説明

細胞輸送容器

【課題】
細胞処理施設の培養環境と同じ温度、圧力を維持した状態で、再生組織等の生体試料を輸送することができ、清浄性を確保した状態で、細胞処理施設の内部へ運び込むことが可能な細胞輸送容器を提供する。
【解決手段】
真空断熱材等の高性能断熱材により全壁面を構成した第一断熱容器101と、当該第一断熱容器の内側の少なくとも一部に配置される、衝撃や振動を吸収するための発泡スチロールやウレタンフォーム等を素材とする低熱伝導性緩衝材102と、当該低熱伝導性緩衝材の内側に配置される、真空断熱材等の高性能断熱材により全壁面を構成した第二断熱容器103と、当該第二断熱容器の内側に配置される気密容器104と、当該気密容器の内側に配置される培養容器収納部107とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度、圧力、清浄性等に関する培養環境を維持した状態で、例えば細胞処理施設で製造した再生組織等を含む生体試料を輸送する細胞輸送容器に関する。
【背景技術】
【0002】
少量の細胞を培養して製造した再生組織等の生体試料を用い、失われた臓器等の機能を回復させる再生医療は、従来治療法のなかった疾病に対し効果の期待される技術である。再生医療に用いる再生組織等の生体試料の製造工程は、医薬品等の製造管理と品質管理の基準である適正製造基準(GMP;Good Manufacturing Practice)に基づく。製造は細胞処理施設(CPC;Cell Processing Center)において行われ、GMPを満たした標準手順書(SOP;Standard Operating Procedur)に従う。GMPは、日本国内では、厚生労働省の定める法規が既に施行されている(例えば厚生省令第179号、薬発第480号)。日本国外においては、欧米の機関(例えば米国食料医薬品庁、欧州委員会)を中心に関連法規が施行されている。
【0003】
再生組織等の生体試料は、こういった法規に規定される安全性、清潔性の管理された環境において、専門の細胞培養技術を有した製造従事者により製造される。そのため、多大な人件費、労力、運用コストが発生する。また、現在のところ、ほぼ全ての製造工程が人手でなされるため、製造量の増加には限界がある。結果として、製造コストは高くなり、再生医療治療の普及の妨げとなっている。よって、再生医療の実用化の初期段階では、生産拠点となる少数のCPCにおいて製造し、各地の医療機関へ出荷、即ち、輸送し、治療に用いると想定される。また、製造を行う細胞処理施設と、治療を行う医療機関は、仮に同一敷地内にあったとしても、培養環境に比べ清浄度の低い、日常的な空間を介して離れている。よって、距離は様々であるが、輸送する作業が必ず発生する。
【0004】
一般に、再生組織等の生体試料の輸送は、研究開発の場で慣用的に行われている。しかし輸送方法は様々であり、細胞種や輸送後の用途に応じて適宜選択される。標準化された輸送方法は確立していない。例えば輸送時の温度は、培養温度と同じ一定温度に維持して運ぶ場合(例として約37℃)、温度制御を行わず外気下で運ぶ場合(例として10〜37℃)、冷蔵状態で細胞の代謝を抑制して運ぶ場合(例として4℃)、凍結状態で運ぶ場合(例として−20℃、液体窒素中等)が用いられる。輸送過程では、製造過程と異なり、温度、圧力、衝撃、振動等の影響を受ける。また、輸送時の環境は、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)による空調制御等がなされ、菌等の生物や粒子はほとんど存在しない培養環境に比べ、清浄度が遙かに低い。輸送した再生組織を臨床で用いるには、これらの影響を制御し、輸送後も再生組織がGMPの要求する品質を満たさねばならない。
【0005】
輸送中に通過する外界環境は、培養環境と比べ、まず、温度が異なる。細胞処理施設の培養環境では、細胞種、用途に応じて温度が適宜選択される。多くの場合、培養時の温度は37℃である。温度の制御には恒温槽を利用するため、温度の変化幅は小さい。一方、輸送時では、外界環境の温度は場所により異なる。よって、外界環境の温度の影響を排除するため、細胞輸送容器の内部の温度を一定に維持する機構が必要である。また、外界環境との温度差の影響を小さくするため、細胞輸送容器の周囲に断熱材等を設置し、断熱性を確保する必要がある。さらに、内部の温度を一定に維持する時間は、十分長い方が望ましい。将来的に、航空機等を用い海外等の遠方まで輸送する状況や、輸送先である医療機関へ到着後、検査や手術の準備のため、待機時間の発生する状況が想定される。
【0006】
圧力は、輸送時の外界環境と培養時で異なる別の因子である。培養環境は約1気圧の常圧だが、輸送時は、特に航空機を用いる場合、客室での圧力は0.8気圧前後である。一般の培養容器が減圧下に晒されると、培地中に溶けていた気体が溶出してpHが変化し、細胞の生育に適さない状態となる。また、培養容器の蓋と本体の隙間から培地が漏出する可能性がある。その場合、清浄性が失われ、生物学的汚染が生じる。これらを回避するには、圧力の影響を排除するために気密化する機構が必要である。気密化は、ネジ、ヒンジ式金具等の手段により実現可能である。しかし、気密化対象の容積が大きくなると、必要な部品は大きくなり、細胞輸送容器全体の重量が重くなる。結果として、輸送作業従事者の負担が大きくなる。
【0007】
