説明

細胞挙動検出方法及び装置

【課題】インピーダンス測定に基づき細胞の挙動として細胞の増殖の他に細胞間の接着状態の変化などを検出することのできる細胞挙動検出方法及び装置を提供する。
【解決手段】細胞が接触する面に作用電極が平面的に配置され、その上方に一定の間隔をおいて対電極が配置された第1の測定セルと、細胞が接触する面に一定の間隔をおいて作用電極と対電極とが平面的に配置された第2の測定セルと、を用い、これら第1及び第2の測定セルの両方において細胞を培養してインピーダンスを測定する。この2種類の測定セルにおいてインピーダンスの変化をモニタすることで、細胞の挙動として細胞の増殖の他に細胞間の接着状態(接着強さ、接着割合など)の変化、電極が細胞で覆われた時間などを評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス測定に基づき細胞の挙動を検出する細胞挙動検出方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インピーダンス測定に基づいて接着依存性の細胞の活性を電気化学的に簡便に測定する方法がある。この方法では、一対の電極(以下、一方の電極を「作用電極」、他方の電極を「対電極」という。)が必要であるが、後述するように、一対の電極のうち少なくとも一方の電極(以下「作用電極」という。)は、測定容器の内部の底面などの、細胞が接触する面に配置される。電極を平面的に配置することにより、安価に製造が可能であり、又突起部も無く、使い勝手が良い。
【0003】
この方法で細胞の活性を測定する場合、接着依存性の細胞を培養して電極上に接触させる。細胞は電極上で細胞分裂を繰り返し、電極を覆いつくすまで増殖する。細胞は油膜で覆われており、電極上で細胞が増えると、電極表面に油膜が付着することにより、電気伝導度が低下し、測定されるインピーダンスが上昇する。この変化をインピーダンス測定器で測定することで、細胞の増殖過程などを測定することができる。
【0004】
特許文献1は、培養容器の内部の底面に作用電極と対電極との一対の電極を配置し、この培養容器内で接着依存性を有する細胞を培養してその細胞を作用電極の表面に接着させ、作用電極と対電極との間に交流電圧を印加してインピーダンスを測定することでその細胞の活性を測定する方法を開示する。同一平面上に一対の電極が配置される場合、その一対の電極としては、同じ形状のものや、一方の面積が大きくされたものが用いられる。
【0005】
一方、特許文献2は、測定容器の内部の底面に作用電極を配置し、その上方に所定距離隔てて対電極を配置し、測定容器内で接着依存性を有する細胞を培養してその細胞を作用電極の表面に接着させ、作用電極と対電極との間に交流電圧を印加してインピーダンスを測定することでその細胞の活性を測定する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−184686号公報
【特許文献2】特開2005−80522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、細胞の表面には様々なタンパク質や機能性高分子があるため、細胞膜の表面を電気が流れる。そのため、上述のように同一平面上に一対の電極を配置する方法では、細胞同士が一対の電極をまたいで接触すると、見掛け上のインピーダンスが低下することがある。そして、細胞同士が電極をまたいで接触した後、細胞が一対の電極の全体を覆った後にも、徐々にインピーダンスが低下することがあるが、本発明者の検討によれば、その原因の一つとして、細胞間の接着強さの増加が考えられる。
【0008】
しかしながら、細胞が死滅した場合にも、細胞が丸まるなどして電極の表面から剥がれて、インピーダンスが低下する。従って、同一平面上に一対の電極を配置する方法によって細胞の挙動を検出するだけでは、細胞が死滅したためにインピーダンスが低下したのか、その他の原因によりインピーダンスが低下したのかを評価することは困難である。
【0009】
一方、上述のように細胞が接触する面に作用電極を配置し、その上方に所定距離隔てて対電極を配置する、一対の電極を三次元的に配置する方法では、細胞が接触する部分の全面を電極とすることができる。そして、細胞が接触する面には、一対の電極のうち作用電極しかないため、電極の全体を細胞が覆っても、電極同士が細胞により短絡されることがない。そのため、典型的には、細胞が電極の全体を覆うことでインピーダンス値が略一定になる。又、上述のように細胞が死滅していくと、インピーダンスが徐々に低下していく。但し、本発明者の検討によれば、細胞間の接着が強い細胞では、細胞が電極上を覆った後に、細胞同士の接着が強固になるために、徐々にインピーダンスが上昇する傾向が見られることがある。
【0010】
しかしながら、上述のように、細胞が増殖した場合にも、インピーダンスが上昇する。従って、一対の電極を三次元的に配置する方法によって細胞の挙動を検出するだけでは、細胞間の接着強さの変化を評価することは困難である。
【0011】
ところで、細胞同士は、物理的な接触によって互いに刺激し合っていると言われている。例えば、細胞間接着により細胞同士でシグナル伝達をして増殖・分化・極性を制御していると考えられている。又、血管内皮細胞の細胞間接着機能が低下するとがん浸潤が起こると言われている。又、乳がん細胞は、増殖が抑制されると細胞間接着が増加するとの報告もある。そして、細胞間接着分子自体の機能解明も盛んに試みられている。
【0012】
このように、各種細胞(癌細胞も含めて)の特性の解明や、薬剤作用の確認・予測への応用などのために、細胞の挙動として細胞の増殖の他に細胞間の接着強さなどを評価することの意義は大きいと考えられる。
【0013】
従って、本発明の目的は、インピーダンス測定に基づき細胞の挙動として細胞の増殖の他に細胞間の接着状態の変化などを検出することのできる細胞挙動検出方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は本発明に係る細胞挙動検出方法及び装置にて達成される。要約すれば、本発明は、第1の測定容器内の底面上に第1の作用電極が平面的に配置され、前記第1の作用電極から離間して前記第1の作用電極の上方に第1の対電極が配置され、前記第1の対電極が浸漬されるように前記第1の測定容器内に培地が収容された第1の測定セルと、第2の測定容器内の底面上に第2の作用電極と第2の対電極とが互いに離間して平面的に配置され、前記第2の測定容器内に培地が収容された第2の測定セルと、において細胞を培養すると共に、該培養の間に前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間及び前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間に所定の電圧を印加して前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間及び前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報をそれぞれ連続的に測定し、前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化と、前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化との差異を明示することを特徴とする細胞挙動検出方法である。
