説明

細胞死の13C−MRイメージング又は分光法

本発明は、過分極13C−ピルビン酸塩を含むイメージング剤を用いて細胞死の13C−MRイメージング及び/又は13C−MR分光法を実施する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過分極13C−ピルビン酸塩を含むイメージング剤を用いて細胞死の13C−MRイメージング又は分光法を実施する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞死は各種の機構によって起こることがある。アポトーシス及び壊死を始めとして、これらの機構のいくつかは十分に特性決定されている。
【0003】
アポトーシス、即ちプログラムされた細胞死は、多細胞生物における発育の制御及び組織恒常性の維持において重要な役割を果たす。アポトーシスは、細胞壊死によって引き起こされる炎症反応を回避するプロセスにおいて、近隣の食細胞による瀕死細胞の摂取で終わる一連のエネルギー要求性で緊密に調節されたステップを通して進行する。哺乳動物細胞では、アポトーシスは2つの主たるシグナル伝達経路によって媒介される。第1は細胞表面のデスレセプターを介して開始される外因性経路によるものであり、第2はDNP損傷のような内因性イニシエーターによるものである。これらの経路はいずれも、ミトコンドリアの表面に収束する。
【0004】
アポトーシスは、哺乳動物体内の多数のプロセスにおいて決定的なイベントである。例えば、胚の発育はアポトーシスに大きく依存しており、急速に代謝回転する組織は重大な病理学的結果を回避するために緊密な調節を必要とする。アポトーシスを調節できないと(即ち、細胞死が不十分であるか又は多過ぎると)、癌及び自己免疫疾患のような病的状態(細胞死が不十分な場合)、或いはアルツハイマー病のような神経変性疾患(細胞死が多過ぎる場合)が生じる。したがって、ヒト又はヒト以外の動物の体内においてアポトーシスをインビボで非侵襲的に確認することに関心が集まっている。
【0005】
壊死は、損傷、感染、癌、梗塞、毒物及び炎症への長期暴露から生じる偶発的な細胞死の一形態である。細胞中のある必須系に対する激しい損傷は他の系に対する二次的な損傷を引き起こすが、これがいわゆる作用のカスケードである。壊死は、ランダムサイズのDNAフラグメント、遊離基の生成、細胞の腫脹、及び細胞内容物の放出をもたらす膜の健全性の喪失によって特徴づけられる。
【0006】
壊死は、損傷、感染又は梗塞の部位に対する適切な処置の欠如から生じることがある。梗塞は、例えば心筋で起こるばかりでなく、他の組織(特に脳)でも起こる。梗塞はある程度まで治療することができるものの、壊死に関しては、生体の残部に対する有害な後遺症を防止するか、或いは少なくとも軽減することしかできない。梗塞に関しては、壊死の程度及び性質を知ることはさらなる治療のために重要である。したがって、ヒト又はヒト以外の動物の体内において壊死をインビボで非侵襲的に確認することに関心が集まっている。
【0007】
ヒト又はヒト以外の動物の体内における細胞死を画像化するためには、いくつかのイメージングモダリティが当技術分野で公知である。細胞死イメージング用の放射性医薬品は、Lahorte et al.,Eur.J.Nucl.Med.31(2004),887に総説されている。18F−FDGを単独で又はCTと共に用いるPETイメージングも、細胞死検出のために使用されてきた。例えば、Romer et al.,Blood 91(1998),4464又はvon Schulthess et al,Radiology 238(2006),405を参照されたい。
【0008】
例えばMRイメージング(MRI)及びMR分光法(MRS)のような磁気共鳴(MR)検出は、細胞死を検出するために有用なツールであり得よう。これらのツールは、非侵襲的にかつ患者及び医療従事者を潜在的に有害な放射線(例えば、X線)に暴露することなく患者の身体又はその一部の画像を得ることができるため、医師にとって特に魅力的なものとなっている。高画質の画像並びに良好な空間的及び時間的分解能が得られるので、MRIは軟組織及び器官のために好適なイメージング技法である。
【0009】
MRに基づく細胞死検出方法は、いくつかの最近の総説、例えばKettunen et al.,Prog.Nucl.Mag.Res.Sp.47(2005),175及びHakumaki et al.,Eur.J.Radiol.56(2005),143の主題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2006/011810号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Lahorte et al.,Eur.J.Nucl.Med.31(2004),887
【非特許文献2】Romer et al.,Blood 91(1998),4464
【非特許文献3】von Schulthess et al,Radiology 238(2006),405
【非特許文献4】Kettunen et al.,Prog.Nucl.Mag.Res.Sp.47(2005),175
【非特許文献5】Hakumaki et al.,Eur.J.Radiol.56(2005),143
【非特許文献6】Golman,K.,et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103(30),2006,11270−11275
【非特許文献7】Day,S.E.,et al,Nature Medicine,13(11),2007,1382−1387
【発明の概要】
【0012】
今回、過分極13C−ピルビン酸塩は、13C−MRイメージング又は13C−MR分光法を用いてヒト又はヒト以外の動物の体内における細胞死を検出するための薬剤として使用できることが判明した。
【0013】
ピルビン酸塩は、たとえ高濃度でも、人体によって非常によく容認される内因性化合物である。クエン酸回路中の前駆体として、ピルビン酸塩は人体内において重要な代謝的役割を果たす。ピルビン酸塩は様々な化合物に転化される。即ち、それのアミノ基転移はアラニンを生じ、酸化的脱炭酸反応によってピルビン酸塩はアセチルCoA及び二酸化炭素(これはさらに重炭酸塩に転化される)に転化され、ピルビン酸塩の還元は乳酸塩を生じ、それのカルボキシル化はオキサロ酢酸塩を生じる。
【0014】
さらに、過分極13C−ピルビン酸塩からその代謝産物である過分極13C−乳酸塩、過分極13C−重炭酸塩(131−ピルビン酸塩、131,2−ピルビン酸塩又は131,2,3−ピルビン酸塩の場合のみ)及び過分極13C−アラニンへの代謝転化は、MRを用いて人体内における代謝過程を調べるために使用できる。131−ピルビン酸塩は、37℃のヒト全血中で約42秒のT1緩和を有している。しかし、過分極13C−ピルビン酸塩から過分極13C−乳酸塩、過分極13C−重炭酸塩及び過分極13C−アラニンへの転化は、13C−ピルビン酸塩出発化合物及びその代謝産物からの信号検出を可能にするのに十分速いことが判明している。アラニン、重炭酸塩及び乳酸塩の量は、検査対象である組織の代謝状態に依存する。過分極13C−乳酸塩、過分極13C−重炭酸塩及び過分極13C−アラニンのMR信号強度は、これらの化合物の量及び検出時における分極の残存率に関係しているので、過分極13C−ピルビン酸塩から過分極13C−乳酸塩、過分極13C−重炭酸塩及び過分極13C−アラニンへの転化をモニターすることにより、非侵襲的なMRイメージング又はMR分光法を用いることでヒト又はヒト以外の動物の体内における代謝過程をインビボで調べることが可能である。
【0015】
様々なピルビン酸塩代謝産物に由来するMR信号振幅は、組織の種類に応じて変化することが判明している。アラニン、乳酸塩、重炭酸塩及びピルビン酸塩によって形成される特有の代謝ピークパターンは、検査対象である組織の代謝状態に関するフィンガープリントとして使用でき、かくして健常組織と腫瘍組織との識別を可能にする。腫瘍イメージング(腫瘍組織は高い代謝活性を示す)のために過分極13C−ピルビン酸塩を使用することは、国際公開第2006/011810号に詳述されている。
