説明

細胞洗浄液、細胞剥離液及び細胞製造方法

【課題】
架橋ポリアクリル酸塩や、カルボキシル基を有する糖鎖高分子ゲル等の保水量の比較的大きい担体を用いて増殖した細胞は、従来の細胞剥離操作では細胞を剥離することが困難である。
【解決手段】
保水量が2〜50g/gである吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体に付着した細胞を洗浄するための細胞洗浄液であって、キレート剤(B)及び溶媒を含んでなり、(B)の含有量が、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.1〜5重量%である細胞洗浄液(C)を用いる、及び/又は、保水量が2〜50g/gである吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体に付着した細胞を剥離するための細胞剥離液であって、キレート剤(B)及び溶媒を含んでなり、(B)の含有量が、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.1〜5重量%である細胞剥離液(D)を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞洗浄液、細胞剥離液及び細胞製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞培養担体と培養液を用いて細胞培養担体上で細胞を製造する方法において、細胞培養担体の表面から細胞を剥離する際には、0.25%トリプシン、0.02%エチレンジアミン四酢酸、0.8%塩化ナトリウム、0.02%塩化カリウム、0.115%リン酸水素二ナトリウム及び0.02%リン酸二水素カリウムからなる剥離液が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】組織培養の技術 第三版、32頁、日本組織培養学会編、朝倉書店発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、架橋ポリアクリル酸塩や、カルボキシル基を有する糖鎖高分子ゲル等の保水量の比較的大きい細胞培養担体を用いて増殖させた細胞は、この担体への細胞の接着力が強いために、上記トリプシン等からなる剥離液を用いた細胞剥離操作では細胞を剥離することが困難である。本発明の目的は、保水量の比較的大きい細胞培養担体に付着した細胞を容易かつ確実に剥離できる細胞洗浄液、細胞剥離液および剥離した細胞の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意研究を重ねてきた結果、特定の細胞洗浄液及び細胞剥離液が、特定の細胞培養担体を使用してこの担体表面で増殖させた細胞を容易かつ確実に剥離できることを見いだし、本発明に到達した。すなわち、本発明は、下記の3発明である。
(1)保水量が2〜50g/gである吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体に付着した細胞を洗浄するための細胞洗浄液であって、キレート剤(B)及び溶媒を含んでなり、(B)の含有量が、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.1〜5重量%である細胞洗浄液(C)。
(2)保水量が2〜50g/gである吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体に付着した細胞を剥離するための細胞剥離液であって、キレート剤(B)及び溶媒を含んでなり、(B)の含有量が、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.1〜5重量%である細胞剥離液(D)。
(3)培養液と保水量が2〜50g/gである吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体とを用いて細胞を培養した後、(A)を含んでなる細胞培養担体に付着した細胞を剥離してなる細胞の製造方法であって、下記洗浄工程及び剥離工程を含み、洗浄工程で細胞洗浄液(C)を使用する及び/又は剥離工程で細胞剥離液(D)を使用する細胞の製造方法。
洗浄工程:培養液から取り出した、細胞の付着した(A)を含んでなる細胞培養担体に細胞洗浄液を添加した後、細胞洗浄液を除去する工程
剥離工程:洗浄工程後、細胞の付着した細胞培養担体に細胞剥離液を添加し、細胞を剥離する工程
【発明の効果】
【0005】
本発明の細胞洗浄液、細胞剥離液及び剥離した細胞の製造方法は、以下の効果を奏する。
(1)吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体からの細胞剥離が容易である。
(2)吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体からの細胞剥離が確実であり、培養細胞の収率が高く(高回収率及び高生存率)、培養細胞の生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
吸水性樹脂(A)の生理食塩水に対する保水量(g/g)(以下、保水量)は、2〜50であり、好ましくは4〜40、さらに好ましくは8〜30であり、特に好ましくは10〜25である。該保水量が2未満では細胞増殖性が悪くなり、50を超えると(A)の物理的強度が低くなるため増殖性が悪くなる。
なお、保水量は、次の方法で測定される。生理食塩水約100mLを入れたビーカーに、撹拌しながら乾燥した(A)1.0gを投入し、あらかじめ膨潤させて膨潤樹脂を得た後、目開き57μmのナイロン網で作製した袋(縦20cm、横10cm)に移し、過剰の生理食塩水中に60分間浸漬する。次いで、膨潤樹脂を袋ごと遠心脱水機に入れて、150Gで90秒間遠心脱水を行い、余剰水を取り除く。遠心脱水後の重量(g2)を測定し、次式から算出した値を保水量とする。なお、ナイロン網で作製した袋および生理食塩水については、JIS K7223−1996に準拠する。
(保水量)=(g2)−1.0
【0007】
吸水性樹脂(A)としては、(A)を含んでなる担体への細胞の接着性の観点から、アニオン性(塩)官能基を有するポリマーが好ましく、さらに好ましいのはアニオン性(塩)官能基がカルボキシル基であるポリマー、特に好ましいのは架橋ポリ(メタ)アクリル酸(塩)、アルギン酸(塩)、ヒアルロン酸(塩)、最も好ましいのは架橋ポリ(メタ)アクリル酸(塩)である。
なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味し、酸(塩)とは、酸及び/又は酸塩を意味し、以下の記載において同様である。
【0008】
(メタ)アクリル酸(塩)としては、アクリル酸又はメタクリル酸のアルカリ金属(リチウム、カリウム及びナトリウム等)塩、アルカリ土類金属(マグネシウム及びカルシウム等)塩及びアンモニウム塩等が用いられる。これらのうち、保水量の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、さらに好ましくはナトリウム塩、リチウム塩及びカリウム塩、特に好ましくはナトリウム塩及びリチウム塩、最も好ましくはナトリウム塩である。
