説明

細胞選択装置、細胞選択方法、および、プログラム

【課題】細胞の増殖速度または微生物のバイオマス産生等に基づく生産量と、複数の擾乱およびその生起確率を考慮した増殖抑制または生産量の低下等から計算される、当該生産量等がどの程度変動するかについての変動値と、を含むポートフォリオを、イールドリスク空間上にマップすることで、最適な細胞または微生物の組合せを選択することができる細胞選択装置、細胞選択方法、および、プログラムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、測定データに基づく細胞またはバイオマスの生産量、および、当該生産量がどの程度変動するかを示す変動値を細胞または条件ごとに設定し、設定された生産量および変動値に基づいて、複数の細胞または条件を組み合わせた場合の生産量および変動値の可変範囲を算出し、最適化手法を用いて、可変範囲における最適な組み合わせを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞選択装置、細胞選択方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバイオインフォティクス手法において、細胞等の培養データを解析する技術が開示されている。
【0003】
例えば、非特許文献1および非特許文献2に記載の解析手法においては、一定の培養条件下で培養されたがん細胞に対する抗癌剤の感度であるGI50(50% Growth Inhibition)およびクラスター分析を用いて分析する技術が開示されている。
【0004】
また、従来の投資理論において、資産を分散投資する方法が開示されている。
【0005】
例えば、非特許文献3に記載の現代投資理論で使われるポートフォリオ選択においては、複数の投資オプションを組み合わせることによって投資のリスクを低減させる方法が開示されている。具体的には、現代投資理論においては、一般的に期待リターン(収益)の高い金融商品は高いリスクを伴い、収益の低い金融商品はリスクも少ないため、期待リターンとリスク(標準偏差で示されるリターンのばらつき)との間にはトレードオフが存在すると考えられている。そこで、当該ポートフォリオ選択においては、投資家等が複数の金融商品を購入する際に、各々違う期待収益率とリスクを有している金融商品(投資商品)に関して、望ましい収益率と受容できるリスクとをもつ最適の組み合わせ(ポートフォリオ)を探す方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nakatsu N, Yoshida Y, Yamazaki K, Nakamura T, Dan S, Fukui Y, Yamori T. Chemosensitivity profile of cancer cell lines and identification of genes determining chemosensitivity by an integrated bioinformatical approach using cDNA arrays. Mol Cancer Ther. 2005 Mar;4(3):399−412.
【非特許文献2】Dan S, Tsunoda T, Kitahara O, Yanagawa R, Zembutsu H, Katagiri T, Yamazaki K, Nakamura Y, Yamori T. An integrated database of chemosensitivity to 55 anticancer drugs and gene expression profiles of 39 human cancer cell lines. Cancer Res. 2002 Feb 15;62(4):1139−47.
【非特許文献3】Markowitz, H.M. (1991) Portfolio selection: efficient diversification of investments. John Wiley & Sons
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1および非特許文献2に記載の解析手法においては、生体内の多様な環境とは違う固定された培養条件で培養されたがん細胞ごとに、抗癌剤の投与を行い、増殖抑制の有無を調べていた。そのため、当該解析手法においては、当該固定された培養条件にフィット(過剰適応)した細胞だけが増殖して選択的に残り、それ以外の細胞は継代にしたがって減少していた。従って、当該解析手法においては、抗癌剤のスクリーニングの際に、様々な環境で安定的にがんを抑制する抗癌剤または抗癌剤の組合せを特定することが難しいという問題点を有していた。
【0008】
また、非特許文献3に記載の従来のポートフォリオ選択においては、あくまで金融商品の合理的な分散投資に関する方法であり、生体情報への適用は考慮されていないため、生体情報を単純にポートフォリオ選択に組み込んだとしても最適な細胞等の組み合わせを決定することはできないという問題点を有していた。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、細胞の増殖速度または微生物のバイオマス産生等に基づく生産量と、複数の擾乱およびその生起確率を考慮した増殖抑制または生産量の低下等から計算される、当該生産量等がどの程度変動するかについての変動値と、を含むポートフォリオを、イールドリスク空間上にマップすることで、最適な細胞または微生物の組合せを選択することができる細胞選択装置、細胞選択方法、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するため、本発明の細胞選択装置は、記憶部と制御部とを少なくとも備えた細胞選択装置であって、上記記憶部は、複数の条件で培養された細胞の増殖またはバイオマスの生産に関する測定データを上記細胞ごとに記憶する測定データ記憶手段、を備え、上記制御部は、上記測定データ記憶手段に記憶された上記測定データに基づく上記細胞または上記バイオマスの生産量、および、当該生産量がどの程度変動するかを示す変動値を上記細胞または上記条件ごとに設定する設定手段と、上記設定手段により設定された上記生産量および上記変動値に基づいて、複数の上記細胞または上記条件を組み合わせた場合の上記生産量および上記変動値の可変範囲を算出する可変範囲算出手段と、最適化手法を用いて、上記可変範囲における最適な上記組み合わせを算出する