説明

細胞培養装置

【課題】培養細胞ごとに培地交換の作業工程の履歴を管理することが可能な細胞培養装置を提供する。
【解決手段】培養物あるいは培養容器の少なくとも一方を識別する識別情報を登録したRFIDチップを含むRFIDラベルを貼付した培養容器を載置して、培地交換の予め定められた複数の工程を順次行うために、その工程毎に培養容器を載置する工程実施領域が定められる培養容器台を備え、工程実施領域の識別情報読取手段が培養容器の識別情報を読み取ったとき、その識別情報と、その工程実施領域に付与されている工程実施領域識別情報とを関連付けて、その識別情報に対応する培養容器の培地交換履歴情報として記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工的に培養した細胞や組織を用いて、病気や怪我などによって失われた臓器や組織を修復・再生する医療である再生医療は、従来の治療法では十分な治療ができなかった疾患に対して、治療の選択肢を広げるという意味で大いに期待されている。
【0003】
例えば、関節軟骨を損傷した患者から関節鏡手術で少量の軟骨組織を採取し、軟骨細胞を培養した後、患者自身の軟骨欠損部へ移植する治療方法は、再生医療を軟骨治療に応用したもので、交通事故による外傷やスポーツによるケガ、変形性関節症などの軟骨損傷に対する根本的な治療の可能性を示している。
【0004】
ところで、上述した試みを実現しようとした場合、細胞や組織が十分に増殖されるまでには、数々の培養工程,検査を経る必要がある。また、当然のことながら、培養した骨芽細胞は、その骨芽細胞を形成する元となった骨髄の提供者である患者へ戻す必要がある。したがって、常に各培養細胞がどの患者のものであるかを厳格に管理することが必要となる。
【0005】
そこで、常に、培養細胞とその細胞の提供者との関連付けを正確かつ簡易に管理するとともに、培養細胞と患者との照合を迅速に行うために、幹細胞を含む細胞を固有の識別情報が付された搬入容器に収容して搬入し、搬入された細胞を固有の識別情報が付された培養容器に移し替えて培養し、培養した細胞を固有の識別情報が付された搬出容器に移し替えて搬出する細胞培養システムにおいて、容器を移し替える毎に、移し替え前後の容器に付されているID番号をバーコードリーダから入力して、入力されたID番号を管理サーバ内に設けられているデータベースに互いに関連付けて記憶する細胞培養システムが考案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、例えば検体を含むシャーレやアンプルに識別用のRFIDタグを貼り付け、作業台に設けられたRFIDアンテナからその識別情報を受信し、検体の取り違え等の操作ミス等を低減したり、検体の履歴管理の効率化を行うことが可能となるRFID機能付きクリーンエアシステムが発表されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−000119号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ソーバル株式会社ホームページ,医療設備のRFID利用(URL:http://www.sobal.co.jp/rfid/solution/iryo.html),平成21年7月3日検索
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の構成では、容器に貼付されたバーコードに水滴が付着すると、読み取りを正しく行うことができないという問題がある。また、バーコードリーダに容器(すなわちバーコード)をかざさなければならないという問題もある。さらに、容器を移し替えたときに、バーコードの読み取りミスが発生する可能性もある。
【0010】
非特許文献1の構成では、検体が作業台に置かれたことは履歴として残るが、どのような作業を行ったかについての履歴は残らないという問題がある。
【0011】
細胞の培養を行う場合、治療に適した大きさになるまで培養するためには、培地の交換あるいは補給が必要となる。上記の先行技術においては、培地交換の作業履歴の管理までは行っていない。
【0012】
本発明の課題は、培養細胞ごとに培地交換の作業工程の履歴を管理することが可能な細胞培養装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の細胞培養装置は、
培養物を収容した培養容器であって、培養物あるいは培養容器の少なくとも一方を識別する識別情報を登録したRFIDチップを含むRFIDラベルを貼付した培養容器を載置して、培地交換の予め定められた複数の工程を順次行うために、その工程毎に培養容器を載置する工程実施領域が定められる培養容器台と、複数の工程実施領域のそれぞれに備えられ、載置された培養容器に貼付されているRFIDラベルの識別情報を読み取る識別情報読取手段と、を備え、
