説明

細胞移植のための細胞の製造方法

本発明は細胞移植のための細胞の生産方法及びこのように生産された細胞を用いて障害を治療する方法を特徴とする。
本発明の方法は段階(a)不死化されていない骨髄幹細胞を供給する;(b)前記骨髄幹細胞を、心筋芽細胞に分化させるように誘導する条件下で、IGF−1を含有する培養液中で培養する;(c)段階(b)の細胞の分化状態をモニタリングする;及び(d)前記細胞の約50%以上が心筋芽細胞であるとき、段階(b)の細胞を採取する;を含有してなる。この方法によれば、心筋細胞系の特徴を多く有する、哺乳動物の心臓組織に移植するための細胞を高収率で生産することがでる。このように生産された細胞は、不完全な心臓機能による障害を治療するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞移植のための細胞の生産方法及びこのように生産された細胞を用いて障害を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄が循環する(circulating)心筋前駆細胞のin vivoにおける供給源であろうという可能性が提示された。ある実験において、移植された骨髄由来細胞が、筋萎縮性のマウスの心臓に分布していることが観察された。これらの細胞の分子的特徴は究明されていないが、これらが心臓組織内に存在するということは、この細胞が心筋細胞であることを示唆している。
【0003】
5−アザシチジンのような誘導物質を導入すると、骨髄間葉系幹細胞(BMSCs)の拍動する心筋細胞への分化能は既に知られている。このような知見に基づき、BMSCが心臓疾患や心臓異常を治療する細胞の資源として提案されている。
【0004】
BMSCの潜在的な治療価値にもかかわらず、現在の心臓組織の細胞移植方法は、患者組織への生着率が低くいために臨床的にまだ適当でない。例えば、BMSCを移植したマウスのうち40%だけが何らかの心筋組織の回復を示したとOrlic等が報告した(Orlic et al.、Nature 410: 701〜705、 2001)。
【0005】
本出願人(ANTEROGEN CO.,LTD.)による先願である国際出願公開WO 02/083864は細胞移植方法及び試薬について記述しており、哺乳動物心筋組織に移植するための細胞の生産方法は、下記の段階:(a)不死化(immortalized)されていい骨髄幹細胞を供給する;(b)前記細胞を心筋芽細胞に分化させるように誘導する条件下で前記骨髄幹細胞を培養する;(c)段階(b)の細胞の分化状態をモニタリングする;及び(d)前記細胞の少なくとも約10%以上かつ多くは100%以下が心筋芽細胞のとき、段階(b)の細胞を採取する;を含有してなる。
【0006】
細胞移植においては、骨髄幹細胞から心筋芽細胞を高収率に生産することが最も重要である。しかしながら、WO 02/083864に記載されている前記方法は生産性が低いという問題を有している。
【0007】
以上のことから、高い生着率と高い細胞生存率を有する細胞移植方法が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、哺乳動物心臓組織に移植するための細胞を高収率に生産する方法、そしてこのように生産された細胞を用いて不完全な心臓機能による障害を治療する方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1態様によれば、
(a)不死化されていない骨髄幹細胞を供給する;
(b)前記骨髄幹細胞を、心筋芽細胞に分化させるように誘導する条件下で、IGF−1を含有する培養液中で培養する;
(c)段階(b)の細胞の分化状態をモニタリングする;及び
(d)前記細胞の約50%以上が心筋芽細胞であるとき、段階(b)の細胞を採取する;段階を含有してなる、哺乳動物の心筋組織に移植するための細胞の生産方法が提供される。
【0010】
第2の態様においては、本発明は、
(a)哺乳動物から骨髄幹細胞を分離する;
(b)前記骨髄幹細胞を、心筋芽細胞に分化させるように誘導する条件下で、IGF−1を含有する培養液中で培養する;
(c)段階(b)の細胞の分化状態をモニタリングする;
