細胞中への免疫原性分子のデリバリーに適したCyaAポリペプチド突然変異体及びポリペプチド誘導体
本発明は、1つ以上の着目の分子を細胞中、特にCD11b受容体を発現する細胞中にデリバリーするためのタンパク質ベクターとしての使用に適した突然変異体CyaA/E570Q+K860ポリペプチドに関する。本発明はさらに、宿主において免疫応答を誘発するのに適したポリペプチド誘導体に関する。本発明はより特別には、毒素又はトキソイドの形態のいずれかであるアデニレートシクラーゼタンパク質(CyaA)に由来するポリペプチドであって、突然変異体である該ポリペプチドを対象とする。上記突然変異体ポリペプチドは、天然のCyaAの標的細胞に対する結合活性を保持することができ、好ましくは、天然のCyaAの標的細胞中へのN-末端ドメインを介する移行活性も保持し、さらに、天然のCyaA毒素のそれに比較して減少した又は抑制された膜孔形成活性を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ以上の分子の細胞中へのデリバリーにおける使用に適したポリペプチドに関する。
【発明の概要】
【0002】
具体的には、本発明は、特に(本明細書中で「CD11b発現細胞」とも呼ばれる)CD11b/CD18受容体を発現する細胞を標的とすることによる、免疫応答を誘発することのできる1つ以上の分子の宿主中へのデリバリーにおける使用に適したポリペプチドに関する。
【0003】
より具体的には、本発明は、アデニレートシクラーゼタンパク質(CyaA)に由来するポリペプチドを対象とし、後者はポリペプチド突然変異体である毒素の形態又は無毒化タンパク質若しくはトキソイドの形態のいずれかで使用される。該ポリペプチド突然変異体は、天然のCyaAの標的細胞への結合活性を保持することができ、かつ、好ましくはそのN-末端ドメインを介する標的細胞中への移行活性をも保持することができ、さらには、天然のCyaA毒素のそれに比べて減少した又は抑制された膜孔形成活性を有する。
【0004】
本発明は、具体的には、タンパク質ベクターとしての該ポリペプチドの使用に関する。したがって、ポリペプチド突然変異体はさらに、非CyaA分子と組み合わせられ、それによって、ポリペプチド誘導体を生じさせ、ここで、上記分子は宿主に投与されたときに予防的ワクチンとしての及び/又は治療上の利益を有する。
【0005】
本発明によるポリペプチドは、分子、特に1つ以上のエピトープを含むアミノ酸配列を有するポリペプチド分子、特に抗原、の細胞中、特にCD11b発現細胞中へのデリバリーのためのタンパク質ベクターとしての使用に適している。
【0006】
したがって、本発明は、1つ以上の分子、特に免疫応答を誘発するのに適した1つ以上の分子、に再結合されて組み換えポリペプチド又は融合ポリペプチドを構成する本発明のポリペプチド突然変異体を含むか又はそれから成るポリペプチド誘導体(本発明のポリペプチド突然変異体の誘導体)にも関する。本発明はまた、上記分子を上記ポリペプチド突然変異体に化学的に移植することによって得られるポリペプチド誘導体にも関する。
【0007】
ある実施態様によれば、本発明のポリペプチド誘導体は、予防的治療、並びに特にワクチン接種及び免疫療法、具体的には対象において免疫応答を誘発するための免疫療法を含む治療方法における使用に適している。
【0008】
本発明に関連して本発明のポリペプチドの設計のために使用される天然のCyaAは、主にボルデテラ微生物、特に、ボルデテラ・ペルツッシス(Bordetella Pertussis)中で産生されるアデニレートシクラーゼであり、かつ、本発明に関連して上記タンパク質を特徴付ける目的で開示される以下の特徴及び性質を有するものである。
【0009】
二機能性の(アデニレートシクラーゼ毒素(CyaA、ACT又はAC-Hly)ともここで呼ばれる)RTXアデニレートシクラーゼ毒素−ヘモライシンは、百日咳の病原体であるボルデテラ・ペルツッシスの主要毒性因子である(1)。1706残基長のそのポリペプチドは、アデニレートシクラーゼ(AC)酵素のN-末端ドメイン又は部分(約400残基)のC-末端部分又はドメインを構成する約1306残基の膜孔形成性RTXヘモライシン(毒素細胞溶解素中の繰り返し(Repeat in ToXin cytolysin))への融合物である(2)。後者は、Lys860及びLys983のε−アミノ基の翻訳後パルミトイル化によるプロCyaAのCyaAへの活性化部位並びにそれを有することがCyaAの細胞毒性活性に必要とされる約40のカルシウム結合部位を形成する多数のRTX反復を有する(3、4)。CyaAタンパク質は、2つの内部リジン残基(860位及び983位のリジン)の翻訳後パルミトイル化によって活性毒素に変換される、不活性なプロ毒素として合成される。この翻訳後修飾は、アクセサリー遺伝子(すなわち、ボルデテラ・ペルツッシス染色体上のcyaA遺伝子近くに位置するcyaC)がcyaAと一緒に発現することを必要とする。
【0010】
該毒素は主に、CD11b /CD18、CR3又はMac-1としても知られる、αMβ2インテグリン受容体を発現する宿主の骨髄性食細胞を標的とする(5)。上記毒素は特に、そのC末端部に存在する受容体結合部位を介して、CD11b/CD18受容体を発現する細胞のCD11b/CD18受容体に結合する。したがって、これらの細胞は、天然の毒素の標的細胞であり、本発明のポリペプチドの標的細胞でもある。CyaAは、細胞の細胞膜中に進入し、上記標的細胞の細胞質中にAC酵素ドメインを移行させる(6、7)。細胞内部では、ACはカルモジュリンにより活性化されて、食細胞の殺菌機能の不全を引き起こす主要なセカンドメッセンジャーであるcAMPへの細胞のATPの制御されない変換を触媒する(1)。高用量(>100ng/ml)においては、CyaAにより触媒されるATPのcAMPへの消散は、細胞毒性となり、そしてアポトーシス又は急速なネクローシスによる死さえ促進し、かつ、CD11b+単球の溶解を促進する(8、9)。
【0011】
最近、発明者らは、CyaAがそのCD11b/CD18受容体のN-連結オリゴサッカライドに結合することを示した(10)。これは、偏在性の細胞表面タンパク質又は糖脂質のグリカンとの低特異性の相互作用が、その大きさが約2桁低下するが、CD11b/CD18を欠く細胞も貫通する検出容易なCyaAの能力を説明しうることを示唆している。実際に、ACドメインの極めて高特異性の触媒活性により、CyaAが、哺乳動物及び鳥類の赤血球、リンパ球、リンパ腫、神経膠腫、CHO、又は気管上皮細胞においても、実質的にcAMPを上昇させることが発見された(1、11)。
【0012】
従来技術において、アデニレートシクラーゼ活性が低下し、特に実質的に抑制された、トキソイドとも呼ばれる無毒化された毒素を提供することがすでに提案されている。かかるCyaA/AC-トキソイドは、本発明のポリペプチドの調製を達成するために使用されうる。
【0013】
cAMPの上昇のほかに、該毒素は哺乳動物及び鳥類の赤血球に対する弱い溶血活性も示す。これは、細胞膜を透過性とし、最終的にはコロイド浸透圧による細胞溶解を引き起こす、推定直径が0.6〜0.8nmの小さなカチオン選択性の孔を形成する能力による(12)。最近、発明者らは、CyaAの膜孔形成活性がその細胞浸潤性のAC酵素活性と相乗的に作用し、そして、CD11b+細胞に対するCyaAの細胞溶解能力全体に寄与することを示した(13、14)。無傷の膜孔形成(溶血)能力により、血清などの浸透圧保護剤の非存在下では、酵素活性のないCyaA/AC-トキソイド(15)は赤血球に対するなお完全な溶血活性及び、残存する10分の1に低下したCD11b発現性単球に対する細胞溶解活性を示し(8)、これは治療におけるその使用を制限する。
【0014】
CyaAの溶血(膜孔形成)及びAC膜移行(細胞浸入)活性は、低カルシウム濃度、低温(16)そしてCyaAのアシル化の程度及び性質(4、12、17)によって解離性であることが早期に発見された。さらに、この2つの作用は、電荷反転又は疎水性ドメイン内の509、516、570及び581位のグルタミン酸の中性置換に対する感受性が実質的に異なる(8、13、18)。したがって、CyaAの細胞浸入及び膜孔形成作用は相互に独立しそして標的細胞膜中で平行して作用すると提案された。図5Aに図示されたモデルは、2つの異なるCyaA配座異性体が平行して標的細胞膜に進入し、一つは移行前駆体であって、同時の細胞中へのカルシウムイオンの流入を伴う、細胞膜を横切るACドメインのデリバリーを説明し、他方は最終的に膜孔オリゴマーを形成する膜孔前駆体である(13、18、19)。
【0015】
発明者らは、ここにこのモデルを試験しそして改善し、膜孔形成作用が標的細胞を横切るACドメインの移行に関与しないことを示した。
【0016】
本発明においては、発明者らは、毒素又はトキソイド様式のいずれかのボルデテラ・ペルツッシスのアデニレートシクラーゼに特に基づいて、膜孔形成ドメイン(E570Q)及びアシル化含有ドメイン(K860R)内に置換の組み合わせを有するCyaA突然変異体ポリペプチドを最初に設計し、そしてこの特異的な置換の組み合わせがCyaAの細胞透過性付与作用を選択的に廃止し、そしてCD11b+細胞に対するCyaA/AC-トキソイドの残存細胞溶解活性を消滅させることを示した。同時に、E570Q+K860R構築物は、ACドメインを細胞の細胞質中に移行させて細胞内cAMPを増加させる能力を完全に保持し、そしてそのトキソイドは、該構築物内に挿入された分子を含むエピトープを、MHCクラスI拘束性の提示及びインビボにおける特異的な細胞障害性T細胞応答の誘導のために、樹状細胞の細胞質経路にデリバリーすることが完全に可能であった。
【0017】
発明者らにより設計され、そして実施例に記載されたようにOVA抗原性ペプチドがその中に挿入されたCyaA/233OVA/E570Q+K860R突然変異体は、細胞透過性付与能が大きく低下した一方、細胞膜を横切ってACドメインを移行させることが完全に可能なままであるというCyaA突然変異体の能力の実例となる最初の構築物である。
【0018】
発明者らはここに、CyaA/E570Q+K860R/AC-トキソイドとして特に例示され、その大きく低下した細胞透過性付与(細胞溶解)作用にもかかわらず、CD11b+APC中への抗原デリバリーにおいては完全に活性のままであることを示した特別な構築物を設計した。発明者らはさらに、例示的なCyaA/E570Q+K860R/AC-トキソイドの細胞溶解活性が全般的に非常に低いことを示した。したがって、それは動物又はヒト宿主における残留毒性がなく、そしてしたがって、治療における使用に非常に適している。
【0019】
したがって、本発明は、着目の分子、特に免疫原性ペプチド配列を有する分子、の治療を必要とする患者の細胞、より特別にはCD11b発現細胞、へのデリバリーのための新しいポリペプチドであって、トキソイドでありかつ安全性プロフィールの向上したタンパク質ベクターとして使用可能な上記ポリペプチドを提供する。
【0020】
発明者らにより実施された実験に基づいて、アデニレートシクラーゼタンパク質の突然変異体(突然変異体ポリペプチド)であり、そのアミノ酸配列が以下の配列の一つを含むか又はそれから成るポリペプチドを定義し、そして提供することが可能となった:
a)以下の突然変異が実施された、ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス(Bordetella parapertussis)又はボルデテラ・ヒンジイ(Bordetella hinzii)のアデニレートシクラーゼ(CyaA)のアミノ酸配列:
(i)グルタミン残基(E570Q)又は保存的アミノ酸残基による、570位のグルタミン酸残基の置換、及び
(ii)アルギニン残基(K860R)又は保存的アミノ酸残基による、860位のリジン残基の置換、或いは、
(b)ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス又はボルデテラ・ヒンジイのアデニレートシクラーゼ(CyaA)の断片のアミノ酸配列であって、該断片がボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記断片はさらに、上記アデニレートシクラーゼの570位及び860位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E570Q及びK860Rを含む、或いは、
(c)1つ以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入により、上記a)又はb)に定義されたアミノ酸配列と異なる、アミノ酸配列であって、ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記アミノ酸配列はさらに、上記アデニレートシクラーゼの570位及び860位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E570Q及びK860Rを含む、或いは、
(d)ボルデテラ・ブロンキセプティカ(Bordetella bronchiseptica)のアデニレートシクラーゼ(CyaA)のアミノ酸配列であって、以下の突然変異が実施されたもの:
(i)グルタミン残基(E569Q)又は保存的アミノ酸残基による、569位のグルタミン酸残基の置換、及び
(ii)アルギニン残基(K859R)又は保存的アミノ酸残基による、859位のリジン残基の置換、或いは、
(e)ボルデテラ・ブロンキセプティカのアデニレートシクラーゼ(CyaA)の断片のアミノ酸配列であって、該断片がボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記断片はさらに、上記アデニレートシクラーゼの569位及び859位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E569Q及びK859Rを含む、或いは、
(f)1つ以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入により、上記d)又はe)に定義されたアミノ酸配列と異なる、アミノ酸配列であって、ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記アミノ酸配列はさらに、上記アデニレートシクラーゼの569位及び859位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E569Q及びK859Rを含む。
【0021】
本発明の目的のためには、記載された断片のN-末端ドメインは、天然のCyaAタンパク質のN-末端部分の隣接アミノ酸残基を含む断片のアミノ酸配列であり、例えば、該断片のN-末端部分は、ボルデテラ・ペルツッシスCyaAタンパク質のN-末端ドメインの400アミノ酸残基の配列を形成する隣接残基の全て又は一部である。
【0022】
本明細書において、「E570Q」は、ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス又はボルデテラ・ヒンジイの天然のCyaAの570位におけるグルタミン酸残基の、グルタミン残基又は他の保存的残基、特に、その側鎖のサイズ及び親水性がグルタミン酸に近い残基、による置換を包含する。570位のグルタミン酸残基は、Gln、Asn、Met、Thr、Ser、Gly、Arg、Lys、Val、Leu、Cys、Ile、Aspから選ばれるアミノ酸残基により置換されることが好ましい。
【0023】
本明細書において、「K860R」は、ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス又はボルデテラ・ヒンジイの天然のCyaAの860位におけるリジン残基の、アルギニン残基又は他の保存的残基、特に、その側鎖のサイズ及び親水性がリジンに近い残基、による置換を包含する。860位のリジン残基は、Arg、Asn、Gln、Met、Thr、Ser、Gly、Val、Leu、Cys、Ileから選ばれるアミノ酸残基により置換されることが好ましい。
【0024】
本明細書において、「E569Q」は、ボルデテラ・ブロンキセプティカの天然のCyaAの569位におけるグルタミン酸残基の、グルタミン残基又は他の保存的残基、特に、その側鎖のサイズ及び親水性がグルタミン酸に近い残基、による置換を包含する。569位のグルタミン酸残基は、Gln、Asn、Met、Thr、Ser、Gly、Arg、Lys、Val、Leu、Cys、Ile、Aspから選ばれるアミノ酸により置換されることが好ましい。
【0025】
本明細書において、「K859R」は、ボルデテラ・ブロンキセプティカの天然のCyaAの859位におけるリジン残基の、アルギニン残基又は他の保存的残基、特に、その側鎖のサイズ及び親水性がリジンに近い残基、による置換を包含する。859位のリジンは、Arg、Asn、Gln、Met、Thr、Ser、Gly、Val、Leu、Cys、Ileから選ばれるアミノ酸残基により置換されることが好ましい。
【0026】
以下に記載の実施態様においては、「E570Q」及び「K860R」置換を含むボルデテラ・ペルツッシス突然変異体CyaAタンパク質又はタンパク質断片は、対応する「E570Q」及び「K860R」置換を含むボルデテラ・パラペルツッシス又はボルデテラ・ヒンジイ突然変異体CyaAタンパク質又はタンパク質断片、或いは対応する「E569Q」及び「K859R」置換を含むボルデテラ・ブロンキセプティカ突然変異体CyaAタンパク質又はタンパク質断片により交換されてよい。
【0027】
ボルデテラ・ペルツッシスの天然のCyaAも、アミノ酸配列及びヌクレオチド配列として、Glaser, P. et al, 1988, Molecular Microbiology 2(1), 19-30に記載されている。この配列は、図6に示されるとおり、配列番号1と呼ばれる。したがって、B.ペルツッシスのCyaAタンパク質のアミノ酸残基又は配列或いはヌクレオチド又はヌクレオチド配列が本発明中で引用される場合、それらの位置は、Glaser et al. 1988の上記文献に開示された配列に関して示される。
【0028】
本発明の実施態様において、ボルデテラ・ペルツッシスアデニレートシクラーゼのアミノ酸配列は、配列番号1として開示される配列である。
【0029】
本明細書中で配列番号1又は配列番号2について言及される場合、それは、技術的に関連がないものでない限り、開示された特徴がCyaAタンパク質を無毒化するために、配列番号1又は配列番号2中に残基を挿入することによって修飾された配列にも同様に適用されることは特に指摘される。かかる場合には、アミノ酸残基の番号付けは適合されなければならない(特に、天然の配列の570及び860位に関する限りにおいて)。
【0030】
有利には、CyaAタンパク質又はその断片は、細胞、特に組換え細胞中でのcyaA及びcyaC遺伝子の両方の同時発現の結果としてのタンパク質又はその断片である。実際、標的細胞についての侵入特性を有するためには、CyaAは、cyaA及びcyaC遺伝子の両方の発現により可能となる翻訳後修飾を受けなければならないことが示された(WO93/21324)。
【0031】
本発明の特別な実施態様においては、CyaAタンパク質は細菌タンパク質である。好ましい実施態様においては、CyaAタンパク質はボルデテラ種に由来する。
【0032】
本発明によれば、着目のボルデテラ種の中の一つはボルデテラ・ペルツッシスである。他の着目のボルデテラ菌株は、ボルデテラ・パラペルツッシス、ボルデテラ・ヒンジイ又はボルデテラ・ブロンキセプティカである。ボルデテラ・パラペルツッシスのCyaAタンパク質の配列が、特に(1740アミノ酸の配列として)寄託番号NC002928.3のもとに、そしてParkhill J. et al(Nat. Genet. DOI, 10(2003))中に、ボルデテラ・ヒンジイについてはDonato G.M. et al.(J. Bacteriol. 2005 Nov, 187(22):7579-88)中に、ボルデテラ・ブロンキセプティカについてはBetsou F. et al.,(Gene 1995, August 30; 162(1): 165-6)中に開示されている。ボルデテラ・パラペルツッシスの配列は、特に、寄託番号CAB76450のもとに開示され、図14に示されるように、本明細書中では配列番号7と呼ばれる。ボルデテラ・ヒンジイの配列は、特に、寄託番号AAY57201のもとに開示され、図15に示されるように、本明細書中では配列番号8と呼ばれる。ボルデテラ・ブロンキセプティカの配列は、特に、寄託番号CAA85481のもとに開示され、図16に示されるように、本明細書中では配列番号9と呼ばれる。したがって、ボルデテラ・パラペルツッシス、ボルデテラ・ヒンジイ、又はボルデテラ・ブロンキセプティカのCyaAタンパク質のアミノ酸残基又は配列は、本発明において引用される場合、それらの位置は、配列番号7、8及び9にそれぞれ開示される配列に関して示される。
【0033】
「アデニレートシクラーゼタンパク質のポリペプチド突然変異体」という表現は、ボルデテラにより発現される天然のアデニレートシクラーゼを除外する。上記のように、それは、2つの特異的アミノ酸残基の置換の組み合わせにおける、天然のタンパク質との一次的相違を特徴とする。それは、上記天然のタンパク質に関してさらに修飾されてよく、そして、特にそうして突然変異したタンパク質の断片、例えば、どちらかまたは両方の末端の残基が欠失されている、上記突然変異体タンパク質の欠失変異体、であってもよい。特に、C-末端の残基は、それがCD11b/CD18細胞受容体に関する認識および結合部位に影響しない範囲で、欠失されてもよい。或いは、又はさらに、残基は、それが得られた突然変異体ポリペプチドの移行能力に影響しないならば、N-末端において欠失されてもよい。それは、天然の突然変異体CyaAタンパク質の1つ以上の残基の内部欠失後に得られた断片であってもよい。
【0034】
本発明が本明細書に記述された断片である突然変異体ポリペプチドに関する場合、(ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質について言及される場合)突然変異した残基E570Q及びK860Rを必ず含む該断片は、突然変異した完全長CyaAが細胞に結合し、そしてそのN-末端ドメインが標的細胞、特にCD11b/CD18発現細胞の細胞質中へ移行する能力も保持している。
【0035】
したがって、本発明は、1つ以上の分子を細胞、特にCD11b/CD18受容体を発現する標的細胞中へデリバリーするための手段の設計において使用するのに適している。
【0036】
特に、本発明は、CyaAタンパク質の突然変異体ポリペプチドを提供し、該たんぱく質は、CyaA毒素に由来するか、又は好ましくはそのトキソイド、特にCyaA/AC-トキソイドに由来する。突然変異体ポリペプチドは、細胞、特に標的細胞、特にCD11b/CD18受容体を発現する標的細胞に結合することができ、それらのN-末端ドメイン又は該ドメインに挿入若しくは移植された分子を該細胞中に移行させ、そしてそれらの膜孔形成活性が、CyaA毒素又はトキソイドのものに比較して完全に又は部分的に抑制される。
【0037】
突然変異体ポリペプチドがCD11b/CD18細胞を標的とする能力は、特に、EP03291486.3及びEl-Azami-El-Idrissi M,. et al, J. Biol. Chem., 278(40)38514-21又はPCT国際特許出願公開第WO02/22169号中に開示された方法にしたがってアッセイされることができる。さらに、突然変異体ポリペプチドがエピトープまたは該エピトープを含むポリペプチドを標的細胞の細胞質中に移行させる能力は、PCT国際特許出願公開第WO02/22169号に記載された方法を適用することによってアッセイされることができる。
【0038】
CyaA毒素又はトキソイドの膜孔形成活性又は細胞膜透過性付与能の完全又は部分的な抑制は、膜孔形成能力、特に、細胞膜を透過性とし、そしてひいてはコロイド浸透圧による細胞溶解を引き起こす、推定される直径が0.6〜0.8nmのカチオン選択性の孔を形成する能力を完全又は部分的に抑制すると考えられる。膜孔形成活性は、実施例に記載の単一全細胞パッチクランプ実験を用いて測定可能である。
【0039】
CyaA毒素の膜孔形成活性は、細胞に対するその細胞溶解又は溶血活性全体に寄与する。実際、本発明に関連して、CyaAの細胞溶解又は溶血活性(又はその「総細胞毒性活性」)は、少なくともCyaA毒素のアデニレートシクラーゼ活性及び膜孔形成活性の結果であると考えられる。したがって、CyaA毒素の膜孔形成活性の完全又は部分的な抑制は、その細胞溶解活性の少なくとも部分的な抑制を可能とする。
【0040】
好ましい実施態様においては、本発明のポリペプチドの総細胞溶解活性、特に、CD11b/CD18受容体を発現する細胞に対する活性、は、ボルデテラ・ペルツッシスCyaA毒素のそれに比較して完全に又は部分的に低下している。本発明のポリペプチドの細胞溶解活性は、実施例に記載の被検ポリペプチドとともにインキュベートしたときに細胞により放出された(赤血球については)ヘモグロビン或いは(単球については)ラクテートデヒドロゲナーゼの量を測定することによって決定されることができる。
【0041】
好ましい実施態様においては、CD11b/CD18受容体を発現する細胞に対する本発明のポリペプチドの総細胞溶解活性は、ボルデテラ・ペルツッシスCyaA毒素のそれよりも又はそのアデニレートシクラーゼ活性が部分的又は完全に抑制されたボルデテラ・ペルツッシスCyaAタンパク質(又は「CyaAトキソイド」)のそれよりも少なくとも75%、さらに好ましくは少なくとも80%、85%、90%又は95%低い。特に好ましい実施態様においては、CD11b/CD18受容体を発現する細胞に対する本発明のポリペプチドの総細胞溶解活性は、そのアミノ酸配列が図2に示される(配列番号2)ボルデテラ・ペルツッシスCyaAトキソイドのそれよりも少なくとも75%、さらに好ましくは80%又は85%低い。
【0042】
好ましい実施態様においては、本発明は、アデニレートシクラーゼの突然変異体であって、そのアミノ酸配列が、以下の:(i)配列番号1に開示されるアミノ酸配列に関して突然変異されており、該突然変異がE570Q及びK860Rの置換を少なくとも含むアミノ酸配列、又は(ii)E570Q及びK860Rの置換を含み、標的細胞に結合可能であり、かつそのN-末端ドメインを細胞中に移行可能である限りにおける、配列番号1に開示された上記アミノ酸配列を有するCyaAタンパク質の断片、であるアミノ酸配列を含むか又はそれから成るポリペプチドに関する。
【0043】
本発明の特別な実施態様においては、配列番号1の570位のグルタミン酸残基のグルタミン残基による置換(「E570Q」と呼ばれる)、及び配列番号1の860位のリジン残基のアルギニン残基による置換(「K860R」と呼ばれる)を含む断片は、最初のN-末端残基又は1〜400位、好ましくは1〜380位の間に含まれるアミノ酸残基のうちの一つから始まり、CD11b/CD18細胞受容体のための認識及び結合部位を形成する残基まで伸長するCyaAタンパク質のアミノ酸配列を少なくとも包含し、かつ突然変異したE570Q及びK860R残基に対応する残基を含むか又は該アミノ酸配列から成る。特別な実施態様においては、E570Q及びK860R置換を含む断片は、配列番号1の1位のアミノ酸から配列番号1の372位のアミノ酸まで及ぶアミノ酸配列を含まない。
【0044】
好ましい実施態様においては、こうして調製された断片は、実質的にアデニレートシクラーゼ酵素活性(AC活性)を失っている。
【0045】
好ましい実施態様においては、本発明の突然変異体ポリペプチドは、E570Q及びK860Rの突然変異したCyaAアミノ酸配列をコードする突然変異体遺伝子とcyaC遺伝子の組み換え細胞中での同時発現、それに続く突然変異体CyaAの選択された発現断片の回収により生成される。
【0046】
好ましくは、本発明の突然変異体ポリペプチドは、配列番号1に示されるCyaAアミノ酸配列の983位のリジン残基に対応するリジン残基を有し、アシル化、特別にはパルミトイル化又はパルミトレイル化されている。
【0047】
或いは、本発明の突然変異体ポリペプチドは、配列番号1に示されるアシル化されていないCyaAアミノ酸配列の983位のリジン残基に対応するリジン残基を有する。
【0048】
特異的な実施態様においては、本発明の突然変異体ポリペプチドは、E570Q及びK860Rをもたらす残基の突然変異により配列番号1に開示されたCyaAアミノ酸配列から導かれたアミノ酸配列を有し、かつ、配列番号1に示される配列と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する。
【0049】
他の特異的な実施態様においては、本発明の突然変異体ポリペプチドは、配列番号1に開示されたCyaAアミノ酸配列とは、E570Q及びK860Rをもたらす残基の突然変異により、さらにE570Q及びK860R置換を含む、1〜500、特別には、1〜400、1〜300、1〜200、1〜100、1〜50、1〜40、1〜30、1〜25、1〜20、1〜15、1〜10、又は1〜5個のアミノ酸残基の置換、欠失、及び/又は挿入をもたらす突然変異により異なる。
【0050】
特異的な実施態様においては、本発明の突然変異体ポリペプチドは、ボルデテラ・ペルツッシスCyaAアミノ酸配列に比較して、E570Q及びK860R置換以外のいかなるアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入も有さない。特異的な実施態様においては、突然変異体ポリペプチドは、図7に示される配列番号2のアミノ酸配列を有する。他の特異的な実施態様においては、配列番号2のアミノ酸配列に比較した唯一のさらなるアミノ酸置換、欠失、及び/又は挿入は、特に188及び189位のアミノ酸の間への「LQ」又は「GS」ジペプチドなどのジペプチドの挿入などの、CyaAタンパク質のアデニレートシクラーゼ酵素活性を完全又は部分的に抑制する、アミノ酸置換、欠失及び/又は挿入から成る。
【0051】
特別な実施態様においては、本発明の突然変異体ポリペプチドは、E570Q及びK860R置換に加えて、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入により配列番号1に示されるCyaAアミノ酸配列と相違する。
【0052】
特別な実施態様においては、E570Q及びK860R置換に加えて、ボルデテラ・ペルツッシスの天然のCyaAタンパク質の247位のロイシン残基がグルタミン残基で置換されるか(L247Q)又は他のアミノ酸残基、特に保存的アミノ酸残基で置換される。
【0053】
配列番号1に開示されるアミノ酸配列の本明細書中に開示される断片である、本発明の突然変異体ポリペプチドは、残基E570Q及びK860Rを包含する、配列番号1のうちの少なくとも約350アミノ酸残基かつ約1705アミノ酸残基以下を有する1つ以上の断片、特に、配列番号1の少なくとも400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600アミノ酸残基を含む断片を含む配列であると理解される。本発明の突然変異体ポリペプチドはまた、残基570及び860を包含する、配列番号2のうちの少なくとも約350アミノ酸残基であって約1705アミノ酸残基以下の1つ以上の断片、特に、配列番号2の少なくとも400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600アミノ酸残基を含む断片を含む配列番号2に開示されたアミノ酸配列の断片であるとも定義されることができる。好ましくは、上記断片はCD11b/CD18細胞受容体に結合する能力及びそれらのN-末端ドメインを標的細胞中に移行させる能力を保持する。好ましくは、本発明の突然変異体ポリペプチドは、E570Qとしてのアミノ酸残基570からK860Rとしてのアミノ酸残基860まで、又は元の配列番号1に対してE570Q及びK860R突然変異が観察される限りにおいて、配列番号1の1〜860、又は2〜860を含む一続きのアミノ酸を有する断片である。
【0054】
好ましい実施態様においては、断片はさらに、CD11b/CD18標的細胞との相互作用のために、CyaAタンパク質の配列番号1に示されるCyaAアミノ酸配列のアミノ酸残基1166〜1281、又はアミノ酸残基1208〜1243を含む。
【0055】
特別な断片は、したがって、本発明のポリペプチドの標的細胞膜及び/又はCD11b/CD18受容体への結合、及び細胞の細胞質中への該ポリペプチドのN-末端ドメインのその後のデリバリーに関与する、天然のタンパク質のC-末端部分の全て又は一部を包含する。本発明の特別なポリペプチドは、残基570及び860がE570Q及びK860Rとして突然変異されている限りにおいて、CyaAタンパク質の、特に配列番号1のアミノ酸残基373〜1706を含むCyaAタンパク質の断片である。
【0056】
他の好ましい実施態様においては、かかる断片である突然変異体ポリペプチドは以下の:
