細胞培養チャンバー
【課題】 生体内に近い環境での細胞培養が可能であり、かつ細胞の導入や回収等の操作を容易に行うことができる細胞培養チャンバーを提供する。
【解決手段】 細胞培養チャンバー1は、支持体2の内部に、半透膜3によって区画される上部コンパートメント4および下部コンパートメント5と、下部コンパートメント5内に培養液を供給する培養液供給用流路と、下部コンパートメント5内の培養液を排出する培養液排出用流路と、上部コンパートメント4内に流体を灌流させるための灌流用流路8とを有し、上部コンパートメント4内には、流体は通過するが培養細胞は通過しない間隙部9aと壁部9bとから構成されるふるい構造9によって、細胞培養部が形成されている。細胞培養部には、培養細胞の導入・回収用のガイド11が接続されている。
【解決手段】 細胞培養チャンバー1は、支持体2の内部に、半透膜3によって区画される上部コンパートメント4および下部コンパートメント5と、下部コンパートメント5内に培養液を供給する培養液供給用流路と、下部コンパートメント5内の培養液を排出する培養液排出用流路と、上部コンパートメント4内に流体を灌流させるための灌流用流路8とを有し、上部コンパートメント4内には、流体は通過するが培養細胞は通過しない間隙部9aと壁部9bとから構成されるふるい構造9によって、細胞培養部が形成されている。細胞培養部には、培養細胞の導入・回収用のガイド11が接続されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養チャンバーに関する。
【背景技術】
【0002】
畜産分野や生殖医療分野(とりわけ不妊治療)において用いられる技術の一つとして体外受精がある。体外受精は、一般的に、卵子を採取し、該卵子が未成熟の場合には体外成熟を行い、体外受精を行った後、得られた受精卵を培養し、移植に適した発育段階まで発生させて子宮内に移植することにより行われる。
しかし、体外受精による妊娠成功率は必ずしも高くはなく、たとえばヒトにおいては、その妊娠成功率は、英国における27年前の世界初の挙児以来、依然として25〜35%程度に留まっている。そのため、日本国内においては保険適用外であることなども含めて、体外受精による妊娠成功率の向上が望まれている。
妊娠成功率の向上のためには、上述した受精卵の培養過程が最も重要である。従来、受精卵の培養は、培養プレート上のウェル内に500μL程度の培養液を入れ、該培養液中で受精卵を培養する方法、培養プレート上のウェル内に20μL程度の微小滴を載せ、該微小滴の表面をミネラルオイルで被覆し、その中に受精卵を入れる方法等の、静置・閉鎖環境でのin vitro培養により行われている(非特許文献1)。
【非特許文献1】菅原,尾川(編)、「生殖機能細胞の培養法」、日本、学会出版センター、1993年6月出版、第25〜153頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、静置・閉鎖環境培養を行った場合、細胞が断片化するなど発生効率が悪く、品質の良い受精卵を高い頻度で得ることは容易ではない。
品質の良い受精卵が得られない原因の1つとして、培養環境が、生体内での発生環境と大きく異なることが考えられる。すなわち、一般に、卵子は、卵巣から放出された後、成熟しながら卵管内を移動し、受精後すぐに初期発生が始まり、受精卵は、2〜8細胞期、桑実胚を経て胚盤胞を形成して子宮内膜に着床することが知られているが、子宮内膜は、組織が子宮内膜細胞の層、間質細胞の層等から構成される層構造を有するなど極性を有しており、また、子宮や卵管内腔には内液の流れがあるなど、その物理化学的環境や生物学的環境が、上述したような従来の培養方法とは大きく異なっている。
また、品質の良い受精卵を得るためには、栄養成分や酸素の供給、老廃物の除去等の培養環境の管理を行うことも重要であると考えられる。しかし、静置・閉鎖環境培養では、このような管理を行うことは困難である。
【0004】
一方、従来より用いられている細胞培養方法の1つとして、ペトリ皿のような培養容器の平坦な表面に細胞を付着させ、そこに栄養成分や酸素を含んだ培養液を灌流させることにより、栄養成分や酸素の供給と老廃物の除去を同時に行う方法がある。この方法では、培養液中の栄養成分や酸素は、細胞層を通って拡散して個々の細胞に供給され、一方、老廃物は逆に、培養液中に移行して除去されるため、細胞を、長時間活性を保ちながら連続的に培養できるとされている。
しかし、このような方法においても、生体内の環境を充分に再現することは困難であり、品質の良い受精卵を高い頻度で得ることは容易ではない。また、培養液を灌流させるため、培養する細胞を容器内に導入する際や、培養時、培養した細胞を回収する際等において培養細胞が失われることがあり、貴重なものである受精卵の培養を行うには注意を必要とする。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、生体内に近い環境での細胞培養が可能であり、かつ細胞の導入や回収等の操作を容易に行うことができる細胞培養チャンバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の細胞培養チャンバーは、支持体の内部に、半透膜によって区画される上部コンパートメントおよび下部コンパートメントと、前記下部コンパートメント内に培養液を供給する培養液供給用流路と、前記下部コンパートメント内の培養液を排出する培養液排出用流路と、前記上部コンパートメント内に流体を灌流させるための灌流用流路とを有し、前記上部コンパートメント内に、前記流体は通過するが培養細胞は通過しない間隙部を有するふるい構造によって周囲を囲まれる細胞培養部が設けられており、前記細胞培養部に、培養細胞の導入・回収用のガイドが接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の細胞培養チャンバーによれば、生体内に近い環境での細胞培養が可能であり、かつ細胞の導入や回収等の操作を容易に行うことができる。
生体内に近い環境での細胞培養が可能であるため、得られる細胞の品質が高く、たとえば受精卵の発生を良好に行うことができ、結果、体外受精による妊娠成功率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて本発明の細胞培養チャンバーの実施形態を説明する。
図1〜3に、本発明の細胞培養チャンバーの第一実施形態を示す。図1は本実施形態の細胞培養チャンバー1の上面図、図2は図1中の位置A−A’における縦断面図、図3は図1中の位置B−B’における縦断面図である。
本実施態様の細胞培養チャンバー1は、支持体2の内部に、半透膜3によって区画される上部コンパートメント4および下部コンパートメント5と、下部コンパートメント5内に培養液を供給する培養液供給用流路6と、下部コンパートメント5内の培養液を排出する培養液排出用流路7と、上部コンパートメント4内に流体を灌流させるための灌流用流路8とを有している。
上部コンパートメント4内には、流体は通過するが、培養細胞、すなわち当該細胞培養チャンバーでの培養を目的とする細胞は通過しない間隙部9aと壁部9bとから構成されるコの字形のふるい構造9によって、細胞培養部10が形成されている。
細胞培養部10には、培養細胞の導入・回収用のガイド11が接続されている。
また、細胞培養チャンバー1において、培養液供給用流路6、培養液排出用流路7および灌流用流路8には、それぞれ、チューブ12,13,14が接続されている。
【0009】
支持体2を構成する材料としては、培養細胞に対して適合性を有するものであれば特に限定されない。