輸送時と培養時で異なる別の因子の清浄性は、法規制により定められている。例えば欧州GMPによると、細胞処理施設の培養がなされる場所(以下培養エリアとする)はグレードB(浮遊菌数10CFU/m3以下、直径0.5μm以上粒子数350,000個/m3以下)の清浄性が要求される。培養エリアの中に設置する安全キャビネットでは、細胞の精製、培地交換等の、培地を介し細胞に直接触れる作業がなされるが、清浄度はグレードA(浮遊菌数1CFU/m3以下、直径0.5μm以上粒子数3500個/m3以下)が要求される。清浄性を維持するため、HEPAフィルタを通した空気の循環や、部屋間の圧力差の制御、作業者および物品の動線管理、日常的な清掃作業がなされる。ところで、培養エリアで取り扱う生体試料は、恒温槽と、安全キャビネット内に必要に応じ設置されるヒートブロック等により、温度が制御されている。逆に、それ以外の場所の温度は培養に適した値になっておらず、一般に25℃程度である。よって、生体試料を輸送する場合、温度を維持する機構を有する細胞輸送容器を、安全キャビネットの近くまで持ち込む必要がある。すなわち、安全キャビネット内で、ヒートブロック等により培養容器の温度を維持しながら、輸送可能な形状に梱包した細胞輸送容器を、速やかに細胞輸送容器へ収容する。これにより、温度変化の影響を受けることなく、輸送することが可能となる。そのためには、細胞輸送容器が、グレードBである培養エリアに持ち込むことの可能な清浄性を有する必要がある。
【0008】
こういった背景に対する従来技術として、再生組織等の生体試料の輸送技術に関する報告が幾つかある。まず、温度維持技術に関して、断熱材と電力によるヒートパネル等を用いるものがある。これは、配線等での故障の可能性を常に有し、確実性に欠ける。また、作動時に電波を発する可能性もあり、その場合、医療機関の機器へ影響が生じる可能性がある。
【0009】
一方、電力を用いない温度維持技術も報告されている。文献1は、断熱材と、化学触媒による酸化作用を利用した加温装置を用いる。電力は使用しないが、化学反応により発生する熱量の制御は難しく、内部温度を一定に維持することは困難である。また、化学反応は不可逆的に起こるため、加温装置の繰り返し使用はできない。コストは高くなる。
【0010】
文献2、文献3は、純物質である炭化水素等の蓄熱材を用いる。融解した蓄熱材が凝固する時、温度が融点で一定となることを利用する。この方法の場合、融点は物質固有の値なので、電力を用いる方法に比べ、確実性が高い。
【0011】
温度維持性能は、断熱性能と保温効率にも依存する。文献1、2、3は、全て断熱材を一重に配置している。文献1は、断熱材の内側に、加温装置と、緩衝材に囲まれた生体試料を収容する。加温装置は緩衝材の隣に配置する。そのため、内部を温める時、本来温める必要のない緩衝材も、同時に温める。これは、保温効率が悪い。文献2、3も同様であり、断熱材の内側に配置された緩衝材に対しても、蓄熱材が保温するため、保温効率が悪い。ところで、細胞輸送容器に求められる温度維持性能は、十分長時間にわたることが望ましい。将来的には、国外に運ぶことが想定される。また、到着後の医療機関において、細胞輸送容器内に培養容器を収容したまま、治療の準備を行うことも想定される。十分長時間にわたり温度を維持するには、化学物質や蓄熱材の量を増やせば可能だが、細胞輸送容器の総重量も大きくなる。結果として、輸送作業者の負担が増える。これを回避するためには、断熱性能と保温効率の向上は必要である。
【0012】
圧力に関しては、特に航空機で運ぶ場合、気密化が必要となる。例えば文献1、2、3の場合、容器の一番外側に金具等を設置し、蓋を強固に閉めることで気密化は可能である。しかし気密化対象の容積が大きいため、必要な部品は大きくなり、全体の重量は大きくなる。輸送作業従事者の負担が大きくなる。
【0013】
清浄性については、前述の通り、細胞輸送容器を培養エリア内にある安全キャビネットの横まで運び込む必要がある。例えば文献1、2、3の場合、細胞輸送容器の清浄性の確保は難しい。事前に細胞輸送容器に対して滅菌処理を施す必要があるが、文献1、2、3では、滅菌処理が可能な素材を用いていない。仮に、滅菌処理が可能な素材に変更し、滅菌処理が可能になったとしても、細胞輸送容器全体を滅菌するために必要となる設備(例えばオートクレーブ装置)は、巨大なものが必要となる。さらに、滅菌処理を施せても、細胞輸送容器を培養エリアまで運びこむためには、CPC内の部屋間を連結するパスボックス内を通過させる必要がある。一般的に、パスボックスのサイズは約50cm四方の小さな空間である。細胞輸送容器の大きさを、パスボックスの通過が可能な大きさにするか、パスボックスのサイズを大きくすることが必要となる。つまり、培養エリアに持ち込むことが可能な清浄性を有し、細胞輸送容器の大きさはパスボックスを通過できる程度である必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−217290号公報
【特許文献2】特開2007−191209号公報