【0015】
本発明の他の態様によると、第1の測定容器と、前記第1の測定容器内の底面上に平面的に配置された第1の作用電極と、前記第1の作用電極から離間して前記第1の作用電極の上方に配置された第1の対電極と、を備え、前記第1の対電極が浸漬されるように前記第1の測定容器内に培地が収容される第1の測定セルと;第2の測定容器と、前記第2の測定容器内の底面上に平面的に配置された第2の作用電極と、前記第2の測定容器内の底面上に前記第2の作用電極から離間して平面的に配置された第2の対電極と、を備え、前記第2の測定容器内に培地が収容される第2の測定セルと;前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間に電圧を印加して前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間のインピーダンスに係る情報を測定する第1の測定器と;前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間に電圧を印加して前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報を測定する第2の測定器と;前記第1の測定器の測定結果に応じた第1の測定結果情報を記憶する第1の記憶手段と;前記第2の測定器の測定結果に応じた第2の測定結果情報を記憶する第2の記憶手段と;前記第1及び第2の記憶手段に記憶された前記第1及び第2の測定結果情報に基づいて処理を実行する処理装置と;前記処理装置の処理結果を出力する出力手段と;を有し;前記処理装置は、前記第1及び第2の測定セルの両方において細胞を培養している間に前記第1及び第2の測定器によってそれぞれ連続的に測定された測定結果に応じて前記第1及び第2の記憶手段に記憶された前記第1及び第2の測定結果情報に基づいて、前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化と、前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化との差異を明示する情報を前記出力手段により出力するための処理を行うことを特徴とする細胞挙動検出装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、インピーダンス測定に基づき細胞の挙動として細胞の増殖の他に細胞間の接着状態の変化などを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る細胞挙動検出装置の一実施例の概略断面構成図である。
【図2】図1の細胞挙動検出装置が備える第1の測定セルを拡大して示す(a)斜視図、(b)平面図である。
【図3】図1の細胞挙動検出装置が備える第2の測定セルを拡大して示す(a)斜視図、(b)平面図である。
【図4】本発明に従って検出された細胞の挙動を示すグラフ図である。
【図5】本発明に従って構成される(a)第1の測定セル、(b)第2の測定セルの一例の概念図である。
【図6】本発明に従って構成される(a)第1の測定セル、(b)第2の測定セルの他の例の概念図である。
【図7】本発明に係る細胞挙動検出方法によって検出される細胞の挙動の典型例を説明するためのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る細胞挙動検出方法及び装置を図面に則して更に詳しく説明する。
【0019】
実施例1
(1)細胞挙動検出方法
先ず、本発明に係る細胞挙動検出方法の一実施例について説明する。
【0020】
(1−1)細胞挙動検出方法の概要
本実施例では、概して、細胞が接触する面に作用電極が平面的に配置され、その上方に一定の間隔をおいて対電極が配置された第1の測定セルと、細胞が接触する面に一定の間隔をおいて作用電極と対電極とが平面的に配置された第2の測定セルと、を用い、これら第1及び第2の測定セルの両方において細胞を培養してインピーダンスを測定する。この2種類の測定セルにおいてインピーダンスの変化をモニタすることで、細胞の挙動として細胞の増殖の他に細胞間の接着状態(接着強さ、接着割合など)の変化、電極が細胞で覆われた時間などを評価することができる。
【0021】
つまり、本実施例の細胞挙動検出方法では、第1の測定容器内の底面上に第1の作用電極が平面的に配置され、第1の作用電極から離間して第1の作用電極の上方に第1の対電極が配置され、第1の対電極が浸漬されるように第1の測定容器内に培地が収容された第1の測定セルと、第2の測定容器内の底面上に第2の作用電極と第2の対電極とが互いに離間して平面的に配置され、第2の測定容器内に培地が収容された第2の測定セルと、において細胞を培養する。又、第1の測定セルと第2の測定セルとにおける細胞の培養の間に、第1の作用電極と第1の対電極との間及び第2の作用電極と第2の対電極との間に所定の電圧を印加して第1の作用電極と第1の対電極との間及び第2の作用電極と第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報をそれぞれ連続的に測定する。そして、第1の作用電極と第1の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化と、第2の作用電極と第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化との差異を明示する。
【0022】
ここで、典型的には、実質的に同一の培養条件で同時に、第1の測定セルと第2の測定セルにおいて細胞を培養してインピーダンスに係る情報を連続的に測定する。培養条件が実質的に同一であるとは、目的とする細胞の挙動を検出するにあたり、第1の測定セルと第2の測定セルのいずれで細胞を培養するかが異なることを除いて、目的とする細胞の培養に関する他の条件(例えば、培地、播種濃度、環境(温度、湿度、二酸化炭素濃度など))に有意な差がないことを意味する。従って、実質的に同一の培養条件とは、培養条件が完全に一致している場合だけではなく、完全に一致することを狙って調整されている場合、或いは細胞培養の分野における通念上有意な差がないと評価できる場合が含まれる。又、細胞の培養及び/又は測定を同時に行うとは、細胞の培養及び/又は測定の始期から終期までの各時点を第1の測定セルを用いた場合と第2の測定セルを用いた場合とで対応付けられるように開始し、終了することを意味する。従って、細胞の培養及び/又は測定を同時に行うとは、完全に同時に開始し、終了する場合だけではなく、完全に同時に開始し、終了することを狙って開始し、終了する場合、或いは異なる時間に開始し、終了するが、両者の間に細胞培養の分野における通念上有意な差がないと評価できる場合が含まれる。但し、本発明は、実質的に同一の培養条件で同時に、第1の測定セルと第2の測定セルにおいて細胞を培養してインピーダンスに係る情報を経時的に測定することに限定されるものではなく、第1の測定セルを用いた場合と第2の測定セルを用いた場合とでインピーダンスに係る情報の経時変化を対比して有意の情報を得られるように、意図して培養条件を異ならせたり、細胞の培養及び/又は測定の始期又は終期を異ならせたりしてもよい。