【0009】
架橋ポリ(メタ)アクリル酸(塩)とは、(メタ)アクリル酸(塩)を必須成分とするモノマーを重合して得られる架橋重合体であり、特開2006−57039号公報、特開2006−219661号公報、特開平9−124879号公報等に記載のものが含まれる。
【0010】
吸水性樹脂(A)の形状としては特に制限はなく、粒子状、塊状、シート状等が使用できる。細胞培養の効率の観点から、粒子状、シート状であることが好ましく、さらに好ましくは粒子状である。
【0011】
吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体としては、(A)をそのまま使用してもよいし、必要により細胞接着シグナルを現す最小アミノ酸配列を少なくとも1個有するポリペプチドを結合してもよい。
【0012】
細胞培養担体の形状としては特に制限はなく、粒子状、塊状、シート状等が使用できる。細胞培養の効率の観点から、粒子状、シート状であることが好ましく、さらに好ましくは粒子状である。また、(A)を基材にコーティングしたものも使用することができる。
コーティングする基材としては、シャーレ、フラスコ、ローラーボトル、プレート等が含まれる。材質としては、プラスチック、ガラス、天然由来材料(デキストラン、セルロース等)及び無機材料(ヒドロキシアパタイト等)等が挙げられる。
【0013】
細胞培養担体の形状が粒子状の場合、その生理食塩水で膨潤された状態での直径(μm)としては、細胞の増殖性の観点から、20〜500が好ましく、さらに好ましくは50〜400、特に好ましくは80〜300、最も好ましくは100〜250である。
【0014】
(A)を含んでなる細胞培養担体は、上記のとおり細胞接着シグナルを現す最小アミノ酸配列を少なくとも1個有するポリペプチドを結合してもよい。
細胞接着シグナルを現す最小アミノ酸配列としては、「病態生理、第9巻 第7号、527〜535頁、1990年」や「大阪府立母子医療センター雑誌、第8巻 第1号、58〜66頁、1992年」に記載されているもの等が挙げられる。
これらのうち、細胞接着性の観点から、Arg Gly Asp配列、Leu Asp Val配列、Leu Arg Glu配列、His Ala Val配列、Arg Glu Asp Val配列(1)、Tyr Ile Gly Ser Arg配列(2)、Pro Asp Ser Gly Arg配列(3)、Arg Tyr Val Val Leu Pro Arg配列(4)、Leu Gly Thr Ile Pro Gly配列(5)、Arg Asn Ile Ala Glu Ile Ile Lys Asp Ile配列(6)、Ile Lys Val Ala Val配列(7)、Asp Gly Glu Ala 配列(8)、Gly Val Lys Gly Asp Lys Gly Asn Pro Gly Trp Pro Gly Ala Pro配列(9)、Gly Glu Phe Tyr Phe Asp Leu Arg Leu Lys Gly Asp Lys配列(10)、Tyr Lys Leu Asn Val Asn Asp Ser配列(11)、Ala Lys Pro Ser Tyr Pro Pro Thr Tyr Lys配列(12)、Asn Arg Trp His Ser Ile、Tyr Ile Thr Arg Phe Gly配列(13)、Thr Trp Tyr Lys Ile Ala Phe Gln Arg Asn Arg Lys配列(14)、Arg Lys Arg Leu Gln Val Gln Leu Ser Ile Arg Thr(15)及びPro His Ser Arg Asn(16)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、細胞接着性の観点等から、さらに好ましくはArg Gly Asp配列、Tyr Ile Gly Ser Arg配列(2)、Ile Lys Val Ala Val配列(7)、Arg Lys Arg Leu Gln Val Gln Leu Ser Ile Arg Thr(15)及びPro His Ser Arg Asn(16)からなる群より選ばれる少なくとも1種、特に好ましくはArg Gly Asp配列である。
【0015】
(A)とポリペプチドは、化学結合(イオン結合、水素結合及び/又は共有結合等)及び/又は物理吸着(ファンデルワールス力による吸着)によって結合されていてもよい。(A)とポリペプチドが強固に結合される点で、化学結合が好ましく、さらに好ましくは共有結合である。
【0016】
(A)にポリペプチドを共有結合させる方法としては、例えば、「ペプチド合成の基礎と実験、平成9年10月5日、丸善株式会社発行」に記載の方法等が挙げられ、具体的には、以下の(1)〜(2)の通りである。
(1)ポリペプチドのうち1級アミノ基又は2級アミノ基を有するものと(A)のカルボキシル基とを反応させる場合、カルボキシル基を予めカルボジイミド化合物と反応させ、アシルイソ尿素{R’−N=C(OCOR)−NH−R’(−OCORが細胞培養用担体に由来する部分)}を得た後、ポリペプチドのうち1級アミノ基又は2級アミノ基を有するものをこのアシルイソ尿素に加えることによって、(A)とポリペプチドとをアミド結合させる。
カルボジイミド化合物としては、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド及び1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等が挙げられる。
【0017】
(2)ポリペプチドのうちヒドロキシル基を有するものと(A)のカルボキシル基とを反応させる場合、(A)のカルボキシル基を予めカルボジイミド化合物と反応させ、アシルイソ尿素を得た後、ポリペプチドのうちヒドロキシル基を有するものをこのアシルイソ尿素に加えることによって、(A)とポリペプチドとをエステル結合させる。
【0018】
(A)の表面積(cm2)当たりのポリペプチド含有量(μg)としては、細胞増殖性の観点から、0.001〜100であることが好ましく、さらに好ましくは0.01〜50、特に好ましくは0.02〜10、最も好ましくは0.05〜5である。
【0019】
キレート剤(B)には、特開2004−135571号公報、特開2004−267071号公報等に記載の、ビスカルボキシメチルアミノ基を少なくとも1個有する化合物、カルボキシル基及びアミノ基を少なくとも1個ずつ有する化合物、ジカルボン酸、アミノ基を少なくとも2個有する化合物、ヒドロキシル基及びアミノ基を少なくとも1個ずつ有する化合物、メルカプト基及びアミノ基を少なくとも1個ずつ有する化合物並びにこれらの塩等が含まれる。
ビスカルボキシメチルアミノ基を少なくとも1個有する化合物並びにこの塩としては、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラミル二酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)四酢酸及びこれらの金属塩等が挙げられる。