複数の工程実施領域には、それぞれの工程実施領域を識別するための工程実施領域識別情報が付与され、工程実施領域の識別情報読取手段が培養容器の識別情報を読み取ったとき、その識別情報と、その工程実施領域に付与されている工程実施領域識別情報とを関連付けて、その識別情報に対応する培養容器の培地交換履歴情報として記憶する培地交換履歴情報記憶手段をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
上記構成によって、培養細胞ごとに培地交換の作業工程の履歴を管理することが可能となる。また、RFIDラベルを用いることで培養容器のラベルに水滴が付着しても、識別情報の読み取りミスは発生しない。また、培養終了後に他の部署あるいは機関で培養物を扱う場合、その培養物がどのように培養されたかを確認することができ、培養状態に応じて培養物を適切に使用することも可能となる。
【0015】
また、本発明の細胞培養装置は、日時情報を取得する日時情報取得手段を備え、培地交換履歴情報記憶手段は、識別情報を読み取ったときに取得した日時情報を、培地交換履歴情報に含めて記憶する。
【0016】
上記構成によって、培地交換の作業工程の履歴をより詳細に管理することが可能となる。
【0017】
また、本発明の細胞培養装置は、培地交換を行うための培地交換手段と、培地交換手段が操作されたか否かを検出する操作検出手段と、を備え、培地交換履歴情報は、検出した培地交換手段の操作情報を含む。
【0018】
上記構成によって、培養容器が工程実施領域に載置されたか否かのみではなく、培地交換手段が操作されたか否か、すなわち培地交換が行われたか否かの情報も培地交換履歴として管理することができる。
【0019】
また、本発明の細胞培養装置は、日時情報を取得する日時情報取得手段を備え、培地交換履歴情報は、培地交換手段の操作情報を取得したときの日時情報を含む。
【0020】
上記構成によって、培地交換手段の操作の履歴をより詳細に管理することが可能となる。
【0021】
また、本発明の細胞培養装置における工程は、培地交換前工程,培地交換工程,および培地交換後工程を含み、これら3つの工程が対応する工程実施領域において順次実行され、培地交換工程において、培地交換手段を用いた培地交換が行われ、培地交換履歴情報記憶手段は、培地交換前工程に対応する工程実施領域の工程実施領域識別情報,培地交換工程に対応する工程実施領域の工程実施領域識別情報,培地交換手段の操作情報,および培地交換後工程に対応する工程実施領域の工程実施領域識別情報の順に時系列データとして培地交換履歴情報を記憶する。
【0022】
上記構成によって、培地交換履歴情報を参照することで、各工程が定められた順序にしたがって行われたかどうかを確認することが可能となる。
【0023】
また、本発明の細胞培養装置は、培地交換履歴情報を参照して、工程実施領域識別情報および操作情報が、予め定められた時系列順に記憶されているか否かを判定する情報判定手段と、これらの情報が予め定められた時系列順に記憶されていないと判定された場合に、その旨を警告出力する警告出力手段と、を備える。
【0024】
上記構成によって、培地交換の作業工程が正しく行われたかも把握することが可能となる。
【0025】
また、本発明の細胞培養装置は、培地交換履歴情報をRFIDチップに書き込む培地交換履歴情報書込手段を備える。
【0026】
上記構成によって、別の細胞培養装置で培地交換等の作業を行った場合でも、培地交換の作業工程の履歴が全て培養容器側(すなわちRFIDチップ)に記憶されているので、履歴の把握や管理が容易となる。
【0027】
また、本発明の細胞培養装置は、培地交換履歴情報を培地交換履歴情報記憶手段から読み出す培地交換履歴情報読出手段と、読み出した培地交換履歴情報を表示する培地交換履歴情報表示手段と、を備える。
【0028】
上記構成によって、培地交換等の作業実施時にも、過去の培地交換作業内容を把握でき、補給する培地の量を調整することもできる。
【0029】
また、本発明の細胞培養装置における培養物は、生体組織の再生医療に使用するためのものである。
【0030】
上記構成によって、細胞培養の履歴を正確に管理することで、患者が必要とする培養物(例えば軟骨)を必要とする大きさに培養して提供することができ、さらに、培養物の取り違えを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】細胞培養装置の正面図。
【図2】図1の細胞培養装置の上面図。
【図3】供給アームおよび吸引アームの詳細を示す図。
【図4】制御装置の構成を示すブロック図。
【図5】細胞培養装置とサーバとを含むネットワーク構成図。
【図6】培地交換履歴情報の一例を示す図。
【図7A】培地交換履歴情報記憶処理を説明するフロー図。
【図7B】図7Aに続く、培地交換履歴情報記憶処理を説明するフロー図。
【図8】培地交換作業実行時の表示例を示す図。
【図9】培地交換作業終了時の表示例を示す図。