好ましい材料としては、外気中の酸素が支持体を透過して細胞培養チャンバー1内の培養液や細胞培養部10に供給されることから、酸素を透過する酸素透過性材料が挙げられる。酸素透過性材料としては、培養細胞に対して適合性を有するものであれば既知の任意の酸素透過性材料が使用可能であり、たとえば、酸素透過性コンタクトレンズなどに用いられている生体適合性の酸素透過性材料などを挙げることができる。特に、透明性を有するものであれば、外側から細胞培養部10内の培養細胞を観察できることから好適である。
酸素透過性材料として、具体的には、生体適合性のシリコーンゴムが挙げられる。特に、ポリジメチルシロキサン(以下、PDMSという)は、生体適合性を有するとともに、透明性および酸素透過性を有し、さらに安価な材料であることから好ましい。
【0010】
半透膜3としては、細胞が浸潤せず、その他の物質(たとえば下部コンパートメント5を灌流する培養液中の成分(栄養成分や酸素)、上部コンパートメント4内の培養細胞等からの老廃物など)の交換が行われる孔径のものが用いられる。半透膜3の孔径は、上限としては、3μm未満が好ましく、1μm以下がより好ましい。また、下限としては、その他の物質の交換速度が速いことから、0.4μm以上が好ましい。
半透膜3の材質としては、培養細胞に対して適合性を有するものであれば特に限定されず、たとえば一般に、透析膜、精密濾過等に用いられる半透膜として市販されているものが使用できる。具体的には、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)等が挙げられる。
半透膜3の厚さは、物質交換を極力速やかに起こさせるため、10〜20μmの範囲内であることが好ましい。
【0011】
下部コンパートメント5には、細胞培養時、培養液供給用流路6および培養液排出用流路7を介して培養液が灌流されるようになっている。すなわち、培養液は、培養液供給用流路6を介して下部コンパートメント5内に供給され、供給された培養液は下部コンパートメント5内を灌流し、培養液排出用流路7を介して下部コンパートメント5から排出される。このとき、培養液中の栄養成分や酸素が半透膜3を通過して上部コンパートメント4へと移行する。これにより、細胞培養部10内の培養細胞に対し、栄養成分や酸素が一定の方向から供給されることとなり、栄養成分や酸素が血管等から供給される実際の生体内の環境と類似した環境とすることができる。
【0012】
上部コンパートメント4には、細胞培養時、灌流用流路8を介して、上部コンパートメント4内の流体を、持続的または間欠的に流動または灌流させることができるようになっている。上部コンパートメント4内の流体を流動または灌流させることにより、細胞培養部10内の培養細胞に流動が付加され、これにより、細胞培養部10内の環境が実際の生体内の環境(たとえば子宮内表面や卵管内腔表面には内液の流れがある)に近づき、培養細胞を高い品質で培養できる。また、灌流用流路8を介して、受精卵等の培養細胞の培養環境(pH、グルコース濃度、生理活性物質濃度等)のモニタリングもできる。
上部コンパートメント4に灌流させる流体としては、培養細胞に悪影響を与えないものであればよく、特に培養液が好ましい。
上述のように、細胞培養チャンバー1の培養液供給用流路6および培養液排出用流路7を介して下部コンパートメント5内に培養液を灌流させつつ、灌流用流路8を介して上部コンパートメント4内の流体を流動させることにより、さらに生体内に近い環境で細胞を培養することができる。
【0013】
上部コンパートメント4の厚さ(半透膜3から上部コンパートメント4の上側内表面4aまでの距離)は、下限としては、培養細胞の大きさよりも大きければよく、特に、培養細胞の大きさの1.5倍以上であることが好ましい。
上部コンパートメント4の厚さの上限としては、特に制限はないが、1mm以内であることが好ましい。1mm以内であると、培養される細胞の品質が特に高く、たとえば受精卵を培養した場合、高い確率で正常な発生を促すことができ、妊娠成功率がさらに向上する。これは、上部コンパートメント4の厚さが1mm以内であると、下部コンパートメント5内を還流する培養液から供給される栄養成分や酸素の濃度や、後述するように共培養を行う際に支持細胞から供給される各種因子の濃度を高く維持することができ、実際の生体内の環境に近いためと推測される。上部コンパートメント4の厚さは、培養細胞の大きさの5倍以内であることがより好ましく、2倍以内であることがさらに好ましい。
【0014】
上部コンパートメント4内には、流体は通過するが培養細胞は通過しない間隙部9aと壁部9bとから構成されるコの字形のふるい構造9によって、細胞培養部10が形成されている。
間隙部9aの大きさは、流体は通過するが培養細胞は通過しない大きさであればよく、培養する細胞の大きさに応じて適宜決定される。
特に、後述するように、支持細胞との共培養を行う場合には、間隙部9aの大きさは、培養細胞は通過しないが、支持細胞は通過する大きさとすることが好ましい。これにより、後述するように、細胞培養部10内の半透膜3上への支持細胞の播種および培養を容易に行うことができる。
壁部9bは、図中では半透膜3と接するように記載されているが、本発明はこれに限定されず、たとえば壁部9bと半透膜3との間に、流体は通過するが培養細胞は通過しない間隙があってもよい。
【0015】
細胞培養チャンバー1においては、下部コンパートメント5にも、上部コンパートメント4と同様の間隙部9a’と壁部9b’とから構成されるふるい構造9’が設けられている。下部コンパートメント5においては、ふるい構造9’は必ずしも必要ではないが、ふるい構造9’が存在することにより、半透膜を安定に支持できる。
【0016】
細胞培養チャンバー1においては、半透膜3の上部コンパートメント4側に、培養細胞との共培養のための支持細胞(feeder cell)が付着していることが好ましい。これにより、上部コンパートメント4内の環境がさらに実際の生体内の環境に近づき、良好な培養を行うことができる。すなわち、たとえば受精卵においては、受精後着床に至るまでに、卵管ならびに子宮内膜組織から放出される各種の成長因子の影響を受けて発生が進行している。そのため、受精卵の培養を、半透膜3上に子宮内膜細胞等の支持細胞を付着させて行うことにより、正常に発生する受精卵の割合(発生率)を向上させることができる。
ここで、本発明において、「共培養」は、培養細胞と、同種または異種の動物の体細胞とを同時に培養する方法を意味する。
支持細胞の種類は、培養細胞の種類に応じて決定される。たとえば培養細胞が哺乳動物の受精卵である場合、支持細胞は、同種の哺乳動物の体細胞あるいは組織が好ましく、具体的には、繊維芽細胞(Fibroblast)、生殖器官由来細胞(子宮内膜細胞、卵管上皮細胞など)、あるいはこれらの細胞からなる組織等が挙げられる。特に、培養細胞が受精卵である場合は、支持細胞は子宮内膜細胞であることが好ましい。また、培養細胞が後述するES細胞である場合、支持細胞は、同種の哺乳動物の不活化した繊維芽細胞が好ましい。
支持細胞の半透膜上へ付着は、たとえば、培養細胞の培養を行う前に、予め、下部コンパートメント5に培養液を灌流させずに満たしておき、灌流用流路8およびガイド11を利用して支持細胞を含む培養液(支持細胞懸濁液)を上部コンパートメント4内に導入し、そのまま閉鎖状態で培養することにより、支持細胞が半透膜3上に付着する。
【0017】
細胞培養部10において培養される培養細胞としては、ヒト、マウス、ウシ、ブタ等の哺乳動物に由来する細胞が挙げられる。
特に、畜産分野や生殖医療分野など様々な分野において有用であるため、卵子や受精卵が好適であり、特に受精卵が好適である。これは、本発明の細胞培養チャンバーは、生体内の環境に近い環境で細胞を培養でき、卵子の成熟や、体外受精により得られる受精卵の体外発生等を高い品質で行うことができるためである。
卵子および受精卵の大きさは、通常、ヒトは約130μm、マウスは約80μm、ウシやブタは約120〜130μmである。
