説明

細胞移動アッセイ

【課題】改変された細胞移動アッセイに対して指向され、非特異的ブロッカーからのケモカインレセプターアンタゴニストの改善された同定および識別を可能にする方法を提供する。
【解決手段】化学誘引物質レセプターアンタゴニストを同定するため、化学誘引物質レセプターを含む細胞を候補アンタゴニストと共にインキュベートする工程;該細胞を、該化学誘引物質レセプターに対する阻害濃度のリガンドと接触させる工程;およびアンタゴニストとして該候補アンタゴニストを同定する細胞移動をアッセイする工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2001年6月7日に出願された、米国仮出願番号60/296,682に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、化学誘引物質レセプター(例えば、ケモカインレセプター)のアンタゴニストを同定するためのアッセイについて指向される。これまでのアッセイと比較した本アッセイの1つの利点は、偽陽性シグナルおよび偽陰性シグナルを生成する化合物から確かな化学誘引物質レセプターアンタゴニストを区別するその能力である。
【背景技術】
【0003】
(背景)
化学誘引物質レセプターのアンタゴニストを同定するための高処理量スクリーニング(HTS)方法は、下流の事象における摂動(例えば、細胞移動)の検出にしばしば依存する。ケモカインレセプターの場合において、白血球細胞移動が、しばしばアッセイされる。しかし、細胞膜を破壊するか、または下流の事象をブロックする化合物は、これらの結果を模倣し、候補アンタゴニストとしてふるまう。次いで、相当な努力が、偽陽性シグナルを生じる化合物または分子から本物のアンタゴニストを区別するために必要とされる。本当のアンタゴニスト(これは、高処理量スクリーニングにて分析された候補アンタゴニストの大きなコレクションの非常に小さい画分のみを表す)を同定することは、厄介な仕事である。任意の時間または支出の節約を現実化することにより、より迅速かつ低支出で患者に新しい薬剤を運ぶことが可能となる。
【0004】
リガンドレセプター相互作用およびシグナル伝達の低分子アンタゴニストスクリーニングするためのHTS方法における使用適合された従来のアッセイは、通常1次元である。すなわち、これらは、リガンド−レセプター相互作用のみか、またはリガンド結合を開始する細胞シグナル伝達のみを単離およびアッセイするが、両方を単離およびアッセイしない。機能(レセプターシグナル伝達および下流事象)に由来する物理的相互作用(リガンド−レセプター結合)のこの分離のために、偽陽性シグナルがしばしば観察され、発見および開発を遅延させる。偽陽性は、所望されない理由について所望の結果を与える分子であり;これらは、しばしば低分子アンタゴニストをスクリーニングする際見られる。当初レセプターーリガンド結合相互作用のインヒビターであると思われる低分子(所望の結果)は、例えば、レセプター−リガンド相互作用を阻害することによってか、標的レセプターもしくはリガンドに結合すること(所望の理由)によってか、細胞を病気にさせるかもしくは殺傷することによってか、または他の規定されていない効果を及ぼすこと(所望されない理由)のいずれかによる結果を与え得る。
【0005】
さらに、化学誘引物質レセプターアンタゴニストに対する従来の薬物発見様式は、偽陰性シグナルの結果、全ての臨床学的に重要な分子の同定に失敗する。偽陰性は、臨床学的に重要な分子が検出されず、発見されないままであることを意味する。例えば、化学誘引物質レセプターリガンド−化学誘引物質レセプター結合を可能にするが、化学誘引物質レセプターシグナル伝達を阻害する分子は、リガンド結合のインヒビターについての最初のスクリーニングにおいて隠されている。
【0006】
化学誘引物質分子は、細胞を誘因する。例えば、40個より多い小ペプチド(一般に、7〜10kDaのサイズ)の群であるケモカインは、漸増、活性化、および免疫系のTリンパ球、好中球、およびマクロファージの指向された移動のための分子ビーコンとして作用し、破壊についての病原体および腫瘍塊を減少させる。免疫系は、固体を病原体および腫瘍の侵入から防御する一方で、不適切に調節された場合に、疾患を生じ得る。ケモカイン−レセプター結合は、Gタンパク質共役シグナル伝達カスケードに連結して、化学誘引物質および化学刺激物質のシグナル伝達機能を媒介する。
【0007】
不適切なケモカインシグナル伝達は、適切に誘因されない場合に感染を促進し得る(Forsterら、1999)か、またはケモカインシグナル伝達の欠損と関連する疾患(喘息、アレルギー性疾患、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、およびアテローム性動脈硬化症を含む)を導き得る(RossiおよびZlotnick,2000に概説される)。ケモカインは、炎症およびリンパ球の発達において中心的な役割を果たすため、その活性を特異的に操作する能力は、現在、十分な処置がない疾患の改善および停止に対して非常に大きな衝撃を有する。ケモカインレセプターアンタゴニストは、移植拒絶における費用のかかる免疫抑制剤の一般的かつ複雑な効果を取り除くために使用され得る(DeVriesら、1999に概説される)。
【0008】
化学誘引物質レセプターアンタゴニスト(例えば、ケモカインレセプターに対するアンタゴニスト)の同定をはかどらせるために、化学誘引物質レセプター結合および生物学的機能の両方を試験することによって偽シグナルを取り除くアッセイが、薬物開発を促進させる。
【特許文献1】米国仮出願番号60/296,682
【特許文献2】米国特許4,816,567
【非特許文献1】Ausubel, F. M., R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, et al. 1987.Current protocols in molecular biology. John Wiley & Sons, New York.
【非特許文献2】Bacon, K. B., R. D. Camp, F. M. Cunningham, and P. M. Woollard.1988. Contrasting in vitro lymphocyte chemotactic activity of the hydroxylenantiomers of 12-hydroxy-5,8,10,14- eicosatetraenoic acid. Br JPharmacol. 95:966-74.
【非特許文献3】Ellington, A. D., and J. W. Szostak. 1990. In vitro selection of RNAmolecules that bind specific ligands. Nature. 346: 818-22.
【非特許文献4】Forster, R., A. Schubel, D. Breitfeld, E. Kremmer, et al. 1999. CCR7coordinates the primary immune response by establishing functionalmicroenvironments in secondary lymphoid organs. Cell. 99: 23-33.
【非特許文献5】Jayasena, S. D. 1999. Aptamers: an emerging class of molecules thatrival antibodies in diagnostics. Clin Chem. 45: 1628-50.
【非特許文献6】Jones, P. T., P. H. Dear, J. Foote, M. S. Neuberger, et al. 1986.Replacing the complementarity- determining regions in a human antibody withthose from a mouse. Nature. 321: 522-5.
