説明

細胞培養基材、及びその製造方法

【課題】薬理学的試験、生理学的試験や毒性試験等において細胞を培養する用途に使用される細胞培養基材において、柔らかく様々な生体物質に囲まれた環境で生存している細胞と同様に、動的粘弾性測定における貯蔵弾性率、ショア硬度が低く、細胞の接着、増殖、分化誘導にとって、最適な細胞培養基材を提供する。
【解決手段】バイオテクノロジー分野、なかでも細胞を培養する用とに使用される基材である。原材料に、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体を使用し、動的粘弾性測定(引張モード、11Hz)における、温度10℃〜40℃±3の貯蔵弾性率(E’)が、500Pa〜100MPaの範囲である。温度10℃〜40℃±3におけるショア硬度(ASTM D 2240)が、2〜80の範囲であり、凸、又は凹構造の幅または直径が100nm〜5000μmであり、前記凸、又は凹のアスペクト比が0.2〜10.0の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野、なかでも細胞を培養する細胞培養基材に関する。特に、本発明の細胞培養基材は、動的粘弾性測定における貯蔵弾性率が低く、低硬度であるため、培養細胞の分化、増殖に効果を発揮するものである。また、本発明は、複数の凹、又は凸構造を備える細胞培養基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬理学的試験、生理学的試験や毒性試験等に用いられる細胞生物試験法においては、生体内、動物、又は培養株から細胞を取り出した後、細胞培養基材上で長期間に安定した培養が求められる。そのため、再現性のある研究結果を得るには、培養効率(細胞の接着率・増殖率・分化誘導率)が高い細胞培養基材が必要とされる。
【0003】
神経細胞培養基材の製造方法において、基材を炭素、水素、及び酸素から選ばれる少なくとも2つの元素からなる素材と共存させプラズマ処理した後、細胞接着性蛋白質、又は細胞接着性高分子を被覆する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、柔らかく様々な生体物質に囲まれた環境で生存している細胞を、生体外に取り出して培養するにあたり、ポリスチレン、ガラス、又は石英からなる基材は細胞の足場材料としては硬く、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン等の基質をコートしても、培養効率(細胞の接着率・増殖率・分化誘導率)を飛躍的に高めるには至っていない(特許文献1)。
【0005】
かかる問題を解決する手段として、複数のマイクロ容器を有し、隣接するマイクロ容器同士が開口部により連通した細胞培養容器において、骨髄間質細胞から高率に神経様細胞へ分化させる方法が提案されている(特許文献2)。
【0006】
複数のマイクロ容器を構成する凸部の高さが0.1μm〜500μm、開口部の幅が1μm〜100μmの細胞培養容器において、骨髄間質細胞から高率に神経様細胞へ分化が可能になるとされている。
【0007】
しかしながら、培養効率、なかでも細胞の接着率、増殖率、分化誘導率を高めるために、重要な因子である、細胞の足場環境についての規定はされていない。このため、特定の寸法範囲である複数のマイクロ容器、及び開口部において、骨髄間質細胞から高率に分化させることができるのは、神経様細胞の一種類に限定されているのが現状である。
【0008】
特許文献3では、複数の凹凸パターンが形成された細胞培養容器であって、前記凹凸パターンが形成する空間構造の幅が1μm〜500μm、長さが1μm〜500μm、高さが1μm〜500μmであり、少なくとも前記凹凸パターンが設けられた領域が5%〜100%への延伸、又は5%〜50%への圧縮で弾性変形することで、本来、in vivoでなければ発現しない形態機能を示すことができるとされている。
【0009】
しかしながら、培養細胞の活性評価方は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)から産生されるNO量の差異を、活性の指標としているのみであり、in vivoでなければ発現しない形態機能を示しているとするには、測定項目が少なすぎる。例えば、培養細胞の遺伝子発現プロファイルの有無等による定量評価が望ましいと考える。実施例1と比較例1、2の差異は、延伸の有無、凹凸構造の有無によるHUVEC細胞シートの表面積の差が、NO産生量の差となっている可能性も考えられる。
【0010】
また、実施例1で使用されたベースポリマー(東レ・ダウコーニング社製Silgard184)は、硬化剤の配合比によって基材硬度が変化したり、未硬化成分による細胞への毒性の影響が予測される。実用化による大量生産の段階では、解決すべき課題である。
柔らかく様々な生体物質に囲まれた環境で生存している細胞を、生体外に取り出して培養し、in vivoでなければ発現しない形態機能を発現するには、細胞の接着、増殖、分化誘導にとって、最適な環境、具体的には、安定、無毒性、かつ弾性率、硬度の低い培養基材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−321081(特許4269256)
