説明

細胞保存容器

【課題】細胞の生存率を良好に維持しつつ、細胞の保存前後における処置の迅速さ、簡便さ、及び運搬の容易性の要請に応えうる細胞の保存容器を提供する。
【解決手段】保存温度を保存すべき細胞内の水の結晶化温度より高く、及び細胞の活動至適温度以下、並びに保存圧力を0.11〜10MPaとする保存条件に好適であり、かつ小型軽量の細胞保存容器であって、液体圧力媒体を充填することにより圧力を維持できる加圧容器と、該加圧容器内に収めることが可能であって、外部からの圧力を内部の物質に伝達できる材質を有することにより内部に封入される細胞を加圧できる内部容器とを有し、これら容器の形状が内部空間も含めて特定の形状である細胞保存容器が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞の保存容器に関し、詳しくは、細胞を冷凍することなく保存することができ、また細胞の輸送にも使用できる小型軽量の細胞保存容器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体から採取された細胞は、生体外で培養してその生理活性や生理機能を検査したり、製薬開発のための試料として種々の実験に供されたり、移植等の治療に使用されたりしている。特に近年、動物実験への社会的批判から、動物実験を最小限に抑え、実験を培養細胞等で代替することが国際的な潮流となっている。細胞の培養には、生体内での細胞の性質を高度に維持している初代培養と、一定の安定した性質を持った細胞株を作るための継体培養がある。このうち、初代培養細胞については前述の動物実験の代替ニーズが高まってきているが、そのためには、生体内での性質を維持させつつ種々の実験を数多く、さらには同一条件下での比較実験を迅速に実施できるように、細胞を良好な生存率でかつ簡便に保存及び運搬・輸送できることが求められている。また、それ以外の細胞においても迅速かつ簡便な保存方法に対する要望は高い。
【0003】
細胞の一般的な保存方法として冷凍保存があるが、この方法では前記の「迅速、簡便」という要請を満足できない。近年、食品及び微生物を冷凍せずに保存するため、500〜10000気圧(約50〜1000MPa)の高圧下で保存する方法が開示されている(特許文献1)。また、血液、血小板、心臓等の生物学的物質の保存において、保存溶液と組み合わせて低温下、70〜1000気圧(約7〜100MPa)の高圧下での保存方法が開示されている(特許文献2)。これらはいずれもできる限りの低温下でかつ非凍結、そのために超高圧を付与するという技術思想である。
【0004】
したがって、これらの保存状態は極度の過冷却状態にあり、当該保存物質を運搬するような場合、運搬中の物理的ショックにより過冷却状態のバランスが崩れ、一気に保存物質中の水分が氷結して当該保存物質がダメージを受けるという危険性を含んでいる。なお、該先行技術は細胞そのものについて加圧して保存するという技術ではない。
【0005】
また、細胞等の生物学的材料の保存に際し、加圧処理を施す技術が開示されているが(特許文献3)、これとても、一旦静水圧を適用した後、該静水圧を解放して最終的には生物学的材料を凍結保存する技術である。
【0006】
以上の事情から、既存の保存方法の不便さを容認して実験に供するか、生体内性質の保持が最優先される場合には実験の都度生物個体から細胞を採取しているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特許2533584号公報
【特許文献2】特表2002−528469号公報
【特許文献3】特表2007−505100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、細胞の生存率を良好に維持しつつ、細胞の保存前後における処置の迅速さ、簡便さ、及び運搬・輸送の容易性の要請に応え得る、細胞保存に優れた効果を発揮する細胞保存容器を提供することにある。さらに、例えば、研究施設間での保存細胞の往来を手軽、簡便、かつ安価に実施可能とする小型軽量の細胞保存容器を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、細胞を一定の圧力下に置くことにより、低温ではあるが細胞内の水の結晶化温度より高く、及び細胞の活動至適温度以下であれば細胞を高生存率で保存できることを見出した。さらに、細胞を保存する容器の形状等を特定のものとすることにより、細胞の保存機能が格段に優れる小型かつ軽量の細胞保存容器を開発し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、液体圧力媒体を充填して容器内部を加圧状態にする加圧容器と、該加圧容器内に収めることが可能であって、外部からの圧力を内部の物質に伝達できる材質を具備することにより内部に封入される(収められる)細胞を加圧できる内部容器とを有し、該内部容器を前記加圧容器内に収めたとき、前記加圧容器の内部空間の長手方向と前記内部容器の長手方向が同一の方向で保持される、細胞保存容器が提供される。
【0011】
第2の発明によれば、液体圧力媒体を充填して容器内部を加圧状態にする加圧容器と、該加圧容器内に収めることが可能であって、前記液体圧力媒体の出入りが可能な穴を有することにより、内部に封入される(収められる)細胞を加圧できる内部容器とを有し、該内部容器を前記加圧容器内に収めたとき、前記加圧容器の内部空間の長手方向と前記内部容器の長手方向が同一の方向で保持される、細胞保存容器が提供される。
【0012】
第3の発明によれば、前記内部容器の内部空間の形状が角柱又は円柱であり、該角柱又は円柱の高さ方向が長手方向であることが好適である。
【0013】
第4の発明によれば、前記内部容器の内部空間の底面に該当する部分の一方又は両方が平面ではなく、角錐、円錐、試験管様の半球状、すり鉢状、又はスピッツ管のように先細りした形状であることがさらに好適である。