【0016】
さらに、心臓イメージングのために過分極13C−ピルビン酸塩を使用することは、国際公開第2006/054903号に記載されている。
【0017】
かくして、第1の態様で本発明は、過分極13C−ピルビン酸塩を含むイメージング剤を用いて細胞死を検出するための13C−MRイメージング及び/又は13C−MR分光法を実施する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、エトポシドで処理したEL4細胞懸濁液及び未処理EL4細胞懸濁液中における131−ピルビン酸塩及び131−乳酸塩のピーク強度を時間に対して示している。
【図2】図2は、EL4細胞に対するエトポシド処理及びエトポシド/ニコチンアミド処理の効果を細胞死誘発薬物エトポシドに対して示している。
【図3A】図3Aは、0.2mlの75mM過分極131−ピルビン酸塩の静脈内注射後における、予めエトポシド処理した腫瘍の厚さ5mmのスライスからの13C−MRスペクトルの代表的系列を示している。
【図3B】図3Bは、0.2mlの75mM過分極131−ピルビン酸塩の静脈内注射後における腫瘍の131−ピルビン酸塩(黒丸)及び131−乳酸塩(白丸)ピーク強度を示している。
【図3C】図3Cは、未処理腫瘍(白丸)及びエトポシド処理腫瘍(黒丸)を有するマウスに関し、0.2mlの75mM過分極131−ピルビン酸塩の静脈内注射後における131−乳酸塩/131−ピルビン酸塩ピーク強度比を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
「細胞死」という用語は、各種の機構によって起こるすべての形態の細胞死を意味する。この用語はアポトーシス及び壊死を包含する。
【0020】
13C−ピルビン酸塩」という用語は、13C−ピルビン酸の塩を意味する。
【0021】
「過分極」及び「分極」という用語は以後は互換的に使用され、0.1%を超え、さらに好ましくは1%を超え、最も好ましくは10%を超える核分極レベルを意味する。
【0022】
分極レベルは、例えば、固体過分極13C−ピルビン酸塩(例えば、13C−ピルビン酸塩の動的核分極(DNP)によって得られる固体過分極13C−ピルビン酸塩)における固体状態13C−NMR測定によって決定できる。固体状態13C−NMR測定は、好ましくは小さいフリップ角を用いる単パルス取得NMRシーケンスからなる。NMRスペクトル中の過分極13C−ピルビン酸塩の信号強度を、分極プロセス前に取得したNMRスペクトル中の13C−ピルビン酸塩の信号強度と比較する。次いで、分極前後における信号強度の比から分極レベルを計算する。
【0023】
同様に、溶解した過分極13C−ピルビン酸塩に関する分極レベルは、液体状態NMR測定によって決定できる。この場合にも、溶解過分極13C−ピルビン酸塩の信号強度を分極前の溶解13C−ピルビン酸塩の信号強度と比較する。次いで、分極前後における13C−ピルビン酸塩の信号強度の比から分極レベルを計算する。
【0024】
「イメージング剤」という用語は、MR活性剤として過分極13C−ピルビン酸塩を含む液体組成物を意味する。本発明に係るイメージング剤は、MRイメージングにおけるイメージング剤として、或いはMR分光法におけるMR分光剤として使用できる。
【0025】
本発明の方法に係るイメージング剤は、インビボMRイメージング及び/又は分光法(即ち、ヒト又はヒト以外の動物の生体に関して実施されるMRイメージング及び/又は分光法)用のイメージング剤として使用できる。さらに、本発明の方法に係るイメージング剤は、例えば細胞培養物又はエクスビボ組織中における細胞死を検出するためのインビトロMRイメージング及び/又は分光法用のイメージング剤として使用できる。細胞培養物はヒト又はヒト以外の動物の身体から導かれる試料(例えば、血液、尿又は唾液)から得ることができる一方、エクスビボ組織は生検又は外科的処置から得ることができる。
【0026】
本発明の方法で使用する過分極13C−ピルビン酸塩の同位体濃縮度は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であり、90%を超える同位体濃縮度が最も好ましい。理想的には、濃縮度は100%である。本発明の方法で使用する13C−ピルビン酸塩は、C1位置(以後は131−ピルビン酸塩という)、C2位置(以後は132−ピルビン酸塩という)、C3位置(以後は133−ピルビン酸塩という)、C1及びC2位置(以後は131,2−ピルビン酸塩という)、C1及びC3位置(以後は131,3−ピルビン酸塩という)、C2及びC3位置(以後は132,3−ピルビン酸塩という)又はC1、C2及びC3位置(以後は131,2,3−ピルビン酸塩という)で同位体濃縮できる。131−ピルビン酸塩は、37℃のヒト全血中において、他のC位置で同位体濃縮された13C−ピルビン酸塩より高いT1緩和(約42秒)を有するので、C1位置での同位体濃縮が好ましい。
【0027】
NMR活性13C核の過分極は、例えば国際公開第98/30918号、同第99/24080号及び同第99/35508号(これらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に記載されている様々な方法によって達成でき、過分極方法には、希ガスからの分極移動、「ブルートフォース(brute force)」、スピン冷凍、パラ水素法及び動的核分極(DNP)がある。
【0028】
過分極13C−ピルビン酸塩を得るためには、13C−ピルビン酸塩を直接に分極させるか、或いは13C−ピルビン酸を分極させ、分極13C−ピルビン酸を(例えば、塩基での中和により)分極13C−ピルビン酸塩に転化させることが好ましい。
【0029】
過分極13C−ピルビン酸塩を得るための1つの好適な方法は、国際公開第98/30918号に記載されているような過分極希ガスからの分極移動である。非ゼロ核スピンを有する希ガスは、円偏光の使用によって過分極させることができる。過分極希ガス(好ましくはHe又はXe或いはかかるガスの混合物)を用いて13C核の過分極を達成することができる。過分極ガスは気相中にあってもよく、液体/溶媒中に溶解されてもよく、或いは過分極ガス自体を溶媒として使用してもよい。別法として、ガスを冷却固体表面上に凝縮させ、この形態で使用してもよいし、或いは昇華させてもよい。過分極ガスと13C−ピルビン酸塩又は13C−ピルビン酸とを緊密に混合することが好ましい。したがって、室温で液体である13C−ピルビン酸を分極させるならば、過分極ガスを液体/溶媒中に溶解するか、或いは溶媒として使用することが好ましい。13C−ピルビン酸塩を分極させるならば、ピルビン酸塩を溶解する液体/溶媒中に過分極ガスを溶解することが好ましい。
【0030】
過分極13C−ピルビン酸塩を得るための別の好適な方法は、非常に低い温度及び高い磁場での熱力学的平衡化によって13C核に分極を付与するものである。過分極は、NMR分光計の動作磁場及び温度に比べ、非常に高い磁場及び非常に低い温度(ブルートフォース)の使用によって達成される。使用する磁場強度はできるだけ高くすべきであり、好適には1Tより高く、好ましくは5Tより高く、さらに好ましくは15T以上であり、特に好ましくは20T以上である。温度は非常に低くすべきであり、例えば4.2K以下、好ましくは1.5K以下、さらに好ましくは1.0K以下、特に好ましくは100mK以下である。
【0031】
過分極13C−ピルビン酸塩を得るための別の好適な方法は、スピン冷凍法である。この方法は、スピン冷凍分極によって固体の化合物又は系のスピン分極をカバーする。かかる系には、三次若しくはそれ以上の対称軸をもつ好適な結晶質常磁性物質(例えば、Ni2+、ランタニド又はアクチニドイオン)がドープされるか、或いは緊密に混合される。共鳴励起磁場を全く加えないので均一な磁場は必要とされず、その計装はDNPのために必要なものより簡単である。このプロセスは、磁場の方向に直角な軸の周りで試料を物理的に回転させることによって実施される。この方法についての前提条件は、常磁性種が高度に異方性のg因子をもつことである。試料回転の結果として、電子常磁性共鳴が核スピンと接触して、核スピン温度の低下をもたらす。試料回転は、核スピン分極が新しい平衡に達するまで実施される。
