説明

細胞培養用ディッシュ

【課題】細胞、コロニー又は細胞領域の、手動又は自動検出及び回収と干渉しない、標識を有する細胞培養ディッシュを提供する。
【解決手段】細胞培養用ディッシュ10、特にペトリディッシュにおいて、基部12の壁部分16とカバー18の上部20はともに、特定の細胞増殖領域を、このディッシュの底に与えられた標識を妨害することを避ける特定の増殖領域の検索(retrieval)を可能にする、特定の座標に相関させることができる標識で与えられる、ディッシュ10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用ディッシュ、特にペトリディッシュに関する。本発明の細胞培養用ディッシュにおいて、基部の壁部分とカバーの上部はともに、特定の細胞増殖領域を、このディッシュの底に与えられた標識を妨害することを避ける特定の増殖領域の検索(retrieval)を可能にする特定の座標に相関させることができる標識で与えられる。
【背景技術】
【0002】
細胞培養は、原核細胞又は有核細胞が、制御条件下で成長/増殖されるプロセスをいう。特に、有核細胞、例えば、動物、植物、真菌、及び原生生物起源の細胞の増殖は、様々な条件、例えば、細胞の単離、培養における維持、操作、培地交換、継代細胞、トランスフェクション及び形質導入、特定の細胞株の確立、例えばハイブリドーマに必要とされる技術により課題を提示する。細胞の培養は、多くの場合、特定のディッシュ内の固形培地上で行われる。
【0003】
しかしながら、これらのディッシュは、細胞/細胞領域の検索を可能にするディッシュの特定の位置に対して、特定の細胞又は細胞領域の明確な相関が不可能であるという欠点を有する。
【0004】
この欠点を克服するために、いくつかの解決策は、当該技術分野において提案されてきた。
【0005】
米国特許第5,380,493号は、よりアクセス可能であり、可視的な位置の実験室の細胞ウェルプレートを持続し、どの個々の細胞ウェルが実験セッション中に使用されるか又はアクセスされたかを指示するためのデバイスに関連する。このデバイスは、細胞ウェルプレートを支持し、保持する角度のある受入フェースと、細胞ウェルプレート上の特定の細胞ウェルの使用を同定するためのインジケーターとを含む。しかしながら、このデバイスは、全ての種類の培養ディッシュに適用可能ではない。
【0006】
ペトリディッシュ用の類似のデバイスが米国特許第5,747,333号に開示されている。この書類は、例えば、ヒンジ接合によって連結された2つの対向する部分、この対向部分の間の規定された空間を含む支持デバイスを開示し、ここでは、その上に標識されたマトリックスを有する材料シートが挿入されていてもよい。この支持は、ペトリディッシュの基部を通して、マトリックスが可視的である標識されたマトリックス上にペトリディッシュを確保するために適合されてもよい。
【0007】
他の解決策は、細胞培養ディッシュのある種の領域上にマーカーを与えることであり、例えば、米国特許第5,928,858号に概説されている。ペトリディッシュの底部の低い表面上に、複数の所定の位置を規定する可動性の標識エレメントが、上部表面を通して可視的である標識エレメントと適合される。取り外し可能な標識エレメントは、基部ユニット内の微生物と所定の位置の1つとの間の相関を可能にする。取り外し可能な標識エレメントは、位置を規定するいくつかの分割線を含むことができ、それは、格子構造の複数の正方形又は複数のパイ形状のセクターであってもよい。
【0008】
ディッシュの特定の位置に特定の細胞又は細胞領域の相関を与える他の細胞培養ディッシュは、従来のマイクロタイタープレートであり、基部の底が任意にアルファベットや数値の記号で与えられたグリッドで与えられている、細胞をカウントするための特別のディッシュ、基部の底に形成されたウェルによる区画を提示しているペトリディッシュである。このような培養ディッシュは、とりわけ、Greiner(Kremsunster,Austria)によるものなどの実験室装置のための慣用的なカタログに記載されている。
【0009】
