細胞捕捉装置および細胞捕捉方法
【課題】細胞へのダメージを極力低減させることができる細胞捕捉装置および細胞捕捉方法を提供する。
【解決手段】通路32は、細胞35の大きさよりも小さい開口33を区画する。通路32には、通路32内に負圧を発生させる負圧発生ユニット16と、通路32内に正圧を作用させる正圧生成ユニット16とが接続される。負圧発生ユニット16は通路32内に負圧を発生させる。開口33は細胞35の大きさよりも小さいことから、負圧の発生に基づき細胞35は開口33に吸着する。細胞35は開口33を塞ぐ。こうして細胞35は捕捉される。その一方で、正圧生成ユニット16は通路内に正圧を作用させる。正圧の作用に基づき細胞35は開口33から引き離される。細胞35は開口33を開放する。こうした細胞35は簡単に採取される。細胞35へのダメージは極力低減される。
【解決手段】通路32は、細胞35の大きさよりも小さい開口33を区画する。通路32には、通路32内に負圧を発生させる負圧発生ユニット16と、通路32内に正圧を作用させる正圧生成ユニット16とが接続される。負圧発生ユニット16は通路32内に負圧を発生させる。開口33は細胞35の大きさよりも小さいことから、負圧の発生に基づき細胞35は開口33に吸着する。細胞35は開口33を塞ぐ。こうして細胞35は捕捉される。その一方で、正圧生成ユニット16は通路内に正圧を作用させる。正圧の作用に基づき細胞35は開口33から引き離される。細胞35は開口33を開放する。こうした細胞35は簡単に採取される。細胞35へのダメージは極力低減される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞に所定の液体を注入するマイクロインジェクション装置に利用される細胞捕捉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロインジェクション装置は広く知られる。シャーレ内には細胞捕捉板が配置される。細胞捕捉板には例えば表面から裏面に貫通する通路が形成される。通路は、細胞の大きさよりも小さい開口を区画する。シャーレ内には培養液が供給される。培養液中には細胞が浮遊する。通路内に負圧が発生すると、培養液は通路内に引き込まれる。その結果、通路の開口には細胞が捕捉される。捕捉された細胞にはキャピラリが挿入される。キャピラリから細胞に所定の液体が注入される。
【特許文献1】特開2004−217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
細胞の培養にあたって液体の注入後に細胞は回収される。回収時、通路内で負圧の発生は停止される。細胞の回収にあたって例えばピペットが用いられる。細胞はピペットの先端からピペットの収容空間内に吸い上げられる。細胞が通路の開口に捕捉される際、例えば細胞の一部が通路内に入り込んでしまう。また、細胞の表面は粘着性を有する。その結果、細胞は開口から剥がれにくい。ピペットでの回収にあたって細胞には大きな引き剥がし力すなわち負荷がかけられなければならない。細胞の破壊が懸念される。
【0004】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、細胞へのダメージを極力低減させることができる細胞捕捉装置および細胞捕捉方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、第1発明によれば、細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットとを備えることを特徴とする細胞捕捉装置が提供される。
【0006】
こうした細胞捕捉装置によれば、負圧発生ユニットは通路内に負圧を発生させる。開口は細胞の大きさよりも小さいことから、負圧の発生に基づき細胞は開口に吸着する。細胞は開口を塞ぐ。こうして細胞は捕捉される。その一方で、正圧生成ユニットは通路内に正圧を作用させる。正圧の作用に基づき細胞は開口から引き離される。細胞は開口を開放する。こうした細胞は簡単に採取される。細胞へのダメージは極力低減される。
【0007】
細胞捕捉装置は、正圧生成ユニットに接続され、所定の刻み値で離散的に正圧生成ユニットの圧力設定値を増大させる制御回路をさらに備えればよい。正圧の圧力設定値は所定の刻み値で離散的に増大する。刻み値は均一の時間間隔で増加する。その結果、細胞に作用する正圧は徐々に増大していく。細胞は開口から徐々に引き離されていく。細胞への負荷はできる限り抑制される。こうして細胞へのダメージは最低限に抑制される。
【0008】
細胞捕捉装置は、開口を塞ぐ細胞を撮像し、対応の画像信号を出力する撮像装置と、撮像装置および正圧生成ユニットに接続されて、少なくとも部分的に開口を開放する細胞の画像を特定する画像信号に基づき正圧生成ユニットの動作を制御する制御回路とをさらに備えればよい。
【0009】
こうした細胞捕捉装置によれば、細胞が開口から離脱すると、撮像装置は、開口を開放する細胞の画像を特定する画像信号を出力する。この画像信号に基づき制御回路は正圧生成ユニットの動作を制御する。例えば細胞が開口から離脱すると同時に正圧の増大が停止される。細胞に余計な正圧の作用は回避される。こうして細胞へのダメージは最低限に抑制される。
【0010】
細胞捕捉装置は、通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端に接続されて、液流路から流れ出る液体を受け止める液溜まりとをさらに備えればよい。
【0011】
こうした細胞捕捉装置によれば、細胞捕捉板の開口に細胞が捕捉される。通路に正圧が作用すると、細胞は開口から引き離される。このとき、液体供給ユニットから液流路に液体が供給される。液流路に受け入れられる細胞捕捉板上に液体が供給される。液体は液流路から下流の液溜まりに流れ出る。こうして細胞は液溜まりに押し流される。液溜まりで細胞は簡単に採取されることができる。
【0012】
同様に、細胞捕捉装置は、通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端で、液流路よりも下段に設置される回収容器と、液流路の下流端に設置されて、液流路の下流端から流れ出る液体の流れを堰き止める第1姿勢、および、液流路の下流端から液体の流出を許容する第2姿勢の間で姿勢を変化させる堰き止め部材とをさらに備えればよい。
【0013】
こういった細胞捕捉装置では、細胞捕捉板の開口に細胞が捕捉される。通路に正圧が作用すると、細胞は開口から引き離される。このとき、液体供給ユニットから液流路に液体が供給される。液流路に受け入れられる細胞捕捉板上に液体が供給される。液体は液流路から下流端に向かって流れる。液流路の下流端には第1姿勢の堰き止め部材が設置される。堰き止め部材は、液流路の下流端から流れ出る液体の流れを堰き止める。堰き止め部材が第2姿勢を確立すると、液流路の下流端から液体の流出を許容する。その結果、細胞捕捉板上から回収容器に勢いよく液体が流れ出る。こうした液体の流れに基づき回収容器に向かって細胞は確実に押し流される。細胞は簡単に回収容器に移動することができる。回収容器で細胞は簡単に採取されることができる。
【0014】
同様に、細胞捕捉装置は、通路を区画する細胞捕捉板と、所定の水平軸回りで回転自在に支持され、基準平面に沿って基準姿勢の細胞捕捉板を受け入れる液収容窪みを区画する細胞捕捉容器と、液収容窪みに接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、基準平面に対して所定の傾斜角を確立する傾斜姿勢で細胞捕捉容器に液収容窪みの外側で支持される細胞回収容器と、細胞捕捉板および細胞回収容器の間に配置され、細胞捕捉板から細胞回収容器に向かって基準平面に対して傾斜角で立ち上がる傾斜面とをさらに備えればよい。
【0015】
こういった細胞捕捉装置では、細胞捕捉容器に液収容窪みが区画される。液収容窪みは基準平面に沿って基準姿勢の細胞捕捉板を受け入れる。基準平面に対して所定の傾斜角を確立する傾斜姿勢で細胞捕捉容器に細胞回収容器が支持される。細胞捕捉板の開口には細胞が捕捉される。通路に正圧が作用すると、細胞は開口から引き離される。液体供給ユニットから液収容窪みに液体が供給される。このとき、細胞捕捉容器は所定の水平軸回りで回転する。その結果、細胞捕捉板は所定の傾斜姿勢を確立する。細胞捕捉板から細胞回収容器に向かって立ち上がる傾斜面に沿って液体は流れる。こうして液体とともに細胞は細胞回収容器に押し流される。細胞回収容器で細胞は簡単に採取されることができる。
【0016】
以上のような細胞捕捉装置は例えばマイクロインジェクション装置といったインジェクション装置に組み込まれる。インジェクション装置は、細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットと、細胞に液体を注入するインジェクションユニットとを備えればよい。
【0017】
第2発明によれば、表面に細胞の大きさよりも小さい開口を区画する細胞捕捉板の表面に、細胞を含む液体を供給する工程と、細胞捕捉板内に区画されて開口に通じる通路内に負圧を発生させて、開口に液体内の細胞を吸着させて細胞で開口を塞ぐ工程と、通路内に正圧を発生させて、少なくとも部分的に開口を開放する工程とを備えることを特徴とする細胞捕捉方法が提供される。
【0018】
こうした細胞捕捉方法によれば、細胞捕捉板の通路内に負圧が発生する。負圧に基づき液体内の細胞は通路の開口に吸着して開口を塞ぐ。こうして細胞が捕捉される。その後、通路内には正圧が発生する。正圧に基づき細胞は少なくとも部分的に開口を開放する。こうして細胞は開口から引き離される。こうした細胞は簡単に採取される。細胞へのダメージは極力低減される。
【0019】
こうした細胞捕捉方法は、正圧の発生にあたって、通路に接続される正圧生成ユニットで所定の刻み値で離散的に圧力設定値を増大させる工程を備えればよい。正圧の圧力設定値は所定の刻み値で離散的に増大する。刻み値は均一の時間間隔で増加する。その結果、細胞に作用する正圧は徐々に増大していく。細胞は開口から徐々に引き離されていく。細胞への負荷はできる限り抑制される。細胞へのダメージは最低限に抑制される。
【0020】
細胞捕捉方法は、開口を塞ぐ細胞の画像を撮像する工程と、少なくとも部分的に開口を開放する細胞を撮像すると、正圧の増大を停止する工程とを備えればよい。少なくとも部分的に開口を開放する細胞が撮像されると、正圧の増大が停止される。こうして細胞に余計な正圧の作用は回避される。細胞へのダメージは最低限に抑制される。
【0021】
細胞捕捉方法は、細胞捕捉板上に液体の流れを生成し、細胞捕捉板に隣接する液溜まりに向かって細胞を押し流す工程をさらに備えればよい。こうして細胞捕捉板上に液体の流れが生成されると、細胞は液溜まりに押し流される。液溜まりで細胞は簡単に採取されることができる。
【0022】
細胞捕捉方法は、細胞捕捉板上に液体の流れを生成し、細胞捕捉板の外側に配置される回収容器に向かって細胞を押し流す工程をさらに備えればよい。こうして細胞捕捉板上に液体の流れが生成されると、細胞は回収容器に押し流される。回収容器で細胞は簡単に採取されることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように本発明によれば、細胞へのダメージを極力低減させることができる細胞捕捉装置および細胞捕捉方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0025】