【図10】警告出力処理を説明するフロー図。
【図11】警告表示例を示す図。
【図12】警告出力処理の別例を説明するフロー図。
【図13】図12における警告表示例を示す図。
【図14】培地交換履歴情報の表示例を示す図。
【図15】警告出力処理の別例を説明するフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に、本発明に係る細胞培養装置の一実施形態の正面図を示す。また、図2に、図1の細胞培養装置の上面から見た概略図を示す(配管14,15は一部略)。細胞培養装置1は、例えば作業台28を含むクリーンベンチ27と、このクリーンベンチ27内に収納される各ユニットとを備えている。クリーンベンチ27は、手前が開口する無菌状作業空間を有し、実験研究に一般的に使用されるものと同様である。このクリーンベンチ27は、具体的には無菌状作業空間内に殺菌灯を有し、無菌空気が上または奥から手前に吹き出すブローアウト型、無菌空気がエアーカーテンとなるよう流れるバイオハザード対応型等がある(例えは、特開2005−218413号公報参照)。
【0033】
クリーンベンチ27の無菌状作業空間内の作業台28には、細胞を培養する培養容器20を載置するために、第1工程実施領域21、第2工程実施領域22、第3工程実施領域23に区分された培養容器台29、培地を排出する培地排出ユニット12、培地を貯留・供給する培地供給ユニット13、架台11に取付けられて、培養容器20上方において鉛直方向および水平方向に移動可能な吸引アーム16、供給アーム17、および細胞培養装置1の動作制御を行う制御装置30を備えている。なお、吸引アーム16および供給アーム17の駆動機構は任意でよい。なお、これら工程実施領域(21〜23)が本発明の工程実施領域に相当する。
【0034】
図3に、吸引アーム16および供給アーム17の詳細を示す。吸引アーム16の先端には使い捨て可能なノズル16aが取り付けられ、その後端に吸引ポンプ18が取り付けられている。スイッチ16bを押下すると、吸引ポンプ18の作動により、吸引アーム16のノズル16a内に培地等を吸引し、吸引した培地20bを配管14を介して培地排出ユニット12へ排出することができるようになっている。また、供給アーム17の先端にも、その先端に使い捨て可能なノズル17aが取り付けられ、その後端にシリンジ19が取り付けられている。スイッチ17bを押下すると、シリンジ19の作動により、培地供給ユニット13に貯留されている培地20bを、配管15を介してノズル17aから培養容器20内へ供給できるようになっている。
【0035】
なお、吸引アーム16,供給アーム17が本発明の培地交換手段に相当する。また、配管14,15は、吸引アーム16,供給アーム17の上下左右の動きに対応して、培地の吸引および供給に支障のないように伸縮あるいは変形可能な部材で構成されている。
【0036】
図4に、制御装置30の構成を示す。制御装置30は、制御部31と、制御部31に接続されたノズル操作検出部32、時計IC33、メモリI/F34、通信I/F36、およびI/F37を含んで構成される。
【0037】
制御部31は、周知のCPU31a、ROM31b、およびRAM31cを含むマイクロコンピュータとして構成され、CPU31aがROM31bに記憶された制御プログラムを実行することで、細胞培養装置1の動作を制御する。また、RAM31cは、制御プログラム実行時にワークエリアとして使用される。なお、制御部31が本発明の日時情報取得手段,情報判定手段,培地交換履歴情報読出手段に相当する。
【0038】
ノズル操作検出部32は、スイッチ16bおよびスイッチ17bの押下操作を検出するためのもので、その情報は制御部31に送られる。なお、ノズル操作検出部32が本発明の操作検出手段に相当する。
【0039】
時計IC33は、はリアルタイムクロックICとも呼ばれ、CPU31aからの要求に応じて時計・カレンダーのデータを送出あるいは設定するものである。CPU31aは時計IC33から日時情報を取得する。CPU31aに含まれるカウンタ機能を用い、このカウンタ値を基に日時情報を生成してもよい。
【0040】
メモリI/F34は、例えばフラッシュメモリ等の不揮発性メモリ媒体を用いて構成されるメモリ35との間で、データの入出力を行うための回路である。メモリ35は、制御装置30に実装される形態でも、カード型メモリのようなリムーバブルメディアを用いる形態のいずれでもよい。リムーバブルメディアとしてメモリを用いる場合、メモリI/F34は、メモリカードスロットを含む構成となる。また、メモリ35には培地交換履歴情報を記憶するデータベース(DB)35aが構築されている(詳細については後述)。なお、データベース35aが本発明の培地交換履歴情報記憶手段に相当する。
【0041】
通信I/F36は、例えばLANインターフェース回路として構成され、サーバ40との間で、データの通信を行うための回路である。
