説明

細胞系の産生および維持に関連する物質および方法

【課題】特定の、興味のある細胞、特に抗体産生ヒトB細胞の長期間の培養を確立する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、STAT(signal transducer of activation and transcription)の発現を用いて、初代細胞、すなわち非形質転換細胞から得た細胞系を維持する方法を提供する。本法は特に、B細胞の維持に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、細胞系、特に初代細胞、すなわち非形質転換細胞からの細胞系の産生および維持である。特に本発明は、限定はしないが、ヒトB細胞を産生する抗体の産生および維持に関連する物質および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体(mAbs)は、生物医療研究のあらゆる領域において有用性が証明された強力な手段である。最近まで産生される大多数のモノクローナル抗体は、マウス起源のものであった。しかしながら、ヒトへの治療目的でこれらmAbsの適用は、マウス起源のmAbsで治療した場合、ヒトは抗マウス抗体を急速に発現させるという事実により妨害される。マウスmAbsに対するこれら免疫応答は、治療効率を強力に低下させる。したがって、治療目的のためにヒトモノクローナル抗体の産生を可能にする方法を発展させるために、広範囲の努力が払われてきたことは驚くに当たらない。この目的を達成する1つの方法は、ネズミ抗体遺伝子の不変セグメントをそれらのヒト対照物と交換することにより、ネズミ抗体の遺伝子を再操作すること(Jonesら、1986年; Morrisonら、1984年)、または、より最近では、ヒトIg遺伝子を担持するマウスを創製することであった(Fishwildら、1996年; Mendezら、1997年)。他の方法は、ヒト抗体を創製するファージディスプレイの利用である(HoogenboomおよびChames、2000 年; Winterら、1994年)。これらの技術は、確かに貴重であるが、求められる特異性を有する抗体を産生するB細胞をヒトから単離するための技術を発展させることは、非常に望ましいと考えられる。
【0003】
具体的には、高い効率または優れた効率で病原性誘発を解消したヒトの抗体産生B細胞を単離すれば、臨床的な設定において有用性が証明されたmAbを直接単離するための手段が提供されると思われる。この目的を達成するためのハイブリドーマに基づく方法は、ヒトB細胞と、ヒトまたはマウスの骨髄腫細胞系との安定な融合を達成するという課題が障害となってきたが、最近、ある新規なヒト骨髄腫の細胞系が、ヒトB細胞との安定な融合に明らかに好適であることが報告されている(Karpasら、2001年)。代わりの手法として、Epstein Barrウィルス(EBV)により抗体産生B細胞が固定化されている。しかしながら、これらの試みによる成功は限られていた。抗体を産生するEBV-LCLクローン類は確立されているが、これらの力価は低く、これらの系列は、安定でないことが多い(Roderら、1986年)。さらに、EBVは、抗体を産生する細胞を優先的に形質変換することはない。
【0004】
ヒトB細胞は、CD40LおよびIL-4単独またはIL-2とIl-4との組合わせと共にある限定された期間で培養できる(Banchereauら、1991年)。IL-10は、培養B細胞のさらなる増殖および抗体高産生B細胞への分化を誘導できる(Malisanら、1996年)。これらの培養B細胞は、複製寿命を限定し、6週間後、大部分のB細胞は、アポトーシスを受けて、ヒトB細胞の安定な抗体産生系列の生成は不可能となる。
【0005】
このように、要約すると、かなりの努力にもかかわらず、これらの細胞と、ヒトまたはマウス骨髄腫細胞との融合によるヒトモノクローナル抗体の生成は、非常に困難であった。また、高力価の抗体産生EBV形質変換B細胞を生成する試みは、少なからぬ問題に遭遇している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】John、1996年; John、S.、Robbins、C. M.、およびLeonard、W. J. (1996)
【非特許文献2】Embo J 15、5627〜5635頁
【非特許文献3】John、S.、Vinkemeier、U.、Soldaini、E.、Darnell、J. E.、およびLeonard、W. J. (1999)
【非特許文献4】「The significance of tetramerization in promotor recruitement by Stat5」Mol Cell Biol 19、1910〜1918頁; John、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、特定の、興味のある細胞、特に抗体産生ヒトB細胞の長期間の培養を確立する方法を発明した。本法は、STAT(signal transducer of activation and transcription)、特にSTAT5、(5bまたは5a)の活性変異体の能力を開発し、複製寿命を延長させる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
STAT5bは、IL-2により活性化され、恐らくIL-2により誘導された細胞周期進行において、ある役割を演じると考えられている(Morigglら、1999年)。本発明者は驚くべきことに、STAT5aまたはSTAT5bの構成的な活性(CA)変異体(それぞれ、CA-STAT5aおよびCA-STAT5b)のヒトB細胞中への導入により、ヒトB細胞の長期培養の確立が可能になることを見出した。本発明者は、CA-STAT5bが、ヒトB細胞の長期培養の確立に特に効率的であることを見出した。さらに、本発明者は、記憶B細胞の血漿細胞への分化を阻害するBCL-6の発現(Reljicら、2000年)が、STAT5bにより調節されることを測定した。CA-STAT5bと、変異エストロゲン受容体とのハイブリッド導入後、4-ヒドロキシタモキシフェン依存的に、CD40L、IL-2およびIL-4に応答して増殖する長期B細胞系が得られた。さらに本発明者は、BCL-6転写体が、蛋白合成インヒビターシクロヘキサミド存在下、ヒドロキシタモキシフェン依存方法において、STAT5b-ERによりアップレギュレートされることを証明し、BCL-6がSTAT5bの直接標的であることを示す。このように、成熟B細胞の分化制御におけるSTAT5の新規な役割をデータにより明らかにする。
【0009】
最近、BCL-6(記憶B細胞の血漿細胞への分化を阻害する)を、ヒト扁桃B細胞へ導入することにより(Reljicら、2000年)、これらの細胞の複製寿命がかなり延長する結果となることが示された(Shvarts、2002年)。BCL-6は転写抑制因子をコードするが、非ホジキン病リンパ腫における染色体転座によりしばしば活性化される(Ye、1993年; Chang、1996年; Staudt、1999年; Shaffer、2000年)。BCL-6に関連する染色体転座は、常にプロモーターのみに影響を与え、BCL-6のオープンリーディングフレームには障害を及ぼさない。このように、非ホジキン病リンパ腫におけるBCL-6転座は、野生型BCL-6蛋白質の発現の脱調節により発癌の原因となる。BCL-6は、正常なB細胞およびT細胞発現のために必要である(Ye、1997年)。BCL-6は、主としてリンパ球の分化および免疫応答の調節に働くと考えられている。これは、非ホジキン病リンパ腫におけるBCL-6の関与、BCL-6ノックアウトマウスの胚種中心形成欠損(Dent、1997年; Fukuda、1997年; Ye、1997年)、およびBCL-6が、リンパ球生理機能に関与する多数の遺伝子を調節するという知見(Ye、1997年; Shaffer、2000年)に基づいている。最近、Fearonおよび協力者は、BCL-6が、胚種中心および記憶B細胞の最終分化を防止することによって細胞周期停止を防ぐことを証明した(Reljic、2000年; Fearon、2001年)。このように、培養ヒトB細胞におけるBCL-6発現が、これら細胞の寿命をかなり延長させるという知見(Shvarts、 2002年)は、最終分化が、CD40Lとサイトカイン類と共に培養されたB細胞の比較的短い寿命の原因であるという考えと一致する。B細胞の分化および増殖の調節においてBCL-6が重要な役割を演じているとすれば、この遺伝子がいかにして調節されているかという疑問には、大きな関心がもたれる。BCL-6プロモーターの調査により、2つのSTAT5結合部位の存在が明らかとなり(Ohashi、1995年)、本発明者は、STAT5がBCL-6の発現を調節できるということに想い到った。
【0010】
最も一般的に、本発明は、細胞が、分化するのに必要な時間までその細胞の複製寿命を延長することにより細胞系を維持し、それによって所望の発現生成物、例えば蛋白質、酵素または抗体を産生する方法を提供する。
【0011】
第1の態様において、興味のある細胞を得る工程;構成的に活性なSTAT蛋白質を前記細胞に導入する工程;複製できる環境において前記細胞を維持する工程を含む、細胞系を安定化する方法を提供する。
