説明

細胞親和性の高い材料

【課題】有機溶媒や熱に安定であり、細胞との親和性が高く、生体内外で細胞の付着性や増殖性を向上させることが可能な高分子材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】高分子とピロロキノリンキノン類とを有機溶媒中混合又は熱溶融混合することにより、生体内外で細胞の付着性や増殖性を向上させることができる高分子材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養又は組織再生用の材料に関する。
【背景技術】
【0002】
動物細胞の培養(細胞培養とよく言われる)は基礎医学、生物学上重要であり、その増殖を上げる材料を提供することが求められている。また、同様に再生医療をはじめとする医療用材料として細胞を付着させる材料設計が重要である。高分子材料は多くの種類があり、また材料設計の自由度も非常に高い。
そのため、培養容器に使用されることが多い。この際に細胞との親和性、特に付着性を上げるために、ゼラチン、コラーゲン、フィブロネクチンが容器表面にコーティングされ使用されている。しかし、このようなタンパクやペプチド等の物質は熱や有機溶媒に弱く、後処理として表面にコートしなければならない。そのため、その生産性は低い。また、こういった材料は細胞種による影響も強く、多様な細胞において有効ではない。そのため、有機溶媒や熱に安定で、高分子材料に混和でき細胞の付着性や増殖性を上げる物質が求められている。
【0003】
ピロロキノリンキノン(以下、PQQと記す)は新しいビタミンの可能性があることが提案されて注目を集めている。PQQは細菌に限らず、真核生物のカビ、酵母に存在し、補酵素として重要な働きを行っている。このPQQについて近年までに培地に添加することで細胞の増殖促進作用が報告されている(非特許文献1)。しかし、これまでに高分子材料とPQQを混合し、細胞増殖に関して調べた例はない。また、これまでにPQQを口腔用組成物として亜塩素酸イオンによる殺菌成分に伴う活性成分として使用し、ポリ乳酸等が使用できると記載されているが(特許文献1,2,3)、この組成物では細胞は培養することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−501944号公報
【特許文献2】特表2004−517038号公報
【特許文献3】特表2004−501942号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Int. J. Molecular Med., vol 19, 765-770 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、有機溶剤や熱に安定であり、細胞との親和性が高く、生体内外で細胞の付着性や増殖性を向上させることが可能な高分子材料とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、以下に示す項目によって解決できることを見出した。
(1)高分子とピロロキノリンキノンのフリー体、エステル体及び塩から選ばれる1種以上を含む細胞増殖用又は細胞付着用材料。
(2)ピロロキノリンキノンの塩がアルカリ土類金属塩又はアルカリ金属塩であることを特徴とする(1)に記載の材料。
(3)高分子が熱可塑性ポリマーであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の材料。
(4)熱可塑性ポリマーがポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、フッ素系高分子、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる一種以上であることを特徴とする(3)記載の材料。
(5)ピロロキノリンキノンのフリー体、エステル体及び塩から選ばれる1種以上が高分子に対し0.0001から0.2重量%含まれることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の材料。
(6)高分子とピロロキノリンキノンのフリー体、エステル体及び塩から選ばれる1種以上を、有機溶媒中混合又は熱溶融混合して得られたものであることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の材料。
(7)(1)から(6)のいずれかに記載の材料を用いた細胞培養用器具。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、有機溶剤や熱に安定であり、生体内外で細胞の付着性や増殖性を向上させる高分子材料を簡単に提供することを可能とする。これにより、細胞培養用の容器や再生医療用材料を安価に効率良く提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のピロロキノリンキノン類とは、フリー体、エステル体及び塩から選ばれる1種以上を示し、一般式(1)又は(2)で表される構造である。
【化1】


R1, R2, R3は、それぞれHまたはCが1から4のアルキル基である。

【化2】


n=1,2,3、M=Na, K, Li, Rb, Cs, Ca, Mg、m=1,2,3である。
【0010】
本発明で使用するPQQ類は、有機化学的方法または発酵法、例えばメタノール資化性を有し、かつPQQ類を生産する能力を有する細菌を、炭素源としてメタノールを含有し鉄化合物の濃度を制御した培養液中で培養することによりPQQ類を製造することが可能である。
【0011】
PQQのエステル体は、PQQより常法のエステル化反応に従って合成することができる。PQQのトリエステル体は、例えば、PQQ又はその塩を酸性条件下でアルコール類と反応させる方法(特開平3−123781号公報、特開平3−145492号公報)や、PQQまたはその塩を塩基の存在下でハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、ハロゲン化アルキルアリール、ハロゲン化アルケニル、ハロゲン化アルキニル等と反応させる方法などにより合成することができる。また、上記方法によって得られるPQQのトリエステル体を酸性または塩基性条件下で部分加水分解することで、モノエステル体、ジエステル体を得ることができる。
【0012】
PQQの塩としては、例えば、アルカリ土類金属塩、アルカリ金属塩、有機アミン塩、塩基性アミノ酸が挙げられる。アルカリ土類金属塩の例としては、マグネシウム塩、カルシウム塩等、アルカリ金属塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が、有機アミン塩の例としては、アンモニウム、トリエタノールアミン、トリメチルアミン等が、塩基性アミノ酸塩の例としては、リジン、アルギニン等が挙げられる。
【0013】
製造が容易であることからPQQのフリー体、ナトリウム塩、カリウム塩が使用しやすく、より好ましくはジナトリウム塩である。
【0014】
PQQ類は、カラムクロマトグラフィー、再結晶法、または溶媒抽出法などの方法により、反応液中から分離、精製することができる。同定には、元素分析、NMRスペクトル、IRスペクトル、質量分析などの各種手段が用いられる。
【0015】
PQQ類と組み合わせる高分子としては、例えば、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、生体ポリマーなどがあげられるが、成形性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。熱可塑性ポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、フッ素系高分子、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる一種であることが好ましい。
例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン6、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリグリコール酸及びこれらの共重合体が挙げられる。より好ましくはポリ乳酸、ポリメタクリル酸メチル―スチレン共重合体、ポリスチレンである。
【0016】
高分子には粒子、難燃剤、帯電防止剤、イオン性物質等の添加物を含有させていても良い。また、高分子の性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていても良い。
【0017】
PQQ類は、高分子に対して0.0001から0.2重量%含まれることが好ましい。これ以上低い場合の効果は十分でなく、また多い場合は着色や増殖阻害が起こる。より好ましくは、0.001から0.1重量%である。
【0018】
本発明の材料は、高分子とPQQ類とを有機溶媒中混合又は熱溶融混合によって製造することができる。
【0019】
具体的に有機溶媒を使用する製造方法を記載する。
高分子を溶解するのは比較的沸点の低い溶媒がよい。例えば、クロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メタノール、エタノール、ジメチルスホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の一般的な溶媒を使用することができる。
ここに、粉末又は溶媒に懸濁又は溶解したPQQ類を添加し混合する。溶媒を減圧若しくは加熱することで除去し、高分子とPQQ類の混合物を作ることができる。
この時、PQQ類はマクロ的に均一であればよく、ミクロスケールで不均一でも問題がない。溶融混合の場合、高分子材料は加熱溶融し、ここにPQQ類を同様に混合すればよい。
【0020】
本発明の材料は、細胞増殖用又は細胞付着用として使用される材料であり、生体内外で細胞あるいは細胞が集合した組織、あるいは臓器、細胞を含むような血液や体液などに接するような部分に使用する材料全般を言う。
具体的には、生体内外で細胞や組織及び移植組織、移植臓器を培養、形成するための容器やバックやカラムなどの細胞培養用足場材料、人工心臓、人工角膜などの人工臓器や人工組織として使用する材料、縫合糸や骨折接合用のテンプレートなどの手術、施術に使用する道具や器具の一部あるいは全部に使用する材料、シリンジ、カテーテル、創傷保護材などの疾患や創傷などを治癒するために使用する医療用用具の一部あるいは全部に使用する材料などがあげられる。
また、医療用の材料として使用することにより細胞の増殖、活性化、分化誘導、定着あるいは組織や臓器の修復、接着、生着、形状形成に対しても有効である。
【0021】
本発明は使用用途に応じて様々な前処理を行うことが可能である。前処理の例としては、加熱処理、酸やアルカリによる加水分解処理、熱水処理、グロー放電処理、電子線処理、加圧滅菌処理、ガス処理、蒸気処理、火炎処理、コーティング処理、グラフト重合処理、延伸処理などがあげられるがこれらに限定されない。
【0022】
ポリマーを用いたコーティング処理において使用されるポリマーとして例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリアリルアミンなどのカチオン性ポリマー、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などアニオン性ポリマーといったイオン性ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースなどの親水性ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラートなどの疎水性ポリマー、コラーゲン、フィブロネクチン、細胞外マトリックス、キチン、キトサン等が挙げられるがこれらに限定されない。
機能性薬剤の担持方法にも特に制限はなく、例えば、溶液中での吸着処理やコーティング等により担持させることができる。
【0023】
細胞付着、細胞増殖及び細胞機能にとって有効なタンパク質としてサイトカインがあげられる。サイトカインとは極微量で細胞表面の特異的レセプターを介して生理活性を示すタンパクの指し、免疫の調節や炎症反応の調節、ウィルス感染細胞や腫瘍細胞の障害や死、細胞の増殖や分化を担うタンパクの総称を指す。
【0024】
サイトカインにはインターロイキン、増殖因子、ケモカイン、腫瘍壊死因子、インターフェロンなどが含まれる。
具体的にはインシュリン、IGF(インシュリン様成長因子)−I、IGF−II、EGF(上皮成長因子)、TGF(トランスフォーミング成長因子)−α、TGF−β1、TGF−β2、FGF(繊維芽細胞成長因子)−1、FGF−2、FGF−3、FGF−4、FGF−5、FGF−6、FGF−7、FGF−8、FGF−9、FGF−10、FGF−11、FGF−12、FGF−13、FGF−14、FGF−15、FGF−16、FGF−17、FGF−18、FGF−19、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)−A、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、NGF(神経成長因子)、IL(インターロイキン)−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18、GM−CSF、G−CSF,M−CSF、SCF(幹細胞因子)、FL(flt−3リガンド)、EPO(エリスロポエチン)、TPO(トロンボポエチン)、OSM、LIF、アクチビン、インヒビン、BMP(骨形成タンパク質)、PDGF、HGF、TNF(腫瘍壊死因子)−α、TNF−β、Fas−L(Fasリガンド)、CD40リガンド、MIP、MCP、IFN(インターフェロン)α、IFNβ、IFNγ、GDNF等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
サイトカイン以外にも細胞に影響を及ぼすタンパクとしてノッチリガンド(デルタ1〜3、ジャギド/セレート1,2)、あるいは抗CD3抗体や抗CD28抗体などの刺激抗体あるいはT細胞レセプター(TCR)、Wnt分泌蛋白、Tieレセプター等が挙げられこれらも使用できる。
【0026】
更に、サイトカイン以外に細胞培養、組織再生に有効なタンパク質として細胞外マトリックス、接着因子とよばれる細胞の接着にかかわるタンパクがあり、細胞吸着、細胞培養及び組織再生の点から有効である。
細胞外マトリックスとは細胞が合成し、細胞外に分泌・蓄積した生体高分子の複雑な会合体を指す。すなわち、細胞周辺に沈着した組織の構造支持体に該当し、細胞接着や細胞骨格の配向、細胞の形、細胞移動、細胞増殖、細胞内代謝、細胞分化を細胞から調整する。このような物質として例えば、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、グリコサミノグリカン(ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸など)、ヘパリン、キチン、キトサンなどがあげられる。
また、接着因子とは細胞表面に存在し細胞−細胞間および細胞−細胞外マトリックスの接着に関わる因子を指し、細胞−細胞間接着に関わる因子としてカドヘリンファミリー、Igスーパーファミリー、セレクチンファミリー、シアロムチンファミリーなどがあげられ、細胞−細胞外マトリックス間の結合に関わる因子としてインテグリンファミリーがあげられる。また人工的に合成されたペプチドや細胞外マトリックス、遺伝子組み換えタンパク質として三洋化成工業製“プロネクチンF”、“プロネクチンL”、宝酒造製”レトロネクチン”などがあげられる。
【0027】
本発明の材料は、例えば、
生体内外での造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系肝細胞、中胚葉系幹細胞、ES細胞、免疫系細胞、血球系細胞、神経細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞、上皮細胞、肝細胞、膵β細胞、心筋細胞、骨髄細胞、羊膜細胞、臍帯血細胞又はNIH3T3細胞、Hela細胞、COS細胞、HEK細胞、L929細胞、Daudi細胞、Jurkat細胞、KG−1a細胞、CTLL−2細胞などの株化細胞又は抗体産生細胞である各種ハイブリドーマ細胞株などの細胞培養に使用する足場材料用の成型体の一部若しくは全部;
細胞培養用のバッグの一部又は全部;
神経、心臓、血管、軟骨、皮膚、角膜、腎臓、肝臓、毛髪、心筋、筋肉、腱などの組織再生及び移植用組織形成に使用する足場材料用の成型体の一部又は全部;
動脈瘤コイル、塞栓物質、人工神経、人工粘膜、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、人工胸壁、人工心膜、人工心筋、人工横隔膜、人工腹膜、人工靱帯、人工腱、人工角膜、人工皮膚、人工関節、人工関節、人工軟骨、歯科材料、眼内レンズなどの生体内埋め込み用医療成型体の一部又は全部;
外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、骨折接合材、カテーテル、シリンジ、輸液・血液バッグ、血液フィルター、体外循環用材料などの医療行為に使用する成型体の一部又は全部;
その他コンタクトレンズ、眼内レンズなどの材料又は成型体の一部若しくは全部として使用することができる。
【0028】
本発明の材料を成型体とし培養の足場として細胞培養および組織培養を行う場合、培地としてはMEM培地、DMEM培地、αMEM培地,WE培地、F12培地、RPMI1640培地、L−15培地、MCDB153培地、BME培地、IMEM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、StemSpan培地、StemPro培地、HybridomaSFM培地、及びこれらの混合物などが細胞培養用の培養液としてあげられるが、これらに限定されない。
【0029】
これら培養液中にウシ血清、ウシ胎児血清、ウマ血清、ヒト血清などの血清、血漿成分あるいはインターロイキン、インターフェロン、インシュリン、トランスフェリン、セレン、メルカプトエタノールなどのサイトカインや添加物を添加しても良い。培養を行う際には、5%COインキュベーター内又は気体透過性バッグ内等で培養できる。
【0030】
本発明は、細部培養や組織培養を検討するための細胞培養、組織培養用器具に使用することが出来る。より具体的には、細胞培養用容器、フラスコ、シャーレ、ウェル、プレート、多穴ウェル、多穴プレート、スライド、フィルム、バック、カラム、タンク、ボトル、中空糸、不織布等として使用される形状の基材上に使用することも可能である。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例及び比較例を以って本発明をさらに詳しく示すが、これらの例のみに本発明は限定されない。
実施例1−3、比較例1,2
ポリ乳酸−PQQジナトリウムフィルムの作製
和光純薬製ポリDL−乳酸(Mw6000−16000)を使用した。三菱ガス化学製PQQジナトリウムを使用した。
ポリ乳酸3重量%の塩化メチレン溶液10gをガラス製9cmシャーレに加える。そこへPQQジナトリウムを高分子に対し表1に示す各種PQQ濃度になるように所定量加えたジメチルスルホキシドを200μl混合する。室温で溶媒を蒸発させた後、70℃で減圧乾燥を12時間以上行った。
【0032】
培養動物細胞を使った細胞親和性試験
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−DHFR)を上記のシャーレに7×10個加えた。α−MEM+10%牛胎児血清の培地10ml加え、5%CO, 37℃で3日間培養した。培地を抜き、リン酸バッファーで洗い、浮遊している細胞を除去した。その後、トリプシンを使用して、付着している細胞をはがし、細胞数を数えた。その結果を表1に示す。
【表1】

