説明

細胞内ペプチド送達

【課題】異種化合物を細胞、特に哺乳類細胞に輸送するための方法およびキットを提供する。
【解決手段】本発明の方法は、異種化合物を輸送する前に、細胞を、ポリカチオン、カチオン性ポリマーおよび/またはカチオン性ペプチドにより、予め処理することを含む。本発明の方法は、特にペプチドおよび蛋白質の輸送に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、参照により本明細書に組み入れられる2004年10月18日出願の米国仮特許出願第60/619,729号に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は細胞内への化合物の輸送、特に真核細胞内へのペプチドおよびタンパク質などの異種化合物の輸送に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞の形質膜は、多くの有用な治療剤にとって、通過障壁となる。一般に、分子は、身体の水性コンパートメントにも、それが通過しなければならない脂質層にも、易溶でなければ、細胞に入ることができない。ペプチドおよびオリゴヌクレオチドなど、多くの治療用高分子も、膜貫通輸送がとりわけ困難である。現在のDNAトランスフェクション技法には、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム共沈、カチオン性リポソーム、ウイルスベクターおよびエレクトロポレーションなどがある。これらの方法により、DNAを細胞内に輸送することはできるが、これらの技法は面倒であり、細胞毒性である。さらにまた、トランスフェクションが完了しても、研究者は、対象遺伝子の発現を検出するために、トランスフェクション後、12〜80時間は待たなければならない。
【0004】
最近、HIV−1 Tat(48−60)などといったタンパク質導入ドメインの助けを借りて、外因性のペプチドおよびタンパク質を生細胞内に直接送達するための新規な方法が開発された(A. FrankelおよびC. Pabo「Cellular uptake of the Tat protein from human immunodeficiency virus(ヒト免疫不全ウイルス由来のTatタンパク質の細胞取り込み)」Cell 55 (1988), pp. 1189−1193;M. GreenおよびP. Loewenstein「Autonomous functional domains of chemically synthesized human immunodeficiency virus Tat trans−activator protein(化学合成されたヒト免疫不全ウイルスTatトランス活性化因子タンパク質の自律的機能ドメイン)」Cell 55 (1988), pp. 1179−1188)。しかしこの方法には短所がある。Tat融合タンパク質によるタンパク質導入は、カーゴタンパク質の失活および変性をもたらした。活性なタンパク質を送達するには、内部移行時に正しい再生が要求される。また、Tatは、送達されるべき化合物または高分子に、化学反応によって共有結合的に連結されなければならない。
【0005】
ショウジョウバエアンテナペディアホメオ転写因子(43−58)から、もう一つの導入ドメインタンパク質が報告されている(A. Joliot, A. Triller, M. Volovitch, C. PernelleおよびA. Prochiantz「Alpha−2,8−polysialic acid is the neuronal surface receptor of antennapedia homeobox peptide(アルファ−2,8−ポリシアル酸はアンテナペディアホメオボックスペプチドのニューロン表面受容体である)」New Biol 3 (1991), pp. 1121−1134;I. Le Roux, A.H. Joliot, E. Bloch−Gallego, A. ProchiantzおよびM. Volovitch「Neurotrophic activity of the antennapedia homeodomain depends on its specific DNA−binding properties(アンテナペディアホメオドメインの神経栄養活性はその特異的DNA結合特性に依存する)」Proc Natl Acad Sci USA 90 (1993), pp. 9120−9124)。このペプチドに基づく市販のタンパク質導入ドメインペプチドPENETRATIN(登録商標)(米国特許第5,888,762号)は、アンテナペディアタンパク質のホメオドメインの第3ヘリックスに相当する16アミノ酸からなる。活性化PENETRATIN(登録商標)は、カーゴペプチドと共有結合的にカップリングするN末端ピリジルジスルフィドを持つ。しかし化学カップリングは潜在的に面倒であり、この試薬との化学カップリングのためにカーゴペプチドは遊離のチオール基を持たなければならない。
【0006】
もう一つのタンパク質導入ドメインペプチドでは、38kDa単純ヘルペスウイルス1型DNA結合タンパク質VP22を利用する(G. ElliottおよびP. O’Hare「Intercellular trafficking and protein delivery by a herpes virus structural protein(ヘルペスウイルス構造タンパク質による細胞間輸送およびタンパク質送達)」Cell 88 (1997), pp. 223−233)。しかしVP22は、送達されるべきペプチド/タンパク質に融合しなければならず、その融合タンパク質を作製するために適切な発現ベクターの構築を必要とする。
【0007】
Rothbardら(米国特許第6,306,993号)は、輸送された化合物と輸送ポリマーとを共有結合でコンジュゲートすることによって、生体膜を横切る化合物の輸送を増進する方法を開示している。輸送ポリマーはサブユニットを含み、その少なくとも50%はグアニジノ側鎖部分またはアミジノ側鎖部分を含有する。米国特許第6,306,993号も、輸送体へのカーゴ分子の共有結合を必要とする。
【0008】