【0014】
第5の発明によれば、液体圧力媒体を充填して容器内部を加圧状態にする加圧容器と、前記内部容器の2個又は3個以上を有し、該複数の内部容器を前記加圧容器の内部空間に直列に収めることができ、前記複数の内部容器が上述した内部容器のいずれであってもよい、細胞保存容器が提供される。
【0015】
第6の発明によれば、前記液体圧力媒体が水又は保存する細胞の液体培地であることが好適である。
【0016】
第7の発明によれば、前記加圧容器が、その長手方向の一方の端に、前記液体圧力媒体の流出入が可能なバルブを有することができる。
【0017】
第8の発明によれば、前記加圧容器が、その長手方向の両端に、前記液体圧力媒体の流出入が可能なバルブを有することもできる。
【0018】
第9の発明によれば、その小型及び軽量の程度が、前記細胞保存容器に細胞を保存した状態において、当該細胞保存容器が定型外郵便物のサイズの規定を満たす角型又は円筒形の封筒に収めることができ、その重さが250g以下である。
【0019】
第10の発明によれば、前記細胞保存容器は細胞の輸送に好適に使用できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、細胞の生存率を良好に維持しつつ、細胞の保存前後における処置の迅速さ、簡便さ、及び運搬・輸送の容易性の要請に応えて細胞を保存することができる。さらに、本発明の細胞保存容器は前記の通り小型軽量とすることが可能なので、例えば、研究施設間での保存細胞の往来を手軽、簡便、かつ安価に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明について、その具体的態様を以下に詳述する。本発明で保存できる細胞は特に限定されず、動物細胞、微生物細胞等の保存に適用できるが、保存目的からすれば動物細胞が好ましく、例えば、マウス、ラット、モルモット、鳥類、犬、猫、豚、羊、馬、牛、サル、ヒト等の動物から採取された種々の細胞の保存に適用することができる。細胞種としては、脳細胞、神経細胞、表皮細胞、繊維細胞、筋細胞、肝細胞、及び幹細胞等に適用することができ、また、胚性幹細胞や人口多能性幹細胞に適用することも可能と考えられる。
【0022】
本発明において細胞は内部容器の内部空間内で保存される。このときの細胞は、保存する細胞に適した液体培地に播種又は懸濁させた状態で内部容器内に注入(充填)される。液体培地としては、例えばDulbeco’s Modified Eagle Medium (通称 DMEM)等を使用する。
【0023】
細胞に圧力を付与する方法としては、前記内部容器を圧力を付与するための容器(以後、「加圧容器」と称する)内に収め、圧力媒体として液体を用いて前記内部容器内の細胞に圧力を付与する。該加圧容器内へ収める内部容器は1個であってもよく、又は数種の細胞を一度に同一条件下で保存したい場合等には2個以上の複数個であってもよい。装置の設計上からは該加圧容器内へ収める保存容器の個数は10個以下が好ましい。細胞保存容器全体を小型軽量として、簡易かつ安価に輸送するためには5個以下がより好ましい。
【0024】
ここで、圧力媒体とは、前記保存容器内の細胞に直接又は間接的に所定の圧力を付与し、及びその圧力を維持するための物質であって、本発明では液体の圧力媒体を使用する。液体としては特に制限は無いが、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン、不凍液、食塩若しくは芒硝等の無機塩水溶液、又は糖類の水溶液、あるいはこれらの混合物等を使用することができる。さらには、保存する細胞用の液体培地を圧力媒体として使用してもよい。簡便さ、費用の点で水が好適であり、後述する細胞保存用液体培地の入れ替えの点では当該液体培地が好適である。
【0025】
液体圧力媒体で、保存細胞に圧力を付与する第1の方法では、細胞に所定の圧力を付与するため外部からの圧力を内部の物質に伝達できる材質を有する内部容器を使用して圧力を付与する。当該材質については本要件を満足するものであれば特に制限は無いが、例えば、シリコーン樹脂、天然ゴム、SBR等の合成ゴム、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂、及びテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂を使用することができる。なお、テフロン(登録商標)は硬いフッ素樹脂であり、圧力を内部の物質に伝達できないので、テフロン(登録商標)を使用する場合は、全ての部分に使用するのではなく、内部容器の密封栓のような部分にのみ使用する。
【0026】
液体圧力媒体で、保存細胞に圧力を付与する第2の方法では、細胞に所定の圧力を付与するため内部容器に1以上の穴が開いている。具体的には、図5に示すように内部容器の側面に複数の細孔が開いていることが好ましい。また、保存細胞が漏出しないような位置に細孔が開いていることが好ましい。この場合の内部容器の材質として、前記のシリコーン樹脂、天然ゴム、SBR等の合成ゴム、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂、及びフッ素樹脂等を使用することができる。また、穴が開いているため、その材質は外部からの圧力を内部の物質に伝達できる材質である必要は無く、ガラス、ステンレス、セラミックス、又はポリエチレン、ポリプロピレン若しくはアクリル樹脂等の圧力を内部に伝達しにくい材質の樹脂製品であってもよい。
【0027】