*PQQ濃度=PQQジナトリウム重量/高分子
【0033】
表1より、PQQを含有させると付着する細胞数は増加していたことが分かる。PQQは細胞の増殖を促進し、付着性を増加させていた。しかし、大量に含有させると増殖、付着性が減少していた。また、PQQを含有するポリマーの作製には有機溶媒を使用し、加熱処理も行っており、このような処理を通じても細胞増殖や付着性に有効に働いており、加工しやすい組成物であることが分かる。
【0034】
実施例4,5、比較例3
ポリメタクリル酸メチル−スチレン(6:4)共重合体−PQQフィルムの作製
原料PQQフリー体はPQQジナトリウムを水に溶解した後、攪拌しながら塩酸を加えてpHを1以下にした。ここで赤色の固体が析出するのでこれをろ過し、水洗いし、減圧乾燥してフリー体を得た。
ポリメタクリル酸メチル−スチレン(6:4)共重合体15重量%のイソラク酸メチル溶液8gをガラス製9cmシャーレに加える。そこへPQQフリー体を高分子に対して表2に示す各種PQQ濃度になるようにメタノール溶液として所定量加えた。室温で蒸発させた後、酢酸エチルを加え、再度蒸発させ平坦化した。70℃で減圧乾燥を12時間以上行った。
【0035】
培養動物細胞を使った細胞親和性試験
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−DHFR)を上記のシャーレに40×10個加えた。α−MEM+10%牛胎児血清の培地10ml加え、5%CO, 37℃で2日間培養した。培地を抜き、リン酸バッファーで洗い、浮遊している細胞を除去した。その後、トリプシンを使用して、付着している細胞をはがし、細胞数を数えた。
その結果を表2に示す。
【表2】