本発明の細胞培養チャンバーは、特に、受精卵の発生に適している。なお、受精卵は、受精後、卵割により2細胞期、4細胞期、8細胞期と細胞数が増えていき、桑実胚を経て、胚盤胞(blastocyst)へと発生する。胚盤胞は、栄養外胚葉とその内部にある内部細胞塊とから構成されるものであり、体外受精において、子宮内への移植は通常、4〜8細胞期から胚盤胞の段階で行われる。
【0018】
本発明の細胞培養チャンバーにおいては、胚性幹細胞(embryonic stem cell;以下、ES細胞と記載する。)の培養も行うことができる。ES細胞は、上述した内部細胞塊から得られる未分化な細胞であり、支持細胞として繊維芽細胞を用い、LIF(白血病阻害因子)を加えて培養すると、未分化のまま増殖する。培養条件を代えることによって、どんな細胞にも分化する性質を有するため、ES細胞の培養は、ES細胞を使って目的の組織や細胞を再生して患者に移植する再生医療への応用が期待される。本発明の細胞培養チャンバーは、上部コンパートメント4の容積が非常に小さく、支持細胞とES細胞とが直接・間接に密接に相互作用するため、未分化の状態で長時間培養できると推測される。
哺乳動物のES細胞の大きさは、通常、接着時においては長径で約10μm、短径で約5μmであり、トリプシン等により剥離して浮遊させた状態では約5〜10μmの球体である。
【0019】
細胞培養部10には、培養細胞の導入・回収用のガイド11が接続されている。
本実施形態において、ガイド11は、コの字形のふるい構造9の開口部の側面に取り付けられている管である。
培養開始前に、ガイド11内にチューブを挿入し、該チューブを介して培養細胞を細胞培養部10に導入する。
培養時において、上部コンパートメント4の灌流を行わない場合は、ガイド11の端部11aにキャップをつけて封止する。このとき、灌流用流路8を介して、上部コンパートメント4内の流体に流動を付加することが好ましい。このように、ガイド11を培養細胞の導入・回収にのみ用いると、培養細胞が失われにくく、そのため、受精卵の発生や卵子の成熟を行う場合に好適である。
上部コンパートメント4の灌流を行う場合、潅流は、たとえばチューブ14とガイド11とを、それぞれ流体供給用流路、流体排出用流路として用いて行うことができる。このように、ガイド11を灌流用流路として用いることは、ES細胞などのように、潅流が重要な場合に好適である。
培養終了後は、該管内に再度チューブを挿入し、該チューブを介して細胞培養部10内の流体を回収することにより、培養細胞が回収できる。
ガイド11は、内径が、細胞の導入・回収時にガイド11に挿入されるチューブ(内径が培養細胞よりも大きい)が挿入できる大きさ以上であり、かつ外径が、上部コンパートメントの厚さ以下であればよい。
【0020】
細胞培養チャンバー1は、たとえば図4に示すようにして製造することができる。
i)まず、シリコン基板41上に、スピンコーティングによりフォトレジスト層(たとえばSU−8製)42を形成する。
ii)所定のマスクパターンを介して露光し、現像することにより、シリコン基板41上に上部コンパートメントの鋳型43を形成する。
iii)得られた鋳型43上に、未重合のUV硬化型又は熱硬化型のポリマーの未硬化のものを塗布してポリマー層44を形成し、UV照射又は加熱により硬化させる。
iv)硬化させたポリマー層44を剥離し、片面に、ふるい構造を有する凹部45が形成されたポリマー層44を得る。
v)ポリマー層44に、培養液供給用流路用の穴(図示せず)、培養液排出用流路用の穴(図示せず)および流動付加用流路用の穴47と、ガイドを取り付けるための穴48を開け、上側支持体46を得る。
vi)別途、上記i)〜iv)と同様にして下側支持体49を作成し、上側支持体46と下側支持体49とを、凹部が内側になるように、半透膜50を挟んで貼り合わせる。
vii)上記v)で形成した穴にチューブ51およびガイド52を取り付け、細胞培養チャンバーを得る。
【0021】
図5〜7に、本発明の細胞培養チャンバーの第二実施形態を示す。図5は本実施形態の細胞培養チャンバー61の上面図、図6は図5中の位置C−C’における縦断面図、図7は図5中の位置D−D’における縦断面図である。尚、以下に記載する実施形態において、上述した第一実施形態に対応する構成要素には、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施形態の細胞培養チャンバー61は、ふるい構造9の形状が円形である点、下部コンパートメント5にふるい構造9’が設けられていない点、培養液供給用流路6および培養液排出用流路7が下部コンパートメント5の下方に設けられている点、灌流用流路8が上部コンパートメント4の上方に2箇所設けられている点、2本のガイド11,11が細胞培養部10の上方から接続されている点で第一実施形態と異なっている。
【0022】
本発明の細胞培養チャンバーは、前記培養液供給口及び培養液排出口を介して培養液を灌流させることにより、細胞培養装置として利用することができる。
培養液の灌流速度は、特に制限はなく、培養する細胞によって適宜設定すればよい。
また、灌流させている培養液は、培養液中に排出された老廃物や細胞の分泌物を除去するために、少なくとも3〜4日毎に交換することが好ましい。
図8(a)および(b)に、それぞれ、本発明の細胞培養チャンバーを用いた細胞培養装置の一例の概略構成図を示す。
図8(a)に示す細胞培養装置90は、細胞培養チャンバー91の上部コンパートメント91aの灌流を行わない場合の例であり、下部コンパートメント91bに閉鎖系灌流回路が接続されたものである。下部コンパートメント91bに接続された閉鎖系灌流回路上には、培養液タンク92、ペリスタティックポンプ93およびバブルトラップ94が配置されている。また、上部コンパートメント91aには、流体タンク95、流体を流動させるためのポンプ96およびバブルトラップ97を備えた回路が接続されている。
図8(b)に示す細胞培養装置100は、細胞培養チャンバー101の上部コンパートメント101aの灌流を行う場合の例であり、細胞培養チャンバー101の上部コンパートメント101aおよび下部コンパートメント101bそれぞれに閉鎖系灌流回路が接続されたものである。上部コンパートメント101aに接続された閉鎖系灌流回路上には、流体タンク102、ペリスタティックポンプ103およびバブルトラップ104が配置されている。下部コンパートメント101bに接続された閉鎖系灌流回路上には、培養液タンク105、ペリスタティックポンプ106およびバブルトラップ107が配置されている。
【実施例】
【0023】
製造例1<細胞培養チャンバーの製造>
図1〜3に示す形状の細胞培養チャンバーを図4に示す手順で製造した。
まず、シリコン基板を用意し、該基板上に、スピンコーティングによりフォトレジスト(商品名「SU−8 80;」マイクロケム社製)を塗布し、ベークしてフォトレジスト層を形成した。次いで、マスクパターンを介して露光・現像を行い、ウェーハ上にパターンを転写して鋳型を作成し、該鋳型上に、未硬化のPDMSを塗布してポリマー層を形成し、UV照射により硬化させた。硬化後、ポリマー層を剥離して、片面に、ふるい構造を備える凹部(10mm×10mm×200μm)を有する上側支持体および下側支持体を得た。次いで、上側支持体に、培養液供給用流路用の穴、培養液排出用流路用の穴および流動付加用流路用の穴と、ガイドを取り付けるための穴を開け、この上側支持体と下側支持体とを、凹部が内側になるように、半透膜(ポリエステル膜;孔径0.4μm)を挟んで貼り合わせた後、各穴にチューブとガイドとを取り付けて細胞培養チャンバー(10mm×10mm×厚さ400μm;上部コンパートメントの厚さ200μm、下部コンパートメントの厚さ200μm)を得た。
【0024】
試験例1(共培養の系での効果の検証)
