説明

細胞培養用基材、培養基材の製造方法、細胞培養方法および細胞回収方法

【課題】細胞を培養するための基材である三次元架橋体のハイドロゲル内及び/またはゲル上で培養させたものを、容易に三次元架橋体を溶解して培養細胞を回収するための方法を提供すること。
【解決手段】細胞培養用基材であって、前記基材の表面に、水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液および細胞接着タンパク質とでなる三次元架橋体が配置されていることを特徴とする細胞培養用基材であって、水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液と細胞接着タンパク質とを混合して三次元架橋体を形成し、該三次元架橋体の内部または表面において細胞を培養する。更に、培養後、架橋構造を解くために多価水酸基を有する化合物を添加することで三次元架橋体を溶解し細胞培養用基材からの細胞を簡便に回収することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用の三次元細胞培養基材の作製、三次元細胞培養基材を用いた細胞培養方法および三次元細胞培養基材からの細胞の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養技術は、有用生理活性物質の生産、再生医療における組織再生のための機能性細胞または幹細胞の培養、さらに細胞毒性評価や薬効評価用のシミュレーターとして用いられている。
【0003】
従来、接着依存性細胞の培養はガラスやプラスチック表面を親水化処理したものの上に細胞を接着させて培養されるのが一般的であるが、こうした場合に、培養細胞の正常機能が消失してしまう場合が多く見られる。こうした問題点を克服するために、生体内で細胞の周囲に存在している細胞外マトリックス上で細胞を培養する方法が開発された(非特許文献1)。例えば、コラーゲン1型でゲルを作製しその中や上で細胞を培養する方法がある。また、より細胞機能を維持して培養するためには、基底膜成分で構成されたマトリゲル(非特許文献2)がしばしば使用されている。
【0004】
これらのゲル培養法は、細胞の機能の維持、亢進には効果が見られるが、培養後の細胞回収においては、ゲルまたは細胞外マトリックスを溶解す・分解する必要があり、そのためにタンパク質分解酵素を処方するなど、細胞にとっては過酷な条件を用いる必要があり、そのため、細胞がダメージを受ける可能性がある。また、タンパク質分解酵素の使用は再生医療などに用いる細胞においてはその安全性の面から重大な問題である。
【0005】
そうした点を克服するため、種々の検討がなされており、例えば、特許文献1には、水溶性モノマーと水膨潤性粘度からなる架橋高分子ヒドロゲルが記されており、外部環境によって表面の親水性、疎水性を可逆的に制御し、それにより細胞接着挙動を変化させて細胞の回収性を高める工夫がなされている。
【0006】
また、特許文献2には、温度感受性高分子材料状に含水ゲルを構築させ、該ゲルの内外で細胞を培養した後、温度感受性高分子材料の特性を利用しゲルを基材から剥離させる方法が記載されている。
【0007】
これらの方法は、細胞の三次元培養には有効な方法であるが、細胞そのものの回収に優れた手段とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−110604号公報
【特許文献2】特開2005−176812号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Dairy Physiol.,Vol.61,P729−732(1978)
【非特許文献2】Biochemistry,Vol.21,p6188−6189(1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、三次元細胞培養基材の作製、培養および基材からの細胞の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)細胞を培養するために用いる細胞培養用基材であって、
前記基材の表面に、ホスホリルコリン基及びフェニルボロン酸基を含有する水溶性ポリマー溶液、多価水酸基を有する水溶性化合物溶液および細胞接着タンパク質とでなる三次元架橋体が配置されていることを特徴とする細胞培養用基材。
(2)前記細胞接着タンパク質が、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ヴィトロネクチンであることを特徴とする(1)記載の細胞培養用容器。
(3)前記コラーゲンが、1型、2型、3型、4型もしくは5型から選ばれる少なくとも一つである(2)記載の細胞培養用基材。
(4)前記細胞培養用基材であって、
水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液の混合量を変えることにより、三次元架橋体の複素粘性率を0.5〜50pa・秒の範囲で調製することが可能な
(1)〜(3)いずれか記載の細胞培養用容器。
(5)前記細胞培養用基材であって、
水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液、細胞接着タンパク質の混合量を変えることにより、三次元架橋体の複素粘性率を0.5〜50pa・秒の範囲で調製することが可能な