カルボキシル基及びアミノ基を少なくとも1個ずつ有する化合物としては、α−アラニン、グルタミン酸、チロシン、システイン及びグリシン等が挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、フタル酸、サリチル酸、酒石酸及びクエン酸等が挙げられる。
アミノ基を少なくとも2個有する化合物としては、フェナントロリン及びジメチルグリオキシム等が挙げられる。
ヒドロキシル基及びアミノ基を少なくとも1個ずつ有する化合物としては、8−ヒドロキシキノリン−5−スルホン酸及びオキシン等が挙げられる。
メルカプト基及びアミノ基を少なくとも1個ずつ有する化合物としては、ジチゾン等が挙げられる。
これらのうち、細胞への毒性およびキレート化能の観点から、ビスカルボキシメチルアミノ基を少なくとも1個有する化合物並びにこの塩が好ましく、さらに好ましくはエチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラミル二酢酸並びにこれらの塩が好ましく、特に好ましくはエチレンジアミン四酢酸及びこの塩、最も好ましくはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩及びエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩である。
【0020】
細胞洗浄液(C)又は細胞剥離液(D)中の(B)の含有量(重量%)は、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.1〜5であり、好ましくは0.12〜2.5、さらに好ましくは0.15〜1.5、特に好ましくは0.2〜1.0である。(B)の含有量が0.1未満では細胞剥離性が悪くなり、5を超えると細胞への損傷が悪くなる。
【0021】
溶媒としては特に制限はないが、細胞への損傷及び取り扱い性等の観点から、水が好ましい。また、水としては、蒸留水、イオン交換水等が使用できる。
また、溶媒としての水には、無機塩{リン酸塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム等)、塩化物(塩化ナトリウム、塩化カリウム等)等}、有機酸塩(ピルビン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム等)、アミノ酸(塩){必須アミノ酸(リジン、スレオニン、フェニルアラニン等)、非必須アミノ酸(グリシン、グルタミン、セリン等}、ビタミン(葉酸、イノシトール、ニコチンアミド等)、糖(グルコース等)、酸(塩酸、酢酸、リン酸等)及び/又は塩基(水酸化ナトリウム等)等の溶質を、溶質及び溶媒の合計重量を基準として、0.1〜50重量%含有することができる。細胞への損傷の観点から、無機塩、有機酸、糖、酸及び/又は塩基を含有することが好ましい。
【0022】
無機塩の含有量(重量%)は、(C)及び(D)を等張液として調整する観点並びに細胞への損傷の観点から、無機塩及び溶媒の合計重量を基準として、0.2〜1.5が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.0、特に好ましくは0.7〜0.9である。
【0023】
糖の含有量(重量%)は、細胞への損傷の観点から、糖及び溶媒の合計重量を基準として、0.005〜0.5が好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.2、特に好ましくは0.05〜0.1である。
【0024】
有機酸塩の含有量(重量%)は、細胞への損傷の観点から、有機酸塩及び溶媒の合計重量を基準として、0.001〜0.1が好ましく、さらに好ましくは0.005〜0.05である。
【0025】
細胞洗浄液(C)及び細胞剥離液(D)はキレート剤(B)及び溶媒を必須成分として含有してなるが、必要により蛋白質分解酵素を含有させることができる。
細胞洗浄液(C)は、細胞の回収率の観点から、蛋白質分解酵素を含まないことが好ましい。蛋白質分解酵素を含有する場合、蛋白質分解酵素の含有量(重量%)は、細胞の剥離性及び細胞への損傷の観点から、蛋白質分解酵素、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.5以下が好ましく、さらに好ましくは0.1以下、特に好ましくは0.01以下である。
細胞剥離液(D)の蛋白質分解酵素の含有量(重量%)は、細胞の剥離性および細胞への損傷の観点から、蛋白質分解酵素、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.0001〜2.5が好ましく、さらに好ましくは0.001〜1.0、特に好ましくは0.01〜0.5である。
【0026】
蛋白質分解酵素としては、セリンプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、プラスミン等)、チオールプロテアーゼ(パパイン、カテプシンB、カテプシンH、カテプシンL等)、カルボキシプロテアーゼ(ペプシン、カテプシンD、カテプシンE、レニン等)、メタロプロテアーゼ(コラゲナーゼ、ディスパ−ゼ等)、等が挙げられる。市場から容易に入手可能なものとしては、トリプシン、商品名「プロナーゼ」(Calbiochem社製)、商品名「ディスパーゼ」(Worthington Biochemical Corporation社製)、商品名「TrypLETM Select(インビトロジェン(株)製)、商品名「Accutase」(Chemicon International Inc.製)等が挙げられる。このうち、細胞剥離性の観点から、トリプシン、TrypLETM Selectが好ましい。ウイルス感染等の危険性の観点から、さらに好ましくはTrypLETM Selectである。
【0027】
(C)及び(D)のpHは、細胞への損傷及び細胞剥離性の観点から、7.0〜8.5が好ましく、さらに好ましくは7.4〜8.0である。該pHはリン酸緩衝液等の緩衝液を使用することで調整することができる。また、(C)及び(D)のpHは、同一でも異なっていてもよい。
【0028】
本発明の細胞洗浄液(C)及び細胞剥離液(D)は、細胞培養担体表面に接着した接着依存性細胞を洗浄及び剥離するのに使用される。接着依存性細胞としては特に制限はなく、例えば哺乳類動物由来の正常細胞、哺乳類動物由来の株化細胞及び昆虫細胞等が挙げられる。
【0029】
細胞培養に用いる培地としては特に制限はなく、血清培地及び無血清培地のいずれも使用可能である。血清培地としては、用いる細胞の種類に応じて、一般の培地(DMEM培地、DME培地、RPMI培地、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMEM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地、ASF103培地、ASF104培地、ASF301培地、TC−100培地、Sf−900II培地、Ex−cell405培地、Express−Five培地、Drosophila培地及びこれらの混合培地等)に血清を加えたもの等が挙げられる。血清としては、ヒト血清、及び動物血清(ウシ血清、ウマ血清、ヤギ血清、ヒツジ血清、ブタ血清、ウサギ血清、ニワトリ血清、ラット血清、及びマウス血清等)が含まれる。