a)アミノ酸残基570をE570Qとして含み、さらに配列番号1に比較して0、1、2、3、4、又は5個の欠失、置換又は挿入を含む、配列番号1からの少なくとも100の長さの連続したアミノ酸残基に対応する、第1のアミノ酸配列、及び
b)アミノ酸残基860をK860Rとして含み、さらに配列番号1に比較して0、1、2、3、4、又は5個の欠失、置換又は挿入を含む、配列番号1からの少なくとも100の長さの連続したアミノ酸残基に対応する、第2のアミノ酸配列、及び好ましくは、
c)CD11b/CD18標的細胞との相互作用のための、CyaAタンパク質の配列番号1に示されるCyaAアミノ酸配列のアミノ酸残基1166〜1281又はアミノ酸残基1208〜1243を含む、第3のアミノ酸配列、
を含む。
【0057】
本発明の他の特別なポリペプチドは、E570Q及びK860R突然変異を有するCyaAタンパク質であって、アミノ酸残基225〜234が欠失されており、したがって、突然変異体タンパク質の残基1〜224及び235〜1706を含む断片を提供するものに対応する断片である。
【0058】
特別に好ましい実施態様においては、本発明のポリペプチド断片は、CD11b/CD18受容体への特異的結合の結果として該受容体を発現する細胞に結合する。
【0059】
好ましい実施態様においては、細胞中のポリペプチドのアデニレートシクラーゼ活性は、ボルデテラ・ペルツッシスCyaA毒素のそれに比較して部分的に又は完全に抑制される。上記のとおり、「CyaAタンパク質」という表現は、タンパク質の毒素形態又は好ましくはトキソイド形態のいずれかに関連する。したがって、CyaAタンパク質の突然変異体であるポリペプチドに関連する本発明の各実施態様は、該たんぱく質の毒素又はトキソイド形態のそれぞれに当てはまる。
【0060】
CyaAアデニレートシクラーゼ又は酵素活性の完全又は部分的な抑制は、細胞中のcyaA及びcyaC遺伝子の同時発現によって生成されたCyaA毒素のそれに比較して、細胞内環境中でATPをcAMPへ変換する能力の完全又は部分的な抑制として理解される。ATPをcAMPに変換する能力は、細胞内cAMPレベルを実施例に記載のとおりに測定することによって決定されることができる。
【0061】
かかる完全又は部分的な抑制は、例えば、1〜10アミノ酸、特にはジペプチドを含む短いアミノ酸配列の、触媒部位の一部であるCyaAのアミノ酸配列の部位、すなわち、配列番号1の最初の400アミノ酸(ACドメイン)内に位置する部位、への導入による、又は酵素活性のために必須である配列番号1に示されるCyaAアミノ酸配列の一部の欠失又は置換による遺伝子不活性化の結果として得られることが可能である。好ましい実施態様においては、CyaA酵素活性の完全又は部分的な抑制は、配列番号1に示されるCyaA配列の188及び189位のアミノ酸の間への「LQ」又は「GS」ジペプチドなどのジペプチドの挿入によって得られる。これは、「CTG CAG」又は「CGA TCC」などのオリゴヌクレオチドを、cyaA遺伝子のコーディングフェーズ(coding phase)の564位においてEcoRV部位に挿入することによって達成可能である。Ladant et al., 1992を参照のこと。あるいは、酵素活性の完全または部分的な抑制は、天然のCyaAボルデテラ・ペルツッシスタンパク質の58又は65位のリジン残基をGln残基で置換することなどの定方向突然変異誘発(Glaser et al., 1989)によっても得ることができる。
【0062】
本発明のポリペプチドは、配列番号1、7、8又は9のアミノ酸配列を有するCyaAポリペプチドから以下のようにして得られてもよいポリペプチドとして定義されることもできる:
a)配列番号1、7、8の570位又は配列番号9の569位のグルタミン酸残基をグルタミン残基によって又は保存的アミノ酸残基によって置換すること、
b)配列番号1、7、8の860位又は配列番号9の859位のリジン残基をアルギニン残基によって又は保存的アミノ酸残基によって置換すること、及び
c)場合により、得られたポリペプチドが、ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質の標的細胞への結合能力及びそのN-末端アデニレートシクラーゼ酵素ドメイン又はその一部を上記細胞中へ移行させる能力を有するという条件において、a)及びb)に記載された位置以外の位置において1つ以上のアミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失を実施すること。
【0063】
好ましくは、ステップa)において、グルタミン酸残基は、Gln、Asn、Met、Thr、Ser、Gly、Arg、Lys、Val、Leu、Cys、Ile、Aspから選ばれるアミノ酸残基により置換され、最も好ましくは、Glnにより置換される。好ましくは、ステップb)において、リジン残基は、Arg、Asn、Gln、Met、Thr、Ser、Gly、Val、Leu、Cys、Ileから選ばれるアミノ酸残基、最も好ましくは、Argにより置換される。
【0064】
特異的な実施態様においては、ステップc)において更なるアミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失は行われない。
【0065】
特に、ステップc)は一方又は両方の末端の切断を含んでよい。特に、C-末端における残基は、それがCD11b/CD18細胞受容体の認識及び結合部位に影響しない限りにおいて、欠失されてよい。或いは又はさらに、それが得られた突然変異体ポリペプチドの移行能力に影響しないという条件においてN-末端において残基は欠失されてよい。ステップa)及びb)に記載されたもの以外の位置における天然のCyaAタンパク質の1つ以上の残基の内部欠失も実施されてよい。特別な実施態様においては、ステップc)は、CyaAポリペプチドのN-末端アミノ酸配列において380以下、又は400以下のアミノ酸の欠失を含み、好ましくは、配列番号1、7、8又は9の1位のアミノ酸から配列番号1、7、8、又は9の372位の一つながりのアミノ酸に及ぶアミノ酸の欠失を含む。
【0066】
好ましくは、ステップc)を実施した後、得られたポリペプチドは、天然のタンパク質のC-末端部分の全て又は一部を包含し、該部分は本発明のポリペプチドの標的細胞の膜及び/又はCD11b/CD18受容体への結合、そしてその後のポリペプチドのN-末端ドメインの細胞の細胞質中へのデリバリーに関与する。特別な実施態様においては、ステップc)において、配列番号1、7又は8のアミノ酸残基373〜1706、又は配列番号9のアミノ酸残基373〜1705は欠失されない。好ましい実施態様においては、ステップc)において、配列番号1、7又は8のアミノ酸残基1208〜1243、又は配列番号9のアミノ酸残基1207〜1242は欠失されない。
【0067】
好ましい実施態様においては、ステップc)は、CyaAタンパク質のアデニレートシクラーゼ酵素活性を完全又は部分的に抑制するアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含む。かかる完全又は部分的な抑制は、特には配列番号1、7、8又は9の最初の400アミノ酸(ACドメイン)内に位置する部位中に、例えば、1〜10アミノ酸、特別にはジペプチドを含む短いアミノ酸配列を導入することにより、又は配列番号1、7、8又は9に示されるCyaAアミノ酸配列の酵素活性に必須の一部の欠失又は置換により得られることが可能である。好ましい実施態様においては、CyaA酵素活性の完全又は部分的な抑制は、「LQ」又は「GS」ジペプチドなどのジペプチドを、配列番号1、7、8、又は9に示されるCyaA配列の188及び189位のアミノ酸の間に挿入することによって得られる。或いは、酵素活性の完全又は部分的な抑制は、天然のCyaAボルデテラ・ペルツッシスタンパク質の58又は65位のリジン残基をGln残基により置換することによる、定方向突然変異誘発によっても得られることができる(Glaser et al., 1989)。
【0068】
好ましくは、ステップc)においては、配列番号1、7、8に示すCyaAアミノ酸配列の983位又は配列番号9の982位のリジン残基は置換も欠失もされない。1つの実施態様においては、このリジン残基はアシル化され、特別にはそれはパルミトイル化又はパルミトレイル化される。或いは、このリジン残基はアシル化されない。
【0069】
好ましくは、ステップc)を実施した後、得られたポリペプチドは、配列番号1、7、8又は9に示される配列と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する。
【0070】
さらに好ましくは、ステップc)を実施後、得られたポリペプチドは、配列番号1、7、8又は9に示される配列とは、ステップa)及びb)から得られたアミノ酸残基の置換により、及び1〜500、特別には1〜400、1〜300、1〜200、1〜100、1〜50、1〜40、1〜30、1〜25、1〜20、1〜15、1〜10又は1〜5個のさらなるアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入により異なるアミノ酸配列を有する。特別な実施態様においては、ステップc)の実施後、得られたポリペプチドは配列番号1、7、8又は9に示されるCyaAアミノ酸配列とは、ステップa)及びb)において実施された置換に加えて、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入により異なる。
【0071】
本発明は、1つ以上の着目の分子とさらに組み合わされた本発明の突然変異体ポリペプチドを含むか又はそれからなるポリペプチド誘導体にも関する。好ましい実施態様においては、着目の分子は、単独で又は本発明のポリペプチドに組み合わされた生理活性を有する分子である。上記分子は、特に予防的価値又は治療的価値を有することができ、すなわち、予防的又は治療的活性を有するか或いは予防的又は治療的活性を高めることができる。
【0072】
特異的な実施態様においては、着目の分子は、以下の:ペプチド、グリコペプチド、リポペプチド、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、核酸、脂質及び化学物質を含む群から選ばれる。
【0073】
特異的な実施態様においては、1つ以上の着目の分子は、ポリペプチド分子であるか又はポリペプチド分子を含む。それらのアミノ酸配列は、2〜1000、好ましくは5〜800、5〜500、5〜200、5〜100、8〜50、5〜25、5〜20又は8〜16、或いは300〜600、400〜500のアミノ酸残基を含んでよい。
【0074】
好ましい実施態様においては、1つ以上の着目の分子は、(「異種抗原」とも呼ばれる)免疫反応を誘発するのに好適な異種アミノ酸配列、特に、抗原を含むエピトープを含むか又はそれからなるアミノ酸配列である。本明細書において使用されるとおり、「異種」という用語は、ベクター自体において使用される突然変異体ポリペプチドとは別の抗原をさす。本明細書において使用されるとおり、「エピトープ」という用語は、宿主の免疫系に提示されたときに免疫反応を誘発することのできる異種分子、及び特に異種ペプチドをさす。特に、かかるエピトープは、8、9、10、11、12、13、14、15、又は16個の長さのアミノ酸残基を含むか又はそれからなることができる。或いは、それは完全長の抗原又は抗原断片からなる。
【0075】
特異的な実施態様においては、本発明のポリペプチド誘導体は、その中で「OVA」抗原配列をコードするDNA配列が1つ以上のエピトープを含む抗原配列をコードするDNA配列により置換されている、寄託番号CNCM I-4137(図12)のもとに寄託されたOVA-QR-AC-プラスミドに相当するプラスミドによりコードされることができる。
【0076】
免疫応答を誘発するのに好適なポリペプチド分子は、特に、その例としてCTL反応を含む、T細胞免疫応答を誘発するものである。免疫応答を誘発するのに好適なポリペプチド分子は、B細胞免疫応答を誘発するものであることもできる。
【0077】
特異的な実施態様においては、異種抗原は、細菌病原体、腫瘍細胞抗原、ウイルス抗原、レトロウイルス抗原、真菌抗原又は寄生細胞(parasite cell)抗原からなる群から選ばれる。
【0078】
着目の分子は、特に、以下の:クラミジア抗原、マイコプラズマ抗原、肝炎ウイルス抗原、ポリオウイルス抗原、HIVウイルス抗原、インフルエンザウイルス抗原、脈絡髄膜炎ウイルス抗原、腫瘍抗原又は少なくともエピトープを含むこれらの抗原の一部からなる群から選ばれることができる。
【0079】
本発明のポリペプチド誘導体の好ましい実施態様においては、免疫応答を誘発するのに好適な上記各分子のアミノ酸配列は、クラミジア抗原、マイコプラズマ抗原、肝炎ウイルス抗原、ポリオウイルス抗原、HIVウイルス抗原、インフルエンザウイルス抗原、脈絡髄膜炎ウイルス抗原、腫瘍抗原のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるか、或いは、少なくとも1つのエピトープを含むこれらのいずれかの抗原のアミノ酸配列の一部を含むか又はそれからなる。
【0080】
特に好ましい実施態様においては、着目の分子は、腫瘍関連抗原(TAA)である。腫瘍関連抗原は、黒色腫、特に転移性黒色腫;肺がん;頭部及び頸部癌;子宮頸部癌;食道癌;膀胱癌、特に浸潤性膀胱癌;前立腺癌;乳癌;結腸直腸癌;腎細胞癌;肉腫;白血病;骨髄腫などの多くの腫瘍により特徴づけられる。これらのさまざまな病理学的タイプの癌については、抗原ペプチドは、腫瘍サンプル上で特異的に発現され、そしてT細胞、特にCD8+T細胞又はCD4+T細胞により認識されることが示されている。
【0081】
これらのタイプの腫瘍において腫瘍関連抗原として発見されたペプチドについての総説は、Van der Bruggen P. et al(Immunological Reviews, 2002, vol 188: 51-64)により作成された。特に、該総説の表3中に含まれるペプチドの開示は、かかる腫瘍関連抗原の例を提供するものとして本明細書において引用され、該表3は、本出願に参考文献として援用されている。
【0082】
以下の抗原は、Kawakami Y. et al(Cancer Sci, October 2004, vol.95, no. 10, p784-791)の文献によれば、T細胞により認識される腫瘍関連抗原の例として引用され、該文献は、これらの抗原又はさらにMAGE(特に、黒色腫において)、NY-ESO-1、Her2/neu、WT1、Survivin、hTERT、CEA、AFP、SART3、GnT-V、を含むさまざまな癌に共通するもの、以下の:黒色腫のためのβ-カテニン、CDK4、MART-2、MUM3、gp100、MART-1、チロシナーゼ;白血病のためのbcr-abl、TEL-AML1;前立腺癌のためのPSA、PAP、PSM、PSMA;骨髄性白血病のためのプロテイナーゼ3;乳がん、卵巣癌又はすい臓がんのためのMUC-1;リンパ腫のためのEBV-EBNA、HTLV-1 tax、子宮頸部癌のためのATL;腎細胞癌のための突然変異体HLA-A2;白血病/リンパ腫のためのHA1などのいくつかの特別な癌に特異的な抗原をスクリーニングする方法も提供する。動物における腫瘍関連抗原も、ネコ又はイヌを侵す腫瘍におけるサイクリン D1及びサイクリン D2などが記載されている。
【0083】
T細胞により認識される腫瘍関連抗原は、Novellino L. et al(Immunol Immunother 2004, 54: 187-207)にも開示されている。
【0084】
より一般的には、本発明における着目のTAAは、突然変異した抗原又は腫瘍細胞上で過剰発現される抗原、共通抗原、組織特異的分化抗原又はウイルス抗原に相当するものである。
【0085】
本発明の特別な実施態様においては、腫瘍関連抗原は、パピローマウイルス(HPV)の抗原又はチロシナーゼである。
【0086】
本発明の他の特別な実施態様によれば、エピトープを含むか又はそれからなるポリペプチド分子のアミノ酸配列は、たとえば、配列内の陰性に荷電したアミノ酸残基の数を減少させるなどのためにそれらの天然のアミノ酸配列に関して修飾されている。かかる修飾は、これらの陰性荷電したアミノ酸残基のいくつかを除去すること又はいくつかの陽性荷電したアミノ酸残基、特に、エピトープに隣接する残基、を付加することによっても行われることができる。こうしてより少ない陰性荷電残基を含むポリペプチドは、本発明のポリペプチド誘導体の触媒ドメインの標的細胞の細胞質中の移行に好都合であるかもしれない。
【0087】
エピトープ又は抗原を含むか又はそれからなるポリペプチド分子のアミノ酸配列は、それらが本発明のポリペプチド誘導体中に挿入されたときに広げられ(unfolded)、本発明の着目の分子の標的細胞中への内部移行の効率を改善するように設計されることもできる。それらのアミノ酸含有量の結果として折りたたまれるポリペプチドにおけるかかるアンフォールディング(unfolding)は、たとえば、ポリペプチドの折りたたみに関与しうるジスルフィド結合の形成を防止するためにシステイン残基を除去又は置換することによって行われることができる。いくつかの場合には、インビボでの再折りたたみを避けることのできる還元剤の存在下でポリペプチドを調製することによって、ポリペプチドの折りたたみを防ぐことが可能である。
【0088】
特別な実施態様においては、アミノ酸配列、特に抗原、は、潜在性エピトープを含むか又はそれからなることができる。
【0089】
発明者らは、実際に、(i)本明細書に開示された定義によるCyaAタンパク質の突然変異体(ポリペプチド突然変異体)である本発明のポリペプチド及び(ii)1つ又は数個の抗原の1つ又は数個の抗原断片を含むアミノ酸配列を有するポリペプチド分子を含むポリペプチド誘導体構築物が、上記抗原の潜在性エピトープが構築物中でのそれらの提示の結果として免疫原性となることを可能とすると判断した。特に、免疫療法のためのワクチン接種を含む予防的又は治療的適用のための着目の抗原に由来するポリペプチド分子を含む、本発明において定義された突然変異体ポリペプチドを含む上記構築物の目的は、該突然変異体ポリペプチドのN−末端ドメインの移行の結果として該ポリペプチド分子が内部移行されることが可能となる標的細胞におけるプロセシングである。かかるプロセシングは、標的細胞のクラスI MHC分子を介するエピトープの提示を可能とし、そして、該エピトープは上記抗原の潜在性エピトープを含むことができ、該潜在性エピトープは免疫原性となり、そして特に宿主においてT細胞応答、特にCTL応答を引き起こすことができる。
【0090】
したがって、本発明はポリペプチド誘導体、特に、組換えタンパク質にも関し、該組換えタンパク質は、特に1つ又は数個の抗原の1つ又は数個のエピトープ又は該抗原を含むアミノ酸配列を有する1つ又は数個のポリペプチド分子を含み、該ポリペプチド分子のアミノ酸配列は、本発明の突然変異体ポリペプチドの同じ又は異なる部位、特に異なる許容部位に挿入され、該組換えタンパク質は抗原提示細胞(APC)を標的とするCyaA毒素の性質を保持しており、ここで、少なくとも1つの上記エピトープがサブドミナントな潜在性T細胞エピトープであり、そして上記ポリペプチド誘導体、特に上記組換えタンパク質は、抗原特異的な応答を上記ポリペプチド分子に対して誘発することができる。
【0091】
本発明のポリペプチド誘導体の特異的な実施態様においては、1つ以上のアミノ酸配列が1つ以上の部位、特に許容部位に挿入される。
【0092】
本発明のためには、「許容部位」は、CyaAタンパク質の所望の機能的性質に実質的に影響することなく、特に、CyaAによる細胞のターゲティング、特に、CD11b/CD18への特異的結合に実質的に影響せず、そして、有利には標的細胞中へのCyaA N-末端ドメインの移行プロセスに関与するタンパク質のドメインに実質的に影響しないことを含んで、抗原提示細胞(APC)のターゲティングに実質的に影響することなく、ポリペプチドが挿入されることのできるCyaAタンパク質の配列の部位である。
【0093】
許容部位の選択方法は、例えば、PCT国際特許出願公開第WO93/21324号、Ladant et al., 1992、及びOsicka et al., 2000(Infection and Immunity, 2000, 68(1): 247-256)に表されている。特に、二重選択(double selection)を用いる方法(抗生物質に対する耐性及びアルファ相補性によるディッシュ上の比色試験)は、毒素のN-末端触媒ドメインをコードする遺伝子の部分への(読み枠を保存する)オリゴヌクレオチドの挿入を容易に同定することができる。毒素の触媒活性へのこれらの突然変異の機能的結論は、遺伝的に(大腸菌(E.coli)cya-菌株の機能相補)及び生化学的に(修飾されたアデニルシクラーゼの安定性、それらの酵素活性、caMとのそれらの相互作用などの特徴づけ)容易に分析されることができる。この方法は、抗原決定基の挿入のために有利である可能性のある部位を同定するために、多くの突然変異がスクリーニングされることを可能とした。
【0094】
CyaA触媒ドメインの移行そしてかかる許容部位へ挿入されたアミノ酸配列の移行を可能とする、ボルデテラ・ペルツッシスアデニレートシクラーゼの許容部位は、残基137〜138(Val-Ala)、残基224〜225(Arg-Ala)、残基228〜229(Glu-Ala)、残基235〜236(Arg-Glu)及び残基317〜318(Ser-Ala)を含むがこれらに限定されない(Sebo et al., 1995)。以下の追加の許容部位も、本発明の実施態様に含まれる:残基107〜108(Gly-His)、残基132〜133(Met-Ala)、残基232〜233(Gly-Leu)、及び335〜336(Gly-Gln)及び336〜337。しかしながら、特にCyaAタンパク質の残基400及び1700の間の部位である他の許容部位が本発明において使用されてよく、例えば、上記の方法を用いて同定されることができる。
【0095】
他のボルデテラ種については、配列の比較及び対応する残基の決定により、対応する許容部位が定義されることができる。
【0096】
他の実施態様によれば、本発明のポリペプチドの一方及び/又は他方の末端(端部)、好ましくは、ボルデテラ・ペルツッシスCyaAタンパク質のN-末端触媒ドメインの全て又は一部、より特別に好ましくは、残基1−373を欠く突然変異体CyaAポリペプチドのN-末端、において1つ以上のアミノ酸配列ポリペプチドがさらに、又は代わりに挿入されることができる。
【0097】
特異的な実施態様によれば、免疫応答を誘発するのに好適な1つ以上のアミノ酸配列が上記ポリペプチドのアミノ酸残基に移植される。
【0098】
本発明によれば、「組換えタンパク質」又は「ハイブリッドタンパク質」とも呼ばれる、いわゆるポリペプチド誘導体を提供するための、アミノ酸配列とCyaA突然変異体ポリペプチドとの「結合」(または挿入)は、特に、利用可能なDNA技術による遺伝子の挿入を包含する。或いは、「結合」は、特にアミノ酸配列の1つの末端において実施される共有結合、又は非共有結合などの化学的挿入を含む、非遺伝的挿入も包含する。挿入されるアミノ酸配列が合成又は半合成によるものである場合には、非遺伝的挿入は特に興味深い。薬物をポリペプチドに結合させる方法は本分野で周知であり、例えば、N-ピリジルスルホニルで活性化されたスルフヒドリルを用いることによるジスルフィド結合を含む。
【0099】
特に、インビボでのAPC、例えば、CD11b/CD18陽性細胞などのCyaA標的細胞、及び特別には該細胞の細胞質に対するターゲティングのために、化学結合または遺伝的挿入によって本発明のポリペプチドに分子を移植することが可能である。実際、ジスルフィド結合又は遺伝的挿入により、所与のCD8+ T細胞エピトープに対応する分子を無毒化したCyaAの触媒ドメインに結合させる場合、遺伝子工学による分子はインビボで特異的CTL応答を誘発することができることが発見され、それによって、上記CD8+ T細胞エピトープがCD11b発現細胞の細胞質中に移行されることを示す。
【0100】
本発明の好ましい実施態様においては、突然変異体CyaAポリペプチドは、タンパク質ベクターの製造において、又は特にCD8+細胞障害性T細胞応答(CTL応答)が、着目の分子で修飾された(特に、組換え又は複合体化された)突然変異体CyaAポリペプチドのCD11b発現細胞へのターゲティングに続き、その後に上記CD11b発現細胞、特に骨髄性樹状細胞、の細胞質への着目の分子の移行が起こる場合、上記応答の初回刺激のために特異的に設計された組成物の調製において使用される。この関係において、着目の分子は好ましくはエピトープ又は抗原であるか又はそれを含む。
【0101】
本発明の他の好ましい実施態様においては、突然変異体CyaAポリペプチドは、タンパク質ベクターの製造において、又はCD4+細胞応答が、着目の分子で修飾された(特に、組換え又は複合体化された)アデニレートシクラーゼのCD11b発現細胞、特に骨髄性樹状細胞、へのターゲティングに続く場合、CD4+細胞応答の初回刺激のために特異的に設計された組成物の調製において使用される。これに関して、着目の分子は、好ましくはエピトープ又は抗体を含む。
【0102】
突然変異体ポリペプチドは、CD11b発現細胞への予防的又は治療的化合物のターゲティングのためのタンパク質ベクターの製造において使用されることもできる。これに関して、本発明の1つの特異的実施態様においては、いわゆる着目の分子は予防的又は治療的価値を有し、そして特に、薬物である。上記予防的又は治療的化合物及び特に上記薬物は、突然変異体ポリペプチドに化学的又は遺伝的に結合されることができる。ポリペプチドへの化合物の結合方法は本分野において周知であり、そして、例えば、N-ピリジルスルホニルで活性化されたスルフヒドリルを用いることによるジスルフィド結合を含む。1つの実施態様においては、着目の分子は、抗炎症性化合物であり、それは、突然変異体ポリペプチドに結合された場合、特に、樹状細胞や好中球などの炎症反応に関与する細胞の表面を標的とする。
【0103】
より特異的には、選択的なCD8+細胞障害性細胞の初回刺激のための抗原提示は、主に骨髄性樹状細胞により実施される。
【0104】
したがって、特異的な実施態様においては、タンパク質ベクターの製造のために使用される突然変異体CyaAポリペプチドは、突然変異体CyaAポリペプチドの触媒ドメイン内に位置する、遺伝的に挿入されたシステイン残基にジスルフィド結合によって化学結合された1つ以上の分子を含む、遺伝子組換えアデニレートシクラーゼである。実際、触媒ドメイン内の異なる許容部位に位置する異なるシステイン残基へのジスルフィド結合により、複数の分子が突然変異体CyaAポリペプチドに化学結合されることができる。
【0105】
本発明の突然変異体ポリペプチドまたはポリペプチド誘導体は、治療又は予防における使用に適している。
【0106】
治療的又は予防的効果により、患者の状態に対して有益である任意の効果が意図され、病理学的状態の進行を制限することを含む、治癒的な又は病理学的状態の症状又は予後を制限するのに十分なものである。治療又は治療効果には、病理学的状態の発症の予防も包含される。
【0107】
本発明の突然変異体ポリペプチドまたはポリペプチド誘導体は、それを必要とする宿主においてT細胞免疫応答又はB細胞免疫応答などの細胞性免疫応答を誘発するのに特に好適である。それは、CTL及びTh、特にCD4+T細胞応答及び/又はCD8+T細胞応答を含むTh1応答を含む。
【0108】
CyaAタンパク質に由来するポリペプチドの細胞性免疫応答を誘発する能力は、インビボで腫瘍増殖を防止するか又は動物において腫瘍退縮を可能とするのにさえ十分であることができる。それはまた、TLR活性化を介する免疫応答の生得的成分の活性化及び化学療法剤の使用を介する免疫応答の制御性成分の活性を下げることによっても高められうる。本発明は、かかる結果が、選択された突然変異E570Q及びK860Rの組み合わせの結果としての改善された安全条件において得られることを可能とする手段を提供する。
【0109】
したがって、本発明は、それを必要とする宿主においてT細胞性免疫応答又はB細胞性免疫応答を誘発するための、動物又はヒト患者への本発明のポリペプチド又はポリペプチド誘導体の投与を含む、治療方法も対象とする。
【0110】
本発明の突然変異体ポリペプチド又はポリペプチド誘導体は、特に、新生物、癌及びウイルス性、レトロウイルス性、細菌性又は真菌性疾患から選ばれる感染性疾患から選ばれる疾患の予防又は治療に使用されることができる。特に、ポリペプチド誘導体は、患者におけるHIV感染の治療のために使用可能である。
【0111】
本発明の特別な実施態様においては、CyaA突然変異体ポリペプチド又はポリペプチド誘導体は、腫瘍の分類のための一般に認められた臨床的基準にしたがって、浸潤性又は血管新生性腫瘍若しくは表在性腫瘍の治療或いは転移性腫瘍若しくは原発性腫瘍の治療に適していることが特に提供される。
【0112】
特に固形腫瘍は、本発明のポリペプチド誘導体の使用を介する治療の標的である。
【0113】
本発明のポリペプチド誘導体による治療のための候補となりうる腫瘍の中では、例として、腫瘍関連抗原が特徴づけされている以下のものが記載される:黒色腫、特に、転移性黒色腫;肺癌;頭部及び頚部癌;子宮頚部癌;食道癌;膀胱癌、特に浸潤性膀胱癌;前立腺癌;乳癌;結腸直腸癌;腎細胞癌;肉腫;白血病;骨髄腫。これらのさまざまな病理学的タイプの癌については、抗原性ペプチドが腫瘍サンプル上で特異的に発現され、そしてT細胞、特にCD8+T細胞又はCD4+T細胞によって認識されることが示されている。
【0114】
本発明はさらに、本発明のポリペプチド誘導体の、新生物、癌及びウイルス性又はレトロウイルス性疾患から選ばれる感染性疾患から選ばれる疾患の治療のための治療用組成物の調製のための使用にも関する。
【0115】
好ましい実施態様においては、本発明のポリペプチド又はポリペプチド誘導体は、アジュバントとともに及び/又は治療活性を有する他の分子又は剤とともに患者に投与されることができる。
【0116】
本発明に関して、上記「治療活性を有する他の分子又は剤」は、それが投与される患者の状態に対して有益でありうるものである。それは特に、薬物の製造における使用に適した活性成分である。それは、治療活性を有する成分の効果の増加を促進するか又は調整するのに好適な化合物であることができる。
【0117】
突然変異体CyaAポリペプチド又はそのポリペプチド誘導体は、治療活性を有する分子又は剤、特に、患者において免疫応答を誘発するのに好適なもの、とともに投与されることができる。
【0118】
突然変異体CyaAポリペプチド又はそのポリペプチド誘導体は、特に、制御性T細胞免疫抑制能を低下させるか又はブロックすることによって、患者における細胞応答を調整するのに好適な治療活性を有する剤とともに投与されることができる。
【0119】
本発明の特別な実施態様によれば、制御性細胞応答に対するかかる効果は、制御性T細胞を調整する及び/又は骨髄性抑制細胞応答などの他の細胞性抑制応答を調整する剤により得られることができ、上記剤は、(CD25-特異的抗体又はシクロホスファミドなどにより)これらの細胞を枯渇させるか又は不活性化させ、上記細胞、特に制御性T細胞、のトラフィッキングを変更し(CCL22-特異的抗体など)、又は(FOXP3(フォークヘッドボックスP3)シグナルをブロックすることなどにより)上記細胞の分化及びシグナリングを変更するなどによって、上記制御性細胞、特にT細胞、を標的とする。
【0120】
本発明の特別な実施態様によれば、制御性細胞応答を調整する剤は、抑制性分子、特に(B7-H1、B7-H4、IDO(インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ)又はアルギナーゼなどの)APC上に存在する分子、又は(CTLA4(細胞障害性Tリンパ球関連抗原4)又はPD1(プログラム細胞死1)などの)T細胞上に存在する分子をターゲットとするか、或いは、(TGFβ(トランスフォーミング成長因子)、IL-10、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、COX2(シクロオキシゲナーゼ2)などの)可溶性免疫抑制性分子を標的とする。
【0121】
制御性細胞応答に対する効果を有する剤の例として、制御性T細胞又は他の免疫抑制細胞を殺滅することのできる、又はそれらの活性及び/又は成長及び/又は蓄積をブロックすることのできる他の細胞障害性の剤が提案される。
【0122】
本発明の特別な実施態様においては、制御性細胞応答、特に制御性T細胞応答、を調整する剤は化学療法剤である。特に、それは、抗癌剤として知られ、かつ化学療法において使用される化学療法剤から選ばれる。かかる剤は、全身腫瘍組織量を減少させることを助けるもの、治療に対する腫瘍細胞の感受性を増加させることにより作用するもの、又は免疫制御性細胞を殺滅又は不活性化することを可能とするものを含む。本発明の枠内において使用される化学療法剤はそれによって抗腫瘍免疫を高める。
