説明

細胞画像解析装置及び細胞画像解析ソフトウェア

【課題】実験者の手間や労力を極力省力化しながら、複雑な細胞分類をある程度自動的に行うことができ、且つ、ある程度の自由度をもって自動解析を進められるようにユーザである研究者の要望を反映可能な、細胞画像解析装置及び細胞画像解析ソフトウェアを提供する。
【解決手段】細胞から発せられる光の像を画像として取得する画像取得手段から得られた画像に対して所定の処理を行い、複数の細胞を含む画像の中から、ユーザにとって興味ある特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群を自動的に抽出する機能を有する装置で、ユーザが任意の細胞を興味ある細胞として指定できる機能を備える。好ましくは、ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群が他の細胞群と区別可能となる特徴量パラメタからなるパラメタ群を自動的に設定し、かつ、該パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの閥値を自動的に設定する機能を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞画像を解析する装置及びソフトウェアに関し、より詳しくは、様々な細胞種、様々な状態の細胞を含む細胞を解析する実験において、これら様々な細胞種、細胞状態のうち、特定の状態の細胞(群)を画像から自動的に抽出して細胞を分類する機能を備えた細胞画像解析装置及び細胞画像解析ソフトウェアに関する。
細胞画像解析装置は、大別すると2つのタイプに分けられる。1つは、薬剤スクリーニングなどの決められた所定の処理を大量に行うことを前提にしたいわゆるハイスループットな全自動の解析装置であり、もう1つは、研究補助用途のための半自動の解析システムである。
しかるに、本発明の細胞画像解析装置及び細胞画像解析ソフトウェアは、研究支援を目的とした半自動の解析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の細胞画像解析装置は、ある程度の数の細胞画像を自動的に取得し、取得した細胞画像の中から研究者が注目する(興味を持つ)特徴を備えた細胞を抽出する機能を備え、これらの細胞の数や、特徴的な量を数値化したデータをグラフ化したデータも含めて提供することができるようになっている。そのような細胞画像解析装置としては、例えば、次の特許文献1に記載の装置が提案されている。
【特許文献1】特開2001−307066号公報
【0003】
ところで、研究者が注目する細胞は、一般に実験(研究)系により異なる。例えば、細胞が死滅するプロセスを対象とした研究を行う場合は、健康な細胞と死滅する細胞を区別する必要がある。また、例えば、複数の種類の細胞を培養した状態を観察し、その変化を定量化するような実験系においては、細胞の種類ごとに分類する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら細胞の種類ごとの分類は、比較的複雑なものが多いため、目視による観察を基に行う場合が通常である。しかしながら、目視による観察を基に行う分類は手間と労力がかかるため、細胞画像解析装置を介して細胞の種類ごとの分類を自動的に行ことができるようにすることが望ましい。
【0005】
しかるに、単純な実験系であれば、細胞画像解析装置を介して細胞の種類ごとの分類についての自動化を比較的容易に行うことができる。
例えば、細胞を死滅させる効果のある薬剤の効き目を評価するために、細胞の生死を判定し、その細胞数比を検出するような実験系では、死滅した細胞のみを特異的に染色するような蛍光物質を使って、生死判定がなされる。この場合には、蛍光を発する細胞と発しない細胞というように細胞を分類する基準が比較的単純であるため、細胞画像解析装置を介して細胞の種類ごとの分類を自動的に行ことができる。
【0006】
しかしながら、研究用途全般においては、このような比較的容易な判断基準でもって、細胞画像解析装置を介して細胞の種類ごとの分類を完全に自動的に行って定量評価をすることのできる実験系は少数であり、大部分の実験系では、細胞の分類に判断基準として用いるための特徴の抽出が難しく、あるいは、細胞の分類に判断基準として用いるための特徴をあらかじめ決めておくことが難しい場合が殆どである。