無血清培地としては、Grace培地、IPL−41培地、Schneider’s培地、OPTI PROTM SFM培地、VP−SFM培地、CD293培地、293SFMII培地、CD−CHO培地、CHO−S−SFMII培地、FreeStyleTM 293培地、CD−CHO ATGTM培地及びこれらの混合培地が挙げられる。
【0030】
培養条件としては、特に制限なく、二酸化炭素(CO2)濃度1〜29体積%、5〜45℃で1時間〜100日間、必要に応じて1〜10日毎に培地交換しながら培養する条件等が適用できる。好ましい条件としては、CO2濃度3〜10体積%、30〜40℃、1〜20日間、1〜3日毎に培地交換しながら培養する条件である。
【0031】
播種する細胞の量としては、用いる細胞培養担体の種類や、細胞の種類等によって異なるが、細胞培養担体の培養表面積1cm2当たり、10〜1000万個が好ましく、さらに好ましくは100〜100万個、特に好ましくは1000〜10万個である。
【0032】
本発明の剥離した細胞の製造方法は、細胞の付着した(A)を含んでなる細胞培養担体を洗浄する洗浄工程と、洗浄後の細胞培養担体から付着した細胞を剥離する剥離工程を含んでなる。以下、各工程について順次説明する。
【0033】
<洗浄工程>
洗浄工程では、培養液から取り出した細胞の付着した(A)を含んでなる細胞培養担体に付着する培養液成分を除去する。洗浄方法としては以下の手順である。
培養液から取り出した、細胞の付着した(A)を含んでなる細胞培養担体が入った容器内に細胞洗浄液を添加し、静置又は穏やかに攪拌する。次いで、静置することにより、(A)を含んでなる細胞培養担体を容器内に沈降させ、上澄みの(A)に残存していた培養液成分および細胞洗浄液を除去して廃棄する。
【0034】
洗浄工程で用いる細胞洗浄液としては、従来の細胞洗浄液又はリン酸緩衝液(「組織培養の技術」 第三版、32頁、日本組織培養学会編、朝倉書店発行に記載等)を用いることができる。
洗浄工程で用いる細胞洗浄液としては、細胞への損傷の観点から、等張液(細胞内液の浸透圧とほぼ等しい浸透圧の液体)が好ましい。
洗浄工程で用いる細胞洗浄液としては、細胞への損傷、細胞回収率の観点から、蛋白質分解酵素を含まない細胞洗浄液を用いることが好ましい。
【0035】
洗浄工程は、必要に応じて複数回繰り返して行うことができる。細胞の回収率及び細胞への損傷の観点から、洗浄工程の回数は1〜10回が好ましく、さらに好ましくは2〜5回である。この洗浄工程の回数の範囲であると、(A)に残存する培養液成分をより確実に除去することができ、細胞の(A)への付着力をより低下させることができる。
【0036】
<剥離工程>
剥離工程では、洗浄工程後の細胞の付着した(A)を含んでなる細胞培養担体から、付着した細胞を剥離する。剥離方法としては以下の手順である。
洗浄工程後の(A)を含んでなる細胞付着担体の入った容器内に、細胞剥離液を添加し、好ましくは穏やかに攪拌することにより、付着した細胞を剥離する。また、必要に応じて、この工程において細胞剥離液をピペットにて吸引及び吐出し、穏やかに撹拌してもよい。
【0037】
剥離工程で用いる細胞剥離液としては、従来の細胞剥離液(「組織培養の技術」 第三版、32頁、日本組織培養学会編、朝倉書店発行に記載等)を用いることができる。
剥離工程で用いる細胞剥離液としては、細胞の回収率の観点から、蛋白質分解酵素を含む細胞剥離液を用いることが好ましい。
剥離工程で使用する細胞剥離液の蛋白質分解酵素の含有量(重量%)は、蛋白質分解酵素、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.001〜2.5が好ましく、さらに好ましくは0.005〜1.0、特に好ましくは0.01〜0.5である。
【0038】
本発明の剥離した細胞の製造方法において、洗浄工程で細胞洗浄液(C)を用いる、又は剥離工程で細胞剥離液(D)を用いることが必須である。剥離の容易さの観点から、少なくとも洗浄工程で(C)を用いることが好ましく、さらに好ましくは洗浄工程で(C)を用い、且つ、剥離工程で(D)を用いることである。
【0039】
洗浄工程及び剥離工程での、細胞洗浄液(C)又は細胞剥離液(D)の使用量(mL)は、用いる細胞培養担体の種類や細胞の種類によって異なるが、細胞への損傷、細胞の回収率の観点から、細胞培養担体の培養表面積1cm2当り、0.0001〜10が好ましく、さらに好ましくは0.001〜1、特に好ましくは0.002〜0.5である。なお、洗浄工程および剥離工程での(C)及び(D)の使用量は、同一でも異なっていてもかまわない。
【0040】
洗浄工程及び剥離工程での処理温度としては、細胞への損傷、細胞回収率の観点から、5〜50℃が好ましく、さらに好ましくは15〜45、特に好ましくは25〜40である。なお、洗浄工程および剥離工程での処理温度は、同一でも異なっていてもかまわない。
【0041】
洗浄工程及び剥離工程での、(C)又は(D)による1回の処理時間は、細胞への損傷、細胞回収率の観点から、1〜60分が好ましく、さらに好ましくは3〜30、特に好ましくは5〜20である。
【0042】
細胞と細胞培養担体とを剥離した後、必要に応じて遠心分離等の操作により本発明の細胞剥離液を除去し、リン酸緩衝液(以下PBS)又は使用した培地で洗浄することで、目的の細胞が得られる。
細胞培養担体の形状が粒子状である場合、細胞と細胞担体との分離方法としては、沈降速度法、濾過、密度勾配遠心法等が使用できる。
この細胞はそのまま又は公知の支持体に貼付することにより、再生医療等に応用することができる。また、PBS又は使用した培地に分散することで細胞懸濁液を得ることができる。この細胞懸濁液は、そのまま細胞培養に使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例として掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、以下において、特記しない限り部は重量部を、%は重量%を意味する。
【0044】
<製造例1>
攪拌機、モノマー供給管、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器を備えた反応容器にシクロヘキサン624部、重合分散剤としてソルビタンモノステアレート3.1部を仕込み、窒素バブリングを30分以上行って、溶存空気を追い出し75℃まで昇温した。
別の反応器に80%アクリル酸水溶液173部を仕込み、冷却しながら28%水酸化ナトリウム水溶液207部を加えて中和した。この水溶液に架橋性単量体{エチレングリコールジグリシジルエーテル}0.90部及び重合開始剤{過硫酸カリウム}0.278部、連鎖移動剤{次亜リン酸ナトリウム}0.053部を添加した後、窒素バブリングを行い、溶存空気を追い出しモノマー水溶液を得た。
得られたモノマー水溶液を上記の重合反応器のモノマー供給管より6.5ml/分の割合で連続的に重合反応器内の撹拌中(撹拌速度は500rpm)のシクロヘキサン液中に約1時間かけて供給してシクロヘキサン還流下で重合を行った。