【特許文献3】特開2006−232331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述したように、再生組織等の生体試料を輸送する細胞輸送容器において、培養環境を維持する機能が必要である。輸送時は、製造時の培養環境と異なり、温度、圧力、衝撃、振動の影響を受ける。また、清浄性も大きく異なる。再生組織等の生体試料が、輸送後も良好な状態を維持するためには、こういった影響を排除する必要がある。すなわち、全輸送過程にわたり、温度を一定に維持する技術と、航空機等で輸送する際の圧力変化の影響を排除する技術が必要である。また、細胞処理施設内の清浄な培養エリアへ細胞輸送容器を運び込む必要があるため、清浄性を確保する技術も必要である。
【0016】
本発明は、細胞処理施設の培養環境と同じ温度、圧力を維持した状態で、再生組織等の生体試料を輸送することができ、清浄性を確保した状態で、細胞処理施設の内部へ運び込むことが可能な細胞輸送容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の細胞輸送容器は、真空断熱材等の高性能断熱材により全壁面を構成した第一断熱容器と、当該第一断熱容器の内側の少なくとも一部に配置される、衝撃や振動を吸収するための発泡スチロールやウレタンフォーム等を素材とする低熱伝導性緩衝材と、当該低熱伝導性緩衝材の内側に配置される、真空断熱材等の高性能断熱材により全壁面を構成した第二断熱容器と、当該第二断熱容器の内側に配置される気密容器と、当該気密容器の内側に配置される培養容器収納部とを具備するものである。ここで、第一断熱容器と第二断熱容器とは、緩衝材/空気を介してのみ接することにより、第一断熱容器および第二断熱容器の間での熱の移動効率を低下させる効果を有する。
【0018】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記第一断熱容器と前記第二断熱容器との間に、前記低熱伝導性緩衝材と共に、塩化ビニル等の素材の袋の中に空気を封入した空気袋を配置してもよい。これにより、空気袋の有する弾性により、輸送中に生じる振動や衝撃を緩衝する効果を有する。
【0019】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記第二断熱容器の内側であって、前記気密容器を囲むように密着した状態で配置される、蓄熱材が封入された第一蓄熱材ボックスを具備してもよい。第一蓄熱材ボックスの蓄熱材による熱量の放出/吸収により、気密容器の温度が維持される効果を有する。
【0020】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記気密容器の内側であって、前記培養容器収納部を囲むように密着した状態で配置される、蓄熱材が封入された第二蓄熱材ボックスを具備してもよい。第二蓄熱材ボックスにより気密容器の温度が維持される効果を有する。
【0021】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記蓄熱材として、炭化水素を用いたものでよい。これにより、確実に温度を一定に維持することができる。
【0022】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記第一蓄熱材ボックスまたは第二蓄熱材ボックスを、より小さな複数の分割蓄熱材ボックスに分割したものでよい。これにより、蓄熱材の内部で、熱の移動が容易となり、蓄熱材からの熱の放出効率が向上する効果を有する。
【0023】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記複数の分割蓄熱材ボックスを構成する面の少なくとも一部をステンレス等の高熱伝導性材で構成したものでよい。これにより、熱の伝導効率がさらに向上する効果を有する。
【0024】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記第一蓄熱材ボックスまたは第二蓄熱材ボックスまたは分割蓄熱材ボックスに複数の蓄熱材入り袋を配置し、当該蓄熱材入り袋間に高熱伝導性金属メッシュまたは高熱伝導性薄膜を配置してもよい。これにより、第一および第二蓄熱材ボックス内の熱の移動が容易となる効果が得られる。
【0025】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記第二断熱容器の高性能断熱材を、発泡スチロールやウレタンフォーム等を素材とする低熱伝導性緩衝材と、高熱伝導性金属メッシュまたは高熱伝導性金属薄膜とを交互に積層した直方体状の構造体を、方向をランダムにして間隙のないように複数配置して構成してもよい。このような構造をとることにより、発泡スチロールやウレタンフォーム等を素材とする低熱伝導性緩衝材による緩衝機能と、ステンレス等の高熱伝導性金属薄膜あるいは高熱伝導性金属メッシュが有する高熱伝導性を同時に有することが可能となる。
【0026】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記培養容器収納部、および、前記蓄熱材が封入された第二蓄熱材ボックスは、オートクレーブ処理等による無菌化が可能であり、細胞処理施設内の部屋間の移動に際して、パスボックス内部の通過が可能な大きさである。これにより、細胞処理施設内の培養を行う部屋へ、無菌性を維持した状態で、運ぶことが可能である。
【0027】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記気密容器の内側に、前記気密容器内の温度および圧力の変化を記録するための第一温度/圧力センサを設置してもよい。これにより、輸送中の気密容器内の温度と圧力の計測を行うことができる。