【0007】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、実験者の手間や労力を極力省力化しながら、複雑な細胞分類をある程度自動的に行うことができ、且つ、ある程度の自由度をもって自動解析を進められるようにユーザである研究者の要望を反映することの可能な、細胞画像解析装置及び細胞画像解析ソフトウェアを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による細胞画像解析装置は、細胞から発せられる光の像を画像として取得する画像取得手段から得られた画像に対して所定の処理を行い、複数の細胞を含む画像の中から、ユーザにとって興味ある特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群を自動的に抽出する機能を有する装置であって、ユーザが任意の細胞を前記興味ある細胞として指定できる機能を備えたことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の細胞画像解析装置においては、前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群が他の細胞群と区別可能となる特徴量パラメタからなるパラメタ群を自動的に設定し、かつ、該パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの閥値を自動的に設定する機能を備えるのが好ましい。
【0010】
また、本発明の細胞画像解析装置においては、自動的に所定数の細胞をリストアップし、該リストアップした各細胞が前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群に含まれるか否かをユーザに聞き返し、その答えに応じて、前記パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの閥値を自動的に変更する、自動応答機能を備えるのが好ましい。
【0011】
また、本発明の細胞画像解析装置においては、前記パラメタ群をユーザに提供し、あるいは、該パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタに対する細胞の分布をユーザに提供する機能を備えるのが好ましい。
【0012】
また、本発明の細胞画像解析装置においては、前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群の割合、前記パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの平均値、及び、各特徴量パラメタに関する他の細胞群との比較結果の少なくともいずれかを提供する機能を備えるのが好ましい。
【0013】
また、本発明による細胞画像解析ソフトウェアは、細胞から発せられる光の像を画像として取得する画像取得手段から得られた画像に対して所定の処理を行い、複数の細胞を含む画像の中から、ユーザにとって興味ある特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群を自動的に抽出する機能を有する細胞画像解析装置に用いる細胞画像解析ソフトウェアであって、ユーザが任意の細胞を前記興味ある細胞として指定できる機能を備えたことを特徴としている。
【0014】
また、本発明による細胞画像解析ソフトウェアにおいては、前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群が他の細胞群と区別可能となる特徴量パラメタからなるパラメタ群を自動的に設定し、かつ、該パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの閥値を自動的に設定する機能を備えるのが好ましい。
【0015】
また、本発明による細胞画像解析ソフトウェアにおいては、自動的に所定数の細胞をリストアップし、該リストアップした各細胞が前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群に含まれるか否かをユーザに聞き返し、その答えに応じて、前記パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの閥値を自動的に変更する、自動応答機能を備えるのが好ましい。
【0016】
また、本発明による細胞画像解析ソフトウェアにおいては、前記パラメタ群をユーザに提供し、あるいは、該パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタに対する細胞の分布をユーザに提供する機能を備えるのが好ましい。
【0017】