最適化手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の細胞選択装置は、上記記載の細胞選択装置において、上記変動値は、上記生産量の標準偏差であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の細胞選択装置は、上記記載の細胞選択装置において、上記可変範囲算出手段は、上記生産量および上記変動値に基づき、複数の上記細胞または上記条件を組み合わせた場合の上記生産量および上記変動値の可変範囲を共分散に基づいて算出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の細胞選択装置は、上記記載の細胞選択装置において、上記最適化手段は、最適化手法を用いて、上記可変範囲における一定の上記変動値の下で上記生産量を最大化する有効フロンティアに最も近い上記組み合わせを算出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の細胞選択装置は、上記記載の細胞選択装置において、上記最適化手法は、パレート最適化、遺伝的アルゴリズム、最小二乗法、または、適切な確率的および解析的最適化手法であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の細胞選択装置は、上記記載の細胞選択装置において、上記複数の細胞は、複数の種類の上記細胞であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の細胞選択装置は、上記記載の細胞選択装置において、上記複数の細胞は、単一の種類の複数の上記細胞であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の細胞選択装置は、上記記載の細胞選択装置において、上記細胞は、微生物であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の細胞選択装置は、上記記載の細胞選択装置において、上記細胞は、がん細胞であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の細胞選択装置は、上記記載の細胞選択装置において、上記測定データは、上記細胞の増殖を50%に抑制する化合物の濃度であるGI50であり、上記生産量は、上記GI50の逆数であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の細胞選択方法は、記憶部と制御部とを少なくとも備えた細胞選択装置において実行される細胞選択方法であって、上記記憶部は、複数の条件で培養された細胞の増殖またはバイオマスの生産に関する測定データを上記細胞ごとに記憶する測定データ記憶手段、を備え、上記制御部において実行される、上記測定データ記憶手段に記憶された上記測定データに基づく上記細胞または上記バイオマスの生産量、および、当該生産量がどの程度変動するかを示す変動値を上記細胞または上記条件ごとに設定する設定ステップと、上記設定ステップにて設定された上記生産量および上記変動値に基づいて、複数の上記細胞または上記条件を組み合わせた場合の上記生産量および上記変動値の可変範囲を算出する可変範囲算出ステップと、最適化手法を用いて、上記可変範囲における最適な上記組み合わせを算出する最適化ステップと、を含むことを特徴とする。
【0021】
また、本発明のプログラムは、記憶部と制御部とを少なくとも備えた細胞選択装置に実行させるためのプログラムであって、上記記憶部は、複数の条件で培養された細胞の増殖またはバイオマスの生産に関する測定データを上記細胞ごとに記憶する測定データ記憶手段、を備え、上記制御部において、上記測定データ記憶手段に記憶された上記測定データに基づく上記細胞または上記バイオマスの生産量、および、当該生産量がどの程度変動するかを示す変動値を上記細胞または上記条件ごとに設定する設定ステップと、上記設定ステップにて設定された上記生産量および上記変動値に基づいて、複数の上記細胞または上記条件を組み合わせた場合の上記生産量および上記変動値の可変範囲を算出する可変範囲算出ステップと、最適化手法を用いて、上記可変範囲における最適な上記組み合わせを算出する最適化ステップと、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、測定データに基づく細胞またはバイオマスの生産量、および、当該生産量がどの程度変動するかを示す変動値を細胞または条件ごとに設定し、設定された生産量および変動値に基づいて、複数の細胞または条件を組み合わせた場合の生産量および変動値の可変範囲を算出し、最適化手法を用いて、可変範囲における最適な組み合わせを算出するので、抗生物質およびバイオエタノール等のバイオマス生産において、条件が変動しやすいプラントでの最適な微生物の組み合わせを見つけることができ、効率的なバイオマス生産の運用をすることができるという効果を奏する。また、抗癌剤等の薬剤のスクリーニングにおいて、個体間および体内環境等の多様な差異に関係なくがんを効率的に抑制する新薬の開発を行うことができるという効果を奏する。
【0023】
また、この発明によれば、変動値は、生産量の標準偏差であるので、細胞の増殖速度やバイオマス生産量のばらつきを数値化することができるという効果を奏する。
【0024】
また、この発明によれば、生産量および変動値に基づき、複数の細胞または条件を組み合わせた場合の生産量および変動値の可変範囲を共分散に基づいて算出するので、細胞株間の相関および反相関を考慮したポートフォリオ選択可能領域を設定することができるという効果を奏する。
【0025】
また、この発明によれば、最適化手法を用いて、可変範囲における一定の変動値の下で生産量を最大化する有効フロンティアに最も近い組み合わせを算出するので、一定のリスク下で理論上もっとも効率的な生産を行う細胞等の組み合わせに近い細胞等の組み合わせを選択することができるという効果を奏する。
【0026】
また、この発明によれば、最適化手法は、パレート最適化、遺伝的アルゴリズム、最小二乗法、または、適切な確率的および解析的最適化法であるので、汎用的な計算方法を用いることで、処理時間を短縮することができるという効果を奏する。
【0027】
また、この発明によれば、複数の細胞は、複数の種類の細胞であるので、遺伝的多様性をもつがん細胞群等に対して効率的に増殖抑制させる抗癌剤等のスクリーニングに利用できるという効果を奏する。
【0028】