【0023】
インピーダンスに係る情報の経時変化の差異の明示としては、測定結果に係る数値自体を対比可能なように出力すること、測定結果に係る数値をグラフ化して対比可能なように出力することが含まれる。典型的には、単にインピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線をグラフ化して対比可能なように出力することによって、インピーダンスに係る情報の経時変化の差異を明示することができる。又、各時点におけるインピーダンスに係る情報の測定結果に係る数値自体を、表にするなどして対比可能に出力してもよい。尚、インピーダンスに係る情報の経時変化の差異を明示するとは、細胞の培養及び/又は測定の始期から終期までの全期間における各時点の測定値を対比可能なように出力することに限定されるものではなく、例えば、インピーダンスに係る情報の測定結果の変化(例えば、低下)が始まった時点の差異を時間表示により対比可能に出力したり、インピーダンスに係る情報の測定結果がプラトーに達した時点の差異を時間表示により対比可能に出力したりしてもよい。
【0024】
又、出力方法としては、ディスプレイ装置での表示、プリンタによる印刷(プリンタ)などを好適に用いることができる。
【0025】
目的の細胞は、典型的には、生体内(より詳細にはヒトを含む哺乳動物体内)で増殖した臓器、組織などの生体組織に由来する細胞であって、例えば、がん細胞である。しかし、目的の細胞は、正常組織に由来する細胞であってもよい。特に、本発明では、細胞を電極の表面に接着させて培養し、培養を行っている間にその電極を介して検出されるインピーダンスに係る情報の変化を連続的に測定することから、目的の細胞は、接着依存性増殖をするものである。
【0026】
がん細胞としては、臨床的にはヒトの細胞が用いられるが、薬剤スクリーニングなどの前臨床的目的でマウス、ラットなどの動物細胞を用いることもできる。がん細胞としては、限定されるものではないが、肝臓がん、肺がん、胃がん、大腸がん、卵巣がん、脳腫瘍、乳がん、前立腺がん、皮膚がん及び白血病細胞(血液がん)などのがん細胞が挙げられる。
【0027】
尚、目的の細胞の由来となる生物は典型的にはヒトであるが、特に限定されるものではなく、脊椎動物、無脊椎動物、植物、昆虫、菌体、微生物などの任意のものでよい。
【0028】
目的の細胞は、典型的には、生体から採取された臓器、組織などの生体組織の一部から取り出される。生体から採用した生体組織の一部は、必要に応じて、細かくして液体中に分散させる分散処理、目的の細胞以外の細胞や妨害物質を除去する分離処理などを施すことができる。目的の細胞は、これら分散処理や分離処理によって生体組織から分離される。測定に供される試料は、単離された細胞であることが好ましいが、測定の目的、精度などとの関係で許容し得る範囲において、生体組織に由来するその他の成分を含んでいてもよい。
【0029】
分散処理や分離処理は、通常の細胞培養において行われているものと同様の方法であってよい。分離処理としては、限定されるものではないが、ハサミ、ピンセット、カミソリなどを用いて、生体から摘出された生体組織の一部を細かく分割するなどの機械的処理を行うことができる。分散処理としては、限定されるものではないが、目的の細胞以外の細胞や細胞間質を除去する処理、測定の阻害要因となり得る物質を除去する処理を、酵素的分散処理などによって行うことができる。
【0030】
尚、目的の細胞を予め予備培養して増やしてから測定に用いることもできる。予備培養には、単層培養などの通常の培養方法を用いることができる。又、目的の細胞は、初代培養細胞だけでなく、継代培養細胞であってもよい。
【0031】
目的の細胞を含む試料の播種及び培養する方法としては、一般的な細胞培養法、特に、本発明では、細胞を電極の表面に接着させて培養し、培養を行っている間にその電極を介して検出されるインピーダンスに係る情報の変化を連続的に測定することから、一般的な単層培養と同様の方法を用いることができる。即ち、培地、より詳細には、目的の細胞の増殖に必要な栄養分を含んだ溶液(培養液)を測定容器(培養器)内に収容し、この培地中に目的の細胞を含む試料(通常、目的の細胞を所定の細胞数(播種濃度)で含む液体試料)を播く。培地は、目的の細胞に応じて、斯界における通常の方法に従って、適宜選択することができる。培地には、概して、細胞の増殖作用、生理活性維持作用、更には必要に応じて接着作用に必要な成分が含まれる。より詳細には、培地には、無機塩類、各種アミノ酸、糖類、ビタミン類、動物の血清(ホルモン、細胞増殖因子、細胞接着因子などを含む)などが含まれる。測定容器に試料と培地とを収容して、インキュベータ内で所定の環境条件(所定の温度、湿度、二酸化炭素濃度)に維持しておくことにより、目的の細胞が、測定容器の底部、より詳細には、そこに配置された少なくとも1つの電極(作用電極)の表面に接着し、伸展して、単層を形成する。
【0032】
(1−2)手順
次に、本実施例の細胞挙動検出方法のより具体的な手順の一例について説明する。
1.細胞が接触する面である測定容器内の底面上に作用電極が平面的に配置され、その上方に一定の間隔をおいて対電極が配置された第1の測定セルと、細胞が接触する面である測定容器内の底面上に一定の間隔をおいて作用電極と対電極とが平面的に配置された第2の測定セルと、を用意する。より具体的には、第1の測定セルとしては、測定容器内の底面の全体が作用電極とされたものを用いる。又、より具体的には、第2の測定セルとしては、作用電極と対電極とがそれぞれくし型に形成され、互いのくし歯部が一定の間隔を空けて噛み合わされるようにして配置されたものを用いる。
2.第1及び第2の測定セルにそれぞれ同じ数だけ細胞を播種する。
3.第1及び第2の測定セルをそれぞれインピーダンス測定器にセットする。そして、第1及び第2の測定セルにおいて細胞の培養を行いながら、細胞の増殖過程をインピーダンスに係る情報の変化として連続的に測定する。典型的には、インピーダンスに係る情報の変化の測定は、細胞の培養の初期から開始する。しかし、所望により、インピーダンスに係る情報の変化の測定を、例えば、細胞が電極に接着した後に開始するなど、任意の時点から開始してもよい。
4.第1及び第2の測定セルにおいてそれぞれ測定されたインピーダンスに係る情報の変化の差異を、グラフ化するなどして対比可能なように出力する。
【0033】
(1−3)検出結果
次に、本実施例の細胞挙動検出方法により検出される細胞の挙動の典型例について説明する。
【0034】
図7は、本実施例の細胞挙動検出方法により検出される細胞挙動の典型例を示す。図中横軸は時間を示し、縦軸はインピーダンスに係る情報(測定開始直後の測定値で正規化されたインピーダンスのリアクタンス成分の値(リアクタンス比))を示す。尚、インピーダンスのリアクタンス成分の測定に関しての詳細は後述する。
【0035】
細胞が増殖、伸展、死滅する各段階(図7中のa、b、c、d、eの各時点)で、第1及び第2の測定セルにおいてそれぞれ測定されるインピーダンスのリアクタンス成分(以下、単に「インピーダンス値」ともいう。)には、次のような変化が現れる。
【0036】
a.細胞播種・接着