(d)前記細胞の約50%以上が心筋芽細胞であるとき、段階(b)の細胞を採取する;及び
(e)前記心筋芽細胞を前記哺乳動物に移植する;
段階を含有してなる、哺乳動物における不完全な心臓機能による障害を治療する方法を特徴としている。
【0011】
本発明者らは、哺乳動物の心臓組織に移植するための細胞を生産する段階において、骨髄幹細胞をIGF−1(インスリン様成長因子−1)を含む培養液中で培養すると、骨髄幹細胞から心筋芽細胞への分化率が最大化することを発見した。IGF−1を含有する培養液中で培養した細胞はさらに強くMEF2の発現を示し、これはその細胞が心筋芽細胞の性格をさらに強く持っていることを意味する。
【0012】
本発明の方法において、細胞はヒト、ブタ、又はヒヒ(baboon)のBMSCs
であってよい。移植は自家移植、すなわち治療対象哺乳動物から得た細胞を移植することが望ましい。採取した細胞の約15%、20%、30%、40%又は50%ijouが心筋芽細胞(例えば、心筋前駆細)であることが望ましい。採取した細胞の約60%、70%、80%、95%又は99%以下が、心筋芽細胞であることが望ましい。最も望ましくは、採取した細胞のうち約50%以上かつ約80%以下が心筋芽細胞である。
【0013】
他の態様において、本発明は不完全な心臓機能疾患がある哺乳動物(例えば、ヒト)を治療する方法を提供する。本方法は次の3種の細胞:(1)心筋細胞又は心筋前駆細胞;(2)内皮細胞又は内皮前駆細胞;及び(3)血管平滑筋細胞又は血管平滑筋前駆細胞;の心臓機能を向上させるための十分な量を哺乳動物の心筋組織に移植する段階を含有してなる。
【0014】
本発明においては、それぞれの投与に対して、心筋前駆細胞(1×10)と別の二つの細胞を約10:1:1(心筋前駆細胞:内皮前駆細胞:血管平滑筋前駆細胞)の比率で心筋層に移植する。別の比率でも使用できる。
【0015】
当技術分野において、心筋細胞になるように細胞を誘導する多くの方法が知られている。例えば、BMSCsを心筋細胞誘導量のBMP−2(骨形成蛋白−2;Bone Morphogenic Protein−2)又はbFGF(塩基性繊維芽細胞成長因子:basic Fibroblast Growth Factor)を含有した培地で培養することができる。本発明は、心筋細胞に分化させるためにBMSCsにIGF−1を多様な濃度で添加することによって、BMSCsから心筋芽細胞への分化率を極大化することを特徴とする。本発明においては、IGF−1は100pg/mlないし25ng/mlの間の濃度で培地中に添加することができる。これら方法は本発明を実施する際に使用される。
【0016】
有糸分裂細胞が分裂終了細胞より心筋層にさらに容易に融合されうるので、段階(c)の移植する細胞の約25%、50%、75%、90%、95%以上又はそれ以上が有糸分裂前駆細胞であることが望ましい。
【0017】
本発明の方法においては、血管形成の改善のために、心臓機能を向上させるために十分な量の心筋細胞や心筋前駆細胞を移植することが望ましい。細胞は幹細胞(例えば、BMSCs)から由来するものが望ましい。さらに、本発明の移植細胞の生存率を高めるために、カスパーゼ阻害剤(caspase inhibitor:例えばzVAD-fmk)のような抗アポトーシス剤(anti-apoptotic agent)を移植する細胞と共に投与することができる。
【0018】
また、本発明では哺乳動物(例えば、ヒト)に移植するための細胞を生産する方法を提供する。本方法は(a)BMSCs群を供給する;(b)血管平滑筋細胞、内皮細胞、心外膜細胞、脂肪細胞、破骨細胞、骨芽細胞、マクロファージ、神経前駆細胞、神経細胞、星状細胞、骨筋筋細胞、平滑筋細胞、膵臓前駆細胞、膵臓ベータ細胞及び肝細胞よりなる群から選択される細胞形態に分化されるように誘導できる条件下で、この細胞を培養する;(c)段階(b)で細胞の分化段階をモニタリングする;及び(d)誘導された細胞で特異的に発現するタンパク質を確認できる細胞が約50%以上であるとき、細胞を採取する:段階を含む。ここで、適当なマーカ(marker)は後述する。BMSCsはヒトやブタ、ヒヒのBMSCsであってよい。
【0019】