【特許文献2】特開2009−183204
【特許文献3】特開2010−22275
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
薬理学的試験、生理学的試験や毒性試験等に用いられる細胞生物試験法において、培養面にコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン等の基質をコートしても、ポリスチレン、ガラス、石英ガラスからなる基材は細胞の足場材料としては硬く、培養効率(細胞の接着率・増殖率・分化誘導率)を飛躍的に高めることは困難であった。
【0013】
複数のマイクロ容器を有し、隣接するマイクロ容器同士が開口部により連通した細胞培養容器では、骨髄間質細胞から高率に神経様細胞へ分化可能になるとされているが、細胞の接着率、増殖率、分化誘導率を高めるために重要な因子である、細胞の足場環境についての規定はされておらず、神経様細胞の一種類に限定されているのが現状である。
【0014】
複数の凹凸パターンが形成された領域が5%〜100%の延伸、又は5%〜50%への圧縮で弾性変形することで、in vivoでなければ発現しない形態機能を示すことができるとされているが、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に限定された報告であり、生体内と同じ環境を再現しているとはいえない。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、柔らかく様々な生体物質に囲まれた環境で生存している細胞を、生体外に取り出して培養するにあたり、細胞の接着、増殖、分化誘導にとって、最適な環境、具体的には、安定、無毒性、かつ弾性率、硬度の低い培養基材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明は、バイオテクノロジー分野、なかでも細胞を培養する用途に使用される基材であって、原材料に、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体を使用し、動的粘弾性測定(引張モード、11Hz)における、温度10℃〜40℃±3の貯蔵弾性率(E’)が、500Pa〜100MPaの範囲である細胞培養基材を提供する。
【0017】
更に、本発明は、温度10℃〜40℃におけるショア硬度(ASTM D 2240)が、2〜80の範囲である細胞培養基材を提供する。
【0018】
更に、本発明は、細胞培養基材の材料比における、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体が100〜10wt%、オイルが0〜90wt%の範囲である細胞培養基材を提供する。
【0019】
更に、本発明は、細胞培養基材の培養面に、複数の凸、又は凹構造を備える細胞培養基材であって、前記凸、又は凹構造の幅または直径が100nm〜5000μmであり、前記凸、又は凹のアスペクト比が0.2〜10.0の範囲である細胞培養基材を提供する。
【0020】
更に、本発明は、凸、又は凹構造を備える細胞培養基材の製造方法であって、原材料であるブロック共重合体を有機溶剤に溶解させるステップと、凹、又は凸構造を有する原盤に、有機溶剤に溶解したブロック共重合体を配置した後、有機溶媒を乾燥させるステップと、前記原盤上に形成された凹、又は凸パターンにしたがって、前記原盤のパターンを転写して凸、又は凹構造を備える細胞培養基材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、薬理学的試験、生理学的試験や毒性試験等において細胞を培養する用途に使用される細胞培養基材において、柔らかく様々な生体物質に囲まれた環境で生存している細胞と同様に、動的粘弾性測定における貯蔵弾性率、ショア硬度が低く、細胞の接着、増殖、分化誘導にとって、最適な細胞培養基材を提供することが可能となる。
【0022】
これにより、薬理学的試験、生理学的試験や毒性試験等において、目的とする細胞を再現性良く得られることができ、更には、再生医療を代表とするバイオテクノロジー分野における展開に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】比較例1〜3、及び実施例1〜5における、(a)が細胞培養基材の上蓋の側面図、(b)が細胞培養基材の下蓋の平面図、(c)が細胞培養基材の下蓋の側面図である。
【図2】比較例4、及び実施例6における、(a)が正方形型のマイクロ容器を有する細胞培養基材の上蓋の側面図、(b)が正方形型のマイクロ容器を有する細胞培養基材の下蓋の平面図とその拡大平面図及び拡大側面図、(c)が正方形型のマイクロ容器を有する細胞培養基材の下蓋の側面図である。
【図3】長方形型のマイクロ容器を有する細胞培養基材の平面図とその拡大平面図及び拡大側面図である。
【図4】複数の凸構造で形成されたマイクロ空間構造を有する細胞培養基材の平面図とその拡大平面図及び拡大側面図である。
【図5】分画培養のための基質(細胞接着分子)滴下エリア、流路、細胞培養エリアを有する細胞培養基材の平面図とその拡大平面図及び拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