上述した担体ペプチドの場合、さまざまなカーゴペプチドおよびカーゴタンパク質を効率よく細胞間送達するには、担体ペプチドと輸送されるべき分子とのハイブリッドを、遺伝子的にまたは化学的に形成させる必要があった。
【0009】
WO02/10201(Dividaら)は、異種化合物と非共有結合的に会合し、細胞内への異種化合物の輸送をもたらす、疎水性および親水性ドメインを持つペプチド(15〜30残基)を含む、トランスフェクション剤を開示している。この薬剤はCHARIOT(商標)として市販されており、これは、生物学的に活性なタンパク質、ペプチドおよび抗体を60〜95%の効率で培養哺乳類細胞内に直接送達する。CHARIOT(商標)ペプチドはカーゴペプチドと非共有結合的な結合を形成する。これはタンパク質を安定化し、カーゴタンパク質を分解から保護し、トランスフェクション過程の間、カーゴタンパク質が本来持っている特徴を維持する。共有結合は必要でないものの、送達前にCHARIOT(商標)とカーゴペプチドとの混合物を調製する必要がある。
【0010】
一般に、タンパク質導入ドメインTat、VP22およびアンテナペディアタンパク質は、所望の細胞内へのペプチドの送達を成功させるために、組換え融合タンパク質の製造などといった、化学反応または生物学的過程によるカーゴ化合物またはカーゴ高分子への共有結合を必要とする。共有結合によって連結されたカーゴペプチドの製造は、潜在的に複雑であり、労働集約的であり、時間がかかる。カーゴタンパク質の輸送準備をそのような方法で行うと、カーゴペプチドの生物学的機能の失活も起こる。市販のタンパク質導入ドメインペプチドCHARIOT(商標)は共有結合を必要としないが、細胞に適用する前に、CHARIOT(商標)とカーゴペプチドとの混合物を作製する必要がある。この混合時間も潜在的に多くの時間を必要とする。
【発明の開示】
【0011】
本発明の一部の実施形態は、単離された細胞内に異種化合物を輸送する方法であって、ポリカチオン、カチオン性ポリマーまたはカチオン性ペプチドである少なくとも一つの化合物を含む組成物で、細胞を前処理するステップ、および前処理した細胞内に異種化合物を輸送するステップを含む方法に向けられる。
【0012】
一部の好ましい実施形態では、カチオン性ポリマーがポリエチレンイミン誘導体である。好ましくは、ポリエチレンイミン誘導体が生分解性である。より好ましくは、ポリエチレンイミン誘導体がpH感応分解性である。一部の好ましい実施形態では、ポリエチレンイミン誘導体が脂質とコンジュゲートされる。
【0013】
一部の好ましい実施形態では、細胞を前処理するための組成物がカチオン性ペプチドを含む。好ましい一実施形態では、カチオン性ペプチドがHIV−Tatである。これに代わる好ましい一実施形態では、カチオン性ペプチドがポリアルギニンである。
【0014】
好ましい実施形態では、異種化合物がペプチド誘導体である。一部の好ましい実施形態では、異種化合物がタンパク質である。一部の好ましい実施形態では、異種化合物が酵素である。一部の好ましい実施形態では、異種化合物が抗体である。
【0015】
好ましい実施形態では、異種化合物の輸送を受ける細胞が哺乳類細胞である。別の好ましい実施形態では、細胞が爬虫類細胞である。別の好ましい実施形態では、細胞が昆虫細胞である。好ましい実施形態では、細胞が卵母細胞である。
【0016】
本発明の一部の好ましい実施形態は、ポリカチオン、カチオン性ポリマーまたはカチオン性ペプチドである少なくとも一つの化合物を持つ組成物で処理された少なくとも一つの単離された細胞を含むキットに向けられる。一部の好ましい実施形態では、カチオン性ポリマーがポリエチレンイミン誘導体である。好ましくは、ポリエチレンイミン誘導体が生分解性である。より好ましくは、ポリエチレンイミン誘導体がpH感応分解性である。一部の好ましい実施形態では、ポリエチレンイミン誘導体が脂質とコンジュゲートされる。
【0017】
一部の好ましい実施形態では、細胞処理用の組成物がカチオン性ペプチドを含む。好ましい実施形態では、カチオン性ペプチドがHIV−Tatである。これに代わる好ましい実施形態では、カチオン性ペプチドがポリアルギニンである。
【0018】
好ましい実施形態では、異種化合物の輸送を受けるべき細胞が哺乳類細胞である。一部の好ましい実施形態では、細胞が爬虫類細胞である。一部の好ましい実施形態では、細胞が昆虫細胞である。一部の好ましい実施形態では、細胞が卵母細胞である。
【0019】
本発明のさらなる側面、特徴および利点は、以下に記載する好ましい実施形態の詳細な説明から明らかになるだろう。
【0020】
本発明のこれらの特徴および他の特徴を、以下に、本発明の限定ではなく例示を意図する好ましい実施形態の図面を参照しながら説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
ここに記述する実施形態は本発明の好ましい実施形態を表すが、当業者であれば本発明の要旨から逸脱することなく変更形態を考えつくであろうと理解すべきである。したがって本発明の範囲は本願請求項によってのみ決定されるべきである。
【0022】
本発明の好ましい実施形態は、生体膜を横切る細胞内への異種化合物の輸送に関する。本明細書で使用する「生体膜」という用語は、細胞または細胞群を細胞外空間から分離する脂質含有障壁を指す。生体膜には、形質膜、細胞壁、細胞内小器官膜、例えばミトコンドリア膜、核膜などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0023】
異種化合物には、輸送を受ける細胞にとってネイティブでない化合物、および異種化合物の輸送を受ける細胞タイプに通常見出しうる化合物が含まれうる。本発明の好ましい実施形態では、異種化合物が、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質、またはその類似体である。一部の実施形態では、タンパク質またはポリペプチドが抗原または抗体であってもよい。しかし、他のタイプの化合物も、本明細書に記載する方法によって細胞内に輸送することができる。例えば異種化合物には、金属イオン(これは典型的には金属キレートとして送達される)、小有機分子、および他の高分子、例えば核酸、ならびにその類似体が含まれうるが、これらに限定されるわけではない。一部の実施形態では、異種化合物がペプチド核酸(PNA)である。