【0032】
好ましい実施形態では、過分極13C−ピルビン酸塩を得るためにDNP(動的核分極)が使用される。DNPでは、分極させるべき化合物中のMR活性核の分極は、不対電子を含む化合物である分極剤又はいわゆるDNP剤によって達成される。DNPプロセス中には、通常はマイクロ波放射の形態でエネルギーが供給され、これがまずDNP剤を励起する。基底状態への崩壊に際して、DNP剤の不対電子から分極させるべき化合物のNMR活性核(例えば、13C−ピルビン酸塩中の13C核)への分極の移動が起こる。一般に、DNPプロセスでは中程度の又は高い磁場及び非常に低い温度が使用されており、例えば、液体ヘリウム及び約1T以上の磁場中でDNPプロセスが実施される。別法として、中程度の磁場及び十分な分極増強が達成される任意の温度を使用することもできる。DNP技法は、例えば、国際公開第98/58272号及び同第01/96895号に一層詳しく記載されており、これらの開示内容はいずれも援用によって本明細書の内容の一部をなしている。
【0033】
DNP法によって化合物を分極させるためには、分極させるべき化合物とDNP剤との混合物(「試料」)を調製し、次いでこれを凍結して分極用のDNP分極装置内に挿入する。分極後、凍結した固体過分極試料は、融解又は適当な溶解媒質中への溶解によって急速に液体状態に移行される。溶解が好ましく、凍結過分極試料の溶解プロセス及びそのための好適な装置は国際公開第02/37132号に詳述されている。融解プロセス及び融解用の好適な装置は、例えば国際公開第02/36005号に記載されている。
【0034】
分極させるべき化合物中に高い分極レベルを得るためには、DNPプロセス中に前記化合物とDNP剤とが緊密に接触している必要がある。凍結又は冷却時に試料が結晶化するならば、それに該当しない。結晶化を避けるためには、試料中にガラス形成剤を存在させる必要があり、或いは凍結時に結晶化せずにガラスを形成する化合物を分極用に選択する必要がある。
【0035】
前述の通り、13C−ピルビン酸又は13C−ピルビン酸塩が過分極13C−ピルビン酸塩を得るための好適な出発原料である。
【0036】
同位体濃縮された13C−ピルビン酸塩は、例えば13C−ピルビン酸ナトリウムとして商業的に入手できる。別法として、S.Anker,J.Biol.Chem.176,1948,1333−1335に記載されたようにしてそれを合成することもできる。
【0037】
131−ピルビン酸の合成のためには、いくつかの方法が当技術分野で公知である。簡単に述べれば、Seebach et al.,Journal of Organic Chemistry 40(2),1975,231−237には、カルボニル含有出発原料をS,S−アセタール(例えば、1,3−ジチアン又は2−メチル−1,3−ジチアン)として保護及び活性化することに基づく合成経路が記載されている。かかるジチアンをメタレート化し、メチル含有化合物及び/又は13CO2と反応させる。この参考文献中に略述されているような適当な同位体濃縮13C−成分を使用することで、131−ピルビン酸塩、132−ピルビン酸塩又は131,2−ピルビン酸塩を得ることが可能である。次いで、文献中に記載されている通常の方法を用いてカルボニル官能基を遊離させる。異なる合成経路は酢酸から開始するが、酢酸をまず臭化アセチルに転化させ、次いでCu13CNと反応させる。得られたニトリルはアミドを介してピルビン酸に転化される(例えば、S.H.Anker et al.,J.Biol.Chem.176(1948),1333又はJ.E.Thirkettle,Chem.Commun.(1997),1025を参照されたい)。さらに13C−ピルビン酸は、例えば米国特許第6,232,497号に記載された方法又は国際公開第2006/038811号に記載された方法により、商業的に入手できる13C−ピルビン酸ナトリウムへのプロトン付加によって得ることができる。
【0038】
DNPによる13C−ピルビン酸の過分極は、国際公開第2006/011809号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に詳述されている。簡単に述べれば、13C−ピルビン酸は凍結時にガラスを形成するので、それはDNPのためにそのまま使用できる。DNP後、凍結過分極13C−ピルビン酸を溶解して中和すること(即ち、13C−ピルビン酸塩に転化させること)が必要である。転化のためには、強塩基が必要である。さらに、13C−ピルビン酸は強酸であるので、この強酸中で安定なDNP剤を選択する必要がある。好ましい塩基は水酸化ナトリウムであり、水酸化ナトリウムによる過分極13C−ピルビン酸の転化は過分極13C−ピルビン酸ナトリウムを生じる。これは、インビボMRイメージング及び/又は分光法(即ち、ヒト又はヒト以外の動物の生体に関して実施されるMRイメージング及び/又は分光法)のために使用されるイメージング剤にとって好ましい13C−ピルビン酸塩である。
【0039】
別法として、13C−ピルビン酸塩(即ち、13C−ピルビン酸の塩)をDNPのために使用できる。好ましい塩は、PCT出願第07/00109号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に詳述されているように、NH4+、K+、Rb+、Cs+、Ca2+、Sr2+及びBa2+、好ましくはNH4+、K+、Rb+及びCs+、さらに好ましくはK+、Rb+及びCs+、最も好ましくはCs+からなる群からの無機陽イオンを含む13C−ピルビン酸塩である。これらの好ましい13C−ピルビン酸塩の合成法もまた、PCT出願第07/00109号に開示されている。過分極13C−ピルビン酸塩をインビボMRイメージング及び/又は分光法用のイメージング剤中に使用するならば、NH4+、K+、Rb+、Cs+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群からの無機陽イオンを生理学的に非常によく容認される陽イオン(例えば、Na+又はメグルミン)と交換することが好ましい。これは、陽イオン交換カラムの使用のような当技術分野で公知の方法によって行うことができる。
【0040】
さらに他の好ましい塩は、国際公開第2007/069909号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に詳述されているように、有機アミン又はアミノ化合物の13C−ピルビン酸塩(好ましくは、TRIS−13C−ピルベート又はメグルミン−13C−ピルベート)である。これらの好ましい13C−ピルビン酸塩の合成法もまた、国際公開第2007/069909号に開示されている。
【0041】
本発明の方法で使用する過分極13C−ピルビン酸塩がDNPによって得られるならば、13C−ピルビン酸又は13C−ピルビン酸塩及びDNP剤を含む分極させるべき試料は、さらに常磁性金属イオンを含み得る。DNPによって分極させるべき組成物中に常磁性金属イオンが存在することは、国際公開第2007/064226号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に詳述されているように、13C−ピルビン酸/13C−ピルビン酸塩中の分極レベルの向上をもたらすことが判明している。
【0042】