内部容器の外観形状及び内部の形状については以降に詳述するが、外観形状は概略角柱又は円柱で、底面部分はフッ素樹脂、シリコーン樹脂、金属、ガラス、又はセラミックス等で内部容器の密栓部分とし、側面部分は、前記圧力を内部の物質に伝達できる材質であることが好ましい。なお、前記保存細胞に圧力を付与する第2の方法では、側面部分に細孔があいており、その材質は圧力を内部の物質に伝達できる材質であっても、そうではない前記ステンレス等の材質であっても良い。また、該角柱又は円柱の高さ方向が長手方向、すなわち角柱又は円柱の高さが、その幅(円柱であれば底面の直径、角柱であれば底面の対角線等最大幅)より長いほうが好ましい。なお、底面に当たる密栓部分と側面部分の境界で、図4に示すような段差部分22が生じ、正確な角柱又は円柱とはならない場合もある。
【0028】
内部容器の内部空間の形状は、外観形状と同様、概略角柱又は円柱であることが好ましい。さらに、後述する保存細胞の保存時の集合状態の点で、該内部空間の底面に該当する部分の一方又は両方が平面ではなく、図6に示すような角錐又は円錐形状(側面視V字又は逆V字形状)、試験管様の半球状、すり鉢状、又はスピッツ管のように先細りした形状であることが好ましい。
【0029】
上記の内部容器内に、保存する細胞に適した液体培地に播種又は懸濁させた状態の細胞をピペット等適当な方法で注入(充填)した後、フッ素樹脂等の栓で密栓して加圧容器内に収める。次に、該加圧容器の内部空間内に、後述する送液装置等を使用して液体圧力媒体を満たすと共に所定の圧力を付与する。なお、内部容器を加圧容器の内部空間内に収めてから液体圧力媒体を注入してもよく、液体圧力媒体を適量注入した後に内部容器を収めてもよい。また、液体圧力媒体の注入方法としては、最初から送液装置等を使用してもよく、最初に大部分の液体圧力媒体をビーカー等により手動で注ぎ入れた後、加圧する段階のみ送液装置等を使用してもよい。
【0030】
以上のようにして内部容器内に入れて加圧容器内に収められた細胞を、細胞内の水の結晶化温度より高く、及び細胞の活動至適温度以下、並びに0.11〜10MPaの圧力下で保存する。前記水の結晶化温度は細胞種によって異なるが、一般的には0〜−10℃である。結晶化温度以下では細胞内の水が結晶化して細胞を破壊するおそれがあり、活動至適温度より高い温度では、一般的に細胞にとって不適な環境であり、細胞の生存率が低下するからである。圧力が0.11MPaより低いときは大気圧で保存する場合と比較して有意差が見られず細胞生存率が低く、10MPaを超えるとやはり細胞生存率が低いからである。なお、物理的ショックによる細胞中の水分の凍結の不安を払拭する点において、保存温度は−3℃以上が好ましく、保存後すぐに実験等に供する点及び細胞生存率の点で−1℃以上がより好ましく、1℃以上がさらに好ましい。また、前述した通り細胞の種類により至適温度は異なるが、保存後すぐに実験等に供する点で、40℃以下が好ましく、37℃以下がさらに好ましい。保存圧力については、細胞生存率の点で0.11MPa以上が好ましく、保存時の圧力漏洩のおそれを考慮すると、0.15MPa以上がより好ましい。又、最大圧力については、細胞生存率を長期間維持する点で6.5MPa以下が好ましく、5.5MPa以下がより好ましい。
【0031】
以上のようにして圧力が付与された内部容器が収められた加圧容器を、恒温槽、恒温室、又は前記保存温度が維持できれば室内で保存する。
【0032】
本発明の細胞保存容器、及び圧力を付加するための装置等について図を参照しながらより具体的に説明する。図1は本発明の加圧容器の外観の一例を示したものである。図1が最良の形態の代表的形状であるので、本図に基づいて説明するが、本形状に限定されるわけではない。図1の1は、その内部空間に内部容器を収めることができる加圧容器の本体部分である。その形状は3、4、5、6、7、8、9、10角、若しくはそれ以上の多角の角柱状、又は円柱状であることが好ましく、耐圧性及び輸送等を考慮した場合、円柱状であることがより好ましい。また、図1のように縦長、すなわち角柱又は円柱の高さが、その幅(円柱であれば底面の直径、角柱であれば底面の対角線等最大幅)より長いほうが、その内部空間も縦長とすることが容易であり、後述する細胞生存率の点で好ましい。
【0033】
このように縦長であるほうが良い理由は、加圧容器の外観形状、その内部空間形状、及び内部容器の外観形状に共通するが、最終的には細胞を保存する内部容器の内部空間形状を、縦長の角柱又は円柱状にすることが細胞の保存に好適だからである。内部容器の断面図の例を図4、5に示す。重力方向が図の下方向になるような状態で内部容器が保存された場合、保存細胞は図4、5の10のような集合状態で保存される。
【0034】
細胞は、本発明で開示する加圧状態で保存することにより、その生存率が飛躍的に向上するが、加圧保存時の細胞の集合状態も細胞の生存率に影響することを本発明者らは見出した。すなわち、保存される細胞はその保存時において、集合してある種の塊状となっているが、当該塊の表面積ができるだけ小さくなる様な状態で集合して保存されると、その生存率は同じ加圧状態であってもより良好となる。
【0035】
したがって、内部容器の内部空間のさらに好ましい形状は、上述したように、角柱又は円柱の底面部分が平面ではなく、角錐、円錐、試験管様の半球状、又はスピッツ管のように先細りした形状である。当該形状が重力方向となるように保存した場合、保存細胞がこれらの形状に合わせた形で集合して収まるため、図4、5のように底面が平面の場合より、細胞の集合塊の表面積が小さくなるからである。その一例を図6に断面図で示す。なお、細胞の集合塊の表面積が小さくなるのであれば、前記形状に限られず、これらの中間のような形状、例えば、すり鉢状や食器のボール状等であっても良い。
【0036】
上記の通り、内部容器の内部空間の形状が図4〜6で示すように、いわゆる縦長の角柱様又は円柱様形状が好ましいことに連動して、内部容器の外観形状、加圧容器の内部空間形状及び加圧容器の外観形状も同様の形状であることが好ましい。ただし、当然のことながらこの四つの形状がすべて同類の形状である必要は無く、加圧容器の内部空間の長手方向と前記内部容器の長手方向が同一の方向で保持されるように、内部容器が加圧容器内に収めることができればよい。