【0012】
STAT蛋白質は、STAT5aまたはSTAT5が好ましく、STAT5aまたはSTAT5bがより好ましい。
【0013】
本発明の例証のために、本発明者は、STAT5(signal transducer of activation and transcription)を用いた。しかしながら、他のSTAT (例えば、STAT1、2、3、4など)が、本発明において等しく働くことがあり得る。さらに、転写因子のSTAT族は当業界においてよく研究されてきたことから、本発明はまた、STAT経路におけるSTATの上流および下流モジュレーターにも拡張される。
【0014】
したがって、本発明者により最初に決定された、複製できる環境において細胞を維持する能力を有するように、STAT経路のある成分がSTATに対する上流効果を有するか、またはSTATの下流で調節されていることが当業界に知られている場合、当業者は、本発明の方法を一部変更してSTAT経路のある成分を使用することを十分に決定できる。
【0015】
利便性のため、以下の本文では、STAT蛋白質/核酸、特にSTAT5が使用される状況を中心に説明する。しかしながら、上記のとおり、STAT経路の成分は、本発明の方法、例えばBCL-6に等しく適用できることを理解するべきである。
【0016】
細胞は、哺乳類細胞であることが好ましく、より好ましくはB細胞、特にヒトB細胞が好ましい。細胞がB細胞である場合、1つ以上の次の成分、IL-2、CD40LおよびIL-4を含む環境において維持されることが好ましい。
【0017】
STAT5蛋白質は、形質変換により細胞に導入されることが好ましい。言い換えれば、STAT5蛋白質をコードする核酸を含む核酸構成物を、それが発現できる細胞のゲノムに組み込むことができる。限定はしないが、一般に「トランスフェクション」または「形質転換」とも称し得る導入には、任意の利用できる技術を用いてもよい。真核細胞に関して、好適な技術としては、レトロウィルス、レンチウィルスまたは他のウィルス、例えばワクシニア、または昆虫細胞に関してはバキュロウィルスを用いた、カルシウムリン酸トランスフェクション、DEAE-デキストラン、電気穿孔法、リポソーム媒介トランスフェクションおよび形質導入を挙げることができる。代わりとして、核酸の直接注入を使用できる。本発明の好ましい実施態様において、核酸をコードするSTAT5を、レトロウィルスベクターを用いて該細胞に導入する。
【0018】
抗生物質耐性または感受性遺伝子などのマーカー遺伝子、あるいは細胞表面抗原または緑色蛍光蛋白質のような蛍光蛋白質などのマーカーをコードする遺伝子を、当業界によく知られている導入核酸を含有するクローンを同定するのに用いることができる。
【0019】
関心の対象となる細胞は、維持することが望ましい任意の細胞であってもよい。細胞、特に初代細胞を細胞系の形態で維持する理由は、特定の細胞タイプが、医療研究目的などの研究に有用であるから、あるいは、特に所望の蛋白質、例えば、現実に単離細胞から抽出し得るよりも大量にまた有効に生産できる酵素、抗体またはホルモンを発現できる細胞であるからという理由によることが多い。
【0020】
本発明の説明は、ヒトB細胞を産生する抗体の生成に集中される。しかしながら、本発明は、関心の対象である他の細胞、例えば、T細胞、樹状細胞、APCおよびナチュラルキラー(NK)細胞に等しく適用できることが当業者にとって明らかであろう。ヒトB細胞を産生する抗体の細胞系を生産する能力は、これらの細胞が他の起源から利用できない極めて価値のある抗体の製造を導き得ることから非常に重要である。例えば、本発明の第1の態様による細胞は、病原細胞または腫瘍細胞に対して防護抗体を高める兆候を示した患者から得られることが好ましい。これらの細胞を用いる細胞系の製造により、試験し、医薬品組成物に製造可能なような有用な量で、防護抗体の維持および直接抽出または間接抽出を可能になる。
【0021】
Ig重鎖および軽鎖の双方をコードする遺伝子を細胞内に発現でき、直接抽出された抗体または遺伝子を、細胞から回収でき、抗体蛋白質の産生のためにCHO、MKCなどの第2の細胞系に発現できる。前記第2の細胞系は、ヒトへの使用のための物質を生産するために使用できる検証された細胞系であることが好ましい。言い換えれば、前記第2の細胞系を検査して、病原性作用剤、例えばウィルス、プリオンなどを産生しないことを確認することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1a】CA-STAT5bの発現は、B細胞の生存と増殖を導くが、野生型STAT5bの発現は、生存しか起こさないことを示す図である。B細胞は扁桃腺の懸濁液から分離され、CD40L IL2とIl-4とで培養し、対照(c)GFP、野生型(wt)STAT5b-GFPまたは構成的に活性な(ca)STAT5b-GFPを形質導入し、さらにCD40L、IL-2およびIL-4と共に培養した。図1aは、GFP+細胞のパーセンテージを示す図である。
【図1b】CA- STAT5bの発現は、B細胞の生存と増殖を導くが、野生型STAT5bの発現は、生存しか起こさないことを示す図である。B細胞は扁桃腺の懸濁液から分離され、CD40L IL2とIl-4とで培養し、対照(c)GFP、野生型(wt)STAT5b-GFPまたは構成的に活性な(ca)STAT5b-GFPを形質導入し、さらにCD40L、IL-2およびIL-4と共に培養した。図1bは、培養中のカウントされた細胞数を示す図である。
【図2】CA-STAT5b形質導入増殖B細胞が、EBVに会合した抗原LMP1およびEBNA1または2を発現しなかったことを示す図である。
【図3】CA-STAT5b形質導入B細胞のクローニング効率を示す図である。培養2ヶ月後、丸底ミクロ滴定プレートの1ウェル当たり1個、3個、10個および100個の細胞を区分することによりCA-STAT5b-GFP+細胞をクローン化した。培養物を3〜4週後にカウントした。
【図4】トシラーB細胞を、CD40L、IL-2およびIL-4中で培養し、CA-STAT5bER-IRES-ΔNGFRまたは対照-IRES-ΔNGFRを形質導入したことを示す図である。両培養物を分割し、一方を1μMの4-ヒドロキシタモキシフェン(4HT)無しで、他方はそれを存在させて培養した。
【図5】B細胞の増殖は、CA-STAT5bの継続的な機能性発現に依存することを示す図である。CA-STAT5bER-IRES-ΔNGFRを形質導入したB細胞を、100%の細胞が形質導入されたΔNGFRを発現するまで4HTと共に培養した。次いで細胞を7日間ホルモン無しで培養し、その後培養物を分割した。一方を4HTと共にさらに培養し、他方は4HT無しで培養した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、前記方法は、前記細胞系の細胞の複製を休止させ、それによって、前記細胞の最終分化をもたらす工程をさらに含み、その結果、例えば、関連する遺伝子を第2の細胞系にクローン化し、前記第2の細胞系から前記蛋白質を産生することにより、発現生成物である例えば所望の蛋白質を産生でき、直接的あるいは間接的に抽出できる。次に前記蛋白質を精製して、製薬組成物の製造に用いることができる。
【0024】
本発明者は、最終分化を誘導するために、細胞に及ぼすSTAT5の作用のスイッチを切ることのできる機構を発明した。
【0025】
この工程は、形質変換細胞において、不活化剤とSTAT5蛋白質とを会合させることによって便利に達成できる。次に前記細胞系の発生中の前記細胞の段階に応じて、不活化剤のスイッチを入れるか、あるいは切ることができる。
【0026】
このように本発明の第2の態様において、興味のある細胞、例えば、ヒトB細胞を産生する抗体を含む細胞系を生成する方法が提供され、前記方法は、
(a)興味のある前記細胞を得る工程;
(b)不活化剤と会合したSTAT蛋白質を前記細胞に組入れる工程;
(c)前記不活化剤のスイッチを切り、それによってSTAT5を活性化させることにより前記細胞を複製させる工程;
(d)前記生成細胞系を維持する工程、
を含む。
【0027】
前記方法は、
(e)場合によっては、前記細胞系の細胞をクローン化する工程;
(f)前記不活化剤のスイッチを入れ、それによってSTAT5を不活化させることにより前記細胞の最終分化を誘導する工程;
(g)最終分化細胞によって発現した所望の蛋白質を抽出する工程、
をさらに含み得る。
【0028】
B細胞からモノクローナル抗体を産生させるために、前記細胞系の細胞をクローン化できる。抗体を組み合わせる必要がある場合は、細胞をクローン化する必要はない。
【0029】
前記方法は、また
(h)場合によっては、Ig遺伝子を抽出し、それらを検証された細胞系において発現させる工程;
(i)前記抽出蛋白質を精製する工程;
(j)前記蛋白質またはそれをコードする核酸を含む製薬組成物を製造する工程、
をさらに含み得る。
【0030】
前記不活化剤は、クレロックス(cre-lox)またはFLP/FRT切除システムなどの誘導性プロモーター/切除システムであり得る。このように、STATの発現は、誘導性プロモーターを用いてスイッチを入れる、または切ることができるか、または、その発現は、誘導性切除システム、例えば、クレロックスまたはFLP/FRTに依存してもよい。さらに、アンチセンス核酸が利用でき、例えば、RNAiを産生する2本鎖干渉RNA(RNAi)が、STATの発現を制御するために使用できる。