実施例1として、製造例1で製造した細胞培養チャンバー(PDMS製;10×10mm×厚さ400μm;上部コンパートメントの厚さ200μm)を用いて、マウス2細胞期受精卵を支持細胞と共培養し、発生効率の向上効果を確認した。支持細胞としてはマウス子宮内膜細胞(MEC)を用いた。
比較例1として、「プレート上での静置培養」を行った。すなわち、カルチャーディッシュ上に支持細胞を播き、該支持細胞とともに培養した。
比較例2として、「膜上での静置培養」を行った。すなわち、躯体の底部に膜構造を有するセルカルチャーインサート(CCI)を用い、CCI底部の膜上で受精卵をMECと共培養した。
なお、あらかじめ気相中の酸素による過酸化による発生阻害を防止するために50μMのβメルカプトエタノールを培養液に添加した。
【0025】
培養は、図8(a)に示した細胞培養装置を用いて以下の手順で行った。
細胞培養装置100を構成する部材はすべて、予め、オートクレーブにより滅菌した。支持細胞(子宮内膜細胞)および受精卵の導入前に、細胞培養チャンバー101を、ダルベッコリン酸緩衝液で洗浄した。その後、34〜36℃、酸素濃度19.5%、二酸化炭素濃度5%のインキュベータ内で、0.03%I型コラーゲン水溶液(新田ゼラチン社製)を導入した後、1時間静置して半透膜表面をコーティングした。
下部コンパートメント5内を培養液で満たした状態で灌流用流路8およびガイド11からシリンジ往復にて子宮内膜細胞を上部コンパートメント4内に導入し、そのままインキュベーター内に一晩静置したところ、細胞培養チャンバーの半透膜の表面に細胞の付着がみとめられた。
次に、下部コンパートメント101bに接続された閉鎖系灌流回路内に培養液を150μl/minの灌流速度で灌流させ、下記の培養条件で培養を行った。
<培養条件>
・培養液はMEM−α(GIBCO社)に5質量%のヒト由来の血清及び50μMのβメルカプトエタノールそしてペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシンを添加したものを用いた。なお、このとき、培養液として、目的に応じ他の受精卵用の培養液を使用することも可能である。
・培養方法
CO2インキュベータ(5%CO2および95%空気、37℃、湿度飽和)内で培養を行った。
【0026】
培養開始の24時間後から、24時間毎に、96時間後までの受精卵の胚盤胞への発生を観察・記録した。培養開始時の受精卵(マウス2細胞期受精卵)の数に対する、胚盤胞へと発生した受精卵の数の割合を発生率(%)として求めた。その結果を図9に示した。
また、得られたマウス胚盤胞を構成する総細胞数と、胚盤胞中の内部細胞塊の細胞数(ICM細胞数)とを二重蛍光染色法により計測した。また、脱出胚盤胞(透明帯(受精卵を覆っているカプセル)から脱出した状態の胚盤胞)についても同様の計測を行った。その結果を図10に示した。
【0027】
図9によると、実施例1では胚盤胞に到達する時期が比較例1,2よりも有意に早いことが明らかとなった。
図10によると、それぞれの系で胚盤胞並びに脱出胚盤胞に達した時点での細胞数の計測結果は、総細胞数、ICM細胞数ともに実施例1が比較例1,2よりも有意に多いことが明らかとなった。これにより、得られた胚盤胞を受胚マウス子宮内に移植すれば、受胚雌妊娠率、産仔生産率共に向上することが期待できる。
このように、共培養の系において、本発明の細胞培養チャンバーを用い、共培養の系で灌流培養されたマウス受精卵は、比較例に比べ、胚盤胞への発生率が高く、細胞数も多く、品質に優れたものであった。この結果は、本発明の細胞培養チャンバーを用い、共培養の系で循環培養を行うことにより、哺乳動物受精卵の発生能が著しく高められることを示している。この現象は、体外で体内環境を作り出すという我々の目標に合致する結果であるといえる。
【0028】
試験例2(共培養無しの系での効果の検証)
共培養を行わない以外は試験例1と同様にして、製造例1で製造した細胞培養チャンバーを用いる培養(実施例2)、「プレート上での静置培養」(比較例3)、「膜上での静置培養」(比較例4)を行い、同様の評価を行った。
図11には胚盤胞への発生率を示した。図12には得られた胚盤胞および脱出胚盤胞を構成する総細胞数とICM細胞数を示した。
図11によると、実施例2では胚盤胞に到達した時期が比較例3,4よりも有意に早いことが明らかとなった。
図12によると、総細胞数、ICM細胞数ともに実施例2が比較例3,4よりも有意に多いことが明らかとなった。これにより、対応する受胚雌妊娠率、産仔生産率共に高くなることは容易に予想できる。
このように、試験例1の共培養の系に比べ効果は劣ったが、共培養無しの系でも、本発明の細胞培養チャンバーを用いて灌流培養されたマウス受精卵は、比較例に比べ、胚盤胞への発生率が高く、細胞数も多く、品質に優れたものであった。この結果は、本発明の細胞培養チャンバーを用いて循環培養を行うことにより、共培養無しの系でも、哺乳動物受精卵の発生能が著しく高められることを示している。この現象は、体外で体内環境を作り出すという我々の目標に合致する結果であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の細胞培養チャンバーの第一実施形態を示す上面図である。
【図2】図1に示す細胞培養チャンバーの位置A−A’における縦断面図である。
【図3】図1に示す細胞培養チャンバーの位置B−B’における縦断面図である。
【図4】細胞培養チャンバーの製造工程の一例を示す図である。
【図5】本発明の細胞培養チャンバーの第二実施形態を示す上面図である。
【図6】図5に示す細胞培養チャンバーの位置C−C’における縦断面図である。
【図7】図5に示す細胞培養チャンバーの位置D−D’における縦断面図である。
【図8】本発明の細胞培養チャンバーを用いた細胞培養装置の一例を示す概略構成図である。
【図9】試験例1:胚盤胞への発生率の経時変化を示すグラフである。
【図10】試験例1:総細胞数および平均ICM細胞数を示すグラフである。
【図11】試験例2:胚盤胞への発生率の経時変化を示すグラフである。
【図12】試験例2:平均総細胞数および平均ICM細胞数を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1…細胞培養チャンバー、2…支持体、3…半透膜、4…上部コンパートメント、5…下部コンパートメント、6…培養液供給用流路、7…培養液排出用流路、8…灌流用流路、9…ふるい構造、9a…間隙部、9b…壁部、10…細胞培養部、11…ガイド、12〜14…チューブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養チャンバーに関する。
【背景技術】
【0002】
畜産分野や生殖医療分野(とりわけ不妊治療)において用いられる技術の一つとして体外受精がある。体外受精は、一般的に、卵子を採取し、該卵子が未成熟の場合には体外成熟を行い、体外受精を行った後、得られた受精卵を培養し、移植に適した発育段階まで発生させて子宮内に移植することにより行われる。
しかし、体外受精による妊娠成功率は必ずしも高くはなく、たとえばヒトにおいては、その妊娠成功率は、英国における27年前の世界初の挙児以来、依然として25〜35%程度に留まっている。そのため、日本国内においては保険適用外であることなども含めて、体外受精による妊娠成功率の向上が望まれている。
妊娠成功率の向上のためには、上述した受精卵の培養過程が最も重要である。従来、受精卵の培養は、培養プレート上のウェル内に500μL程度の培養液を入れ、該培養液中で受精卵を培養する方法、培養プレート上のウェル内に20μL程度の微小滴を載せ、該微小滴の表面をミネラルオイルで被覆し、その中に受精卵を入れる方法等の、静置・閉鎖環境でのin vitro培養により行われている(非特許文献1)。