【0037】
内部容器が加圧容器内に収められた一例を図7に示す。なお、図7の内部容器では、前記角柱又は円柱の一方の底面だけではなく、両底面部分が前記形状を有する例を示しているが、このようにいわゆる上下方向とも前記形状を有していれば、内部容器を加圧容器の内部空間内に収めるときに、内部容器の上下を気にする必要が無いという利点がある。
【0038】
図7に例示した通り、内部容器と加圧容器の内部空間のクリアランスの関係上、内部容器が多少傾くことはあっても、図7のように加圧容器の内部空間の長手方向と内部容器の長手方向が同一あるいはほぼ同一の方向で保持されることが必要である。このように保持されれば、加圧容器を図7のように立てて保存した場合、内部の保存細胞が望ましい塊の集合形状を保持した状態で保存できるからである。
【0039】
ところで、細胞の保存においては、図7に例示したように立てて保存することが、上記した理由により本発明の中で最良ではあるが、このことは、本発明の細胞保存容器を横に倒した状態で保存することを否定したり、排除したりするものではない。例えば、本発明の細胞保存容器を、内部に細胞を保存した状態で封筒に入れて輸送する場合などには、細胞保存容器が横にされる場合もあり得る。そうすると、保存細胞が内部容器の内部の側面上に広がる可能性がある。しかし、その場合であっても、加圧状態が保持されていれば、細胞の生存率は良好に保たれる。縦に保存すれば、細胞の生存率がより良好となるということである。
【0040】
次に、加圧容器の本体部分以外について説明する。図1に示した通り、本体部の少なくとも一方の底面部分に、液体圧力媒体の流出入のための、及び該液体圧力媒体を介して加圧容器内を加圧し、加圧状態を保持し、及び加圧容器内の圧力を解放するためのバルブ部分2及びジョイント(継手)3が設置される。バルブの形及び機構については、前記圧力に耐えることができ、液体圧力媒体の流出入、圧力保持、及び圧力の解放ができれば特に制限は無い。例えば、液体圧力媒体の遮断の形式としてはゲートバルブ、ボールバルブ、あるいはニードルバルブ等を挙げることができる。また、開閉操作部分(ハンドル部分)の形状はガスボンベなどで使用される回転式(ねじ込み式)であっても、レバー式のコック栓タイプであっても良い。
【0041】
ジョイント3は、液体圧力媒体を加圧容器内に送入するとともに加圧容器内を加圧するため、図8に示したように加圧容器と配管16とを接続する役目をする。すなわち、ジョイント3は液体圧力媒体の送入による加圧時に、加圧容器から配管16が圧力によってはずれないようにしっかりと固定する役割を果たす。
【0042】
バルブ部分2は、図2、3に示すようにねじ込み式で加圧容器本体1に取り付けられるのが好ましいが、上記圧力に耐えられ、該圧力を保持できればどのような方式であっても良い。また、液体圧力媒体送液装置(送液ポンプ)13から液体圧力媒体を送入するためのジョイント3は、バルブ部分2に固定されていても、ねじ込み式等で取外し可能であっても良い。輸送時の軽量化を考慮すれば取外し可能であることが好ましい。さらに、加圧容器本体1とバルブ部分2の間に、例えば小型のピン型栓17を設置でき、圧力保持が可能であれば、図9のようにして、加圧後であってもバルブ部分2を取外しできるようにしても良い。
【0043】
バルブ部分2及びジョイント3の材質は、ステンレス、鉄、銅、若しくは真鍮のような金属製であってもよく、又は熱硬化性樹脂若しくは熱可塑性樹脂のような樹脂製であってもよい。耐圧性及び強度の点では金属製が好ましく、軽量性の点では樹脂製が好ましい。なお、パッキン等圧力装置に通常必要と考えられる部品等は記載を省略している。
【0044】
前記加圧容器内を所望の圧力にするために、送液ポンプ等の送液装置を使用して液体圧力媒体を加圧容器内に送入すると共に加圧する。具体的には、保存細胞及び液体培地を注入(充填)した内部容器を加圧容器内に収めた後、送液ポンプを使用して液体圧力媒体を加圧容器内に送入すると共に、加圧する。なお、上述したように、液体圧力媒体の一部を先に加圧容器の内部に注入していてもよい。図2のようにバルブ部分が一か所のタイプの場合は、内部容器を加圧容器の内部空間内に収める前又は収めた後に、ピペット又はビーカー等を使用して、該内部空間を液体圧力媒体で満たしておくことが望ましい。送液ポンプ等で加圧する前に最大限該内部空間の空気を排除しておくためである。
【0045】
図8に液体圧力媒体の送入及び加圧方法の概略を示す。液体圧力媒体を貯蔵する貯蔵槽12から、配管16を通して該液体圧力媒体を送液ポンプ13により加圧容器内へ送入する。圧力付与状態を監視するために、配管の途中等に内部圧力を表示するための圧力ゲージ等の圧力表示器14を取り付けるのが好ましい。
【0046】
所望の圧力となった時点でバルブを閉め、配管16を取り外す。また、上記したようにバルブ部分2及びジョイント3が取外し可能であれば、これらを取り外して保存してもよい。上述した理由により加圧容器を立てた状態、すなわち重力方向が長手方向となるように保存することが細胞生存率の点で好ましい。したがって、加圧容器の外観形状の底面部分は図1のように平面であることが好ましい。しかし、エプトン管たてのようなものを使用すれば立てて保存できるので、加圧容器の外観の底面部分が試験管のように半球状であっても良い。
【0047】
同様の理由により図3のように、両底面部分にバルブ部分及びジョイントを有していてもよい。このタイプは、図5のように細孔の開いたタイプの内部容器6bを使用し、液体圧力媒体として保存する細胞の液体培地を使用するときに、そのメリットを発揮する。すなわち、細胞の保存途中において液体培地を次のようにして交換することができ、新鮮な液体培地での保存が可能となるため、より細胞の生存率を高めることができる。