(1)〜(3)いずれか記載の細胞培養用容器。
(6)前記細胞培養用基材を用いた細胞培養方法であって、
細胞、水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液と細胞接着タンパク質とを混合して
細胞を内部に含有した三次元架橋体を形成させ細胞を培養する細胞培養方法。
(7)前記細胞培養用基材を用いた細胞培養方法であって、
水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液と細胞接着タンパク質とを混合して
三次元架橋体を形成させ、該三次元架橋体の表面で細胞を培養する細胞培養方法。
(8)前記細胞培養用基材を用いた細胞培養方法であって、
細胞、水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液と細胞接着タンパク質とを混合して
細胞を内部に含有した三次元架橋体を形成させ、
さらに該三次元架橋体の上で同種または別種の細胞を培養する細胞培養方法。
(9)(6)〜(8)いずれか記載の細胞培養三次元架橋体に、水酸基を有する化合物を添加することで架橋構造を解いて細胞を回収することを特徴とする細胞培養用基材からの細胞の回収方法。
(10)前記架橋構造を解くための水酸基を有する化合物が、前記多価水酸基を有する化合物であり、単糖類、二糖類、多糖類、および低分子多価アルコールから選ばれる少なくとも一つである(9)記載の細胞培養用基材からの細胞の回収方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従って細胞培養基材を得、細胞を三次元的に培養することが可能で、また、容易に細胞を回収することが可能となる。
これにより、細胞を回収可能な三次元培養が簡単にでき、バイオ産業や再生医療における細胞、組織等の構築に有効に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による細胞培養基材の粘弾性率の図
【図2】本発明による細胞培養用基材上での細胞培養形態を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に使用する水溶性ポリマーは、ホスホリルコリン基及びフェニルボロン酸基を含有するポリマーであることが好ましい。
【0015】
ホスホリルコリン基とフェニルボロン酸基を同時に含有するポリマーは、ホスホリルコリン基を含有するモノマーと、フェニルボロン酸基を有するモノマーを液状で混合し、ラジカル発生剤の存在下でラジカル重合反応させることにより製造することができる。更に、ゲル化させた際の容器基材への結合性を該ポリマーに付与する目的等のため、必要ならば他のモノマーを加えて多元共重合体とすることも可能である。
【0016】
ホスホリルコリン基を含有するモノマーとしては、ビニル基やアリル基などの炭素−炭素二重結合を重合性基として有し、かつホスホリルコリン基を同一分子中に有する化合物であることが好ましい。
例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、(2−メタクリロイルオキシルエチル−2’−(トリメリチルアンモニア)エチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2‘−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート等が挙げられるが、特に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)が好ましい。
【0017】
フェニルボロン酸基を有するモノマーとしては、ビニル基やアリル基などの炭素−炭素二重結合を重合性基として有し、かつホフェニルボロン酸基を同一分子中に有する化合物であることが好ましい。
例えば、p−ビニルフェニルボロン酸、m−ビニルフェニルボロン酸、p−(メタ)アクリロイルオキシルフェニルボロン酸、m−(メタ)アクリロイルオキシフェニルボロン酸、p−(メタ)アクリルアミドフェニルボロン酸、p−ビニルオキシフェニルボロン酸、m−ビニルオキシフェニルボロン酸、ビニルウレタンフェニルボロン酸などが挙げられるが、p−ビニルフェニルボロン酸又はm−ビニルフェニルボロン酸が好ましい。
【0018】
他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の親水性モノマー、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、スチレン、酢酸ビニル等の疎水性モノマー、(3−メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等のアルキルオキシシラン基を有するモノマー、シロキサン基を有するモノマー、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基を含むモノマー、アリルアミン、アミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有するモノマー、カルボキシル基、水酸基、アルデヒド基、チオール基、ハロゲン基、メトキシ基、エポキシ基、スクシンイミド基、マレイミド基を有するモノマーを挙げることができる。
【0019】
