例3:固定試薬組成物
下記組成に従って水性固定試薬を調製した:
【表6】

【0094】
より具体的には、これらの成分を、最終体積の約90%で脱イオン水中に溶解し、1M水酸化ナトリウム又は1M塩酸を使用して、pHを7.1に調節した。試薬体積を最終体積に調節し、そして0.22μmの孔サイズの滅菌ナイロンフィルターを通して試薬を濾過した。試薬の重量オスモル濃度は1,348mOsm/kg H2Oであった。
【0095】
実施例4:球状化試薬組成物
下記組成に従って水性球状化試薬を調製した:
【表7】

【0096】
より具体的には、水酸化ナトリウムを除く成分を脱イオン水中で混合した。試薬体積を最終体積の約90%に調節した。1M水酸化ナトリウムを使用してpHを調節した。試薬体積を最終体積に調節し、そして0.22μmの孔サイズの滅菌ナイロンフィルターを通して試薬を濾過した。
【0097】
実施例5:核酸色素試薬組成物
実施例4の球状化試薬中にアクリジン・オレンジを添加することにより、アクリジン・オレンジ濃度0.5mg/lの核酸色素試薬を形成した。0.22μmの孔サイズの滅菌ナイロンフィルターを通して、核酸色素試薬を再び濾過した。
【0098】
実施例6:赤血球の種々異なる成分に対する透過試薬の効果
抗凝固剤としてのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)0.7mMで処理された所定量の血液を使用することにより、血清を調製した。別量のEDTA処理済血液を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、そして9体積の水で希釈することにより細胞溶解物を得た。細胞溶解物に15分間にわたって2000gで遠心分離を施すことにより、可溶性細胞画分と膜画分とを分離した。膜画分を含有するペレットを、5%の体積の可溶性細胞画分を含有する所定の体積の水と混合した。
【0099】
血清、可溶性細胞画分、膜画分、並びに対照としてのウシ血清アルブミンの沈殿を、実施例1の組成物Cとの混合後、及び下記改質試薬との混合後にモニタリングした:
1. 改質試薬1:pH7.0の、界面活性剤(Trisラウリルスルフェート及びN−ラウロイルサルコシン)が添加されていない実施例1の組成物C
2. 改質試薬2:pH5.0の、界面活性剤(Trisラウリルスルフェート及びN−ラウロイルサルコシン)が添加されていない実施例1の組成物C
3. 改質試薬3:pH7.0の実施例1の組成物C
4. 透過試薬4:上記実施例1の組成物C(pH5.0)
【0100】
上記特定の試薬2mlと下記4つの成分のうちの1つと混合することにより、試料混合物を製造した:
− 血清0.01ml(A)、
− 15%重量/体積のウシアルブミン調製物0.01ml(B)、
− 可溶性細胞画分0.1ml(C)、及び
− 膜画分0.1ml(D)。
【0101】
試料混合物の調製から1時間後にタンパク質の沈殿を検出するために、画分の主要構成物質であるヘモグロビンが吸収しない波長650nmで、試料混合物の光学濃度を測定した。
【0102】
図1は、血清;15%重量/体積のウシ血清アルブミン(BSA)調製物;可溶性細胞画分(サイトゾル);及び膜画分における、細胞成分の沈殿に対する試薬の効果を示す。上記細胞成分のそれぞれに対する棒グラフは、左から右へ向かって見て、改質試薬1〜3及び透過試薬4を使用して得られた結果を示している。
【0103】
図1は、上記のpH4〜6の界面活性剤を含有する透過試薬4だけが、ウシ血清アルブミン(BSA)を除く、タンパク質の凝集及び沈殿を引き起こしたことを示している。
【0104】
実施例7:血液試料の細胞ヘモグロビンの測定
4μlの血液試料を、実施例4の球状化試料200μlと混合した。1分間のインキュベーション後、3μlの懸濁液を続いて、実施例1の60μlの透過試薬組成物Dと混合した。2.5分間のインキュベーション後、実施例2の100μlの中和試薬を添加した。さらに10分間インキュベーションを行った後、実施例3の80μlの固定試薬を添加した。
【0105】
16人の異なる患者から16の全血試料を収集した。上記手順を用いて各試料のアリコートを調製した。形成された試料混合物を、FC500 MPLサイトメーター上で分析した。図2Aは、血液試料のうちの1試料の、こうして得られた前方散乱対側方散乱のスキャッタグラムを示す。図示の細胞の主要集団は、処理済の赤血球であり、この集団における細胞の平均側方散乱値が、それぞれの被分析血液試料に対して測定された。なお、スキャッタグラムにおける副次集団は、凝集細胞に由来するダブレットであった。この集団は、測定される総赤血球の約1%であり、そしてこれらは、平均側方散乱値の測定において考慮されなかった。
【0106】