また、この発明によれば、複数の細胞は、単一の種類の複数の細胞であるので、特定の細胞を効率的に増殖させる条件等の組み合わせを特定することができるという効果を奏する。
【0029】
また、この発明によれば、細胞は、微生物であるので、抗生物質やバイオエタノール等の生産に活用することができるという効果を奏する。
【0030】
また、この発明によれば、細胞は、がん細胞であるので、抗癌剤の開発に活用することができるという効果を奏する。
【0031】
また、この発明によれば、測定データは、細胞の増殖を50%に抑制する化合物の濃度であるGI50であり、生産量は、GI50の逆数であるので、汎用的な指標を用いることにより、自前の測定データが少ない場合でも今まで世界中で蓄積されたデータを用いることで最適な細胞または抗癌剤の組み合わせを特定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本実施の形態の基本原理を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本実施の形態におけるイールドリスク空間の一例を示した図である。
【図3】図3は、本実施の形態における各細胞の生産量およびポートフォリオに対する期待イールドの確率分布の一例を示した図である。
【図4】図4は、本実施の形態における無差別曲線の一例を示した図である。
【図5】図5は、本実施の形態における無差別曲線の一例を示した図である。
【図6】図6は、本実施の形態が適用される本細胞選択装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図7】図7は、本実施の形態における細胞選択装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】図8は、本実施の形態における細胞選択装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】図9は、本実施の形態における異なる擾乱による細胞の増加率の変化の一例を示した図である。
【図10】図10は、本実施の形態における異なる擾乱による細胞の増加率の変化の一例を示した図である。
【図11】図11は、本実施の形態における異なる擾乱による細胞の増加率の変化の一例を示した図である。
【図12】図12は、本実施の形態における異なる擾乱による細胞の状態変化の一例を示した図である。
【図13】図13は、本実施の形態における異なる擾乱による細胞の状態変化の一例を示した図である。
【図14】図14は、本実施の形態における測定データの一例を示す図である。
【図15】図15は、本実施の形態における細胞の多点サンプリングの一例を示す概念図である。
【図16】図16は、本実施の形態におけるイールドリスク空間への投射の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明にかかる細胞選択装置、細胞選択方法、および、プログラムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0034】
特に以下の実施の形態においては、本発明を製薬およびバイオマス生産に適用した例について説明するが、この場合に限られず、細胞培養を用いる全ての技術分野において、同様に適用することができる。
【0035】
[本発明の実施の形態の概要]
以下、本発明の実施の形態の概要について図1〜図5を参照して説明し、その後、本実施の形態の構成および処理等について詳細に説明する。図1は、本実施の形態の基本原理を示すフローチャートである。
【0036】
本実施の形態は、概略的に、以下の基本的特徴を有する。すなわち、本実施の形態の細胞選択装置の制御部は、図1に示すように、記憶部に記憶された複数の条件で培養された細胞の増殖またはバイオマスの生産に関する測定データに基づく細胞またはバイオマスの生産量(イールド)、および、当該生産量がどの程度変動するかを示す変動値(リスク)を細胞または条件ごとに設定する(ステップSA−1)。ここで、変動値は、生産量の標準偏差であってもよい。また、制御部102は、更に、生産量を各々の培養条件における擾乱および細胞の生起確率を想定して設定してもよい。
【0037】
そして、本細胞選択装置の制御部は、ステップSA−1にて設定した生産量(イールド)および変動値(リスク)に基づいて、複数の細胞または条件の組み合わせ(ポートフォリオ)を作った場合の生産量(イールド)および変動値(リスク)の可変範囲(ポートフォリオ選択可能領域)を算出する(ステップSA−2)。ここで、制御部102は、生産量および変動値に基づき、複数の細胞または条件を組み合わせた場合の生産量および変動値の可変範囲を共分散に基づいて算出してもよい。また、制御部102は、生産量および変動値に基づき、細胞間の相関および反相関を共分散の計算方法を用いて計算し、複数の細胞または条件を組み合わせた場合の生産量および変動値の可変範囲を算出してもよい。また、複数の細胞は、複数の種類の細胞であってもよく、単一の種類の複数の細胞であってもよい。
【0038】
そして、本細胞選択装置の制御部は、最適化手法を用いて、可変範囲(ポートフォリオ選択可能領域)における最適な細胞または条件の組み合わせを算出(ポートフォリオ選択)し(ステップSA−3)、処理を終了する。ここで、制御部102は、最適化手法を用いて、可変範囲における一定の変動値の下で生産量を最大化する有効フロンティアに最も近い組み合わせを算出してもよい。また、最適化手法は、パレート最適化、遺伝的アルゴリズム、最小二乗法、または、その他の適切な確率的および解析的最適化手法であってもよい。
【0039】
ここで、図2乃至図5を参照して、ポートフォリオ選択の基本概念について説明する。図2は、本実施の形態におけるイールドリスク空間の一例を示した図である。図3は、本実施の形態における各細胞の生産量およびポートフォリオに対する期待イールドの確率分布の一例を示した図である。図4は、本実施の形態における無差別曲線の一例を示した図である。図5は、本実施の形態における無差別曲線の一例を示した図である。
【0040】
図2に示すように、どのような細胞の組合せ(ポートフォリオ)も、イールドリスク空間上にマップすることにより、ポートフォリオの選択を可視化することができる。ここで、イールド(パフォーマンス)は、細胞の生産量として示され、リスクは、生産量の変動として示される。
【0041】