前記の内、特に好ましいモノマーの組み合わせは、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下MPCと略す)、p−ビニルフェニルボロン酸、及びブチル(メタ)アクリレートによる3元共重合体である。
【0020】
ラジカル発生剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の脂肪族アゾ化合物、過酸化ベンゾイルやこはく酸パーオキシド等の過酸化物が好ましい。
【0021】
ポリマー中の組成モル分率は、モノマー混合溶液の組成で制御することができる。ホスホリルコリン基を有するモノマー単位のモル分率の範囲は0.01〜0.99であり、好ましくは0.30〜0.70の範囲であり、さらに好ましくは0.45〜0.60の範囲である。ポリマー中のフェニルボロン基を有するモノマー単位のモル分率の範囲は0.01〜0.99であり、好ましくは0.03〜0.50の範囲であり、さらに好ましくは0.30〜0.40の範囲である。
【0022】
また、該ポリマーの分子量はゲル浸透クロマトグラフィーで測定し、ポリエチレンオキシドを標準物質として換算し、その範囲は、1,000〜10,000,000であり、好ましくは10,000〜1,000,000、さらに好ましくは、20,000〜300,000である。分子量が上限値を超えると、水媒体への溶解性が低下する可能性がある。
【0023】
本発明に使用する水溶性化合物は、多価水酸基を有する化合物であることが好ましい。多価水酸基を有する化合物は水系溶媒に対して溶解し、均一な溶液となることが必要である。例としては、多糖類、低分子多価アルコール、ポリビニルアルコール等が挙げられるが、多糖類又はポリビニルアルコール(PVA)を選択することが構造の安定した三次元架橋体を構成するために好ましい。
【0024】
ポリビニルアルコールの重合度は特に限定するものではないが、1000以上5000以下であることが好ましく、特に1000以上2000以下の重合度のポリビニルアルコールを用いて作製したゲル上において線維芽細胞を培養した場合において、線維芽細胞本来の紡錘形状の細胞形態を取る細胞が頻出し良好な培養基材を提供できる。
【0025】
ホスホリルコリン基とフェニルボロン酸基を同時に含有するポリマーを含む水系溶液と、多価水酸基化合物を含む水溶液を混合することで、三次元架橋体が製造できる。
三次元架橋体中に生体成分を捕捉し安定に保存するためには、溶媒は水系であるべきで有機溶媒の使用は極力避けるべきである。また、溶媒の生理的に問題が生じないpHは7.0〜8.0の範囲であることが望ましい。
【0026】
ホスホリルコリン基とフェニルボロン酸基を同時に含有するポリマー、及び多価水酸基化合物は水系溶媒に溶ける範囲で使用可能であるが、0.5〜20重量%の範囲で使用可能であり、好ましくは 2.5〜10重量%の範囲が好ましい。
【0027】
ホスホリルコリン基とフェニルボロン酸基を同時に含有するポリマー、及び多価水酸基化合物の溶液作成に用いる水溶液は、水溶液であれば特に限定するものではないが、例えば、生理食塩水溶液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液などが挙げられるが、細胞培養に用いるために、最小必須培地(MEM培地)、ダルベッコ改変イーグル培地(D−MEM培地)などの培地を用いても良い。この場合、培養細胞に最適な培地を用いることが最も好ましい。
【0028】
細胞接着タンパク質は、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ヴィトロネクチンから選ばれることが望ましい。これらの分子は細胞接着タンパクとして、生体内に存在し、細胞の足場として組織や器官を構築している。
特に、コラーゲンはその構造によって種類が豊富で、現在18種類が確認されているが、その中でも特に、コラーゲン1型、2型、3型、4型もしくは5型が細胞培養基質としての利用価値が高く、この5種類のコラーゲンは市販されていることから汎用性が高いが、使用するコラーゲンはこれら5種類に限定されるものでない。また、この時のコラーゲン使用濃度は0・1重量%以下の濃度が好ましい。これ以上の濃度では、溶液粘度が高すぎてハンドリングがしにくくなる。
【0029】
次に、ラミニンは、12種類の種類が存在するが、特に本発明の目的には、ラミニン1型および5型を用いることが好適である。
【0030】
前記タンパク質は、三次元構造体を構築するための溶液中に存在していればよく、その方法としては以下の方法がある。
(1)水溶性ポリマー溶液にタンパク質を混在させ、ゲル化する。
(2)水溶性化合物溶液にタンパク質を混在させ、ゲル化する。
(3)タンパク質溶液として調製し加える。
これら場合、溶媒は、水系の溶媒が好ましく、特に限定するものではないが、リン酸緩衝液、トリス緩衝液が好適に使用できる。
【0031】
三次元架橋体を形成するための温度は、特に限定するものではないが、タンパク質成分を含むため、その変性を防ぐ目的から0〜37℃であることが好ましく、さらに好ましくは4〜37℃である。また、三次元架橋体中に細胞を保持した状態で培養するためには、25〜37℃であることが好ましい。
【0032】
水溶性ポリマー溶液に予め細胞を分散して、この分散液に多価水酸基化合物を含む水溶液を混合し、三次元架橋体を形成することによって、細胞を三次元架橋体内に封入することができる。
