細胞内エレクトロマニピュレーション方法
【課題】細胞内エレクトロマニピュレーション方法の提供。
【解決手段】標的細胞に1つまたは複数の超短電界パルスを印加するものであり、超短電界パルスは、標的細胞内の細胞下構造を改変するのに十分な振幅および持続時間を有しており、標的細胞を含む培地の破壊フィールドを超えることはない。超短電界パルスの振幅および持続時間は通常、たとえば細胞表面膜を不可逆的に破壊することによって、標的細胞の表面膜の透過性を実質的に変更するには不十分な振幅および持続時間である細胞内エレクトロマニピュレーション法用の装置。この装置は、超短電界パルス出力を生成することのできるパルス発生器と、電気パルス出力を標的細胞に向けることのできる送達システムとを含む。
【解決手段】標的細胞に1つまたは複数の超短電界パルスを印加するものであり、超短電界パルスは、標的細胞内の細胞下構造を改変するのに十分な振幅および持続時間を有しており、標的細胞を含む培地の破壊フィールドを超えることはない。超短電界パルスの振幅および持続時間は通常、たとえば細胞表面膜を不可逆的に破壊することによって、標的細胞の表面膜の透過性を実質的に変更するには不十分な振幅および持続時間である細胞内エレクトロマニピュレーション法用の装置。この装置は、超短電界パルス出力を生成することのできるパルス発生器と、電気パルス出力を標的細胞に向けることのできる送達システムとを含む。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
生体細胞は、膜で囲まれた細胞質から成る。細胞質は導電性であり、膜は、脂質二重層で構成されており、誘電体とみなすことができる。生体細胞に電界を印加すると、細胞膜に電荷が蓄積され、したがって、膜の電圧が変化する。真核細胞の場合、平衡状態下での膜間電圧は約70mVである。外部電界によって膜突起に影響を与えるために、このような電界(「E」)の振幅は、少なくとも静止電位と同じ程度の電位差(「Vm」)が生成されるような振幅でなければならない。電界の振幅は次式で表される:
E = Vm/fa (1)
上式で、aは細胞の半径であり、fは細胞の形状に依存する形状因子である。球状細胞の場合はf=1.5であり、長さが1で、各端部に直径dの半球を有する円柱状細胞の場合は、形状因子は次式で表される:
f = 1/(l-d/3) (2)
推定半径が約5μmで球状である生体細胞の場合、膜の静止電位と同じ振幅の電圧を生成するのに必要な外部電界は100V/cm程度である。細菌は小さいので、その膜透過性に影響を与えるのに必要な電界はずっと高く、kV/cmのオーダーである。
【0002】
外部電界が、膜電位の変化が静止電位程度になるような大きさである場合、電圧によって膜チャネルの開口が誘導されるため、膜の中をイオンを流れる。このため、細胞膜の近くのイオン濃度が変化し、したがって、セルストレスが生じる。このセルストレスは、ミリ秒のオーダーで持続し、一般に、細胞に永久的な損傷を生じさせることはない。電界の強度が高まり、細胞膜の電圧が1V程度のレベルに達した場合、膜透過性は、細胞の回復に数秒から数時間を要するレベル(可逆的破壊)か、または細胞死するようなレベルまで高まる。膜破壊のメカニズムはよく理解されていない。一般的な仮説では、膜に孔が生成されるとされている。このような孔は、巨大分子を交換できるようなサイズである場合がある。膜の電圧が十分に高い場合、もはや孔が閉鎖されることはない。可逆的破壊効果の使用法は、エレクトロポレーション法およびバイオファウリング防止の分野で報告されている。この不可逆的効果は、水および食品の殺菌において使用されている。
【0003】
生体細胞に対する電界の効果は、印加電界の大きさだけでなく、その持続時間にも依存する。このことは、図1に概略的に示す細胞の電気的等価回路のモデルを検討することによって理解することができる。図1に示すモデルは、細胞の内部の構造の効果は考慮していない。(懸濁液中の)細胞が抵抗およびキャパシタンスによってモデル化されている。パルス持続時間が、懸濁液の誘電緩和時間と比べて長い場合、懸濁液インピーダンスの容量成分は無視することができる。多くの細胞懸濁液および海水(すなわち、比較的イオン強度の高い水溶液)の場合、誘電緩和時間はナノ秒のオーダーである。細胞膜はコンデンサとしてモデル化することができ、細胞質は抵抗器としてモデル化することができる。外膜は、印加電圧の影響を受け、漏出電流を表す膜を通したイオンの流れを許容するチャネルを含む。電圧ゲート式チャネルは可変電圧依存抵抗器としてモデル化することができる。
【0004】
細胞に電圧パルスが印加されると、膜に電荷が蓄積し、膜電圧が高まる。細胞膜の充電時間定数は式(3)によって表すことができる:
τ = (ρ1/2 + ρ2)Cr (3)
上式で、ρ1は懸濁培地、たとえば、水の比抵抗であり、ρ2は細胞質の比抵抗であり、Cは単位面積当たりのキャパシタンスであり、rは細胞の半径である(球状細胞)。細胞に関す典型的なデータを使用することにより、膜の電位差1Vを生成するのに必要な電界パルスの持続時間を算出することができる。懸濁液中で散逸するエネルギー、Wは次式によって与えられる:
W = E2τ/ρ1 (4)
比抵抗が50Ωcmの懸濁液中の半径5μmの球状細胞に関する、電界およびエネルギー密度とパルス持続時間との関係が図2にプロットされている。細胞質の比抵抗は100Ωcmと仮定されている。各曲線は150nsecで最小値を示している。これは、このような種類の生体細胞の仮死または死滅が最も効果的に行われると予想されるパルス持続時間である。このような最小値の存在を確認する実験的研究が報告されている。
【0005】
細胞膜破壊に至る細胞膜の改変を行うと、ネクローシス、すなわち、非生理学的な種類の細胞破壊を介して細胞死させることができる。アポトーシスを介して細胞死を選択的に開始できると有利である。この場合、通常ネクローシスに観測される炎症および瘢痕によって周囲の組織に非特定的な損傷を与えることなく、細胞を破壊することができる。アポトーシスを引き起こすように細胞を選択的に改変できれば、周囲の組織に対する副作用を最小限に抑えながら望ましくない細胞/組織(たとえば、腫瘍細胞、脂肪細胞、軟骨細胞)を選択的に破壊する新しい方法が得られる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、細胞内エレクトロマニピュレーション法によって細胞を改変する方法に関する。この方法は、標的細胞に1つまたは複数の超短電界パルスを印加することを含む。この超短電界パルスは、パルスのシーケンスとして印加されたときに、標的細胞内の細胞下構造を少なくとも一過的に改変するのに少なくとも十分な振幅および持続時間を一般に有する。個々のパルスの振幅が標的細胞の不可逆的な破壊電界を超えることはない。超短電界パルスの振幅および持続時間としては、たとえば表面膜を破壊することによって、標的細胞の表面膜の透過性を永久的に変更するのには不十分な振幅および持続時間が通常は選択される。
【0007】
従来のエレクトロポレーション法で一般に使用されているパルス持続時間および立上り時間よりも実質的に短いパルス持続時間および立上り時間を有する電界パルスを使用することで、大部分の細胞種に適用できる、選択的な細胞損傷または生理学的切断を行う非溶解方法を提供する。たとえば、1つまたは複数の超短電界パルスに曝露された好酸球で観測される収縮からわかるように、細胞内構造を撹乱するとアポトーシスが起こりうる。アポトーシスを局所的に起こすことにより、美容目的で組織を改変するか、または腫瘍細胞を選択的に死滅させ、たとえば、乳頭腫や皮膚血管腫などの組織を選択的に切断することができる。
【0008】
細胞膜ではなく細胞下構造を標的とすることは、周囲の組織に実質的に損傷を与えずに細胞(たとえば、腫瘍細胞)を選択的に破壊する処置において有用でありうる。このパルス電界方法の最も医療と関連の深い用途では、単一の細胞ではなく組織に電界を印加する必要がある。しかし、現在このような処置で使用されている比較的長いパルスを用いた場合(たとえば、長さが数100マイクロ秒のパルス)、単一の細胞の処置と比べて、組織の処置における電界の効果が低減するように思われる。一般的な組織は、様々な種類の細胞間相互連結を伴った細胞の集合体とみなすことができるが、組織のエレクトロポレーション法が個々の細胞のエレクトロポレーション法から成ることが知られている。懸濁液中の個々の細胞のエレクトロポレーション法と組織のエレクトロポレーション法とには2つの大きな違いがある。組織において、局所的な細胞外電界は、複雑な様式で多数の近傍の細胞に依存する。さらに組織の場合、細胞外体積と細胞内体積の比が通常小さく、大部分のインビトロエレクトロポレーション条件とはまったく逆である。 このことは、セルストレス、したがって、細胞死の主要な原因が細胞内体積と細胞外体積との間の化学的交換である場合、マイクロ秒パルスを用いた組織エレクトロポレーション法では基本的に、大部分のインビトロエレクトロポレーション条件よりもインビボエレクトロポレーション条件の方が損傷が少なくなりうることを意味する。超短パルスは細胞の内部にのみ影響を与えることができるので、このようなパルスは、個々の細胞に対する効果とほとんど同じ効果を組織に与えることが期待されている。
【0009】
本発明の方法で使用される種類の超短パルスを使用することの他の利点は、このようなパルスのエネルギーが低いことである。パルスの電力は数メガワットに達する可能性があるが、このようなパルスのエネルギーは低いことが多く(持続時間が極めて短いため)、したがって、細胞に対する熱効果を無視することができる。したがって、本発明のパルス電力方法は「低温」方法であり、関連する熱効果を実質的に生じさせずに電気効果を介して細胞を改変することを可能にする。たとえば、本発明の方法で使用されるパルスに関連する熱効果は通常、培地または組織全体で温度を1℃〜2℃程度上昇させるに過ぎない。細胞を「低温」で電気的に改変する能力は、細胞膜に実質的に影響を与えずに標的細胞内の細胞下構造を選択的に改変する必要がある場合に特に有用である。
【0010】
本発明は、細胞内エレクトロマニピュレーション法用の装置も提供する。この装置は、超短電気パルス出力を生成することができるパルス発生器と、電気パルス出力を標的細胞に向けることができる、たとえば、電気パルス出力を周囲の組織を実質的に損傷しないようにインビボの標的細胞に向けることができる、送達システムとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】懸濁液中の細胞の電気的等価回路を示す図である。
【図2】細胞表面膜を1Vに充電するのに必要な電界を示し、エネルギー密度とパルス持続時間との関係に対応するグラフである。
【図3】HL-60白血病細胞と、細胞核を含む細胞の簡略化された電気的等価回路とを示す図である。
【図4】60nsecおよび60μsecの電界パルスの理論的な細胞への印加をモデル化した電圧時間曲線を示す図である。点線は、印加された電圧パルスを示し、破線は表面膜の算出電圧を示し、実線は細胞内膜の電圧を示している。
【図5】60nsec、60kV/cmの電界パルス(「A4」)を受けてから0分後、10分後、20分後、30分後の、染色されたヒト好中球の顕微鏡観察(倍率10倍)を、未処置対照(新鮮)と比較して示す図である。
【図6】300nsec、40kV/cmの電界パルス(「B6」)を受けてから0分後、10分後、20分後、30分後の、染色されたヒト好中球の顕微鏡観察(倍率10倍)を、未処置対照(新鮮)と比較して示す図である。
【図7】60nsec、60kV/cmの電界パルス(「A42」)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(「B8」)を受けた直後の、染色されたヒト好中球の顕微鏡観察(倍率160倍)を示す図である。
【図8】60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)または300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)を受けた直後の、染色されたヒト好中球の顕微鏡観察(倍率280倍)を示す図である。
【図9】60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(B8)を受けた直後の、ミエロペルオキシダーゼで染色されたヒト好中球の顕微鏡観察(倍率280倍)を、未処置対照(新鮮)と比較して示す図である。
【図10】60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(B8)を受けた後の、細胞の細胞核の面積を(画素単位)を、未処置対照(新鮮)と比較して示すグラフである。
【図11】細菌fMLP刺激に応答して、アガロースが充填されたプレート内で2時間移行した後のヒト好中球に関する、原点からの距離における絶対密度のグラフである。好中球は、60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(B8)を受けており、未処置対照(新鮮)と比較して示されている。
【図12】アガロースが充填されたプレート内で刺激なしで2時間移行(対照緩衝液)した後のヒト好中球に関する、原点からの距離における絶対密度のグラフである。好中球は、60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(B8)を受けており、未処置対照(新鮮)と比較して示されている。
【図13】60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(B8)を受けた後に、非刺激条件(対照緩衝液)および刺激条件(細菌FMLP)の下でヒト好中球が移行した距離の平均を、未処置対照(新鮮)と比較して示すグラフである。
【図14】対数増殖期のHL-60前骨髄白血病細胞を可変持続時間(60nsec、2μsec、10μsec、または200μsec)の電界パルスに曝露したときの効果を示すグラフである。
【図15】定常増殖期のHL-60前骨髄白血病細胞を可変持続時間(60nsec、2μsec、10μsec、または200μsec)の電界パルスに曝露したときの効果を示すグラフである。
【図16】60nsec、60kV/cm(A4)、300nsec、40kV/cm(B6)、または300nsec、60kV/cm(B8)のIEMパルスを受けた後の、時間の関数としての、HL-60のアポトーシス率を示すグラフである。
【図17】60nsec、60kV/cm(A4)、300nsec、40kV/cm(B6)、または300nsec、60kV/cm(B8)のIEMパルスを受けた後の、時間の関数としての、HL-60のネクローシス率を示すグラフである。
【図18】60nsec、60kV/cm(A4)、300nsec、40kV/cm(B6)、または300nsec、60kV/cm(B8)のIEMパルスを受けた後の、時間の関数としての、HL-60のアポトーシス率を示すグラフである。
【図19】60nsec、60kV/cm(A4)、300nsec、40kV/cm(B6)、または300nsec、60kV/cm(B8)のIEMパルスを受けた後の、時間の関数としての、HL-60のネクローシス率を示すグラフである。
【図20】レーザ作動スパークギャップスイッチを有する放電管パルス発生器を含む、細胞を改変する装置の概略図である。
【図21】本発明の方法で使用できる例示的な電界パルスの形状を(電圧と時間のプロットとして)示すグラフである。
【図22】図21に示す電界のフーリエスペクトルを(V/Hzの振幅と周波数とのプロットとして)示すグラフである。
【図23】例示的な60nsecパルスの形状を10マイクロ秒(10μsec)パルスと比較して示すグラフ(電圧対時間)である。
【図24】図23に示す60nsecパルスおよび10μsecパルスの場合のフーリエスペクトルを(V/Hzの振幅と周波数とのプロットとして)示すグラフである。
【図25】挿入図に示す超短パルス発生器によって生成された超短電気パルスに関する電圧と時間の関係を示すグラフである。結果として得られる電気パルスは、形状がほぼ矩形であり、5kV〜6kVの範囲で最大電圧に達し、0.1cmの間隔を置いて配置された電極を介して細胞懸濁液に印加されると、50kV/cm〜60kV/cmの範囲の電気強度をもたらす。
【図26】カルセイン(右)および改変されたライトギムザ色素(左)によって染色されたヒト好酸球の顕微鏡観察を示す図である。上の図は、未処置(対照)好酸球の外観を示している。3個(中央の図)または5個(下の図)のパルス(60nsec、53kV/cm)を印加した後、カルセインで標識された好酸球のいくつかは、明るい色に染色された細胞内顆粒を形成し、同時に、細胞形質カルセイン標識を保持している。このことは、表面膜の統合性を失わずに(すなわち、細胞質カルセイン染色が保持されている)、明るい色に染色された顆粒の膜統合性が失われたことを示している。
【図27】好酸球顆粒の遊離カルセイン染色に対するトリトンX-100処理の効果の顕微鏡観察を示す図である;上の列:好酸球(左)のライトギムザ色素によって染色された画像(上)および蛍光画像(下)、カルセインAM(1μM)によって染色された好酸球(中央)、および0.001%トリトンX-100 + 1uM遊離カルセインで5分間インキュベートされた好酸球(右);下の列:1μM遊離カルセイン+0.005%トリトンX-100で5分間処理された好酸球(左)のライトギムザ色素によって染色された画像(上)および蛍光画像(下)、0.01%トリトンX-100 + 1uM遊離カルセインで5分間処理された好酸球(中央)、および0.05%トリトンX-100 + 1μM遊離カルセインで5分間インキュベートされた好酸球(右)。
【図28】組織に挿入された一対の針電極間で生成された電界の線を示す図である。
【図29】インビボにおける組織の標的領域への超短電界パルスの印加に使用可能な位置である六角形アレイを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
図1に示す簡単な等価回路では、細胞を、誘電膜に囲まれた均質導電培地としてモデル化した。真核細胞の細胞核など、細胞下構造を考慮する場合は、この等価回路のより複雑なモデルが必要である。HL-60白血病細胞を使用して、細胞の内部の構造の複雑性を示すことができる。細胞核は、細胞核内のより小さな下構造、たとえば核小体と同様に明確に見ることができる。このような下構造は、細胞核を囲む膜をコンデンサとみなし、かつ細胞核の内部を抵抗器とみなすことによってモデル化することができ、この場合、この2つの素子は、互いに直列に接続され、かつ第1の簡略化された等価回路(たとえば、図3参照)における細胞質を表す抵抗と並列に接続されている。同様に、細胞核抵抗と並列に接続された追加のコンデンサ抵抗器構成によって、核小体を記述することもできる。
【0013】
基本的な電気回路原則により、低周波数の電界が主としてより大きなキャパシタンス、すなわち外膜に影響を与えることを示す。しかし、周波数が高くなるにつれて、外膜は事実上短絡され、内部(細胞核)の膜に印加電圧が現われる。このモデルでは、周波数が約1MHzの場合、印加電圧が、外膜ではなく、主として細胞核の膜に現われることを予想している。このことは、より高い周波数成分を有するより短いパルスが細胞膜ではなく細胞核に影響を与えることが予想されることを意味している。
【0014】
標的細胞内構造の直径dが細胞の直径と比べて小さく、構造が細胞の中央に位置すると仮定すると、細胞内構造の両端間の電圧Visを次式に従ってモデル化することができる:
Vis = E(t)d = j(t)dpis = dpis(E(t)/pc)exp(-t/Tc) (5)
上式で、pisは標的細胞内構造の比抵抗である。細胞内膜の充電は時定数Tisによって行われることが予想される:
Tis = cisd/2(pc/2 + pis) (6)
【0015】