近年、創薬研究や再生医療研究などでES細胞やiPS細胞が注目され細胞研究は盛んであるが、従来の細胞培養基材では解決できない問題が山積している。注目すべきは、柔らかく様々な生体物質に囲まれた環境で生存している細胞を、生体外に取り出して培養するにあたり、ポリスチレン、ガラス、石英ガラス等の基材は細胞の足場材料としては硬く、コラーゲンを代表とした細胞外マトリックスを培養面に被覆しても、細胞の培養効率が極端に低くなる問題である。
【0025】
共重合体には、ランダム共重合体(―ABBABBBAAABA―)、交互共重合体(―ABABABABABAB―)、周期的共重合体(―AAABBAAABBAAA―)、ブロック共重合体(―AAAAAABBBBBB―)、の4種類の構造がある。 また、ブロック共重合体の一種にグラフト共重合体と呼ばれるものがあり、幹となる高分子鎖に、異種の枝高分子鎖が結合した枝分かれ構造をしている。
【0026】
物性の長期安定性に優れ、細胞毒性の低い理化学用プレートを実現するにはスチレン系ブロック共重合体、又はアクリル性ブロック共重合体を使用とすることで可能となる。ブロック共重合体は、リビング重合法によって製造される。リビング重合とは、重合反応の中でも、連鎖重合において移動反応・停止反応などの副反応を伴わない重合のことである。リビング重合の特徴は、ポリマーの生長末端が常に重合活性である(livingである)ため、モノマーが完全に消費されたあと新たにモノマーを加えると重合がさらに進行すること、鎖の長さのそろったポリマーが得られること等の点を挙げることができる。
【0027】
スチレン系ブロック共重合体とは、例えば、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン(SIS)、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(SBS)、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンの共重合体の水素添加物(SEPS)、ポリスチレン−ブタジエン−ポリスチレンの共重合体の水素添加物(SEBS)等があげられる。
【0028】
アクリル系ブロック共重合体とは、例えば、ポリメチルメタクリレート−ボリブチルアクリレート(MA)、ポリメチルメタクリレート−ポリブチルアクリレート−ポリメチルメタクリレート(MAM)等があげられる。
【0029】
ブロック共重合体は、ソフト(ゴム状性質)セグメントの比率が高くなると、硬質から軟質への性質を示すことが可能となる。プロック共重合体は、可塑剤を使用しないため、時間経過、例えば6ヶ月以上が経過しても、軟質の度合いが変化することがなく、製品としての品質を保証することが可能となる。
【0030】
ブロック共重合体の分子量が長く、かつ揃っていると、培養細胞を中心とした生物試料を扱う場合に効果を発揮することができる。ランダム共重合によって得られた材料は、分子量の小さいものが含まれており、γ線滅菌処理で、更に分子量が小さくなり、培養細胞に対して毒性物となり、細胞培養基材には適さない。ブロック共重合体は、分子量が長く、かつ揃っていることで、γ線滅菌処理に対しても、毒性物となることは無い。
無毒性で、軟質な材料は、バイオテクノジー分野、なかでも細胞を培養する用途において、飛躍的な新しい価値を提供することができる。無毒性で、軟質な材料は、広範な範囲の細胞種に対し、細胞の接着、増殖、分化誘導に優れ、薬理学的試験、生理学的試験や毒性試験等において、実験動物を使用した試験結果との再現、更には、創薬研究や再生医療研究を目的とした組織培養への展開が可能となる。
【0031】
動的粘弾性測定は、ブロック共重合体のキャラクタリゼーションを把握するうえで、有効な手段である。ブロック共重合体のハードセグメントと、ソフトセグメントの割合において、ハードセグメントの比率が高くなると、貯蔵弾性率(E’)は高くなり、硬質化の傾向となる。ソフトセグメントの比率が高くなると、貯蔵弾性率(E’)は低くなり、軟質化の傾向となる。
【0032】
培養細胞の接着、増殖、分化誘導を促進させる観点から、動的粘弾性測定(引張モード、11Hz)における、温度10℃〜40℃±3の貯蔵弾性率(E’)は、500Pa〜100MPaの範囲であることが好ましく、5000Pa〜10MPaの範囲がより好ましい。
【0033】
動的粘弾性測定は、貯蔵弾性率(E’)に加え、ガラス状態からゴム状態への転移に対応するソフト(ゴム状性質)セグメントのtanδのピーク温度を測定することで、軟質の度合いを評価することが可能である。
【0034】
培養細胞の接着、増殖、分化誘導を促進させる観点から、動的粘弾性測定(引張モード、11Hz)における、ゴム状態からガラス状態への転移に対応するソフトセグメントのtanδのピーク温度は、−100〜+30℃の範囲であることが好ましく、−70〜+10℃の範囲であることがより好ましい。
【0035】
本発明の細胞培養基材は、プレートの硬度が高すぎると、培養細胞の分化、増殖機能を阻害する。培養細胞の接着、増殖、分化誘導を促進させる観点から、温度10℃〜40℃におけるショア硬度(ASTM D 2240)は、2〜80の範囲であることが好ましく、10〜60の範囲であることがより好ましい。