また、本発明による細胞画像解析ソフトウェアにおいては、前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群の割合、前記パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの平均値、及び、各特徴量パラメタに関する他の細胞群との比較結果の少なくともいずれかを提供する機能を備えるのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、実験者の手間や労力を極力省力化しながら、複雑な細胞分類をある程度自動的に行うことができ、且つ、ある程度の自由度をもって自動解析を進められるようにユーザである研究者の要望を反映することができ、細胞の分類、解析を容易且つ正確に行うことの可能な、細胞画像解析装置及び細胞画像自動解析ソフトウェアが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
第一実施形態
図1は本発明の第一実施形態にかかる細胞画像解析装置の全体の概略構成を示すブロック図、図2は第一実施形態の細胞画像解析装置におけるパーソナルコンピュータを介したユーザインタフェースとして表示画面に表示される情報の一例を示す説明図、図3は第一実施形態の細胞画像解析装置における処理手順を示すフローチャート、図4は第一実施形態の細胞画像解析装置において取得した細胞画像から細胞の大きさに基づいて細胞を分類して表示画面に表示する機能の一例を示す説明図であって、(a)は複数の細胞画像から得られた情報を用いて作成した、細胞のサイズに対する頻度の分布の一例を示すグラフ、(b)は(a)のグラフに対応する細胞画像の一例を示す説明図である。図5は第一実施形態の細胞画像解析装置において取得した細胞画像中から興味ある細胞を指定して表示画面に表示する機能の一例を示す説明図であって、(a)は細胞画像上で興味ある細胞を指定したときに指定された細胞を切り出して表示した状態、(b)は指定された細胞を含む細胞種を表示する一表示例、(c)は指定された細胞を含む細胞種を表示する他の表示例を示している。図6は第一実施形態の細胞画像解析装置において取得した細胞画像中の細胞とグラフ上の位置との対応付けの一表示例を示す説明図であって、(a)は細胞のサイズに対する頻度の分布を示すグラフの特徴量の位置とそれに対応する細胞画像中の細胞とを矢印で表示した状態を示す説明図、(b)は(a)に示したグラフ上で所定位置を指定又は細胞画像上で所定の細胞を指定したときにおける、それに対応する細胞画像中の細胞又はグラフ上の位置を表示した状態を示す説明図、(c)は(a)に示した細胞画像上で分類に適していない細胞を指定したときにおける、それに対応するグラフ上の位置を表示した状態を示す説明図である。
【0020】
第一実施形態の細胞画像解析装置は、図1に示すように、照明光学系1、結像光学系2、試料を載置して観察位置に運ぶ電動ステージ3、及びCCDカメラなどの撮像素子4からなる顕微鏡と、顕微鏡に接続されたパーソナルコンピュータ(以下、「パソコン」)5を備えている。
顕微鏡は、細胞から発せられる光の像をCCDカメラ4を介して画像として取得することができるように構成されている。
パソコン5は、顕微鏡のCCDカメラ4を介して得られた画像に対して所定の処理を行い、複数の細胞を含む画像の中から、ユーザにとって興味ある特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群を自動的に抽出する機能を有している。
また、第一実施形態の細胞画像解析装置は、パソコン5によるユーザインタフェースを備えている。詳しくは、図2に示すように、モニタ5aの表示画面上に撮像した細胞画像やその細胞画像中における細胞の数などを表示する機能や、例えば、細胞画像ごとの細胞数の分布の変化をグラフで表示する機能等の、画像表示機能及びグラフ表示機能、さらには図1に示したキーボードやマウス等の入力手段5bを介して顕微鏡装置の動作制御を指示する入力機能等を備えたソフトウェアを有している。
【0021】
そして、第一実施形態の細胞画像解析装置では、図3に示すように、細胞画像の撮像(ステップS1)、細胞画像解析:定量化(ステップS2)、細胞画像解析:細胞等の分類(ステップS3)、解析結果の表示(ステップS4)の順で画像解析処理を行うように構成されている。
ここで、画像解析処理の各段階における処理概要を簡単に説明する。
【0022】
細胞画像の撮像
細胞画像の撮像処理(ステップS1)では、撮像はあらかじめ決められた手順に従い、自動的に行う。詳しくは、顕微鏡装置の動作制御を指示するためのソフトウェアを介して顕微鏡の動作制御を予め設定しておく。そして、予め設定した動作制御に従い、例えば、ステージ3の位置を所定位置に移動し、結像光学系2のフォーカス位置を自動的に調整し、CCDカメラ4で撮像し、パソコンに画像データとして蓄積するといった手順を繰り返し行うことで複数の細胞画像を取得していく。