【0028】
また、本発明の細胞輸送容器において、前記気密容器の外側に、前記気密容器の外側の温度および圧力を測定し表示する第二温度/圧力センサを設置してもよい。これにより、輸送中に温度と圧力をモニタリングすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る細胞輸送容器によれば、細胞処理施設の培養環境と同じ温度、圧力を維持した状態で、再生組織等の生体試料を輸送することができる。また、細胞輸送容器の一部は滅菌が可能であるため、清浄性を確保した状態で、細胞処理施設の内部へ運び込むことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例を示すもので、細胞輸送容器の鉛直方向の構成を示す図。
【図2】本発明の一実施例を示すもので、細胞輸送容器の水平方向の構成を示す図。
【図3】本発明の一実施例を示すもので、細胞輸送容器の断熱構造へ空気袋を設置した構成を示す図。
【図4】本発明の一実施例を示すもので、蓄熱材ボックスを分割した場合の細胞輸送容器の鉛直方向の構成を示す図。
【図5】本発明の一実施例を示すもので、細胞輸送容器内の気密容器に培養容器を収容した状態の構成を示す図。
【図6】本発明の一実施例を示すもので、蓄熱材ボックスの内部に金属メッシュを設置した場合の構成を示す図。
【図7】本発明の一実施例を示すもので、高熱伝導性断熱材の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る細胞輸送容器について、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
図1、図2を用いて細胞輸送容器の基本的な構成要素を説明する。細胞輸送容器は、真空断熱材等の高性能断熱材により全壁面を構成した第一断熱容器101、201の内側に、衝撃や振動を吸収するための発泡スチロールやウレタンフォーム等を素材とする低熱伝導性緩衝材102、202が配置され、さらにその内側に、真空断熱材等の高性能断熱材により全壁面を構成した第二断熱容器103、203が配置される。二重に配置された高性能断熱材の間に低熱伝導性緩衝材102、202が配置されており、この低熱伝導性緩衝材102、202のない部分には空気のみが存在している。空気も熱伝導性が低い物質である。これにより、二重に配置された高性能断熱材の間にある、低熱伝導性緩衝材102、202と空気層は、緩衝効果と断熱効果を併せ持つことになる。また、図3に示したように、空気層の中に、塩化ビニル等の素材の袋の中に空気を封入した複数の空気袋301を設置しても良い。設置した空気袋は弾性を有し、緩衝材としての役割を担うことができる。つまり、空気袋301を設置することにより、緩衝効果を向上させることができる。
【0033】
第二断熱容器103、203の内側には、気密容器104、204と、気密容器の周辺を囲うように第一蓄熱材ボックス105、205を配置する。これらは密着した状態であり、第一蓄熱材ボックスの蓄熱材による熱量の放出/吸収の効果が、効率良く気密容器へ伝達される。気密容器104、204は、ステンレス等の高熱伝導性材により全壁面を構成し、ヒンジ式金具やネジ等の手段により気密化が可能である。第一蓄熱材ボックス105、205は、炭化水素等の蓄熱材が封入されており、例えばポリカーボネイト等のプラスチック素材の物質を用いる。蓄熱材は、例えば、CnH2n+2の一般式をもつ飽和鎖式炭化水素を用いる。Cの炭素数により融点が異なるが、細胞輸送容器において、一定にしたい内部温度の値に応じ、Cの数を決定する。例えばC20H42の化学式で表されるn−Eicosaneの場合、融点は36.4℃である。よってこの物質を蓄熱材ボックスの内部に封入した場合は、細胞輸送容器の内部温度は約36℃に維持することが可能となる。
【0034】
第一蓄熱材ボックス105、205と、後述する第二蓄熱材ボックス108は、より小さな蓄熱材ボックスへ、分割しても良い。蓄熱材は、温度が下がると、周辺部より凝固する。凝固した蓄熱材は、熱伝導性が低い。また、蓄熱材の内部に残っている、凝固していない液体状態の蓄熱材との対流はおこらなくなる。よって、凝固した蓄熱材の内側に閉じ込められた、液体状態の蓄熱材が有する熱量は、蓄熱材ボックスの外への放出効率が大きく低下する。ここで、蓄熱材ボックスを小さなものへ分割することにより、蓄熱材の内部で、熱の移動が容易になる。よって、蓄熱材からの熱の放出効率が向上する。図4は、第一蓄熱材ボックスを、より小さな分割蓄熱材ボックス401へ分割した例を示している。さらに、蓄熱材ボックスを構成する面の一部あるいは全てを、ステンレス等の高熱伝導性材に変えてもよい。これにより、熱の伝導効率がさらに向上する。但し、一般にステンレス等の高熱伝導性材は、ポリカーボネイト等のプラスチック素材に比べて重量が大きい。さらに、分割蓄熱材ボックスの大きさを小さくすればするほど、熱の伝導効率は向上するが、部品点数が増えるので細胞輸送容器としての扱いが煩雑となる。加えて、蓄熱材面を構成する材料の量が増えるので、細胞輸送容器全体の重量も増える。必要とする温度維持性能の程度を把握した上で、最適な蓄熱材ボックスを用いることが必要である。