【非特許文献1】菅原,尾川(編)、「生殖機能細胞の培養法」、日本、学会出版センター、1993年6月出版、第25〜153頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、静置・閉鎖環境培養を行った場合、細胞が断片化するなど発生効率が悪く、品質の良い受精卵を高い頻度で得ることは容易ではない。
品質の良い受精卵が得られない原因の1つとして、培養環境が、生体内での発生環境と大きく異なることが考えられる。すなわち、一般に、卵子は、卵巣から放出された後、成熟しながら卵管内を移動し、受精後すぐに初期発生が始まり、受精卵は、2〜8細胞期、桑実胚を経て胚盤胞を形成して子宮内膜に着床することが知られているが、子宮内膜は、組織が子宮内膜細胞の層、間質細胞の層等から構成される層構造を有するなど極性を有しており、また、子宮や卵管内腔には内液の流れがあるなど、その物理化学的環境や生物学的環境が、上述したような従来の培養方法とは大きく異なっている。
また、品質の良い受精卵を得るためには、栄養成分や酸素の供給、老廃物の除去等の培養環境の管理を行うことも重要であると考えられる。しかし、静置・閉鎖環境培養では、このような管理を行うことは困難である。
【0004】
一方、従来より用いられている細胞培養方法の1つとして、ペトリ皿のような培養容器の平坦な表面に細胞を付着させ、そこに栄養成分や酸素を含んだ培養液を灌流させることにより、栄養成分や酸素の供給と老廃物の除去を同時に行う方法がある。この方法では、培養液中の栄養成分や酸素は、細胞層を通って拡散して個々の細胞に供給され、一方、老廃物は逆に、培養液中に移行して除去されるため、細胞を、長時間活性を保ちながら連続的に培養できるとされている。
しかし、このような方法においても、生体内の環境を充分に再現することは困難であり、品質の良い受精卵を高い頻度で得ることは容易ではない。また、培養液を灌流させるため、培養する細胞を容器内に導入する際や、培養時、培養した細胞を回収する際等において培養細胞が失われることがあり、貴重なものである受精卵の培養を行うには注意を必要とする。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、生体内に近い環境での細胞培養が可能であり、かつ細胞の導入や回収等の操作を容易に行うことができる細胞培養チャンバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の細胞培養チャンバーは、支持体の内部に、半透膜によって区画される上部コンパートメントおよび下部コンパートメントと、前記下部コンパートメント内に培養液を供給する培養液供給用流路と、前記下部コンパートメント内の培養液を排出する培養液排出用流路と、前記上部コンパートメント内に流体を灌流させるための灌流用流路とを有し、前記上部コンパートメント内に、前記流体は通過するが培養細胞は通過しない間隙部を有するふるい構造によって周囲を囲まれる細胞培養部が設けられており、前記細胞培養部に、培養細胞の導入・回収用のガイドが接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の細胞培養チャンバーによれば、生体内に近い環境での細胞培養が可能であり、かつ細胞の導入や回収等の操作を容易に行うことができる。
生体内に近い環境での細胞培養が可能であるため、得られる細胞の品質が高く、たとえば受精卵の発生を良好に行うことができ、結果、体外受精による妊娠成功率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて本発明の細胞培養チャンバーの実施形態を説明する。
図1〜3に、本発明の細胞培養チャンバーの第一実施形態を示す。図1は本実施形態の細胞培養チャンバー1の上面図、図2は図1中の位置A−A’における縦断面図、図3は図1中の位置B−B’における縦断面図である。
本実施態様の細胞培養チャンバー1は、支持体2の内部に、半透膜3によって区画される上部コンパートメント4および下部コンパートメント5と、下部コンパートメント5内に培養液を供給する培養液供給用流路6と、下部コンパートメント5内の培養液を排出する培養液排出用流路7と、上部コンパートメント4内に流体を灌流させるための灌流用流路8とを有している。
上部コンパートメント4内には、流体は通過するが、培養細胞、すなわち当該細胞培養チャンバーでの培養を目的とする細胞は通過しない間隙部9aと壁部9bとから構成されるコの字形のふるい構造9によって、細胞培養部10が形成されている。
細胞培養部10には、培養細胞の導入・回収用のガイド11が接続されている。
また、細胞培養チャンバー1において、培養液供給用流路6、培養液排出用流路7および灌流用流路8には、それぞれ、チューブ12,13,14が接続されている。
【0009】
支持体2を構成する材料としては、培養細胞に対して適合性を有するものであれば特に限定されない。
好ましい材料としては、外気中の酸素が支持体を透過して細胞培養チャンバー1内の培養液や細胞培養部10に供給されることから、酸素を透過する酸素透過性材料が挙げられる。酸素透過性材料としては、培養細胞に対して適合性を有するものであれば既知の任意の酸素透過性材料が使用可能であり、たとえば、酸素透過性コンタクトレンズなどに用いられている生体適合性の酸素透過性材料などを挙げることができる。特に、透明性を有するものであれば、外側から細胞培養部10内の培養細胞を観察できることから好適である。
酸素透過性材料として、具体的には、生体適合性のシリコーンゴムが挙げられる。特に、ポリジメチルシロキサン(以下、PDMSという)は、生体適合性を有するとともに、透明性および酸素透過性を有し、さらに安価な材料であることから好ましい。
【0010】
半透膜3としては、細胞が浸潤せず、その他の物質(たとえば下部コンパートメント5を灌流する培養液中の成分(栄養成分や酸素)、上部コンパートメント4内の培養細胞等からの老廃物など)の交換が行われる孔径のものが用いられる。半透膜3の孔径は、上限としては、3μm未満が好ましく、1μm以下がより好ましい。また、下限としては、その他の物質の交換速度が速いことから、0.4μm以上が好ましい。
半透膜3の材質としては、培養細胞に対して適合性を有するものであれば特に限定されず、たとえば一般に、透析膜、精密濾過等に用いられる半透膜として市販されているものが使用できる。具体的には、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)等が挙げられる。
半透膜3の厚さは、物質交換を極力速やかに起こさせるため、10〜20μmの範囲内であることが好ましい。
【0011】
下部コンパートメント5には、細胞培養時、培養液供給用流路6および培養液排出用流路7を介して培養液が灌流されるようになっている。すなわち、培養液は、培養液供給用流路6を介して下部コンパートメント5内に供給され、供給された培養液は下部コンパートメント5内を灌流し、培養液排出用流路7を介して下部コンパートメント5から排出される。このとき、培養液中の栄養成分や酸素が半透膜3を通過して上部コンパートメント4へと移行する。これにより、細胞培養部10内の培養細胞に対し、栄養成分や酸素が一定の方向から供給されることとなり、栄養成分や酸素が血管等から供給される実際の生体内の環境と類似した環境とすることができる。
【0012】
上部コンパートメント4には、細胞培養時、灌流用流路8を介して、上部コンパートメント4内の流体を、持続的または間欠的に流動または灌流させることができるようになっている。上部コンパートメント4内の流体を流動または灌流させることにより、細胞培養部10内の培養細胞に流動が付加され、これにより、細胞培養部10内の環境が実際の生体内の環境(たとえば子宮内表面や卵管内腔表面には内液の流れがある)に近づき、培養細胞を高い品質で培養できる。また、灌流用流路8を介して、受精卵等の培養細胞の培養環境(pH、グルコース濃度、生理活性物質濃度等)のモニタリングもできる。