a時点は、細胞を播種し、細胞の電極への接着が開始する段階である。a時点でのインピーダンス値は、第1及び第2の測定セルの両方に関して初期値を示す。そして、a時点でのインピーダンス値からは、第1及び第2の測定セルの両方に関し細胞の電極への接着度合が分かる。
【0037】
b.増殖中
b時点は、電極に接着した細胞が増殖している段階である。b時点でのインピーダンス値は、第1及び第2の測定セルの両方に関して上昇している。そして、b時点におけるインピーダンス値の変化から、第1及び第2の測定セルの両方に関して細胞の増殖過程が分かる。細胞が細胞分裂を繰り返して増殖すると、細胞を覆う油膜が電極表面に付着するなどして、電気伝導度が低下し、測定されるインピーダンス値が上昇するからである。又、b時点における第1の測定セルと第2の測定セルとでのインピーダンス値の変化の傾きの違いにより、細胞間の接着強さの違いが分かるものと考えられる。なぜなら、細胞間接着の強い細胞ほど、第1の測定セルにおけるインピーダンス値の変化の傾きと、第2の測定セルにおけるインピーダンス値の変化の傾きとの差が顕著に現れるためである。典型的には、細胞間接着が強い細胞ほど、第1の測定セルにおけるインピーダンス値の変化の傾きよりも、第2の測定セルにおけるインピーダンス値の変化の傾きが小さくなる。細胞間接着による抵抗値の減少により、細胞が電極上を覆うことによる抵抗値の上昇が抑えられるためである。
【0038】
c.電極のほぼ全面を覆う
c時点は、増殖した細胞が測定容器内の底面のほぼ全面を覆った段階である。第1の測定セルでは、c時点におけるインピーダンス値は、その上昇の割合が減少してくる。一方、第2の測定セルでは、c時点におけるインピーダンス値はプラトー(横ばい、停滞)になる。そして、このようなc時点における第1の測定セルと第2の測定セルとでのインピーダンス値の変化の違いから、次のことが分かる。即ち、第1の測定セルでは、測定容器内の底面の全面が作用電極であるので、細胞が測定容器内の底面のほぼ全面を覆い、作用電極のほぼ全体を覆った段階でも、作用電極と対電極とが細胞により短絡されることがない。そのため、この段階に至っても、細胞が増殖、伸展することによって、徐々にインピーダンス値が上昇する。一方、第2の測定セルでは、細胞が測定容器内の底面のほぼ全面を覆った段階では、作用電極と対電極との間が短絡されることから、インピーダンス値の上昇速度が減少し、ついにはインピーダンス値の上昇が止まる。このとき、細胞間の接着強さに応じて、インピーダンス値の上昇速度の減少が見られるものと考えられる。なぜなら、細胞間接着による抵抗値の減少と細胞が電極上を覆うことによる抵抗値の上昇とがつりあうためである。
【0039】
d.電極の全面を覆う
d時点は、増殖した細胞が測定容器内の底面の全面を覆った後の段階である。第1の測定セルでは、d時点におけるインピーダンス値はプラトーになる。一方、第2の測定セルでは、d時点におけるインピーダンス値は低下し始める。そして、このようなd時点における第1の測定セルと第2の測定セルとでのインピーダンス値の変化の違いから、次のことが分かる。即ち、第1の測定セルでは、細胞が測定容器内の底面の全体を覆ったことにより、インピーダンス値の上昇が止まる。しかし、第1の測定セルでは、測定容器内の底面の全面が作用電極であるので、細胞間の接着強さが増すなどして細胞間の接着状態が変化したとしても、典型的には、インピーダンス値が顕著に変化することはない。但し、このとき、徐々にインピーダンス値が増加する傾向が見られることがあるが、これは細胞間の接着が強固になったためと考えられる。なぜなら、細胞間接着が増すことで、細胞と細胞とのすき間からもれていた電流の流れが阻害されるためである。一方、第2の測定セルでは、細胞が測定容器内の底面の全面を覆っている段階では作用電極と対電極との間が短絡されていることから、細胞間の接着強さが増すなどして細胞間の接着状態が変化することにより、インピーダンス値が変化する。典型的には、細胞間の接着強さが増して細胞膜の表面を流れる電気量が増加することなどにより、インピーダンス値が低下する。このような細胞間の接着強さの増加は、第1の測定セルにおけるインピーダンス値が一定或いは徐々に増加すること、且つ、第2の測定セルにおけるインピーダンス値が減少することにより確認することができる。
【0040】
e.細胞が死んでいく
e時点は、細胞が死んでいく段階である。第1の測定セルでは、e時点におけるインピーダンス値は低下してくる。一方、第2の測定セルでは、e時点におけるインピーダンス値は低下又は上昇する(典型的には、e時点でインピーダンス値が初期値よりも高い場合には低下し、e時点でインピーダンス値が初期値よりも低い場合には上昇する)。第1の測定セルにおいてインピーダンス値が低下するのは、細胞が死滅したことにより、細胞が丸まるなどして電極の表面から剥がれることによるものと考えられる。一方、第2の測定セルにおいてインピーダンス値が低下するのも上記同様の理由が考えられるが、インピーダンス値が上昇するのは、細胞が死滅することにより細胞間の接着強さが弱くなるなどして、細胞膜の表面を流れる電気量が減少することなどが原因と考えられる。
【0041】
このように、第1の測定セルと第2の測定セルとの2種類の測定セルを用いて細胞を培養し、インピーダンス値の変化をモニタすることにより、細胞がコンフルエント(密集)になった時間や、どの程度の強さで細胞同士が接着しているか(ただ細胞同士が隣り合っているだけなのか、信号のやり取りができる程度に接着しているのかなど)をモニタすることができる。
【0042】
即ち、例えば、第1の測定セルでは上記c時点においてインピーダンス値が増加し、第2の測定セルでは上記c時点においてインピーダンス値がプラトーになることを検出することによって、細胞の培養又は測定の開始から上記c時点までの時間から、細胞がコンフルエントになった時間が分かる。仮に、第1の測定セルのみを用いた場合には、上記c時点から上記d時点においてインピーダンス値がプラトーになるまでのいずれの時点で細胞がコンフルエントになったのかは、顕微鏡による形態観察によらなければ分からない。
【0043】
又、例えば、第1の測定セルでは上記d時点から上記e時点までインピーダンス値はプラトーになっているのに対して、第2の測定セルでは上記d時点から上記e時点までインピーダンス値が徐々に低下してくることを検出することによって、細胞がコンフルエントになった後に、徐々に細胞間の接触強さを増していることが分かる。仮に、第2の測定セルのみを用いた場合には、上記d時点からのインピーダンス値の低下が、細胞間の接着強さが増したことによるものであるのか、細胞が死滅したことによるものであるのかは、顕微鏡による形態観察によらなければ分からない。
【0044】
このように、本実施例の細胞挙動検出方法によれば、インピーダンス測定に基づき細胞の挙動として細胞の増殖の他に細胞間の接着状態の変化などを検出することができる。
【0045】
(2)細胞挙動検出装置
次に、本発明に係る細胞挙動検出装置の一実施例について説明する。
【0046】
(2−1)細胞挙動検出装置の概要
