細胞生存度及び生物生産物収率を高めるために、哺乳類細胞培養プロセスにおけるpH、モル浸透圧濃度及び溶存二酸化炭素レベルを制御するための方法
【課題】哺乳類細胞培養プロセスにおいて溶存二酸化炭素レベルを制御し、モル浸透圧濃度を制限して、細胞増殖、生存度及び密度を高め、生物生産物濃度及び収率を増大させるための方法を提供すること。
【解決手段】哺乳類細胞培養プロセスにおける溶存二酸化炭素レベル及びpHの当該制御、並びにその結果としてのモル浸透圧濃度を制限する能力は、哺乳類細胞培養プロセスを通じて代替的なpH制御手法及びCO2分離技術を採用することによって達成される。当該pH制御技術及び二酸化炭素分離は、泡を生成することなく、且つ哺乳類細胞に損傷をほとんど又は全く与えることなく行われる。
【解決手段】哺乳類細胞培養プロセスにおける溶存二酸化炭素レベル及びpHの当該制御、並びにその結果としてのモル浸透圧濃度を制限する能力は、哺乳類細胞培養プロセスを通じて代替的なpH制御手法及びCO2分離技術を採用することによって達成される。当該pH制御技術及び二酸化炭素分離は、泡を生成することなく、且つ哺乳類細胞に損傷をほとんど又は全く与えることなく行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類細胞培養プロセスに関し、より詳細には、細胞培地のpH、モル浸透圧濃度及び溶存二酸化炭素レベルを含むプロセスパラメータの向上した制御を介して細胞増殖、細胞密度、細胞生存度、生産物濃度及び生産物収率を高めるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質治療薬及びモノクローナル抗体などの他の生物製品の商業的生産は、現在では、遺伝的に最適化された哺乳類細胞型、昆虫細胞型又は他の細胞型の懸濁物を培養するように構成されたバイオリアクターにて広く実施されている。哺乳類細胞培養バイオリアクターは、典型的には、使用容量が数百から数千リットルである。最も一般的な大規模製造プラントは、使用容量が約1000リットルから25000リットルまでの範囲のバイオリアクターを有する。臨床試験のための薬物候補は、使用容量が5リットルから数百リットルの使用容量を有する実験室規模のバイオリアクターで生産される。
【0003】
最小の時間で可能な最も高い生物生産物収率を達成するための最適化及び関連するバイオリアクターのスケールアップの課題は、pH、溶存酸素(DO)、温度、栄養物組成及び副産物プロファイル、撹拌プロファイル、ガス散布方法、栄養物供給及び生産物収穫プロファイルなどの認識された臨界プロセスパラメータの制御に焦点をおいてきた。溶存二酸化炭素(dCO2)及びモル浸透圧濃度(即ち溶液1キログラム当たりの溶解粒子の濃度)などの他のプロセスパラメータの重要性は、最近になって文献に記されている。実際、多くの商業的バイオリアクターは、溶存二酸化炭素レベル及び/又はモル浸透圧濃度をインサイツで測定するように設置された手段も、ましてやそれらのパラメータを制御及び最適化する手段も有さない。数百リットルから25000リットルの範囲のバイオリアクター容量の商業的運転の規模に応じて、プロセスのスケールアップ、最適化及び制御が別の課題になる。約1000リットルを超える商業的規模では、溶存二酸化炭素レベル及びモル浸透圧濃度の同時制御及び独立制御は、現在利用可能な最良の技術及び手法を用いても、不可能でないにしても困難になる。
【0004】
バイオリアクターにて製造規模の哺乳類細胞培養プロセスが開始される前に、典型的には、種子培養接種剤が調製される。これは、生産バイオリアクターへの接種のために十分な細胞が利用可能になるまで、容量を順次大きくしたインキュベータ及び/又はより小さいバイオリアクター内の一連のフラスコにて生産細胞を培養することを含む。該プロセスは、1つの培養容器からより大きい容器に細胞集団を移動させることを含む。一般に、移動又は継代培養毎に細胞集団の20%希釈物が使用される。インキュベータにおいて、培地を含むフラスコは、培養物を旋回させ、インキュベータ内の培地と大気の間のガス移動を容易にするために、回転プラットフォームに固定される。典型的には、哺乳類細胞培養プロセスのためのインキュベータは、5%の二酸化炭素(CO2)及び約80%を超える湿度レベルで37℃に設定される。同様の温度及びCO2レベルが、バイオリアクターにて増殖される種子培養物に使用される。種子培養が十分な容量及び細胞密度に達すると、生産バイオリアクターに接種される。
【0005】
種子培養物がバイオリアクターの培地に接種された後に、pH、温度及び溶存酸素レベルなどのパラメータが、細胞培養プロセス中に規定のレベルに制御される。pHは、典型的には、プロセス中に必要であれば塩基性又は酸性溶液を添加することによって制御される。広く使用される塩基溶液としては、重炭酸ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液及び水酸化ナトリウム溶液が挙げられる。より酸性度の強いpHを達成するために、二酸化炭素(CO2)の溶解が広く使用される。pHを制御するために他の酸も利用可能であるが、溶存CO2と重炭酸ナトリウムの組合せが、細胞培養のための最も安定した好ましい緩衝系を形成する。哺乳類細胞培養プロセスのための培地又は培養液の好適な温度は、約37℃である。培地又は培養液における所望のレベルの溶存酸素は、典型的には、バイオリアクターの底部に設置されたスパージャを使用する空気散布とともに、散布された気泡から細胞培地への酸素の移動を強化するために、大きな空気/酸素泡を分散させるインペラを使用する培地又は培養液の撹拌を介して達成される。バイオリアクターヘッドスペースをカバーガスでパージすると、表面ガス交換の程度が制限される。不利なことに、培地又は培養液の空気散布及び撹拌は、細胞生存度に悪影響を与える哺乳類細胞への発泡及び剪断損傷をもたらし得る。培地の表面への泡の蓄積は、また、表面ガス交換をさらに制限し、バイオリアクターの利用可能な使用容量を低減させるように働く。
【0006】
商業規模の哺乳類細胞培養プロセスを3つの異なる動作方式、懸濁細胞培養のためのバッチ方式又は流加方式、及び固定化細胞のための潅流方式で実施することができる。商業規模の哺乳類細胞培養プロセスの大半は、流加方式で動作される。流加方式において、最初のバイオリアクター設定後に、炭素源及び他の栄養物を補給するために、さらなる培地及び栄養物が、細胞培養プロセスを通じて異なる時間でバイオリアクターに添加される。
【0007】
バイオリアクターは、哺乳類細胞培養に使用する前に、典型的には、滅菌され、様々なプローブ、並びに補給ガス供給及びさらなる供給物の導入のために接続部が備えられなければならない。細胞培地又は培養液の温度、pH、溶存酸素及び溶存CO2レベルをリアルタイムで監視するために温度プローブ、pH検出器、溶存酸素プローブ及び溶存CO2プローブ又はセンサが使用される。加えて、細胞培地又は細胞培養液サンプルを、選択された間隔でバイオリアクターから抜き出して、細胞密度及び細胞生存度を決定するとともに、代謝物質及びモル浸透圧濃度などの他の特性を分析することができる。細胞生存度を高め、生物生産物の生産を増大させるために、当該分析結果に基づいて、さらなる供給物又は他の添加剤を細胞培地又は細胞培養液に添加することができる。細胞生存度が規定の下限閾値に達すると、細胞培養プロセスを停止又は休止することができる。規定の下限閾値は、収穫された生物生産物の下流の回収及び精製の結果に基づいて実験的に決定されることが多い。
【0008】
培養プロセスを通じて、哺乳類細胞は、3つの時期、即ち遅滞期、指数増殖期及び定常期又は生産期を示す。遅滞期は、接種直後に生じ、一般には、哺乳類細胞の新しい環境への生理的順応の時期である。遅滞期の後に、哺乳類細胞は、指数増殖期にあると考えられる。指数増殖期において、哺乳類細胞は、倍増し、細胞密度は、時間とともに指数関数的に増大する。多くの細胞は、実際に、指数増殖期におけるある時点を通じて、所望のタンパク質、抗体又は生物生産物の生産を開始する。細胞密度は、培養における細胞の全数を指し、通常は生存細胞及び非生存細胞の密度で示される。哺乳類細胞が定常期又は生産期に達すると、生存細胞は、下流の収穫のための生物生産物を活発に生産する。この時期を通じて、全細胞密度は、一般には一定に保たれ得るが、細胞生存度(即ち生存細胞の割合)は、時間とともに急激に減少する傾向がある。
【0009】
哺乳類細胞は、細胞培地又は細胞培養液における溶存二酸化炭素の量に敏感であることが知られている。指数増殖期を通じて過剰の二酸化炭素レベルに曝露された哺乳類細胞培養物は、モノクローナル抗体又は他の所望の生物生産物の生産の低減を示し得る。接種前に、わずかにアルカリ性の培地のpHを、最適な値に調整された二酸化炭素で低下させなければならない。これにより、多くの哺乳類細胞培養プロセスの遅滞期の開始時に、溶存二酸化炭素のレベルがしばしば増加する。
【0010】
哺乳類細胞培養バイオリアクターにおける溶存二酸化炭素は、化学源及び生物源に由来する。二酸化炭素の化学源は、重炭酸ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む選択量の緩衝液を含む細胞培地又は細胞培養液内で生じる平衡化学反応である。また、二酸化炭素をわずかにアルカリ性の培地又は培養液に直接散布して、液体培地のpHを規定のレベル、通常は7.0付近まで低減させて、より多くの溶存二酸化炭素をもたらすことができる。二酸化炭素の生物源は、バイオリアクター内の哺乳類細胞の呼吸の産物である。二酸化炭素の生物源は、細胞密度とともに増大し、一般には、バイオリアクター内の細胞密度が最大になるのとほぼ同時に最大値に達する。しかし、より多くの二酸化炭素が生成されると、細胞培地のpHは、細胞培地又は細胞培養液のpHを所望の範囲内に維持するためにさらなる炭酸水素塩が必要とされるように酸性に近づく傾向がある。
【0011】
pHを下げる溶存二酸化炭素の増大の効果を相殺するために、溶液のpHを規定の範囲内に維持するように重炭酸ナトリウムを添加することができる。二酸化炭素の増大の効果を相殺するこれらの手段のいずれもが、哺乳類細胞培養プロセスに対して他の負の結果をもたらす。第一に、溶存二酸化炭素レベルの増大は、細胞培地又は培養液のモル浸透圧濃度の増大に寄与する。同様に、二酸化炭素を相殺するために溶液のpHを調整するのに必要とされる重炭酸ナトリウムの添加もモル浸透圧濃度を増大させる。(モル浸透圧濃度は、溶液1キログラム当たりの溶解粒子の数を表し、一般には、凍結点低下によるmOsm/kgで報告される)。重炭酸ナトリウムの添加も、溶液中で可能な溶存二酸化炭素の平衡飽和レベルを増大させて、通気プロセス中に二酸化炭素を除去することをより困難にする。溶存二酸化炭素のレベルの増大又はモル浸透圧濃度の増大は、細胞密度又は収率に対して悪影響又は負の影響を与えることが、当技術分野で既知である。しかし、二酸化炭素レベル及びモル浸透圧濃度の複合又は相乗効果は、十分に理解されていない。
【0012】
二酸化炭素は、水中にて7のpHで炭酸水素イオンに解離する。二酸化炭素の一部のみが、非解離状態の遊離CO2にとどまる。したがって、たいていの哺乳類細胞培養は、6.5から7.5の範囲のpHで行われるため、細胞培養から溶存二酸化炭素を除去することが困難になる。解離した炭酸水素イオンは、容易に除去されず、一般には、それらを溶液から分離する前に、遊離二酸化炭素に再統合しなければならない。pHのバランスをとるための重炭酸ナトリウムの添加も、溶液における平衡溶存二酸化炭素濃度又は飽和レベルを増大させて、二酸化炭素を物理的に除去することをより困難にする。
【0013】
溶存二酸化炭素を哺乳類細胞培養液から除去又は分離する従来の方法は、撹拌タンクにおいて細胞培養液に空気又は空気/酸素/窒素のガス混合物を散布することによる。しかし、撹拌タンクにおけるガス散布は、細胞培養プロセスに悪影響をもたらす。特に、回転撹拌機の先端におけるガス気泡破壊は、細胞死を引き起こすのにしばしば十分な、哺乳類細胞膜を損傷する高剪断速度の源である。損傷が致死以下であっても、損傷された膜が修復される期間における細胞生産性が損なわれる。
【0014】
また、空気又は窒素をバイオリアクター内に散布すると、バイオリアクター内の溶液の表面まで上昇するガス気泡が生成され、そこで気体がヘッドスペース内に放出される。細胞培養液の上面におけるガス気泡破壊は、撹拌機によって引き起こされる損傷よりしばしば強い損傷を哺乳類細胞に与える。撹拌機速度を抑制し、ガス散布速度を制限することは、現在では、当該損傷を回避し、細胞生存度を増大させる最良の手段であると見なされる。しかし、これらの手段は、除去できる二酸化炭素の量を低減させ、除去できない超過量が、また、細胞増殖及び生存度を阻害する。これらの欠点は、特に、剪断速度が実質的にインペラの直径とともに増大する大きな商業規模のバイオリアクターにおいて克服すべき課題である。また、大規模バイオリアクターの静水頭が大きくなるほど二酸化炭素の溶解度が増大する傾向は、溶存CO2レベルを最適な範囲内に維持するためにより多くの量が除去される必要があることを意味する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、哺乳類細胞培養プロセスにおける生産物収率を高めるための方法であって、バイオリアクターにおける細胞培地の上面での表面ガス交換を介して溶存二酸化炭素を除去することにより、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期全体を通じて、細胞培地における溶存二酸化炭素を、約10%未満の濃度の溶存二酸化炭素のレベルに維持する工程を含み、細胞培地におけるモル浸透圧濃度を哺乳類細胞培養プロセス中に特定の細胞に対して最適な範囲に維持し、細胞培地のpHを哺乳類細胞培養プロセス中に特定の細胞に対して最適な範囲に維持する方法として特徴づけることができる。
【0016】
本発明は、また、流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおけるタンパク質生産物収率を高めるための方法であって、(i)溶存二酸化炭素と平衡する規定レベルの炭酸水素塩及び初期レベルのモル浸透圧濃度を有する細胞培地を含むバイオリアクターに哺乳類細胞培養物を接種する工程と、(ii)哺乳類細胞培養プロセスの増殖期を通じて栄養物を細胞培地に定期的に添加する工程と、(iii)哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期を通じて酸又は塩基を細胞培地に定期的に添加して、二酸化炭素ガスを添加することなくpHレベルを哺乳類細胞の規定範囲内に維持する工程と、(iv)哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期を通じて、バイオリアクターにおける細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量を調整して、細胞培地の上面における表面ガス交換を促進する工程と、(v)増殖期及び生産期を通じて、バイオリアクターにおける細胞培地の上面の下方に配置された上方流動インペラの回転速度を調整する工程とを含む方法として特徴づけることができる。細胞培地における溶存二酸化炭素は、表面ガス交換を介して二酸化炭素を分離することによって、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期全体を通じて約10%未満の濃度の溶存二酸化炭素の安定したレベルに維持される。細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、哺乳類細胞培養プロセスを通じて特定の細胞に対する最適な範囲に維持され、流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産物収率が高められる。
【0017】
本発明は、代替的に、流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける生産物収率を高めるための方法であって、(i)溶存二酸化炭素と平衡する規定レベルの炭酸水素塩を有する細胞培地に細胞培養物を接種する工程と、(ii)溶存二酸化炭素を除去することによって、流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期全体を通じて、細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を約10%未満に維持する工程と、(iii)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期の開始時から生産期の終了時まで、細胞培地におけるモル浸透圧濃度の上昇を400mOsmol/kg未満に制限する工程とを含み、哺乳類細胞培養プロセスを通じて、細胞培地のpHを特定の細胞に対する最適な範囲に維持する方法として特徴づけることができる。
【0018】
本発明は、また、流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける細胞培地のpHレベルを制御するための方法であって、(i)接種期を通じて二酸化炭素及び重炭酸ナトリウム緩衝液を細胞培地に供給して、細胞培地において炭酸水素塩及び溶存二酸化炭素の規定の平衡レベル及びモル浸透圧濃度の初期レベルを確立する工程と、(ii)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期を通じて溶存二酸化炭素を細胞培地から分離する工程と、(iii)増殖期及び場合により生産期を通じて栄養物を細胞培地に添加する工程と、(iv)増殖期及び生産期を通じて酸又は塩基を細胞培地に添加して、pH調整のために二酸化炭素を添加することなく、pHレベルを規定範囲に維持する工程とを含む方法として特徴づけることができる。このプロセスの結果として、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベルは、規定範囲に維持され、増殖期の開始時から生産期の終了時までのモル浸透圧濃度レベルの上昇は、400mOsmol/kg未満であり、細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度は、増殖期及び生産期を通じて10%以下に維持される。
【0019】
本発明は、さらに代替的に、流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて細胞生存度を高め、タンパク質生産物収率を増大させるための方法であって、(i)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて細胞培地を水で希釈して、細胞培地における廃棄物の毒性作用を低減する工程と、(ii)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて補給栄養物を細胞培地に添加して、水の希釈効果を補償する工程と、(iii)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて、細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベル及びpHレベルの両方を哺乳類細胞に対する最適な範囲に維持する工程とを含み、流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて、哺乳類細胞の高められた細胞生存度によりタンパク質生産物収率を増大させる方法として特徴づけることができる。
【0020】
本発明を特徴づけるさらに別の方法は、流加式の哺乳類細胞培養プロセスから生産されたタンパク質生産物の純度を向上させるための方法であって、(i)溶存二酸化炭素と平衡する規定レベルの炭酸水素塩及び初期レベルのモル浸透圧濃度を有する細胞培地を含むバイオリアクターに哺乳類細胞培養物を接種する工程と、(ii)栄養物を細胞培地に添加することによって、細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを増大させて、哺乳類細胞からのタンパク質生産を加速させる工程と、(iii)酸又は塩基を細胞培地に添加して、pHレベルを哺乳類細胞の規定範囲内に維持する工程と、(iv)流加式の哺乳類細胞培養プロセス全体を通じて細胞培地から溶存二酸化炭素を分離する工程であって、細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、モル浸透圧濃度の初期レベルからのモル浸透圧濃度レベルの上昇を約400mOsmol/kg未満に制限する工程と、(v)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は早期生産期を通じてタンパク質生産物をバイオリアクターから収穫する工程とを含む方法である。
【0021】
最後に、本発明は、流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを制御する方法であって、(i)接種期を通じて、二酸化炭素及び重炭酸ナトリウム緩衝液を細胞培地に供給して、細胞培地において炭酸水素塩及び溶存二酸化炭素の規定の平衡レベル並びにモル浸透圧濃度の初期レベルを確立する工程と、(ii)増殖期を通じて細胞培地に栄養物を添加することによって、細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを増大させる工程と、(iii)増殖期を通じて酸又は塩基を細胞培地に添加して、pHレベルを規定範囲に維持する工程と、(iv)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期を通じて細胞培地から溶存二酸化炭素を分離する工程とを含み、増殖期を通じて細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベルが、増殖期の一部を通じて減少し、増殖期の開始時から増殖期の終了時までのモル浸透圧濃度レベルの全上昇が約400mOsmol/kg未満である方法として特徴づけることができる。
【0022】
本発明の上記及び他の態様、特徴及び利点は、以下の図面とともに示される以下のこれらのより詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】高ピークレベルの溶存二酸化炭素を有する1つの系統、中ピークレベルの溶存二酸化炭素を有する別の系統、及び低ピークレベルの溶存二酸化炭素を有する第3の系統を含む、中程度のモル浸透圧濃度レベルを有するプロセスにおける哺乳類細胞系の3つの異なる系統についての溶存二酸化炭素の割合を示すグラフである。
【図2A】中程度のモル浸透圧濃度を有する図1のプロセスにおける哺乳類細胞系の3つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生存細胞密度を示すグラフである。
【図2B】中程度のモル浸透圧濃度を有する図1のプロセスにおける哺乳類細胞系の3つの異なる系統についての時間(日)の関数としての割合としての細胞生存度を示すグラフである。
【図2C】中程度のモル浸透圧濃度を有する図1のプロセスにおける哺乳類細胞系の3つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける全細胞密度を示すグラフである。
【図3A】中程度のモル浸透圧濃度を有する図1のプロセスにおける哺乳類細胞系の3つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生物生産物濃度を示すグラフである。
【図3B】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する図1、2及び3Aに記載の典型的な低溶存二酸化炭素哺乳類細胞培養プロセスのモル浸透圧濃度プロファイルを示すグラフである。
【図3C】図1、2及び3Aに記載の基線哺乳類細胞培養プロセスのモル浸透圧濃度プロファイルを示すグラフである。
【図4】第1の系統が低ピークレベルの溶存二酸化炭素を含み、第2の系統が中程度の全体ピークレベルの溶存二酸化炭素を含む、全体的に一定又は安定モル浸透圧濃度を有するプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける溶存二酸化炭素の割合を示すグラフである。