比較の目的で、これらの16の試料のそれぞれから別のアリコートを、本発明の試薬系なしで、球状化試薬を使用して調製した。4μlの血液試料を、実施例4の球状化試薬200μlと混合した。1分間のインキュベーション後、3μlの懸濁液を240μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と混合することにより、球状化試料を形成した。球状化試料を、同じFC500 MPLサイトメーター上で分析した。図2Bは、図2Aに示されたのと同じ血液試料の前方散乱対側方散乱のスキャッタグラムを示した。
【0107】
図示のように、本発明の方法を用いて得られた血液試料の平均側方散乱値は、球状化試薬及びPBSの処理によって得られた血液試料の平均側方散乱値よりも著しく高かった。これらの16の血液試料の中で、本発明の方法を用いて得られた平均側方散乱値は、平均して約4〜5倍高かった。
【0108】
製造業者によって提供された試薬を備え、標準的な条件で動作するSysmex XE 2100血液分析装置(日本国神戸市在Sysmex Corporation)上でも、これらの16の全血試料を分析した。この分析装置によって報告された赤血球指数から、血液試料のそれぞれに対して、平均赤血球ヘモグロビン(MCH)を得た。溶解された血液試料の総ヘモグロビン濃度(Hgb、g/dl)、及び血液試料の赤血球数(RBC、1012/l)からMCH(pg)が計算された。なお、MCHは、ピコグラムをヘモグロビンの分子量で割り算することにより計算されたアトモルで表すこともできる。
【0109】
両試料アリコートから得られた平均側方散乱値と、血液分析装置上で得られたMCHとの相関関係を別々に分析した。図3A及び3Bには、線形相関分析の結果を示した。図3Aに示すように、本発明の方法を用いて得られる平均側方散乱値(サイトメトリーにおけるSSと記す)は、MCHとの良好な相関関係を有しており、相関係数(r2)は0.9202であった。このことは、本発明の方法を用いて得られた側方散乱シグナルが、赤血球の細胞ヘモグロビンの直接的な測定値であることを示した。対照的に、図3Bに示すように、球状化試薬処理によって得られる側方散乱値はMCHと良好に相関せず、相関係数(r2)は0.2812である。
【0110】
実施例8:血液試料中の網状赤血球の細胞ヘモグロビンの測定
4μlの全血液試料を、実施例5の核酸色素試料200μlと混合した。1分間のインキュベーション後、続いて3μlの懸濁液を、実施例1の60μlの透過試薬組成物Dと混合した。2.5分間のインキュベーション後、実施例2の中和試薬100μlを添加した。更なる10分間のインキュベーション後、実施例3の固定試薬80μlを添加した。
【0111】
得られた試料混合物を、側方散乱測定及び488nmの蛍光測定(FL1)によって、FC500 MPLサイトメーター上で分析した。図4Aは、こうして得られた側方散乱対FL1のスキャッタグラムを示した。
【0112】
核酸色素試薬の代わりに実施例4の球状化試薬を使用すること以外は同じ手順を用いて、同じ試料の別のアリコートを処理した。試料混合物を、側方散乱測定及び蛍光測定によって、同じFC500 MPLサイトメーター上で分析した。図4Bは、側方散乱対FL1のスキャッタグラムを示した。
【0113】
図4Aに示すように、網状赤血球は、より強い蛍光シグナルを有し、網状赤血球群は、成熟赤血球の右側に位置した。網状赤血球は、FL1のヒストグラムを使用するか、又は二次元スキャッタグラムを使用して、成熟赤血球から区別することができた。対照的に、図4Bでは、未染色試料を使用すると、成熟赤血球から網状赤血球は分離されなかった。
【0114】
なお、図示のスキャッタグラムは白血球をゲートアウトしておらず、白血球は、図4Aのスキャッタグラムの右側に示されており、また図4Bでは、マーキングされた網状赤血球領域の右下象限内に示されている。
【0115】
図4Aに示されたスキャッタグラムの差分分析を、成熟赤血球から網状赤血球を分離するために実施した。個々の網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)を、実施例7において前述したのと同様に、個々の網状赤血球の側方散乱シグナルから得た。
【0116】
実施例9:血液試料中に存在する網状赤血球及び成熟赤血球のHbA1c及び細胞ヘモグロビンの測定
4μlの血液試料を、実施例5の核酸色素試薬200μlと混合した。1分間のインキュベーション後、3μlの懸濁液を、実施例1の60μlの透過試薬組成物Dと混合した。2.5分間のインキュベーション後、蛍光抗HbA1c抗体を含有する中和試薬100μlを添加した。中和試薬は、実施例2の中和試薬と、蛍光色素Alexa Fluor 647に共有結合されたモノクローナル抗HbA1c抗体5mg/lとを含んだ。更なる10分間のインキュベーション後、実施例3の固定試薬80μlを添加することにより、最終試料混合物を形成した。
【0117】
最終試料混合物を、側方散乱シグナル及び488nm(FL1)及び647nm(FL4)の蛍光測定によって、FC500 MPLサイトメーター上で分析した。図5Aは、こうして得られた側方散乱対FL1のスキャッタグラムを示した。このスキャッタグラムを差分分析することによって、成熟赤血球から網状赤血球を区別した。実施例7及び8において上述したように、側方散乱シグナルを使用して、個々の網状赤血球(Hgbretic)及び個々の成熟赤血球(Hgbcell)の細胞ヘモグロビンを得た。