図1は本発明に係るインジェクション装置の一具体例すなわちマイクロインジェクション装置11の構造を概略的に示す。マイクロインジェクション装置11は、例えば細胞といった微小体に薬剤や遺伝子といった注入物を注入するインジェクションユニット12を備える。インジェクションユニット12はキャピラリ13を備える。キャピラリ13はキャピラリ13の軸心に沿って前後移動する。前後移動に基づきキャピラリ13は先端から細胞に挿入される。
【0026】
インジェクションユニット12はステージ14に向き合わせられる。ステージ14は水平面に沿って水平移動することができる。ステージ14の水平面上には細胞捕捉ユニット15が配置される。キャピラリ13は前後移動に基づき細胞捕捉ユニット15に対して相対移動することができる。細胞捕捉ユニット15では、培養液中に浮遊する細胞が捕捉される。細胞捕捉ユニット15の詳細は後述される。
【0027】
細胞捕捉ユニット15には圧力発生ユニット16が接続される。圧力発生ユニット16には例えばレギュレータが用いられる。圧力発生ユニット16は、細胞捕捉ユニット15に正圧および負圧を供給することができる。圧力発生ユニット16では、細胞捕捉ユニット15に供給される正圧の圧力値および負圧の圧力値が調整される。圧力発生ユニット16は本発明の正圧生成ユニットおよび負圧発生ユニットを構成する。
【0028】
ステージ14の背後には撮像装置すなわちカメラ17が配置される。カメラ17は鉛直方向に細胞捕捉ユニット15に向き合わせられる。細胞捕捉ユニット15およびカメラ17の間には顕微鏡ユニット18が配置される。カメラ17には細胞捕捉ユニット15を挟んで照明ユニット19が向き合わせられる。照明ユニット19は細胞捕捉ユニット15に向かって鉛直方向に光を照射する。顕微鏡ユニット18および照明ユニット19の働きでカメラ17は細胞捕捉ユニット15の拡大画像を撮像することができる。カメラ17は、拡大画像に対応の画像信号を出力する。
【0029】
インジェクションユニット12、ステージ14、圧力発生ユニット16、カメラ17および照明ユニット19といった各構成部品には制御回路21が接続される。制御回路21から出力される制御信号に基づきこれら構成部品の動作は制御される。制御回路21にはモニタ22が接続される。モニタ22の表示画面上には、例えばカメラ17で撮像された拡大画像が表示される。マイクロインジェクション装置11の使用者はモニタ22で拡大画像を確認することができる。
【0030】
制御回路21は、例えばメモリ(図示されず)に一時的に格納されるソフトウェアプログラムやデータに基づき様々な演算処理を実行する。こうしたソフトウェアプログラムやデータは、マイクロインジェクション装置11に組み込まれるハードディスク駆動装置(HDD)といった大容量記憶装置に格納されればよい。制御回路21にはキーボードといった入力装置(図示されず)が接続されればよい。使用者はキーボードから制御回路21に指示や情報を入力する。
【0031】
図2は第1具体例に係る細胞捕捉ユニット15の構造を概略的に示す。細胞捕捉ユニット15は、ステージ14上に受け止められる細胞捕捉容器すなわち捕捉用シャーレ25を備える。捕捉用シャーレ25は透明な樹脂材料から構成される。捕捉用シャーレ25は液流路26を区画する。液流路26には細胞捕捉板27が受け入れられる。細胞捕捉板27は液流路26に着脱自在に受け入れられる。細胞捕捉板27は例えば透明なシリコンチップから構成される。液流路26には前述の圧力発生ユニット16が接続される。圧力発生ユニット16は液流路26に圧力を供給する。
【0032】
液流路26の上流端には液体供給ユニット28が接続される。液体供給ユニット28は例えば培養液といった所定の液体を出力する。その一方で、液流路26の下流端には、細胞捕捉板27に隣接する液溜まり29が接続される。液体供給ユニット28から液流路26の上流端に液体が供給されると、細胞捕捉板27上に液体の流れが生成される。液体は液流路26の下流端から液溜まり29に流れ出る。液溜まり29は、流れ出る液体を受け止める。
【0033】
図3に示されるように、細胞捕捉板27は液溜まり29の底面よりも上段に配置される。液体供給ユニット28との接続口は細胞捕捉板27の表面よりも上段に配置される。細胞捕捉板27は、液流路26の底面との間で所定の圧力室31を規定する。液流路26の底面に圧力発生ユニット16が接続される。こうして圧力発生ユニット16は圧力室31に圧力を供給する。圧力発生ユニット16との接続にあたって例えばゴムチューブが用いられればよい。
【0034】
細胞捕捉板27には、その表面から裏面に貫通する複数の貫通孔すなわち通路32が形成される。通路32は圧力室31を開放する。細胞捕捉板27の厚みは例えば10μm程度に設定される。図4を併せて参照し、通路32は例えばマトリックス状に配置される。通路32の断面は例えば円形に規定されればよい。通路32には開口33が区画される。開口33は細胞の大きさよりも小さく形成される。開口33の直径は例えば2μm〜3μm程度に設定される。
【0035】
圧力室31の圧力の制御にあたって、制御回路21は圧力発生ユニット16に制御信号を供給する。制御信号は圧力設定値を特定する。制御信号に基づき圧力発生ユニット16は圧力を制御する。制御回路21は、圧力発生ユニット16で所定の刻み値で離散的に圧力設定値を増大させる。例えば正圧の供給にあたって、制御回路21は、例えば50[Pa]上昇の制御信号を等間隔すなわち均一の時間間隔で出し続ける。なお、細胞捕捉ユニット15、圧力発生ユニット16、カメラ17、制御回路21および液体供給ユニット28は本発明の細胞捕捉装置を構成する。
【0036】
次に、マイクロインジェクション装置11の動作を説明する。まず、液体供給ユニット28から液流路26に細胞の培養液が供給される。培養液には細胞は含まれない。培養液は細胞捕捉板27上に供給される。制御回路21から圧力発生ユニット16に制御信号が供給される。制御信号は負圧の圧力設定値を特定する。制御信号に基づき圧力発生ユニット16は圧力室31すなわち通路32に負圧を発生させる。その結果、通路32内に培養液が引き込まれる。通路32は培養液で満たされる。
【0037】
続いて、細胞捕捉板27の表面に細胞が供給される。供給にあたって例えばピペットが用いられる。圧力発生ユニット16は通路32の圧力を圧力設定値に維持する。負圧に基づき通路32に培養液が引き込まれることから、図5に示されるように、細胞35は通路32の開口33に向かって誘導される。開口33は細胞35の大きさよりも小さいことから、細胞35は開口33に吸着する。細胞35は開口33を塞ぐ。こうして細胞35は開口33で捕捉される。このとき、キャピラリ13の先端は細胞35に差し込まれる。キャピラリ13の先端から細胞35に例えば薬剤や遺伝子は注入される。
【0038】
開口33に捕捉されるすべての細胞35に注入が完了すると、制御回路21はカメラ17を駆動する。照明ユニット19から照射される光に基づきカメラ17は細胞捕捉板27の拡大画像を撮影する。図6に示されるように、カメラ17は、開口33を塞ぐ細胞35を撮像する。カメラ17は細胞35にピントを合わせる。カメラ17は、対応の画像信号を制御回路21に出力する。制御回路21は例えばメモリに画像を格納する。カメラ17は均一の時間間隔で連続的に撮像を実施する。
【0039】
制御回路21は圧力発生ユニット16に制御信号を出力する。各制御信号は負圧の圧力設定値を特定する。圧力設定値は所定の刻み値で離散的に増大する。前述されるように、刻み値は50[Pa]に設定される。こうして制御信号が出力されるごとに圧力設定値は50[Pa]増大する。制御信号に基づき圧力発生ユニット16は正圧を徐々に増大させる。正圧は圧力室31に供給される。その結果、図7に示されるように、通路32内の正圧は徐々に増大していく。
【0040】
通路32内の正圧が例えば1.2[kPa]に到達すると、図8に示されるように、正圧は開口33から細胞35を引き離す。開口33は開放される。図9に示されるように、細胞35の移動に基づきカメラ17および細胞35の距離は変化する。細胞35のピントはぼける。カメラ17は、開口33を開放する細胞35の画像を特定する画像信号を生成する。画像信号は制御回路21に出力される。圧力発生ユニット16は正圧の増大を停止する。このとき、圧力発生ユニット16は、停止時の正圧の圧力値を維持してもよいし、停止時の正圧の圧力値から圧力値を減少させてもよい。
【0041】
液体供給ユニット28は液流路26に培養液単体を供給する。培養液には細胞35は含まれない。液流路26では、細胞捕捉板27上に培養液の流れが生成される。液溜まり29は細胞捕捉板27よりも下段に形成されることから、培養液は液溜まり29に向かって流れ出る。その結果、図10に示されるように、細胞35は培養液とともに液溜まり29に押し流される。こうして細胞35は、液溜まり29に流れ出た培養液中に浮遊する。浮遊する細胞35は例えばピペットに取り込まれる。こうして細胞35は別の容器に移し替えられる。細胞35は別の容器で培養される。
【0042】
以上のようなマイクロインジェクション装置11によれば、所定の注入物の注入後に通路32に正圧が作用する。正圧の作用に基づき細胞35は開口33から引き離される。細胞35は開口33を開放する。その結果、細胞35は培養液中を浮遊する。培養液中で細胞35には負荷は作用しないことから、細胞35は例えばピペットで簡単に採取されることができる。細胞35へのダメージは極力低減される。細胞35の破壊は防止される。細胞35の採取作業や培養作業は効率的に実施されることができる。
【0043】
しかも、正圧の圧力設定値は所定の刻み値で離散的に増大する。刻み値は均一の時間間隔で増加する。その結果、細胞35に作用する正圧は徐々に増大していく。細胞35は開口33から徐々に引き離されていくことから、細胞35への負荷はできる限り抑制される。こうして細胞35へのダメージは最低限に抑制される。細胞35の採取作業や培養作業は効率的に実施されることができる。加えて、細胞35は培養液とともに液溜まり29に押し流される。液溜まり29では細胞35は簡単に採取されることができる。
【0044】
加えて、細胞35が開口33から引き離されると、カメラ17は、開口33を開放する細胞35の画像を特定する画像信号を出力する。こうした画像信号の出力に応じて正圧の増大は停止する。すなわち、細胞35が開口33から引き離されると同時に正圧の増大が停止される。細胞35に余計な正圧の作用は回避される。こうして細胞35へのダメージは最低限に抑制される。細胞35の採取作業や培養作業は効率的に実施されることができる。
【0045】