したがって、細胞内構造膜の電圧Vismは次式のように与えられる:
Vism = Vis(1 - exp - t/Tis)) = dpis(E0/pc)exp(-t/Tc)(1 - exp(-t/Tis))[u(0) - u(T)] (7)
上式で、u(0)およびu(T)はt = 0およびt = Tにおけるステップ関数である。
【0016】
細胞パラメータがD = 0μm、d = 5μm、pc = pn = 100Ωcm、cm = 1μF/cm2、cn = 0.5μF/cm2であり、パルス持続時間がT = 60nsecである場合の、印加電圧、表面膜の電圧、および細胞内構造膜の電圧(式7)の経時変化を図4に示す。この例では、矩形パルスが印加されるが、実験環境では、パルスは通常、台形である。細胞表面外膜のキャパシタンスの値は、公開された文献(たとえば、Schwan, Biophysik, 1, 190(1963)を参照)で報告されており、細胞内構造のキャパシタンスは、特定の細胞内膜の構造に応じて、この値と同じであるか、またはその2分の1と仮定されている。細胞核は、細胞核エンベロープを構成する2枚の脂質二重膜に囲まれており、それに対して、他の細胞内構造(たとえば、細胞内顆粒)は1枚の脂質二重膜のみに囲まれている場合がある。
【0017】
この簡単な理論的モデルから、いくつかの結論を導くことができる:
【0018】
1.細胞内膜の電圧は、パルス持続時間が細胞内膜の充電時間より長く、かつパルス立上り時間がこの充電時間と比べて短い場合には、外膜の電圧と同じ程度の値に達することができる。第2の条件の重要性は、電界は同じであるが立上り時間(および持続時間)が全く異なる2つのパルスに対する細胞の電気応答を検討することによって示すことができる。電気パルスは形状が類似していると仮定されるが、超短(6nsec)持続時間パルスの立上り時間および下降時間は10nsecであり、それに対してより長いパルス(6μsec)の立上り時間および下降時間は1μsecである。細胞の寸法、キャパシタンス、および比抵抗が同じである場合、長さおよび立上り時間が短いパルスでは、細胞内膜の電圧と表面膜の電圧が同等になり、それに対して、立上り時間がマイクロ秒オーダーであるより長いパルスでは、細胞内膜の電圧がほぼ無視できる電圧になる。しかし、より長いパルスの場合の、外膜の電圧は、印加電圧の値に達し、したがって、この膜のエレクロポレーションを行うことが好ましい。この効果は医学用途で使用されており、薬物および遺伝子の細胞への送達を促進するために数10マイクロ秒から数10ミリ秒の時間範囲のパルスが使用されている。
【0019】
2.細胞内膜で1Vを超えた電圧に達するには、細胞内膜の充電時間のタイムスケール上でメガボルト/m範囲の電界振幅が必要である。固有寸法がμmであり、膜キャパシタンスがμF/cm2オーダーであり、細胞質比抵抗が100Ωcmである細胞内構造の場合、充電時間(式6)は10nsec未満である。したがって、必要な電界強度変化率はdE/dt > 1014V/(メートル秒)である。この両方の条件が満たされた場合にのみ(すなわち、より大きな電界振幅と、極めて高速の電界変化率)、細胞内効果を期待することができる。
【0020】
3.細胞内膜の電圧は、細胞内構造の直径に応じてほぼ線形に変化することが予想される。したがって、電気パラメータが同じである場合、より大きな内部構造でより強い効果が期待される。
【0021】
細胞内膜の電圧が臨界値に達することは、必要であるが、「細胞内エレクトロマニピュレーション(「IEM」)法」の十分条件ではない。膜の構造を変更し、たとえば、膜欠陥を巨大分子が通過できるサイズに開放するには、欠陥が適切なサイズになるまで拡大するのに十分な時間にわたって臨界電圧を印加する必要がある。表面膜でこのような効果を達成するのに必要な電圧の推定値が報告されているが、細胞内膜についてはこのような推定値は存在しない。したがって、本明細書で説明するモデルは、細胞内膜に対する電界依存効果を開始させるための必要条件を提供するが、膜内で起こる特定の過程を記述するものではない。それにもかかわらず、パルス持続時間を短縮し、より厳密には、パルス立上り時間を細胞内膜の充電時間より小さな値にし、かつ電界強度をメガボルト/m範囲に高めると、細胞内膜を優先的に標的とすることを、この分析が示していることは明確である。本明細書で説明する実験的研究により、少なくともある場合には、比較的短期間に複数の超短パルスのシーケンスを印加すると、表面外膜に実質的に欠陥を生じさせずに細胞内構造に対する効果を増幅できることがわかった。
【0022】
本発明の方法は、少なくとも、短期間内での超短パルスのシーケンス、たとえば、10秒以下の時間間隔での3つから5つの超短パルスのシーケンス、として印加されたときに、標的細胞内の細胞下構造を改変するのに十分な振幅および持続時間を有する超短電界パルスを通常は使用する。各超短電界パルスの振幅および持続時間としては、たとえば細胞膜に孔を生じさせることによって、標的細胞の表面膜の透過性を変更するのでは不十分であるような振幅および持続時間を選択することができる。標的細胞は一般に、懸濁液中に存在するか、または組織の一部として存在する。各超短電界パルスは通常、パルス持続時間が約1マイクロ秒以下であり、振幅が少なくとも約20kV/cmである。別な方法で特徴を示すと、超短電界パルスは通常、パルス持続時間が約1マイクロ秒以下であり、総エネルギー密度が少なくとも約75mJ/ccである。好ましくは、超短電界パルスの総エネルギー密度は約10J/cc以下である。通常、各超短電界パルスによって生成される総エネルギー密度は約75mJ/ccから約2000mJ/ccであり、好ましくは約100mJ/ccから約1000mJ/ccである。極端に短いパルス、たとえば持続時間が約10ナノ秒以下であるパルスを印加する場合、この電界パルスによって生成される総エネルギー密度は約10mJ/ccから20mJ/cc程度に過ぎない。本発明の方法で使用されるパルスは、持続時間が短いだけでなく、一般に立上り時間が50nsec以下である。
【0023】
電界パルスの振幅(印加電圧を電極間の距離で除算した値)は一般に少なくとも約20kV/cmであるが、標的細胞を含む懸濁液または組織の破壊フィールドを超えてはならない。破壊フィールドは、パルス持続時間が短くなるにつれて増大し、実験的に求めることができる。しかし、本発明の方法で一般に使用される条件の下では、一般に破壊フィールドが500kV/cmを超えることはない。持続時間が10nsecから500nsecである本発明の方法で使用される電界パルスの振幅は通常、約20kV/cmから約300kV/cmである。
【0024】
培地の全体的な温度に対する潜在的な効果(「熱効果」)を最小限に抑えるために、電界パルスは一般に短い立上り時間および持続時間を有する。パルスの持続時間は好ましくは、1マイクロ秒未満で、しかし100ピコ秒を超えるべきである。一般的なパルス持続時間は約1ナノ秒から約500ナノ秒であり、通常は約10ナノ秒から300ナノ秒である。最適なパルス持続時間は、特に細胞の種類、組織の種類、および所望の処置に依存し、他の因子間で異なる。パルスは好ましくは矩形または台形であるべきであるが、他のパルス形状を使用することができる。たとえば、外側の細胞膜と内部の細胞膜を共に開放する場合、強力で短いパルスをより弱くより長いパルスと組み合わせることができる。適切なパルス形状の他の例には、対数減衰パルス、単極性パルス、および両極性パルスが含まれる。
【0025】
超短電界パルスの立上り時間は、パルス持続時間の通常は約20%以下であり、好ましくは約10%以下である。たとえば、パルス持続時間が約100ナノ秒である場合、パルスの立上り時間は好ましくは約10ナノ秒以下である。パルス持続時間が約400ナノ秒以上であるパルスの場合、パルス立上り時間は約30ナノ秒から40ナノ秒が一般的である。極めて短い持続時間、たとえば1ナノ秒以下の持続時間を有するパルスの場合、立上り時間はパルス持続時間のより大きな割合を占めることが多い。たとえば、持続時間が1ナノ秒未満のパルスは、パルス持続時間の最大で約50%の立上り時間を一般に有することができる。
【0026】
パルスの持続時間と立上り時間とフーリエ変換の周波数分布とは互いに関連を有する。図24は、10MHz範囲まで延びる短いパルス(60nsec)のフーリエスペクトルと100kHz範囲まで延びる長いパルス(10マイクロ秒)のフーリエスペクトルを示している。周波数が高くなる(すなわち、パルス立上り時間が短くなる)につれて、目標の表面外膜は事実上短絡され、内部(細胞核)膜に印加電圧が現われる。この挙動は、表面(外側)膜の電圧および細胞核膜の電圧と周波数との関係がプロットされた図4に示されている。図4では、周波数が約1MHzである場合、印加電圧が表面外膜ではなく、細胞核など、主として細胞下構造の膜に現われることが予想されている。持続時間が約1マイクロ秒以下で立上り時間が40ナノ秒以下である電界パルスは、実質的な振幅を有する約1MHzを超える周波数を含むフーリエ変換を有する。
【0027】
本発明の方法で使用されるパルスのフーリエスペクトルは、最大で約1GHzの実質的な振幅を有する周波数を含むことができる。通常、本発明の方法で使用されるパルスは、スペクトル内の最大電圧の50%を超える(以下では「VMAX/2」を超えると表す)振幅を有する約1MHzを上回る周波数を含むフーリエスペクトルを有する。好ましくは、パルスのフーリエスペクトルは、VMAX/2を超える振幅を有する5MHzから50MHzの間の周波数を含む。たとえば、図21に示すような60ナノ秒矩形パルスは、最大で10MHzでありVMAX/2を超える振幅を有する周波数を含むフーリエスペクトルを有する。これに対して、10マイクロ秒矩形パルスのフーリエスペクトルは、振幅が最大で約200kHzから500kHzである周波数を有するに過ぎない(図23および図24の比較例を参照)。
【0028】
上記で指摘したように、標的細胞内の細胞下構造を改変する場合、一連の超短電界パルスを比較的短い時間間隔で印加すると有利である。たとえば、3個から5個の超短電界パルス(たとえば、持続時間が10nsecから300nsecであり振幅が約25kV/cmから300kV/cmである台形パルス)を印加することは、同じ振幅および持続時間の単一のパルスの場合よりも、下構造を改変する上で効果的であることがわかっている(実施例9参照)。たとえば、パルス間の間隔(遅延)が約1秒であるマルチパルスシーケンスを印加すると、細胞外膜に顕著な損傷を与えずに好酸球内の顆粒を破壊することができる。本発明の方法でマルチパルスシーケンスを使用する際、引き続くパルス間の時間間隔は広い範囲内、たとえば、1.0ミリ秒から100秒の間の時間間隔でよい。他の例を挙げると、パルス間の時間間隔が約0.1秒から3秒である複数パルスシーケンスはアポトーシスを開始させるのに極めて適している。より多くのパルスを使用できるが、本発明の方法で使用されるマルチパルスシーケンスは通常、最高で約20個のパルスを含み、各パルスは一般に、一定の時間間隔がおかれる。ある種の細胞(たとえば、好酸球、好中球、Tリンパ球)では、比較的短い期間、たとえば、約5秒から10秒以下の期間内に3個から5個の超短電界パルスを印加することによって適切な結果が得られることが多い。上記で指摘したように、超短電界パルスの振幅および持続時間としては、パルスのシーケンスが、たとえば標的細胞の表面膜を破壊することによって、表面膜の透過性を永久的に変更することのないような振幅および持続時間が通常は選択される。
【0029】
本発明の方法を使用して様々な細胞を改変することができる。たとえば、標的細胞は、脂肪細胞、骨細胞、血管細胞、筋肉細胞、軟骨細胞など、様々な一般的な細胞のうちの任意でよい。いくつかの例では、この技術を使用して、ある種の細胞を他の細胞の存在下で選択的に改変することができる。たとえば、周囲の組織内の正常な細胞に実質的に影響を与えずにインビボの腫瘍細胞(たとえば、癌細胞、肉腫細胞、乳頭腫細胞)にアポトーシスを選択的に起こすように本発明の方法のパラメータを調整することができる。他の例として、この技術を使用して、好酸球と好中球を含む混合物中の好酸球を選択的に破壊することができる(たとえば、本明細書の実施例4の表2を参照されたい)。本明細書で説明する実験により、本発明の技術を使用して、より成長の早い細胞を、より成長の遅い細胞(たとえば、静止期の細胞)の存在下で選択的に改変できることを示す。他の例では、この選択性を、単に超短電界パルスの印加を空間的に制限することに基づいて得ることができる。たとえば、適切な構成の電極を使用することによって、組織の所定の領域内の細胞を、すぐ隣りの組織内の細胞を変更せずに(たとえば、アポトーシスを開始させることによって)インビボで選択的に改変することができる。このような電極構成を組み込んだ装置は現在、所定の領域内の細胞への治療薬物の送達を推進するために従来のエレクトロポレーションパルス(μsec持続時間を有するパルス)と共に使用されている。
【0030】
一態様では、本発明の方法を使用し、細胞の種類、細胞の相、および所期の処置に応じて特定の細胞機能を強めるかまたは弱めることによって、細胞機能を改変することができる。たとえば、標的細胞の表面膜の透過性を可逆的に損なうことなしに、標的細胞の走化作用活性を改変するのに十分な振幅および持続時間の電界パルスを標的細胞に加えることができる。適切な条件の下では、たとえば、約150mJ/ccから100mJ/ccの総エネルギー密度をもたらす、持続時間が60nsecから600nsecの電界パルスを印加することによって、ヒト好中球などの細胞の走化作用活性を禁止することができる(たとえば、実施例5参照)。
【0031】
他の態様において、本出願は、約1マイクロ秒以下のパルス持続時間を有する少なくとも1つの超短電界パルスを標的細胞に印加することによって標的細胞においてアポトーシスを開始させるために使用できる方法を提供する。このような例では、電界パルスは少なくとも75mJ/ccの総エネルギー密度を一般にもたらす。ただし、特に、パルスが極めて短い持続時間および比較的高い振幅を有するか、または複数のパルスのシーケンスを比較的短い時間間隔で標的細胞に印加し、たとえば、連続するパルス間の間隔が1秒から2秒になるように印加する場合に、より低いエネルギーを持つパルスを使用することができる。
【0032】
正しいパラメータを選択した後、本発明の方法を使用して、標的細胞と第2の種類の細胞を含む混合物中で標的細胞を選択的に破壊することができる。たとえば、この方法を使用して、好酸球と好中球を含む混合物中の好酸球を選択的に破壊することができる。
【0033】
他の態様では、本出願は、非増殖状態にある標的細胞の増殖を亢進する方法を提供する。この方法は、標的細胞の細胞表面膜を不可逆的に破壊することなく標的細胞を改変するのに十分な振幅および持続時間である少なくとも1つの超短電界パルスを印加することを含む。特定の細胞の種類および細胞の増殖期に応じて、持続時間が1マイクロ秒以下であり、振幅が10kV/cm程度、および/または総エネルギー密度が10mJ/cc程度の低い電界パルスを印加することによって、増殖を亢進することができる。細胞の増殖を亢進することが所望の目的であるときは、超短電界パルスの振幅、持続時間、立上り時間、および数として、標的細胞におけるアポトーシスの開始を最小限に抑えるような値が一般に選択される。
【0034】
細胞内エレクトロマニピュレーション装置
本発明の方法は、パルス発生器と、電気パルス出力を標的細胞に向けるよう適用した送達システムとを含む細胞内エレクトロマニピュレーション用の装置を通常は使用する。パルス発生器は、パルス形成回路網および高電圧スイッチを含む。パルス形成回路網は、高電圧ケーブル、ストリップライン、または送電線路構成として個々のコンデンサおよびインダクタで構成されたパルス形成回路網でよい。高電圧スイッチは好適には、気相スイッチ、液相スイッチ、または固相スイッチであってよい。パルス形成回路網内のエネルギーは、キャパシタンスとして蓄積することができ、その場合にはパルスを放出するために閉スイッチが必要であり、またはインダクタンスとして蓄積することができ、その場合にはパルスを放出するために開スイッチが必要である。スイッチを作動させると、電気パルスが負荷、すなわち、懸濁液または組織の形態の標的細胞に流れ込む。スイッチは様々な一般的な方法に作動させることができ、たとえば、光学的または電気的で作動させることができる。電気的に作動させるには、第3の電極を使用するか、またはスイッチを過電圧状態にすることによって達成することができる。本発明の方法で使用される種類の超短パルスを発生させるように構成された適切なケーブルパルス電力システムの例を図20に示す。図21は、本発明の方法で使用されるパルスの典型的な形状を示しており、パルスの対応するフーリエスペクトルが図22に示されている。電界パルスの長さ(「持続時間」)は、ケーブルまたはストリップラインの長さを短くまたは長くしたり、開閉可能なスイッチを使用するなど、パルス形成回路網を変更することによって変更することができる。細胞内エレクトロマニピュレーション法によって細胞を改変するのに適した装置の1つの特定の例が本明細書の実施例10に記載されている。
【0035】
「負荷」は、組織内の標的細胞または培地に懸濁させた標的細胞を含み、2つ以上の電極間に位置する。これらの電極は、固体材料(いくつかの適切な形状、たとえば、平面状、円柱状、球状などのうちの任意)、ワイヤもしくはメッシュ、またはこれらの組合せでよい。1つ(1組)の電極がパルス発生器の高電圧接続部に接続され、第2の(第2組の)電極が、たとえば第2のストリップラインまたは高電圧ケーブルを介して、パルス発生器のグランド接続部に適切に接続される。電極材料は導体、最も一般的には金属である。
【0036】
典型的な超短パルス電界発生器(「USPEF発生器」)は、分散型パルス形成回路網と、電気エネルギーが急速に負荷に流れ込むことを可能にするスイッチと、負荷自体とを含む(たとえば、図25の挿入図を参照)。このようなパルス形成回路網が18kVまで充電され、次いで解放された場合、この電荷はほぼ矩形の超短持続時間パルス(図25参照)を生成することができる。このパルスを10Ωの負荷に印加したところ、最高で9メガボルトの電圧を生成した。1.0mm分離された2つの電極間に対応する電界強度は90kV/cmである。これらの条件で実現できる最大電力、V2/Rは8.1MWであり、それに対して、負荷に送り込まれるエネルギー(電力xパルス持続時間)は0.49ジュールに過ぎない。したがって、細胞懸濁液の体積が100μLである場合、エネルギー密度は4.5J/ccである。結果としてこのエネルギー伝達では、単一パルスの場合、温度の上昇は最高でも約10Kに過ぎない。
【0037】
1つの特に有用な態様では、装置は、超短電気パルスを発生させることのできるパルス発生器と、電気パルス出力をインビボの標的細胞に向けることができる、たとえば、電気パルス出力を、周囲の組織に実質的に損傷を与えずに選択的にインビボの腫瘍細胞に向けることができる、送達システムとを含む。この種の装置のパルス発生器は、持続時間が1ナノ秒から500ナノ秒であり振幅が少なくとも10kV/cmである電気パルスを発生させることが通常できる。送達システムは、インビボの組織に挿入できる一対または複数対の電極、たとえば針電極アレイの形態の電極、を一般に含む。他の構成では、送達システムは、カテーテルの構成要素である少なくとも1つの電極を含む。このような送達システムの基本的な構成は米国特許第5,944,710号に記載されており、この特許の開示は引用によって本明細書に組み込まれている。このような送達システムを本発明の方法で使用する場合、薬物組成物の血管内投与用の注入ポートを送達システムに含める必要はない。
【0038】
以下の実施例は、本発明を例示するために与えられていると共に、当業者が本発明を作製し使用するうえで助けとなるように例示されている。これらの実施例は、いかなる他の点においても本発明の範囲を制限する目的ではない。
【実施例】
【0039】