【非特許文献7】Kledal, T. N., M. M. Rosenkilde, F. Coulin, G. Simmons, et al. 1997.A broad-spectrum chemokine antagonist encoded by Kaposi's sarcoma-associatedherpesvirus. Science. 277: 1656-9
【非特許文献8】Klein, C., J. I. Paul, K. Sauve, M. M. Schmidt, et al. 1998.Identification of surrogate agonists for the human FPRL-1 receptor by autocrineselection in yeast. Nat Biotechnol. 16: 1334-7.
【非特許文献9】Penfold, M. E., D. J. Dairaghi, G. M. Duke, N. Saederup, et al.1999. Cytomegalovirus encodes a potent alpha chemokine. Proc Natl Acad Sci U SA. 96: 9839-44.
【非特許文献10】Riechmann, L., M. Clark, H. Waldmann, and G. Winter. 1988. Reshapinghuman antibodies for therapy. Nature. 332: 323-7.
【非特許文献11】Rossi, D., and A. Zlotnik. 2000. The Biology of Chemokines and theirReceptors. Annu. Rev. Immunol. 18: 217-242.
【非特許文献12】Tuerk, C., and L. Gold. 1990. Systematic evolution of ligands byexponential enrichment : RNA ligands to bacteriophage T4 DNA polymerase.Science. 249: 505-10.
【非特許文献13】Verhoeyen, M., C. Milstein, and G. Winter. 1988. Reshaping humanantibodies: grafting an antilysozyme activity. Science. 239: 1534-6.
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の局面において、本発明は、化学誘引物質レセプターアンタゴニストを同定するための方法を提供する。化学誘引物質レセプターを有する細胞は、化学誘引物質レセプターに対する過剰の最適なリガンド濃度の存在下で、候補アンタゴニストと共にインキュベートされ、次いで、細胞移動がアッセイされる。細胞移動は、候補アンタゴニストがアンタゴニストであることを示す。
【0010】
1つの局面において、本発明は、ケモカインレセプターアンタゴニストを同定するための方法を提供する。ケモカインレセプターを発現する細胞は、阻害濃度のケモカインリガンドの存在下で候補アンタゴニストと共にインキュベートされ、次いで細胞移動がアッセイされる。細胞移動は、候補アンタゴニストがアンタゴニストであることを示す。
【0011】
本発明はまた、ケモカインレセプター保有細胞に対する移動について阻害濃度のケモカインを有する溶液を含むキットを提供する。さらに、このようなキットはまた、細胞移動装置を備え得る。
【0012】
別の局面において、本発明は、ケモカインレセプターアンタゴニストを同定するための方法を提供する。ケモカインレセプターの候補アンタゴニストは、従来のアッセイで第1に同定される。続く工程において、候補アンタゴニストは、阻害濃度のリガンドの存在下でケモカインレセプター保有細胞と共にインキュベートされ、次いで細胞移動がアッセイされる。細胞移動は、候補アンタゴニストがアンタゴニストであることを確認する。
【0013】
これらの実施形態および他の実施形態は、以下に詳細に議論される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の逆活性の移動(RAM)アッセイは、アンタゴニストを同定および区別する一方で、他のアッセイにおいて見出される混乱をおこす偽陽性シグナルおよび偽陰性シグナルの蔓延を有意に減少させる。故に、潜在的な薬学的化合物の確認に関する時間および労力は、多いに減少される。
【0015】
本発明の方法は、以下を包含する:
(1)化学誘引物質レセプター(例えば、ケモカインレセプター)を含む細胞を候補アンタゴニストと共にインキュベートする工程;
(2)細胞を、化学誘引物質レセプターに対する阻害濃度のリガンドと接触させる工程;および
(3)細胞移動をアッセイする工程。
【0016】
細胞移動は、アンタゴニストとして候補アンタゴニストを同定するために使用される。
【0017】
この方法は、「事前工程(pre−step)」をさらに包含し得、ここで細胞移動を阻害する化学誘引物質リガンド(例えば、ケモカイン)の濃度は、化学誘引物質レセプターに対するリガンドの「阻害濃度」と決定される。さらなる工程が、使用される細胞または因子の型、アッセイなどに依存して追加され得る。
【0018】
細胞移動のアンタゴニストについての従来のスクリーニングが、細胞移動の減少−−活性における減少−−を測定する一方で、RAMアッセイは、細胞移動の活性、活性の増大を測定する(図1A、従来の移動アッセイ;図1B、RAMアッセイ)。RAMアッセイにおいて、細胞が、候補アンタゴニストに応じて、移動阻害濃度の化学誘引物質の存在下で移動するようにチャレンジされ;従来のアッセイにおいて、細胞が、候補アンタゴニストの存在下での化学誘引物質に応じて移動するようにチャレンジされる。従来の細胞移動アッセイ(移動を阻害する)において偽陽性シグナルを与える化合物は、RAM様式において細胞移動を活性化し損なう。RAMアッセイにおいて、本物のアンタゴニストのみが、移動を活性化する。この区別は、信頼性のあるアンタゴニストの単純な同定を可能にする。
【0019】
RAMアッセイの別の利点は、同定されたアンタゴニストが、従来のアッセイで同定されたものよりも治療的に有用である傾向があることである。治療用の化学誘引物質レセプターアンタゴニストは、レセプターを介してその効果を発揮するそのレセプターに特異的である。このようなアンタゴニストは、化学誘引物質と細胞の物理学的完全性を含まないレセプターとの間の効果的な親和性を減少させるか、または移動を導く下流のシグナル伝達事象を完全に破壊する。従来のアッセイにおいて同定された偽陽性は、これらの特徴の少なくとも1つを欠く。
【0020】
RAMアッセイの成功についての可能性のある1つの説明は、細胞の移動についての観察に基づき、細胞は、前端−後端(front