【図5】中程度のモル浸透圧濃度及び全体的に一定又は安定レベルの溶存二酸化炭素を有する図4のプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生存細胞密度を示すグラフである。
【図6】中程度のモル浸透圧濃度及び全体的に一定又は安定レベルの溶存二酸化炭素を有する図4のプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生物生産物力価又は濃度を示すグラフである。
【図7】哺乳類細胞培養プロセスの増殖及び生産期を通じての溶存二酸化炭素プロファイルを示すグラフである。
【図8】異なるが、全体的に一定レベルの溶存二酸化炭素が維持された哺乳類細胞系のさらに別の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生存細胞密度を示すグラフである。
【図9】異なるが、全体的に一定レベルの溶存二酸化炭素を有する図8のプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおけるモル浸透圧濃度を示すグラフである。
【図10】異なるが、全体的に一定レベルの溶存二酸化炭素を有する図8のプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生存細胞の割合を示すグラフである。
【図11】異なるが、全体的に一定レベルの溶存二酸化炭素を有する図8のプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生物生産物収率又は力価を示すグラフである。
【図12】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける溶存二酸化炭素を標準的な系統と比較して示すグラフである。
【図13】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける細胞生存度を標準的な系統と比較して示すグラフである。
【図14】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生存細胞密度を標準的な系統と比較して示すグラフである。
【図15】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生物生産物収率又は力価を標準的な系統と比較して示すグラフである。
【図16】モル浸透圧濃度レベルが異なる細胞培養プロセスにおけるIgG力価対ピークdCO2の傾向を示す図である。
【図17】低レベルの溶存二酸化炭素を含むDGC型細胞培養プロセスにおけるIgG力価対最大モル浸透圧濃度の傾向を示す図である。
【図18】モル浸透圧濃度と溶存二酸化炭素の様々な組合せにおいて様々な細胞培養プロセス系統を通じて収集されたデータを示す表である。
【図19A】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する第1のサンプル系統を通じての、バイオリアクターに配置された上方流動インペラの回転速度、及びバイオリアクターにおける細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量の調整を示すグラフである。
【図19B】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する第2のサンプル系統を通じての、バイオリアクターに配置された上方流動インペラの回転速度、及びバイオリアクターにおける細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量の調整を示す別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
溶存二酸化炭素とpHとモル浸透圧濃度との関係
商業的規模の哺乳類細胞培養製造の大部分を流加式のプロセスにシフトさせると、比較的一定のモル浸透圧濃度、pH及び溶存二酸化炭素レベルを維持するように制御することは、ほぼ不可能である。流加式のプロセスを通じた栄養物及び細胞増進剤の添加は、常に細胞培養モル浸透圧濃度を増大させる傾向がある一方で、pH及び溶存二酸化炭素レベルは、プロセス全体を通じて絶えず変化している。
【0025】
例えば、指数増殖期を通じて生成される二酸化炭素は、たいていの現行のバイオリアクターの二酸化炭素分離能力を超えるため、溶存二酸化炭素レベルの継続的増大を招き得る。細胞培地のpHの制御は、任意の哺乳類細胞培養プロセスにおいて管理すべき最も重要なパラメータの1つと見なされるため、溶存二酸化炭素レベルのこの継続的上昇は、pHに対する溶存二酸化炭素の効果を中和するためのアルカリの添加をしばしば必要とする。溶存二酸化炭素の増大及びアルカリの添加は、ともに、細胞培地又は細胞培養液のモル浸透圧濃度をさらに増大させる。要約すると、細胞培地又は細胞培養液におけるpH、モル浸透圧濃度及び溶存二酸化炭素レベルは、すべて密接に相互関連している。当業者の多くは、最も低い溶存二酸化炭素レベル及びモル浸透圧濃度レベルが、哺乳類細胞培養プロセスの最良のプロセス条件を提供するはずであると考えている。しかし、最近の研究及び本明細書に開示されているいくつかの実験データは、そうでなく、個別の哺乳類細胞系及び細胞培養プロセス毎に最適な溶存二酸化炭素レベル及び最適なモル浸透圧濃度を決定する必要が依然としてあることを示唆している。
【0026】
二酸化炭素を哺乳類細胞培地に溶解させると、細胞を増殖させるための必須のイオンであるHCO3−を形成する。溶存二酸化炭素がHCO3−イオンとの平衡を確立すると、pHが低下する。HCO3−が必要であることは、その緩衝作用と無関係であるが、二酸化炭素、HCO3−及びpHは密接に相互関連しているため、溶存二酸化炭素の最適なレベル及び細胞増殖に対する直接的効果を定めることが困難であった。開放された容器で細胞をインキュベートするときは、典型的には、空気95%と二酸化炭素5%のガス混合物が使用される。二酸化炭素の濃度は、本来は、それが肺の肺胞空間に見出されたものであることに基づいて選択された。この二酸化炭素濃度は、肺線維芽細胞に対する研究を意図としたものであったが、哺乳類細胞培養プロセスにおける典型的な二酸化炭素濃度になった。
【0027】
気相二酸化炭素圧力は、温度の関数として、溶存二酸化炭素の濃度を直接制御する。この制御は、次に、以下の反応に従って解離するH2CO3を生成する。
【化1】
【0028】
HCO3−は、かなり小さい解離定数を有し、低濃度の水素イオンしか生成せず、溶液pHの中程度の低下しか達成しない。雰囲気二酸化炭素を増大させる正味の結果は、上記(1)に示される一連の平衡を右側にシフトさせることによってpHを下げることである。一定のpHを維持するために、重炭酸ナトリウムなどのアルカリを使用して、二酸化炭素圧力の上昇の効果を中和する。
【化2】
【0029】
HCO3−濃度の増大は、より高い溶存二酸化炭素レベルの効果を相殺し、炭酸水素塩系に対して平衡をpH7.4で確立できるまで上記(1)の平衡を左にずらせる。
【0030】
要約すると、開放容器における細胞培養物を、その濃度が培地における重炭酸ナトリウムと平衡である二酸化炭素の雰囲気中でインキュベートする必要がある。中程度に高濃度(1×105個/ml)までの密閉フラスコにおける細胞増殖は、炭酸水素塩濃度が低く(約4mM)維持されているのであれば、特に、細胞が高酸生産者であれば、二酸化炭素を気相に添加する必要がない。しかし(例えばクローン化又は接種時に)、より低い細胞濃度において、いくつかの初代培養を用いると、二酸化炭素を密閉フラスコの気相に添加する必要がある。二酸化炭素の平衡化又は(高酸生産者のような)その排出を可能にするために通気が必要であるときは、キャップ垂みを残すか、又は二酸化炭素透過性キャップを使用することが必要である。インキュベータの多くが、空気95%と二酸化炭素5%の混合物でパージされる。
【0031】
十分に制御されたバイオリアクターにおいて、培地pHを適正な値に調整するために、少なくとも開始時に二酸化炭素が必要になる。バイオリアクター設定点より高いpHを有する傾向があるため、インキュベータ内の小さい容器における接種材料増殖を中和するためにさらなる二酸化炭素が必要になる。二酸化炭素を用いたこれらの最初のpH調整は、出発バッチのモル浸透圧濃度を上昇させる。
【0032】
バッチプロセスで培養された細胞が指数増殖期に達すると、それらは、代謝活性が最大になり、各細胞は、その最大の二酸化炭素出力を生成する。細胞密度が低いときは、液体培地に空気を散布するか、又はバイオリアクターのヘッドスペースにカバーガス若しくは空気をスイープすることによって二酸化炭素の大半を除去することができる。しかし、バッチサイクルになって数日間であるが、二酸化炭素生成が、典型的なバイオリアクターの通常の二酸化炭素除去能力を超えることになる。細胞によって生成された過剰の二酸化炭素は、溶存二酸化炭素レベルを増大させ、溶液pHを低下させる。好適なpHを維持するために、さらなる塩基を添加しなければならないため、溶存二酸化炭素が過剰になり、モル浸透圧濃度が望ましくないくらいに高くなる。
【0033】
二酸化炭素生成と分離速度の不均衡による最適以下の条件は、より大規模なバイオリアクターにスケールアップするとより深刻になる。第一に、従来のバイオリアクターは、大きさが増大するに従って表面積対容積比が減少する。リアクター容積に対して同じカバーガスでは、液体表面における二酸化炭素除去の有効性が著しく低下する。好適な二酸化炭素分離システム及び方法の例が、米国仮特許出願第61/086665号に開示されている。
【0034】
哺乳類細胞培養におけるpH最適化
哺乳類細胞培養プロセスにおけるpH設定点は、細胞培養性能に有意に影響を与え得る。細胞培地のpHは、多くの哺乳類細胞型の細胞内酵素活性に影響を与えることが知られている。pHを下げると、比グルコース消費率及びラクテート生成率が低減して、グルコース欠乏のリスク又はラクテートの毒性レベルが低減する。典型的な哺乳類細胞培養におけるより低いpH設定点は約7.0であり、約6.8未満のpHは、細胞増殖を阻害することが知られる。中間又は中程度のpH値も、哺乳類細胞の比増殖率及び比生産率に影響を与え、究極的には全体的な培養生産性に影響を与えることが知られている。過度に低いpH又は過度に高いpHは、細胞を死滅させ得る。
【0035】
約7.0から7.4のpH範囲は、哺乳類細胞培養プロセスに広く使用される。例えば培地が補充されるなどのプロセス時にしばしば生じるpHの幅広い変動は、細胞に悪影響を与える。哺乳類細胞培養プロセスにおけるpHの制御は、高い細胞密度(>1×106個/ml)が日常的に達成されるため、今日では特に重要である。適正なpH制御がなければ、細胞培養液体培地は、細胞が非常に濃縮されると急激に酸性化する。
【0036】
異なる哺乳類細胞型は、増殖のためのpH最適条件が異なり得る。概して、ヒト線維芽細胞は、株化細胞のpH(pH7.0〜7.4)より高いpH(7.6〜7.8)で増殖し、7.2〜7.4のpHで初代細胞を培養するのが普通である。低培養密度におけるヒト包皮線維芽細胞(例えばFS−4)の増殖のための最適なpHは、ヒト肺線維芽細胞(例えばMRC−5)の増殖のための最適なpHより強いアルカリ性である。約105個/ml以下の密度において増殖期を通じてこれらの細胞を培養するときは、pHは、FS−4細胞に対しては約7.7から7.8であり、MRC−5細胞に対しては約7.5から7.6であるべきである。CHO細胞については、通常は、接着時に約7.0のpHで細胞を培養することが有利である。数時間後、CHO細胞培養プロセスにおけるpHをわずかに高い値に増大することができる。
【0037】
細胞培養液体培地を約7.0以上のpHに維持することは、溶存二酸化炭素レベルを制御するための努力に対して別の課題を提起する。二酸化炭素は水と反応し得るため、CO2、H2CO3、HCO3−及びCO32−の4つの形のいずれかにて液相で存在することができる。
【0038】
上記式(1)のような平衡関係は、約5.0以下のpHでは、ほぼすべての溶存二酸化炭素がCO2の形であることを示していた。約7.0から9.0のpHでは、炭酸水素塩が炭素の主たる形である。最後に、約11.0以上のpHでは、ほぼすべてが炭酸塩である。たいていの哺乳類細胞培養物のpHは、一般には約pH7.0からpH7.4に制御されるため、二酸化炭素除去は、一般には、pHがはるかに低くなり得る微生物発酵プロセスと比較すると、より困難である。
【0039】
約7.0から7.4のpHにおいて細胞培養液体培地から溶存二酸化炭素除去するために、制限工程は、化学的又は物理的であり得る。溶存二酸化炭素分子のみが気液界面を跨いで輸送されるため、炭酸水素塩は再結合して、二酸化炭素分子を形成しなければならない。上記式(1)を2つの部分に分けると、式(3)及び(4)として以下に記載されている逆反応は、一般には高速であるのに対して、式(5)によって表される反応の第1の部分は、はるかに遅いことに留意されたい。
【化3】
【化4】
【化5】
[式中、k1=20s−1であり、k−1=0.03s−1である。]。
【0040】
pHの制御は、pHが実質的にpH7.0からpH7.4の範囲外にあるときに多くの哺乳類細胞型が死滅するため、重要なプロセス条件である。現行の細胞培養プロセス制御に固有の制限では、一次的な目標はpH制御であり、溶存二酸化炭素/炭酸水素塩レベル及びモル浸透圧濃度はほとんど無制御であり、培養サイクルを通じて有意に変化する。一定のpH、溶存二酸化炭素及びモル浸透圧濃度を同時に維持する利益を実証する入手可能なデータがほとんど存在しない。
【0041】
培地を細胞増殖条件の2つの集合体の下、即ち(1)二酸化炭素が大気中に消散して、pHを上昇させ得る(例えばインキュベータ内部の)小さな開放容器内及び(2)高い細胞濃度により二酸化炭素及び乳酸の生成が最大になってpHを低下させる場合のバイオリアクター内で緩衝しなければならない。緩衝液を培地に含めて、pHを安定化することができるが、特に低細胞濃度において、溶存二酸化炭素及び炭酸水素塩の培地からの全面損失を防止するために、まだいくつかの細胞系によってさらなる気体二酸化炭素が必要とされる。
【0042】
炭酸水素塩緩衝液は、生理的pHにおける緩衝能力が低いにもかかわらず、毒性が低く、コストが小さく、培養に対する栄養的利益を有するため、依然として他の緩衝液より頻繁に使用される。したがって、pHを制御する上での二酸化炭素の役割は、依然として、高細胞収率及び高細胞生存度のための条件を最適化する際に考慮すべき最も重要な側面である。
【0043】
別のアルカリ(例えばNaOH)が代わりに使用される場合は、正味の結果は炭酸水素塩と同様である。
【化6】
【0044】
多くの細胞培地成分は、酸溶液で構成され、緩衝液を含み得るため、他の塩基が、上記式(6)のように炭酸水素塩レベルにも間接的に寄与し得るときに、どの程度の炭酸水素塩を使用するかを予測するのは困難である。
【0045】
グッドの緩衝液(例えば、HEPES、トリシン)を組織培養に導入すると、二酸化炭素は、pHを安定化させるためにもはや必要でなくなるため、省略され得ることが推測される。この推測は、特に低細胞濃度において、少なくとも多数の哺乳類細胞型については真実でないことが証明された。20mMのHEPESは、通常の生理的範囲内のpHを制御することが示されたが、雰囲気二酸化炭素の不在は、式(1)を左側に移行させ、結果として、溶存二酸化炭素、そして究極的にはHCO3−を細胞培地から除去することになる。この事象連鎖は、細胞増殖を制限すると思われるが、細胞増殖の制限が、溶存二酸化炭素の欠如又はHCO3−の欠如又はその両方の結果であるかどうかは明らかでない。
【0046】
別の例は、緩衝又はpHの制御のために二酸化炭素を利用しないライボビッツL−15細胞培地である。ライボビッツL−15細胞培地は、好ましくは、低圧力の二酸化炭素が必要なときに使用される。ライボビッツL−15は、より高濃度のピルビン酸ナトリウム(550mg/L)を含むが、NaHCO3が欠如し、気相に二酸化炭素を必要としない。培地にピルベートを含めると、哺乳類細胞が、それらの二酸化炭素の生成を増大させることが可能になり、それらが、外部供給二酸化炭素並びにHCO3−と無関係になる。ライボビッツL−15細胞培地における緩衝は、比較的高いアミノ酸濃度を介して達成される。しかし、炭酸水素塩の細胞培地からの除去は、上記グッドの緩衝液についてみられるものと同様の負の影響を細胞増殖に及ぼす。これらの種類の緩衝系は、低細胞密度の小さい開放皿に対して十分に作用し得るが、高細胞密度のバイオリアクターでは非常に有害である。
【0047】
現在、たいていの細胞培地は、CO2/HCO3−緩衝系を利用しているが、この能力は、小さいバッチプロセスにおいて細胞培養サイクルの終了に向けてpHが減少することを防止するのにしばしば不十分である。
【0048】
バイオリアクターでの大規模な哺乳類細胞培養では、HCO3を添加するか、又は二酸化炭素圧力を増大させることによってpHの小さな変化を制御することができる。NaOH又はHClを添加するとより大きな変化が制御されることになるが、局在化した細胞損傷は、強塩基又は強酸の添加に起因し得る。大規模なシステムによって提供されるコンスタントな監視及び制御機会は、高細胞収率のためにHEPESがもはや必須でなくなることを意味する。新鮮な培地を補給しても細胞培養pHを制御することができる。pH制御のために緩衝液を添加するときに、細胞培地のモル浸透圧濃度を有意に変化させないように注意すべきである。
【0049】
培地のモル浸透圧濃度は、細胞培養の生産性に有意に影響を与える。培地のモル浸透圧濃度の増大は、比細胞増殖率を減少させ、比生産率を増大させることが示された。初期の培地モル浸透圧濃度を培地処方から予測することができる。培地成分同士の相互作用の量は、典型的には、モル浸透圧濃度を各成分の寄与の合計と有意に異なるものではない。典型的な培地の成分の個々のモル浸透圧濃度を以下の表に示す。
【表1】
【0050】
培養における細胞の増殖及び機能は、培地における適切なモル浸透圧濃度の維持に左右される。いくつかの細胞(例えば、HeLa及び他の株化細胞系)は、モル浸透圧濃度の幅広い変動に耐えることができる。対照的に、初代細胞及び正常な二倍体株は、モル浸透圧濃度の変化に非常に敏感であり、それが狭い範囲内に維持される場合にのみ高収率を得ることができる。
【0051】
モル浸透圧濃度を制御すると、より再現性のよい培養が得られることが報告されている。特定の培地の供給源を変える毎にモル浸透圧濃度を確認すべきである。商業的供給者によって生産された細胞培地のモル浸透圧濃度は、恐らくは本来の処方の解釈が違うため、異なり得る。しかし、高収率培養は、培養サイクルを通じて培地への様々な添加をしばしば必要とする。これらは、緩衝液(HEPES)、酸(HCl)、塩基(NaOH)、増殖ホルモン及び栄養物を含むことができる。モル浸透圧濃度を上昇させる必要がある場合は、NaClを添加することができ、特定のモル浸透圧濃度を達成するのに必要とされる正確な量は、以下のように計算される。
例えば、1mgのNaCl/ml=1mlの原液(mOsm)=32mOsmの増大
【数1】
式中、
Dosm=所望のモル浸透圧濃度(mOsm)、
Mosm=実測モル浸透圧濃度(mOsm)、及び
X=培地1ml当たり添加されるNaCl(mOsm)の原液のml数。
【0052】
培地のモル浸透圧濃度が測定され、所望のモル浸透圧濃度を達成するために添加されるべきNaCl原液(1mg/ml)の量が計算される。凍結点の低下によるモル浸透圧濃度の測定は、培地での栄養物の希釈又は大容量の緩衝液若しくは食塩水の添加を必要としないため、最も実用的な方法である。蒸気圧の低下は、モル浸透圧濃度を測定する別の一般的方法である。
【0053】
pH制御
哺乳類細胞培養においてpHを維持するための最も一般的な手順は、バイオリアクターにおけるpH変動から極めて良好に保護する緩い緩衝液である重炭酸ナトリウム/二酸化炭素を使用することである。しかし、炭酸水素塩のレベルは、炭酸水素塩と溶存二酸化炭素の濃度比が迅速な酸−塩基平衡によって設定されるため、細胞培養サイクルの開始時における平衡溶存二酸化炭素レベルを支配する。その後、バイオリアクターにおけるpHは、炭酸水素塩又は二酸化炭素のさらなる添加によって制御される。例えば、細胞培養プロセスによる乳酸の生成は、炭酸水素塩が二酸化炭素に部分的に分解したときに約7.0のpHに達するまでさらなる炭酸水素塩添加を促進することになる。細胞培養プロセス時に細胞によって生成されるアンモニアは、さらなる二酸化炭素添加を促進することになる。炭酸水素塩又は二酸化炭素の連続的な添加は、典型的には、細胞培地における過度のモル浸透圧濃度、並びに細胞培養プロセス時における溶存二酸化炭素レベルの連続的な変動をもたらす。
【0054】
哺乳類細胞培養プロセスにおいてpHを制御するための本明細書に開示のシステム及び方法は、選択された細胞培地に対する所望のpH範囲及び所望の溶存二酸化炭素レベルを確認すること;初期の最小量の炭酸水素塩を供給して、所望のpH範囲内に入るように細胞培地のpHを調整し、所望レベルの溶存二酸化炭素を細胞培地内に生成することを含む。溶存二酸化炭素レベルと炭酸水素塩レベルとのこの初期の平衡は、最終的な細胞生存度並びに生産レベル及び収率に有意な影響を与えることが判明した。接種前に、低レベル、即ち10%未満、好ましくは約5%に達する溶存二酸化炭素の平衡を可能にするのに十分な重炭酸ナトリウムが培地に添加される。
【0055】
その後、炭酸水素塩のさらなる増大及びそれに伴う溶存二酸化炭素の増大を避けるための所望の範囲内にpHを維持するために、必要に応じて水酸化ナトリウムを添加することによってpHが維持される。強塩基である水酸化ナトリウムは、また、モル浸透圧濃度を有意に増大させることなくpHを所望の範囲内に維持し、溶存二酸化炭素のレベルを所望のレベルで又はその付近に比較的安定に維持する。
【0056】
細胞培養プロセスを向上させるための溶存二酸化炭素レベルの制御
いくつかの先行技術文献は、細胞培養液における溶存二酸化炭素のレベルが、細胞培養プロセスの指数増殖期又は生産期時の比増殖率及び細胞密度にほとんど又は全く影響を与えないことを示唆している。これらの先行技術の実験のほとんどは、ガスの散布速度を増大させることが、さらなる二酸化炭素を移動させる唯一の手段である従来の撹拌タンクバイオリアクターにて実施された。発泡及び剪断による細胞の死滅率は、二酸化炭素を除去する利益を覆い隠す。
【0057】
本システム及び方法は、生産期を通じて細胞生存度に対して有益な効果をもたらす開始時及び指数増殖期時の両方における細胞培地中の溶存二酸化炭素レベルの厳密な制御を提供する。したがって、蓄積生産物収率は、また、増殖期の規定レベルの溶存二酸化炭素に対する細胞の曝露によって影響される。本明細書に記載されているように、様々な試験系統又は試験バッチは、指数増殖期に溶存二酸化炭素のレベルを厳密に制御すると、生産期により高い蓄積生産物収率が得られるとともに、生産期の細胞生存度の劣化又は低減がより緩慢になることを実証している。
【0058】
バイオリアクター容器ヘッドスペースにおけるガスと液体/溶液に溶解したガスとの交換が、細胞培養液の表面で生じる。この手段による二酸化炭素の除去は、細胞の剪断及び気泡損傷を最小限に抑え、発泡を低減又は除去するため、散布ガスを介する分離と比較して魅力的である。しかし、商業規模のバイオリアクターにおける表面ガス交換は、現行のプロセス条件下では、実用するには極めて制限されすぎるため、現在では二酸化炭素の除去に利用されていない。これは、典型的な従来のバイオリアクター容器の表面対容積比が制限されていること、及び現行の撹拌機設計によって達成された培養表面の再生の速度が遅いことの直接的な結果である。これらの問題は、高く狭い構成を有するバイオリアクターではさらに悪化する。
【0059】
商業規模のバイオリアクターにおける表面ガス交換の別の欠点は、回転軸撹拌機を使用すると生じる。これらは、表面の液体に円を描いて旋回させ、容器内のより深い位置からの溶液がそれに取って代わる傾向がほとんどない。これは、表面ガス交換に影響を与える少なくとも2つの結果を有する。第一に、表面液層は、溶存二酸化炭素が急激に欠如して、後のCO2のヘッドスペースへの除去のための駆動力が低下する。第二に、(この領域におけるより高い静水圧により、溶存CO2の濃度が最も高くなる)バイオリアクターの底部からの液体は、それが溶存ガスをヘッドスペースに供給できる表面に希にしか誘導されない。全体的な効果は、溶存CO2の除去が遅くなること、及びバイオリアクターにおける溶存CO2濃度の勾配が存在し、表面が非常に低濃度になり、それが細胞生産性及び生存度を低減させるレベルに容易に到達できる底部が高濃度になることである。