一態様において、本発明の方法は(e)哺乳動物(例えば、ヒト)に段階(d)の細胞を移植する段階を含む。移植は自家移植、すなわち、骨髄幹細胞を抽出した哺乳動物に再び細胞を移植することができる。(b)及び(c)の培養及びモニタリング段階はは、細胞の約15%、20%、30%、40%又は50%以上でかつ約60%、70%、80%、90%、95%又は99%以下が所望の系統のマーカを検出可能な量発現するまで行なわれる。望ましくは、(b)及び(c)の培養及びモニタリングは細胞の約50%以上で約80%以下が所望の系統のマーカの検出可能な量を発現するまで行なう。
【0020】
また、本発明は哺乳動物、望ましくはヒトにおける不完全な心臓機能による疾患を治療する方法を提供する。本方法は(a)治療する哺乳動物から骨髄幹細胞を分離する;(b)骨髄幹細胞を心筋芽細胞に分化させる条件で培養する;(c)段階(b)の細胞が分化する段階をモニタリングする;(d)細胞の約10%以上かつ100%以下が心筋芽細胞であるとき、段階(b)の細胞を採取する;及び(e)心筋芽細胞を哺乳動物に移植する;段階を含む。
【0021】
本明細書において“幹細胞”は(i)自家増殖することができ、(ii)心筋細胞、内皮細胞、及び血管平滑筋細胞から選ばれる1群を含む、多様な形態の細胞を生産できる細胞を意味する。
【0022】
“骨髄間葉幹細胞(BMSC)”は骨髄間葉由来の幹細胞をすなわちCD45を意味する。またBMSCは“BMSCs”及び“骨髄多能性前駆細胞”をも意味する。
【0023】
“治療”は不完全な心臓機能を示す疾患の少なくとも一つの副作用や症状を軽減させたり減少させることを意味する。心臓疾患の副作用や症状は色々であり、よく定義されている。心臓疾患の副作用や症状の限定されない幾つかの例としては、呼吸困難、胸痛、動悸、めまい、気絶、浮腫、チアノーゼ、蒼白、疲労、及び死亡などが含まれる。多様な心臓疾患の副作用又は症状の例は、Robbins、S.L.et al.,(1984)Pathological Basis of Disease(W.B. Saunders Company、Philadelphia)547〜609及びSchroeder、S.A.et al.eds.(1992)Current Medical Diagnosis & treatment(Appleton & Lange、Connecticut)257-356を参照のこと。
【0024】
“不完全な心臓機能による疾患”は正常な心臓機能の障害又は欠如、又は心臓機能異常の存在を意味する。心臓機能の異常は疾病、傷害及び/又は老化の結果になりうる。ここで用いられているように、心臓機能の異常は心筋細胞又は心筋細胞数の形態学的及び/又は機能的な異常を含む。形態学的及び機能的な異常の限定されない例は、心筋細胞の物理的低下及び/又は死滅、心筋細胞の異常な増殖形態、心筋細胞間の物理的結合の異常、心筋細胞による構成物質の過小又は過剰生産、心筋細胞が正常に生産する構成物質の生産欠如、電気的刺激伝達の異常な形態又は異常な回数、及び前述した異常による結果である心室圧の変化などを含む。心臓機能異常は例えば、虚血性心臓疾患、例えば狭心症、心筋梗塞、慢性虚血性心臓疾患、高血圧性心臓疾患、肺疾患性心臓疾患(肺疾患)、心臓弁膜症、例えばリューマチ熱、僧帽弁逸脱、僧帽弁輪(mitral annulus)の石灰化、カルチノイド心疾患、感染性心内膜炎、先天性心臓疾患、心筋疾患、例えば心筋炎、心筋症、欝血性心不全による心臓疾患、及び心臓ガン、例えば一次肉腫、二次腫瘍を含む多くの疾患と共に現れる。
【0025】
“投与(administering)”、“注入(introducing)”、“移植(transplanting)”は同じ意味として使用され、所望の箇所に細胞局在をもたらす方法によって、被験者、例えばヒト患者に本発明に係る心筋細胞を挿入することを意味する。
【0026】
“心臓細胞(cardiac cell)”は分化された心臓細胞(例えば、心筋細胞)又は心臓細胞を生成したり心臓細胞に分化されるように決定された細胞(例えば、心筋母細胞又は心筋芽細胞)を意味する。
【0027】
“心筋細胞(cardiomyocyte)”は検出可能な量の心臓マーカ(例えば、α−ミオシン重鎖(heavy chain)、cTnI、MLC2v、アルファ心臓アクチン、及びin vivoでCx43)を発現し、収縮し、増殖しない心臓の筋肉細胞を意味する。