end−back end)極性を有さなければならない。このような極性は、細胞外シグナル(例えば、ケモカイン)によってしばしば開始される。細胞移動について、この極性は、細胞の2つの末端での種々程度の化学誘引物質レセプター占有率によって達成される。しかし、高濃度の化学誘引物質は、移動を阻害する。なぜならば、全てのレセプターは、細胞の全ての方向で占有されるからであり;この細胞は、方向の合図を欠く。リガンドの濃度増加が、細胞移動に関してプロットされる場合、鐘型の曲線が観察される(例は、図2に示される)。レセプターに対する化学誘引物質の効果的な親和性を減少させるレセプターアンタゴニストは、このリガンドが低い親和性を有するリガンドのように振舞うことを可能にする。アンタゴニストの非存在下で最初に観察される鐘型曲線は、増加濃度のアンタゴニストの存在下で右にシフトする(例えば、図3を参照のこと)。これは、本発明の成功のための可能性のある1つの説明である。本発明者らは、この目的によって制限されることを意図しない。
【0021】
(定義)
「細胞移動アッセイ」は、シグナルに応じて細胞移動の能力を試験する。
【0022】
化学誘引物質の「阻害濃度」は、細胞移動を阻害する濃度である。この濃度は、細胞移動を活性化する濃度よりも高い。
【0023】
「化学誘引物質レセプター」は、化学誘引物質リガンドを結合して、細胞移動を誘導するレセプターである。例えば、ケモカインレセプターは、その化学誘引物質リガンドが、少なくとも1つのケモカインである化学誘引物質レセプターである。
【0024】
以下の節において、RAMアッセイは、ケモカインおよびケモカインレセプターを用いて例示される。しかし、細胞移動を誘導する任意の化学誘引物質および化学誘引物質レセプターが、使用され得る。表Aは、既知の化学誘引物質レセプターおよびこれらのリガンドのいくつかについての例示を示す。
【0025】
(表A 例示のヒト化学誘引物質レセプターおよび例示のリガンド1)
【表1】



【0026】
(RAMアッセイ)
RAMアッセイにおいて、ケモカイン保持細胞を、候補アンタゴニストと共にインキュベートし、次いで標的ケモカインレセプターに対する阻害濃度のリガンドと接触させる。次いで、細胞の移動能力をアッセイする。RAMアッセイにおいて、候補アンタゴニストの存在下で細胞が移動する場合、ポジティブなシグナルが観察されている。「アンタゴニスト」は、細胞移動のような生物学的活性を、部分的もしくは完全にブロックするか、阻害するか、または部分的もしくは完全に中和する、任意の分子を包含する。同様に、「アゴニスト」とは、ケモカインのような分子の生物学的活性を模倣する、任意の分子を包含する。アゴニストまたはアンタゴニストとして作用し得る分子としては、有機性低分子、高分子、抗体または抗体フラグメント、ケモカインフラグメントまたはケモカイン改変体、ペプチドなどが挙げられる。「候補アンタゴニスト」は、アンタゴニスト活性について試験されている化合物であり:同様に、「候補アゴニスト」は、アゴニスト活性について試験されている化合物である。
【0027】
任意の細胞移動アッセイの様式(例えば、ChemoTx(登録商標)システム(NeuroProbe,Rockville,MD)または任意の他の適切なデバイスおよびシステム(Baconら、1988;Penfoldら、1999))を使用し得る。簡潔に述べると、これらの細胞移動アッセイは以下のように作用する。活性な標的ケモカインレセプターを保持する細胞を収集し、そして調製した後、細胞を候補アンタゴニストと共に混合する。この混合物を細胞移動装置の上部チャンバに配置する。下部チャンバに阻害濃度のケモカインリガンドを添加する。次いで、移動アッセイを実行し、終結させ、そして細胞移動を評価する。
【0028】
RAMアッセイを開始するために、阻害濃度のケモカインリガンドの溶液を、細胞移動装置の下部チャンバ(6、図4)に添加し、そして細胞懸濁物を、多孔性メンブレン(5、図4)によって隔てられる上部チャンバ(4、図4)に配置する。この細胞を、培養条件(ヒト細胞について37℃)の下で60〜180分間、加湿した組織培養インキュベーター中でインキュベートする。インキュベーション期間は、細胞型に依存し、そして必要な場合、経験的に決定し得る。
【0029】
インキュベーション期間の最後に、本アッセイを終える。例えば、装置の上部チャンバの非移動細胞を、ラバースクレイパーまたは他の手動方法;酵素的方法または化学的方法(例えばEDTA溶液およびEGTA溶液)を使用して取り除く。次いで、2つのチャンバを隔てるメンブレン(5、図4)を装置から取り出し、ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水(DPBS)または水でリンスする。次いで、下部チャンバへと移動する細胞数を決定する。
【0030】
RAMアッセイにおいてスクリーニングされる候補アンタゴニストの濃度は、サブナノモル濃度未満〜ミリモル濃度の範囲であり得る。低分子化合物のコレクション(例えば、コンビナトリアル化学反応によって合成されるライブラリー)をスクリーニングすると、候補アンタゴニストの濃度は代表的に約1〜20μMである。「化合物」としては、無機低分子および有機低分子、高分子、ペプチド、タンパク質、ポリペプチド、核酸および抗体が挙げられる。
【0031】
(リガンドの阻害濃度の決定)
ケモカインリガンドに対する細胞移動の用量応答を実施して、ケモカインリガンドの阻害濃度を規定し得る。用量応答曲線を決定するためのいずれかの標準的方法を使用し得る。このような方法の1つは、標的ケモカインレセプターを発現する細胞を回収する工程、漸増する量のケモカインの存在下で、細胞移動デバイスにその細胞を添加する工程、細胞移動を測定する工程、ケモカイン濃度に対する細胞移動をプロットする工程、次いで細胞移動を阻害するケモカイン濃度を、このグラフから計算する工程、を包含する。
【0032】
1例として、従来の細胞移動アッセイ(例えば、ChemoTx(登録商標)システム(NeuroProbe,Rockville,MD)または任意の他の適切なデバイスもしくはシステム(Baconら,1988;Penfoldら,1999))を使用し得る。用量応答曲線を得るために、標的レセプターを発現する細胞を集める。緩衝液中の段階希釈による濃度系列で、ケモカインリガンドを調製する。この濃度範囲は、代表的に0.1nMと10mMとの間であるが、リガンドにより変動する。
【0033】
細胞移動アッセイを開始するために、種々のケモカインリガンド濃度の溶液を、細胞移動装置の下部チャンバ(6、図4)に添加し、そして細胞懸濁物を、多孔性メンブレン(5、図4)によって隔てられる上部チャンバ(4、図4)に配置する。この細胞を、培養条件(ヒト細胞について37℃)の下で60〜180分間、加湿した組織培養インキュベーター中でインキュベートした。インキュベーション期間は、細胞型に依存し、そして必要な場合、経験的に決定し得る。
【0034】
細胞移動の終了後、装置の上部チャンバ上の非移動細胞を、ラバースクレイパーまたは他の手動方法;酵素的方法または化学的方法(例えばEDTA溶液およびEGTA溶液)、を使用して取り除く。次いで、2つのチャンバを隔てるメンブレン(5、図4)を装置から取り除き、Dulbeccoリン酸緩衝化生理食塩水(DPBS)または水でリンスする。次いで、下部チャンバへと移動する細胞数を決定する。
【0035】