【0060】
溶存CO2の除去を制御する本方法は、バイオリアクター容器に配置されたドラフト管内に配置された上方流動インペラを有するバイオリアクターシステムを採用する。上方ポンピングインペラは、バイオリアクター容器の外側のモータによって軸を介して駆動される。インペラの上方流動は、表面ガス交換を高度に制御可能な方式で強化する上面再生法を提供する。上方ポンピングインペラは、細胞培地及び懸濁哺乳類細胞をバイオリアクター容器の底部から、リアクターの上部における液体/ヘッドスペースガス界面に向かって移動させる。そうすることで、細胞培養液又は培地における溶存二酸化炭素は、気液交換が生じているバイオリアクターにおける液体の表面に連続的且つ迅速に運ばれる。表面液体における高度な反転は、溶存二酸化炭素のヘッドスペースへの迅速な除去を可能にする。上方流動インペラは、哺乳類細胞を損傷又は死滅させるほどの剪断をもたらすことなく、より大きなポンピング速度を可能にする。酸素、窒素、空気、二酸化炭素又は他の好適なガス及びそれらの混合物からなるスイープガスがバイオリアクター容器におけるヘッドスペースに導入され、そこで溶液の上面と相互作用して、所望の気液交換を達成し、続いてバイオリアクター容器におけるヘッドスペースから排気される。
【0061】
好適なバイオリアクターシステムは、pHセンサ、dCO2センサ、温度計、溶存酸素分析器及び通気ガス分析器を含む複数のセンサ及び分析器を含むこともできる。当該センサ及び分析器は、酸素、窒素及び二酸化炭素のバイオリアクター容器へのガス供給を制御又は調整するシステムコントローラ(不図示)に入力として連結される。該システムは、必要に応じて、排気サブシステム、複数の生物フィルタ、並びに水及び水蒸気でバイオリアクター容器を滅菌する手段を含むこともできる。
【0062】
上方ポンピングインペラは、好ましくは、インペラが低液体培地又は培養液出発レベルに合わせて浸漬されるように、主要バイオリアクター容器の中央付近に配置される。インペラ速度は、調整可能であり、特定の哺乳類細胞培養プロセスに対して常に所望レベルの溶存二酸化炭素を維持するように細胞培養プロセス全体を通じて変化され得る。好ましくは、インペラ速度は、バイオリアクター内の液体又は溶液レベルが低いときに非常に低い速度に維持され、液体又は溶液レベルが上昇するに従って増大すべきである。好ましくは、上方流動速度を増大させて、より高いガス交換率を得るために、ドラフト管が加えられることになる。インペラ速度は、バイオリアクター容器における液体又は溶液レベルも最も高いときに、細胞培養プロセスの指数増殖期の終了時に最も高くなることが好ましい。通常、利用可能な表面積が非常に制限されるため、表面ガス交換は非効率的なプロセスである。ヘッドスペースと液体表面との間で生じるガス交換により、気/液界面のいずれの側のガス濃度も飽和レベルに迅速に近づく。界面に適正な濃度駆動力が存在しなければ、ガス交換に利用可能な表面積を大いに増大するための手段を施さない限り、表面通気を実行できない。残念ながら、当該手段(例えば、液体の一部の噴霧化)は、脆弱な哺乳類細胞を損傷及び死滅させる過度の剪断をもたらす。しかし、動的ガス制御法は、ヘッドスペースガスを迅速にスイープして、気相境界層における二酸化炭素の蓄積を回避することによってそれらの制限を克服する。液相境界層の制限は、浸漬インペラの上方ポンピング作用によっても取り除かれる。
【0063】
インペラの上部に加えられたいくつかの垂直バッフルがガス交換率に対して非常に大きな改善をもたらすことが観察された。これらの垂直バッフルは、回転速度を実質的に純粋な垂直配向流に変換する。液体表面を介する溶存CO2の除去率に対するドラフト管と垂直バッフルの効果を比較するために、本発明に記載の方法を使用して、二酸化炭素除去試験が300L容器にて実施された。容器における溶液が7のpHに維持され、ヘッドスペースに空気がスイープされた。螺旋状インペラが、周波数インバータを用いて2つの異なる速度で動作するように設定された。溶存CO2レベルが、実験を通じて連続的に測定された。それらの結果は、物質移動容積係数(KLa)の観点で表(1)に報告された。
【表2】
【0064】
上方流動螺旋状インペラの速度に応じて、それらの結果は、バッフルを含むドラフト管が使用されると、物質移動係数が226%から678%向上することを示していた。これらの実験において表面ガス交換現象に関する垂直バッフルの重要性を示すためにさらなる試験が実施され、螺旋状インペラが300L容器の底部に設置され、垂直バッフルが取り除かれた。本発明の実験作業から、表面液体の旋回運動を除去することが重要であると結論づけられた(表2参照)。表面における旋回運動を除去することによって、インペラからの上方流動液体は、跳ね返すことなく、迅速にインペラ軸から出て、容器表面全体に広がり、容器の縁付近で液体の本体に再浸漬して、回転表面現象をもたらす。垂直バッフルが設置されると、二酸化炭素除去率は、上方流動螺旋状インペラの回転速度に応じて28%から128%向上した。これらの実験結果は、バイオリアクターの下部からの液体が、表面液体に迅速に取って代わって、実質的により高い溶存二酸化炭素除去率及び細胞培地への酸素溶解率をもたらすことを示している。垂直バッフルがなければ、旋回する表面液体は、バイオリアクター内のより深い位置からの新鮮な液体に実質的に置き換えられない。
【表3】
【0065】
上述のように、大きなバイオリアクター容器の底部の液体又は溶液が、大きな静水圧に曝され、哺乳類細胞内に取り込まれた溶存二酸化炭素がゆっくりと平衡化する。ここに開示されている上方ポンピングインペラは、この問題を軽減する。液体溶液及び哺乳類細胞をバイオリアクター容器の底部から上面に向かって上方に再循環させることによって、哺乳類細胞は、より低い全体平均静水圧レジームに曝されるため、より良好な平衡レベルの溶存二酸化炭素を達成する。細胞培地又は培養液の連続的な軸方向又は上方再循環は、細胞の原形質の内側深くにある過剰の溶存二酸化炭素を追い出す細胞の能力を強化すると考えられる哺乳類細胞に様々なレベルの静水圧を加える。
【0066】
偏向壁又は仕切板がバイオリアクターに存在しないため、上方流動液体は、バイオリアクター壁に向かって外側に回転する前に非常に迅速に上面に達することができる。これは、溶存二酸化炭素の迅速な除去を促進する液体表面の非常に迅速な再生をもたらす。代替的な形のインペラを使用して、ドラフト管を用いた、又は用いない上方再循環流を与える。好ましくは、上方ポンピングインペラは、スクリューインペラ又はプロペラである。しかし、プロペラからの横方向又は半径方向の流れが最小になり、ひいては哺乳類細胞の剪断及び他の損傷を低減する限り、他のプロペラを使用してもよい。
【0067】
迅速な気液表面再生は、ガスを液体に溶解させるのにも有用である。例えば、ここに開示されている気液表面再生法を使用して、増殖細胞に必要な規定量の酸素を溶解させることができる。酸素の需要が高いときは、ヘッドスペース内のスイープガスにおける酸素組成が増大し、再循環液体の上面への酸素の移動が増大する。酸素溶解要件が低いときは、ヘッドスペース内のスイープガスにおける酸素組成が低減し、空気又は窒素で置き換えられる。スイープガスの酸素組成の変化は、二酸化炭素除去率にほとんど又は全く影響を与えない。溶存酸素濃度は、多くの哺乳類細胞培養プロセスにおいて、好ましくは約50%に維持される。ウィルス感染sf−9昆虫細胞培養による組換えタンパク質生産などの場合は、細胞によるタンパク質生産を高めるために、細胞培養液に非常に低い酸素濃度(例えば、5%未満の酸素濃度)が使用される。
【0068】
溶存二酸化炭素レベルを任意の所望のレベルに調整又は維持することができる。細胞培養プロセスを通じていつでも溶存二酸化炭素レベルを減少させるために、バイオリアクターのヘッドスペースに入るスイープガスの流量を増大させて、表面付近の液体からCO2をより迅速に除去することができる。インペラ回転速度を増大させて、表面液体再生速度を高めることもできる。溶存二酸化炭素レベルを増大させるために、スイープガス流量を低減させ、且つ/又は上方ポンピングインペラの回転速度を減少させることになる。生産バイオリアクターの接種直後のプロセスの最も早い時期の場合のようにさらなる二酸化炭素が必要とされる場合は、それを必要に応じてヘッドスペースにおけるスイープガス混合物に添加することができる。典型的な哺乳類細胞培養プロセスにおいて、バッチが初期の遅滞期から指数増殖期の終了まで進行するにつれて溶存酸素要件が増大するのに対して、溶存二酸化炭素濃度は、細胞の呼吸により増大し、指数増殖期の終了に向けて最大濃度に到達し、次いで生産期を通じて徐々に低減する。したがって、気体の二酸化炭素は、pHを制御及び維持するために、多くが遅滞期を通じて添加される。また、細胞生産期を通じて、溶存酸素のある規定レベルを維持する必要がある。
【0069】
スイープガス混合物における窒素、酸素及び二酸化炭素濃度を独立に調整又は制御することに加えて、全ヘッドスペースガス流量を増大させても、ヘッドスペースにおける分離ガスの蓄積が回避されることになる。
【0070】
好適な実施形態において、バイオリアクター容器への窒素、酸素及び二酸化炭素のガス供給物が、ヘッドスペースにおける液体の上面の上方、好ましくはバイオリアクター容器における液体溶液の回転面の近傍に導入される。バイオリアクター容器における液体レベルが上昇すると常にガスを上面に又はその付近に注入できるようにガス注入器を可動にすることによって、当該ガス導入を達成することができる。回転上面におけるガスの衝突は、ガス側での運動境界層を低減し、液体と気体の間の全物質移動速度を向上させる。或いは、バイオリアクター容器において達成される最大液体高さ付近の位置にガスを導入するように配置された固定ガス注入器を使用して、ガス供給物を送達することができる。たいていの哺乳類細胞培養プロセスにおいて、dCO2の除去が最も必要である指数増殖期のピーク時に、バイオリアクター容器における最大液体高さが存在する。
【0071】
好適でないが、バイオリアクター容器内に配置された1つ又は複数のスパージャを使用して溶液内にガスを散布することによって、バイオリアクター容器への(培地pHの初期調整のための)空気、酸素及び二酸化炭素のガス供給物の制御導入を補給することができる。酸素を溶解させるのに使用されるスパージャは、流量が小さければ、より微細なノズル(又は孔)を有して、液体表面を破壊する前に溶解又は吸収される小さな酸素気泡を生成することができる。スパージャは、バイオリアクターの底部にガス気泡を生成するように設計されているため、(pH調整のための)酸素又は二酸化炭素を効率的に溶解させる。しかし、分離された二酸化炭素は、特に低い流量では、ガス気泡を迅速に飽和させるか、又は気液界面における濃度駆動力を低減し得るため、スパージャは、溶存二酸化炭素の分離が劣る。流量がより大きくなると、激しい剪断及び発泡が細胞を死滅させることになる。当該浸漬ガススパージャは、ヘッドスペースガス交換法と組み合わせて酸素の独立添加を支援することができる。溶存二酸化炭素の除去を支援するためにスパージャを使用することは極めて望ましくないが、細胞密度が高いときに少量の純粋の酸素を溶解させるのに使用可能である。ガススパージャは、使用される場合は、細胞培地におけるそれらの滞留時間を最大にするために、上方流動インペラから離れて配置されるのが好ましい。液体表面のガス交換の上部に少量の純粋の酸素が必要であれば、この特殊な場合であっても酸素気泡が有意な損傷を引き起こすことはない。また、インペラの剪断作用でなく散布のみによって生成されるガス気泡は、インペラに直接注入されるガス気泡よりはるかに大きくなる傾向があり、発泡の可能性が著しく小さくなる。ここで、ガス交換は、液体の表面上及びバルク内の双方に生じる。少容量のガスを短時間にわたって断続的に散布すると、非常に高流量のスイープガスに頼ることなく、又は最大のインペラ速度を採用することなく、酸素吸収量を最大にすることが可能になる。細胞損傷を最小限に抑えるために、酸素溶解及び二酸化炭素除去のための当該散布をピーク需要時にのみ実施することが重要である。当該散布は、dCO2の分離をも支援し得るが、影響又は寄与は、すべての細胞培養系統を通じて有意であることが示されていない。
【0072】
好適な上方ポンピングデバイスは、最小限の半径方向流量で大容量の液体を上方に移動させることができる螺旋状インペラである。螺旋状インペラを使用して、シミュレートされた液体培地から二酸化炭素除去率が測定され、容積質量係数として報告された。物質移動係数が高くなるほど、ガス交換効率が良好になる。上方ポンピングインペラを用いても、移動する液体流は、撹拌機の回転によって回転されることになる。その結果、表面液体は旋回して、表面液体が表面の平面内で回転するに従って液体表面再生を著しく低減させることになる。旋回を停止するために、インペラの上部にも垂直バッフルシステムを使用して、液体の回転を中断し、流れをそのまま表面に再誘導する。したがって、表面液体は、容器の中心において軸から外側に放射し、拡散し、それが沈む容器の縁に向かって希薄化する。その結果、表面ガス交換及び二酸化炭素分離が著しく向上される。
【0073】
図1、2A、2B、2C、3A、3B及び3Cを参照すると、細胞培養液のモル浸透圧濃度が中程度の値(即ち436から533mOsm/kg)に維持された哺乳類細胞培養プロセスの3つの異なる系統についてグラフの形で試験データが示される。試験した3つのサンプルのうち、ここに開示されている動的ガス制御(DGC)技術を取り入れ、DGC8として識別されるサンプルの1つは、溶存二酸化炭素レベルがプロセス全体を通じて約4%に維持され、5日目に溶存二酸化炭素が約5.7%まで少し増大している。(Run32として識別される)第2のサンプルは、溶存二酸化炭素の出発レベルが約12%であり、次いで増殖期の早期段階において約6%まで減少した後、溶存二酸化炭素のレベルが最大の約15%まで増大している。次いで、溶存二酸化炭素のレベルは、生産期において約10%まで徐々に低下した。(Run40として識別される)第3のサンプルは、遅滞期を通じて溶存二酸化炭素の出発レベルが約6%から10%であり、細胞培養プロセスの4から11日目までの全体を通じて溶存二酸化炭素レベルの変動レベルが約5%から約44%の範囲と高い。
【0074】
図2Aに見られるように、DGC8は、哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じてRun30より高い生存細胞密度(MC/ml)を維持し、Run40より有意に高い生存細胞密度を維持した。図2B及び2Cにおけるデータは、図2Aと比較すると、本出願に開示されているDGC技術に伴う利益を示す基線系統に対する同様のグラフを示す。
【0075】
同様に、図3Aに見られるように、DGC8は、Run30の生産物収率より高いIgGの生産物収率(mg/l)及びRun40の対応する生産物収率を維持した。また、低dCO2のDGC8における比生産性(pg/生存細胞.日)は、有意に増大された。サンプルプロセスの比生産性は、それぞれ、約40pg/生存細胞−日(DGC8)、20pg/生存細胞−日(Run32)及び16pg/生存細胞−日(Run40)であった。図1、2A、2B、2C及び3AにおけるDGC8データによって明らかなように、細胞培養プロセス全体を通じて安定した低レベルの溶存二酸化炭素を維持すると、細胞生存度を高め、生産物収率及び比生産性を増大させることができる。
【0076】
図3B及び3Cは、DGC8系統並びにRun32における実測モル浸透圧濃度レベルを示す。期待されるように、モル浸透圧濃度レベルは、栄養物が流加式の哺乳類細胞培養プロセスに添加される毎に実質的に増大する。しかし、図3Bと図3Cのモル浸透圧濃度レベルを比較すると、DGCプロセスが使用される場合は、栄養物添加の直後にモル浸透圧濃度レベルが減少又は変調することが観察される。具体的には、DGC8系統の出発モル浸透圧濃度レベルは、370mOsm/kgであったが、その後、増殖及び生産期において約363mOsm/kgから最大モル浸透圧濃度レベルの475mOsm/kgの範囲になる。この特定の細胞系についてのモル浸透圧濃度の全上昇は、約112mOsm/kgに制限された。一方、Run32におけるモル浸透圧濃度レベルは、細胞培養プロセスの増殖期及び生産期全体を通じて、約350mOsm/kgの出発点から約511mOsm/kgの最大モル浸透圧濃度レベルまで継続して上昇し、それは、161mOsm/kgの上昇、又はDGC8系統より約35%大きな値を表す。
【0077】
ここで図4〜6を参照すると、哺乳類細胞培養プロセスの2つのさらなる試験系統の特徴及び結果を示すグラフが示されている。ここで見られるように、サンプル系統は、全体的に一定又は安定した溶存二酸化炭素レベル、及び細胞培地の中程度のモル浸透圧濃度を維持した。具体的には、図4に示されるように、Run50は、細胞培養プロセスの指数増殖期及び生産期を通じて約13%から18%の中程度の溶存二酸化炭素レベルを維持したのに対して、Run55は、細胞培養プロセスの指数増殖期及び生産期を通じて約2%から6%の低い溶存二酸化炭素レベルを維持した。図5に見られるように、全体的に安定しているが、低い溶存二酸化炭素レベル及び中程度のモル浸透圧濃度を有するサンプルRun55は、全体的に安定しているが、中程度の溶存二酸化炭素レベル及び中程度のモル浸透圧濃度を有するRun50より生産期を通じて高い割合の細胞生存度を示した。図6に見られるように、全体的に安定しているが、低い溶存二酸化炭素レベル及び中程度のモル浸透圧濃度を有するサンプルRun55は、全体的に安定しているが、中程度の溶存二酸化炭素レベル及び中程度のモル浸透圧濃度を有するRun50より生産期を通じて高い生産物収率を示した。これらの図の結果は、細胞培養プロセス全体を通じて安定した低い溶存二酸化炭素レベルを維持すると、細胞生存度が高められ、生産物収率及び比生産性が増大するという、図1〜3から導かれた結論をさらに裏づける。
【0078】
哺乳類細胞培養における溶存二酸化炭素レベルの影響
再び図1を参照すると、DGC8は、Run32の開始時における中程度のdCO2レベルと比較して、系統の開始時から低いdCO2レベルを示す。指数関数的細胞増殖期のピークにおいて、2つの系統のdCO2は、5.7%でほぼ同じであった。しかし、図3Aは、DGC8系統を通じて生成されたタンパク質生産物IgGが、Run32を通じて生成されたタンパク質生産物IgGのほぼ2倍であったことを示す。これは、IgG生産物の早期の収穫を有することを望むのであれば、低レベルのdCO2から出発し、生産期まで同じ低レベルのdCO2を維持することも重要であることを示唆している。低い出発dCO2レベルを得るために、約7.0のpHの緩衝液を形成するために添加する重炭酸ナトリウムの適正量とともに、化学平衡dCO2レベルを計算することが必要である。勿論、DGCプロセス時の表面ガス交換は、細胞培養の指数増殖を通じて生成されたCO2を分離する。バッチの開始後に、細胞培地内のpHレベルを維持又は低減するためにさらなるCO2を添加する必要性を回避するために、pH制御が酸−塩基(例えば、塩酸−水酸化ナトリウム)系に切り換えられる。たいていの細胞培養プロセスは、細胞培養プロセスが開始すると、バッチサイクルを通じて1つの緩衝系から別の緩衝系に切り換えることに留意されたい。
【0079】
次に図7〜11を参照すると、さらに2つの追加的な哺乳類細胞培養プロセス系統から得られたサンプルデータが示されている。図7は、遅滞及び指数増殖期に約5%の低い溶存二酸化炭素レベルを有するRun62並びに細胞培養プロセスの遅滞及び指数増殖期に約10%の中程度の溶存二酸化炭素レベルを有するRun63の増殖期及び生産期の溶存二酸化炭素レベルを示す。Run62及びRun63の両方において、細胞培養プロセスが生産期に入る6日後に、溶存二酸化炭素レベルを人工的に30%の平均値まで上昇させた。ヘッドスペースへのガス流量及び撹拌速度を低減して、分離速度を低下させる一方、さらなる二酸化炭素ガスをヘッドスペースに加えた。Run62及びRun63の目的は、生産期のみの細胞に対する溶存二酸化炭素の影響を調べることであった。溶存二酸化炭素レベルが細胞培養プロセス全体を通じて厳密に制御されたRun DGC8と比較して、Run62及びRun63の両方からは、より低い細胞生存度及びタンパク質生産物IgG収率が期待された。
【0080】
図8及び図10は、Run62及びRun63の両方についての生存細胞密度及び細胞生存度(%)が増殖期を通じてほぼ同じであったことを示す。しかし、増殖期を通じてより低い溶存二酸化炭素レベルを有していたRun62は、増殖期を通じて中程度の溶存二酸化炭素レベルを有していたRun63より生産期を通じて高い程度の細胞生存度を示した。したがって、Run62における細胞は、増殖期を通じてより低レベルの溶存二酸化炭素に曝露され、増殖期を通じてより高レベルの溶存二酸化炭素に曝露されたRun63における細胞より健康的であった。
【0081】
図11は、低い出発溶存二酸化炭素レベルを有するサンプルRun62が、中程度の溶存二酸化炭素レベルを有し、837mg/LのIgG生産物収率を有するRun63より生産期を通じて1140mg/Lの高いIgG生産物収率をも示したことを示す。Run62は、溶存二酸化炭素レベルが45%まで過度にスパイクされていなければ、より良好に行うことができたであろう。これらの2つの系統は、溶存二酸化炭素が、細胞培養プロセスによるIgGタンパク質生産物収率に影響を与えることを示唆している。Run62及びRun63と、生産期を通じて溶存二酸化炭素レベルのスパイクが導入されなかった図3に示されるDGC8とを比較すると、DGC8のIgGタンパク質生産物収率は、生産期を通じて高い溶存二酸化炭素レベルを被ったRun62の収率の2倍を上回っている。明らかに、増殖期及び/又は生産期における溶存二酸化炭素レベルの影響は、細胞生存度及び生産物収率に対して異なる効果を有する。
【0082】
溶存二酸化炭素レベル及びモル浸透圧濃度の最適化
ここに開示されているシステム及び方法は、好ましくは、遅滞及び指数増殖期を通じて10%未満、より好ましくは約3%から5%の全体的に一定の、又は安定した溶存二酸化炭素レベルを維持しながら、遅滞及び指数増殖期を通じて約300から560mOsmo/kg、より好ましくは約400から500mOsmo/kgの中程度のモル浸透圧濃度レベルを維持する(図1及び4参照)。この溶存二酸化炭素レベルとモル浸透圧濃度を組み合わせたプロセス条件は、選択された哺乳類細胞培養プロセスについて生産段階を通じてより大きな細胞生存度及び最も高い生物生産物収率をもたらす(図2、3、5及び6参照)。
【0083】
バッチ細胞培養プロセスでは、モル濃度の変化が比較的小さい。出発溶存二酸化炭素の化学的平衡計算と同様に、出発モル浸透圧濃度も出発培養液のすべての成分から計算されるべきである。従来のバッチプロセスでは、二酸化炭素が代謝細胞塊から生成され、pHを再均衡させるために重炭酸ナトリウムを添加しなければならないときにモル浸透圧濃度が増大することになる。
【0084】
流加式のプロセスでは、増殖及び生産を長引かせるために栄養物が断続的段階で添加されるため、モル浸透圧濃度も段階的な変化を示すことになる。先述したように、各g−モルの塩又は電解質は、2g−モルのモル浸透圧濃度に解離する。各g−モルのグルコース、グルタメート及び他の有機栄養物は、1g−モルを全モル浸透圧濃度に寄与する。図6Aは、この動的ガス制御(DGC)プロセス技術を用いた良好な培養系統の典型的なプロファイルとしてのDGC8のモル浸透圧濃度プロファイルを示す。大きな段階的増大は、栄養物添加の時間に起因する。それぞれの栄養物添加後に、グルコース及びグルタメートが消費されるに従って、モル浸透圧濃度が実際に低下した。しかし、一般的な流加式のプロセスでは、細胞培養プロセスサイクルを通じて、選択された時間にさらなる栄養物が液体培地に添加される毎にモル浸透圧濃度がより大きく段階的に増大する。pH及びプロセス条件に応じて、消費されているグルコースは、ラクテートに変換され得るため、系のモル浸透圧濃度に正味の変化はない。しかし、グルコースは、また、二酸化炭素ガス及び水に直接変換され得る。二酸化炭素ガスがこのDGCプロセス技術のように効果的に分離される場合は、モル浸透圧濃度の一時的な減少が観察される。或いは、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベルは、溶存二酸化炭素によって下げられたpHを中和するために必要なアルカリ又は炭酸水素塩の添加とともに継続的に増大する。