【0042】
I/F37は、第1RFID送受信機24、第2RFID送受信機25、第3RFID送受信機26、表示器38、およびプリンタ41との間で、データの入出力を行うための回路である。
【0043】
表示器38は、例えば周知のLCD表示器として構成される。また、タッチパネルを備える構成としてもよい。なお、表示器38が本発明の警告出力手段,培地交換履歴情報表示手段に相当する。
【0044】
第1RFID送受信機24、第2RFID送受信機25、第3RFID送受信機26は、それぞれ、培養容器台29の第1工程実施領域21、第2工程実施領域22、第3工程実施領域23の内部に設置されている(図1,図2参照)。これらはRFIDチップ20fとの送信機能と受信機能の両方を備えているが、受信機能のみを備えた構成としてもよい。なお、各工程実施領域(21〜23)は、各RFID送受信機(24〜26)の送受信可能な範囲に対応しており、これら送受信可能範囲は、互いに重複しないように送受信の出力が規定されている。また、これらRFID送受信機(24〜26)が本発明の識別情報読取手段,培地交換履歴情報書込手段に相当する。
【0045】
また、各工程実施領域(21〜23)には、例えば「1」,「2」,「3」のような、それぞれの工程実施領域を識別するための工程実施領域識別情報が付与されており、各RFID送受信機(24〜26)から制御部31に受信データを送る際には、工程実施領域識別情報を合わせて送るようになっているので、制御部31はデータ送信元のRFID送受信機を特定することができる。RFID送受信機(24〜26)を用いてデータを送信するときには、制御部31から送信を行いたいRFID送受信機の工程実施領域識別情報を合わせて送るようにすることで、正しくデータを送信することが可能となる。
【0046】
各工程実施領域(21〜23)の境界あるいは各RFID送受信機(24〜26)の送受信可能範囲(すなわち、培養容器を載置して作業可能な領域)を、培養容器台29上に明示してもよい。
【0047】
図1のように、培養容器20の本体20cには、培養容器20あるいは培養容器20に収容された培養物20aの少なくとも一方を識別する識別情報を登録したRFIDチップ20fを含むRFIDラベル20dが貼り付けられている。各RFID送受信機(24〜26)は、RFIDチップ20fに登録されている識別情報を読み取る。また、RFIDラベル20dの表面には、識別情報を表示する表示部20eを備えている。これにより、培養容器20を培養容器台29の各工程実施領域(21〜23)に載置する前に、目視確認によって、培養容器20の取り違えを防止することが可能となる。
【0048】
上述の構成では、培養容器台29は、台上に各工程実施領域(21〜23)を含む一つの台として構成されているが、各工程実施領域毎に独立した3つの容器台あるいはトレイを含む構成してもよい。
【0049】
図4に戻り、サーバ40は、例えば周知のパーソナルコンピュータあるいはワークステーションを用いて構成され、制御装置30との間でデータの通信を行う。また、サーバ40には、培地交換履歴情報を記憶するデータベース(DB)40aが構築されている(詳細については後述)。なお、データベース40aが本発明の培地交換履歴情報記憶手段に相当する。
【0050】
図5のように、細胞培養装置1とサーバ40とは、LAN45を介してネットワーク接続され、必要に応じてデータの遣り取りを行う。そして、サーバ40で培地交換履歴情報の管理を行う。この場合、サーバ40で複数の細胞培養装置1培地交換履歴情報の一括管理を行うことができる。
【0051】
サーバ40を用いる場合には、細胞培養装置1にメモリ35や表示器38を含まない構成としてもよい。
【0052】
また、複数の細胞培養装置1を、LAN45を介してネットワーク接続し、サーバ40を介さず細胞培養装置1の間でデータの遣り取りを行う構成としてもよい。
【0053】
以下、上述のように構成された細胞培養装置1における培地20bの交換作業について説明する。まず、培養容器20を第1工程実施領域21に載置して蓋20gを外す。このときに、第1RFID送受信機24がRFIDチップ20fに登録されている識別情報を読み取り制御部31に送る。なお、本工程が本発明の培地交換前工程に相当する。
【0054】
次に、蓋21gを外した培養容器の本体20cを第2工程実施領域22に載置する。このときに、第2RFID送受信機25がRFIDチップ20fに登録されている識別情報を読み取り制御部31に送る。ここで、吸引アーム16を培養容器本体20cの上方に移動し、吸引ノズル16aを培養容器本体20c内に移動して、スイッチ16bを押下して吸引ポンプ18を作動させることにより、吸引ノズル16aから培地20bを吸引し培地排出ユニット12を介して排出(廃棄)する。
【0055】