【0031】
上記の場合、前記方法の工程(f)は、誘導性プロモーターの誘導因子の切除;クレロックスまたはFLP/FRT切除システムの活性化;またはアンチセンスまたはRNAiの導入により達成できる。
【0032】
好ましい実施形態において、不活化剤は融合蛋白質として、前記STAT5蛋白質と会合している蛋白質である。前記融合蛋白質を生成するためには、不活化剤をコードしている遺伝子が、STAT5遺伝子に融合でき、前記細胞において発現できることが便利である。次に、融合蛋白質の環境を変化させることにより前記不活化剤のスイッチを切ることができる。例えば、本発明者は、エストロゲン受容体とSTAT5が融合蛋白質(STAT5-ER)として、所望の細胞内で産生され得ることを示すことに成功した。前記融合蛋白質が不活性の時、前記エストロゲン受容体は、STAT5に対し不活化剤として働く。なぜならば、それはサイトゾル内の熱ショック蛋白質と複合体を形成し、STAT5蛋白質が核に到達することを防ぐからである。しかし、4-ヒドロキシタモキシフェン(4HT)と共に培養すると、融合蛋白質(STAT5-ER)は、熱ショック蛋白質から解離し、活性形態で核へ輸送される。4HTを除去すると、発現STAT5とエストロゲン受容体は複合体として熱ショック蛋白質と会合したままであり、したがって不活性であるため、興味のある細胞の増殖が休止する結果となる。次にこれらの細胞は最終分化する。このようにこの例において、不活化剤ERは4HTを用いてスイッチを入れたり切ったりできる。
【0033】
STAT蛋白質と会合できる不活化剤の他の例は、STAT5蛋白質をコードする核酸の上流または下流の転写因子結合部位であり、それによって、STAT5蛋白質の発現が転写因子の制御下におかれる。この不活化剤は、転写因子(トランス活性化因子)の存在または不在によって、それぞれスイッチを入れたり切ったりできる。トランス活性化因子の存在または不在は細胞内におけるその発現または機能を操作することにより制御できる。
【0034】
これは、転写因子(トランス活性化因子)をコードする第1のプラスミド、STAT5をコードする第2のプラスミド、という2つのプラスミドを細胞内に提供することによって便利に達成できる。第2のプラスミドは、STAT5の発現が、トランス活性化因子の制御下におかれるように、STAT5蛋白質をコードする核酸の上流にトランス活性化因子のための核酸結合部位もまた含む。次に、前記細胞をトランス活性化因子を不活性化する試剤と接触させることによって、不活化剤のスイッチを切ることができる。前記試剤の除去によって、トランス活性化因子は活性となり、STAT5の発現が可能となる。このようなシステムの一例は、Bujardおよび協力者により記載されているようなテトラサクリン調節システムである(Gossenら、1995年)。
【0035】
本発明の第3の態様において、細胞系を生産するために細胞の形質変換用核酸構成物が提供され、前記核酸構成物は、核酸の発現により前記STAT5および不活化剤を含む融合蛋白質が生成されるように、構成的に活性なSTAT5蛋白質(STAT5aまたはSTAT5b)をコードする核酸配列を含む。
【0036】
前記核酸構成物は、DNA、cDNA、RNAまたはゲノムDNAであり得る。さらに、それは、発現ベクター、例えば、プラスミドまたはレトロウィルスベクターの内部に保持し得る。さらに、前記核酸構成物は、上記のプロモーターまたは転写因子結合部位などの、前記核酸構成物の発現を補助する調節配列に操作可能に結合し得る。前記核酸構成物またはそれを含むベクターは、宿主細胞内に含有し得る。1つの好ましい実施態様において、不活化剤は、エストロゲン受容体である。
【0037】
第4の態様において、興味のある細胞を含む細胞系を生産するためのキットが提供され、前記キットは構成的に活性なSTAT5(STAT5aまたはSTAT5b)をコードする核酸を含む少なくとも1種の核酸構成物を含む。前記核酸構成物はまた、STAT5と会合している不活化剤をコードする。前記キットは、解離剤、例えば、不活化剤からSTAT5を解離することのできる4HTをさらに含み得る。
【0038】
最近、ヒト扁桃B細胞におけるBCL-6の異所性発現がB細胞増殖の増大をもたらし、これらの細胞寿命をかなり延長させることが報告された(Shvarts、2002年)。本発明者は、成人末梢B細胞におけるBCL-6の発現でも、増殖応答の増大がもたらされることを示すことにより、これらの知見を拡張させた。BCL-6を形質導入した末梢B細胞は、B細胞活性化マーカーならびにCD19およびCD20を発現させた。さらに、本発明者は、軽鎖カッパ(κ)とラムダ(λ)の一貫した細胞表面発現を認め、BCL-6は細胞表面Ig+B細胞の血漿細胞への分化を抑制していることを示した。Fearonと協力者は、BCL-6の発現は、遺伝子中心および記憶細胞の自己再生を可能にすることを予測した(Reljic、2000年; Fearon、2001年)。ヒトB細胞内へのBCL-6の異所性発現が、CD40Lやサイトカイン類によって誘導される増殖応答の劇的拡張をもたらすという本発明者の知見は、この仮説を支持している。
【0039】
最近の研究で、BCL-6が、血漿細胞の分化を駆動しているBlimp-1(Reljic、2000年; Shaffer、2000年; Shaffer、2002年)を抑制しているように思われた(Turner、1994年)ことから、BCL-6によるB細胞分化抑制の機構への洞察が提供されている。BCL-6によるBlimp-1の抑制は間接的であり、AP-1複合体によって媒介されている(Vasanwala、2002年)。Blimp-1は、CD40LおよびIL-4と共に培養されたB細胞の細胞周期進行にとって必須であるc-mycの転写を阻害することが示された (Lin、1997年)。したがって、B細胞におけるBCL-6の異所性発現がBlimp-1のスイッチを切り、それによってc-mycの発現を継続させることができるようである。サイクリンD1がBCL-6を形質導入した細胞内で選択的に発現していることが、以前立証されているが、BCL-6を形質導入したB細胞内での細胞周期進行におけるその役割はまだ明らかではない(Shvarts、2002年)。B細胞における細胞周期進行に影響を与える他に、異所性BCL-6発現はまた、アポトーシスを抑制し得る。この点で、胸腺細胞におけるプログラム化された細胞死に関連していると思われるプログラム化細胞死 (PDCD)遺伝子2を、BCL-6が抑制していることが示された(Baron、2002年)ことは特筆に値する。
【0040】
B細胞の増殖と分化において、BCL-6に重要な役割があるとすれば、この遺伝子がどのように調節されているかを知ることは興味深い。BCL-6プロモーターにおけるSTAT5コンセンサス部位の存在(Ohashi、1995年)に促され、本発明者は、STAT5がBCL-6を調節しているかどうかを調べた。本発明者は、CA-STAT5b-ER構成物を用いて、BCL-6がSTAT5bによってアップレギュレートされていることを証明した。重要なことに、BCL-6転写体のアップレギュレーションは蛋白質合成インヒビターのシクロヘキシミドに対して感受性はなく、BCL-6が、少なくともB細胞において、STAT5bの直接的標的であることを示している。
【0041】
B細胞におけるSTAT5bによるBCL-6発現の調節をさらに支持する事実が、CA-STAT5b変異体の構成的発現が、BCL-6と同様に、B細胞増殖の増大をもたらすという本発明者の所見により提供された。STAT5を形質導入したB細胞が、LMP-1とEBNA1/2に関して陰性であり、また、全てのEBV形質転換B細胞上に発現するCD20を欠くことから、異所性STAT5b発現によるB細胞増殖促進はEBV形質変換によるものではない。さらに、調節性CA-STAT5b構成物により形質導入されたB細胞は、STAT5bにより単にオンの様式で増殖するため、形質導入B細胞の増殖増大能力は、二次的形質変換事象によるものではないことが示される。STAT5bが直接的にBCL-6を調節するという所見によって、最終分化の抑制は、CD40LならびにIL-2またはIL-4に対する増殖応答が、CA-STAT5Bの異所性発現により劇的に増大する1つの方法であることが示唆される。CA-STAT5b-ERを発現し、4HTによって増殖する細胞は、最適な増殖のためには、依然としてCD40LならびにIL-2またはIL-4のいずれかが必要である。このように、このシステムにおけるSTAT5の活性化それ自体は、成長因子によって提供されるシグナルの完全な代わりとなるのには十分ではない。明らかに、細胞周期の進行を誘導するためにはPI-3K、NF-KBおよびP38キナーゼのように、サイトカイン類やCD40連結反応によって引き起こされる他のシグナル形質導入経路(Andjelic、2000年;Dadgostar、2002年)が必要である。4HTと共に、しかし、CD40Lおよびサイトカイン類無しで培養されたSTAT5b-ERB細胞は増殖しないが、それらは、4HT無しで培養された細胞に較べると生存上有利である(結果は示していない)。したがって、CA-STAT5bの過剰発現は、最終分化を抑制する他に、成熟B細胞の生存に大きな効果を有し、それはBCL-6に依存しない。STAT5bが、B細胞の生存に関与する因子を直接的に調節し得るという考えは、T細胞におけるBcl-2とBcl-XLの発現におけるSTAT5の関与を立証した研究(Lord、2000年)によって支持される。Bcl-XLはまた、細胞系BAF3におけるSTAT5の構成的に活性な変異体の発現によって誘導される(Nosaka、1999年)。Bcl-2およびBcl-XLのプロモーターにおけるSTAT5コンセンサス結合部位の他に。したがって、STAT5は、初代B細胞においても同様に、抗アポトーシス遺伝子調節における寄与体を形成するようである。