しかしながら、これまで提案された解決策は、細胞を特定の位置に配置するために特定のデバイスを必要とするか、又は標識が特定の細胞を回収中に妨害する位置に与えられるといった欠点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、従来技術による細胞培養用ディッシュの欠点を克服することにあり、一般に、細胞、コロニー又は細胞領域の手動及び/又は自動検出及び/又は回収と干渉しない、標識を有する細胞培養ディッシュを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、細胞を培養するための本発明の培養ディッシュを提供することによって解決されるものであって、カバーの上部と基部の壁部分の両方が、例えば、ペトリディッシュの場合には、ユーザーがカバーを回転させ、基部の壁部分に標識を用いて底に標識を配置する場合がある標識を用いて提供され、例えば、特定の位置が、一方では、ペトリディッシュの中心から距離、及び、他方では、例えば、基部の壁部分上で等距離に間隔をあけた標識の形態で提供される円形座標上に全面的に区画されている円形座標系を形成している。別の利点は、カバー上の標識が、アルファベットや数値の文字のさらに高い数を用いて、線又はルーラー及び基部の壁の形態であってもよいため、本発明の標識を用いて、より高次の組織程度が得られるということである。カバーが、一方で、細胞の回収に取り除かれ、基部の壁が上面図に知覚できないので、これらの標識は、細胞の回収/検出中に妨害されない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による細胞培養ディッシュ(10)の好ましい態様を示す。基部(12)は、底部及びそこから上方に伸びている第1壁部分(16)から形成されている。蓋又はカバー(18)は、上部(20)及びそこから下方へ伸びている第2壁部分(22)を有し、該基部を覆うように適合される。第1壁部分は、第1標識を形成する1〜12の範囲の数(24)で与えられる。第2標識は、文字(26)A、B、C、D、E及びF、並びに近辺に配置されたルーラー(28)の形態であり、該上部の半径を構成する。蓋は、グリップ領域(30)で与えられ、例えば、細胞培養用ディッシュにおいて増殖した特定の細胞に対して、特徴的な文字及び数の組合せを配置するために、蓋のハンドリング及びその正確な回転を促進する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、細胞培養用ディッシュが提供される。このディッシュは、実質的に透明な材料から作られ、底部を有する基部及びそこから上方に伸びている第1壁部分、上部を有するカバー及びそこから下方へ伸びている第2壁部分を含み、ここで、該カバーは、該基部を覆うように適合される。第1壁部分は、さらに、その上の第1標識を用いて与えられ、上部は、その上の第2標識を用いて与えられる。
【0014】
本発明の細胞培養用ディッシュは、任意の基本形を有してもよい。適切な形状には、例えば、円形、長方形、二次的(quadratic)又は他の対称的な形状が含まれる。円形の細胞培養用ディッシュの例は、ペトリディッシュであり、長方形の基本形を有する細胞培養用ディッシュの例は、マイクロタイタープレート又はマルチウェルプレートである。このディッシュは、当業者に明らかな材料、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、及びポリビニル熱可塑性レジンから、従来の射出成形又は熱成形法を用いて製造することができる。別の適切な材料はガラスである。意図された使用に依存して、試験培養ディッシュは、1つのチャンバー又は複数のチャンバーを含むように製造されてもよい。例えば、本発明のマルチチャンバー(マルチウェル)細胞培養用ディッシュは、例えば、ディッシュ当たり、4、6、8、12、24、48、96、384又は1536個のチャンバー(ウェル)を含んでもよい。細胞培養用ディッシュに含まれるチャンバーの大きさに依存して、各チャンバーの容積が変わってもよい;例えば、チャンバーは、例えば、約10ml〜約5nlを含んでもよい。細胞培養用ディッシュの直径及びそれらの製造は、当該技術分野において周知である。この培養ディッシュの蓋も格子領域で提供されてもよい。
【0015】
本発明の細胞培養用ディッシュの使用は、任意の特定の使用に限定されないことは承認される。本発明による細胞培養用ディッシュは、例えば、日常的な実験、インビボテスト、細胞接着アッセイ、増殖因子などの化学物質の細胞に対する効果について用いられてもよい。
【0016】
このディッシュは、上記で指示されたガラス又はプラスチックなどの実質的に透明な材料から作られている。実質的に透明であるということは、密閉したディッシュの外側から細胞領域及びコロニーの視覚的検出をなお可能にする材料の透明性に関する。特に、この用語は、50%以上の透明度に関する。
【0017】