前述の通り、本発明の方法に係るイメージング剤は、インビボMRイメージング及び/又は分光法(即ち、ヒト又はヒト以外の動物の生体に関して実施されるMRイメージング及び/又は分光法)のためのイメージング剤として使用できる。かかるイメージング剤は、MR活性剤である13C−ピルビン酸塩に加えて、水性キャリヤー、好ましくは生理学的に容認されかつ薬学的に許容される水性キャリヤー(例えば、水、緩衝液又は食塩水)を含むことが好ましい。かかるイメージング剤はさらに、通常の薬学的又は獣医学的キャリヤー又は賦形剤(例えば、ヒト医学又は獣医学における診断用組成物に関して常用されているような製剤化補助剤)を含むことができる。
【0043】
さらに、本発明の方法に係るイメージング剤は、インビトロMRイメージング及び/又は分光法(例えば、細胞培養物又はエクスビボ組織中における細胞死の検出)のためのイメージング剤として使用できる。かかるイメージング剤は、MR活性剤である13C−ピルビン酸塩に加えて、インビトロ細胞又は組織アッセイに適合しかつそのために使用される溶媒(例えば、DMSO又はメタノール或いは水性キャリヤー及び非水性溶媒を含む溶媒混合物(例えば、DMSOと水又は緩衝液との混合物或いはメタノールと水又は緩衝液との混合物))を含むことが好ましい。当業者には自明の通り、かかるイメージング剤中には薬学的に許容されるキャリヤー、賦形剤及び製剤化補助剤が存在し得るが、かかる目的のために必要なわけではない。
【0044】
別の実施形態では、本発明の方法に係るイメージング剤は過分極していない乳酸塩(以後は乳酸塩という)を含んでいる。
【0045】
好適には、乳酸塩は乳酸又は乳酸の塩(好ましくは乳酸リチウム又は乳酸ナトリウム、最も好ましくは乳酸ナトリウム)の形態で添加される。
【0046】
本発明の方法で使用するイメージング剤中における過分極13C−ピルビン酸塩及び乳酸塩の濃度はほぼ等しいか又は等しく、或いは乳酸塩が13C−ピルビン酸塩より低い濃度又は高い濃度で存在する。例えば、イメージング剤がxMの13C−ピルビン酸塩を含むならば、それはxMの乳酸塩又はほぼxMの乳酸塩、或いはそれより少ないが好ましくはxMの1/10以上の乳酸塩、或いはそれより多いが好ましくはxMの3倍以下の乳酸塩を含む。好ましい実施形態では、本発明の方法で使用するイメージング剤中における乳酸塩の濃度は過分極13C−ピルビン酸塩の濃度にほぼ等しいか又は等しい。「ほぼ等しい濃度」という用語は、13C−ピルビン酸塩濃度の±30%、好ましくは±20%、さらに好ましくは±10%である乳酸塩濃度を意味する。
【0047】
乳酸塩は、好適には分極プロセス後に過分極13C−ピルビン酸塩に添加される。いくつかの乳酸塩添加方法が可能である。分極プロセスが過分極13C−ピルビン酸塩を含む液体組成物を生じる場合には、乳酸塩を前記液体組成物中に溶解するか、或いは適当な溶媒(好ましくは水性キャリヤー)中の乳酸塩溶液を液体組成物に添加すればよい。分極プロセスが過分極13C−ピルビン酸塩を含む固体組成物を生じるならば、固体組成物を溶解するために使用する溶解媒質中に乳酸塩を溶解すればよい。例えば、DNP法によって分極させた13C−ピルビン酸塩は、乳酸塩を含む水又は緩衝液のような水性キャリヤー中に溶解できる。過分極13C−ピルビン酸塩がDNPによって得られているならば、最終液体組成物(即ち、凍結分極13C−ピルビン酸塩/13C−ピルビン酸の溶解/融解後の液体組成物或いはDNP剤及び/又は任意の常磁性金属イオンの除去後の液体組成物)に乳酸塩を添加することが好ましい。この場合にも、乳酸塩は固体として液体組成物中に添加でき、或いは適当な溶媒(例えば、水又は緩衝液のような水性キャリヤー)中に溶解できる。乳酸塩の溶解を促進するため、当技術分野で公知のいくつかの手段(例えば、撹拌、渦動又は音波処理)を使用できる。しかし、迅速であると共に、混合装置を必要とせずに液体組成物との接触を助ける方法が好ましい。したがって、渦動又は音波処理のような方法が好ましい。
【0048】
別の実施形態では、本発明に係るイメージング剤は乳酸塩と共に投与される。この実施形態では、乳酸塩を適当な溶媒(例えば、水性キャリヤー)に溶解し、過分極13C−ピルビン酸塩の投与/添加に先立って(「プレコンディショニング」)又は過分極13C−ピルビン酸塩の投与/添加と同時に、ヒト又はヒト以外の動物の身体に投与するか、或いは細胞培養物又はエクスビボ組織に添加すればよい。
【0049】
プレコンディショニングのためには、乳酸塩は好ましくは過分極13C−ピルビン酸塩の投与の0.5〜5分前にヒト又はヒト以外の動物の身体に投与され、さらに好ましくは過分極13C−ピルビン酸塩の投与の1〜2分前に投与される。最も好ましくは、乳酸塩は過分極13C−ピルビン酸塩の投与と同時にヒト又はヒト以外の動物の身体に投与される。
【0050】
細胞培養物又はエクスビボ組織の場合には、細胞中への乳酸塩の分配はヒト又はヒト以外の動物の身体の場合より速く起こる。これは、後者の場合、乳酸塩を血管系に投与し、投与点から検査対象の組織まで配送しなければならないからである。したがって、細胞培養物又はエクスビボ組織の場合には、過分極13C−ピルビン酸塩の添加の直前、好ましくは過分極13C−ピルビン酸塩の添加の2〜1分前、さらに好ましくは1〜0.5分前、最も好ましくは過分極13C−ピルビン酸塩の添加と同時に、乳酸塩を前記細胞培養物又はエクスビボ組織に添加すればよい。
【0051】
本発明の方法においてインビボMRイメージング又は分光法のためのイメージング剤として使用するためには、過分極13C−ピルビン酸塩及び任意の乳酸塩を含むイメージング剤は、ヒト又はヒト以外の動物の生体に投与するのに適していなければならない。イメージング剤は、好ましくは上述したような水性キャリヤー(例えば、水、緩衝液又は緩衝液混合物)を含む。イメージング剤はさらに、通常の薬学的に許容されるキャリヤー、賦形剤及び製剤化補助剤を含み得る。したがって、イメージング剤は例えば安定剤、重量オスモル濃度調整剤、可溶化剤などを含み得る。
【0052】
本発明の方法においてインビトロMRイメージング又は分光法のためのイメージング剤として使用するためには、過分極13C−ピルビン酸塩及び任意の乳酸塩を含むイメージング剤は、例えば細胞培養物又はエクスビボ組織に添加するのに適していなければならない。イメージング剤は、好ましくは上述したような水性キャリヤー(例えば、水、緩衝液又は緩衝液混合物)を含む。
【0053】
過分極13C−ピルビン酸塩が、例えば細胞培養物又はエクスビボ組織を用いてMRイメージング又は分光法を行うインビトロ方法において細胞死検出用のイメージング剤として使用される場合、細胞培養物又はエクスビボ組織に添加される過分極13C−ピルビン酸塩を含むイメージング剤では、13C−ピルビン酸塩濃度が10〜100mM、さらに好ましくは20〜90mM、最も好ましくは40〜80mMである。
【0054】
細胞死は、本発明の方法により、13C−ピルビン酸塩信号及びその代謝産物である13C−乳酸塩の信号を経時的に追跡することで検出できる。生細胞(例えば、非アポトーシス細胞/非壊死細胞)では、13C−ピルビン酸塩信号は経時的に減衰する。13C−乳酸塩信号は、13C−ピルビン酸塩から13C−乳酸塩への代謝転化のために増加し、次いで主として緩和のためにゆっくりと減少する。瀕死細胞(例えば、アポトーシス細胞又は壊死細胞)では、13C−ピルビン酸塩から13C−乳酸塩への代謝転化は大幅に減少する。13C−ピルビン酸塩信号は経時的に減衰するものの、13C−乳酸塩信号は細胞死の程度及び死細胞の量に応じてわずかに増加するか、或いは全く検出されないことがある。理論によって束縛されることは望まないが、これはNADH及びNAD+の相互転化を伴いながらピルビン酸塩及び乳酸塩の相互転化を触媒する酵素乳酸デヒドロゲナーゼの活性の喪失に原因し、及び/又は補因子NADH及びNAD+の喪失に原因し、及び/又は細胞内乳酸塩濃度の減少に原因すると考えられる。
【0055】