次いで、細胞移動(Y軸)を、log(ケモカイン濃度)(X軸)に対してプロットし;釣鐘型の曲線が見られる(図2;実施例を参照のこと)。このプロット(図2)から、細胞移動を阻害する最低濃度のケモカインを決定し得る。参照を容易にするために、釣鐘型曲線を通ってその曲線の頂点(最大の細胞移動)で交差する第2Y軸(y、1、図2)、およびX軸上に対する対応値を描き得る。Y軸の左側(低濃度)に対するこれらの濃度は、刺激濃度であり(2、図2);右側(高濃度)に対する濃度は阻害濃度である(3、影付き領域、図2)。これらの濃度は、細胞移動(化学走性)に対して「阻害」濃度である。例えば、移動が最大の90%まで阻害される濃度(Y軸の右側、「阻害濃度」)を決定するために、Y軸に対して、最大の細胞移動の10%に対応する値を位置付ける。この最大細胞移動シグナルが例えば、3.5×10細胞である場合、その10%は350(3.5×10×0.1)である。次いで、阻害リガンド濃度を、対応するX軸座標を位置付けることによって決定する。好ましくは、阻害レベルは、最大の細胞移動の50%、60%、70%または80%である。より好ましくは、移動の最大シグナルと比較して、阻害レベルは90%であるか、またはさらにより好ましくは95%阻害もしくは100%阻害である。決定されるケモカイン濃度は変動し、レセプターの性質、ケモカインリガンドの性質および標的細胞の性質に依存する。化学走性阻害の程度を変動させることを使用して、RAMアッセイの感度を調節し得る。
【0036】
(治療性アンタゴニストについての総合的スクリーニングにおけるRAMアッセイの適用)
RAMアッセイを、ケモカインレセプターアンタゴニストについてスクリーニングするために使用される任意の他のアッセイと組み合わせて実施し得る。RAM形式は最初のHTS工程として有用であるばかりでなく、またこれは他のアッセイにおいて同定される候補アンタゴニストについての確証アッセイまたは2次的アッセイを提供する。例えば、Ca2+流動を測定するHTS方法(FLIPRTMシステム(Molecular Devices Corp.,Sunnyvale,CA)に基づく方法、または細胞内の遊離Ca2+レベルの増加をアッセイする、他のレポーターベースの方法を含める)を、最初のアッセイとして使用し得る。RAMアッセイを使用してこのような候補物を確定し得るか、または逆もあり得る。第2アッセイとして、RAMは非特異的作用を表すそれらの候補アンタゴニストを識別する。RAMアッセイを他のHTS方法と共に使用する場合、非特異的ブロッカーから真の当たり(hit)を識別するための手段を提供する。
【0037】
このRAMアッセイを、細胞移動またはレセプター活性化を測定する、任意の他のアッセイ形式に適用し得、これらアッセイ形式としては、多孔性メンブレンを横切る細胞移動を必要としない方法が挙げられる。より高度なスループットおよびより安価なコストをもたらすより有用な技術を、RAMの概念の使用に基づいて開発し得る。
【0038】
(RAMアッセイにおける使用のための細胞)
RAMアッセイにおける使用のための、標的ケモカインレセプター(または化学誘引物質レセプター)を発現する細胞を、種々の方法、例えば、被験体からの回収後、または培養物からの放出後の遠心分離によって収集し、次いで、細胞型および細胞サイズに依存した適切な密度で緩衝液中に再懸濁する。簡便な細胞濃度は、約1×10〜1×10細胞/mlの範囲に渡り;しばしば約2.5×10細胞/mlが適切である。
【0039】
(ケモカインレセプターおよびリガンド)
RAM形式においてアッセイされ得る細胞としては、細胞表面上に少なくとも1つのケモカインレセプターを発現する全ての細胞(例えば、ヒト単球)、または組換えケモカインレセプターを発現するように操作された他の細胞が挙げられ、そしてそれら細胞は、細胞移動を活性化させるのに適格である。既知のケモカインレセプターおよびいくつかのそのリガンドを、表Bに示す。ケモカインレセプターの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:CXCクラス(例えば、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5);CCクラス(例えば、CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10およびCCR11);CX3CRクラス(例えば、CX3CR1)、ならびにXCRクラス(例えば、XCR1)。
【0040】
非ケモカイン化学誘引物質レセプターの例は、ホルミルペプチドレセプター様タンパク質1(FPRL1)であり;それに対するリガンドは、W−ペプチド1およびw−ペプチド2(Kleinら、1998)である。また、他の例については、表Aを参照のこと。
【0041】
(表B 既知のケモカインレセプター、およびいくつかのその既知のヒトリガンドの要約(RossiおよびZlotnik,2000))
【表2】

【0042】
RAMアッセイにおいて使用され得るケモカインは、既知のケモカイン全てを含む。ケモカインの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:IL−8、GCP−2、Gro
α、Gro β、Gro
γ、ENA−78、PBP、MIG、IP−10、I−TAC、SDF−1(PBSF)、BLC(BCA−1)、MIP−1α、MIP−1β、RANTES、HCC−1、HCC−2、HCC−3およびHCC−4、MCP−1、MCP−2、MCP−3およびMCP−4、エオタキシン−1、エオタキシン−2、TARC、MDC、MIP−3α(LARC)、MIP−3β(ELC)、6Ckine(LC)、I−309、TECK、リンホタクチン、フラクタルカイン(fractalkine)(ニューロタクチン)、TCA−4、Exodus−2、ならびにCKβ−11。
【0043】
ケモカインレセプター/リガンドの組み合わせは、炎症障害、感染疾患および移植拒絶と関連する組み合わせを含む。このような組み合わせとしては、以下が挙げられる:CX3CR1/フラクタルカイン(移植)、CCR5/MIP−1α、MIP−1βまたはRANTES(HIV)、CXCR4/SDF−1(HIV);およびCCR7/MIP−3β、ELCまたは6CKine
LC(炎症性疾患またはアレルギー性疾患、例えば、喘息、多発性硬化症、など)。
【0044】
(候補アンタゴニスト)
ケモカインレセプターのアンタゴニスト活性について、任意の分子および任意の化合物をスクリーニングし得る。ケモカインレセプター/リガンドの活性を阻害する化合物(例えば、細胞移動を活性化させる化合物、または細胞内Ca2+濃度を調節する化合物)が、候補アンタゴニストである。
【0045】
このようなアンタゴニスト作用を示し得るこのような分子としては、ケモカインレセプターまたはそれらのリガンドに結合する低分子が挙げられる。低分子アンタゴニストの例としては、小ペプチド、ペプチド様分子、好ましくは、可溶性でありかつ化学合成による非ペプチド有機化合物および非ペプチド無機化合物が挙げられる。他の潜在的なアゴニスト分子としては、アプタマーのような核酸、および抗体が挙げられる。これらの分子は、RAMアッセイを使用して新規のケモカインアンタゴニストについて迅速にスクリーニングされ得る種々のライブラリー中に、集められ得る。
【0046】