【0042】
本発明者の知見により生じた重要な疑問は、BCL-6発現が厳密にSTAT5に依存しているかどうかである。文献からのデータは、STAT5aおよびbが、BCL-6発現または機能に必要であるという仮説に有利な証拠を提供していないが、この考えに異議を唱えてもいない。BCL-6欠損マウスは胚種中心を欠いている(Dent、1997年; Ye、1997年; Fukuda、1997年)。これらマウスのB細胞は、IgMおよびIgG1を産生でき、イソタイプに切り替えする能力があることを示している(Toyama、2002年)。BCL-6欠損マウスで産生されたIgは、体細胞変異を欠いている(Toyama、2002年)。STAT5aおよびbの二重欠損マウスは、末梢におけるB細胞数を劇的に減少させた(Sexl、2000年)。しかしながら、脾臓におけるB細胞の絶対数は、野生型マウスと同様であることが報告された。これらのマウスはまた、IgMおよびIgG1を産生することを示したが(Sexl、2000年)、STAT5aおよびbの二重欠損マウスで胚種中心が形成されるかどうかは知られていず、また体細胞変異が、これらマウスのIg遺伝子に起こるか知られていない。明らかにSTAT5a/bの二重欠損マウスにおけるBCL-6発現の分析は、STAT5蛋白質がBCL-6発現に必要であるかどうかという疑問に答えることになろう。
【0043】
BCL-6のアップレギュレーションは、STAT5によるB細胞の生存および増殖の制御にある役割を演じることができるが、CA-STAT5b形質導入細胞とBCL-6形質導入B細胞との間に多くの相違があるため、BCL-6の調節だけでは、培養ヒトB細胞に対するSTAT5bの継続的活性化効果を説明できないことが示唆される。第1の相違は、オンモードにおけるSTAT5b形質導入B細胞が、BCL-6形質導入B細胞よりも速く増殖することである。他の顕著な相違は、BCL-6形質導入B細胞が、細胞表面の細胞表面Igを一貫して発現するが、一方、CA-STAT5b形質導入細胞は、継続インビトロ培養の際にsIg発現を徐々に喪失することである(結果は示していない)。sIg発現のこの喪失は、Ig分泌の増加、CD38発現の増加またはCD138の誘導を伴わず、したがって、血漿細胞への分化の結果ではない。さらに、CD40、CD70、CD80およびCD86のような多くのB細胞活性化抗原の細胞表面発現は非常に類似しているが、CA-STAT5b形質導入細胞は、BCL-6形質導入B細胞よりもはるかに高いレベルのCD25を発現する。明らかにこれらの相違は、STAT5bの継続活性化と組合わされた高レベルのSTAT5b発現でスイッチが入る、さらなる転写プログラムにより引き起こされると考えられる。CA-STAT5b-ER形質導入B細胞への4HTの添加によりスイッチの入る遺伝子のさらなる分析によって、B細胞の生存、増殖および分化におけるSTAT5bの役割についてさらなる情報が提供されるであろう。
【0044】
したがって、本発明の第5の態様において、
1)試験物質を、第1の反応培地においてBCL-6を発現できる細胞と接触させること;
2)CA-START5を、第2の等しい反応培地においてBCL-6を発現できる細胞と接触させること;
3)第1の反応培地におけるBCL-6の発現を第2の反応培地のそれと比較して、試験物質が、CA-STAT5の活性を模倣する能力があるかどうかを決定すること、
を含むCA-STAT5の活性を模倣する能力のある物質に関してスクリーニングする方法が提供される。
【0045】
CA-STAT5の活性は、哺乳類細胞、好ましくはB細胞におけるBCL-6の発現を調節するその能力であることが好ましい。
【0046】
前記細胞は、BCL-6を本質的に/自然に発現できるか、または前記細胞は、BCL-6を発現するために設計されていてもよい。試験物質および/またはSTAT5(STAT5aまたはSTAT5b)は、細胞内に発現し得る。言い換えれば、前記細胞は、試験物質および/またはSTAT5を発現するために設計されていてもよい。
【0047】
第1反応および第2反応のBCL-6発現は、細胞が増殖を止め、やがて最終分化するかどうかを決定することにより比較できる。
【0048】
STAT5(好ましくはSTAT5b)を模倣できる物質に関してスクリーニングする代わりの方法は、
1)細胞、例えば、B細胞にSTAT5-ERを形質導入する工程;
2)4HTの存在下、細胞を培養する工程;
3)cDNAライブラリを、ウィルスベクター、例えば、レトロウィルスベクターにより細胞に導入する工程;
4)4HTを除去することによりSTAT5のスイッチを切る工程;
5)複製を継続する細胞を選択する工程、
を含む。
【0049】
複製を継続する細胞は、STAT5の活性を模倣できる蛋白質をコードする遺伝子を含む。したがって、本法は、複製を継続する細胞の核酸の配列を決定する工程をさらに含むことができる。
【0050】
以下の本発明の態様および実施態様は、例として次の図面を参照にして説明する。さらなる態様および実施態様は、当業者にとって明らかとなろう。本文に記述された全ての文献は、参照として本明細書中に組み込まれている。
【0051】
B細胞の単離
扁桃は、アムステルダムの自由大学、小児外科の扁桃摘出から得られた。T細胞は、抗CD4および抗CD8ミクロビーズ(Miltenyi Biotec)を用いて枯渇させた。次に細胞を、共役抗CD19 FITC(Dako)および共役抗CD3フィコエリトリン(PE)(Becton Dickinson)と共にインキュべートし、次いでCD19+CD3-個体群の区分けをした。生じたB細胞は、再分析により95%から98%純粋であった。
【0052】
レトロウィルス構成物および組み替えレトロウィルスの生産
STAT5aおよびbの構成的活性変異体は以前に記載されている(Ariyoshiら、2000年; Onishiら、1998年)。これらの変異体をコードするDNAを、T. Kitamura(IMSUT、日本国東京)から得た。これらのDNAを、以前に記載された(Heemskerkら、1997年; Heemskerkら、1999年)LZRS-リンカー-IRES-GFPベクターに結合させた。レトロウィルスプラスミドを、製造元のプロトコルに従ってFugene-6(Roche診断薬)を用いて、ヒト胎生腎細胞系293の誘導体であるヘルパー-ウィルスのないアンフォトロピィプロデューサ細胞系 Phoenix-A、(KinsellaおよびNolan、1996年)(カリフォルニア州パロアルト、スタンフォード大学G. Nolan博士の恵与)にトランスフェクションした。2日後、トランスフェクションした細胞の選択を、2μg/mlのプロマイシン(puromycin) (Clontech Laboratories)の添加により開始した。トランスフェクションの10日から14日後、10mlのプロマイシン無しの完全培地中10cmペトリ皿 (米国カリフォルニア州サンジョセ所在のBecton Dickenson)1枚につき6×106個の細胞を塗った。翌日、培地をリフレッシュし、その翌日にレトロウィルス上澄液を収穫し、遠心分離して、細胞無しの分割量を-70℃で凍結した。この方法により、再現性があって迅速、大スケールかつ3×106感染ウィルス粒子/ml超の高力価レトロウィルス生産を得る。
【0053】
CA-STAT5bエストロゲン受容体(ER)の融合構成物は、以下のとおり作製された:PCRをN604H STAT5b変異体で実施し(Ariyoshiら、2000年; Onishiら、1998年)、停止コドンの代わりにBgIII部位を導入する。変異体を含んだXhoI/BgIII消化生成物が生じた。これを、 pBS-ERのBamHI/EcoRI消化体(C期)およびpBS-SK+のXhoI/EcoRI消化体に結合して、ΔCA-STAT5bERを創製した。次にLZRS CASTAT5b-IRES-ΔNGFRのXhoI/NotI消化体を、pBS ΔCA-STAT5bERの部分的Not/XhoI消化体に結合させ、LZRS CA-STAT5bERを創製した。これを用いて、我々は、IRES下流のCA-STAT5b-ER、Δ神経成長因子受容体(ΔNGFR)、C. Bonini博士(Bonini、1997年)により恵与されたNGFRの欠失シグナリング無能変異体との構成物を作製した。
【0054】
レトロウィルスの形質導入法