【0036】
本発明の細胞培養基材は、例えば、細胞培養基材の両端に貫通孔を形成し、細胞培養シートを伸張させる用途に用いることも可能である。例えば、筋芽細胞は、軟質な基材の上で筋管細胞に分化することが知られている。細胞培養シートを伸張、収縮させることで筋管細胞シートを伸張、収縮させ、筋管細胞シートから産生される物質を回収し、実験動物のインスリン産生能を評価する試験等に用いることができる。貫通孔のエッジからの引き裂きが発生することなく、一定の伸張伸びを有する範囲として、引張物性における100%モジュラス値が、0.02MPa〜20MPaの範囲であることが好ましく、0.5MPa〜10MPaの範囲であることがより好ましい。
【0037】
本発明の細胞培養基材は、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体を単体で使用する以外に、オイルを添加することで、所望の貯蔵弾性率(E’)、硬度を得ることも可能である。
【0038】
本発明の細胞培養基材は、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体を単体で使用する以外に、ポリマーの配合品を使用することで、所望の貯蔵弾性率(E’)、硬度を得ることも可能である。スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体を使用することで、例えば、ポリスチレンを使用する場合と比較し、分子量が長く、かつ揃っているために、オイルの配合比が高い場合であっても、オイルがブリードアウトすることがないため、貯蔵弾性率(E’)、硬度が変化しないことが利点となる。
【0039】
所望の貯蔵弾性率(E’)、硬度を得るための配合比は、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体が100〜10wt%、オイルが0〜90wt%の範囲が好ましく、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体が80〜20wt%、オイルが20〜80wt%の範囲がより好ましい。
【0040】
オイルの種類としては、例えば、石油系オイル(例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等)、スクワラン、スクワレン、植物系オイル(例えば、オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油、ラッカセイ油)、シリコンオイル等いることができる。なかでも、培養細胞に毒性を与えない観点から、植物系オイルが好ましい。
【0041】
スチレン系ブロック共重合体を原材料とした場合、例えば、硬質のポリプロピレン(PP)を配合することで、所望のプレートを得ることが可能となる。アクリル系ブロック共重合体を原材料とした場合、例えば、硬質のポリメチルメタクリレート(PMMA)を配合することで、所望のプレートを得ることが可能となる。
【0042】
所望の貯蔵弾性率(E’)、硬度を得るための配合比は、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体が100〜40wt%、ポリマーが0〜60wt%の範囲が好ましく、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体が80〜60wt%、ポリマーが20〜40wt%の範囲がより好ましい。
【0043】
本発明の細胞培養基材の形成方法は、特に限定されないが、例えば、押し出し成形、射出成形、ホットエンボス成形、ナノインプリント成形、ブロー成形、カレンダー成形、キャスト成形、熱プレス成形等を挙げることができる。
【0044】
本発明の細胞培養基材は、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体を使用することで、各ブロックの屈折率が異なっていても、数10nm単位の相分離構造となるため、可視光波長の400〜650nmの光を屈折させることがなく、透明な細胞培養基材を得ることが可能である。
【0045】
スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体にオイル、又はポリマーを配合する場合においても、例えば、スチレン系ブロック共重合体と相溶するポリプロピレン(PP)、例えば、アクリル系ブロック共重合体と相溶するポリメチルメタクリレート(PMMA)を使用することで、数10nm単位の相分離構造となるため、透明な細胞培養基材を得ることが可能となる。
【0046】
培養細胞の顕微鏡観察における必要な光学物性値は、全光線透過率(厚み:3mm)80%以上、ヘイズ値(厚み:3mm)15%以下であることが好ましく、全光線透過率85%以上、ヘイズ値10%以下であることがより好ましい。
【0047】
本発明の細胞培養器材は、その表面に凸、又は凹構造を備えることで、培養細胞の性質を飛躍的に高めること可能である。例えば、図2に示すような、複数のマイクロ容器構造を有することで、細胞から産生される物質を、培養液中に拡散することを防止でき、培養細胞の接着能(生存率)を高めたり、培養細胞の分化・増殖速度を高めることが可能となり、実験の再現性(精度)の向上や、実験にかかるコストダウンが実現可能となる。