化学走性細胞移動を阻害する、ほぼ全ての抗体(Ab)もまた、候補アンタゴニストである。抗体アンタゴニストの例としては、ポリクローナルAb、モノクローナルAb、単鎖Ab、抗イディオタイプAb、キメラAb、またはこのようなAbもしくはフラグメントのヒト化バージョンが挙げられる。Abは、免疫応答が惹起され得る任意の種由来であり得る。ヒト化Abは、例外的に、疾患の処置のためにうまく適合され、そして魅力ある候補アンタゴニストを表す(Jonesら、1986;Riechmannら、1988;Verhoeyenら、1988);(米国特許第4816567号、1989)。このような抗体は、ケモカインレセプターに結合して、細胞移動を阻害し得る。
【0047】
あるいは、潜在的アンタゴニストまたは潜在的アゴニストは、密接に関係するタンパク質(例えば、ケモカインレセプターリガンドの変異誘発された形態またはケモカインレセプター相互作用性タンパク質を認識する他のタンパク質)であり得るが全く効果を付与せず、これによってケモカインレセプター作用を競合的に阻害する。
【0048】
アプタマーは、ほぼ全ての分子を認識しそして特異的に結合するために使用され得る、短いオリゴヌクレオチド配列である。このような分子はまた、アンタゴニスト性に作用し得る。指数的富化(SELEX)プロセス(Ausubelら、1987;EllingtonおよびSzostak、1990;TuerkおよびGold、1990)によるリガンドの系統的進化は強力であり、そしてこのようなアプタマーを発見するために使用され得る。アプタマーは、アンタゴニストとしての用途を含む、多くの診断的用途および臨床的用途を有する。さらに、これらは製造するのに高額ではなく、そして薬学的組成物中での投与、バイオアッセイ、および診断試験(Jayasena、1999)を含む、種々の形式に容易に適用され得る。このRAMアッセイはまた、デノボでアプタマーを単離するためのスクリーニングとして使用され得る。
【0049】
(移動性細胞の定量)
移動性細胞を定量することを、非常に多様な利用可能な方法(例えば、DNA量をアッセイ(例えば、CyQuant
Cell Proliferation
Kit(Molecular Probes))し、次いで、生成されるシグナル(例えば、蛍光)をアッセイする方法)によって達成され得る。他の方法としては、顕微鏡を使用する細胞の計測、または適切な検出マーカー(例えば、色素(例えば、Calcein AM(NeuroProbe)もしくはMolecular
Probe(Eugene、OR)より利用可能な多くの標識)を用いる細胞の標識、または放射性標識(例えば、135Iを用いる細胞表面のヨード化、35S−メチオニン/35S−システインを用いるタンパク質合成標識、もしくはHを用いる核酸標識)が挙げられる。
【0050】
(緩衝液および細胞培養培地)
細胞移動アッセイの結果を混乱させず、そしてその結果が大抵はケモカイン−ケモカインレセプターの相互作用に関連され得るように、血清または他の増殖因子および化学走性因子が取り除かれ得るが、種々の溶液を調製するために使用され得る緩衝液としては、細胞培養培地が挙げられる。いくつかの場合において、タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミンを含む、種々のアルブミン)は細胞を支持するために添加され得る。最適な培地の選択は、細胞型に依存する;細胞を培養するために使用されるこの培地は、通常、好ましい選択肢を表す。適切な培養培地の例としては、以下が挙げられる:Iscove’s
Modified Dulbecco’s Medium(IMDM)、Dulbecco’s
Modified Eagle’s Medium(DMEM)、Minimal
Essential Medium Eagle(MEM)、Basal
Medium Eagle(BME)、Click’s
Medium、L−15 Medium Leibovitz、McCoy’s
5A Medium、Glasgow
Minimum Essential
Medium(GMEM)、NCTC 109 Medium、William’s
Medium E、RPMI−1640、およびMedium
199。特定の細胞型/細胞株または細胞機能のために特別に開発された培地(例えば、Madin−Darby
Bovine Kidney
Growth Medium、Madin−Darby
Bovine Kidney
Maintenance Medium、種々のハイブリドーマ培地、内皮細胞基本培地(Endothelial Basal Medium)、線維芽細胞基本培地(Fibroblast
Basal Medium)、ケラチノサイト基本培地(Keratinocyte
Basal Medium)およびメラノサイト基本培地(Melanocyte
Basal Medium)もまた有用である。望ましい場合、タンパク質低減培地もしくは無タンパク質培地、および/または無血清培地、および/または化学的に規定される、動物成分のない培地(例えば、CHO、Gene
Therapy MediumまたはQBSF
Serum−free Medium(Sigma Chemical Co.;St.Louis、MO)、DMEM Nutrient Mixture
F−12 Ham、MCDB(105、110、131、151、153、201および302)、NCTC
135、Ultra DOMA PFまたはHL−1(両方ともBiowhittaker;Walkersville、MDより提供される))が利用され得る。
【0051】
望ましい場合、これら培地はさらに、培地への緩衝液の添加のような、培養物のアシドーシスを制限する試薬(例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ−トリス(ヒドロキシメチル)メタン(BIS−Tris)、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’3−プロパンスルホン酸(EPPSまたはHEPPS)、グリシン(glyclclycine)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタン−スルホン酸)(PIPES)、炭酸水素ナトリウム、3−(N−トリス(ヒドロキシメチル)−メチル−アミノ)−2−ヒドロキシ−プロパンスルホン酸)TAPSO、(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−グリシン(Tricine)、トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(Tris)など)で補充され得る。頻繁な培地交換(change)および供給されるCO2(しばしば約5%)濃度の変化(change)もまた、アドローシスを制御するために用いられ得る。
【0052】
(キット)
RAMアッセイを実行するための成分を、適用のための指示書と一緒に、キット、容器、パックまたはディスペンサーにまとめ得る。1つのキットとして供給される場合、この組成の異なる成分を、個別の容器に包装し得、そして使用直前に混合され得る。これら成分をこのように個別に包装することは、活性成分の機能を損なうことなく長期保存を可能にし得る。例えば、キットは、細胞移動装置、ケモカインレセプター保有細胞、およびケモカインレセプター保有細胞に対する移動阻害濃度のケモカインを含む溶液中で含み得る。この溶液は、凍結乾燥されて提供され得る。