【0028】
“心筋母細胞(cardiomyoblast)”は検出可能な量の心臓マーカを発現し、収縮し、増殖する細胞を意味する。
【0029】
“心筋芽細胞(cadiomyogenic cell)”は検出可能な量のMEF2タンパク質を発現し、組織化された肉腫構造や収縮を示さず、そして好ましくは検出可能な量のミオシン重鎖(heavy chain)タンパク質を発現しない細胞を意味する。
【0030】
培養されたBMSCsの分化を言及する時の“一つの細胞形態への特異的な誘導”は少なくとも50%以上のBMSCsが所望の細胞形態(すなわち、心筋細胞)に分化される培養を意味する。
【0031】
タンパク質の“検出可能な量”は、例えばここに提供されている方法を用いる、免疫細胞化学法によって検出されうるタンパク質の量を意味する。細胞がCsx/Nkx2.5又はミオシン重鎖(heavy chain)で検出可能に標識されているかを確認する1種の方法が次に提供される。培養された細胞を氷で20分間4%ホルムアルデヒドで固定させた後、0.2% triton−X100が入っているリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で15分間培養する。PBS中でで3回洗浄した後、細胞を15分間ブロッティング溶液(PBSに1%BSAと0.2%Tween20を添加)中で培養する。この試料を次の抗体のうちの一つで処理する:anti−Csx(1:100〜1:200、 S.Izumo、Harvard Medical School、Boston MAから入手)、MF−20(1:50〜1:200、Developmental Studies Hybridoma Bank、University of Iowa、Iowa City Iowaから入手)、anti-desmin(1:100〜1:200、Sigma-Aldrich、Inc.、St.Louis MOから入手)。必要に応じて、同じ濃度の同種対照群(Csxには正常ウサギ血清、MF−20にはマウスIgG2b、desminにはマウスIgG1)と共に4℃で恒湿槽中で一夜培養する。試料スライドを洗浄溶液(PBSにTween20を0.5%添加)で3回洗浄した後、2次抗体(Csxにはロバ抗−ウサギIgG、MF−20とanti-desminにはロバ抗−マウスIgG、これらは全て Jackson ImmunoResearch Laboratories、Inc.から入手)と供給元が提供する指示書にしたがって培養して、3回洗浄する。次いで試料を蛍光顕微鏡(例えば、蛍光附属物が装着されたNikon TS100顕微鏡)で検査して視覚的に免疫標識を評価する。
【0032】
本発明の他の特徴と長所は以下の本発明の好ましい態様の記載及び請求の範囲から明らかになるであろう。
【0033】
本発明者らは、発生学的には分化されることになっているが、未分化の細胞の移植が目標組織で移植細胞の生存、取り込み、及び適応力を増加させるということを発見した。
【0034】
本発明者らは、治療される心筋の部位で血管と心筋組織が共に再生される、細胞移植治療法も発見した。この方法は心筋細胞、内皮細胞、又は血管平滑筋細胞の3種の細胞形態のうち一つになる未分化の細胞の移植を含む。
【0035】
本発明では、ヒト由来のBMSCsを心筋芽細胞に分化させるために使用する。
【0036】
移植する細胞を十分供給することが望ましい。従って、一態様においては、移植される細胞は幹細胞由来である。適切な幹細胞のうち一つはBMSCであって、これは成人の骨髄から採取することができる。採取したら、BMSCsは、後述するように、細胞を心筋細胞系統に誘導するために、成長因子で処理する(ここでh“priming”と言及する)ことができる。本発明においては、BMSCsを心筋細胞に分化させるために、BMSCsに多様な濃度のIGF−1を添加して、IGF−1の効果を確認する。
【0037】
細胞移植成功のためには幹細胞と幹細胞誘導製剤の最適化が極めて重要である。細胞移植の移植率を最大化するためには、移植される細胞がコミットメント(commitment)と分化の間の適切な段階にあることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、多様な実施例により、本発明を具体的に説明する。これら実施例は本発明の例示に過ぎず、本発明はこれらの実施例に限定されると解釈されてはならない。