上部コンパートメント4に灌流させる流体としては、培養細胞に悪影響を与えないものであればよく、特に培養液が好ましい。
上述のように、細胞培養チャンバー1の培養液供給用流路6および培養液排出用流路7を介して下部コンパートメント5内に培養液を灌流させつつ、灌流用流路8を介して上部コンパートメント4内の流体を流動させることにより、さらに生体内に近い環境で細胞を培養することができる。
【0013】
上部コンパートメント4の厚さ(半透膜3から上部コンパートメント4の上側内表面4aまでの距離)は、下限としては、培養細胞の大きさよりも大きければよく、特に、培養細胞の大きさの1.5倍以上であることが好ましい。
上部コンパートメント4の厚さの上限としては、特に制限はないが、1mm以内であることが好ましい。1mm以内であると、培養される細胞の品質が特に高く、たとえば受精卵を培養した場合、高い確率で正常な発生を促すことができ、妊娠成功率がさらに向上する。これは、上部コンパートメント4の厚さが1mm以内であると、下部コンパートメント5内を還流する培養液から供給される栄養成分や酸素の濃度や、後述するように共培養を行う際に支持細胞から供給される各種因子の濃度を高く維持することができ、実際の生体内の環境に近いためと推測される。上部コンパートメント4の厚さは、培養細胞の大きさの5倍以内であることがより好ましく、2倍以内であることがさらに好ましい。
【0014】
上部コンパートメント4内には、流体は通過するが培養細胞は通過しない間隙部9aと壁部9bとから構成されるコの字形のふるい構造9によって、細胞培養部10が形成されている。
間隙部9aの大きさは、流体は通過するが培養細胞は通過しない大きさであればよく、培養する細胞の大きさに応じて適宜決定される。
特に、後述するように、支持細胞との共培養を行う場合には、間隙部9aの大きさは、培養細胞は通過しないが、支持細胞は通過する大きさとすることが好ましい。これにより、後述するように、細胞培養部10内の半透膜3上への支持細胞の播種および培養を容易に行うことができる。
壁部9bは、図中では半透膜3と接するように記載されているが、本発明はこれに限定されず、たとえば壁部9bと半透膜3との間に、流体は通過するが培養細胞は通過しない間隙があってもよい。
【0015】
細胞培養チャンバー1においては、下部コンパートメント5にも、上部コンパートメント4と同様の間隙部9a’と壁部9b’とから構成されるふるい構造9’が設けられている。下部コンパートメント5においては、ふるい構造9’は必ずしも必要ではないが、ふるい構造9’が存在することにより、半透膜を安定に支持できる。
【0016】
細胞培養チャンバー1においては、半透膜3の上部コンパートメント4側に、培養細胞との共培養のための支持細胞(feeder cell)が付着していることが好ましい。これにより、上部コンパートメント4内の環境がさらに実際の生体内の環境に近づき、良好な培養を行うことができる。すなわち、たとえば受精卵においては、受精後着床に至るまでに、卵管ならびに子宮内膜組織から放出される各種の成長因子の影響を受けて発生が進行している。そのため、受精卵の培養を、半透膜3上に子宮内膜細胞等の支持細胞を付着させて行うことにより、正常に発生する受精卵の割合(発生率)を向上させることができる。
ここで、本発明において、「共培養」は、培養細胞と、同種または異種の動物の体細胞とを同時に培養する方法を意味する。
支持細胞の種類は、培養細胞の種類に応じて決定される。たとえば培養細胞が哺乳動物の受精卵である場合、支持細胞は、同種の哺乳動物の体細胞あるいは組織が好ましく、具体的には、繊維芽細胞(Fibroblast)、生殖器官由来細胞(子宮内膜細胞、卵管上皮細胞など)、あるいはこれらの細胞からなる組織等が挙げられる。特に、培養細胞が受精卵である場合は、支持細胞は子宮内膜細胞であることが好ましい。また、培養細胞が後述するES細胞である場合、支持細胞は、同種の哺乳動物の不活化した繊維芽細胞が好ましい。
支持細胞の半透膜上へ付着は、たとえば、培養細胞の培養を行う前に、予め、下部コンパートメント5に培養液を灌流させずに満たしておき、灌流用流路8およびガイド11を利用して支持細胞を含む培養液(支持細胞懸濁液)を上部コンパートメント4内に導入し、そのまま閉鎖状態で培養することにより、支持細胞が半透膜3上に付着する。
【0017】
細胞培養部10において培養される培養細胞としては、ヒト、マウス、ウシ、ブタ等の哺乳動物に由来する細胞が挙げられる。
特に、畜産分野や生殖医療分野など様々な分野において有用であるため、卵子や受精卵が好適であり、特に受精卵が好適である。これは、本発明の細胞培養チャンバーは、生体内の環境に近い環境で細胞を培養でき、卵子の成熟や、体外受精により得られる受精卵の体外発生等を高い品質で行うことができるためである。
卵子および受精卵の大きさは、通常、ヒトは約130μm、マウスは約80μm、ウシやブタは約120〜130μmである。
本発明の細胞培養チャンバーは、特に、受精卵の発生に適している。なお、受精卵は、受精後、卵割により2細胞期、4細胞期、8細胞期と細胞数が増えていき、桑実胚を経て、胚盤胞(blastocyst)へと発生する。胚盤胞は、栄養外胚葉とその内部にある内部細胞塊とから構成されるものであり、体外受精において、子宮内への移植は通常、4〜8細胞期から胚盤胞の段階で行われる。
【0018】
本発明の細胞培養チャンバーにおいては、胚性幹細胞(embryonic stem cell;以下、ES細胞と記載する。)の培養も行うことができる。ES細胞は、上述した内部細胞塊から得られる未分化な細胞であり、支持細胞として繊維芽細胞を用い、LIF(白血病阻害因子)を加えて培養すると、未分化のまま増殖する。培養条件を代えることによって、どんな細胞にも分化する性質を有するため、ES細胞の培養は、ES細胞を使って目的の組織や細胞を再生して患者に移植する再生医療への応用が期待される。本発明の細胞培養チャンバーは、上部コンパートメント4の容積が非常に小さく、支持細胞とES細胞とが直接・間接に密接に相互作用するため、未分化の状態で長時間培養できると推測される。
哺乳動物のES細胞の大きさは、通常、接着時においては長径で約10μm、短径で約5μmであり、トリプシン等により剥離して浮遊させた状態では約5〜10μmの球体である。
【0019】
細胞培養部10には、培養細胞の導入・回収用のガイド11が接続されている。
本実施形態において、ガイド11は、コの字形のふるい構造9の開口部の側面に取り付けられている管である。
培養開始前に、ガイド11内にチューブを挿入し、該チューブを介して培養細胞を細胞培養部10に導入する。
培養時において、上部コンパートメント4の灌流を行わない場合は、ガイド11の端部11aにキャップをつけて封止する。このとき、灌流用流路8を介して、上部コンパートメント4内の流体に流動を付加することが好ましい。このように、ガイド11を培養細胞の導入・回収にのみ用いると、培養細胞が失われにくく、そのため、受精卵の発生や卵子の成熟を行う場合に好適である。
上部コンパートメント4の灌流を行う場合、潅流は、たとえばチューブ14とガイド11とを、それぞれ流体供給用流路、流体排出用流路として用いて行うことができる。このように、ガイド11を灌流用流路として用いることは、ES細胞などのように、潅流が重要な場合に好適である。
培養終了後は、該管内に再度チューブを挿入し、該チューブを介して細胞培養部10内の流体を回収することにより、培養細胞が回収できる。
ガイド11は、内径が、細胞の導入・回収時にガイド11に挿入されるチューブ(内径が培養細胞よりも大きい)が挿入できる大きさ以上であり、かつ外径が、上部コンパートメントの厚さ以下であればよい。