【0024】
「カーゴ」という用語は、細胞内に輸送される異種分子を指すために用いられる。
【0025】
本明細書で使用する「高分子」という用語は、例えば生物学的起源または合成的起源を持つペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド(ただしこれらに限定されるわけではない)によって例示されるような、大きな分子(1000ダルトンを超える分子量)を指す。「小有機分子」とは、1000ダルトン以下の分子量(MW)を持つ炭素含有物を指す。
【0026】
本明細書で使用する「ペプチド」という用語は、ペプチド結合によって接合されたD−アミノ酸もしくはL−アミノ酸またはD−アミノ酸とL−アミノ酸との混合物の一本鎖で構成される化合物を指す。一般にペプチドは、少なくとも二つのアミノ酸残基を含有し、長さが約50アミノ酸未満である。
【0027】
本明細書で使用する「タンパク質」という用語は、ペプチド結合によって連結された、線状に配置されたアミノ酸から構成されるが、ペプチドとは対照的に、明確なコンフォメーションを持つ化合物を指す。タンパク質は、ペプチドとは異なり、一般に、50個以上のアミノ酸の鎖からなる。
【0028】
本明細書で使用する「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸残基の数が少なくとも2であって、一つ以上のペプチド結合を含有するポリマーを指す。「ポリペプチド」はペプチドおよびタンパク質を包含し、そのポリペプチドが明確なコンフォメーションを持つかどうかを問わない。
【0029】
「ポリカチオン」という用語は、生理的pHで正に帯電した基を数多く持つ高分子を指す。高分子はタンパク質、ペプチドまたはポリマーであることができる。
【0030】
「細胞」という用語は、インビトロ細胞とインビボ細胞の両方を指す。本明細書に記載する方法は、インビトロでも、インビボでも、細胞に化合物を輸送するために使用することができる。例えばカーゴ化合物は、より大きな生物内にある原位置の細胞に輸送することができる。一部の実施形態では、細胞にインビトロで輸送を行った後、その細胞をインビボの組織または生物に輸送することができる。
【0031】
本明細書で使用する「輸送剤」という用語は、細胞への高分子の送達を助長する薬剤を指す。好ましい実施形態では、高分子がペプチドまたはタンパク質であり、細胞が哺乳類細胞である。輸送試薬は一般に、ポリ(リジン)、ポリ(アルギニン)、ポリアセタール、およびポリエチレンイミン(PEI)などの、カチオンまたはポリカチオンである。輸送剤は、ポリ(リジン)のように非分解性であってもよいし、分解性であってもよい。生理的pHでより安定な、アセタール結合を含有する酸感受性ポリマー(ポリアセタール)も使用することができる。
【0032】
分解性ポリマーを合成する方法は、米国出願第10/692,573号(2003年10月24日出願)および第10/651,394号(2003年8月28日出願)に教示されている。どちらの出願も参照により本明細書に組み入れられる。簡単に述べると、分解可能な架橋を持つカチオン性ポリマーは、カチオン性繰り返し単位と架橋単位とを含む。「カチオン性繰り返し単位」という用語は、ここではその通常の意味で、例えば、合成ポリマーのポリマー主鎖または側鎖に組み込まれる、または合成ポリマーのポリマー主鎖または側鎖への組み込みに適した、正に帯電した種々の化学基を指すために用いられる。好ましいカチオン性繰り返し単位は、正に帯電したアミン基を含む。正に帯電したアミン基には、酸性条件下で正に帯電する1級、2級および3級アミン、ならびに幅広いpH範囲にわたって正に帯電する4級アミンが含まれる。最も好ましくは、カチオン性繰り返し単位が4級アミン基を含む。ポリ(アミドアミン)デンドリマー、ポリエチレンイミン、およびポリプロピレンイミンは、カチオン性繰り返し単位を含む好ましい合成ポリマーの限定でない例である。
【0033】
カチオン性繰り返し単位は、対応するカチオン性モノマーの重合によって、または後反応によって、ポリマーに組み込むことができる。重合は共重合であることができ、当業者に広く知られている技法を使って、逐次重合機序および連鎖重合機序を含むさまざまな重合機序で進行させることができる。G. Odian「Principles of Polymerization」第3版, John Wiley (1991)参照。重合に適した好ましいカチオン性モノマーの限定でない例には、スペルミン、スペルミジン、ペンタエチレンヘキサミン、N−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、N−(3−アミノプロピル)−1,3−プロパンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ビス(2−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(2−アミノプロピル)−1,3−プロパンジアミン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、およびポリ(アミドアミン)デンドリマーなどがある。カチオン性モノマーは市販されているか、当業者に知られている方法によって合成することができる。
【0034】
架橋ポリマーは、その末端以外の位置で互いに結合されたポリマー鎖を含有する。G. Odian「Principles of Polymerization」第3版, John Wiley (1991)参照。本明細書で使用する「架橋単位」という用語は、2本の鎖間の結合位置の一部または全部を形成する化学基を指す。したがって架橋単位は、2本以上のポリマー鎖に、その鎖の末端以外の位置で取り付けられる。架橋単位は、適切な架橋剤の存在下でポリマーを形成させることによって、またはポリマーを互いに反応させて結合点を形成させることによって、ポリマー鎖中に組み込むことができる。
【0035】