実施例1 好中球懸濁液のIEM
超広帯域かつ低エネルギーかつ短持続時間である電気パルスが、時間および/またはエネルギー/電力に依存する、遅延した細胞死をヒト好中球において起こす効果(細胞内エレクトロマニピュレーション法または「IEM」法)を判定する実験を行った。いくつかの細胞群に、以下のパラメータを有する単一矩形パルスを印加し、未処置対照細胞と比較した。A4 - 60nsec、60kV/cm;B6 - 300nsec、40kV/cm;およびB8 - 300nsec、60kV/cm。
【0040】
カルセインAM、すなわち、無傷の生存細胞の細胞質を染色する緑色蛍光プローブで細胞を染色し、次いで様々なIEMパルスに曝露した。IEMに曝露した後、臭化エチジウムホモダイマー(EtBr)、すなわち、形質膜が損傷した細胞の細胞核を染色する膜不透過性赤色蛍光プローブで染色した。細胞をガラススライド上で遠心分離させた(サイトスピン)。カルセイン蛍光(左の図)またはEtBr蛍光(中央の図)用の条件下で細胞を観察した。画像を取り込み、各フィールドをマーク付けした。次いで、細胞をライト(Wright)色素で染色し(右の図)、同じフィールドを観察し、光学顕微鏡の条件下で画像を取り込んだ。画像を10倍の倍率で観察した。
【0041】
新たに分離されたヒト好中球は、寿命が限られており、インビトロ培養中で細胞死する。IEM後、0時間(T0)では、EtBr蛍光を示しす細胞の割合は小さく(2%から5%)、したがって、膜が破壊された細胞はほとんどないことを示している(図5a参照)。1時間後、破壊された細胞の数がわずかに増加する。細胞は、内部に暗紫色の点(細胞核)を有する小さな桃色の(細胞質)円に見える。
【0042】
A4パルスパラメータの下では、IEM後T0で、EtBr蛍光細胞の数の増加は観察されず、したがって、細胞は依然として無傷であることを(図5参照)。EtBr蛍光を示す好中球の数が、経過時間に依存してわずかに増加し、したがって、死滅した細胞がわずかに増加したことを示している。T30では、T30対照細胞と比べて死細胞の数がわずかに増加する。
【0043】
B6パルスパラメータの下では、IEM後T0で、EtBr蛍光の数の増加は観察されず、したがって、細胞は依然として無傷であることを示している(図6参照)。しかし、時間の経過と共に、EtBr蛍光細胞の数がより急速に増加していく。B6のT20およびT30(中央の図)では死細胞の割合が増加し、右の図では、溶解し破壊された細胞の数が明らかに増加していることに留意されたい。これらの細胞は、黒い細胞核の周りの桃色のしみ(溢流した細胞質)として見える。B8パルスでも同様な結果が観察された。
【0044】
実施例2 好中球細胞下構造の選択的な改変
形質膜を破壊することなく細胞下構造を変更する、IEMの能力を調べた。好中球内のプロテアーゼ含有小嚢を、細胞核が「改変」される前に「改変」し、それによって、細胞下構造を改変する選択性を実証した。
方法:IEMパラメータには、シャムまたは対照(新鮮)、A4(60nsec、60kV/cm)、B6(300nsec、40kV/cm)、およびB8(300nsec、60kV/cm)を含めた。すべての観察はIEM曝露(T0)の直後に行い、画像は160倍(図7)または280倍(図8および図9)の倍率であった。
結果:図7。A4パルスパラメータの下では、IEM後T0で、EtBr蛍光の数の増加は観察されず、したがって、細胞は依然として無傷であることを示している。A4好中球は無傷であり、対照細胞と同様な形態を示している。細胞質は比較的均一な蛍光(左の図)およびライト染色(右の図)を示している。細胞核の変化は最小限の変化である(暗紫色の浅裂を有するか、または不規則に染色された細胞核が、より明るい色に染色された細胞質に囲まれている)。
【0045】
これに対して、B6パルスパラメータの下では、IEM後T0で、細胞質が不均一なカルセイン蛍光を示し、「孔」または「穴」が、蛍光が存在しないことを示す(左の図)。ライト染色(右の図)も「孔」または「穴」を示している。細胞核の染色はいくらか不均一であり、「孔」または「穴」が生じ始めている。
【0046】
B8パルスパラメータの下では、IEM後T0で、細胞質の染色がほとんどなくなり、細胞核の染色が顕著な「孔」または「穴」を示す(右の図)。B8対照(左の図、ライト色素)は、IEMに曝露されていない(正常)が、IEMに曝露されたB8好中球と同時に準備された好中球を示している。
【0047】
B5(右の図、ライト色素)はA4とB6の間のIEM条件(300nsec、30kV/cm)を示す。細胞質内で「孔」または「穴」がはっきりしてくる様子に留意されたい。B5対照(左の図、ライト色素)は、IEMに曝露されていない(正常)が、IEMに曝露されたB5好中球と同時に準備された好中球を示している。
図8。A4パルスパラメータおよびB6パルスパラメータによる好中球は、細胞質の特性をより明確に示すためにより高い倍率(280倍)で示されている。「孔」または「穴」はB6には存在しているが、A4には存在しない。
図9。殺菌に使用されるプロテアーゼを含む好中球小嚢を染色するミエロペルオキシダーゼ染色後の好中球を示す。新鮮な細胞の場合のT0におけるA4 IEMパラメータによるミエロペルオキシダーゼ染色は比較的顆粒状に見え、したがって、多数の小さなプロテアーゼ含有小嚢が存在することを示している。B6 IEMパラメータの下では、染色がより拡散し、したがって、小嚢が破壊されていることがわかる。B8 IEMパラメータの下では、染色がほとんどなくなり、したがって、より高いエネルギー/電力条件ではほとんどすべての小嚢が破壊されること示している。
【0048】
実施例3 IEMは細胞内で細胞核の収縮を誘導する。
好中球およびHL-60細胞で細胞核の収縮を引き起こす、IEMの能力を調べた。細胞核の収縮は、アポトーシスによる細胞死の典型的な特徴である(プログラムされた細胞死)。
方法:IEMパラメータには、シャムまたは対照(新鮮)、A4(60nsec、60kV/cm)、B6(300nsec、40kV/cm)、およびB8(300nsec、60kV/cm)を含めた。細胞をIEMパルスに曝露した直後にライト色素で染色し、細胞核をグレースケールに設定し、画素領域を決定した。30個から42個の細胞による細胞核サイズを決定し、各細胞を画素領域に従ってプロットした。
結果:すべての3つのIEMパラメータに曝露された好中球の細胞核は対象細胞よりも著しく小さい(図10参照)。各条件(IEM条件)ごとの画素単位で平均細胞核面積を求めた。対照の平均画素面積が15,152±338(30個の測定値)であったのに対し、IEMパルスに曝露された細胞は以下の平均画素面積を有した:
A4 - 11,871±324(30個の測定値);
B6 - 13,814±332(42個の測定値);および
B8 - 12,147±299(35個の測定値)。
前骨髄白血病HL-60細胞も細胞核の収縮を示す(データは図示せず)。
【0049】
実施例4 細胞種に基づくIEM選択性
様々な細胞種で細胞死を起こすのに必要なIEMパラメータを調べた。好酸球は、好中球よりもIEMの影響を受けやすいことが観察された。
方法:IEMパラメータには、シャムまたは対照(新鮮)、A4(60nsec、60kV)、B6(300nsec、40kV)、およびB8(300nsec、60kV)と、以下に示す追加のIEMパラメータを含めた。ヒト好中球パラメータはいくつかの混入した好酸球を含み、これらの好酸球は枯草熱/アレルギーの季節(この研究の時期)に増大する。光学顕微鏡下での形態および細胞計数により好酸球の数を好中球の数に対する割合として求めた。
結果:IEMのエネルギー/電力が増大するにつれて、IEMの直後に存在していた好酸球の数が細胞群から顕著に減少していく。これに対して好中球が著しく失われることはない(表1参照)。
【0050】
(表1)
【0051】
実施例5 走化作用に対するIEMの効果
IEMは、形質膜を破壊することなく好中球機能を変更する。走化作用に対する効果は、非刺激移動に対する効果とは異なり、好中球機能に対する選択的な効果を示唆する。
方法:IEMパラメータには、シャムまたは対照(S)、A4(60nsec、60kV/cm)、B6(300nsec、40kV/cm)、およびB8(300nsec、60kV/cm)を含めた。細胞を様々なIEMパラメータに曝露し、アガロースが充填されたプレート中、切削されたウェルに入れ、次いで対照緩衝液(非刺激移動)または細菌fMLPによる化学的刺激物(走化作用)によって移動させた。アガロースの下で2時間移動させた後、細胞を染色し、原点からの距離における絶対密度と、好中球群が移行した距離の平均とを画像分析によって求めた。
結果:走化作用の場合、エネルギー/電力と走化作用機能の抑制とは正比例し、すなわち、各細胞の原点からの距離における絶対密度(図11)および平均移行距離(図13)によってわかるように、エネルギー/電力が高くなると、走化作用の抑制が増大する。好中球群が移行した距離の平均によって求められる、細菌fMLPで刺激された対照の移行の割合として、パラメータA4、B6、およびB8ではそれぞれ、61.6%、62.4%、および87.8%が抑制される(表2参照)。
【0052】
(表2)
【0053】
これに対して、非刺激移動の場合、エネルギー/電力と移動抑制との間の効果はほとんどないように思われる(図12および図13参照)。パルスのエネルギー/電力と非刺激移動の抑制との関係は明らかではない。パラメータA4、B6、およびB8ではそれぞれ(表2参照)、パルス非刺激細胞は、非刺激対照と比べて移行の抑制量が少なかった。
【0054】
実施例6
対数増殖期におけるHL-60細胞の増殖に対するIEMの効果を調べた。IEMによって増殖はパルス持続時間の関数として抑制された。この結果は、IEMにより、急速に成長する細胞、たとえば腫瘍細胞を選択的に死滅させる可能性を示している。
方法:HL-60細胞を最大細胞倍加時間(10時間〜14時間、対数増殖期)の条件で、100〜300,000細胞/mlの密度に維持した。図示された様々な持続時間で一定のエネルギー曝露量(200mJ/ml〜250mJ/ml)を維持することによって細胞を様々なIEMパラメータに曝露した。次いで、細胞を50,000細胞/mlまで希釈し、光学顕微鏡下で血球計算板を使用して0時間後、24時間後、および48時間後に生存細胞数(トリパンブルーを遮断した細胞、すなわち生存細胞)を求めた。
結果:IEMで処置した直後には、生存細胞の数は対照と変わらなかった(図14参照)。IEMから24時間後に、処置された細胞は、パルス時間が最も長い条件(200μsec)を除いて、対照と同様な速度で成長した。48時間後、0.06μsecから10μsecのパルスに曝露された細胞の増殖率が低下し始め、したがって、増殖イベントよりも死滅イベントの方が多いことがわかる。200μsecのパルスに曝露された細胞は、増殖率がほぼ対照の率まで高まった。
【0055】
実施例7 定常増殖期の細胞に対するIEMの効果
定常増殖期のHL-60細胞の増殖に対するIEMの効果を調べた。IEMによって成長はパルス持続時間の関数として促進された。この結果は、特定のIEM条件により、緩徐に分割する細胞の成長を促進する可能性を示している。
方法:HL-60細胞を最小細胞倍加時間(ほぼ定常増殖期)の条件で、3日ないし5日間、1〜3,000,000細胞/mlの密度に維持した。図示された様々な持続時間で一定のエネルギー曝露量(1.7J/ml〜1.9J/ml)を維持することによって、細胞を様々なIEMパラメータに曝露した。次いで、細胞を50,000細胞/mlまで希釈し、光学顕微鏡下で血球計算板を使用して0時間後、24時間後、および48時間後に生存細胞数(トリパンブルーを遮断した細胞、すなわち生存細胞)を求めた。
結果:IEMで処置した直後には、生存細胞の数は対照とそれほど異ならなかった(図15参照)。24時間後および48時間後に、増殖率は、0.05μsecまたは200μsecのパルスに曝露された細胞の対照よりも高くなった。増殖率は、10μsecのパルスに曝露された細胞の対照よりも低かった。持続時間が最小値のパルスにより、緩徐に成長する細胞の増殖が抑制されることがわかる。
【0056】
実施例8 IEMによって誘導される細胞のアポトーシス
上記の実施例3で説明した実験(図10参照)では、IEMパルスによって、アポトーシスの特徴である細胞核の収縮をもたらすことが示された。アポトーシス用およびネクローシス用の、より特定的で明確なマーカを使用した新しいデータは、IEMパルスが好中球およびHL-60細胞においてアポトーシスを誘導するという仮設を支持している。
方法:IEMパラメータには、シャムまたは対照(新鮮)、A4(60nsec、60kV/cm、216mJ/cc)、B6(300nsec、40kV/cm、480mJ/cc)、およびB8(300nsec、60kV/cm、1.08J/cc)を含む。好中球またはHL-60細胞をアネキシン-V-FITCおよび臭化エチジウムホモダイマー(「EtBr」)を用いて培養した。アネキシン-V-FITC結合を定量アポトーシスマーカーとして使用した。アネキシン-Vは、カルシウムに依存してホスファチジルセリンと結合する。ホスファチジルセリンは通常、正常な細胞内の細胞膜の内側リーフレットに拘束され、したがって溶液に解けたアネキシン-Vと接触することはないが、アポトーシスを起こした細胞は、膜外側のリーフレットにホスファチジルセリンを有し、したがって、アネキシン-Vが容易にその表面に結合する。EtBrはDNAに結合するが、細胞膜を透過しない。EtBr蛍光が起こるのは、破壊された膜を有する細胞だけである。したがって、アポトーシスを起こした細胞はアネキシン蛍光のみを示し、それに対して、ネクローシスを起こした細胞はEtBrに対する蛍光とアネキシン非蛍光を示す。細胞は、IEMに曝露され、IEM後の図示された時間に、蛍光顕微鏡によって評価され、計数され、アポトーシスおよびネクローシスを示す細胞の割合として表される。
結果:対照細胞(ヒト好中球)は、実験の間、アポトーシスやネクローシスの有意なマーカを示さない(図16および図17)。このことは、これらのパルスでは膜の破壊によって細胞死することはないことを示す。IEM条件A4、B6、およびB8に曝露されたHL-60細胞は、時間およびエネルギーまたは電力に依存したアポトーシスの増大を示す。A4、B6、およびB8で、細胞はそれぞれ、5時間後、3時間後、および1時間後にアポトーシスマーカーを示し始める(図16参照)。アポトーシスを起こした細胞が死滅していくにつれて、アポトーシスに対して二次的にネクローシスが起こる(図17参照)。このことは、アポトーシスが起こった後にのみネクローシスが起こることによって示される。二次的なネクローシスはインビトロ特有の効果である。インビボでは、アポトーシスを起こした細胞は、ネクローシスおよび炎症が起こる前に食作用によって除去される。図18および図19は、ヒト好中球による同様な結果を示している。
【0057】
実施例9 カルセインAMで染色された細胞に対するIEM処置の効果
遊離カルセインは、高度に蛍光改変されたフルオレセインであり、6つの陰電荷および2つの陽電荷を有し、膜不透過性を有する。カルセインAMは、メチルエステル形では、蛍光を発せず膜透過性を有する。カルセインAMは、細胞用の蛍光色素として使用されると、表面膜を通過し、細胞内エステラーゼ活性によって遊離カルセイン+メチルエステル残基に切断される。この改変によって、遊離カルセインが細胞の細胞質に閉じ込められる。遊離カルセインを保持することは、表面膜が無傷であることを示す一般的な基準である。細胞内遊離カルセインは、細胞内に閉じ込められるだけでなく、その膜不透過性により、膜によって結合された他の細胞内コンパートメントからは排除される(明るい色の細胞質遊離カルセイン蛍光および大きな細胞内顆粒の「負染色」を示す、カルセインAMで標識された好酸球に見られる効果)。
【0058】
好酸球を含む白血球調製物(好酸球65%)のアリコートをHBSSw/oおよびトリトンX-100に溶かした1μM遊離カルセインに曝露し、トリトンX-100の量を徐々に増やしていき(0%〜0.05%)(5分、25℃)、顕微鏡によって検査した。トリトン なしで遊離カルセインに曝露された好酸球は、遊離カルセインの膜不透過特性と一致して、カルセイン染色を示さなかった。赤色の好酸球自家蛍光は容易に可視化され、遊離カルセイン+0.01%トリトン曝露量までのすべての条件でも可視化された。しかし、遊離カルセイン+0.01%トリトン条件では、少数の好酸球によって、好酸球自家蛍光パターン内に、分離された明るい緑色の顆粒が示された。遊離カルセイン+0.05%トリトン条件では、蛍光照明によって、薄い緑色の蛍光の多数の離散領域と、その上に位置する、明るい緑色の斑点状蛍光領域が示された。ライトギムザ染色の後、明るい斑点状蛍光領域に完全に対応する好酸球顆粒との関連で、完全に界面活性剤で可溶化された細胞の残滓細胞核(薄緑色の蛍光)であることが認識された(図26参照)。これらの結果は、界面活性剤処理された好酸球顆粒が、おそらく陽イオン性好酸球顆粒成分と陰イオン性遊離カルセインとの相互作用のために、遊離カルセインで明るい色に染色されることを示しており、フルオレセイン標識された抗体を使用した他の細胞の結果と同様であった。
【0059】
カルセインAMで染色された好酸球は、染色後に細胞質内に遊離カルセインを閉じ込め(左)、細胞内遊離カルセインは、左側に示すように好酸球の大きな顆粒から排除される。トリトン処理を施さない場合、遊離カルセインは好酸球細胞質を染色することができず(中央)、好酸球自家蛍光しか見えない。0.001%トリトンで培養した場合、遊離カルセインは引き続き好酸球から排除されるが、PMNの微細顆粒を染色し、明らかな界面活性剤効果を示す(右)(図27参照)。0.005%トリトン処理では(左)、いくつかの好酸球の形態は部分的に界面活性剤で可溶化されたことを示唆し、それに伴い、カルセインによって好酸球顆粒が明るい色に染色されたことを示し、界面活性剤で可溶化されたPMNは、非常に微細な蛍光「カルセイン砂」染色パターンを示す。0.01%トリトン+1μM遊離カルセイン処理(中央)では、すべての好酸球が、界面活性剤効果を示唆する細胞核の変化を示し、多くの好酸球は、赤色の自家蛍光を背景として明るい色の顆粒を1つから2つ含む。0.05%トリトンX-100+1μM遊離カルセイン処理では、好酸球細胞核残渣のみが見られ(右、上)、これらのうちのいくつかは、好酸球顆粒との関連で遊離カルセインによって明るい色の蛍光を発する(右、下)。
【0060】
USPEF効果をもたらす典型的なパルス発生器が、図25に示されており、パルス形成回路網(通常は同軸ケーブルまたはストリップライン)、スイッチ、および負荷から成る。整合負荷の場合(負荷の抵抗=パルス形成回路網のインピーダンス)、負荷の両端間電圧パルスは、パルス形成回路網に印加される電圧の2分の1の振幅を有する(前述の実験では、パルス形成回路網は、互いに平行に配置された5本の高電圧50Ωケーブルを備えており、整合動作に必要な10Ωインピーダンスを実現する)。パルス持続時間は、ケーブルまたはストリップラインの長さの2倍を、パルス形成回路網の誘電体内の電磁波の速度で除算した値である。スイッチは大気中の単純なスパークギャップである。破壊電圧は、ギャップ距離を変えることによって設定される。負荷は、USPEFに曝露される100μLの細胞懸濁液から成り、Ca++およびMg++を含まないハンクス均衡塩溶液(HBSSw/o)を使用して細胞を懸濁させたときに、電気抵抗が100Ωcmになる。負荷は、面積が1cm2であり0.1cmだけ分離された互いに平行な板状のアルミニウム電極で構成されたエレクトロポレーションキュベット(BioRad, Inc., カリフォルニア州、Hercules)内に配置されており、負荷抵抗R = 10Ωである。
【0061】