【0035】
気密容器104、204の内側には、培養容器106、206を収容するステンレス等の高熱伝導性材を素材とする培養容器収容部107、207、炭化水素等の蓄熱材が封入された第二蓄熱材ボックス108、気密容器内の温度および圧力の変化を記録するための第一温度/圧力センサ109、209を配置する。培養容器収容部107、207は、第二蓄熱材ボックス108が囲うように位置している。また、これらは密着した状態であり、熱の伝導効率が高い状態となっている。温度/圧力センサ109、209は、輸送中の気密容器内の温度と圧力の計測を行う。但し、第一温度/圧力センサ109、209は気密容器の中に入れられており、細胞輸送容器の外側から、モニタリングしているデータを確認することができない。医療機関等への到着後に細胞輸送容器から取り出し、データを確認することになる。そのため、輸送中にモニタリングしているデータを確認できるよう、気密容器の外部に第二温度/圧力センサ110を設置する。第二温度/圧力センサ110は、第一および第二断熱容器の蓋部と発泡スチロールやウレタンフォーム等を素材とする低熱伝導性緩衝材を一体化した断熱蓋111の上に設置する。第二温度/圧力センサ110からは、コード112を介して第一蓄熱材105、205および気密容器104、204の間に設置した温度センサ部113がつながっている。これにより、第一蓄熱材と気密容器の間の温度を測定する。圧力については、気密容器の外側の圧力を測定する。断熱蓋111の上部には、断熱蓋111を抑え込む蓋114を設置する。これにより、輸送中は中味が外に出ないように押さえておく。蓋114の中央部には、透明な窓115を設置する。この窓より、その内側に設置された第二温度/圧力センサ110が常に表示する温度と圧力のデータを確認できる。
【0036】
図5は、再生組織等を含む生体試料の入った各種培養容器が、気密容器に収容された状態を示している。図5(A)は、6ウェルプレート501が鉛直方向に重ねられた状態である。図5(B)は、1.5mlサンプルチューブ502が入った状態である。図5(C)は、50mlサンプルチューブ503が入った状態である。使用する培養容器の形状と生体試料の入っている状態を考慮し、輸送中において、最適な位置に保持されるように培養容器収容部の形状を決定する。そして、それを囲むように蓄熱材ボックスを配置すれば良い。
【0037】
図6は、蓄熱材ボックスの中に入れる蓄熱材に関し、蓄熱材を塩化ビニル等の袋に収容した場合の、熱伝導効率を向上させる構成を示している。蓄熱材は、蓄熱材ボックスの中に直接入れ、外部へ漏れることがないように完全に封入しても良い。しかし、塩化ビニル等の袋に詰め、それを蓄熱材ボックスの中に詰めても良い。後者の場合、仮に異なる形状の蓄熱材ボックスを使用しても、袋詰めの蓄熱材を入れ替えるだけで良いという利点がある。そういった状況を想定した場合において、図6では、蓄熱材ボックス601の中に詰められた蓄熱材入り袋602の間に、ステンレス等の高熱伝導性金属メッシュ603を配置している。これにより、蓄熱材ボックスの内部で熱が効率良く移動することが可能となる。高熱伝導性金属メッシュ603は、軽く、高熱伝導性であれば別の部品でも良い。例えば、ステンレス等の金属薄膜でも良い。
【0038】
図7は、第二断熱容器を構成する高性能断熱材の中に詰める高熱伝導性緩衝材を示したものである。図7(A)は、高熱伝導性緩衝材を構成する基本単位を示している。発泡スチロールやウレタンフォーム等を素材とする低熱伝導性緩衝材701と、ステンレス等の高熱伝導性金属メッシュ702を、交互に積層し、直方体状としている。ステンレス等の高熱伝導性金属メッシュの代わりに、例えば、ステンレス等の金属薄膜でも良い。この基本単位を用い、図7(B)で示したように、方向をランダムにして接着剤等の手段により間隙のないように一体化したものを、高熱伝導性緩衝材として用いる。発泡スチロールやウレタンフォーム等を素材とする低熱伝導性緩衝材は、変形により、衝撃を緩衝する性質を有する。しかし一般的に発泡スチロールやウレタンフォーム等の素材は熱伝導性が低い。一方、ステンレス等の高熱伝導性金属メッシュや金属薄膜は、熱伝導性が良い。そして、変形が容易である。よって、低熱伝導性緩衝材により緩衝性能を有し、同時に、内部に組み込まれた金属メッシュあるいは金属薄膜により、高熱伝導性を有することが可能となる。
【0039】
以上の構成を有する細胞輸送容器を用い、細胞を輸送する時の一連の手順について説明する。
【0040】
<ステップS1:事前準備>
細胞を輸送するために必要な事前準備を行う。蓄熱材を封入した蓄熱材ボックスは、事前にオートクレーブバッグ等により包装し、その状態で滅菌処理を施し無菌化する。滅菌処理の方法は、オートクレーブ処理、エチレンオキシダイドガス処理、γ線照射等とし、滅菌処理を施すことにより、蓄熱材ボックスに対し、その性質を変化させない方法を選択する。例えば、蓄熱材が炭化水素C20H42である場合、蓄熱材ボックスの素材を金属または耐熱性のポリカーボネイトとし、炭化水素C20H42を完全に密封した状態で封入する。炭化水素C20H42の融点は344℃であるため、オートクレーブ処理(120℃)を施しても気化せず、蓄熱材ボックスの温度維持性能に関する影響はない。滅菌後は、蓄熱材に熱を蓄えるため、包装した状態で恒温槽の中に入れ、熱を蓄える。この恒温槽は、細胞処理を行う部屋の外にある、二次細胞輸送容器への包装を実施する部屋に設置しておくことが望ましい。