【0123】
本発明の特別な実施態様においては、化学療法剤は、アルキル化剤である。特に、それはシクロホスファミド(CTX)(Sigma, Steinheim, Germany)である。シクロホスファミドは、制御性T細胞を枯渇させるか又は不活性化させることができる。
【0124】
本発明の他の特別な実施態様においては、化学療法剤は挿入剤である。
【0125】
特別な実施態様においては、化学療法剤は、ドキソルビシン(DOX)(Calbiochem, La Jolla, CA, USA)である。
【0126】
化学療法剤は、低用量で有利に投与される。
【0127】
突然変異体CyaAポリペプチド又はそのポリペプチド誘導体は、患者における腫瘍によって初回刺激された生得的免疫応答を活性化するのに好適なアジュバント成分とともに投与されることもできる。
【0128】
本発明の特別な実施態様においては、アジュバント成分は、核酸、ペプチドグリカン、炭化水素、ペプチド、サイトカイン、ホルモン及び小分子から成る成分の群から選ばれ、ここで、上記アジュバント成分は、パターン認識受容体(PRRs)を介する情報伝達が可能である。
【0129】
PRRsは、いわゆる病原体からの進化的に保存された特徴(病原体関連分子パターン、PAMPs)の認識によって、病原体及び腫瘍に対する生得的免疫応答を仲介することが知られている。PRRsは、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、B細胞を含むさまざまな免疫細胞上及び上皮細胞又は内皮細胞などのいくつかの非免疫細胞上にも存在する。PRRs及び生得的免疫応答へのそれらの関与は、Pashine A. et al(Nature medicine supplement volume 11, No.4, April 2005)に記載されている。
【0130】
特に、生得的免疫応答の活性化のためのアジュバント成分は、PRRsを標的とし、そしてしたがってPRRsを介する情報伝達を活性化することができ、ここで、上記PRRsは、トル様受容体又はヌクレオチド結合性多量体化ドメイン(NOD)又はC型レクチンを包含する。
【0131】
本発明の特別な実施態様においては、アジュバント成分はトル様受容体(TLR)アゴニストである。トル様受容体アゴニストは、特に、患者の生得的免疫系を効率的に活性化するために処方される。上記TLRアゴニストは、TLRを結合することができ、すなわち、TLRのリガンドであり、さらに、上記TLRの制御のもとに誘発された免疫応答を高めることができる。
【0132】
例示のために、TLRアゴニストは、TLR-9、TLR-8、TLR-3及びTLR-7アゴニストの群から選ばれる。しかしながら、TLR-2、TLR-4、TLR-5受容体のアゴニストなどの他のTLR受容体のアゴニストが本発明を実施するために使用されることができる。
【0133】
本発明において使用されるTLRアゴニストは、天然又は合成のアゴニストであることができる。それは、同じ又は異なるトル様受容体の異なるアゴニストの組み合わせであることができる。
【0134】
本発明の特別な実施態様によれば、TLRアゴニストは、免疫刺激性のヌクレオチド配列、特に、例えば、ホスホロチオエート修飾などの構造的修飾の結果として安定化された、安定化されたヌクレオチド配列である。ヌクレオチド配列は、特定の製剤化によって分解に対して保護されることもできる。特に、そのリポソーム製剤、例えば、リポソーム懸濁液、は免疫刺激性のヌクレオチド配列の効率的な投与のために有益であることができる。
【0135】
本発明の特別な実施態様においては、免疫刺激性の核酸配列は、一本鎖RNAである。
【0136】
本発明の特別な実施態様においては、免疫刺激性のヌクレオチド配列は、CpGモチーフを含み、特に、CpGオリゴヌクレオチド(CPG ODNs)である。好適なCpGオリゴヌクレオチドの例として、本発明は、A型CpG ODN、すなわち、ヌクレオチド配列5’−GGGGGACGATCGTCGGGGGG−3’を有するCpG2216又はB型CpG ODN、すなわち、ヌクレオチド配列5’−TCCATGACGTTCCTGACGTT−3’を有するCpG1826などのTLR-9リガンドを提供する。
【0137】
CpGオリゴヌクレオチドは、分解に対して保護するため及びその取り込みを容易化するために、DOTAP(Roche Manheim, Germany)と複合体化された後に使用されることができる。
【0138】
本発明の他の特別な実施態様によれば、TLRアゴニストは小分子である。TLRアゴニストとして好適な小分子は、例えば、R848(レシキモド(resiquimod))と名づけられたもの、すなわち、TLR-7リガンドとしてInvivogenから入手可能な4−アミノ−2−エトキシメチル−a,a,ジメチル−1−H−イミダゾ[4,5c]キノリン−1−エタノール、又はTLR-7アゴニストとしてAldaraから入手可能なR837(イミキモド)と名づけられたものなどのイミダゾキノリンアミン誘導体である。
【0139】
TLRアゴニストとして好適な他の分子は、TLR-3リガンドとしてのポリウリジン(pU)又はTLR-7リガンドとしてのポリシチジル酸(PIC)である。
【0140】
これらの分子は、それらの取り込みを容易化するため及び/又はそれらを分解から保護するために製剤化されることができる。これらの分子は、患者への投与のために、リポソーム製剤、特にリポソーム懸濁液として、調製されることもできる。
【0141】
本発明の他の特別な実施態様によれば、アジュバント成分は細胞ベースのアジュバント成分であることができる。その例は、リンパ球応答を初回刺激することができることが知られている、樹状細胞であり、かかる樹状細胞は、T細胞応答を刺激するそれらの活性を増加させるために、場合によりその投与の前にエクスビボで調整されるであろう。したがって、樹状細胞は、TLRリガンド又はアゴニストを含むPRRsと相互作用するアジュバントで刺激されることができる(Pashine A. et al Nature Medicine Supplement Volume 11, No.4, April 2005 p S63-S68)。
【0142】
或いは、本発明のポリペプチド又はポリペプチド誘導体はアジュバントなしで患者に投与されることができる。
【0143】
実際に、発明者らは、ベクターに組み込まれた(vectorized)抗原に特異的なCTLが、組換え毒素の単回静脈内注射後に、特に異種アジュバントを提供する必要なくインビボで初回刺激されることができることを先に示した。これらの結果及び、特別には骨髄性樹状細胞へのエピトープの特異的ターゲティングは、アジュバント及びCD4+T細胞の助けの必要性をバイパスすることを可能とする。
【0144】
したがって、本発明はまた、分子、そして特に着目のペプチドと再結合された突然変異体CyaAポリペプチドの、静脈内投与のために製剤され、そしてインビボでのCD8+T細胞免疫応答を可能とする組成物の調製のための使用にも関し、該組成物は異種アジュバントを含まない。本発明はまた、そのような組成物にも関する。
【0145】
本発明はさらに、本発明の突然変異体ポリペプチド又はポリペプチド誘導体の、新生物、癌及びウイルス性、レトロウイルス性、細菌性又は真菌性疾患から選ばれる感染性疾患から選ばれる疾患に罹った動物又はヒト患者への投与を含む治療方法も対象とする。
【0146】
突然変異体ポリペプチド又はポリペプチド誘導体は特に、治療活性を有する分子及び/又はアジュバントとともに投与されることができる。
【0147】
突然変異体CyaAポリペプチド又はポリぺプチド誘導体、治療活性を有する分子及び/又はアジュバントは、さらに医薬として許容可能なキャリア又は賦形剤を含む医薬組成物の一部として一緒に投与されることができる。
【0148】
或いは、本発明を実施するために使用される本明細書に記載のさまざまなタイプの分子は、同時に(特に突然変異体CyaAポリペプチド又はポリペプチド誘導体及びアジュバント)又は別の時(特に、突然変異体CyaAポリペプチド)のいずれかにおいて別個に投与されることができる。
【0149】
或いは、治療活性を有する分子の投与は、突然変異体CyaAポリペプチド又はポリペプチド誘導体及び/又はアジュバントの投与の前又は後に実施されることもできる。それは時間的に連続することもできる。
【0150】
採用されてよい特別な治療計画は、反復投与プロトコール、特に突然変異体CyaAポリぺプチド又はポリペプチド誘導体、治療活性を有する剤及び/又はアジュバントから選ばれる少なくとも1つの化合物の2ラウンド以上の投与を包含するプロトコールである。
【0151】
本発明はまた、本発明の突然変異体CyaAポリぺプチド又はポリペプチド誘導体、医薬として許容可能なキャリア又は賦形剤、そして場合によりアジュバント及び/又は他の治療活性を有する分子を含む医薬組成物も対象とする。
【0152】
本発明はまた、突然変異体CyaAポリペプチド又はポリペプチド誘導体、治療活性を有する分子及び/又はアジュバントを含む、パーツのキットを対象とする。
【0153】
パーツのキットの化合物又は本発明の組成物は、特に、静脈内投与、腫瘍内投与又は皮下投与を介して患者に与えられることができる。
【0154】
本発明のパーツのキット又は組成物は、(i)本願において開示された突然変異体CyaAポリペプチド又はポリペプチド誘導体を介する適応免疫応答を標的とし、(ii)治療活性を有する剤を介して制御性免疫応答をダウンレギュレートレートし、そして、アジュバントが存在する場合には、(iii)アジュバントを介して生得的応答を活性化することにより免疫応答の生得的成分を標的とする能力を有する。
【0155】
本発明はまた、それを必要とする動物又はヒトのいずれかである患者の治療方法にも関し、該方法は、本明細書に開示されたパーツのキット又は組成物を投与するステップを含む。
【0156】
本発明は、特別には、投与、特に動物又はヒト宿主における静脈内投与のために製剤された新しい免疫原性組成物にも関し、該組成物は触媒ドメイン中に挿入された抗原を含む組換えCyaAポリペプチド誘導体を含むことに特徴を有する。
【0157】
本発明はさらに、着目の分子が特異的にCD11b発現細胞を標的とするために製剤されたヒト又は動物における投与のための医薬組成物に関し、該着目の分子が本明細書に記載の突然変異体CyaAポリペプチドに結合されていることに特徴を有する。
【0158】
他の特異的な実施態様においては、医薬組成物又は免疫原性組成物は、着目の分子に結合されている本明細書において定義されたCyaA突然変異体ポリペプチド含む組換えCyaAポリペプチド誘導体をコードしている核酸構築物を含む。
【0159】
さらに、本発明はまた、上記で定義された免疫原性組成物の、動物又はヒト宿主への投与のためのワクチン又は免疫療法用組成物の調製のための使用にも関する。
【0160】
本明細書で使用されるとおり、用語「免疫療法用組成物」は、免疫学的応答に導き、そして新生物、癌、ウイルス感染、真菌感染、寄生生物感染又は細菌感染の治療などの治療的処置に関連する組成物にも関する。
【0161】
本発明はさらに、動物又はヒト宿主を免疫化する方法に関し、ここで、該方法は以下のステップを含む:
a)上記で定義された免疫原性組成物を提供し;
b)免疫応答を促進するために、上記免疫原性組成物を好ましくは静脈内経路を介して上記宿主に投与する。
【0162】
特別には、本発明の免疫原性組成物は、インビボ又はインビトロで、特異的には樹状細胞を含む免疫細胞応答を誘導又は刺激することができる。本発明の免疫原性組成物は、特に、患者の予防的又は治療的ワクチン接種に使用されることができる。
【0163】
結論として、特異的な実施態様においては、免疫原性組成物又は医薬組成物は、水酸化アルミニウムなどの本分野で一般に用いられる初回刺激用アジュバントがなく、有利である。
【0164】
本発明はさらに、着目の分子の細胞中へのデリバリーに適したタンパク質ベクターの調製のための方法に関し、該着目の分子を本明細書において定義されたCyaA突然変異体ポリペプチドに結合させることを含む、上記方法に関する。
【0165】
本発明はさらに、核酸分子、特にDNA又はRNA分子であって、上記で定義されたポリペプチド又はポリペプチド誘導体をコードするものに関する。
【0166】
本発明は、上記で定義された核酸分子を含む真核細胞又は原核細胞も対象とする。
【0167】
本発明は、上記で定義された突然変異体CyaAポリペプチド又はポリペプチド誘導体を含む、真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞も対象とする。好ましい実施態様において、該細胞はヒト細胞である。
【0168】
本発明はさらに、上記で定義されたタンパク質ベクターで形質転換された真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1A】膜孔形成及びアシル化ドメインにおける置換は、CyaAの特異的溶血活性の減少において相乗作用を与える。 TNCバッファー中のヒツジ赤血球(5×108/ml)を5μg/mlの酵素活性を有するCyaAタンパク質とともに37℃でインキュベートした。30分後、細胞懸濁液のアリコートを未結合のCyaAを除去するために繰り返し洗浄し、そして細胞結合性及び細胞侵入性のAC活性を決定するために使用した。5時間のインキュベーション後に、光度測定(A541)により放出されたヘモグロビン量として溶血活性を測定した。無傷のCyaAの活性を100%とした。
【図1B】膜孔形成及びアシル化ドメインにおける置換は、CyaAの特異的溶血活性の減少において相乗作用を与える。 上記のとおり、酵素活性を有する示された濃度のCyaA由来タンパク質とともに赤血球を30分間インキュベートし、洗浄し、そして細胞結合性のAC酵素活性を決定した。
【図1C】膜孔形成及びアシル化ドメインにおける置換は、CyaAの特異的溶血活性の減少において相乗作用を与える。 K860R置換を有するタンパク質の減少した細胞結合活性を、5μg/mlから25μg/mlにそれらの濃度を増加させることによって補償した。CyaA/233OVA(CyaA/OVA)の存在下での活性を100%値とした。結果は、二連で実施した少なくとも3つの独立した実験からの平均値を表す。アスタリスクは、CyaA(図1A)又はCyaA/OVA(図1C)の活性からの統計学的な有意差(**、p<0.001)を示す。
【図2A】CyaA/OVA/E570Q+K860RはCD11b+単球に結合し、そして移行する。 J774A.1細胞(106/ml)をD-MEM中、4℃で、2.5μg/mlのCyaAとともに30分間インキュベートし、繰り返し洗浄し、そして、細胞ライセートにおいて細胞結合性のAC活性を決定した。CD11b/CD18受容体をブロックするために、CyaA添加前に最終濃度10μg/mlのCD11b特異的抗体M1/70(Exbio、チェコ共和国)とともに、30分間、細胞をインキュベートした(**、p<0.001)。
【図2B】CyaA/OVA/E570Q+K860RはCD11b+単球に結合し、そして移行する。 構築物のACドメイン移行能を、細胞透過能及び細胞質ATPをcAMPに変換する能力として評価した。J774A.1細胞を37℃で30分間、CyaA構築物とともにインキュベートし、そして細胞ライセート中に蓄積したcAMP量を測定した(41)。対照として、上記のように、CD11b/CD18受容体を抗CD11b抗体M1/70でブロックした。CD11b/CD18結合性及び取り込まれた毒素の膜透過を、受容体結合に関しては無傷であるが細胞膜を横切ってACドメインを移行させ、そして細胞質cAMP濃度を上昇させることはできない、二重に突然変異したCyaA/E570K+E581P変異体を用いることによって制御した(Vojtova-Vodolanova et al., 2009)。
【図2C】CyaA/OVA/E570Q+K860RはCD11b+単球に結合し、そして移行する。 プルロニックF-127[0.05%(w/w)]の存在下で、25℃で45分間、J774A.1細胞に最終外部濃度9.5μMのK+感受性蛍光プローブPBFI/AMを負荷した。3μgml-1の上記毒素を添加する前に細胞をHBSSで洗浄した。細胞内K+濃度を反映するPBFIの蛍光強度比(励起波長340、発光波長450及び510nm)を15秒ごとに記録した。右のスケールは、較正試験(実験手順を参照のこと)から導いた細胞内[K+]値を示す。ラクテートデヒドロゲナーゼ放出として評価した細胞溶解は、アッセイの時間間隔内では観察されなかった。二連で実施した3つの独立した測定を代表する結果が示される。
【図3A】E570Q+K860RトキソイドはJ774A.1細胞を透過性としない。 J774A.1細胞の溶解を、37%で無血清のDMEM中、3、10及び30μg m-1の示されたタンパク質との3時間のインキュベーション後に105個の細胞から放出されたラクテートデヒドロゲナーゼの量として測定した。結果は、二連で実施した2つの実験において得られた値の平均を表す。
【図3B】E570Q+K860RトキソイドはJ774A.1細胞を透過性としない。 「材料と方法」において記載したとおりに1又は10μg/mlのCyaA/233OVA/AC-又はCyaA/233OVA/E570Q+K860R/AC-タンパク質に室温で曝露された単一のJ774A.1細胞について全細胞パッチクランプ測定を実施した。示される曲線は、3つの独立した実験における6つの測定を代表する。
【図4A】E570Q+K860R置換を有するトキソイドは、MHCクラスI分子による提示およびCD8+ CTLの誘導のためのOVA T細胞エピトープをデリバリーする。 APCとして使用するBMDC(3×105細胞/ウエル)を、OVAエピトープを有する示された濃度(0〜60nM)のトキソイドの存在下又は擬似CyaA/AC-とともにインキュベートした。B3Z T細胞(1×105細胞/ウエル)との24時間の共培養後、刺激されたB3Z細胞によるIL-2分泌を、CTLL増殖法により測定した。結果は、[3H]チミジンの取り込みのΔcpm(トキソイド存在下でのcpm−トキソイド不存在下でのcpm)±SDとして表され、そして、5つの独立した実験を代表する。
【図4B】E570Q+K860R置換を有するトキソイドは、MHCクラスI分子による提示およびCD8+ CTLの誘導のためのOVA T細胞エピトープをデリバリーする。 インビボでの殺滅アッセイ(killing assay)によるOVA(SIINFEKL)特異的CTL応答の誘導の分析。 第0日にマウスは、擬似AC-又はOVA/AC-トキソイドの50μgのi.v.を受容し、そして第7日にはOVA(SIINFEKL)ペプチド負荷されたCFSEhigh及び負荷されないCFSElow脾細胞の混合物(1:1)をi.v.注射された。ゲート中の細胞のパーセンテージが示される、上側のパネルのプロットの集合中の1つの代表的なインビボの殺滅アッセイについて記録されたとおり、20時間後に脾臓にとどまっているCFSE陽性細胞の数をFACS分析法によって決定した。下側のパネルは、3つの独立した実験についてのインビボでの殺滅アッセイのプールされた結果を示す。統計学的有意性を、スチューデントのt検定によって決定した(OVA/AC-対OVA/E570Q+K860R/AC-についてp=0.75)。
【図5A】膜に対するCyaAの作用のモデル このモデルは、溶液中のCyaAの2つの配座異性体の間の平衡を予測するものであり、各異性体は異なる配座で細胞膜中に進入する。1つは、CyaA移行前駆体モノマーを生じさせ、細胞質中へのACドメインのデリバリー及び同時の細胞中へのカルシウムイオンの流入を生じるであろう。該配座異性体は、膜孔前駆体として進入し、オリゴマー形成してCyaA膜孔となるであろう。
【図5B】膜に対するCyaAの作用のモデル。 E570Q及びK860R置換の相乗効果は、CyaA膜孔前駆体がオリゴマー形成して膜孔となることを選択的にブロックする一方、移行前駆体が膜を横切ってACドメインをデリバリーする能力は影響を受けないままである。
【図6】ボルデテラ・ペルツッシスCyaA毒素のアミノ酸配列(配列番号1)
【図7】ボルデテラ・ペルツッシスCyaA/E570Q+K860R突然変異体のアミノ酸配列(配列番号2)
【図8】ボルデテラ・ペルツッシスCyaA/E570Q+K860R/AC-突然変異体のアミノ酸配列(配列番号3)
【図9】ボルデテラ・ペルツッシスCyaA/233OVA/E570Q+K860R/AC-突然変異体のアミノ酸配列(配列番号4)
【図10】CyaA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするプラスミド(QR-AC-)
【図11】CyaA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするQR-AC-プラスミドのDNA配列(配列番号5)
【図12】CyaA/233OVA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするプラスミド(OVA-QR-AC-)
【図13】CyaA/233OVA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするOVA-QR-AC-プラスミドのDNA配列(配列番号6)
【図14】ボルデテラ・パラペルツッシスCyaA毒素のアミノ酸配列(寄託番号CAB76450、配列番号7)
【図15】ボルデテラ・ヒンジイCyaA毒素のアミノ酸配列(寄託番号AAY57201、配列番号8)
【図16】ボルデテラ・ブロンキセプティカCyaA毒素のアミノ酸配列(寄託番号CAA85481、配列番号9)
【実施例】
【0170】
アデニレートシクラーゼ毒素は膜孔を形成せずに標的細胞膜を横切って移行する
材料及び方法
CyaAタンパク質の構築、産生及び精製
CyaA/AC-、CyaA/233OVA、CyaA/E570Q及びCyaA/K860R構築物を生じさせる修飾は先に記載され(13、20、21)、そして、個々に又は組み合わせてCyaA/233OVA/AC-中に導入した。CyaA由来タンパク質をE.coli XL-1 Blue中で産生させ、そして均一に近くなるまで先に記載したとおりに精製した(29)。疎水性クロマトグラフィーの間、毒素が結合した樹脂を60%イソプロパノールで繰り返し洗浄して(30)、CyaAサンプルのエンドドキシン含有量を、LALアッセイQCL-1000(Cambrex)で測定して100IU/mgタンパク質未満まで減少させた。
【0171】
CyaA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするQR-AC-プラスミド(図10)を含むエシェリキア・コリXL1-Blue菌株(Stratagene)をCNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes, France)に、寄託番号CNCM I-4136(図10)のもとに2009年3月18日に寄託した。QR-AC-プラスミドのDNA配列(配列番号5)を図11に開示する。
【0172】
CyaA/233OVA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするOVA-QR-AC-プラスミド(図12)を含むエシェリキア・コリXL1-Blue菌株(Stratagene)をCNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes, France)に、寄託番号CNCM I-4137のもとに2009年3月18日に寄託した。OVA-QR-AC-プラスミドのDNA配列(配列番号6)を図13に開示する。
【0173】
ヒツジ赤血球に対する細胞結合及び溶血活性
50mM Tris pH7.4、150mM NaCl及び2mM CaCl2(TNCバッファー)中、5×108個の洗浄ヒツジ赤血球を5μg/mlのCyaAタンパク質とともに37℃でインキュベートし、そして、CyaAの細胞結合、細胞侵入性AC及び溶血活性を先に詳述したとおりに測定した(13)。活性値の有意差を、ボンフェローニの方法(SigmaStat v.3.11, Systat, San Jose, CA)を用いて一要因分散分析(one-way analysis of variance(ANOVA))によって分析した。
【0174】
CyaAのマクロファージ結合、cAMPの上昇及び細胞溶解能
J774.A1ネズミ単球/マクロファージ(ATCC、番号TIB-67)を、37℃において加湿した空気/CO2(19:1)大気中、10%(v/v)熱不活性化ウシ胎仔血清、ペニシリン(100IU ml-1)、ストレプトマイシン(100μg ml-1)及びアンフォテリシンB(250ng mg-1)を補充したRPMI培地中で培養した。アッセイの前に、RPMIをFCSを含まないダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)(1.9mM Ca2+)に交換し、そして細胞をDMEM中で1時間、37℃において加湿した5%CO2大気中で休ませた(8)。未結合の毒素をD−MEM中で3回洗浄することにより除去する前に、J774A.1マクロファージ(106)を、D-MEM中、2.5μg/mlのCyaA変異体とともに30分、4℃でインキュベートした。細胞結合性のAC活性の測定のために、細胞を0.1% Triton X-100で溶解した。細胞内cAMPのアッセイのためには、100μMのIBMX(3−イソブチル−1−メチルキサンチン)を含むD-MEM中で105個の細胞をCyaAとともに30分間インキュベートし、100mM HCl中、0.2% Tween 20を加えることによって反応を停止させ、サンプルを100℃で15分間煮沸し、150mMの非緩衝化イミダゾールを加えることによって中和し、そして記載のとおりにcAMPを測定した(29)。CD11b/CD18受容体をブロックするために、CyaAの添加前にCD11bを特異的ブロッキングする最終濃度10μg/mlのMAb M1/70(Exbio、チェコ共和国)とともに細胞を氷上で30分間プレインキュベーションした。J774A.1細胞の毒素により誘導された溶解を、記載されたように(8)、10μg/mlの適切なタンパク質とともに37℃で3時間、D-MEM中でインキュベーションし、105個の細胞から放出されたラクテートデヒドロゲナーゼの量として、CytoTox 96キットアッセイ(Promega)を用いて決定した。活性値の有意差を上記のとおり分析した。
【0175】
パッチクランプ測定
HBSS(140mM NaCl, 5mM KCl、2mM CaCl2、3mM MgCl2、10mM Hepes-Na、50mM グルコース;pH7.4)中に浸したJ774A.1細胞において全細胞パッチクランプ測定を実施した。外径が約3μmの先端熱加工したガラスマイクロピペットを、125mM カリウムグルコネート、15mM KCl、0.5mM CaCl2、1mM MgCl2、5mM EGTA、10mM HEPES-KOH pH7.2の溶液で満たした。得られた微小電極の抵抗は、3〜5MΩであった。細胞を−40mVでクランプし、Axopatch 200A増幅器、Digidata 1320Aデジタイザー及びPClamp-9ソフトウエアパッケージ(Axon Instruments, Foster City CA)を用いて、データを1kHzでフィルタリングし、2kHzでデジタル化した。
【0176】
細胞質K+濃度の減少の測定
カバーガラス上で増殖させた細胞をHBSS中で洗浄し、そして、0.05%(w/w)プルロニックF-127(Sigma, St. Louis, MO)の存在下、暗所で、30分間、25℃で9.5μM PFBIアセトキシメチルエステル(PBFI/AM, Molecular Probes, Eugene, OR, USA)を加えた。DataMaxソフトウエアを搭載したFluoroMax-3分光蛍光光度計(Jobin Yvon Horriba, France)を用いてレシオメトリック測定を25℃で実施した。PBFIの蛍光強度(励起波長340、発光波長450及び510nm)を15秒ごとに記録し、そして各波長についての積分時間は3秒であった。450/510nm波長の比率を示す。1cmのキュベット中に載せたカバーガラスの観察面積は、約10mm2であり、およそ104個の細胞に相当した。較正実験を、さまざまな濃度の酢酸カリウム(10、30、60又は140mM)及び酢酸ナトリウム(135、115、85又は5mM)をそれぞれ含む、50mM HEPES、pH7.2中で、3pMのバリノマイシン又はニゲリシンによって30分間透過処理した細胞について実施した。最終的な強度比(450/510nm)をプロットの右縦軸上に示す。
【0177】
マウス及び細胞株
Charles River Laboratoriesから購入した雌性C57BL/6マウスを特定の病原体フリーの条件下で飼育し、研究所のガイドラインにしたがって操作した。CTLL-2細胞をATCCから入手した。B3Z、Kb拘束性OVA(SIINFEKL)エピトープに特異的なCD8+特異的T細胞ハイブリドーマをN. Shastri(University of California, Berkeley)が提供し、10%の熱により不活性化されたFCS、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン及び5×10-5Mの2−MEを含む完全RPMI1640培地(Invitrogen Life Technologies)中で、1mg/mlのG418及び400μg/mlのヒグロマイシンBの存在下、維持した。
【0178】
抗原提示試験
APCとして使用した骨髄樹状細胞(BMDC、3×105/ウエル)を、OVA(SIINFEKL)エピトープ又は擬似CyaA/AC-を担持するさまざまな濃度(0〜60nM)の組換えCyaA/OVA/AC-の存在下でインキュベートし、OVA SIINFEKL/H-2Kb MHCクラスI複合体を選択的に認識するB3Z T細胞(ウエルあたり1×105)とともに24時間共培養した。18時間の培養後、上清を−80℃で少なくとも2時間凍結した。そして、刺激されたB3Z細胞により産生されたIL-2の量を、CTLL増殖法によって決定した。すなわち、ウエルあたり104個のIL-2依存性CTLL菌株の細胞を100μlの上清とともに200μlの最終体積で培養した。24時間後、[3H]−チミジン(50μCi/ウエル)を添加し、そして6時間後に自動化セルハーベスターにより細胞を採取した。取り込まれた[3H]−チミジンを、シンチレーションカウンティングにより検出した。各ポイントを二連で行い、実験は5回繰り返した。結果は、[3H]チミジンの取り込みのΔcpm(トキソイド存在下でのcpm−トキソイド不存在下でのcpm)として表した。
【0179】
インビボでの殺滅アッセイ
CTLの初回刺激のために、OVA(SIINFEKL)エピトープ又は擬似CyaA/AC-を担持する50μgの組換えCyaA/OVA/AC-のi.v.注射によりマウスを免疫化した。免疫化の7日後、未感作の同質遺伝子的(syngenic)脾細胞をOVA(SIINFEKL)ペプチド(10μg/ml)でパルシングし(30分、37℃)、さらに洗浄し、そして高濃度(1.25μM)のカルボキシフルオレッセインサクシニミジルエステル(CFSE; Molecular Probes, Eugene, OR)で標識した。パルシングされない対照集団を、低濃度(0.125μM)のCFSEで標識した。CFSEhigh−及びCFSElow−標識された細胞を、1:1の比で混合し(各集団、5×106細胞)、そして、マウスにi.v.注射した。脾細胞を20時間後に収集し、洗浄し、FACSバッファー(1%のBSA及び0.1%のNaN3を補充したPBS)中に再懸濁した。20時間後に脾臓中に残っているCFSE-陽性細胞の数をFACSにより決定した。特異的な溶解のパーセンテージを以下のように計算した:特異的な溶解のパーセント=100−[100×(CFSEhighで免疫化されたマウスの%/CFSElowで免疫化されたマウスの%)/(CFSEhigh未感作のマウスの%/CFSElow未感作のマウスの%)]。
【0180】
統計学的分析
値の有意差をボンフェローニの方法(SigmaStat v.3.11, Systat, San Jose, CA)を用いて一要因分散分析(one-way analysis of variance(ANOVA))によって分析した。
【0181】
結果
陰性荷電したグルタミン酸570及びアシル化リジン860の組み合わせの除去がCyaAの細胞透過性付与能を失わせる。