【0053】
((a)容器(container)または容器(vessel))
キットに含まれる試薬は、異なる成分の活性(life)が保存され、そして容器材料によって吸収も変化もされないように、任意の種類の容器中で供給され得る。例えば、密封ガラスアンプルは、中性の不活性な気体(例えば、窒素)の下で包装された、凍結乾燥されたケモカインまたは緩衝液を含み得る。アンプルは、任意の適切な材料(例えば、ガラス、有機ポリマー(例えば、ポリカーボネート、ポリスチレンなど)、セラミック、金属、または試薬を保持するために典型的に使用される任意の他の材料)から構成され得る。適切な容器の他の例は、アンプルと同じ物質から製造され得る単純なボトル、および箔(例えば、アルミニウムまたは合金)で裏打ちした内装から構成され得るエンベロープを含む。他の容器は、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジなどを含む。容器は、滅菌したアクセスポートを有する(例えば、皮下注射針により貫通され得るストッパーを有するボトル)。他の容器は、2つの区画を有し得、これらは、除去の際に成分(例えば、ある区画中の凍結乾燥されたリンホカイン、および他の区画中の緩衝液または水)を混合し得る、容易に除去可能なメンブレンによって隔てられる。除去可能なメンブレンは、ガラス、プラスチック、ラバーなどであり得る。
【0054】
((b)指示資料)
キットはまた、指示資料と共に供給され得る。指示書は、紙または他の物質に印刷され得、そして/または電子的に読み取り可能な媒体(例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなど)として供給され得る。詳細な指示書は、キットに物理的に添付されなくてもよく;その代わり、使用者はそのキットの製造業者または販売業者によって特定されるインターネットウェブサイトから指導され得るか、または電子メールとして提供され得る。
【実施例】
【0055】
以下の実施例は、本発明のRAMアッセイの概念を、非限定的に例示しそして確証することが意図される。本発明を例示するために使用される化学誘引物質レセプターおよび化学誘引物質リガンドは、ケモカインレセプターおよびケモカインである。しかし、任意の化学誘引物質レセプターに対する任意の化学誘引物質リガンドを使用し得る。例えば、表Aを参照のこと。
【0056】
実施例1、2および4は、従来のアッセイにおいて発見された、CXCR4特異的アンタゴニストおよびCXCR4非特異的アンタゴニストを試験し、RAMアッセイの有効性を実証する。実施例3は、3つのケモカインレセプターを試験することによって、化学移動性物質レセプターの広範な適用可能性を実証する。
【0057】
(実施例1 SDF(CXCR4)の阻害濃度の決定)
細胞表面のCXCR4を発現する活性化リンパ球についての用量応答曲線を得るために、従来の細胞移動アッセイを使用した(Baconら、1988;Penfoldら、1999)。細胞を遠心分離によって回収し、次いで細胞移動緩衝液(ハンクス緩衝化塩液(HBSS)/0.1% ウシ血清アルブミン(BSA))中に2.5×10細胞/mlで再懸濁した。CXCR4リガンドのストローマ細胞由来因子(SDF−1)を、細胞移動緩衝液中の系列希釈により濃度系列(0.1nM〜10mM)に調製した。低濃度では、SDFは、CXCR4を保持する活性化リンパ球の細胞移動を活性化する。
【0058】
SDFリガンドを、ChemoTx(登録商標)細胞移動装置(5μm孔のポリカーボネートポリビニルピロリドンでコーティングされたフィルター(Neuroprobe;Gaithersburg、MD);29μl/ウェル)の下部チャンバ中に充填し、20μlの細胞懸濁物を上部チャンバに配置した。これら細胞を、37℃で150分間インキュベートした。ラバースクレイパーを使用して細胞を上部チャンバおよびメンブレン表面から細胞を除去することによってこのアッセイを終結させた。下部チャンバに移動した細胞を、核酸含量を測定する蛍光色素方法である、CyQuantアッセイ(Molecular
Probes;Eugene、OR)によって定量した。
【0059】
細胞移動を阻害するためのSDFの最小濃度を決定するために、移動した細胞数(Y軸)に対して相関させて、ケモカイン濃度(X軸)を相対蛍光単位(RFU)に対してプロットする(図2)。最初は、SDF濃度が増加するにつれて、細胞移動は直線的に増加する(2、図2);しかし、より高い濃度では、移動レベルはまず平坦になり、次いで移動がほとんど検出不能ととなるまで減少する(3、図2)。この釣鐘型曲線は、ケモカインおよびケモカインレセプターにより媒介される細胞移動の典型である。この実験において、1μMのSDFを、完全に阻害性であると決定した;この阻害濃度範囲は、200nM〜1μMであった。
【0060】
(実施例2 CXCR4のウイルスポリペプチドアンタゴニストを使用するRAMアッセイのバリデーション)
RAMアッセイにおいて、ケモカインレセプターのアンタゴニストを、阻害性のケモカイン濃度と共にインキュベートした細胞の移動を活性化する能力によって同定する。RAMアッセイを確証するために、ウイルスケモカインであるvMIP−IIを、CXCR4アンタゴニストとして使用した。vMIP−IIは、高い親和性でCXCR4に結合し、レセプターのシグナル伝達をブロックし、そして細胞移動を阻害し、CXCR4の通常のリガンドであるSDFと競合する(Kledalら、1997)。阻害濃度のSDFによって不動化されるCXCR4発現細胞を、vMIP−IIの存在下で活性化して増加した移動に伴って移動する場合、この結果はRAMアッセイの原理を確認する。参照のためそしてコントロールとして、従来の細胞移動アッセイを実施した。従来のアッセイ形式において、vMIP−IIによって細胞移動を阻害した。
【0061】
細胞移動を、対応する量のSDFケモカインを用いる2つの形式を使用して、測定した。
【0062】
(1) 従来のアッセイ(コントロール);1nMのSDF;および
(2) RAMアッセイ、1μM SDF。
【0063】
細胞表面のCXCR4を発現する活性化リンパ球を、実施例1におけるように収集した。従来のアッセイのために、vMIP−IIの濃度系列を、最初に、活性化リンパ球と混合し、次いで溶液をChemoTx(登録商標)細胞移動装置(5μm孔のポリカーボネートポリビニルピロリドンでコーティングされたフィルター(Neuroprobe)、20μl/ウェル)の上部チャンバに配置し;29μlの1nM
SDF溶液を下部チャンバに配置した。RAMアッセイのために、下部チャンバのSDF濃度が1μMであることを除いて、従来のアッセイと同様に、細胞を調製した。これら細胞を、37℃で150分間インキュベートした。ラバースクレイパーを使用して細胞を上部チャンバおよびメンブレン表面から細胞を除去することによって、このアッセイを終結させた。下部チャンバに移動した細胞を、CyQuantアッセイ(Molecular
Probes)によって定量した。
【0064】