【0085】
図6Aに示されるように、DGC8は、流加サイクル時の各栄養物添加後に、モル浸透圧濃度を低減又は維持する本発明の能力を明確に実証した。モル浸透圧濃度レベルを最小範囲又は好適な範囲に保つことによって、さらなる塩及び/又は栄養物を添加して、モル浸透圧濃度レベルを所望の最適なプロファイル又は範囲に合わせて操作することができる。哺乳類細胞は、生存及び繁殖するために特定の電解質及び栄養物を必要とするため、最適なモル浸透圧濃度レベルは、最も低いモル浸透圧濃度である必要はない。しかし、過剰の溶存二酸化炭素によるpH調整からの連続的な寄与がなければ、モル浸透圧濃度レベルの最適化が可能である。
【0086】
最も望ましいモル浸透圧濃度範囲で細胞培養プロセスを制御するためには、出発モル浸透圧濃度レベルを計算又は実験によって予め決定するだけでなく、最終的なモル浸透圧濃度レベルを所望の範囲におさめることができるように、各々の栄養物及び/又は培地添加時のモル浸透圧濃度レベルを考慮する必要がある。上述のように、蓄積する二酸化炭素を除去するための効率的な溶存二酸化炭素除去又は分離法を有することもモル浸透圧濃度レベルに対する効果を有する。溶存二酸化炭素及びモル浸透圧濃度の両方を所望のレベルに制御することによって、有意な生産物収率及び生産物純度の向上を実現することができる。
【0087】
図7及び9は、モル浸透圧濃度の増大及び生産物収率の低減に対する高溶存二酸化炭素の効果を示す。Run62及びRun63についての増殖期全体を通じて、5%から10%の範囲の溶存二酸化炭素は、いずれの系統のモル浸透圧濃度レベルに対しても大きな影響を与えなかった。約350mOsmo/kgから約400mOsmo/Kgまでのモル浸透圧濃度レベルの増大は、主として、培地及び栄養物添加によるものであった。生産期の開始時に、dCO2分離速度を低減させて溶存二酸化炭素濃度を上昇させることが可能であった。図9に示されるように、細胞によって生成された過剰の二酸化炭素の存在により、重炭酸ナトリウムがpHコントローラによって自動的に注入されるとモル浸透圧濃度レベルが劇的に増大した。図6Aに示されるDGC8系統のモル浸透圧濃度レベルと対照的に、Run63のモル浸透圧濃度レベルは、約600mOsmo/kgまで継続的に増大した一方、より高いピーク溶存二酸化炭素を有するRun62は、さらに約680mOsmo/kgまで増大した。生産期での溶存二酸化炭素濃度が高く、モル浸透圧濃度が制御されていなければ、Run62及びRun63の両方が、動的ガス制御法を使用した完全制御DGC8(2300mg/L)よりはるかに低いIgG生産物収率(それぞれ1140mg/L及び837mg/L)を有する。
【0088】
次に図12から17を参照すると、動的ガス制御(DGC)法を使用する細胞培養プロセスと、動的ガス制御(DGC)法を採用しない細胞培養プロセスとを比較したデータを含む図が示されている。示された図のデータは、中程度のモル浸透圧濃度において動的ガス制御(DGC)法を採用するサンプル系統、即ちDGC2及びDGC3が、DGC制御を用いないプロセス(例えばRun32)よりはるかに高い生産物収率を提供することを示唆している。
【0089】
サンプルプロセスDGC2では、溶存二酸化炭素が約8.45%から出発し、続いて、残りの細胞培養プロセス全体を通じて約7.0%から7.5%の範囲に維持された。サンプルプロセスDGC3では、溶存二酸化炭素が約5.5%から出発し、1日目及び2日目に約5.5%から6.3%の範囲に維持され、続いて3日目及び4日目に約4.5%まで減少し、4日目から15日目に約4.0%までさらに低減した。最後に、Run32は、平均dCO2が増殖期において約6%に維持された後、dCO2が約15%まで増大し、次いで生産期において約10%まで徐々に低下した細胞培養プロセスに極めて典型的な溶存二酸化炭素プロファイルを有していた。
【0090】
図12〜17に含まれるデータは、動的ガス制御(DGC)法を用いたプロセスを通じて溶存二酸化炭素レベルを所望の低いレベルに十分に維持できることを示す。DGC2及びDGC3サンプル系統のいずれもが、タンパク質生産の後半の段階を通じてより高い生存細胞密度及び生存度を有していた。制御溶存二酸化炭素レベルが最も低いサンプル系統DGC3は、これらの3つの系統のなかで最も高い生産物力価を有し、DGC2又はRun32よりはるかに早く最大生産物力価に達した。
【0091】
生産物純度を向上させながらバッチ時間を短縮する方法
生産期を通じて、栄養物が尽き、アンモニア及びラクテートなどの他の副産物及び廃棄物が毒性レベルに達すると、細胞は死滅する。例えば、単にグルコースをスクロースに変えると、ラクテート生成を低減することによって毒性レベルの発生及びその結果としての細胞死の誘発を遅らせることができる。細胞死を遅らせると、全体的な細胞生存度を向上させ、より高い生産物収率を可能にする。最終的には、細胞は死滅することになる。死細胞は、典型的には、分解し、プロテアーゼ及び他の望ましくない酵素を放出する。これらのプロテアーゼは、生細胞を破壊し、さらには既に形成されたタンパク質生産物を劣化させ得る。組換えタンパク質を生成する哺乳類細胞培養プロセスは、死細胞から放出されるプロテアーゼに特に敏感である。したがって、組換えタンパク質を生成するプロセスは、通常、細胞生存度が90%を有意に下回る前に切り詰められる。
【0092】
再び図13及び図15を参照すると、Run32は、バイオリアクターにおける細胞培地の上面における表面ガス交換を促進しない十分に動作された従来の哺乳類細胞培養プロセスを表す。Run32に関連するバッチは、細胞生存度が40%を下回るまで12日間にわたって処理された。収穫時に、生産物収率は1250mg/Lであった。Run32を所望の90%の細胞生存度で収穫するために、バッチ時間を7日に短縮しなければならず、生産物収率は、わずか650mg/L生産物になる。対照的に、表面ガス交換を含むこの動的ガス制御法を使用したDGC3は、増殖期時でもはるかに早く生産物の生産を開始した。バッチが66%の細胞生存度で12日間で収穫されるのであれば、DGC3は2060mg/L生産物を得たであろう。DGCを90%の細胞生存度で7日目に収穫すると、収率が1050mg/L生産物に低減することになる。生物医薬の観点から、より高い生産物純度を維持しながら処理時間を短くすることは、いくつかの細胞系について有意な競合的利点をもたらす。したがって、本明細書に開示された動的ガス制御法を使用すると、生物医薬製造者は、細胞培養プロセスサイクルを短縮して高純度の生産物を得るか、又は同等のバッチ時間及び同じ栄養物含有量で従来の細胞培養プロセスと比較してタンパク質生産物の収率を実質的に増大させるかを選択することが可能になる。
【0093】
動的ガス制御(DGC)法の最適化
図18は、モル浸透圧濃度とピーク溶存二酸化炭素の様々な組合せにて様々なサンプル系統を通じて収集された細胞培養プロセスデータを示す表である。図16は、様々なピーク溶存二酸化炭素レベルと中程度のモル浸透圧濃度のみを含む表からの選択データのプロットである。そこに見られるように、約5%以下の最も低いピーク溶存二酸化炭素レベルは、最も高い生産物収率をもたらす。ヒトの血液流における生理的二酸化炭素も約5〜6%であることに留意されたい。図17は、様々なモル浸透圧濃度レベルと中程度のピーク溶存二酸化炭素レベルのみを含む別のデータ集合体のプロットである。図17は、最適な最大モル浸透圧濃度レベルがこの特定の細胞系については約500mOsmo/kgで存在することを示す。
【0094】
このDGCシステム及び方法は、また、10%未満、より好ましくは約5%以下の低い溶存二酸化炭素レベルを維持しながら、生産期を通じて哺乳類細胞培養バッチを水で希釈するとともに、生産期を通じて選択量のさらなる栄養物を添加することを可能にする。この希釈及び栄養物補給手順は、より高い哺乳類細胞培養バイオリアクター生産物収率をもたらすとともに、重大な毒性廃棄物蓄積物のいくつかを希釈すると思われる。
【0095】
上記のプロセス最適化技術の3つすべては、単独又は組合せにおいて、pH、溶存酸素レベル、温度、圧力、培地中の栄養物及び廃棄物プロファイル、撹拌、ガス散布、栄養物供給並びに生産物収穫の既に認識されているプロセスパラメータに加えて、溶存二酸化炭素レベル及びモル浸透圧濃度を含む複数の重要なプロセスパラメータを制御することによって、典型的な哺乳類細胞培養バイオリアクター生産物純度及び生産物収率を高める。
【0096】
以上に特定したパラメータのプロセス収率に対する影響は、より小規模なバイオリアクターにおいてスケールダウンした条件下で、又は所与の細胞系について大規模商業バイオリアクターにて最初に確立される。溶存二酸化炭素、モル浸透圧濃度、pH、溶存酸素、温度、並びに商業的生産に好適な細胞培地における栄養物及び生産物レベルの最適なレベル又は範囲を確立した後で、DGCプロセスは、これらの最適な条件を達成するための撹拌プロファイル及びヘッドスペース内のガス流量の厳密な制御を可能にする。
【0097】
概して、この最適化及び制御方法は、(a)プロセス最適化期及び(b)活性制御期を含む。プロセス最適化期は、所与の哺乳類細胞培養プロセス、細胞系及びバイオリアクター構成についての所望のpH、モル浸透圧濃度及び溶存二酸化炭素レベルを経験的に決定することを含む。目標の出発モル浸透圧濃度レベル及び溶存二酸化炭素レベルに基づいて、適正量の炭酸水素塩を緩衝液としてバイオリアクター培地が調製される。この初期に調製された培地は、全体的にアルカリ側のpHを有することになる。該溶液のpHは、開始時又は細胞培地の調製時に二酸化炭素ガスを導入することによって所望のレベルに調整される。所望のpHレベルに達すると、細胞培養プロセスサイクルの残りの部分にわたって二酸化炭素ガスの導入が止められ、pH制御が酸−塩基型pH制御システムに切り換えられる。しかし、動的ガス制御法が使用される場合は、pHを制御するための酸又は塩基の添加はほとんど必要とされない。
【0098】
活性制御期は、マイクロプロセッサをベースとしたコントローラを使用して、オーバーレイガス組成、オーバーレイガス流量、pH(酸添加、塩基添加)、栄養物添加等についての初期設定値並びに許容可能値又は範囲を確立して、バイオリアクターにおける所望の溶存二酸化炭素及びモル浸透圧濃度を達成しながら、所望の設定点の範囲内のpHを維持し、溶存酸素レベル、撹拌機速度、温度、圧力、栄養物含有量、廃棄物含有量等の他のプロセスパラメータの1種又は複数種を規格内に維持する。酸素の添加及び二酸化炭素の除去のための表面ガス交換を伴う細胞培養バイオリアクターに関連する個々のガス又はガス混合物。補給ガス散布を用いて、細胞培養プロセスの増殖期時にさらなる酸素を供給し、細胞培地の調製時に二酸化炭素でpHを調整することができる。所与の哺乳類細胞培養プロセスについての所望のpH、モル浸透圧濃度及び溶存二酸化炭素レベルの経験的決定は、好ましくはスケールダウンしたプロセス条件で動作する実験室規模のバイオリアクターにて遂行され、適切なモデルベースの試験で補足され得る。
【0099】
DGC法の活性制御期は、マイクロプロセッサベースのコントローラへの入力として使用される複数のパラメータを監視又は測定することを含む。当該入力は、溶存二酸化炭素レベル、モル浸透圧濃度レベル及びpHレベル、並びに溶存酸素レベル、温度及び撹拌速度の典型的な入力を含む。当該入力は、細胞培養プロセスの生産及び増殖期全体を通じて定期的な間隔で、又は連続的にコントローラに供給される。マイクロプロセッサベースのコントローラは、これらの入力を受け取り、ヘッドスペースガス組成、ヘッドスペースガス流量、撹拌機速度、酸添加、塩基添加又は栄養物添加の群から選択される少なくとも1つのパラメータの値及び設定を表す1つ又は複数の出力信号を生成する。出力信号は、溶存二酸化炭素レベル、溶存酸素レベル、モル浸透圧濃度又はpHを、選択された細胞系の所望の値又は規定の範囲に活動的に制御する又は維持するヘッドスペースガス組成、ヘッドスペースガス流量、上方流動撹拌機速度、酸添加、塩基添加を制御又は調整するために使用される。
【0100】
プロセス設定点の手動又は自動調整を行うために残留栄養物、液体容量、生存細胞密度、生産物濃度等のオフライン測定が用いられる。必要であれば、ガススパージャを使用して、断続的に純粋な酸素で溶存酸素レベルを補給することもできる。生産期が進行するに従って、バイオリアクター内の細胞培養プロセスが完了するまで、パラメータの監視及び測定、並びに当該パラメータの対応する調整又は制御が継続する。
【0101】
図19A及び19Bは、動的ガス制御(DGC)法を使用する哺乳類細胞培養プロセス時のバイオリアクターにおける上方流動インペラ若しくは撹拌機の回転速度、並びに細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量に対する典型的な出力調整を示す。
【0102】
この提案されたプロセス制御スキームは、ほぼ一定の生理的温度及び低温細胞培養プロセスに適用可能である。低温細胞培養プロセスは、典型的な約37℃未満のプロセス温度における時間の少なくとも一部にわたって継続する。この提案されたプロセス制御スキームは、バイオリアクターのほぼ任意の構成にも適用可能であり、バッチ方式、流加方式又は連続動作方式を含む任意の方式で動作する。
【0103】
先述の説明から、このように、本発明は、哺乳類細胞培養プロセスを通じて溶存二酸化炭素レベル、pH及びモル浸透圧濃度を制御して、細胞生存度及び生物生産物収率を高めるための様々な方法及びシステムを提供することが理解されよう。これらの方法及びシステムの多くの修正、変更及び変形が当業者に明らかであり、当該修正、変更及び変形は、本出願の範囲内に含められることが理解されるべきである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類細胞培養プロセスに関し、より詳細には、細胞培地のpH、モル浸透圧濃度及び溶存二酸化炭素レベルを含むプロセスパラメータの向上した制御を介して細胞増殖、細胞密度、細胞生存度、生産物濃度及び生産物収率を高めるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質治療薬及びモノクローナル抗体などの他の生物製品の商業的生産は、現在では、遺伝的に最適化された哺乳類細胞型、昆虫細胞型又は他の細胞型の懸濁物を培養するように構成されたバイオリアクターにて広く実施されている。哺乳類細胞培養バイオリアクターは、典型的には、使用容量が数百から数千リットルである。最も一般的な大規模製造プラントは、使用容量が約1000リットルから25000リットルまでの範囲のバイオリアクターを有する。臨床試験のための薬物候補は、使用容量が5リットルから数百リットルの使用容量を有する実験室規模のバイオリアクターで生産される。
【0003】
最小の時間で可能な最も高い生物生産物収率を達成するための最適化及び関連するバイオリアクターのスケールアップの課題は、pH、溶存酸素(DO)、温度、栄養物組成及び副産物プロファイル、撹拌プロファイル、ガス散布方法、栄養物供給及び生産物収穫プロファイルなどの認識された臨界プロセスパラメータの制御に焦点をおいてきた。溶存二酸化炭素(dCO2)及びモル浸透圧濃度(即ち溶液1キログラム当たりの溶解粒子の濃度)などの他のプロセスパラメータの重要性は、最近になって文献に記されている。実際、多くの商業的バイオリアクターは、溶存二酸化炭素レベル及び/又はモル浸透圧濃度をインサイツで測定するように設置された手段も、ましてやそれらのパラメータを制御及び最適化する手段も有さない。数百リットルから25000リットルの範囲のバイオリアクター容量の商業的運転の規模に応じて、プロセスのスケールアップ、最適化及び制御が別の課題になる。約1000リットルを超える商業的規模では、溶存二酸化炭素レベル及びモル浸透圧濃度の同時制御及び独立制御は、現在利用可能な最良の技術及び手法を用いても、不可能でないにしても困難になる。
【0004】
バイオリアクターにて製造規模の哺乳類細胞培養プロセスが開始される前に、典型的には、種子培養接種剤が調製される。これは、生産バイオリアクターへの接種のために十分な細胞が利用可能になるまで、容量を順次大きくしたインキュベータ及び/又はより小さいバイオリアクター内の一連のフラスコにて生産細胞を培養することを含む。該プロセスは、1つの培養容器からより大きい容器に細胞集団を移動させることを含む。一般に、移動又は継代培養毎に細胞集団の20%希釈物が使用される。インキュベータにおいて、培地を含むフラスコは、培養物を旋回させ、インキュベータ内の培地と大気の間のガス移動を容易にするために、回転プラットフォームに固定される。典型的には、哺乳類細胞培養プロセスのためのインキュベータは、5%の二酸化炭素(CO2)及び約80%を超える湿度レベルで37℃に設定される。同様の温度及びCO2レベルが、バイオリアクターにて増殖される種子培養物に使用される。種子培養が十分な容量及び細胞密度に達すると、生産バイオリアクターに接種される。
【0005】
種子培養物がバイオリアクターの培地に接種された後に、pH、温度及び溶存酸素レベルなどのパラメータが、細胞培養プロセス中に規定のレベルに制御される。pHは、典型的には、プロセス中に必要であれば塩基性又は酸性溶液を添加することによって制御される。広く使用される塩基溶液としては、重炭酸ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液及び水酸化ナトリウム溶液が挙げられる。より酸性度の強いpHを達成するために、二酸化炭素(CO2)の溶解が広く使用される。pHを制御するために他の酸も利用可能であるが、溶存CO2と重炭酸ナトリウムの組合せが、細胞培養のための最も安定した好ましい緩衝系を形成する。哺乳類細胞培養プロセスのための培地又は培養液の好適な温度は、約37℃である。培地又は培養液における所望のレベルの溶存酸素は、典型的には、バイオリアクターの底部に設置されたスパージャを使用する空気散布とともに、散布された気泡から細胞培地への酸素の移動を強化するために、大きな空気/酸素泡を分散させるインペラを使用する培地又は培養液の撹拌を介して達成される。バイオリアクターヘッドスペースをカバーガスでパージすると、表面ガス交換の程度が制限される。不利なことに、培地又は培養液の空気散布及び撹拌は、細胞生存度に悪影響を与える哺乳類細胞への発泡及び剪断損傷をもたらし得る。培地の表面への泡の蓄積は、また、表面ガス交換をさらに制限し、バイオリアクターの利用可能な使用容量を低減させるように働く。
【0006】
商業規模の哺乳類細胞培養プロセスを3つの異なる動作方式、懸濁細胞培養のためのバッチ方式又は流加方式、及び固定化細胞のための潅流方式で実施することができる。商業規模の哺乳類細胞培養プロセスの大半は、流加方式で動作される。流加方式において、最初のバイオリアクター設定後に、炭素源及び他の栄養物を補給するために、さらなる培地及び栄養物が、細胞培養プロセスを通じて異なる時間でバイオリアクターに添加される。
【0007】
バイオリアクターは、哺乳類細胞培養に使用する前に、典型的には、滅菌され、様々なプローブ、並びに補給ガス供給及びさらなる供給物の導入のために接続部が備えられなければならない。細胞培地又は培養液の温度、pH、溶存酸素及び溶存CO2レベルをリアルタイムで監視するために温度プローブ、pH検出器、溶存酸素プローブ及び溶存CO2プローブ又はセンサが使用される。加えて、細胞培地又は細胞培養液サンプルを、選択された間隔でバイオリアクターから抜き出して、細胞密度及び細胞生存度を決定するとともに、代謝物質及びモル浸透圧濃度などの他の特性を分析することができる。細胞生存度を高め、生物生産物の生産を増大させるために、当該分析結果に基づいて、さらなる供給物又は他の添加剤を細胞培地又は細胞培養液に添加することができる。細胞生存度が規定の下限閾値に達すると、細胞培養プロセスを停止又は休止することができる。規定の下限閾値は、収穫された生物生産物の下流の回収及び精製の結果に基づいて実験的に決定されることが多い。
【0008】
培養プロセスを通じて、哺乳類細胞は、3つの時期、即ち遅滞期、指数増殖期及び定常期又は生産期を示す。遅滞期は、接種直後に生じ、一般には、哺乳類細胞の新しい環境への生理的順応の時期である。遅滞期の後に、哺乳類細胞は、指数増殖期にあると考えられる。指数増殖期において、哺乳類細胞は、倍増し、細胞密度は、時間とともに指数関数的に増大する。多くの細胞は、実際に、指数増殖期におけるある時点を通じて、所望のタンパク質、抗体又は生物生産物の生産を開始する。細胞密度は、培養における細胞の全数を指し、通常は生存細胞及び非生存細胞の密度で示される。哺乳類細胞が定常期又は生産期に達すると、生存細胞は、下流の収穫のための生物生産物を活発に生産する。この時期を通じて、全細胞密度は、一般には一定に保たれ得るが、細胞生存度(即ち生存細胞の割合)は、時間とともに急激に減少する傾向がある。
【0009】
哺乳類細胞は、細胞培地又は細胞培養液における溶存二酸化炭素の量に敏感であることが知られている。指数増殖期を通じて過剰の二酸化炭素レベルに曝露された哺乳類細胞培養物は、モノクローナル抗体又は他の所望の生物生産物の生産の低減を示し得る。接種前に、わずかにアルカリ性の培地のpHを、最適な値に調整された二酸化炭素で低下させなければならない。これにより、多くの哺乳類細胞培養プロセスの遅滞期の開始時に、溶存二酸化炭素のレベルがしばしば増加する。
【0010】
哺乳類細胞培養バイオリアクターにおける溶存二酸化炭素は、化学源及び生物源に由来する。二酸化炭素の化学源は、重炭酸ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む選択量の緩衝液を含む細胞培地又は細胞培養液内で生じる平衡化学反応である。また、二酸化炭素をわずかにアルカリ性の培地又は培養液に直接散布して、液体培地のpHを規定のレベル、通常は7.0付近まで低減させて、より多くの溶存二酸化炭素をもたらすことができる。二酸化炭素の生物源は、バイオリアクター内の哺乳類細胞の呼吸の産物である。二酸化炭素の生物源は、細胞密度とともに増大し、一般には、バイオリアクター内の細胞密度が最大になるのとほぼ同時に最大値に達する。しかし、より多くの二酸化炭素が生成されると、細胞培地のpHは、細胞培地又は細胞培養液のpHを所望の範囲内に維持するためにさらなる炭酸水素塩が必要とされるように酸性に近づく傾向がある。
【0011】
pHを下げる溶存二酸化炭素の増大の効果を相殺するために、溶液のpHを規定の範囲内に維持するように重炭酸ナトリウムを添加することができる。二酸化炭素の増大の効果を相殺するこれらの手段のいずれもが、哺乳類細胞培養プロセスに対して他の負の結果をもたらす。第一に、溶存二酸化炭素レベルの増大は、細胞培地又は培養液のモル浸透圧濃度の増大に寄与する。同様に、二酸化炭素を相殺するために溶液のpHを調整するのに必要とされる重炭酸ナトリウムの添加もモル浸透圧濃度を増大させる。(モル浸透圧濃度は、溶液1キログラム当たりの溶解粒子の数を表し、一般には、凍結点低下によるmOsm/kgで報告される)。重炭酸ナトリウムの添加も、溶液中で可能な溶存二酸化炭素の平衡飽和レベルを増大させて、通気プロセス中に二酸化炭素を除去することをより困難にする。溶存二酸化炭素のレベルの増大又はモル浸透圧濃度の増大は、細胞密度又は収率に対して悪影響又は負の影響を与えることが、当技術分野で既知である。しかし、二酸化炭素レベル及びモル浸透圧濃度の複合又は相乗効果は、十分に理解されていない。
【0012】
二酸化炭素は、水中にて7のpHで炭酸水素イオンに解離する。二酸化炭素の一部のみが、非解離状態の遊離CO2にとどまる。したがって、たいていの哺乳類細胞培養は、6.5から7.5の範囲のpHで行われるため、細胞培養から溶存二酸化炭素を除去することが困難になる。解離した炭酸水素イオンは、容易に除去されず、一般には、それらを溶液から分離する前に、遊離二酸化炭素に再統合しなければならない。pHのバランスをとるための重炭酸ナトリウムの添加も、溶液における平衡溶存二酸化炭素濃度又は飽和レベルを増大させて、二酸化炭素を物理的に除去することをより困難にする。
【0013】