図11は第2具体例に係る細胞捕捉ユニット15aの構造を概略的に示す。この細胞捕捉ユニット15aは、液流路26および液溜まり29の間に設置される板状の堰き止め部材41を備える。図12を併せて参照し、堰き止め部材41の両側端はそれぞれ、捕捉用シャーレ25の側壁に区画される1対の支持片42、42に挟み込まれる。支持片42は、捕捉用シャーレ25の底面に直交する垂直方向に立ち上がる。支持片42、42同士の間に案内溝が区画される。堰き止め部材41は垂直方向に移動することができる。その他、前述の細胞捕捉ユニット15と均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。
【0046】
図13に示されるように、例えば細胞35の捕捉時、堰き止め部材41は第1姿勢を確立する。第1姿勢の堰き止め部材41は捕捉用シャーレ25に受け止められる。液流路26の下流端は塞がれる。その結果、液流路26の下流端から液溜まり29に向かう培養液の流れは堰き止められる。その一方で、例えば細胞35の離脱時、図14に示されるように、堰き止め部材41は支持片42の案内で垂直方向に持ち上げられる。堰き止め部材41は第1姿勢から第2姿勢に姿勢を変化させる。液流路26の下流端は開放される。その結果、堰き止め部材41は液流路26の下流端から液溜まり29に向かって培養液の流出を許容する。
【0047】
こうした細胞捕捉ユニット15aでは、細胞35の捕捉時、堰き止め部材41は第1姿勢を確立する。堰き止め部材41の働きで培養液は液流路26に溜め込まれる。液溜まり29は空にされる。その一方で、細胞35の離脱時、堰き止め部材41は第2姿勢を確立する。細胞捕捉板27は液溜まり29よりも上段に配置されることから、細胞捕捉板27上から液溜まり29に勢いよく培養液が流れ出る。こうした培養液の流れに基づき液溜まり29に向かって細胞35は確実に押し流される。細胞35は簡単に液溜まり29に移動することができる。
【0048】
図15は第3具体例に係る細胞捕捉ユニット15bの構造を概略的に示す。この細胞捕捉ユニット15bでは、液流路26の下流端で液流路26よりも下段に回収容器43が設置される。回収容器43は、細胞捕捉板27の外側で捕捉用シャーレ25に着脱自在に保持される。液流路26および回収容器43の間には堰き止め部材44が設置される。堰き止め部材44はヒンジ45で捕捉用シャーレ25に連結される。堰き止め部材44、ヒンジ45および捕捉用シャーレ25は樹脂材料から一体成型される。ヒンジ45はいわゆるリビングヒンジを構成する。その結果、堰き止め部材44は、ヒンジ45に規定される所定の水平軸L1回りに揺動する。
【0049】
堰き止め部材44は、細胞捕捉板27の表面から立ち上がる第1姿勢を確立する。図16を併せて参照し、堰き止め部材44の内壁面には溝46が形成される。第1姿勢の堰き止め部材44では、溝46は、細胞捕捉板27の表面に直交する垂直方向に延びる。堰き止め部材44が水平軸L1回りで第1姿勢から第2姿勢に姿勢を変化させると、図17に示されるように、堰き止め部材44は回収容器43上に進入する。その結果、図18に示されるように、溝46は、液流路26から回収容器43に向かって延びる流路を構成する。その他、前述の細胞捕捉ユニット15、15aと均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。
【0050】
例えば細胞35の捕捉時、堰き止め部材44は第1姿勢を確立する。図19に示されるように、堰き止め部材44は液流路26の下流端を塞ぐ。堰き止め部材44は、液流路26の下流端から流れ出る培養液の流れを堰き止める。その一方で、細胞35の離脱時、図20に示されるように、堰き止め部材44が第2姿勢を確立すると、液流路26は開放される。堰き止め部材44は液流路26の下流端から回収容器43に向かって培養液の流出を許容する。細胞捕捉板27上から溝46に沿って勢いよく培養液が流れ出る。その後、図21に示されるように、回収容器43は捕捉用シャーレ25から取り外される。細胞35は、回収容器43に収容された状態で培養される。
【0051】
こうした細胞捕捉ユニット15bでは、細胞35の捕捉時、堰き止め部材44は第1姿勢を確立する。堰き止め部材44の働きで培養液は液流路26に溜め込まれる。回収容器43は空にされる。その一方で、細胞35の離脱時、堰き止め部材44は第2姿勢を確立する。細胞捕捉板27は回収容器43よりも上段に配置されることから、細胞捕捉板27上から回収容器43に勢いよく培養液が流れ出る。こうした培養液の流れに基づき回収容器43に向かって細胞35は確実に押し流される。液流路26に培養液が追加供給されなくても、細胞35は簡単に回収容器43に移動することができる。
【0052】
以上のような細胞捕捉ユニット15bでは、図22に示されるように、堰き止め部材44では溝46の外端は壁体47で塞がれてもよい。壁体47の内側には溝46の外端に流出口48が形成される。第2姿勢の堰き止め部材44では流出口48は回収容器43に向き合わせられる。図23に示されるように、堰き止め部材44が第1姿勢を確立すると、流出口48は培養液の液面よりも上段に配置される。その一方で、堰き止め部材44が第2姿勢を確立すると、図24に示されるように、液流路26の下流端は開放される。その結果、液流路26の下流端から溝46に沿って流れ出る培養液は流出口48から回収容器43に流れ込む。
【0053】
こうした細胞捕捉ユニット15cでは、前述と同様に、例えば細胞35の離脱時に堰き止め部材44は第1姿勢から第2姿勢に姿勢を変化させる。姿勢の変化の実現にあたって、例えばマイクロインジェクション装置11の使用者は、堰き止め部材44の壁体47の頂上面を指で触る。指から堰き止め部材44にヒンジ45の水平軸L1回りに回転力が付与される。こうして堰き止め部材44は第2姿勢に姿勢を変化させる。壁体47の働きで使用者の指と溝46の内壁面との接触は確実に回避される。溝46の内壁面に例えば細菌といった付着物の付着は回避される。培養液中に付着物の混入は確実に防止される。
【0054】
図25は第4具体例に係る細胞捕捉ユニット15cの構造を概略的に示す。この細胞捕捉ユニット15cは、液収容窪み51を区画する細胞捕捉容器すなわち捕捉用シャーレ52を備える。液収容窪み51は、基準平面Pに沿って基準姿勢の細胞捕捉板27を受け入れる。基準平面Pは水平面に沿って規定される。液収容窪み51には前述の液体供給ユニット28が接続される。液収容窪み51の底面に前述の圧力発生ユニット16が接続される。接続にあたって例えばゴムチューブが用いられる。こうして圧力発生ユニット16は、液収容窪み51の底面および細胞捕捉板27の間に区画される圧力室53に圧力を供給する。
【0055】
捕捉用シャーレ52は所定の水平軸L2回りで回転自在に支持機構(図示されず)に支持される。捕捉用シャーレ52には第1傾斜面54が形成される。第1傾斜面54は、捕捉用シャーレ52の外縁に向かって基準平面Pに対して所定の傾斜角αで立ち上がる。捕捉用シャーレ52の外壁には液収容窪み51の外側に第2傾斜面55が形成される。第2傾斜面55は第1傾斜面54に直交する。第2傾斜面55には細胞回収容器56の側壁が受け止められる。第2傾斜面55の働きで細胞回収容器56は所定の傾斜姿勢を確立する。細胞回収容器56は基準平面Pに対して前述の傾斜角αを確立する。その結果、細胞回収容器56は液収容窪み51に向かって開口する。第1傾斜面54の外端は細胞回収容器56に接続される。
【0056】
細胞回収容器56は捕捉用シャーレ52に着脱自在に支持される。捕捉用シャーレ52には、細胞回収容器56の下端に区画される縁56aを受け入れる支持溝57が形成される。図26を併せて参照し、捕捉用シャーレ52には、細胞回収容器56の上端に区画される縁56bを受け入れる1対の支持部材58が形成される。細胞回収容器56の取り付けにあたって細胞回収容器56は、縁56bで支持部材に嵌め込まれた後に、縁56aで支持溝57に嵌め込まれればよい。捕捉用シャーレ52は樹脂材料から構成されることから、縁56a、56bの嵌め込みにあたって捕捉用シャーレ52の弾性変形が引き起こされる。
【0057】
例えば細胞35の捕捉時、細胞捕捉板27は基準姿勢を確立する。図27に示されるように、液収容窪み51に細胞35を含む培養液が供給される。第1傾斜面54は基準平面Pに対して所定の傾斜角αで立ち上がることから、第1傾斜面54は液収容窪み51から流れ出る培養液の流れを堰き止める。その一方で、細胞35の離脱時、捕捉用シャーレ52は水平軸L2回りで回転する。その結果、図28に示されるように、細胞捕捉板27は所定の傾斜姿勢を確立する。その一方で、細胞回収容器56は基準平面Pに沿って水平姿勢を確立する。その結果、第1傾斜面54から細胞回収容器56に向かって培養液の流れが生み出される。細胞捕捉板27上から細胞回収容器56に沿って勢いよく培養液が流れ出る。その後、細胞回収容器56は捕捉用シャーレ52から取り外される。細胞35は、細胞回収容器56に収容された状態で培養される。
【0058】
こうした細胞捕捉ユニット15cでは、細胞35の捕捉時、細胞捕捉板27は基準平面Pに沿って基準姿勢を確立する。その結果、培養液は液収容窪み51に溜め込まれる。細胞回収容器56は空にされる。その一方で、細胞35の離脱時、細胞捕捉板27は所定の傾斜姿勢を確立する。細胞回収容器56は基準平面Pに沿って水平姿勢を確立する。液収容窪み51は細胞回収容器56よりも上段に配置される。その結果、細胞捕捉板27上から細胞回収容器56に勢いよく培養液が流れ出る。こうした培養液の流れに基づき細胞回収容器56に向かって細胞35は確実に押し流される。細胞35は簡単に回収容器43に移動することができる。
【0059】
(付記1) 細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットとを備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0060】
(付記2) 付記1に記載の細胞捕捉装置において、前記正圧生成ユニットに接続され、所定の刻み値で離散的に前記正圧生成ユニットの圧力設定値を増大させる制御回路をさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0061】
(付記3) 付記1に記載の細胞捕捉装置において、前記開口を塞ぐ細胞を撮像し、対応の画像信号を出力する撮像装置と、撮像装置および前記正圧生成ユニットに接続されて、少なくとも部分的に開口を開放する細胞の画像を特定する画像信号に基づき前記正圧生成ユニットの動作を制御する制御回路とをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0062】
(付記4) 付記1に記載の細胞捕捉装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端に接続されて、液流路から流れ出る液体を受け止める液溜まりとをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0063】
(付記5) 付記1に記載の細胞捕捉装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端で、液流路よりも下段に設置される回収容器と、液流路の下流端に設置されて、液流路の下流端から流れ出る液体の流れを堰き止める第1姿勢、および、液流路の下流端から液体の流出を許容する第2姿勢の間で姿勢を変化させる堰き止め部材とをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0064】