従来のアッセイ(図5A)において、11nMのvMIP−IIで細胞移動が部分的に阻害され;vMIP−IIの濃度が増加する(100nMまで)につれて細胞移動がさらに阻害された。このことにより、vMIP−IIがCXCR4のアンタゴニストであることを確認した。RAMアッセイ形式(図5B)において、vMIP−IIの非存在下では細胞移動はほとんど観察されなかった。しかし、11nMのvMIP−IIの存在下では、移動が活性化された。このことは、従来のアッセイ(図5A)において見られた移動の減少を反映している。vMIP−II濃度を増加させると、細胞移動の増加と相関があり、最大の移動が100nMで観察された。
【0065】
(実施例3 CXCR3、CXCR4およびCCR1の既知の低分子アンタゴニストを使用するRAMアッセイのバリデーション)
RAMアッセイを、vMIP−IIの代りに以前に同定された低分子アンタゴニストおよび表2に記載されるさらなる細胞型を使用することを除き、実施例2に記載されるように実施した。
【0066】
(表2 実験の変数)
【表3】

【0067】
RAMアッセイにおいて、漸増濃度のRAMAG−1および250nMのCXCR3リガンドI−TACの存在下で、活性化リンパ球をインキュベートし、細胞移動を1μM未満で活性化させた(図6);RAMAG−1濃度が増加するにつれて、移動が増加し、(−6.5〜−5)のRAMAG−1で最大に達した。
【0068】
CXCR4−発現MOLT−4細胞を使用して、100nMのCXCR4
SDF−1リガンド濃度で、RAMAG−2は細胞移動を5μMで活性化した(図5、B)。RAMAG−1を用いて観察されたように、RAMAG−2濃度を10μMまで増加するにつれて、移動のさらなる活性化が観察された。
【0069】
CCR1アンタゴニストであるRAMAG−3もまた、類似の結果を示した。CCR−1発現THP−1細胞を使用するRAMアッセイにおいて、RAMAG−3は細胞移動を100nMで活性化し;RAMAG−3濃度を増加させるにつれて、移動シグナルは同様に増加した(図5、C)。
【0070】
(実施例4 従来のアッセイにおいて、CXCR4保持細胞で細胞移動を非特異的に阻害する既知低分子を使用する、RAMアッセイのバリデーション)
本実験は、非特異的ケモカインレセプターアンタゴニストと特異的ケモカインレセプターアンタゴニストとを識別するRAMアッセイの能力を、結論的に実証する。従来のアッセイおよびRAMアッセイを、以下の候補アンタゴニストを用いることを除き、実施例2に記載されるように実施した:
(1) コントロール(候補アンタゴニストなし)
(2) ポジティブコントロール(vMIP−II;既知のCXCR4アンタゴニスト)
(3) 既知の非特異的な細胞移動インヒビター:
化合物 #1
化合物 #2
化合物 #3。
【0071】
図7Aに示されるように、コントロール細胞は移動したが、vMIP−IIおよび化合物#1、#2、#3と共にインキュベートした細胞は、細胞移動の低下を示した。これらの同じアンタゴニストをRAMアッセイに供すると(図7B)、コントロール細胞は予想通り移動しなかったが、vMIP−II処理細胞は実際に移動した(これもまた予想通りである)。しかし、従来のアッセイにおいて細胞移動を非特異的に阻害する既知化合物である、化合物#1、#2および#3は、RAMアッセイにおいて細胞移動を活性化することが出来なかった。
【0072】
実施例2〜4において示された結果から、本RAMアッセイは、ケモカインレセプターのような化学誘引物質の、非特異的アンタゴニストと特異的アンタゴニストとを区別する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、(A)従来のアッセイと比較した(B)「逆活性の移動(reversed−activation of migration)」(RAM)アッセイによるケモカインレセプターアンタゴニストによる細胞移動の選択的活性を示すグラフを示す。
【図2】図2は、細胞移動に関するCXCR4ケモカインレセプター−SDFリガンド相互作用に対する用量応答曲線を示すグラフを示す。X軸、ケモカイン濃度(logとして示される);Y軸、細胞移動アッセイにおいて測定される細胞移動(蛍光強度の単位として示される)。
【図3】図3は、RAM条件下でのアンタゴニストの存在下での移動曲線の右へのシフトを実証する代表的な曲線を示すグラフを示す。X軸、ケモカイン濃度(logとして示される);Y軸、細胞移動アッセイにおいて測定される細胞移動(細胞数)
【図4】図4は、従来の細胞移動アッセイの概略図を示す。
【図5】図5は、タンパク質CXCR4アンタゴニストを用いるRAMアッセイ確認実験からの結果を示すグラフを示す。(A)従来の条件下、および(B)RAM条件下におけるCXCR4アンタゴニスト、vMIP−IIの存在下でのケモカインSDF−媒介細胞移動。
【図6】図6は、小有機CXCR4アンタゴニストを用いるRAMアッセイ確認実験からの結果を示す棒グラフを示す。小有機分子CXCR4アンタゴニスト((A)RAMAG−1、(B)RAMAG−2、および(C)RAMAG−3)の存在下でのケモカインSDF媒介細胞移動。
【図7】図7は、偽陽性シグナルを識別するためのRAMアッセイの効率を実証する。(A)従来アッセイは、非特異的であることが公知の3つの化合物による細胞移動の不活性化を示す;(B)RAMアッセイ、ここで同じ3つの化合物は、ケモカインレセプターアンタゴニストを示さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学誘引物質レセプターアンタゴニストを同定するための方法であって、該方法は:
化学誘引物質レセプターを含む細胞を候補アンタゴニストと共にインキュベートする工程;
該細胞を、該化学誘引物質レセプターに対する阻害濃度のリガンドと接触させる工程であって、該リガンドが、細胞移動を誘導して、そして、阻害濃度のリガンドによって細胞移動が阻害される、工程;および
細胞移動をアッセイする工程であって、該候補アンタゴニストおよび該阻害濃度のリガンドが存在しているときに細胞移動が回復することによって、該候補アンタゴニストをアンタゴニストとして同定する工程を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記候補アンタゴニストが、小ペプチド、ペプチド様分子、非ペプチジル有機化合物、無機化合物、核酸または抗体である、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記阻害濃度の前記化学誘引物質レセプターに対するリガンドが、細胞移動を最大のリガンド活性化細胞移動の50%以上阻害する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記阻害濃度の前記化学誘引物質レセプターに対するリガンドが、細胞移動を最大のリガンド活性化細胞移動の95%以上阻害する、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記阻害濃度の前記化学誘引物質レセプターに対するリガンドが、細胞移動を最大のリガンド活性化細胞移動の100%阻害する、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記化学誘引物質レセプターが、FPRL1レセプターを含み、そして化学誘引物質が、FPRL1に対するリガンドを含む、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記FPRL1に対するリガンドが、w−ペプチド1およびw−ペプチド2からなる群より選択される、方法。