組み換えヒトフィブロネクチン断片CH-296形質導入法(RetroNectin(商標);日本国大津市所在のTakara)は、Hanenbergら (Hanenbergら; 1997年; Hanenbergら; 1996年)により開発された方法に基づいた。非組織培養処理された24ウェルプレート(Costar)を、1μg/ml組み換えヒトフィブロネクチン断片CH-296の0.5mlにより4℃で2時間または一晩被覆した。CH-296溶液を除去してから、リン酸緩衝食塩水(PBS)中、2%ヒト血清アルブミン(HAS)と共に室温で30分インキュべートし、次いでPBSで一回洗浄した。0.25mlのIscove培地(Life Technologies)プラス0.25mlの解凍レトロウィルス上澄液と混合した10%ウシ胎児血清(FCS)中、5.105 B細胞を播種し、37℃で6時間インキュべートした。次に、0.25mlの上澄液を除去し、0.25mlの新鮮なレトロウィルス上澄液を加え、37℃で一晩インキュべートした。翌朝、細胞を洗浄し、照射されたCD40L発現L細胞、IL-2(20U/ml)およびIL-4(50ng/ml)と共に24ウェルの組織培養処理されたプレート(オランダ国Badhoevedorp所在のCostar)に移した。
【0055】
細胞培養
B細胞を、5%CO2含有の湿気中37℃で10%FCSと共にIscove培地(Life Technologies)中で培養した。80グレイ照射されたCD40L発現L細胞を、24ウェルの組織培養処理されたプレート(Costar)中、1ウェル当たり5.104細胞を接種した。50.104の区分けされたB細胞を、IL-2(20 U/ml)およびIL-4(50ng/ml)と共に加えた。1週間後、前記細胞をレトロウィルス形質導入のために用いた。形質導入後、B細胞を、照射されたCD40L発現L細胞、IL-2およびIL-4と共に再度培養した。1週間後、前記細胞を照射されたCD40L発現L細胞、IL-2およびIL-10と共に1週間培養してから、IL-2とIL-10と共に次いでIK-6(30U/ml)と共に培養した。
【0056】
表現型決定
PE、PerCpまたはAPCで直接標識されたヒト分子CD3、CD19、CD20、CD38、CD40、CD80、CD45、HLA-DR、CD27、 CD56、CD70、(Becton Dickinson)、およびPE(Dako)で直接標識されたIgM、カッパ軽鎖、ラムダ軽鎖、CD138を、フローサイトメトリー分析用に用いた。着色細胞を、Facscalibur(Becton Dickinson)を用いて分析し、FACSデータは、Cell Questコンピュータソフトウェア(Becton Dickinson)により処理された。
【0057】
エライザ(Elisa)
培養上澄液中のIgM、IgGおよびサブタイプおよびIgAを、捕獲抗体としてラビット抗ヒトイソタイプ特異的抗体(Dako)およびアルカリホスファターゼ共役IgM、IgGおよびIgA(Dako)、次いでアルカリホスファターゼ基質(Sigma)を用いてエライザにより検出した。ヒト血清蛋白質キャリブレータ(Dako)を検量線用に使用した。
【0058】
RT-PCR
RNAは、RNeasy(登録商標)ミニキット(Qiagen)による解凍ペレットから収穫した。RNAは、5X第1ストランド緩衝液、500μmol/L dNTP's、25μg/Lオリゴ(dt)、200U片付きII RT(Life Technologies)を含有する20μL容量中で逆転写された。cDNAの1マイクロリットルを、20mmol/L Tris-HCl、50mmol/L KCL、1.5mol/L MgCl2、5mmol/L dNTP's、2.5U Tag DNAポリメラーゼ(Life Technologies)、および30pmolの各プライマーを含有する50μl溶液中PCRに供した。HPRT PCRは以下のとおりであった:94℃で7分の変性工程、次いで94℃で30秒間、65℃で30秒間、および72℃で30秒間の30周期、ならびに最終は72℃で7分間の延長。LMP-1およびEBNA PCRは以下のとおりであった:94℃で7分の変性工程、次いで94℃で30秒間、52℃で30秒間、および72℃で30秒間の30周期、ならびに最終は72℃で7分間の延長。逆転写酵素(RT)PCRに用いられたオリゴヌクレオチドは、
【化1】

であった。
【0059】
結果
ヒトB細胞増殖に対するSTAT5の構成的活性変異体の効果
STAT5aおよびb欠損マウスは、B細胞に欠陥があることが報告されている(Sexlら、2000年)。末梢血における成熟B細胞数は、これらのマウスにおいて大きく減少しているが、脾臓または骨髄では減少していない。さらに、STAT5aおよびbのダブルノックアウトマウスではプロ-およびプレB細胞数の減少により示されるように初期B細胞区画が欠失している(Sexlら、2000年)。活性なSTAT5変異体をコードするcDNAの導入は、プロB細胞系BAF3のIL-3-独立の増殖を誘導するという知見(Ariyoshiら、2000年; Onishiら、1998年)により、STAT5aおよびbの活性化が、B細胞系統の初期段階における細胞周期前進に必要とされることが示唆された。しかしながら、STAT5の活性化が、成熟B細胞の増殖に必要かどうかは知られていない。本発明者は、成熟B細胞のインビトロ増殖に対するSTAT5aおよびbの活性変異体の効果を分析することによりこれを調べた。
扁桃CD19+B細胞を、材料および方法の項に示したように単離した。これらの細胞を、CD40L(CD154)によりトランスフェクションしたIL-2、IL-4およびマウス線維芽細胞と共に培養した。2日後、前記細胞に、構成的に活性な(CA)STAT5-IRES-GFP(STAT5aおよびSTAT5b)を、野生型ATAT5bまたは対照IRES-GFPとともに形質導入した。形質導入効率は5%であった(図1)。前記細胞を、CD40LおよびIL-2およびIL-4において第1週目に増殖させ、次いでCD40L、IL-2およびIL-10の組合わせにおいてさらなる増殖を促進した。培養の最初の3週間では、種々の培養液におけるGFP+細胞の該パーセントは変化しなかった。しかしながら、培養3週目から、CA-STAT5a(示さず)およびb(図1)を形質導入した培養液におけるGFP+細胞のパーセンテージは、経時的に増加した。7週目に、対照の形質導入および非形質導入のB細胞は、死滅し始めた。8週目において、CA-STAT5aおよびb形質導入培養のGFP+は95%を超え、増殖を続けた。野生型STAT5bで形質導入されたB細胞は生存したが、増殖せず(図1aおよびb)、STAT5の活性化はB細胞の増殖に必要であることを示した。
【0060】
CA-STAT5形質導入B細胞のサイトカイン要件を試験するために、IL-10において増殖させた培養液を分割し、さらにIL-10、IL-6と共に、またはサイトカイン無しで培養した。3つの培養液細胞は、全てが等しく十分に増殖した。CA-STAT5形質導入B細胞が、サイトカインの不在下で拡大するという知見は、CA-STAT5が、サイトカイン媒介シグナルをバイパスして細胞周期の進行継続させるか、または活性STAT5が、細胞増殖を媒介するサイトカインの分泌を誘導することが示唆できる。他のドナーの扁桃B細胞による第2の実験によって、同じ結果を得た。この実験において、培養開始時の形質導入効率は、10%と20%との間であった。第1の実験と同様に、非形質導入および対照形質導入細胞は、6〜7週後に増殖を止めたが、一方、CA-STAT5aおよびb形質導入細胞は、増殖し続けた。
【0061】
本発明者の知見により、CA-STAT5形質導入細胞は、通常のB細胞と比較して複製寿命を延長したことが示唆される。エプスタインバーウィルス(EBV)は、B細胞を固定化でき、EBV形質導入細胞は、扁桃B細胞の培養において「自発的に」出現できることから、CA-STAT5形質導入細胞の寿命延長は、EBV形質変換によるものではないとして除外することは重要であった。EBV形質変換B細胞は、不変的にCD20を発現し、また、STAT5形質導入B細胞は、CD20を欠くという知見は、これらがEBV形質変換されていないことを既に示唆した。これは、CA-STAT5形質導入B細胞が、感受性RT-PCRにより評価された際にLMP-1またはEBNA1/2 mRNAを発現しなかったという所見により確認された(図2)。
【0062】
図1および2に描写された実験は、扁桃B細胞を用いて実施された。B細胞の寿命を延長する本アプローチの一般的有効性を確かめるために、本発明者は、末梢血B細胞をCD40L、IL-2およびIL-4と共に培養し、これらの細胞をCA-STAT5により形質導入した。培養開始後30日目あたりで、GFP+細胞の比率は増加し始め、本発明者が扁桃B細胞を用いて観察した場合と同様、2週後に100%に達した(結果は示していない)。
【0063】
増殖B細胞の表現型
培養3週間後、該細胞は低レベルのCD19およびCD20を発現した。さらに、その時点における細胞の83%は、CD38を発現した(結果は示していない)。これらの結果は、多くのB細胞が血漿細胞に分化したことを示した。「選択された」CA-STAT5形質導入細胞(>95% GFP+)の表現型は様々である。CD19のレベルは高いが、新鮮に単離されたB細胞よりは低い(表1)。CA-STAT5形質導入細胞におけるCD38の発現は、時間と共に低下し、その発現は、やがては3週間培養された細胞よりも低くなった。CA-STAT5形質導入細胞は、CD20陰性のままであったが、CD27陰性でもあった。この表現型は、血漿細胞が極めて低いレベルのCD19だけを発現し、CD38+であり、CD27陽性であることから、前記細胞が血漿細胞ではないことを強く示唆する。さらに、CA-STAT5形質導入細胞は、細胞表面IgMに関して陰性であった(結果は示していない)。