成人のボランティアドナーから得たヘパリンで凝結防止された血液をハイパックフィコール(hypaque-ficoll)沈殿、デキストラン沈殿、および低張溶解を使用して精製し、多形核白血球(PMN)を得た。この細胞調製物は、通常は92%〜95%のPMN、5%〜8%の好酸球、および1%〜3%の単核細胞であった。精製後に、PMN調製物を1μMカルセインAM(Molecular Probes, Inc.、オレゴン州、Eugene)を用いてこの製造業者の指示に従って標識し、洗浄し、Ca++もMg++も含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSSw/o)において20x106/mlに調整した。
【0062】
USPEFを印加した直後に、細胞をキュベットから除去し、Ca++およびMg++を含むHBSS(HBSSw)で1:4に希釈し、Cytospin 3(Shandon Southern、ペンシルバニア州、Sewickley)を使用してガラススライドに塗布した(1000rpm、5分)。各パルス条件ごとに複数のスライド標本を作製し(1000rpm、5分)、顕微鏡で検査するまで、密閉された箱の中に入れておいた。顕微鏡観察では、コダックDC-120デジタルカメラを備えたオリンパスBH-1顕微鏡写真機、またはオリンピックスCCDビデオカメラを備えたオリンパスIX70反転顕微鏡を倍率100倍で使用した。
【0063】
最初の実験では、カルセインAMで標識されたPMNを使用して細胞質を蛍光標識した。これにより、3.6メガボルト/mまたは5.3メガボルト/mのUSPEFを1回印加すると、細胞内で遊離カルセインを分散させることができ、顕微鏡観察によって評価されたこれらの細胞内でライトギムザ染色形態が得られることがわかった。USPEFを複数回印加すると、細胞内遊離カルセイン分散とライトギムザ染色PMN形態の両方に本質的な変化が起こったが、最も顕著な効果は、好酸球がPMN調製物に混入している際に見られた。≧3回のUSPEF印加を使用したとき、どちらの電界強度の場合にも「発光」細胞(細胞質カルセイン染色と中央に位置する大きな明るい色の蛍光顆粒とを有する細胞)が見られた(表1)。ライトギムザ色素で調べたところ、「発光」細胞は、常に好酸球であり、対照条件の好酸球の外観と比べて「収縮」したように見えることが多かった。
【0064】
好酸球顆粒の強力な遊離カルセイン染色が、顆粒膜の統合性が失われた場合にしか起こらないことを認識し、2つの好酸球を含む2つの白血球調製物(65%および87%の好酸球)をUSPEFに曝露し(60nsec、53kV/cm x 3またはx5)、細胞を顕微鏡によって検査した(図26参照)。カルセインAMで染色された対照細胞調製物は、好酸球が細胞質遊離カルセインで明るい色に染色されることと、細胞内顆粒から遊離カルセインが排除されることを示した。
【0065】
図26は、USPEF処置を受けた好酸球調製物内の「発光」細胞を示している(60nsec、53kV/cm x 3(中央)およびx 5(下))。カルセインAMで標識された対照好酸球(上)では、明るい色の細胞質遊離カルセイン染色を示し、細胞内顆粒から蛍光が排除されている。この細胞調製物に対してUSPEF処置を複数回施すと、「発光」細胞が現われ、明るい色の細胞質遊離カルセイン染色(表面膜が無傷であることを示す)と、いくつかの細胞内顆粒の明るい蛍光が見られ、したがって、細胞内遊離カルセインが陽イオン顆粒内成分に侵入し標識したことを示す。中央の図はまた、60nsec、53kV/m x 3およびx 5条件で頻繁に指摘される好酸球形態の「収縮」も示している。明るい色の細胞質遊離カルセイン染色を示す通常のサイズの好酸球/染色されない顆粒が右の図に示されており、すべて「発光」細胞である3つの「収縮した」好酸球が左の図に示されている。
【0066】
両方の条件でUSPEFに曝露した後、すべての細胞の39%および77%(3回のUSPEF曝露)ならびに42%および58%(5回のUSPEF曝露)が「発光」特性(中心の明るい蛍光細胞内顆粒の亜集団をプラスした強力な細胞質遊離カルセイン染色)を有し、その後のライトギムザ染色ではそれぞれが好酸球であった。試験調製物における好酸球の含有量の程度を考慮すると、好酸球全体の76%〜84%(3回のUSPEF)および59%〜71%(5回のUSPEF曝露)がこの処置の後で「発光」特性を得たことになる。
【0067】
好酸球顆粒は、トリトン可溶化実験で示したように、顆粒膜が破壊された場合に、陰イオン性の強い遊離カルセインと結合することのできる様々な陽イオン性タンパク質を含む。したがって、USPEFを繰り返し印加した後でカルセインAMを付加された好酸球において「発光」形態が形成されるのは、USPEF印加時に好酸球顆粒膜に選択的な孔形成/破壊が起こり、それによって、細胞質遊離カルセインが顆粒に侵入し陽イオン性顆粒成分と結合したためであると結論することができる。このことは、USPEFの印加により、表面膜の統合性を失わずに細胞内膜の選択的な孔形成/破壊を実行できることの有力な証拠と解釈することができる。
【0068】
実施例10 インビトロのマウス線維肉腫細胞のIEM
27ゲージ針を備えた1cc注射器を用いて、0.1ml PBS中の1.5 x 106 B10.2マウス線維肉腫細胞を、7週齢から8週齢の免疫適格C57B1/6マウスに皮下接種した。注射部位は動物の脇腹領域または背中のどちらかとした。2週間から3週間後に、腫瘍を切除し、赤道軸に沿って2つの部分にスライスした。一方の部分を対応対照として使用し、他方の部分をそれぞれ300nsecおよび60kV/cm(1.08J/cc)の3つのパルスに曝露した。
【0069】
0.1cmの間隔を置いて配置された2つの電極の間のエレクトロポレーションキュベット内に腫瘍切片(厚さ0.1cm)を配置し、ハンクの平衡塩類溶液を添加してキュベットを満たした。上述したように組織をパルスに曝露し、取り出し、分析のために調製した。ウシ胎児血清を10%含むRPMI培地中で組織を37℃で5時間培養した。その後、組織を10%の緩衝ホルマリン内で18時間固定した。バキュームを使用して組織から空気を除去し、脱気した組織をパラフィンに包埋した。4ミクロンの切片を調製し、アセトンに溶かした2%のAPESで事前に処理されたガラススライド上に配置した。キシレン、無水エタノール、95%エタノール、70%エタノール、およびPBSで連続的に洗浄することによってパラフィンを除去した。組織切片を蛋白分解酵素K(40ug/ml)を用いて40℃で15分間インキュベートした。
【0070】
ローダミンで標識されたヒツジ抗ジゴキシゲニン抗体(IntergenのApop-tag商標)および蛍光顕微鏡を製造業者の規約に従って使用し、アポトーシスのマーカーとして、DNA切断試験用の組織スライドを調製した。スライドをDAPIで対比染色した。正常な細胞核はDAPIによって青く染色され、アポトーシスを起こした細胞核はローダミンによって赤く染色された。200個から300個の細胞を青色(正常)または赤色(アポトーシス)として計数し記録した。アポトーシス指数を、アポトーシスを起こした細胞核の数を細胞核の総数で除算した数として定義した。結果を以下の表4に示す。
【0071】
(表4) エレクトロマニピュレーション後のマウス線維肉腫のアポトーシス
【0072】
表4は、6kVにおける連続的な300nsecパルスに曝露された代表的な腫瘍におけるアポトーシス指数(アポトーシスを起こした細胞の割合)を、パルスに曝露されない対照と比較して示している。同じ腫瘍の4つの異なる部分から採取した場合、対照腫瘍由来の細胞核のうち、約6%がアポトーシスを起こした。これに対して、一連の超短高強度パルスに曝露された腫瘍由来の細胞核の35%がアポトーシスを起こした。このことは、これらのパルスへの曝露の後アポトーシスを起こす細胞核が6倍増加することを表している。様々な動物から得た合計で6つの腫瘍において、電界パルスに曝露された腫瘍では、アポトーシスを起こす細胞核が3倍から6倍増加することが見出された。ただし、未処置腫瘍においてアポトーシスを起こす細胞核の絶対数は4%から30%の間で変動した。60nsecおよび6kVにおける3つの連続的なパルスを比較したとき対照および処置された腫瘍間で違いは観察されなかった(データは図示せず)。これらの結果は、超短高強度パルスが腫瘍組織内のアポトーシスを誘導できることを示している。
【0073】
実施例11 インビボにおけるマウス線維肉腫のIEM処置
超短電気パルスによる最初の実験は培地中の腫瘍細胞を用いて行われた。ヒトの腫瘍の処置用の超短電界パルスの潜在的な効果を完全に評価するために、動物モデルを使用する。培養された無傷の細胞を用いた実験により、超短電気パルスによって誘導される細胞死の主要な機能がアポトーシスであることが示される。将来のヒト癌治療に対する潜在能力を調査するために、動物モデルを使用してインビボにおける動物腫瘍に対する超短電界パルスの効果を確認する。C57BL/6マウスは、ヒトにおける臨床試験の必要な予備手順として癌治療戦略を評価するための、十分特徴づけられた許容されるモデルの代表である。腫瘍細胞系がこのマウスに由来するので、この種は非常に有効である。
【0074】
マウス線維肉腫に関しては、免疫適格C57B1/6マウスモデルが使用される。27ゲージ針を備えた1cc注射器を使用して、0.1mlのリン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)中の5 x 106 B10.2マウス線維肉腫細胞を、7週齢から8週齢のマウスに皮下接種または皮膚内接種する。注射部位は、その動きまたは食物摂取を阻害しないように動物の背中とした。腫瘍塊は、6週間で直径約5mmから10mmの塊になることが予想される。得られる腫瘍の質量が、超短電気パルス処置に供される前に体重の10%を超えないようにする。
【0075】
皮下腫瘍が誘発したマウスを6つの異なる群に分割し、5つの群の腫瘍にインビボにおける超短電気パルス処置を施す。6番目の群は、腫瘍形成の過程をモニターするための未処置対照群として働く。5つの異なる処置用のパルスパラメータは、エキソビボ実験の結果に基づいて使用される。5つの異なる群に対する超短電気パルス条件を以下の表5に示す。
【0076】
(表5) インビボ腫瘍処置用のIEMパルス条件
【0077】
表5のパラメータによって示されるように、短持続時間(ナノ秒から数百ナノ秒)で、高電圧(数十キロボルト)で、低エネルギー(数十ミリジュールから数ジュール)の、非熱電気パルスを使用する。これらのパルスは、細胞形質膜の永久的な破壊を起こさず、未知のメカニズムによって細胞核、ミトコンドリア、および/または小胞などの細胞下構造を変化させることができる。パルスは、5mmの間隔を置いて配置された、針治療針のサイズの一対のステンレススチール針から成る電極アレイを通して送達される。一対の針を腫瘍または、健康な組織の周囲の縁部に少なくとも腫瘍の深さだけ挿入する。互いに向かい合う針に電流を同時に流し、各針によりもたらされる断面内および断面のすぐ外側に均質な電界を生成する(パルスの間に蓄生される電界の記述については図28を参照)。エネルギー密度は、2本の針によってもたらされた平面で最も大きくなり、この平面の外側で小さくなる。一対の針に両極性の電圧を加える。一対の針を除去し、他の2つの位置に、針の各位置が全体として概ね正六角形に対応するように再挿入する(図29を参照)。3つの位置のそれぞれからの一連のパルスによる腫瘍の処置を本明細書では「1パルスサイクル」と呼ぶ。針アレイによってもたらされる六角形内に腫瘍が含まれるように、腫瘍のすぐ近くを囲む健康な組織に針アレイを挿入する。腫瘍がアレイの境界を越えないかぎり、腫瘍ごとに1パルスサイクルを送達し、その境界を越えた場合は、第1のパルスサイクルではカバーされない腫瘍部分を囲むようにずらされたアレイで第2のパルスサイクルを送達する。典型的には、パルスサイクル内の各位置に関して、比較的短い時間間隔内に複数のパルスシーケンスを腫瘍に印加し、たとえば、連続するパルス間の間隔が1秒から2秒である5個から10個のパルスシーケンスを各位置で印加する。
【0078】
インビボにおいて超短電気パルスを用いて腫瘍を処置するときは、全外科手術手順の間の連続的な鎮静を可能にするために、酸素および2%イソフルオランがインプットされた系内にマウスを入れる。腫瘍の周りの領域を電気はさみで剃り、ベタジンで消毒する。針治療針のサイズの電極のアレイを腫瘍内またはその周りに挿入し、比較的短い期間内、超短電気パルスを送達する。総手順時間は10分未満である。次に、マウスは新しいケージに入れられ、2分以内に歩行可能になることが予期される。
【0079】
IEMの後、動物を毎日モニターし、キャリパーを使用して、4週間にわたって少なくとも週2回腫瘍のサイズを測定する。この期間の終了時に腫瘍を切除し、アポトーシスの存在に関して試験する。以下のうちの1つまたは複数を含む、いくつかのアポトーシス分析方法を使用する:
(1)アポトーシスの蛍光組織学的分析;
(2)フルオレセイン標識および蛍光顕微鏡を使用したDNA切断;
(3)ミンシング後の腫瘍におけるアネキシスV-FITC(ネクローシス)との結合、およびコラゲナーゼによる物質分解に関する蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメトリー;
(4)蛍光基板DEVD-AFCを使用したカスパーゼ活性化;ならびに
(5)カスパーゼ3抗体を使用したイムノブロット分析によるカスパーゼ活性化。
【0080】
本出願全体にわたって様々な文献が引用されている。本発明が関係する従来技術をより詳しく説明するために、これらの文献の開示が全体にわたって本明細書に参照として組み入れられている。
【0081】
様々な特定かつ例示的な態様および技術を参照して、本発明を説明した。しかし、本発明の意図および範囲から逸脱せずに多数の修正および改変作製されうることを理解されたい。
【0082】
他の出願の相互参照
本出願は、開示が引用によって本明細書に組み入れられている、1999年8月4日に出願された米国仮出願第60/147,099号および、2000年4月11日に出願された米国出願第09/546,764号の優先権を主張する。
【0083】
(表3) PMN調製物におけるヒト血液好酸球のUSPEF処置効果
*複数回のUSPEF曝露を約1秒間隔で手動にて作動させた。
【背景技術】
【0001】
発明の背景
生体細胞は、膜で囲まれた細胞質から成る。細胞質は導電性であり、膜は、脂質二重層で構成されており、誘電体とみなすことができる。生体細胞に電界を印加すると、細胞膜に電荷が蓄積され、したがって、膜の電圧が変化する。真核細胞の場合、平衡状態下での膜間電圧は約70mVである。外部電界によって膜突起に影響を与えるために、このような電界(「E」)の振幅は、少なくとも静止電位と同じ程度の電位差(「Vm」)が生成されるような振幅でなければならない。電界の振幅は次式で表される:
E = Vm/fa (1)
上式で、aは細胞の半径であり、fは細胞の形状に依存する形状因子である。球状細胞の場合はf=1.5であり、長さが1で、各端部に直径dの半球を有する円柱状細胞の場合は、形状因子は次式で表される:
f = 1/(l-d/3) (2)
推定半径が約5μmで球状である生体細胞の場合、膜の静止電位と同じ振幅の電圧を生成するのに必要な外部電界は100V/cm程度である。細菌は小さいので、その膜透過性に影響を与えるのに必要な電界はずっと高く、kV/cmのオーダーである。
【0002】
外部電界が、膜電位の変化が静止電位程度になるような大きさである場合、電圧によって膜チャネルの開口が誘導されるため、膜の中をイオンを流れる。このため、細胞膜の近くのイオン濃度が変化し、したがって、セルストレスが生じる。このセルストレスは、ミリ秒のオーダーで持続し、一般に、細胞に永久的な損傷を生じさせることはない。電界の強度が高まり、細胞膜の電圧が1V程度のレベルに達した場合、膜透過性は、細胞の回復に数秒から数時間を要するレベル(可逆的破壊)か、または細胞死するようなレベルまで高まる。膜破壊のメカニズムはよく理解されていない。一般的な仮説では、膜に孔が生成されるとされている。このような孔は、巨大分子を交換できるようなサイズである場合がある。膜の電圧が十分に高い場合、もはや孔が閉鎖されることはない。可逆的破壊効果の使用法は、エレクトロポレーション法およびバイオファウリング防止の分野で報告されている。この不可逆的効果は、水および食品の殺菌において使用されている。
【0003】
生体細胞に対する電界の効果は、印加電界の大きさだけでなく、その持続時間にも依存する。このことは、図1に概略的に示す細胞の電気的等価回路のモデルを検討することによって理解することができる。図1に示すモデルは、細胞の内部の構造の効果は考慮していない。(懸濁液中の)細胞が抵抗およびキャパシタンスによってモデル化されている。パルス持続時間が、懸濁液の誘電緩和時間と比べて長い場合、懸濁液インピーダンスの容量成分は無視することができる。多くの細胞懸濁液および海水(すなわち、比較的イオン強度の高い水溶液)の場合、誘電緩和時間はナノ秒のオーダーである。細胞膜はコンデンサとしてモデル化することができ、細胞質は抵抗器としてモデル化することができる。外膜は、印加電圧の影響を受け、漏出電流を表す膜を通したイオンの流れを許容するチャネルを含む。電圧ゲート式チャネルは可変電圧依存抵抗器としてモデル化することができる。
【0004】
細胞に電圧パルスが印加されると、膜に電荷が蓄積し、膜電圧が高まる。細胞膜の充電時間定数は式(3)によって表すことができる:
τ = (ρ1/2 + ρ2)Cr (3)
上式で、ρ1は懸濁培地、たとえば、水の比抵抗であり、ρ2は細胞質の比抵抗であり、Cは単位面積当たりのキャパシタンスであり、rは細胞の半径である(球状細胞)。細胞に関す典型的なデータを使用することにより、膜の電位差1Vを生成するのに必要な電界パルスの持続時間を算出することができる。懸濁液中で散逸するエネルギー、Wは次式によって与えられる:
W = E2τ/ρ1 (4)
比抵抗が50Ωcmの懸濁液中の半径5μmの球状細胞に関する、電界およびエネルギー密度とパルス持続時間との関係が図2にプロットされている。細胞質の比抵抗は100Ωcmと仮定されている。各曲線は150nsecで最小値を示している。これは、このような種類の生体細胞の仮死または死滅が最も効果的に行われると予想されるパルス持続時間である。このような最小値の存在を確認する実験的研究が報告されている。
【0005】
細胞膜破壊に至る細胞膜の改変を行うと、ネクローシス、すなわち、非生理学的な種類の細胞破壊を介して細胞死させることができる。アポトーシスを介して細胞死を選択的に開始できると有利である。この場合、通常ネクローシスに観測される炎症および瘢痕によって周囲の組織に非特定的な損傷を与えることなく、細胞を破壊することができる。アポトーシスを引き起こすように細胞を選択的に改変できれば、周囲の組織に対する副作用を最小限に抑えながら望ましくない細胞/組織(たとえば、腫瘍細胞、脂肪細胞、軟骨細胞)を選択的に破壊する新しい方法が得られる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、細胞内エレクトロマニピュレーション法によって細胞を改変する方法に関する。この方法は、標的細胞に1つまたは複数の超短電界パルスを印加することを含む。この超短電界パルスは、パルスのシーケンスとして印加されたときに、標的細胞内の細胞下構造を少なくとも一過的に改変するのに少なくとも十分な振幅および持続時間を一般に有する。個々のパルスの振幅が標的細胞の不可逆的な破壊電界を超えることはない。超短電界パルスの振幅および持続時間としては、たとえば表面膜を破壊することによって、標的細胞の表面膜の透過性を永久的に変更するのには不十分な振幅および持続時間が通常は選択される。
【0007】
従来のエレクトロポレーション法で一般に使用されているパルス持続時間および立上り時間よりも実質的に短いパルス持続時間および立上り時間を有する電界パルスを使用することで、大部分の細胞種に適用できる、選択的な細胞損傷または生理学的切断を行う非溶解方法を提供する。たとえば、1つまたは複数の超短電界パルスに曝露された好酸球で観測される収縮からわかるように、細胞内構造を撹乱するとアポトーシスが起こりうる。アポトーシスを局所的に起こすことにより、美容目的で組織を改変するか、または腫瘍細胞を選択的に死滅させ、たとえば、乳頭腫や皮膚血管腫などの組織を選択的に切断することができる。