その後、吸引アーム16を培養容器本体20cから離れた位置に移動して、供給アーム17を培養容器本体20cの上方に移動し、供給ノズル17aを培養容器本体20c内に移動して、スイッチ17bを押下してシリンジ19を作動させることにより、供給ノズル17aから培地供給ユニット13に貯留されている培地20bを所定量排出(供給)する。なお、本工程が本発明の培地交換工程に相当する。
【0056】
次に、供給アーム17を培養容器本体20cから離れた位置に移動して、培養容器20を第3工程実施領域23に載置する。このときに、第3RFID送受信機26がRFIDチップ20fに登録されている識別情報を読み取り制御部31に送る。ここで、培養容器本体20cに蓋20gを取り付けて密閉する。これにより、培地20bの交換作業は終了する。なお、本工程が本発明の培地交換後工程に相当する。
【0057】
図6に、データベース(DB)35aあるいは40aに記憶される培地交換履歴情報の一例を示す。培養容器20(あるいは培養物20a)の識別情報(ID)に関連付けて、培養容器20が各工程実施領域(21〜23)に載置されて各RFID送受信機(24〜26)が読み取った識別情報と、識別情報を読み取ったときの日時情報とを記憶する。また、ノズル操作検出部32がスイッチ16bおよびスイッチ17bの押下操作を検出したときにも、培養容器20の識別情報に関連付けて、各スイッチの押下操作を検出したときの日時情報とを記憶する。
【0058】
上述のように、培地交換作業が正しく行われたときには、第1工程実施領域21に載置→第2工程実施領域22に載置→吸引ノズル操作(スイッチ16b押下)→供給ノズル操作(スイッチ17b押下)→第3工程実施領域23に載置、のように、時系列順に培地交換履歴情報が記憶される。
【0059】
図7Aおよび図7Bを用いて、培地交換作業時に実行される培地交換履歴情報記憶処理について説明する。なお、本処理は、ROM31bに記憶された制御プログラムに含まれ、制御プログラムの他の処理とともに繰り返し実行される。まず、第1工程実施領域21の第1RFID送受信機24が培養容器20(あるいは培養物20a)の識別情報(図7AではIDと表記)を受信したか否かを判定する。
【0060】
第1RFID送受信機24が培養容器20(すなわちRFIDチップ20f)の識別情報を受信したとき(S11:Yes)、RAM31c上の一時記憶領域を初期化(例えばゼロクリア)する(S12)。一時記憶領域は、図6のデータベースの、一連の時系列データ1個分に相当するデータを記憶可能である。そして、時計IC33から日時情報を取得して、受信した識別情報とともに一時記憶領域に書き込む(S13)。
【0061】
一方、第1RFID送受信機24が培養容器20の識別情報を受信しないとき(S11:No)、識別情報を受信するまで待つようになっているが、無限ループを形成するものではなく、適宜他の処理が実行される。例えば、第2RFID送受信機25が培養容器20の識別情報を受信したときは、ステップS11〜S14の処理をスキップして、ステップS15に移る。また、予め定められた時間内に第1RFID送受信機24が識別情報を受信しないときには、ステップS14に移ってもよい。
【0062】
次に、第2RFID送受信機25が培養容器20の識別情報を受信したとき(S14:Yes)、時計IC33から日時情報を取得して、受信した識別情報とともにRAM31c上の一時記憶領域に書き込む(S15)。
【0063】
一方、第2RFID送受信機25が培養容器20の識別情報を受信しないとき(S14:No)、識別情報を受信するまで待つようになっているが、上述と同様に無限ループを形成するものではなく、適宜他の処理が実行される。また、予め定められた時間内に第2RFID送受信機25が識別情報を受信しないときには、ステップS16に移ってもよい。
【0064】
次に、ノズル操作検出部32がスイッチ16bの押下操作(すなわち吸引ノズル16aの作動)を検知したとき(S16:Yes)、時計IC33から日時情報を取得して、作動検知情報とともにRAM31c上の一時記憶領域に書き込む(S17)。
【0065】
一方、ノズル操作検出部32がスイッチ16bの押下操作を検知しないとき(S16:No)、作動の検知を待つようになっているが、上述と同様に無限ループを形成するものではなく、適宜他の処理が実行される。また、予め定められた時間内にスイッチ16bの押下操作を検知しないときには、ステップS18に移ってもよい。
【0066】
図7Bに移り、ノズル操作検出部32がスイッチ17bの押下操作(すなわち供給ノズル17aの作動)を検知したとき(S18:Yes)、時計IC33から日時情報を取得して、作動検知情報とともにRAM31c上の一時記憶領域に書き込む(S19)。
【0067】
一方、ノズル操作検出部32がスイッチ17bの押下操作を検知しないとき(S18:No)、作動の検知を待つようになっているが、上述と同様に無限ループを形成するものではなく、適宜他の処理が実行される。また、予め定められた時間内にスイッチ17bの押下操作を検知しないときには、ステップS20に移ってもよい。