ここで、図3に示すように、期待イールドは、各々の細胞A、BおよびCのイールド、および、細胞の組み合わせであるポートフォリオ(ポートフォリオX、YおよびZ)のイールドの統計分散からの期待値から求められる。
【0042】
また、図2に戻り、このように求められた細胞A、BおよびCのイールドおよびリスクは、イールドリスク空間上で点A、BおよびCとして表すことができる。そして、図2において、点A、BおよびCの各組み合わせ(ポートフォリオ)は、イールドリスク空間上において、外縁に有効フロンティアを含む可変範囲(ポートフォリオ選択可能領域)として求めることができる。
【0043】
ここで、例えば、図2において、ポートフォリオXは、有効フロンティア上のポートフォリオYおよびポートフォリオZに対して劣っている。すなわち、ポートフォリオYは、同じリスクにおいてポートフォリオXよりも高い期待イールドを有している(つまり、ポートフォリオXは、同じリスクで期待イールドが低い)。また、ポートフォリオZは、同じ期待イールドでポートフォリオXよりも少ないリスクとなっている(つまり、ポートフォリオXは、同じ期待イールドでリスクが高い)。
【0044】
ここで、有効フロンティアとは、一定のリスク下で期待イールドを最大化する最適な組み合わせの細胞からなるイールドリスク空間上での点の集合であり、有効フロンティア上から外れている細胞の組み合わせは、有効フロンティア上にある組み合わせに対して劣るものとなる。しかしながら、有効フロンティア上では、期待イールドの変化は、直ちにリスクの変化へと直結しているため、リスクと期待イールドとのトレードオフは、有効フロンティア上にある最適化されたポートフォリオに生じる。また、理論的には、有効フロンティア上に無いどのようなポートフォリオも、リスクの増大無しに期待イールドを最大化すること、または、期待イールドの低下無しにリスクを低減させることができる。例えば、図2に示すポートフォリオXから伸びる矢印のように、ポートフォリオXも、再編成する事で有効フロンティアに近づけることが可能である。
【0045】
更に、図4および図5に示すように、イールドリスク空間上に、特定にリスク選好下での等効用の点の集合である無差別曲線を定義することにより、ポートフォリオの価値評価(最適化)を行うことができる。これにより、有効フロンティア上にあり、且つ、無差別曲線上にあるポートフォリオの選択をすることができる。つまり、図4に示すリスク回避型無差別曲線を用いることで、リスクを回避しながら期待イールドを最大化しようとする場合のポートフォリオ選択をすることができる。また、図5に示すリスク中立型無差別曲線を用いることで、期待イールドの最大化のみに着目した場合のポートフォリオ選択をすることができる。
【0046】
以上で、本実施の形態の概要の説明を終える。
【0047】
[細胞選択装置100の構成]
次に、本細胞選択装置100の構成について図6を参照して説明する。図6は、本実施の形態が適用される本細胞選択装置100の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本実施の形態に関係する部分のみを概念的に示している。
【0048】
図6において細胞選択装置100は、概略的に、制御部102と記憶部106とを備える。ここで、制御部102は、細胞選択装置100の全体を統括的に制御するCPU等である。また、記憶部106は、各種のデータベースやテーブルなどを格納する装置である。これら細胞選択装置100の各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。更に、この細胞選択装置100は、ルータ等の通信装置および専用線等の有線または無線の通信回線を介して、ネットワークに通信可能に接続されていてもよい。
【0049】
記憶部106に格納される各種のデータベースやテーブル(測定データベース106a)は、固定ディスク装置等のストレージ手段である。例えば、記憶部106は、各種処理に用いる各種のプログラム、テーブル、ファイル、データベース、および、ウェブページ等を格納する。
【0050】
これら記憶部106の各構成要素のうち、測定データベース106aは、複数の条件(培養条件および擾乱等)で培養された細胞の増殖またはバイオマスの生産に関する測定データ(例えば、複数の条件下で培養された各細胞の、各々の条件下での増殖速度またはバイオマス産生などのイールド(生産量)として採用したい指標等)を細胞ごとに記憶する測定データ記憶手段である。ここで、細胞は、微生物であってもよい。また、細胞は、がん細胞であってもよい。また、測定データは、細胞の増殖を50%に抑制する化合物の濃度であるGI50であってもよい。
【0051】
また、図6において、制御部102は、OS(Operating System)等の制御プログラムや、各種の処理手順等を規定したプログラム、および、所要データを格納するための内部メモリを有する。そして、制御部102は、これらのプログラム等により、種々の処理を実行するための情報処理を行う。制御部102は、機能概念的に、設定部102a、可変範囲算出部102b、および、最適化部102cを備える。
【0052】
このうち、設定部102aは、測定データベース106aに記憶された測定データに基づく細胞またはバイオマスの生産量、および、当該生産量がどの程度変動するかを示す変動値を細胞または条件ごとに設定する設定手段である。ここで、変動値は、生産量の標準偏差であってもよい。また、生産量は、GI50の逆数であってもよい。また、設定部102aは、更に、生産量を各々の培養条件における擾乱および細胞の生起確率を想定して設定してもよい。
【0053】
また、可変範囲算出部102bは、設定部102aにより設定された生産量および変動値に基づいて、複数の細胞または条件を組み合わせた場合の生産量および変動値の可変範囲を算出する可変範囲算出手段である。ここで、可変範囲算出部102bは、生産量および変動値に基づき、複数の細胞または条件を組み合わせた場合の生産量および変動値の可変範囲を共分散に基づいて算出してもよい。また、可変範囲算出部102bは、生産量および変動値に基づき、細胞間の相関および反相関を共分散の計算方法を用いて計算し、複数の細胞または条件を組み合わせた場合の生産量および変動値の可変範囲を算出してもよい。また、複数の細胞は、複数の種類の細胞であってもよく、単一の種類の複数の細胞であってもよい。
【0054】
また、最適化部102cは、最適化手法を用いて、可変範囲における最適な組み合わせを算出する最適化手段である。ここで、最適化部102cは、最適化手法を用いて、可変範囲における一定の変動値の下で生産量を最大化する有効フロンティアに最も近い組み合わせを算出してもよい。また、最適化手法は、パレート最適化、遺伝的アルゴリズム、最小二乗法、または、任意の確率的および解析的最適化法であってもよい。