次に共沸脱水によって160部の水を抜き出した後、含水ゲルポリマーを取り出し、更に120℃で2時間乾燥して、乾燥架橋ポリアクリル酸ナトリウム塩を得た。
乾燥架橋ポリアクリル酸ナトリウム塩を、目開きが63μmのふるい及び53μmのふるい(JIS Z8801−1:2000)により分級して、粒子径53〜63μmの粒子{架橋ポリアクリル酸ナトリウム塩粒子}を得た。
次に、得られた粒子に対して、エチレングリコールジグリシジルエーテルを溶液濃度として2%含むメタノール/イオン交換水(体積比70/30)溶液7.5部を添加し均一混合した。次いで、メタノールを風乾した後に密閉容器に入れ、80℃で1時間保持し、表面架橋を行った。その後、順風乾燥機中で120℃で30分間乾燥させて、吸水性樹脂(A−1)を得た。(A−1)の保水量は21g/gであった。
【0045】
<製造例2>
「架橋性単量体{エチレングリコールジグリシジルエーテル}の使用量を0.90部から0.0106部に変更すること」及び「表面架橋しなかったこと{エチレングリコールジグリシジルエーテルを溶液濃度として2%含むメタノール/イオン交換水溶液を添加せず、80℃で1時間保持しなかったこと}」以外、製造例1と同様にして、吸水性樹脂(A−2)を得た。(A−2)の保水量は50g/gであった。
【0046】
<製造例3>
「架橋性単量体{エチレングリコールジグリシジルエーテル}の使用量を0.90部から4.52部に変更すること」及び「28%水酸化ナトリウム水溶液の使用量を207部から110部に変更すること」以外、製造例1と同様にして、吸水性樹脂(A−3)を得た。(A−3)の保水量は4g/gであった。
【0047】
<製造例4>
「架橋性単量体{エチレングリコールジグリシジルエーテル}の使用量を0.90部から4.52部に変更すること」及び「80%アクリル酸水溶液173部の代わりに80%メタクリル酸水溶液207部を使用すること」以外、製造例1と同様にして、吸水性樹脂(A−4)を得た。(A−4)の保水量は20g/gであった。
【0048】
<実施例1>
スピンナーフラスコへ、吸水性樹脂(A−1)0.03gおよびpH=7.2に調製したリン酸緩衝液(リン酸水素二ナトリウム0.02%、リン酸二水素カリウム0.076%および塩化ナトリウム0.85%を含む。以下、PBSと略記する。)10mLを仕込み、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)した。オートクレーブ滅菌後、PBSをアスピレータで吸引除去した後、無血清培地(商品名:VP−SFM、インビトロジェン(株)製)に抗菌剤(商品名:ゲンタマイシン/アンフォテリシン B、カスケード社製)を0.2重量%で含有させた培地を2mL添加し、1時間静置した後、培地を吸引除去し、再度、同じ無血清培地を10mL添加した。スピンナーフラスコを37℃、二酸化炭素ガス濃度5容量%のCO2インキュベーターの中に1時間静置した後、予めプレ培養していたVERO細胞を細胞濃度が20万個/mLになるように無血清培地に播種した。37℃、二酸化炭素ガス濃度5容量%のCO2インキュベーターの中で、60rpmの攪拌をしながら、(A−1)のほぼ全面を細胞で覆われるまで7日間培養を行い7日後の細胞培養液中の細胞が付着した(A−1)を得た。
無血清培地を除去し、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)0.2%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−1)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−1)を除去した(洗浄工程)。次いで、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩を0.2%、蛋白質分解酵素(商品名「TrypLETM Select」、インビトロジェン(株)製)を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−1)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。
この細胞懸濁液を50μL採り、エリスロシンBを0.02%含むPBS溶液を50μL添加し、赤血球計数板を用いて死細胞数と生細胞数を顕微鏡下目視により計数した。これらの細胞数より、下式に従って生存率を求め、表1に示した。
生存率(%)={(総細胞数−死細胞数)/(総細胞数)}×100
7日後の細胞培養液を0.5mL採り、培地を除去し、クリスタルバイオレット0.1%およびクエン酸を1.92%含む水溶液0.5mLを添加し37℃で60分間保持後、赤血球計数板を用いて細胞核数を計数しこの数を(a)とした。細胞懸濁液を、目開き57μmのナイロン網でろ過し、細胞懸濁液から(A−1)を除去した。ろ液を遠心操作することにより培地を除去し、クリスタルバイオレット0.1%およびクエン酸を1.92%含む水溶液0.5mLを添加し37℃で60分間保持後、赤血球計数板を用いて細胞核数を計数しこの数を(b)とした。これらの細胞核数(a)及び(b)より、下式に従って回収率を求め、表1に示した。
回収率(%)=(b)/(a)×100
【0049】
<実施例2>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−2)を使用すること以外、実施例1と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0050】
<実施例3>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−3)を使用すること以外、実施例1と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0051】
<実施例4>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)5.0%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−2)}を10mL加え、37℃、60rpmで5分間保持した後、(C−2)を除去した(洗浄工程)。次いで、蛋白質分解酵素(商品名「TrypLETM Select」、インビトロジェン(株)製)を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−2)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0052】
<実施例5>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−2)を使用すること以外、実施例4と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0053】
<実施例6>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−3)を使用すること以外、実施例4と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0054】