【表1】

【0064】
STAT5形質導入B細胞のクローン化
CA-STAT5形質導入B細胞の複製寿命が目覚しく延長したので、これらの細胞がクローン化できるかどうかを調査することが興味深くなった。EBV形質変換B細胞をクローン化することが困難であることから、B細胞の固定化は、必ずしも高クローン化効率に導かない。CA-STAT5形質導入B細胞を、丸底96ウェル組織培養プレートのウェルにリミティングダイリューションで接種した。288ウェルを1個の細胞/ウェル、192ウェルを3個の細胞/ウェルおよび96ウェルを10個の細胞/ウェルで接種した。STAT5形質導入B細胞は、オートクライン増殖因子を産生する可能性に基づいて、本発明者は、フィーダー細胞として照射(40 Gy's)STAT5形質導入B細胞を用いた。増殖培養は、最初のミクロ培養の14〜21日目後から肉眼視できた。照射細胞のみ接種されたプレートが、増殖培養液を生成しなかったので、これらクローンの出現は、照射B細胞の所産によるものではなかった。増殖培養液を有するウェルのカウント結果から計算されたクローン化効率は、7%であった(図3)。50のクローン体を、24ウェルプレートのウェルに移し、クローン体の安定性を試験した。全てのクローン体は、少なくとも4週間増殖できた。これらの結果は、STAT5形質導入B細胞が、著しく高効率でクローン化できることを示している。
【0065】
ポリクローナルおよびモノクローナルCA-STAT5形質導入B細胞によるIg産生
CA-STAT5形質導入B細胞のIg産生は、材料と方法の項で記載されたエライザを用いて試験された。50万個の細胞を、5%FCSを有する培地中で3日間培養し、その後、上澄液を得て、試験した。親CA-STAT5形質導入細胞はIgGを産生したが、IgG量は、培養を継続すると減少した。表2の第1欄に例示された幾つかの実験において、約1μg IgG/mlを産生したが、そのレベルは、培養液を培養の遅い時点で試験した場合(実験2に例示)、そのレベルは極めて低かった。幾つかのクローン体は、同じ桁の大きさでIgGを産生したが(表2)、他のクローン体は、検出できるIgGを産生しなかった(データは示していない)。これらのデータは、CA-STAT5形質導入B細胞が、培養を延長するとIgを産生する能力を失うことを示すと考えられる。
【表2】

【0066】
タモキシフェンによるCA-STAT5発現誘導後のB細胞系の生成
CA-STAT5形質導入B細胞の長期間の培養系が、Igを産生する能力を失うという所見により、これらの細胞がIg産生細胞に分化する能力を不可逆的に失ったかどうかという疑問が生じる。CA-STAT5bが最終分化を可逆的に阻害する場合、CA-STAT5bのスイッチを切ることにより最終分化を誘導することが可能になると考えられる。これを調べるために、本発明者は、エストロゲン受容体(ER)とCA-STAT5bとの融合体を調製した。前記融合生成物は、熱ショック蛋白質との不活性複合体として形質導入細胞において発現する。4ヒドロキシ-タモキシフェン(4HT)と共にインキュべートすると、融合生成物は解離し、核に輸送される。扁桃B細胞に、CA-STAT5bER-IRES-ΔNGFRを形質導入し、1μM 4HTの存在または不在下でCD40L、IL-2およびIL-4中で培養した。図4は、4HTの存在下ではCA-STAT5b発現細胞(ΔNGFR+)の増殖選択のみを生じたことを明らかに示している。重要なことに、4HTの除去によって、B細胞の増殖が休止し、やがては死滅した結果となった。CA-STAT5bERを形質導入し、4HTの不在下、CD40L、IL2およびIL-4と共に培養したB細胞は、始めは増殖したが、14〜20日後に増殖を止めた。3日後、細胞は死に始めた。4HTを、7日後に再度加えた場合、細胞は生存し、後に増殖し続けた(図5)。これらの結果は、B細胞のCA-STAT5b誘導増殖は、B細胞を形質変換するCA-STAT5bにより誘導された不可逆的遺伝子変化の結果ではなくて、CA-STAT5bの継続的機能発現にのみ依存することを示している。
【0067】
CD40L、IL-2、IL-4および4HT中で培養された前記CA-STAT5bER形質導入B細胞は、45%カッパおよび40%ラムダ鎖発現である低レベルの細胞表面IgMを発現し、それらが、ポリクローナルであることを示している(図6)。前記細胞は、細胞表面IgDに陰性であり、低パーセンテージ(1〜2%)のIgGを発現し、IgMを欠いた。さらにこれらは、CD38、CD40、CD70、CD80およびHLA-DRを発現するが、CD20に関しては弱い陽性であり、CD27に関しては陰性である。CD25は、これらの細胞に高く発現し(図8)、STAT5bが、CD25(IL-2Rα)転写を直接制御するという事実と一致する[John、1996年; John、S.、Robbins、C. M.、およびLeonard、W. J.(1996)]。ヒトIL-2受容体アルファ鎖プロモーターにおけるIL-2応答要素は、Stat5、Elf-1、HMG-I(Y)およびGATA族蛋白質と結合する複合体要素である。Embo J 15、5627〜5635頁。John、S.、Vinkemeier、U.、Soldaini、E.、Darnell、J. E.、およびLeonard、W. J.(1999)。「The significance of tetramerization in promotor recruitement by Stat5」。Mol Cell Biol 19、1910〜1918頁; John、1999年]。
【0068】
CA-STAT5b-ERにより形質導入された扁桃B細胞の培養液が、IgM+B細胞を含み、IgG+B細胞を少数しか含まないという所見は、扁桃B細胞が主としてIgM+細胞であるという事実の結果であると考えられる。しかしながら、CA-STAT5bの発現が、IgM+B細胞の選択的所産に導くことも可能であった。したがって、本発明者は、IgG+細胞の増殖に対するこの変異体の効果を調べた。これらの実験に関して、本発明者は、成人の末梢血(PB)B細胞を用いた。本発明者は、精製PBB細胞を培養して、CASTAT5b-ER-IRES-GFPを形質導入した。次に形質導入B細胞を、IgM+細胞とIgG+細胞とに分離し、さらに、4HT存在下で35日間培養した。図7は、CASTAT5b-ER-IRES-GFPの発現は、IgMとIgGの双方とも陽性のB細胞の4HT依存増殖をもたらすことを明らかに示している。さらに、これら細胞の表現型の分析により、CD25、CD38、CD40、CD70、CD80、HLA-DR、CD20およびCD27の発現に関するIgG+細胞の表現型は、培養扁桃B細胞の表現型と同一であったこと(結果は示していない)が明らかにされた。
【0069】
CA-STAT5bERを形質導入したB細胞の抗体産生
扁桃B細胞培養は、CA-STAT5bER形質導入B細胞をCD40L、IL-2、IL-4および4HT
と共に培養することにより確立された。(CA-STAT5bER)を発現するΔNGFR+の選択後、4HTに依存する系列が確立された(前記段落を参照)。本発明者は、この系列がIgGを分泌しなかったが、いくらかのIgMが作られたことを認めた。また、細胞がIL-2およびIL-10に移され、3日間培養された場合、これらの細胞は、Igを作製しなかった。しかしながら、これらを最初に、CD40L、IL-2およびIL-4中、4HT無しで14日間培養した場合、細胞は、IL-2/IL10誘導のIg産生細胞への分化に対して許容的になった(700ng IgM ml/106細胞)。
【0070】
本発明者は、本発明の一例としてヒトB細胞を増殖し、クローン化する方法を記載した。STAT5aまたはbの構成的変異体の導入は、ヒトB細胞に劇的な複製寿命の延長を与える。興味深いことに、CA-STAT5形質導入B細胞は、やがてはサイトカイン依存様式で増殖する。これは、STAT5形質導入B細胞がLMP-1およびEBNA1/2陰性であることから、EBV形質変換によるものではない。さらにSTAT5形質導入B細胞は、CD20(全てのEBV形質変換B細胞に発現される)を欠いている。
【0071】
STAT5形質導入B細胞のサイトカイン依存性の基礎となる機構は、まだ知られていない。サイトカイン依存性に関する1つの可能性のある説明は、CA-STAT5の発現により、オートクリン増殖因子が産生されるというものである。これは、STAT5の直接の標的であるサイトカインである、IL-6様サイトカインオンコスタチンM(OSM)が存在することから、この可能性は低くはない。他の1つの可能性は、CA-STAT5それ自体が、細胞周期進行を継続的に誘導することである。CA-STAT5はまた、細胞死の増加を伴うB細胞の血漿細胞への最終分化を防止できる。この考えは、4HTの存在下で増殖したCA-STAT5bERにより形質導入されたB細胞が、4HTの除去後にのみ分化が容易となったという所見と一致する。