【0023】
細胞画像解析:定量化
細胞画像解析:定量化処置(ステップS2)では、細胞の解析をある程度自動的に行う。詳しくは、主に画像処理、画像解析のためのソフトウェアを介して、画像中での細胞の領域を特定し、或いは、細胞のサイズ、明るさ、真円度、また異なる蛍光色素による明るさの比率など、複数の特徴量を自動的に計算し、定量化を行う。
なお、これらの特徴量については、統計的に処理する。即ち、複数画像における各画像中の細胞ごとに得られた特徴量の平均化、規格化等を行う。
【0024】
細胞画像解析:分類
細胞画像解析:分類処理(ステップS3)では、細胞画像解析:定量化処置(ステップS2)を介して平均化、規格化等されたデータを用いて所定の特徴ごとに細胞を分類する。
例えば、血球系の細胞とがん組織から遊離した細胞などでは、大きさと形がかなり異なる。そこで、これらの特徴(大きさ、形)にしたがって細胞を分類する。この例の場合、前者の細胞は、小さく丸いものが多く、後者の細胞は、大きく形がゆがんだものが多い。例えば、細胞の大きさの分布をグラフに示すと、図4(a)に示すように、二つの特徴的なピークが現れる。そこで、この二つの特徴的なピーク近傍に夫々分布される細胞の群ごとに細胞を分類することができる。
【0025】
また、第一実施形態の細胞画像解析装置では、実験系によってはさらに解析を行う。例えば、異なる蛍光特性をもつ物質で染色した細胞だけを選ぶような場合、各細胞領域におけるその蛍光の明るさの量により細胞を分類することもできるようになっている。
【0026】
解析結果の表示
解析結果の表示処理(ステップS4)では、細胞画像解析:分類処理(ステップS3)での分類にしたがって、例えば、その細胞の比率、その蛍光がある程度発光しているものとそうでないものとの比率を、グラフや数値などの表示態様でもって表示画面上に表示する。
【0027】
また、第一実施形態の細胞画像解析装置では、上述したのと同様の画像解析処理を、例えば、培養条件を変えて、或いは、異なる試料を用いて行い、その解析結果を比較するなどの研究を行うこともできるようになっている。
【0028】
次に、このような第一実施形態の細胞画像解析装置の解析系におけるユーザインタフェースの詳細な構成について説明する。
第一実施形態の細胞画像解析装置では、ユーザが任意の細胞を興味ある細胞として指定できる機能として、例えば、画像中の細胞を指定し、これらの細胞領域を切り出し、表示するインターフェースを細胞画像解析ソフトウェアとして備えている。
【0029】
例えば、図5に示すように、細胞画像解析ソフトウェアを介して表示画面に表示されている細胞画像のうち、ユーザが興味のある細胞を選択して画面クリックなどの操作により指定する。
図5(a)は、細胞画像に含まれている2種類の細胞種(大きいものと小さいもの)のうち、大きいものを指定した例を示している。
【0030】
この操作により、ユーザが指定した細胞に対して、例えば、似た細胞を細胞画像中から選び出し、画像上で表示、あるいはグラフで表示することが可能となる。
【0031】
図5(b)は、細胞画像上で、興味ある細胞として指定された大きな細胞だけ表示の色を変えるなどの表示方法により、選択された細胞を含む所定種類の細胞を表示した例を示している。
【0032】
また、別の表示方法として、例えば、図5(c)に示すように、抽出した細胞を別の画像パネル上に切り出して一覧表示することもできるようになっている。
【0033】
しかしながら、単に細胞画像上で所望の細胞をクリックによって指定する機能を備えただけでは、その画面クリックによって指定した細胞が、分類に適した特徴を有さない場合に、細胞を分類するために特定の細胞を指定するというユーザの目的に却ってそぐわないものになるおそれがある。
【0034】
そこで、本発明の細胞画像解析装置では、細胞の分類に適した細胞を指定し易くするために、例えば、次のような機能が追加されている。
その機能の1つとして、第一実施形態の細胞画像解析装置では、細胞画像上での細胞の指定が、グラフ上での細胞の指定とリンクするようになっている。
例えば、図6(a),(b)に示すように、表示画面に表示された細胞画像中の任意の細胞をクリックすると、その細胞に関する所定の特徴量の大きさがグラフの分布上での位置として表示される。これにより、全体の分布を見ながら、そのクリックした任意の細胞が他の細胞と比較してどのような特徴をもち、どれだけ特徴を良くあらわしたものであるかという判断が可能になる。その結果、例えば、図6(a),(b)に示すように、2つのピークを持った分布をもつ細胞画像の場合、この2つのピークの中間位置に位置する細胞は、図6(c)のグラフに示すように、頻度が低く細胞の分類のための基準としては、適さないものであることが分かる。