架橋単位は、好ましくは、アセタール、イミンおよびヒドラゾンからなる群より選択される少なくとも第1の分解可能な単位と、エステル、ホスホエステル、アミド、無水物およびウレタンからなる群より選択される少なくとも第2の分解可能な単位とを含む。第1の分解可能な単位は好ましくは酸不安定性であり、第2の分解可能な単位は好ましくは加水分解可能である。好ましい架橋剤は、典型的には、モノマーと反応させることで、結果として生じるポリマーと架橋単位とを相互に結合させるのに適した、重合可能な基を含む。好ましい架橋剤は、上述した第1および第2の分解可能な単位を含んでもよいし、ポリマーへの架橋剤の組み込みによって形成された架橋単位を後反応に付すことによって、分解可能な単位を形成させることもできる。好ましい架橋剤は式:R−(−X−R−Y−)−Rによって表される(式中、RおよびRは重合可能な基であり、Rは連結基であり、Xは、アセタール、イミンおよびヒドラゾンからなる群より選択される第1の分解可能な単位であり、Yは、エステル、ホスホエステル、アミド、無水物、およびウレタンからなる群より選択される第2の分解可能な単位であり、xおよびyは1〜3の範囲の整数であり、zは1〜5の範囲の整数である)。好ましくは、RおよびRは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、イソチオシアネート、イソシアネート、エポキシド、アルデヒド、塩化アシル、塩化スルホニル、無水物、マレイミド、カルボン酸、カルボン酸エステル、ヒドロキシル、アミン、およびアミドからなる群より、それぞれ独立して選択される。好ましくは、Rは、炭素数6〜10のアリール、炭素数4〜10のシクロアルキル、−(CH−、−(CHO)−、および−(CHCH−O)−からなる群より選択される(式中、nは1〜約100の範囲にあり、より好ましくは1〜約5の範囲にある)。架橋剤は、含まれるべき基(例えば重合可能な基、第1の分解可能な基および第2の分解可能な基)の性質に応じて、商業的供給源から入手するか、当業者に知られている方法で合成することができる。
【0036】
カチオン性繰り返し単位と架橋単位とを含む合成ポリマーは、好ましくは、架橋剤の存在下でカチオン性モノマーを重合することによって製造される。モノマー中および架橋剤中の重合可能な基の性質に応じて、さまざまな重合方法を使用することができる。好ましい一実施形態では、カチオン性モノマーは、当該モノマーが適切な架橋剤と反応できるように2個以上の活性水素を持つ、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素または芳香族炭化水素である。
【0037】
架橋剤の存在下でのカチオン性モノマーの重合は、好ましくは、適切な溶媒または懸濁媒体中で行われる。カチオン性モノマーと架橋剤との割合は重大な問題ではなく、日常的な実験で決定することができる。ポリアミンモノマーの場合、反応物比(架橋剤中のアミン反応性官能基当量数−対−ポリアミンモノマー中のアミン水素当量数として表したもの)は、好ましくは、約1:10〜約1:1の範囲にある。より好ましくは、約1:5〜約4:5の範囲の反応物質比を使用する。式:R−(−X−R−Y−)−Rで表される架橋剤の場合、アミン反応性官能基当量数はx+yに等しい。ポリアミンに関して、アミン水素当量数は、窒素原子に結合している反応性水素原子の数である。
【0038】
好ましい実施形態では、ポリマーがポリアセタールである。ポリアセタールは、アセタール(−O−CHR−O−)繰り返し単位を含有するポリマーである。好ましくは、Rはメチルである。好ましいポリアセタールは、式(I)および式(II):
【化1】

からなる群より選択される式によって表される繰り返し単位を含む。
【0039】
式(I)および式(II)において、Aは、少なくとも一つのアセタール基を含むリンカー基を表し、Bは、−CH−、−CH(CH)−、CHCH−、−CHC(CH)−、−CH(CH)CH−、および−CHCH(CH)CH(CH)−からなる群より選択され、Zは、C(O)OR、C(O)SR、C(O)NR、およびVUからなる群より選択され、Vはリンカー基であり、Uは、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(プロピレンイミン)(PPI)、ポリ(リジン)、PAMAMデンドリマー、オクタアミンデンドリマー、ヘキサデカアミンデンドリマー、エンハンサー、およびターゲティングレセプター(targeting receptor)からなる群より選択され、R、RおよびRは、水素、C〜C10アルキル、およびC〜C10アリールからなる群より、それぞれ独立して選択され、Dは、カルボン酸アミド、カルボン酸エステル、尿素、およびウレタンからなる群より選択される結合であり、そしてGは、C〜C20アルキル、C〜C10アリール、および−(OCHCH−からなる群より選択される(式中、nは1〜約250の範囲にある)。この文脈において、「リンカー基」とは、ある化学基を別の化学基に接合する二官能性化学基である。リンカー基は単一の二官能性化学基、例えばアミドなどを含有することができ、あるいは二つの化学基、例えばアミド−アミド、アミド−アルキル、アルキル−アミド、アミン−アミド、またはチオエーテル−アミドなどを含有してもよい。好ましいリンカー基の例には、−C(O)NH−、−C(O)NH−R−C(O)NH−、−C(O)NH−R−、−R−C(O)NH−、−NH−R−C(O)NH−、−S−R−C(O)NHなどがある(式中、Rは、水素、C〜C10アルキル、およびC〜C10アリールからなる群より選択される)。少なくとも一つのアセタール基を含むリンカー基の例には、−OCH(CH)O−、−OCH(CH)OCH(CH)O−、−OCH(CH)O−CHCH−OCH(CH)O−、−OCH(CH)O−CHCHCHCH−OCH(CH)O−、−OCH(CH)O−CHCHOCHCH−OCH(CH)O−、および−OCH(CH)O−CHCHOCHCHOCHCH−OCH(CH)O−などがある。
【0040】
式(I)および式(II)内のUに関して、PEIおよびPPIを使用する場合、それらは、好ましくは約200〜約100,000ダルトンの範囲にある分子量を持つ。ポリ(リジン)を使用する場合、それは約200〜約50,000ダルトンの範囲にある分子量を持つ。ここで言及するポリマーの分子量は、高速サイズ排除クロマトグラフィー(光散乱検出器)によって測定される重量平均分子量である。
【0041】