カバーは、基部と同じ基本形を有してもよいことは承認される。好ましくは、カバーは、後者の完全及びシーリングカバーを可能にする基部に比較した直径を有する。用語のシーリングカバーは、気密シーリングであるが、好気性条件下で細胞の増殖が意図された従来のペトリディッシュのように、ディッシュの内部と環境との間で気体及び湿度交換をなお可能にするシーリングに関する。このような場合において、シーリングは、好ましくは、第1壁部分の外側及び/又は第2壁部分の内側で、タペットなどの小隆起を形成することによって得られる。しかしながら、シーリングは、細胞増殖のための嫌気性条件が予測される場合には、実質的に完全であってもよい。
【0018】
第1標識及び第2標識は、ルーラーの形態であってもよく、それは、座標系を作成するためにアルファベットや数値の文字(character)を等間隔で与えられ、1座標は、好ましくは数値で与えられ、他方は文字(letter)で与えられる。標識は、例えば、キャスティング技術を用いて、又は印刷、接着などによって、細胞培養用ディッシュ表面に与えられてもよい。標識は、任意の形状、色であってもよく、また、ディッシュに隆起又は凹所を有してもよいことは理解される。さらに、標識は、ディッシュ材料のものとは異なった透明性を有してもよい。好ましくは、標識は、0、10、20、30又は40%などの、ディッシュよりも低い透明度を呈する。
【0019】
別の態様によれば、実施的に透明な材料がプラスチック又はガラスで作られている細胞培養用ディッシュが提供される。適切なプラスチックの例には、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、及びポリビニル熱可塑性レジンを含み、従来の射出成形又は熱成形法を適用することによって形成される。培養ディッシュの材料は、最近の出願から従属していることは承認される。例えば、特定のプラスチックと反応する特定の化合物を要求するディッシュ内でのアッセイを実行することが意図されてもよい。このような場合、例えば、ガラスが用いられてもよい。
【0020】
さらに別の態様によれば、底部分及び上部はともに、円形領域を有し、好ましくはペトリディッシュを形成する。ペトリディッシュでは、標識は、基部の壁全体の周辺から伸びるように、カバーの上部で放射状に提供されてもよい。カバー及び基部を反対方向に回転させることによって、ディッシュ上の全ての個々の位置が決定/検出されてもよく、それは、標識が円形座標系に最小要件を与えるからであり、円の放射(radiant)上の位置と角度によって定義されてもよい。
【0021】
本発明の態様によれば、カバー/蓋の取り外しを促進するために、該第1壁部分は、上方に向かって先細りになり、該第2壁部分は、下方に向かって先細りになる。
【0022】
別の態様では、第1壁部分に提供される第1標識は、互いに等距離にあけられ、ペトリディッシュの場合には、360°の完全な円であり、ここで、例えば、5、10、20、30、40、60、90、120または180°において、マーカーが提供され、カバーの上部では、放射状のルーラーだけが必要とされる。蓋を回転させることによって、異なる第1標識及び第2標識が、基部表面の2つの座標上の各点に配置されるように相関されてもよい。
【0023】
正方形の基本形を有するディッシュの場合には、第1の側壁は、その上に与えられた標識を有する。また、該ディッシュのカバーを90°回転(カバーを持ち上げて、回転させることによって)させてもよいので、上部の4分の1は、基部表面の2つの座標上の各点に提供されるために、任意の標識を用いて提供されなければならない。
【0024】
類似の対称のアプローチが、ディッシュ面の中心から直角に伸びている対称軸(Cn軸、n=1を超える任意の自然数)を有する他の考えられる基本形に提供される。
【0025】
さらに別の態様によれば、第1標識は、互いに等距離にあけられ、第1座標に、例えば、細胞又はコロニーの位置を配置するためのメジャーを提供する。
【0026】
一態様によれば、第2標識は、ルーラーの形状である。ルーラーは、例えば、その上の等距離の標識を有する直線の形態であってもよい。また、ルーラーは、長方形又は円のような領域の形状であってもよい。任意の場合において、ルーラーは、ディッシュ内部の視覚性を与える上部の小さな部分を覆う。カバーを回転させることによって、ディッシュ内部の他の部分を視覚できるようになることは承認される。
【0027】