【0072】
CA-STAT5形質導入B細胞の表現型は、活性化CD19+CD20-(記憶)B細胞を連想させる。しかしながら、前記細胞は、記憶B細胞に通常に発現されるCD27に関して陰性であることを留意することが必要である。前記細胞は、血漿細胞には存在しないCD19およびCD40を依然として発現することから、これらは、血漿細胞段階に分化されていない。これはまた、構成的に機能性CA-STAT5bを発現するB細胞によるIgの産生が低くて変化しやすいことに対する説明となり得る。この課題を克服するために、本発明者は、誘導性CA-STAT5b(オンモードでB細胞をCA-STAT5bにより増殖させ、STAT5bのスイッチを切った後、B細胞の最終分化を誘導させた)を発現させることに成功した。4HTがCA-STAT5bER融合蛋白質を発現するB細胞の増殖を誘導するという所見により、B細胞の増殖がSTAT5b変異体の機能性核発現にのみ依存することを証明されるのみならず、4HTの除去により血漿細胞への最終分化を誘導する様式が提供される。実際、4HT中で培養すると、IgGまたはIgMを分泌しなかったあるB細胞培養液が、4HTの除去14日後に最終分化に対し許容的になった。この所見は、CA-STAT5bがB細胞の生存および増殖を促進する一方で、最終分化を抑制していることを強く示唆している。
【0073】
このように、本発明の一例として、最終分化が抑制された状態でB細胞を増殖し、クローン化できる方法が提供される。CA-STAT5のスイッチを切ることによって、一旦クローンが確立されれば、所望の特異性を有する抗体を産生するクローンをスクリーニングするために、Ig産生を誘導できるはずである。選択されたCA-STAT5ER形質導入B細胞のIg遺伝子を回収し、CHOまたは骨髄腫細胞系(Littleら、2000年)などの確立されている細胞系において、強力なプロモーターの制御下で発現させることができる。修飾CHO細胞がマウスIg遺伝子を発現させるために、すでに使用されており、また、IgトランスフェクションされたCHO細胞は、高レベルのモノクローナル抗体(10〜20μg/ml)を産生する。
【0074】
ヒト末梢血B細胞内へのBCL-6の異所性発現は、細胞の複製寿命の延長と細胞表面免疫グロブリンの維持をもたらす
幼児のヒト扁桃B細胞におけるBCL-6の異所性発現は、CD40L、IL-2およびIL-4で培養された場合のB細胞の増殖に有利になることが最近報告された。これらの細胞はCD19を発現し、CD3とCD56に関しては陰性であった。BCL-6が成人の末梢血B細胞の増殖能力にも影響を与えるかどうか調べるために、本発明者は、L細胞、IL-2およびIL-4を発現するCD40Lと共に培養したヒトB細胞内にBCL-6-IRES-GFPを導入した。BCL-6の発現は、末梢血B細胞の増殖を有利にし、BCL-6の形質導入の10日後からマーカーGFPを発現する。これらの細胞の表現型についての情報を得るために、本発明者は、一団のモノクローナル抗体によって、広範囲にわたる分析を行った。BCL-6を形質導入したB細胞はCD19を発現するが、T細胞およびNK細胞のマーカーであるCD3およびCD56に関しては陰性である。また、CD20を発現したBCL-6形質導入細胞は、CD38に関してごく弱い陽性であったが、記憶B細胞マーカーのCD27および血漿細胞マーカーのCD138に関しては陰性であった。さらに前記細胞は、活性化マーカーのHLA-DR、CD40およびCD70を発現し、CD80およびCD25に関して弱い陽性であった。重要なことに、BCL-6形質導入B細胞は、細胞表面Ig κ(カッパ)またはλ(ラムダ)を発現したが、これらの細胞の細胞表面Ig陰性血漿細胞への分化が抑制されている事実と一致する。
【0075】
これらのデータは、扁桃B細胞の初期のデータを確証しており、B細胞は、その分化が遮断された場合、CD40Lおよびサイトカイン類に応答してはるかに長期間増殖することを示している。
【0076】
BCL-6はCA-STAT5bによって調節される
BCL-6の1.5KBプロモーターの調査(Ohashi、1995年)により、2つのSTAT5コンセンサス部位の存在が明らかになったため、B細胞の増殖を促進させる因子がSTAT5を活性化し、それらがBCL-6発現を潜在的に制御していると考えられ、STAT5がBCL-6を調節している可能性が増大した。これを調べるため、本発明者は、IRES-(Δ)デルタNGFRの上流にCA-STAT5b-ERを有する組み換えウィルス構成物を用いた。ΔNGFRは、神経成長因子受容体の切断されたシグナリング無能変異体である(Bonini、1997年)。形質導入後、ΔNGFRが細胞表面上に発現され、モノクローナル抗体で検出できる(Bonini、1997年)。形質導入の際に、CASTAT-ER融合蛋白質は、熱ショック蛋白質により、不活性複合体として、形質導入された細胞の細胞質中に発現する。4-ヒドロキシ-タモキシフェン(4HT)と共に培養後、前記融合蛋白質が解離し、核へと輸送される。確かに抗ER抗体による4HTの不在下または存在下での形質導入ΔNGFR+B細胞の染色により、CASTAT5bは予想通り4HT依存的な様式で局在化することが示されている。ウェスタンブロット分析により、形質導入細胞内における予想されたMWの融合蛋白質の存在が確証された。
【0077】
次に本発明者は、4HTの不在下でCASTAT5b-ER形質導入扁桃B細胞を7日間培養し、その後4HTを加えた。前記細胞を24時間後に収穫し、RT-PCRによって、BCL-6の発現について試験した。BCL-6転写体の発現は、4HT無しの培養液中よりも、このホルモンを含む培養液中の方が実質的に高い。BCL-6がSTAT5bの直接的標的か間接的標的かを決定するために、蛋白質合成インヒビターのシクロヘキシミドを4HTと共に加えた。4HTとシクロヘキシミドの双方を加えた場合でもBCL-6 mRNAのアップレギュレーションが見られた。これらのデータは、BCL-6 mRNAの発現がSTAT5bによって直接的に制御されていることを示している。
【0078】
ヒトB細胞の増殖に及ぼすSTAT5の構成的活性変異体の効果
BCL-6が、B細胞においてSTAT5蛋白質に直接的であるという所見に促されて、本発明者らは、B細胞の生存、増殖および分化の調節において、STAT5がBCL-6と同様の機能を有しているかどうかを調査した。本発明者らは、ヒトB細胞の増殖に及ぼすSTAT5の野生型(WT)および構造的活性(CA)変異体の効果を試験した。扁桃CD19+B細胞を、材料と方法の項で示したとおり単離した。これらの細胞を、IL-2、IL-4およびCD40L(CD154)をトランスフェクションしたマウス線維芽細胞と共培養した。7日目に、前記細胞に、CA-STAT5a-IRES-GFP、CA-STAT5b-IRES-GFP、WT-STAT5b-IRES-GFPまたは対照のIRES-GFPを形質導入した。形質導入効率は、5%〜20%であった。各種培養液におけるGFP+細胞のパーセンテージはIL-2、IL-4およびCD40Lにおいて培養の始めの3週間変化しなかった。しかし、培養21〜25日目から、CA-STAT5aおよびCA-STAT5bを形質導入した培養液において、時間の経過につれてGFP+細胞のパーセンテージが増加した。6〜7週目に対照の形質導入B細胞および非形質導入B細胞は死滅し始めた。8週目でCA-STAT5b形質導入培養液のGFP+は95%より多く、増殖を続けた。WTSTAT5bを形質導入したB細胞は、生存はしたが、増殖しなかったことから、STAT5の活性化がB細胞の増殖には必要であることが示される。増殖したB細胞はCD19を発現したが、CD20を欠いていた。EBV形質変換B細胞はCD20を発現したことから、前記所見は、CA-STAT5形質導入細胞の複製寿命延長はEBV形質変換によるものではないことを強く示唆した。これは、感受性RT-PCRにより評価した際、CA-STAT5b形質導入B細胞が、LMP-1またはEBNA1/2 mRNAを発現しなかったという所見から確証された。重要なことに、CA-STAT5b形質導入B細胞は、いくつかのIg可変遺伝子セグメントを発現し、この系がモノクローナルでないことを示した。
【0079】
タモキシフェンによるCA-STAT5b発現誘導後のB細胞系の生成
CA-STAT5bがヒト扁桃B細胞の寿命を延長するという所見は、二次的事象によって生じ、前記細胞の形質変換をもたらす。この場合でも、STAT5bの遮断によってすでに形質変換したB細胞の増殖が影響されることはないはずである。このことを調べるために、本発明者は、CA-STAT5b-ER-IRES-ΔNGFR構成物を用いた。1μM 4HTの存在下または不在下、CD40L、IL-2およびIL-4において、CA-STAT5b-ERIRES-ΔNGFRを形質導入した扁桃B細胞の培養後、CA-STAT5b発現細胞(ΔNGFR+)増殖の選択は、4HTの存在下でのみ生じた。重要なことに、4HTを除去すると、B細胞の増殖は終止し、その結果死滅した。CD40L、IL-2およびIL-4と共に培養し、4HTの不在下で培養した形質導入B細胞は、最初増殖したが、増殖を止め、その後、7〜20日後に死滅した。7日後、再び4HTを加えると、前記細胞は生存し、その後、増殖を続けた。これらの結果は、CA-STAT5bに誘導された扁桃B細胞の増殖は、B細胞を形質変換するCA-STAT5bによって誘導された非可逆的遺伝子変化の結果ではなく、CA-STAT5bの機能的発現の継続にのみ依存することを示している。CA-STAT5b-ERを形質導入し、CD40L、IL-2、IL-4および4HTと共に培養された扁桃B細胞は、45%κ鎖発現および40%λ鎖発現を有する低レベルの細胞表面IgMを発現し、それらがポリクローナルであることを示している。前記細胞は、細胞表面IgDに関して陰性であり、IgG発現のパーセンテージは低く(1〜2%)、IgMを欠いていた。さらに、それらは、CD38、CD40、CD70、CD80およびHLA-DRを発現するが、CD20に関しては弱い陽性であり、CD27に関しては陰性である。これらの細胞において、CD25の発現は高く、STAT5bがCD25(IL-2Rα)転写を直接的に制御しているという事実(John、1996年; John、1999年)と一致する。