【0048】
液体圧力媒体(この場合は液体培地)の交換方法は、一方のバルブ側より液体圧力媒体を送液しつつ、他方のバルブをその開閉度を調節しながら開けることにより、加圧状態を保持しつつ内部容器内の液体培地も含めて液体圧力媒体を新鮮なものに交換する。
【0049】
本発明の加圧容器の材質としては、加える圧力に耐えることができれば特に制限は無いが、例えば、ステンレス、鉄、銅、真鍮、あるいはアルミニウム等の金属、又は合成樹脂若しくは天然樹脂等を挙げることができる。合成樹脂としてはウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂であってもよく、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂であってもよい。強度の点でエンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチックが好ましく、耐圧強度及び軽量性の点でポリエーテルエーテルケトン(PEEK)がより好ましい。加圧容器の材質にPEEKを使用し、バルブ部分2及びジョイント3にステンレス製等金属製のものを使用すれば、10MPa以上の耐圧性を得ることができる。
【0050】
本発明の細胞保存容器の外形サイズは、当然のことながら加圧容器の外形サイズである。本発明においては、輸送に便利なように細胞保存容器が小型軽量であることも発明の目的の一つである。この目的のために、本発明の細胞保存容器の外形サイズは、定型外郵便物のサイズの規定を満たす角型又は円筒形の封筒に収めることができることが好ましい。危険物では無いなどの必要条件を満たせば、定形外郵便として簡易に輸送できるからである。定形外郵便物は、「たて(長さ)、よこ(幅)、高さ」で表した場合、最長の辺が60cm以下で、「たて+よこ+高さ」が90cm以下と規定されている。また重量は最大4kgであって、重量により8段階に分かれており、各段階で郵便料金が異なっている。小包料金あるいは宅配料金より安価となる点で、保存細胞を注入した内部容器及び液体圧力媒体も含んだ細胞保存容器全体の重量として500g以下が好ましく、250g以下がより好ましい。重量の点で、前記ジョイント、さらにはバルブ部分が取り外せるほうが好ましい。
【0051】
以上のようにして、細胞を保存あるいは輸送した後、保存を解除して保存細胞を取り出すために加圧容器内を大気圧に戻す操作においては、単にバルブを開放して圧力媒体を排出させて減圧してもよく、送液ポンプ等を減圧装置として使用して圧力媒体を排出させてもよい。本発明の場合は容器が小型であるので、単にバルブを開放して大気圧に戻す操作で特に支障は無い。
【0052】
本発明の内部容器の大きさについては、加圧容器の大きさ及び加圧容器の内部空間の容量によって必然的に決まるが、上記述べてきた通り「小型軽量」を一つの目的としているので、内部容器の内部空間の容量として0.01mL〜数10mLが好ましく、0.1mL〜10mLがより好ましい。
【0053】
内部容器の外観形状の例を、図4〜6の6a、6b、及び6cに示しているが、上述した通り略縦長の角柱又は円柱であり、図4〜6においてもその底面は平らに描かれている。しかし、図7に例示したように加圧容器の内部空間と内部容器の大きさ及び形状の関係が、加圧容器の内部空間の長手方向と内部容器の長手方向がほぼ同一の方向で保持されるように設計されるので、該底面は平らである必要は無く、例えば試験管のように半球状であってもよい。底面が半球状、又はその他の形状であっても加圧容器の内部空間の側面に支えられて大きく傾くことは無いからである。
【0054】
内部容器を加圧容器内に収めて細胞を加圧保存する場合、一つの加圧容器に1個の内部容器を収めて保存するのが基本であるが、図10に例示するように複数個直列に保存することもできる。内部容器のサイズ及び重量にもよるが、小型軽量のコンセプトを尊重する点で、内部容器は10個以下が好ましく、5個以下がより好ましい。
【0055】
以上述べた本発明の細胞保存容器を使用し、上記の方法で保存すれば、生体から採取直後の細胞又は培養中の細胞を迅速かつ簡便に保存環境におくことができる。本発明においては、極端な低温とする必要も無く、極端な高圧とする必要も無く、かつ特別な保存溶液の調整及び該保存溶液と細胞の混合操作も必要としないためである。したがって、後の実験または細胞移植等のために、必要であれば数種の細胞又は培地の異なる同種の細胞等を、同一の条件で迅速に保存環境におくことができ、比較実験の精度向上や生体機能の保持に有効である。
【0056】
本発明の方法及び装置により、細胞は1日間から数週間の間高い生存率で保存することができ、保存状態を解除するに当たっても、加圧状態が極端に高圧ではないため短時間に大気圧に戻すことができる。また、該保存細胞は凍結等されていないので、保存期間終了後直ぐにプレートなどに該細胞を接着させる等、迅速に実験準備に着手できる。なお、前記保存期間の長さについては、細胞種によって生命力の強さ又は環境変化に対する適応性に差があるため一概には言えないが、細胞種によっては2週間〜2ヶ月程度保存することも可能である。
【0057】
後述の実験例にて詳述するが、本発明の保存方法を用いることにより、圧力を付与せず保存した場合と比較して細胞の生存率が飛躍的に増加する。本効果が得られる理由は、明確ではないが、オタマジャクシが高圧下で仮眠状態になるのが知られているように加圧により細胞が仮眠状態(麻酔効果が働き)になることにより代謝が遅くなり、培地の栄養等の消費も少なく長期間培地も代えることなく生存出来るのではないかと推測される。なお、本発明では保存途中で培地を交換できる態様もあり、この場合には保存細胞はより長期間生存できる。
【0058】
<実施形態>