好ましい態様によれば、第2標識は、拡大機能を提示する領域において提供される。このような拡大機能は、上部に形成されたレンズの手段によって提供されてもよい。好ましいレンズの種類は、フレネルレンズであり、多数の同心円を含み、従来のレンズよりも薄く、フラットである。レンズ、それらの調製、並びに上部の領域への適用又は固定は、当該技術分野において知られている。
【0028】
なお別の態様によれば、第1及び第2標識は、記号(sign)で与えられる。この記号は、好ましくは、アルファベットや数値の記号の形態であり、例えば、第1標識は、数で与えられ、第2標識は、アルファベットの文字で与えられ、あるいはその反対である。これは、細胞又はコロニーの回復及び再現性を促進するディッシュの2つの座標に任意の細胞又は(細胞)コロニーを配置する可能性を提供する。
【0029】
別の態様では、本発明の細胞培養用ディッシュを製造する方法が提供される。該方法は、底部分とそこから上方に伸びている第1壁部分とを有する基部、及び上部とそこから下方に伸びている第2壁部分とを有するカバーを含む細胞培養用ディッシュを用意し、ここで、該カバーは、該基部を覆うように適合され、第1壁部分及び第2壁部分上に標識をキャストする工程を含む。標識は、製造過程において二者択一的に提供されてもよいことは承認される。これによって、製造するための従来のデバイスを用いてもよいことは有利である。このようなデバイス、並びに必要とされる材料の使用は、当業者の知識の範囲内であることは承認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に透明な材料で作られている細胞培養用ディッシュであって、
底部分とそこから上方に伸びている第1壁部分とを有する基部、
上部とそこから下方に伸びている第2壁部分とを有するカバー
を含み、ここで、該カバーは、該基部を覆うように適合され、第1壁部分がその上の第1標識(marking)で与えられ、上部がその上の第2標識で与えられることによって特徴付けられる前記細胞培養用ディッシュ。
【請求項2】
実質的に透明な材料がプラスチック又はガラスで作られている、請求項1に記載の細胞培養用ディッシュ。
【請求項3】
底部分及び上部が円形領域を有する、請求項1又は2に記載の細胞培養用ディッシュ。
【請求項4】
ペトリディッシュの形態である、請求項2又は3に記載の細胞培養用ディッシュ。
【請求項5】
第1壁部分が上方に向かって先細りであり、第2壁部分が下方に向かって先細りである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養用ディッシュ。
【請求項6】
第1標識が互いに等距離に間隔をあけている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養用ディッシュ。
【請求項7】
第2標識がルーラーの形態である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞培養用ディッシュ。
【請求項8】
第2標識が拡大機能を呈する領域に与えられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養用ディッシュ。
【請求項9】
第1標識及び第2標識が記号(sign)で与えられる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞培養用ディッシュ。
【請求項10】
記号がアルファベット及び数値の記号である、請求項9に記載の細胞培養用ディッシュ。
【請求項11】
第1標識が数値の記号で与えられ、第2標識がアルファベット文字で与えられる、請求項9又は10に記載の細胞培養用ディッシュ。
【請求項12】
細胞培養用ディッシュを製造する方法であって、
底部分とそこから上方に伸びている第1壁部分とを有する基部、及び上部とそこから下方に伸びている第2壁部分とを有するカバーを含む細胞培養用ディッシュを用意し、ここで、該カバーは、該基部を覆うように適合され、
第1壁部分及び第2壁部分上に標識をキャストする
工程を含む前記方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−183287(P2009−183287A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−21899(P2009−21899)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(501186645)エッペンドルフ アクチェンゲゼルシャフト (9)
【Fターム(参考)】