【0008】
細胞膜ではなく細胞下構造を標的とすることは、周囲の組織に実質的に損傷を与えずに細胞(たとえば、腫瘍細胞)を選択的に破壊する処置において有用でありうる。このパルス電界方法の最も医療と関連の深い用途では、単一の細胞ではなく組織に電界を印加する必要がある。しかし、現在このような処置で使用されている比較的長いパルスを用いた場合(たとえば、長さが数100マイクロ秒のパルス)、単一の細胞の処置と比べて、組織の処置における電界の効果が低減するように思われる。一般的な組織は、様々な種類の細胞間相互連結を伴った細胞の集合体とみなすことができるが、組織のエレクトロポレーション法が個々の細胞のエレクトロポレーション法から成ることが知られている。懸濁液中の個々の細胞のエレクトロポレーション法と組織のエレクトロポレーション法とには2つの大きな違いがある。組織において、局所的な細胞外電界は、複雑な様式で多数の近傍の細胞に依存する。さらに組織の場合、細胞外体積と細胞内体積の比が通常小さく、大部分のインビトロエレクトロポレーション条件とはまったく逆である。 このことは、セルストレス、したがって、細胞死の主要な原因が細胞内体積と細胞外体積との間の化学的交換である場合、マイクロ秒パルスを用いた組織エレクトロポレーション法では基本的に、大部分のインビトロエレクトロポレーション条件よりもインビボエレクトロポレーション条件の方が損傷が少なくなりうることを意味する。超短パルスは細胞の内部にのみ影響を与えることができるので、このようなパルスは、個々の細胞に対する効果とほとんど同じ効果を組織に与えることが期待されている。
【0009】
本発明の方法で使用される種類の超短パルスを使用することの他の利点は、このようなパルスのエネルギーが低いことである。パルスの電力は数メガワットに達する可能性があるが、このようなパルスのエネルギーは低いことが多く(持続時間が極めて短いため)、したがって、細胞に対する熱効果を無視することができる。したがって、本発明のパルス電力方法は「低温」方法であり、関連する熱効果を実質的に生じさせずに電気効果を介して細胞を改変することを可能にする。たとえば、本発明の方法で使用されるパルスに関連する熱効果は通常、培地または組織全体で温度を1℃〜2℃程度上昇させるに過ぎない。細胞を「低温」で電気的に改変する能力は、細胞膜に実質的に影響を与えずに標的細胞内の細胞下構造を選択的に改変する必要がある場合に特に有用である。
【0010】
本発明は、細胞内エレクトロマニピュレーション法用の装置も提供する。この装置は、超短電気パルス出力を生成することができるパルス発生器と、電気パルス出力を標的細胞に向けることができる、たとえば、電気パルス出力を周囲の組織を実質的に損傷しないようにインビボの標的細胞に向けることができる、送達システムとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】懸濁液中の細胞の電気的等価回路を示す図である。
【図2】細胞表面膜を1Vに充電するのに必要な電界を示し、エネルギー密度とパルス持続時間との関係に対応するグラフである。
【図3】HL-60白血病細胞と、細胞核を含む細胞の簡略化された電気的等価回路とを示す図である。
【図4】60nsecおよび60μsecの電界パルスの理論的な細胞への印加をモデル化した電圧時間曲線を示す図である。点線は、印加された電圧パルスを示し、破線は表面膜の算出電圧を示し、実線は細胞内膜の電圧を示している。
【図5】60nsec、60kV/cmの電界パルス(「A4」)を受けてから0分後、10分後、20分後、30分後の、染色されたヒト好中球の顕微鏡観察(倍率10倍)を、未処置対照(新鮮)と比較して示す図である。
【図6】300nsec、40kV/cmの電界パルス(「B6」)を受けてから0分後、10分後、20分後、30分後の、染色されたヒト好中球の顕微鏡観察(倍率10倍)を、未処置対照(新鮮)と比較して示す図である。
【図7】60nsec、60kV/cmの電界パルス(「A42」)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(「B8」)を受けた直後の、染色されたヒト好中球の顕微鏡観察(倍率160倍)を示す図である。
【図8】60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)または300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)を受けた直後の、染色されたヒト好中球の顕微鏡観察(倍率280倍)を示す図である。
【図9】60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(B8)を受けた直後の、ミエロペルオキシダーゼで染色されたヒト好中球の顕微鏡観察(倍率280倍)を、未処置対照(新鮮)と比較して示す図である。
【図10】60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(B8)を受けた後の、細胞の細胞核の面積を(画素単位)を、未処置対照(新鮮)と比較して示すグラフである。
【図11】細菌fMLP刺激に応答して、アガロースが充填されたプレート内で2時間移行した後のヒト好中球に関する、原点からの距離における絶対密度のグラフである。好中球は、60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(B8)を受けており、未処置対照(新鮮)と比較して示されている。
【図12】アガロースが充填されたプレート内で刺激なしで2時間移行(対照緩衝液)した後のヒト好中球に関する、原点からの距離における絶対密度のグラフである。好中球は、60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(B8)を受けており、未処置対照(新鮮)と比較して示されている。
【図13】60nsec、60kV/cmの電界パルス(A4)、300nsec、40kV/cmの電界パルス(B6)、または300nsec、60kV/cmの電界パルス(B8)を受けた後に、非刺激条件(対照緩衝液)および刺激条件(細菌FMLP)の下でヒト好中球が移行した距離の平均を、未処置対照(新鮮)と比較して示すグラフである。
【図14】対数増殖期のHL-60前骨髄白血病細胞を可変持続時間(60nsec、2μsec、10μsec、または200μsec)の電界パルスに曝露したときの効果を示すグラフである。
【図15】定常増殖期のHL-60前骨髄白血病細胞を可変持続時間(60nsec、2μsec、10μsec、または200μsec)の電界パルスに曝露したときの効果を示すグラフである。
【図16】60nsec、60kV/cm(A4)、300nsec、40kV/cm(B6)、または300nsec、60kV/cm(B8)のIEMパルスを受けた後の、時間の関数としての、HL-60のアポトーシス率を示すグラフである。
【図17】60nsec、60kV/cm(A4)、300nsec、40kV/cm(B6)、または300nsec、60kV/cm(B8)のIEMパルスを受けた後の、時間の関数としての、HL-60のネクローシス率を示すグラフである。
【図18】60nsec、60kV/cm(A4)、300nsec、40kV/cm(B6)、または300nsec、60kV/cm(B8)のIEMパルスを受けた後の、時間の関数としての、HL-60のアポトーシス率を示すグラフである。
【図19】60nsec、60kV/cm(A4)、300nsec、40kV/cm(B6)、または300nsec、60kV/cm(B8)のIEMパルスを受けた後の、時間の関数としての、HL-60のネクローシス率を示すグラフである。
【図20】レーザ作動スパークギャップスイッチを有する放電管パルス発生器を含む、細胞を改変する装置の概略図である。
【図21】本発明の方法で使用できる例示的な電界パルスの形状を(電圧と時間のプロットとして)示すグラフである。
【図22】図21に示す電界のフーリエスペクトルを(V/Hzの振幅と周波数とのプロットとして)示すグラフである。
【図23】例示的な60nsecパルスの形状を10マイクロ秒(10μsec)パルスと比較して示すグラフ(電圧対時間)である。
【図24】図23に示す60nsecパルスおよび10μsecパルスの場合のフーリエスペクトルを(V/Hzの振幅と周波数とのプロットとして)示すグラフである。
【図25】挿入図に示す超短パルス発生器によって生成された超短電気パルスに関する電圧と時間の関係を示すグラフである。結果として得られる電気パルスは、形状がほぼ矩形であり、5kV〜6kVの範囲で最大電圧に達し、0.1cmの間隔を置いて配置された電極を介して細胞懸濁液に印加されると、50kV/cm〜60kV/cmの範囲の電気強度をもたらす。
【図26】カルセイン(右)および改変されたライトギムザ色素(左)によって染色されたヒト好酸球の顕微鏡観察を示す図である。上の図は、未処置(対照)好酸球の外観を示している。3個(中央の図)または5個(下の図)のパルス(60nsec、53kV/cm)を印加した後、カルセインで標識された好酸球のいくつかは、明るい色に染色された細胞内顆粒を形成し、同時に、細胞形質カルセイン標識を保持している。このことは、表面膜の統合性を失わずに(すなわち、細胞質カルセイン染色が保持されている)、明るい色に染色された顆粒の膜統合性が失われたことを示している。
【図27】好酸球顆粒の遊離カルセイン染色に対するトリトンX-100処理の効果の顕微鏡観察を示す図である;上の列:好酸球(左)のライトギムザ色素によって染色された画像(上)および蛍光画像(下)、カルセインAM(1μM)によって染色された好酸球(中央)、および0.001%トリトンX-100 + 1uM遊離カルセインで5分間インキュベートされた好酸球(右);下の列:1μM遊離カルセイン+0.005%トリトンX-100で5分間処理された好酸球(左)のライトギムザ色素によって染色された画像(上)および蛍光画像(下)、0.01%トリトンX-100 + 1uM遊離カルセインで5分間処理された好酸球(中央)、および0.05%トリトンX-100 + 1μM遊離カルセインで5分間インキュベートされた好酸球(右)。
【図28】組織に挿入された一対の針電極間で生成された電界の線を示す図である。
【図29】インビボにおける組織の標的領域への超短電界パルスの印加に使用可能な位置である六角形アレイを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
図1に示す簡単な等価回路では、細胞を、誘電膜に囲まれた均質導電培地としてモデル化した。真核細胞の細胞核など、細胞下構造を考慮する場合は、この等価回路のより複雑なモデルが必要である。HL-60白血病細胞を使用して、細胞の内部の構造の複雑性を示すことができる。細胞核は、細胞核内のより小さな下構造、たとえば核小体と同様に明確に見ることができる。このような下構造は、細胞核を囲む膜をコンデンサとみなし、かつ細胞核の内部を抵抗器とみなすことによってモデル化することができ、この場合、この2つの素子は、互いに直列に接続され、かつ第1の簡略化された等価回路(たとえば、図3参照)における細胞質を表す抵抗と並列に接続されている。同様に、細胞核抵抗と並列に接続された追加のコンデンサ抵抗器構成によって、核小体を記述することもできる。
【0013】
基本的な電気回路原則により、低周波数の電界が主としてより大きなキャパシタンス、すなわち外膜に影響を与えることを示す。しかし、周波数が高くなるにつれて、外膜は事実上短絡され、内部(細胞核)の膜に印加電圧が現われる。このモデルでは、周波数が約1MHzの場合、印加電圧が、外膜ではなく、主として細胞核の膜に現われることを予想している。このことは、より高い周波数成分を有するより短いパルスが細胞膜ではなく細胞核に影響を与えることが予想されることを意味している。
【0014】
標的細胞内構造の直径dが細胞の直径と比べて小さく、構造が細胞の中央に位置すると仮定すると、細胞内構造の両端間の電圧Visを次式に従ってモデル化することができる:
Vis = E(t)d = j(t)dpis = dpis(E(t)/pc)exp(-t/Tc) (5)
上式で、pisは標的細胞内構造の比抵抗である。細胞内膜の充電は時定数Tisによって行われることが予想される:
Tis = cisd/2(pc/2 + pis) (6)
【0015】
したがって、細胞内構造膜の電圧Vismは次式のように与えられる:
Vism = Vis(1 - exp - t/Tis)) = dpis(E0/pc)exp(-t/Tc)(1 - exp(-t/Tis))[u(0) - u(T)] (7)
上式で、u(0)およびu(T)はt = 0およびt = Tにおけるステップ関数である。
【0016】
細胞パラメータがD = 0μm、d = 5μm、pc = pn = 100Ωcm、cm = 1μF/cm2、cn = 0.5μF/cm2であり、パルス持続時間がT = 60nsecである場合の、印加電圧、表面膜の電圧、および細胞内構造膜の電圧(式7)の経時変化を図4に示す。この例では、矩形パルスが印加されるが、実験環境では、パルスは通常、台形である。細胞表面外膜のキャパシタンスの値は、公開された文献(たとえば、Schwan, Biophysik, 1, 190(1963)を参照)で報告されており、細胞内構造のキャパシタンスは、特定の細胞内膜の構造に応じて、この値と同じであるか、またはその2分の1と仮定されている。細胞核は、細胞核エンベロープを構成する2枚の脂質二重膜に囲まれており、それに対して、他の細胞内構造(たとえば、細胞内顆粒)は1枚の脂質二重膜のみに囲まれている場合がある。
【0017】
この簡単な理論的モデルから、いくつかの結論を導くことができる:
【0018】
1.細胞内膜の電圧は、パルス持続時間が細胞内膜の充電時間より長く、かつパルス立上り時間がこの充電時間と比べて短い場合には、外膜の電圧と同じ程度の値に達することができる。第2の条件の重要性は、電界は同じであるが立上り時間(および持続時間)が全く異なる2つのパルスに対する細胞の電気応答を検討することによって示すことができる。電気パルスは形状が類似していると仮定されるが、超短(6nsec)持続時間パルスの立上り時間および下降時間は10nsecであり、それに対してより長いパルス(6μsec)の立上り時間および下降時間は1μsecである。細胞の寸法、キャパシタンス、および比抵抗が同じである場合、長さおよび立上り時間が短いパルスでは、細胞内膜の電圧と表面膜の電圧が同等になり、それに対して、立上り時間がマイクロ秒オーダーであるより長いパルスでは、細胞内膜の電圧がほぼ無視できる電圧になる。しかし、より長いパルスの場合の、外膜の電圧は、印加電圧の値に達し、したがって、この膜のエレクロポレーションを行うことが好ましい。この効果は医学用途で使用されており、薬物および遺伝子の細胞への送達を促進するために数10マイクロ秒から数10ミリ秒の時間範囲のパルスが使用されている。
【0019】
2.細胞内膜で1Vを超えた電圧に達するには、細胞内膜の充電時間のタイムスケール上でメガボルト/m範囲の電界振幅が必要である。固有寸法がμmであり、膜キャパシタンスがμF/cm2オーダーであり、細胞質比抵抗が100Ωcmである細胞内構造の場合、充電時間(式6)は10nsec未満である。したがって、必要な電界強度変化率はdE/dt > 1014V/(メートル秒)である。この両方の条件が満たされた場合にのみ(すなわち、より大きな電界振幅と、極めて高速の電界変化率)、細胞内効果を期待することができる。
【0020】
3.細胞内膜の電圧は、細胞内構造の直径に応じてほぼ線形に変化することが予想される。したがって、電気パラメータが同じである場合、より大きな内部構造でより強い効果が期待される。
【0021】
細胞内膜の電圧が臨界値に達することは、必要であるが、「細胞内エレクトロマニピュレーション(「IEM」)法」の十分条件ではない。膜の構造を変更し、たとえば、膜欠陥を巨大分子が通過できるサイズに開放するには、欠陥が適切なサイズになるまで拡大するのに十分な時間にわたって臨界電圧を印加する必要がある。表面膜でこのような効果を達成するのに必要な電圧の推定値が報告されているが、細胞内膜についてはこのような推定値は存在しない。したがって、本明細書で説明するモデルは、細胞内膜に対する電界依存効果を開始させるための必要条件を提供するが、膜内で起こる特定の過程を記述するものではない。それにもかかわらず、パルス持続時間を短縮し、より厳密には、パルス立上り時間を細胞内膜の充電時間より小さな値にし、かつ電界強度をメガボルト/m範囲に高めると、細胞内膜を優先的に標的とすることを、この分析が示していることは明確である。本明細書で説明する実験的研究により、少なくともある場合には、比較的短期間に複数の超短パルスのシーケンスを印加すると、表面外膜に実質的に欠陥を生じさせずに細胞内構造に対する効果を増幅できることがわかった。
【0022】
本発明の方法は、少なくとも、短期間内での超短パルスのシーケンス、たとえば、10秒以下の時間間隔での3つから5つの超短パルスのシーケンス、として印加されたときに、標的細胞内の細胞下構造を改変するのに十分な振幅および持続時間を有する超短電界パルスを通常は使用する。各超短電界パルスの振幅および持続時間としては、たとえば細胞膜に孔を生じさせることによって、標的細胞の表面膜の透過性を変更するのでは不十分であるような振幅および持続時間を選択することができる。標的細胞は一般に、懸濁液中に存在するか、または組織の一部として存在する。各超短電界パルスは通常、パルス持続時間が約1マイクロ秒以下であり、振幅が少なくとも約20kV/cmである。別な方法で特徴を示すと、超短電界パルスは通常、パルス持続時間が約1マイクロ秒以下であり、総エネルギー密度が少なくとも約75mJ/ccである。好ましくは、超短電界パルスの総エネルギー密度は約10J/cc以下である。通常、各超短電界パルスによって生成される総エネルギー密度は約75mJ/ccから約2000mJ/ccであり、好ましくは約100mJ/ccから約1000mJ/ccである。極端に短いパルス、たとえば持続時間が約10ナノ秒以下であるパルスを印加する場合、この電界パルスによって生成される総エネルギー密度は約10mJ/ccから20mJ/cc程度に過ぎない。本発明の方法で使用されるパルスは、持続時間が短いだけでなく、一般に立上り時間が50nsec以下である。
【0023】
電界パルスの振幅(印加電圧を電極間の距離で除算した値)は一般に少なくとも約20kV/cmであるが、標的細胞を含む懸濁液または組織の破壊フィールドを超えてはならない。破壊フィールドは、パルス持続時間が短くなるにつれて増大し、実験的に求めることができる。しかし、本発明の方法で一般に使用される条件の下では、一般に破壊フィールドが500kV/cmを超えることはない。持続時間が10nsecから500nsecである本発明の方法で使用される電界パルスの振幅は通常、約20kV/cmから約300kV/cmである。
【0024】
培地の全体的な温度に対する潜在的な効果(「熱効果」)を最小限に抑えるために、電界パルスは一般に短い立上り時間および持続時間を有する。パルスの持続時間は好ましくは、1マイクロ秒未満で、しかし100ピコ秒を超えるべきである。一般的なパルス持続時間は約1ナノ秒から約500ナノ秒であり、通常は約10ナノ秒から300ナノ秒である。最適なパルス持続時間は、特に細胞の種類、組織の種類、および所望の処置に依存し、他の因子間で異なる。パルスは好ましくは矩形または台形であるべきであるが、他のパルス形状を使用することができる。たとえば、外側の細胞膜と内部の細胞膜を共に開放する場合、強力で短いパルスをより弱くより長いパルスと組み合わせることができる。適切なパルス形状の他の例には、対数減衰パルス、単極性パルス、および両極性パルスが含まれる。