【0055】
[細胞選択装置100の処理]
次に、このように構成された本実施の形態における本システムの処理の一例について、以下に図7乃至図16を参照して詳細に説明する。
【0056】
[処理1(バイオマス生産)]
まず、本実施の形態におけるバイオマス生産における細胞選択装置100の処理の詳細について図7を参照して説明する。図7は、本実施の形態における細胞選択装置100の処理の一例を示すフローチャートである。
【0057】
図7に示すように、設定部102aは、測定データベース106aに記憶された測定データに含まれる複数の条件(培養条件および擾乱等)で培養された微生物(サブグループ)ごとのバイオマス(エタノール、および抗生物質等)の生産量を、測定データベース106aから取得し、当該生産量(の平均値)をイールドとしてサブグループごとに設定する(ステップSB−1)。ここで、測定データベース106aに記憶された測定データは、複数の遺伝的背景を有する微生物(サブグループ)を別々に、想定される(単一または複数の)条件下で培養したバイオマスの生産量であってもよい。また、測定データベース106aに記憶された測定データは、培養過程において、想定される培養条件の変動を同定し、各々の想定出現確率を想定する場合に、各々の条件に対応した複数の培養条件において測定されたバイオマスの生産量であってもよい。
【0058】
そして、設定部102aは、ステップSB−1にて取得したバイオマスの生産量の変動に関する標準偏差を算出し、リスクとしてサブグループごとに設定する(ステップSB−2)。
【0059】
そして、設定部102aは、ステップSB−1にて設定したイールドおよびステップSB−2にて設定したリスクをサブグループの座標として、イールドリスク空間に投射(マップ)する(ステップSB−3)。
【0060】
そして、可変範囲算出部102bは、ステップSB−3にて設定部102aによりイールドリスク空間に投射されたサブグループごとの座標に基づき、サブグループ間の相関および反相関を共分散の計算方法を用いて計算し、複数のサブグループの組み合わせ(ポートフォリオ)の可変範囲(ポートフォリオ選択可能領域)を算出する(ステップSB−4)。
【0061】
そして、最適化部102cは、別途定義する無差別曲線をイールドリスク空間で用いた最適化(例えば、パレート最適化、遺伝的アルゴリズム、または、最小二乗法等)を行うことで、ステップSB−4にて算出されたポートフォリオ選択可能領域における有効フロンティアに最も近い最大効用となるサブグループの組み合わせ(ポートフォリオ)と比率とを算出する(ステップSB−5)。これにより、このバイオマス・プラントにおける最適運用条件(例えば、安定的に生産量を確保するために、どの様な微生物をどの様な割合でタンク中において培養するか等)を設定することができ、培養条件が変動するプラントの最適運用に効果がある。
【0062】
[処理2(抗癌剤のスクリーニング)]
次に、抗癌剤のスクリーニングにおける細胞選択装置100の処理の詳細について図8乃至図16を参照して説明する。図8は、本実施の形態における細胞選択装置100の処理の一例を示すフローチャートである。
【0063】
図8に示すように、抗癌剤のスクリーニングにおいて、設定部102aは、測定データベース106aに記憶された複数の条件(例えば、抗癌剤の投与などの培養条件および擾乱等)で培養されたがん細胞の増殖に関する測定データ(がん細胞の増殖を50%に抑制する抗癌剤の濃度であるGI50)に基づき、当該GI50の逆数(の平均値)をがん細胞の増殖抑制効率として細胞ごとに算出し、生産量(イールド)としてがん細胞ごとまたは抗癌剤ごとに設定する(ステップSC−1)。ここで、イールド(生産量)は、抗癌剤のミリグラムあたりの抑制効率、すなわち、抗癌剤の最大許容濃度に対する投与濃度に対する増殖抑制効率等であってもよい。
【0064】
ここで、図9乃至図16を参照して、本実施の形態における測定データベース106aに記憶された測定データの一例について説明する。
【0065】
通常、抗癌剤のスクリーニングの場合、がん細胞は、体内の環境とは違う固定された培養条件で培養されている。従って、がん細胞は、その固定された培養条件にフィットしている細胞が最も増殖するため、このような条件に適したがん細胞に対して効果を有する化合物を新薬候補として開発を進めても、実際の臨床では期待と違う結果になる可能性がある。そこで、本実施の形態における測定データとしては、この培養条件への過剰適応を防止するために、複数の条件擾乱を想定し、それらをある確率で実際に培養したがん細胞の測定データを用いてもよい。これにより、本実施の形態におけるがん細胞の測定データは、培養条件に過剰適応した測定データのみとはならず、適切な抗癌剤のスクリーニングが可能となる。ここで、当該条件擾乱としては、日周周期に依存するNADP、ATP、およびグルコース等の因子の変動、ならびに、周期性の遺伝子発現の変化等であってもよい。これらの条件擾乱は、細胞培養において、培地の組成の変更、および、細胞へのRNAiの導入などいろいろな手法で近似することができる。
【0066】
ここで、図9乃至図13を参照して、本実施の形態における条件擾乱の細胞培養に与える影響について説明する。図9乃至図11は、本実施の形態における異なる擾乱による細胞の増加率の変化の一例を示した図である。図12および図13は、本実施の形態における異なる擾乱による細胞の状態変化の一例を示した図である。
【0067】
図9に示すように、例えば、サブタイプAの細胞は、擾乱無しの状態で培養された場合、細胞全体の平均増加率に対して約1.4倍の増加率であり、擾乱1下で培養された場合、約0.5倍の増加率であり、擾乱2下で培養された場合、約0.8倍の増加率であり、擾乱3下で培養された場合、約0.3倍の増加率であり、擾乱4下で培養された場合、約0.7倍の増加率であった。また、図10に示すように、例えば、サブタイプBの細胞は、擾乱無しの状態で培養された場合、細胞全体の平均増加率に対して約1.1倍の増加率であり、擾乱1下で培養された場合、約0.9倍の増加率であり、擾乱2下で培養された場合、約0.5倍の増加率であり、擾乱3下で培養された場合、約1.3倍の増加率であり、擾乱4下で培養された場合、約0.6倍の増加率であった。また、図11に示すように、例えば、同種の細胞のうちサブタイプCの細胞は、擾乱無しの状態で培養された場合、細胞全体の平均増加率に対して約1.5倍の増加率であり、擾乱1下で培養された場合、約0.5倍の増加率であり、擾乱2下で培養された場合、約0.2倍の増加率であり、擾乱3下で培養された場合、約0.2倍の増加率であり、擾乱4下で培養された場合、約0.3倍の増加率であった。
