説明

細胞培養装置

【課題】培養槽の大きさにかかわらず、培養液を通気エアーなどで効率よく撹拌できる細胞培養装置を提供する。
【解決手段】培養槽10内に培養液11を収容し、その培養槽10にガスを通気して培養する細胞培養装置において、鉛直な一対の培養筒12a、12bの下部を連結して反応槽10を形成し、その両培養筒12a、12bの下部にガス吹込手段14a、14bをそれぞれ接続すると共に両培養筒12a、12bの上部に排気手段15a、15bをそれぞれ接続し、いずれか一方のガス吹込手段14aからその一方の培養筒12aの下部にガスを吹き込むと共に、他方の培養筒12bの上部から排気手段15bを介してガスを排出し、これを交互に繰り返して、両培養筒12a、12bの培養液11を交互に移動して撹拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を播種した培養液を収容し、その培養液にエアーを通気しながら撹拌して細胞培養するための細胞培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞を播種した培養液を収容し、その培養液にエアーを通気しながら撹拌して細胞培養するための細胞培養装置は、内部に撹拌羽根を有するジャーファーメンターおよびタンクの構造が主流である(特許文献1)。
【0003】
しかし、撹拌羽根による培養方法では、撹拌によるせん断力で細胞にダメージを与えることが懸念されるため、エアーにて撹拌することが提案されている(特許文献2,3)。
【0004】
特許文献2では、培養容器内に、下端が開口した管を設け、その管の上部の圧力を変動させることで、培養容器内の培養液を管内に、或いは管から培養容器へ交互に繰り返し出し入れすることで撹拌するようにしている。
【0005】
また、特許文献3では、培養容器内の下部から気泡を断続的に供給し、その気泡を培養容器内で成長させて容器の内径に近い大泡とし、その大泡が培養容器を上昇することで、培養液を撹拌するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−135680号公報
【特許文献2】特開2006−288244号公報
【特許文献3】特表2007−511230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2では、培養液に通気するための通気装置の他に圧力を変動させる手段が必要となり、装置が複雑になる問題があると共に、圧力を変動させるための管内の圧力変動室に気泡が混入した場合には、圧力変動室内の気体を除去することが必要となる問題もある。
【0008】
これに対して、特許文献3では、大泡を培養容器内で上昇させるだけで、培養液を撹拌できる利点があるものの、大泡の上昇力だけで撹拌を行うため、培養容器の径が1cm以下と小さく、培養容器を大容量にすることができない問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、培養槽の大きさにかかわらず、培養液を通気エアーなどで効率よく撹拌できる細胞培養装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、培養槽内に培養液を収容し、その培養槽にガスを通気して培養する細胞培養装置において、鉛直な一対の培養筒の下部を連結して反応槽を形成し、その両培養筒の下部にガス吹込手段をそれぞれ接続すると共に両培養筒の上部に排気手段をそれぞれ接続し、いずれか一方のガス吹込手段からその一方の培養筒の下部にガスを吹き込むと共に、他方の培養筒の上部から排気手段を介してガスを排出し、これを交互に繰り返して、両培養筒の培養液を交互に移動して撹拌することを特徴とする細胞培養装置である。
【0011】
請求項2の発明は、鉛直な一対の培養筒の下部を屈曲筒で接続してU字状の反応槽を形成し、ガス吹込手段と排気手段の切り換えで、屈曲筒を通して培養液を一方から他方、又はこの逆に培養液を移動させて撹拌する請求項1記載の細胞培養装置である。
【0012】
請求項3の発明は、ガス吹込手段には、培養筒の下部の内周壁に沿って気泡を吹き出すエアレーションノズルが設けられる請求項1又は2記載の細胞培養装置である。
【0013】
請求項4の発明は、培養筒の上部には、その培養筒の内周側に沿って上昇した培養液を中心側に流下させる対流促進部材が設けられる請求項3記載の細胞培養装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下部を連結した一対の培養筒のいずれか一方にガスを流し、他方の培養筒からガスを排出し、これを交互に繰り返すことで、通気するガスで培養液を培養筒間で移動させながら混合撹拌することができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態を示す図である。