【0025】
超短電界パルスの立上り時間は、パルス持続時間の通常は約20%以下であり、好ましくは約10%以下である。たとえば、パルス持続時間が約100ナノ秒である場合、パルスの立上り時間は好ましくは約10ナノ秒以下である。パルス持続時間が約400ナノ秒以上であるパルスの場合、パルス立上り時間は約30ナノ秒から40ナノ秒が一般的である。極めて短い持続時間、たとえば1ナノ秒以下の持続時間を有するパルスの場合、立上り時間はパルス持続時間のより大きな割合を占めることが多い。たとえば、持続時間が1ナノ秒未満のパルスは、パルス持続時間の最大で約50%の立上り時間を一般に有することができる。
【0026】
パルスの持続時間と立上り時間とフーリエ変換の周波数分布とは互いに関連を有する。図24は、10MHz範囲まで延びる短いパルス(60nsec)のフーリエスペクトルと100kHz範囲まで延びる長いパルス(10マイクロ秒)のフーリエスペクトルを示している。周波数が高くなる(すなわち、パルス立上り時間が短くなる)につれて、目標の表面外膜は事実上短絡され、内部(細胞核)膜に印加電圧が現われる。この挙動は、表面(外側)膜の電圧および細胞核膜の電圧と周波数との関係がプロットされた図4に示されている。図4では、周波数が約1MHzである場合、印加電圧が表面外膜ではなく、細胞核など、主として細胞下構造の膜に現われることが予想されている。持続時間が約1マイクロ秒以下で立上り時間が40ナノ秒以下である電界パルスは、実質的な振幅を有する約1MHzを超える周波数を含むフーリエ変換を有する。
【0027】
本発明の方法で使用されるパルスのフーリエスペクトルは、最大で約1GHzの実質的な振幅を有する周波数を含むことができる。通常、本発明の方法で使用されるパルスは、スペクトル内の最大電圧の50%を超える(以下では「VMAX/2」を超えると表す)振幅を有する約1MHzを上回る周波数を含むフーリエスペクトルを有する。好ましくは、パルスのフーリエスペクトルは、VMAX/2を超える振幅を有する5MHzから50MHzの間の周波数を含む。たとえば、図21に示すような60ナノ秒矩形パルスは、最大で10MHzでありVMAX/2を超える振幅を有する周波数を含むフーリエスペクトルを有する。これに対して、10マイクロ秒矩形パルスのフーリエスペクトルは、振幅が最大で約200kHzから500kHzである周波数を有するに過ぎない(図23および図24の比較例を参照)。
【0028】
上記で指摘したように、標的細胞内の細胞下構造を改変する場合、一連の超短電界パルスを比較的短い時間間隔で印加すると有利である。たとえば、3個から5個の超短電界パルス(たとえば、持続時間が10nsecから300nsecであり振幅が約25kV/cmから300kV/cmである台形パルス)を印加することは、同じ振幅および持続時間の単一のパルスの場合よりも、下構造を改変する上で効果的であることがわかっている(実施例9参照)。たとえば、パルス間の間隔(遅延)が約1秒であるマルチパルスシーケンスを印加すると、細胞外膜に顕著な損傷を与えずに好酸球内の顆粒を破壊することができる。本発明の方法でマルチパルスシーケンスを使用する際、引き続くパルス間の時間間隔は広い範囲内、たとえば、1.0ミリ秒から100秒の間の時間間隔でよい。他の例を挙げると、パルス間の時間間隔が約0.1秒から3秒である複数パルスシーケンスはアポトーシスを開始させるのに極めて適している。より多くのパルスを使用できるが、本発明の方法で使用されるマルチパルスシーケンスは通常、最高で約20個のパルスを含み、各パルスは一般に、一定の時間間隔がおかれる。ある種の細胞(たとえば、好酸球、好中球、Tリンパ球)では、比較的短い期間、たとえば、約5秒から10秒以下の期間内に3個から5個の超短電界パルスを印加することによって適切な結果が得られることが多い。上記で指摘したように、超短電界パルスの振幅および持続時間としては、パルスのシーケンスが、たとえば標的細胞の表面膜を破壊することによって、表面膜の透過性を永久的に変更することのないような振幅および持続時間が通常は選択される。
【0029】
本発明の方法を使用して様々な細胞を改変することができる。たとえば、標的細胞は、脂肪細胞、骨細胞、血管細胞、筋肉細胞、軟骨細胞など、様々な一般的な細胞のうちの任意でよい。いくつかの例では、この技術を使用して、ある種の細胞を他の細胞の存在下で選択的に改変することができる。たとえば、周囲の組織内の正常な細胞に実質的に影響を与えずにインビボの腫瘍細胞(たとえば、癌細胞、肉腫細胞、乳頭腫細胞)にアポトーシスを選択的に起こすように本発明の方法のパラメータを調整することができる。他の例として、この技術を使用して、好酸球と好中球を含む混合物中の好酸球を選択的に破壊することができる(たとえば、本明細書の実施例4の表2を参照されたい)。本明細書で説明する実験により、本発明の技術を使用して、より成長の早い細胞を、より成長の遅い細胞(たとえば、静止期の細胞)の存在下で選択的に改変できることを示す。他の例では、この選択性を、単に超短電界パルスの印加を空間的に制限することに基づいて得ることができる。たとえば、適切な構成の電極を使用することによって、組織の所定の領域内の細胞を、すぐ隣りの組織内の細胞を変更せずに(たとえば、アポトーシスを開始させることによって)インビボで選択的に改変することができる。このような電極構成を組み込んだ装置は現在、所定の領域内の細胞への治療薬物の送達を推進するために従来のエレクトロポレーションパルス(μsec持続時間を有するパルス)と共に使用されている。
【0030】
一態様では、本発明の方法を使用し、細胞の種類、細胞の相、および所期の処置に応じて特定の細胞機能を強めるかまたは弱めることによって、細胞機能を改変することができる。たとえば、標的細胞の表面膜の透過性を可逆的に損なうことなしに、標的細胞の走化作用活性を改変するのに十分な振幅および持続時間の電界パルスを標的細胞に加えることができる。適切な条件の下では、たとえば、約150mJ/ccから100mJ/ccの総エネルギー密度をもたらす、持続時間が60nsecから600nsecの電界パルスを印加することによって、ヒト好中球などの細胞の走化作用活性を禁止することができる(たとえば、実施例5参照)。
【0031】
他の態様において、本出願は、約1マイクロ秒以下のパルス持続時間を有する少なくとも1つの超短電界パルスを標的細胞に印加することによって標的細胞においてアポトーシスを開始させるために使用できる方法を提供する。このような例では、電界パルスは少なくとも75mJ/ccの総エネルギー密度を一般にもたらす。ただし、特に、パルスが極めて短い持続時間および比較的高い振幅を有するか、または複数のパルスのシーケンスを比較的短い時間間隔で標的細胞に印加し、たとえば、連続するパルス間の間隔が1秒から2秒になるように印加する場合に、より低いエネルギーを持つパルスを使用することができる。
【0032】
正しいパラメータを選択した後、本発明の方法を使用して、標的細胞と第2の種類の細胞を含む混合物中で標的細胞を選択的に破壊することができる。たとえば、この方法を使用して、好酸球と好中球を含む混合物中の好酸球を選択的に破壊することができる。
【0033】
他の態様では、本出願は、非増殖状態にある標的細胞の増殖を亢進する方法を提供する。この方法は、標的細胞の細胞表面膜を不可逆的に破壊することなく標的細胞を改変するのに十分な振幅および持続時間である少なくとも1つの超短電界パルスを印加することを含む。特定の細胞の種類および細胞の増殖期に応じて、持続時間が1マイクロ秒以下であり、振幅が10kV/cm程度、および/または総エネルギー密度が10mJ/cc程度の低い電界パルスを印加することによって、増殖を亢進することができる。細胞の増殖を亢進することが所望の目的であるときは、超短電界パルスの振幅、持続時間、立上り時間、および数として、標的細胞におけるアポトーシスの開始を最小限に抑えるような値が一般に選択される。
【0034】
細胞内エレクトロマニピュレーション装置
本発明の方法は、パルス発生器と、電気パルス出力を標的細胞に向けるよう適用した送達システムとを含む細胞内エレクトロマニピュレーション用の装置を通常は使用する。パルス発生器は、パルス形成回路網および高電圧スイッチを含む。パルス形成回路網は、高電圧ケーブル、ストリップライン、または送電線路構成として個々のコンデンサおよびインダクタで構成されたパルス形成回路網でよい。高電圧スイッチは好適には、気相スイッチ、液相スイッチ、または固相スイッチであってよい。パルス形成回路網内のエネルギーは、キャパシタンスとして蓄積することができ、その場合にはパルスを放出するために閉スイッチが必要であり、またはインダクタンスとして蓄積することができ、その場合にはパルスを放出するために開スイッチが必要である。スイッチを作動させると、電気パルスが負荷、すなわち、懸濁液または組織の形態の標的細胞に流れ込む。スイッチは様々な一般的な方法に作動させることができ、たとえば、光学的または電気的で作動させることができる。電気的に作動させるには、第3の電極を使用するか、またはスイッチを過電圧状態にすることによって達成することができる。本発明の方法で使用される種類の超短パルスを発生させるように構成された適切なケーブルパルス電力システムの例を図20に示す。図21は、本発明の方法で使用されるパルスの典型的な形状を示しており、パルスの対応するフーリエスペクトルが図22に示されている。電界パルスの長さ(「持続時間」)は、ケーブルまたはストリップラインの長さを短くまたは長くしたり、開閉可能なスイッチを使用するなど、パルス形成回路網を変更することによって変更することができる。細胞内エレクトロマニピュレーション法によって細胞を改変するのに適した装置の1つの特定の例が本明細書の実施例10に記載されている。
【0035】
「負荷」は、組織内の標的細胞または培地に懸濁させた標的細胞を含み、2つ以上の電極間に位置する。これらの電極は、固体材料(いくつかの適切な形状、たとえば、平面状、円柱状、球状などのうちの任意)、ワイヤもしくはメッシュ、またはこれらの組合せでよい。1つ(1組)の電極がパルス発生器の高電圧接続部に接続され、第2の(第2組の)電極が、たとえば第2のストリップラインまたは高電圧ケーブルを介して、パルス発生器のグランド接続部に適切に接続される。電極材料は導体、最も一般的には金属である。
【0036】
典型的な超短パルス電界発生器(「USPEF発生器」)は、分散型パルス形成回路網と、電気エネルギーが急速に負荷に流れ込むことを可能にするスイッチと、負荷自体とを含む(たとえば、図25の挿入図を参照)。このようなパルス形成回路網が18kVまで充電され、次いで解放された場合、この電荷はほぼ矩形の超短持続時間パルス(図25参照)を生成することができる。このパルスを10Ωの負荷に印加したところ、最高で9メガボルトの電圧を生成した。1.0mm分離された2つの電極間に対応する電界強度は90kV/cmである。これらの条件で実現できる最大電力、V2/Rは8.1MWであり、それに対して、負荷に送り込まれるエネルギー(電力xパルス持続時間)は0.49ジュールに過ぎない。したがって、細胞懸濁液の体積が100μLである場合、エネルギー密度は4.5J/ccである。結果としてこのエネルギー伝達では、単一パルスの場合、温度の上昇は最高でも約10Kに過ぎない。
【0037】
1つの特に有用な態様では、装置は、超短電気パルスを発生させることのできるパルス発生器と、電気パルス出力をインビボの標的細胞に向けることができる、たとえば、電気パルス出力を、周囲の組織に実質的に損傷を与えずに選択的にインビボの腫瘍細胞に向けることができる、送達システムとを含む。この種の装置のパルス発生器は、持続時間が1ナノ秒から500ナノ秒であり振幅が少なくとも10kV/cmである電気パルスを発生させることが通常できる。送達システムは、インビボの組織に挿入できる一対または複数対の電極、たとえば針電極アレイの形態の電極、を一般に含む。他の構成では、送達システムは、カテーテルの構成要素である少なくとも1つの電極を含む。このような送達システムの基本的な構成は米国特許第5,944,710号に記載されており、この特許の開示は引用によって本明細書に組み込まれている。このような送達システムを本発明の方法で使用する場合、薬物組成物の血管内投与用の注入ポートを送達システムに含める必要はない。
【0038】
以下の実施例は、本発明を例示するために与えられていると共に、当業者が本発明を作製し使用するうえで助けとなるように例示されている。これらの実施例は、いかなる他の点においても本発明の範囲を制限する目的ではない。
【実施例】
【0039】
実施例1 好中球懸濁液のIEM
超広帯域かつ低エネルギーかつ短持続時間である電気パルスが、時間および/またはエネルギー/電力に依存する、遅延した細胞死をヒト好中球において起こす効果(細胞内エレクトロマニピュレーション法または「IEM」法)を判定する実験を行った。いくつかの細胞群に、以下のパラメータを有する単一矩形パルスを印加し、未処置対照細胞と比較した。A4 - 60nsec、60kV/cm;B6 - 300nsec、40kV/cm;およびB8 - 300nsec、60kV/cm。
【0040】
カルセインAM、すなわち、無傷の生存細胞の細胞質を染色する緑色蛍光プローブで細胞を染色し、次いで様々なIEMパルスに曝露した。IEMに曝露した後、臭化エチジウムホモダイマー(EtBr)、すなわち、形質膜が損傷した細胞の細胞核を染色する膜不透過性赤色蛍光プローブで染色した。細胞をガラススライド上で遠心分離させた(サイトスピン)。カルセイン蛍光(左の図)またはEtBr蛍光(中央の図)用の条件下で細胞を観察した。画像を取り込み、各フィールドをマーク付けした。次いで、細胞をライト(Wright)色素で染色し(右の図)、同じフィールドを観察し、光学顕微鏡の条件下で画像を取り込んだ。画像を10倍の倍率で観察した。
【0041】
新たに分離されたヒト好中球は、寿命が限られており、インビトロ培養中で細胞死する。IEM後、0時間(T0)では、EtBr蛍光を示しす細胞の割合は小さく(2%から5%)、したがって、膜が破壊された細胞はほとんどないことを示している(図5a参照)。1時間後、破壊された細胞の数がわずかに増加する。細胞は、内部に暗紫色の点(細胞核)を有する小さな桃色の(細胞質)円に見える。
【0042】
A4パルスパラメータの下では、IEM後T0で、EtBr蛍光細胞の数の増加は観察されず、したがって、細胞は依然として無傷であることを(図5参照)。EtBr蛍光を示す好中球の数が、経過時間に依存してわずかに増加し、したがって、死滅した細胞がわずかに増加したことを示している。T30では、T30対照細胞と比べて死細胞の数がわずかに増加する。
【0043】
B6パルスパラメータの下では、IEM後T0で、EtBr蛍光の数の増加は観察されず、したがって、細胞は依然として無傷であることを示している(図6参照)。しかし、時間の経過と共に、EtBr蛍光細胞の数がより急速に増加していく。B6のT20およびT30(中央の図)では死細胞の割合が増加し、右の図では、溶解し破壊された細胞の数が明らかに増加していることに留意されたい。これらの細胞は、黒い細胞核の周りの桃色のしみ(溢流した細胞質)として見える。B8パルスでも同様な結果が観察された。
【0044】
実施例2 好中球細胞下構造の選択的な改変
形質膜を破壊することなく細胞下構造を変更する、IEMの能力を調べた。好中球内のプロテアーゼ含有小嚢を、細胞核が「改変」される前に「改変」し、それによって、細胞下構造を改変する選択性を実証した。
方法:IEMパラメータには、シャムまたは対照(新鮮)、A4(60nsec、60kV/cm)、B6(300nsec、40kV/cm)、およびB8(300nsec、60kV/cm)を含めた。すべての観察はIEM曝露(T0)の直後に行い、画像は160倍(図7)または280倍(図8および図9)の倍率であった。
結果:図7。A4パルスパラメータの下では、IEM後T0で、EtBr蛍光の数の増加は観察されず、したがって、細胞は依然として無傷であることを示している。A4好中球は無傷であり、対照細胞と同様な形態を示している。細胞質は比較的均一な蛍光(左の図)およびライト染色(右の図)を示している。細胞核の変化は最小限の変化である(暗紫色の浅裂を有するか、または不規則に染色された細胞核が、より明るい色に染色された細胞質に囲まれている)。
【0045】
これに対して、B6パルスパラメータの下では、IEM後T0で、細胞質が不均一なカルセイン蛍光を示し、「孔」または「穴」が、蛍光が存在しないことを示す(左の図)。ライト染色(右の図)も「孔」または「穴」を示している。細胞核の染色はいくらか不均一であり、「孔」または「穴」が生じ始めている。
【0046】
B8パルスパラメータの下では、IEM後T0で、細胞質の染色がほとんどなくなり、細胞核の染色が顕著な「孔」または「穴」を示す(右の図)。B8対照(左の図、ライト色素)は、IEMに曝露されていない(正常)が、IEMに曝露されたB8好中球と同時に準備された好中球を示している。
【0047】
B5(右の図、ライト色素)はA4とB6の間のIEM条件(300nsec、30kV/cm)を示す。細胞質内で「孔」または「穴」がはっきりしてくる様子に留意されたい。B5対照(左の図、ライト色素)は、IEMに曝露されていない(正常)が、IEMに曝露されたB5好中球と同時に準備された好中球を示している。
図8。A4パルスパラメータおよびB6パルスパラメータによる好中球は、細胞質の特性をより明確に示すためにより高い倍率(280倍)で示されている。「孔」または「穴」はB6には存在しているが、A4には存在しない。
図9。殺菌に使用されるプロテアーゼを含む好中球小嚢を染色するミエロペルオキシダーゼ染色後の好中球を示す。新鮮な細胞の場合のT0におけるA4 IEMパラメータによるミエロペルオキシダーゼ染色は比較的顆粒状に見え、したがって、多数の小さなプロテアーゼ含有小嚢が存在することを示している。B6 IEMパラメータの下では、染色がより拡散し、したがって、小嚢が破壊されていることがわかる。B8 IEMパラメータの下では、染色がほとんどなくなり、したがって、より高いエネルギー/電力条件ではほとんどすべての小嚢が破壊されること示している。
【0048】
実施例3 IEMは細胞内で細胞核の収縮を誘導する。
好中球およびHL-60細胞で細胞核の収縮を引き起こす、IEMの能力を調べた。細胞核の収縮は、アポトーシスによる細胞死の典型的な特徴である(プログラムされた細胞死)。
方法:IEMパラメータには、シャムまたは対照(新鮮)、A4(60nsec、60kV/cm)、B6(300nsec、40kV/cm)、およびB8(300nsec、60kV/cm)を含めた。細胞をIEMパルスに曝露した直後にライト色素で染色し、細胞核をグレースケールに設定し、画素領域を決定した。30個から42個の細胞による細胞核サイズを決定し、各細胞を画素領域に従ってプロットした。
結果:すべての3つのIEMパラメータに曝露された好中球の細胞核は対象細胞よりも著しく小さい(図10参照)。各条件(IEM条件)ごとの画素単位で平均細胞核面積を求めた。対照の平均画素面積が15,152±338(30個の測定値)であったのに対し、IEMパルスに曝露された細胞は以下の平均画素面積を有した:
A4 - 11,871±324(30個の測定値);
B6 - 13,814±332(42個の測定値);および
B8 - 12,147±299(35個の測定値)。
前骨髄白血病HL-60細胞も細胞核の収縮を示す(データは図示せず)。
【0049】
実施例4 細胞種に基づくIEM選択性
様々な細胞種で細胞死を起こすのに必要なIEMパラメータを調べた。好酸球は、好中球よりもIEMの影響を受けやすいことが観察された。