溶存二酸化炭素を哺乳類細胞培養液から除去又は分離する従来の方法は、撹拌タンクにおいて細胞培養液に空気又は空気/酸素/窒素のガス混合物を散布することによる。しかし、撹拌タンクにおけるガス散布は、細胞培養プロセスに悪影響をもたらす。特に、回転撹拌機の先端におけるガス気泡破壊は、細胞死を引き起こすのにしばしば十分な、哺乳類細胞膜を損傷する高剪断速度の源である。損傷が致死以下であっても、損傷された膜が修復される期間における細胞生産性が損なわれる。
【0014】
また、空気又は窒素をバイオリアクター内に散布すると、バイオリアクター内の溶液の表面まで上昇するガス気泡が生成され、そこで気体がヘッドスペース内に放出される。細胞培養液の上面におけるガス気泡破壊は、撹拌機によって引き起こされる損傷よりしばしば強い損傷を哺乳類細胞に与える。撹拌機速度を抑制し、ガス散布速度を制限することは、現在では、当該損傷を回避し、細胞生存度を増大させる最良の手段であると見なされる。しかし、これらの手段は、除去できる二酸化炭素の量を低減させ、除去できない超過量が、また、細胞増殖及び生存度を阻害する。これらの欠点は、特に、剪断速度が実質的にインペラの直径とともに増大する大きな商業規模のバイオリアクターにおいて克服すべき課題である。また、大規模バイオリアクターの静水頭が大きくなるほど二酸化炭素の溶解度が増大する傾向は、溶存CO2レベルを最適な範囲内に維持するためにより多くの量が除去される必要があることを意味する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、哺乳類細胞培養プロセスにおける生産物収率を高めるための方法であって、バイオリアクターにおける細胞培地の上面での表面ガス交換を介して溶存二酸化炭素を除去することにより、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期全体を通じて、細胞培地における溶存二酸化炭素を、約10%未満の濃度の溶存二酸化炭素のレベルに維持する工程を含み、細胞培地におけるモル浸透圧濃度を哺乳類細胞培養プロセス中に特定の細胞に対して最適な範囲に維持し、細胞培地のpHを哺乳類細胞培養プロセス中に特定の細胞に対して最適な範囲に維持する方法として特徴づけることができる。
【0016】
本発明は、また、流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおけるタンパク質生産物収率を高めるための方法であって、(i)溶存二酸化炭素と平衡する規定レベルの炭酸水素塩及び初期レベルのモル浸透圧濃度を有する細胞培地を含むバイオリアクターに哺乳類細胞培養物を接種する工程と、(ii)哺乳類細胞培養プロセスの増殖期を通じて栄養物を細胞培地に定期的に添加する工程と、(iii)哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期を通じて酸又は塩基を細胞培地に定期的に添加して、二酸化炭素ガスを添加することなくpHレベルを哺乳類細胞の規定範囲内に維持する工程と、(iv)哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期を通じて、バイオリアクターにおける細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量を調整して、細胞培地の上面における表面ガス交換を促進する工程と、(v)増殖期及び生産期を通じて、バイオリアクターにおける細胞培地の上面の下方に配置された上方流動インペラの回転速度を調整する工程とを含む方法として特徴づけることができる。細胞培地における溶存二酸化炭素は、表面ガス交換を介して二酸化炭素を分離することによって、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期全体を通じて約10%未満の濃度の溶存二酸化炭素の安定したレベルに維持される。細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、哺乳類細胞培養プロセスを通じて特定の細胞に対する最適な範囲に維持され、流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産物収率が高められる。
【0017】
本発明は、代替的に、流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける生産物収率を高めるための方法であって、(i)溶存二酸化炭素と平衡する規定レベルの炭酸水素塩を有する細胞培地に細胞培養物を接種する工程と、(ii)溶存二酸化炭素を除去することによって、流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期全体を通じて、細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を約10%未満に維持する工程と、(iii)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期の開始時から生産期の終了時まで、細胞培地におけるモル浸透圧濃度の上昇を400mOsmol/kg未満に制限する工程とを含み、哺乳類細胞培養プロセスを通じて、細胞培地のpHを特定の細胞に対する最適な範囲に維持する方法として特徴づけることができる。
【0018】
本発明は、また、流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける細胞培地のpHレベルを制御するための方法であって、(i)接種期を通じて二酸化炭素及び重炭酸ナトリウム緩衝液を細胞培地に供給して、細胞培地において炭酸水素塩及び溶存二酸化炭素の規定の平衡レベル及びモル浸透圧濃度の初期レベルを確立する工程と、(ii)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期を通じて溶存二酸化炭素を細胞培地から分離する工程と、(iii)増殖期及び場合により生産期を通じて栄養物を細胞培地に添加する工程と、(iv)増殖期及び生産期を通じて酸又は塩基を細胞培地に添加して、pH調整のために二酸化炭素を添加することなく、pHレベルを規定範囲に維持する工程とを含む方法として特徴づけることができる。このプロセスの結果として、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベルは、規定範囲に維持され、増殖期の開始時から生産期の終了時までのモル浸透圧濃度レベルの上昇は、400mOsmol/kg未満であり、細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度は、増殖期及び生産期を通じて10%以下に維持される。
【0019】
本発明は、さらに代替的に、流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて細胞生存度を高め、タンパク質生産物収率を増大させるための方法であって、(i)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて細胞培地を水で希釈して、細胞培地における廃棄物の毒性作用を低減する工程と、(ii)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて補給栄養物を細胞培地に添加して、水の希釈効果を補償する工程と、(iii)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて、細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベル及びpHレベルの両方を哺乳類細胞に対する最適な範囲に維持する工程とを含み、流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて、哺乳類細胞の高められた細胞生存度によりタンパク質生産物収率を増大させる方法として特徴づけることができる。
【0020】
本発明を特徴づけるさらに別の方法は、流加式の哺乳類細胞培養プロセスから生産されたタンパク質生産物の純度を向上させるための方法であって、(i)溶存二酸化炭素と平衡する規定レベルの炭酸水素塩及び初期レベルのモル浸透圧濃度を有する細胞培地を含むバイオリアクターに哺乳類細胞培養物を接種する工程と、(ii)栄養物を細胞培地に添加することによって、細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを増大させて、哺乳類細胞からのタンパク質生産を加速させる工程と、(iii)酸又は塩基を細胞培地に添加して、pHレベルを哺乳類細胞の規定範囲内に維持する工程と、(iv)流加式の哺乳類細胞培養プロセス全体を通じて細胞培地から溶存二酸化炭素を分離する工程であって、細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、モル浸透圧濃度の初期レベルからのモル浸透圧濃度レベルの上昇を約400mOsmol/kg未満に制限する工程と、(v)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は早期生産期を通じてタンパク質生産物をバイオリアクターから収穫する工程とを含む方法である。
【0021】
最後に、本発明は、流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを制御する方法であって、(i)接種期を通じて、二酸化炭素及び重炭酸ナトリウム緩衝液を細胞培地に供給して、細胞培地において炭酸水素塩及び溶存二酸化炭素の規定の平衡レベル並びにモル浸透圧濃度の初期レベルを確立する工程と、(ii)増殖期を通じて細胞培地に栄養物を添加することによって、細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを増大させる工程と、(iii)増殖期を通じて酸又は塩基を細胞培地に添加して、pHレベルを規定範囲に維持する工程と、(iv)流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期を通じて細胞培地から溶存二酸化炭素を分離する工程とを含み、増殖期を通じて細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベルが、増殖期の一部を通じて減少し、増殖期の開始時から増殖期の終了時までのモル浸透圧濃度レベルの全上昇が約400mOsmol/kg未満である方法として特徴づけることができる。
【0022】
本発明の上記及び他の態様、特徴及び利点は、以下の図面とともに示される以下のこれらのより詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】高ピークレベルの溶存二酸化炭素を有する1つの系統、中ピークレベルの溶存二酸化炭素を有する別の系統、及び低ピークレベルの溶存二酸化炭素を有する第3の系統を含む、中程度のモル浸透圧濃度レベルを有するプロセスにおける哺乳類細胞系の3つの異なる系統についての溶存二酸化炭素の割合を示すグラフである。
【図2A】中程度のモル浸透圧濃度を有する図1のプロセスにおける哺乳類細胞系の3つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生存細胞密度を示すグラフである。
【図2B】中程度のモル浸透圧濃度を有する図1のプロセスにおける哺乳類細胞系の3つの異なる系統についての時間(日)の関数としての割合としての細胞生存度を示すグラフである。
【図2C】中程度のモル浸透圧濃度を有する図1のプロセスにおける哺乳類細胞系の3つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける全細胞密度を示すグラフである。
【図3A】中程度のモル浸透圧濃度を有する図1のプロセスにおける哺乳類細胞系の3つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生物生産物濃度を示すグラフである。
【図3B】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する図1、2及び3Aに記載の典型的な低溶存二酸化炭素哺乳類細胞培養プロセスのモル浸透圧濃度プロファイルを示すグラフである。
【図3C】図1、2及び3Aに記載の基線哺乳類細胞培養プロセスのモル浸透圧濃度プロファイルを示すグラフである。
【図4】第1の系統が低ピークレベルの溶存二酸化炭素を含み、第2の系統が中程度の全体ピークレベルの溶存二酸化炭素を含む、全体的に一定又は安定モル浸透圧濃度を有するプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける溶存二酸化炭素の割合を示すグラフである。
【図5】中程度のモル浸透圧濃度及び全体的に一定又は安定レベルの溶存二酸化炭素を有する図4のプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生存細胞密度を示すグラフである。
【図6】中程度のモル浸透圧濃度及び全体的に一定又は安定レベルの溶存二酸化炭素を有する図4のプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生物生産物力価又は濃度を示すグラフである。
【図7】哺乳類細胞培養プロセスの増殖及び生産期を通じての溶存二酸化炭素プロファイルを示すグラフである。
【図8】異なるが、全体的に一定レベルの溶存二酸化炭素が維持された哺乳類細胞系のさらに別の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生存細胞密度を示すグラフである。
【図9】異なるが、全体的に一定レベルの溶存二酸化炭素を有する図8のプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおけるモル浸透圧濃度を示すグラフである。
【図10】異なるが、全体的に一定レベルの溶存二酸化炭素を有する図8のプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生存細胞の割合を示すグラフである。
【図11】異なるが、全体的に一定レベルの溶存二酸化炭素を有する図8のプロセスにおける哺乳類細胞系の2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生物生産物収率又は力価を示すグラフである。
【図12】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける溶存二酸化炭素を標準的な系統と比較して示すグラフである。
【図13】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける細胞生存度を標準的な系統と比較して示すグラフである。
【図14】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生存細胞密度を標準的な系統と比較して示すグラフである。
【図15】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する2つの異なる系統についての時間(日)の関数としての哺乳類細胞培養プロセスにおける生物生産物収率又は力価を標準的な系統と比較して示すグラフである。
【図16】モル浸透圧濃度レベルが異なる細胞培養プロセスにおけるIgG力価対ピークdCO2の傾向を示す図である。
【図17】低レベルの溶存二酸化炭素を含むDGC型細胞培養プロセスにおけるIgG力価対最大モル浸透圧濃度の傾向を示す図である。
【図18】モル浸透圧濃度と溶存二酸化炭素の様々な組合せにおいて様々な細胞培養プロセス系統を通じて収集されたデータを示す表である。
【図19A】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する第1のサンプル系統を通じての、バイオリアクターに配置された上方流動インペラの回転速度、及びバイオリアクターにおける細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量の調整を示すグラフである。
【図19B】現行の動的ガス制御(DGC)法を使用する第2のサンプル系統を通じての、バイオリアクターに配置された上方流動インペラの回転速度、及びバイオリアクターにおける細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量の調整を示す別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
溶存二酸化炭素とpHとモル浸透圧濃度との関係
商業的規模の哺乳類細胞培養製造の大部分を流加式のプロセスにシフトさせると、比較的一定のモル浸透圧濃度、pH及び溶存二酸化炭素レベルを維持するように制御することは、ほぼ不可能である。流加式のプロセスを通じた栄養物及び細胞増進剤の添加は、常に細胞培養モル浸透圧濃度を増大させる傾向がある一方で、pH及び溶存二酸化炭素レベルは、プロセス全体を通じて絶えず変化している。
【0025】
例えば、指数増殖期を通じて生成される二酸化炭素は、たいていの現行のバイオリアクターの二酸化炭素分離能力を超えるため、溶存二酸化炭素レベルの継続的増大を招き得る。細胞培地のpHの制御は、任意の哺乳類細胞培養プロセスにおいて管理すべき最も重要なパラメータの1つと見なされるため、溶存二酸化炭素レベルのこの継続的上昇は、pHに対する溶存二酸化炭素の効果を中和するためのアルカリの添加をしばしば必要とする。溶存二酸化炭素の増大及びアルカリの添加は、ともに、細胞培地又は細胞培養液のモル浸透圧濃度をさらに増大させる。要約すると、細胞培地又は細胞培養液におけるpH、モル浸透圧濃度及び溶存二酸化炭素レベルは、すべて密接に相互関連している。当業者の多くは、最も低い溶存二酸化炭素レベル及びモル浸透圧濃度レベルが、哺乳類細胞培養プロセスの最良のプロセス条件を提供するはずであると考えている。しかし、最近の研究及び本明細書に開示されているいくつかの実験データは、そうでなく、個別の哺乳類細胞系及び細胞培養プロセス毎に最適な溶存二酸化炭素レベル及び最適なモル浸透圧濃度を決定する必要が依然としてあることを示唆している。
【0026】
二酸化炭素を哺乳類細胞培地に溶解させると、細胞を増殖させるための必須のイオンであるHCO3−を形成する。溶存二酸化炭素がHCO3−イオンとの平衡を確立すると、pHが低下する。HCO3−が必要であることは、その緩衝作用と無関係であるが、二酸化炭素、HCO3−及びpHは密接に相互関連しているため、溶存二酸化炭素の最適なレベル及び細胞増殖に対する直接的効果を定めることが困難であった。開放された容器で細胞をインキュベートするときは、典型的には、空気95%と二酸化炭素5%のガス混合物が使用される。二酸化炭素の濃度は、本来は、それが肺の肺胞空間に見出されたものであることに基づいて選択された。この二酸化炭素濃度は、肺線維芽細胞に対する研究を意図としたものであったが、哺乳類細胞培養プロセスにおける典型的な二酸化炭素濃度になった。
【0027】
気相二酸化炭素圧力は、温度の関数として、溶存二酸化炭素の濃度を直接制御する。この制御は、次に、以下の反応に従って解離するH2CO3を生成する。
【化1】
【0028】
HCO3−は、かなり小さい解離定数を有し、低濃度の水素イオンしか生成せず、溶液pHの中程度の低下しか達成しない。雰囲気二酸化炭素を増大させる正味の結果は、上記(1)に示される一連の平衡を右側にシフトさせることによってpHを下げることである。一定のpHを維持するために、重炭酸ナトリウムなどのアルカリを使用して、二酸化炭素圧力の上昇の効果を中和する。
【化2】
【0029】
HCO3−濃度の増大は、より高い溶存二酸化炭素レベルの効果を相殺し、炭酸水素塩系に対して平衡をpH7.4で確立できるまで上記(1)の平衡を左にずらせる。
【0030】
要約すると、開放容器における細胞培養物を、その濃度が培地における重炭酸ナトリウムと平衡である二酸化炭素の雰囲気中でインキュベートする必要がある。中程度に高濃度(1×105個/ml)までの密閉フラスコにおける細胞増殖は、炭酸水素塩濃度が低く(約4mM)維持されているのであれば、特に、細胞が高酸生産者であれば、二酸化炭素を気相に添加する必要がない。しかし(例えばクローン化又は接種時に)、より低い細胞濃度において、いくつかの初代培養を用いると、二酸化炭素を密閉フラスコの気相に添加する必要がある。二酸化炭素の平衡化又は(高酸生産者のような)その排出を可能にするために通気が必要であるときは、キャップ垂みを残すか、又は二酸化炭素透過性キャップを使用することが必要である。インキュベータの多くが、空気95%と二酸化炭素5%の混合物でパージされる。
【0031】
十分に制御されたバイオリアクターにおいて、培地pHを適正な値に調整するために、少なくとも開始時に二酸化炭素が必要になる。バイオリアクター設定点より高いpHを有する傾向があるため、インキュベータ内の小さい容器における接種材料増殖を中和するためにさらなる二酸化炭素が必要になる。二酸化炭素を用いたこれらの最初のpH調整は、出発バッチのモル浸透圧濃度を上昇させる。
【0032】
バッチプロセスで培養された細胞が指数増殖期に達すると、それらは、代謝活性が最大になり、各細胞は、その最大の二酸化炭素出力を生成する。細胞密度が低いときは、液体培地に空気を散布するか、又はバイオリアクターのヘッドスペースにカバーガス若しくは空気をスイープすることによって二酸化炭素の大半を除去することができる。しかし、バッチサイクルになって数日間であるが、二酸化炭素生成が、典型的なバイオリアクターの通常の二酸化炭素除去能力を超えることになる。細胞によって生成された過剰の二酸化炭素は、溶存二酸化炭素レベルを増大させ、溶液pHを低下させる。好適なpHを維持するために、さらなる塩基を添加しなければならないため、溶存二酸化炭素が過剰になり、モル浸透圧濃度が望ましくないくらいに高くなる。
【0033】
二酸化炭素生成と分離速度の不均衡による最適以下の条件は、より大規模なバイオリアクターにスケールアップするとより深刻になる。第一に、従来のバイオリアクターは、大きさが増大するに従って表面積対容積比が減少する。リアクター容積に対して同じカバーガスでは、液体表面における二酸化炭素除去の有効性が著しく低下する。好適な二酸化炭素分離システム及び方法の例が、米国仮特許出願第61/086665号に開示されている。
【0034】
哺乳類細胞培養におけるpH最適化
哺乳類細胞培養プロセスにおけるpH設定点は、細胞培養性能に有意に影響を与え得る。細胞培地のpHは、多くの哺乳類細胞型の細胞内酵素活性に影響を与えることが知られている。pHを下げると、比グルコース消費率及びラクテート生成率が低減して、グルコース欠乏のリスク又はラクテートの毒性レベルが低減する。典型的な哺乳類細胞培養におけるより低いpH設定点は約7.0であり、約6.8未満のpHは、細胞増殖を阻害することが知られる。中間又は中程度のpH値も、哺乳類細胞の比増殖率及び比生産率に影響を与え、究極的には全体的な培養生産性に影響を与えることが知られている。過度に低いpH又は過度に高いpHは、細胞を死滅させ得る。
【0035】
約7.0から7.4のpH範囲は、哺乳類細胞培養プロセスに広く使用される。例えば培地が補充されるなどのプロセス時にしばしば生じるpHの幅広い変動は、細胞に悪影響を与える。哺乳類細胞培養プロセスにおけるpHの制御は、高い細胞密度(>1×106個/ml)が日常的に達成されるため、今日では特に重要である。適正なpH制御がなければ、細胞培養液体培地は、細胞が非常に濃縮されると急激に酸性化する。
【0036】
異なる哺乳類細胞型は、増殖のためのpH最適条件が異なり得る。概して、ヒト線維芽細胞は、株化細胞のpH(pH7.0〜7.4)より高いpH(7.6〜7.8)で増殖し、7.2〜7.4のpHで初代細胞を培養するのが普通である。低培養密度におけるヒト包皮線維芽細胞(例えばFS−4)の増殖のための最適なpHは、ヒト肺線維芽細胞(例えばMRC−5)の増殖のための最適なpHより強いアルカリ性である。約105個/ml以下の密度において増殖期を通じてこれらの細胞を培養するときは、pHは、FS−4細胞に対しては約7.7から7.8であり、MRC−5細胞に対しては約7.5から7.6であるべきである。CHO細胞については、通常は、接着時に約7.0のpHで細胞を培養することが有利である。数時間後、CHO細胞培養プロセスにおけるpHをわずかに高い値に増大することができる。
【0037】