エトポシド処理によって細胞死を受けるように誘発されたEL4マウスリンパ腫細胞の酸抽出物に関する31P−NMR測定結果は、未処理対照細胞と比較した場合、NAD(H)からの共鳴強度の減少を示した。NAD(H)の喪失は、各種のタンパク質をポリアデニル化しかつNAD+を基質として使用する酵素ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)の活性化がDNAの損傷で誘発されることによって説明できる。また、解糖中間体フルクトース−1,6−二リン酸(FBP)からの共鳴の増加も存在していたが、これは補酵素NAD(H)の喪失による解糖酵素グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の阻害によって説明できる。競合阻害剤(20mMニコチンアミド又は10mM 3−アミノベンズアミド)によるPARP活性の阻害は、瀕死細胞で認められるNAD(H)の喪失及びFBP濃度の増加を抑制した。
【0056】
PARP活性化に原因するこのようなNAD(H)の喪失はまた、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性、したがってピルビン酸塩と乳酸塩との間で測定される13C−標識の流れも抑制するはずである。この仮説に合致して、ニコチンアミド及びエトポシドの両方或いは3−アミノベンズアミド及びエトポシドの両方で処理された細胞は、蛍光顕微鏡法を用いて検出されるように瀕死細胞の通常の形態学的特徴を示しながらも、ピルビン酸塩及び乳酸塩プールの間で過分極13C−標識を移動させる能力を維持することが認められた。
【0057】
さらに、乳酸塩の添加(即ち、乳酸塩は本発明に係るイメージング剤中に存在するか、或いは別途に添加/投与される)は観測可能な13C−乳酸塩の量の増加をもたらし、したがって13C−乳酸塩からのMR信号の増加をもたらすことが判明した。
【0058】
上記に説明した通り、13C−乳酸塩からの信号は、細胞死を検出するためのMRイメージング又は分光法測定に際してモニターされる信号である。この場合、瀕死組織及び死亡組織は、生存組織から観測できる13C−乳酸塩信号に比べて13C−乳酸塩信号が低下又は欠如することで表される。13C−乳酸塩からの信号の増加は、「低乳酸塩信号」状態と「無乳酸塩信号」状態とを識別すること(即ち、細胞死の程度の違いを識別すること)を容易にする。
【0059】
検査対象体積をエンコードするMRイメージングシーケンスを複合した周波数及び空間選択的な方法で印加し、イメージング剤の添加(t=0)から約10分、好ましくは6分、さらに好ましくは5分までの期間にわたって13C−ピルビン酸塩の13C−MR信号をMRイメージング又は分光法で追跡する。同じ期間内において、13C−乳酸塩信号の外観、増加及びそれに続く減少をモニターする。定量的な評価を得るためには、健常細胞又は組織のMRイメージング又は分光法を実施し、結果(即ち、所定期間にわたって生成される乳酸塩の量又は速度)を比較すればよい。
【0060】
過分極13C−ピルビン酸塩が、例えばヒト又はヒト以外の動物の生体に関してMRイメージング又は分光法を行うインビボ方法において細胞死検出用のイメージング剤として使用されるならば、過分極13C−ピルビン酸塩を含むイメージング剤は好ましくは前記生体に非経口的に(好ましくは静脈内に)投与される。一般に、検査すべき生体はMR磁石内に配置される。専用の13C−MR RFコイルが、検査対象領域をカバーするように配置される。イメージング剤の用量及び濃度は、毒性及び投与経路のような一連の因子に依存する。一般には、イメージング剤は、体重1kg当たり1mmol以下、好ましくは0.01〜0.5mmol/kg、さらに好ましくは0.1〜0.3mmol/kgの13C−ピルビン酸塩濃度で投与される。投与速度は、好ましくは10ml/秒未満、さらに好ましくは6ml/分未満、最も好ましくは5ml/秒〜0.1ml/秒である。投与後400秒未満、好ましくは120秒未満、さらに好ましくは投与後60秒未満、特に好ましくは20〜50秒に、検査対象体積をエンコードするMRイメージングシーケンスを複合した周波数及び空間選択的な方法で印加する。これによって、13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩の代謝画像が得られる。MRシーケンスの正確な印加時間は、細胞死を検出するための検査対象体積に大きく依存する。
【0061】
検査対象体積のエンコーディングは、例えば、T.R.Brown et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79,3523−3526(1982)及びA.A.Maudsley et al.,J.Magn.Res.51,147−152(1983)に記載されているようないわゆる分光イメージングシーケンスを用いて達成できる。分光画像データは多数の体積要素を含んでおり、各要素は完全な13C−MRスペクトルを含んでいる。13C−ピルビン酸塩及びその代謝産物である13C−乳酸塩は13C−MRスペクトル中で固有の位置を有しており、その共鳴周波数を用いてこれらを同定することができる。その共鳴周波数でのピークの積分値は、それぞれ13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩の量に直接関係している。13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩の量を、例えばL.Vanhamme et al.,J Magn Reson 129,35−43(1997)に記載されているように時間領域当てはめルーチンを用いて推定する場合には、13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩について画像を生成することができ、画像中ではカラーコード又はグレイコードで13C−ピルビン酸及び13C−乳酸塩の測定量が表される。
【0062】
分光イメージング法はあらゆる種類のMR核(例えば、1H、31P、23Na)を用いて代謝画像を生成する際に有用であることが判明しているが、分光画像を完全にエンコードするのに要する反復量のため、この方法は過分極13Cにはあまり適さない。全MRデータが取得されるまでの間、過分極13C信号が確実に入手できるよう注意を払わなければならない。これは、信号対雑音比の低下を代償として、すべての位相エンコードステップで適用されるRFパルス角を低下させることによって達成できる。マトリックスサイズを高めるには、位相エンコードステップを追加し、スキャン時間を延ばす必要がある。
【0063】
データ取得時にリードアウト勾配を適用する、P.C.Lauterbur (Nature,242,190−191(1973))及びP.Mansfield (J.Phys.C.6,L422−L426(1973))の先駆的研究に基づくイメージング法では、信号対雑音比の高い画像或いはSN比は同等で空間分解能の高い画像を得ることができる。しかし、これらのイメージング法はその基本形では、13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩に関する画像を別々に生成することはできない。即ち、特定の代謝産物の識別は可能でない。
【0064】
好ましい実施形態では、周波数情報をコードするためにマルチエコーを用いるイメージングシーケンスが使用される。水及び脂肪の1H−画像を別々に生成できるシーケンスは、例えば、G.Glover,J Magn Reson Imaging 1991;1:521−530及びS.B.Reeder et al., MRM 51 35−45(2004)に記載されている。検出すべき代謝産物、したがってそのMR周波数は知られているので、上記の参考文献に記載されたアプローチを適用すれば、13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩の直接画像を取得することができる。この方法では、過分極13C−MR信号を効率的に利用でき、分光イメージングに比べて良質な信号品質、高い空間分解能及び速い取得時間が得られる。
【0065】