【0080】
CA-STAT5b-ERを形質導入された扁桃B細胞の培養液が、IgM+B細胞を含有し、IgG+B細胞は少数しか含有していないという知見は、扁桃B細胞が主に、IgM+細胞であるということの結果であると考えられる。しかし、CA-STAT5bの発現がIgM+B細胞の選択的結果を導く可能性もあった。したがって、本発明者は、IgG+細胞の増殖に及ぼすこの変異体の効果を検討した。これらの実験に本発明者は、成人の末梢血B細胞を用いていた。本発明者は、精製PBB細胞を培養し、それらにCASTAT5b-ER-IRES-GFPを形質導入した。次に形質導入したB細胞をIgM+細胞およびIgG+細胞に分離し、4HTの存在下、さらに35日間培養した。CASTAT5b-ER-IRES-GFPの発現により、IgMとIgG双方とも陽性であるB細胞の4HT依存性増殖が生じる。さらに、これらの細胞の表現型の分析により、CD25、CD38、CD40、CD70、CD80、HLA-DR、CD20およびCD27の発現に関して、IgG+細胞の表現型は、培養した扁桃B細胞の表現型と同じであることが明らかとなった。
[参考文献]










【特許請求の範囲】
【請求項1】
興味のある細胞を得る工程、構成的に活性なSTAT(signal transducer of activation and transcription)(CA-STAT)蛋白質を細胞に導入する工程、および複製できる環境中に前記細胞を維持する工程を含む細胞系を安定化させる方法。
【請求項2】
前記STAT蛋白質が、STAT5、STAT5a、STAT5bである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、哺乳類細胞である請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、B細胞、T細胞、樹状細胞、抗原提示細胞(APC)またはナチュラルキラー(NK)細胞である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
環境が、IL-2、CD40LおよびIL-4のいずれか1つ以上を含む請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記CA-STAT蛋白質が、形質導入により細胞に導入される請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記CA-STAT蛋白質が、不活化剤に結合されている請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記不活化剤が、誘導性プロモーター/切除系、アンチセンス核酸、または結合蛋白質である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記誘導性プロモーター/切除系が、クレロックス(cre-lox)またはFLP/FRT切除系である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アンチセンス核酸が、RNAiである請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記結合蛋白質が、CA-STATと融合蛋白質を形成し、環境の変化により不活化され得る請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記結合蛋白質が、受容体分子である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記結合蛋白質が、エストロゲン受容体である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
細胞系の細胞の複製を休止させ、それによって最終分化を引き起こす工程をさらに含む請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
最終分化細胞からの発現生成物を抽出する工程をさらに含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記発現生成物が、核酸分子である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記発現生成物が、蛋白質である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記発現生成物を含む製薬組成物を製造することをさらに含む請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
興味のある細胞を含む細胞系を生成する方法であって、
(a)興味のある前記細胞を得る工程、
(b)不活化剤と結合しているSTAT蛋白質を前記細胞に組入れる工程、
(c)前記不活化剤のスイッチを切り、それによってSTATを活性化させることにより前記細胞を複製させる工程、および
(d)前記生成した細胞系を維持する工程
を含む方法。
【請求項20】
(e)場合によっては、前記細胞系の細胞をクローン化すること、
(f)前記不活化剤のスイッチを入れることにより前記細胞の最終分化を誘導し、それによってSTAT蛋白質を不活化させること、
(g)所望の発現生成物を最終分化細胞から抽出すること、
をさらに含む請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記発現生成物が、遺伝子である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(h)検証された細胞系において前記遺伝子を発現させること、
(i)前記抽出蛋白質を精製すること、
(j)前記蛋白質またはそれをコードする核酸を含む製薬組成物を製造すること
をさらに含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞が、抗体産生ヒトB細胞である請求項19から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記発現生成物が、Ig遺伝子である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記STAT蛋白質が、STAT5である請求項19から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
STAT5が、STAT5aまたはSTAT5bである請求項25に記載の方法。
【請求項27】
細胞系を生成するように細胞を形質転換させるための核酸構成物であって、核酸の発現が、前記STAT5および不活化剤を含む融合蛋白質を生成するように、構成的に活性なSTAT5蛋白質をコードする核酸配列および不活化剤を含む核酸構成物。
【請求項28】
前記STAT5蛋白質が、STAT5aまたはSTAT5bである請求項27に記載の核酸構成物。
【請求項29】
前記不活化剤が、エストロゲン受容体(ER)である請求項27または請求項28に記載の核酸構成物。
【請求項30】
CA-STAT5b-ERである請求項27から29のいずれか一項に記載の核酸構成物。
【請求項31】
興味のある細胞を含む細胞系を生成するキットであって、請求項27から30のいずれか一項に記載の核酸構成物を含むキット。
【請求項32】
前記不活化剤からSTAT5を解離できる解離剤をさらに含む請求項31に記載のキット。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−235795(P2012−235795A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−198276(P2012−198276)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【分割の表示】特願2009−48001(P2009−48001)の分割
【原出願日】平成14年12月18日(2002.12.18)
【出願人】(598176569)キャンサー・リサーチ・テクノロジー・リミテッド (57)
【氏名又は名称原語表記】CANCER RESEARCH TECHNOLOGY LIMITED
【Fターム(参考)】