<実施例7>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)0.1%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−3)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−3)を除去した。同様にして再度(C−3)を加え除去する操作をもう1度行った(洗浄工程)。次いで、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)を0.1%、蛋白質分解酵素(商品名「TrypLETM Select」、インビトロジェン(株)製)を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−3)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0055】
<実施例8>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−2)を使用すること以外、実施例7と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0056】
<実施例9>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−3)を使用すること以外、実施例7と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0057】
<実施例10>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)0.40%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−4)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−4)を除去した。エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)0.038%を含むPBS溶液[細胞洗浄液(C−5)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−5)を除去した(洗浄工程)。次いで、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩を0.038%、蛋白質分解酵素(商品名「TrypLETM Select」、インビトロジェン(株)製)を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−4)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0058】
<実施例11>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−2)を使用すること以外、実施例10と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0059】
<実施例12>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−3)を使用すること以外、実施例10と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0060】
<実施例13>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)0.80%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−6)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−6)を除去した。PBS溶液を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、PBSを除去した。(洗浄工程)。次いで、細胞剥離液(D−2)を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0061】
<実施例14>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−2)を使用すること以外、実施例13と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0062】
<実施例15>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−3)を使用すること以外、実施例13と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0063】
<実施例16>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、PBS溶液を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、PBSを除去した(洗浄工程)。エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)を0.4%、蛋白質分解酵素(商品名「TrypLETM Select」、インビトロジェン(株)製)を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−5)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0064】
<実施例17>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−2)を使用すること以外、実施例16と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0065】
<実施例18>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−3)を使用すること以外、実施例16と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0066】
<実施例19>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−4)を使用すること以外、実施例1と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0067】
<実施例20>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−4)を使用すること以外、実施例4と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0068】