【0068】
次に、第3RFID送受信機26が培養容器20の識別情報を受信したとき(S20:Yes)、時計IC33から日時情報を取得して、受信した識別情報とともにRAM31c上の一時記憶領域に書き込む(S21)。
【0069】
一方、第3RFID送受信機26が培養容器20の識別情報を受信しないとき(S20:No)、識別情報を受信するまで待つようになっているが、上述と同様に無限ループを形成するものではなく、適宜他の処理が実行される。また、予め定められた時間内に第3RFID送受信機26が識別情報を受信しないときには、ステップS22に移ってもよい。
【0070】
次に、RAM31c上の一時記憶領域の内容を参照し、内容が空(上述の識別情報あるいは作動検知情報が全く記憶されていない)か否かを調べ、内容が空でないとき(S22:Yes)、メモリ35のDB35aあるいはサーバ40のDB40aに、該当する識別情報に対応する培地交換履歴情報に一時記憶領域の内容を追記(登録)する(S23)。
【0071】
また、RFIDチップ20fに書き換え可能なメモリ回路が含まれているときには、そのメモリ回路上にメモリ35のDB35aのようなデータベース(DB)すなわち培地交換履歴情報記憶領域を構築し、第3RFID送受信機26を介して一時記憶領域の内容を送信(登録)するようにしてもよい。
【0072】
一方、一時記憶領域の内容が空であるとき(S22:No)、何もせずに本処理を終了する。
【0073】
上述の培地交換履歴情報記憶処理実行時(すなわち培地交換作業実行時)に、作業の経過を表示器38に表示してもよい。図8に、培地交換作業実行時の表示例を、図9に培地交換作業終了時の表示例を示す。図8のように、各工程実施領域(21〜23)のRFID送受信機(24〜26)が培養容器20の識別情報を受信したときに、該当する工程実施領域に培養容器20が載置された旨の表示を行う。同様に、ノズル操作検出部32がスイッチ16bあるいはスイッチ17bの押下操作を検出したときに、該当するノズルが作動した(すなわち、培地20bの吸引あるいは供給が行われた)旨の表示を行う。
【0074】
また、図9のように、培地交換作業が終了すると、培養容器20の載置および各ノズルの作動に関する、RAM31c上の一時記憶領域に記憶された全ての情報が表示される。図7A,図7Bの例では、メモリ35のDB35aあるいはサーバ40のDB40aに、一時記憶領域に記憶された内容が自動的に記憶されるようになっているが、表示画面上(すなわちタッチパネル)の[登録]ボタンを押下して、登録するか否かを選択可能な構成としてもよい。
【0075】
また、[印刷]ボタンを押下して、I/F37(通信I/F36でもよい)を介して接続されたプリンタ41に、一時記憶領域に記憶された内容を送り印刷できる構成としてもよい。
【0076】
さらに、[出力]ボタンを押下して、通信I/F36介して接続されたLAN45上の、他の細胞培養装置1のメモリ35のDB35aに、一時記憶領域に記憶された内容を出力可能な構成としてもよい。こうすることで、サーバ40を用いずに、複数の細胞培養装置1の間で、培地交換履歴情報を共有することが可能となる。
【0077】
図10を用いて、警告出力処理について説明する。なお、本処理は、ROM31bに記憶された制御プログラムに含まれ、例えば上述の培地交換履歴情報記憶処理に続いて実行される。
【0078】
まず、RAM31c上の一時記憶領域の内容を参照し、内容が空(上述の識別情報あるいは作動検知情報が全く記憶されていない)か否かを調べ、内容が空でないとき(S31:Yes)、上述の各工程実施領域(21〜23)での識別情報受信情報および作動検知情報のうち1つでも記憶されていないもの(空)がある場合(S32:Yes)、その記憶されていない情報が取得されるべき作業工程を正しく実行していないと判断し、例えば図11のように、表示器38に作業工程が行われていない旨の警告表示を出力する(S33)。
【0079】
なお、本実施例は表示器38により警告表示を行っているが、ブザーや音声メッセージによって警告出力を行う構成としてもよい。
【0080】
図7A,図7Bの例では、一通りの作業工程が全て終了してから作業工程の抜けをチェックしているが、各作業工程において作業工程の抜けをチェックするようにしてもよい。図12に、図7Aの変形例(一部)を示す。なお、ステップ番号は図7Aと同じものを用いる。第2RFID送受信機25が培養容器20の識別情報を受信したとき(S14:Yes)、RAM31c上の一時記憶領域を参照して、第1工程実施領域21に対応する培地交換履歴情報を取得する(S141)。
【0081】
次に、時計IC33から日時情報を取得して、その日時から予め定められた時間内(すなわち所定時間内)内に、第1工程実施領域21で作業が行われたか否か(すなわち、第1RFID送受信機24が培養容器20の識別情報を受信しているか否か)を判定する。そして、所定時間内に第1工程実施領域21で作業が行われたと判定したとき(S142:Yes)、図7Aと同様に、時計IC33から取得した日時情報を、受信した識別情報とともにRAM31c上の一時記憶領域に書き込む(S15)。