【図2】本発明の他の実施の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
図1(a)、図1(b)は、本発明の細胞培養装置の一実施の形態を示したものである。
【0018】
図1において、10は、培養液11を収容する培養槽で、鉛直に立ち上げられた左右一対の培養筒12a、12bの下部を屈曲筒13で連結してU字状に形成される。左右の培養筒12a、12bは、SUSやガラス管などで形成され、例えば10Lの培養液11を培養する場合、内径は、例えば25cm、長さが100cmに形成されると共に屈曲筒13は、これら左右の培養筒12a、12bの内径と同じ径で、左右の培養筒12a、12bの下端を接続するよう180度屈曲させた形状に形成される。
【0019】
屈曲筒13の下部には、左右の培養筒12a、12bの下部にエアーなどのガスを交互に吹き込むガス吹込手段14a、14bが接続され、左右の培養筒12a、12bの上部には、培養筒12a、12b内に供給されたエアーなどのガスを交互に排出する排気手段15a、15bが接続される。
【0020】
ガス吹込手段14a、14bは、屈曲筒13から培養槽10内に入り、その上端が左右の培養筒12a、12bの下部に臨むように設けられた気泡吹込管16a、16bと、屈曲筒13の外側の気泡吹込管16a、16bに順次接続された供給側開閉バルブ17a、17bと供給側フィルタ18a、18bとで構成される。また供給側開閉バルブ17a、17bの上流側は図示していないがエアーなどのガス供給源に接続され、供給側開閉バルブ17a、17bを開くことで、気泡吹込管16a、16bの上端から左右の培養筒12a、12b内の培養液11にエアーなどのガスを吹き込めるようになっている。
【0021】
排気手段15a、15bは、左右の培養筒12a、12bの上面に接続された排気管19a、19bと、その排気管19a、19bに順次接続された排出側フィルタ20a、20bと、排出側開閉バルブ21a、21bとで構成される。
【0022】
次に本実施の形態の作用を説明する。
【0023】
先ず、培養槽10内に動物細胞等を播種した培養液11を収容し、左右いずれかのガス吹込手段14a(又は14b)からエアーなどのガスを気泡Bとして培養液11に吹き込み、吹き込んだ培養筒12a(又は12b)とは反対側の排気手段15b(又は15a)を開放しておき、これを交互に繰り返すことで、培養液11が、一方の培養筒12aから屈曲筒13を通して他方の培養筒12bに移動し、これを交互に繰り返すことで、培養液11が撹拌される。
【0024】
これを更に説明すると、図1(a)に示すように、左側のガス吹込手段14aの開閉バルブ17aを開いた状態とし、右側のガス吹込手段14bの開閉バルブ17bを閉じた状態とし、排気側は、左側の排気手段15aの開閉バルブ21aを閉じ、右側の排気手段15bの開閉バルブ21bを開いた状態とする。これにより、左側のガス吹込手段14aから培養筒12aに吹き込まれた気泡Bはそのまま培養筒12a内を上昇してその上部の気相部Gaに溜まり、その気相部Gaの圧力で、水面Waが下がり、培養液11は、屈曲筒13を通して右側の培養筒12bに流れ、培養筒12bの気相部Gb内のガスが排気手段15bの開閉バルブ21bを通って排気される。
【0025】
また培養筒12b内の培養液11の液面Wbが上昇したならば、図1(b)に示すように、右側のガス吹込手段14bの開閉バルブ17bを開き、左側のガス吹込手段14aの開閉バルブ17aを閉じ、排気側は、右側の排気手段15bの開閉バルブ21bを閉じ、左側の排気手段15aの開閉バルブ21aを開いた状態に切り換える。これにより、右側のガス吹込手段14bから培養筒12bに気泡Bが吹き込まれ、培養筒12bの気相部Gbにガスが溜まり、その気相部Gbの圧力で、水面Wbが下がり、培養液11は、屈曲筒13を通して左側の培養筒12aに流れ、培養筒12aの気相部Ga内のガスが排気手段15aの開閉バルブ21aを通って排気される。
【0026】