先ず、細胞挙動検出装置の概略構成について説明する。細胞挙動検出装置は、図5(a)に示すように、第1の測定容器10Aと、第1の測定容器10A内の底面11A上に平面的に配置された第1の作用電極2Aと、第1の作用電極2Aから離間(距離L1)して第1の作用電極2Aの上方に配置された第1の対電極3Aと、を備え、第1の対電極3Aが浸漬されるように第1の測定容器10A内に培地Mが収容される第1の測定セル1Aを有する。第1の作用電極2Aは、より検出感度を向上するためには、細胞が第1の測定容器10A内の底面11Aに接着して広がり得る最大限の広さである第1の測定容器10A内の底面11Aの全面に配置されることが好ましい。
【0047】
又、細胞挙動検出装置は、図5(b)に示すように、第2の測定容器10Bと、第2の測定容器10B内の底面11B上に平面的に配置された第2の作用電極2Bと、第2の測定容器10B内の底面11B上に第2の作用電極2Bから離間(距離L3)して平面的に配置された第2の対電極3Bと、を備え、第2の測定容器10B内に培地Mが収容される第2の測定セル1Bを有する。第2の作用電極2Bと第2の対電極3Bの形状は、それぞれ独立して多角形(四角など)、円形状、その他の任意の形状から選択することができる。しかし、速やかな酸化還元反応により感度を向上させるため、第2の作用電極2Bと第2の対電極3Bは、詳しくは後述するような、それぞれくし型に形成され、互いのくし歯部が一定の間隔を空けて噛み合わされるようにして配置されたものが好ましい。又、第2の作用電極2Bと第2の対電極3Bとの間の間隔は、細胞の大きさを考慮すると、検出感度を向上させるためには、0.1μm〜10mm程度が好ましく、より好ましくは1μm〜1mm程度である。
【0048】
又、詳しくは後述するように、細胞挙動検出装置は、第1及び第2の測定セル1A、1Bのそれぞれの作用電極2A、2Bと対電極3A、3Bとの間に電圧を印加して、それぞれの作用電極2A、2Bと対電極3A、3Bとの間のインピーダンスに係る情報を測定する第1及び第2の測定器を有する。又、細胞挙動検出装置は、第1及び第2の測定器のそれぞれの測定結果に応じた第1及び第2の測定結果情報をそれぞれ記憶する第1及び第2の記憶手段を有する。更に、細胞挙動検出装置は、第1及び第2の記憶手段に記憶された第1及び第2の測定結果情報に基づいて処理を実行する処理装置と、処理装置の処理結果を出力する出力手段と、を有する。そして、処理装置は、上述のような細胞挙動検出方法を具現化するべく、第1及び第2の測定セル1A、1Bの両方において細胞を培養している間に第1及び第2の測定器によってそれぞれ連続的に測定された測定結果に応じて第1及び第2の記憶手段に記憶された第1及び第2の測定結果情報に基づいて、第1の作用電極2Aと第1の対電極3Aとの間のインピーダンスに係る情報の経時変化と、第2の作用電極2Bと第2の対電極3Bとの間のインピーダンスに係る情報の経時変化との差異を明示する情報を出力手段により出力するための処理を行う。
【0049】
尚、図6(a)に示すように、第1の測定セル1Aには、第1の作用電極2Aから離間(距離L2)して第1の作用電極2Aの上方に配置された第1の参照電極4Aが設けられてもよい。第1の参照電極4Aは、第1の測定容器10A内に収容される培地Mに浸漬される。又、図6(b)に示すように、第2の測定セル1Bには、第2の測定容器10Bの底面11B上に第2の作用電極2B及び第2の対電極3Bから離間(距離L4)して平面的に配置された第2の参照電極が設けられていてもよい。これにより、三端子法によるインピーダンスに係る情報の測定が可能となる。
【0050】
(2−2)細胞挙動検出装置の具体的構成
次に、図1〜図3を参照して、細胞挙動検出装置の一実施例のより具体的な構成について説明する。
【0051】
図1は、本実施例の細胞挙動検出装置100の概略断面構成を示す。図2は、図1の細胞挙動検出装置100が備える第1の測定セル1Aを拡大して示し、図3は、図1の細胞挙動検出装置100が備える第2の測定セル1Bを拡大して示す。
【0052】
本実施例の細胞挙動検出装置100は、第1の測定セル1A、第2の測定セル1B、第1の測定器(インピーダンス測定器)20A、第2の測定器(インピーダンス測定器)20B、処理装置31などを有するコンピュータ30、インキュベータ40などを備えて構成されている。
【0053】
先ず、本実施例の細胞挙動検出装置100が備える第1の測定セル1Aに関する各要素について説明する。
【0054】
本実施例では、第1の測定セル1Aは、第1の作用電極2A、第1の対電極3A、第1の参照電極4A、2本の引出電極5A及び6A、シリンダー7A、電極固定器8Aなどを有する。
【0055】
第1の作用電極2Aは、本実施例では、基材としてのガラス板9Aの片面全体にITO(インジウム−酸化スズ)が蒸着されて構成されている。このガラス板9Aは、本実施例では、縦横の寸法が1.5cm×1.5cmとされている。又、第1の作用電極2AのITO蒸着面には、直線状の白金ワイヤが引出電極5Aとして連結されている。
【0056】
ここで、基材の材料としては、本実施例では透明なガラスを用いたが、十分な物理的強度を有し、表面に電極が形成できるものであれば、プラスティック、石英、ガラスなど任意の材料を用いることができる。但し、透過式の顕微鏡で細胞を観察するためには、基板は透明であることが好ましい。
【0057】
シリンダー7Aは、本実施例では、外径、内径、高さがそれぞれ1.2cm、1.0cm、1.0cmに形成された、円筒状ガラスリングで構成されている。図2においては、理解を容易にするために、シリンダー7Aの高さを実際よりも低く表している。又、シリンダー7Aは、第1の作用電極2AにおけるITO蒸着面の中央に、一方の端部側が、接着剤としてのエポキシ系接着剤で接着されて固定されている。これにより、シリンダー7Aは、第1の作用電極2Aがその上に形成されたガラス板9Aと共に、底面積0.785cm2、体積0.785cm3の第1の測定容器10Aを構成する。シリンダー7Aの内側のガラス板11Aが第1の測定容器10Aの底面11Aを構成する。
【0058】
第1の対電極3Aは、本実施例では、直径1mmの白金ワイヤを用いて、内径が6.4mmのリング体に形成されている。第1の対電極3Aは、図示のように断面矩形の板状のリング体であってもよいし、断面円形若しくは楕円形のリング体であってもよい。又、第1の対電極3Aには、第1の対電極3Aと直交するように直線状の白金ワイヤが引出電極6Aとして連結されている。更に、第1の対電極3Aは、絶縁材料で形成された電極固定器8Aに引出電極6Aが固定されることにより、シリンダー7Aの内部における第1の作用電極2Aの上方において、第1の作用電極2Aと平行で、且つ、第1の作用電極2Aとの間に所定の距離L1を有して配設されている。距離L1は、本実施例では、1.0mmとされている。
【0059】
第1の参照電極4Aは、本実施例では、直線状の白金ワイヤで構成されている。又、第1の参照電極4Aは、電極固定器8Aに固定されることにより、第1の作用電極2Aの上方における第1の対電極3Aの中心軸線上に配設されると共に、第1の作用電極2A側の端部と第1の作用電極2Aとの間に所定の距離L2を有して配設されている。距離L2は、本実施例では、0.5mmとされている。
【0060】
又、第1の作用電極2A、シリンダー7A、引出電極5A、第1の参照電極4A、第1の対電極3A、引出電極6A、電極固定器8Aは、金属製の載置台12上に載置されて、インキュベータ40内に配設されている。