好ましい実施形態では、本発明に係る方法は、過分極13C−ピルビン酸塩を含むイメージング剤を予め投与したヒト又はヒト以外の動物の身体から、或いはイメージング剤を添加した細胞培養物又はエクスビボ組織から、13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩の直接13C−MR画像又はスペクトルを取得することを含んでいる。記載の方法では、細胞死は、13C−乳酸塩からの13C信号強度の低下又は13C−乳酸塩からの信号の欠如或いは13C−乳酸塩の生成速度の減少によって確認されかつ検出される。
【0066】
ピルビン酸塩信号を補正するため、乳酸塩画像及びピルビン酸画像の両方を各々の個別画像中の最大値に対して正規化する。次に、正規化した乳酸塩画像に、反転ピルビン酸塩画像(例えば、画像中の最大ピルビン酸信号から各ピクセルについてのピルビン酸レベルを差し引いたもの)を乗じる。最後の段階として、上記の操作で得た中間結果に元の乳酸塩画像を乗じる。別法として、それぞれの画像の各ピクセルにおけるピルビン酸塩及び乳酸塩ピーク強度をピルビン酸塩と乳酸塩との間における13C標識の流れの動力学的モデルに当てはめることで、標識の流れに関する速度定数及びスピン格子緩和時間を得ることができる。分極の損失に対する多重RFパルスの効果についても補正が必要となる場合がある。
【0067】
本方法がインビボでの細胞死の検出のために使用されるならば、本発明の方法に従う細胞死の検出に解剖学的及び/又は灌流情報を含めることができる。解剖学的情報は、例えば、適当な造影剤を使用し又は使用せずにプロトン又は13C−MR画像を取得することで得ることができる。相対的灌流は、例えばOmniscan(商標)のようなMR造影剤を使用することで求めることができる。同様に、造影剤を投与せずに灌流を測定するMRイメージング技法も当技術分野で公知である。好ましい実施形態では、非代謝過分極13C−造影剤を用いて定量的灌流が求められる。好適な技法及び造影剤は、例えば国際公開第02/23209号に記載されている。さらに好ましい実施形態では、過分極13C−ピルビン酸塩を用いて定量的灌流が求められる。
【0068】
別の好ましい実施形態では、過分極13C−ピルビン酸塩を含むイメージング剤を繰り返し投与することで動的研究が可能になる。ピルビン酸塩の低毒性及びそれの好適な安全性プロフィルのため、この化合物の反復投与は患者によって十分に容認される。
【0069】
本発明の方法で得られた結果により、例えば、医師は検査中の患者にとって適切な治療を選択できる。さらに別の好ましい実施形態では、本発明の方法は治療の成否を判定するために使用される。
【0070】
さらに別の態様から見れば、本発明は、細胞死を検出するために13C−MRイメージング及び/又は13C−MR分光法を実施する方法で使用するためのイメージング剤の製造における過分極13C−ピルビン酸塩及び任意の乳酸塩の使用を提供する。好ましくは、イメージング剤の製造のために使用する過分極13C−ピルビン酸塩は、13C−ピルビン酸又は13C−ピルビン酸塩の動的核分極によって得られる。
【0071】
13C−ピルビン酸又は13C−ピルビン酸塩からの過分極13C−ピルビン酸塩の製造及びその好ましい実施形態、並びに過分極13C及び任意の乳酸塩を含むイメージング剤の製造は、本明細書の7〜11頁に詳述されている。
【0072】
好ましい実施形態では、本発明は、細胞死を検出するために13C−MRイメージング及び/又は13C−MR分光法を実施する方法で使用するためのイメージング剤の製造における過分極13C−ピルビン酸塩及び任意の乳酸塩の使用であって、イメージング剤を予め投与したヒト又はヒト以外の動物の身体から、或いはイメージング剤を添加した細胞培養物又はエクスビボ組織から13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩の直接13C画像及び/又は13Cスペクトルを取得することで細胞死が検出される使用を提供する。
【0073】
上述した使用及びこのような使用の好ましい実施形態は、本明細書の12〜16頁に詳述されている。
【0074】
図面の簡単な説明
図1は、エトポシドで処理したEL4細胞懸濁液及び未処理EL4細胞懸濁液中における131−ピルビン酸塩及び131−乳酸塩のピーク強度を時間に対して示している。
【0075】
図1中の曲線の番号は下記のものを意味する。
1:未処理対照細胞懸濁液及びエトポシド処理細胞懸濁液における131−ピルビン酸塩強度(100で割った値)。
2:対照細胞懸濁液における131−乳酸塩強度。
3:エトポシド処理細胞懸濁液における131−乳酸塩強度。
【0076】
図2は、EL4細胞に対するエトポシド処理及びエトポシド/ニコチンアミド処理の効果を細胞死誘発薬物エトポシドに対して示している。図2中の棒グラフは、3回の実験±標準偏差を表している。
【0077】
図2中の棒の番号は下記のものを意味する。
1:未処理EL4細胞懸濁液。
2:エトポシド処理EL4細胞懸濁液。
3:エトポシド/ニコチンアミド処理EL4細胞懸濁液。
【0078】
図3Aは、0.2mlの75mM過分極131−ピルビン酸塩の静脈内注射後における、予めエトポシド処理した腫瘍の厚さ5mmのスライスからの13C−MRスペクトルの代表的系列を示している。171ppmでの共鳴は131−ピルビン酸塩からのものであり、183ppmでの共鳴は131−乳酸塩からのものである。
【0079】
図3Bは、0.2mlの75mM過分極131−ピルビン酸塩の静脈内注射後における腫瘍の131−ピルビン酸塩(黒丸)及び131−乳酸塩(白丸)ピーク強度を示している。実線は二部位交換モデルへの当てはめ結果を示している。
【0080】
図3Cは、未処理腫瘍(白丸)及びエトポシド処理腫瘍(黒丸)を有するマウスに関し、0.2mlの75mM過分極131−ピルビン酸塩の静脈内注射後における131−乳酸塩/131−ピルビン酸塩ピーク強度比を示している。陰影領域は、平均(両動物群についてn=8)からの1×SDを表している。20〜25秒間の黒棒は、13C−分光MRイメージングを実施した期間を示している。
【0081】
以下、ピルビン酸塩、13C−ピルビン酸塩及び131−ピルビン酸塩という用語は互換的に使用され、すべてが131−ピルビン酸塩を意味する。同様に、ピルビン酸、13C−ピルビン酸及び131−ピルビン酸という用語は互換的に使用され、すべてが131−ピルビン酸を意味する。さらに、乳酸塩、13C−乳酸塩及び131−乳酸塩という用語は互換的に使用され、特記しない限りはすべてが131−乳酸塩を意味する。
【実施例1】
【0082】
実施例1:DNP剤であるトリス(8−カルボキシ−2,2,6,6−テトラ(メトキシエチル)ベンゾ[1,2−4,5′]ビス−(1,3)ジチオール−4−イル)メチルナトリウム塩の合成
国際公開第98/39277号の実施例7に従って合成したトリス(8−カルボキシ−2,2,6,6−テトラ(ヒドロキシエチル)ベンゾ[1,2−4,5′]ビス−(1,3)ジチオール−4−イル)メチルナトリウム塩10g(70mmol)をアルゴン雰囲気下で280mlのジメチルアセトアミド中に懸濁した。水素化ナトリウム(2.75g)、次いでヨウ化メチル(5.2ml)を添加し、わずかに発熱性の反応を34℃の水浴中で1時間(60分間)進行させた。水素化ナトリウム及びヨウ化メチルの添加は、それぞれ同量の化合物を用いて2回繰り返した。最後の添加後、混合物を室温で68時間撹拌し、次いで500mlの水中に注ぎ込んだ。40mlの1M NaOH(水溶液)を用いてpHをpH>13に調整し、混合物を周囲温度で15時間撹拌することで生成したメチルエステルを加水分解した。次に、50mlの2M HCl(水溶液)を用いて混合物を約2のpHに酸性化し、酢酸エチル(500ml及び2×200ml)で3回抽出した。合わせた有機相をNa2SO4上で乾燥し、次いで蒸発乾固させた。アセトニトリル/水を溶離剤として用いる分取HPLCによって粗生成物(24g)を精製した。集めた画分を蒸発させてアセトニトリルを除去した。残った水相を酢酸エチルで抽出し、有機相をNa2SO4上で乾燥し、次いで蒸発乾固させた。水(200ml)を残留物に添加し、0.1M NaOH(水溶液)を用いてpHを注意深く7に調整したが、この過程中に残留物は徐々に溶解した。中和後、水溶液を凍結乾燥した。