次に、本発明について、実施形態により具体的に説明する。細胞、例えばラット新生仔脳の初代培養系(2×10/dish)を20〜30日間培養し,グリア細胞が成熟後トリプシン(0.05%)ではがし取り、内部容器に液体培地に懸濁させて充填する。液体培地としては、広く種々細胞培養用培地を使用することができ、本実施形態ではDMEM培地を使用した。表1に本研究で用いたGIBCO社製のDMEM培地の組成を示した。
【0059】
【表1】

【0060】
内部容器の一つとしては、その外観形状が略円柱でその内部空間形状も円柱(すなわち円筒形)のもの6aを使用した。筒部分はシリコーン樹脂チューブであり、該シリコーン樹脂チューブの両開口部をフッ素樹脂製の栓7aを用いて栓をし、密封する構造である。前記シリコーン樹脂チューブの一方の開口部に栓をし、細胞を懸濁させた液体培地を内部容器内9にピペット等で注入した後、もう一方の開口部も栓をして密封する。なお、シリコーン樹脂チューブの両開口部用の栓7aとしては、前記フッ素樹脂に限らず、金属、ガラス、又はセラミックス等密封できるものであれば、その材質に特に制限はない。
【0061】
内部容器の別の形状としては、その外観形状が略円柱で、その内部空間形状も円柱を基本とするが図6に示したように底面部分が円錐状のもの6cを使用した。筒部分はシリコーン樹脂チューブであり、該シリコーン樹脂チューブの両開口部をフッ素樹脂製の栓を用いて栓をし、密封する構造である点では同じである。該フッ素樹脂栓に図6に示したような円錐上の細工を施すことにより(7b)、当該内部形状とした。当該栓7bもフッ素樹脂に限らず、金属、ガラス、又はセラミックス等、当該細工が可能で密封できるものであれば、その材質に特に制限はない。細胞を懸濁させた液体培地の内部容器内への封入方法は前記と同じである。内部容器のサイズは、どちらのタイプも約6mm(直径)×35mm(高さ)である。
【0062】
以上の様にして細胞を封入した内部容器6a又は6cを、図7に例示したように加圧容器本体1の内部空間4に収める。本実施形態では該加圧容器の本体部分1はPEEK製の円柱状で、その内部空間形状も円柱状である。該加圧容器本体部分のサイズは30mm(直径)×90mm(高さ)で、その内部空間のサイズは10mm(直径)×60mm(高さ)である。また、バルブ部分2及びジョイント3はステンレス製で、一方の底面にのみ設置されているタイプを使用した。バルブ部品2及びジョイント3は、図11及び12に示したようにねじ込み式のものを使用した。
【0063】
内部容器6a又は6cを加圧容器本体1の内部空間4に収め、液体圧力媒体(本実施形態では水)を当該内部空間内に満たした後、バルブ部品2及びジョイント3をねじ込んで設置した。このとき、液漏れ及び圧漏れの防止のために、バルブ部品2のねじ山20及びジョイント3のねじ山21にシールテープを巻いておくことが好ましい。
【0064】
送液ポンプ13と加圧容器本体1とは、バルブ部品2及びジョイント3を介して配管であるフッ素樹脂チューブ16により連結され、送液ポンプ13により貯蔵槽12の水を加圧容器本体1内に送入すると共に加圧する。このとき加圧容器本体1内の圧力を圧力表示器14でモニターしながら、所望の圧力になるまでさらに水を送入する。なお、圧力媒体である水は所望の保存温度に保持されていることが望ましい。
【0065】
所望の圧力に達したら、内部容器6a又は6cを内包している加圧容器(本実施形態ではバルブ部分及びジョイントは取り付けたままとしている)を配管16から取り外し、該加圧容器(内部容器6a又は6cを内包)を恒温槽等で保存する。なお、上述した通り立てた状態で保存するのが好ましい。本保存容器の特性上、このように送液ポンプ等から取り外すのが普通であるが、装置全体をあらかじめ恒温室に設置し、配管で送液ポンプ等を連結したままで保存しても構わない。
【0066】
本発明の細胞保存容器は、当該容器のみで加圧状態を保持することができ、かつ小型軽量であるので、細胞を採取等した場所と実験場所あるいは治療場所が離れている場合にも簡便に輸送することができる。上述したような定形外郵便あるいは宅配便等によって、長距離輸送することもできる。また、必要であれば、該加圧容器をさらにクーラーボックス等の恒温容器に入れて所望の温度を保持しつつ運搬・輸送することができる。なお、当該実施形態では、保存細胞を内包した内部容器、液体圧力媒体、並びにバルブ部分及びジョイントを含めた加圧容器、以上すべてを含んだ保存容器全体として約200gの重量であった。
【0067】
保存状態を解除して細胞を取り出す場合は、上記したようにバルブ2を開放して液体圧力媒体(本実施形態では水)を排出させて圧力を大気圧に戻せばよい。あるいは大気圧に戻す際の減圧速度を精密にコントロールしたい場合は、送液ポンプを使用して所望の速度で該液体圧力媒体を排出させてもよい。なお、細胞の保存時の温度と保存後の処置時の温度が異なる場合、圧力を大気圧に戻す前に温度調節を行ってもよく、圧力を大気圧に戻した後に温度調節を行ってもよいが、好ましくは温度調節を行ってから大気圧に戻すほうがよい。
【0068】
<実験例>
以下、前記実施形態で示したサイズの細胞保存容器を使用した実験例にて、本発明についてさらに詳しく説明する。本実験は培養細胞の分離、加圧処理、及び保存後の細胞観察の3つの部分に大きく分けられる。
【0069】
<実験方法及び条件>
1.培養細胞の分離
試料の細胞としてはラット新生仔脳の初代培養系(2×10dish)を20〜30日間培養し、グリア細胞が成熟した状態のものを使用した。また、細胞数等の条件は細胞をカウントしてなるべく同じになるように調整しているが細胞のロット等で必ずしも同じ条件にはならない。そこで毎回同じ細胞を3〜5つに分け、比較として必ず1つは未加圧(すなわち大気圧;約0.1MPa)で保存し、残り2〜4つを加圧保存試料とした。
【0070】