【0035】
また、例えば、細胞の分布グラフ上の一点を指定することにより、特徴的な細胞を指定することも可能になっている。これにより、例えば、図6に示したグラフにおけるピークの中心位置に近い細胞を選択することができ、より正確な細胞の分類が可能になる。
【0036】
また、グラフ上で細胞を選択する場合、選択した指定細胞に対応する(近似する)細胞を、現在表示されている細胞画像上で、選択された細胞における所定の特徴量の値に最も近いものを選ぶようにすることも可能である。
【0037】
細胞の分布は通常複数の画像にわたるものである。このため、第一実施形態の細胞画像解析装置は、例えば、グラフ表示された分布上の点のうち、そのグラフに含まれる指定細胞の位置だけを抜き出して、点滅や異なる色で表示し、特定画像中(現在表示されている画像中)でこの指定位置に最も近い特徴量の値をもつ細胞を選ぶという機能も備えている。
【0038】
このように構成された第一実施形態の細胞画像解析装置によれば、複数の方法で、かつ、細胞の画像と、特徴量の分布など、複数の結果を参照しながら細胞の特徴を指定することができる。
【0039】
第二実施形態
図7は本発明の第二実施形態の細胞画像解析装置で設定する特徴量パラメタの説明図で、(a)は細胞のサイズ、(b)は細胞の真円度、(c)は細胞の輝度、(d)は各細胞を(a)〜(c)の特徴量パラメタのうち所定の特徴量パラメタを有する細胞の像からなる細胞画像の一例をそれぞれ示している。図8は特徴量パラメタの組合せと、その組合せに対応する細胞の分類例を示す説明図で、(a)は適切な特徴量パラメタの組合せによる細胞の分類例、(b)は不適切な特徴量パラメタの組合せによる細胞の分類例をそれぞれ示している。
第二実施形態の細胞画像解析装置は、第一実施形態の細胞画像解析装置の構成に加えて、ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群が他の細胞群と区別可能となる特徴量パラメタからなるパラメタ群を自動的に設定し、かつ、これらのパラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの閥値を自動的に設定する機能を備えている。
【0040】
細胞の分類は、複数の特徴量の値のそれぞれについての全体の分布を比較することで得られる。例えば、細胞の種類を分類する実験系において、特徴量パラメタ1を細胞の大きさの平均、特徴量パラメタ2を細胞の莫円度の平均、特徴量パラメタ3を細胞の明るさの平均とする。例えば、図7に示すように、この3つの特徴量パラメタのうち、細胞の大きさ、細胞の真円度に関しては、細胞の種類による依存性が高く、細胞種によって分布が大きく変わるものであるとする一方で、細胞の明るさに関しては、細胞種によって分布に大きな特徴は見られないものとする。この場合、特徴量パラメタ3は、細胞の分類に適した特徴量パラメタとはいえない。
【0041】
このような各特徴量パラメタの分類に対する効果を判定する方法としては、次のような方法が考えられる。
特徴量パラメタをp1,p2,p3,・・・とし、指定された細胞の特徴量の値をap1,ap2,ap3,・・・とする。ここで、各特徴量に対して適当な幅(例えばその値を中心に5%の細胞を含む値)をもつ上限値及び下限値を閥値としてそれぞれ設定し、特徴量の上限値の組をamp1,amp2,amp3,・・・、特徴量の下限値の組をalp1,alp2,alp3,・・・としたときに、alp1>axp1>amp1を満たす細胞群が例えば得られるものとする。
このalp1>axp1>amp1を満たす細胞群は、細胞画像全体に含まれる細胞のうち、特徴量パラメタ1に関して、指定細胞の特徴量の値に近い値をもつ上位下位5%ずつの細胞を意味している。ここで、指定細胞の特徴量の値に近い値をもつ上位下位5%ずつの細胞群は、特徴量パラメタ1,2,3ごとにそれぞれ異なる場合が多いと考えられるが、もしこれら特徴量パラメタのうち、幾つか所定の特徴量パラメタの組合せによって細胞が効果的に分類できる場合には、その幾つか所定の特徴量パラメタを基準として分類された細胞群の集団は一致するはずである。つまり、細胞の特徴量パラメタp1,p2,p3,・・・のうち、細胞の分類に効果のある特徴量パラメタの組合せを、例えば、指定細胞に近い値をもつ上位下位5%ずつの細胞群の重なりが多いパラメタ群として定義することができる(図8参照)。
【0042】