(付記6) 付記1に記載の細胞捕捉装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、所定の水平軸回りで回転自在に支持され、基準平面に沿って基準姿勢の細胞捕捉板を受け入れる液収容窪みを区画する細胞捕捉容器と、液収容窪みに接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、基準平面に対して所定の傾斜角を確立する傾斜姿勢で細胞捕捉容器に液収容窪みの外側で支持される細胞回収容器と、細胞捕捉板および細胞回収容器の間に配置され、細胞捕捉板から細胞回収容器に向かって基準平面に対して前記傾斜角で立ち上がる傾斜面とをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0065】
(付記7) 細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットと、細胞に液体を注入するインジェクションユニットとを備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0066】
(付記8) 付記7に記載のインジェクション装置において、前記正圧生成ユニットに接続され、所定の刻み値で離散的に前記正圧生成ユニットの圧力設定値を増大させる制御回路をさらに備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0067】
(付記9) 付記7に記載のインジェクション装置において、前記開口を塞ぐ細胞を撮像し、対応の画像信号を出力する撮像装置と、撮像装置および前記正圧生成ユニットに接続されて、少なくとも部分的に開口を開放する細胞の画像を特定する画像信号に基づき前記正圧生成ユニットの動作を制御する制御回路とをさらに備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0068】
(付記10) 付記7に記載のインジェクション装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端に接続されて、液流路から流れ出る液体を受け止める液溜まりとをさらに備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0069】
(付記11) 付記7に記載のインジェクション装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端で、液流路よりも下段に設置される回収容器と、液流路の下流端に設置されて、液流路の下流端から流れ出る液体の流れを堰き止める第1姿勢、および、液流路の下流端から液体の流出を許容する第2姿勢の間で姿勢を変化させる堰き止め部材とをさらに備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0070】
(付記12) 付記7に記載のインジェクション装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、所定の水平軸回りで回転自在に支持され、基準平面に沿って基準姿勢の細胞捕捉板を受け入れる液収容窪みを区画する細胞捕捉容器と、液収容窪みに接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、基準平面に対して所定の傾斜角を確立する傾斜姿勢で細胞捕捉容器に液収容窪みの外側で支持される細胞回収容器と、細胞捕捉板および細胞回収容器の間に配置され、細胞捕捉板から細胞回収容器に向かって基準平面に対して前記傾斜角で立ち上がる傾斜面とをさらに備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0071】
(付記13) 表面に細胞の大きさよりも小さい開口を区画する細胞捕捉板の表面に、細胞を含む液体を供給する工程と、細胞捕捉板内に区画されて開口に通じる通路内に負圧を発生させて、開口に液体内の細胞を吸着させて細胞で開口を塞ぐ工程と、通路内に正圧を発生させて、少なくとも部分的に開口を開放する工程とを備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【0072】
(付記14) 付記13に記載の細胞捕捉方法において、前記正圧の発生にあたって、前記通路に接続される正圧生成ユニットで所定の刻み値で離散的に圧力設定値を増大させる工程を備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【0073】
(付記15) 付記13に記載の細胞捕捉方法において、前記開口を塞ぐ細胞の画像を撮像する工程と、少なくとも部分的に前記開口を開放する細胞を撮像すると、前記正圧の増大を停止する工程とを備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【0074】
(付記16) 付記13に記載の細胞捕捉方法において、前記細胞捕捉板上に液体の流れを生成し、前記細胞捕捉板に隣接する液溜まりに向かって細胞を押し流す工程をさらに備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【0075】
(付記17) 付記13に記載の細胞捕捉方法において、前記細胞捕捉板上に液体の流れを生成し、前記細胞捕捉板の外側に配置される回収容器に向かって細胞を押し流す工程をさらに備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係るインジェクション装置の一具体例すなわちマイクロインジェクション装置の構造を概略的に示す図である。
【図2】第1具体例に係る細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す平面図である。
【図3】図2の3−3線に沿った断面図である。
【図4】細胞捕捉板の構造を概略的に示す斜視図である。
【図5】細胞捕捉板の開口に細胞が捕捉される様子を概略的に示す図である。
【図6】開口を塞ぐ細胞を撮像した画像を示す図である。
【図7】正圧の圧力値を示すグラフである。
【図8】開口を開放する細胞を示す拡大図である。
【図9】開口を開放する細胞を撮像した画像を示す図である。
【図10】細胞が液溜まりに押し流される様子を概略的に示す図である。
【図11】第2具体例に係る細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す図である。
【図12】細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す平面図である。
【図13】細胞捕捉板の開口に細胞が捕捉される様子を概略的に示す図である。
【図14】細胞が液溜まりに押し流される様子を概略的に示す図である。
【図15】第3具体例に係る細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す図である。
【図16】堰き止め部材の構造を概略的に示す図である。
【図17】堰き止め部材の構造を概略的に示す図である。
【図18】堰き止め部材の構造を概略的に示す図である。
【図19】堰き止め部材が第1姿勢を確立する様子を概略的に示す図である。
【図20】堰き止め部材が第2姿勢を確立する様子を概略的に示す図である。
【図21】回収容器が捕捉用シャーレから取り外される様子を概略的に示す図である。
【図22】第2具体例の変形例に係る細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す図である。
【図23】細胞捕捉板の開口に細胞が捕捉される様子を概略的に示す図である。
【図24】細胞が回収容器に押し流される様子を概略的に示す図である。
【図25】第4具体例に係る細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す図である。
【図26】細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す図である。
【図27】細胞捕捉板が基準姿勢を確立する様子を概略的に示す図である。
【図28】細胞捕捉板が傾斜姿勢を確立する様子を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0077】
11 インジェクション装置(マイクロインジェクション装置)、12 インジェクションユニット、16 負圧発生ユニットおよび正圧生成ユニットとしての圧力発生ユニット、17 撮像装置、21 制御回路、26 液流路、27 細胞捕捉板、28 液体供給ユニット、29 液溜まり、32 通路、33 開口、35 細胞、43 回収容器、44 堰き止め部材、51 液収容窪み、52 細胞捕捉容器としての捕捉用シャーレ、54 傾斜面(第1傾斜面)、56 細胞回収容器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞に所定の液体を注入するマイクロインジェクション装置に利用される細胞捕捉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロインジェクション装置は広く知られる。シャーレ内には細胞捕捉板が配置される。細胞捕捉板には例えば表面から裏面に貫通する通路が形成される。通路は、細胞の大きさよりも小さい開口を区画する。シャーレ内には培養液が供給される。培養液中には細胞が浮遊する。通路内に負圧が発生すると、培養液は通路内に引き込まれる。その結果、通路の開口には細胞が捕捉される。捕捉された細胞にはキャピラリが挿入される。キャピラリから細胞に所定の液体が注入される。
【特許文献1】特開2004−217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
細胞の培養にあたって液体の注入後に細胞は回収される。回収時、通路内で負圧の発生は停止される。細胞の回収にあたって例えばピペットが用いられる。細胞はピペットの先端からピペットの収容空間内に吸い上げられる。細胞が通路の開口に捕捉される際、例えば細胞の一部が通路内に入り込んでしまう。また、細胞の表面は粘着性を有する。その結果、細胞は開口から剥がれにくい。ピペットでの回収にあたって細胞には大きな引き剥がし力すなわち負荷がかけられなければならない。細胞の破壊が懸念される。
【0004】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、細胞へのダメージを極力低減させることができる細胞捕捉装置および細胞捕捉方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、第1発明によれば、細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットとを備えることを特徴とする細胞捕捉装置が提供される。
【0006】