【0061】
第1の測定器20Aは、インキュベータ40の外部に配設されると共に、リード21A、22A、23Aを介して第1の参照電極4A、引出電極5A、引出電極6Aにそれぞれ接続されている。そして、本実施例では、第1の測定器20Aは、引出電極5Aと引出電極6Aとの間(つまり、第1の作用電極2Aと第1の対電極3Aとの間)にリード22A、23Aを介して任意の周波数の交流電圧(交流信号)Vを供給(印加)しつつ、第1の参照電極4Aと引出電極5Aとの間(つまり、第1の参照電極4Aと第1の作用電極2Aとの間)を流れる交流電流Iをリード21A、22Aを介して検出する。これにより、第1の測定器20Aは、第1の測定容器10Aの底面(第1の作用電極2Aの表面)に接着した細胞CのインピーダンスZを3端子法によって測定可能なように構成されている。又、本実施例では、第1の測定器20Aは、交流電流Iと交流電圧Vとの位相差θを測定する機能も備えている。
【0062】
次に、本実施例の細胞挙動検出装置100が備える第2の測定セル1Bに関する各要素について説明する。
【0063】
本実施例では、第2の測定セル1Bは、第2の作用電極2B、第2の対電極3B、第2の測定容器10Bを有する。
【0064】
第2の作用電極2Bと第2の対電極3Bとは、それぞれくし型に形成され、互いのくし歯部が一定の間隔を空けて噛み合わされるようにして、第2の測定容器10Bの底面11Bに平面的に配置されている。即ち、第2の作用電極2Bは、本実施例では底面11Bが円形とされる第2の測定容器10B内の側壁に沿う略半円形の基部2B2と、該基部2B2から連続して一方向に突出するように平行に設けられた複数(本実施例では4本)のくし歯部2B1とを有する。又、第2の対電極3Bは、本実施例では底面11Bが円形とされる第2の測定容器10B内の側壁に沿う略半円形の基部3B2と、該基部3B2から連続して一方向に突出するように平行に設けられた複数(本実施例では3本)のくし歯部3B1とを有する。そして、第2の作用電極2Bと第2の対電極3Bとを、それぞれのくし歯部2B1、3B1が互いに平行に一定の間隔L3を空けて対向するように配置し、それぞれの基部2B2、3B2で略円形が形成されるようにする。本実施例では、第2の作用電極2Bと第2の対電極3Bとの間の距離L3は0.05mmとした。
【0065】
第2の作用電極2Bと第2の対電極3Bは、全体として、第2の測定容器10Bの底面11Bの中央に配置されている。第2の作用電極2Bのくし歯部2B1は、第2の対電極3Bの基部3B2に近接する位置まで延在し、該基部3B2とは一定の間隔(上記L3と同じでよい。)が空けられている。又、第2の対電極3Bのくし歯部3B1は、第2の作用電極2Bの基部2B2に近接する位置まで延在し、該基部2B2とは一定の間隔(上記L3と同じでよい。)が空けられている。
【0066】
第2の作用電極2Bは、本実施例では、金薄膜で形成されている。又、本実施例では、第2の作用電極2Bの表面積は、0.314cm2とされる。第2の作用電極2Bには、リード22Bが連結されている。又、第2の対電極3Bは、本実施例では、金薄膜で形成されている。又、本実施例では、第2の対電極3Bの表面積は、0.314cm2とされる。第2の対電極3Bには、リード23Bが連結されている。
【0067】
第2の測定容器10Bは、本実施例では、樹脂にて作製された外形、内径、高さがそれぞれ、1.2cm、1.0cm、1.0cmの円筒状の容器である。そして、円形の底部11Bに、上述のようなくし型の第2の作用電極2B、第2の対電極3Bが平面的に配置されている。第2の測定容器10Bは、第1の測定容器10Aに合わせて、底面積が0.785cm2、体積が0.785cm3とされている。
【0068】
ここで、第2の測定容器10Bを構成する材料としては、本実施例では透明な樹脂を用いたが、十分な物理的強度を有し、表面に電極が形成できるものであれば、プラスティック、石英、ガラスなど任意の材料を用いることができる。但し、透過式の顕微鏡で細胞を観察するためには、第2の測定容器10Bは透明であることが好ましい。
【0069】
第2の作用電極2B、第2の対電極3B、第2の測定容器10Bは、金属製の載置台12上に載置されて、インキュベータ40内に配設されている。
【0070】
第2の測定器20Bは、インキュベータ40の外部に配設されると共に、リード22A、23Aを介して第2の作用電極2B、第2の対電極3Bにそれぞれ接続されている。そして、本実施例では、第2の測定器20Bは、第2の作用電極2Bと第2の対電極3Bとの間にリード22A、23Aを介して任意の周波数の交流電圧(交流信号)Vを供給(印加)して、そのとき流れる交流電流Iを検出する。これにより、第2の測定器20Bは、第2の測定容器10Bの底面(第2の作用電極2B、第2の対電極3Bの表面)に接着した細胞CのインピーダンスZを測定可能なように構成されている。又、本実施例では、第2の測定器20Bは、交流電流Iと交流電圧Vとの位相差θを測定する機能も備えている。
【0071】
次に、コンピュータ30の構成について説明すると、本実施例では、コンピュータ30は、第1及び第2の測定セル1A、1Bの両方に共通して用いられる。コンピュータ30は、第1及び第2の測定器20A、20Bのそれぞれの検出結果に基づいて、それぞれのインピーダンスZに係る情報を記憶する記憶手段(第1の測定セル1Aを用いた測定に係る情報を記憶する第1の記憶手段、及び第2の測定セル1Bを用いた測定に係る情報を記憶する第2の記憶手段として機能する)32と、記憶手段32に記憶されたインピーダンスZに係る情報をその経時変化を示す形態に処理する処理装置31と、処理装置31の処理結果を出力する出力手段33と、を有する。記憶手段32としては、限定されるものではないが、ハードディスクや電子的なメモリを好適に用いることができる。処理装置31としては、制御部、演算部、記憶部を備えた一般的な演算制御回路を用いることができる。又、出力手段33としては、処理結果を表示するディスプレイ装置を好適に用いることができる。更に、処理装置31には、入力手段34としてキーボードなどが接続されている。本実施例では、これら処理装置31、記憶手段32、出力手段33としてのディスプレイ装置、及び入力手段34を備えたコンピュータ30が第1及び第2の測定器20A、20Bのそれぞれに接続されている。尚、出力手段33として、処理結果を印刷(プリント)するプリンタを上記ディスプレイ装置の代わりに或いはディスプレイ装置に加えて用いてもよい。そして、本実施例では、コンピュータ30の処理装置31は、第1及び第2の測定器20A、20Bのそれぞれを制御してインピーダンスZの測定動作を実行させると共に、第1及び第2の測定器20A、20Bのそれぞれによって測定されたインピーダンスZと位相差θとが入力されて、これを記憶手段32に記憶させる。
【0072】
次に、本実施例の細胞挙動検出装置100を用いたインピーダンス測定について説明する。
【0073】
先ず、第1及び第2の測定容器10A、10Bのぞれぞれの内部において細胞Cを培養する。具体的には、目的の細胞に応じた適当な培地Mを収容した第1及び第2の測定容器10Aのぞれぞれの底面(第1の作用電極2Aの表面、第2の作用電極2B及び第2の対電極3Bの表面)に、適当な播種濃度で細胞Cを播種し、適当なCO2濃度、湿度、温度に制御されたインキュベータ40内で単層培養する。