例えば、特徴量パラメタ1と特徴量パラメタ2との組合せが適切である場合には、図8(a)に示すように、特徴量パラメタ1により分類される細胞群の集団と、特徴量パラメタ2により分類される細胞群の集団とが略一致して、細胞群の分布にきれいに分かれる。一方、特徴量パラメタ1と特徴量パラメタ2との組合せが不適切である場合には、図8(b)に示すように、特徴量パラメタ1により分類される細胞群の集団と、特徴量パラメタ2により分類される細胞群の集団とが一致せず、細胞群の分布がきれいに分かれない。
【0043】
なお、閥値は、上記の例では上下5%としたが、第二実施形態の細胞画像解析装置では、例えば、上記のようにして決定されたパラメタ群及びパラメタ群に対して決定された細胞群に関して、細胞群が重なりの度合いがもっとも多くなる値を閥値とするなどの方法により自動的に決定することができるようになっている。
このように構成された第二実施形態の細胞画像解析装置によれば、分類により適した細胞を指定し易くなる。
【0044】
第三実施形態
図9は本発明の第三実施形態にかかる細胞画像解析装置に備わる細胞の指定についてのフィードバック機能による手順を示す説明図で、(a)はユーザが指定した細胞に基づいて近似する細胞を自動的にリストアップして画面表示する段階、(b)は画面表示された複数の細胞の中から特定細胞に近似しない細胞をユーザが指定する段階、(c)はユーザによる特定細胞に近似しない細胞の指定に基づき特徴量パラメタの閥値を変更する段階をそれぞれ示している。
【0045】
第三実施形態の細胞画像解析装置は、第二実施形態の細胞画像解析装置の構成に加えて、ユーザが指定した細胞の特徴を絞り込むため、自動的にいくつかの細胞をリストアップし、これらが興味ある細胞群に含まれるか否かをユーザに聞き返し、その答えに応じて、パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの閥値を自動的に変更する、自動応答機能を備えている。
【0046】
自動応答機能を備えなくても細胞の分類を決定することはできる。しかし、ユーザによる判断、フィードバックを行えば、より正確な分類を行うことができる。
そこで、第三実施形態の細胞画像解析装置は、第二実施形態の細胞画像解析装置においてユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群が他の細胞群と区別可能となる特徴量パラメタからなるパラメタ群を自動的に設定し、そのパラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの閥値を自動的に設定する機能を介して自動的に抽出された細胞分類に関し、例えばいくつかの細胞を選び出し、ユーザにこれが正しい分類であるか否かを尋ね、ユーザからその分類が間違ったものであるとの応答があった場合、各特徴量パラメタの閥値を変更し、より正確な細胞分類を行えるようにするための機能を備えている(図9参照)。
詳しくは、まず、図9(a)に示すように、ユーザが指定した特定の細胞に近似する細胞を自動的にリストアップして画面表示する。
次いで、図9(b)に示すように、画面表示された細胞中から指定した特定の細胞に近似しない細胞を分類に不適切な細胞としてユーザに指定させる。
ユーザによる不適切な細胞の指定があったときは、図9(c)に示すように、その指定に基づき、特徴量パラメタの閥値を変更する。
以後、同じ処理をユーザから不適切な細胞の指定がなくなるまで繰り返すことにより、より正確な特徴量パラメタの値が設定されることになる。
【0047】
第四実施形態
第四実施形態の細胞画像解析装置は、第二実施形態の細胞画像解析装置の構成に加えて、第二実施形態の細胞画像解析装置を介して得られた特徴量パラメタからなるパラメタ群を、もっとも良い特徴群としてユーザに提供し、あるいは、このパラメタ群に含まれる各特徴量パラメタに対する細胞の分布をユーザに提供する機能を備えている。このようにすれば、ユーザが判断を容易に行えるようになる。
【0048】
第四実施形態の細胞画像解析装置のように、これらの分類の結果を画像だけでなく、パラメタ群や各特徴量に対する細胞の分布を表示してユーザに提供する機能を備えれば、正確な分類を行うことが可能になる。
例えば、図8に示したような分布を表示画面に表示する。このため、ユーザは、細胞を指定することによって設定されたパラメタ群が適切なものか否かの判断が容易になる。
【0049】
第五実施形態
第五実施形態の細胞画像解析装置は、第一〜第四実施形態のいずれかの細胞画像解析装置の構成に加えて、ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群の割合、パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの平均値、及び、各特徴量パラメタに関する他の細胞群との比較などの結果の少なくともいずれかを提供する機能を備えている。