こうした細胞捕捉装置によれば、負圧発生ユニットは通路内に負圧を発生させる。開口は細胞の大きさよりも小さいことから、負圧の発生に基づき細胞は開口に吸着する。細胞は開口を塞ぐ。こうして細胞は捕捉される。その一方で、正圧生成ユニットは通路内に正圧を作用させる。正圧の作用に基づき細胞は開口から引き離される。細胞は開口を開放する。こうした細胞は簡単に採取される。細胞へのダメージは極力低減される。
【0007】
細胞捕捉装置は、正圧生成ユニットに接続され、所定の刻み値で離散的に正圧生成ユニットの圧力設定値を増大させる制御回路をさらに備えればよい。正圧の圧力設定値は所定の刻み値で離散的に増大する。刻み値は均一の時間間隔で増加する。その結果、細胞に作用する正圧は徐々に増大していく。細胞は開口から徐々に引き離されていく。細胞への負荷はできる限り抑制される。こうして細胞へのダメージは最低限に抑制される。
【0008】
細胞捕捉装置は、開口を塞ぐ細胞を撮像し、対応の画像信号を出力する撮像装置と、撮像装置および正圧生成ユニットに接続されて、少なくとも部分的に開口を開放する細胞の画像を特定する画像信号に基づき正圧生成ユニットの動作を制御する制御回路とをさらに備えればよい。
【0009】
こうした細胞捕捉装置によれば、細胞が開口から離脱すると、撮像装置は、開口を開放する細胞の画像を特定する画像信号を出力する。この画像信号に基づき制御回路は正圧生成ユニットの動作を制御する。例えば細胞が開口から離脱すると同時に正圧の増大が停止される。細胞に余計な正圧の作用は回避される。こうして細胞へのダメージは最低限に抑制される。
【0010】
細胞捕捉装置は、通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端に接続されて、液流路から流れ出る液体を受け止める液溜まりとをさらに備えればよい。
【0011】
こうした細胞捕捉装置によれば、細胞捕捉板の開口に細胞が捕捉される。通路に正圧が作用すると、細胞は開口から引き離される。このとき、液体供給ユニットから液流路に液体が供給される。液流路に受け入れられる細胞捕捉板上に液体が供給される。液体は液流路から下流の液溜まりに流れ出る。こうして細胞は液溜まりに押し流される。液溜まりで細胞は簡単に採取されることができる。
【0012】
同様に、細胞捕捉装置は、通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端で、液流路よりも下段に設置される回収容器と、液流路の下流端に設置されて、液流路の下流端から流れ出る液体の流れを堰き止める第1姿勢、および、液流路の下流端から液体の流出を許容する第2姿勢の間で姿勢を変化させる堰き止め部材とをさらに備えればよい。
【0013】
こういった細胞捕捉装置では、細胞捕捉板の開口に細胞が捕捉される。通路に正圧が作用すると、細胞は開口から引き離される。このとき、液体供給ユニットから液流路に液体が供給される。液流路に受け入れられる細胞捕捉板上に液体が供給される。液体は液流路から下流端に向かって流れる。液流路の下流端には第1姿勢の堰き止め部材が設置される。堰き止め部材は、液流路の下流端から流れ出る液体の流れを堰き止める。堰き止め部材が第2姿勢を確立すると、液流路の下流端から液体の流出を許容する。その結果、細胞捕捉板上から回収容器に勢いよく液体が流れ出る。こうした液体の流れに基づき回収容器に向かって細胞は確実に押し流される。細胞は簡単に回収容器に移動することができる。回収容器で細胞は簡単に採取されることができる。
【0014】
同様に、細胞捕捉装置は、通路を区画する細胞捕捉板と、所定の水平軸回りで回転自在に支持され、基準平面に沿って基準姿勢の細胞捕捉板を受け入れる液収容窪みを区画する細胞捕捉容器と、液収容窪みに接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、基準平面に対して所定の傾斜角を確立する傾斜姿勢で細胞捕捉容器に液収容窪みの外側で支持される細胞回収容器と、細胞捕捉板および細胞回収容器の間に配置され、細胞捕捉板から細胞回収容器に向かって基準平面に対して傾斜角で立ち上がる傾斜面とをさらに備えればよい。
【0015】
こういった細胞捕捉装置では、細胞捕捉容器に液収容窪みが区画される。液収容窪みは基準平面に沿って基準姿勢の細胞捕捉板を受け入れる。基準平面に対して所定の傾斜角を確立する傾斜姿勢で細胞捕捉容器に細胞回収容器が支持される。細胞捕捉板の開口には細胞が捕捉される。通路に正圧が作用すると、細胞は開口から引き離される。液体供給ユニットから液収容窪みに液体が供給される。このとき、細胞捕捉容器は所定の水平軸回りで回転する。その結果、細胞捕捉板は所定の傾斜姿勢を確立する。細胞捕捉板から細胞回収容器に向かって立ち上がる傾斜面に沿って液体は流れる。こうして液体とともに細胞は細胞回収容器に押し流される。細胞回収容器で細胞は簡単に採取されることができる。
【0016】
以上のような細胞捕捉装置は例えばマイクロインジェクション装置といったインジェクション装置に組み込まれる。インジェクション装置は、細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットと、細胞に液体を注入するインジェクションユニットとを備えればよい。
【0017】
第2発明によれば、表面に細胞の大きさよりも小さい開口を区画する細胞捕捉板の表面に、細胞を含む液体を供給する工程と、細胞捕捉板内に区画されて開口に通じる通路内に負圧を発生させて、開口に液体内の細胞を吸着させて細胞で開口を塞ぐ工程と、通路内に正圧を発生させて、少なくとも部分的に開口を開放する工程とを備えることを特徴とする細胞捕捉方法が提供される。
【0018】
こうした細胞捕捉方法によれば、細胞捕捉板の通路内に負圧が発生する。負圧に基づき液体内の細胞は通路の開口に吸着して開口を塞ぐ。こうして細胞が捕捉される。その後、通路内には正圧が発生する。正圧に基づき細胞は少なくとも部分的に開口を開放する。こうして細胞は開口から引き離される。こうした細胞は簡単に採取される。細胞へのダメージは極力低減される。
【0019】
こうした細胞捕捉方法は、正圧の発生にあたって、通路に接続される正圧生成ユニットで所定の刻み値で離散的に圧力設定値を増大させる工程を備えればよい。正圧の圧力設定値は所定の刻み値で離散的に増大する。刻み値は均一の時間間隔で増加する。その結果、細胞に作用する正圧は徐々に増大していく。細胞は開口から徐々に引き離されていく。細胞への負荷はできる限り抑制される。細胞へのダメージは最低限に抑制される。
【0020】
細胞捕捉方法は、開口を塞ぐ細胞の画像を撮像する工程と、少なくとも部分的に開口を開放する細胞を撮像すると、正圧の増大を停止する工程とを備えればよい。少なくとも部分的に開口を開放する細胞が撮像されると、正圧の増大が停止される。こうして細胞に余計な正圧の作用は回避される。細胞へのダメージは最低限に抑制される。
【0021】
細胞捕捉方法は、細胞捕捉板上に液体の流れを生成し、細胞捕捉板に隣接する液溜まりに向かって細胞を押し流す工程をさらに備えればよい。こうして細胞捕捉板上に液体の流れが生成されると、細胞は液溜まりに押し流される。液溜まりで細胞は簡単に採取されることができる。
【0022】
細胞捕捉方法は、細胞捕捉板上に液体の流れを生成し、細胞捕捉板の外側に配置される回収容器に向かって細胞を押し流す工程をさらに備えればよい。こうして細胞捕捉板上に液体の流れが生成されると、細胞は回収容器に押し流される。回収容器で細胞は簡単に採取されることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように本発明によれば、細胞へのダメージを極力低減させることができる細胞捕捉装置および細胞捕捉方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0025】
図1は本発明に係るインジェクション装置の一具体例すなわちマイクロインジェクション装置11の構造を概略的に示す。マイクロインジェクション装置11は、例えば細胞といった微小体に薬剤や遺伝子といった注入物を注入するインジェクションユニット12を備える。インジェクションユニット12はキャピラリ13を備える。キャピラリ13はキャピラリ13の軸心に沿って前後移動する。前後移動に基づきキャピラリ13は先端から細胞に挿入される。
【0026】
インジェクションユニット12はステージ14に向き合わせられる。ステージ14は水平面に沿って水平移動することができる。ステージ14の水平面上には細胞捕捉ユニット15が配置される。キャピラリ13は前後移動に基づき細胞捕捉ユニット15に対して相対移動することができる。細胞捕捉ユニット15では、培養液中に浮遊する細胞が捕捉される。細胞捕捉ユニット15の詳細は後述される。
【0027】
細胞捕捉ユニット15には圧力発生ユニット16が接続される。圧力発生ユニット16には例えばレギュレータが用いられる。圧力発生ユニット16は、細胞捕捉ユニット15に正圧および負圧を供給することができる。圧力発生ユニット16では、細胞捕捉ユニット15に供給される正圧の圧力値および負圧の圧力値が調整される。圧力発生ユニット16は本発明の正圧生成ユニットおよび負圧発生ユニットを構成する。
【0028】
ステージ14の背後には撮像装置すなわちカメラ17が配置される。カメラ17は鉛直方向に細胞捕捉ユニット15に向き合わせられる。細胞捕捉ユニット15およびカメラ17の間には顕微鏡ユニット18が配置される。カメラ17には細胞捕捉ユニット15を挟んで照明ユニット19が向き合わせられる。照明ユニット19は細胞捕捉ユニット15に向かって鉛直方向に光を照射する。顕微鏡ユニット18および照明ユニット19の働きでカメラ17は細胞捕捉ユニット15の拡大画像を撮像することができる。カメラ17は、拡大画像に対応の画像信号を出力する。
【0029】
インジェクションユニット12、ステージ14、圧力発生ユニット16、カメラ17および照明ユニット19といった各構成部品には制御回路21が接続される。制御回路21から出力される制御信号に基づきこれら構成部品の動作は制御される。制御回路21にはモニタ22が接続される。モニタ22の表示画面上には、例えばカメラ17で撮像された拡大画像が表示される。マイクロインジェクション装置11の使用者はモニタ22で拡大画像を確認することができる。
【0030】
制御回路21は、例えばメモリ(図示されず)に一時的に格納されるソフトウェアプログラムやデータに基づき様々な演算処理を実行する。こうしたソフトウェアプログラムやデータは、マイクロインジェクション装置11に組み込まれるハードディスク駆動装置(HDD)といった大容量記憶装置に格納されればよい。制御回路21にはキーボードといった入力装置(図示されず)が接続されればよい。使用者はキーボードから制御回路21に指示や情報を入力する。
【0031】
図2は第1具体例に係る細胞捕捉ユニット15の構造を概略的に示す。細胞捕捉ユニット15は、ステージ14上に受け止められる細胞捕捉容器すなわち捕捉用シャーレ25を備える。捕捉用シャーレ25は透明な樹脂材料から構成される。捕捉用シャーレ25は液流路26を区画する。液流路26には細胞捕捉板27が受け入れられる。細胞捕捉板27は液流路26に着脱自在に受け入れられる。細胞捕捉板27は例えば透明なシリコンチップから構成される。液流路26には前述の圧力発生ユニット16が接続される。圧力発生ユニット16は液流路26に圧力を供給する。