CyaA作用のワーキングモデルは、CyaAが修飾されて、その膜孔形成(溶血)活性を失う一方、標的細胞の細胞質中へACドメインをデリバリーする能力を保存することを予測する。この仮説を試験するために、発明者らは、CyaA/AC-トキソイドの細胞溶解能が、膜孔形成ドメイン内の置換によって高められ又は低下させられるように修飾可能であるという先の観察(8、12〜14、18)を基に、可能な限り低い溶血及び細胞溶解活性を示すCyaA構築物を作り出すことを試みた。CyaA/AC-トキソイドについても標的細胞の透過の評価を可能とするために、発明者らは、かかる突然変異体を、先にオボアルブミン由来のSIINFEKLペプチド(OVA)の挿入によりタギングされたCyaA/233OVA毒素から得た。このCyaA変異体は、レポーターKb-拘束性CD8+ T細胞エピトープの残基233における挿入が、AC活性に影響せずかつOVA/AC酵素の細胞中への移行を細胞質cAMPの上昇として定量することを可能とするために選ばれた。より重要なことは、OVAエピトープの存在が酵素的に不活性なCyaA/233OVA/AC-トキソイドがそれらのOVA/AC-ドメインをCD11b+抗原提示細胞(APC)の細胞質中へデリバリーする能力も評価することを可能とすることであり、これは、プロテアソームによるプロセシング、及びインビトロ及びインビボの両方におけるOVA-特異的CD8+ T細胞の刺激として測定されることができる、MHCクラスI糖タンパク質上のOVAエピトープの細胞表面提示を可能とするからである(20)。
【0182】
細胞溶解活性を有さない可能性のあるCyaA/AC-トキソイドを作り出すために、発明者らは、CyaA/AC-のCD11b+ J774A.1単球に対する細胞溶解活性も低下させることが発見されているE570Q(8、13)と先にヒツジ赤血球に対するCyaAの特異的溶血活性を低下させることが示されたK860R置換を組み合わせた。これらの置換は、CyaA/233OVA/AC-中に個々に及び組み合わせて工学処理され、そして、得られたトキソイドの特異的な溶血活性及び細胞溶解活性を、ヒツジ赤血球をCD11b-の標的のモデルとし、J774A.1をCD11b+の標的のモデルとして平行して用いて比較した(表1)。先にOVAエピトープを欠くトキソイドについて得られた結果(4、8、13、21)と一致して、使用した条件下では、個々にE570Q及びK860R置換を担持するOVA/AC-トキソイドは、それぞれ、2分の1に低下した(55±8)及びゼロ(1±1)の赤血球に対する相対的溶血活性を示し、CD11b発現J774A.1細胞に対するE570Qトキソイドの相対的細胞溶解活性も、OVA/AC-に比較して低下した(37±10)。同様に、酵素活性を有するK860R構築物について得られた結果から予測されるとおり、CD11b-赤血球に対する低い溶血活性にもかかわらず、K860Rトキソイドは、CD11b+ J774A.1細胞に対するわずかにのみ低下した相対的細胞溶解活性を示し(72±22%)、K860R置換によりもたらされた構造的欠陥が、CD11b/CD18受容体との相互作用により救われたことが確認される(4)。それにもかかわらず、E570Qと組み合わされた場合、K860R置換は、E570Q+K860R構築物のJ774A.1細胞に対する相対的細胞溶解活性を14±7%にまで減少させるという明らかな相乗効果を示した。
【0183】
【表1】
【0184】
表の説明
−aヒツジ赤血球の溶解は、2mMのCa2+の存在下で、5μg/mlの所与のタンパク質とともに5×108個のRBCを37℃でインキュベーションすることにより放出されたヘモグロビンの量として、4.5時間後に決定した(31)。CyaA/AC-の溶血活性を100%の活性とした。結果は、2つの異なるタンパク質調製物を用いて二連で実施した4つの独立した実験において得られた値の平均±S.D.を表す。
−bJ774A.1細胞の溶解を、10μg/mlの適切なタンパク質とともにD−MEM中、37℃で3時間、細胞をインキュベーションすることにより105個の細胞から放出されたラクテートデヒドロゲナーゼの量として決定した。CyaA/AC-によるJ774A.1細胞の溶解を100%とした。結果は、2つの異なるタンパク質調製物を用いて二連で実施した4つの別個の実験において得られた値の平均±S.D.を表す(*、p<0.05;**、p<0.001)。
【0185】
細胞の細胞質中へACドメインをデリバリーするE570Q+K860R構築物の能力の定量化を可能とするために、CyaA/233OVA(CyaA/OVA)由来の酵素活性を有する構築物中へE570Q及びK860R置換を移動させた。これらは、AC-トキソイドと同じ方法(示さない)で作り出し、そして精製し、そして細胞結合、ヒツジ赤血球に対する溶血及びAC移行能について特徴づけした。図1Aに示し、そしてOVAエピトープを欠く毒素の結果(4、13、21)から予測されるとおり、E570Q置換は、CyaA/OVAの赤血球への結合又は赤血球細胞質中へACドメインをデリバリーする能力には影響せず、その相対的溶血活性を選択的に減少させたのみであった。さらに予想されるとおり(4)、K860R置換は赤血球に結合しそして透過するCyaA/OVAの能力を有意に低下させ、E570Q及びE570Q+K860R突然変異体の赤血球に対する相対的な溶血及び細胞侵入性のAC活性を急激に低下させた。
【0186】
CyaAの溶血活性が細胞に結合したCyaAの量の非常に協調的な関数であること(ヒル係数>3)が、CyaAオリゴマー形成が膜孔形成のための必要条件であること(22)を示唆しているのは注目されるべきである。したがって、組み合わされたE570Q+K860R置換の溶血活性に対する影響を評価するためには、等量の全タンパク質の赤血球への結合を達成するために、図1Cに示すようにアッセイ中のそれらの濃度を25μg/ml(無傷の毒素について5μg/ml)まで増加することによって、K860R構築物の赤血球結合能が補償されなければならない。これらの条件下では、E570Q及びK860R置換の組み合わせは、E570Q(約50%)及びK860R置換(約30%)をそれぞれ担持する構築物のすでに障害された溶血活性を、図2Cに示すようにさらに2分の1に減少させて明らかな相乗効果を示した。これは、2つの置換の組み合わせがCyaAの特異的な細胞透過性付与能に影響することを示唆する。
【0187】
CyaAの膜孔形成活性は、ACドメインの膜移行にとって重要でない。
赤血球に対する毒素の活性に及ぼすK860R置換の影響とは対照的に、E570Q及びK860R置換は両方ともCD11b/CD18受容体を発現するJ774A.1単球に結合しそして透過するCyaAの能力に何の効果も与えないことが先に発見されている(4、8)。さらに、図2に記録されているとおり、2つの置換が同じ毒素分子中で組み合わされた場合、CyaA/OVA/E570Q+K860R構築物はJ774A.1細胞に結合し(図2A)、そして無傷のCyaAがそうであったように、J774A.1細胞の細胞質中にACドメインをデリバリーして細胞内cAMP濃度を上昇させる(図2B)等しい能力を示した。しかしながら、同時に、二重に突然変異したE570Q+K860Rトキソイドは、これらの細胞に対して約7分の1に低下した(14±7%)相対的細胞溶解能を示した(表1を参照)。図2Cに示すように、無傷のCyaAと比較した場合、単一の突然変異を有するE570Q及び二重に突然変異したE570Q+K860R構築物は、毒素処理されたJ771A.1細胞中のカリウムイオンの細胞内濃度([K+]i)の減少を誘発する能力が大きく障害されていた。ラクテートデヒドロゲナーゼの放出についてのアッセイにより20分にわたって細胞溶解が検出されなかった一方、3μg ml-1の無傷のCyaAに曝露されたJ774A.1細胞の[K+]iは、毒素添加の10分後にすでに140mMから30mM未満にまで低下した。同様に、同じ量(3μg ml-1)のER570QiK860R構築物を使用した場合、細胞中の[K+]iレベルは100mM未満には減少しなかった(図2C)。実際に、細胞からのカリウムの流出は、細胞膜へのCyaA膜孔前駆体の挿入の特徴であることが先に示されている(32)。これは、E570QとK860R置換の組み合わせがJ774A.1細胞を透過性とするトキソイドの能力のみを選択的に障害し、細胞膜を横切ってACドメインを移行させるその能力は障害しなかったことを示唆した。
【0188】
この結論は、上で検討し(表1)、そして図3Aにおいて詳細に記録されたとおり、対応するE570Q/AC-及びE570Q+K860R/AC-トキソイドの相対的細胞溶解活性が大きく低下したことによりさらに裏付けられる。3μg ml-1の二重に突然変異したE570Q+K860Rトキソイドは実質的に、3時間のインキュベーションにおいてJ774A.1細胞からいかなる検出可能なラクテートデヒドロゲナーゼの放出もおこすことはできなかった一方、等量の無傷のトキソイドの存在下においては20%の細胞が溶解した。
【0189】
これを試験するために、発明者らは単一全細胞パッチクランプ実験においてE570Q+K860R構築物の細胞透過性付与能を分析した。ここでまた、毒素により生成されたcAMPにより引き起こされるJ774A.1細胞の大規模な波打ち現象を避けるためにAC-トキソイドが使用されなくてはならなかった(23)。1μg/mlのCyaA/OVA/AC-に曝露されたパッチクランプされた単一のJ774A.1細胞の膜を横切るイオン電流の代表的な記録によって図3Aに示されるように、約3分の最初の遅れの後、J774A.1細胞は急進的かつ大量にCyaA/OVA/AC-により透過性となり、そして細胞膜を横切る電流が10分以内に−3,000pAに達した。対照的に、図3Bに示されるように、CyaA/OVA/E570Q+K860R/AC-に対する曝露は、一過性かつ最小の細胞の初期透過性付与のみを再現性よく引き起こし、細胞膜を横切る電流は−200pAを超えず、トキソイド添加後の10分以内にゼロ近くまで戻った。表1にまとめたトキソイドの相対的細胞溶解活性の比較に使用した濃度であった10μg ml-1までトキソイド濃度を上昇させると、かなり類似した状況が観察された。1から10μg ml-1までの10倍の濃度増加は、OVA/AC-により生成された細胞膜を横切る電流を約2倍に増加させた一方、OVA/E570Q+K860R/AC-の濃度を増加させても細胞透過性付与の実質的な増強は観察されなかった(10μg ml-1における測定のためにY軸のスケールが拡張されていることに注意)。示された記録は3つの独立した実験からの少なくとも6つの測定を表すものであり、E570Q及びK860R置換の組み合わせがJ774A.1細胞の膜を透過性とするトキソイドの能力に大きな影響を与えたことを実証している。同じ構築物の酵素活性を有するバージョンがJ774A.1細胞中へのACドメインの移行を完全に行なうことができたことを考えれば(図2B参照)、これらの結果は、CyaAの細胞透過性付与(膜孔形成)活性は、細胞膜を横切るACドメインの移行に必要でないということを強力に示唆する。
【0190】
CyaAの膜透過性付与活性は、パッセンジャー抗原の細胞質MHCクラスI経路へのデリバリーに重要でない。
細胞質cAMPについてのアッセイがAC-トキソイドの細胞透過能の評価に使用できないため、レポーターOVAエピトープをMHCクラスI抗原提示経路の細胞質プロセシング部位へデリバリーするそれらの能力についての代替アッセイを使用した(7、24)。これが終わりに近づいたころ、発明者らはトキソイドを負荷したC57BL/6マウス骨髄由来樹状細胞(BMDCs)の、APC上のSIINFEKL(OVA)ペプチドとKbMHCクラスI分子の複合体を選択的に認識するB3Z T細胞によるIL-2放出を刺激する能力を決定した。実際、CyaA/AC-トキソイドが細胞膜を横切ってBMDCの細胞質中にACドメインを移行させる能力が、H-2Kb MHCクラスI分子と複合化したデリバリーされたOVAエピトープの提示を促進するトキソイドの能力にとって必須であることは先に示されていた。これは、同様に、細胞障害性T細胞の特異的なインビトロでの刺激が起こるために必須である(29)。それにもかかわらず、プロテアソームプロセシング及びその後の提示のためのOVAエピトープのデリバリーがBMDCの細胞質へのその細胞膜を横切るACドメインの移行によるものであり、そして、流体相への取り込みによる添加された抗原のサンプリング又はエンドサイトーシスによるものでなかったことを確認することは重要であった。この目的のために、CyaAの膜貫通ドメイン中のグルタミン酸570及び581の電荷逆転性かつヘリックス破壊性の置換の組み合わせを有する二重に突然変異した非移行性OVA/E570K+E581P/AC‐トキソイド変異体を使用した(33)。この構築物は、標的細胞の膜を横切ってACドメインを移行させるその能力がE570K及びE581P置換の組み合わせにより除去された一方(図2B参照)、CD11b/CD18発現細胞に結合する完全な能力を示す(図2A参照)ことが先に示された。
【0191】
図4Aに示されるとおり、B3Zハイブリドーマ細胞は、OVA/E570Q/AC-及びOVA/E570Q+K860R/AC-トキソイドを負荷したBMDCとの同時インキュベーションにより効果的に刺激された。対照的に、細胞膜を横切るACドメインの移行能力を欠くOVA/E570K+E581P/AC-トキソイドを負荷したBMDCとの同時インキュベーションにより、B3Z刺激は観察されなかった。さらに、OVA/E570Q/AC-及びOVA/E570Q+K860R/AC-トキソイドはインビトロでAPCによるB3Zリンパ球の刺激を、無傷のOVA/AC-トキソイドと同じく高い効率で誘発した。これらの結果は、E570Q+K860R二重突然変異体が、Kb MHCクラスI分子によるOVAエピトープのプロセシング及び提示のためにそのACドメインをBMDC細胞質中へ移行させることが完全に可能である一方、本質的にはJ774A.1細胞を透過性とできないことを確認した。これらの結果は、CyaAの細胞透過性付与(膜孔形成)活性が細胞膜を横切るACドメインの移行に必要でなく、CyaAがAPC細胞質中にパッセンジャーエピトープをデリバリーする能力にも何の役割も果たさないことを示唆する。
【0192】
観察された非細胞溶解性トキソイドのインビトロでの抗原デリバリー能を裏付けるために、発明者らは、それらのインビボでのOVA特異的細胞障害性CD8+ Tリンパ球(CTL)の初回刺激能を評価した。さまざまなOVAトキソイド50μgをC57BL/6マウスに静脈内注射し、1週間後にOVA特異的CTL応答をインビボの殺滅アッセイにより免疫化マウスにおいて評価した。C57BL/6マウスはOVA(SIINFEKL)ペプチドを負荷したCFSEhigh及び非負荷CFSElow脾細胞の混合物(1:1)のi.v.注射を受け、1日後、CFSE標識細胞のFACS分析を受けた。図4Bに示されるとおり、疑似トキソイドによるマウスの免疫化は、SIINFEKL特異的なインビボのCTL活性を誘導しなかった。同様に、E570Q+K860Rトキソイドによる免疫化が、陽性対照として使用した突然変異していないトキソイドと同じOVA特異的なインビボのCTL殺滅応答を誘導し、無傷及び二重に突然変異したトキソイドに対する平均応答の値はわずかに相違したが、統計学的に有意ではなかった(p=0.065)。これらの結果は、CyaAの細胞透過性付与活性が、CyaA/233OVA/AC-トキソイドのAC挿入されたパッセンジャー抗原のAPC細胞質へのデリバリーのインビボでの能力に重要でなかったことを示す。
【0193】
検討
発明者らはここに、CyaAのACドメインのCD11b/CD18受容体発現性骨髄標的細胞の膜を横切る移行が、毒素の膜孔形成能及び細胞膜透過性付与能に依存しないことを実証した。
【0194】
図5中に提案されたモデルに要約されるとおり、発明者らは先に、CyaAの2つの活性の間のバランスがCyaAの突然変異又は代わりのアシル化によりシフトされることができることを報告した。実際、グルタミン酸509、516及び581によるリジンの置換(13、18)又は3D1モノクローナル抗体(MAb)によるAC移行のブロッキングにより(25)、ACを細胞中へデリバリーする能力を犠牲にした膜孔形成(溶血)活性の亢進が観察された。同様に、B.ペルツッシスにより産生された天然の(C16:0)パルミチル化Bp-CyaAに比較して、パルミトレイル(C16:1)残基によりE.コリ中でアシル化された組換えr-Ec-CyaAについて反対方向へのシフトが観察された。r-Ec-CyaAは、Bp-CyaAよりも約4分の1に低下した溶血活性及び約10分の1の低い膜孔形成活性を脂質二重層平面中で示すことが発見された一方、両CyaA形態は、細胞膜の透過及び赤血球中へのACドメインの移行において等しく活性であった(17、26)。さらに、最近、CyaA/E570Q構築物が、赤血球及びJ774A.1マクロファージの両方の中へACドメインをデリバリーする完全な能力を示す一方、J774A.1細胞に対する2分の1に低下した細胞溶解活性を示すCyaA/E570Q/AC-トキソイドでは、無傷のCyaAに比べて低下した溶血活性及び低い特異的膜孔形成能を脂質二重層平面中で示すことが発見された(8.13)。
【0195】
上で言及され、そして発明者らが特徴づけした多くの突然変異体CyaAにもかかわらず、CyaAによる膜孔の形成がCD11b発現細胞の膜を横切るACドメインの移行に必要であるか否か依然として疑問である。無傷のr-Ec-CyaAの溶血能力とB.ペルツッシスから精製された天然のBp-CyaAのそれとの先の比較に基づいて、ここに記載のr-Ec-CyaA/OVA/E570Q+K860R/AC-トキソイドのヒツジ赤血球に対する特異的な溶血活性が約3桁低下されるであろうことを言及するのは価値がある。そして、r-Ec-CyaA/OVA/E570Q+K860R/AC-のCD11b発現細胞に対する残留特異的細胞溶解活性は、Bp-CyaAのそれよりも約50倍低い一方、比較のために(無傷のrEc-CyaAを侵入性AC活性の100%の基準として用いて)両タンパク質のこれらの細胞中へACドメインをデリバリーする特異的能力は同じであろうと推定される。ここに記載のCyaA/233OVA/E570Q+K860R突然変異体は、大きく減少した細胞透過性付与能力を有し、細胞膜を横切ってACドメインを移行させることが完全に可能なままである最初の構築物である。これは、その細胞質への過程においてACドメインがCyaAにより形成されたカチオン選択性の膜孔をバイパスすることができることを示す。
【0196】
細胞膜を横切るACドメインの移行の様式及び経路は、しかしながら、さらに詳細に定義されるべく残っている。CyaAの膜孔形成及びACデリバリー活性に対するグルタミン酸509、516、570及び581の置換の効果が異なるとすると、2つの活性の間のバランスが特異的な置換によってどちらかの方向にほとんど完全にシフトすると(8、13、18)、これらのグルタミン酸残基を保持している両親媒性のへリックスは別のやり方でCyaAの両作用に関与するように見える。これは、ACドメインを細胞中にデリバリーすることのできない超溶血性CyaAを生じるE509K+E516K置換の組み合わせの効果の一方(8、18)、ここに記載のE570Q+K860Rの組み合わせが反対に、実質的に非細胞溶解性であって、J774A.1細胞(CD11b+)中へのACドメインの移行に完全に匹敵するCyaAを生じることによって裏付けられる。
【0197】
これらの観察結果はさらに、CyaAの2つの膜作用が膜に挿入された異なる配座異性体に依存し、1つは毒素モノマーによりACドメインの移行をもたらし、他方はCyaA膜孔オリゴマーの形成に導くという提案されたモデルを裏付ける(13,18)。膜に挿入された膜孔前駆体配座異性体が細胞の外部に位置するACドメインを有する場合にのみ、決定的なグルタミン酸残基509、516、570及び581を保持する膜貫通セグメントがオリゴマーでありカチオン選択的な細胞溶解性膜孔の形成に参加しうるということが提案される。AC移行性配座異性体においては、同じ膜貫通セグメントが膜中で異なるコンフォメーションを採用し、膜貫通セグメントへのACドメインのC-末端のポリペプチド結合によってCyaAオリゴマーを潜在的に押し出し、そして進入することを防ぐであろう。この解釈の裏づけは、Gray及びその共同研究者により得られた結果から推測されることができる(25)。これらの著者は、それを膜孔形成ドメインに結合しているセグメントとともにACドメインが(残基489まで)除去されるか、残基373と399の間に位置するACドメイン末端セグメントの膜移行をブロックする3D1抗体の結合が毒素の膜孔形成(溶血)活性を大きく亢進することを示した。これは、膜孔オリゴマーの形成にとって好ましいCyaAの膜貫通セグメントにコンフォメーションを付与することによるようである。膜孔形成ドメインの外のどのCyaAセグメントが膜を横切るACドメインの移行に関与するかがまだ定義されていない。その構造的一体性が必要であるとすると(27)、大きなRTX反復ドメイン(残基1006〜1706)は細胞中へのAC移行に参加しそうである。広げられた(unfolded)ACドメインの膜を横切る通過を、同時に細胞に透過性を付与する真の膜孔を形成せずに可能としうる、細胞膜内の親水性の移行インターフェースを形成するために、それは十分にサイズ調整(700残基)されるであろう。或いは、CyaAは反転した非層状の(反転した六方相)脂質構造であって(28)、潜在的にそこを通ってACドメインが細胞質に滑り込むことのできる、しっかりと密封されたタンパク−脂質インターフェースに参加するかもしれない。
【0198】
実際、CyaAは、反転した非層状(反転した六方相)脂質構造の形成を促進することが先に示された(28)。これらは潜在的に、しっかりと密封されたタンパク−脂質インターフェースの形成に参加し、そして、細胞が透過性付与されない状態において膜を横切るACドメインの移行を可能とする。非層状脂質構造の形成は、コレステロール富化脂質ラフトにおいて有利であり、CyaAは実際にその受容体CD11b/CD18と複合化してラフト中に移動することが最近発見された。さらに、発明者らは、ACドメインの膜を横切る移行が、CyaAのラフト中への再配置によってのみ達成されることを最近示した(L., Bumba, J., Masin, R., Fiser, and P., Sebo,)。興味深いことに、ジフテリア毒素(DT)の触媒サブユニットの細胞膜を横切る移行も、DTが切断されたGPI結合DT受容体への結合により低いpHによって細胞中へパルスされた場合、検出可能な透過性が細胞に付与されない状態でおこることが先に示された(34)。著者らは、GPI-結合DT受容体が脂質ラフト中に局在化されたかを調べなかったが、これは非常に可能性が高い。したがって、それは、ラフト膜の特異的な脂質組成が、真のタンパク質により行われる膜孔による細胞の透過性付与の形成を必要とせずに異なるタンパク質毒素の標的細胞中への移行を支援するという仮説をたてる気にさせるものである。
【0199】
言い忘れた大事なこととして、本明細書において報告された実際の発見は、細胞透過性付与(細胞溶解)活性が大きく低下したCyaA/E570Q+K860R/AC-トキソイドは、CD11b+APC中への抗原デリバリーにおいて完全に活性なままであるということである。これは、癌の免疫療法のための第二世代のCyaA/AC-由来のワクチンにおける腫瘍特異的抗原のデリバリーのための安全性プロフィールの向上したツールとしてのその潜在的使用に照らして重要である。
【0200】
【表2】
【0201】
【表3】
【0202】
【表4】
【0203】
【表5】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ以上の分子の細胞中へのデリバリーにおける使用に適したポリペプチドに関する。
【発明の概要】
【0002】
具体的には、本発明は、特に(本明細書中で「CD11b発現細胞」とも呼ばれる)CD11b/CD18受容体を発現する細胞を標的とすることによる、免疫応答を誘発することのできる1つ以上の分子の宿主中へのデリバリーにおける使用に適したポリペプチドに関する。
【0003】
より具体的には、本発明は、アデニレートシクラーゼタンパク質(CyaA)に由来するポリペプチドを対象とし、後者はポリペプチド突然変異体である毒素の形態又は無毒化タンパク質若しくはトキソイドの形態のいずれかで使用される。該ポリペプチド突然変異体は、天然のCyaAの標的細胞への結合活性を保持することができ、かつ、好ましくはそのN-末端ドメインを介する標的細胞中への移行活性をも保持することができ、さらには、天然のCyaA毒素のそれに比べて減少した又は抑制された膜孔形成活性を有する。
【0004】
本発明は、具体的には、タンパク質ベクターとしての該ポリペプチドの使用に関する。したがって、ポリペプチド突然変異体はさらに、非CyaA分子と組み合わせられ、それによって、ポリペプチド誘導体を生じさせ、ここで、上記分子は宿主に投与されたときに予防的ワクチンとしての及び/又は治療上の利益を有する。
【0005】
本発明によるポリペプチドは、分子、特に1つ以上のエピトープを含むアミノ酸配列を有するポリペプチド分子、特に抗原、の細胞中、特にCD11b発現細胞中へのデリバリーのためのタンパク質ベクターとしての使用に適している。
【0006】
したがって、本発明は、1つ以上の分子、特に免疫応答を誘発するのに適した1つ以上の分子、に再結合されて組み換えポリペプチド又は融合ポリペプチドを構成する本発明のポリペプチド突然変異体を含むか又はそれから成るポリペプチド誘導体(本発明のポリペプチド突然変異体の誘導体)にも関する。本発明はまた、上記分子を上記ポリペプチド突然変異体に化学的に移植することによって得られるポリペプチド誘導体にも関する。
【0007】
ある実施態様によれば、本発明のポリペプチド誘導体は、予防的治療、並びに特にワクチン接種及び免疫療法、具体的には対象において免疫応答を誘発するための免疫療法を含む治療方法における使用に適している。
【0008】
本発明に関連して本発明のポリペプチドの設計のために使用される天然のCyaAは、主にボルデテラ微生物、特に、ボルデテラ・ペルツッシス(Bordetella Pertussis)中で産生されるアデニレートシクラーゼであり、かつ、本発明に関連して上記タンパク質を特徴付ける目的で開示される以下の特徴及び性質を有するものである。
【0009】
二機能性の(アデニレートシクラーゼ毒素(CyaA、ACT又はAC-Hly)ともここで呼ばれる)RTXアデニレートシクラーゼ毒素−ヘモライシンは、百日咳の病原体であるボルデテラ・ペルツッシスの主要毒性因子である(1)。1706残基長のそのポリペプチドは、アデニレートシクラーゼ(AC)酵素のN-末端ドメイン又は部分(約400残基)のC-末端部分又はドメインを構成する約1306残基の膜孔形成性RTXヘモライシン(毒素細胞溶解素中の繰り返し(Repeat in ToXin cytolysin))への融合物である(2)。後者は、Lys860及びLys983のε−アミノ基の翻訳後パルミトイル化によるプロCyaAのCyaAへの活性化部位並びにそれを有することがCyaAの細胞毒性活性に必要とされる約40のカルシウム結合部位を形成する多数のRTX反復を有する(3、4)。CyaAタンパク質は、2つの内部リジン残基(860位及び983位のリジン)の翻訳後パルミトイル化によって活性毒素に変換される、不活性なプロ毒素として合成される。この翻訳後修飾は、アクセサリー遺伝子(すなわち、ボルデテラ・ペルツッシス染色体上のcyaA遺伝子近くに位置するcyaC)がcyaAと一緒に発現することを必要とする。
【0010】
該毒素は主に、CD11b /CD18、CR3又はMac-1としても知られる、αMβ2インテグリン受容体を発現する宿主の骨髄性食細胞を標的とする(5)。上記毒素は特に、そのC末端部に存在する受容体結合部位を介して、CD11b/CD18受容体を発現する細胞のCD11b/CD18受容体に結合する。したがって、これらの細胞は、天然の毒素の標的細胞であり、本発明のポリペプチドの標的細胞でもある。CyaAは、細胞の細胞膜中に進入し、上記標的細胞の細胞質中にAC酵素ドメインを移行させる(6、7)。細胞内部では、ACはカルモジュリンにより活性化されて、食細胞の殺菌機能の不全を引き起こす主要なセカンドメッセンジャーであるcAMPへの細胞のATPの制御されない変換を触媒する(1)。高用量(>100ng/ml)においては、CyaAにより触媒されるATPのcAMPへの消散は、細胞毒性となり、そしてアポトーシス又は急速なネクローシスによる死さえ促進し、かつ、CD11b+単球の溶解を促進する(8、9)。
【0011】
最近、発明者らは、CyaAがそのCD11b/CD18受容体のN-連結オリゴサッカライドに結合することを示した(10)。これは、偏在性の細胞表面タンパク質又は糖脂質のグリカンとの低特異性の相互作用が、その大きさが約2桁低下するが、CD11b/CD18を欠く細胞も貫通する検出容易なCyaAの能力を説明しうることを示唆している。実際に、ACドメインの極めて高特異性の触媒活性により、CyaAが、哺乳動物及び鳥類の赤血球、リンパ球、リンパ腫、神経膠腫、CHO、又は気管上皮細胞においても、実質的にcAMPを上昇させることが発見された(1、11)。
【0012】
従来技術において、アデニレートシクラーゼ活性が低下し、特に実質的に抑制された、トキソイドとも呼ばれる無毒化された毒素を提供することがすでに提案されている。かかるCyaA/AC-トキソイドは、本発明のポリペプチドの調製を達成するために使用されうる。
【0013】
cAMPの上昇のほかに、該毒素は哺乳動物及び鳥類の赤血球に対する弱い溶血活性も示す。これは、細胞膜を透過性とし、最終的にはコロイド浸透圧による細胞溶解を引き起こす、推定直径が0.6〜0.8nmの小さなカチオン選択性の孔を形成する能力による(12)。最近、発明者らは、CyaAの膜孔形成活性がその細胞浸潤性のAC酵素活性と相乗的に作用し、そして、CD11b+細胞に対するCyaAの細胞溶解能力全体に寄与することを示した(13、14)。無傷の膜孔形成(溶血)能力により、血清などの浸透圧保護剤の非存在下では、酵素活性のないCyaA/AC-トキソイド(15)は赤血球に対するなお完全な溶血活性及び、残存する10分の1に低下したCD11b発現性単球に対する細胞溶解活性を示し(8)、これは治療におけるその使用を制限する。
【0014】
CyaAの溶血(膜孔形成)及びAC膜移行(細胞浸入)活性は、低カルシウム濃度、低温(16)そしてCyaAのアシル化の程度及び性質(4、12、17)によって解離性であることが早期に発見された。さらに、この2つの作用は、電荷反転又は疎水性ドメイン内の509、516、570及び581位のグルタミン酸の中性置換に対する感受性が実質的に異なる(8、13、18)。したがって、CyaAの細胞浸入及び膜孔形成作用は相互に独立しそして標的細胞膜中で平行して作用すると提案された。図5Aに図示されたモデルは、2つの異なるCyaA配座異性体が平行して標的細胞膜に進入し、一つは移行前駆体であって、同時の細胞中へのカルシウムイオンの流入を伴う、細胞膜を横切るACドメインのデリバリーを説明し、他方は最終的に膜孔オリゴマーを形成する膜孔前駆体である(13、18、19)。
【0015】
発明者らは、ここにこのモデルを試験しそして改善し、膜孔形成作用が標的細胞を横切るACドメインの移行に関与しないことを示した。
【0016】
本発明においては、発明者らは、毒素又はトキソイド様式のいずれかのボルデテラ・ペルツッシスのアデニレートシクラーゼに特に基づいて、膜孔形成ドメイン(E570Q)及びアシル化含有ドメイン(K860R)内に置換の組み合わせを有するCyaA突然変異体ポリペプチドを最初に設計し、そしてこの特異的な置換の組み合わせがCyaAの細胞透過性付与作用を選択的に廃止し、そしてCD11b+細胞に対するCyaA/AC-トキソイドの残存細胞溶解活性を消滅させることを示した。同時に、E570Q+K860R構築物は、ACドメインを細胞の細胞質中に移行させて細胞内cAMPを増加させる能力を完全に保持し、そしてそのトキソイドは、該構築物内に挿入された分子を含むエピトープを、MHCクラスI拘束性の提示及びインビボにおける特異的な細胞障害性T細胞応答の誘導のために、樹状細胞の細胞質経路にデリバリーすることが完全に可能であった。
【0017】
発明者らにより設計され、そして実施例に記載されたようにOVA抗原性ペプチドがその中に挿入されたCyaA/233OVA/E570Q+K860R突然変異体は、細胞透過性付与能が大きく低下した一方、細胞膜を横切ってACドメインを移行させることが完全に可能なままであるというCyaA突然変異体の能力の実例となる最初の構築物である。
【0018】
発明者らはここに、CyaA/E570Q+K860R/AC-トキソイドとして特に例示され、その大きく低下した細胞透過性付与(細胞溶解)作用にもかかわらず、CD11b+APC中への抗原デリバリーにおいては完全に活性のままであることを示した特別な構築物を設計した。発明者らはさらに、例示的なCyaA/E570Q+K860R/AC-トキソイドの細胞溶解活性が全般的に非常に低いことを示した。したがって、それは動物又はヒト宿主における残留毒性がなく、そしてしたがって、治療における使用に非常に適している。
【0019】
したがって、本発明は、着目の分子、特に免疫原性ペプチド配列を有する分子、の治療を必要とする患者の細胞、より特別にはCD11b発現細胞、へのデリバリーのための新しいポリペプチドであって、トキソイドでありかつ安全性プロフィールの向上したタンパク質ベクターとして使用可能な上記ポリペプチドを提供する。