【0033】
逆に多価水酸基化合物に予め細胞を分散して、この分散液に水溶性ポリマー溶液を含む水溶液を混合し、三次元架橋体を形成することによって、細胞を三次元架橋体内に封入することも可能である。
【0034】
本発明において、細胞の培養箇所は三次元架橋体内にのみに限定するものではなく、三次元構造体を形成させた後、その構造体上面において培養することも可能である。この場合は、タンパク質を含んだ状態で三次元架橋体を構成させた後、シャーレや、フラスコ状に細胞を培養させるのと同じ様に三次元架橋体上面に細胞を播種し、接着培養させると言うものである。
【0035】
本発明の特徴の一つとして、水溶性ポリマー溶液と高水酸基化合物水溶液の混合比を変えることによって、複素粘性率として表すことのできる三次元架橋体の硬さを制御することが可能である。これは細胞の足場となる三次元架橋体が、接着した細胞自身の特性によって発生する形態変化を容易にするものである。しいては,足場材料の硬さが細胞骨格への刺激を変化させるものとなる。
【0036】
具体的には、高水酸化化合物水溶液として、高水酸化化合物水溶液1等量に対し、水溶性ポリマー溶液を0.2〜1等量変化ことにより、三次元架橋体の硬さを制御することができる。水溶性ポリマー溶液量が多いほど硬い三次元架橋体となり、少ないほどやわらかい三次元架橋体となる。水溶性ポリマー溶液が0.1等量以下の場合は、架橋体はゾル状になり三次元構造体としてのゲルとして機能しない。
【0037】
本発明のもう一つの特徴は前記のようにして培養した細胞を簡便に回収することにある。このことは、水酸基を有する化合物を添加することで架橋構造を解いて細胞を回収することで可能となる。前記架橋構造を解くための水酸基を有する化合物は、多価水酸基を有する化合物であり、単糖類、二糖類、多糖類、および低分子多価アルコールから選ばれる少なくとも一つである。これらの分子群を含む溶液を、該三次元架橋体に処方することにより、架橋部分が解離し、溶液として成分が回収される。この際に、細胞は溶液中に存在することになり、遠心操作により簡単に、しかも細胞ダメージを受けることなく回収することが可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
(ホスホリルコリン基とフェニルボロン酸基を同時に含有するポリマーの合成)
フラスコに2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)5.3gを秤量し、エタノール30gを仕込み、攪拌しながら容器内をアルゴンガス置換した。p−ビニルフェニルボロン酸(VPBA)0.44g、n−ブチルメタクリレート(BMA)1.3gおよび2、2’−アゾビスイソブチロニトリル0.05gを添加し、均一なるように攪拌した。密栓をした後、60℃に加温し、48時間反応させた。得られた反応溶液をジエチルエーテル/クロロホルム(8/2)溶液に滴下し、固体のポリマーを得た。得られたポリマーのNMR分析の結果、MPC/VPBA/BMA=53/11/36(モル比)であった。また数平均分子量は、27,000であった。このポリマーをPMBVとする。
【0040】
(多価水酸基化合物)
市販のポリビニルアルコール(PVA)で平均重合度1500(和光純薬製、160−03055)のものを用いた。
【0041】
以下の実施例、比較例は、細胞を取り扱う実験のため、断り書きのない限りクリーンベンチ内での無菌的作業で行った。
【0042】
<実施例2>
【0043】
実施例1で準備したPMBVの20重量%水溶液を調製した。PVAは実施例1で使用した平均重合度1500(和光純薬製、160−03055)のものと、平均重合度2000(和光純薬製、167−03065)のものの5重量%水溶液を調製した。
【0044】
35mmシャーレにPMBV溶液を表1記載の分量分注し、更にPBS(−)を同表1の分量各々のシャーレに分注し各シャーレのPMBV溶液が250μLになるように調製した。そこにCollagenTypeI(新田ゼラチン製、IP−C)の2.4mg/mL溶液を500μLづつ各シャーレに分注し混合した。更にPVA溶液を250μLづつ分注して、三次元架橋体を構成させた。表1に各々の添加量を示す。
【表1】

【0045】
レオメーター(エイ・インスツルメンツ社製、AREA)で複素粘性率を測定し、結果を図1に示す。
(図1)

【0046】
<実施例3>
【0047】
実施例2で作成した三次元架橋体上にマウス線維芽細胞を播種しその培養性と形態観察を行った。
【0048】
細胞は、NIH/3T3細胞()を、培養液は10v/v%のウシ胎児血清含有ダルベッコ改変イーグル培地(インビトロジェン社製)を用いて、フラスコ250を用いて培養、増殖し、細胞がコンフレントになる直前に、トリプシン/EDTAで回収し、遠沈管で洗浄操作を行った後、8x104細胞/1mL培養液になるように細胞分散液を調整した。

実施例2で作成した各シャーレに0.4mL細胞分散液を分注し、37℃・5%炭酸ガス培養機で培養し、24時間後、細胞形態を観察した。観察結果を図2に示す。
(図2)

【0049】
<実施例4>
実施例3で作成した三次元架橋体上に細胞培養した系を用いて、ゲル溶解、細胞回収を行った。
【0050】