【0068】
ここで、図9において増加率が上昇した細胞群と減少した細胞群をさらに詳しく調べたところ、図12に示すように、擾乱無しの状態で培養されたサブタイプAの細胞は、細胞死した細胞が無く、分裂期にある細胞の数が非分裂期にある細胞の数を上回っていた。一方、図13に示すように、擾乱4下で培養されたサブタイプAの細胞は、細胞死した細胞が無く、細胞死した細胞および非分裂期にある細胞の数が、分裂期にある細胞の数を上回っていた。このように、図9から図13に示すように、同種の異なるサブタイプの細胞だけでなく同一の遺伝的変異をもつ細胞間でも、擾乱により増殖速度等に変化が生じることがわかる。
【0069】
そこで、本実施の形態における測定データベース106aに記憶された測定データとしては、各々のがん細胞株に対して複数の条件擾乱の下で培養し、各々の条件擾乱において抗癌剤を添加して増殖速度を測定したデータ、および、各々の条件擾乱下におけるGI50を測定したデータを用いてもよい。例えば、実環境のいくつかの断片をC種の擾乱の下で、抗癌剤なし、および、N種の抗癌剤(候補化合物)をD種類の濃度での投与下において培養した場合、C*(1+N*D)種類の培養を行うことができる。それにより、細胞のGI50は、抗癌剤無しの培養結果を参照データとして、C*N*D種類算出することができる。なお、本実施の形態において抗癌剤投与の際に、想定される擾乱が想定確率で引き起こされるとするならば、GI50が小さく、リスク(標準偏差)が少ない抗癌剤が最も望まれることになる。このように、実際の体内環境に近い擾乱の組み合わせとその出現確率を設定する事で、候補となる抗癌剤から、最も実環境での効果が大きいと想定させる化合物を予測することができる。
【0070】
そして、設定部102aは、C種類の培養条件が一定の確率で出現する場合、その設定でイールドを計算してもよい。さらに、設定部102aは、この出現確率が変動するケースを複数想定し、各々のケースに関して、イールドを計算してもよい。
【0071】
更に、図14および図15を参照して、本実施の形態における測定データベース106aに記憶された測定データの一例について説明する。図14は、本実施の形態における測定データの一例を示す図である。図15は、本実施の形態における細胞の多点サンプリングの一例を示す概念図である。
【0072】
がん細胞についての様々な研究により、一人の患者の腫瘍の中であっても遺伝的に多様ながん細胞が混在していることがわかっている(Baisse B, Bouzourene H, Saraga EP, Bosman FT, Benhattar J. Intratumor genetic heterogeneity in advanced human colorectal adenocarcinoma. Int J Cancer. 2001 Aug 1;93(3):346−52.)。そのため、ひとつの抗癌剤では、そのなかの特定の変異を有するがん細胞に効果があっても、他の変異を有している癌細胞には効果が見られない、すなわち、当該抗癌剤に対して耐性を有する場合がある。したがって、この様な状態で抗癌剤を投与した場合、癌の遺伝的多様性により、抗癌剤下で増殖が維持できる癌が大きな比率を占めるようになる。そこで、このような癌の遺伝的多様性に対応する方法としては、別の抗癌剤を使用する事、すなわち、複数の抗癌剤を混合して使用することが必要となる。
【0073】
そこで、図14に示すように、本実施の形態における測定データベース106aに記憶された測定データとしては、例えば、抗癌剤1乃至抗癌剤n(n:自然数)を、HBC4、BSY1、HBC5、および、MCF7等を含むm(m:自然数)種類のがん細胞に投与した際の例えば対数でスケール変換したGI50(7.04、8.69、7,92、および7.86等)が用いられてもよい。また、図14に示すように、本実施の形態における測定データベース106aに記憶された測定データとしては、抗癌剤1乃至n(n:自然数)を、HBC4、BSY1、HBC5、および、MCF7等を含むm(m:自然数)種類のがん細胞に投与した際の例えば対数でスケール変換したGI50の逆数(0.142045455、0.115074799、0.126262626、および0.127226463等)が用いられてもよい。図14の場合、がん細胞の種類自体が違う例であるが、一つの腫瘍の塊に混在する遺伝的に多様ながん細胞においても、何らかのマーカーを利用して細胞クラスター毎に分離培養を行い、算出された当該細胞クラスターの対数変換したGI50等を、本実施の形態における測定データベース106aに記憶された測定データとして用いてもよい。
【0074】
なお、設定部102aは、対数変換したGI50の逆数の平均値(0.1276)を抗癌剤1のイールド(増殖抑制効率)として設定し、対数変換したGI50の標準偏差(0.011)を抗癌剤1のリスクとして設定してもよい。
【0075】
なお、本実施形態において、例えば、抗癌剤1で、各々のがん細胞サブグループに対する増殖抑制効率が設定部102aにより設定されたときに、抗癌剤2は、逆の増殖抑制効率のパターンを有する抗癌剤2が設定部102aにより設定され、後述する最適化部102cにより最適な組み合わせとして選択された場合、同時に使用することにより一様に癌細胞の増殖を抑制する抗癌剤の設計が可能となる。このような計算は、臨床現場での薬剤選択に利用する事が可能であると同時に、製薬企業が、現在市場に存在する、または、開発中の抗癌剤に対して、組み合わせで投与することを推薦する抗癌剤としてスクリーン条件として計算する事も可能である。
【0076】
また、本実施の形態における測定データベース106aに記憶された測定データを採取する細胞株は、患者のがん細胞の多様性を何らかの形で調査することで、そこで同定されたがん細胞サブグループと、最も類似の薬剤応答をする標準的がん細胞株を、代理のスクリーニング利用細胞(サロゲート細胞)として選択してもよい。例えば、本実施の形態における測定データベース106aに記憶された測定データを採取する細胞株は、図15に示すように、外科的に摘出された腫瘍やニードル・バイオプシーなどで多点サンプリングされたサンプルからその小区画を各々スクリーング(例えば、薬剤に基づくスクリーニング等)および遺伝子解析(例えば、シークエンシングおよび発現プロファイル解析等)などを行い、その結果から、既知のがん細胞株で最も似た応答をするものをサロゲート細胞株として選択してもよい。