【0050】
これらの結果は、実験の結果として使うことができる上、また、細胞の分類についての正確さをユーザが判断するために用いることができる。
【0051】
このように、第一実施形態〜第五実施形態の細胞画像解析装置によれば、細胞画像解析装置を使用するユーザは、細胞の分類、解析等を容易に正確に行うことができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、研究補助用途のために、様々な細胞種、様々な状態の細胞を含む細胞を解析する実験において、これら様々な細胞種、細胞状態のうち、特定の状態の細胞(群)を画像から自動的に抽出して細胞を分類する医療、医学、生物学の分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる細胞画像解析装置の全体の概略構成を示すブロック図である。
【図2】第一実施形態の細胞画像解析装置におけるパーソナルコンピュータを介したユーザインタフェースとして表示画面に表示される情報の一例を示す説明図である。
【図3】第一実施形態の細胞画像解析装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図4】第一実施形態の細胞画像解析装置において取得した細胞画像から細胞の大きさに基づいて細胞を分類して表示画面に表示する機能の一例を示す説明図であって、(a)は複数の細胞画像から得られた情報を用いて作成した、細胞のサイズに対する頻度の分布の一例を示すグラフ、(b)は(a)のグラフに対応する細胞画像の一例を示す説明図である。
【図5】第一実施形態の細胞画像解析装置において取得した細胞画像中から興味ある細胞を指定して表示画面に表示する機能の一例を示す説明図であって、(a)は細胞画像上で興味ある細胞を指定したときに指定された細胞を切り出して表示した状態、(b)は指定された細胞を含む細胞種を表示する一表示例、(c)は指定された細胞を含む細胞種を表示する他の表示例を示している。
【図6】第一実施形態の細胞画像解析装置において取得した細胞画像中の細胞とグラフ上の位置との対応付けの一表示例を示す説明図であって、(a)は細胞のサイズに対する頻度の分布を示すグラフの特徴量の位置とそれに対応する細胞画像中の細胞とを矢印で表示した状態を示す説明図、(b)は(a)に示したグラフ上で所定位置を指定又は細胞画像上で所定の細胞を指定したときにおける、それに対応する細胞画像中の細胞又はグラフ上の位置を表示した状態を示す説明図、(c)は(a)に示した細胞画像上で分類に適していない細胞を指定したときにおける、それに対応するグラフ上の位置を表示した状態を示す説明図である。
【図7】本発明の第二実施形態の細胞画像解析装置で設定する特徴量パラメタの説明図で、(a)は細胞のサイズ、(b)は細胞の真円度、(c)は細胞の輝度、(d)は各細胞を(a)〜(c)の特徴量パラメタのうち所定の特徴量パラメタを有する細胞の像からなる細胞画像の一例をそれぞれ示している。
【図8】特徴量パラメタの組合せと、その組合せに対応する細胞の分類例を示す説明図で、(a)は適切な特徴量パラメタの組合せによる細胞の分類例、(b)は不適切な特徴量パラメタの組合せによる細胞の分類例をそれぞれ示している。
【図9】本発明の第三実施形態にかかる細胞画像解析装置に備わる細胞の指定についてのフィードバック機能による手順を示す説明図で、(a)はユーザが指定した細胞に基づいて近似する細胞を自動的にリストアップして画面表示する段階、(b)は画面表示された複数の細胞の中から特定細胞に近似しない細胞をユーザが指定する段階、(c)はユーザによる特定細胞に近似しない細胞の指定に基づき特徴量パラメタの閥値を変更する段階をそれぞれ示している。
【符号の説明】
【0054】
1 照明光学系
2 結像光学系
3 ステージ3
4 CCDカメラ(撮像素子)
5 パーソナルコンピュータ
5a モニタ
5b キーボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞から発せられる光の像を画像として取得する画像取得手段から得られた画像に対して所定の処理を行い、複数の細胞を含む画像の中から、ユーザにとって興味ある特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群を自動的に抽出する機能を有する装置であって、
ユーザが任意の細胞を前記興味ある細胞として指定できる機能を備えたことを特徴とする細胞画像解析装置。
