説明

細胞調製管理方法及びそのための資材キット

【課題】 原材料を迅速かつ的確にミスなく管理し、生体に与える危険を未然に回避する細胞調製管理方法及びそのための資材キットを提供する。
【解決手段】 検体に関連付けられた生物由来の原料と資材とを含む原材料を用いて無菌操作区域で細胞調製する際に、事前に準備した資材キットに封入された複数の資材の各々の識別情報と関連付けられた資材キットのキット識別情報を、資材キットに装着された無線通信装置に予め担持させ、原料識別情報、キット識別情報などの識別情報の各々と関連付けた細胞調製指示情報を情報処理装置に予め格納し、無線読取装置がキット識別情報を読み取り、情報処理装置が、読み取られたキット識別情報と細胞調製指示情報に関連付けられた対応するキット識別情報とを照合し、両者が一致した場合に、資材キットが無菌操作区域に搬入されるようにした細胞調製管理方法及びそのための資材キットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト又は動物等の固有の検体に関連付けられた細胞や培地などの生物由来の原料と、新規のディッシュや遠沈管などの容器や薬品などの資材とを含む原材料を用いて、安全キャビネットなどの無菌操作区域で細胞調製する際に、事前に新規のディッシュや遠沈管などの複数の資材を封入した資材キットを準備し、安全キャビネットなどに搬入し、開封し、取り出した新規の複数の資材を準備して細胞調製するようにした細胞調製管理方法及びそのための資材キットに関する。
【0002】
より具体的には、固有の検体に関連付けられた細胞や培地などの生物由来の原料と、新規のディッシュや遠沈管などの容器や薬品などの資材とを含む原材料を用いて、安全キャビネットなどで細胞調製する際に、新規のディッシュや遠沈管などの複数の容器などを封入した資材キットを事前に準備し、資材キットに封入された新規の複数の容器などの資材の各々に装着されたICタグに担持させた固有識別情報の各々と関連付けられたキット識別情報が、予め資材キットに装着されたICタグに担持され、事前に準備された資材キットに予め担持されたキット識別情報が、リーダなどの無線読取装置により読み取られ、当該リーダなどの無線読取装置に通信可能に接続したコンピュータによって機能させられる情報処理装置は、前記読み取られたキット識別情報と、該情報処理装置に予め格納された原料を識別する原料識別情報、細胞調製工程を識別する工程識別情報、資材を識別する資材識別情報などの識別情報の各々と共に少なくとも関連付けた細胞調製指示情報に関連付けられた対応する前記キット識別情報とを照合し、両者が一致したか否かを照合情報として出力し、次に、細胞調製する操作者は、出力された前記照合情報が一致を示す照合情報であることを確認した場合に、資材キットを安全キャビネットなどの無菌操作区域に搬入し、開封し、取り出し、新規の複数の資材として準備し、細胞調製するようにした細胞調製管理方法及びそのための資材キットに関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年の治療医学において、生体から採取した細胞を培養して、失われた生体の組織を再生する医療、いわゆる再生医療の研究が盛んに行われている。それにともない少なくとも1つの検体に関連付けられた細胞を、例えば治療に必要な細胞量にまで培養するには、継代等の細胞調製による容器の入替えなどを含む少なくとも数度の細胞調製作業が行われ、場合によっては、図10や図11にみるように、数百又はそれ以上に上る容器や多種類の複数薬剤などの資材が用いられる。その際に、細胞調製の効率化は当然として、例えば容器や室間の交差汚染を排除し、ヒューマンエラーを防止するなど、厳格な作業手順が要求されることはいうまでもない(例えば、特許文献1を参照)。また、細胞調整後の細胞培養により必要な細胞量にする工程は、工業品や食品を製造する場合と異なり、管理面からも細胞毎の履歴が常に厳密に扱わなければならない(例えば非特許文献1を参照)。そのため、培地交換、遠心分離、継代などの細胞調製は、通常、治験薬GMP(Good Manufacturing Practice)基準に準拠した施設において、SOP(Standard Operating Procedure)といわれる標準作業手順書に則って行うことが推奨されている(例えば非特許文献2を参照)。
【0004】
特許文献1には、細胞培養において一定量の細胞数まで増殖させるには、通常、細胞の継代培養を行う必要があり、そうした継代培養を行う場合、容器内の培地の交換や、継代培養のための新しい培地への細胞の再播種などといった煩雑な細胞調製が手作業により行われることが、記載されている。また、これらの継代培養にともなう細胞調製は、複数容器間や室間の交差汚染などの発生を抑制するため、場合によっては熟練作業者によって行われる必要があり、そうした作業性を向上するために培養する容器にバーコードなどの識別情報を備え、それを読み取りながら培養する容器を管理する装置が、記載されている。
【0005】
非特許文献1には、個々の検体に関連付けられた細胞の成長は不均一であり、成長次第では、製造工程中に複数グループ分けのための容器入替えや培養工程をモニタリングし、場合によっては、製造工程と前後させるなどの、いわゆる逸脱工程を含んだ非流れ作業的工程を含むことが、記載されている。
【0006】
非特許文献2には、このような事例の場合、「ハード(細胞処理施設)は当然治験薬GMPに基づき計画、設計、建設され、同時にバリデーションが実施されるが、ソフト(製造管理および品質管理)についてはSOPを作成することも義務付けられる」ことが、記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−16194号公報
【特許文献2】特許第3706128号明細書
【特許文献3】特開2004−262617号公報
【非特許文献1】「ヒト組織培養の不均一性を考慮した速度論的評価とバイオプロセス設計」阪大院・基礎工○(正)紀ノ岡正博・(正)田谷正仁(2003年8月12日 化学工学会 秋季大会 研究発表講演要旨)