この文脈において、「エンハンサー」とは、真核細胞へのペプチド送達またはタンパク質送達の効率を増進することができる官能基であり、「ターゲティングレセプター」とは、細胞表面上の特異的レセプターを認識することができる官能基である。上述の定義は相互排他的ではないので、Uは、エンハンサーであり、かつターゲティングレセプターであることもできる。好ましくは、Uは、脂質、コレステロール、トランスフェリン、抗体、抗体断片、ガラクトース、マンノース、リポタンパク質、リソソーム作用剤、および融合誘導剤からなる群より選択される。エンハンサーおよびターゲティングレセプターは、さまざまな方法で(例えばリンカー基Vを介したポリアセタールへの共有結合によって、またはエンハンサーおよび/もしくはターゲティングレセプターをZにコンジュゲートすることによって、またはその両方によって)、ポリアセタールに取り付けることができる。したがって、二つ以上のエンハンサーおよび/またはターゲティングレセプターを、ポリアセタールに取り付けることができる。
【0042】
ポリアセタールはコポリマーであってもよく、したがって、二つ以上の異なる式(I)および/または式(II)で表される繰り返し単位および/または他の繰り返し単位を含有しうる。したがって、「式(I)のポリアセタール」「式(II)のポリアセタール」「式(I)のポリマー」および「式(II)のポリマー」などの用語は、本質的に式(I)または式(II)の繰り返し単位からなるホモポリマーだけでなく、コポリマーも包含する。
【0043】
ポリアセタールの製造にはさまざまな方法を使用することができる。好ましい方法は、式(III)および式(IV)からなる群より選択される式で表されるモノマーを、式(V)で表される式を持つコモノマーと反応させることを含む。
【化2】

式(III)、式(IV)および式(V)において、A、B、ZおよびGは上記と同じ意味を持ち、Eは、好ましくは−OH、−NH、および−NH(CH)からなる群より選択される反応性末端基であり、そしてCは、好ましくはイソシアネート、NHS−エステル、カルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸塩化物および無水物からなる群より選択される反応性末端基である。重合反応条件は、反応性末端基EおよびCの性質に応じて、当業者に広く知られている方法で調節される。G. Odian「Principles of Polymerization」第3版(1991)参照。任意に、適合する反応性末端基を持つ一つ以上の追加コモノマーの存在下で、重合を行ってもよい。好ましくは、混合物中のモノマー(III)および/または(IV)対コモノマー(V)のモル比は約1:1であるが、正確な比率は、結果として生じるポリマーの分子量を調節するために、かつ/または追加コモノマーの存在について補償するために、変化させることができる。比率が1:1に近いほど、一般に高い分子量が達成される。モノマー(III)/(IV)またはコモノマー(V)のどちらか一方をわずかに過剰に使用することにより、かつ/または少量の単官能性反応物を含めることにより、低い分子量を達成することができる。好ましくは、結果として生じるポリアセタール(例えば式(I)および/または式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマーまたはコポリマー)の分子量は、約1,000ダルトン以上であり、より好ましくは約1,000〜約250,000ダルトンの範囲にある。
【0044】
式(I)および式(II)で表される繰り返し単位には二つの種類が包含される。すなわち、一つは、ZがC(O)OR、C(O)SR、およびC(O)NRからなる群より選択されるものであり、もう一つは、ZがVUであるものである。ZがC(O)OR、C(O)SR、およびC(O)NRからなる群より選択されるポリアセタールは、ZがVUであるポリアセタールを製造するのに役立つ。例えば、ZがVUであり、Vが−C(O)NH−である式(I)の繰り返し単位を含むポリアセタールは、好ましくは、式:HNUで表される化合物を、式(VII)および式(VIII):
【化3】

に示すような、ZがC(O)ORである式(I)の繰り返し単位を含むポリアセタールと反応させることによって製造される。
【0045】
式(VII)および式(VIII)において、U、A、B、DおよびGは上記と同じ意味を持ち、R、RおよびRは、水素、C〜C10アルキル、およびC〜C10アリールからなる群より、それぞれ独立して選択される。式:HNUで表される化合物に関して、Uは上記と同じ意味を持つ。式:HNUで表される化合物と式(VII)または式(VIII)のポリアセタールとの反応は、好ましくは、ジメチルホルムアミドなどの極性溶媒中で行われる。式(VII)および式(VIII)のポリアセタールは、上述のように式(III)、式(IV)および式(V)の対応するモノマーを反応させることによって製造することができる。「式(VII)のポリアセタール」「式(VIII)のポリアセタール」「式(VII)のポリマー」または「式(VIII)のポリマー」という用語を本明細書で使用する場合、これらの用語は、本質的に式(VII)または式(VIII)の繰り返し単位からなるホモポリマーだけでなく、式(VII)および/または式(VIII)の繰り返し単位を含むコポリマーも包含する。
【0046】
好ましいポリアセタールの例には、式(IX)および式(X):
【化4】

からなる群より選択される式で表される繰り返し単位を含むものがある。
【0047】
式(IX)および式(X)において、Zは上記と同じ意味を持ち、R、RおよびRは、Hおよび−CHからなる群より、それぞれ独立して選択され、Xは、−CHCH−、−CHCHCHCH−、−CHCHOCHCH−、および−CHCHOCHCHOCHCH−からなる群より選択され、そしてYは、直鎖状または分枝状のC、C10、C12、C14、C16、C1020、およびC1224からなる群より選択される。Zは好ましくはVUであり、Vは好ましくはC(O)NH−であり、Uは好ましくはポリ(エチレンイミン)、ポリ(リジン)、エンハンサー、またはターゲティングレセプターである。ポリ(エチレンイミン)は、好ましくは、約200〜約100,000ダルトンの範囲にある分子量を持ち、ポリ(リジン)は、好ましくは、約200〜約50,000ダルトンの範囲にある分子量を持つ。好ましいエンハンサーの限定でない例には、脂質、コレステロール、リポタンパク質、脂肪酸、リソソーム作用剤、および融合誘導剤からなる群より選択されるものがある。好ましいターゲティングレセプターの限定でない例には、トランスフェリン、抗体、抗体断片、ガラクトース、およびマンノースからなる群より選択されるものがある。