【0048】
また、例えば、図3に示すような複数の長方形型のマイクロ容器構造とすることで、マイクロ容器の土手部分に定着する細胞の性質を利用して、細胞を配向させることが可能となる。例えば、ブタ・筋芽細胞を長方形型のマイクロ容器の土手部分に配向させたのち、筋管細胞に分化させることで、生体内と同様に、規則性を持って、十分な伸張距離を有する細胞シートを得ることが可能となる。
【0049】
また、図4に示すように、マイクロ空間構造の一部に開口部を有することで、細胞間のネットワークを構築することが可能である。例えば、マウス新生児の心筋細胞の培養では、擬似足場をマイクロ構造の壁部に形成し、開口部によって細胞同士が連結したネットワークを形成でき、細胞の信号伝播に関する研究において、生体内を模擬した細胞培養試験が可能となる。
【0050】
また、患者から取り出した血管内皮細胞を培養した場合は、高血圧症の有無により、開口部を経由して増殖する速度の差異を、タイムラプス観察で確認することができ、投薬効果の有無を、リアルに患者の細胞で評価することが可能となる。
【0051】
凸、又は凹構造の寸法は、工業技術として、再現性良く、低コストで生産可能な観点から、幅または直径が100nm〜5000μm、凸、又は凹のアスペクト比が0.2〜10.0の範囲であることが好ましく、幅または直径が2μm〜3000μm、凸、又は凹のアスペクト比が0.5〜5.0の範囲であることがより好ましい。
【0052】
本発明の細胞培養基材は、分画培養の用途にも適している。分画培養とは、1コの細胞培養基材に仕切り板を設け、複数の培養区画に、例えば、異なる基質を被覆することで、複数種類の細胞培養を、1コの細胞培養基材で行うものである。
【0053】
細胞培養基材別に細胞培養を行う場合と比較し、バッチ間のバラツキを解消することが可能となる。例えば、図5に示すように、基質(細胞接着分子)の滴下エリア、流路、培養エリアの1組を、1コの細胞培養基材に複数配置することで、研究者が任意の基質を培養エリアに配置し、複数の細胞から産生される物質の相互作用、分化の違い等、生体モデルを模擬した複雑な条件下での培養試験が可能となる。
【0054】
本発明の細胞培養基材の全体または一部に、有機膜、又は無機膜を被覆することで、表面性を改質することができ、展開用途を更に拡大させることが可能となる。例えば、凹凸構造の表面を親水化することで、水系試料を配置した際の気泡の排除、生物試料を配置した際の接着性の向上、血液試料を配置した際の血小板、たんぱく質の抗付着制御が可能となる。
【0055】
有機膜の被覆方法は、薬品処理、溶剤処理、カップリング剤処理、モノマーコーティング、ポリマーコーティング、蒸気処理、表面グラフト化、紫外線照射処理、プラズマ接触処理、プラズマジェット処理、プラズマ重合処理、イオンビーム処理、ディッピング法、スピンコート法、エキシマUV処理等があげられる。
【0056】
無機膜の被覆方法は、電気化学的(電気メッキ)処理、陽極酸化、真空蒸着法、スパッタリング法等があげられる。
【0057】
有機膜の種類は、例えば、酢酸ビニル系樹脂(商品名:エクセバール、ポバール)、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリ尿素膜、日本油脂(株)製の商品名:Lipidure-PMB(リン脂質極性基を有するMPCポリマーとブチルアクリレートの共重合ポリマー)等をあげることができる。
【0058】
無機膜の種類は、例えば、AL、Au、Ag、Cu、MgiO、AlO、SiO、Si等をあげることができる。
【0059】
有機膜、又は無機膜の膜厚は、再現性良く、改質された表面を実現するうえで、0.005〜30μmの範囲であることが好ましく、0.05〜10μmの範囲であることがより好ましい。
【0060】
本発明の細胞培養基材は、有機溶剤に溶解させることで、凸、又は凹構造を備えることが可能となる。凸、又は凹構造の形成方法を説明する。
【0061】
スチレン系ブロック共重合体の場合は、トルエン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ヘキサン等が溶剤としてあげられる。アクリル系ブロック共重合体の場合は、メタノール、エタノール、エーテル、アセトン等が溶剤としてあげられる。
【0062】
ブロック共重合体と溶剤との混合比は、溶液の粘度が高くなると微細なマイクロ凹凸構造体への転写性が低下する傾向となるため、凹凸構造のサイズに応じて、適宜選択することが好ましい。ブロック共重合体が50wt%〜5wt%、溶剤が50wt%〜95wt%の範囲であることが好ましく、ブロック共重合体が30wt%〜15wt%、溶剤が70wt%〜85wt%の範囲であることがより好ましい。また、キャスト成形品に気泡を発生させない方法として、ブロック共重合体を溶解させた溶液を、真空吸引によって乾燥させることが望ましい。
【0063】