【0074】
又、このとき、リード21A、22A、23Aを第1の測定器20Aに接続して第1の測定器20Aを作動させ、又、リード22B、23Bを第2の測定器20Bに接続して第2の測定器20Bを作動させて、第1及び第2の測定セル1A、1Bのそれぞれに所定の測定周波数の交流電圧Vを供給することにより、インピーダンスZの測定を開始する。その後、第1及び第2の測定器20A、20Bのそれぞれによる、インピーダンスZの測定と、交流電流I及び交流電圧Vの位相差θについての測定とを、所定時間(測定間隔)毎に、所定の測定周波数の交流電圧Vを印加しつつ、予め決められた時間(測定時間)だけ実施する。上記測定間隔は任意に決定することができ、例えば、心筋細胞の場合は、1分間に約60回拍動するので、測定間隔は0.01秒〜0.1秒が好ましい。又、血管細胞の場合は、30分程度で収縮反応が終わるので、測定間隔は10秒程度が好ましい。又、がん細胞の場合は、48時間〜72時間と長期反応のため、測定間隔は2分〜5分が好ましい。本実施例では、測定間隔を1分とし、上記測定時間を96時間とした。コンピュータ30は、第1及び第2の測定器20A、20Bによる測定結果のそれぞれに関し、処理装置31に入力されたインピーダンスZと位相差θとを互いに対応させて、記憶手段32に記憶させる。又、所望により、細胞の培養の間に、第1及び第2の測定容器10A、10Bのそれぞれの内部の細胞Cの形態観察を顕微鏡で定期的に行う。
【0075】
続いて、処理装置31は、第1及び第2の測定器20A、20Bによる測定結果のそれぞれに関し、記憶手段32に記憶された上記測定間隔毎のインピーダンスZのリアクタンス成分X(t)を、インピーダンスZとそれに対応する位相差θとに基づいてすべて計算すると共に、記憶手段32に記憶させる。
【0076】
次いで、処理装置31は、第1及び第2の測定器20A、20Bによる測定結果のそれぞれに関し、測定開始直後(或いはインピーダンスZの値が安定した直後。以下同様。)のリアクタンス成分を基準として、測定開始直後からの上記測定間隔毎のリアクタンス成分を正規化する、即ち、測定開始直後のリアクタンスに対するリアクタンス比を求める。そして、求めた上記測定間隔毎のリアクタンス比を記憶手段32に記憶させる。
【0077】
即ち、本実施例では、インピーダンスを示す情報の経時変化として、測定開始直後のインピーダンスのリアクタンス成分に対する、測定間隔毎のインピーダンスのリアクタンス成分の比(リアクタンス比)の経時変化を測定する。
【0078】
尚、本実施例では、各電極と第1及び第2の測定器20A、20Bとの間に生じる接触抵抗や試薬の添加量(濃度)のばらつきなどの外部誤差要因をキャンセルして、微小なリアクタンス成分の時間的変化を感度よく測定するために、測定したリアクタンス成分を、測定開始直後に測定したリアクタンス成分で正規化する。しかし、例えば、接触抵抗が極めて小さく、且つ、ばらつきの少ない状態で測定を開始できる場合などには、測定したリアクタンス成分を正規化することなく、そのリアクタンス成分の時間的変化をインピーダンスに係る情報の経時変化として利用することができる。
【0079】
又、電極間に供給する交流電圧の最適な周波数は、特定の細胞、特定の培養条件などに応じて、予め求めておくことができる。即ち、特定の細胞を培養しながら、周波数を所定の範囲(例えば100Hz〜1MHz)で変更しつつ交流電圧を電極間に供給してインピーダンス、位相差を測定する動作を、所定の測定間隔毎に所定の測定時間にわたって実施する。そして、例えば、所定時間後のインピーダンスのリアクタンス成分の、測定開始直後のリアクタンス成分に対する変化量が最大となる周波数を選択する。又、特定の細胞、特定の培養条件などに対する交流電圧の最適な周波数を予め求めておかなくても、各測定間隔毎に交流電圧の周波数をスイープさせて、各周波数毎のインピーダンス、位相差を測定し、記憶しておくことで、例えば、測定時間の全体にわたって測定値が得られたときに、上記同様にして最適な周波数を選択すると共に、測定間隔毎に各周波数に対して得られた測定値のうち、選択した周波数に対する測定値をその後の処理に用いることができる。
【0080】
処理装置31は、上記インピーダンスに係る情報の経時変化の差異を明示するための前述のような各種方法に係る処理を実行する。即ち、上記インピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線や表などを出力装置によって出力(ディスプレイ装置での表示、プリンタによる印刷など)させるための処理を実行する。
【0081】
尚、本実施例では、第1の測定容器10Aは、ガラス板9A上に形成された第1の作用電極2Aとシリンダー7Aとで形成されるものとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ガラスや樹脂で形成された容器の底部に、例えばガラスなどの基材上に電極が形成された電極部材を配置するようになっていてもよい。又、本実施例では、第2の作用電極2Bと第2の対電極3Bとを第2の測定容器10B内の底面11Bに形成したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ガラスや樹脂で形成された容器の底部に、例えばガラスなどの基板上に電極が形成された電極部材を配置するようになっていてもよい。
【0082】
又、作用電極、対電極、参照電極、及び引出電極の材料は、金属、高分子、炭素など導電性を持つ物質を少なくとも1種類用いていれば如何なるものであってもよい。典型的には、電気化学測定において用いられる一般的なものであってよく、例えば、金、銀、白金、炭素などが挙げられる。又、基材(基板)上に形成される作用電極は、基材(基板)上に容易に形成できる材料が好ましく、又、透過式の顕微鏡で細胞を観察するためには、作用電極は透明であることが好ましい。又、各電極のサイズ及び形状は、目的の細胞が培養できる限り、任意のものを用いることができる。
【0083】
又、本実施例では、説明を容易とするために、細胞挙動検出装置100には、それぞれ単独の第1の測定容器20A、第2の測定容器20Bが設けられているものとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者には周知の複数のウェル(試料収容部,培養容器)を備えた細胞培養用の培養プレートのように複数の測定容器を配列し、各測定容器内に本実施例と同様に複数の電極を配置することができる。この場合、測定器は、各測定容器に配置された電極からの信号を、それぞれの測定容器に関係付けて検出し、検出結果をそれぞれの測定容器に関係付けて処理装置31に入力する。そして、処理装置31は、記憶手段32への情報の記憶、インピーダンスを示す情報の経時変化の差異を明示する処理を、それぞれの測定容器に関係付けて行うようにする。そして、それぞれの測定容器に関する測定結果は、ディスプレイ装置での表示、プリンタによる印刷などにより、同時に又は逐次に行うことができる。
【0084】
(3)具体例
次に、本実施例に従う細胞挙動検出方法を適用した具体例について説明する。
【0085】