(1)ラット新生仔脳から取り出した初代培養系(2×10dish)グリア細胞を37℃のCOインキュベーター(WAKENYAKU Model9100、CO濃度5%)を用いて20〜30日間、250mL培養フラスコでDMEM培地を用いて培養し成熟させた。グリア細胞はフラスコの底面に接着し、突起を伸ばした状態で生存している。
【0071】
(2)前記(1)の培養フラスコから細胞を取り出すため、まず、該フラスコから培地をアスピレーターで吸い出した。
【0072】
(3)細胞に付着している培地をさらに洗い流すために、前記フラスコにPBS(生理食塩水入りのリン酸緩衝液)を6mL加え軽く振った後、該洗浄溶液をアスピレーターで吸って取り除いた。
【0073】
(4)酵素反応を利用して前記フラスコに付着している細胞を剥離するために該フラスコに0.05%トリプシンを2mL加えた。
【0074】
(5)トリプシンを効率よく働かせるため37℃の恒温槽に2〜3分間保持した。その後インキュベーターから取り出し、前記フラスコを軽くたたいて細胞を剥がした。
【0075】
(6)馬の血清2mLとPBS6mLとを前記フラスコに加えてトリプシンの活性をとめた。
【0076】
(7)前記フラスコから遠沈管に溶液を移し、日立製遠心機himac−CT4iを用い800rpmで7分間遠心して剥離した細胞を沈殿させ、底に沈殿している細胞を吸い取らないように注意しながら上澄み液をアスピレーターで吸い取った。
【0077】
(8)1.5mLのDMEM培地を前記遠沈管に加え、細胞を十分に懸濁させた。
【0078】
(9)以後の実験で前記細胞懸濁溶液を数個に小分けして使うが、このとき各小分けしたものの該細胞溶液の濃度(細胞の個数)を同じにするためには、でき得る限り該細胞が1個ずつ単独で均一に培地中に分散していることが必要である。そこで、複数個が凝集している細胞の大部分を取り除くため、100μmのフィルターでろ過し、該細胞がほぼ1個ずつ単一に分散しているろ液(細胞懸濁液)を回収した。
【0079】
(10)ピペットマンで前記細胞懸濁液を少量取り、均一に分布するように血球計算板に入れ、定法に従って顕微鏡で視野内の細胞数を数え、細胞数を計算した。
【0080】
(11)前記(10)で計算した細胞数をもとに細胞濃度が1×10〜3×10個/300μLになるようにDMEM培地で濃度を調整した。
【0081】
(12)前記(11)の細胞懸濁液を300μLずつ均一に量り取って、内部容器であるシリコーン樹脂チューブ(6a又は6c)に入れ、空気が入らないように注意してフッ素樹脂の栓(7a又は7b)で密封した。なお、7bの円錐の頂点部分の側面視の角度は約45°とした。
【0082】
2.加圧処理(保存条件)
(13)加圧容器に、4℃に設定した水(圧力媒体)を入れた。
【0083】
(14)前記(12)で準備した内部容器を水で満たした前記加圧容器に収めた。
【0084】
(15)島津製HPLC用送液ポンプLC6Aを使用して、水を送液して加圧容器内部を静水圧で加圧し、1.6MPaとした。圧力は山崎製作所製の圧力ゲージで測定した。
【0085】
(16)4℃の温度及び1.6MPaの加圧下で4日間保存した。このとき、加圧容器を立てて(縦置き)保存し、細胞が集合して収まる内部容器の内部空間の底面形状が平面の場合と、円錐状(角度45°)の場合で比較した。また、加圧容器を横に倒して(横置き)の保存も実施した。さらに、比較のために圧力を付与しない大気圧(約0.1MPa)での保存試験も行った。
【0086】
3.保存後の細胞観察
(17)保存容器を加圧容器から取り出した後、フッ素樹脂の栓を取り外し、細胞を均一に懸濁させた後、液体培地と共にピペットで吸い取り、15mLのコーニングチューブに移した。
【0087】
(18)前記コーニングチューブに血清入りのDMEM培地を3mL加えて、12穴の培養用プレートの3ヶ所の穴に分けて前記培地と共に播いた。
【0088】
(19)前記培養用プレートを37℃のCOインキュベーター内に入れて、該保存後の細胞を1日間培養した。
【0089】
(20)細胞の生存率の評価は次のように行った。本実験例で用いた細胞は培養用プレートから剥離すると球形の形状になるという性質があるので、保存時には多数の球形の細胞が図4又は図6のように、液体培地の下部に集合した状態で保存されている。保存後、該細胞が生存していれば、再度培養用プレートに播くと1〜2日ほどでプレートの底に接着し、突起をのばして成長するのが観察される。その反面、生存していなければ球状で液体培地中に浮遊したままである。そこで、前記(19)の培養後にプレート底面に接着した細胞の数を顕微鏡で数えて生存細胞数とする。浮遊して生存していない細胞数とプレート底面に接着して生存している生存細胞数の和に対する、プレート底面に接着して生存している生存細胞数の割合を百分率で表したものを細胞の生存率とした。
【0090】
細胞生存率の良否は次の基準で評価した。すなわち、4点(生存率(%)≧80%)、3点(80%>生存率(%)≧60%)、2点(60%>生存率(%)≧30%)、1点(30%>生存率(%)≧10%)、0点(10%>生存率(%))とした。
【0091】
実験結果
上記実験方法及び条件に従って行った実験結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0093】
細胞は、医療分野、製薬分野、畜産分野、及び生化学等の学術分野など広範な範囲で各種目的の実験等に供されている。又、移植治療等にも重要な役割を担っている。これら細胞を使った実験、例えば培養実験などにおいて一時的に実験を中断して保存が必要になる場合がある。このような場合において、単に冷蔵するだけでは細胞の生存率が低いばかりでなく、細胞によっては保存ができないものもある。一方、細胞を冷凍したり保存溶液を使用したりする場合には前述したとおり、保存及び実験再開の迅速性に欠け当該方法を採用できない場合もある。本発明の保存方法によればこれらの欠点を解決し、迅速かつ簡便に保存及び実験の再開ができるため、例えば、生体内での性質を維持している初代培養細胞を迅速に実験に供したい場合等、広範な分野での細胞保存の要請に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の加圧容器の外観の一例を概略的に示す図である。