【0118】
図5Bは、測定から得られたFL1対FL4のスキャッタグラムを示した。図示のように、このスキャッタグラムにおいても、成熟赤血球から網状赤血球を分離した。個々の網状赤血球又は個々の成熟赤血球のHbA1Cを、その細胞のFL4シグナルを使用して測定した。基準対照、例えば同じ色素を標識付けされた蛍光ビード又は細胞を使用して、網状赤血球(HbA1C-retic)及び成熟赤血球(HbA1C)の細胞糖化ヘモグロビンを得た。HbA1C-reticとHgbreticとの比から、個々の網状赤血球内のHbA1Cのパーセンテージを得た。同様に、成熟赤血球のHbA1Cと細胞ヘモグロビンとの比から、個々の成熟赤血球内のHbA1Cのパーセンテージを得た。
【0119】
抗HbA1c抗体は、正常ヒト・ヘモグロビンに対して過剰免疫化されたマウス内で生成した。正常ヒト・ヘモグロビンは、ほぼ5%の糖化ヘモグロビンHbA1cを含有した。抗体の特異性は、ヒトのベータ・ヘモグロビン鎖の3つのN末端残基、すなわちそれぞれバリン、ロイシン及びヒスチジンのグリコシル化トリペプチドとのビード・アッセイにおける陽性反応によって示された。抗体は、非グリコシル化トリペプチドと反応しなかった。
【0120】
蛍光モノクローナル抗HbA1c抗体は、製造業者の指示書に従って、蛍光色素分子Alexa Fluor 647をモノクローナル抗HbA1c抗体に、1抗体分子当たり5色素分子の分子比で共有結合することによって調製した。Alexa Fluor 647は、Invitrogen Corporation(Carisbad, California在)によって製造される。この色素は647nmに吸収極大を有する。
【0121】
本発明を詳細に説明し添付の図面に示してきたが、これらは本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではなく、本発明の好ましい実施態様の例示として解釈されるべきである。しかしながら、上記明細書において記載され、また添付の特許請求の範囲及びこれらの法的等価物において定義される本発明の思想及び範囲内で、種々の改変及び変更を加え得ることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料の細胞ヘモグロビンの測定方法であって、
(a) 血液試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして赤血球の細胞膜を透過し、そして前記赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのに十分な第1の期間にわたって、前記第1試料混合物をインキュベートするステップ;
(b) 前記第1試料混合物に中和試薬を添加することにより第2試料混合物を形成し、そして前記透過試薬と前記赤血球との更なる反応を阻害するのに十分な第2の期間にわたって、前記第2試料混合物をインキュベートするステップ;
(c) 前記第2試料混合物中の前記赤血球の側方散乱シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定するステップ;そして
(d) 前記側方散乱シグナルを用いて、前記血液試料の前記赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbcell)を得るステップ、
を含む、血液試料の細胞ヘモグロビンの測定方法。
【請求項2】
さらに、前記フローサイトメーター上での測定を実施する前に、前記第2試料混合物中に固定試薬を添加することにより、前記赤血球を固定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記透過試薬が界面活性剤を含有しており、そして約4〜約6のpHを有している、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
血液試料中の網状赤血球の細胞ヘモグロビンの測定方法であって、
(a) 前記血液試料のアリコートと核酸色素試薬と混合することにより染色済試料を形成し、そして、前記色素が細胞内RNAに結合するのを可能にするのに十分な第1の期間にわたって、前記染色済試料をインキュベートするステップ;
(b) 前記染色済試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして前記透過試薬が成熟赤血球及び網状赤血球の細胞膜を透過し、そして前記成熟赤血球及び前記網状赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのを可能にするのに十分な第2の期間にわたって、前記第1試料混合物をインキュベートするステップ;