【非特許文献2】『空調設備とプラントシステム』(no.11 日立プラント技術公報誌 2005.December)10〜11頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、細胞調製工程のほとんど全てが、無菌操作区域が形成されたバイオハザード対策用安全キャビネットや細胞調製用の作業台などで、必要な手順に則って厳密に各作業段階を踏みながら実施される。このため、少なくとも数工程からなる細胞調製においては、1工程毎に必要な原料や資材などの原材料を無菌操作区域に持ち込んで細胞調製を行い、原材料を細胞調整後に保管する有用物と廃棄物とに振り分け、例えば、有用物を冷凍保存するような場合であれば、冷凍庫が配された保管室などのエリアに有用物が搬出される。一方、使い捨ての廃棄物は、例えば、無菌操作区域の近傍に配置された廃棄室に搬出されることになる。そして、再び必要な原材料が無菌操作区域に持ち込まれ、次の工程が繰り返される。
【0009】
そのため、少なくとも数工程からなる細胞調製において、無菌操作区域に繰り返し持ち込まれる新規のディッシュや遠沈管などの容器や薬品などの資材を含む原材料の種類と数量だけでも、膨大な数に達する。また、細胞調製に用いられる容器などの新規の複数資材は、交差汚染防止の観点から使い捨てのものが多く、そうした廃棄資材の種類や数量も膨大な数に上る。その結果、1つの細胞調製に多大な時間をかけることになり、また、新規資材と廃棄物資材とを混同使用するような危険も全くないわけではない。そこで、新規のディッシュや遠沈管などの複数資材を一括して資材キットに封入し、これを無菌操作区域に持ち込み、そこで開封し、取り出して用いるようにすることによって、1つ1つの細胞調製を速やかに完了させ、新規の資材と使用済みの資材とを過たずに作業することができるシステムが求められてきた。
【0010】
特許文献2には、例えば、一人のドナー患者から未分化の状態で数ccの骨髄を採取し、そこに含まれる10〜10程度の間葉系幹細胞数を10〜10程度の細胞数にまで増殖させ、ドナー患者に投与して治療する再生医療技術が、記載されている。図10及び図11は、こうした再生医療に用いられる、ドナー患者に投与される本人由来の細胞の細胞培養に必要なディッシュや遠沈管などの資材を含む原材料の典型的物量例を示した図である。培養により細胞増殖する際に用いられる自己血清のための末梢血を用いて培地を作成する工程を含めると、1人当たりに必要とされる物量は、例えば新規のディッシュだけで300枚又はそれ以上、遠沈管で250本程度であり、半端な物量ではない。
【0011】
特許文献1に記載の装置は、初代培養及び継代培養される細胞に関連付けられた培養手順や条件などを確認することにより取り違えや交差汚染防止の最低限のニーズに対応することができるが、上述したような膨大な物量の各種資材を的確にミスなく管理することを想定したものではなく、管理できる物量に限界があり、1つ1つの細胞調製にも時間がかかることは明らかである。さらに、これほどの物量を扱うことになると、細胞調製に時間がかかるだけでなく、細胞調製後に原材料を有用物と廃棄物とに振り分ける作業も繁雑を極め、有用物と廃棄物の取り違えミスが発生しやすい状態になり、時に、使い捨て資材が有用物と判断され再使用されることによって、あってはならない交差汚染事故などを招く恐れも出てくる。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、無菌操作区域の細胞調製で取り扱われる膨大な数の新規な容器などの資材を細胞調製に必要な複数の資材からなる資材キットとし、複数の資材の各々の固有識別情報と資材キットのキット識別情報とを関連付け、薬剤などの資材と共に原材料として用いることによって、原材料を迅速かつ的確にミスなく管理し、生体に与える危険を未然に回避する細胞調製管理方法及びそのための資材キットを提供することを目的とする。
【0013】
ところで、特許文献3には、大量物品の在庫管理等の方法において、複数の部品に装着されたICタグにそれぞれの認識情報を付与し、それらを複数まとめて輸送するコンテナにも装着されたICタグに別途コンテナの認識情報を、複数の部品の認識情報と一緒に添付し、倉庫で管理する場合にコンテナ毎に管理するか、そこから取り出して部品毎に管理することなどが選択的にできるようにした情報管理システムが、記載されている。より具体的には、検査をパスした予備機材の各々に添付されるICタグに予備機材識別情報が入力され、そうした予備機材の複数をまとめて輸送する輸送用コンテナにも、添付されるICタグにコンテナ識別情報が予備機材識別情報と一緒に入力されており、前記ICチップから前記識別情報を読み取り、処理することによって、予備機材の在庫、品質、資産又は物流等の管理を行うことを特徴とする管理方法である。
【0014】
ところが、一見すると、本発明の複数の資材と資材キットとの関係に類似しているように思われるが、予備機材とコンテナとの関係は、輸送される予備機材と輸送するコンテナとの関係にすぎず、予備機材のICタグに入力された識別情報の各々と、コンテナのICタグに入力されたコンテナ識別とは関連付けられていない。いずれも、例えば倉庫管理するための識別情報であって、両方のICタグに独立して入力されるか、或いはコンテナのICタグのみに収納されたままの予備機材の識別情報も併せて入力しておくことができるようにしたすぎない。
【0015】
複数の予備機材を収納したコンテナのICタグに入力されたコンテナ識別情報などの識別情報と関連付けた作業指示情報などを予め、コンピュータによって機能させられる情報処理装置に入力させておき、コンテナ及び/又は収納された予備機材を用いる際に、コンテナのコンテナ識別情報を読み取り、両者をつき合わせて、その結果を監視しながら予備機材を処理できるようにする機能などは、全く記載されていない。
【0016】