【0082】
一方、所定時間内に第1工程実施領域21で作業が行われていないと判定したとき(S142:No)、例えば図13のような、前の工程(すなわち第1工程実施領域21での作業)が正しく行われていない旨の警告メッセージを表示器38に表示する(S143)。
【0083】
また、図15のように、ノズル操作検出部32がスイッチ16bの押下操作(すなわち吸引ノズル16aの作動)を検知したとき(S16:Yes)、時計IC33から日時情報を取得して(S161)、RAM31c上の一時記憶領域を参照し、その日時から予め定められた時間内(すなわち所定時間内)内に、第2工程実施領域22で作業が行われたか否かを判定する。そして、所定時間内に第2工程実施領域22で作業が行われたと判定したとき(S162:Yes)、図7Aと同様に、時計IC33から取得した日時情報を、受信した識別情報とともにRAM31c上の一時記憶領域に書き込む(S17)。一方、所定時間内に第2工程実施領域22で作業が行われていないと判定したとき(S162:No)、図13のような、前の工程(すなわち第2工程実施領域22での作業)が正しく行われていない旨の警告メッセージを表示器38に表示して(S163)、処理を終了する。
【0084】
また、図15と同様に、ノズル操作検出部32がスイッチ17bの押下操作(すなわち供給ノズル17aの作動)を検知したとき(S18:Yes)、時計IC33から日時情報を取得して、RAM31c上の一時記憶領域を参照し、その日時から予め定められた時間内(すなわち所定時間内)内に、スイッチ16bの押下操作が行われたか否かを判定する。そして、所定時間内にスイッチ16bの押下操作が行われたと判定したとき、図7Bと同様に、時計IC33から取得した日時情報を、受信した識別情報とともにRAM31c上の一時記憶領域に書き込む(S19)。一方、所定時間内にスイッチ16bの押下操作が行われていないと判定したとき、図13のような、前の工程(すなわちスイッチ16bの押下操作)が正しく行われていない旨の警告メッセージを表示器38に表示する。
【0085】
また、同様に、第3RFID送受信機26が培養容器20の識別情報を受信したとき(S20:Yes)、時計IC33から日時情報を取得して、RAM31c上の一時記憶領域を参照し、その日時から予め定められた時間内(すなわち所定時間内)内に、スイッチ17bの押下操作が行われたか否かを判定する。そして、所定時間内にスイッチ17bの押下操作が行われたと判定したとき、図7Bと同様に、時計IC33から取得した日時情報を、受信した識別情報とともにRAM31c上の一時記憶領域に書き込む(S21)。一方、所定時間内にスイッチ17bの押下操作が行われていないと判定したとき、図13のような、前の工程(すなわちスイッチ17bの押下操作)が正しく行われていない旨の警告メッセージを表示器38に表示する。
【0086】
図12,図15の処理を行う場合には、図10の警告出力処理を行わなくてもよい。
【0087】
図14に培地交換履歴情報の表示例を示す。培地交換履歴情報は、細胞培養装置1の表示器38の表示画面上のタッチパネルで、所定の操作(例えば、「識別情報(番号)を指定して培地交換履歴情報を表示」)を実施すると、メモリ35のDB35aの内容が読み出されて、表示器38の表示画面上に表示される。
【0088】
また、培地交換履歴情報がサーバ40のDB40aで一括管理される場合には、サーバ40において培地交換履歴管理を行うアプリケーションプログラムを動作させ、マウス・キーボード等の入力手段42による所定の操作を行うと、表示手段41に、図14のような培地交換履歴情報が表示される。
【0089】
図14において、[前頁]ボタンあるいは[次頁]ボタンを押下すると画面表示をスクロールでき、[番号入力]ボタンを押下して、識別情報(番号)を指定すると、他の培養容器(あるいは培養物)に関する培地交換履歴情報を表示することができる。
【0090】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、これらはあくまで例示にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づく種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 細胞培養装置
16 吸引アーム(培地交換手段)
17 供給アーム(培地交換手段)
20 培養容器
20a 培養物
20b 培地
20c (培養容器の)本体
20d RFIDラベル
20e 表示部
20f RFIDチップ
21 第1工程実施領域(工程実施領域)
22 第2工程実施領域(工程実施領域)