【0020】
細胞培養チャンバー1は、たとえば図4に示すようにして製造することができる。
i)まず、シリコン基板41上に、スピンコーティングによりフォトレジスト層(たとえばSU−8製)42を形成する。
ii)所定のマスクパターンを介して露光し、現像することにより、シリコン基板41上に上部コンパートメントの鋳型43を形成する。
iii)得られた鋳型43上に、未重合のUV硬化型又は熱硬化型のポリマーの未硬化のものを塗布してポリマー層44を形成し、UV照射又は加熱により硬化させる。
iv)硬化させたポリマー層44を剥離し、片面に、ふるい構造を有する凹部45が形成されたポリマー層44を得る。
v)ポリマー層44に、培養液供給用流路用の穴(図示せず)、培養液排出用流路用の穴(図示せず)および流動付加用流路用の穴47と、ガイドを取り付けるための穴48を開け、上側支持体46を得る。
vi)別途、上記i)〜iv)と同様にして下側支持体49を作成し、上側支持体46と下側支持体49とを、凹部が内側になるように、半透膜50を挟んで貼り合わせる。
vii)上記v)で形成した穴にチューブ51およびガイド52を取り付け、細胞培養チャンバーを得る。
【0021】
図5〜7に、本発明の細胞培養チャンバーの第二実施形態を示す。図5は本実施形態の細胞培養チャンバー61の上面図、図6は図5中の位置C−C’における縦断面図、図7は図5中の位置D−D’における縦断面図である。尚、以下に記載する実施形態において、上述した第一実施形態に対応する構成要素には、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施形態の細胞培養チャンバー61は、ふるい構造9の形状が円形である点、下部コンパートメント5にふるい構造9’が設けられていない点、培養液供給用流路6および培養液排出用流路7が下部コンパートメント5の下方に設けられている点、灌流用流路8が上部コンパートメント4の上方に2箇所設けられている点、2本のガイド11,11が細胞培養部10の上方から接続されている点で第一実施形態と異なっている。
【0022】
本発明の細胞培養チャンバーは、前記培養液供給口及び培養液排出口を介して培養液を灌流させることにより、細胞培養装置として利用することができる。
培養液の灌流速度は、特に制限はなく、培養する細胞によって適宜設定すればよい。
また、灌流させている培養液は、培養液中に排出された老廃物や細胞の分泌物を除去するために、少なくとも3〜4日毎に交換することが好ましい。
図8(a)および(b)に、それぞれ、本発明の細胞培養チャンバーを用いた細胞培養装置の一例の概略構成図を示す。
図8(a)に示す細胞培養装置90は、細胞培養チャンバー91の上部コンパートメント91aの灌流を行わない場合の例であり、下部コンパートメント91bに閉鎖系灌流回路が接続されたものである。下部コンパートメント91bに接続された閉鎖系灌流回路上には、培養液タンク92、ペリスタティックポンプ93およびバブルトラップ94が配置されている。また、上部コンパートメント91aには、流体タンク95、流体を流動させるためのポンプ96およびバブルトラップ97を備えた回路が接続されている。
図8(b)に示す細胞培養装置100は、細胞培養チャンバー101の上部コンパートメント101aの灌流を行う場合の例であり、細胞培養チャンバー101の上部コンパートメント101aおよび下部コンパートメント101bそれぞれに閉鎖系灌流回路が接続されたものである。上部コンパートメント101aに接続された閉鎖系灌流回路上には、流体タンク102、ペリスタティックポンプ103およびバブルトラップ104が配置されている。下部コンパートメント101bに接続された閉鎖系灌流回路上には、培養液タンク105、ペリスタティックポンプ106およびバブルトラップ107が配置されている。
【実施例】
【0023】
製造例1<細胞培養チャンバーの製造>
図1〜3に示す形状の細胞培養チャンバーを図4に示す手順で製造した。
まず、シリコン基板を用意し、該基板上に、スピンコーティングによりフォトレジスト(商品名「SU−8 80;」マイクロケム社製)を塗布し、ベークしてフォトレジスト層を形成した。次いで、マスクパターンを介して露光・現像を行い、ウェーハ上にパターンを転写して鋳型を作成し、該鋳型上に、未硬化のPDMSを塗布してポリマー層を形成し、UV照射により硬化させた。硬化後、ポリマー層を剥離して、片面に、ふるい構造を備える凹部(10mm×10mm×200μm)を有する上側支持体および下側支持体を得た。次いで、上側支持体に、培養液供給用流路用の穴、培養液排出用流路用の穴および流動付加用流路用の穴と、ガイドを取り付けるための穴を開け、この上側支持体と下側支持体とを、凹部が内側になるように、半透膜(ポリエステル膜;孔径0.4μm)を挟んで貼り合わせた後、各穴にチューブとガイドとを取り付けて細胞培養チャンバー(10mm×10mm×厚さ400μm;上部コンパートメントの厚さ200μm、下部コンパートメントの厚さ200μm)を得た。
【0024】
試験例1(共培養の系での効果の検証)
実施例1として、製造例1で製造した細胞培養チャンバー(PDMS製;10×10mm×厚さ400μm;上部コンパートメントの厚さ200μm)を用いて、マウス2細胞期受精卵を支持細胞と共培養し、発生効率の向上効果を確認した。支持細胞としてはマウス子宮内膜細胞(MEC)を用いた。
比較例1として、「プレート上での静置培養」を行った。すなわち、カルチャーディッシュ上に支持細胞を播き、該支持細胞とともに培養した。
比較例2として、「膜上での静置培養」を行った。すなわち、躯体の底部に膜構造を有するセルカルチャーインサート(CCI)を用い、CCI底部の膜上で受精卵をMECと共培養した。
なお、あらかじめ気相中の酸素による過酸化による発生阻害を防止するために50μMのβメルカプトエタノールを培養液に添加した。
【0025】
培養は、図8(a)に示した細胞培養装置を用いて以下の手順で行った。
細胞培養装置100を構成する部材はすべて、予め、オートクレーブにより滅菌した。支持細胞(子宮内膜細胞)および受精卵の導入前に、細胞培養チャンバー101を、ダルベッコリン酸緩衝液で洗浄した。その後、34〜36℃、酸素濃度19.5%、二酸化炭素濃度5%のインキュベータ内で、0.03%I型コラーゲン水溶液(新田ゼラチン社製)を導入した後、1時間静置して半透膜表面をコーティングした。
下部コンパートメント5内を培養液で満たした状態で灌流用流路8およびガイド11からシリンジ往復にて子宮内膜細胞を上部コンパートメント4内に導入し、そのままインキュベーター内に一晩静置したところ、細胞培養チャンバーの半透膜の表面に細胞の付着がみとめられた。
次に、下部コンパートメント101bに接続された閉鎖系灌流回路内に培養液を150μl/minの灌流速度で灌流させ、下記の培養条件で培養を行った。
<培養条件>
・培養液はMEM−α(GIBCO社)に5質量%のヒト由来の血清及び50μMのβメルカプトエタノールそしてペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシンを添加したものを用いた。なお、このとき、培養液として、目的に応じ他の受精卵用の培養液を使用することも可能である。
・培養方法
CO2インキュベータ(5%CO2および95%空気、37℃、湿度飽和)内で培養を行った。
【0026】
培養開始の24時間後から、24時間毎に、96時間後までの受精卵の胚盤胞への発生を観察・記録した。培養開始時の受精卵(マウス2細胞期受精卵)の数に対する、胚盤胞へと発生した受精卵の数の割合を発生率(%)として求めた。その結果を図9に示した。