【0020】
発明者らにより実施された実験に基づいて、アデニレートシクラーゼタンパク質の突然変異体(突然変異体ポリペプチド)であり、そのアミノ酸配列が以下の配列の一つを含むか又はそれから成るポリペプチドを定義し、そして提供することが可能となった:
a)以下の突然変異が実施された、ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス(Bordetella parapertussis)又はボルデテラ・ヒンジイ(Bordetella hinzii)のアデニレートシクラーゼ(CyaA)のアミノ酸配列:
(i)グルタミン残基(E570Q)又は保存的アミノ酸残基による、570位のグルタミン酸残基の置換、及び
(ii)アルギニン残基(K860R)又は保存的アミノ酸残基による、860位のリジン残基の置換、或いは、
(b)ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス又はボルデテラ・ヒンジイのアデニレートシクラーゼ(CyaA)の断片のアミノ酸配列であって、該断片がボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記断片はさらに、上記アデニレートシクラーゼの570位及び860位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E570Q及びK860Rを含む、或いは、
(c)1つ以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入により、上記a)又はb)に定義されたアミノ酸配列と異なる、アミノ酸配列であって、ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記アミノ酸配列はさらに、上記アデニレートシクラーゼの570位及び860位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E570Q及びK860Rを含む、或いは、
(d)ボルデテラ・ブロンキセプティカ(Bordetella bronchiseptica)のアデニレートシクラーゼ(CyaA)のアミノ酸配列であって、以下の突然変異が実施されたもの:
(i)グルタミン残基(E569Q)又は保存的アミノ酸残基による、569位のグルタミン酸残基の置換、及び
(ii)アルギニン残基(K859R)又は保存的アミノ酸残基による、859位のリジン残基の置換、或いは、
(e)ボルデテラ・ブロンキセプティカのアデニレートシクラーゼ(CyaA)の断片のアミノ酸配列であって、該断片がボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記断片はさらに、上記アデニレートシクラーゼの569位及び859位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E569Q及びK859Rを含む、或いは、
(f)1つ以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入により、上記d)又はe)に定義されたアミノ酸配列と異なる、アミノ酸配列であって、ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記アミノ酸配列はさらに、上記アデニレートシクラーゼの569位及び859位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E569Q及びK859Rを含む。
【0021】
本発明の目的のためには、記載された断片のN-末端ドメインは、天然のCyaAタンパク質のN-末端部分の隣接アミノ酸残基を含む断片のアミノ酸配列であり、例えば、該断片のN-末端部分は、ボルデテラ・ペルツッシスCyaAタンパク質のN-末端ドメインの400アミノ酸残基の配列を形成する隣接残基の全て又は一部である。
【0022】
本明細書において、「E570Q」は、ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス又はボルデテラ・ヒンジイの天然のCyaAの570位におけるグルタミン酸残基の、グルタミン残基又は他の保存的残基、特に、その側鎖のサイズ及び親水性がグルタミン酸に近い残基、による置換を包含する。570位のグルタミン酸残基は、Gln、Asn、Met、Thr、Ser、Gly、Arg、Lys、Val、Leu、Cys、Ile、Aspから選ばれるアミノ酸残基により置換されることが好ましい。
【0023】
本明細書において、「K860R」は、ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス又はボルデテラ・ヒンジイの天然のCyaAの860位におけるリジン残基の、アルギニン残基又は他の保存的残基、特に、その側鎖のサイズ及び親水性がリジンに近い残基、による置換を包含する。860位のリジン残基は、Arg、Asn、Gln、Met、Thr、Ser、Gly、Val、Leu、Cys、Ileから選ばれるアミノ酸残基により置換されることが好ましい。
【0024】
本明細書において、「E569Q」は、ボルデテラ・ブロンキセプティカの天然のCyaAの569位におけるグルタミン酸残基の、グルタミン残基又は他の保存的残基、特に、その側鎖のサイズ及び親水性がグルタミン酸に近い残基、による置換を包含する。569位のグルタミン酸残基は、Gln、Asn、Met、Thr、Ser、Gly、Arg、Lys、Val、Leu、Cys、Ile、Aspから選ばれるアミノ酸により置換されることが好ましい。
【0025】
本明細書において、「K859R」は、ボルデテラ・ブロンキセプティカの天然のCyaAの859位におけるリジン残基の、アルギニン残基又は他の保存的残基、特に、その側鎖のサイズ及び親水性がリジンに近い残基、による置換を包含する。859位のリジンは、Arg、Asn、Gln、Met、Thr、Ser、Gly、Val、Leu、Cys、Ileから選ばれるアミノ酸残基により置換されることが好ましい。
【0026】
以下に記載の実施態様においては、「E570Q」及び「K860R」置換を含むボルデテラ・ペルツッシス突然変異体CyaAタンパク質又はタンパク質断片は、対応する「E570Q」及び「K860R」置換を含むボルデテラ・パラペルツッシス又はボルデテラ・ヒンジイ突然変異体CyaAタンパク質又はタンパク質断片、或いは対応する「E569Q」及び「K859R」置換を含むボルデテラ・ブロンキセプティカ突然変異体CyaAタンパク質又はタンパク質断片により交換されてよい。
【0027】
ボルデテラ・ペルツッシスの天然のCyaAも、アミノ酸配列及びヌクレオチド配列として、Glaser, P. et al, 1988, Molecular Microbiology 2(1), 19-30に記載されている。この配列は、図6に示されるとおり、配列番号1と呼ばれる。したがって、B.ペルツッシスのCyaAタンパク質のアミノ酸残基又は配列或いはヌクレオチド又はヌクレオチド配列が本発明中で引用される場合、それらの位置は、Glaser et al. 1988の上記文献に開示された配列に関して示される。
【0028】
本発明の実施態様において、ボルデテラ・ペルツッシスアデニレートシクラーゼのアミノ酸配列は、配列番号1として開示される配列である。
【0029】
本明細書中で配列番号1又は配列番号2について言及される場合、それは、技術的に関連がないものでない限り、開示された特徴がCyaAタンパク質を無毒化するために、配列番号1又は配列番号2中に残基を挿入することによって修飾された配列にも同様に適用されることは特に指摘される。かかる場合には、アミノ酸残基の番号付けは適合されなければならない(特に、天然の配列の570及び860位に関する限りにおいて)。
【0030】
有利には、CyaAタンパク質又はその断片は、細胞、特に組換え細胞中でのcyaA及びcyaC遺伝子の両方の同時発現の結果としてのタンパク質又はその断片である。実際、標的細胞についての侵入特性を有するためには、CyaAは、cyaA及びcyaC遺伝子の両方の発現により可能となる翻訳後修飾を受けなければならないことが示された(WO93/21324)。
【0031】
本発明の特別な実施態様においては、CyaAタンパク質は細菌タンパク質である。好ましい実施態様においては、CyaAタンパク質はボルデテラ種に由来する。
【0032】
本発明によれば、着目のボルデテラ種の中の一つはボルデテラ・ペルツッシスである。他の着目のボルデテラ菌株は、ボルデテラ・パラペルツッシス、ボルデテラ・ヒンジイ又はボルデテラ・ブロンキセプティカである。ボルデテラ・パラペルツッシスのCyaAタンパク質の配列が、特に(1740アミノ酸の配列として)寄託番号NC002928.3のもとに、そしてParkhill J. et al(Nat. Genet. DOI, 10(2003))中に、ボルデテラ・ヒンジイについてはDonato G.M. et al.(J. Bacteriol. 2005 Nov, 187(22):7579-88)中に、ボルデテラ・ブロンキセプティカについてはBetsou F. et al.,(Gene 1995, August 30; 162(1): 165-6)中に開示されている。ボルデテラ・パラペルツッシスの配列は、特に、寄託番号CAB76450のもとに開示され、図14に示されるように、本明細書中では配列番号7と呼ばれる。ボルデテラ・ヒンジイの配列は、特に、寄託番号AAY57201のもとに開示され、図15に示されるように、本明細書中では配列番号8と呼ばれる。ボルデテラ・ブロンキセプティカの配列は、特に、寄託番号CAA85481のもとに開示され、図16に示されるように、本明細書中では配列番号9と呼ばれる。したがって、ボルデテラ・パラペルツッシス、ボルデテラ・ヒンジイ、又はボルデテラ・ブロンキセプティカのCyaAタンパク質のアミノ酸残基又は配列は、本発明において引用される場合、それらの位置は、配列番号7、8及び9にそれぞれ開示される配列に関して示される。
【0033】
「アデニレートシクラーゼタンパク質のポリペプチド突然変異体」という表現は、ボルデテラにより発現される天然のアデニレートシクラーゼを除外する。上記のように、それは、2つの特異的アミノ酸残基の置換の組み合わせにおける、天然のタンパク質との一次的相違を特徴とする。それは、上記天然のタンパク質に関してさらに修飾されてよく、そして、特にそうして突然変異したタンパク質の断片、例えば、どちらかまたは両方の末端の残基が欠失されている、上記突然変異体タンパク質の欠失変異体、であってもよい。特に、C-末端の残基は、それがCD11b/CD18細胞受容体に関する認識および結合部位に影響しない範囲で、欠失されてもよい。或いは、又はさらに、残基は、それが得られた突然変異体ポリペプチドの移行能力に影響しないならば、N-末端において欠失されてもよい。それは、天然の突然変異体CyaAタンパク質の1つ以上の残基の内部欠失後に得られた断片であってもよい。
【0034】
本発明が本明細書に記述された断片である突然変異体ポリペプチドに関する場合、(ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質について言及される場合)突然変異した残基E570Q及びK860Rを必ず含む該断片は、突然変異した完全長CyaAが細胞に結合し、そしてそのN-末端ドメインが標的細胞、特にCD11b/CD18発現細胞の細胞質中へ移行する能力も保持している。
【0035】
したがって、本発明は、1つ以上の分子を細胞、特にCD11b/CD18受容体を発現する標的細胞中へデリバリーするための手段の設計において使用するのに適している。
【0036】
特に、本発明は、CyaAタンパク質の突然変異体ポリペプチドを提供し、該たんぱく質は、CyaA毒素に由来するか、又は好ましくはそのトキソイド、特にCyaA/AC-トキソイドに由来する。突然変異体ポリペプチドは、細胞、特に標的細胞、特にCD11b/CD18受容体を発現する標的細胞に結合することができ、それらのN-末端ドメイン又は該ドメインに挿入若しくは移植された分子を該細胞中に移行させ、そしてそれらの膜孔形成活性が、CyaA毒素又はトキソイドのものに比較して完全に又は部分的に抑制される。
【0037】
突然変異体ポリペプチドがCD11b/CD18細胞を標的とする能力は、特に、EP03291486.3及びEl-Azami-El-Idrissi M,. et al, J. Biol. Chem., 278(40)38514-21又はPCT国際特許出願公開第WO02/22169号中に開示された方法にしたがってアッセイされることができる。さらに、突然変異体ポリペプチドがエピトープまたは該エピトープを含むポリペプチドを標的細胞の細胞質中に移行させる能力は、PCT国際特許出願公開第WO02/22169号に記載された方法を適用することによってアッセイされることができる。
【0038】
CyaA毒素又はトキソイドの膜孔形成活性又は細胞膜透過性付与能の完全又は部分的な抑制は、膜孔形成能力、特に、細胞膜を透過性とし、そしてひいてはコロイド浸透圧による細胞溶解を引き起こす、推定される直径が0.6〜0.8nmのカチオン選択性の孔を形成する能力を完全又は部分的に抑制すると考えられる。膜孔形成活性は、実施例に記載の単一全細胞パッチクランプ実験を用いて測定可能である。
【0039】
CyaA毒素の膜孔形成活性は、細胞に対するその細胞溶解又は溶血活性全体に寄与する。実際、本発明に関連して、CyaAの細胞溶解又は溶血活性(又はその「総細胞毒性活性」)は、少なくともCyaA毒素のアデニレートシクラーゼ活性及び膜孔形成活性の結果であると考えられる。したがって、CyaA毒素の膜孔形成活性の完全又は部分的な抑制は、その細胞溶解活性の少なくとも部分的な抑制を可能とする。
【0040】
好ましい実施態様においては、本発明のポリペプチドの総細胞溶解活性、特に、CD11b/CD18受容体を発現する細胞に対する活性、は、ボルデテラ・ペルツッシスCyaA毒素のそれに比較して完全に又は部分的に低下している。本発明のポリペプチドの細胞溶解活性は、実施例に記載の被検ポリペプチドとともにインキュベートしたときに細胞により放出された(赤血球については)ヘモグロビン或いは(単球については)ラクテートデヒドロゲナーゼの量を測定することによって決定されることができる。
【0041】
好ましい実施態様においては、CD11b/CD18受容体を発現する細胞に対する本発明のポリペプチドの総細胞溶解活性は、ボルデテラ・ペルツッシスCyaA毒素のそれよりも又はそのアデニレートシクラーゼ活性が部分的又は完全に抑制されたボルデテラ・ペルツッシスCyaAタンパク質(又は「CyaAトキソイド」)のそれよりも少なくとも75%、さらに好ましくは少なくとも80%、85%、90%又は95%低い。特に好ましい実施態様においては、CD11b/CD18受容体を発現する細胞に対する本発明のポリペプチドの総細胞溶解活性は、そのアミノ酸配列が図2に示される(配列番号2)ボルデテラ・ペルツッシスCyaAトキソイドのそれよりも少なくとも75%、さらに好ましくは80%又は85%低い。
【0042】
好ましい実施態様においては、本発明は、アデニレートシクラーゼの突然変異体であって、そのアミノ酸配列が、以下の:(i)配列番号1に開示されるアミノ酸配列に関して突然変異されており、該突然変異がE570Q及びK860Rの置換を少なくとも含むアミノ酸配列、又は(ii)E570Q及びK860Rの置換を含み、標的細胞に結合可能であり、かつそのN-末端ドメインを細胞中に移行可能である限りにおける、配列番号1に開示された上記アミノ酸配列を有するCyaAタンパク質の断片、であるアミノ酸配列を含むか又はそれから成るポリペプチドに関する。
【0043】
本発明の特別な実施態様においては、配列番号1の570位のグルタミン酸残基のグルタミン残基による置換(「E570Q」と呼ばれる)、及び配列番号1の860位のリジン残基のアルギニン残基による置換(「K860R」と呼ばれる)を含む断片は、最初のN-末端残基又は1〜400位、好ましくは1〜380位の間に含まれるアミノ酸残基のうちの一つから始まり、CD11b/CD18細胞受容体のための認識及び結合部位を形成する残基まで伸長するCyaAタンパク質のアミノ酸配列を少なくとも包含し、かつ突然変異したE570Q及びK860R残基に対応する残基を含むか又は該アミノ酸配列から成る。特別な実施態様においては、E570Q及びK860R置換を含む断片は、配列番号1の1位のアミノ酸から配列番号1の372位のアミノ酸まで及ぶアミノ酸配列を含まない。
【0044】
好ましい実施態様においては、こうして調製された断片は、実質的にアデニレートシクラーゼ酵素活性(AC活性)を失っている。
【0045】
好ましい実施態様においては、本発明の突然変異体ポリペプチドは、E570Q及びK860Rの突然変異したCyaAアミノ酸配列をコードする突然変異体遺伝子とcyaC遺伝子の組み換え細胞中での同時発現、それに続く突然変異体CyaAの選択された発現断片の回収により生成される。
【0046】
好ましくは、本発明の突然変異体ポリペプチドは、配列番号1に示されるCyaAアミノ酸配列の983位のリジン残基に対応するリジン残基を有し、アシル化、特別にはパルミトイル化又はパルミトレイル化されている。
【0047】
或いは、本発明の突然変異体ポリペプチドは、配列番号1に示されるアシル化されていないCyaAアミノ酸配列の983位のリジン残基に対応するリジン残基を有する。
【0048】
特異的な実施態様においては、本発明の突然変異体ポリペプチドは、E570Q及びK860Rをもたらす残基の突然変異により配列番号1に開示されたCyaAアミノ酸配列から導かれたアミノ酸配列を有し、かつ、配列番号1に示される配列と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する。
【0049】
他の特異的な実施態様においては、本発明の突然変異体ポリペプチドは、配列番号1に開示されたCyaAアミノ酸配列とは、E570Q及びK860Rをもたらす残基の突然変異により、さらにE570Q及びK860R置換を含む、1〜500、特別には、1〜400、1〜300、1〜200、1〜100、1〜50、1〜40、1〜30、1〜25、1〜20、1〜15、1〜10、又は1〜5個のアミノ酸残基の置換、欠失、及び/又は挿入をもたらす突然変異により異なる。
【0050】
特異的な実施態様においては、本発明の突然変異体ポリペプチドは、ボルデテラ・ペルツッシスCyaAアミノ酸配列に比較して、E570Q及びK860R置換以外のいかなるアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入も有さない。特異的な実施態様においては、突然変異体ポリペプチドは、図7に示される配列番号2のアミノ酸配列を有する。他の特異的な実施態様においては、配列番号2のアミノ酸配列に比較した唯一のさらなるアミノ酸置換、欠失、及び/又は挿入は、特に188及び189位のアミノ酸の間への「LQ」又は「GS」ジペプチドなどのジペプチドの挿入などの、CyaAタンパク質のアデニレートシクラーゼ酵素活性を完全又は部分的に抑制する、アミノ酸置換、欠失及び/又は挿入から成る。
【0051】
特別な実施態様においては、本発明の突然変異体ポリペプチドは、E570Q及びK860R置換に加えて、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入により配列番号1に示されるCyaAアミノ酸配列と相違する。
【0052】
特別な実施態様においては、E570Q及びK860R置換に加えて、ボルデテラ・ペルツッシスの天然のCyaAタンパク質の247位のロイシン残基がグルタミン残基で置換されるか(L247Q)又は他のアミノ酸残基、特に保存的アミノ酸残基で置換される。
【0053】
配列番号1に開示されるアミノ酸配列の本明細書中に開示される断片である、本発明の突然変異体ポリペプチドは、残基E570Q及びK860Rを包含する、配列番号1のうちの少なくとも約350アミノ酸残基かつ約1705アミノ酸残基以下を有する1つ以上の断片、特に、配列番号1の少なくとも400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600アミノ酸残基を含む断片を含む配列であると理解される。本発明の突然変異体ポリペプチドはまた、残基570及び860を包含する、配列番号2のうちの少なくとも約350アミノ酸残基であって約1705アミノ酸残基以下の1つ以上の断片、特に、配列番号2の少なくとも400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600アミノ酸残基を含む断片を含む配列番号2に開示されたアミノ酸配列の断片であるとも定義されることができる。好ましくは、上記断片はCD11b/CD18細胞受容体に結合する能力及びそれらのN-末端ドメインを標的細胞中に移行させる能力を保持する。好ましくは、本発明の突然変異体ポリペプチドは、E570Qとしてのアミノ酸残基570からK860Rとしてのアミノ酸残基860まで、又は元の配列番号1に対してE570Q及びK860R突然変異が観察される限りにおいて、配列番号1の1〜860、又は2〜860を含む一続きのアミノ酸を有する断片である。
【0054】
好ましい実施態様においては、断片はさらに、CD11b/CD18標的細胞との相互作用のために、CyaAタンパク質の配列番号1に示されるCyaAアミノ酸配列のアミノ酸残基1166〜1281、又はアミノ酸残基1208〜1243を含む。
【0055】
特別な断片は、したがって、本発明のポリペプチドの標的細胞膜及び/又はCD11b/CD18受容体への結合、及び細胞の細胞質中への該ポリペプチドのN-末端ドメインのその後のデリバリーに関与する、天然のタンパク質のC-末端部分の全て又は一部を包含する。本発明の特別なポリペプチドは、残基570及び860がE570Q及びK860Rとして突然変異されている限りにおいて、CyaAタンパク質の、特に配列番号1のアミノ酸残基373〜1706を含むCyaAタンパク質の断片である。
【0056】
他の好ましい実施態様においては、かかる断片である突然変異体ポリペプチドは以下の:
a)アミノ酸残基570をE570Qとして含み、さらに配列番号1に比較して0、1、2、3、4、又は5個の欠失、置換又は挿入を含む、配列番号1からの少なくとも100の長さの連続したアミノ酸残基に対応する、第1のアミノ酸配列、及び
b)アミノ酸残基860をK860Rとして含み、さらに配列番号1に比較して0、1、2、3、4、又は5個の欠失、置換又は挿入を含む、配列番号1からの少なくとも100の長さの連続したアミノ酸残基に対応する、第2のアミノ酸配列、及び好ましくは、
c)CD11b/CD18標的細胞との相互作用のための、CyaAタンパク質の配列番号1に示されるCyaAアミノ酸配列のアミノ酸残基1166〜1281又はアミノ酸残基1208〜1243を含む、第3のアミノ酸配列、
を含む。
【0057】
本発明の他の特別なポリペプチドは、E570Q及びK860R突然変異を有するCyaAタンパク質であって、アミノ酸残基225〜234が欠失されており、したがって、突然変異体タンパク質の残基1〜224及び235〜1706を含む断片を提供するものに対応する断片である。
【0058】
特別に好ましい実施態様においては、本発明のポリペプチド断片は、CD11b/CD18受容体への特異的結合の結果として該受容体を発現する細胞に結合する。
【0059】
好ましい実施態様においては、細胞中のポリペプチドのアデニレートシクラーゼ活性は、ボルデテラ・ペルツッシスCyaA毒素のそれに比較して部分的に又は完全に抑制される。上記のとおり、「CyaAタンパク質」という表現は、タンパク質の毒素形態又は好ましくはトキソイド形態のいずれかに関連する。したがって、CyaAタンパク質の突然変異体であるポリペプチドに関連する本発明の各実施態様は、該たんぱく質の毒素又はトキソイド形態のそれぞれに当てはまる。
【0060】
CyaAアデニレートシクラーゼ又は酵素活性の完全又は部分的な抑制は、細胞中のcyaA及びcyaC遺伝子の同時発現によって生成されたCyaA毒素のそれに比較して、細胞内環境中でATPをcAMPへ変換する能力の完全又は部分的な抑制として理解される。ATPをcAMPに変換する能力は、細胞内cAMPレベルを実施例に記載のとおりに測定することによって決定されることができる。
【0061】
かかる完全又は部分的な抑制は、例えば、1〜10アミノ酸、特にはジペプチドを含む短いアミノ酸配列の、触媒部位の一部であるCyaAのアミノ酸配列の部位、すなわち、配列番号1の最初の400アミノ酸(ACドメイン)内に位置する部位、への導入による、又は酵素活性のために必須である配列番号1に示されるCyaAアミノ酸配列の一部の欠失又は置換による遺伝子不活性化の結果として得られることが可能である。好ましい実施態様においては、CyaA酵素活性の完全又は部分的な抑制は、配列番号1に示されるCyaA配列の188及び189位のアミノ酸の間への「LQ」又は「GS」ジペプチドなどのジペプチドの挿入によって得られる。これは、「CTG CAG」又は「CGA TCC」などのオリゴヌクレオチドを、cyaA遺伝子のコーディングフェーズ(coding phase)の564位においてEcoRV部位に挿入することによって達成可能である。Ladant et al., 1992を参照のこと。あるいは、酵素活性の完全または部分的な抑制は、天然のCyaAボルデテラ・ペルツッシスタンパク質の58又は65位のリジン残基をGln残基で置換することなどの定方向突然変異誘発(Glaser et al., 1989)によっても得ることができる。
【0062】
本発明のポリペプチドは、配列番号1、7、8又は9のアミノ酸配列を有するCyaAポリペプチドから以下のようにして得られてもよいポリペプチドとして定義されることもできる:
a)配列番号1、7、8の570位又は配列番号9の569位のグルタミン酸残基をグルタミン残基によって又は保存的アミノ酸残基によって置換すること、
b)配列番号1、7、8の860位又は配列番号9の859位のリジン残基をアルギニン残基によって又は保存的アミノ酸残基によって置換すること、及び
c)場合により、得られたポリペプチドが、ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質の標的細胞への結合能力及びそのN-末端アデニレートシクラーゼ酵素ドメイン又はその一部を上記細胞中へ移行させる能力を有するという条件において、a)及びb)に記載された位置以外の位置において1つ以上のアミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失を実施すること。
【0063】
好ましくは、ステップa)において、グルタミン酸残基は、Gln、Asn、Met、Thr、Ser、Gly、Arg、Lys、Val、Leu、Cys、Ile、Aspから選ばれるアミノ酸残基により置換され、最も好ましくは、Glnにより置換される。好ましくは、ステップb)において、リジン残基は、Arg、Asn、Gln、Met、Thr、Ser、Gly、Val、Leu、Cys、Ileから選ばれるアミノ酸残基、最も好ましくは、Argにより置換される。
【0064】
特異的な実施態様においては、ステップc)において更なるアミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失は行われない。
【0065】
特に、ステップc)は一方又は両方の末端の切断を含んでよい。特に、C-末端における残基は、それがCD11b/CD18細胞受容体の認識及び結合部位に影響しない限りにおいて、欠失されてよい。或いは又はさらに、それが得られた突然変異体ポリペプチドの移行能力に影響しないという条件においてN-末端において残基は欠失されてよい。ステップa)及びb)に記載されたもの以外の位置における天然のCyaAタンパク質の1つ以上の残基の内部欠失も実施されてよい。特別な実施態様においては、ステップc)は、CyaAポリペプチドのN-末端アミノ酸配列において380以下、又は400以下のアミノ酸の欠失を含み、好ましくは、配列番号1、7、8又は9の1位のアミノ酸から配列番号1、7、8、又は9の372位の一つながりのアミノ酸に及ぶアミノ酸の欠失を含む。
【0066】
好ましくは、ステップc)を実施した後、得られたポリペプチドは、天然のタンパク質のC-末端部分の全て又は一部を包含し、該部分は本発明のポリペプチドの標的細胞の膜及び/又はCD11b/CD18受容体への結合、そしてその後のポリペプチドのN-末端ドメインの細胞の細胞質中へのデリバリーに関与する。特別な実施態様においては、ステップc)において、配列番号1、7又は8のアミノ酸残基373〜1706、又は配列番号9のアミノ酸残基373〜1705は欠失されない。好ましい実施態様においては、ステップc)において、配列番号1、7又は8のアミノ酸残基1208〜1243、又は配列番号9のアミノ酸残基1207〜1242は欠失されない。
【0067】
好ましい実施態様においては、ステップc)は、CyaAタンパク質のアデニレートシクラーゼ酵素活性を完全又は部分的に抑制するアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含む。かかる完全又は部分的な抑制は、特には配列番号1、7、8又は9の最初の400アミノ酸(ACドメイン)内に位置する部位中に、例えば、1〜10アミノ酸、特別にはジペプチドを含む短いアミノ酸配列を導入することにより、又は配列番号1、7、8又は9に示されるCyaAアミノ酸配列の酵素活性に必須の一部の欠失又は置換により得られることが可能である。好ましい実施態様においては、CyaA酵素活性の完全又は部分的な抑制は、「LQ」又は「GS」ジペプチドなどのジペプチドを、配列番号1、7、8、又は9に示されるCyaA配列の188及び189位のアミノ酸の間に挿入することによって得られる。或いは、酵素活性の完全又は部分的な抑制は、天然のCyaAボルデテラ・ペルツッシスタンパク質の58又は65位のリジン残基をGln残基により置換することによる、定方向突然変異誘発によっても得られることができる(Glaser et al., 1989)。
【0068】
好ましくは、ステップc)においては、配列番号1、7、8に示すCyaAアミノ酸配列の983位又は配列番号9の982位のリジン残基は置換も欠失もされない。1つの実施態様においては、このリジン残基はアシル化され、特別にはそれはパルミトイル化又はパルミトレイル化される。或いは、このリジン残基はアシル化されない。
【0069】
好ましくは、ステップc)を実施した後、得られたポリペプチドは、配列番号1、7、8又は9に示される配列と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する。
【0070】
さらに好ましくは、ステップc)を実施後、得られたポリペプチドは、配列番号1、7、8又は9に示される配列とは、ステップa)及びb)から得られたアミノ酸残基の置換により、及び1〜500、特別には1〜400、1〜300、1〜200、1〜100、1〜50、1〜40、1〜30、1〜25、1〜20、1〜15、1〜10又は1〜5個のさらなるアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入により異なるアミノ酸配列を有する。特別な実施態様においては、ステップc)の実施後、得られたポリペプチドは配列番号1、7、8又は9に示されるCyaAアミノ酸配列とは、ステップa)及びb)において実施された置換に加えて、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入により異なる。
【0071】
本発明は、1つ以上の着目の分子とさらに組み合わされた本発明の突然変異体ポリペプチドを含むか又はそれからなるポリペプチド誘導体にも関する。好ましい実施態様においては、着目の分子は、単独で又は本発明のポリペプチドに組み合わされた生理活性を有する分子である。上記分子は、特に予防的価値又は治療的価値を有することができ、すなわち、予防的又は治療的活性を有するか或いは予防的又は治療的活性を高めることができる。
【0072】
特異的な実施態様においては、着目の分子は、以下の:ペプチド、グリコペプチド、リポペプチド、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、核酸、脂質及び化学物質を含む群から選ばれる。
【0073】
特異的な実施態様においては、1つ以上の着目の分子は、ポリペプチド分子であるか又はポリペプチド分子を含む。それらのアミノ酸配列は、2〜1000、好ましくは5〜800、5〜500、5〜200、5〜100、8〜50、5〜25、5〜20又は8〜16、或いは300〜600、400〜500のアミノ酸残基を含んでよい。
【0074】