<実施例21>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−4)を使用すること以外、実施例7と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0069】
<実施例22>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−4)を使用すること以外、実施例10と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0070】
<実施例23>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−4)を使用すること以外、実施例13と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0071】
<実施例24>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、ニトリロ三酢酸二ナトリウム塩(B−2)1%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−7)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−7)を除去した(洗浄工程)。次いで、ニトリロ三酢酸二ナトリウム塩(B−2)を0.1%、蛋白質分解酵素{商品名「TrypLETM Select(インビトロジェン(株)製)}を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−6)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0072】
<実施例25>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−4)を使用すること以外、実施例21と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0073】
<実施例26>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、ジエチレントリアミン五酢酸三ナトリウム塩(B−3)1.5%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−8)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−8)を除去した(洗浄工程)。次いで、ジエチレントリアミン五酢酸三ナトリウム塩(B−3)を0.15%、蛋白質分解酵素{商品名「TrypLETM Select(インビトロジェン(株)製)}を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−7)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0074】
<実施例27>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−4)を使用すること以外、実施例23と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0075】
<実施例28>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、細胞洗浄液(C−3)を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−3)を除去した(洗浄工程)。次いで、インビトロジェン社製トリプシン−エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩溶液(トリプシン濃度:0.25%、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(B−1)濃度:0.038%)を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0076】
<実施例29>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−4)を使用すること以外、実施例25と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0077】
<実施例30>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、クエン酸ナトリウム塩(B−4)1.0%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−10)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−10)を除去した(洗浄工程)。次いで、クエン酸ナトリウム塩(B−4)を1.0%、蛋白質分解酵素{商品名「TrypLETM Select(インビトロジェン(株)製)}を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−9)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0078】
<実施例31>
スピンナーフラスコへ、吸水性樹脂(A−1)0.025g及びpH=7.2に調製したPBS10mLを仕込み、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)した。オートクレーブ滅菌後、PBSをアスピレータで吸引除去した後、無血清培地(商品名:OPTI PROTM SFM培地、インビトロジェン(株)製)を2mL添加し、1時間静置した後、培地を吸引除去し、再度、同じ無血清培地を10mL添加した。スピンナーフラスコを37℃、二酸化炭素ガス濃度5容量%のCO2インキュベーターの中に1時間静置した後、予めプレ培養していたMDCK細胞を細胞濃度が20万個/mLになるように無血清培地に播種した。37℃、二酸化炭素ガス濃度5容量%のCO2インキュベーターの中で、90rpmの攪拌をしながら、(A−1)のほぼ全面を細胞で覆われるまで4日間培養を行い4日後の細胞培養液中の細胞が付着した(A−1)を得た。
無血清培地を除去し、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)0.4%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−1)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−1)を除去した(洗浄工程)。蛋白質分解酵素(商品名「TrypLETM Select」、インビトロジェン(株)製)を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−1)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0079】