【請求項2】
前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群が他の細胞群と区別可能となる特徴量パラメタからなるパラメタ群を自動的に設定し、かつ、該パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの閥値を自動的に設定する機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の細胞画像解析装置。
【請求項3】
自動的に所定数の細胞をリストアップし、該リストアップした各細胞が前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群に含まれるか否かをユーザに聞き返し、その答えに応じて、前記パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの闇値を自動的に変更する、自動応答機能を備えたことを特徴とする請求項2に記載の細胞画像解析装置。
【請求項4】
前記パラメタ群をユーザに提供し、あるいは、該パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタに対する細胞の分布をユーザに提供する機能を備えたことを特徴とする請求項2に記載の細胞画像解析装置。
【請求項5】
前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群の割合、前記パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの平均値、及び、各特徴量パラメタに関する他の細胞群との比較結果の少なくともいずれかを提供する機能を備えたことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の細胞画像解析装置。
【請求項6】
細胞から発せられる光の像を画像として取得する画像取得手段から得られた画像に対して所定の処理を行い、複数の細胞を含む画像の中から、ユーザにとって興味ある特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群を自動的に抽出する機能を有する細胞画像解析装置に用いる細胞画像解析ソフトウェアであって、
ユーザが任意の細胞を前記興味ある細胞として指定できる機能を備えたことを特徴とする細胞画像解析ソフトウェア。
【請求項7】
前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群が他の細胞群と区別可能となる特徴量パラメタからなるパラメタ群を自動的に設定し、かつ、該パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの閥値を自動的に設定する機能を備えたことを特徴とする請求項6に記載の細胞画像解析ソフトウェア。
【請求項8】
自動的に所定数の細胞をリストアップし、該リストアップした各細胞が前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群に含まれるか否かをユーザに聞き返し、その答えに応じて、前記パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの闇値を自動的に変更する、自動応答機能を備えたことを特徴とする請求項7に記載の細胞画像解析ソフトウェア。
【請求項9】
前記パラメタ群をユーザに提供し、あるいは、該パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタに対する細胞の分布をユーザに提供する機能を備えたことを特徴とする請求項7に記載の細胞画像解析ソフトウェア。
【請求項10】
前記ユーザの指定した特定の細胞と似た特徴をもつ細胞群の割合、前記パラメタ群に含まれる各特徴量パラメタの平均値、及び、各特徴量パラメタに関する他の細胞群との比較結果の少なくともいずれかを提供する機能を備えたことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の細胞画像解析ソフトウェア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−63508(P2009−63508A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233237(P2007−233237)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】