【請求項8】
ケモカインレセプターアンタゴニストを同定するための方法であって、該方法は:
ケモカインレセプターを含む細胞を候補アンタゴニストと共にインキュベートする工程;
該細胞を、該ケモカインレセプターに対する阻害濃度のリガンドと接触させる工程であって、該リガンドが、細胞移動を誘導して、そして、阻害濃度のリガンドによって細胞移動が阻害される、工程;および
細胞移動をアッセイする工程であって、該候補アンタゴニストおよび該阻害濃度のリガンドが存在しているときに細胞移動が回復することによって、該候補アンタゴニストをアンタゴニストとして同定する工程を包含する、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記候補アンタゴニストが、小ペプチド、ペプチド様分子、非ペプチジル有機化合物、無機化合物、核酸または抗体である、方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、前記ケモカインレセプターが、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CCR11、CX3CR1またはXCR1である、方法。
【請求項11】
請求項8に記載の方法であって、前記リガンドが、CCRリガンド、CXCRリガンド、およびCX3CRリガンドからなる群から選択される、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記リガンドが、IL−8、GCP−2、Groα、Groβ、Groγ、ENA−78、PBP、MIG、IP−10、I−TAC、SDF−1、BLC、MIP−1α、MIP−1β、RANTES,HCC−1、HCC−2、HCC−3、HCC−4、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、エオタキシン−1、エオタキシン−2、TARC、MDC、MIP−3α、MIP−3β、6Ckine、I−309、TECK、リンホタクチン、フラクタルキン、TCA−4、Exodus−2、Exodus−3、またはCKβ−11である、方法。
【請求項13】
請求項8に記載の方法であって、前記ケモカインレセプターが、CCR5を含み、そして前記リガンドが、MIP−1α、MIP−1β、またはRANTESを含む、方法。
【請求項14】
請求項8に記載の方法であって、前記ケモカインレセプターが、CXCR4を含み、そして前記リガンドが、SDF−1を含む、方法。
【請求項15】
請求項8に記載の方法であって、前記ケモカインレセプターが、CCR9を含み、そして前記リガンドが、TECKを含む、方法。
【請求項16】
請求項8に記載の方法であって、前記ケモカインレセプターが、CCR10を含み、そして前記リガンドが、CTACKを含む、方法。
【請求項17】
請求項8に記載の方法であって、前記阻害濃度の前記ケモカインレセプターに対するリガンドが、細胞移動を最大のリガンド活性化細胞移動の50%以上阻害する、方法。
【請求項18】
請求項8に記載の方法であって、前記阻害濃度の前記ケモカインレセプターに対するリガンドが、細胞移動を最大のリガンド活性化細胞移動の95%以上阻害する、方法。
【請求項19】
請求項8に記載の方法であって、前記阻害濃度の前記ケモカインレセプターに対するリガンドが、細胞移動を最大のリガンド活性化細胞移動の100%阻害する、方法。
【請求項20】
化学誘引物質レセプターアンタゴニストを検出するためのキットであって、
該キットは、
化学誘引物質レセプター保有細胞に対する阻害濃度のリガンドを含む、溶液、
化学誘引物質レセプター保有細胞を候補アンタゴニストとともにインキュベートするための上部チャンバならび該溶液を含む下部チャンバを備える、細胞移動装置を備え、
該上部チャンバおよび該下部チャンバが、多孔性メンブレンによって分離されており、該リガンドが、該候補アンタゴニストの存在下で該化学誘引物質レセプター保有細胞と接触して、該リガンドが、該化学誘引物質レセプター保有細胞が該上部チャンバから当該下部チャンバへと移動することを誘導して、そして、該阻害濃度の該リガンドが、該下部チャンバへの該化学誘引物質レセプター保有細胞の移動を阻害し、該候補アンタゴニストと阻害濃度の該リガンドの存在下での、該下部チャンバへの該化学誘引物質レセプター保有細胞の移動によって、該候補アンタゴニストがアンタゴニストとして同定される、キット。
【請求項21】
前記溶液が凍結乾燥されている、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
ケモカインレセプターアンタゴニストを同定するための方法であって、該方法は:
従来のアッセイにおいてケモカインレセプターの候補アンタゴニストを同定する工程を包含し;
さらに第2の工程を包含し、該第2の工程は:
該ケモカインレセプターを含む細胞を該候補アンタゴニストと共にインキュベートする工程;
該細胞を、該ケモカインレセプターに対する阻害濃度のリガントと接触して、該リガン
ドが、細胞移動を誘導して、そして、阻害濃度のリガンドによって細胞移動が阻害される
工程;および
細胞移動をアッセイする工程であって、該候補アンタゴニストおよび該阻害濃度のリガンドが存在しているときに細胞移動が回復することによって、該候補アンタゴニストをアンタゴニストとして同定する工程
を包含する、方法。
【請求項23】
化学誘引物質レセプターのアンタゴニストを同定するための方法であって、
多孔質膜で分離された上部チャンバーと下部チャンバーとを含む装置を設ける工程;
候補アンタゴニストの存在下若しくは不存在下に、該上部チャンバーに該化学誘引物質レセプターをベアリングする細胞を置く工程;
該下部チャンバーに、該化学誘引物質レセプターのための阻害濃度のリガンドを置く工程;及び
該上部チャンバーから該下部チャンバーへの細胞の移動を計測する工程;
を有し、
該候補アンタゴニストの不存在下において該下部チャンバーへの細胞移動に比しての該候補アンタゴニストの存在下において該下部チャンバーへの細胞移動の増加は、当該候補アンタゴニストを当該化学誘引物質レセプターのアンタゴニストとして同定する
方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−113(P2009−113A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158580(P2008−158580)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【分割の表示】特願2003−504063(P2003−504063)の分割
【原出願日】平成14年5月22日(2002.5.22)
【出願人】(503447357)ケモセントリックス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】