方法:IEMパラメータには、シャムまたは対照(新鮮)、A4(60nsec、60kV)、B6(300nsec、40kV)、およびB8(300nsec、60kV)と、以下に示す追加のIEMパラメータを含めた。ヒト好中球パラメータはいくつかの混入した好酸球を含み、これらの好酸球は枯草熱/アレルギーの季節(この研究の時期)に増大する。光学顕微鏡下での形態および細胞計数により好酸球の数を好中球の数に対する割合として求めた。
結果:IEMのエネルギー/電力が増大するにつれて、IEMの直後に存在していた好酸球の数が細胞群から顕著に減少していく。これに対して好中球が著しく失われることはない(表1参照)。
【0050】
(表1)
【0051】
実施例5 走化作用に対するIEMの効果
IEMは、形質膜を破壊することなく好中球機能を変更する。走化作用に対する効果は、非刺激移動に対する効果とは異なり、好中球機能に対する選択的な効果を示唆する。
方法:IEMパラメータには、シャムまたは対照(S)、A4(60nsec、60kV/cm)、B6(300nsec、40kV/cm)、およびB8(300nsec、60kV/cm)を含めた。細胞を様々なIEMパラメータに曝露し、アガロースが充填されたプレート中、切削されたウェルに入れ、次いで対照緩衝液(非刺激移動)または細菌fMLPによる化学的刺激物(走化作用)によって移動させた。アガロースの下で2時間移動させた後、細胞を染色し、原点からの距離における絶対密度と、好中球群が移行した距離の平均とを画像分析によって求めた。
結果:走化作用の場合、エネルギー/電力と走化作用機能の抑制とは正比例し、すなわち、各細胞の原点からの距離における絶対密度(図11)および平均移行距離(図13)によってわかるように、エネルギー/電力が高くなると、走化作用の抑制が増大する。好中球群が移行した距離の平均によって求められる、細菌fMLPで刺激された対照の移行の割合として、パラメータA4、B6、およびB8ではそれぞれ、61.6%、62.4%、および87.8%が抑制される(表2参照)。
【0052】
(表2)
【0053】
これに対して、非刺激移動の場合、エネルギー/電力と移動抑制との間の効果はほとんどないように思われる(図12および図13参照)。パルスのエネルギー/電力と非刺激移動の抑制との関係は明らかではない。パラメータA4、B6、およびB8ではそれぞれ(表2参照)、パルス非刺激細胞は、非刺激対照と比べて移行の抑制量が少なかった。
【0054】
実施例6
対数増殖期におけるHL-60細胞の増殖に対するIEMの効果を調べた。IEMによって増殖はパルス持続時間の関数として抑制された。この結果は、IEMにより、急速に成長する細胞、たとえば腫瘍細胞を選択的に死滅させる可能性を示している。
方法:HL-60細胞を最大細胞倍加時間(10時間〜14時間、対数増殖期)の条件で、100〜300,000細胞/mlの密度に維持した。図示された様々な持続時間で一定のエネルギー曝露量(200mJ/ml〜250mJ/ml)を維持することによって細胞を様々なIEMパラメータに曝露した。次いで、細胞を50,000細胞/mlまで希釈し、光学顕微鏡下で血球計算板を使用して0時間後、24時間後、および48時間後に生存細胞数(トリパンブルーを遮断した細胞、すなわち生存細胞)を求めた。
結果:IEMで処置した直後には、生存細胞の数は対照と変わらなかった(図14参照)。IEMから24時間後に、処置された細胞は、パルス時間が最も長い条件(200μsec)を除いて、対照と同様な速度で成長した。48時間後、0.06μsecから10μsecのパルスに曝露された細胞の増殖率が低下し始め、したがって、増殖イベントよりも死滅イベントの方が多いことがわかる。200μsecのパルスに曝露された細胞は、増殖率がほぼ対照の率まで高まった。
【0055】
実施例7 定常増殖期の細胞に対するIEMの効果
定常増殖期のHL-60細胞の増殖に対するIEMの効果を調べた。IEMによって成長はパルス持続時間の関数として促進された。この結果は、特定のIEM条件により、緩徐に分割する細胞の成長を促進する可能性を示している。
方法:HL-60細胞を最小細胞倍加時間(ほぼ定常増殖期)の条件で、3日ないし5日間、1〜3,000,000細胞/mlの密度に維持した。図示された様々な持続時間で一定のエネルギー曝露量(1.7J/ml〜1.9J/ml)を維持することによって、細胞を様々なIEMパラメータに曝露した。次いで、細胞を50,000細胞/mlまで希釈し、光学顕微鏡下で血球計算板を使用して0時間後、24時間後、および48時間後に生存細胞数(トリパンブルーを遮断した細胞、すなわち生存細胞)を求めた。
結果:IEMで処置した直後には、生存細胞の数は対照とそれほど異ならなかった(図15参照)。24時間後および48時間後に、増殖率は、0.05μsecまたは200μsecのパルスに曝露された細胞の対照よりも高くなった。増殖率は、10μsecのパルスに曝露された細胞の対照よりも低かった。持続時間が最小値のパルスにより、緩徐に成長する細胞の増殖が抑制されることがわかる。
【0056】
実施例8 IEMによって誘導される細胞のアポトーシス
上記の実施例3で説明した実験(図10参照)では、IEMパルスによって、アポトーシスの特徴である細胞核の収縮をもたらすことが示された。アポトーシス用およびネクローシス用の、より特定的で明確なマーカを使用した新しいデータは、IEMパルスが好中球およびHL-60細胞においてアポトーシスを誘導するという仮設を支持している。
方法:IEMパラメータには、シャムまたは対照(新鮮)、A4(60nsec、60kV/cm、216mJ/cc)、B6(300nsec、40kV/cm、480mJ/cc)、およびB8(300nsec、60kV/cm、1.08J/cc)を含む。好中球またはHL-60細胞をアネキシン-V-FITCおよび臭化エチジウムホモダイマー(「EtBr」)を用いて培養した。アネキシン-V-FITC結合を定量アポトーシスマーカーとして使用した。アネキシン-Vは、カルシウムに依存してホスファチジルセリンと結合する。ホスファチジルセリンは通常、正常な細胞内の細胞膜の内側リーフレットに拘束され、したがって溶液に解けたアネキシン-Vと接触することはないが、アポトーシスを起こした細胞は、膜外側のリーフレットにホスファチジルセリンを有し、したがって、アネキシン-Vが容易にその表面に結合する。EtBrはDNAに結合するが、細胞膜を透過しない。EtBr蛍光が起こるのは、破壊された膜を有する細胞だけである。したがって、アポトーシスを起こした細胞はアネキシン蛍光のみを示し、それに対して、ネクローシスを起こした細胞はEtBrに対する蛍光とアネキシン非蛍光を示す。細胞は、IEMに曝露され、IEM後の図示された時間に、蛍光顕微鏡によって評価され、計数され、アポトーシスおよびネクローシスを示す細胞の割合として表される。
結果:対照細胞(ヒト好中球)は、実験の間、アポトーシスやネクローシスの有意なマーカを示さない(図16および図17)。このことは、これらのパルスでは膜の破壊によって細胞死することはないことを示す。IEM条件A4、B6、およびB8に曝露されたHL-60細胞は、時間およびエネルギーまたは電力に依存したアポトーシスの増大を示す。A4、B6、およびB8で、細胞はそれぞれ、5時間後、3時間後、および1時間後にアポトーシスマーカーを示し始める(図16参照)。アポトーシスを起こした細胞が死滅していくにつれて、アポトーシスに対して二次的にネクローシスが起こる(図17参照)。このことは、アポトーシスが起こった後にのみネクローシスが起こることによって示される。二次的なネクローシスはインビトロ特有の効果である。インビボでは、アポトーシスを起こした細胞は、ネクローシスおよび炎症が起こる前に食作用によって除去される。図18および図19は、ヒト好中球による同様な結果を示している。
【0057】
実施例9 カルセインAMで染色された細胞に対するIEM処置の効果
遊離カルセインは、高度に蛍光改変されたフルオレセインであり、6つの陰電荷および2つの陽電荷を有し、膜不透過性を有する。カルセインAMは、メチルエステル形では、蛍光を発せず膜透過性を有する。カルセインAMは、細胞用の蛍光色素として使用されると、表面膜を通過し、細胞内エステラーゼ活性によって遊離カルセイン+メチルエステル残基に切断される。この改変によって、遊離カルセインが細胞の細胞質に閉じ込められる。遊離カルセインを保持することは、表面膜が無傷であることを示す一般的な基準である。細胞内遊離カルセインは、細胞内に閉じ込められるだけでなく、その膜不透過性により、膜によって結合された他の細胞内コンパートメントからは排除される(明るい色の細胞質遊離カルセイン蛍光および大きな細胞内顆粒の「負染色」を示す、カルセインAMで標識された好酸球に見られる効果)。
【0058】
好酸球を含む白血球調製物(好酸球65%)のアリコートをHBSSw/oおよびトリトンX-100に溶かした1μM遊離カルセインに曝露し、トリトンX-100の量を徐々に増やしていき(0%〜0.05%)(5分、25℃)、顕微鏡によって検査した。トリトン なしで遊離カルセインに曝露された好酸球は、遊離カルセインの膜不透過特性と一致して、カルセイン染色を示さなかった。赤色の好酸球自家蛍光は容易に可視化され、遊離カルセイン+0.01%トリトン曝露量までのすべての条件でも可視化された。しかし、遊離カルセイン+0.01%トリトン条件では、少数の好酸球によって、好酸球自家蛍光パターン内に、分離された明るい緑色の顆粒が示された。遊離カルセイン+0.05%トリトン条件では、蛍光照明によって、薄い緑色の蛍光の多数の離散領域と、その上に位置する、明るい緑色の斑点状蛍光領域が示された。ライトギムザ染色の後、明るい斑点状蛍光領域に完全に対応する好酸球顆粒との関連で、完全に界面活性剤で可溶化された細胞の残滓細胞核(薄緑色の蛍光)であることが認識された(図26参照)。これらの結果は、界面活性剤処理された好酸球顆粒が、おそらく陽イオン性好酸球顆粒成分と陰イオン性遊離カルセインとの相互作用のために、遊離カルセインで明るい色に染色されることを示しており、フルオレセイン標識された抗体を使用した他の細胞の結果と同様であった。
【0059】
カルセインAMで染色された好酸球は、染色後に細胞質内に遊離カルセインを閉じ込め(左)、細胞内遊離カルセインは、左側に示すように好酸球の大きな顆粒から排除される。トリトン処理を施さない場合、遊離カルセインは好酸球細胞質を染色することができず(中央)、好酸球自家蛍光しか見えない。0.001%トリトンで培養した場合、遊離カルセインは引き続き好酸球から排除されるが、PMNの微細顆粒を染色し、明らかな界面活性剤効果を示す(右)(図27参照)。0.005%トリトン処理では(左)、いくつかの好酸球の形態は部分的に界面活性剤で可溶化されたことを示唆し、それに伴い、カルセインによって好酸球顆粒が明るい色に染色されたことを示し、界面活性剤で可溶化されたPMNは、非常に微細な蛍光「カルセイン砂」染色パターンを示す。0.01%トリトン+1μM遊離カルセイン処理(中央)では、すべての好酸球が、界面活性剤効果を示唆する細胞核の変化を示し、多くの好酸球は、赤色の自家蛍光を背景として明るい色の顆粒を1つから2つ含む。0.05%トリトンX-100+1μM遊離カルセイン処理では、好酸球細胞核残渣のみが見られ(右、上)、これらのうちのいくつかは、好酸球顆粒との関連で遊離カルセインによって明るい色の蛍光を発する(右、下)。
【0060】
USPEF効果をもたらす典型的なパルス発生器が、図25に示されており、パルス形成回路網(通常は同軸ケーブルまたはストリップライン)、スイッチ、および負荷から成る。整合負荷の場合(負荷の抵抗=パルス形成回路網のインピーダンス)、負荷の両端間電圧パルスは、パルス形成回路網に印加される電圧の2分の1の振幅を有する(前述の実験では、パルス形成回路網は、互いに平行に配置された5本の高電圧50Ωケーブルを備えており、整合動作に必要な10Ωインピーダンスを実現する)。パルス持続時間は、ケーブルまたはストリップラインの長さの2倍を、パルス形成回路網の誘電体内の電磁波の速度で除算した値である。スイッチは大気中の単純なスパークギャップである。破壊電圧は、ギャップ距離を変えることによって設定される。負荷は、USPEFに曝露される100μLの細胞懸濁液から成り、Ca++およびMg++を含まないハンクス均衡塩溶液(HBSSw/o)を使用して細胞を懸濁させたときに、電気抵抗が100Ωcmになる。負荷は、面積が1cm2であり0.1cmだけ分離された互いに平行な板状のアルミニウム電極で構成されたエレクトロポレーションキュベット(BioRad, Inc., カリフォルニア州、Hercules)内に配置されており、負荷抵抗R = 10Ωである。
【0061】
成人のボランティアドナーから得たヘパリンで凝結防止された血液をハイパックフィコール(hypaque-ficoll)沈殿、デキストラン沈殿、および低張溶解を使用して精製し、多形核白血球(PMN)を得た。この細胞調製物は、通常は92%〜95%のPMN、5%〜8%の好酸球、および1%〜3%の単核細胞であった。精製後に、PMN調製物を1μMカルセインAM(Molecular Probes, Inc.、オレゴン州、Eugene)を用いてこの製造業者の指示に従って標識し、洗浄し、Ca++もMg++も含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSSw/o)において20x106/mlに調整した。
【0062】
USPEFを印加した直後に、細胞をキュベットから除去し、Ca++およびMg++を含むHBSS(HBSSw)で1:4に希釈し、Cytospin 3(Shandon Southern、ペンシルバニア州、Sewickley)を使用してガラススライドに塗布した(1000rpm、5分)。各パルス条件ごとに複数のスライド標本を作製し(1000rpm、5分)、顕微鏡で検査するまで、密閉された箱の中に入れておいた。顕微鏡観察では、コダックDC-120デジタルカメラを備えたオリンパスBH-1顕微鏡写真機、またはオリンピックスCCDビデオカメラを備えたオリンパスIX70反転顕微鏡を倍率100倍で使用した。
【0063】
最初の実験では、カルセインAMで標識されたPMNを使用して細胞質を蛍光標識した。これにより、3.6メガボルト/mまたは5.3メガボルト/mのUSPEFを1回印加すると、細胞内で遊離カルセインを分散させることができ、顕微鏡観察によって評価されたこれらの細胞内でライトギムザ染色形態が得られることがわかった。USPEFを複数回印加すると、細胞内遊離カルセイン分散とライトギムザ染色PMN形態の両方に本質的な変化が起こったが、最も顕著な効果は、好酸球がPMN調製物に混入している際に見られた。≧3回のUSPEF印加を使用したとき、どちらの電界強度の場合にも「発光」細胞(細胞質カルセイン染色と中央に位置する大きな明るい色の蛍光顆粒とを有する細胞)が見られた(表1)。ライトギムザ色素で調べたところ、「発光」細胞は、常に好酸球であり、対照条件の好酸球の外観と比べて「収縮」したように見えることが多かった。
【0064】
好酸球顆粒の強力な遊離カルセイン染色が、顆粒膜の統合性が失われた場合にしか起こらないことを認識し、2つの好酸球を含む2つの白血球調製物(65%および87%の好酸球)をUSPEFに曝露し(60nsec、53kV/cm x 3またはx5)、細胞を顕微鏡によって検査した(図26参照)。カルセインAMで染色された対照細胞調製物は、好酸球が細胞質遊離カルセインで明るい色に染色されることと、細胞内顆粒から遊離カルセインが排除されることを示した。
【0065】
図26は、USPEF処置を受けた好酸球調製物内の「発光」細胞を示している(60nsec、53kV/cm x 3(中央)およびx 5(下))。カルセインAMで標識された対照好酸球(上)では、明るい色の細胞質遊離カルセイン染色を示し、細胞内顆粒から蛍光が排除されている。この細胞調製物に対してUSPEF処置を複数回施すと、「発光」細胞が現われ、明るい色の細胞質遊離カルセイン染色(表面膜が無傷であることを示す)と、いくつかの細胞内顆粒の明るい蛍光が見られ、したがって、細胞内遊離カルセインが陽イオン顆粒内成分に侵入し標識したことを示す。中央の図はまた、60nsec、53kV/m x 3およびx 5条件で頻繁に指摘される好酸球形態の「収縮」も示している。明るい色の細胞質遊離カルセイン染色を示す通常のサイズの好酸球/染色されない顆粒が右の図に示されており、すべて「発光」細胞である3つの「収縮した」好酸球が左の図に示されている。
【0066】
両方の条件でUSPEFに曝露した後、すべての細胞の39%および77%(3回のUSPEF曝露)ならびに42%および58%(5回のUSPEF曝露)が「発光」特性(中心の明るい蛍光細胞内顆粒の亜集団をプラスした強力な細胞質遊離カルセイン染色)を有し、その後のライトギムザ染色ではそれぞれが好酸球であった。試験調製物における好酸球の含有量の程度を考慮すると、好酸球全体の76%〜84%(3回のUSPEF)および59%〜71%(5回のUSPEF曝露)がこの処置の後で「発光」特性を得たことになる。
【0067】
好酸球顆粒は、トリトン可溶化実験で示したように、顆粒膜が破壊された場合に、陰イオン性の強い遊離カルセインと結合することのできる様々な陽イオン性タンパク質を含む。したがって、USPEFを繰り返し印加した後でカルセインAMを付加された好酸球において「発光」形態が形成されるのは、USPEF印加時に好酸球顆粒膜に選択的な孔形成/破壊が起こり、それによって、細胞質遊離カルセインが顆粒に侵入し陽イオン性顆粒成分と結合したためであると結論することができる。このことは、USPEFの印加により、表面膜の統合性を失わずに細胞内膜の選択的な孔形成/破壊を実行できることの有力な証拠と解釈することができる。
【0068】
実施例10 インビトロのマウス線維肉腫細胞のIEM
27ゲージ針を備えた1cc注射器を用いて、0.1ml PBS中の1.5 x 106 B10.2マウス線維肉腫細胞を、7週齢から8週齢の免疫適格C57B1/6マウスに皮下接種した。注射部位は動物の脇腹領域または背中のどちらかとした。2週間から3週間後に、腫瘍を切除し、赤道軸に沿って2つの部分にスライスした。一方の部分を対応対照として使用し、他方の部分をそれぞれ300nsecおよび60kV/cm(1.08J/cc)の3つのパルスに曝露した。
【0069】
0.1cmの間隔を置いて配置された2つの電極の間のエレクトロポレーションキュベット内に腫瘍切片(厚さ0.1cm)を配置し、ハンクの平衡塩類溶液を添加してキュベットを満たした。上述したように組織をパルスに曝露し、取り出し、分析のために調製した。ウシ胎児血清を10%含むRPMI培地中で組織を37℃で5時間培養した。その後、組織を10%の緩衝ホルマリン内で18時間固定した。バキュームを使用して組織から空気を除去し、脱気した組織をパラフィンに包埋した。4ミクロンの切片を調製し、アセトンに溶かした2%のAPESで事前に処理されたガラススライド上に配置した。キシレン、無水エタノール、95%エタノール、70%エタノール、およびPBSで連続的に洗浄することによってパラフィンを除去した。組織切片を蛋白分解酵素K(40ug/ml)を用いて40℃で15分間インキュベートした。
【0070】
ローダミンで標識されたヒツジ抗ジゴキシゲニン抗体(IntergenのApop-tag商標)および蛍光顕微鏡を製造業者の規約に従って使用し、アポトーシスのマーカーとして、DNA切断試験用の組織スライドを調製した。スライドをDAPIで対比染色した。正常な細胞核はDAPIによって青く染色され、アポトーシスを起こした細胞核はローダミンによって赤く染色された。200個から300個の細胞を青色(正常)または赤色(アポトーシス)として計数し記録した。アポトーシス指数を、アポトーシスを起こした細胞核の数を細胞核の総数で除算した数として定義した。結果を以下の表4に示す。
【0071】
(表4) エレクトロマニピュレーション後のマウス線維肉腫のアポトーシス
【0072】