【0048】
式(IX)および式(X)の繰り返し単位を含むポリアセタールは、上記式(I)および式(II)の繰り返し単位を含むポリアセタールの製造について上述したものと同じ一般的方法で製造することができる。例えば、好ましい一実施形態は、式(XI)および式(XII)からなる群より選択される式で表されるモノマーを、式(XIII)で表されるコモノマーと反応させることを含む方法を提供する(式中、X、YおよびZは、上記式(IX)および式(X)の繰り返し単位の場合と同じ意味を持つ)。
【化5】

式(IX)および式(X)の繰り返し単位を含むポリアセタールは、式:HNUの化合物を、式(XIV)および式(XV)からなる群より選択される式で表される繰り返し単位を含むポリマーと反応させることによって製造することもできる(式中、XおよびYは、上記式(IX)および式(X)の繰り返し単位の場合と同じ意味を持つ)。
【化6】

もう一つの好ましい実施形態は、式(XI)で表されるモノマーを提供する。そのようなモノマーを製造するための好ましい方法は、式(XVI)で表されるジビニルエーテルを、非アルコール性有機溶媒中の酸の存在下に、約2当量の式(XVII)で表される化合物と反応させることを含む。
【化7】

式(XVI)および(XVII)において、Xは、−CHCH−、−CHCHCHCH−、−CHCHOCHCH−、および−CHCHOCHCHOCHCH−からなる群より選択され、Zは、C(O)OR、C(O)SR、およびC(O)NRからなる群より選択され、RおよびRは、水素、C〜C20アルキル、およびC〜C10アリールからなる群より、それぞれ独立して選択され、Mは、9−フルオレニルメチルカルバメート、活性アミド、および環状イミドからなる群より選択される保護基であり、Rはメチルまたは水素であり、そしてnは1または2である。
【0049】
輸送試薬には、ポリカチオン性またはカチオン性脂質に基づく担体、ポリカチオン性またはカチオン性ポリマーに基づく担体、ポリカチオン性またはカチオン性脂質−ポリマーに基づく担体、ポリカチオン性またはカチオン性多糖に基づく担体、およびポリカチオン性またはカチオン性タンパク質またはペプチドに基づく担体も含まれる。輸送試薬はデンドリマーであることができる。輸送試薬は、上に列挙した化合物の二つ以上の組み合わせであることができる。それら二つ以上の化合物は共有結合によって連結されていてもよいし(例えば図8のPA−PEIを参照されたい)、二つ以上の化合物の混合物として使用してもよい(例えば図8のD22およびD23を参照されたい)。さらなる具体例として、市販の活性化デンドリマー系トランスフェクション剤であるSuperFect(登録商標)(QIAGEN(登録商標))、ならびに線状ポリエチレンイミン誘導体であるjetPET(商標)(Qbiogene)が挙げられる。さらなる具体例を図8に示す。これらの例は単なる例示であって、決して、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0050】
一部の実施形態では、細胞内への異種化合物の輸送に先だって、受容細胞を処理するために輸送試薬を使用する。しかし、本発明の新規な特徴の一つは、輸送剤による細胞の処理が、受容細胞内へのポリペプチドおよび他の異種化合物の細胞内輸送を可能とするのに十分だということである。
【0051】
本発明の実施形態は全ての細胞タイプに適用することができるが、特に真核細胞、より具体的には哺乳類細胞に適用することができる。
【0052】
本発明者らは、カチオン性ポリマーによるペプチド細胞送達阻害の程度を実証するために、一連の実験を行った。意外なことに、本発明者らは、カチオン性ポリマーの存在下では、ペプチド送達が阻害されるのではなく、むしろ増進されることを見出した。具体的に述べると、以下の実施例で例示するように、jet−PEI(Qbiogene)およびSuperFect(QIAGEN)は、ビオチン標識Tatペプチドによって媒介されるペプチド送達を増進した。さらなる実験で、本発明者らは、意外にも、ポリカチオン性ポリマーによる細胞の処理が細胞内へのペプチド送達を可能とするのに十分であることを見出した。輸送体でないペプチド、ビオチン−RWPSCQKKFが、jet−PEIまたはSuperFectで処理しておいたHeLa細胞内に、うまく輸送された。ビオチン−RWPSCQKKF単独では全く導入を示さなかったことから、ポリカチオン性ポリマーが細胞内へのペプチドの輸送を担っていることが確認された。ヒト線維芽細胞についてもペプチド輸送が示された。本発明者らは、カチオン性ペプチドまたはカチオン性ポリマーによる受容細胞の前処理が、細胞内へのペプチドおよび/またはタンパク質の効率のよい送達をもたらしうることを発見した。
【0053】
本発明の好ましい実施形態は、関心対象の細胞をカチオン性ポリマーまたはカチオン性ペプチドで前処理するステップを含む、改良された、細胞内へのペプチド送達方法に向けられる。本発明の好ましい実施形態を実施することにより、輸送剤と輸送されるべき異種化合物との間で、何らかの共有結合反応を行うことは不必要になる。また、哺乳類細胞内へのペプチド送達に先だって混合物を調製する必要もない。インビトロおよびインビボの細胞に関して、ペプチド送達が劇的に簡略化される。
【実施例】
【0054】
実施例1