【実施例2】
【0083】
実施例2:131−ピルビン酸及び実施例1のDNP剤(トリチルラジカル)を用いるDNP法によって得られる過分極131−ピルビン酸塩を含む組成物の製造
実施例1のラジカル5.0mgを131−ピルビン酸(164μl)に溶解することで20mM溶液を調製した。試料を均質になるまで混合し、溶液のアリコート(41mg)を試料カップに入れ、DNP分極装置内に挿入した。
【0084】
DNP条件下、3.35Tの磁場中において1.2Kでマイクロ波(93.950GHz)を照射して試料を分極させた。2時間後、分極を停止し、国際公開第02/37132号に係わる溶解装置を用いて試料を水酸化ナトリウム及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)の水溶液に溶解することで過分極131−ピルビン酸ナトリウムの中性溶液を得た。溶解試料を13C−NMRで迅速に分析して分極を評価したところ、19.0%の13C−分極が得られた。
【実施例3】
【0085】
実施例3:13C−ピルビン酸及び実施例1のDNP剤(トリチルラジカル)を用いるDNP法によって得られる過分極131−ピルビン酸塩を含む組成物の製造
実施例1のラジカル(209.1mg)を131−ピルビン酸(553mg)と未標識ピルビン酸(10.505g)の混合物に溶解することで15mM溶液を調製した。試料を均質になるまで混合し、溶液のアリコート(2.015g)を試料カップに入れ、DNP分極装置内に挿入した。
【0086】
DNP条件下、3.35Tの磁場中において1.2Kでマイクロ波(93.950GHz)を照射して試料を分極させた。4時間後、分極を停止し、国際公開第02/37132号に係わる溶解装置を用いて試料を水酸化ナトリウム及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)の水溶液に溶解することで、100mM TRIS緩衝液中に0.5Mの総ピルビン酸塩濃度を有する過分極131−ピルビン酸ナトリウムの中性溶液を得た。溶解装置と直列にクロマトグラフィーカラムを連結した。カラムは、Varian社によって供給される疎水性充填材(Bondesil−C18、40UM部品#:12213012)を含むカートリッジ(D=38mm、h=10mm)からなっていた。溶解試料をカラムに強制的に通すことで、カラムはラジカルを選択的に吸着した。濾過溶液を13C−NMRで迅速に分析して分極を評価したところ、16.5%の13C−分極が得られた。続いてUV分光光度計を用いて残留ラジカル濃度を分析したところ、0.1μMの検出限界未満であることがわかった。
【実施例4】
【0087】
実施例4:131−ピルビン酸及びDNP剤としてのトリス(8−カルボキシ−2,2,6,6−テトラ(ヒドロキシエトキシ)メチル−ベンゾ[1,2−d:4,5−d′]ビス−(1,3)ジチオール−4−イル)メチルナトリウム塩を用いるDNP法による過分極131−ピルビン酸塩の製造
国際公開第97/09633号の実施例7に記載されたようにしてトリス(8−カルボキシ−2,2,6,6−テトラ(ヒドロキシエトキシ)メチル−ベンゾ[1,2−d:4,5−d′]ビス−(1,3)ジチオール−4−イル)メチルナトリウム塩を合成した。試料を均質になるまで混合し、試料カップに入れ、DNP分極装置内に挿入した。DNP条件下、3.35Tの磁場中において1.2Kでマイクロ波(93.950GHz)を照射して試料を分極させた。Varian Inova−200 NMR分光計を用いて試料からの13C−NMR信号を取得した。熱平衡13C−NMR信号の測定値及び増強13C−NMR信号からDNPの増強を計算した。16%の13C−分極が得られた。
【実施例5】
【0088】
実施例5:過分極131−ピルビン酸塩及び非過分極非標識乳酸塩を含むイメージング剤の調製
実施例1のDNP剤(トリチルラジカル)を131−ピルビン酸(44mg、91%)に溶解することで15mM溶液を調製した。試料を均質になるまで混合し、溶液を試料カップに入れ、DNP分極装置内に挿入した。
【0089】
DNP条件下、3.35Tの磁場中において1.2Kでマイクロ波(94GHz及び100mW)を照射して試料を分極させた。分極に続いて固体状態NMRを実施した。90分の過分極後、試料を94mM NaOH、30mM NaCl、40mM HEPES及び50mg/リットルEDTAの水溶液6mlに溶解した。溶解試料のpHは7.4であり、最終131−ピルビン酸塩濃度は75mMであった。
【0090】
2mlの溶液を、18mgの乳酸リチウムを含む水500μlの溶液と混合することで、60mMの過分極131−ピルビン酸塩及び75mMの乳酸塩を含むイメージング剤を得た。
【実施例6】
【0091】
実施例6:細胞培養物中における細胞死の検出
6.1 EL4細胞の前処理
EL4マウスリンパ腫細胞(108細胞)を、16時間の暴露後に細胞死を誘発することが知られている化合物である15μMのエトポシド(PCH Pharmachemie BV、ハルレエム)で処理した。別の細胞集合を、15μMのエトポシド及び20mMのニコチンアミド(公知のPARP阻害剤)で16時間処理した。細胞死(アポトーシス及び壊死)はアクリジンオレンジ及びヨウ化プロピジウム染色によって確認した。10%FCSを含む37℃のRPMI1640増殖培地で細胞を3回洗浄し、エトポシド処理及びエトポシド/ニコチンアミド処理EL4細胞懸濁液2mlに、実施例5に係るイメージング剤2mlを添加した。かくして、最終細胞懸濁液は30mMの過分極131−ピルビン酸塩及び37.5mMの乳酸塩を含んでいた。
【0092】
6.2 EL4細胞の13C−MR分光法
6.1に記載したようなエトポシド処理EL4細胞懸濁液中の13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩からの13C−信号強度を、イメージング剤の添加時刻から240秒の期間にわたって追跡した。9.4Tで低フリップ角パルスを用いて毎秒1つの13Cスペクトルを取得し、全部で240のスペクトルを得た。エトポシドで処理しない(未処理)EL4リンパ腫細胞の対照品も上記に略述したようにして検査し、未処理及びエトポシド処理EL4細胞からの13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩のピーク強度をグラフ上にプロットした(図1)。
【0093】
6.3 EL4細胞の13C−MR分光法
6.1に記載したようなエトポシド処理及びエトポシド/ニコチンアミド処理EL4細胞懸濁液中の13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩からの13C−信号強度を、イメージング剤の添加時刻から240秒の期間にわたって追跡した。9.4Tで低フリップ角パルスを用いて毎秒1つの13Cスペクトルを取得し、全部で240のスペクトルを得た。エトポシドで処理しない(未処理)EL4リンパ腫細胞の対照品も上記に略述したようにして検査し、未処理、エトポシド処理及びエトポシド/ニコチンアミド処理EL4細胞からの13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩のピーク強度を比較した。修正ブロッホ式に基づく二部位交換モデルにデータを当てはめ、順方向及び逆方向交換13Cの流れに関する速度定数を求めた。図2中の棒グラフは、3回の実験±標準偏差を表している。
【実施例7】
【0094】
実施例7:過分極131−ピルビン酸塩を含むイメージング剤の調製
実施例1のDNP剤(トリチルラジカル)を131−ピルビン酸(44mg、91%)に溶解することで15mM溶液を調製した。試料を均質になるまで混合し、溶液を試料カップに入れ、DNP分極装置内に挿入した。
【0095】
DNP条件下、3.35Tの磁場中において1.2Kでマイクロ波(94GHz及び100mW)を照射して試料を分極させた。分極に続いて固体状態NMRを実施した。90分の過分極後、試料を94mM NaOH、30mM NaCl、40mM HEPES及び50mg/リットルEDTAの水溶液6mlに溶解した。溶解試料のpHは7.4であり、最終131−ピルビン酸塩濃度は75mMであった。
【実施例8】
【0096】
実施例8:インビボにおける細胞死の検出
EL4細胞の皮下埋込みにより、マウスにおいてリンパ腫腫瘍を形成した。マウスを67mg/kgのエトポシドの腹腔内注射で処理した。エトポシド処理後の腫瘍細胞死を組織学的に評価した。エトポシド処理しないマウスを対照として使用した。
【0097】
実施例7の過分極131−ピルビン酸塩(0.2ml)の静脈内注射は、腫瘍中の13C−ピルビン酸塩及び乳酸塩からの容易に測定可能な信号を生じた(図3A)。注射の開始後12秒から始め、スペクトルを2分間にわたって2秒ごとに収集した。肝臓を通過した後の、下方の筋肉のイメージングスライス及び腫瘍上方のスライスからの測定結果は、エトポシド処理及び未処理動物においてピルビン酸塩からの信号を示したが、乳酸塩からの信号はほんのわずかであった。乳酸塩及びピルビン酸塩からの腫瘍信号の時間依存性変化を交換モデルに当てはめることで、見掛けの速度定数及びスピン格子緩和時間を得た(図3B)。最初の10〜15秒のデータ取得時間は、注射を完了しかつ動物を含む13C−表面コイルプローブアセンブリをイメージング磁石内に挿入するのに要した時間であるために失われた。
【0098】
エトポシドによるEL4腫瘍担持動物の処理は、薬物処理から24時間後に、対照群における4.8±0.7%に比べて37.0±3.8%の細胞死を生じた(n=3、P<0.01)。(マルチスライス1Hスピンエコー画像で測定して)未処理腫瘍の1.6±0.4cm3(n=8)から処理腫瘍の1.3±0.2cm3(n=8)へと、腫瘍体積がわずかに減少した。エトポシド処理は、過分極13C−ピルビン酸塩の注射後に測定して、速度定数Kpappの約25%の減少を生じた。速度定数は、対照腫瘍で0.075±0.011s-1であり、エトポシド処理腫瘍で0.056±0.005s-1であった(n=8、P<0.01)。速度定数の差は、腫瘍へのピルビン酸塩送達の差で説明することはできない。なぜなら、凍結クランプ腫瘍の過塩素酸抽出物に関する1H NMR測定で求めたピルビン酸塩濃度は、対照腫瘍で0.55±0.19μmol/g湿量(n=8)であり、エトポシド処理腫瘍で0.75±0.48μmol/g湿量(n=8)であったからである。ピルビン酸塩と乳酸塩との間における13C標識の流れの減少は標識乳酸塩/ピルビン酸塩比のプロット(図3C)から容易に認めることができ、このプロットは2つの動物群のほぼ完全な分離を示していた。データは、エトポシドによる動物の処理から20時間後に収集した。40秒後におけるSDの増加は、分極の喪失から生じた乳酸塩及びピルビン酸塩共鳴に関する信号/ノイズのの減少を反映している。計算された平衡乳酸塩/ピルビン酸塩比(即ち、濃度比に相当するL∞/P∞)は、対照腫瘍での4.0±0.8(n=8)からエトポシド処理腫瘍での2.7±0.4(n=8)への減少(P<0.005)を示した。同様な減少は、凍結クランプ腫瘍の過塩素酸抽出物に関する1H NMR測定で求めた乳酸塩/ピルビン酸塩比でも認められ、この場合には比は9.5±3.5(n=8)から5.1±2.0(n=8)に減少した(P<0.01)。これらの抽出物は、MR実験の完了直後に調製した。ピルビン酸塩を注射しなかった動物におけるエトポシド処理腫瘍及び未処理腫瘍中の乳酸塩濃度は、それぞれ3.6±0.2μmol/g湿量及び3.6±0.6μmol/g湿量(n=3)であった。これらの値は、ピルビン酸塩を注射した動物における対応値(即ち、それぞれ3.2±1.3μmol/g湿量及び5.0±1.9μmol/g湿量(n=8))に対して統計的有意差を示さなかった。凍結クランプ腫瘍から調製したタンパク質抽出物に関する酵素活性測定は、未処理腫瘍(n=5)での350±200単位/g湿量から薬物処理腫瘍(n=3)での100±20単位/g湿量へのLDH濃度減少(P<0.05)を示した。
【0099】
別の系列の実験では、イメージングから24時間後に動物をエトポシド処理し、エトポシド処理から24時間後に第2の画像セットを取得した。かくして、各動物をそれ自身の対照として使用することができた。しかし、他の実験と同じく、群中での変動はほとんど存在せず、群としての結果を示す。速度定数は、処理前には0.065±0.017s-1であり、処理後には0.040±0.012s-1であり(n=4、P<0.01)、39%の流れ減少を表していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞死を検出するために13C−MRイメージング及び/又は13C−MR分光法を実施する方法であって、過分極13C−ピルビン酸塩を含むイメージング剤を使用する方法。
【請求項2】
イメージング剤をヒト又はヒト以外の動物の身体に投与し、前記ヒト又はヒト以外の動物の体内における細胞死を検出するために前記13C−MRイメージング及び/又は13C−MR分光法を実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
イメージング剤を細胞培養物又はエクスビボ組織に添加し、前記細胞培養物又はエクスビボ組織中における細胞死を検出するために前記13C−MRイメージング及び/又は13C−MR分光法を実施する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
13C−ピルビン酸塩及びその代謝産物である13C−乳酸塩からの13C−信号強度を経時的に追跡する、請求項1ないし請求項3記載の方法。
【請求項5】
13C−ピルビン酸塩及び13C−乳酸塩からの13C−信号強度を、イメージング剤の投与/添加の時点から約10分後、好ましくは約6分後、さらに好ましくは約5分後まで追跡する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
細胞死が、13C−乳酸塩からの13C−信号強度の低下又は13C−乳酸塩からの13C−信号の欠如或いは13C−乳酸塩の生成速度の低下によって検出される、請求項1ないし請求項5記載の方法。
【請求項7】
イメージング剤がさらに乳酸塩を含む、請求項1ないし請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記イメージング剤の投与/添加に先立ち、前記ヒト又はヒト以外の動物の身体に乳酸塩が投与される、請求項2及び請求項4ないし請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記イメージング剤の添加に先立ち、前記細胞培養物又はエクスビボ組織に乳酸塩が添加される、請求項3ないし請求項6記載の方法。
【請求項10】
過分極13C−ピルビン酸塩が13C−ピルビン酸又は13C−ピルビン酸塩の動的核分極によって得られる、請求項1ないし請求項9記載の方法。
【請求項11】
細胞死を検出するために13C−MRイメージング及び/又は13C−MR分光法を実施する方法で使用するためのイメージング剤の製造における、過分極13C−ピルビン酸塩及び任意の乳酸塩の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【公表番号】特表2010−501482(P2010−501482A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524573(P2009−524573)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【国際出願番号】PCT/NO2007/000286
【国際公開番号】WO2008/020764
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(396019387)ジーイー・ヘルスケア・アクスイェ・セルスカプ (82)
【Fターム(参考)】