本例では、目的の細胞として、ヒト肺癌細胞であるA549細胞を用いた。そして、本実施例の細胞挙動検出装置100において第1及び第2の測定セルを用いて細胞を培養すると共に、両測定セルを用いた場合におけるインピーダンス測定に基づくリアクタンス比の経時変化の違いを測定した。第1及び第2の測定セルにおける測定は、実質的に同一の培養条件で同時に行った。培養条件、測定条件、及び結果は以下の通りである。
・培養条件
播種濃度:1.2万個/200μl(ウェル)
インキュベータ内環境:CO25%、湿度100%、温度37℃
培地:DMEM培地+10%FBS含有
・測定条件
測定周波数:100kHz
測定間隔:1分
測定時間:96時間
・結果
図4は、第1及び第2の測定セルにおけるそれぞれのインピーダンス値(リアクタンス比)の経時変化を示す。測定容器の底面に作用電極と対電極との一対の電極がくし型に配置されている第2の測定セルの場合は、細胞がある程度増えると、細胞間接着により電気が流れ、ある時間からインピーダンス値の低下が見られる。このようなインピーダンス値の低下は、細胞が密になるに従って、細胞同士の接着が密になり電気が流れ易くなるためと考えられる。これに対し、測定容器の底面の全体に作用電極が配置されている第1の測定セルの場合は、作用電極が完全に覆われるまで(増殖中)はインピーダンス値の上昇が見られ、その後もほぼ一定値を示す(細胞が死ぬまでほぼ一定)。そして、時間が経つに連れて、それぞれのインピーダンス値のグラフの差が大きくなる。
【0086】
本例に係る測定の間、定期的に顕微鏡による形態観察を行ったが、図4中のa〜eの各時点における第1及び第2の測定セルにおける細胞の状態は、図7を参照して説明したa〜eの各時点における細胞の状態にほぼ相当することが確認された。
【0087】
このように、本実施例の細胞挙動測定方法を具現化する細胞挙動測定装置を用いることによって、インピーダンス測定に基づき細胞の挙動として細胞の増殖の他に細胞間の接着状態の変化などを検出することができる。
【符号の説明】
【0088】
1A、1B 測定セル
2A、2B 作用電極
3A、3B 対電極
4A、4B 参照電極
10A、10B 測定容器
20A、20B 測定器
30 コンピュータ
31 処理装置
32 記憶手段
33 ディスプレイ装置(出力手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の測定容器内の底面上に第1の作用電極が平面的に配置され、前記第1の作用電極から離間して前記第1の作用電極の上方に第1の対電極が配置され、前記第1の対電極が浸漬されるように前記第1の測定容器内に培地が収容された第1の測定セルと、第2の測定容器内の底面上に第2の作用電極と第2の対電極とが互いに離間して平面的に配置され、前記第2の測定容器内に培地が収容された第2の測定セルと、において細胞を培養すると共に、該培養の間に前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間及び前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間に所定の電圧を印加して前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間及び前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報をそれぞれ連続的に測定し、前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化と、前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化との差異を明示することを特徴とする細胞挙動検出方法。
【請求項2】
前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線と、前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線とを対比可能なように出力することにより、前記差異を明示することを特徴とする請求項1に記載の細胞挙動検出方法。
【請求項3】
第1の測定容器と、前記第1の測定容器内の底面上に平面的に配置された第1の作用電極と、前記第1の作用電極から離間して前記第1の作用電極の上方に配置された第1の対電極と、を備え、前記第1の対電極が浸漬されるように前記第1の測定容器内に培地が収容される第1の測定セルと、
第2の測定容器と、前記第2の測定容器内の底面上に平面的に配置された第2の作用電極と、前記第2の測定容器内の底面上に前記第2の作用電極から離間して平面的に配置された第2の対電極と、を備え、前記第2の測定容器内に培地が収容される第2の測定セルと、
前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間に電圧を印加して前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間のインピーダンスに係る情報を測定する第1の測定器と、
前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間に電圧を印加して前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報を測定する第2の測定器と、
前記第1の測定器の測定結果に応じた第1の測定結果情報を記憶する第1の記憶手段と、
前記第2の測定器の測定結果に応じた第2の測定結果情報を記憶する第2の記憶手段と、
前記第1及び第2の記憶手段に記憶された前記第1及び第2の測定結果情報に基づいて処理を実行する処理装置と、
前記処理装置の処理結果を出力する出力手段と、
を有し、
前記処理装置は、前記第1及び第2の測定セルの両方において細胞を培養している間に前記第1及び第2の測定器によってそれぞれ連続的に測定された測定結果に応じて前記第1及び第2の記憶手段に記憶された前記第1及び第2の測定結果情報に基づいて、前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化と、前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化との差異を明示する情報を前記出力手段により出力するための処理を行うことを特徴とする細胞挙動検出装置。
【請求項4】
前記処理装置は、前記差異を明示する情報として、前記前記第1の作用電極と前記第1の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線と、前記第2の作用電極と前記第2の対電極との間のインピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線とを対比可能なように前記出力手段により出力するための処理を行うことを特徴とする請求項3に記載の細胞挙動検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−37435(P2012−37435A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179013(P2010−179013)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】