【0032】
液流路26の上流端には液体供給ユニット28が接続される。液体供給ユニット28は例えば培養液といった所定の液体を出力する。その一方で、液流路26の下流端には、細胞捕捉板27に隣接する液溜まり29が接続される。液体供給ユニット28から液流路26の上流端に液体が供給されると、細胞捕捉板27上に液体の流れが生成される。液体は液流路26の下流端から液溜まり29に流れ出る。液溜まり29は、流れ出る液体を受け止める。
【0033】
図3に示されるように、細胞捕捉板27は液溜まり29の底面よりも上段に配置される。液体供給ユニット28との接続口は細胞捕捉板27の表面よりも上段に配置される。細胞捕捉板27は、液流路26の底面との間で所定の圧力室31を規定する。液流路26の底面に圧力発生ユニット16が接続される。こうして圧力発生ユニット16は圧力室31に圧力を供給する。圧力発生ユニット16との接続にあたって例えばゴムチューブが用いられればよい。
【0034】
細胞捕捉板27には、その表面から裏面に貫通する複数の貫通孔すなわち通路32が形成される。通路32は圧力室31を開放する。細胞捕捉板27の厚みは例えば10μm程度に設定される。図4を併せて参照し、通路32は例えばマトリックス状に配置される。通路32の断面は例えば円形に規定されればよい。通路32には開口33が区画される。開口33は細胞の大きさよりも小さく形成される。開口33の直径は例えば2μm〜3μm程度に設定される。
【0035】
圧力室31の圧力の制御にあたって、制御回路21は圧力発生ユニット16に制御信号を供給する。制御信号は圧力設定値を特定する。制御信号に基づき圧力発生ユニット16は圧力を制御する。制御回路21は、圧力発生ユニット16で所定の刻み値で離散的に圧力設定値を増大させる。例えば正圧の供給にあたって、制御回路21は、例えば50[Pa]上昇の制御信号を等間隔すなわち均一の時間間隔で出し続ける。なお、細胞捕捉ユニット15、圧力発生ユニット16、カメラ17、制御回路21および液体供給ユニット28は本発明の細胞捕捉装置を構成する。
【0036】
次に、マイクロインジェクション装置11の動作を説明する。まず、液体供給ユニット28から液流路26に細胞の培養液が供給される。培養液には細胞は含まれない。培養液は細胞捕捉板27上に供給される。制御回路21から圧力発生ユニット16に制御信号が供給される。制御信号は負圧の圧力設定値を特定する。制御信号に基づき圧力発生ユニット16は圧力室31すなわち通路32に負圧を発生させる。その結果、通路32内に培養液が引き込まれる。通路32は培養液で満たされる。
【0037】
続いて、細胞捕捉板27の表面に細胞が供給される。供給にあたって例えばピペットが用いられる。圧力発生ユニット16は通路32の圧力を圧力設定値に維持する。負圧に基づき通路32に培養液が引き込まれることから、図5に示されるように、細胞35は通路32の開口33に向かって誘導される。開口33は細胞35の大きさよりも小さいことから、細胞35は開口33に吸着する。細胞35は開口33を塞ぐ。こうして細胞35は開口33で捕捉される。このとき、キャピラリ13の先端は細胞35に差し込まれる。キャピラリ13の先端から細胞35に例えば薬剤や遺伝子は注入される。
【0038】
開口33に捕捉されるすべての細胞35に注入が完了すると、制御回路21はカメラ17を駆動する。照明ユニット19から照射される光に基づきカメラ17は細胞捕捉板27の拡大画像を撮影する。図6に示されるように、カメラ17は、開口33を塞ぐ細胞35を撮像する。カメラ17は細胞35にピントを合わせる。カメラ17は、対応の画像信号を制御回路21に出力する。制御回路21は例えばメモリに画像を格納する。カメラ17は均一の時間間隔で連続的に撮像を実施する。
【0039】
制御回路21は圧力発生ユニット16に制御信号を出力する。各制御信号は負圧の圧力設定値を特定する。圧力設定値は所定の刻み値で離散的に増大する。前述されるように、刻み値は50[Pa]に設定される。こうして制御信号が出力されるごとに圧力設定値は50[Pa]増大する。制御信号に基づき圧力発生ユニット16は正圧を徐々に増大させる。正圧は圧力室31に供給される。その結果、図7に示されるように、通路32内の正圧は徐々に増大していく。
【0040】
通路32内の正圧が例えば1.2[kPa]に到達すると、図8に示されるように、正圧は開口33から細胞35を引き離す。開口33は開放される。図9に示されるように、細胞35の移動に基づきカメラ17および細胞35の距離は変化する。細胞35のピントはぼける。カメラ17は、開口33を開放する細胞35の画像を特定する画像信号を生成する。画像信号は制御回路21に出力される。圧力発生ユニット16は正圧の増大を停止する。このとき、圧力発生ユニット16は、停止時の正圧の圧力値を維持してもよいし、停止時の正圧の圧力値から圧力値を減少させてもよい。
【0041】
液体供給ユニット28は液流路26に培養液単体を供給する。培養液には細胞35は含まれない。液流路26では、細胞捕捉板27上に培養液の流れが生成される。液溜まり29は細胞捕捉板27よりも下段に形成されることから、培養液は液溜まり29に向かって流れ出る。その結果、図10に示されるように、細胞35は培養液とともに液溜まり29に押し流される。こうして細胞35は、液溜まり29に流れ出た培養液中に浮遊する。浮遊する細胞35は例えばピペットに取り込まれる。こうして細胞35は別の容器に移し替えられる。細胞35は別の容器で培養される。
【0042】
以上のようなマイクロインジェクション装置11によれば、所定の注入物の注入後に通路32に正圧が作用する。正圧の作用に基づき細胞35は開口33から引き離される。細胞35は開口33を開放する。その結果、細胞35は培養液中を浮遊する。培養液中で細胞35には負荷は作用しないことから、細胞35は例えばピペットで簡単に採取されることができる。細胞35へのダメージは極力低減される。細胞35の破壊は防止される。細胞35の採取作業や培養作業は効率的に実施されることができる。
【0043】
しかも、正圧の圧力設定値は所定の刻み値で離散的に増大する。刻み値は均一の時間間隔で増加する。その結果、細胞35に作用する正圧は徐々に増大していく。細胞35は開口33から徐々に引き離されていくことから、細胞35への負荷はできる限り抑制される。こうして細胞35へのダメージは最低限に抑制される。細胞35の採取作業や培養作業は効率的に実施されることができる。加えて、細胞35は培養液とともに液溜まり29に押し流される。液溜まり29では細胞35は簡単に採取されることができる。
【0044】
加えて、細胞35が開口33から引き離されると、カメラ17は、開口33を開放する細胞35の画像を特定する画像信号を出力する。こうした画像信号の出力に応じて正圧の増大は停止する。すなわち、細胞35が開口33から引き離されると同時に正圧の増大が停止される。細胞35に余計な正圧の作用は回避される。こうして細胞35へのダメージは最低限に抑制される。細胞35の採取作業や培養作業は効率的に実施されることができる。
【0045】
図11は第2具体例に係る細胞捕捉ユニット15aの構造を概略的に示す。この細胞捕捉ユニット15aは、液流路26および液溜まり29の間に設置される板状の堰き止め部材41を備える。図12を併せて参照し、堰き止め部材41の両側端はそれぞれ、捕捉用シャーレ25の側壁に区画される1対の支持片42、42に挟み込まれる。支持片42は、捕捉用シャーレ25の底面に直交する垂直方向に立ち上がる。支持片42、42同士の間に案内溝が区画される。堰き止め部材41は垂直方向に移動することができる。その他、前述の細胞捕捉ユニット15と均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。
【0046】
図13に示されるように、例えば細胞35の捕捉時、堰き止め部材41は第1姿勢を確立する。第1姿勢の堰き止め部材41は捕捉用シャーレ25に受け止められる。液流路26の下流端は塞がれる。その結果、液流路26の下流端から液溜まり29に向かう培養液の流れは堰き止められる。その一方で、例えば細胞35の離脱時、図14に示されるように、堰き止め部材41は支持片42の案内で垂直方向に持ち上げられる。堰き止め部材41は第1姿勢から第2姿勢に姿勢を変化させる。液流路26の下流端は開放される。その結果、堰き止め部材41は液流路26の下流端から液溜まり29に向かって培養液の流出を許容する。
【0047】
こうした細胞捕捉ユニット15aでは、細胞35の捕捉時、堰き止め部材41は第1姿勢を確立する。堰き止め部材41の働きで培養液は液流路26に溜め込まれる。液溜まり29は空にされる。その一方で、細胞35の離脱時、堰き止め部材41は第2姿勢を確立する。細胞捕捉板27は液溜まり29よりも上段に配置されることから、細胞捕捉板27上から液溜まり29に勢いよく培養液が流れ出る。こうした培養液の流れに基づき液溜まり29に向かって細胞35は確実に押し流される。細胞35は簡単に液溜まり29に移動することができる。
【0048】
図15は第3具体例に係る細胞捕捉ユニット15bの構造を概略的に示す。この細胞捕捉ユニット15bでは、液流路26の下流端で液流路26よりも下段に回収容器43が設置される。回収容器43は、細胞捕捉板27の外側で捕捉用シャーレ25に着脱自在に保持される。液流路26および回収容器43の間には堰き止め部材44が設置される。堰き止め部材44はヒンジ45で捕捉用シャーレ25に連結される。堰き止め部材44、ヒンジ45および捕捉用シャーレ25は樹脂材料から一体成型される。ヒンジ45はいわゆるリビングヒンジを構成する。その結果、堰き止め部材44は、ヒンジ45に規定される所定の水平軸L1回りに揺動する。
【0049】
堰き止め部材44は、細胞捕捉板27の表面から立ち上がる第1姿勢を確立する。図16を併せて参照し、堰き止め部材44の内壁面には溝46が形成される。第1姿勢の堰き止め部材44では、溝46は、細胞捕捉板27の表面に直交する垂直方向に延びる。堰き止め部材44が水平軸L1回りで第1姿勢から第2姿勢に姿勢を変化させると、図17に示されるように、堰き止め部材44は回収容器43上に進入する。その結果、図18に示されるように、溝46は、液流路26から回収容器43に向かって延びる流路を構成する。その他、前述の細胞捕捉ユニット15、15aと均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。
【0050】
例えば細胞35の捕捉時、堰き止め部材44は第1姿勢を確立する。図19に示されるように、堰き止め部材44は液流路26の下流端を塞ぐ。堰き止め部材44は、液流路26の下流端から流れ出る培養液の流れを堰き止める。その一方で、細胞35の離脱時、図20に示されるように、堰き止め部材44が第2姿勢を確立すると、液流路26は開放される。堰き止め部材44は液流路26の下流端から回収容器43に向かって培養液の流出を許容する。細胞捕捉板27上から溝46に沿って勢いよく培養液が流れ出る。その後、図21に示されるように、回収容器43は捕捉用シャーレ25から取り外される。細胞35は、回収容器43に収容された状態で培養される。