このように、左右のガス吹込手段14a、14bと排気手段15a、15bを交互に切り換えることで、通気するガスだけで、培養槽10内の培養液11にせん断力を与えることなく撹拌することが可能となる。この切り換えは、培養液11全体の約3割程度が、左側の培養筒12aと右側の培養筒12bを交互に移動するように切り換えることで、効率的に撹拌することができる。また気泡吹込管16a、16bから培養液11に吹き込む気泡Bは、気泡径が約1mm程度となるように、気泡吹込管16a、16bの吹出口に多孔質板などを設けて吹き込むようにする。
【0027】
次に、図2により本発明の他の実施の形態を説明する。
【0028】
図2の実施の形態は、基本的な構成は図1の細胞培養装置と同じであるが、ガス吹込手段14a、14bで、培養筒12a、12bに気泡Bを吹き込む際に、その吹き込みで培養筒12a、12b内の培養液11をさらに撹拌できるように構成したものである。
【0029】
図2(a)に示すように、ガス吹込手段14a、14bの気泡吹込管16a、16bの先端には、エアレーションノズル23a、23bが設けられ、培養筒12a、12bの上部には対流促進部材24a、24bが設けられる。
【0030】
エアレーションノズル23a、23bは、図2(d)、図2(e)に示すように気泡吹込管16a、16bの先端に取り付けられたリング状ノズル25の円周方向上面に、多数のノズル孔26が穿設して形成される。リング状ノズル25の外径は、培養筒12a、12bの内径と略同じ径に形成される。
【0031】
対流促進部材24a、24bは、図2(b)、図2(c)に示すように下端が開口した断面逆U字状の円環リング27の内周にロート状のノズル28を設け、円環リング27の頂部にガス放出穴29がその円周方向に沿って多数穿設して形成される。円環リング27の外径は、培養筒12a、12bの内径と略同じ径に形成される。
【0032】
この実施の形態においては、ガス吹込手段14a(又は14b)からエアレーションノズル23a(又は23b)にて気泡Bが、培養筒12a(又は12b)の内周に沿って吹き出され、その気泡Bが培養筒12a(又は12b)の内周壁に沿って上昇し、上部の対流促進部材24a(又は24b)の円環リング27内に入り、ガス放出穴29から吹き出され、気相部Ga(又はGb)に放出される。これにより、培養筒12a(又は12b)の培養液11は他方の培養筒12b(又は12a)に移動するようになるが、この気相部Gaの圧力に加えて、内周側では気泡Bが多く、中心側では気泡Bが少ないため、内周側と中心側では密度差が生じ、中心側では下降流が生じ、対流促進部材24a(又は24b)の円環リング27に気泡Bと共に上昇した培養液11の一部は、ロート状のノズル28の外周で反転して下降流となる。また気泡Bと共に円環リング27内に入り、対流促進部材24a(又は24b)上に放出された培養液11は図示の矢印のように反転してロート状のノズル28内を通って、培養筒12a(又は12b)の中心を流下することとなる。
【0033】
これにより、培養筒12a(又は12b)の培養液11の撹拌がさらに良好となる。
【符号の説明】
【0034】
10 培養槽
11 培養液
12a、12b 培養筒
14a、14b ガス吹込手段
15a、15b 排気手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養槽内に培養液を収容し、その培養槽にガスを通気して培養する細胞培養装置において、鉛直な一対の培養筒の下部を連結して反応槽を形成し、その両培養筒の下部にガス吹込手段をそれぞれ接続すると共に両培養筒の上部に排気手段をそれぞれ接続し、いずれか一方のガス吹込手段からその一方の培養筒の下部にガスを吹き込むと共に、他方の培養筒の上部から排気手段を介してガスを排出し、これを交互に繰り返して、両培養筒の培養液を交互に移動して撹拌することを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
鉛直な一対の培養筒の下部を屈曲筒で接続してU字状の反応槽を形成し、ガス吹込手段と排気手段の切り換えで、屈曲筒を通して培養液を一方から他方、又はこの逆に培養液を移動させて撹拌する請求項1記載の細胞培養装置。
【請求項3】
ガス吹込手段には、培養筒の下部の内周壁に沿って気泡を吹き出すエアレーションノズルが設けられる請求項1又は2記載の細胞培養装置。
【請求項4】
培養筒の上部には、その培養筒の内周側に沿って上昇した培養液を中心側に流下させる対流促進部材が設けられる請求項3記載の細胞培養装置。

【図1】
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【図2】
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