好ましい実施態様においては、1つ以上の着目の分子は、(「異種抗原」とも呼ばれる)免疫反応を誘発するのに好適な異種アミノ酸配列、特に、抗原を含むエピトープを含むか又はそれからなるアミノ酸配列である。本明細書において使用されるとおり、「異種」という用語は、ベクター自体において使用される突然変異体ポリペプチドとは別の抗原をさす。本明細書において使用されるとおり、「エピトープ」という用語は、宿主の免疫系に提示されたときに免疫反応を誘発することのできる異種分子、及び特に異種ペプチドをさす。特に、かかるエピトープは、8、9、10、11、12、13、14、15、又は16個の長さのアミノ酸残基を含むか又はそれからなることができる。或いは、それは完全長の抗原又は抗原断片からなる。
【0075】
特異的な実施態様においては、本発明のポリペプチド誘導体は、その中で「OVA」抗原配列をコードするDNA配列が1つ以上のエピトープを含む抗原配列をコードするDNA配列により置換されている、寄託番号CNCM I-4137(図12)のもとに寄託されたOVA-QR-AC-プラスミドに相当するプラスミドによりコードされることができる。
【0076】
免疫応答を誘発するのに好適なポリペプチド分子は、特に、その例としてCTL反応を含む、T細胞免疫応答を誘発するものである。免疫応答を誘発するのに好適なポリペプチド分子は、B細胞免疫応答を誘発するものであることもできる。
【0077】
特異的な実施態様においては、異種抗原は、細菌病原体、腫瘍細胞抗原、ウイルス抗原、レトロウイルス抗原、真菌抗原又は寄生細胞(parasite cell)抗原からなる群から選ばれる。
【0078】
着目の分子は、特に、以下の:クラミジア抗原、マイコプラズマ抗原、肝炎ウイルス抗原、ポリオウイルス抗原、HIVウイルス抗原、インフルエンザウイルス抗原、脈絡髄膜炎ウイルス抗原、腫瘍抗原又は少なくともエピトープを含むこれらの抗原の一部からなる群から選ばれることができる。
【0079】
本発明のポリペプチド誘導体の好ましい実施態様においては、免疫応答を誘発するのに好適な上記各分子のアミノ酸配列は、クラミジア抗原、マイコプラズマ抗原、肝炎ウイルス抗原、ポリオウイルス抗原、HIVウイルス抗原、インフルエンザウイルス抗原、脈絡髄膜炎ウイルス抗原、腫瘍抗原のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるか、或いは、少なくとも1つのエピトープを含むこれらのいずれかの抗原のアミノ酸配列の一部を含むか又はそれからなる。
【0080】
特に好ましい実施態様においては、着目の分子は、腫瘍関連抗原(TAA)である。腫瘍関連抗原は、黒色腫、特に転移性黒色腫;肺がん;頭部及び頸部癌;子宮頸部癌;食道癌;膀胱癌、特に浸潤性膀胱癌;前立腺癌;乳癌;結腸直腸癌;腎細胞癌;肉腫;白血病;骨髄腫などの多くの腫瘍により特徴づけられる。これらのさまざまな病理学的タイプの癌については、抗原ペプチドは、腫瘍サンプル上で特異的に発現され、そしてT細胞、特にCD8+T細胞又はCD4+T細胞により認識されることが示されている。
【0081】
これらのタイプの腫瘍において腫瘍関連抗原として発見されたペプチドについての総説は、Van der Bruggen P. et al(Immunological Reviews, 2002, vol 188: 51-64)により作成された。特に、該総説の表3中に含まれるペプチドの開示は、かかる腫瘍関連抗原の例を提供するものとして本明細書において引用され、該表3は、本出願に参考文献として援用されている。
【0082】
以下の抗原は、Kawakami Y. et al(Cancer Sci, October 2004, vol.95, no. 10, p784-791)の文献によれば、T細胞により認識される腫瘍関連抗原の例として引用され、該文献は、これらの抗原又はさらにMAGE(特に、黒色腫において)、NY-ESO-1、Her2/neu、WT1、Survivin、hTERT、CEA、AFP、SART3、GnT-V、を含むさまざまな癌に共通するもの、以下の:黒色腫のためのβ-カテニン、CDK4、MART-2、MUM3、gp100、MART-1、チロシナーゼ;白血病のためのbcr-abl、TEL-AML1;前立腺癌のためのPSA、PAP、PSM、PSMA;骨髄性白血病のためのプロテイナーゼ3;乳がん、卵巣癌又はすい臓がんのためのMUC-1;リンパ腫のためのEBV-EBNA、HTLV-1 tax、子宮頸部癌のためのATL;腎細胞癌のための突然変異体HLA-A2;白血病/リンパ腫のためのHA1などのいくつかの特別な癌に特異的な抗原をスクリーニングする方法も提供する。動物における腫瘍関連抗原も、ネコ又はイヌを侵す腫瘍におけるサイクリン D1及びサイクリン D2などが記載されている。
【0083】
T細胞により認識される腫瘍関連抗原は、Novellino L. et al(Immunol Immunother 2004, 54: 187-207)にも開示されている。
【0084】
より一般的には、本発明における着目のTAAは、突然変異した抗原又は腫瘍細胞上で過剰発現される抗原、共通抗原、組織特異的分化抗原又はウイルス抗原に相当するものである。
【0085】
本発明の特別な実施態様においては、腫瘍関連抗原は、パピローマウイルス(HPV)の抗原又はチロシナーゼである。
【0086】
本発明の他の特別な実施態様によれば、エピトープを含むか又はそれからなるポリペプチド分子のアミノ酸配列は、たとえば、配列内の陰性に荷電したアミノ酸残基の数を減少させるなどのためにそれらの天然のアミノ酸配列に関して修飾されている。かかる修飾は、これらの陰性荷電したアミノ酸残基のいくつかを除去すること又はいくつかの陽性荷電したアミノ酸残基、特に、エピトープに隣接する残基、を付加することによっても行われることができる。こうしてより少ない陰性荷電残基を含むポリペプチドは、本発明のポリペプチド誘導体の触媒ドメインの標的細胞の細胞質中の移行に好都合であるかもしれない。
【0087】
エピトープ又は抗原を含むか又はそれからなるポリペプチド分子のアミノ酸配列は、それらが本発明のポリペプチド誘導体中に挿入されたときに広げられ(unfolded)、本発明の着目の分子の標的細胞中への内部移行の効率を改善するように設計されることもできる。それらのアミノ酸含有量の結果として折りたたまれるポリペプチドにおけるかかるアンフォールディング(unfolding)は、たとえば、ポリペプチドの折りたたみに関与しうるジスルフィド結合の形成を防止するためにシステイン残基を除去又は置換することによって行われることができる。いくつかの場合には、インビボでの再折りたたみを避けることのできる還元剤の存在下でポリペプチドを調製することによって、ポリペプチドの折りたたみを防ぐことが可能である。
【0088】
特別な実施態様においては、アミノ酸配列、特に抗原、は、潜在性エピトープを含むか又はそれからなることができる。
【0089】
発明者らは、実際に、(i)本明細書に開示された定義によるCyaAタンパク質の突然変異体(ポリペプチド突然変異体)である本発明のポリペプチド及び(ii)1つ又は数個の抗原の1つ又は数個の抗原断片を含むアミノ酸配列を有するポリペプチド分子を含むポリペプチド誘導体構築物が、上記抗原の潜在性エピトープが構築物中でのそれらの提示の結果として免疫原性となることを可能とすると判断した。特に、免疫療法のためのワクチン接種を含む予防的又は治療的適用のための着目の抗原に由来するポリペプチド分子を含む、本発明において定義された突然変異体ポリペプチドを含む上記構築物の目的は、該突然変異体ポリペプチドのN−末端ドメインの移行の結果として該ポリペプチド分子が内部移行されることが可能となる標的細胞におけるプロセシングである。かかるプロセシングは、標的細胞のクラスI MHC分子を介するエピトープの提示を可能とし、そして、該エピトープは上記抗原の潜在性エピトープを含むことができ、該潜在性エピトープは免疫原性となり、そして特に宿主においてT細胞応答、特にCTL応答を引き起こすことができる。
【0090】
したがって、本発明はポリペプチド誘導体、特に、組換えタンパク質にも関し、該組換えタンパク質は、特に1つ又は数個の抗原の1つ又は数個のエピトープ又は該抗原を含むアミノ酸配列を有する1つ又は数個のポリペプチド分子を含み、該ポリペプチド分子のアミノ酸配列は、本発明の突然変異体ポリペプチドの同じ又は異なる部位、特に異なる許容部位に挿入され、該組換えタンパク質は抗原提示細胞(APC)を標的とするCyaA毒素の性質を保持しており、ここで、少なくとも1つの上記エピトープがサブドミナントな潜在性T細胞エピトープであり、そして上記ポリペプチド誘導体、特に上記組換えタンパク質は、抗原特異的な応答を上記ポリペプチド分子に対して誘発することができる。
【0091】
本発明のポリペプチド誘導体の特異的な実施態様においては、1つ以上のアミノ酸配列が1つ以上の部位、特に許容部位に挿入される。
【0092】
本発明のためには、「許容部位」は、CyaAタンパク質の所望の機能的性質に実質的に影響することなく、特に、CyaAによる細胞のターゲティング、特に、CD11b/CD18への特異的結合に実質的に影響せず、そして、有利には標的細胞中へのCyaA N-末端ドメインの移行プロセスに関与するタンパク質のドメインに実質的に影響しないことを含んで、抗原提示細胞(APC)のターゲティングに実質的に影響することなく、ポリペプチドが挿入されることのできるCyaAタンパク質の配列の部位である。
【0093】
許容部位の選択方法は、例えば、PCT国際特許出願公開第WO93/21324号、Ladant et al., 1992、及びOsicka et al., 2000(Infection and Immunity, 2000, 68(1): 247-256)に表されている。特に、二重選択(double selection)を用いる方法(抗生物質に対する耐性及びアルファ相補性によるディッシュ上の比色試験)は、毒素のN-末端触媒ドメインをコードする遺伝子の部分への(読み枠を保存する)オリゴヌクレオチドの挿入を容易に同定することができる。毒素の触媒活性へのこれらの突然変異の機能的結論は、遺伝的に(大腸菌(E.coli)cya-菌株の機能相補)及び生化学的に(修飾されたアデニルシクラーゼの安定性、それらの酵素活性、caMとのそれらの相互作用などの特徴づけ)容易に分析されることができる。この方法は、抗原決定基の挿入のために有利である可能性のある部位を同定するために、多くの突然変異がスクリーニングされることを可能とした。
【0094】
CyaA触媒ドメインの移行そしてかかる許容部位へ挿入されたアミノ酸配列の移行を可能とする、ボルデテラ・ペルツッシスアデニレートシクラーゼの許容部位は、残基137〜138(Val-Ala)、残基224〜225(Arg-Ala)、残基228〜229(Glu-Ala)、残基235〜236(Arg-Glu)及び残基317〜318(Ser-Ala)を含むがこれらに限定されない(Sebo et al., 1995)。以下の追加の許容部位も、本発明の実施態様に含まれる:残基107〜108(Gly-His)、残基132〜133(Met-Ala)、残基232〜233(Gly-Leu)、及び335〜336(Gly-Gln)及び336〜337。しかしながら、特にCyaAタンパク質の残基400及び1700の間の部位である他の許容部位が本発明において使用されてよく、例えば、上記の方法を用いて同定されることができる。
【0095】
他のボルデテラ種については、配列の比較及び対応する残基の決定により、対応する許容部位が定義されることができる。
【0096】
他の実施態様によれば、本発明のポリペプチドの一方及び/又は他方の末端(端部)、好ましくは、ボルデテラ・ペルツッシスCyaAタンパク質のN-末端触媒ドメインの全て又は一部、より特別に好ましくは、残基1−373を欠く突然変異体CyaAポリペプチドのN-末端、において1つ以上のアミノ酸配列ポリペプチドがさらに、又は代わりに挿入されることができる。
【0097】
特異的な実施態様によれば、免疫応答を誘発するのに好適な1つ以上のアミノ酸配列が上記ポリペプチドのアミノ酸残基に移植される。
【0098】
本発明によれば、「組換えタンパク質」又は「ハイブリッドタンパク質」とも呼ばれる、いわゆるポリペプチド誘導体を提供するための、アミノ酸配列とCyaA突然変異体ポリペプチドとの「結合」(または挿入)は、特に、利用可能なDNA技術による遺伝子の挿入を包含する。或いは、「結合」は、特にアミノ酸配列の1つの末端において実施される共有結合、又は非共有結合などの化学的挿入を含む、非遺伝的挿入も包含する。挿入されるアミノ酸配列が合成又は半合成によるものである場合には、非遺伝的挿入は特に興味深い。薬物をポリペプチドに結合させる方法は本分野で周知であり、例えば、N-ピリジルスルホニルで活性化されたスルフヒドリルを用いることによるジスルフィド結合を含む。
【0099】
特に、インビボでのAPC、例えば、CD11b/CD18陽性細胞などのCyaA標的細胞、及び特別には該細胞の細胞質に対するターゲティングのために、化学結合または遺伝的挿入によって本発明のポリペプチドに分子を移植することが可能である。実際、ジスルフィド結合又は遺伝的挿入により、所与のCD8+ T細胞エピトープに対応する分子を無毒化したCyaAの触媒ドメインに結合させる場合、遺伝子工学による分子はインビボで特異的CTL応答を誘発することができることが発見され、それによって、上記CD8+ T細胞エピトープがCD11b発現細胞の細胞質中に移行されることを示す。
【0100】
本発明の好ましい実施態様においては、突然変異体CyaAポリペプチドは、タンパク質ベクターの製造において、又は特にCD8+細胞障害性T細胞応答(CTL応答)が、着目の分子で修飾された(特に、組換え又は複合体化された)突然変異体CyaAポリペプチドのCD11b発現細胞へのターゲティングに続き、その後に上記CD11b発現細胞、特に骨髄性樹状細胞、の細胞質への着目の分子の移行が起こる場合、上記応答の初回刺激のために特異的に設計された組成物の調製において使用される。この関係において、着目の分子は好ましくはエピトープ又は抗原であるか又はそれを含む。
【0101】
本発明の他の好ましい実施態様においては、突然変異体CyaAポリペプチドは、タンパク質ベクターの製造において、又はCD4+細胞応答が、着目の分子で修飾された(特に、組換え又は複合体化された)アデニレートシクラーゼのCD11b発現細胞、特に骨髄性樹状細胞、へのターゲティングに続く場合、CD4+細胞応答の初回刺激のために特異的に設計された組成物の調製において使用される。これに関して、着目の分子は、好ましくはエピトープ又は抗体を含む。
【0102】
突然変異体ポリペプチドは、CD11b発現細胞への予防的又は治療的化合物のターゲティングのためのタンパク質ベクターの製造において使用されることもできる。これに関して、本発明の1つの特異的実施態様においては、いわゆる着目の分子は予防的又は治療的価値を有し、そして特に、薬物である。上記予防的又は治療的化合物及び特に上記薬物は、突然変異体ポリペプチドに化学的又は遺伝的に結合されることができる。ポリペプチドへの化合物の結合方法は本分野において周知であり、そして、例えば、N-ピリジルスルホニルで活性化されたスルフヒドリルを用いることによるジスルフィド結合を含む。1つの実施態様においては、着目の分子は、抗炎症性化合物であり、それは、突然変異体ポリペプチドに結合された場合、特に、樹状細胞や好中球などの炎症反応に関与する細胞の表面を標的とする。
【0103】
より特異的には、選択的なCD8+細胞障害性細胞の初回刺激のための抗原提示は、主に骨髄性樹状細胞により実施される。
【0104】
したがって、特異的な実施態様においては、タンパク質ベクターの製造のために使用される突然変異体CyaAポリペプチドは、突然変異体CyaAポリペプチドの触媒ドメイン内に位置する、遺伝的に挿入されたシステイン残基にジスルフィド結合によって化学結合された1つ以上の分子を含む、遺伝子組換えアデニレートシクラーゼである。実際、触媒ドメイン内の異なる許容部位に位置する異なるシステイン残基へのジスルフィド結合により、複数の分子が突然変異体CyaAポリペプチドに化学結合されることができる。
【0105】
本発明の突然変異体ポリペプチドまたはポリペプチド誘導体は、治療又は予防における使用に適している。
【0106】
治療的又は予防的効果により、患者の状態に対して有益である任意の効果が意図され、病理学的状態の進行を制限することを含む、治癒的な又は病理学的状態の症状又は予後を制限するのに十分なものである。治療又は治療効果には、病理学的状態の発症の予防も包含される。
【0107】
本発明の突然変異体ポリペプチドまたはポリペプチド誘導体は、それを必要とする宿主においてT細胞免疫応答又はB細胞免疫応答などの細胞性免疫応答を誘発するのに特に好適である。それは、CTL及びTh、特にCD4+T細胞応答及び/又はCD8+T細胞応答を含むTh1応答を含む。
【0108】
CyaAタンパク質に由来するポリペプチドの細胞性免疫応答を誘発する能力は、インビボで腫瘍増殖を防止するか又は動物において腫瘍退縮を可能とするのにさえ十分であることができる。それはまた、TLR活性化を介する免疫応答の生得的成分の活性化及び化学療法剤の使用を介する免疫応答の制御性成分の活性を下げることによっても高められうる。本発明は、かかる結果が、選択された突然変異E570Q及びK860Rの組み合わせの結果としての改善された安全条件において得られることを可能とする手段を提供する。
【0109】
したがって、本発明は、それを必要とする宿主においてT細胞性免疫応答又はB細胞性免疫応答を誘発するための、動物又はヒト患者への本発明のポリペプチド又はポリペプチド誘導体の投与を含む、治療方法も対象とする。
【0110】
本発明の突然変異体ポリペプチド又はポリペプチド誘導体は、特に、新生物、癌及びウイルス性、レトロウイルス性、細菌性又は真菌性疾患から選ばれる感染性疾患から選ばれる疾患の予防又は治療に使用されることができる。特に、ポリペプチド誘導体は、患者におけるHIV感染の治療のために使用可能である。
【0111】
本発明の特別な実施態様においては、CyaA突然変異体ポリペプチド又はポリペプチド誘導体は、腫瘍の分類のための一般に認められた臨床的基準にしたがって、浸潤性又は血管新生性腫瘍若しくは表在性腫瘍の治療或いは転移性腫瘍若しくは原発性腫瘍の治療に適していることが特に提供される。
【0112】
特に固形腫瘍は、本発明のポリペプチド誘導体の使用を介する治療の標的である。
【0113】
本発明のポリペプチド誘導体による治療のための候補となりうる腫瘍の中では、例として、腫瘍関連抗原が特徴づけされている以下のものが記載される:黒色腫、特に、転移性黒色腫;肺癌;頭部及び頚部癌;子宮頚部癌;食道癌;膀胱癌、特に浸潤性膀胱癌;前立腺癌;乳癌;結腸直腸癌;腎細胞癌;肉腫;白血病;骨髄腫。これらのさまざまな病理学的タイプの癌については、抗原性ペプチドが腫瘍サンプル上で特異的に発現され、そしてT細胞、特にCD8+T細胞又はCD4+T細胞によって認識されることが示されている。
【0114】
本発明はさらに、本発明のポリペプチド誘導体の、新生物、癌及びウイルス性又はレトロウイルス性疾患から選ばれる感染性疾患から選ばれる疾患の治療のための治療用組成物の調製のための使用にも関する。
【0115】
好ましい実施態様においては、本発明のポリペプチド又はポリペプチド誘導体は、アジュバントとともに及び/又は治療活性を有する他の分子又は剤とともに患者に投与されることができる。
【0116】
本発明に関して、上記「治療活性を有する他の分子又は剤」は、それが投与される患者の状態に対して有益でありうるものである。それは特に、薬物の製造における使用に適した活性成分である。それは、治療活性を有する成分の効果の増加を促進するか又は調整するのに好適な化合物であることができる。
【0117】
突然変異体CyaAポリペプチド又はそのポリペプチド誘導体は、治療活性を有する分子又は剤、特に、患者において免疫応答を誘発するのに好適なもの、とともに投与されることができる。
【0118】
突然変異体CyaAポリペプチド又はそのポリペプチド誘導体は、特に、制御性T細胞免疫抑制能を低下させるか又はブロックすることによって、患者における細胞応答を調整するのに好適な治療活性を有する剤とともに投与されることができる。
【0119】
本発明の特別な実施態様によれば、制御性細胞応答に対するかかる効果は、制御性T細胞を調整する及び/又は骨髄性抑制細胞応答などの他の細胞性抑制応答を調整する剤により得られることができ、上記剤は、(CD25-特異的抗体又はシクロホスファミドなどにより)これらの細胞を枯渇させるか又は不活性化させ、上記細胞、特に制御性T細胞、のトラフィッキングを変更し(CCL22-特異的抗体など)、又は(FOXP3(フォークヘッドボックスP3)シグナルをブロックすることなどにより)上記細胞の分化及びシグナリングを変更するなどによって、上記制御性細胞、特にT細胞、を標的とする。
【0120】
本発明の特別な実施態様によれば、制御性細胞応答を調整する剤は、抑制性分子、特に(B7-H1、B7-H4、IDO(インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ)又はアルギナーゼなどの)APC上に存在する分子、又は(CTLA4(細胞障害性Tリンパ球関連抗原4)又はPD1(プログラム細胞死1)などの)T細胞上に存在する分子をターゲットとするか、或いは、(TGFβ(トランスフォーミング成長因子)、IL-10、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、COX2(シクロオキシゲナーゼ2)などの)可溶性免疫抑制性分子を標的とする。
【0121】
制御性細胞応答に対する効果を有する剤の例として、制御性T細胞又は他の免疫抑制細胞を殺滅することのできる、又はそれらの活性及び/又は成長及び/又は蓄積をブロックすることのできる他の細胞障害性の剤が提案される。
【0122】
本発明の特別な実施態様においては、制御性細胞応答、特に制御性T細胞応答、を調整する剤は化学療法剤である。特に、それは、抗癌剤として知られ、かつ化学療法において使用される化学療法剤から選ばれる。かかる剤は、全身腫瘍組織量を減少させることを助けるもの、治療に対する腫瘍細胞の感受性を増加させることにより作用するもの、又は免疫制御性細胞を殺滅又は不活性化することを可能とするものを含む。本発明の枠内において使用される化学療法剤はそれによって抗腫瘍免疫を高める。
【0123】
本発明の特別な実施態様においては、化学療法剤は、アルキル化剤である。特に、それはシクロホスファミド(CTX)(Sigma, Steinheim, Germany)である。シクロホスファミドは、制御性T細胞を枯渇させるか又は不活性化させることができる。
【0124】
本発明の他の特別な実施態様においては、化学療法剤は挿入剤である。
【0125】
特別な実施態様においては、化学療法剤は、ドキソルビシン(DOX)(Calbiochem, La Jolla, CA, USA)である。
【0126】
化学療法剤は、低用量で有利に投与される。
【0127】
突然変異体CyaAポリペプチド又はそのポリペプチド誘導体は、患者における腫瘍によって初回刺激された生得的免疫応答を活性化するのに好適なアジュバント成分とともに投与されることもできる。
【0128】
本発明の特別な実施態様においては、アジュバント成分は、核酸、ペプチドグリカン、炭化水素、ペプチド、サイトカイン、ホルモン及び小分子から成る成分の群から選ばれ、ここで、上記アジュバント成分は、パターン認識受容体(PRRs)を介する情報伝達が可能である。
【0129】
PRRsは、いわゆる病原体からの進化的に保存された特徴(病原体関連分子パターン、PAMPs)の認識によって、病原体及び腫瘍に対する生得的免疫応答を仲介することが知られている。PRRsは、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、B細胞を含むさまざまな免疫細胞上及び上皮細胞又は内皮細胞などのいくつかの非免疫細胞上にも存在する。PRRs及び生得的免疫応答へのそれらの関与は、Pashine A. et al(Nature medicine supplement volume 11, No.4, April 2005)に記載されている。
【0130】
特に、生得的免疫応答の活性化のためのアジュバント成分は、PRRsを標的とし、そしてしたがってPRRsを介する情報伝達を活性化することができ、ここで、上記PRRsは、トル様受容体又はヌクレオチド結合性多量体化ドメイン(NOD)又はC型レクチンを包含する。
【0131】
本発明の特別な実施態様においては、アジュバント成分はトル様受容体(TLR)アゴニストである。トル様受容体アゴニストは、特に、患者の生得的免疫系を効率的に活性化するために処方される。上記TLRアゴニストは、TLRを結合することができ、すなわち、TLRのリガンドであり、さらに、上記TLRの制御のもとに誘発された免疫応答を高めることができる。
【0132】
例示のために、TLRアゴニストは、TLR-9、TLR-8、TLR-3及びTLR-7アゴニストの群から選ばれる。しかしながら、TLR-2、TLR-4、TLR-5受容体のアゴニストなどの他のTLR受容体のアゴニストが本発明を実施するために使用されることができる。
【0133】
本発明において使用されるTLRアゴニストは、天然又は合成のアゴニストであることができる。それは、同じ又は異なるトル様受容体の異なるアゴニストの組み合わせであることができる。
【0134】
本発明の特別な実施態様によれば、TLRアゴニストは、免疫刺激性のヌクレオチド配列、特に、例えば、ホスホロチオエート修飾などの構造的修飾の結果として安定化された、安定化されたヌクレオチド配列である。ヌクレオチド配列は、特定の製剤化によって分解に対して保護されることもできる。特に、そのリポソーム製剤、例えば、リポソーム懸濁液、は免疫刺激性のヌクレオチド配列の効率的な投与のために有益であることができる。
【0135】
本発明の特別な実施態様においては、免疫刺激性の核酸配列は、一本鎖RNAである。
【0136】
本発明の特別な実施態様においては、免疫刺激性のヌクレオチド配列は、CpGモチーフを含み、特に、CpGオリゴヌクレオチド(CPG ODNs)である。好適なCpGオリゴヌクレオチドの例として、本発明は、A型CpG ODN、すなわち、ヌクレオチド配列5’−GGGGGACGATCGTCGGGGGG−3’を有するCpG2216又はB型CpG ODN、すなわち、ヌクレオチド配列5’−TCCATGACGTTCCTGACGTT−3’を有するCpG1826などのTLR-9リガンドを提供する。
【0137】
CpGオリゴヌクレオチドは、分解に対して保護するため及びその取り込みを容易化するために、DOTAP(Roche Manheim, Germany)と複合体化された後に使用されることができる。
【0138】
本発明の他の特別な実施態様によれば、TLRアゴニストは小分子である。TLRアゴニストとして好適な小分子は、例えば、R848(レシキモド(resiquimod))と名づけられたもの、すなわち、TLR-7リガンドとしてInvivogenから入手可能な4−アミノ−2−エトキシメチル−a,a,ジメチル−1−H−イミダゾ[4,5c]キノリン−1−エタノール、又はTLR-7アゴニストとしてAldaraから入手可能なR837(イミキモド)と名づけられたものなどのイミダゾキノリンアミン誘導体である。
【0139】
TLRアゴニストとして好適な他の分子は、TLR-3リガンドとしてのポリウリジン(pU)又はTLR-7リガンドとしてのポリシチジル酸(PIC)である。
【0140】
これらの分子は、それらの取り込みを容易化するため及び/又はそれらを分解から保護するために製剤化されることができる。これらの分子は、患者への投与のために、リポソーム製剤、特にリポソーム懸濁液として、調製されることもできる。
【0141】
本発明の他の特別な実施態様によれば、アジュバント成分は細胞ベースのアジュバント成分であることができる。その例は、リンパ球応答を初回刺激することができることが知られている、樹状細胞であり、かかる樹状細胞は、T細胞応答を刺激するそれらの活性を増加させるために、場合によりその投与の前にエクスビボで調整されるであろう。したがって、樹状細胞は、TLRリガンド又はアゴニストを含むPRRsと相互作用するアジュバントで刺激されることができる(Pashine A. et al Nature Medicine Supplement Volume 11, No.4, April 2005 p S63-S68)。
【0142】
或いは、本発明のポリペプチド又はポリペプチド誘導体はアジュバントなしで患者に投与されることができる。
【0143】
実際に、発明者らは、ベクターに組み込まれた(vectorized)抗原に特異的なCTLが、組換え毒素の単回静脈内注射後に、特に異種アジュバントを提供する必要なくインビボで初回刺激されることができることを先に示した。これらの結果及び、特別には骨髄性樹状細胞へのエピトープの特異的ターゲティングは、アジュバント及びCD4+T細胞の助けの必要性をバイパスすることを可能とする。
【0144】
したがって、本発明はまた、分子、そして特に着目のペプチドと再結合された突然変異体CyaAポリペプチドの、静脈内投与のために製剤され、そしてインビボでのCD8+T細胞免疫応答を可能とする組成物の調製のための使用にも関し、該組成物は異種アジュバントを含まない。本発明はまた、そのような組成物にも関する。
【0145】
本発明はさらに、本発明の突然変異体ポリペプチド又はポリペプチド誘導体の、新生物、癌及びウイルス性、レトロウイルス性、細菌性又は真菌性疾患から選ばれる感染性疾患から選ばれる疾患に罹った動物又はヒト患者への投与を含む治療方法も対象とする。
【0146】
突然変異体ポリペプチド又はポリペプチド誘導体は特に、治療活性を有する分子及び/又はアジュバントとともに投与されることができる。
【0147】
突然変異体CyaAポリペプチド又はポリぺプチド誘導体、治療活性を有する分子及び/又はアジュバントは、さらに医薬として許容可能なキャリア又は賦形剤を含む医薬組成物の一部として一緒に投与されることができる。
【0148】
或いは、本発明を実施するために使用される本明細書に記載のさまざまなタイプの分子は、同時に(特に突然変異体CyaAポリペプチド又はポリペプチド誘導体及びアジュバント)又は別の時(特に、突然変異体CyaAポリペプチド)のいずれかにおいて別個に投与されることができる。
【0149】
或いは、治療活性を有する分子の投与は、突然変異体CyaAポリペプチド又はポリペプチド誘導体及び/又はアジュバントの投与の前又は後に実施されることもできる。それは時間的に連続することもできる。
【0150】
採用されてよい特別な治療計画は、反復投与プロトコール、特に突然変異体CyaAポリぺプチド又はポリペプチド誘導体、治療活性を有する剤及び/又はアジュバントから選ばれる少なくとも1つの化合物の2ラウンド以上の投与を包含するプロトコールである。
【0151】
本発明はまた、本発明の突然変異体CyaAポリぺプチド又はポリペプチド誘導体、医薬として許容可能なキャリア又は賦形剤、そして場合によりアジュバント及び/又は他の治療活性を有する分子を含む医薬組成物も対象とする。
【0152】
本発明はまた、突然変異体CyaAポリペプチド又はポリペプチド誘導体、治療活性を有する分子及び/又はアジュバントを含む、パーツのキットを対象とする。
【0153】
パーツのキットの化合物又は本発明の組成物は、特に、静脈内投与、腫瘍内投与又は皮下投与を介して患者に与えられることができる。
【0154】
本発明のパーツのキット又は組成物は、(i)本願において開示された突然変異体CyaAポリペプチド又はポリペプチド誘導体を介する適応免疫応答を標的とし、(ii)治療活性を有する剤を介して制御性免疫応答をダウンレギュレートレートし、そして、アジュバントが存在する場合には、(iii)アジュバントを介して生得的応答を活性化することにより免疫応答の生得的成分を標的とする能力を有する。
【0155】
本発明はまた、それを必要とする動物又はヒトのいずれかである患者の治療方法にも関し、該方法は、本明細書に開示されたパーツのキット又は組成物を投与するステップを含む。
【0156】
本発明は、特別には、投与、特に動物又はヒト宿主における静脈内投与のために製剤された新しい免疫原性組成物にも関し、該組成物は触媒ドメイン中に挿入された抗原を含む組換えCyaAポリペプチド誘導体を含むことに特徴を有する。
【0157】
本発明はさらに、着目の分子が特異的にCD11b発現細胞を標的とするために製剤されたヒト又は動物における投与のための医薬組成物に関し、該着目の分子が本明細書に記載の突然変異体CyaAポリペプチドに結合されていることに特徴を有する。
【0158】
他の特異的な実施態様においては、医薬組成物又は免疫原性組成物は、着目の分子に結合されている本明細書において定義されたCyaA突然変異体ポリペプチド含む組換えCyaAポリペプチド誘導体をコードしている核酸構築物を含む。
【0159】
さらに、本発明はまた、上記で定義された免疫原性組成物の、動物又はヒト宿主への投与のためのワクチン又は免疫療法用組成物の調製のための使用にも関する。