<比較例1>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)0.02%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−9)}に10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−9)を除去した(洗浄工程)。次いで、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(B−1)を0.02%、蛋白質分解酵素{商品名「TrypLETM Select(インビトロジェン(株)製)}を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−8)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0080】
<比較例2>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、細胞洗浄液(C−9)を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−9)を除去した(洗浄工程)。次いで、インビトロジェン社製トリプシン−エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩溶液(トリプシン濃度:0.25%、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム濃度(B−1):0.038%)を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0081】
<比較例3>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−4)を使用すること以外、比較例1と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0082】
<比較例4>
吸水性樹脂(A−1)の代わりに吸水性樹脂(A−4)を使用すること以外、比較例2と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0083】
<比較例5>
実施例1と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。無血清培地を除去し、クエン酸ナトリウム塩(B−4)0.02%を含むPBS溶液{細胞洗浄液(C−10)}に10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持した後、(C−10)を除去した(洗浄工程)。次いで、クエン酸ナトリウム塩(B−4)を0.02%、蛋白質分解酵素{商品名「TrypLETM Select(インビトロジェン(株)製)}を10%含むPBS溶液{細胞剥離液(D−9)}を10mL加え、37℃、60rpmで10分間保持し、細胞懸濁液を得た(剥離工程)。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0084】
<比較例6>
実施例31と同様にして細胞が付着した(A−1)を得た。比較例1と同様にして細胞懸濁液を得た。実施例1と同様にして、生存率及び回収率を求め、その結果を表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
以上の実施例及び比較例から、本発明の細胞洗浄液又は細胞剥離液を用いた場合、簡単に、高回収率で細胞を剥離することができることが明らかである。一方、本発明の細胞洗浄液及び細胞剥離液を使用しない比較例では、細胞の剥離性が悪く、回収率が低かった。すなわち、本発明の細胞洗浄液又は細胞剥離液を用いた場合のみ、細胞懸濁液が容易に得られ、また高回収率で細胞を回収できる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の細胞洗浄液、細胞剥離液及び剥離方法は、研究開発用としては、分化機能等の細胞機能評価用細胞の培養、動物実験(毒性試験、刺激性試験及び代謝機能試験等)の代替用細胞の培養、遺伝子や蛋白質導入用細胞の培養等に利用することができる。
有用物質生産用としては、サイトカイン、血栓溶解剤、血液凝固因子製剤、ワクチン、ホルモン、抗生物質、抗体及び増殖因子等の生産用細胞の培養に利用することができる。
治療用としては、皮膚、頭蓋骨、筋肉、皮膚組織、骨、軟骨、血管、神経、腱、靭帯、毛胞組織、粘膜組織、歯周組織、象牙質、骨髄、網膜、漿膜、胃腸管及び脂肪等の組織、並びに肺、肝、膵及び腎等の臓器の再生医療用細胞の培養に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水量が2〜50g/gである吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体に付着した細胞を洗浄するための細胞洗浄液であって、キレート剤(B)及び溶媒を含んでなり、(B)の含有量が、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.1〜5重量%である細胞洗浄液(C)。
【請求項2】
保水量が2〜50g/gである吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体に付着した細胞を剥離するための細胞剥離液であって、キレート剤(B)及び溶媒を含んでなり、(B)の含有量が、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.1〜5重量%である細胞剥離液(D)。
【請求項3】
培養液と保水量が2〜50g/gである吸水性樹脂(A)を含んでなる細胞培養担体とを用いて細胞を培養した後、(A)を含んでなる細胞培養担体に付着した細胞を剥離してなる細胞の製造方法であって、下記洗浄工程及び剥離工程を含み、洗浄工程で下記細胞洗浄液(C)を使用する及び/又は剥離工程で下記細胞剥離液(D)を使用する細胞の製造方法。
洗浄工程:培養液から取り出した、細胞の付着した(A)を含んでなる細胞培養担体に細胞洗浄液を添加した後、細胞洗浄液を除去する工程
剥離工程:洗浄工程後、細胞の付着した細胞培養担体に細胞剥離液を添加し、細胞を剥離する工程
細胞洗浄液(C):キレート剤(B)及び溶媒を含んでなり、(B)の含有量が、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.1〜5重量%である細胞洗浄液
細胞剥離液(D):キレート剤(B)及び溶媒を含んでなり、(B)の含有量が、(B)及び溶媒の合計重量を基準として、0.1〜5重量%である細胞剥離液
【請求項4】
洗浄工程で用いる(C)が蛋白質分解酵素を含まない細胞洗浄液である、及び/又は、剥離工程で用いる(D)が蛋白質分解酵素を含む細胞剥離液である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
洗浄工程及び剥離工程での細胞洗浄液(C)又は細胞剥離液(D)の使用量(mL)が、用いる細胞培養担体の培養表面積1cm2当り、0.0001〜10である請求項3又は4に記載の製造方法。