(c) 前記第1試料混合物に中和試薬を添加することにより第2試料混合物を形成し;前記透過試薬と前記成熟赤血球及び前記網状赤血球との更なる反応を阻害するのに十分な第3の期間にわたって、前記第2試料混合物をインキュベートするステップ;
(d) 前記第2試料混合物中の前記成熟赤血球及び前記網状赤血球の、所定の波長における側方散乱シグナル及び蛍光シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定するステップ;
(e) 前記蛍光シグナル、又は前記蛍光シグナルと前記側方散乱シグナルとの組み合わせを用いて、前記成熟赤血球から前記網状赤血球を区別するステップ;及び
(f) 前記側方散乱測定によって前記網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)を得るステップ、
を含む、血液試料中の網状赤血球の細胞ヘモグロビンの測定方法。
【請求項5】
さらに、前記フローサイトメーター上での測定を実施する前に、前記第2試料混合物中に固定試薬を添加することにより、前記網状赤血球を固定することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸色素試薬がアクリジン・オレンジを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記透過試薬が界面活性剤を含有しており、そして約4〜約6のpHを有している、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
血液試料のヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを測定する方法であって:
(a) 前記血液試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして前記透過試薬が赤血球の細胞膜を透過し、そして前記赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのを可能にするのに十分な第1の期間にわたって、前記第1試料混合物をインキュベートするステップ;
(b) 前記ヘモグロビン変異型に対して特異的な蛍光抗体を含有する中和試薬を前記第1試料混合物に添加することにより、第2試料混合物を形成し;前記抗体が前記細胞膜内部の前記ヘモグロビン変異型に結合するのを可能にするのに十分な第2の期間にわたって、前記第2試料混合物をインキュベートし;そして、前記透過試薬と前記赤血球との更なる反応を阻害するステップ;
(c) 前記第2試料混合物中の前記赤血球の、所定の波長における側方散乱シグナル及び蛍光シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定するステップ;
(d) ステップ(c)で得られた蛍光シグナル及び前記側方散乱シグナルを使用して、前記赤血球の細胞ヘモグロビン変異型(Hgbvariant)及び細胞ヘモグロビン(Hgbcell)を得るステップ;及び
(e) ステップ(d)で得られた前記Hgbvariant及びHgbcellを使用して、前記ヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを得るステップ、
を含む、血液試料のヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを測定する方法。
【請求項9】
さらに、前記フローサイトメーター上での測定を実施する前に、前記第2試料混合物中に固定試薬を添加することにより、前記赤血球を固定することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヘモグロビン変異型が、糖化ヘモグロビン、胎児性ヘモグロビン、又はヘモグロビンの異常型を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ヘモグロビン変異型が糖化ヘモグロビン(HbA1c)である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光抗体が抗HbA1c抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記抗HbA1c抗体が、モノクローナル抗HbA1c−Alexa Fluor 647抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
血液試料中の網状赤血球の細胞ヘモグロビン変異型の測定方法であって、
(a) 前記血液試料のアリコートと核酸色素試薬と混合することにより染色済試料を形成し、そして、前記色素が細胞内RNAに結合するのを可能にするのに十分な第1の期間にわたって、前記染色済試料をインキュベートするステップ;
(b) 前記染色済試料のアリコートと透過試薬とを混合することにより、第1試料混合物を形成し;そして前記透過試薬が成熟赤血球及び網状赤血球の細胞膜を透過し、そして前記成熟赤血球及び前記網状赤血球内部でヘモグロビン凝集を引き起こすのを可能にするのに十分な第2の期間にわたって、前記第1試料混合物をインキュベートするステップ;