表4は、6kVにおける連続的な300nsecパルスに曝露された代表的な腫瘍におけるアポトーシス指数(アポトーシスを起こした細胞の割合)を、パルスに曝露されない対照と比較して示している。同じ腫瘍の4つの異なる部分から採取した場合、対照腫瘍由来の細胞核のうち、約6%がアポトーシスを起こした。これに対して、一連の超短高強度パルスに曝露された腫瘍由来の細胞核の35%がアポトーシスを起こした。このことは、これらのパルスへの曝露の後アポトーシスを起こす細胞核が6倍増加することを表している。様々な動物から得た合計で6つの腫瘍において、電界パルスに曝露された腫瘍では、アポトーシスを起こす細胞核が3倍から6倍増加することが見出された。ただし、未処置腫瘍においてアポトーシスを起こす細胞核の絶対数は4%から30%の間で変動した。60nsecおよび6kVにおける3つの連続的なパルスを比較したとき対照および処置された腫瘍間で違いは観察されなかった(データは図示せず)。これらの結果は、超短高強度パルスが腫瘍組織内のアポトーシスを誘導できることを示している。
【0073】
実施例11 インビボにおけるマウス線維肉腫のIEM処置
超短電気パルスによる最初の実験は培地中の腫瘍細胞を用いて行われた。ヒトの腫瘍の処置用の超短電界パルスの潜在的な効果を完全に評価するために、動物モデルを使用する。培養された無傷の細胞を用いた実験により、超短電気パルスによって誘導される細胞死の主要な機能がアポトーシスであることが示される。将来のヒト癌治療に対する潜在能力を調査するために、動物モデルを使用してインビボにおける動物腫瘍に対する超短電界パルスの効果を確認する。C57BL/6マウスは、ヒトにおける臨床試験の必要な予備手順として癌治療戦略を評価するための、十分特徴づけられた許容されるモデルの代表である。腫瘍細胞系がこのマウスに由来するので、この種は非常に有効である。
【0074】
マウス線維肉腫に関しては、免疫適格C57B1/6マウスモデルが使用される。27ゲージ針を備えた1cc注射器を使用して、0.1mlのリン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)中の5 x 106 B10.2マウス線維肉腫細胞を、7週齢から8週齢のマウスに皮下接種または皮膚内接種する。注射部位は、その動きまたは食物摂取を阻害しないように動物の背中とした。腫瘍塊は、6週間で直径約5mmから10mmの塊になることが予想される。得られる腫瘍の質量が、超短電気パルス処置に供される前に体重の10%を超えないようにする。
【0075】
皮下腫瘍が誘発したマウスを6つの異なる群に分割し、5つの群の腫瘍にインビボにおける超短電気パルス処置を施す。6番目の群は、腫瘍形成の過程をモニターするための未処置対照群として働く。5つの異なる処置用のパルスパラメータは、エキソビボ実験の結果に基づいて使用される。5つの異なる群に対する超短電気パルス条件を以下の表5に示す。
【0076】
(表5) インビボ腫瘍処置用のIEMパルス条件
【0077】
表5のパラメータによって示されるように、短持続時間(ナノ秒から数百ナノ秒)で、高電圧(数十キロボルト)で、低エネルギー(数十ミリジュールから数ジュール)の、非熱電気パルスを使用する。これらのパルスは、細胞形質膜の永久的な破壊を起こさず、未知のメカニズムによって細胞核、ミトコンドリア、および/または小胞などの細胞下構造を変化させることができる。パルスは、5mmの間隔を置いて配置された、針治療針のサイズの一対のステンレススチール針から成る電極アレイを通して送達される。一対の針を腫瘍または、健康な組織の周囲の縁部に少なくとも腫瘍の深さだけ挿入する。互いに向かい合う針に電流を同時に流し、各針によりもたらされる断面内および断面のすぐ外側に均質な電界を生成する(パルスの間に蓄生される電界の記述については図28を参照)。エネルギー密度は、2本の針によってもたらされた平面で最も大きくなり、この平面の外側で小さくなる。一対の針に両極性の電圧を加える。一対の針を除去し、他の2つの位置に、針の各位置が全体として概ね正六角形に対応するように再挿入する(図29を参照)。3つの位置のそれぞれからの一連のパルスによる腫瘍の処置を本明細書では「1パルスサイクル」と呼ぶ。針アレイによってもたらされる六角形内に腫瘍が含まれるように、腫瘍のすぐ近くを囲む健康な組織に針アレイを挿入する。腫瘍がアレイの境界を越えないかぎり、腫瘍ごとに1パルスサイクルを送達し、その境界を越えた場合は、第1のパルスサイクルではカバーされない腫瘍部分を囲むようにずらされたアレイで第2のパルスサイクルを送達する。典型的には、パルスサイクル内の各位置に関して、比較的短い時間間隔内に複数のパルスシーケンスを腫瘍に印加し、たとえば、連続するパルス間の間隔が1秒から2秒である5個から10個のパルスシーケンスを各位置で印加する。
【0078】
インビボにおいて超短電気パルスを用いて腫瘍を処置するときは、全外科手術手順の間の連続的な鎮静を可能にするために、酸素および2%イソフルオランがインプットされた系内にマウスを入れる。腫瘍の周りの領域を電気はさみで剃り、ベタジンで消毒する。針治療針のサイズの電極のアレイを腫瘍内またはその周りに挿入し、比較的短い期間内、超短電気パルスを送達する。総手順時間は10分未満である。次に、マウスは新しいケージに入れられ、2分以内に歩行可能になることが予期される。
【0079】
IEMの後、動物を毎日モニターし、キャリパーを使用して、4週間にわたって少なくとも週2回腫瘍のサイズを測定する。この期間の終了時に腫瘍を切除し、アポトーシスの存在に関して試験する。以下のうちの1つまたは複数を含む、いくつかのアポトーシス分析方法を使用する:
(1)アポトーシスの蛍光組織学的分析;
(2)フルオレセイン標識および蛍光顕微鏡を使用したDNA切断;
(3)ミンシング後の腫瘍におけるアネキシスV-FITC(ネクローシス)との結合、およびコラゲナーゼによる物質分解に関する蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメトリー;
(4)蛍光基板DEVD-AFCを使用したカスパーゼ活性化;ならびに
(5)カスパーゼ3抗体を使用したイムノブロット分析によるカスパーゼ活性化。
【0080】
本出願全体にわたって様々な文献が引用されている。本発明が関係する従来技術をより詳しく説明するために、これらの文献の開示が全体にわたって本明細書に参照として組み入れられている。
【0081】
様々な特定かつ例示的な態様および技術を参照して、本発明を説明した。しかし、本発明の意図および範囲から逸脱せずに多数の修正および改変作製されうることを理解されたい。
【0082】
他の出願の相互参照
本出願は、開示が引用によって本明細書に組み入れられている、1999年8月4日に出願された米国仮出願第60/147,099号および、2000年4月11日に出願された米国出願第09/546,764号の優先権を主張する。
【0083】
(表3) PMN調製物におけるヒト血液好酸球のUSPEF処置効果
*複数回のUSPEF曝露を約1秒間隔で手動にて作動させた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地中の標的細胞を選択的に破壊する方法であって、該標的細胞に1つまたは複数の超短電界パルスを印加することを含み、各該超短電界パルスのパルス持続時間が1マイクロ秒以下であり、振幅が少なくとも10kV/cmである方法。
【請求項2】
各超短電界パルスの立上り時間が50ナノ秒以下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
超短電界パルスの立上り時間が、パルス持続時間の20%以下である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
パルス持続時間が少なくとも100ピコ秒である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
パルス持続時間が1ナノ秒から500ナノ秒である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
超短電界パルスの総エネルギー密度が少なくとも20mJ/ccである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
1つまたは複数の超短電界パルスがそれぞれ台形パルスである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
1つまたは複数の超短電界パルスがそれぞれ、1MHzから1GHzの間のVMAX/2よりも大きな振幅である周波数を含むフーリエスペクトルを有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
培地中の該標的細胞が、成長培地中に該標的細胞を含む懸濁液である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
培地中の該標的細胞が、該標的細胞を含む組織である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
1つまたは複数の超短電界パルスをインビボの該標的細胞に印加することを含む、請求項8記載の方法。
【請求項12】
1つまたは複数の超短電界パルスの振幅および持続時間が、標的細胞の表面膜を不可逆的に破壊するには不十分な振幅および持続時間である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
標的細胞の細胞表面外膜をただちに不可逆的に破壊することなく該標的細胞の細胞表面外膜上のアネキシン結合を集合的に活性化するのに十分な振幅および持続時間の1つまたは複数の超短電界パルスを該標的細胞に印加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
標的細胞内の細胞表面外膜をただちに不可逆的に破壊することなく該標的細胞を集合的に収縮させるのに十分な振幅および持続時間である1つまたは複数の超短電界パルスを該標的細胞に印加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
標的細胞でアポトーシスを開始させる方法であって、該標的細胞に1つまたは複数の超短電界パルスを印加することを含み、各該超短電界パルスのパルス持続時間が1マイクロ秒以下であり、振幅が少なくとも10kV/cmである方法。
【請求項16】
第1の細胞を第2の細胞の存在下で選択的に改変する方法であって、混合物に少なくとも1つの超短電界パルスを印加することを含み、各超短電界パルスのパルス持続時間が1マイクロ秒以下であり、振幅が少なくとも10kV/cmである方法。
【請求項17】
第1の細胞が好酸球であり、かつ第2の細胞が好中球である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
第1の細胞を選択的に破壊することを含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
第1の細胞が第2の細胞よりも早い成長速度を有する、請求項16記載の方法。
【請求項20】
標的細胞の細胞表面膜を不可逆的に破壊することなく該標的細胞内の走化作用活性を改変するのに十分な振幅および持続時間である少なくとも1つの超短電界パルスを該標的細胞に印加することを含む、細胞を改変する方法。
【請求項21】
標的細胞の走化作用活性を低減させるのに十分な振幅および持続時間である少なくとも1つの超短電界パルスを印加することを含む、請求項22記載の方法。
【請求項22】
非増殖状態で標的細胞の増殖を改変する方法であって、該標的細胞内の増殖活性を改変するのに十分な振幅および持続時間である少なくとも1つの超短電界パルスを該標的細胞に印加することを含み、該超短電界パルスのパルス持続時間が1マイクロ秒以下である方法。
【請求項23】
標的細胞の増殖活性を増大させるのに十分な振幅および持続時間である少なくとも1つの超短電界パルスを印加することを含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
インビボの標的細胞を選択的に破壊する方法であって、該標的細胞に1つまたは複数の超短電界パルスを印加することを含み、各該超短電界パルスのパルス持続時間が100ピコ秒から500ナノ秒であり、振幅が少なくとも10kV/cmである方法。
【請求項25】
各超短電界パルスの立上り時間が40ナノ秒以下である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
標的細胞が腫瘍細胞である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
標的細胞が脂肪細胞または軟骨細胞である、請求項24記載の方法。
【請求項1】
培地中の標的細胞を選択的に破壊する方法であって、該標的細胞に1つまたは複数の超短電界パルスを印加することを含み、各該超短電界パルスのパルス持続時間が1マイクロ秒以下であり、振幅が少なくとも10kV/cmである方法。
【請求項2】
各超短電界パルスの立上り時間が50ナノ秒以下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
超短電界パルスの立上り時間が、パルス持続時間の20%以下である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
パルス持続時間が少なくとも100ピコ秒である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
パルス持続時間が1ナノ秒から500ナノ秒である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
超短電界パルスの総エネルギー密度が少なくとも20mJ/ccである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
1つまたは複数の超短電界パルスがそれぞれ台形パルスである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
1つまたは複数の超短電界パルスがそれぞれ、1MHzから1GHzの間のVMAX/2よりも大きな振幅である周波数を含むフーリエスペクトルを有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
培地中の該標的細胞が、成長培地中に該標的細胞を含む懸濁液である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
培地中の該標的細胞が、該標的細胞を含む組織である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
1つまたは複数の超短電界パルスをインビボの該標的細胞に印加することを含む、請求項8記載の方法。
【請求項12】
1つまたは複数の超短電界パルスの振幅および持続時間が、標的細胞の表面膜を不可逆的に破壊するには不十分な振幅および持続時間である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
標的細胞の細胞表面外膜をただちに不可逆的に破壊することなく該標的細胞の細胞表面外膜上のアネキシン結合を集合的に活性化するのに十分な振幅および持続時間の1つまたは複数の超短電界パルスを該標的細胞に印加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
標的細胞内の細胞表面外膜をただちに不可逆的に破壊することなく該標的細胞を集合的に収縮させるのに十分な振幅および持続時間である1つまたは複数の超短電界パルスを該標的細胞に印加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
標的細胞でアポトーシスを開始させる方法であって、該標的細胞に1つまたは複数の超短電界パルスを印加することを含み、各該超短電界パルスのパルス持続時間が1マイクロ秒以下であり、振幅が少なくとも10kV/cmである方法。
【請求項16】
第1の細胞を第2の細胞の存在下で選択的に改変する方法であって、混合物に少なくとも1つの超短電界パルスを印加することを含み、各超短電界パルスのパルス持続時間が1マイクロ秒以下であり、振幅が少なくとも10kV/cmである方法。
【請求項17】
第1の細胞が好酸球であり、かつ第2の細胞が好中球である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
第1の細胞を選択的に破壊することを含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
第1の細胞が第2の細胞よりも早い成長速度を有する、請求項16記載の方法。
【請求項20】
標的細胞の細胞表面膜を不可逆的に破壊することなく該標的細胞内の走化作用活性を改変するのに十分な振幅および持続時間である少なくとも1つの超短電界パルスを該標的細胞に印加することを含む、細胞を改変する方法。
【請求項21】
標的細胞の走化作用活性を低減させるのに十分な振幅および持続時間である少なくとも1つの超短電界パルスを印加することを含む、請求項22記載の方法。
【請求項22】
非増殖状態で標的細胞の増殖を改変する方法であって、該標的細胞内の増殖活性を改変するのに十分な振幅および持続時間である少なくとも1つの超短電界パルスを該標的細胞に印加することを含み、該超短電界パルスのパルス持続時間が1マイクロ秒以下である方法。
【請求項23】
標的細胞の増殖活性を増大させるのに十分な振幅および持続時間である少なくとも1つの超短電界パルスを印加することを含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
インビボの標的細胞を選択的に破壊する方法であって、該標的細胞に1つまたは複数の超短電界パルスを印加することを含み、各該超短電界パルスのパルス持続時間が100ピコ秒から500ナノ秒であり、振幅が少なくとも10kV/cmである方法。
【請求項25】
各超短電界パルスの立上り時間が40ナノ秒以下である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
標的細胞が腫瘍細胞である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
標的細胞が脂肪細胞または軟骨細胞である、請求項24記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2011−137025(P2011−137025A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36521(P2011−36521)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【分割の表示】特願2001−514848(P2001−514848)の分割
【原出願日】平成12年8月2日(2000.8.2)
【出願人】(502042517)イースタン バージニア メディカル スクール オブ ザ メディカル カレッジ オブ ハンプトン ローズ (1)
【出願人】(502042528)オールド ドミニョン ユニバーシティ リサーチ ファンデーション (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【分割の表示】特願2001−514848(P2001−514848)の分割
【原出願日】平成12年8月2日(2000.8.2)
【出願人】(502042517)イースタン バージニア メディカル スクール オブ ザ メディカル カレッジ オブ ハンプトン ローズ (1)
【出願人】(502042528)オールド ドミニョン ユニバーシティ リサーチ ファンデーション (1)
【Fターム(参考)】
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