【0041】
蓄熱材の種類は、一定の融点を有する純物質、あるいは、熱容量が大きく融点の温度変化が小さい(例えば±1℃以下)物質を用いるものとする。例として炭化水素が挙げられる。例えばC20H42を使用する場合、融点は36.4℃である。Cの数の異なる炭化水素は、異なる融点を有する。よって、適切に炭化水素の種類を決定することにより、細胞輸送容器が一定に維持する温度の値を変えることが可能である。
【0042】
蓄熱材の封入された蓄熱材ボックスは、滅菌処理後、使用する温度帯の恒温槽の中に入れ、温度が安定するまで静置する。例として、融点が36.4℃である炭化水素C20H42の場合、輸送する外界の温度の大半が36.4℃以下である場合、恒温槽の温度は37℃とする。輸送中、外界の温度の方がC20H42の融点よりも温度が低いため、熱は細胞輸送容器の中から外へ出ていくからである。逆に、輸送する外界の温度の大半が36.4℃以上である場合、恒温槽の温度は36℃とする。輸送中、外界の温度の方がC20H42の融点よりも温度が高いため、熱は細胞輸送容器の中へ外から入り込むためである。
【0043】
気密容器、培養容器収容部、熱伝導性断熱材等についても、蓄熱材ボックスと同様に、包装した状態で滅菌処理を施す。真空断熱材、ヒートパネル、第一および第二温度/圧力センサ、温度コントローラ等から成る、各種滅菌に対する耐性を有していない機材については、エタノール消毒を施すこととする。
【0044】
<ステップS2:細胞処理施設内への運び込み>
滅菌を施した気密容器、培養容器収容部、蓄熱材ボックス、熱伝導性断熱材、第一および第二輸送用包装容器を、細胞処理施設内の細胞培養を実施する培養エリア(グレードBの清浄度)へ運び込む。細胞処理施設内の部屋間の移動に際しては、部屋の清浄性の維持と交差汚染防止のため、パスボックスを通過させる必要がある。パスボックスを通過させる時には、それぞれの構成部品に対し、包装の外側からエタノールを噴霧して消毒し、パスボックスの中に入れ、移動する部屋の側の扉から取り出す。
【0045】
細胞培養エリアに到着後、そこで包装を開け、包装の外側に触れないよう無菌的に取り出す。蓄熱材ボックスは、室温下に晒したままでは温度が変化するため、可能ならば同じ部屋に恒温槽を用意しておき、使用するまで恒温槽の中に入れ、温度変化を防ぐことが望ましい。
【0046】
第一温度/圧力センサの運び込みについては、事前に外部へエタノール消毒を施すとする。細胞を処理する部屋への機材等の持ち込みは、滅菌処理を施し無菌化することが望ましいが、機械装置に対し滅菌処理を施せないため、一般にエタノール処理のみを施す。
【0047】
<ステップS3:培養容器の収容>
恒温槽の中で培養していた培養容器を、安全キャビネット内へ移動する。安全キャビネット内では、必要に応じ、恒温槽の温度と同じ値に設定したヒートブロック等の設備をあらかじめ準備しておく。これを用い、細胞輸送容器への培養容器の収容が終了するまでの間、培養容器の温度を一定に維持する。
【0048】
安全キャビネット内に移動した培養容器に対し、蓋を取り外し、培養容器の中へ、溢れない程度に培地を満たす。培養容器の蓋を閉め、培地がこぼれないように注意しながら、培養容器と蓋の境界部分にパラフィルム等の伸縮性のシールを巻きつけ、密封する。この一連の操作は、内部が汚染される可能性を低くするため、手早く行う。
【0049】
<ステップS4:気密容器への収容>
事前に用意しておいた培養容器収容部へ、ステップS3にて包装した培養容器を収容する。次に、気密容器の内部へ、蓄熱材ボックス、培養容器を収容した培養容器収容部、温度/圧力センサを収容する。温度/圧力センサは、収容する前に電源を入れてモニタリングを開始し、輸送中の全行程にわたり、気密容器内部の温度および圧力を測定する。
【0050】
<ステップS5:気密容器の細胞処理施設外への運び出し>
気密容器を、細胞培養を実施する部屋(グレードBの清浄度)から、細胞処理施設外へ運び出す。部屋間の移動に際しては、交差汚染防止のため、エタノール噴霧により消毒してから、パスボックスを通過させる。その際、気密容器の周辺を、別途用意した断熱材で覆うことが望ましい。これは、気密容器自体は断熱性能を有しておらず、熱の移動が周辺との間で起こることにより、内部に収容している培養容器に対する温度維持性能が低下する可能性があるためである。また、パスボックスの内部の壁面は一般にステンレス素材である。パスボックスを通す際にステンレス素材の壁面と気密容器が接すると、ステンレス素材は熱伝導性が高いため、気密容器内部との熱のやり取りが急速に行われる。例えば蓄熱材がC20H42である場合、パスボックスの温度は室温(例えば22℃)であるため、蓄熱材の蓄えていた熱量が外部へ流出することになる。また、消毒のためにエタノール噴霧を行うが、噴霧したエタノールが気密容器の表面から気化する際に、気加熱を奪う。これは気密容器の有していた熱が奪われることに相当する。以上を考慮し、細胞処理施設内の部屋間を移動する際、気密容器の周囲は、断熱材で覆っておくことが望ましい。断熱材には、軽量で滅菌が可能であり、熱伝導性の低いポリウレタン等が例として挙げられる。
【0051】