【実施例1】
【0039】
BMSCsの心筋芽細胞への分化を高める方法
骨髄はヒトの成人から分離した。BMSCsを分離して10%の牛胎仔血清、100MのL−アスコルビン酸−2−PO、5−15ng/mlのヒトLIF(白血病抑制因子:leukemia inhibitory factor)、及び20nMのデキサメタゾンを含有する培地で培養した。このようなin vitro条件は、BMSCsに自己再生を保持させて、成長因子のような分化試薬に対する反応性を失わずに、継代増殖させる。
【0040】
成長因子(50ng/mlのbFGF;R&Dより入手、及び25ng/mlのBMP−2;R&Dより入手)、及びIGF−1(2ng/ml;R&Dより入手)の存在下でBMSCsを2週間培養した。その時点で、細胞を、筋肉細胞特異的マーカであるMEF−2、GATA又はデスミンを用いる、免疫蛍光染色に付した。
【0041】
図1はヒト由来BMSCsを成長因子と共に培養した後、MEF−2(A)、GATA(E)及びデスミン(I)に対する特異的抗体を使用した、分化されたヒト由来BMSCsの染色及び形態を、対応するイソタイプ(C、G、K)のネガティブコントロールと共に示す一連の顕微鏡写真である。図1において、パネルA、E及びIはそれぞれMEF−2、GATA及びデスミンによる免疫蛍光染色の結果である。パネルB、F及びJは各免疫蛍光染色イメージの対応する位相のコントラストイメージである。パネルC、G及びKは対応するイソタイプネガティブコントロールの蛍光イメージを示す。パネルD、H及びLはイソタイプ対照群の対応する位相のコントラストイメージを示す。全てのイメージは40倍で観察された。
【0042】
次いで、人から分離されたBMSCsをbFGF及びBMP2、又はbFGF、BMP2及びIGF−1で処理した。1週間、分化培地に接触させた後、細胞を固定して、MEF−2に対するポリクローナル抗体(Santa Cruz #sc−10794)を使ってMEF−2免疫蛍光染色の試験を行った。bFGF、BMP2、及びIGF−1の処理濃度と試験条件は前述した通りである。
【0043】
図2はヒト由来BMSCsをIGF−1の不在(A)又は存在(C)下で成長因子と共に培養した後、MEF−2特異的抗体を使用した、分化されたヒト由来BMSCsの染色と形態を示す顕微鏡写真である。図2において、パネルA及びBはbFGF及びBMP2の存在下で培養した結果であり、パネルC及びDはbFGF、BMP2及びIGF−1の存在下で培養した結果である。また、パネルA及びCはMEF−2による免疫蛍光染色結果であり、B及びDは対応する位相のコントラストイメージである。全てのイメージは40倍で観察された。図2に示したように、2ng/mlのIGF−1の存在下で最多の心筋芽細胞が得られる。また、IGF−1と共に培養した細胞においてMEF2の発現が、IGF−1なしで培養したものよりも、強く現れることは、より一層の心筋芽細胞の特徴を示唆している。従って、本発明によれば、この方法によって、心筋細胞系の特徴を有する心筋芽細胞の高い生産を得ることができる。
【0044】
上記の結果を考慮すると、細胞が培養される環境を調節することによりBMSCsが心筋芽細胞に分化されうる比率と量を調節してこれを最大化することができる。本発明の移植方法によれば、移植細胞の50%以上が心筋芽細胞であることが望ましい。高含量の心筋芽細胞は移植された細胞の生着率を高める結果を招く。従って、細胞の約50%、75%、85%、90%又は95%以上、又はそれ以上が心筋芽細胞であることが望ましい。
【0045】
本発明の方法において、適切な因子又は条件は特異的に1種の細胞(例えば、心筋細胞)にだけ誘導するものである。
【実施例2】
【0046】
ヒト及び別の哺乳動物由来のBMSCs