キシリトール(東京化成製、M0601)をHEPES緩衝液(インビトロジェン社製、15630080)で5w/v%に調整した。実施例1の三次元架橋体に調製したキシリトール溶液を1.0mL加えて、10回ピペッティングしゲルを溶解させ15mL遠沈管に移した。さらに8mLの10%ウシ胎児血清含有ダルベッコ改変イーグル培地を加えて混合した後、1000rpmで1分遠心し、細胞をペレットで回収した。
【0051】
得られた細胞ペレットに2mLの10v/v%ウシ胎児血清含有ダルベッコ改変イーグル培地を加え、一部を(50μL)をトリパンブルーで染色して生細胞数及び死細胞数を血球計算板にて計測した。残りの細胞分散液は、フィーダー細胞上に播種し培養を開始し、翌日、形態観察を行った。形態観察の結果、回収した細胞の形態は、通常培養の細胞形態となんら換わることなく、NIH/3T3細胞本来の形態を維持していることが確認できた。
【0052】
<比較例1>
実施例3で使用したNIH/3T3細胞を用いて、細胞培養用35mmシャーレに、0.4mLの細胞分散液を播種し実施例3同様に37℃・5%炭酸ガス培養機で培養し、X日後、細胞形態を観察した。観察結果を図2に示した。
【0053】
<結果>
図1において、PMBV濃度を変化させることによって三次元構造体の硬さを制御することが可能なことが見て取れる。
図2において、実施例と比較例を比較すると、比較例では個々の細胞により細胞形態がまちまちであり、また、細胞密度も粗密な部分があることが見て取れる。これに対し、実施例では、細胞の形態がそれぞれのシャーレに安定しており更に、三次元構造体の硬さにより細胞形態が異なることが見て取れ、三次元構造体の硬さにより細胞の形態、ひいては細胞機能をコントロールすることが可能と思われる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
細胞を用いて三次元構造体を構成させること、ならびにその細胞および構造体を簡便にダメージなしに回収することにより、細胞機能の解析や、薬効評価、さらに再生医療用途に使用することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養するために用いる細胞培養用基材であって、
前記基材の表面に、ホスホリルコリン基及びフェニルボロン酸基を含有する水溶性ポリマー溶液、多価水酸基を有する水溶性化合物溶液および細胞接着タンパク質とでなる三次元架橋体が配置されていることを特徴とする細胞培養用基材。
【請求項2】
前記細胞接着タンパク質が、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ヴィトロネクチンであることを特徴とする請求項1記載の細胞培養用容器。
【請求項3】
前記コラーゲンが、1型、2型、3型、4型もしくは5型から選ばれる少なくとも一つである請求項2記載の細胞培養用基材。
【請求項4】
前記細胞培養用基材であって、
水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液の混合量を変えることにより、三次元架橋体の複素粘性率を0.5〜50pa・秒の範囲で調製することが可能な
請求項1〜3いずれか記載の細胞培養用容器。
【請求項5】
前記細胞培養用基材であって、
水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液、細胞接着タンパク質の混合量を変えることにより、三次元架橋体の複素粘性率を0.5〜50pa・秒の範囲で調製することが可能な
請求項1〜3いずれか記載の細胞培養用容器。
【請求項6】
前記細胞培養用基材を用いた細胞培養方法であって、
細胞、水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液と細胞接着タンパク質とを混合して
細胞を内部に含有した三次元架橋体を形成させ細胞を培養する細胞培養方法。
【請求項7】
前記細胞培養用基材を用いた細胞培養方法であって、
水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液と細胞接着タンパク質とを混合して
三次元架橋体を形成させ、該三次元架橋体の表面で細胞を培養する細胞培養方法。
【請求項8】
前記細胞培養用基材を用いた細胞培養方法であって、
細胞、水溶性ポリマー溶液、水溶性化合物溶液と細胞接着タンパク質とを混合して
細胞を内部に含有した三次元架橋体を形成させ、
さらに該三次元架橋体の上で同種または別種の細胞を培養する細胞培養方法。
【請求項9】
請求項6〜8いずれか記載の細胞培養三次元架橋体に、水酸基を有する化合物を添加することで架橋構造を解いて細胞を回収することを特徴とする細胞培養用基材からの細胞の回収方法。
【請求項10】
前記架橋構造を解くための水酸基を有する化合物が、前記多価水酸基を有する化合物であり、単糖類、二糖類、多糖類、および低分子多価アルコールから選ばれる少なくとも一つである請求項9記載の細胞培養用基材からの細胞の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−254719(P2011−254719A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129807(P2010−129807)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】