(c) 前記ヘモグロビン変異型に対して特異的な蛍光抗体を含有する中和試薬を前記第1試料混合物に添加することにより、第2試料混合物を形成し;前記抗体が前記細胞膜内部の前記ヘモグロビン変異型に結合するのを可能にするのに十分な第3の期間にわたって、前記第2試料混合物をインキュベートし;そして、前記透過試薬と前記成熟赤血球及び前記網状赤血球との更なる反応を阻害するステップ;
(d) 前記第2試料混合物中の前記成熟赤血球及び前記網状赤血球の、2つの所定の波長における蛍光シグナルを、フローサイトメーター上でセル・バイ・セル測定するステップ;及び
(e) ステップ(d)で得られた前記蛍光シグナルを用いて、前記成熟赤血球から前記網状赤血球を区別し、そして前記網状赤血球の前記細胞ヘモグロビン変異型(Hgbvariant-retic)を得るステップ、
を含む、血液試料中の網状赤血球の細胞ヘモグロビン変異型の測定方法。
【請求項15】
さらに、前記フローサイトメーター上での測定を実施する前に、前記第2試料混合物中に固定試薬を添加することにより、前記網状赤血球を固定することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記核酸色素試薬がアクリジン・オレンジを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ヘモグロビン変異型が、糖化ヘモグロビン、胎児性ヘモグロビン、又はヘモグロビンの異常型を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記ヘモグロビン変異型が糖化ヘモグロビン(HbA1c)である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記蛍光抗体がモノクローナル抗HbA1c抗体である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記セル・バイ・セル測定がさらに、前記第2試料混合物中の前記成熟赤血球及び前記網状赤血球の側方散乱シグナルの測定を含み;そして該方法はさらに、前記側方散乱シグナルを使用して、前記網状赤血球の細胞ヘモグロビン(Hgbretic)を得;そして前記Hgbvariant-retic及び前記Hgbreticを使用して、前記網状赤血球の前記ヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを得ることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記セル・バイ・セル測定がさらに、ステップ(d)で得られた前記所定の波長のうちの1つにおける前記蛍光シグナルを使用して、前記成熟赤血球の前記細胞ヘモグロビン変異型を得ることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記セル・バイ・セル測定がさらに、前記側方散乱シグナルを使用して、前記成熟赤血球の細胞ヘモグロビンを得;そして、前記成熟赤血球の前記細胞ヘモグロビン変異型及び前記細胞ヘモグロビンを使用して、前記成熟赤血球の前記ヘモグロビン変異型の細胞パーセンテージを得ることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
(a) 記分子構造:
1−CO−N(CH3)CH2COOX1
(上記式中、R1は炭素原子数8〜18のアルキル又はアルキレン基であり、そしてX1はH、Na+、又はK+である)
によって表される有効量のN−アシルサルコシン又はその塩を含む水性透過試薬であって;
4〜6のpHと、9.0mS/cm未満の導電率によって定義される低いイオン強度とを有し;血液細胞の細胞膜を透過し、そして前記血液細胞の側方散乱シグナルを実質的に増大させるための試薬;並びに
(b) 緩衝剤、及び、前記透過試薬と前記血液細胞との反応を阻害するための重量オスモル濃度調節剤を含む、中和試薬、
を含むフローサイトメトリー試薬系。
【請求項24】
さらに固定試薬を含む、請求項23に記載の試薬系。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2010−500570(P2010−500570A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523878(P2009−523878)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/073870
【国際公開番号】WO2008/021653
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(509037400)ベックマン コールター,インコーポレイティド (1)
【Fターム(参考)】