*PQQ濃度=PQQフリー体重量/高分子
生分解性のない合成ポリマーにおいてもPQQ濃度0.012−0.12mg/gの広い濃度範囲で添加しない場合よりも多くの細胞が付着しており、細胞親和性が高いことがわかる。
【0036】
実施例6,7、比較例4
ポリスチレン−PQQフィルムの作製
アルドリッチ社製ポリスチレン5gを酢酸エチルに溶解させて10%溶液を作った。この溶液10gをガラス製9cmシャーレに加える。PQQジナトリウムを高分子に対して表3に示す各種PQQ濃度になるようにメタノール溶液として所定量加えた。室温で蒸発させた後、60℃で減圧乾燥を6時間以上行った。
【0037】
培養動物細胞を使った細胞親和性試験
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−DHFR)を上記のシャーレに20×10個加えた。α‐MEM+10%牛胎児血清の培地10ml加え、5%CO, 37℃で2日間培養した。培地を抜き、リン酸バッファーで洗い、浮遊している細胞を除去した。その後、トリプシンを使用して、付着している細胞をはがし、細胞数を数えた。結果を表3に示す。
【表3】

*PQQ濃度=PQQジナトリウム重量/高分子
幅広く使用されている熱可塑性のポリスチレンにおいてもPQQを混合することで細胞の親和性は上昇していた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、医療用、医薬部外品、食品、機能性食品、飼料として幅広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子とピロロキノリンキノンのフリー体、エステル体及び塩から選ばれる1種以上を含む細胞増殖用又は細胞付着用材料。
【請求項2】
ピロロキノリンキノンの塩がアルカリ土類金属塩又はアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の材料。
【請求項3】
高分子が熱可塑性ポリマーであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の材料。
【請求項4】
熱可塑性ポリマーがポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、フッ素系高分子、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項3記載の材料。
【請求項5】
ピロロキノリンキノンのフリー体、エステル体及び塩から選ばれる1種以上が高分子に対し0.0001から0.2重量%含まれることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の材料。
【請求項6】
高分子とピロロキノリンキノンのフリー体、エステル体及び塩から選ばれる1種以上を、有機溶媒中混合又は熱溶融混合して得られたものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の材料を用いた細胞培養用器具。

【公開番号】特開2012−147724(P2012−147724A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8832(P2011−8832)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】