凹、又は凸構造を有する原盤は、例えば、耐薬品性を有するプラスチックへの切削加工品、金属性プレートへの切削加工品、シリコンウェハー、ガラスにエッチング処理を施した基板や、光反応性レジストを使用したパターン等があげられる。光反応性レジストを使用した場合は、日本化薬(株)が販売する化学増幅型光架橋レジスト、型式SU−8が、耐薬品性が高く、アスペクト比の高い構造体が得られる点で特に好ましい。
【0064】
有機溶剤に溶解させたブロック共重合体は、原盤の周囲を土手で囲い、配置した有機溶剤を乾燥させることで、凸、又は凹構造を備える細胞培養基材を得ることができる。 原盤の周囲を覆う材料は、架橋ゴム、ポリエチレン、テフロン(登録商標)等、耐薬品性を有する材料を使用することが望ましい。
【0065】
凸、又は凹構造を有する細胞培養基材の板厚を厚くするには、ブロック共重合体の濃度を高める方法があるが、微細な形状を転写する場合は、転写性が低下することが懸念される。板厚3mmの凸、又は凹構造を有する理化学用プレートを得る方法として、例えば、ブロック共重合体の濃度を15wt%とし、その溶液の上に、熱プレス成形で得た3mmシートを重ねることで板厚3mmのシートを得ても良い。板厚3mmのシートを重ねるタイミングは、溶剤の乾燥中、又は溶剤の乾燥後であってもよく、シートに平坦性が要求される場合は、溶剤の乾燥中であることが好ましい。
【0066】
前記原盤のパターンを転写して得た凸、又は凹構造を有するプレートは、種層を付着させた後、前記種層上に、めっき処理によって金属層を形成し、型用金属構造体として使用することで、寸法精度と低コスト化を満足する樹脂成形品を提供することが可能となる。
【0067】
種層の形成方法は特に限定されないが、好ましくは蒸着、スパッタリング、無電解メッキ等を用いることができる。種層に用いられる導電性材料としては金、銀、白金、銅などを挙げることができる。金属層を堆積させるメッキ方法は特に限定されないが、例えば電解メッキ、無電解メッキ等を挙げることができる。用いられる金属は特に限定されないが、ニッケル、ニッケルの結晶構造を変更したもの、ニッケル-コバルト合金、銅、金を挙げることができ、経済性・耐久性の観点からニッケルが好ましく用いられる。
【0068】
前記原盤のパターンを転写して得た凸、又は凹構造を有するプレートを使用して、型用金属構造体を得る製造法において、前記原盤に、日本化薬(株)が販売する化学増幅型光架橋レジスト、型式SU−8を使用する場合、特にその効果を発揮する。
【0069】
化学増幅型光架橋レジストSU−8は、微細、かつ高アスペクト比構造体を製作することが可能なレジストである。しかし、これに種層を付着させ、型用金属構造体を得た場合は、高い架橋密度により、どんな有機溶剤を使用しても、SU−8を型用金属構造体から剥離することができず、日本、世界の研究者の課題となっている。
【0070】
SU−8のレジストパターン体に、溶剤に溶解させたポリメチルメタクリレート樹脂をキャスト成形し、転写体を得ようと試みても、ポリメチルメタクリレート樹脂が硬質であるため、SU−8に樹脂の一部が残り、転写体を得ることは困難を極めていた。
【0071】
本発明の凸、又は凹構造を有する細胞培養基材は、軟質樹脂であるため、SU−8のレジストパターン体に樹脂の一部が残ることなく、完成度の高い転写体を得ることが可能である。更に、型用金属構造体から、有機溶剤で容易に軟質樹脂を溶解させることが可能であり、長い間課題であったSU−8からの型用金属構造体を得ることに成功した。
【0072】
型用金属構造体を使用して、例えば、射出成形で樹脂成形品を形成する場合、1枚の型用金属構造体で1万枚〜5万枚、場合によっては20万枚もの樹脂成形品を得ることができ、金属構造体の製作にかかる費用負担を大幅に解消することが可能である。また、射出成形1サイクルに必要な時間は5秒〜30秒と短く、生産性の面で極めて効率的である。射出成形1サイクルで同時に複数個の樹脂成形品を形成可能な成形金型を使用すれば、更に生産性を向上することが可能となる。
【0073】
樹脂成形品を形成するのに使用する樹脂材料としては特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合樹脂(MS樹脂)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、スチレン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂ポリジメチルシロキサンなどのシリコン樹脂等を挙げることができる。
【0074】
これらの樹脂は必要に応じて滑剤、光安定剤、熱安定剤、防曇剤、顔料、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの1種または2種以上を含有することができる。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を説明する。本実施例で示した細胞培養基材は一例であり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
これらの実施例および比較例は、動的粘弾性測定における貯蔵弾性率(E’)、及びtanδ等の値の異なるものを使用し、培養細胞の接着能、及び分化・増殖能を解析したものである。細胞の接着能は、比色分析法であるCrystal Violet法で解析した。細胞の増殖能は、比色分析法であるMTT法で解析し、比較例1を100%とした。