また、得られたマウス胚盤胞を構成する総細胞数と、胚盤胞中の内部細胞塊の細胞数(ICM細胞数)とを二重蛍光染色法により計測した。また、脱出胚盤胞(透明帯(受精卵を覆っているカプセル)から脱出した状態の胚盤胞)についても同様の計測を行った。その結果を図10に示した。
【0027】
図9によると、実施例1では胚盤胞に到達する時期が比較例1,2よりも有意に早いことが明らかとなった。
図10によると、それぞれの系で胚盤胞並びに脱出胚盤胞に達した時点での細胞数の計測結果は、総細胞数、ICM細胞数ともに実施例1が比較例1,2よりも有意に多いことが明らかとなった。これにより、得られた胚盤胞を受胚マウス子宮内に移植すれば、受胚雌妊娠率、産仔生産率共に向上することが期待できる。
このように、共培養の系において、本発明の細胞培養チャンバーを用い、共培養の系で灌流培養されたマウス受精卵は、比較例に比べ、胚盤胞への発生率が高く、細胞数も多く、品質に優れたものであった。この結果は、本発明の細胞培養チャンバーを用い、共培養の系で循環培養を行うことにより、哺乳動物受精卵の発生能が著しく高められることを示している。この現象は、体外で体内環境を作り出すという我々の目標に合致する結果であるといえる。
【0028】
試験例2(共培養無しの系での効果の検証)
共培養を行わない以外は試験例1と同様にして、製造例1で製造した細胞培養チャンバーを用いる培養(実施例2)、「プレート上での静置培養」(比較例3)、「膜上での静置培養」(比較例4)を行い、同様の評価を行った。
図11には胚盤胞への発生率を示した。図12には得られた胚盤胞および脱出胚盤胞を構成する総細胞数とICM細胞数を示した。
図11によると、実施例2では胚盤胞に到達した時期が比較例3,4よりも有意に早いことが明らかとなった。
図12によると、総細胞数、ICM細胞数ともに実施例2が比較例3,4よりも有意に多いことが明らかとなった。これにより、対応する受胚雌妊娠率、産仔生産率共に高くなることは容易に予想できる。
このように、試験例1の共培養の系に比べ効果は劣ったが、共培養無しの系でも、本発明の細胞培養チャンバーを用いて灌流培養されたマウス受精卵は、比較例に比べ、胚盤胞への発生率が高く、細胞数も多く、品質に優れたものであった。この結果は、本発明の細胞培養チャンバーを用いて循環培養を行うことにより、共培養無しの系でも、哺乳動物受精卵の発生能が著しく高められることを示している。この現象は、体外で体内環境を作り出すという我々の目標に合致する結果であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の細胞培養チャンバーの第一実施形態を示す上面図である。
【図2】図1に示す細胞培養チャンバーの位置A−A’における縦断面図である。
【図3】図1に示す細胞培養チャンバーの位置B−B’における縦断面図である。
【図4】細胞培養チャンバーの製造工程の一例を示す図である。
【図5】本発明の細胞培養チャンバーの第二実施形態を示す上面図である。
【図6】図5に示す細胞培養チャンバーの位置C−C’における縦断面図である。
【図7】図5に示す細胞培養チャンバーの位置D−D’における縦断面図である。
【図8】本発明の細胞培養チャンバーを用いた細胞培養装置の一例を示す概略構成図である。
【図9】試験例1:胚盤胞への発生率の経時変化を示すグラフである。
【図10】試験例1:総細胞数および平均ICM細胞数を示すグラフである。
【図11】試験例2:胚盤胞への発生率の経時変化を示すグラフである。
【図12】試験例2:平均総細胞数および平均ICM細胞数を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1…細胞培養チャンバー、2…支持体、3…半透膜、4…上部コンパートメント、5…下部コンパートメント、6…培養液供給用流路、7…培養液排出用流路、8…灌流用流路、9…ふるい構造、9a…間隙部、9b…壁部、10…細胞培養部、11…ガイド、12〜14…チューブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の内部に、半透膜によって区画される上部コンパートメントおよび下部コンパートメントと、前記下部コンパートメント内に培養液を供給する培養液供給用流路と、前記下部コンパートメント内の培養液を排出する培養液排出用流路と、前記上部コンパートメント内に流体を灌流させるための灌流用流路とを有し、
前記上部コンパートメント内に、前記流体は通過するが培養細胞は通過しない間隙部を有するふるい構造によって周囲を囲まれる細胞培養部が設けられており、
前記細胞培養部に、培養細胞の導入・回収用のガイドが接続されていることを特徴とする細胞培養チャンバー。
【請求項2】
前記半透膜上における前記上部コンパートメントの厚さが1mm以内である請求項1記載の細胞培養チャンバー。
【請求項3】
前記半透膜の前記上部コンパートメント側に、前記培養細胞との共培養のための支持細胞が付着している請求項1または2記載の細胞培養チャンバー。
【請求項4】
前記培養細胞が受精卵であり、かつ前記支持細胞が生殖器官由来細胞または繊維芽細胞である請求項3記載の細胞培養チャンバー。
【請求項5】
前記培養細胞が胚性幹細胞であり、かつ前記支持細胞が不活化した繊維芽細胞である請求項3記載の細胞培養チャンバー。
【請求項6】
前記支持体がポリジメチルシロキサンからなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の細胞培養チャンバー。
【請求項1】
支持体の内部に、半透膜によって区画される上部コンパートメントおよび下部コンパートメントと、前記下部コンパートメント内に培養液を供給する培養液供給用流路と、前記下部コンパートメント内の培養液を排出する培養液排出用流路と、前記上部コンパートメント内に流体を灌流させるための灌流用流路とを有し、
前記上部コンパートメント内に、前記流体は通過するが培養細胞は通過しない間隙部を有するふるい構造によって周囲を囲まれる細胞培養部が設けられており、
前記細胞培養部に、培養細胞の導入・回収用のガイドが接続されていることを特徴とする細胞培養チャンバー。
【請求項2】
前記半透膜上における前記上部コンパートメントの厚さが1mm以内である請求項1記載の細胞培養チャンバー。
【請求項3】
前記半透膜の前記上部コンパートメント側に、前記培養細胞との共培養のための支持細胞が付着している請求項1または2記載の細胞培養チャンバー。
【請求項4】
前記培養細胞が受精卵であり、かつ前記支持細胞が生殖器官由来細胞または繊維芽細胞である請求項3記載の細胞培養チャンバー。
【請求項5】
前記培養細胞が胚性幹細胞であり、かつ前記支持細胞が不活化した繊維芽細胞である請求項3記載の細胞培養チャンバー。
【請求項6】
前記支持体がポリジメチルシロキサンからなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の細胞培養チャンバー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−246720(P2006−246720A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64074(P2005−64074)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(801000049)財団法人生産技術研究奨励会 (72)
【出願人】(505085351)医療法人慈敬会 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(801000049)財団法人生産技術研究奨励会 (72)
【出願人】(505085351)医療法人慈敬会 (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]