23 第3工程実施領域(工程実施領域)
24 第1RFID送受信機(識別情報読取手段,培地交換履歴情報書込手段)
25 第2RFID送受信機(識別情報読取手段,培地交換履歴情報書込手段)
26 第3RFID送受信機(識別情報読取手段,培地交換履歴情報書込手段)
29 培養容器台
30 制御装置
31 制御部(日時情報取得手段,情報判定手段,培地交換履歴情報読出手段)
32 ノズル操作検出部(操作検出手段)
35 メモリ
35a データベース(DB,培地交換履歴情報記憶手段)
38 表示器(警告出力手段,培地交換履歴情報表示手段)
40 サーバ
40a データベース(DB,培地交換履歴情報記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養物を収容した培養容器であって、前記培養物あるいは前記培養容器の少なくとも一方を識別する識別情報を登録したRFIDチップを含むRFIDラベルを貼付した培養容器を載置して、培地交換の予め定められた複数の工程を順次行うために、その工程毎に前記培養容器を載置する工程実施領域が定められる培養容器台と、
前記複数の工程実施領域のそれぞれに備えられ、載置された前記培養容器に貼付されているRFIDラベルの識別情報を読み取る識別情報読取手段と、
を備え、
前記複数の工程実施領域には、それぞれの工程実施領域を識別するための工程実施領域識別情報が付与され、
前記工程実施領域の識別情報読取手段が前記培養容器の識別情報を読み取ったとき、その識別情報と、その工程実施領域に付与されている前記工程実施領域識別情報とを関連付けて、その識別情報に対応する培養容器の培地交換履歴情報として記憶する培地交換履歴情報記憶手段をさらに備えることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
日時情報を取得する日時情報取得手段を備え、
前記培地交換履歴情報記憶手段は、前記識別情報を読み取ったときに取得した日時情報を、前記培地交換履歴情報に含めて記憶する請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
培地交換を行うための培地交換手段と、
前記培地交換手段が操作されたか否かを検出する操作検出手段と、
を備え、
前記培地交換履歴情報は、検出した前記培地交換手段の操作情報を含む請求項1または請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
日時情報を取得する日時情報取得手段を備え、
前記培地交換履歴情報は、前記培地交換手段の操作情報を取得したときの日時情報を含む請求項3に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記工程は、培地交換前工程,培地交換工程,および培地交換後工程を含み、これら3つの工程が対応する工程実施領域において順次実行され、
前記培地交換工程において、前記培地交換手段を用いた培地交換が行われ、
前記培地交換履歴情報記憶手段は、前記培地交換前工程に対応する工程実施領域の工程実施領域識別情報,前記培地交換工程に対応する工程実施領域の工程実施領域識別情報,前記培地交換手段の操作情報,および前記培地交換後工程に対応する工程実施領域の工程実施領域識別情報の順に時系列データとして前記培地交換履歴情報を記憶する請求項3または請求項4に記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記培地交換履歴情報を参照して、前記工程実施領域識別情報および前記操作情報が、予め定められた時系列順に記憶されているか否かを判定する情報判定手段と、
これらの情報が予め定められた時系列順に記憶されていないと判定された場合に、その旨を警告出力する警告出力手段と、
を備える請求項5に記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記培地交換履歴情報を前記RFIDチップに書き込む培地交換履歴情報書込手段を備える請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項8】
前記培地交換履歴情報を前記培地交換履歴情報記憶手段から読み出す培地交換履歴情報読出手段と、
読み出した前記培地交換履歴情報を表示する培地交換履歴情報表示手段と、
を備える請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項9】
前記培養物は、生体組織の再生医療に使用するためのものである請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の細胞培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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