【0077】
Crystal Violet法は、Crystal
Violetが生細胞に取り込まれることを利用した比色分析法である。具体的には、5.0×10個のHeLa細胞をインキュベーター内で2時間かけて培養した後、生理食塩水で洗浄し、基板に接着している細胞と、浮遊(死んでいる)細胞とを区分した。次に、Crystal Violetで染色した後、SDS(sodium dodecyl
sulfate)溶液を用いて基板に付着している細胞を溶解し、波長540nmの吸光度を測定し、比較例1と比較した。データ数はn3とし、その平均値を求めた。
【0078】
MTT法は、MTT(テトラゾリウム塩の一種)が細胞内の脱水素酵素による反応によって、ホルマザンに変化することを利用した染色法である。細胞が元気な場合は酵素活性が高く、ホルマザンへの還元が高く、ホルマザン濃度が高くなる。この濃度差を吸光度として細胞数計測に利用したものである。具体的には、5.0×10個のHeLa細胞をインキュベーター内で3時間かけて培養した後、生理食塩水で洗浄し、基板に接着している細胞と、浮遊(死んでいる)細胞とを区分した。インキュベーター内で48時間かけて培養した後、MTTを含む培養液と交換しさらに3時間培養を続けた。そして、イソプロパノールを加えてホルマザンを溶解、波長570nmの吸光度を測定し、比較例1と比較した。データ数はn3とし、その平均値を求めた。
[動的粘弾性測定]
(株)オリエンテック製のレオバイブロン動的粘弾性自動測定器(型式:DDV)を使用し、引張モード、昇温速度3℃/分、周波数11Hzの条件にて、−100℃〜200℃における貯蔵弾性率(E’)、及びtanδ測定を行った。
[ショア硬度(ASTM D 2240)]
エムアンドケー(株)製のショア硬度計(型式:タイプMデュロメータ、IRHD−M)を使用し、ショア硬度を2回測定し、その平均値を求めた。
[引張物性測定]
(株)島津製作所製のオートグラフAGSを使用し、100%モジュラス(100%の伸びを与えたときの引張応力)を2回測定し、その平均値を求めた。
[光学物性]
(株)スガ試験機製の可視光線透過率計(型式:HA−TR)を使用し、全光透過率およびヘイズ値を測定した。具体的には、ISO13468、ISO14782に準拠した方法で2回測定し、その平均値を求めた。
[細胞培養基材の製作]
IWAKI社、ポリスチレン製細胞培養シャーレ(型式:3000−035、外形40mm×高さ13mm、培養面積9cm)の培養面となる底面を切り出した。
【0079】
次に、比較例、実施例で製作した樹脂プレートを所定の寸法に切り出し、精電舎電子工業(株)の電磁誘導ウェルダー(型式:UHT−502)を用い、融着幅1.4mmにて融着を行った後、滅菌を行った。IWAKI社製細胞培養シャーレの培養面積9cmに対し、融着幅を除いた細胞培養基材の面積は8.24cmとなり、92%が細胞培養基材の培養エリアとなった。
【0080】
比較例、実施例では、製作した樹脂プレートを、培養面となる底面に融着したが、射出成形法等により、シャーレ、又はウェルプレート等の全体を一括して成形し、本発明の細胞培養基材としても良い。
[比較例1]
株式会社クラレ製のアクリル樹脂(パラペットGH−S)を使用し、射出成形法により、直径35mm、厚さ0.8mmの樹脂プレートを複数作製した。次に、所定の寸法に切り出し、動的粘弾性、ショア硬度、引張物性、光学物性を測定した後、培養細胞の接着能、及び増殖能を解析測定した。
[比較例2]
アクリル系ブロック共重合体(クラレ社、商品名:LAポリマー、型式:LA2250)と、硬質アクリル樹脂(クラレ社、商品名:パラペット、型式GH−S)の配合比が、30/70wt%のブレンド品を使用し、熱プレス成形により樹脂プレートを得た以外は、比較例1と同様にして比較例2を得た。
[比較例3]
スチレン系ブロック共重合体(クラレ社、商品名:ハイブラー、型式:5127)を使用し、熱プレス成形により、樹脂プレートを得た以外は、比較例1と同様にして比較例3を得た。
[比較例4]
株式会社クラレ製のアクリル樹脂(パラペットGH−S)を使用し、スタンパーを使用した射出成形法により、直径35mm、厚さ0.8mmの樹脂プレート上に、縦・横100μm、深さ30μm、スペース20μmの複数のマイクロ容器を有する樹脂プレートを得た以外は、比較例1と同様にして比較例4を得た。
[実施例1]
アクリル系ブロック共重合体(クラレ社、商品名:LAポリマー、型式:LA2250)を使用し、熱プレス成形により、直径35mm、厚さ0.8mmの樹脂プレートを複数作製した。次に、所定の寸法に切り出し、動的粘弾性、ショア硬度、引張物性、光学物性を測定した後、培養細胞の接着能、及び増殖能を解析測定した。
[実施例2]
アクリル系ブロック共重合体(クラレ社、型式:LA2140e)を使用した以外は、実施例1と同様にして実施例2を得た。
[実施例3]
スチレン系ブロック共重合体(クラレ社、商品名:ハイブラー、型式:5125)を使用した以外は、実施例1と同様にして実施例3を得た。
[実施例4]
スチレン系ブロック共重合体(クラレ社、商品名:ハイブラー、型式:7311)を使用した以外は、実施例1と同様にして実施例4を得た。
[実施例5]