ペプチド送達の24時間前に、96ウェルプレートに、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌細胞)を接種した。送達前に培地を捨て、細胞をPBSで2回洗浄した。PBS中の輸送剤(jetPEIまたはSuperFect)をHeLa細胞に加え、37℃で60分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、前処理した細胞を、カーゴであるビオチン−Tat(ビオチン−GRKKRRQRRRPPQC,10μM)と共に、PBS中、37℃で90分間インキュベートした。次に細胞をPBSで洗浄し、0.2%グルタルアルデヒド/PBSで、室温にて5分間固定した。PBSで洗浄した後、細胞を10%メタノールで、室温にて10分間処理した。細胞を再びPBSで洗浄し、DMEM培地中、37℃で30分間インキュベートした。細胞を再びPBSで洗浄し、ストレプトアビジン−FITCと共に37℃で30分間インキュベートした。細胞を再び洗浄し、シグナルを蛍光顕微鏡で観察した。結果を図1A〜Dに示す。ビオチンをストレプトアビジン−FITCと併用することにより、HeLa細胞中の輸送されたペプチドを、顕微鏡で可視化することができた。図1Cおよび図1Dは、細胞をjet−PEIまたはSuperFectのどちらか一方で前処理しておいた場合に起こる輸送の増進を示す。
【0055】
実施例2
輸送剤(Tat(GRKKRRQRRRPPQC(配列番号2),1mMまたは10mM)、jetPEIまたはSuperFect)をHeLa細胞に加え、37℃で30分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、前処理した細胞をカーゴであるビオチン−Tat(ビオチン−GRKKRRQRRRPPQC,30μM)と共に37℃で10分間インキュベートした。結果を図2A〜Eに示す。この実施例では、ビオチン−Tatをカーゴとして使用し、図2Bおよび図2CではTatを輸送剤として使用した。
【0056】
実施例3
前処理のために、輸送剤(jetPEIまたはSuperFect)をHeLa細胞に加え、37℃で30分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、前処理した細胞をカーゴであるビオチン−RWPSCQKKF(1mM)と共に37℃で10分間インキュベートした。結果を図3Bおよび図3Eに示す。
【0057】
同時処理のために、試験管で、輸送剤(jetPEIまたはSuperFect)とカーゴであるビオチン−RWPSCQKKFとの両方を、37℃で30分間混合した。その後、その混合物をHeLa細胞に加え、37℃で10分間インキュベートした。結果を図3Cおよび図3Fに示す。
【0058】
ペプチドの送達は、細胞前処理剤として使用した輸送剤(図3Bおよび図3E)または同時に使用した輸送剤(図3Cおよび図3F)によって助長された。図3Aは、ペプチドおよびポリカチオンなしの無処理対照細胞を示す。図3Dは、細胞処理なしの対照処理を示す。
【0059】
実施例4
この実施例では、さまざまな分子量を持つPEI化合物(PEI(分子量25,000)、PEI(分子量10,000)、PEI(分子量1,800)、PEI(分子量1,200)、PEI(分子量600))を、輸送剤として、HeLa細胞内への輸送に使用した。細胞を37℃で30分間前処理した。カーゴはビオチン−RWPSCQKKF(1mM)とした。PBSで洗浄した後、処理された細胞をカーゴと共に37℃で10分間インキュベートした。実施例3の場合と同様に、TATなどの担体は、効率のよいペプチド送達には必要でなかった。
【0060】
実施例5
独自のカチオンポリマーを、それらがHeLa細胞内へのビオチン−RWPSCQKKF(1mM)の輸送に及ぼす効果について試験した。カチオン性ポリマー(PEI600+GDE、PEI600+GDE、BAPEDA+DTMOPTA、PA−PEI−1,200、およびPA−PEI−1,800;構造については図8参照)をHeLa細胞と共に37℃で30分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、細胞をビオチン−ペプチドと共に37℃で10分間インキュベートした。結果を図5A〜Gに示す。この実施例で使用したカチオン性ポリマーの構造を図8に示す。
【0061】
実施例3〜4の場合と同様に、TATなどの担体は、効率のよいペプチド送達には必要でなかった。
【0062】
実施例6
実施例6は、ポリアルギニン(R7C,RRRRRRRC(配列番号1))、jetPEI(登録商標)(Qbiogene)およびSuperFect(登録商標)(Qiagen)を含むさまざまな輸送剤によるHT1080細胞(ヒト線維芽細胞)の前処理の効果を示す。細胞の前処理は37℃で30分間行った。PBSで洗浄した後、処理した細胞をカーゴ(ビオチン−RWPSCQKKF(1mM))と共に37℃で10分間インキュベートした。結果を図6A〜Dに示す。
【0063】
実施例6は、ここに記載する方法を、他の細胞タイプに広く応用できることを示している。実施例3〜5の場合と同様に、TATなどの担体は、効率のよいペプチド送達には必要でなかった。
【0064】
実施例7
実施例7は、輸送剤としてポリアルギニンR7C(RRRRRRRC(配列番号1))、jet−PEI(登録商標)(Qbiogene)およびSuperFect(登録商標)(Qiagen)を使った、HeLa細胞内へのβ−ガラクトシダーゼタンパク質の輸送を示す。簡単に述べると、β−ガラクトシダーゼを500nMの濃度でPBSに溶解した。ペプチド送達の24時間前に、96ウェルプレートに、HeLa細胞を接種した。送達前に、培地を捨て、細胞をPBSで2回洗浄した。輸送剤を各ウェルに加え、37℃で30分インキュベートした。PBSで2回洗浄した後、PBS中のβ−ガラクトシダーゼ(500nM)を各ウェルに加え、37℃で30分間インキュベートした。次に細胞をPBSで2回洗浄し、PBS中の2%ホルムアルデヒド、0.2%グルタルアルデヒドで、室温にて5分間固定した。PBSで2回洗浄した後、細胞をX−gal染色溶液(PBS中の1mg/mL X−gal、5mMフェリシアン化カリウム、5mMフェロシアン化カリウム、2mM MgCl)と共に37℃で3時間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、シグナルを顕微鏡で観察した。結果を図7A〜Eに示す。
【0065】
この実施例は、ここに記載する方法を、ペプチドだけでなくタンパク質にも使用しうることを示している。実施例3〜6の場合と同様に、TATなどの担体は、効率のよいペプチド送達には必要でなかった。
【0066】
本発明の要旨から逸脱せずに数多くのさまざまな変更を加えうることは、当業者には理解されるだろう。したがって、本発明の形態は単なる例示であって、本発明の範囲を限定しようとするものでないことは、明確に理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1Aは、無処理のHeLa細胞を示す。図1Bは、ビオチン−Tatと共にインキュベートした後のHeLa細胞を示す。図1Cは、HeLa細胞内へのビオチン−Tatの輸送にjet−PEIが及ぼす効果を示す。図1Dは、HeLa細胞内へのビオチン−Tatの輸送にSuperFectが及ぼす効果を示す。
【図2】図2Aは、無処理のHeLa細胞である対照を示す。図2Bおよび図2Cは、ペプチド輸送に1mMおよび10mMのTatが及ぼす効果を示す。図2Dおよび図2Eは、HeLa細胞内へのビオチン−Tatの輸送にjet−PEIおよびSuperFectが及ぼす効果を示す。
【図3】jet−PEI(図3Bおよび図3C)またはSuperFect(図3Eおよび図3F)で前処理(図3Bおよび図3E)または同時処理(図3Cおよび図3F)したHeLa細胞内へのペプチド輸送を示す。図3Aは、ペプチドおよびポリカチオンなしの無処理対照細胞を示す。図3Dは、細胞処理なしの対照処理を示す。
【図4】さまざまな分子量のPEI化合物を輸送剤として用いたHeLa細胞内へのペプチド輸送を示す。分子量25,000(図4A)、10,000(図4B)、1,800(図4C)、1,200(図4D)および600(図4E)のPEIを試験した。図4Fは対照(細胞の前処理なし)を示す。
【図5】HeLa細胞へのペプチド送達に種々のカチオン性ポリマーが及ぼす効果を示す。図5Aは、細胞前処理なしの対照処理を示す。図5Bは、PEI600+GDE(構造については図8参照)を示す。図5Cは、PEI600+GDEを示す。図5Dおよび図5Eは、二つの異なる比率で使用したBAPEDA+DTMOPTA(構造については図8参照)を示す。図5Fは、ポリアセタール−PEI1200を示す。図5Gは、ポリアセタール−PEI1800を示す。ポリカチオンの構造については図8を参照されたい。
【図6】HT1080細胞(ヒト線維芽細胞)内へのペプチド(ビオチン−RWPSCQKKF)の輸送に輸送剤R7C(RRRRRRRC)(配列番号1)(図6B)、jet−PEI(図6C)、およびSuperFect(図6D)が及ぼす効果を示す。図6Aは、輸送剤の不在下でのペプチド輸送を示す。
【図7】ポリアルギニンR7C(RRRRRRRC)(配列番号1;図7C)、jet−PEI(登録商標)(Qbiogene)(図7D)およびSuperFect(登録商標)(Qiagen)(図7E)を使ったHeLa細胞内へのβ−ガラクトシダーゼの輸送を示す。図7Aは、輸送剤なしでのβ−ガラクトシダーゼの輸送を示す。図7Bは、カーゴを加えなかった陰性対照である。
【図8A】図8Aは、実施例5および図5A〜Gで使用したポリカチオン化合物の構造を示す。
【図8B】図8Bは、実施例5および図5A〜Gで使用したポリカチオン化合物の構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された細胞内に異種化合物を輸送する方法であって、
ポリカチオン、カチオン性ポリマーおよびカチオン性ペプチドからなる群より選択される少なくとも一つの化合物を含む組成物で、単離された細胞を前処理すること、および
前処理した細胞内に異種化合物を輸送すること
を含む方法。
【請求項2】
カチオン性ポリマーがポリエチレンイミン誘導体である、請求項1の方法。
【請求項3】
ポリエチレンイミン誘導体が生分解性である、請求項2の方法。
【請求項4】
ポリエチレンイミン誘導体がpH感応分解性である、請求項2の方法。
【請求項5】
ポリエチレンイミン誘導体が脂質とコンジュゲートされる、請求項2の方法。
【請求項6】
組成物がカチオン性ペプチドを含む、請求項1の方法。
【請求項7】
カチオン性ペプチドがHIV−Tatである、請求項6の方法。
【請求項8】
カチオン性ペプチドがポリアルギニンである、請求項6の方法。
【請求項9】
異種化合物がペプチド誘導体である、請求項1の方法。
【請求項10】
異種化合物がタンパク質である、請求項1の方法。
【請求項11】
異種化合物が酵素である、請求項1の方法。
【請求項12】
異種化合物が抗体である、請求項1の方法。
【請求項13】
単離された細胞が哺乳類細胞、爬虫類細胞または昆虫細胞である、請求項1の方法。
【請求項14】
細胞が卵母細胞である、請求項1の方法。
【請求項15】
ポリカチオン、カチオン性ポリマーおよびカチオン性ペプチドからなる群より選択される少なくとも一つの化合物を含む組成物で処理された少なくとも一つの単離された細胞を含むキット。
【請求項16】
カチオン性ポリマーがポリエチレンイミン誘導体である、請求項15のキット。
【請求項17】
ポリエチレンイミン誘導体が生分解性である、請求項16のキット。
【請求項18】
ポリエチレンイミン誘導体がpH感応分解性である、請求項16のキット。
【請求項19】
ポリエチレンイミン誘導体が脂質とコンジュゲートされる、請求項16のキット。
【請求項20】
組成物がカチオン性ペプチドを含む、請求項15のキット。
【請求項21】
カチオン性ペプチドがHIV−Tatである、請求項20のキット。
【請求項22】
カチオン性ペプチドがポリアルギニンである、請求項20のキット。
【請求項23】
単離された細胞が哺乳類細胞、爬虫類細胞または昆虫細胞である、請求項15のキット。
【請求項24】
細胞が卵母細胞である、請求項15のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公表番号】特表2008−516611(P2008−516611A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537032(P2007−537032)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/037638
【国際公開番号】WO2006/044986
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】