細胞培養液体培地を約7.0以上のpHに維持することは、溶存二酸化炭素レベルを制御するための努力に対して別の課題を提起する。二酸化炭素は水と反応し得るため、CO2、H2CO3、HCO3−及びCO32−の4つの形のいずれかにて液相で存在することができる。
【0038】
上記式(1)のような平衡関係は、約5.0以下のpHでは、ほぼすべての溶存二酸化炭素がCO2の形であることを示していた。約7.0から9.0のpHでは、炭酸水素塩が炭素の主たる形である。最後に、約11.0以上のpHでは、ほぼすべてが炭酸塩である。たいていの哺乳類細胞培養物のpHは、一般には約pH7.0からpH7.4に制御されるため、二酸化炭素除去は、一般には、pHがはるかに低くなり得る微生物発酵プロセスと比較すると、より困難である。
【0039】
約7.0から7.4のpHにおいて細胞培養液体培地から溶存二酸化炭素除去するために、制限工程は、化学的又は物理的であり得る。溶存二酸化炭素分子のみが気液界面を跨いで輸送されるため、炭酸水素塩は再結合して、二酸化炭素分子を形成しなければならない。上記式(1)を2つの部分に分けると、式(3)及び(4)として以下に記載されている逆反応は、一般には高速であるのに対して、式(5)によって表される反応の第1の部分は、はるかに遅いことに留意されたい。
【化3】
【化4】
【化5】
[式中、k1=20s−1であり、k−1=0.03s−1である。]。
【0040】
pHの制御は、pHが実質的にpH7.0からpH7.4の範囲外にあるときに多くの哺乳類細胞型が死滅するため、重要なプロセス条件である。現行の細胞培養プロセス制御に固有の制限では、一次的な目標はpH制御であり、溶存二酸化炭素/炭酸水素塩レベル及びモル浸透圧濃度はほとんど無制御であり、培養サイクルを通じて有意に変化する。一定のpH、溶存二酸化炭素及びモル浸透圧濃度を同時に維持する利益を実証する入手可能なデータがほとんど存在しない。
【0041】
培地を細胞増殖条件の2つの集合体の下、即ち(1)二酸化炭素が大気中に消散して、pHを上昇させ得る(例えばインキュベータ内部の)小さな開放容器内及び(2)高い細胞濃度により二酸化炭素及び乳酸の生成が最大になってpHを低下させる場合のバイオリアクター内で緩衝しなければならない。緩衝液を培地に含めて、pHを安定化することができるが、特に低細胞濃度において、溶存二酸化炭素及び炭酸水素塩の培地からの全面損失を防止するために、まだいくつかの細胞系によってさらなる気体二酸化炭素が必要とされる。
【0042】
炭酸水素塩緩衝液は、生理的pHにおける緩衝能力が低いにもかかわらず、毒性が低く、コストが小さく、培養に対する栄養的利益を有するため、依然として他の緩衝液より頻繁に使用される。したがって、pHを制御する上での二酸化炭素の役割は、依然として、高細胞収率及び高細胞生存度のための条件を最適化する際に考慮すべき最も重要な側面である。
【0043】
別のアルカリ(例えばNaOH)が代わりに使用される場合は、正味の結果は炭酸水素塩と同様である。
【化6】
【0044】
多くの細胞培地成分は、酸溶液で構成され、緩衝液を含み得るため、他の塩基が、上記式(6)のように炭酸水素塩レベルにも間接的に寄与し得るときに、どの程度の炭酸水素塩を使用するかを予測するのは困難である。
【0045】
グッドの緩衝液(例えば、HEPES、トリシン)を組織培養に導入すると、二酸化炭素は、pHを安定化させるためにもはや必要でなくなるため、省略され得ることが推測される。この推測は、特に低細胞濃度において、少なくとも多数の哺乳類細胞型については真実でないことが証明された。20mMのHEPESは、通常の生理的範囲内のpHを制御することが示されたが、雰囲気二酸化炭素の不在は、式(1)を左側に移行させ、結果として、溶存二酸化炭素、そして究極的にはHCO3−を細胞培地から除去することになる。この事象連鎖は、細胞増殖を制限すると思われるが、細胞増殖の制限が、溶存二酸化炭素の欠如又はHCO3−の欠如又はその両方の結果であるかどうかは明らかでない。
【0046】
別の例は、緩衝又はpHの制御のために二酸化炭素を利用しないライボビッツL−15細胞培地である。ライボビッツL−15細胞培地は、好ましくは、低圧力の二酸化炭素が必要なときに使用される。ライボビッツL−15は、より高濃度のピルビン酸ナトリウム(550mg/L)を含むが、NaHCO3が欠如し、気相に二酸化炭素を必要としない。培地にピルベートを含めると、哺乳類細胞が、それらの二酸化炭素の生成を増大させることが可能になり、それらが、外部供給二酸化炭素並びにHCO3−と無関係になる。ライボビッツL−15細胞培地における緩衝は、比較的高いアミノ酸濃度を介して達成される。しかし、炭酸水素塩の細胞培地からの除去は、上記グッドの緩衝液についてみられるものと同様の負の影響を細胞増殖に及ぼす。これらの種類の緩衝系は、低細胞密度の小さい開放皿に対して十分に作用し得るが、高細胞密度のバイオリアクターでは非常に有害である。
【0047】
現在、たいていの細胞培地は、CO2/HCO3−緩衝系を利用しているが、この能力は、小さいバッチプロセスにおいて細胞培養サイクルの終了に向けてpHが減少することを防止するのにしばしば不十分である。
【0048】
バイオリアクターでの大規模な哺乳類細胞培養では、HCO3を添加するか、又は二酸化炭素圧力を増大させることによってpHの小さな変化を制御することができる。NaOH又はHClを添加するとより大きな変化が制御されることになるが、局在化した細胞損傷は、強塩基又は強酸の添加に起因し得る。大規模なシステムによって提供されるコンスタントな監視及び制御機会は、高細胞収率のためにHEPESがもはや必須でなくなることを意味する。新鮮な培地を補給しても細胞培養pHを制御することができる。pH制御のために緩衝液を添加するときに、細胞培地のモル浸透圧濃度を有意に変化させないように注意すべきである。
【0049】
培地のモル浸透圧濃度は、細胞培養の生産性に有意に影響を与える。培地のモル浸透圧濃度の増大は、比細胞増殖率を減少させ、比生産率を増大させることが示された。初期の培地モル浸透圧濃度を培地処方から予測することができる。培地成分同士の相互作用の量は、典型的には、モル浸透圧濃度を各成分の寄与の合計と有意に異なるものではない。典型的な培地の成分の個々のモル浸透圧濃度を以下の表に示す。
【表1】
【0050】
培養における細胞の増殖及び機能は、培地における適切なモル浸透圧濃度の維持に左右される。いくつかの細胞(例えば、HeLa及び他の株化細胞系)は、モル浸透圧濃度の幅広い変動に耐えることができる。対照的に、初代細胞及び正常な二倍体株は、モル浸透圧濃度の変化に非常に敏感であり、それが狭い範囲内に維持される場合にのみ高収率を得ることができる。
【0051】
モル浸透圧濃度を制御すると、より再現性のよい培養が得られることが報告されている。特定の培地の供給源を変える毎にモル浸透圧濃度を確認すべきである。商業的供給者によって生産された細胞培地のモル浸透圧濃度は、恐らくは本来の処方の解釈が違うため、異なり得る。しかし、高収率培養は、培養サイクルを通じて培地への様々な添加をしばしば必要とする。これらは、緩衝液(HEPES)、酸(HCl)、塩基(NaOH)、増殖ホルモン及び栄養物を含むことができる。モル浸透圧濃度を上昇させる必要がある場合は、NaClを添加することができ、特定のモル浸透圧濃度を達成するのに必要とされる正確な量は、以下のように計算される。
例えば、1mgのNaCl/ml=1mlの原液(mOsm)=32mOsmの増大
【数1】
式中、
Dosm=所望のモル浸透圧濃度(mOsm)、
Mosm=実測モル浸透圧濃度(mOsm)、及び
X=培地1ml当たり添加されるNaCl(mOsm)の原液のml数。
【0052】
培地のモル浸透圧濃度が測定され、所望のモル浸透圧濃度を達成するために添加されるべきNaCl原液(1mg/ml)の量が計算される。凍結点の低下によるモル浸透圧濃度の測定は、培地での栄養物の希釈又は大容量の緩衝液若しくは食塩水の添加を必要としないため、最も実用的な方法である。蒸気圧の低下は、モル浸透圧濃度を測定する別の一般的方法である。
【0053】
pH制御
哺乳類細胞培養においてpHを維持するための最も一般的な手順は、バイオリアクターにおけるpH変動から極めて良好に保護する緩い緩衝液である重炭酸ナトリウム/二酸化炭素を使用することである。しかし、炭酸水素塩のレベルは、炭酸水素塩と溶存二酸化炭素の濃度比が迅速な酸−塩基平衡によって設定されるため、細胞培養サイクルの開始時における平衡溶存二酸化炭素レベルを支配する。その後、バイオリアクターにおけるpHは、炭酸水素塩又は二酸化炭素のさらなる添加によって制御される。例えば、細胞培養プロセスによる乳酸の生成は、炭酸水素塩が二酸化炭素に部分的に分解したときに約7.0のpHに達するまでさらなる炭酸水素塩添加を促進することになる。細胞培養プロセス時に細胞によって生成されるアンモニアは、さらなる二酸化炭素添加を促進することになる。炭酸水素塩又は二酸化炭素の連続的な添加は、典型的には、細胞培地における過度のモル浸透圧濃度、並びに細胞培養プロセス時における溶存二酸化炭素レベルの連続的な変動をもたらす。
【0054】
哺乳類細胞培養プロセスにおいてpHを制御するための本明細書に開示のシステム及び方法は、選択された細胞培地に対する所望のpH範囲及び所望の溶存二酸化炭素レベルを確認すること;初期の最小量の炭酸水素塩を供給して、所望のpH範囲内に入るように細胞培地のpHを調整し、所望レベルの溶存二酸化炭素を細胞培地内に生成することを含む。溶存二酸化炭素レベルと炭酸水素塩レベルとのこの初期の平衡は、最終的な細胞生存度並びに生産レベル及び収率に有意な影響を与えることが判明した。接種前に、低レベル、即ち10%未満、好ましくは約5%に達する溶存二酸化炭素の平衡を可能にするのに十分な重炭酸ナトリウムが培地に添加される。
【0055】
その後、炭酸水素塩のさらなる増大及びそれに伴う溶存二酸化炭素の増大を避けるための所望の範囲内にpHを維持するために、必要に応じて水酸化ナトリウムを添加することによってpHが維持される。強塩基である水酸化ナトリウムは、また、モル浸透圧濃度を有意に増大させることなくpHを所望の範囲内に維持し、溶存二酸化炭素のレベルを所望のレベルで又はその付近に比較的安定に維持する。
【0056】
細胞培養プロセスを向上させるための溶存二酸化炭素レベルの制御
いくつかの先行技術文献は、細胞培養液における溶存二酸化炭素のレベルが、細胞培養プロセスの指数増殖期又は生産期時の比増殖率及び細胞密度にほとんど又は全く影響を与えないことを示唆している。これらの先行技術の実験のほとんどは、ガスの散布速度を増大させることが、さらなる二酸化炭素を移動させる唯一の手段である従来の撹拌タンクバイオリアクターにて実施された。発泡及び剪断による細胞の死滅率は、二酸化炭素を除去する利益を覆い隠す。
【0057】
本システム及び方法は、生産期を通じて細胞生存度に対して有益な効果をもたらす開始時及び指数増殖期時の両方における細胞培地中の溶存二酸化炭素レベルの厳密な制御を提供する。したがって、蓄積生産物収率は、また、増殖期の規定レベルの溶存二酸化炭素に対する細胞の曝露によって影響される。本明細書に記載されているように、様々な試験系統又は試験バッチは、指数増殖期に溶存二酸化炭素のレベルを厳密に制御すると、生産期により高い蓄積生産物収率が得られるとともに、生産期の細胞生存度の劣化又は低減がより緩慢になることを実証している。
【0058】
バイオリアクター容器ヘッドスペースにおけるガスと液体/溶液に溶解したガスとの交換が、細胞培養液の表面で生じる。この手段による二酸化炭素の除去は、細胞の剪断及び気泡損傷を最小限に抑え、発泡を低減又は除去するため、散布ガスを介する分離と比較して魅力的である。しかし、商業規模のバイオリアクターにおける表面ガス交換は、現行のプロセス条件下では、実用するには極めて制限されすぎるため、現在では二酸化炭素の除去に利用されていない。これは、典型的な従来のバイオリアクター容器の表面対容積比が制限されていること、及び現行の撹拌機設計によって達成された培養表面の再生の速度が遅いことの直接的な結果である。これらの問題は、高く狭い構成を有するバイオリアクターではさらに悪化する。
【0059】
商業規模のバイオリアクターにおける表面ガス交換の別の欠点は、回転軸撹拌機を使用すると生じる。これらは、表面の液体に円を描いて旋回させ、容器内のより深い位置からの溶液がそれに取って代わる傾向がほとんどない。これは、表面ガス交換に影響を与える少なくとも2つの結果を有する。第一に、表面液層は、溶存二酸化炭素が急激に欠如して、後のCO2のヘッドスペースへの除去のための駆動力が低下する。第二に、(この領域におけるより高い静水圧により、溶存CO2の濃度が最も高くなる)バイオリアクターの底部からの液体は、それが溶存ガスをヘッドスペースに供給できる表面に希にしか誘導されない。全体的な効果は、溶存CO2の除去が遅くなること、及びバイオリアクターにおける溶存CO2濃度の勾配が存在し、表面が非常に低濃度になり、それが細胞生産性及び生存度を低減させるレベルに容易に到達できる底部が高濃度になることである。
【0060】
溶存CO2の除去を制御する本方法は、バイオリアクター容器に配置されたドラフト管内に配置された上方流動インペラを有するバイオリアクターシステムを採用する。上方ポンピングインペラは、バイオリアクター容器の外側のモータによって軸を介して駆動される。インペラの上方流動は、表面ガス交換を高度に制御可能な方式で強化する上面再生法を提供する。上方ポンピングインペラは、細胞培地及び懸濁哺乳類細胞をバイオリアクター容器の底部から、リアクターの上部における液体/ヘッドスペースガス界面に向かって移動させる。そうすることで、細胞培養液又は培地における溶存二酸化炭素は、気液交換が生じているバイオリアクターにおける液体の表面に連続的且つ迅速に運ばれる。表面液体における高度な反転は、溶存二酸化炭素のヘッドスペースへの迅速な除去を可能にする。上方流動インペラは、哺乳類細胞を損傷又は死滅させるほどの剪断をもたらすことなく、より大きなポンピング速度を可能にする。酸素、窒素、空気、二酸化炭素又は他の好適なガス及びそれらの混合物からなるスイープガスがバイオリアクター容器におけるヘッドスペースに導入され、そこで溶液の上面と相互作用して、所望の気液交換を達成し、続いてバイオリアクター容器におけるヘッドスペースから排気される。
【0061】
好適なバイオリアクターシステムは、pHセンサ、dCO2センサ、温度計、溶存酸素分析器及び通気ガス分析器を含む複数のセンサ及び分析器を含むこともできる。当該センサ及び分析器は、酸素、窒素及び二酸化炭素のバイオリアクター容器へのガス供給を制御又は調整するシステムコントローラ(不図示)に入力として連結される。該システムは、必要に応じて、排気サブシステム、複数の生物フィルタ、並びに水及び水蒸気でバイオリアクター容器を滅菌する手段を含むこともできる。
【0062】
上方ポンピングインペラは、好ましくは、インペラが低液体培地又は培養液出発レベルに合わせて浸漬されるように、主要バイオリアクター容器の中央付近に配置される。インペラ速度は、調整可能であり、特定の哺乳類細胞培養プロセスに対して常に所望レベルの溶存二酸化炭素を維持するように細胞培養プロセス全体を通じて変化され得る。好ましくは、インペラ速度は、バイオリアクター内の液体又は溶液レベルが低いときに非常に低い速度に維持され、液体又は溶液レベルが上昇するに従って増大すべきである。好ましくは、上方流動速度を増大させて、より高いガス交換率を得るために、ドラフト管が加えられることになる。インペラ速度は、バイオリアクター容器における液体又は溶液レベルも最も高いときに、細胞培養プロセスの指数増殖期の終了時に最も高くなることが好ましい。通常、利用可能な表面積が非常に制限されるため、表面ガス交換は非効率的なプロセスである。ヘッドスペースと液体表面との間で生じるガス交換により、気/液界面のいずれの側のガス濃度も飽和レベルに迅速に近づく。界面に適正な濃度駆動力が存在しなければ、ガス交換に利用可能な表面積を大いに増大するための手段を施さない限り、表面通気を実行できない。残念ながら、当該手段(例えば、液体の一部の噴霧化)は、脆弱な哺乳類細胞を損傷及び死滅させる過度の剪断をもたらす。しかし、動的ガス制御法は、ヘッドスペースガスを迅速にスイープして、気相境界層における二酸化炭素の蓄積を回避することによってそれらの制限を克服する。液相境界層の制限は、浸漬インペラの上方ポンピング作用によっても取り除かれる。
【0063】
インペラの上部に加えられたいくつかの垂直バッフルがガス交換率に対して非常に大きな改善をもたらすことが観察された。これらの垂直バッフルは、回転速度を実質的に純粋な垂直配向流に変換する。液体表面を介する溶存CO2の除去率に対するドラフト管と垂直バッフルの効果を比較するために、本発明に記載の方法を使用して、二酸化炭素除去試験が300L容器にて実施された。容器における溶液が7のpHに維持され、ヘッドスペースに空気がスイープされた。螺旋状インペラが、周波数インバータを用いて2つの異なる速度で動作するように設定された。溶存CO2レベルが、実験を通じて連続的に測定された。それらの結果は、物質移動容積係数(KLa)の観点で表(1)に報告された。
【表2】
【0064】
上方流動螺旋状インペラの速度に応じて、それらの結果は、バッフルを含むドラフト管が使用されると、物質移動係数が226%から678%向上することを示していた。これらの実験において表面ガス交換現象に関する垂直バッフルの重要性を示すためにさらなる試験が実施され、螺旋状インペラが300L容器の底部に設置され、垂直バッフルが取り除かれた。本発明の実験作業から、表面液体の旋回運動を除去することが重要であると結論づけられた(表2参照)。表面における旋回運動を除去することによって、インペラからの上方流動液体は、跳ね返すことなく、迅速にインペラ軸から出て、容器表面全体に広がり、容器の縁付近で液体の本体に再浸漬して、回転表面現象をもたらす。垂直バッフルが設置されると、二酸化炭素除去率は、上方流動螺旋状インペラの回転速度に応じて28%から128%向上した。これらの実験結果は、バイオリアクターの下部からの液体が、表面液体に迅速に取って代わって、実質的により高い溶存二酸化炭素除去率及び細胞培地への酸素溶解率をもたらすことを示している。垂直バッフルがなければ、旋回する表面液体は、バイオリアクター内のより深い位置からの新鮮な液体に実質的に置き換えられない。
【表3】
【0065】
上述のように、大きなバイオリアクター容器の底部の液体又は溶液が、大きな静水圧に曝され、哺乳類細胞内に取り込まれた溶存二酸化炭素がゆっくりと平衡化する。ここに開示されている上方ポンピングインペラは、この問題を軽減する。液体溶液及び哺乳類細胞をバイオリアクター容器の底部から上面に向かって上方に再循環させることによって、哺乳類細胞は、より低い全体平均静水圧レジームに曝されるため、より良好な平衡レベルの溶存二酸化炭素を達成する。細胞培地又は培養液の連続的な軸方向又は上方再循環は、細胞の原形質の内側深くにある過剰の溶存二酸化炭素を追い出す細胞の能力を強化すると考えられる哺乳類細胞に様々なレベルの静水圧を加える。
【0066】
偏向壁又は仕切板がバイオリアクターに存在しないため、上方流動液体は、バイオリアクター壁に向かって外側に回転する前に非常に迅速に上面に達することができる。これは、溶存二酸化炭素の迅速な除去を促進する液体表面の非常に迅速な再生をもたらす。代替的な形のインペラを使用して、ドラフト管を用いた、又は用いない上方再循環流を与える。好ましくは、上方ポンピングインペラは、スクリューインペラ又はプロペラである。しかし、プロペラからの横方向又は半径方向の流れが最小になり、ひいては哺乳類細胞の剪断及び他の損傷を低減する限り、他のプロペラを使用してもよい。
【0067】
迅速な気液表面再生は、ガスを液体に溶解させるのにも有用である。例えば、ここに開示されている気液表面再生法を使用して、増殖細胞に必要な規定量の酸素を溶解させることができる。酸素の需要が高いときは、ヘッドスペース内のスイープガスにおける酸素組成が増大し、再循環液体の上面への酸素の移動が増大する。酸素溶解要件が低いときは、ヘッドスペース内のスイープガスにおける酸素組成が低減し、空気又は窒素で置き換えられる。スイープガスの酸素組成の変化は、二酸化炭素除去率にほとんど又は全く影響を与えない。溶存酸素濃度は、多くの哺乳類細胞培養プロセスにおいて、好ましくは約50%に維持される。ウィルス感染sf−9昆虫細胞培養による組換えタンパク質生産などの場合は、細胞によるタンパク質生産を高めるために、細胞培養液に非常に低い酸素濃度(例えば、5%未満の酸素濃度)が使用される。
【0068】
溶存二酸化炭素レベルを任意の所望のレベルに調整又は維持することができる。細胞培養プロセスを通じていつでも溶存二酸化炭素レベルを減少させるために、バイオリアクターのヘッドスペースに入るスイープガスの流量を増大させて、表面付近の液体からCO2をより迅速に除去することができる。インペラ回転速度を増大させて、表面液体再生速度を高めることもできる。溶存二酸化炭素レベルを増大させるために、スイープガス流量を低減させ、且つ/又は上方ポンピングインペラの回転速度を減少させることになる。生産バイオリアクターの接種直後のプロセスの最も早い時期の場合のようにさらなる二酸化炭素が必要とされる場合は、それを必要に応じてヘッドスペースにおけるスイープガス混合物に添加することができる。典型的な哺乳類細胞培養プロセスにおいて、バッチが初期の遅滞期から指数増殖期の終了まで進行するにつれて溶存酸素要件が増大するのに対して、溶存二酸化炭素濃度は、細胞の呼吸により増大し、指数増殖期の終了に向けて最大濃度に到達し、次いで生産期を通じて徐々に低減する。したがって、気体の二酸化炭素は、pHを制御及び維持するために、多くが遅滞期を通じて添加される。また、細胞生産期を通じて、溶存酸素のある規定レベルを維持する必要がある。
【0069】
スイープガス混合物における窒素、酸素及び二酸化炭素濃度を独立に調整又は制御することに加えて、全ヘッドスペースガス流量を増大させても、ヘッドスペースにおける分離ガスの蓄積が回避されることになる。
【0070】
好適な実施形態において、バイオリアクター容器への窒素、酸素及び二酸化炭素のガス供給物が、ヘッドスペースにおける液体の上面の上方、好ましくはバイオリアクター容器における液体溶液の回転面の近傍に導入される。バイオリアクター容器における液体レベルが上昇すると常にガスを上面に又はその付近に注入できるようにガス注入器を可動にすることによって、当該ガス導入を達成することができる。回転上面におけるガスの衝突は、ガス側での運動境界層を低減し、液体と気体の間の全物質移動速度を向上させる。或いは、バイオリアクター容器において達成される最大液体高さ付近の位置にガスを導入するように配置された固定ガス注入器を使用して、ガス供給物を送達することができる。たいていの哺乳類細胞培養プロセスにおいて、dCO2の除去が最も必要である指数増殖期のピーク時に、バイオリアクター容器における最大液体高さが存在する。
【0071】
好適でないが、バイオリアクター容器内に配置された1つ又は複数のスパージャを使用して溶液内にガスを散布することによって、バイオリアクター容器への(培地pHの初期調整のための)空気、酸素及び二酸化炭素のガス供給物の制御導入を補給することができる。酸素を溶解させるのに使用されるスパージャは、流量が小さければ、より微細なノズル(又は孔)を有して、液体表面を破壊する前に溶解又は吸収される小さな酸素気泡を生成することができる。スパージャは、バイオリアクターの底部にガス気泡を生成するように設計されているため、(pH調整のための)酸素又は二酸化炭素を効率的に溶解させる。しかし、分離された二酸化炭素は、特に低い流量では、ガス気泡を迅速に飽和させるか、又は気液界面における濃度駆動力を低減し得るため、スパージャは、溶存二酸化炭素の分離が劣る。流量がより大きくなると、激しい剪断及び発泡が細胞を死滅させることになる。当該浸漬ガススパージャは、ヘッドスペースガス交換法と組み合わせて酸素の独立添加を支援することができる。溶存二酸化炭素の除去を支援するためにスパージャを使用することは極めて望ましくないが、細胞密度が高いときに少量の純粋の酸素を溶解させるのに使用可能である。ガススパージャは、使用される場合は、細胞培地におけるそれらの滞留時間を最大にするために、上方流動インペラから離れて配置されるのが好ましい。液体表面のガス交換の上部に少量の純粋の酸素が必要であれば、この特殊な場合であっても酸素気泡が有意な損傷を引き起こすことはない。また、インペラの剪断作用でなく散布のみによって生成されるガス気泡は、インペラに直接注入されるガス気泡よりはるかに大きくなる傾向があり、発泡の可能性が著しく小さくなる。ここで、ガス交換は、液体の表面上及びバルク内の双方に生じる。少容量のガスを短時間にわたって断続的に散布すると、非常に高流量のスイープガスに頼ることなく、又は最大のインペラ速度を採用することなく、酸素吸収量を最大にすることが可能になる。細胞損傷を最小限に抑えるために、酸素溶解及び二酸化炭素除去のための当該散布をピーク需要時にのみ実施することが重要である。当該散布は、dCO2の分離をも支援し得るが、影響又は寄与は、すべての細胞培養系統を通じて有意であることが示されていない。