【図2】本発明の加圧容器の内部を概略的に示すため、加圧容器本体の断面図を概略的に表したものである。なお、バルブ部分とジョイントは断面ではなく側面を概略的に表し、液体圧力媒体の流出入路を点線で示している。
【図3】バルブ部分とジョイントを、加圧容器本体の長手方向の両端に有するタイプのものの概略を示す図であり、図2と同様加圧容器本体は断面図で示している。
【図4】内部容器の一例の断面図を概略的に表した図である。なお、図の下方が重力方向である場合を示している(図5、6、7も同じ)。
【図5】内部容器に穴があいているタイプの一例の断面図を概略的に表した図である。
【図6】内部容器の内部空間の底面の一方が円錐状になっているタイプの一例の断面図を概略的に表した図である。
【図7】加圧容器の内部空間に内部容器を収めたところの断面図を概略的に表した図である。
【図8】本発明の細胞保存容器に、液体圧力媒体を送入して加圧状態にするための装置全体を概略的に表した図である。
【図9】加圧容器内の加圧状態をピン型栓で保持でき、したがって、加圧後にジョイントだけでなくバルブ部分も取外し可能な加圧容器の断面図を概略的に表した図である。
【図10】複数の内部容器を収めることができる加圧容器の断面図を概略的に表した図である。
【図11】バルブ部分を概略的に表した図である。
【図12】ジョイントを概略的に表した図である。
【符号の説明】
【0095】
1 加圧容器本体
2、2’ バルブ部分
3、3’ ジョイント
4 加圧容器の内部空間
5 バルブ部分を加圧容器本体に接続するねじ込み部分
6a 内部空間の底面部が平面である内部容器
6b 細孔を有する内部容器
6c 内部空間の底面部の一方が円錐形状である内部容器
7a 内部容器の栓(内部空間の底面部が平面であるタイプ)
7b 内部容器の栓(内部空間の底面部が円錐状であるタイプ)
8、8’ 内部容器の側面部分(円筒部)
9 内部容器の内部空間
10 保存細胞の集合体
11 内部容器の細孔部
12 液体圧力媒体貯蔵槽
13 送液装置(送液ポンプ)
14 圧力表示器
15 配管部バルブ
16 配管
17 ピン型栓
18 液体圧力媒体流出入路
19 バルブ部分のハンドル(又はコック)部
20 バルブ部分の加圧容器への接続部(ねじ込み部)
21 ジョイントのバルブ部分への接続部(ねじ込み部)
22 内部容器の側面部分と密栓部分の段差部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体圧力媒体を充填して容器内部を加圧状態にする加圧容器と、
該加圧容器内に収めることが可能であって、外部からの圧力を内部の物質に伝達できる材質を具備することにより内部に封入される細胞を加圧できる内部容器とを有し、
該内部容器を前記加圧容器内に収めたとき、前記加圧容器の内部空間の長手方向と前記内部容器の長手方向が同一の方向で保持される、
細胞保存容器。
【請求項2】
液体圧力媒体を充填して容器内部を加圧状態にする加圧容器と、
該加圧容器内に収めることが可能であって、前記液体圧力媒体の出入りが可能な穴を有することにより、内部に封入される細胞を加圧できる内部容器とを有し、
該内部容器を前記加圧容器内に収めたとき、前記加圧容器の内部空間の長手方向と前記内部容器の長手方向が同一の方向で保持される、
細胞保存容器。
【請求項3】
前記内部容器の内部空間の形状が角柱又は円柱であり、該角柱又は円柱の高さ方向が長手方向である、請求項1又は2に記載の細胞保存容器。
【請求項4】
前記内部容器の内部空間の底面に該当する部分の一方又は両方が平面ではなく、角錐、円錐、試験管様の半球状、すり鉢状、又はスピッツ管のように先細りした形状である、請求項3に記載の細胞保存容器。
【請求項5】
液体圧力媒体を充填して容器内部を加圧状態にする加圧容器と、
前記内部容器の2個又は3個以上を有し、
該複数の内部容器を前記加圧容器の内部空間に直列に収めることができ、前記複数の内部容器が請求項1〜4に記載の内部容器のいずれであってもよい、
細胞保存容器。
【請求項6】
前記液体圧力媒体が水又は保存する細胞の液体培地である、請求項1〜5いずれか一項に記載の細胞保存容器。
【請求項7】
前記加圧容器が、その長手方向の一方の端に、前記液体圧力媒体の流出入が可能なバルブを有する、請求項1〜6いずれか一項に記載の細胞保存容器。
【請求項8】
前記加圧容器が、その長手方向の両端に、前記液体圧力媒体の流出入が可能なバルブを有する、請求項1〜6いずれか一項に記載の細胞保存容器。
【請求項9】
前記細胞保存容器に細胞を保存した状態において、当該細胞保存容器が定型外郵便物のサイズの規定を満たす角型又は円筒形の封筒に収めることができ、その重さが250g以下である、請求項1〜8いずれか一項に記載の細胞保存容器。
【請求項10】
前記細胞保存容器が、細胞の輸送に使用できる請求項1〜9いずれか一項に記載の細胞保存容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−148401(P2010−148401A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328538(P2008−328538)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(598123138)学校法人 創価大学 (49)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】