【0077】
図8に戻り、設定部102aは、ステップSC−1にて設定したイールドがどの程度変動するかを示す標準偏差を細胞ごとに算出し、変動値(リスク)として設定する(ステップSC−2)。ここで、設定部102aは、期待イールドとイールド変動に関する標準偏差の算出を、各々の培養条件に関する確率密度として計算してもよい。
【0078】
そして、設定部102aは、ステップSC−1にて設定したイールドおよびステップSC−2にて設定したリスクを細胞または抗癌剤の座標として、イールドリスク空間に投射(マップ)する(ステップSC−3)。
【0079】
ここで、図16を参照して、本実施の形態におけるイールドリスク空間への投射の一例について説明する。図16は、本実施の形態におけるイールドリスク空間への投射の一例を示す図である。
【0080】
図16に示すように、設定部102aは、培養条件1乃至3における図9乃至図11に示した擾乱なしおよび擾乱(P)1乃至4でのサブタイプA、B、およびCの細胞ごとの増加率と、培養条件1から3における擾乱なしおよび擾乱(P)1から4の生起確率とに基づき、培養条件1から3におけるサブタイプA、B、およびCの細胞のイールドおよびリスクをイールドリスク空間に投射している。
【0081】
図8に戻り、可変範囲算出部102bは、設定部102aにより投射されたイールドリスク空間における座標に基づき、複数の細胞または抗癌剤の組み合わせ(ポートフォリオ)の可変範囲であるポートフォリオ選択可能領域を算出する(ステップSC−4)。
【0082】
そして、最適化部102cは、予め定めた無差別曲線を利用した最適化手法を用いて、可変範囲における最適な組み合わせ(ポートフォリオ)を算出し、どの条件(抗癌剤の投与)で培養されたがん細胞の組み合わせが最も効果的であるか等を特定し、複数の抗癌剤のなかで最適な抗癌剤の組み合わせを選択し(ステップSC−5)、処理を終了する。これにより、製薬企業等のユーザは、どの候補化合物を継続開発の対象にするかを決定することができる。
【0083】
[他の実施の形態]
さて、これまで本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施の形態にて実施されてよいものである。
【0084】
例えば、細胞選択装置100がスタンドアローンの形態で処理を行う場合を一例に説明したが、細胞選択装置100は、クライアント端末(細胞選択装置100とは別筐体である)からの要求に応じて処理を行い、その処理結果を当該クライアント端末に返却するようにしてもよい。
【0085】
また、実施の形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0086】
このほか、上記文献中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0087】
また、細胞選択装置100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0088】
例えば、細胞選択装置100の各装置が備える処理機能、特に制御部102にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。尚、プログラムは、後述する記録媒体に記録されており、必要に応じて細胞選択装置100に機械的に読み取られる。すなわち、ROMまたはHDなどの記憶部106などには、OS(Operating System)として協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0089】
また、このコンピュータプログラムは、細胞選択装置100に対して任意のネットワークを介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。
【0090】
また、本発明に係るプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム製品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、USBメモリ、SDカード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD−ROM、MO、DVD、および、Blu−ray Disc等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。
【0091】
また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施の形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0092】
記憶部106に格納される各種のデータベース等(測定データベース106a)は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、および、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラム、テーブル、データベース、および、ウェブページ用ファイル等を格納する。
【0093】
また、細胞選択装置100は、既知のパーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、該情報処理装置に任意の周辺装置を接続して構成してもよい。また、細胞選択装置100は、該情報処理装置に本発明の方法を実現させるソフトウェア(プログラム、データ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0094】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて、または、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上詳述に説明したように、本発明によれば、細胞の増殖速度または微生物のバイオマス産生等に基づく生産量と、複数の擾乱およびその生起確率を考慮した増殖抑制または生産量の低下等から計算される、当該生産量等がどの程度変動するかについての変動値と、を含むポートフォリオを、イールドリスク空間上にマップすることで、最適な細胞または微生物の組合せを選択することができる細胞選択装置、細胞選択方法、および、プログラムを提供することができる。