断熱材で覆う以外に、気密容器を37℃で保温するヒーター上で運ぶ手段もある。この場合、ヒーターの動力源は乾電池等を用いた携帯可能なものである必要がある。また、エタノール噴霧を行うため、液体であるエタノールがヒーターの内部に入り込まない構造である必要がある。
【0052】
尚、ステップS4およびステップS5では、ステップS3で包装した培養容器を、培養容器収容部と気密容器へ順次収容してから、パスボックスを介して包装作業を実施する部屋まで運んでいる例を示している。この方法の代わりに、包装した培養容器の状態のまま、断熱材またはヒーターを利用してパスボックスを介して包装作業を実施する部屋まで運び、そこで培養容器収容部と気密容器へ順次収容しても良い。
【0053】
<ステップS6:気密容器の2次細胞輸送容器へのセット>
包装作業を実施する部屋まで運び、二次細胞輸送容器へ収容する。その際、この部屋に設置してある恒温槽の中へ気密容器を一旦収容し、細胞処理を行う部屋から包装作業を行う部屋まで移動する間に失った熱量を再び蓄えておくことが望ましい。
二次細胞輸送容器の中へ、蓄熱材ボックス、気密容器、第二温度/圧力センサを設置し、真空断熱材等から成る蓋を閉める。第二温度/圧力センサは、本体部分に温度と圧力を常時表示するディスプレイを有するものとする。第二温度/圧力センサの温度センサコードは気密容器の横へ設置し、気密容器の温度を測定する。圧力は、気密容器外のものを測定する。細胞輸送容器の一番外側の蓋の中央部に透明窓を設け、透明窓の下に第二温度/圧力センサを設置する。透明窓は開閉が可能で、必要に応じて透明窓を開けて第二温度/圧力センサを操作する。これにより、輸送中、細胞輸送容器の蓋を開閉することなく、気密容器の外側の温度と圧力の測定値の表示を読み取ることができる。細胞輸送容器の組み立てが終了したら、第二温度/圧力センサを稼働させ、温度と圧力の測定を開始する。
【0054】
<ステップS7:細胞輸送容器の輸送>
輸送先の医療機関の場所に応じ、移動手段を選択して細胞輸送容器を輸送する。輸送手段は主に、車両、鉄道、航空機、手運びである。車両、鉄道、航空機で運んでいる最中は、細胞輸送容器が横転しないよう、必要に応じて細胞輸送容器を床面に固定することが望ましい。また、手運びの場合は、細胞輸送容器が極力揺れないよう、輸送作業者が注意を払う。
【0055】
培養容器内の培地は、培養容器内に満たした状態となっているが、完全に満たすことはできないので気相もわずかに存在している。輸送中に培養容器が傾いた場合に生じる細胞への影響は、細胞が気相の中に入り乾くこと、細胞が気相と液相の間に生じた表面張力による作用を受けること、液相の中に対流が生じて細胞にシアストレスの生じることが想定される。これらは、培養容器内の気相部分が小さいほど、影響も小さくなる。本発明による輸送方法では、培地を培養容器内に極力満たした状態となっているため、輸送中の気相の影響は、あまり大きくないと考えられる。また、輸送中の傾きにより、生体試料にかかる重力の方向は、細胞処理施設内での培養時と比べ、変わる。この影響については、細胞輸送容器が直立している限りは、細胞処理施設内での培養時と同じ重力の方向である。また、細胞輸送容器が直立していない状態を長時間とることはない。よって、重力による影響は軽微と考えられる。
【0056】
<ステップS8:輸送先における受入検査>
輸送先である医療機関等への到着後は、まず、輸送中の生体試料の周辺温度と圧力の確認を行う。モニタリング装置のデータをPC等へ移動させ、評価を行う。続いて、輸送した生体試料の状態を確認する。検査の方法は様々にあるが、治療に用いるサンプルに対しては、非侵襲的な検査である必要がある。すなわち、生体試料に対し、直接的、もしくは培地等を介して、接触することとのない方法である。また、検査を行う時は、細胞輸送容器から培養容器を一旦取り出し、顕微鏡にて素早く評価を実施し、速やかに細胞輸送容器へ再び収容する。これにより、検査後も、培養容器は同じ温度下に保管されることになる。尚、治療に用いないサンプルについては、侵襲的な検査により、より詳細に調べてもよい。その場合、生体試料に対して各種処置を行い、細胞数、細胞生存率、組織構造、特定タンパク質の発現状況等を調べることが可能である
評価の結果、輸送したサンプルが治療に適することが確認できたならば、治療の準備を開始する。治療の準備に1日程度を要することはありうる。加えて、全ての医療機関に、恒温槽等の設備があるとは限らない。その場合は、医療機関に到着後も、治療を開始する時まで、細胞輸送容器の中に培養容器を収容したままにし、温度を維持する。
【0057】
<ステップS9:治療>
治療の準備が整ったら、治療を行う部屋(以下、手術室とする)への細胞輸送容器の移動を行う。移動する直前に温度/圧力センサを停止させ、その時点まで計測していた温度および圧力のモニタリングデータをPC等へ回収する。そして、細胞処理施設を出発してから、到着後、保管を終える時点までの温度および圧力が、許容範囲内であったことを確認する。確認後、細胞輸送容器を手術室へ運ぶ。この時、細胞輸送容器の中から気密容器を取り出し、それのみを運んでもよい。気密容器内には蓄熱材が入っており、気密容器単独でも、保管室から手術室へ運ぶ程度の短時間であれば、内部の温度を維持することが可能である。
【0058】
手術室へ着いたら、輸送用包装容器に包装された培養容器を取り出す。必要に応じ、この状態で、手術室に設置された恒温槽へ培養容器を入れ、所定の温度下に維持する。例えば、培養容器が温度応答性培養表面を有している場合、治療を行う直前に、低温処理(例として20℃下に30分晒す)を施し、温度応答性培養表面に接着していた生体試料を剥離させる。