【0051】
こうした細胞捕捉ユニット15bでは、細胞35の捕捉時、堰き止め部材44は第1姿勢を確立する。堰き止め部材44の働きで培養液は液流路26に溜め込まれる。回収容器43は空にされる。その一方で、細胞35の離脱時、堰き止め部材44は第2姿勢を確立する。細胞捕捉板27は回収容器43よりも上段に配置されることから、細胞捕捉板27上から回収容器43に勢いよく培養液が流れ出る。こうした培養液の流れに基づき回収容器43に向かって細胞35は確実に押し流される。液流路26に培養液が追加供給されなくても、細胞35は簡単に回収容器43に移動することができる。
【0052】
以上のような細胞捕捉ユニット15bでは、図22に示されるように、堰き止め部材44では溝46の外端は壁体47で塞がれてもよい。壁体47の内側には溝46の外端に流出口48が形成される。第2姿勢の堰き止め部材44では流出口48は回収容器43に向き合わせられる。図23に示されるように、堰き止め部材44が第1姿勢を確立すると、流出口48は培養液の液面よりも上段に配置される。その一方で、堰き止め部材44が第2姿勢を確立すると、図24に示されるように、液流路26の下流端は開放される。その結果、液流路26の下流端から溝46に沿って流れ出る培養液は流出口48から回収容器43に流れ込む。
【0053】
こうした細胞捕捉ユニット15cでは、前述と同様に、例えば細胞35の離脱時に堰き止め部材44は第1姿勢から第2姿勢に姿勢を変化させる。姿勢の変化の実現にあたって、例えばマイクロインジェクション装置11の使用者は、堰き止め部材44の壁体47の頂上面を指で触る。指から堰き止め部材44にヒンジ45の水平軸L1回りに回転力が付与される。こうして堰き止め部材44は第2姿勢に姿勢を変化させる。壁体47の働きで使用者の指と溝46の内壁面との接触は確実に回避される。溝46の内壁面に例えば細菌といった付着物の付着は回避される。培養液中に付着物の混入は確実に防止される。
【0054】
図25は第4具体例に係る細胞捕捉ユニット15cの構造を概略的に示す。この細胞捕捉ユニット15cは、液収容窪み51を区画する細胞捕捉容器すなわち捕捉用シャーレ52を備える。液収容窪み51は、基準平面Pに沿って基準姿勢の細胞捕捉板27を受け入れる。基準平面Pは水平面に沿って規定される。液収容窪み51には前述の液体供給ユニット28が接続される。液収容窪み51の底面に前述の圧力発生ユニット16が接続される。接続にあたって例えばゴムチューブが用いられる。こうして圧力発生ユニット16は、液収容窪み51の底面および細胞捕捉板27の間に区画される圧力室53に圧力を供給する。
【0055】
捕捉用シャーレ52は所定の水平軸L2回りで回転自在に支持機構(図示されず)に支持される。捕捉用シャーレ52には第1傾斜面54が形成される。第1傾斜面54は、捕捉用シャーレ52の外縁に向かって基準平面Pに対して所定の傾斜角αで立ち上がる。捕捉用シャーレ52の外壁には液収容窪み51の外側に第2傾斜面55が形成される。第2傾斜面55は第1傾斜面54に直交する。第2傾斜面55には細胞回収容器56の側壁が受け止められる。第2傾斜面55の働きで細胞回収容器56は所定の傾斜姿勢を確立する。細胞回収容器56は基準平面Pに対して前述の傾斜角αを確立する。その結果、細胞回収容器56は液収容窪み51に向かって開口する。第1傾斜面54の外端は細胞回収容器56に接続される。
【0056】
細胞回収容器56は捕捉用シャーレ52に着脱自在に支持される。捕捉用シャーレ52には、細胞回収容器56の下端に区画される縁56aを受け入れる支持溝57が形成される。図26を併せて参照し、捕捉用シャーレ52には、細胞回収容器56の上端に区画される縁56bを受け入れる1対の支持部材58が形成される。細胞回収容器56の取り付けにあたって細胞回収容器56は、縁56bで支持部材に嵌め込まれた後に、縁56aで支持溝57に嵌め込まれればよい。捕捉用シャーレ52は樹脂材料から構成されることから、縁56a、56bの嵌め込みにあたって捕捉用シャーレ52の弾性変形が引き起こされる。
【0057】
例えば細胞35の捕捉時、細胞捕捉板27は基準姿勢を確立する。図27に示されるように、液収容窪み51に細胞35を含む培養液が供給される。第1傾斜面54は基準平面Pに対して所定の傾斜角αで立ち上がることから、第1傾斜面54は液収容窪み51から流れ出る培養液の流れを堰き止める。その一方で、細胞35の離脱時、捕捉用シャーレ52は水平軸L2回りで回転する。その結果、図28に示されるように、細胞捕捉板27は所定の傾斜姿勢を確立する。その一方で、細胞回収容器56は基準平面Pに沿って水平姿勢を確立する。その結果、第1傾斜面54から細胞回収容器56に向かって培養液の流れが生み出される。細胞捕捉板27上から細胞回収容器56に沿って勢いよく培養液が流れ出る。その後、細胞回収容器56は捕捉用シャーレ52から取り外される。細胞35は、細胞回収容器56に収容された状態で培養される。
【0058】
こうした細胞捕捉ユニット15cでは、細胞35の捕捉時、細胞捕捉板27は基準平面Pに沿って基準姿勢を確立する。その結果、培養液は液収容窪み51に溜め込まれる。細胞回収容器56は空にされる。その一方で、細胞35の離脱時、細胞捕捉板27は所定の傾斜姿勢を確立する。細胞回収容器56は基準平面Pに沿って水平姿勢を確立する。液収容窪み51は細胞回収容器56よりも上段に配置される。その結果、細胞捕捉板27上から細胞回収容器56に勢いよく培養液が流れ出る。こうした培養液の流れに基づき細胞回収容器56に向かって細胞35は確実に押し流される。細胞35は簡単に回収容器43に移動することができる。
【0059】
(付記1) 細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットとを備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0060】
(付記2) 付記1に記載の細胞捕捉装置において、前記正圧生成ユニットに接続され、所定の刻み値で離散的に前記正圧生成ユニットの圧力設定値を増大させる制御回路をさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0061】
(付記3) 付記1に記載の細胞捕捉装置において、前記開口を塞ぐ細胞を撮像し、対応の画像信号を出力する撮像装置と、撮像装置および前記正圧生成ユニットに接続されて、少なくとも部分的に開口を開放する細胞の画像を特定する画像信号に基づき前記正圧生成ユニットの動作を制御する制御回路とをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0062】
(付記4) 付記1に記載の細胞捕捉装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端に接続されて、液流路から流れ出る液体を受け止める液溜まりとをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0063】
(付記5) 付記1に記載の細胞捕捉装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端で、液流路よりも下段に設置される回収容器と、液流路の下流端に設置されて、液流路の下流端から流れ出る液体の流れを堰き止める第1姿勢、および、液流路の下流端から液体の流出を許容する第2姿勢の間で姿勢を変化させる堰き止め部材とをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0064】
(付記6) 付記1に記載の細胞捕捉装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、所定の水平軸回りで回転自在に支持され、基準平面に沿って基準姿勢の細胞捕捉板を受け入れる液収容窪みを区画する細胞捕捉容器と、液収容窪みに接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、基準平面に対して所定の傾斜角を確立する傾斜姿勢で細胞捕捉容器に液収容窪みの外側で支持される細胞回収容器と、細胞捕捉板および細胞回収容器の間に配置され、細胞捕捉板から細胞回収容器に向かって基準平面に対して前記傾斜角で立ち上がる傾斜面とをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【0065】
(付記7) 細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットと、細胞に液体を注入するインジェクションユニットとを備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0066】
(付記8) 付記7に記載のインジェクション装置において、前記正圧生成ユニットに接続され、所定の刻み値で離散的に前記正圧生成ユニットの圧力設定値を増大させる制御回路をさらに備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0067】
(付記9) 付記7に記載のインジェクション装置において、前記開口を塞ぐ細胞を撮像し、対応の画像信号を出力する撮像装置と、撮像装置および前記正圧生成ユニットに接続されて、少なくとも部分的に開口を開放する細胞の画像を特定する画像信号に基づき前記正圧生成ユニットの動作を制御する制御回路とをさらに備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0068】
(付記10) 付記7に記載のインジェクション装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端に接続されて、液流路から流れ出る液体を受け止める液溜まりとをさらに備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0069】
(付記11) 付記7に記載のインジェクション装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端で、液流路よりも下段に設置される回収容器と、液流路の下流端に設置されて、液流路の下流端から流れ出る液体の流れを堰き止める第1姿勢、および、液流路の下流端から液体の流出を許容する第2姿勢の間で姿勢を変化させる堰き止め部材とをさらに備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0070】
(付記12) 付記7に記載のインジェクション装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、所定の水平軸回りで回転自在に支持され、基準平面に沿って基準姿勢の細胞捕捉板を受け入れる液収容窪みを区画する細胞捕捉容器と、液収容窪みに接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、基準平面に対して所定の傾斜角を確立する傾斜姿勢で細胞捕捉容器に液収容窪みの外側で支持される細胞回収容器と、細胞捕捉板および細胞回収容器の間に配置され、細胞捕捉板から細胞回収容器に向かって基準平面に対して前記傾斜角で立ち上がる傾斜面とをさらに備えることを特徴とするインジェクション装置。