スチレン系ブロック共重合体(クラレ社、商品名:ハイブラー、型式:7311)に、植物系オイル(日清オイリオ、日清キャノーラ油)を、スチレン系ブロック共重合体/植物系オイル=40/60(wt%)の混合比にて、ハードミキサー(日本ソセー(株)、型式:ミニハードミキサー)にかけて混練を実施した。次に、熱プレス成形により、実施例1と同様にして実施例5を得た。
[実施例6]
アクリル系ブロック共重合体(クラレ社、型式:LA2140e)を使用し、スタンパーを使用した射出成形法により、直径35mm、厚さ0.8mmの樹脂プレート上に、縦・横100μm、深さ30μm、スペース20μmの複数のマイクロ容器を有する樹脂プレートを得た。次に、実施例1と同様にして実施例6を得た。
【0081】
【表1】

表1は、実施例、及び比較例における物性値、及び細胞培養試験における接着能、増殖能を記載した表である。この表1から、動的粘弾性における貯蔵弾性率(E’)、及び硬度の値が高い比較例1〜4では、細胞接着能、細胞の増殖能が低く、細胞培養基材としての性能が低いことが分かる。特に、比較例4では、複数のマイクロ容器構造を有するものの、特段の性能を認めることはできなかった。
【0082】
表1から、実施例1〜6は、貯蔵弾性率、ショア硬度、引張物性の範囲を満足する細胞培養基材であり、高い透明性を保持すると同時に、高い細胞接着能、及び増殖能を有していることが確認できる。特に、貯蔵弾性率、ショア硬度の値が低い実施例5、又は複数のマイクロ容器構造を有する実施例6は、細胞の増殖能が優れることが確認できる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養する用途に使用される基材であって、原材料に、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体を使用し、動的粘弾性測定(引張モード、11Hz)における、温度10℃〜40℃±3の貯蔵弾性率(E’)が、500Pa〜100MPaの範囲である、細胞培養基材。
【請求項2】
前記動的粘弾性測定(引張モード、11Hz)における、ガラス状態からゴム状態への転移に対応するソフトセグメントのtanδのピーク温度が−100〜+30℃の範囲である、請求項1記載の細胞培養基材。
【請求項3】
温度10℃〜40℃におけるショア硬度(ASTM D 2240)が、2〜80の範囲である、請求項1、又は2記載の細胞培養基材。
【請求項4】
引張物性における100%モジュラス値が、0.02MPa〜20MPaの範囲である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
前記細胞培養基材の材料比における、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体が100〜10wt%、オイルが0〜90wt%の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
【請求項6】
前記細胞培養基材の材料比における、スチレン系ブロック共重合体、又はアクリル系ブロック共重合体が100〜40wt%、ポリマーが0〜60wt%の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
【請求項7】
前記細胞培養基材の光学物性値における、全光線透過率(厚み:3mm)が80%以上、ヘイズ値(厚み:3mm)が15%以下の透明である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
【請求項8】
前記細胞培養基材の培養面に、複数の凸、又は凹構造を備える細胞培養基材であって、前記凸、又は凹構造の幅または直径が100nm〜5000μmであり、前記凸、又は凹のアスペクト比が0.2〜10.0の範囲である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
【請求項9】
前記細胞培養基材の培養面となる底面に、仕切り板が設けられており、複数の培養区画が設けられている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞培養基材
【請求項10】
前記細胞培養基材の全体または一部に、有機膜または無機膜が被覆され、膜厚が0.005〜30μmの範囲である請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
【請求項11】
前記複数の凸、又は凹構造を備える細胞培養基材の製造方法であって、原材料であるブロック共重合体を有機溶剤に溶解させるステップと、
凹、又は凸構造を有する原盤に、有機溶剤に溶解したブロック共重合体を配置した後、有機溶媒を乾燥させるステップと、
前記原盤上に形成された凹、又は凸パターンにしたがって、前記原盤のパターンを転写して凸、又は凹構造を備える細胞培養基材の製造方法。
【請求項12】
前記原盤のパターンを転写して得た複数凸、又は凹構造を備えるプレート上に種層を付着するステップを備え、前記種層上に、めっき処理によって金属層を形成する、請求項11に記載の細胞培養基材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate