説明

細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物、及び、その作製方法

【課題】本発明は、主に、新規な細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで形質転換された、細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物、並びに、これを作製する方法を提供する。本発明は、さらに、細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を用いて、細胞毒性物質汚染土壌を浄化する方法を提供する。本発明は、また、細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を作製するためのキットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物、及び、その作製方法に関する。本発明は、更に、細胞毒性物質耐性植物を用いて、細胞毒性物質汚染土壌を浄化する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
細胞毒性物質として、発ガン性、神経毒性、内分泌かく乱作用、炎症作用、抗生物性(抗菌性)等の作用を示す様々な物質が知られている。例えば、農薬(例えば、残留性の高分子量多環芳香族炭化水素(HMW−PAH)、アトラジン)、実験系試薬や産業廃棄物(例えば、ローダミン、エチジウムブロマイド、ピリジン、フェノール)、ダイオキシン等が知られている。また、天然の植物中に含まれるアルカロイドにも細胞毒性を示すものがあり、例えば、ベルベリン、ニコチン等がこれに該当する。また、医薬として使用されている物質の中にも細胞毒性を有するもの(例えば、フルフェナジン)が存在する。
【0003】
細胞毒性物質は、様々な機構で生物に細胞毒性を引き起こす。例えば、4−ニトロキノリン−1−オキサイドは、代表的なガン原性化合物であり、DNAに損傷を与える、あるいは複製転写を阻害すると考えられている。エチジウムブロマイドは、DNA複製転写阻害、変異原性による細胞毒性をもたらす。ベルベリンは、DNA合成阻害、タンパク質合成阻害による細胞毒性をもたらす。ニコチンは、神経節のアセチルコリンレセプターに結合し、最初に興奮、次いで神経節の遮断を行う神経毒として知られている。農薬であるアトラジンは、内分泌かく乱物質であり、変異原性、ガン原性を有する。HMW−PAHは、変異原性、ガン原性を有する。極めて強い反応性を持ち、近くのDNAと反応してこれを傷つける。DNAを破壊された細胞は、異常な増殖を始め、やがてガン細胞に変化していく。フルフェナジンは、用量力価が強いフェノチアジン系の抗精神病薬として知られており、その作用機序はまだ完全に明らかでないが、中枢神経系におけるドーパミンの遮断作用、ノルエピネフリン作動性神経等に対する抑制作用が考えられる。ローダミンは、内分泌撹乱物質として作用する。
【0004】
細胞毒性物質は、農薬の散布、工業排水のたれ流し、燃料の燃焼、都市ガスやコールタールの製造、廃棄物焼却、工場跡地など化学物質取扱所跡地等の経路を経て環境中に残留し、生物に悪影響をもたらす。例えば、農薬には、芳香族化合物、脂環式化合物、複素環式化合物などの環状構造を有する化合物が多く存在する。このような環状構造を有する化合物は、水溶性が低く、土壌粒子への吸着性が高いため、土壌に長期間残留する傾向が強い。特に、高分子量多環芳香族炭化水素(HMW−PAH)は残留性が高い。
【0005】
土壌中に含まれる細胞毒性物質を除去する一つの方法として、細胞毒性物質に対して高い分解能力をもつ生物種(多くの場合、バクテリア)を利用する方法、即ち、バイオリメディエーション(bioremediation)が知られている。しかし、実際の汚染土壌中でバイオリメディエーションを行っても、細胞毒性物質が十分に除去されないことが多く、また、生物種が小さい場合には、その回収が困難であるため外来種の異常繁殖を引き起こす可能性がある。
【0006】
細胞毒性物質を除去する別の方法として、界面活性剤を汚染土壌に添加する方法がある。実際、界面活性剤の添加により、微生物による土壌中の細胞毒性物質の分解効率が向上することが報告されている。しかし、界面活性剤の回収が困難であるため、界面活性剤による環境の二次汚染がもたらされる。この他に、バイオサーファクタント(biosurfactant)の使用も検討されているが費用面で困難が大きい。
【0007】
別の方法として、植物を利用して浄化する方法(ファイトリメディエーション:phytoremediation)が知られている。ファイトリメディエーションは、重金属を蓄積する植物を利用して浄化する方法として、1995年にSaltらによって提案された。バイオリメディエーションの実用化が進んでいる米国では、ファイトリメディエーションの市場が既に存在し、1999年の推定市場規模は3000〜4900万ドルとなっている(非特許文献1)。
【0008】
ファイトリメディエーションに利用可能な植物を作製する方法として、汚染物質に対する耐性を高める機能を有するタンパク質をコードする遺伝子で植物を形質転換し、植物の汚染物質に対する耐性を高める方法が知られている。
【0009】
例えば、戦争地域等においては爆発性化合物であるトリニトロトルエン等による汚染が報告されているが、バクテリアのNADPH依存性ニトロレダクターゼ導入タバコが、非組換え体の二倍のトリニトロトルエン分解活性を示し、耐性を高めることが報告された(非特許文献2)。
【0010】
さらに、植物において、複数の異なる種類の毒性物質に対する耐性(多剤耐性)を付与する酵素が報告されている。例えば、薬物等毒性物質の代謝に関与するP450酵素を導入したタバコやイネが、複数の異なる種類の農薬を代謝、分解することが示された(非特許文献3)。他にも、グルタチオン合成酵素が、様々な毒性化合物と結合して毒性を低下させることが報告されている。
【0011】
しかしながら、植物について今までに報告されている多剤耐性を付与するタンパク質は、すべて膜タンパク質であり、セリンプロテアーゼインヒビターのような可溶性タンパク質が多剤耐性を付与することは未だ報告されていない。
【0012】
一方、セリンプロテアーゼインヒビターの存在が報告されている。多くのセリンプロテアーゼインヒビターは、植物の種子に高発現し、外来生物由来のトリプシンやキモトリプシンといったプロテアーゼの活性を阻害することにより、昆虫(非特許文献4)、真菌(非特許文献5)、あるいは土壌細菌(非特許文献6)に対する防御応答に関与するといった特徴を持つ。
【0013】
代表的には、ボウマン・バークセリンプロテアーゼインヒビター(Bowman−Birk serine protease inhibitor:BBI)、クニッツインヒビター(Kunitz inhibitor)等が知られている。BBIは、本来のセリンプロテアーゼインヒビターとしての機能の他、ウイルス抵抗性、病原菌や昆虫による食害への防御、含硫アミノ酸の貯蔵等の機能を有することが知られている。BBIは可溶性タンパク質と考えられる。また、BBIには14個のシステイン残基が保存されており、それらがジスルフィド結合をして計7個のループを形成している。このループがトリプシン等のプロテアーゼの活性を阻害するために必要であると報告されている。クニッツインヒビターは、セリンプロテアーゼインヒビターとしての機能が報告されている。
【0014】
しかしながら、セリンプロテアーゼインヒビターが細胞毒性物質に対する耐性を高める機能を有するとの報告はなされていない。
【非特許文献1】日経バイオビジネス2001年9月号
【非特許文献2】C.E. French et al.: Nature Biotechnol., 17, 491 (1999)
【非特許文献3】H. Inui et al.:J. Pesticide Sci., 26, 28 (2001)
【非特許文献4】Journal of Biotechnology,April 2001, Vol.4 No.1 pp.46−51
【非特許文献5】Plant Physiology, October 2003, Vol.133, pp.560−570
【非特許文献6】Plant Molecular Biology, March 1995, 27(5), pp.995−1001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、主に、新規な細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで形質転換された植物細胞又は植物が、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで形質転換されていない植物細胞又は植物と比べてより高い細胞毒性物質耐性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、以下の事項に関する。
〔項1〕
セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで形質転換された、細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
〔項2〕
前記セリンプロテアーゼインヒビターが可溶性タンパク質である、〔項1〕に記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
〔項3〕
前記セリンプロテアーゼインヒビターが、ボウマン・バークセリンプロテアーゼインヒビター(Bowman−Birk serine protease inhibitor)及びクニッツインヒビター(Kunitz inhibitor)からなる群より選択される少なくとも1種である、〔項1〕又は〔項2〕に記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
〔項4〕
前記ボウマン・バークセリンプロテアーゼインヒビターが、オウレン、コムギ、イネ、大豆、トウモロコシ、アルファルファ、及びピーナッツから成る群より選択される少なくとも1種に由来する、〔項3〕に記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
〔項5〕
前記セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドが、
(I)配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド、
(II)(I)のポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチド、
(III)(I)又は(II)のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、セリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、並びに
(IV)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドと15%以上の相同性を有し且つセリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、
から成る群より選択される少なくとも1種のポリヌクレオチドである、〔項1〕〜〔項4〕のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
〔項6〕
細胞毒性物質が、芳香族化合物、脂環式化合物、及び複素環式化合物から成る群より選択される少なくとも1種である、〔項1〕〜〔項5〕のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
〔項7〕
芳香族化合物、脂環式化合物、及び複素環式化合物から成る群より選択される少なくとも1種が、窒素、臭素及び塩素からなる群より選択される少なくとも1種を含有している、〔項6〕に記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
〔項8〕
細胞毒性物質が、フルフェナジン、ローダミン、4−ニトロキノリン−1−オキサイド、エチジウムブロマイド、ニコチン及びベルベリンから成る群より選択される少なくとも1種である、〔項1〕〜〔項7〕のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
〔項9〕
植物が、樹木、木本及び草本から成る群より選択される少なくとも1種である、〔項1〕〜〔項8〕のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物。
〔項10〕
紙、繊維、樹脂、ゴム、又は油脂の原料として使用される、〔項1〕〜〔項9〕のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物。
〔項11〕
(1)〔項1〕〜〔項10〕のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物を細胞毒性物質汚染土壌で栽培する工程、及び、
(2)工程(1)で栽培した細胞毒性物質耐性植物の全体又は一部を回収する工程、
を包含する、細胞毒性物質汚染土壌の浄化方法。
〔項12〕
セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで植物細胞を形質転換する工程、
を包含する、〔項1〕〜〔項10〕に記載のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を作製する方法。
〔項13〕
セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドを含む植物細胞用発現プラスミド、
を備える、〔項1〕〜〔項10〕に記載のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を作製するための、キット。
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0019】
本発明の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物は、基本的に、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで宿主となる植物細胞を形質転換することにより得られる。
【0020】
セリンプロテアーゼインヒビターとしては、セリンプロテアーゼの活性を阻害する機能を有するポリペプチドであれば特に限定されないが、代表的には、ボウマン・バークセリンプロテアーゼインヒビター(Bowman−Birk serine protease inhibitor:BBI)、クニッツインヒビター(Kunitz inhibitor)が挙げられ、特に、BBIを好適に用いることができる。BBI及びクニッツインヒビターは、いずれも抗癌作用・抗炎症作用に関与していることが知られている。
【0021】
セリンプロテアーゼインヒビターは、セリンプロテアーゼインヒビター活性を有する限りにおいて1又はそれ以上のアミノ酸が置換、付加、又は欠失された改変セリンプロテアーゼインヒビターであってもよい。
【0022】
セリンプロテアーゼインヒビターのアミノ酸配列は、多くの場合、生物種間で15%〜50%程度の相同性を有し、セリンプロテアーゼインヒビターの活性に必要とされる部分は、より高度に保存されている。BBIのアミノ酸配列は、通常、生物種間で20%〜60%程度の相同性を有し、1個目のシステインから14個目のシステインまでのシステインリッチな領域(図2、下線部)は、生物種間で50%〜60%程度の相同性を有し、14個のシステインは60%〜70%程度の相同性を有する。
【0023】
本発明のセリンプロテアーゼインヒビターには、セリンプロテアーゼインヒビターとして同定されているもののみならず、セリンプロテアーゼに対する阻害作用を有し且つ同定されているセリンプロテアーゼインヒビターとアミノ酸レベルで一定以上の相同性(例えば、約10%以上、好ましくは約15%以上、さらに好ましくは約30%以上、さらに好ましくは約40%以上、さらに好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上である、(或いは、保存領域においては、例えば、約15%以上、好ましくは約20%以上、より好ましくは約40%以上、さらにより好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上である))を示すポリペプチドが含まれる。
【0024】
セリンプロテアーゼインヒビターが細胞毒性物質のアミノ基、カルボニル基等と相互作用することにより結合し、細胞毒性物質を包み込むようなコンフォメーションをとり、毒性を発揮できなくしている可能性が考えられる。
【0025】
セリンプロテアーゼインヒビターが、細胞毒性物質により生じるプロテアーゼの活性を阻害することにより細胞を賦活化し、細胞のダメージを低下させている可能性も考えられる。
【0026】
本発明の1つの好ましい実施形態において、セリンプロテアーゼインヒビターは、可溶性である。可溶性タンパク質は、膜タンパク質と異なり、細胞内での移動が制限されないため、細胞内の細胞毒性物質を効率的に無毒化することができると考えられる。
【0027】
セリンプロテアーゼインヒビターの由来は、特に限定されず、あらゆる植物(酵母を含む)種、微生物種、動物種が含まれる。セリンプロテアーゼインヒビターの由来は、宿主の生物種と同一であってもよいし異なっていてもよいが、タンパク質発現量やセリンプロテアーゼ阻害作用等の観点から、宿主の生物種の近縁種であることが好ましい。宿主が植物細胞である場合、セリンプロテアーゼインヒビターの由来は、好ましくは、植物(酵母を含む)又は微生物である。
【0028】
セリンプロテアーゼインヒビターがBBIである場合、BBIの由来としては、例えば、オウレン、コムギ、イネ、大豆、トウモロコシ、アルファルファ、及びピーナッツから成る群より選択される少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、オウレン、イネ、大豆が挙げられる。
【0029】
セリンプロテアーゼインヒビターがクニッツインヒビターである場合、クニッツインヒビターの由来としては、例えば、大豆、ポプラ、ジャガイモ、サツマイモ及びそら豆から成る群より選択される少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、大豆、ポプラが挙げられる。
【0030】
本発明におけるセリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドとしては、
(I0)セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチド、
(II0)(I0)のポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチド、
(III0)(I0)又は(II0)のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、セリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、並びに、
(IV0)セリンプロテアーゼインヒビターのポリペプチドと約10%以上、好ましくは約15%以上、より好ましくは約30%以上、さらにより好ましくは約40%以上、さらに好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上である(或いは、保存領域において、例えば、約15%以上、好ましくは約20%以上、より好ましくは約40%以上、さらにより好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上である)の相同性を有し且つセリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、
からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0031】
セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドは、前述のセリンプロテアーゼインヒビターに翻訳され得る限りにおいて、如何なるコドンが選択されてもよい。コドンの選択は、宿主におけるコドンの使用頻度等を考慮して行われ得る。
【0032】
本発明の1つの好ましい実施形態において、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドは、
(I)配列番号1又は3に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド、
(II)(I)のポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチド、
(III)(I)又は(II)のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、セリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、並びに
(IV)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドと約10%以上、好ましくは約15%以上、より好ましくは約30%以上、さらにより好ましくは約40%以上、さらに好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上である(或いは、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドと、例えば、約15%以上、好ましくは約20%以上、より好ましくは約40%以上、さらに好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上である)の相同性を有し且つセリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、
からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0033】
本発明の別の実施形態において、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドは、
(I’)Populus tremula又はArabidopsis thaliana由来のkunitz trypsin inhibitorの塩基配列を有するポリヌクレオチド、
(II’)(I’)のポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチド、
(III’)(I’)又は(II’)のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、セリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、並びに、
(IV’)Populus tremula又はArabidopsis thaliana由来のkunitz trypsin inhibitorのアミノ酸配列を有するポリペプチドと約20%以上、好ましくは約40%以上、より好ましくは約60%以上(或いは、保存領域において、例えば、約30%以上、好ましくは約50%以上、より好ましくは約70%以上)の相同性を有し且つセリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、
からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0034】
ここで、Populus tremula由来のkunitz trypsin inhibitorのアミノ酸配列は、NCBI ACCESSION:CAI77898、塩基配列は、AJ937139より入手可能である。また、Arabidopsis thaliana由来のkunitz trypsin inhibitorのアミノ酸配列は、NCBI ACCESSION:NP_565062、塩基配列は、NM_105992より入手可能である。
【0035】
ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等の常法により得られ、例えば、検出対象となるポリヌクレオチドを含むライブラリーを固定化した支持体に、プローブ(例えば、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号1)又はその保存領域(例えば、配列番号3)と相補的なポリヌクレオチド)を作用させ、0.7〜1.0MのNaCl存在下において42℃にて2時間プレハイブリダイゼーションを行った後、0.7〜1.0MのNaCl存在下において42℃にて12〜16時間ハイブリダイゼーションを行い、その後0.1〜2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用いて42℃でフィルターを洗浄し、スクリーニングすることによって得ることができるポリヌクレオチドである。ハイブリダイゼーションの各操作は、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed.,(Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0036】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、通常、プローブとして使用するポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドと一定以上の相同性を有し、その相同性は、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。
【0037】
セリンプロテアーゼインヒビター活性の測定方法は、プロテアーゼのトリプシンとBBIを25℃30分試験管中で反応させた後、N−tosyl−L−arginine methyl ester (TAME)と反応させ、247nmの吸光を測定しトリプシンの活性を調べることにより行う(Na Li et al., Protein Expression and Purification 15, 99−104 (1999)による)。当業者であれば、上記方法又はこれに準ずる方法を用いてセリンプロテアーゼインヒビター活性を測定することができる。
【0038】
セリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドとは、前記のセリンプロテアーゼインヒビター活性の測定方法において、トリプシンの活性を阻害する結果を得たポリペプチドをいう。
【0039】
相同性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な遺伝子解析ツールを用いて算出することができる。遺伝子解析ツールにおける各プログラムやマトリックスは、ソフトによって異なるが、当業者であれば、所定の指示書又は説明に従って適当に設定することができる。また、ベクター配列、制限酵素認識部位、選択マーカー、標識タグ、クローニングやPCRに用いられる配列、プロモーター配列、ターミネーター配列等のセリンプロテアーゼインヒビターに由来しない配列を含まない形態で両配列の相同性を算出することが望ましいことは、当業者に容易に理解される。市販の遺伝子解析ツールとしては、例えば、Bioedit (http://www.mbio.ncsu.edu/BioEdit/bioedit.html)を用いることができる。また、インターネットを通じて利用可能なツールとしては、NCBI(National Center for Biotechnology Information のホームページで利用可能なBLAST 2 Sequences(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、Clustal W (http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)が例示される。例えば、BLAST 2 Sequencesを用いて2つのアミノ酸配列の相同性を算出する場合、プログラムをblastpに設定し、マトリックスをBLOSUM62に設定すればよい。
【0040】
セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドを得る方法としては、当業者に用いられている種々の方法を用いることができる。例えば、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドを慣例的なPCR法によって増幅することができる。
【0041】
通常のPCR法は、少なくとも、鋳型となり得るポリヌクレオチド、PCRバッファー、プライマーセット(フォワードプライマー及びリバースプライマー)、dNTP mixture(デオキシヌクレオシド三リン酸の混合物)、及びDNAポリメラーゼを含む一反応液中で、温度の上下のサイクルを繰り返すことによって実施され、フォワードプライマー及びリバースプライマーの間に挟まれた特定のポリヌクレオチドの増幅を可能にする。鋳型となり得るポリヌクレオチドとしては、セリンプロテアーゼインヒビターの由来となる生物種から作製されたゲノムDNA、ゲノムライブラリー、cDNAライブラリー等を用いることができる。フォワードプライマー及びリバースプライマーは、例えば、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドの5’末端又はその周辺、及び、3’末端又はその周辺に位置する任意の約10〜30bpのヌクレオチド配列に基づき設計され得、自動合成等の常法により合成され得る。増幅させる配列が開始コドンを含んでいない場合、開始コドンをin−frameで含むようにフォワードプライマーを設計するか、後述の発現ベクターにin−frameで開始コドンを導入しておく。PCRバッファーは、使用するDNAポリメラーゼ等に応じて適宜選択され、市販品を好適に用いることができる。dNTP mixtureとしては、市販品を用いることができる。DNAポリメラーゼとしては、市販の耐熱性ポリメラーゼ、例えば、Pfu(Promega社製)、Taq(TOYOBO社製)、KOD(TOYOBO社製)、Vent(NEB社製)、ExTaq(TaKaRa社製)、PlatinumPfx(invitrogen社製)を用いることができる。PCR反応は、慣用的な手順に従うか又はDNAポリメラーゼの指示書に従って行うことができ、必要に応じて反応温度、反応時間、反応サイクル、反応組成等を変更してもよい。
【0042】
次に、通常、PCRによって増幅されたポリヌクレオチドを発現ベクターへ連結し、プラスミドを構築する。
【0043】
発現ベクターは、宿主において自律複製可能又は染色体中への組み込みが可能で、セリンプロテアーゼインヒビターを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられ得る。発現ベクターは、宿主となる特定の生物種においてセリンプロテアーゼインヒビターの発現を可能にするベクターであってもよいし、宿主となる特定の生物種を含む複数の生物種においてセリンプロテアーゼインヒビターの発現を可能にするベクターであってもよい。PCRによって増幅されたポリヌクレオチドの5’末端が、直接又は適当な配列(例えば、制限酵素認識部位)を介してin−frameでプロモーターの3’末端へ連結され得る。発現ベクターは、さらに、植物細胞用エンハンサー(例えば、El2エンハンサー等)、選択マーカー遺伝子、標識タグ等を含有してもよい。終止コドンは、必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に配置されることが好ましい。
【0044】
酵母用発現ベクターとしては、例えば、pYES、pYC、pYI、pYL、pDR196を好適に用いることができるが、これらに限定されない。高等植物用発現ベクターとしては、例えば、pBIHyg−HSE、pBI19、pBI101、pGV3850、pABH−Hm1を好適に用いることができるが、これらに限定されない。
【0045】
プロモーターとしては、宿主の細胞中でセリンプロテアーゼインヒビターの発現を促進するものであればいかなるものでもよい。酵母における高発現には、構成的発現プロモーターであるPMA1プロモーター、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、PGKプロモーター、PHO5プロモーター、GAPDHプロモーター等を用いることができるが、これらに限定されない。高等植物における高発現には、構成的発現プロモーターであるEl2プロモーター、CaMV35Sプロモーター、Cabプロモーター、RuBisCoプロモーター、PR1プロモーター、ユビキチンプロモーター等を用いることができる。また、セリンプロテアーゼインヒビターが生物の特定の器官でのみ発現するプロモーター(例えば、根部において高発現するプロモーター)が用いられてもよい。
【0046】
このように構築された発現プラスミドを宿主となる植物細胞に導入する。
【0047】
植物細胞には、酵母、高等植物、コケ等の細胞が含まれる。酵母は、単細胞の植物であり、高等植物と同様に、植物細胞としての基本機能が備わっている。
【0048】
酵母としては、例えば、Saccharomyces属(例えば、Saccharomyces cerevisiae)、Schizosaccharomyces属(例えば、Schizosaccharomyces pombe)、Pichia属(例えば、Pichia pastoris)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
高等植物としては、得られる細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物の用途、植物の適応能力、生育条件等に応じて適宜選択され、特に限定されないが、ナス科、アブラナ科、アオイ科、アカザ科、マメ科、ヒユ科、キク科、イネ科、ヤナギ科、モクレン科、ツゲ科、ミカン科又はユキノシタ科、セリ科、カヤツリグサ科、キンポウゲ科、ウリ科、バラ科、カキノキ科、ザクロ科、ブドウ科、ミカン科、モクセイ科、に属する植物が挙げられる。具体的には、タバコ(Nicotiana tabbacum)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ケナフ(Hibiscus cannabinus)、モミジアオイ(Hibiscus coccineus)、アメリカフヨウ(Hibiscus moscheutos)、ハマボウ(Hibiscus hamabo)、ブッソウゲ(Hibiscus rosa−sinensis)、カラシナ (Brassica juncea)、グンバイナズナ(Thlaspi rotundifolium)、オクラ(Abelmoschus esculentus)、トロロアオイ(Abelmoschus manihot)、ホウレンソウ(Spinacia oleracea)、フダンソウ(Beta vulgaris var. vulgaris)、サトウダイコン(Beta vulgaris var. rapa)、タヌキマメ(Crotalaria sessiliflora)、ガクタヌキマメ(Crotalaria calycina)、クロタラリア(Crotalaria juncea)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、カラスムギ(Avena fatua)、ナタネ(Brassica napus)ポプラ(Populus nigra)、ユリノキ(Liriodendron tulipifera)、ホンツゲ(Buxus microphylla)、ウンシュウミカン(Citrus unshiu)、レモン(Citrus lemon)、リンゴ(Malus)、モモ(Prunus)、ザクロ(Punica)、メロン(Cucumis)、ヘチマ(Luffa)、ブドウ(Vitis)、ミカン(Citrus)、ナス(Solanum)、アジサイ(Hydrangea macrophylla)、オウレン(Coptis japonica)が挙げられ、このうち好ましくは、タバコ、ケナフ、カラシナ、オクラ、タヌキマメ、ポプラ、ヤナギが挙げられ、特に好ましくは、タバコが挙げられる。
【0050】
本発明の1つの実施形態において、本発明の細胞毒性物質耐性植物を細胞毒性物質汚染土壌の浄化に用いる場合、細胞毒性物質汚染土壌の環境(温度、地形、湿度、栄養分等)、土壌中の細胞毒性物質の濃度及び分布状況、細胞毒性物質の浄化効率、植物の回収の容易さ等に応じて、植物の根部の形状、プラントマス、生育速度、生育条件の適性等が考慮され、適当な植物が選択され得る。例えば、細胞毒性物質の浄化効率の観点から、ひげ根、枝状根、根茎を形成し得る植物を好適に用いることができ、根部を含む植物全体を回収する場合、回収の容易さの観点から、ひげ根、枝状根、根茎を形成し得る植物を好適に用いることができる。土壌の表層部に存在している細胞毒性物質を取除く場合、比較的短い根部を形成する植物であってもよいが、土壌の深い部分に分布している細胞毒性物質を取除く場合、深くまで伸びる根部を形成する植物が好ましい。また、外来植物の繁殖の防止という観点から、遠方に飛ばされにくい種子を形成する植物であることが望ましい。播種及び回収の手間を軽減するには、多年生植物であることが望ましい。回収後の処理も考慮に入れ、プラントマスの大きな樹木が望ましい。プラントマスの大きい植物は、より大量の細胞毒性物質を取り込むことが可能であるため浄化能力が高い。また、木質バイオマスとして石油代替としての利用が可能である。
【0051】
本発明の1つの実施形態において、本発明の細胞毒性物質耐性植物を細胞毒性物質汚染水又は水環境の浄化に用いる場合、水生植物を選択すればよい。水生植物としては、特に限定されないが、ウキクサ、ホテイアオイ、アシ、アサザ、ヒシ、ヨシ等が挙げられる。
【0052】
本発明の1つの実施形態において、本発明の細胞毒性物質耐性植物を動物の食物として用いる場合、食用種を選択すればよい。食用種としては、例えば、穀類、野菜、豆類、果物、具体的には、トウモロコシ、アルファルファ、エンバク、ソルガム、オ−チャ−ドグラス、大豆が挙げられるが、これらに限定されない。動物の食物には、家畜飼料、ペットフード、果実も含まれる。
【0053】
また、紙、繊維、樹脂、ゴム、油脂等の工業原料となる成分を含有している植物も多数存在する。本発明の1つの実施形態において、本発明の細胞毒性物質耐性植物が含有する成分を工業原料として用いる場合、目的の成分を含有する植物種を選択すればよい。例えば、デンプンを工業原料として用いる場合、デンプンを多量に含有する生物種、例えば、イモ類(ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ等)、穀類(イネ、コムギ、トウモロコシ等)等を選択すればよい。また、例えば、セルロースを工業原料として用いる場合、セルロースを多量に含有する種、例えば、綿、樹木、藻類等を選択すればよい。
【0054】
植物細胞は、遺伝子において塩基が欠失、置換又は付加された細胞、セリンプロテアーゼインヒビター以外の遺伝子で形質転換された細胞、或いは、交雑により改変された植物種に由来する細胞であってもよい。このように改変された植物細胞を宿主として用いることにより、本発明の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物にとって更に有益な性質を付与することができる。例えば、用途に応じて、プラントマス、器官の形状、成長速度等が調節された、本発明の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を得ることができる。
【0055】
かかる植物細胞(宿主)に前述の発現プラスミドを導入する方法としては、常法、例えば、酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、又は、Gene,17,107(1982)、Molecular & General Genetics,168,111(1979)及びMolecular Cloning 2nd ed.(Sambrook,J., Fritsch,E.F., Maniatis,T. Cold Spring Harvor Laboratory Press 1989)、Plant
Molecular Biology Manual (Stanton B. Gelvin and Robert A. Schilperoort. Kluwer Academic Publishers 1988)等の文献(これらは、本書においてその全体が援用される)に記載の方法を用いることができる。
【0056】
次いで、通常、発現プラスミドの導入を確認し、実際に発現プラスミドが導入されている個体を選択する。発現プラスミドの導入の確認方法としては、常法(例えば、薬物含有培地による選択、ホルモン含有培地による選択、栄養要求性による選択)を用いることができる。さらに、ゲノムPCR、RT−PCR、ノザンハイブリダイゼーション、ウェスタン解析等の常法を用いて、導入を試みた生物に目的のポリヌクレオチドが導入されているか否か、或いは、発現しているか否かを確認することができる。
【0057】
このようにして、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで形質転換された植物細胞又は植物を得ることができる。
【0058】
形質転換とは、一般的に、ある細胞から単離したDNAが他の細胞に取り込まれ、細胞染色体と組換えを起こす遺伝現象をいうが(東京化学同人 生化学辞典 第2版、416ページ〜417ページ)、現在では、プラスミドやそれに結合した遺伝子なども含めてDNA分子を直接細胞に導入することを意味する(岩波 生物学辞典 第4版、380ページ〜381ページ)。本書において、形質転換とは、ある細胞に由来するDNAを、他の細胞に導入することを意味し、このとき、DNAが細胞染色体との組換えを起こしてもよいし、起こさなくてもよい。
【0059】
次いで、通常、セリンプロテアーゼインヒビターで形質転換した植物細胞又は植物について、細胞毒性物質耐性試験を行い、細胞毒性物質耐性を示す個体を同定する。
【0060】
細胞毒性物質耐性試験は、所定濃度の細胞毒性物質の存在下で形質転換植物細胞又は植物を生育させ、その生育能を観察することにより行うことができる。細胞毒性物質耐性試験を行う際の細胞毒性物質の適当な濃度は、細胞毒性物質の種類や植物の種類に依存して異なる。例えば、細胞毒性物質が、フルフェナジンの場合、通常約150〜250μg/ml、ローダミンの場合、通常約0.5〜1.5μg/ml、4−ニトロキノリン−1−オキサイド(4NQO)の場合、通常約0.005〜0.015μg/ml、エチジウムブロマイド(EtBr)の場合、通常約0.3〜0.4μg/ml、ニコチンの場合、通常約4.0〜6.0mM、ベルベリンの場合、通常約2.0〜3.0μMの濃度で細胞毒性物質耐性試験を行うことができる。当業者であれば、この記載を参考にして、他の細胞毒性物質に対する耐性試験を行う際の細胞毒性物質の濃度を適宜選択することができるであろう。
【0061】
酵母について、例えば、以下のような方法で細胞毒性物質耐性を調べることができる:選択培地(SD−Uracil寒天培地)上で形質転換酵母を生育させ、生育してきたコロニーをSD−Uracil培地に植菌し約30℃で約1日培養する。その培養液のOD600を0.5に調整し、所定の濃度の細胞毒性物質含有寒天培地にスポットした。セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドを挿入していない空の発現ベクターを遺伝子導入した酵母を用い、同様の操作を行いコントロールとする。コントロールに比べ、セリンプロテアーゼインヒビターを導入した酵母の方が細胞毒性物質含有寒天培地において生育が良いことで耐性を確認することができる。
【0062】
高等植物について、例えば、以下のような方法で細胞毒性物質耐性を調べることができる:形質転換植物の種子を適当な選択培地(例えば、Linsmaier−Skoog(LS)寒天培地)上で発芽させる。約1〜5週間目の形質転換植物の芽生えを、所定濃度の細胞毒性物質を含浸させたLS寒天培地の上に静置する。細胞毒性物質の存在下で約5日間〜20日間、適温で生育させる。コントロールとして、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドを挿入していない空の発現ベクターを遺伝子導入した植物体を用い、同様の操作を行う。コントロールに較べて、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドを導入した植物の方が、細胞毒性物質含有寒天培地において生育が良いことで耐性を確認することができる。
【0063】
必要に応じて、常法により、植物細胞から植物に生長(分化)させる。植物ホルモンを適切に含有した培地に植物細胞を移すことで、植物細胞から植物に生長(分化)させることができる。生長(分化)の方法については、本書においてその全体が援用される。「Growth & Differentiation in Plants,3rd Edition by P.F.Wareing & I.D.J.Phillips, 1981,ISBN 4−7622−6365−6 [83.5刊](植物の成長と分化(上)P.F.ウェアリング・I.D.J.フィリップス 著/古谷雅樹 監訳)」及び「Growth & Differentiation in Plants,3rd Edition by P.F.Wareing & I.D.J.Phillips, 1981,ISBN 4−7622−7366−X [83.11刊](植物の成長と分化(下)、P.F.ウェアリング・I.D.J.フィリップス 著/古谷雅樹 監訳)」を参考にすることができる。
【0064】
このようにして、本発明の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を得ることができる。
【0065】
植物には、あらゆる生長過程の植物体が含まれ、例えば、種子、カルス、芽生え、稚苗、中苗、成苗、結実、及び、これらの一部(例えば、組織切片、根、シュート)が含まれる。
【0066】
本発明の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物は、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで形質転換される前の植物細胞又は植物と比べて、細胞毒性物質に対してより高い耐性を有する。ここで、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで形質転換される前の植物細胞又は植物が、もともと、細胞毒性物質耐性を有していてもよいし、細胞毒性物質耐性を全く有していなくてもよい。
【0067】
細胞毒性物質としては、特に限定されないが、例えば、発ガン性、神経毒性、内分泌かく乱作用、炎症作用、抗生物性(抗菌性)等の細胞毒性を示す芳香族化合物、脂環式化合物、複素環式化合物、又はこれらの複合体が挙げられる。また、芳香族化合物、脂環式化合物、複素環式化合物、又はこれらの複合体は、好ましくは、窒素、臭素及び塩素からなる群より選択される少なくとも1種を含有している。
【0068】
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、芳香属性の複素環を有する化合物が挙げられる。芳香族化合物中の芳香環の数は、特に限定されず、1又はそれ以上である。芳香環の骨格を構成する原子の数は、特に限定されないが、多くの場合、5又は6である。
【0069】
脂環式化合物は、一般的に、炭素原子が環状に結合した構造をもつ炭素環式化合物のうち、芳香族化合物を除くものをいう。脂環式化合物中の炭素環の数は、特に限定されず、1又はそれ以上である。また、炭素環の骨格を構成する炭素原子の数は、特に限定されないが、多くの場合、3、4、5、6、7又は8である。炭素環は、不飽和結合を含まない飽和構造(例えば、シクロアルカン)を有してもよいし、不飽和結合を含む不飽和構造(例えば、シクロアルケン、シクロアルキン)を有してもよい。
【0070】
複素環式化合物(即ち、ヘテロ環式化合物)とは、環状構造をもつ有機化合物のうち、環状構造の骨格を形成する原子として、炭素原子の他にヘテロ原子(例えば、酸素、硫黄、窒素、リン等)を含む化合物をいう。複素環化合物中の複素環の数は、特に限定されず、1又はそれ以上である。また、複素環の骨格を構成する原子の数は、特に限定されないが、多くの場合、3、4、5、6又は7である。
【0071】
化合物において2又はそれ以上の環が存在する場合、2又はそれ以上の環が互いに縮合していてもよい。また、2又はそれ以上の環が、慣例的な架橋基を介して架橋されていてもよい。慣例的な架橋基としては、例えば、−CH2−、−O−、−S−、−CO−、−CS−、−NH−、−OCONH−、−CONH−が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
かかる細胞毒性物質の具体例として、フルフェナジン、ローダミン、4−ニトロキノリン−1−オキサイド、エチジウムブロマイド、ニコチン、ベルベリン、残留性の高分子量多環芳香族炭化水素(例えば、アトラジン、ダイオキシン類、ピリジン、フェノール、PCB、フタル酸エステル類、エストラジオール、ベンツピレン、ニトロピレン)から成る群より選択される少なくとも1種が挙げられ、特に、フルフェナジン、ローダミン、4−ニトロキノリン−1−オキサイド、エチジウムブロマイド、ニコチン、ベルベリンが挙げられる。
【0073】
通常、細胞毒性物質は、植物の細胞膜上を単純拡散により通過し、細胞の中に入る。細胞中においては、グルタチオンやファイトケラチンと抱合体を作成し、その後、液胞膜上の輸送体により液胞に輸送され蓄積される。
【0074】
本発明の細胞毒性物質耐性植物は、細胞毒性物質土壌汚染の浄化、細胞毒性物質汚染水又は水環境の浄化、食物、工業原料等の種々の用途に用いられ得る。
【0075】
本発明は、さらに、本発明の細胞毒性物質耐性植物を用いて細胞毒性物質汚染土壌を浄化する方法にも関する。本発明の細胞毒性物質耐性酵母を用いたバイオリメディエーションも可能であるが、回収の容易さ、細胞毒性物質の浄化効率、管理の容易さ、ランニングコスト等の観点から細胞毒性物質耐性植物を用いたファイトリメディエーションが好ましい。
【0076】
本発明の1つの実施形態として、(1)本発明の細胞毒性物質耐性植物を細胞毒性物質汚染土壌で栽培する工程、及び、(2)工程(1)で栽培した細胞毒性物質耐性植物の全体又は一部を回収する工程を包含する、細胞毒性物質汚染土壌の浄化方法が提供される。
【0077】
本発明の細胞毒性物質耐性植物を栽培する方法としては、植物種に適した慣例的な方法が用いられる。例えば、本発明の細胞毒性物質耐性植物を汚染土壌に播種又は移植し、植物種、植物の生長段階、気候などに応じて、水、肥料(例えば、堆肥)、汚染されていない土等を所定量補給しながら栽培することができる。本発明の細胞毒性物質耐性植物が生長段階の初期にある(例えば、種子又は芽生えである)場合には、適当な条件下においてある程度(例えば、稚苗又は中苗になるまで)生長させた後、汚染土壌に移植することが好ましい。
【0078】
土壌で栽培している細胞毒性物質耐性植物を回収する方法としては、植物種に適した方法(例えば、収穫機を用いる方法)が用いられる。このとき、植物の一部のみを回収してもよいが、根部を含む植物全体を回収することが望ましい。
【0079】
土壌で栽培している細胞毒性物質耐性植物を回収する前に、土壌中の細胞毒性物質の濃度を測定してもよい。そして、細胞毒性物質の濃度が所望の値にまで低減されている場合には、植物を回収し、細胞毒性物質の濃度が所望の値にまで低減されていない場合には、栽培を続けるか又は繰返し栽培をおこなう。
【0080】
ここで、土壌とは、地殻の最表層部分又はこれを構成する物質(例えば、土、砂、粘土質(これらの物質は、天然物であってもよいし、人工物であってもよい))を意味する。土壌における固体、液体、気体の各成分及びバランスは、本発明の細胞毒性物質耐性植物が生育可能な限りにおいて如何なるものであってもよい。本発明の土壌には、水分を多く含む湿地(例えば、河川又は湖沼のほとり、湿原、沼地、海岸、水田、干潟等)や水分量の少ない乾燥地帯も含まれる。人工埋立地も、本発明が適用される土壌に含まれる。
【0081】
本発明の浄化方法の適用対象となる土壌は、細胞毒性物質に汚染されている又は汚染されている可能性が高い土壌であり、例えば、農地、ゴルフ場、牧場、工業用地、工業用水の流域、住宅地、商業用地、及び、それらの予定地又は跡地が、本発明の浄化方法の適用対象となる。
【0082】
さらに、回収後、例えば、細胞毒性物質耐性植物を焼却して、細胞毒性物質を消滅させることができる。また、それと同時に植物バイオマスとして利用することが望ましい。
【0083】
本発明は、さらに、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで植物細胞を形質転換する工程を包含する、細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を作製する方法にも関する。
【0084】
本発明は、さらに、セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドを含む植物細胞用発現プラスミドを備える、細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を作製するためのキットを提供する。
【0085】
セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドについては、前述の通り作製することができる。
【0086】
キットには、必要に応じて、遺伝子導入のための試薬、細胞毒性物質耐性試験のための試薬(例えば、所定濃度の細胞毒性物質試薬)、コントロールのための空の発現ベクター、培地、シャーレ等が収納される。また、指示書が収納されていてもよい。キットは、冷蔵又は冷凍状態で保存されることが望ましい。
【0087】
以下、配列表の簡単な説明をする。
配列番号1は、オウレンBBIの塩基配列である。
配列番号2は、オウレンBBIの推定アミノ酸配列である。
配列番号3は、オウレンBBIのシステインリッチな領域(保存領域)の塩基配列である。
配列番号4は、オウレンBBIのシステインリッチな領域(保存領域)の推定アミノ酸配列である。
【発明の効果】
【0088】
本発明により、新規な細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物が提供された。
【0089】
本発明により、セリンプロテアーゼインヒビターが植物細胞又は植物の細胞毒性物質耐性を高める機能を有していることが初めて明らかにされた。
【0090】
本発明の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物は、形質転換されていない植物細胞又は植物と比較して、有意に高い細胞毒性物質耐性を示す。
【0091】
さらに、本発明により、本発明の細胞毒性物質耐性植物を利用した新規な細胞毒性物質汚染土壌の浄化方法が提供された。
【0092】
本発明の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物は、種々の細胞毒性物質(例えば、フルフェナジン、ローダミン、4NQO、エチジウムブロマイド、ニコチン、ベルベリン)に対して包括的に耐性を有するため、複合的な細胞毒性物質による土壌汚染の浄化が可能である。
【0093】
本発明の浄化方法では、プラントマスが大きい植物を用いることができるため、微生物を利用する方法と異なり、回収が極めて容易であり、また、植物の繁殖を容易にコントロールすることができるため外来種の異常繁殖を回避することができる。また、本発明の浄化方法を用いれば、界面活性剤等を利用する方法と異なり、薬物による土壌の二次汚染を回避することができる。
【0094】
本発明の浄化方法は、高価な設備投資やランニングコストを必要としないため、安価な浄化方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0095】
以下、本発明をより容易に理解するための実施例を示すが、かかる実施例は、本発明を何ら限定しない。
【実施例1】
【0096】
形質転換酵母の作成
YPD寒天培地にSaccharomyces cerevisiae AD12345678株を植菌し30℃、2〜4日間培養した。YPD培地(1L)の組成は、下記の通りである。なお、寒天培地は、培地1L中に20gの寒天を加えて作製した。
【0097】
【表1】

【0098】
次に、シングルコロニーより菌を採取し、試験管中の5ml YPD培地で30℃、200rpmにて一晩前培養を行った。50ml YPD培地を入れた300ml容マイヤーにOD600=0.1〜0.2となるよう植菌し、3〜5時間30℃でOD600=0.4〜0.8になるまで振盪培養を行った。その後、50mlファルコンチューブに培養液を全て移し、2500rpm、5分遠沈し、集菌した。培地を除き滅菌水30mlを加え、沈殿物をよく洗浄した。滅菌水を除いた後、0.1M−LiAc水溶液1mlを加え、菌をよく懸濁し、2500rpm、5分遠沈した後、上清を除き、0.1M−LiAc水溶液500μlを加えた。次いで、下記の試薬をa)→b)→c)→d)の順に加えた。
【0099】
a)PEG4000(50%)水溶液 2400μl
b)1M−LiAc水溶液 360μl
c)2.0mg/mlサケ精子DNA(95℃5分熱変性後氷上で保存) 250μl
d)cDNAライブラリー溶液10μg分 500μl (ネガティブコントロール:滅菌水50μl、ポジティブコントロール: pDR196ベクター50μl)
そして、ボルテックスでよく懸濁後、30℃で10分静置した。DMSOを最終濃度10%となるように加え(400μl)、上下に2、3回撹拌した。42℃で20分、ヒートショックを行った。5分おきに撹拌した。2500rpm、5分遠沈し上清を除きYPD培地で洗浄し上清を除いた。次いで、20ml YPD培地を加え、30℃で1時間静置した。遠沈後、滅菌水に懸濁し、選択培地(SD−Uracil寒天培地)に塗布し、これを30℃2〜6日培養した。SD−Uracil培地(900ml)の組成を以下に示す。なお、寒天培地は、培地1L中に20gの寒天を加えて作製した。
【0100】
【表2】

【0101】
ここで、10×ドロップアウト溶液の組成は、以下のとおりである。
【0102】
【表3】

【実施例2】
【0103】
細胞毒性物質耐性株のスクリーニング
選択培地上で生育可能な形質転換株を、SD−Uracil培地に植菌し、30℃で2〜6日培養した。細胞毒性物質として、それぞれ、0.012μg/mlの4−ニトロキノリン−1−オキサイド(4NQO)、0.36μg/mlのエチジウムブロマイド(EtBr)、5.04mMのニコチン、2.5μMのベルベリンを含有する1/2 SD−Uracil寒天培地(細胞毒性物質含有寒天培地)を用意した。各々の細胞毒性物質について、SD−Uracil培地で菌が増殖したら、培養液のOD600を0.5に調整し、細胞毒性物質含有寒天培地に5μlずつスポットした。コントロールとして、pDR196ベクターでも同様の操作を行った。コントロールに較べて、生育の良いコロニーを選び出した(図3)。
【実施例3】
【0104】
細胞毒性物質耐性遺伝子の同定
実施例2において選び出した菌株を5ml SD−Uracil培地で培養し、培養液を遠心し、上清を捨てて集菌した。ここに、0.2mlの酵母溶解液を加え、よく懸濁した。0.2mlのフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)と酸で洗ったガラスビーズを加え、2分間ボルテックスミキサーで撹拌した。6,000rpmで5分間室温で遠心した。上清を新しい遠心チューブに移した。1/10容量の3M NaOAc(pH5.2)と2.5倍容量のエタノールを加えて通常のエタノール沈殿を行った。沈殿物を70%エタノールで洗浄してから乾燥させた。乾燥したDNAを20μlのTEバッファーに溶解した。採取したプラスミドDNAをミニプレップ法で大腸菌を用いて精製した。DNAの塩基配列を、外注(秋田県立大学 生命科学研究支援センター、外注番号:5500F)により決定したところ、BBIであることが明らかになった。
結果及び考察
図3に示すように、BBIで形質転換された酵母は、コントロールと比較して、4−ニトロキノリン−1−オキサイド(4NQO)、エチジウムブロマイド、ニコチン、ベルベリンの全てに対し、有意に高い耐性を示した。これにより、本発明の細胞毒性物質耐性植物細胞が、種々の細胞毒性物質に対して包括的に耐性を有する可能性が示唆された。BBIのような可溶性タンパク質が植物に多剤耐性を付与することについては、今まで報告されていなかった。
【実施例4】
【0105】
ニコチン、エチジウムブロマイド、フルフェナジン、ローダミン6Gに対する耐性試験
BBI遺伝子を含む発現プラスミドで形質転換した酵母(CjBBI)、空のpDR196ベクターで形質転換した酵母(コントロール)、メタロチオネイン遺伝子を含む発現プラスミドで形質転換した酵母(CjMT)を、それぞれ、定常状態まで培養し、培養液をOD600=0.5になるように希釈し、1倍、5倍、25倍、125倍、625倍の系列希釈液を作製した。各希釈液を、毒性物質を含有する1/2 SD−Uracil寒天培地上に各5μlスポットした。なお、BBI遺伝子を含む発現プラスミドで形質転換した酵母(CjBBI)として、実施例2において薬物耐性が確認され且つ実施例3においてBBI遺伝子の導入が確認された株を用いた。培地における各毒性物質の最終濃度は、ニコチン 10mM、エチジウムブロマイド 4.4μg/ml、フルフェナジン 200μg/ml、ローダミン6G 1μg/mlとした。また、培地のコントロールとして、毒性物質を含有していない1/2 SD−Uracil寒天培地を使用した。
【0106】
結果を図4に示す。図4において、各写真の左から、1倍、5倍、25倍、125倍、625倍希釈の酵母培養液を各5μlスポットしている。ニコチン、エチジウムブロマイド(EtBr)、フルフェナジン、ローダミン6Gの4種全ての薬剤について、CjBBIは、コントロールよりも有意に良好に生育しており、さらには、薬物や重金属に対する耐性を高める脂溶性タンパク質として知られているメタロチオネイン遺伝子で形質転換した酵母(CjMT)よりも有意に良好に生育していた(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、オウレンのBBIのオープンリーディングフレーム(ORF)をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を示す。
【図2】図2は、オウレンのBBIのORFの推定ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。Mは開始コドンであるメチオニンを意味し、*は終止コドンを意味する。BBIは、14個のシステインを含有している。1個目のシステインから14個目のシステインまでのシステインリッチな領域(下線部)は、生物種間で保存されている。
【図3】図3は、細胞毒性物質耐性株のスクリーニングの結果を示す。0.012μg/mlの4−ニトロキノリン−1−オキサイド(4NQO)、0.36μg/mlのエチジウムブロマイド(EtBr)、5.04mMのニコチン、2.5μMのベルベリンの各々を含有する1/2 SD−Uracil寒天培地中、コロニーの生育が観察された。
【図4】図4は、ニコチン 10mM、エチジウムブロマイド 4.4μg/ml、フルフェナジン 200μg/ml、ローダミン6G 1μg/mlを含有する1/2 SD−Uracil寒天培地におけるBBI形質転換株(CjBBI)、コントロール、メタロチオネイン形質転換株(CjMT)の生育状態を示す。BBI形質転換株(CjBBI)は、コントロール及びメタロチオネイン形質転換株(CjMT)よりも有意に良好に生育しており、強い多剤耐性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで形質転換された、細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
【請求項2】
前記セリンプロテアーゼインヒビターが可溶性タンパク質である、請求項1に記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
【請求項3】
前記セリンプロテアーゼインヒビターが、ボウマン・バークセリンプロテアーゼインヒビター(Bowman−Birk serine protease inhibitor)及びクニッツインヒビター(Kunitz inhibitor)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
【請求項4】
前記ボウマン・バークセリンプロテアーゼインヒビターが、オウレン、コムギ、イネ、大豆、トウモロコシ、アルファルファ、及びピーナッツから成る群より選択される少なくとも1種に由来する、請求項3に記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
【請求項5】
前記セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドが、
(I)配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド、
(II)(I)のポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチド、
(III)(I)又は(II)のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、セリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、並びに
(IV)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドと15%以上の相同性を有し且つセリンプロテアーゼインヒビター活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、
から成る群より選択される少なくとも1種のポリヌクレオチドである、請求項1〜4のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
【請求項6】
細胞毒性物質が、芳香族化合物、脂環式化合物、及び複素環式化合物から成る群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
【請求項7】
芳香族化合物、脂環式化合物、及び複素環式化合物から成る群より選択される少なくとも1種が、窒素、臭素及び塩素からなる群より選択される少なくとも1種を含有している、請求項6に記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
【請求項8】
細胞毒性物質が、フルフェナジン、ローダミン、4−ニトロキノリン−1−オキサイド、エチジウムブロマイド、ニコチン及びベルベリンから成る群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物。
【請求項9】
植物が、樹木、木本及び草本から成る群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜8のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物。
【請求項10】
紙、繊維、樹脂、ゴム、又は油脂の原料として使用される、請求項1〜9のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物。
【請求項11】
(1)請求項1〜10のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物を細胞毒性物質汚染土壌で栽培する工程、及び、
(2)工程(1)で栽培した細胞毒性物質耐性植物の全体又は一部を回収する工程、
を包含する、細胞毒性物質汚染土壌の浄化方法。
【請求項12】
セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドで植物細胞を形質転換する工程、
を包含する、請求項1〜10に記載のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を作製する方法。
【請求項13】
セリンプロテアーゼインヒビターをコードするポリヌクレオチドを含む植物細胞用発現プラスミド、
を備える、請求項1〜10に記載のいずれかに記載の細胞毒性物質耐性植物細胞又は植物を作製するための、キット。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−125000(P2007−125000A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49182(P2006−49182)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】