【0160】
本明細書で使用されるとおり、用語「免疫療法用組成物」は、免疫学的応答に導き、そして新生物、癌、ウイルス感染、真菌感染、寄生生物感染又は細菌感染の治療などの治療的処置に関連する組成物にも関する。
【0161】
本発明はさらに、動物又はヒト宿主を免疫化する方法に関し、ここで、該方法は以下のステップを含む:
a)上記で定義された免疫原性組成物を提供し;
b)免疫応答を促進するために、上記免疫原性組成物を好ましくは静脈内経路を介して上記宿主に投与する。
【0162】
特別には、本発明の免疫原性組成物は、インビボ又はインビトロで、特異的には樹状細胞を含む免疫細胞応答を誘導又は刺激することができる。本発明の免疫原性組成物は、特に、患者の予防的又は治療的ワクチン接種に使用されることができる。
【0163】
結論として、特異的な実施態様においては、免疫原性組成物又は医薬組成物は、水酸化アルミニウムなどの本分野で一般に用いられる初回刺激用アジュバントがなく、有利である。
【0164】
本発明はさらに、着目の分子の細胞中へのデリバリーに適したタンパク質ベクターの調製のための方法に関し、該着目の分子を本明細書において定義されたCyaA突然変異体ポリペプチドに結合させることを含む、上記方法に関する。
【0165】
本発明はさらに、核酸分子、特にDNA又はRNA分子であって、上記で定義されたポリペプチド又はポリペプチド誘導体をコードするものに関する。
【0166】
本発明は、上記で定義された核酸分子を含む真核細胞又は原核細胞も対象とする。
【0167】
本発明は、上記で定義された突然変異体CyaAポリペプチド又はポリペプチド誘導体を含む、真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞も対象とする。好ましい実施態様において、該細胞はヒト細胞である。
【0168】
本発明はさらに、上記で定義されたタンパク質ベクターで形質転換された真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1A】膜孔形成及びアシル化ドメインにおける置換は、CyaAの特異的溶血活性の減少において相乗作用を与える。 TNCバッファー中のヒツジ赤血球(5×108/ml)を5μg/mlの酵素活性を有するCyaAタンパク質とともに37℃でインキュベートした。30分後、細胞懸濁液のアリコートを未結合のCyaAを除去するために繰り返し洗浄し、そして細胞結合性及び細胞侵入性のAC活性を決定するために使用した。5時間のインキュベーション後に、光度測定(A541)により放出されたヘモグロビン量として溶血活性を測定した。無傷のCyaAの活性を100%とした。
【図1B】膜孔形成及びアシル化ドメインにおける置換は、CyaAの特異的溶血活性の減少において相乗作用を与える。 上記のとおり、酵素活性を有する示された濃度のCyaA由来タンパク質とともに赤血球を30分間インキュベートし、洗浄し、そして細胞結合性のAC酵素活性を決定した。
【図1C】膜孔形成及びアシル化ドメインにおける置換は、CyaAの特異的溶血活性の減少において相乗作用を与える。 K860R置換を有するタンパク質の減少した細胞結合活性を、5μg/mlから25μg/mlにそれらの濃度を増加させることによって補償した。CyaA/233OVA(CyaA/OVA)の存在下での活性を100%値とした。結果は、二連で実施した少なくとも3つの独立した実験からの平均値を表す。アスタリスクは、CyaA(図1A)又はCyaA/OVA(図1C)の活性からの統計学的な有意差(**、p<0.001)を示す。
【図2A】CyaA/OVA/E570Q+K860RはCD11b+単球に結合し、そして移行する。 J774A.1細胞(106/ml)をD-MEM中、4℃で、2.5μg/mlのCyaAとともに30分間インキュベートし、繰り返し洗浄し、そして、細胞ライセートにおいて細胞結合性のAC活性を決定した。CD11b/CD18受容体をブロックするために、CyaA添加前に最終濃度10μg/mlのCD11b特異的抗体M1/70(Exbio、チェコ共和国)とともに、30分間、細胞をインキュベートした(**、p<0.001)。
【図2B】CyaA/OVA/E570Q+K860RはCD11b+単球に結合し、そして移行する。 構築物のACドメイン移行能を、細胞透過能及び細胞質ATPをcAMPに変換する能力として評価した。J774A.1細胞を37℃で30分間、CyaA構築物とともにインキュベートし、そして細胞ライセート中に蓄積したcAMP量を測定した(41)。対照として、上記のように、CD11b/CD18受容体を抗CD11b抗体M1/70でブロックした。CD11b/CD18結合性及び取り込まれた毒素の膜透過を、受容体結合に関しては無傷であるが細胞膜を横切ってACドメインを移行させ、そして細胞質cAMP濃度を上昇させることはできない、二重に突然変異したCyaA/E570K+E581P変異体を用いることによって制御した(Vojtova-Vodolanova et al., 2009)。
【図2C】CyaA/OVA/E570Q+K860RはCD11b+単球に結合し、そして移行する。 プルロニックF-127[0.05%(w/w)]の存在下で、25℃で45分間、J774A.1細胞に最終外部濃度9.5μMのK+感受性蛍光プローブPBFI/AMを負荷した。3μgml-1の上記毒素を添加する前に細胞をHBSSで洗浄した。細胞内K+濃度を反映するPBFIの蛍光強度比(励起波長340、発光波長450及び510nm)を15秒ごとに記録した。右のスケールは、較正試験(実験手順を参照のこと)から導いた細胞内[K+]値を示す。ラクテートデヒドロゲナーゼ放出として評価した細胞溶解は、アッセイの時間間隔内では観察されなかった。二連で実施した3つの独立した測定を代表する結果が示される。
【図3A】E570Q+K860RトキソイドはJ774A.1細胞を透過性としない。 J774A.1細胞の溶解を、37%で無血清のDMEM中、3、10及び30μg m-1の示されたタンパク質との3時間のインキュベーション後に105個の細胞から放出されたラクテートデヒドロゲナーゼの量として測定した。結果は、二連で実施した2つの実験において得られた値の平均を表す。
【図3B】E570Q+K860RトキソイドはJ774A.1細胞を透過性としない。 「材料と方法」において記載したとおりに1又は10μg/mlのCyaA/233OVA/AC-又はCyaA/233OVA/E570Q+K860R/AC-タンパク質に室温で曝露された単一のJ774A.1細胞について全細胞パッチクランプ測定を実施した。示される曲線は、3つの独立した実験における6つの測定を代表する。
【図4A】E570Q+K860R置換を有するトキソイドは、MHCクラスI分子による提示およびCD8+ CTLの誘導のためのOVA T細胞エピトープをデリバリーする。 APCとして使用するBMDC(3×105細胞/ウエル)を、OVAエピトープを有する示された濃度(0〜60nM)のトキソイドの存在下又は擬似CyaA/AC-とともにインキュベートした。B3Z T細胞(1×105細胞/ウエル)との24時間の共培養後、刺激されたB3Z細胞によるIL-2分泌を、CTLL増殖法により測定した。結果は、[3H]チミジンの取り込みのΔcpm(トキソイド存在下でのcpm−トキソイド不存在下でのcpm)±SDとして表され、そして、5つの独立した実験を代表する。
【図4B】E570Q+K860R置換を有するトキソイドは、MHCクラスI分子による提示およびCD8+ CTLの誘導のためのOVA T細胞エピトープをデリバリーする。 インビボでの殺滅アッセイ(killing assay)によるOVA(SIINFEKL)特異的CTL応答の誘導の分析。 第0日にマウスは、擬似AC-又はOVA/AC-トキソイドの50μgのi.v.を受容し、そして第7日にはOVA(SIINFEKL)ペプチド負荷されたCFSEhigh及び負荷されないCFSElow脾細胞の混合物(1:1)をi.v.注射された。ゲート中の細胞のパーセンテージが示される、上側のパネルのプロットの集合中の1つの代表的なインビボの殺滅アッセイについて記録されたとおり、20時間後に脾臓にとどまっているCFSE陽性細胞の数をFACS分析法によって決定した。下側のパネルは、3つの独立した実験についてのインビボでの殺滅アッセイのプールされた結果を示す。統計学的有意性を、スチューデントのt検定によって決定した(OVA/AC-対OVA/E570Q+K860R/AC-についてp=0.75)。
【図5A】膜に対するCyaAの作用のモデル このモデルは、溶液中のCyaAの2つの配座異性体の間の平衡を予測するものであり、各異性体は異なる配座で細胞膜中に進入する。1つは、CyaA移行前駆体モノマーを生じさせ、細胞質中へのACドメインのデリバリー及び同時の細胞中へのカルシウムイオンの流入を生じるであろう。該配座異性体は、膜孔前駆体として進入し、オリゴマー形成してCyaA膜孔となるであろう。
【図5B】膜に対するCyaAの作用のモデル。 E570Q及びK860R置換の相乗効果は、CyaA膜孔前駆体がオリゴマー形成して膜孔となることを選択的にブロックする一方、移行前駆体が膜を横切ってACドメインをデリバリーする能力は影響を受けないままである。
【図6】ボルデテラ・ペルツッシスCyaA毒素のアミノ酸配列(配列番号1)
【図7】ボルデテラ・ペルツッシスCyaA/E570Q+K860R突然変異体のアミノ酸配列(配列番号2)
【図8】ボルデテラ・ペルツッシスCyaA/E570Q+K860R/AC-突然変異体のアミノ酸配列(配列番号3)
【図9】ボルデテラ・ペルツッシスCyaA/233OVA/E570Q+K860R/AC-突然変異体のアミノ酸配列(配列番号4)
【図10】CyaA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするプラスミド(QR-AC-)
【図11】CyaA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするQR-AC-プラスミドのDNA配列(配列番号5)
【図12】CyaA/233OVA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするプラスミド(OVA-QR-AC-)
【図13】CyaA/233OVA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするOVA-QR-AC-プラスミドのDNA配列(配列番号6)
【図14】ボルデテラ・パラペルツッシスCyaA毒素のアミノ酸配列(寄託番号CAB76450、配列番号7)
【図15】ボルデテラ・ヒンジイCyaA毒素のアミノ酸配列(寄託番号AAY57201、配列番号8)
【図16】ボルデテラ・ブロンキセプティカCyaA毒素のアミノ酸配列(寄託番号CAA85481、配列番号9)
【実施例】
【0170】
アデニレートシクラーゼ毒素は膜孔を形成せずに標的細胞膜を横切って移行する
材料及び方法
CyaAタンパク質の構築、産生及び精製
CyaA/AC-、CyaA/233OVA、CyaA/E570Q及びCyaA/K860R構築物を生じさせる修飾は先に記載され(13、20、21)、そして、個々に又は組み合わせてCyaA/233OVA/AC-中に導入した。CyaA由来タンパク質をE.coli XL-1 Blue中で産生させ、そして均一に近くなるまで先に記載したとおりに精製した(29)。疎水性クロマトグラフィーの間、毒素が結合した樹脂を60%イソプロパノールで繰り返し洗浄して(30)、CyaAサンプルのエンドドキシン含有量を、LALアッセイQCL-1000(Cambrex)で測定して100IU/mgタンパク質未満まで減少させた。
【0171】
CyaA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするQR-AC-プラスミド(図10)を含むエシェリキア・コリXL1-Blue菌株(Stratagene)をCNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes, France)に、寄託番号CNCM I-4136(図10)のもとに2009年3月18日に寄託した。QR-AC-プラスミドのDNA配列(配列番号5)を図11に開示する。
【0172】
CyaA/233OVA/E570Q+K860R/AC-突然変異体をコードするOVA-QR-AC-プラスミド(図12)を含むエシェリキア・コリXL1-Blue菌株(Stratagene)をCNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes, France)に、寄託番号CNCM I-4137のもとに2009年3月18日に寄託した。OVA-QR-AC-プラスミドのDNA配列(配列番号6)を図13に開示する。
【0173】
ヒツジ赤血球に対する細胞結合及び溶血活性
50mM Tris pH7.4、150mM NaCl及び2mM CaCl2(TNCバッファー)中、5×108個の洗浄ヒツジ赤血球を5μg/mlのCyaAタンパク質とともに37℃でインキュベートし、そして、CyaAの細胞結合、細胞侵入性AC及び溶血活性を先に詳述したとおりに測定した(13)。活性値の有意差を、ボンフェローニの方法(SigmaStat v.3.11, Systat, San Jose, CA)を用いて一要因分散分析(one-way analysis of variance(ANOVA))によって分析した。
【0174】
CyaAのマクロファージ結合、cAMPの上昇及び細胞溶解能
J774.A1ネズミ単球/マクロファージ(ATCC、番号TIB-67)を、37℃において加湿した空気/CO2(19:1)大気中、10%(v/v)熱不活性化ウシ胎仔血清、ペニシリン(100IU ml-1)、ストレプトマイシン(100μg ml-1)及びアンフォテリシンB(250ng mg-1)を補充したRPMI培地中で培養した。アッセイの前に、RPMIをFCSを含まないダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)(1.9mM Ca2+)に交換し、そして細胞をDMEM中で1時間、37℃において加湿した5%CO2大気中で休ませた(8)。未結合の毒素をD−MEM中で3回洗浄することにより除去する前に、J774A.1マクロファージ(106)を、D-MEM中、2.5μg/mlのCyaA変異体とともに30分、4℃でインキュベートした。細胞結合性のAC活性の測定のために、細胞を0.1% Triton X-100で溶解した。細胞内cAMPのアッセイのためには、100μMのIBMX(3−イソブチル−1−メチルキサンチン)を含むD-MEM中で105個の細胞をCyaAとともに30分間インキュベートし、100mM HCl中、0.2% Tween 20を加えることによって反応を停止させ、サンプルを100℃で15分間煮沸し、150mMの非緩衝化イミダゾールを加えることによって中和し、そして記載のとおりにcAMPを測定した(29)。CD11b/CD18受容体をブロックするために、CyaAの添加前にCD11bを特異的ブロッキングする最終濃度10μg/mlのMAb M1/70(Exbio、チェコ共和国)とともに細胞を氷上で30分間プレインキュベーションした。J774A.1細胞の毒素により誘導された溶解を、記載されたように(8)、10μg/mlの適切なタンパク質とともに37℃で3時間、D-MEM中でインキュベーションし、105個の細胞から放出されたラクテートデヒドロゲナーゼの量として、CytoTox 96キットアッセイ(Promega)を用いて決定した。活性値の有意差を上記のとおり分析した。
【0175】
パッチクランプ測定
HBSS(140mM NaCl, 5mM KCl、2mM CaCl2、3mM MgCl2、10mM Hepes-Na、50mM グルコース;pH7.4)中に浸したJ774A.1細胞において全細胞パッチクランプ測定を実施した。外径が約3μmの先端熱加工したガラスマイクロピペットを、125mM カリウムグルコネート、15mM KCl、0.5mM CaCl2、1mM MgCl2、5mM EGTA、10mM HEPES-KOH pH7.2の溶液で満たした。得られた微小電極の抵抗は、3〜5MΩであった。細胞を−40mVでクランプし、Axopatch 200A増幅器、Digidata 1320Aデジタイザー及びPClamp-9ソフトウエアパッケージ(Axon Instruments, Foster City CA)を用いて、データを1kHzでフィルタリングし、2kHzでデジタル化した。
【0176】
細胞質K+濃度の減少の測定
カバーガラス上で増殖させた細胞をHBSS中で洗浄し、そして、0.05%(w/w)プルロニックF-127(Sigma, St. Louis, MO)の存在下、暗所で、30分間、25℃で9.5μM PFBIアセトキシメチルエステル(PBFI/AM, Molecular Probes, Eugene, OR, USA)を加えた。DataMaxソフトウエアを搭載したFluoroMax-3分光蛍光光度計(Jobin Yvon Horriba, France)を用いてレシオメトリック測定を25℃で実施した。PBFIの蛍光強度(励起波長340、発光波長450及び510nm)を15秒ごとに記録し、そして各波長についての積分時間は3秒であった。450/510nm波長の比率を示す。1cmのキュベット中に載せたカバーガラスの観察面積は、約10mm2であり、およそ104個の細胞に相当した。較正実験を、さまざまな濃度の酢酸カリウム(10、30、60又は140mM)及び酢酸ナトリウム(135、115、85又は5mM)をそれぞれ含む、50mM HEPES、pH7.2中で、3pMのバリノマイシン又はニゲリシンによって30分間透過処理した細胞について実施した。最終的な強度比(450/510nm)をプロットの右縦軸上に示す。
【0177】
マウス及び細胞株
Charles River Laboratoriesから購入した雌性C57BL/6マウスを特定の病原体フリーの条件下で飼育し、研究所のガイドラインにしたがって操作した。CTLL-2細胞をATCCから入手した。B3Z、Kb拘束性OVA(SIINFEKL)エピトープに特異的なCD8+特異的T細胞ハイブリドーマをN. Shastri(University of California, Berkeley)が提供し、10%の熱により不活性化されたFCS、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン及び5×10-5Mの2−MEを含む完全RPMI1640培地(Invitrogen Life Technologies)中で、1mg/mlのG418及び400μg/mlのヒグロマイシンBの存在下、維持した。
【0178】
抗原提示試験
APCとして使用した骨髄樹状細胞(BMDC、3×105/ウエル)を、OVA(SIINFEKL)エピトープ又は擬似CyaA/AC-を担持するさまざまな濃度(0〜60nM)の組換えCyaA/OVA/AC-の存在下でインキュベートし、OVA SIINFEKL/H-2Kb MHCクラスI複合体を選択的に認識するB3Z T細胞(ウエルあたり1×105)とともに24時間共培養した。18時間の培養後、上清を−80℃で少なくとも2時間凍結した。そして、刺激されたB3Z細胞により産生されたIL-2の量を、CTLL増殖法によって決定した。すなわち、ウエルあたり104個のIL-2依存性CTLL菌株の細胞を100μlの上清とともに200μlの最終体積で培養した。24時間後、[3H]−チミジン(50μCi/ウエル)を添加し、そして6時間後に自動化セルハーベスターにより細胞を採取した。取り込まれた[3H]−チミジンを、シンチレーションカウンティングにより検出した。各ポイントを二連で行い、実験は5回繰り返した。結果は、[3H]チミジンの取り込みのΔcpm(トキソイド存在下でのcpm−トキソイド不存在下でのcpm)として表した。
【0179】
インビボでの殺滅アッセイ
CTLの初回刺激のために、OVA(SIINFEKL)エピトープ又は擬似CyaA/AC-を担持する50μgの組換えCyaA/OVA/AC-のi.v.注射によりマウスを免疫化した。免疫化の7日後、未感作の同質遺伝子的(syngenic)脾細胞をOVA(SIINFEKL)ペプチド(10μg/ml)でパルシングし(30分、37℃)、さらに洗浄し、そして高濃度(1.25μM)のカルボキシフルオレッセインサクシニミジルエステル(CFSE; Molecular Probes, Eugene, OR)で標識した。パルシングされない対照集団を、低濃度(0.125μM)のCFSEで標識した。CFSEhigh−及びCFSElow−標識された細胞を、1:1の比で混合し(各集団、5×106細胞)、そして、マウスにi.v.注射した。脾細胞を20時間後に収集し、洗浄し、FACSバッファー(1%のBSA及び0.1%のNaN3を補充したPBS)中に再懸濁した。20時間後に脾臓中に残っているCFSE-陽性細胞の数をFACSにより決定した。特異的な溶解のパーセンテージを以下のように計算した:特異的な溶解のパーセント=100−[100×(CFSEhighで免疫化されたマウスの%/CFSElowで免疫化されたマウスの%)/(CFSEhigh未感作のマウスの%/CFSElow未感作のマウスの%)]。
【0180】
統計学的分析
値の有意差をボンフェローニの方法(SigmaStat v.3.11, Systat, San Jose, CA)を用いて一要因分散分析(one-way analysis of variance(ANOVA))によって分析した。
【0181】
結果
陰性荷電したグルタミン酸570及びアシル化リジン860の組み合わせの除去がCyaAの細胞透過性付与能を失わせる。
CyaA作用のワーキングモデルは、CyaAが修飾されて、その膜孔形成(溶血)活性を失う一方、標的細胞の細胞質中へACドメインをデリバリーする能力を保存することを予測する。この仮説を試験するために、発明者らは、CyaA/AC-トキソイドの細胞溶解能が、膜孔形成ドメイン内の置換によって高められ又は低下させられるように修飾可能であるという先の観察(8、12〜14、18)を基に、可能な限り低い溶血及び細胞溶解活性を示すCyaA構築物を作り出すことを試みた。CyaA/AC-トキソイドについても標的細胞の透過の評価を可能とするために、発明者らは、かかる突然変異体を、先にオボアルブミン由来のSIINFEKLペプチド(OVA)の挿入によりタギングされたCyaA/233OVA毒素から得た。このCyaA変異体は、レポーターKb-拘束性CD8+ T細胞エピトープの残基233における挿入が、AC活性に影響せずかつOVA/AC酵素の細胞中への移行を細胞質cAMPの上昇として定量することを可能とするために選ばれた。より重要なことは、OVAエピトープの存在が酵素的に不活性なCyaA/233OVA/AC-トキソイドがそれらのOVA/AC-ドメインをCD11b+抗原提示細胞(APC)の細胞質中へデリバリーする能力も評価することを可能とすることであり、これは、プロテアソームによるプロセシング、及びインビトロ及びインビボの両方におけるOVA-特異的CD8+ T細胞の刺激として測定されることができる、MHCクラスI糖タンパク質上のOVAエピトープの細胞表面提示を可能とするからである(20)。
【0182】
細胞溶解活性を有さない可能性のあるCyaA/AC-トキソイドを作り出すために、発明者らは、CyaA/AC-のCD11b+ J774A.1単球に対する細胞溶解活性も低下させることが発見されているE570Q(8、13)と先にヒツジ赤血球に対するCyaAの特異的溶血活性を低下させることが示されたK860R置換を組み合わせた。これらの置換は、CyaA/233OVA/AC-中に個々に及び組み合わせて工学処理され、そして、得られたトキソイドの特異的な溶血活性及び細胞溶解活性を、ヒツジ赤血球をCD11b-の標的のモデルとし、J774A.1をCD11b+の標的のモデルとして平行して用いて比較した(表1)。先にOVAエピトープを欠くトキソイドについて得られた結果(4、8、13、21)と一致して、使用した条件下では、個々にE570Q及びK860R置換を担持するOVA/AC-トキソイドは、それぞれ、2分の1に低下した(55±8)及びゼロ(1±1)の赤血球に対する相対的溶血活性を示し、CD11b発現J774A.1細胞に対するE570Qトキソイドの相対的細胞溶解活性も、OVA/AC-に比較して低下した(37±10)。同様に、酵素活性を有するK860R構築物について得られた結果から予測されるとおり、CD11b-赤血球に対する低い溶血活性にもかかわらず、K860Rトキソイドは、CD11b+ J774A.1細胞に対するわずかにのみ低下した相対的細胞溶解活性を示し(72±22%)、K860R置換によりもたらされた構造的欠陥が、CD11b/CD18受容体との相互作用により救われたことが確認される(4)。それにもかかわらず、E570Qと組み合わされた場合、K860R置換は、E570Q+K860R構築物のJ774A.1細胞に対する相対的細胞溶解活性を14±7%にまで減少させるという明らかな相乗効果を示した。
【0183】
【表1】
【0184】
表の説明
−aヒツジ赤血球の溶解は、2mMのCa2+の存在下で、5μg/mlの所与のタンパク質とともに5×108個のRBCを37℃でインキュベーションすることにより放出されたヘモグロビンの量として、4.5時間後に決定した(31)。CyaA/AC-の溶血活性を100%の活性とした。結果は、2つの異なるタンパク質調製物を用いて二連で実施した4つの独立した実験において得られた値の平均±S.D.を表す。
−bJ774A.1細胞の溶解を、10μg/mlの適切なタンパク質とともにD−MEM中、37℃で3時間、細胞をインキュベーションすることにより105個の細胞から放出されたラクテートデヒドロゲナーゼの量として決定した。CyaA/AC-によるJ774A.1細胞の溶解を100%とした。結果は、2つの異なるタンパク質調製物を用いて二連で実施した4つの別個の実験において得られた値の平均±S.D.を表す(*、p<0.05;**、p<0.001)。
【0185】
細胞の細胞質中へACドメインをデリバリーするE570Q+K860R構築物の能力の定量化を可能とするために、CyaA/233OVA(CyaA/OVA)由来の酵素活性を有する構築物中へE570Q及びK860R置換を移動させた。これらは、AC-トキソイドと同じ方法(示さない)で作り出し、そして精製し、そして細胞結合、ヒツジ赤血球に対する溶血及びAC移行能について特徴づけした。図1Aに示し、そしてOVAエピトープを欠く毒素の結果(4、13、21)から予測されるとおり、E570Q置換は、CyaA/OVAの赤血球への結合又は赤血球細胞質中へACドメインをデリバリーする能力には影響せず、その相対的溶血活性を選択的に減少させたのみであった。さらに予想されるとおり(4)、K860R置換は赤血球に結合しそして透過するCyaA/OVAの能力を有意に低下させ、E570Q及びE570Q+K860R突然変異体の赤血球に対する相対的な溶血及び細胞侵入性のAC活性を急激に低下させた。
【0186】
CyaAの溶血活性が細胞に結合したCyaAの量の非常に協調的な関数であること(ヒル係数>3)が、CyaAオリゴマー形成が膜孔形成のための必要条件であること(22)を示唆しているのは注目されるべきである。したがって、組み合わされたE570Q+K860R置換の溶血活性に対する影響を評価するためには、等量の全タンパク質の赤血球への結合を達成するために、図1Cに示すようにアッセイ中のそれらの濃度を25μg/ml(無傷の毒素について5μg/ml)まで増加することによって、K860R構築物の赤血球結合能が補償されなければならない。これらの条件下では、E570Q及びK860R置換の組み合わせは、E570Q(約50%)及びK860R置換(約30%)をそれぞれ担持する構築物のすでに障害された溶血活性を、図2Cに示すようにさらに2分の1に減少させて明らかな相乗効果を示した。これは、2つの置換の組み合わせがCyaAの特異的な細胞透過性付与能に影響することを示唆する。
【0187】
CyaAの膜孔形成活性は、ACドメインの膜移行にとって重要でない。
赤血球に対する毒素の活性に及ぼすK860R置換の影響とは対照的に、E570Q及びK860R置換は両方ともCD11b/CD18受容体を発現するJ774A.1単球に結合しそして透過するCyaAの能力に何の効果も与えないことが先に発見されている(4、8)。さらに、図2に記録されているとおり、2つの置換が同じ毒素分子中で組み合わされた場合、CyaA/OVA/E570Q+K860R構築物はJ774A.1細胞に結合し(図2A)、そして無傷のCyaAがそうであったように、J774A.1細胞の細胞質中にACドメインをデリバリーして細胞内cAMP濃度を上昇させる(図2B)等しい能力を示した。しかしながら、同時に、二重に突然変異したE570Q+K860Rトキソイドは、これらの細胞に対して約7分の1に低下した(14±7%)相対的細胞溶解能を示した(表1を参照)。図2Cに示すように、無傷のCyaAと比較した場合、単一の突然変異を有するE570Q及び二重に突然変異したE570Q+K860R構築物は、毒素処理されたJ771A.1細胞中のカリウムイオンの細胞内濃度([K+]i)の減少を誘発する能力が大きく障害されていた。ラクテートデヒドロゲナーゼの放出についてのアッセイにより20分にわたって細胞溶解が検出されなかった一方、3μg ml-1の無傷のCyaAに曝露されたJ774A.1細胞の[K+]iは、毒素添加の10分後にすでに140mMから30mM未満にまで低下した。同様に、同じ量(3μg ml-1)のER570QiK860R構築物を使用した場合、細胞中の[K+]iレベルは100mM未満には減少しなかった(図2C)。実際に、細胞からのカリウムの流出は、細胞膜へのCyaA膜孔前駆体の挿入の特徴であることが先に示されている(32)。これは、E570QとK860R置換の組み合わせがJ774A.1細胞を透過性とするトキソイドの能力のみを選択的に障害し、細胞膜を横切ってACドメインを移行させるその能力は障害しなかったことを示唆した。
【0188】
この結論は、上で検討し(表1)、そして図3Aにおいて詳細に記録されたとおり、対応するE570Q/AC-及びE570Q+K860R/AC-トキソイドの相対的細胞溶解活性が大きく低下したことによりさらに裏付けられる。3μg ml-1の二重に突然変異したE570Q+K860Rトキソイドは実質的に、3時間のインキュベーションにおいてJ774A.1細胞からいかなる検出可能なラクテートデヒドロゲナーゼの放出もおこすことはできなかった一方、等量の無傷のトキソイドの存在下においては20%の細胞が溶解した。
【0189】
これを試験するために、発明者らは単一全細胞パッチクランプ実験においてE570Q+K860R構築物の細胞透過性付与能を分析した。ここでまた、毒素により生成されたcAMPにより引き起こされるJ774A.1細胞の大規模な波打ち現象を避けるためにAC-トキソイドが使用されなくてはならなかった(23)。1μg/mlのCyaA/OVA/AC-に曝露されたパッチクランプされた単一のJ774A.1細胞の膜を横切るイオン電流の代表的な記録によって図3Aに示されるように、約3分の最初の遅れの後、J774A.1細胞は急進的かつ大量にCyaA/OVA/AC-により透過性となり、そして細胞膜を横切る電流が10分以内に−3,000pAに達した。対照的に、図3Bに示されるように、CyaA/OVA/E570Q+K860R/AC-に対する曝露は、一過性かつ最小の細胞の初期透過性付与のみを再現性よく引き起こし、細胞膜を横切る電流は−200pAを超えず、トキソイド添加後の10分以内にゼロ近くまで戻った。表1にまとめたトキソイドの相対的細胞溶解活性の比較に使用した濃度であった10μg ml-1までトキソイド濃度を上昇させると、かなり類似した状況が観察された。1から10μg ml-1までの10倍の濃度増加は、OVA/AC-により生成された細胞膜を横切る電流を約2倍に増加させた一方、OVA/E570Q+K860R/AC-の濃度を増加させても細胞透過性付与の実質的な増強は観察されなかった(10μg ml-1における測定のためにY軸のスケールが拡張されていることに注意)。示された記録は3つの独立した実験からの少なくとも6つの測定を表すものであり、E570Q及びK860R置換の組み合わせがJ774A.1細胞の膜を透過性とするトキソイドの能力に大きな影響を与えたことを実証している。同じ構築物の酵素活性を有するバージョンがJ774A.1細胞中へのACドメインの移行を完全に行なうことができたことを考えれば(図2B参照)、これらの結果は、CyaAの細胞透過性付与(膜孔形成)活性は、細胞膜を横切るACドメインの移行に必要でないということを強力に示唆する。
【0190】
CyaAの膜透過性付与活性は、パッセンジャー抗原の細胞質MHCクラスI経路へのデリバリーに重要でない。