続いて、生体試料を培養容器より取り出す。輸送用包装容器の外側は、日常空間を通過しているため、菌等の生物や粒子が付着している可能性が高い。よって、培養容器の内部が清浄性を維持するよう、開封する。
まず、手術室における不潔野の作業者が、エタノールあるいはイソジン等の消毒薬により、輸送用包装容器の外側を清拭する。そして、培養容器の蓋を取り去る。そして清潔野の作業者が、培養容器の外側に接することがないよう無菌的に、ピンセット等を用いて生体試料を取り出す。これを治療に用いる。
【符号の説明】
【0059】
101、201・・・第一断熱容器
102、202・・・低熱伝導性緩衝材
103、203・・・第二断熱容器
104、204・・・気密容器
105、205・・・第一蓄熱材ボックス
106、206・・・培養容器
107、207・・・培養容器収容部
108・・・第二蓄熱材ボックス
109、209・・・第一温度/圧力センサ
110・・・第二温度/圧力センサ
111・・・断熱蓋
112・・・コード
113・・・温度センサ部
114・・・蓋
115・・・窓
301・・・空気袋
401・・・分割蓄熱材ボックス
501・・・6ウェルプレート
502・・・1.5mlサンプルチューブ
503・・・50mlサンプルチューブ
601・・・蓄熱材ボックス
602・・・蓄熱材入り袋
603・・・高熱伝導性金属メッシュ
701・・・低熱伝導性緩衝材
702・・・高熱伝導性金属メッシュ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱材等の高性能断熱材により全壁面を構成した第一断熱容器と、
当該第一断熱容器の内側の少なくとも一部に配置される、衝撃吸収部材より構成される低熱伝導性緩衝材と、
当該低熱伝導性緩衝材の内側に配置される、真空断熱材等の高性能断熱材により全壁面を構成した第二断熱容器と、
当該第二断熱容器の内側に配置される気密容器と、
当該気密容器の内側に配置される培養容器収納部とを具備した細胞輸送容器。
【請求項2】
請求項1記載の細胞輸送容器において、
前記第一断熱容器と前記第二断熱容器との間に、前記低熱伝導性緩衝材と共に、塩化ビニル等の素材の袋の中に空気を封入した空気袋を配置したことを特徴とする細胞輸送容器。
【請求項3】
請求項1記載の細胞輸送容器において、
前記第二断熱容器の内側であって、前記気密容器を囲むように密着した状態で配置される、蓄熱材が封入された第一蓄熱材ボックスを具備することを特徴とする細胞輸送容器。
【請求項4】
請求項1記載の細胞輸送容器において、
前記気密容器の内側であって、前記培養容器収納部を囲むように密着した状態で配置される、蓄熱材が封入された第二蓄熱材ボックスを具備することを特徴とする細胞輸送容器。
【請求項5】
請求項3または4記載の細胞輸送容器において、
前記蓄熱材として、炭化水素を用いたことを特徴とする細胞輸送容器。
【請求項6】
請求項3または4記載の細胞輸送容器において、
前記第一蓄熱材ボックスまたは第二蓄熱材ボックスを、より小さな複数の分割蓄熱材ボックスに分割したことを特徴とする細胞輸送容器。
【請求項7】
請求項6記載の細胞輸送容器において、
前記複数の分割蓄熱材ボックスを構成する面の少なくとも一部をステンレス等の高熱伝導性材で構成したことを特徴とする細胞輸送容器。
【請求項8】
請求項3または4または6記載の細胞輸送容器において、
前記第一蓄熱材ボックスまたは第二蓄熱材ボックスまたは分割蓄熱材ボックスに複数の蓄熱材入り袋を配置し、当該蓄熱材入り袋間に高熱伝導性金属メッシュまたは高熱伝導性薄膜を配置したことを特徴とする細胞輸送容器。
【請求項9】
請求項1記載の細胞輸送容器において、
前記第二断熱容器の高性能断熱材を、発泡スチロールやウレタンフォーム等を素材とする低熱伝導性緩衝材と、高熱伝導性金属メッシュまたは高熱伝導性金属薄膜とを交互に積層した直方体状の構造体を、方向をランダムにして間隙のないように複数配置して構成したことを特徴とする細胞輸送容器。
【請求項10】
請求項4記載の細胞輸送容器において、
前記培養容器収納部、および、前記蓄熱材が封入された第二蓄熱材ボックスは、オートクレーブ処理等による無菌化が可能であり、細胞処理施設内の部屋間の移動に際して、パスボックス内部の通過が可能な大きさであることを特徴とする細胞輸送容器。
【請求項11】
請求項1記載の細胞輸送容器において、
前記気密容器の内側に、前記気密容器内の温度および圧力の変化を記録するための第一温度/圧力センサを設置したことを特徴とする細胞輸送容器。
【請求項12】
請求項1記載の細胞輸送容器において、
前記気密容器の外側に、前記気密容器の外側の温度および圧力を測定し表示する第二温度/圧力センサを設置したことを特徴とする細胞輸送容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−39102(P2013−39102A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179491(P2011−179491)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】