すなわち、特許文献3は、コンテナ等に予備機材などをまとめて管理するか又はコンテナ等を開梱して個々に管理するかを適宜選択し、倉庫などに保管して、そこから出し入れすることができるように管理する複数の予備機材の処理方法に関するものであり、本発明とは、その目的、機能、及び構成を全く異にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、新規のディッシュや遠沈管などの複数の資材を封入した資材キットを事前に準備し、固有の検体に関連付けられた細胞や培地などの生物由来の原料と前記資材キットや薬品などの資材とを含む原材料を用いて、無菌操作区域で細胞調製する際に、前記資材キットに封入された前記複数の資材の各々に装着された無線通信装置に担持させた固有識別情報の各々と関連付けられた前記資材キットのキット識別情報を、前記資材キットに装着された無線通信装置に予め担持させ、前記原料を識別する原料識別情報、細胞調製工程を識別する工程識別情報、前記資材を識別する資材識別情報、及び前記キット識別情報などの識別情報の各々と少なくとも関連付けた細胞調製指示情報が、コンピュータによって機能させられる情報処理装置に予め格納され、該装置に通信可能に接続された無線読取装置が、前記キット識別情報を読み取り、前記情報処理装置が、前記読み取られたキット識別情報と前記細胞調製指示情報に関連付けられた対応する前記キット識別情報とを照合し、両者が一致したか否かを照合情報として出力し、細胞調製する操作者により、出力された前記照合情報が一致を示す照合情報であることが確認された場合に、前記資材キットが前記無菌操作区域に搬入されるようにしたことを特徴とする、無菌操作区域で原材料を用いて細胞調製する際の細胞調製管理方法である。
【0018】
請求項2に記載の発明は、新規のディッシュや遠沈管などの複数の資材を封入した資材キットを事前に準備し、細胞調製に用いられる固有の検体に関連付けられた細胞や培地などの生物由来の原料と前記資材キットや薬品などの資材を含む原材料が、細胞調製する操作者により無菌操作区域に搬入される、無菌操作区域で原材料を用いて細胞調製を行う際の細胞調製管理方法であって、前記資材キットに封入される前記複数の資材の各々に装着された無線通信装置に前記資材の固有識別情報を予め担持させるステップと、前記資材キットに装着される無線通信装置に、前記複数の資材の各々の前記固有識別情報と関連付けられた前記資材キットのキット識別情報を予め担持させるステップと、コンピュータによって機能させられる情報処理装置に、前記原料を識別する原料識別情報、細胞調製工程を識別する工程識別情報、前記資材を識別する資材識別情報、及び前記キット識別情報などの識別情報の各々と少なくとも関連付けた細胞調製指示情報を予め格納させるステップと、前記情報処理装置に通信可能に接続された無線読取装置が、前記無菌操作区域に搬入される前記資材キットに装着された無線通信装置に予め担持された前記キット識別情報を読み取るステップと、前記情報処理装置が、前記読み取られたキット識別情報と前記細胞調製指示情報に関連付けられた対応する前記キット識別情報とを照合し、両者が一致したか否かの判定結果を照合情報として出力するステップと、を含み、出力された前記照合情報が一致を示す照合情報である場合に、前記情報処理装置が、前記原料識別情報と前記資材キットに封入された前記複数の資材の各々の前記固有識別情報とを関連付けた後に、前記資材キットが無菌操作区域に搬入されるようにし、出力された前記照合情報が不一致を示す照合情報である場合に、無菌操作区域への前記資材キットの搬入が中断され、エラー処理が実施されるようにしたことを特徴する。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明の特徴に加えて、出力された前記照合情報が一致を示す照合情報である場合に、前記操作者により、一致した前記照合情報が確認された後に、前記情報処理装置が前記原料識別情報と前記資材キットの前記複数の資材の各々の前記固有識別情報とを関連付けるステップをさらに含み、前記資材キットが前記無菌操作区域に搬入され、開封されて前記資材キットから前記複数の資材が取り出されるようにしたことを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3のいずれかに記載の発明の特徴に加えて、
前記無菌操作区域への前記資材キットの搬入が中断され、エラー処理が実施された後に、前記操作者により、前記無菌操作区域への資材キットの搬入が再開されるようにしたことを特徴とする。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項2から4のいずれかに記載の発明の特徴に加えて、
前記情報処理装置が、出力された前記照合情報を前記無菌操作区域に装備された表示手段に表示するステップを、さらに含むことを特徴とする。
【0022】
請求項6に記載の発明は、無菌操作区域で細胞調製する際に、固有の検体に関連付けられた細胞や培地などの生物由来の原料と薬品などの資材を含む原材料と共に用いられる、事前に準備されたディッシュや遠沈管などの新規の複数の資材が封入され、該新規の複数の資材の各々に装着された無線通信装置に担持させた固有識別情報と関連付けられたキット識別情報を担持させた無線通信装置が、装着されたことを特徴とする資材キットである。
【0023】
請求項7に記載の発明は、コンピュータによって機能させられる情報処理装置に、原料識別情報及びキット識別情報を含め細胞調製に必要な識別情報と関連付けた細胞調製指示情報が予め格納され、前記情報処理装置に通信可能に接続された無線読取装置が、予め担持されたキット識別情報を読み取り、前記情報処理装置が、前記読み取られたキット識別情報と前記細胞調製指示情報に関連付けられた対応する前記キット識別情報とを照合し、両者が一致したか否かの判定結果を照合情報として出力し、細胞調製する操作者により、出力された前記照合情報が一致を示す照合情報であることが確認された場合に、前記情報処理装置が、前記原料識別情報と封入された新規の複数の資材の各々に装着された無線通信装置に担持させた固有識別情報とを関連付けた後に、前記無菌操作区域に、前記新規の複数の資材が封入されたまま搬入され、開封され、取り出されるようにしたことを特徴とする資材キットである。
【0024】
ところで、本発明において細胞調製される無菌操作区域は、例えば実施例に示すような、細胞調製に用いる資材キットなどを含む原材料を出し入れする挿入口と挿入された原材料を扱う収容部とを有する安全キャビネットと、その挿入口近傍に装備される、リーダなどの無線読取装置、無線アンテナ、表示用のタッチパネルなどを備えた操作デスクとを含む。或いは、本発明の無菌操作区域は、細胞調製室に配備される、周囲を無菌状態に管理された細胞調製用の作業台や、操作デスクを外部に配しマニピュレータなどで遠隔操作するような細胞調製室自体も含むことができる。いずれにしても、搬出入される原材料に装着されたICタグなどの無線通信装置に予め担持させたID番号などの識別情報をリーダなどの無線読取装置で読み取り、読み取られた識別情報と、予め格納された例えばキット識別情報などを含む細胞調製指示情報に関連付けられた識別情報とを照合させながら、1つ1つの作業を確実に実施することができる無菌操作区域であることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明に係る細胞調製管理システムを用いて細胞調製する手順の概略及び病院又は研究施設と、後述する細胞処理施設と、同じく新規な資材を供給する資材メーカの資材キット製造工程を含む全体システムのイメージ図である。
【0026】
図10及び図11の場合を想定して説明すると、細胞調製の対象となる患者(ドナー)の検体が病院又は研究施設などにおいて採取され、そこで、ドナー情報と共に採取された検体を検体情報として登録され、培養依頼情報を添えて検体すなわち原料は、GMP準拠の細胞処理施設(Cell Processing Center=CPC)の培養受付に配送され、そこで、受入試験が行われ、受入試験情報として登録される。一方、資材メーカで事前に製造された新規な資材及び新規な複数の資材を封入した資材キットが、同様の細胞受付に配送され、登録される。次に、検体すなわち原料は、新規の資材を用いて無菌操作区域で細胞調製や培養がなされ、必要な細胞調製や培養がなされた後に、保存及び/又は出荷などのそれぞれの手順に従い処理され、処理された検体すなわち原料は、容器などの資材に収容されて細胞処理施設から病院又は研究施設に配送され、ドナー患者に投与されることになる。
【0027】
これらの手順は、例えばSOPに準拠したものであることが望ましい。図2は、手順において行われる具体的手続の一例を表したものである。図2に示される例では、細胞調製や培養に先立つ検体の採取段階において検体ID番号が作成され、培養の受付段階において、検体ID番号に関連付けられた指図書などを含む細胞調製指示情報が作成され、細胞調製・培養段階において、そうした指図書が実行されるときに、原料及び資材を含む原材料に装着されたICタグに担持させる識別情報が作成されることになる。指図書は、後述されるように、細胞調製の各々の工程毎に必要な原材料や、その工程で行う作業内容などに関する情報を示すためのデータである。
【0028】
図3は、本発明に係るシステムが実装されるキューブ型の細胞処理施設(CPC)100の一例を示す。図3には、着衣・脱衣室を経由させる人の移動と、パスボックスを経由させる原料や資材などの原材料の移動と、手順に則った手続後に廃棄される廃棄物の移動とが示されている。細胞処理施設100には、手順を実施する際に少なくとも用いられる重要機器(301〜306)やシステムの情報端末である子機(201〜203)がそれぞれ配備された保管室120、準備室130、及び細胞調製培養室140と、システム全体を管理する情報処理装置である親機204を少なくとも配備した管理室110とが設けられている。本発明は、典型的には、図3の細胞調製培養室140に配されたバイオハザード対策用の無菌操作区域である安全キャビネット303で行われる細胞調製管理方法及びそのための資材キットに関する。
【0029】
図4は、本発明に係る細胞調製の際に用いられる図3に示す安全キャビネット303に相当する無菌操作区域の一実施形態を示す斜視図である。
【0030】
図5は、細胞調製用のディッシュ、遠沈管、ピペットなど、それぞれに装着されたICタグに固有識別情報を担持させた複数の資材を封入した資材キットを表す平面図であり、資材キットにも別途ICタグが装着され、そこにキット識別情報が担持され、固有識別情報と関連付けた対応する情報が予め情報処理装置204などに格納されるようにされたものである。
【0031】
ところで、安全キャビネット303は、例えば立方体形状であり、その前面には開閉シャッタを設けてもよい。シャッタが設けられている場合、シャッタを開閉することによって原材料を出し入れすることができるように挿入口316が形成される。また、その内部には細胞調製する収容部314がある。図4はまた、収容部314に、細胞調製に用いられるドナーの検体に関連付けられた細胞や培地などの原料容器321に収納された生物由来の原料や、細胞調製する際に必要な新規なディッシュや遠沈管等を封入した資材キット319に加え、既に開封され、取り出されたディッシュ320や遠沈管322などの容器や薬品323などの資材が一部持ち込まれている状況を示す。遠沈管322は、例えば、図3の安全キャビネット303に近接して配された遠心器304によって精製分離する場合などに用いられる。
こうした原料や資材を総称して原材料という。
【0032】
また、図3の細胞調製培養室140内に、初代培養及び継代培養に用いられるインキュベータ306や、細胞調製後に使用済み原料容器321などの廃棄資材を廃棄する際に、その資材に担持されたID番号を読み取らせるリーダを装備した廃棄室又は廃棄チャンバ305を配備するようにしてもよい。このような細胞調製培養室140で安全キャビネット303を用いて細胞調製する場合、細胞調製する操作者318は、収容部314を視認しながら、タッチパネル328に表示された指図書などの手順に則って必要な作業を行う。
【0033】
例えば、必要な原材料を収容部314に持ち込む場合、操作者318は、原料容器を1個ずつ、さらに新規な複数の資材が封入された資材キットなどの原材料を順次挿入口316から持ち込む。資材キット及び資材キットに封入された新規な複数の資材を含む原材料の各々にはICタグ324が装着されており、このICタグを構成するICチップには原材料を識別するためのID番号が担持されている。典型的には、ここで用いられる安全キャビネット303の挿入口316の近傍に、ICタグに担持されたID番号を読込むリーダ325、リーダ用のアンテナ326、表示用のタッチパネル328などを備えた操作デスク327が配置されている。操作デスク327は、図3の情報端末(子機)203の機能を有しており、情報処理装置(親機)204に通信可能に接続されている。
【0034】
細胞調製する操作者318によって、挿入口316から安全キャビネット303の収容部314に持ち込まれた原材料の各々が操作デスク327を通過するたびに、原材料に装着されたICタグ324に担持されたID番号がアンテナ326によって確実に検知され、リーダ325に読込まれる。リーダ325は、図3の情報端末203と一体のものとすることもできる。情報端末(201〜203)の各々は、上述のとおり、管理室110の情報処理装置(親機)204と通信可能に接続されており、情報処理装置204は、コンピュータによって機能させられる。一方、リーダ325によって読込まれたID番号と照合するためのID番号に関連付けられた、後述する指図書を含む細胞調製指示情報が、以下で詳細に述べるように事前に作成され、この情報処理装置204に予め格納されている。
【0035】
細胞処理施設100の情報処理装置204は、アプリケーションが利用するデータが格納されたデータベース・サーバと、アプリケーションを実行するアプリケーション・サーバと、通信機能を有するwebサーバとを備え、ネットワークを介して、情報端末(201〜203)に接続される。これらの情報端末(201〜203)は、入出力機能を有し、ICタグにデータを書き込むための入力機能を持たせることもできる。データベースには、検体データと、該検体データと1対1対応の工程データと、該工程データと1対多対応の複数の指図書データと、該複数の指図書データの各々と1対多対応の複数の原材料データとが格納される。すなわち、1つの検体データには1つの工程データが関連付けられ、1つの工程データには複数の指図書データが関連付けられ、複数の指図書データの各々には複数の原材料データが関連付けされる。データベースにはさらに、共通で使用するマスタ・データ、例えば、人、部署、職種などの作業者情報、原本となる指図書情報、工程作成ルールとなる工程情報、原材料情報、検査情報、さらには設備機器情報やスケジューリングに必要な休日情報などが格納される。
【0036】
データベースに格納されたデータを利用するアプリケーションは、検体情報管理機能と、工程管理機能と、指図書管理機能と、原材料管理機能と、ID照合機能と、マスタ管理機能とを有する。検体機能は、システム内において他の検体と区別するための固有の検体ID番号を発行し、検体情報と共に管理する。図2に示される培養受付段階において、いつ、誰が、どの検体の如何なる作業をするかをスケジューリングする。次に、工程管理機能は、検体固有の工程データ、指図書データ、原材料データを作成する。これらのデータは、固有の検体ID番号と関連付けされるため、ID番号が付与される全ての原材料についてシステム側から判別可能となる。工程管理機能はさらに、細胞調製のための工程の進捗状況を管理する。指図書管理機能は、どの検体のどの作業では具体的に何をするかを指示するとともに、作業結果の適否や実績数量などを記録する。原材料管理機能は、どの検体の、どの作業では、どの原材料が、どの程度必要かを管理する。ID照合機能は、原材料管理機能で指示する予め格納された原材料ID番号と、ID入力機能によって入力されるID番号とを照合する。マスタ管理機能は、マスタ・データを格納し、変更し、保持する。
【0037】
本発明の目的は、上述したように、安全キャビネットにおける細胞調製で取り扱われる膨大な数の新規な容器などの資材を細胞調製に必要な複数の資材からなる資材キットを作成し、複数の資材の各々の固有識別情報と資材キットのキット識別情報とを関連付け、薬剤などの資材と共に原材料として用いることによって、原材料を迅速かつ的確にミスなく管理するようにした細胞調製管理方法、及び、そのための資材キットを提供することにある。
そこで、図6の原材料管理のイメージ図並びに図7及び図8の管理及び作業手順を示したフロー図に基づいて、本発明の一実施形態を説明する。
【0038】
図6のイメージ図の横方向に括られたNo.1(受入)からNo.8(投与)までの一連の指図書の組が、工程作成ルールに基づいて作成された工程データである。
工程データは、いつ、どの作業をするかについて、時間軸に沿って指図書を並べることによって構成される。工程データとして組み合わされる指図書は、データベースのマスタ・データに格納されており、指図書の組は、検体の種類、年齢、性別などに合わせて、様々な組み合わせを選択することができるようになっている。各々の指図書にしたがって、ドナーの検体毎に、縦方向に括られた(1)使用する原材料から(5)廃棄物までの情報が具体的に作成され、例えば管理室110の親機である情報処理装置204のデータベースに予め格納される。
【0039】
内容を具体的に示す指図書例を示したのが、指図書No.4とした図9である。
指図書には、安全キャビネット番号、作業日時、操作者氏名、細胞情報(細胞の種類、提供者氏名、採取日など)、作業内容、薬剤を含む搬入原材料などのIDリスト、搬入資材キットのキットIDなどが表示されており、こうした指図書は、タッチパネル328に表示される。
【0040】
例えば、作業内容が継代処理の場合には、細胞の移し替え元として細胞が培養済みのディッシュをインキュベータ305から安全キャビネット303に持ち込む必要があるので、そのために特定されたディッシュのID番号が指図書に表示される。また、継代処理では、新規の空のディッシュに所定の培養液を注入して培地を形成し、次に、例えば、培養細胞のディッシュから培養液を取り除き、薬品などを用いて培養細胞を遠沈管などに移し替え、遠心器304による精製分離後に、この培地への培養細胞の移し替えが行われる。これらの作業のために、新規なディッシュや遠沈管に加え、移し替え道具であるピペットなどが、パスボックスを介して、保管室120から準備室130経由で細胞調製培養室140に搬入される。これらは、バラバラに又は1個1個搬入されるのではなく、特に新規な複数の資材であれば、資材キットに封入し、まとめて搬入することによって、煩雑な搬入作業を簡素化し、ミスなく厳密に管理できるようにする。したがって、指図書No.4の搬入原材料リストには、これらの原料や資材キットについても個別に付与されたそれぞれのID番号が表示される。さらに指図書は、搬入された資材キットが開封され、取り出された複数の資材に装着されたICタグなどに担持させた固有識別情報に関連付けられた対応する資材リストを予め担持させておく。このようにして作成された一連の指図書の組を含む細胞調製指示情報が、情報処理装置に予め格納される。
【0041】
図6は、ID番号が付与された原材料を用いて細胞調製することを想定した原材料管理のイメージ図である。この図においてNo.4の縦方向に括った部分を説明すると、まず(1)使用する原材料は、例えばインキュベータ305から取り出され安全キャビネット303に持ち込まれた培養細胞のID番号が付与されたディッシュなどである。次の(2)資材キットは、新規の複数のディッシュや遠沈管などの資材が封入されており、資材の各々に装着されたICタグには、後述する資材キットのキット識別情報と関連付けた固有識別情報が担持されている。資材キットを安全キャビネットに持ち込み、開封し、取り出した資材の各々は、移し替えられる培養細胞を入れるディッシュなどであり、この段階では原材料と関連付けるID番号は付与されていない。
【0042】
培養細胞が新規の資材に移し替えられた後に、例えばシステムの情報と関連付けた状態でラベルを出力することができる市販のシールラベルプリンタなどによって事前に準備された(3)使用するラベルが、新規の資材に装着され、ここで、新規の資材にID番号が付与された状態になる。すなわち、(4)完成した原材料になるのである。このラベルは、ICタグが装着されており、表面に印字された情報によって、ICタグに書き込まれている情報を視認できるものであることが望ましい。最後の(5)廃棄物は、上記(1)使用する原材料の培養細胞が、(2)新規の資材に移し替えられたことによって、廃棄されることになる使用済みディッシュなどの資材である。
【0043】
細胞調製する操作者318は、こうした原材料に装着されたICタグのID番号と、細胞調製指示情報に関連付けられた対応するID番号とを、タッチパネル328で確認しながら、1つ1つの細胞調製の作業を確実に実施していくことができる。
【0044】
図7及び図8のフロー図により、資材キットの作成段階、使用準備段階、及び使用段階を含め、例えば安全キャビネット303内の作業手順を説明する。
【0045】
本実施態様は、図1に示したように細胞処理施設とは異なる資材メーカにおいて資材キットの製造が行われ、製品である資材キットを細胞処理施設に出荷することを想定しているが、これに限定されるものでない。
【0046】
資材キットの作成段階400において、まず、410で資材が製造される。420で資材の固有識別情報の資材IDが生成され、資材にICタグなどが装着される。次に、430で細胞調製に用いられる必要な資材が1キット用に収集され、460において、収集された複数の資材が封入されて資材キットが作成される。460に先立つ440及び450で、封入される資材の資材IDの全てが認識され、認識された資材IDの全てが、後述するキットIDと関連付けされる。資材キット作成の最終段階470において、複数の資材を封入した資材キットのキット識別情報のキットIDが生成され、資材キットに別途ICタグなどが装着される。その際、必要に応じて関連付け記録媒体を添付するようにしてもよい。
【0047】
したがって、480において、資材キットの細胞処理施設100への出荷は、資材キットに封入された複数の資材の資材IDと当該キットのキットIDとが関連付けられた状態でなされることになる。
【0048】
次に、細胞処理施設における資材キットの保管段階500において、まず、510で他の新規の資材と共に資材キットが調達される。いずれの場合も、520で使用期限や外装の破れなどの受入検査がなされ、さらに530で、例えば図3の保管室120の情報端末201により、当該資材キットのキットIDを読み取り、540で情報端末201を経由させて管理室110の情報処理装置にキットIDと関連付けられた全ての資材IDが予め格納される。図2に示したように、情報処理装置のマスタ・データには、資材在庫情報と共に資材キット在庫情報が登録され、在庫状態が常に把握できるようになっていることは、いうまでもない。調達された資材キットは、これらの手順を経て、例えば細胞処理施設の保管室120の棚に保管される。
【0049】
次いで図8を参照すると、細胞処理施設の保管室120における資材キットの使用準備段階600において、保管室の作業者は、610において、情報端末201で図6に示した指図書など含む細胞調製指示情報を予め格納された情報処理装置204から細胞調製対象の細胞IDと予め格納されている工程を呼び出し、表示手段などによって表示する。620において、保管室の作業者は、保管室120の棚から表示された細胞調製指示情報に基づいて資材キットを取り出し、ここで、例えば情報端末201に装備されたリーダなどにより当該資材キットのキットIDが読み取られる。ここではさらに、資材キッドに封入された資材の使用に先立ち、保管室の作業者は、630で読み取られたキットIDと関連付けられた全ての資材IDを、情報処理装置204から呼び出した細胞IDと工程とに関連付ける。こうした関連付けがなされた後に、640において、資材キットは、保管室120から準備室130経由で細胞調整培養室140に搬入される。
【0050】
なお、本実施態様は、資材キットの使用準備段階600において、610から640までを保管室120の作業者が、情報端末201を用いて実施されるようにしているが、これらの手順を後述する細胞調製培養室の細胞調製する操作者318が、操作デスク327のリーダ325を用いて実施するようにしてもよい。
【0051】
資材キットの使用段階700において、細胞調製培養室140に搬入された資材キットは、細胞調製する操作者318によって受け取られる。新規の複数の資材が封入された資材キットは、図4に示す安全キャビネット303などの無菌操作区域に搬入され、開封され、使用されるのであるが、それに先立ち、細胞調製培養室140の情報端末に相当する操作デスク327に配される。710において、リーダ325が、配された資材キットに装着されたICタグに担持されたキットIDを読み取る。当該リーダ325に通信可能に接続した情報処理装置204は、720において、前記読み取られたキットIDと、該情報処理装置に予め格納された原料を識別する検体ID、細胞調製工程を識別する工程ID、資材を識別する資材IDなどのID情報の各々と共に少なくとも関連付けた細胞調製指示情報に関連付けられた対応する前記キットIDとを照合し、両者が一致したか否かを照合情報として出力する。次に、730において、細胞調製する操作者は、出力された前記照合情報が一致を示す照合情報であることを確認した場合に、資材キットを安全キャビネット303に搬入し、開封し、取り出し、新規の複数の資材として準備し、細胞調製するようにする。
【0052】
図7及び図8のフロー図に示されていないが、操作者318は、照合情報を確認し、両者が不一致を示す照合情報である場合、エラー処理をする。不一致を示す照合情報とは、持ち込まれた原材料が細胞調製指示情報にはない原材料であることが明らかとなったことを表す。そのため、エラー処理とは、例えば作業を中断し、正しい原材料を持ち込むことや、検体IDが異なるなどの深刻な事態に際しては、作業自体のやり直しなども想定される。エラー処理後に、操作者318は、安全キャビネット303に持ち込む原材料についてS700を再開する。
【0053】
細胞調製された新規の複数の資材の各々に装着されたICタグには検体即ち原料と関連付けられた資材IDが担持されることになり、それ以降は、このICタグで管理されることになる。
【0054】
細胞調製後の資材の廃棄段階800において、検体すなわち原料や培地などを入れ替えた使用済みの容器や使用済み遠沈管などは、安全キャビネット303への搬入時に廃棄されることがタッチパネル328に表示された細胞調製指示情報によって確認されている。それに基づいて、操作者318は、810でこれらの使用済み資材の廃棄物を安全キャビネット303から廃棄チャンバ305に廃棄する。その際、必要に応じ、820で廃棄チャンバ305に装備された第2のリーダによって、廃棄物の使用済み資材のICタグに担持された資材IDを再度読み取るようにすることができる。そして、前記情報処理装置204が、前記読み取られた資材IDと前記細胞調製指示情報に関連付けられた対応する資材IDとを照合し、830で照合結果を第2の照合情報として出力する。840において、操作者318は、この第2の照合情報を確認して、使用済み資材の廃棄物又は原料収容の有用物かを判断し、廃棄の処置を行う。このようにすることによって、安全キャビネット303に廃棄資材の置き忘れなどをより確実に回避することができる。
【0055】
ただし、細胞調製後に安全キャビネットから原材料が全て搬出されたかどうかを確認するために、原材料を安全キャビネット303から排出する際にも、操作デスク327を経由させ、リーダ325で再度読み取り、情報処理装置204により第3の照合情報を出力させるようにすることもできる。
【0056】
本発明は、新規の複数の資材を封入した資材キットを作成し、資材の各々に装着されたICタグに資材IDを担持させ、資材キットに装着されたICタグにもキットIDを担持させ、かつキットIDと全ての資材IDと関連付けて情報処理装置に予め格納させ、この情報処理装置に通信可能に接続されたリーダなどによりキットIDを読み取り、この読み取られたキットIDと予め格納された細胞調製指示情報に関連付けられた対応するキット情報とを照合し、両者が一致する場合には、資材キットを用いるようにした細胞調製管理方法である。そのことにより、各資材のICタグに担持された資材IDと細胞調製指示情報に記載された細胞調製で扱われる提供者氏名、細胞の種類、採取日などの検体情報とが、本システム内で自動的に関連付けされることになる。
したがって、従来技術のように、新規に用いる個々の資材に細胞調製する操作者が、そのたびに新たな資材IDを書き込み、登録するような作業をする必要がなく、登録ミスなどは生じ難い。
また、当然のことであるが、個々の資材をバラバラで安全キャビネットなどの持ち込む場合に比べ、管理は明らかに容易であり、作業効率の改善にも大いに寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る細胞調製管理システムのシステム運用のイメージ図である。
【図2】本発明に係る細胞調製管理システムのシステム運用における各工程の作業項目例である。
【図3】本発明に係る細胞調製管理システムの細胞調製培養室を含む細胞処理施設の概略図である。
【図4】本発明に係る細胞調製の際に用いられる安全キャビネットの一実施形態を示す斜視図である。
【図5】ディッシュ、遠沈管、ピペットなどに装着されたICタグに固有識別情報を担持させた複数の資材が封入された、キット識別情報を担持したICタグが装着された資材キットの平面図である。
【図6】本発明に係る細胞調製管理システムの資材キットを含む原材料イメージ図である。
【図7】本発明に係る資材キットの作成、保管、使用準備、使用の各段階における作業フロー図である。
【図8】本発明に係る資材キットの作成、保管、使用準備、使用の各段階における作業フロー図である。
【図9】本発明に係る細胞調製管理システムの細胞調製指示情報に含まれる1例を表す指図書No.4である。
【図10】骨髄からの幹細胞の細胞調製に必要な1人当たりの資材の物量例である。
【図11】抹消血からの培養液調製に必要な1人当たりの資材の物量例である。
【符号の説明】
【0058】
100 細胞処理施設
110 管理室
120 保管室
130 準備室
140 細胞調製培養室
201〜203 情報端末(子機)
204 情報処理装置(親機)
303 バイオハザード対策用安全キャビネット
304 遠心器
305 廃棄チャンバ
306 インキュベータ(培養器)
314 安全キャビネットの収納部
316 安全キャビネットの挿入口
318 細胞調製する操作者
319 資材キット
320 新規の空のディッシュ
321 原料が収容されたディッシュ
322 遠沈管
323 薬品
324 ディッシュに装着されたICタグ
325 リーダ
326 アンテナ
327 操作デスク
328 操作デスク装備された表示手段などのタッチパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新規のディッシュや遠沈管などの複数の資材を封入した資材キットを事前に準備し、固有の検体に関連付けられた細胞や培地などの生物由来の原料と前記資材キットや薬品などの資材とを含む原材料を用いて、無菌操作区域で細胞調製する際に、前記資材キットに封入された前記複数の資材の各々に装着された無線通信装置に担持させた固有識別情報の各々と関連付けられた前記資材キットのキット識別情報を、前記資材キットに装着された無線通信装置に予め担持させ、前記原料を識別する原料識別情報、細胞調製工程を識別する工程識別情報、前記資材を識別する資材識別情報、及び前記キット識別情報などの識別情報の各々と少なくとも関連付けた細胞調製指示情報が、コンピュータによって機能させられる情報処理装置に予め格納され、該装置に通信可能に接続された無線読取装置が、前記キット識別情報を読み取り、前記情報処理装置が、前記読み取られたキット識別情報と前記細胞調製指示情報に関連付けられた対応する前記キット識別情報とを照合し、両者が一致したか否かを照合情報として出力し、細胞調製する操作者により、出力された前記照合情報が一致を示す照合情報であることが確認された場合に、前記資材キットが前記無菌操作区域に搬入されるようにしたことを特徴とする、無菌操作区域で原材料を用いて細胞調製する際の細胞調製管理方法。
【請求項2】
新規のディッシュや遠沈管などの複数の資材を封入した資材キットを事前に準備し、細胞調製に用いられる固有の検体に関連付けられた細胞や培地などの生物由来の原料と前記資材キットや薬品などの資材を含む原材料が、細胞調製する操作者により無菌操作区域に搬入される、無菌操作区域で原材料を用いて細胞調製を行う際の細胞調製管理方法であって、
前記資材キットに封入される前記複数の資材の各々に装着された無線通信装置に前記資材の固有識別情報を予め担持させるステップと、
前記資材キットに装着される無線通信装置に、前記複数の資材の各々の前記固有識別情報と関連付けられた前記資材キットのキット識別情報を予め担持させるステップと、
コンピュータによって機能させられる情報処理装置に、前記原料を識別する原料識別情報、細胞調製工程を識別する工程識別情報、前記資材を識別する資材識別情報、及び前記キット識別情報などの識別情報の各々と少なくとも関連付けた細胞調製指示情報を予め格納させるステップと、
前記情報処理装置に通信可能に接続された無線読取装置が、前記無菌操作区域に搬入される前記資材キットに装着された無線通信装置に予め担持された前記キット識別情報を読み取るステップと、
前記情報処理装置が、前記読み取られたキット識別情報と前記細胞調製指示情報に関連付けられた対応する前記キット識別情報とを照合し、両者が一致したか否かの判定結果を照合情報として出力するステップと、
を含み、
出力された前記照合情報が一致を示す照合情報である場合に、前記情報処理装置が、前記原料識別情報と前記資材キットに封入された前記複数の資材の各々の前記固有識別情報とを関連付けた後に、前記資材キットが無菌操作区域に搬入されるようにし、出力された前記照合情報が不一致を示す照合情報である場合に、無菌操作区域への前記資材キットの搬入が中断され、エラー処理が実施されるようにしたことを特徴する方法。
【請求項3】
出力された前記照合情報が一致を示す照合情報である場合に、前記操作者により、一致した前記照合情報が確認された後に、前記情報処理装置が前記原料識別情報と前記資材キットの前記複数の資材の各々の前記固有識別情報とを関連付けるステップをさらに含み、前記資材キットが前記無菌操作区域に搬入され、開封されて前記資材キットから前記複数の資材が取り出されるようにした請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記無菌操作区域への前記資材キットの搬入が中断され、エラー処理が実施された後に、前記操作者により、前記無菌操作区域への資材キットの搬入が再開されるようにした請求項2又は3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記情報処理装置が、出力された前記照合情報を前記無菌操作区域に装備された表示手段に表示するステップを、さらに含む請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
無菌操作区域で細胞調製する際に、固有の検体に関連付けられた細胞や培地などの生物由来の原料と薬品などの資材を含む原材料と共に用いられる、事前に準備されたディッシュや遠沈管などの新規の複数の資材が封入され、該新規の複数の資材の各々に装着された無線通信装置に担持させた固有識別情報と関連付けられたキット識別情報を担持させた無線通信装置が、装着されたことを特徴とする資材キット。
【請求項7】
コンピュータによって機能させられる情報処理装置に、原料識別情報及びキット識別情報を含め細胞調製に必要な識別情報と関連付けた細胞調製指示情報が予め格納され、前記情報処理装置に通信可能に接続された無線読取装置が、予め担持されたキット識別情報を読み取り、前記情報処理装置が、前記読み取られたキット識別情報と前記細胞調製指示情報に関連付けられた対応する前記キット識別情報とを照合し、両者が一致したか否かの判定結果を照合情報として出力し、細胞調製する操作者により、出力された前記照合情報が一致を示す照合情報であることが確認された場合に、前記情報処理装置が、前記原料識別情報と封入された新規の複数の資材の各々に装着された無線通信装置に担持させた固有識別情報とを関連付けた後に、前記無菌操作区域に、前記新規の複数の資材が封入されたまま搬入され、開封され、取り出されるようにしたことを特徴とする資材キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−220316(P2008−220316A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65965(P2007−65965)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】