【0072】
好適な上方ポンピングデバイスは、最小限の半径方向流量で大容量の液体を上方に移動させることができる螺旋状インペラである。螺旋状インペラを使用して、シミュレートされた液体培地から二酸化炭素除去率が測定され、容積質量係数として報告された。物質移動係数が高くなるほど、ガス交換効率が良好になる。上方ポンピングインペラを用いても、移動する液体流は、撹拌機の回転によって回転されることになる。その結果、表面液体は旋回して、表面液体が表面の平面内で回転するに従って液体表面再生を著しく低減させることになる。旋回を停止するために、インペラの上部にも垂直バッフルシステムを使用して、液体の回転を中断し、流れをそのまま表面に再誘導する。したがって、表面液体は、容器の中心において軸から外側に放射し、拡散し、それが沈む容器の縁に向かって希薄化する。その結果、表面ガス交換及び二酸化炭素分離が著しく向上される。
【0073】
図1、2A、2B、2C、3A、3B及び3Cを参照すると、細胞培養液のモル浸透圧濃度が中程度の値(即ち436から533mOsm/kg)に維持された哺乳類細胞培養プロセスの3つの異なる系統についてグラフの形で試験データが示される。試験した3つのサンプルのうち、ここに開示されている動的ガス制御(DGC)技術を取り入れ、DGC8として識別されるサンプルの1つは、溶存二酸化炭素レベルがプロセス全体を通じて約4%に維持され、5日目に溶存二酸化炭素が約5.7%まで少し増大している。(Run32として識別される)第2のサンプルは、溶存二酸化炭素の出発レベルが約12%であり、次いで増殖期の早期段階において約6%まで減少した後、溶存二酸化炭素のレベルが最大の約15%まで増大している。次いで、溶存二酸化炭素のレベルは、生産期において約10%まで徐々に低下した。(Run40として識別される)第3のサンプルは、遅滞期を通じて溶存二酸化炭素の出発レベルが約6%から10%であり、細胞培養プロセスの4から11日目までの全体を通じて溶存二酸化炭素レベルの変動レベルが約5%から約44%の範囲と高い。
【0074】
図2Aに見られるように、DGC8は、哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じてRun30より高い生存細胞密度(MC/ml)を維持し、Run40より有意に高い生存細胞密度を維持した。図2B及び2Cにおけるデータは、図2Aと比較すると、本出願に開示されているDGC技術に伴う利益を示す基線系統に対する同様のグラフを示す。
【0075】
同様に、図3Aに見られるように、DGC8は、Run30の生産物収率より高いIgGの生産物収率(mg/l)及びRun40の対応する生産物収率を維持した。また、低dCO2のDGC8における比生産性(pg/生存細胞.日)は、有意に増大された。サンプルプロセスの比生産性は、それぞれ、約40pg/生存細胞−日(DGC8)、20pg/生存細胞−日(Run32)及び16pg/生存細胞−日(Run40)であった。図1、2A、2B、2C及び3AにおけるDGC8データによって明らかなように、細胞培養プロセス全体を通じて安定した低レベルの溶存二酸化炭素を維持すると、細胞生存度を高め、生産物収率及び比生産性を増大させることができる。
【0076】
図3B及び3Cは、DGC8系統並びにRun32における実測モル浸透圧濃度レベルを示す。期待されるように、モル浸透圧濃度レベルは、栄養物が流加式の哺乳類細胞培養プロセスに添加される毎に実質的に増大する。しかし、図3Bと図3Cのモル浸透圧濃度レベルを比較すると、DGCプロセスが使用される場合は、栄養物添加の直後にモル浸透圧濃度レベルが減少又は変調することが観察される。具体的には、DGC8系統の出発モル浸透圧濃度レベルは、370mOsm/kgであったが、その後、増殖及び生産期において約363mOsm/kgから最大モル浸透圧濃度レベルの475mOsm/kgの範囲になる。この特定の細胞系についてのモル浸透圧濃度の全上昇は、約112mOsm/kgに制限された。一方、Run32におけるモル浸透圧濃度レベルは、細胞培養プロセスの増殖期及び生産期全体を通じて、約350mOsm/kgの出発点から約511mOsm/kgの最大モル浸透圧濃度レベルまで継続して上昇し、それは、161mOsm/kgの上昇、又はDGC8系統より約35%大きな値を表す。
【0077】
ここで図4〜6を参照すると、哺乳類細胞培養プロセスの2つのさらなる試験系統の特徴及び結果を示すグラフが示されている。ここで見られるように、サンプル系統は、全体的に一定又は安定した溶存二酸化炭素レベル、及び細胞培地の中程度のモル浸透圧濃度を維持した。具体的には、図4に示されるように、Run50は、細胞培養プロセスの指数増殖期及び生産期を通じて約13%から18%の中程度の溶存二酸化炭素レベルを維持したのに対して、Run55は、細胞培養プロセスの指数増殖期及び生産期を通じて約2%から6%の低い溶存二酸化炭素レベルを維持した。図5に見られるように、全体的に安定しているが、低い溶存二酸化炭素レベル及び中程度のモル浸透圧濃度を有するサンプルRun55は、全体的に安定しているが、中程度の溶存二酸化炭素レベル及び中程度のモル浸透圧濃度を有するRun50より生産期を通じて高い割合の細胞生存度を示した。図6に見られるように、全体的に安定しているが、低い溶存二酸化炭素レベル及び中程度のモル浸透圧濃度を有するサンプルRun55は、全体的に安定しているが、中程度の溶存二酸化炭素レベル及び中程度のモル浸透圧濃度を有するRun50より生産期を通じて高い生産物収率を示した。これらの図の結果は、細胞培養プロセス全体を通じて安定した低い溶存二酸化炭素レベルを維持すると、細胞生存度が高められ、生産物収率及び比生産性が増大するという、図1〜3から導かれた結論をさらに裏づける。
【0078】
哺乳類細胞培養における溶存二酸化炭素レベルの影響
再び図1を参照すると、DGC8は、Run32の開始時における中程度のdCO2レベルと比較して、系統の開始時から低いdCO2レベルを示す。指数関数的細胞増殖期のピークにおいて、2つの系統のdCO2は、5.7%でほぼ同じであった。しかし、図3Aは、DGC8系統を通じて生成されたタンパク質生産物IgGが、Run32を通じて生成されたタンパク質生産物IgGのほぼ2倍であったことを示す。これは、IgG生産物の早期の収穫を有することを望むのであれば、低レベルのdCO2から出発し、生産期まで同じ低レベルのdCO2を維持することも重要であることを示唆している。低い出発dCO2レベルを得るために、約7.0のpHの緩衝液を形成するために添加する重炭酸ナトリウムの適正量とともに、化学平衡dCO2レベルを計算することが必要である。勿論、DGCプロセス時の表面ガス交換は、細胞培養の指数増殖を通じて生成されたCO2を分離する。バッチの開始後に、細胞培地内のpHレベルを維持又は低減するためにさらなるCO2を添加する必要性を回避するために、pH制御が酸−塩基(例えば、塩酸−水酸化ナトリウム)系に切り換えられる。たいていの細胞培養プロセスは、細胞培養プロセスが開始すると、バッチサイクルを通じて1つの緩衝系から別の緩衝系に切り換えることに留意されたい。
【0079】
次に図7〜11を参照すると、さらに2つの追加的な哺乳類細胞培養プロセス系統から得られたサンプルデータが示されている。図7は、遅滞及び指数増殖期に約5%の低い溶存二酸化炭素レベルを有するRun62並びに細胞培養プロセスの遅滞及び指数増殖期に約10%の中程度の溶存二酸化炭素レベルを有するRun63の増殖期及び生産期の溶存二酸化炭素レベルを示す。Run62及びRun63の両方において、細胞培養プロセスが生産期に入る6日後に、溶存二酸化炭素レベルを人工的に30%の平均値まで上昇させた。ヘッドスペースへのガス流量及び撹拌速度を低減して、分離速度を低下させる一方、さらなる二酸化炭素ガスをヘッドスペースに加えた。Run62及びRun63の目的は、生産期のみの細胞に対する溶存二酸化炭素の影響を調べることであった。溶存二酸化炭素レベルが細胞培養プロセス全体を通じて厳密に制御されたRun DGC8と比較して、Run62及びRun63の両方からは、より低い細胞生存度及びタンパク質生産物IgG収率が期待された。
【0080】
図8及び図10は、Run62及びRun63の両方についての生存細胞密度及び細胞生存度(%)が増殖期を通じてほぼ同じであったことを示す。しかし、増殖期を通じてより低い溶存二酸化炭素レベルを有していたRun62は、増殖期を通じて中程度の溶存二酸化炭素レベルを有していたRun63より生産期を通じて高い程度の細胞生存度を示した。したがって、Run62における細胞は、増殖期を通じてより低レベルの溶存二酸化炭素に曝露され、増殖期を通じてより高レベルの溶存二酸化炭素に曝露されたRun63における細胞より健康的であった。
【0081】
図11は、低い出発溶存二酸化炭素レベルを有するサンプルRun62が、中程度の溶存二酸化炭素レベルを有し、837mg/LのIgG生産物収率を有するRun63より生産期を通じて1140mg/Lの高いIgG生産物収率をも示したことを示す。Run62は、溶存二酸化炭素レベルが45%まで過度にスパイクされていなければ、より良好に行うことができたであろう。これらの2つの系統は、溶存二酸化炭素が、細胞培養プロセスによるIgGタンパク質生産物収率に影響を与えることを示唆している。Run62及びRun63と、生産期を通じて溶存二酸化炭素レベルのスパイクが導入されなかった図3に示されるDGC8とを比較すると、DGC8のIgGタンパク質生産物収率は、生産期を通じて高い溶存二酸化炭素レベルを被ったRun62の収率の2倍を上回っている。明らかに、増殖期及び/又は生産期における溶存二酸化炭素レベルの影響は、細胞生存度及び生産物収率に対して異なる効果を有する。
【0082】
溶存二酸化炭素レベル及びモル浸透圧濃度の最適化
ここに開示されているシステム及び方法は、好ましくは、遅滞及び指数増殖期を通じて10%未満、より好ましくは約3%から5%の全体的に一定の、又は安定した溶存二酸化炭素レベルを維持しながら、遅滞及び指数増殖期を通じて約300から560mOsmo/kg、より好ましくは約400から500mOsmo/kgの中程度のモル浸透圧濃度レベルを維持する(図1及び4参照)。この溶存二酸化炭素レベルとモル浸透圧濃度を組み合わせたプロセス条件は、選択された哺乳類細胞培養プロセスについて生産段階を通じてより大きな細胞生存度及び最も高い生物生産物収率をもたらす(図2、3、5及び6参照)。
【0083】
バッチ細胞培養プロセスでは、モル濃度の変化が比較的小さい。出発溶存二酸化炭素の化学的平衡計算と同様に、出発モル浸透圧濃度も出発培養液のすべての成分から計算されるべきである。従来のバッチプロセスでは、二酸化炭素が代謝細胞塊から生成され、pHを再均衡させるために重炭酸ナトリウムを添加しなければならないときにモル浸透圧濃度が増大することになる。
【0084】
流加式のプロセスでは、増殖及び生産を長引かせるために栄養物が断続的段階で添加されるため、モル浸透圧濃度も段階的な変化を示すことになる。先述したように、各g−モルの塩又は電解質は、2g−モルのモル浸透圧濃度に解離する。各g−モルのグルコース、グルタメート及び他の有機栄養物は、1g−モルを全モル浸透圧濃度に寄与する。図6Aは、この動的ガス制御(DGC)プロセス技術を用いた良好な培養系統の典型的なプロファイルとしてのDGC8のモル浸透圧濃度プロファイルを示す。大きな段階的増大は、栄養物添加の時間に起因する。それぞれの栄養物添加後に、グルコース及びグルタメートが消費されるに従って、モル浸透圧濃度が実際に低下した。しかし、一般的な流加式のプロセスでは、細胞培養プロセスサイクルを通じて、選択された時間にさらなる栄養物が液体培地に添加される毎にモル浸透圧濃度がより大きく段階的に増大する。pH及びプロセス条件に応じて、消費されているグルコースは、ラクテートに変換され得るため、系のモル浸透圧濃度に正味の変化はない。しかし、グルコースは、また、二酸化炭素ガス及び水に直接変換され得る。二酸化炭素ガスがこのDGCプロセス技術のように効果的に分離される場合は、モル浸透圧濃度の一時的な減少が観察される。或いは、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベルは、溶存二酸化炭素によって下げられたpHを中和するために必要なアルカリ又は炭酸水素塩の添加とともに継続的に増大する。
【0085】
図6Aに示されるように、DGC8は、流加サイクル時の各栄養物添加後に、モル浸透圧濃度を低減又は維持する本発明の能力を明確に実証した。モル浸透圧濃度レベルを最小範囲又は好適な範囲に保つことによって、さらなる塩及び/又は栄養物を添加して、モル浸透圧濃度レベルを所望の最適なプロファイル又は範囲に合わせて操作することができる。哺乳類細胞は、生存及び繁殖するために特定の電解質及び栄養物を必要とするため、最適なモル浸透圧濃度レベルは、最も低いモル浸透圧濃度である必要はない。しかし、過剰の溶存二酸化炭素によるpH調整からの連続的な寄与がなければ、モル浸透圧濃度レベルの最適化が可能である。
【0086】
最も望ましいモル浸透圧濃度範囲で細胞培養プロセスを制御するためには、出発モル浸透圧濃度レベルを計算又は実験によって予め決定するだけでなく、最終的なモル浸透圧濃度レベルを所望の範囲におさめることができるように、各々の栄養物及び/又は培地添加時のモル浸透圧濃度レベルを考慮する必要がある。上述のように、蓄積する二酸化炭素を除去するための効率的な溶存二酸化炭素除去又は分離法を有することもモル浸透圧濃度レベルに対する効果を有する。溶存二酸化炭素及びモル浸透圧濃度の両方を所望のレベルに制御することによって、有意な生産物収率及び生産物純度の向上を実現することができる。
【0087】
図7及び9は、モル浸透圧濃度の増大及び生産物収率の低減に対する高溶存二酸化炭素の効果を示す。Run62及びRun63についての増殖期全体を通じて、5%から10%の範囲の溶存二酸化炭素は、いずれの系統のモル浸透圧濃度レベルに対しても大きな影響を与えなかった。約350mOsmo/kgから約400mOsmo/Kgまでのモル浸透圧濃度レベルの増大は、主として、培地及び栄養物添加によるものであった。生産期の開始時に、dCO2分離速度を低減させて溶存二酸化炭素濃度を上昇させることが可能であった。図9に示されるように、細胞によって生成された過剰の二酸化炭素の存在により、重炭酸ナトリウムがpHコントローラによって自動的に注入されるとモル浸透圧濃度レベルが劇的に増大した。図6Aに示されるDGC8系統のモル浸透圧濃度レベルと対照的に、Run63のモル浸透圧濃度レベルは、約600mOsmo/kgまで継続的に増大した一方、より高いピーク溶存二酸化炭素を有するRun62は、さらに約680mOsmo/kgまで増大した。生産期での溶存二酸化炭素濃度が高く、モル浸透圧濃度が制御されていなければ、Run62及びRun63の両方が、動的ガス制御法を使用した完全制御DGC8(2300mg/L)よりはるかに低いIgG生産物収率(それぞれ1140mg/L及び837mg/L)を有する。
【0088】
次に図12から17を参照すると、動的ガス制御(DGC)法を使用する細胞培養プロセスと、動的ガス制御(DGC)法を採用しない細胞培養プロセスとを比較したデータを含む図が示されている。示された図のデータは、中程度のモル浸透圧濃度において動的ガス制御(DGC)法を採用するサンプル系統、即ちDGC2及びDGC3が、DGC制御を用いないプロセス(例えばRun32)よりはるかに高い生産物収率を提供することを示唆している。
【0089】
サンプルプロセスDGC2では、溶存二酸化炭素が約8.45%から出発し、続いて、残りの細胞培養プロセス全体を通じて約7.0%から7.5%の範囲に維持された。サンプルプロセスDGC3では、溶存二酸化炭素が約5.5%から出発し、1日目及び2日目に約5.5%から6.3%の範囲に維持され、続いて3日目及び4日目に約4.5%まで減少し、4日目から15日目に約4.0%までさらに低減した。最後に、Run32は、平均dCO2が増殖期において約6%に維持された後、dCO2が約15%まで増大し、次いで生産期において約10%まで徐々に低下した細胞培養プロセスに極めて典型的な溶存二酸化炭素プロファイルを有していた。
【0090】
図12〜17に含まれるデータは、動的ガス制御(DGC)法を用いたプロセスを通じて溶存二酸化炭素レベルを所望の低いレベルに十分に維持できることを示す。DGC2及びDGC3サンプル系統のいずれもが、タンパク質生産の後半の段階を通じてより高い生存細胞密度及び生存度を有していた。制御溶存二酸化炭素レベルが最も低いサンプル系統DGC3は、これらの3つの系統のなかで最も高い生産物力価を有し、DGC2又はRun32よりはるかに早く最大生産物力価に達した。
【0091】
生産物純度を向上させながらバッチ時間を短縮する方法
生産期を通じて、栄養物が尽き、アンモニア及びラクテートなどの他の副産物及び廃棄物が毒性レベルに達すると、細胞は死滅する。例えば、単にグルコースをスクロースに変えると、ラクテート生成を低減することによって毒性レベルの発生及びその結果としての細胞死の誘発を遅らせることができる。細胞死を遅らせると、全体的な細胞生存度を向上させ、より高い生産物収率を可能にする。最終的には、細胞は死滅することになる。死細胞は、典型的には、分解し、プロテアーゼ及び他の望ましくない酵素を放出する。これらのプロテアーゼは、生細胞を破壊し、さらには既に形成されたタンパク質生産物を劣化させ得る。組換えタンパク質を生成する哺乳類細胞培養プロセスは、死細胞から放出されるプロテアーゼに特に敏感である。したがって、組換えタンパク質を生成するプロセスは、通常、細胞生存度が90%を有意に下回る前に切り詰められる。
【0092】
再び図13及び図15を参照すると、Run32は、バイオリアクターにおける細胞培地の上面における表面ガス交換を促進しない十分に動作された従来の哺乳類細胞培養プロセスを表す。Run32に関連するバッチは、細胞生存度が40%を下回るまで12日間にわたって処理された。収穫時に、生産物収率は1250mg/Lであった。Run32を所望の90%の細胞生存度で収穫するために、バッチ時間を7日に短縮しなければならず、生産物収率は、わずか650mg/L生産物になる。対照的に、表面ガス交換を含むこの動的ガス制御法を使用したDGC3は、増殖期時でもはるかに早く生産物の生産を開始した。バッチが66%の細胞生存度で12日間で収穫されるのであれば、DGC3は2060mg/L生産物を得たであろう。DGCを90%の細胞生存度で7日目に収穫すると、収率が1050mg/L生産物に低減することになる。生物医薬の観点から、より高い生産物純度を維持しながら処理時間を短くすることは、いくつかの細胞系について有意な競合的利点をもたらす。したがって、本明細書に開示された動的ガス制御法を使用すると、生物医薬製造者は、細胞培養プロセスサイクルを短縮して高純度の生産物を得るか、又は同等のバッチ時間及び同じ栄養物含有量で従来の細胞培養プロセスと比較してタンパク質生産物の収率を実質的に増大させるかを選択することが可能になる。
【0093】
動的ガス制御(DGC)法の最適化
図18は、モル浸透圧濃度とピーク溶存二酸化炭素の様々な組合せにて様々なサンプル系統を通じて収集された細胞培養プロセスデータを示す表である。図16は、様々なピーク溶存二酸化炭素レベルと中程度のモル浸透圧濃度のみを含む表からの選択データのプロットである。そこに見られるように、約5%以下の最も低いピーク溶存二酸化炭素レベルは、最も高い生産物収率をもたらす。ヒトの血液流における生理的二酸化炭素も約5〜6%であることに留意されたい。図17は、様々なモル浸透圧濃度レベルと中程度のピーク溶存二酸化炭素レベルのみを含む別のデータ集合体のプロットである。図17は、最適な最大モル浸透圧濃度レベルがこの特定の細胞系については約500mOsmo/kgで存在することを示す。
【0094】
このDGCシステム及び方法は、また、10%未満、より好ましくは約5%以下の低い溶存二酸化炭素レベルを維持しながら、生産期を通じて哺乳類細胞培養バッチを水で希釈するとともに、生産期を通じて選択量のさらなる栄養物を添加することを可能にする。この希釈及び栄養物補給手順は、より高い哺乳類細胞培養バイオリアクター生産物収率をもたらすとともに、重大な毒性廃棄物蓄積物のいくつかを希釈すると思われる。
【0095】
上記のプロセス最適化技術の3つすべては、単独又は組合せにおいて、pH、溶存酸素レベル、温度、圧力、培地中の栄養物及び廃棄物プロファイル、撹拌、ガス散布、栄養物供給並びに生産物収穫の既に認識されているプロセスパラメータに加えて、溶存二酸化炭素レベル及びモル浸透圧濃度を含む複数の重要なプロセスパラメータを制御することによって、典型的な哺乳類細胞培養バイオリアクター生産物純度及び生産物収率を高める。
【0096】
以上に特定したパラメータのプロセス収率に対する影響は、より小規模なバイオリアクターにおいてスケールダウンした条件下で、又は所与の細胞系について大規模商業バイオリアクターにて最初に確立される。溶存二酸化炭素、モル浸透圧濃度、pH、溶存酸素、温度、並びに商業的生産に好適な細胞培地における栄養物及び生産物レベルの最適なレベル又は範囲を確立した後で、DGCプロセスは、これらの最適な条件を達成するための撹拌プロファイル及びヘッドスペース内のガス流量の厳密な制御を可能にする。
【0097】
概して、この最適化及び制御方法は、(a)プロセス最適化期及び(b)活性制御期を含む。プロセス最適化期は、所与の哺乳類細胞培養プロセス、細胞系及びバイオリアクター構成についての所望のpH、モル浸透圧濃度及び溶存二酸化炭素レベルを経験的に決定することを含む。目標の出発モル浸透圧濃度レベル及び溶存二酸化炭素レベルに基づいて、適正量の炭酸水素塩を緩衝液としてバイオリアクター培地が調製される。この初期に調製された培地は、全体的にアルカリ側のpHを有することになる。該溶液のpHは、開始時又は細胞培地の調製時に二酸化炭素ガスを導入することによって所望のレベルに調整される。所望のpHレベルに達すると、細胞培養プロセスサイクルの残りの部分にわたって二酸化炭素ガスの導入が止められ、pH制御が酸−塩基型pH制御システムに切り換えられる。しかし、動的ガス制御法が使用される場合は、pHを制御するための酸又は塩基の添加はほとんど必要とされない。
【0098】
活性制御期は、マイクロプロセッサをベースとしたコントローラを使用して、オーバーレイガス組成、オーバーレイガス流量、pH(酸添加、塩基添加)、栄養物添加等についての初期設定値並びに許容可能値又は範囲を確立して、バイオリアクターにおける所望の溶存二酸化炭素及びモル浸透圧濃度を達成しながら、所望の設定点の範囲内のpHを維持し、溶存酸素レベル、撹拌機速度、温度、圧力、栄養物含有量、廃棄物含有量等の他のプロセスパラメータの1種又は複数種を規格内に維持する。酸素の添加及び二酸化炭素の除去のための表面ガス交換を伴う細胞培養バイオリアクターに関連する個々のガス又はガス混合物。補給ガス散布を用いて、細胞培養プロセスの増殖期時にさらなる酸素を供給し、細胞培地の調製時に二酸化炭素でpHを調整することができる。所与の哺乳類細胞培養プロセスについての所望のpH、モル浸透圧濃度及び溶存二酸化炭素レベルの経験的決定は、好ましくはスケールダウンしたプロセス条件で動作する実験室規模のバイオリアクターにて遂行され、適切なモデルベースの試験で補足され得る。
【0099】
DGC法の活性制御期は、マイクロプロセッサベースのコントローラへの入力として使用される複数のパラメータを監視又は測定することを含む。当該入力は、溶存二酸化炭素レベル、モル浸透圧濃度レベル及びpHレベル、並びに溶存酸素レベル、温度及び撹拌速度の典型的な入力を含む。当該入力は、細胞培養プロセスの生産及び増殖期全体を通じて定期的な間隔で、又は連続的にコントローラに供給される。マイクロプロセッサベースのコントローラは、これらの入力を受け取り、ヘッドスペースガス組成、ヘッドスペースガス流量、撹拌機速度、酸添加、塩基添加又は栄養物添加の群から選択される少なくとも1つのパラメータの値及び設定を表す1つ又は複数の出力信号を生成する。出力信号は、溶存二酸化炭素レベル、溶存酸素レベル、モル浸透圧濃度又はpHを、選択された細胞系の所望の値又は規定の範囲に活動的に制御する又は維持するヘッドスペースガス組成、ヘッドスペースガス流量、上方流動撹拌機速度、酸添加、塩基添加を制御又は調整するために使用される。