【符号の説明】
【0096】
100 細胞選択装置
102 制御部
102a 設定部
102b 可変範囲算出部
102c 最適化部
106 記憶部
106a 測定データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶部と制御部とを少なくとも備えた細胞選択装置であって、
上記記憶部は、
複数の条件で培養された細胞の増殖またはバイオマスの生産に関する測定データを上記細胞ごとに記憶する測定データ記憶手段、
を備え、
上記制御部は、
上記測定データ記憶手段に記憶された上記測定データに基づく上記細胞または上記バイオマスの生産量、および、当該生産量がどの程度変動するかを示す変動値を上記細胞または上記条件ごとに設定する設定手段と、
上記設定手段により設定された上記生産量および上記変動値に基づいて、複数の上記細胞または上記条件を組み合わせた場合の上記生産量および上記変動値の可変範囲を算出する可変範囲算出手段と、
最適化手法を用いて、上記可変範囲における最適な上記組み合わせを算出する最適化手段と、
を備えたことを特徴とする、細胞選択装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞選択装置において、
上記変動値は、
上記生産量の標準偏差であることを特徴とする、細胞選択装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の細胞選択装置において、
上記可変範囲算出手段は、
上記生産量および上記変動値に基づき、複数の上記細胞または上記条件を組み合わせた場合の上記生産量および上記変動値の可変範囲を共分散に基づいて算出することを特徴とする、細胞選択装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の細胞選択装置において、
上記最適化手段は、
最適化手法を用いて、上記可変範囲における一定の上記変動値の下で上記生産量を最大化する有効フロンティアに最も近い上記組み合わせを算出することを特徴とする、細胞選択装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載の細胞選択装置において、
上記最適化手法は、
パレート最適化、遺伝的アルゴリズム、最小二乗法、または、適切な確率的および解析的最適化法であることを特徴とする、細胞選択装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の細胞選択装置において、
上記複数の細胞は、
複数の種類の上記細胞であることを特徴とする、細胞選択装置。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の細胞選択装置において、
上記複数の細胞は、
単一の種類の複数の上記細胞であることを特徴とする、細胞選択装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一つに記載の細胞選択装置において、
上記細胞は、
微生物であることを特徴とする、細胞選択装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一つに記載の細胞選択装置において、
上記細胞は、
がん細胞であることを特徴とする、細胞選択装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一つに記載の細胞選択装置において、
上記測定データは、
上記細胞の増殖を50%に抑制する化合物の濃度であるGI50であり、
上記生産量は、
上記GI50の逆数であることを特徴とする、細胞選択装置。
【請求項11】
記憶部と制御部とを少なくとも備えた細胞選択装置において実行される細胞選択方法であって、
上記記憶部は、
複数の条件で培養された細胞の増殖またはバイオマスの生産に関する測定データを上記細胞ごとに記憶する測定データ記憶手段、
を備え、
上記制御部において実行される、
上記測定データ記憶手段に記憶された上記測定データに基づく上記細胞または上記バイオマスの生産量、および、当該生産量がどの程度変動するかを示す変動値を上記細胞または上記条件ごとに設定する設定ステップと、
上記設定ステップにて設定された上記生産量および上記変動値に基づいて、複数の上記細胞または上記条件を組み合わせた場合の上記生産量および上記変動値の可変範囲を算出する可変範囲算出ステップと、
最適化手法を用いて、上記可変範囲における最適な上記組み合わせを算出する最適化ステップと、
を含むことを特徴とする、細胞選択方法。
【請求項12】
記憶部と制御部とを少なくとも備えた細胞選択装置に実行させるためのプログラムであって、
上記記憶部は、
複数の条件で培養された細胞の増殖またはバイオマスの生産に関する測定データを上記細胞ごとに記憶する測定データ記憶手段、
を備え、
上記制御部において、
上記測定データ記憶手段に記憶された上記測定データに基づく上記細胞または上記バイオマスの生産量、および、当該生産量がどの程度変動するかを示す変動値を上記細胞または上記条件ごとに設定する設定ステップと、
上記設定ステップにて設定された上記生産量および上記変動値に基づいて、複数の上記細胞または上記条件を組み合わせた場合の上記生産量および上記変動値の可変範囲を算出する可変範囲算出ステップと、
最適化手法を用いて、上記可変範囲における最適な上記組み合わせを算出する最適化ステップと、
を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−257888(P2011−257888A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130513(P2010−130513)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【特許番号】特許第4717149号(P4717149)
【特許公報発行日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(506086797)独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構 (10)
【出願人】(502424528)特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構 (4)