細胞質cAMPについてのアッセイがAC-トキソイドの細胞透過能の評価に使用できないため、レポーターOVAエピトープをMHCクラスI抗原提示経路の細胞質プロセシング部位へデリバリーするそれらの能力についての代替アッセイを使用した(7、24)。これが終わりに近づいたころ、発明者らはトキソイドを負荷したC57BL/6マウス骨髄由来樹状細胞(BMDCs)の、APC上のSIINFEKL(OVA)ペプチドとKbMHCクラスI分子の複合体を選択的に認識するB3Z T細胞によるIL-2放出を刺激する能力を決定した。実際、CyaA/AC-トキソイドが細胞膜を横切ってBMDCの細胞質中にACドメインを移行させる能力が、H-2Kb MHCクラスI分子と複合化したデリバリーされたOVAエピトープの提示を促進するトキソイドの能力にとって必須であることは先に示されていた。これは、同様に、細胞障害性T細胞の特異的なインビトロでの刺激が起こるために必須である(29)。それにもかかわらず、プロテアソームプロセシング及びその後の提示のためのOVAエピトープのデリバリーがBMDCの細胞質へのその細胞膜を横切るACドメインの移行によるものであり、そして、流体相への取り込みによる添加された抗原のサンプリング又はエンドサイトーシスによるものでなかったことを確認することは重要であった。この目的のために、CyaAの膜貫通ドメイン中のグルタミン酸570及び581の電荷逆転性かつヘリックス破壊性の置換の組み合わせを有する二重に突然変異した非移行性OVA/E570K+E581P/AC‐トキソイド変異体を使用した(33)。この構築物は、標的細胞の膜を横切ってACドメインを移行させるその能力がE570K及びE581P置換の組み合わせにより除去された一方(図2B参照)、CD11b/CD18発現細胞に結合する完全な能力を示す(図2A参照)ことが先に示された。
【0191】
図4Aに示されるとおり、B3Zハイブリドーマ細胞は、OVA/E570Q/AC-及びOVA/E570Q+K860R/AC-トキソイドを負荷したBMDCとの同時インキュベーションにより効果的に刺激された。対照的に、細胞膜を横切るACドメインの移行能力を欠くOVA/E570K+E581P/AC-トキソイドを負荷したBMDCとの同時インキュベーションにより、B3Z刺激は観察されなかった。さらに、OVA/E570Q/AC-及びOVA/E570Q+K860R/AC-トキソイドはインビトロでAPCによるB3Zリンパ球の刺激を、無傷のOVA/AC-トキソイドと同じく高い効率で誘発した。これらの結果は、E570Q+K860R二重突然変異体が、Kb MHCクラスI分子によるOVAエピトープのプロセシング及び提示のためにそのACドメインをBMDC細胞質中へ移行させることが完全に可能である一方、本質的にはJ774A.1細胞を透過性とできないことを確認した。これらの結果は、CyaAの細胞透過性付与(膜孔形成)活性が細胞膜を横切るACドメインの移行に必要でなく、CyaAがAPC細胞質中にパッセンジャーエピトープをデリバリーする能力にも何の役割も果たさないことを示唆する。
【0192】
観察された非細胞溶解性トキソイドのインビトロでの抗原デリバリー能を裏付けるために、発明者らは、それらのインビボでのOVA特異的細胞障害性CD8+ Tリンパ球(CTL)の初回刺激能を評価した。さまざまなOVAトキソイド50μgをC57BL/6マウスに静脈内注射し、1週間後にOVA特異的CTL応答をインビボの殺滅アッセイにより免疫化マウスにおいて評価した。C57BL/6マウスはOVA(SIINFEKL)ペプチドを負荷したCFSEhigh及び非負荷CFSElow脾細胞の混合物(1:1)のi.v.注射を受け、1日後、CFSE標識細胞のFACS分析を受けた。図4Bに示されるとおり、疑似トキソイドによるマウスの免疫化は、SIINFEKL特異的なインビボのCTL活性を誘導しなかった。同様に、E570Q+K860Rトキソイドによる免疫化が、陽性対照として使用した突然変異していないトキソイドと同じOVA特異的なインビボのCTL殺滅応答を誘導し、無傷及び二重に突然変異したトキソイドに対する平均応答の値はわずかに相違したが、統計学的に有意ではなかった(p=0.065)。これらの結果は、CyaAの細胞透過性付与活性が、CyaA/233OVA/AC-トキソイドのAC挿入されたパッセンジャー抗原のAPC細胞質へのデリバリーのインビボでの能力に重要でなかったことを示す。
【0193】
検討
発明者らはここに、CyaAのACドメインのCD11b/CD18受容体発現性骨髄標的細胞の膜を横切る移行が、毒素の膜孔形成能及び細胞膜透過性付与能に依存しないことを実証した。
【0194】
図5中に提案されたモデルに要約されるとおり、発明者らは先に、CyaAの2つの活性の間のバランスがCyaAの突然変異又は代わりのアシル化によりシフトされることができることを報告した。実際、グルタミン酸509、516及び581によるリジンの置換(13、18)又は3D1モノクローナル抗体(MAb)によるAC移行のブロッキングにより(25)、ACを細胞中へデリバリーする能力を犠牲にした膜孔形成(溶血)活性の亢進が観察された。同様に、B.ペルツッシスにより産生された天然の(C16:0)パルミチル化Bp-CyaAに比較して、パルミトレイル(C16:1)残基によりE.コリ中でアシル化された組換えr-Ec-CyaAについて反対方向へのシフトが観察された。r-Ec-CyaAは、Bp-CyaAよりも約4分の1に低下した溶血活性及び約10分の1の低い膜孔形成活性を脂質二重層平面中で示すことが発見された一方、両CyaA形態は、細胞膜の透過及び赤血球中へのACドメインの移行において等しく活性であった(17、26)。さらに、最近、CyaA/E570Q構築物が、赤血球及びJ774A.1マクロファージの両方の中へACドメインをデリバリーする完全な能力を示す一方、J774A.1細胞に対する2分の1に低下した細胞溶解活性を示すCyaA/E570Q/AC-トキソイドでは、無傷のCyaAに比べて低下した溶血活性及び低い特異的膜孔形成能を脂質二重層平面中で示すことが発見された(8.13)。
【0195】
上で言及され、そして発明者らが特徴づけした多くの突然変異体CyaAにもかかわらず、CyaAによる膜孔の形成がCD11b発現細胞の膜を横切るACドメインの移行に必要であるか否か依然として疑問である。無傷のr-Ec-CyaAの溶血能力とB.ペルツッシスから精製された天然のBp-CyaAのそれとの先の比較に基づいて、ここに記載のr-Ec-CyaA/OVA/E570Q+K860R/AC-トキソイドのヒツジ赤血球に対する特異的な溶血活性が約3桁低下されるであろうことを言及するのは価値がある。そして、r-Ec-CyaA/OVA/E570Q+K860R/AC-のCD11b発現細胞に対する残留特異的細胞溶解活性は、Bp-CyaAのそれよりも約50倍低い一方、比較のために(無傷のrEc-CyaAを侵入性AC活性の100%の基準として用いて)両タンパク質のこれらの細胞中へACドメインをデリバリーする特異的能力は同じであろうと推定される。ここに記載のCyaA/233OVA/E570Q+K860R突然変異体は、大きく減少した細胞透過性付与能力を有し、細胞膜を横切ってACドメインを移行させることが完全に可能なままである最初の構築物である。これは、その細胞質への過程においてACドメインがCyaAにより形成されたカチオン選択性の膜孔をバイパスすることができることを示す。
【0196】
細胞膜を横切るACドメインの移行の様式及び経路は、しかしながら、さらに詳細に定義されるべく残っている。CyaAの膜孔形成及びACデリバリー活性に対するグルタミン酸509、516、570及び581の置換の効果が異なるとすると、2つの活性の間のバランスが特異的な置換によってどちらかの方向にほとんど完全にシフトすると(8、13、18)、これらのグルタミン酸残基を保持している両親媒性のへリックスは別のやり方でCyaAの両作用に関与するように見える。これは、ACドメインを細胞中にデリバリーすることのできない超溶血性CyaAを生じるE509K+E516K置換の組み合わせの効果の一方(8、18)、ここに記載のE570Q+K860Rの組み合わせが反対に、実質的に非細胞溶解性であって、J774A.1細胞(CD11b+)中へのACドメインの移行に完全に匹敵するCyaAを生じることによって裏付けられる。
【0197】
これらの観察結果はさらに、CyaAの2つの膜作用が膜に挿入された異なる配座異性体に依存し、1つは毒素モノマーによりACドメインの移行をもたらし、他方はCyaA膜孔オリゴマーの形成に導くという提案されたモデルを裏付ける(13,18)。膜に挿入された膜孔前駆体配座異性体が細胞の外部に位置するACドメインを有する場合にのみ、決定的なグルタミン酸残基509、516、570及び581を保持する膜貫通セグメントがオリゴマーでありカチオン選択的な細胞溶解性膜孔の形成に参加しうるということが提案される。AC移行性配座異性体においては、同じ膜貫通セグメントが膜中で異なるコンフォメーションを採用し、膜貫通セグメントへのACドメインのC-末端のポリペプチド結合によってCyaAオリゴマーを潜在的に押し出し、そして進入することを防ぐであろう。この解釈の裏づけは、Gray及びその共同研究者により得られた結果から推測されることができる(25)。これらの著者は、それを膜孔形成ドメインに結合しているセグメントとともにACドメインが(残基489まで)除去されるか、残基373と399の間に位置するACドメイン末端セグメントの膜移行をブロックする3D1抗体の結合が毒素の膜孔形成(溶血)活性を大きく亢進することを示した。これは、膜孔オリゴマーの形成にとって好ましいCyaAの膜貫通セグメントにコンフォメーションを付与することによるようである。膜孔形成ドメインの外のどのCyaAセグメントが膜を横切るACドメインの移行に関与するかがまだ定義されていない。その構造的一体性が必要であるとすると(27)、大きなRTX反復ドメイン(残基1006〜1706)は細胞中へのAC移行に参加しそうである。広げられた(unfolded)ACドメインの膜を横切る通過を、同時に細胞に透過性を付与する真の膜孔を形成せずに可能としうる、細胞膜内の親水性の移行インターフェースを形成するために、それは十分にサイズ調整(700残基)されるであろう。或いは、CyaAは反転した非層状の(反転した六方相)脂質構造であって(28)、潜在的にそこを通ってACドメインが細胞質に滑り込むことのできる、しっかりと密封されたタンパク−脂質インターフェースに参加するかもしれない。
【0198】
実際、CyaAは、反転した非層状(反転した六方相)脂質構造の形成を促進することが先に示された(28)。これらは潜在的に、しっかりと密封されたタンパク−脂質インターフェースの形成に参加し、そして、細胞が透過性付与されない状態において膜を横切るACドメインの移行を可能とする。非層状脂質構造の形成は、コレステロール富化脂質ラフトにおいて有利であり、CyaAは実際にその受容体CD11b/CD18と複合化してラフト中に移動することが最近発見された。さらに、発明者らは、ACドメインの膜を横切る移行が、CyaAのラフト中への再配置によってのみ達成されることを最近示した(L., Bumba, J., Masin, R., Fiser, and P., Sebo,)。興味深いことに、ジフテリア毒素(DT)の触媒サブユニットの細胞膜を横切る移行も、DTが切断されたGPI結合DT受容体への結合により低いpHによって細胞中へパルスされた場合、検出可能な透過性が細胞に付与されない状態でおこることが先に示された(34)。著者らは、GPI-結合DT受容体が脂質ラフト中に局在化されたかを調べなかったが、これは非常に可能性が高い。したがって、それは、ラフト膜の特異的な脂質組成が、真のタンパク質により行われる膜孔による細胞の透過性付与の形成を必要とせずに異なるタンパク質毒素の標的細胞中への移行を支援するという仮説をたてる気にさせるものである。
【0199】
言い忘れた大事なこととして、本明細書において報告された実際の発見は、細胞透過性付与(細胞溶解)活性が大きく低下したCyaA/E570Q+K860R/AC-トキソイドは、CD11b+APC中への抗原デリバリーにおいて完全に活性なままであるということである。これは、癌の免疫療法のための第二世代のCyaA/AC-由来のワクチンにおける腫瘍特異的抗原のデリバリーのための安全性プロフィールの向上したツールとしてのその潜在的使用に照らして重要である。
【0200】
【表2】
【0201】
【表3】
【0202】
【表4】
【0203】
【表5】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデニレートシクラーゼタンパク質の突然変異体であるポリペプチド(突然変異体ポリペプチド)であって、そのアミノ酸配列が、以下の配列:
a)以下の突然変異が実施された、ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス(Bordetella parapertussis)又はボルデテラ・ヒンジイ(Bordetella hinzii)のアデニレートシクラーゼ(CyaA)のアミノ酸配列:
(i)グルタミン残基(E570Q)又は保存的アミノ酸残基による、570位のグルタミン酸残基の置換、及び
(ii)アルギニン残基(K860R)又は保存的アミノ酸残基による、860位のリジン残基の置換、或いは、
(b)ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス又はボルデテラ・ヒンジイのアデニレートシクラーゼ(CyaA)の断片のアミノ酸配列であって、該断片がボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記断片はさらに、上記アデニレートシクラーゼの570位及び860位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E570Q及びK860Rを含む、或いは、
(c)1つ以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入により、上記a)又はb)に定義されたアミノ酸配列と異なる、アミノ酸配列であって、ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記アミノ酸配列はさらに、上記アデニレートシクラーゼの570位及び860位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E570Q及びK860Rを含む、或いは、
(d)ボルデテラ・ブロンキセプティカ(Bordetella bronchiseptica)のアデニレートシクラーゼ(CyaA)のアミノ酸配列であって、以下の突然変異が実施されたもの:
(i)グルタミン残基(E569Q)又は保存的アミノ酸残基による、569位のグルタミン酸残基の置換、及び
(ii)アルギニン残基(K859R)又は保存的アミノ酸残基による、859位のリジン残基の置換、或いは、
(e)ボルデテラ・ブロンキセプティカのアデニレートシクラーゼ(CyaA)の断片のアミノ酸配列であって、該断片がボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記断片はさらに、上記アデニレートシクラーゼの569位及び859位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E569Q及びK859Rを含む、或いは、
(f)1つ以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入により、上記d)又はe)に定義されたアミノ酸配列と異なる、アミノ酸配列であって、ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記アミノ酸配列はさらに、上記アデニレートシクラーゼの569位及び859位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E569Q及びK859Rを含む、
のうちの一つを含むか又はそれから成る、前記ポリペプチド。
【請求項2】
ボルデテラ・ペルツッシスアデニレートシクラーゼの前記アデニレートシクラーゼのアミノ酸が、配列番号1として開示されている、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列と、1〜200アミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入により異なる、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
細胞に結合し、アデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメインを前記細胞中に移行させることができる、請求項1又は2に記載のポリペプチドであって、ここで、前記細胞がCD11b/CD18受容体を発現し、そしてここで、前記細胞への結合が前記CD11b/CD18受容体への結合を介しておこる、前記ポリペプチド。
【請求項5】
アデニレートシクラーゼトキソイドの突然変異体であって、そのアデニレートシクラーゼ活性が、ボルデテラ・ペルツッシスCyaA毒素の活性に比較して部分的に又は完全に抑制されている、請求項1、2、3又は4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記アデニレートシクラーゼ活性の部分的又は完全な抑制が、ボルデテラ・ペルツッシスのアデニレートシクラーゼ、特に配列番号1、の188位及び189位のアミノ酸残基の間へのジペプチドの挿入により達成される、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドを含むか又はそれから成るポリペプチド誘導体であって、さらに1つ以上の着目の分子を含む、前記ポリペプチド。
【請求項8】
前記1つ以上の着目の分子が、免疫応答を誘発するのに好適なアミノ酸配列から成る、請求項7に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項9】
免疫応答を誘発するのに好適な前記各分子のアミノ酸配列が、5〜800個、特に300〜600個、又は400〜500個のアミノ酸残基からなる、請求項8に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項10】
免疫応答を誘発するのに好適な前記各分子のアミノ酸配列が、ポリオウイルス抗原、HIVウイルス抗原、インフルエンザウイルス抗原、脈絡髄膜炎ウイルス配列、腫瘍抗原を含むか又はそれから成るか、或いは、少なくとも1つのエピトープを含むこれらの抗原のいずれかのアミノ酸配列の一部を含むか又はそれから成る、請求項8又は9に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項11】
免疫応答を誘発するのに好適な前記各分子のアミノ酸配列が、前記突然変異体ポリペプチドのアデニレートシクラーゼアミノ酸配列の許容部位中に挿入され、それによって、前記突然変異体ポリペプチドのそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメインを標的細胞中へ移行させる能力を保存する、請求項8〜10のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項12】
免疫応答を誘発するのに好適な前記各アミノ酸配列が前記突然変異体ポリペプチドのアミノ酸残基に移植され、特に化学的に移植される、請求項8又は9に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項13】
治療における使用のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド又は請求項7〜12のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項14】
それを必要とする宿主においてT細胞免疫応答を誘発するため及び/又はB細胞免疫応答を誘発するための治療における使用のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド又は請求項7〜12のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項15】
新生物、癌及びウイルス性、レトロウイルス性、細菌性、寄生生物性又は真菌性疾患から選ばれる感染性疾患の予防又は治療のための、請求項7〜14にいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項16】
前記ポリペプチドが、アジュバントとともに、及び/又は他の治療活性を有する分子とともに投与される、請求項13、14又は15のいずれか1項に記載のポリペプチド又はポリペプチド誘導体。
【請求項17】
前記ポリペプチドがアジュバントとともに投与されない、請求項13又は14に記載のポリペプチド又はポリペプチド誘導体。
【請求項18】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド又は請求項7〜17のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体、医薬として許容可能なキャリア、及び場合によりアジュバント及び/又は治療活性を有する分子を含む、医薬組成物。
【請求項19】
新生物、癌、及びウイルス性疾患又はレトロウイルス性疾患から選ばれる感染性疾患から選ばれる疾患の治療のための治療用組成物の製造のための、請求項7〜12のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体の使用。
【請求項20】
分子の細胞中へのデリバリーに適したタンパク質ベクターの製造方法であって、前記分子を請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドに結合させることを含む、前記方法。
【請求項1】
アデニレートシクラーゼタンパク質の突然変異体であるポリペプチド(突然変異体ポリペプチド)であって、そのアミノ酸配列が、以下の配列:
a)以下の突然変異が実施された、ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス(Bordetella parapertussis)又はボルデテラ・ヒンジイ(Bordetella hinzii)のアデニレートシクラーゼ(CyaA)のアミノ酸配列:
(i)グルタミン残基(E570Q)又は保存的アミノ酸残基による、570位のグルタミン酸残基の置換、及び
(ii)アルギニン残基(K860R)又は保存的アミノ酸残基による、860位のリジン残基の置換、或いは、
(b)ボルデテラ・ペルツッシス、ボルデテラ・パラペルツッシス又はボルデテラ・ヒンジイのアデニレートシクラーゼ(CyaA)の断片のアミノ酸配列であって、該断片がボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記断片はさらに、上記アデニレートシクラーゼの570位及び860位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E570Q及びK860Rを含む、或いは、
(c)1つ以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入により、上記a)又はb)に定義されたアミノ酸配列と異なる、アミノ酸配列であって、ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記アミノ酸配列はさらに、上記アデニレートシクラーゼの570位及び860位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E570Q及びK860Rを含む、或いは、
(d)ボルデテラ・ブロンキセプティカ(Bordetella bronchiseptica)のアデニレートシクラーゼ(CyaA)のアミノ酸配列であって、以下の突然変異が実施されたもの:
(i)グルタミン残基(E569Q)又は保存的アミノ酸残基による、569位のグルタミン酸残基の置換、及び
(ii)アルギニン残基(K859R)又は保存的アミノ酸残基による、859位のリジン残基の置換、或いは、
(e)ボルデテラ・ブロンキセプティカのアデニレートシクラーゼ(CyaA)の断片のアミノ酸配列であって、該断片がボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記断片はさらに、上記アデニレートシクラーゼの569位及び859位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E569Q及びK859Rを含む、或いは、
(f)1つ以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入により、上記d)又はe)に定義されたアミノ酸配列と異なる、アミノ酸配列であって、ボルデテラ・ペルツッシスのCyaAタンパク質が標的細胞に結合する能力及びそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメイン又はその一部を標的細胞中へ移行させる能力を有し、ここで、上記アミノ酸配列はさらに、上記アデニレートシクラーゼの569位及び859位に位置する突然変異したアミノ酸残基:E569Q及びK859Rを含む、
のうちの一つを含むか又はそれから成る、前記ポリペプチド。
【請求項2】
ボルデテラ・ペルツッシスアデニレートシクラーゼの前記アデニレートシクラーゼのアミノ酸が、配列番号1として開示されている、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列と、1〜200アミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入により異なる、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
細胞に結合し、アデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメインを前記細胞中に移行させることができる、請求項1又は2に記載のポリペプチドであって、ここで、前記細胞がCD11b/CD18受容体を発現し、そしてここで、前記細胞への結合が前記CD11b/CD18受容体への結合を介しておこる、前記ポリペプチド。
【請求項5】
アデニレートシクラーゼトキソイドの突然変異体であって、そのアデニレートシクラーゼ活性が、ボルデテラ・ペルツッシスCyaA毒素の活性に比較して部分的に又は完全に抑制されている、請求項1、2、3又は4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記アデニレートシクラーゼ活性の部分的又は完全な抑制が、ボルデテラ・ペルツッシスのアデニレートシクラーゼ、特に配列番号1、の188位及び189位のアミノ酸残基の間へのジペプチドの挿入により達成される、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドを含むか又はそれから成るポリペプチド誘導体であって、さらに1つ以上の着目の分子を含む、前記ポリペプチド。
【請求項8】
前記1つ以上の着目の分子が、免疫応答を誘発するのに好適なアミノ酸配列から成る、請求項7に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項9】
免疫応答を誘発するのに好適な前記各分子のアミノ酸配列が、5〜800個、特に300〜600個、又は400〜500個のアミノ酸残基からなる、請求項8に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項10】
免疫応答を誘発するのに好適な前記各分子のアミノ酸配列が、ポリオウイルス抗原、HIVウイルス抗原、インフルエンザウイルス抗原、脈絡髄膜炎ウイルス配列、腫瘍抗原を含むか又はそれから成るか、或いは、少なくとも1つのエピトープを含むこれらの抗原のいずれかのアミノ酸配列の一部を含むか又はそれから成る、請求項8又は9に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項11】
免疫応答を誘発するのに好適な前記各分子のアミノ酸配列が、前記突然変異体ポリペプチドのアデニレートシクラーゼアミノ酸配列の許容部位中に挿入され、それによって、前記突然変異体ポリペプチドのそのアデニレートシクラーゼ酵素のN-末端ドメインを標的細胞中へ移行させる能力を保存する、請求項8〜10のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項12】
免疫応答を誘発するのに好適な前記各アミノ酸配列が前記突然変異体ポリペプチドのアミノ酸残基に移植され、特に化学的に移植される、請求項8又は9に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項13】
治療における使用のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド又は請求項7〜12のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項14】
それを必要とする宿主においてT細胞免疫応答を誘発するため及び/又はB細胞免疫応答を誘発するための治療における使用のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド又は請求項7〜12のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項15】
新生物、癌及びウイルス性、レトロウイルス性、細菌性、寄生生物性又は真菌性疾患から選ばれる感染性疾患の予防又は治療のための、請求項7〜14にいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項16】
前記ポリペプチドが、アジュバントとともに、及び/又は他の治療活性を有する分子とともに投与される、請求項13、14又は15のいずれか1項に記載のポリペプチド又はポリペプチド誘導体。
【請求項17】
前記ポリペプチドがアジュバントとともに投与されない、請求項13又は14に記載のポリペプチド又はポリペプチド誘導体。
【請求項18】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド又は請求項7〜17のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体、医薬として許容可能なキャリア、及び場合によりアジュバント及び/又は治療活性を有する分子を含む、医薬組成物。
【請求項19】
新生物、癌、及びウイルス性疾患又はレトロウイルス性疾患から選ばれる感染性疾患から選ばれる疾患の治療のための治療用組成物の製造のための、請求項7〜12のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体の使用。
【請求項20】
分子の細胞中へのデリバリーに適したタンパク質ベクターの製造方法であって、前記分子を請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドに結合させることを含む、前記方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2012−521207(P2012−521207A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501286(P2012−501286)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053795
【国際公開番号】WO2010/136231
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(510069308)
【出願人】(511230738)インスティテュート オブ マイクロバイオロジー オブ ザ アーエスツェール,ベレイナ ビズクムナ インスティテュツェ (1)
【出願人】(511230749)インスティテュート オブ フィジオロジー オブ ザ アーエスツェール,ベレイナ ビズクムナ インスティテュツェ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053795
【国際公開番号】WO2010/136231
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(510069308)
【出願人】(511230738)インスティテュート オブ マイクロバイオロジー オブ ザ アーエスツェール,ベレイナ ビズクムナ インスティテュツェ (1)
【出願人】(511230749)インスティテュート オブ フィジオロジー オブ ザ アーエスツェール,ベレイナ ビズクムナ インスティテュツェ (1)
【Fターム(参考)】
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