【0100】
プロセス設定点の手動又は自動調整を行うために残留栄養物、液体容量、生存細胞密度、生産物濃度等のオフライン測定が用いられる。必要であれば、ガススパージャを使用して、断続的に純粋な酸素で溶存酸素レベルを補給することもできる。生産期が進行するに従って、バイオリアクター内の細胞培養プロセスが完了するまで、パラメータの監視及び測定、並びに当該パラメータの対応する調整又は制御が継続する。
【0101】
図19A及び19Bは、動的ガス制御(DGC)法を使用する哺乳類細胞培養プロセス時のバイオリアクターにおける上方流動インペラ若しくは撹拌機の回転速度、並びに細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量に対する典型的な出力調整を示す。
【0102】
この提案されたプロセス制御スキームは、ほぼ一定の生理的温度及び低温細胞培養プロセスに適用可能である。低温細胞培養プロセスは、典型的な約37℃未満のプロセス温度における時間の少なくとも一部にわたって継続する。この提案されたプロセス制御スキームは、バイオリアクターのほぼ任意の構成にも適用可能であり、バッチ方式、流加方式又は連続動作方式を含む任意の方式で動作する。
【0103】
先述の説明から、このように、本発明は、哺乳類細胞培養プロセスを通じて溶存二酸化炭素レベル、pH及びモル浸透圧濃度を制御して、細胞生存度及び生物生産物収率を高めるための様々な方法及びシステムを提供することが理解されよう。これらの方法及びシステムの多くの修正、変更及び変形が当業者に明らかであり、当該修正、変更及び変形は、本出願の範囲内に含められることが理解されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類細胞培養プロセスにおける生産物収率を高めるための方法であって、
バイオリアクターにおける細胞培地の上面での表面ガス交換を介して溶存二酸化炭素を除去することにより、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期全体を通じて、細胞培地における溶存二酸化炭素を、約10%未満の濃度の溶存二酸化炭素のレベルに維持する工程を含み、
細胞培地におけるモル浸透圧濃度を哺乳類細胞培養プロセス中に特定の細胞に対して最適な範囲に維持し、細胞培地のpHを哺乳類細胞培養プロセス中に特定の細胞に対して最適な範囲に維持する、上記方法。
【請求項2】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける生産物収率を高めるための方法であって、
溶存二酸化炭素と平衡する規定レベルの炭酸水素塩及び初期レベルのモル浸透圧濃度を有する細胞培地を含むバイオリアクターに哺乳類細胞培養物を接種する工程と、
哺乳類細胞培養プロセスの増殖期を通じて栄養物を細胞培地に定期的に添加する工程と、
哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期を通じて酸又は塩基を細胞培地に定期的に添加して、二酸化炭素ガスを添加することなくpHレベルを哺乳類細胞の規定範囲内に維持する工程と、
哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期を通じて、バイオリアクターにおける細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量を調整して、細胞培地の上面における表面ガス交換を促進する工程と、
増殖期及び生産期を通じて、バイオリアクターにおける細胞培地の上面の下方に配置された上方流動インペラの回転速度を調整する工程とを含み、
細胞培地における溶存二酸化炭素は、表面ガス交換を介して二酸化炭素を分離することによって、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期全体を通じて約10%未満の濃度の溶存二酸化炭素の安定したレベルに維持され、
細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、哺乳類細胞培養プロセスを通じて特定の細胞に対する最適な範囲に維持され、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産物収率が高められる、上記方法。
【請求項3】
溶存二酸化炭素の濃度は、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期を通じて約3%から10%で安定している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
モル浸透圧濃度の最適な範囲は、流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期を通じて約300mOsmo/kgから700mOsmo/kgである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
細胞培地は、接種期を通じて二酸化炭素及び重炭酸ナトリウム緩衝液を含み、細胞培地のpHは、酸又は塩基を細胞培地に添加することによって増殖期又は生産期を通じて維持され、pH調整のためのさらなる二酸化炭素ガスの添加が回避される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
哺乳類細胞培養プロセスは流加式のプロセスであり、細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期を通じて栄養物の添加により増大し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、その後まもなく減少する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
細胞培地における溶存酸素の濃度は、バイオリアクターにおける細胞培地の上面での表面ガス交換を介して、特定の細胞についての最適な範囲に維持される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度及び溶存酸素の濃度は、増殖期及び生産期を通じてバイオリアクターにおける細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量を調整することによって最適な範囲に維持される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度及び溶存酸素の濃度は、増殖期及び生産期を通じてバイオリアクターにおける細胞培地の上面の下方に配置された上方流動インペラの回転速度を調整することによって最適な範囲に維持される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
哺乳類細胞培養プロセスは流加式のプロセスであり、増殖期の開始時から生産期の終了時までの細胞培地におけるモル浸透圧濃度の上昇は、約300mOsmol/kg未満である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
細胞培地の上面は、泡を実質的に含まない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、栄養物の添加とともに増大し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、その後まもなく減少する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける細胞培地のpHレベルを制御する方法であって、
接種期を通じて二酸化炭素及び重炭酸ナトリウム緩衝液を細胞培地に供給して、細胞培地において規定の平衡レベルの炭酸水素塩及び溶存二酸化炭素及び初期レベルのモル浸透圧濃度を確立する工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期を通じて溶存二酸化炭素を細胞培地から分離する工程と、
増殖期及び場合により生産期を通じて栄養物を細胞培地に添加する工程と、
増殖期及び生産期を通じて酸又は塩基を細胞培地に添加して、pH調整のために二酸化炭素ガスを添加することなく、pHレベルを規定範囲に維持する工程とを含み、
細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベルは規定範囲に維持され、増殖期の開始時から生産期の終了時までのモル浸透圧濃度レベルの上昇は、400mOsmol/kg未満であり、
細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度は、増殖期及び生産期を通じて10%以下に維持される、上記方法。
【請求項14】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて細胞生存度を高め、タンパク質生産物収率を増大させるための方法であって、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて細胞培地を水で希釈して、細胞培地における廃棄物の毒性作用を低減する工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて補給栄養物を細胞培地に添加して、水の希釈効果を補償する工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて、細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベル及びpHレベルの両方を哺乳類細胞に対する最適な範囲内に維持する工程とを含み、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて、哺乳類細胞の高められた細胞生存度によりタンパク質生産物収率を増大させる、上記方法。
【請求項15】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスから生産されたタンパク質生産物の純度を向上させるための方法であって、
溶存二酸化炭素と平衡する規定レベルの炭酸水素塩及び初期レベルのモル浸透圧濃度を有する細胞培地を含むバイオリアクターに哺乳類細胞培養物を接種する工程と、
栄養物を細胞培地に添加することによって、細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを増大させて、哺乳類細胞からのタンパク質生産を加速させる工程と、
酸又は塩基を細胞培地に添加して、pHレベルを哺乳類細胞の規定範囲内に維持する工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセス全体を通じて細胞培地から溶存二酸化炭素を分離する工程であって、
細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、
モル浸透圧濃度の初期レベルからのモル浸透圧濃度レベルの上昇を400mOsmol/kg未満に制限する上記工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は早期生産期を通じてタンパク質生産物をバイオリアクターから収穫する工程とを含む、上記方法。
【請求項16】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを制御する方法であって、
接種期を通じて二酸化炭素及び重炭酸ナトリウム緩衝液を細胞培地に供給して、細胞培地において規定の平衡レベルの炭酸水素塩及び溶存二酸化炭素並びに初期レベルのモル浸透圧濃度を確立する工程と、
増殖期を通じて細胞培地に栄養物を添加することによって、細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを増大させる工程と、
増殖期を通じて酸又は塩基を細胞培地に添加して、pHレベルを規定範囲に維持する工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期を通じて細胞培地から溶存二酸化炭素を分離する工程とを含み、
増殖期を通じて細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベルは、増殖期の一部を通じて減少し、増殖期の開始時から増殖期の終了時までのモル浸透圧濃度レベルの全上昇が約300mOsmol/kg未満である、上記方法。
【請求項1】
哺乳類細胞培養プロセスにおける生産物収率を高めるための方法であって、
バイオリアクターにおける細胞培地の上面での表面ガス交換を介して溶存二酸化炭素を除去することにより、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期全体を通じて、細胞培地における溶存二酸化炭素を、約10%未満の濃度の溶存二酸化炭素のレベルに維持する工程を含み、
細胞培地におけるモル浸透圧濃度を哺乳類細胞培養プロセス中に特定の細胞に対して最適な範囲に維持し、細胞培地のpHを哺乳類細胞培養プロセス中に特定の細胞に対して最適な範囲に維持する、上記方法。
【請求項2】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける生産物収率を高めるための方法であって、
溶存二酸化炭素と平衡する規定レベルの炭酸水素塩及び初期レベルのモル浸透圧濃度を有する細胞培地を含むバイオリアクターに哺乳類細胞培養物を接種する工程と、
哺乳類細胞培養プロセスの増殖期を通じて栄養物を細胞培地に定期的に添加する工程と、
哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期を通じて酸又は塩基を細胞培地に定期的に添加して、二酸化炭素ガスを添加することなくpHレベルを哺乳類細胞の規定範囲内に維持する工程と、
哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期を通じて、バイオリアクターにおける細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量を調整して、細胞培地の上面における表面ガス交換を促進する工程と、
増殖期及び生産期を通じて、バイオリアクターにおける細胞培地の上面の下方に配置された上方流動インペラの回転速度を調整する工程とを含み、
細胞培地における溶存二酸化炭素は、表面ガス交換を介して二酸化炭素を分離することによって、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は生産期全体を通じて約10%未満の濃度の溶存二酸化炭素の安定したレベルに維持され、
細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、哺乳類細胞培養プロセスを通じて特定の細胞に対する最適な範囲に維持され、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産物収率が高められる、上記方法。
【請求項3】
溶存二酸化炭素の濃度は、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期を通じて約3%から10%で安定している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
モル浸透圧濃度の最適な範囲は、流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期を通じて約300mOsmo/kgから700mOsmo/kgである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
細胞培地は、接種期を通じて二酸化炭素及び重炭酸ナトリウム緩衝液を含み、細胞培地のpHは、酸又は塩基を細胞培地に添加することによって増殖期又は生産期を通じて維持され、pH調整のためのさらなる二酸化炭素ガスの添加が回避される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
哺乳類細胞培養プロセスは流加式のプロセスであり、細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、哺乳類細胞培養プロセスの増殖期を通じて栄養物の添加により増大し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、その後まもなく減少する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
細胞培地における溶存酸素の濃度は、バイオリアクターにおける細胞培地の上面での表面ガス交換を介して、特定の細胞についての最適な範囲に維持される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度及び溶存酸素の濃度は、増殖期及び生産期を通じてバイオリアクターにおける細胞培地の上面の上方のヘッドスペースにおける酸素含有スイープガスの容積流量を調整することによって最適な範囲に維持される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度及び溶存酸素の濃度は、増殖期及び生産期を通じてバイオリアクターにおける細胞培地の上面の下方に配置された上方流動インペラの回転速度を調整することによって最適な範囲に維持される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
哺乳類細胞培養プロセスは流加式のプロセスであり、増殖期の開始時から生産期の終了時までの細胞培地におけるモル浸透圧濃度の上昇は、約300mOsmol/kg未満である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
細胞培地の上面は、泡を実質的に含まない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、栄養物の添加とともに増大し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度は、その後まもなく減少する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける細胞培地のpHレベルを制御する方法であって、
接種期を通じて二酸化炭素及び重炭酸ナトリウム緩衝液を細胞培地に供給して、細胞培地において規定の平衡レベルの炭酸水素塩及び溶存二酸化炭素及び初期レベルのモル浸透圧濃度を確立する工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期及び生産期を通じて溶存二酸化炭素を細胞培地から分離する工程と、
増殖期及び場合により生産期を通じて栄養物を細胞培地に添加する工程と、
増殖期及び生産期を通じて酸又は塩基を細胞培地に添加して、pH調整のために二酸化炭素ガスを添加することなく、pHレベルを規定範囲に維持する工程とを含み、
細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベルは規定範囲に維持され、増殖期の開始時から生産期の終了時までのモル浸透圧濃度レベルの上昇は、400mOsmol/kg未満であり、
細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度は、増殖期及び生産期を通じて10%以下に維持される、上記方法。
【請求項14】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて細胞生存度を高め、タンパク質生産物収率を増大させるための方法であって、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて細胞培地を水で希釈して、細胞培地における廃棄物の毒性作用を低減する工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて補給栄養物を細胞培地に添加して、水の希釈効果を補償する工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて、細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベル及びpHレベルの両方を哺乳類細胞に対する最適な範囲内に維持する工程とを含み、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの生産期を通じて、哺乳類細胞の高められた細胞生存度によりタンパク質生産物収率を増大させる、上記方法。
【請求項15】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスから生産されたタンパク質生産物の純度を向上させるための方法であって、
溶存二酸化炭素と平衡する規定レベルの炭酸水素塩及び初期レベルのモル浸透圧濃度を有する細胞培地を含むバイオリアクターに哺乳類細胞培養物を接種する工程と、
栄養物を細胞培地に添加することによって、細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを増大させて、哺乳類細胞からのタンパク質生産を加速させる工程と、
酸又は塩基を細胞培地に添加して、pHレベルを哺乳類細胞の規定範囲内に維持する工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセス全体を通じて細胞培地から溶存二酸化炭素を分離する工程であって、
細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、
モル浸透圧濃度の初期レベルからのモル浸透圧濃度レベルの上昇を400mOsmol/kg未満に制限する上記工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期又は早期生産期を通じてタンパク質生産物をバイオリアクターから収穫する工程とを含む、上記方法。
【請求項16】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスにおける細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを制御する方法であって、
接種期を通じて二酸化炭素及び重炭酸ナトリウム緩衝液を細胞培地に供給して、細胞培地において規定の平衡レベルの炭酸水素塩及び溶存二酸化炭素並びに初期レベルのモル浸透圧濃度を確立する工程と、
増殖期を通じて細胞培地に栄養物を添加することによって、細胞培地のモル浸透圧濃度レベルを増大させる工程と、
増殖期を通じて酸又は塩基を細胞培地に添加して、pHレベルを規定範囲に維持する工程と、
流加式の哺乳類細胞培養プロセスの増殖期を通じて細胞培地から溶存二酸化炭素を分離する工程とを含み、
増殖期を通じて細胞培地における溶存二酸化炭素の濃度を10%以下に維持し、細胞培地におけるモル浸透圧濃度レベルは、増殖期の一部を通じて減少し、増殖期の開始時から増殖期の終了時までのモル浸透圧濃度レベルの全上昇が約300mOsmol/kg未満である、上記方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【公開番号】特開2011−160802(P2011−160802A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−12943(P2011−12943)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12943(P2011−12943)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】
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