【0071】
(付記13) 表面に細胞の大きさよりも小さい開口を区画する細胞捕捉板の表面に、細胞を含む液体を供給する工程と、細胞捕捉板内に区画されて開口に通じる通路内に負圧を発生させて、開口に液体内の細胞を吸着させて細胞で開口を塞ぐ工程と、通路内に正圧を発生させて、少なくとも部分的に開口を開放する工程とを備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【0072】
(付記14) 付記13に記載の細胞捕捉方法において、前記正圧の発生にあたって、前記通路に接続される正圧生成ユニットで所定の刻み値で離散的に圧力設定値を増大させる工程を備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【0073】
(付記15) 付記13に記載の細胞捕捉方法において、前記開口を塞ぐ細胞の画像を撮像する工程と、少なくとも部分的に前記開口を開放する細胞を撮像すると、前記正圧の増大を停止する工程とを備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【0074】
(付記16) 付記13に記載の細胞捕捉方法において、前記細胞捕捉板上に液体の流れを生成し、前記細胞捕捉板に隣接する液溜まりに向かって細胞を押し流す工程をさらに備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【0075】
(付記17) 付記13に記載の細胞捕捉方法において、前記細胞捕捉板上に液体の流れを生成し、前記細胞捕捉板の外側に配置される回収容器に向かって細胞を押し流す工程をさらに備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係るインジェクション装置の一具体例すなわちマイクロインジェクション装置の構造を概略的に示す図である。
【図2】第1具体例に係る細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す平面図である。
【図3】図2の3−3線に沿った断面図である。
【図4】細胞捕捉板の構造を概略的に示す斜視図である。
【図5】細胞捕捉板の開口に細胞が捕捉される様子を概略的に示す図である。
【図6】開口を塞ぐ細胞を撮像した画像を示す図である。
【図7】正圧の圧力値を示すグラフである。
【図8】開口を開放する細胞を示す拡大図である。
【図9】開口を開放する細胞を撮像した画像を示す図である。
【図10】細胞が液溜まりに押し流される様子を概略的に示す図である。
【図11】第2具体例に係る細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す図である。
【図12】細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す平面図である。
【図13】細胞捕捉板の開口に細胞が捕捉される様子を概略的に示す図である。
【図14】細胞が液溜まりに押し流される様子を概略的に示す図である。
【図15】第3具体例に係る細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す図である。
【図16】堰き止め部材の構造を概略的に示す図である。
【図17】堰き止め部材の構造を概略的に示す図である。
【図18】堰き止め部材の構造を概略的に示す図である。
【図19】堰き止め部材が第1姿勢を確立する様子を概略的に示す図である。
【図20】堰き止め部材が第2姿勢を確立する様子を概略的に示す図である。
【図21】回収容器が捕捉用シャーレから取り外される様子を概略的に示す図である。
【図22】第2具体例の変形例に係る細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す図である。
【図23】細胞捕捉板の開口に細胞が捕捉される様子を概略的に示す図である。
【図24】細胞が回収容器に押し流される様子を概略的に示す図である。
【図25】第4具体例に係る細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す図である。
【図26】細胞捕捉ユニットの構造を概略的に示す図である。
【図27】細胞捕捉板が基準姿勢を確立する様子を概略的に示す図である。
【図28】細胞捕捉板が傾斜姿勢を確立する様子を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0077】
11 インジェクション装置(マイクロインジェクション装置)、12 インジェクションユニット、16 負圧発生ユニットおよび正圧生成ユニットとしての圧力発生ユニット、17 撮像装置、21 制御回路、26 液流路、27 細胞捕捉板、28 液体供給ユニット、29 液溜まり、32 通路、33 開口、35 細胞、43 回収容器、44 堰き止め部材、51 液収容窪み、52 細胞捕捉容器としての捕捉用シャーレ、54 傾斜面(第1傾斜面)、56 細胞回収容器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットとを備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞捕捉装置において、前記正圧生成ユニットに接続され、所定の刻み値で離散的に前記正圧生成ユニットの圧力設定値を増大させる制御回路をさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【請求項3】
請求項1に記載の細胞捕捉装置において、前記開口を塞ぐ細胞を撮像し、対応の画像信号を出力する撮像装置と、撮像装置および前記正圧生成ユニットに接続されて、少なくとも部分的に開口を開放する細胞の画像を特定する画像信号に基づき前記正圧生成ユニットの動作を制御する制御回路とをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【請求項4】
請求項1に記載の細胞捕捉装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端に接続されて、液流路から流れ出る液体を受け止める液溜まりとをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【請求項5】
請求項1に記載の細胞捕捉装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端で、液流路よりも下段に設置される回収容器と、液流路の下流端に設置されて、液流路の下流端から流れ出る液体の流れを堰き止める第1姿勢、および、液流路の下流端から液体の流出を許容する第2姿勢の間で姿勢を変化させる堰き止め部材とをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【請求項6】
細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットと、細胞に液体を注入するインジェクションユニットとを備えることを特徴とするインジェクション装置。
【請求項7】
表面に細胞の大きさよりも小さい開口を区画する細胞捕捉板の表面に、細胞を含む液体を供給する工程と、細胞捕捉板内に区画されて開口に通じる通路内に負圧を発生させて、開口に液体内の細胞を吸着させて細胞で開口を塞ぐ工程と、通路内に正圧を発生させて、少なくとも部分的に開口を開放する工程とを備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【請求項1】
細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットとを備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞捕捉装置において、前記正圧生成ユニットに接続され、所定の刻み値で離散的に前記正圧生成ユニットの圧力設定値を増大させる制御回路をさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【請求項3】
請求項1に記載の細胞捕捉装置において、前記開口を塞ぐ細胞を撮像し、対応の画像信号を出力する撮像装置と、撮像装置および前記正圧生成ユニットに接続されて、少なくとも部分的に開口を開放する細胞の画像を特定する画像信号に基づき前記正圧生成ユニットの動作を制御する制御回路とをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【請求項4】
請求項1に記載の細胞捕捉装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端に接続されて、液流路から流れ出る液体を受け止める液溜まりとをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【請求項5】
請求項1に記載の細胞捕捉装置において、前記通路を区画する細胞捕捉板と、細胞捕捉板を受け入れる液流路と、液流路の上流端に接続されて、所定の液体を出力する液体供給ユニットと、液流路の下流端で、液流路よりも下段に設置される回収容器と、液流路の下流端に設置されて、液流路の下流端から流れ出る液体の流れを堰き止める第1姿勢、および、液流路の下流端から液体の流出を許容する第2姿勢の間で姿勢を変化させる堰き止め部材とをさらに備えることを特徴とする細胞捕捉装置。
【請求項6】
細胞の大きさよりも小さい開口を区画する通路と、通路に接続され、通路内に負圧を発生させる負圧発生ユニットと、通路に接続され、通路内に正圧を作用させる正圧生成ユニットと、細胞に液体を注入するインジェクションユニットとを備えることを特徴とするインジェクション装置。
【請求項7】
表面に細胞の大きさよりも小さい開口を区画する細胞捕捉板の表面に、細胞を含む液体を供給する工程と、細胞捕捉板内に区画されて開口に通じる通路内に負圧を発生させて、開口に液体内の細胞を吸着させて細胞で開口を塞ぐ工程と、通路内に正圧を発生させて、少なくとも部分的に開口を開放する工程とを備えることを特徴とする細胞捕捉方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
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【図5】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2009−44977(P2009−44977A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212279(P2007−212279)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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