本分野においてヒトBMSCsは心筋細胞も生産できると知られている(Pittenger et al.,Science 284: 143〜147、1999)。他の哺乳動物由来のBMSCs(例えば、ヒト化ブタBMSCs)も本発明の方法に使用できる(Levy et al.,Transplantation 69:272〜280、 2000)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上述べたように、BMSCsを心筋芽細胞に分化させるように誘導する条件下で、IGF−1を含む培養液中で培養すると、心筋細胞系の特徴をさらに多く有する、哺乳動物心臓組織に移植するための細胞を高収率に生産できる。さらに、このように生産された細胞は、不完全な心臓機能による障害を治療するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、ヒト由来BMSCsを成長因子と共に培養した後、MEF−2(A)、GATA(E)、及びデスミン(I)特異的抗体を使用した、分化されたヒト由来BMSCsの染色と形態を、ネガティブコントロールである、対応するイソタイプ(C,G,K)と共に示す一連の顕微鏡写真である。
【図2】図2は、ヒト由来BMSCsをIGF−1の存在(C)又は不在(A)下で成長因子と共に培養した後、MEF−2特異的抗体を使用した、分化された人間由来BMSCsの染色と形態を示す一連の顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段階:(a)不死化されていない骨髄幹細胞を供給する;(b)前記骨髄幹細胞を、心筋芽細胞に分化させるように誘導する条件下で、IGF−1を含有する培養液中で培養する;(c)段階(b)の細胞の分化状態をモニタリングする;及び(d)前記細胞の約50%以上が心筋芽細胞であるとき、段階(b)の細胞を採取する:を含有してなる、哺乳動物の心筋組織に移植するための細胞の生産方法。
【請求項2】
前記骨髄幹細胞が移植対象の哺乳動物由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記段階(d)が段階(b)の前記細胞の50%以上かつ80%以下が心筋芽細胞であるときに行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記IGF−1の濃度が0.1から25ng/mlの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
不死化されていない骨髄幹細胞を、心筋芽細胞に分化させるように誘導する条件下で、IGF−1(インスリン様成長因子−1)を含有する培養液中で培養し、そしてこの細胞を採取することによって製造される、哺乳動物の心筋組織に移植するための細胞。
【請求項7】
前記骨髄幹細胞が移植対象の哺乳動物由来である、請求項6に記載の細胞。
【請求項8】
前記哺乳動物がヒトである、請求項6に記載の細胞。
【請求項9】
前記IGF−1の濃度が0.1から25ng/mlの間である、請求項6に記載の細胞。
【請求項10】
(a)請求項1により生産された心筋細胞又は心筋前駆細胞;(b)内皮細胞又は内皮前駆細胞:及び(c)血管平滑筋細胞又は血管平滑筋前駆細胞;を含有してなる、不完全な心臓機能を特徴とする疾患を有すると診断された哺乳動物の心筋組織に移植して哺乳動物を治療するための医薬組成物。
【請求項11】
心筋前駆細胞:内皮前駆細胞:血管平滑筋前駆細胞の比率が10:1:1である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記哺乳動物がヒトである、請求項10に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−512918(P2006−512918A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567184(P2004−567184)
【出願日】平成15年12月30日(2003.12.30)
【国際出願番号】PCT/KR2003/002898
【国際公開番号】WO2004/065589
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(503373182)アントロジェン カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】