説明

細胞配列システム及び細胞配列方法

【課題】多量の細胞を凝集させずに配列させることが可能な細胞配列システムを提供する。
【解決手段】血液中の細胞が含まれる細胞懸濁液を流す主流路と、一端が前記主流路の側面と接続する副流路と、前記主流路と前記副流路との間に設けられ、配列対象である細胞の径よりも小さい開孔を有するフィルタ面が形成された第1フィルタと、前記主流路の順方向へ送液する第1送液ポンプと、前記主流路の前記主流路の順方向とは反対の逆方向に送液する第2送液ポンプと、を有し、
細胞懸濁液を前記第1送液ポンプにより前記主流路の順方向に送液して前記第1フィルタ上を通過させ、通過させた細胞懸濁液を前記第2送液ポンプにより前記主流路の逆方向に送液して前記第1フィルタ上を再び通過させることにより前記第1フィルタに前記配列対象である細胞を配列させることを特徴とする細胞配列システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、血液中における細胞、特に循環腫瘍細胞(CTC:Circulating tumor cell)を検出するために、細胞を配列する細胞配列システム及び細胞配列方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌患者の血液中においては腫瘍細胞が存在する。循環する血液中の腫瘍細胞の有無を検出することにより、癌に罹っているか否かあるいは、癌患者に対する治療の効果を判断することができる。
【0003】
腫瘍細胞の濃度は非常に低く、107〜108個の細胞中にわずか数個の低濃度で存在する。例えば血液10mlのサンプルに対して含まれる腫瘍細胞は数個程度である。
【0004】
特許文献1に開示されている方法では循環腫瘍細胞等の稀な細胞(rare cell)と特異的に反応する生物学的に特異的なリガンドにカップリングされた磁性粒子を用いることにより、稀な細胞を血液中から分離し、分離した稀な細胞を標識させ、標識した稀な細胞を観察することにより、稀な細胞の存在及び個数を検出している。
【0005】
特許文献2では、メンブレンフィルタに循環腫瘍細胞が含まれる血液を通して、細胞を単離させる方法が記載されている。
【0006】
特許文献3、特許文献4では、多数の細胞から1細胞レベルで分離、捕捉するためにマイクロ流路の一部に、複数の円筒形状又はすり鉢状の微細貫通孔を有するマイクロメッシュを配置し、微細流路に細胞を含む試料を注入し、マイクロメッシュの下方を所定の吸引圧で吸引する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−503814号公報
【特許文献2】特表2008−538509号公報
【特許文献3】特開2007−89566号公報
【特許文献4】国際公開第2009/016842号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では観察対象である稀少細胞を抽出あるいは稀少細胞に限定する過程で、稀少細胞の取りこぼしが発生し、その結果、検出感度が低下するおそれがある。
【0009】
取りこぼしが生じないようにするには、観察対象である稀少細胞及び白血球の細胞をすべて観察すればよく、その場合には、観察領域に細胞同士が重ならないように展開しなくてはならないが、ただ単純に広げただけでは、非常に広い観察領域を必要とし、この場合検出機器のサイズが大きくなり現実的ではない。
【0010】
また特許文献2から4では、フィルタにより濾過して細胞を保持させているが、細胞は凝集しやすいために、凝集した多量の細胞を展開し整列させて光学的に観察することは構造的に難しい。
【0011】
本願発明はこのような問題に鑑み、多量の細胞を凝集させずに配列させることが可能な細胞配列システム及び細胞配列方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は、下記に記載する発明により達成される。
【0013】
1.血液中の細胞を配列する細胞配列システムであって、
血液中の細胞が含まれる細胞懸濁液を流す主流路と、
一端が前記主流路の側面と接続する副流路と、
前記主流路と前記副流路との間に設けられ、配列対象である細胞の径よりも小さい開孔を有するフィルタ面が形成された第1フィルタと、
前記主流路の順方向及び逆方向への送液を行う送液機構と、
を有し、
前記送液機構によって、細胞懸濁液を前記主流路の順方向に送液して前記第1フィルタ上を通過させ、その後細胞懸濁液を前記主流路の逆方向に送液して前記第1フィルタ上を再び通過させることにより、前記第1フィルタに前記配列対象である細胞を配列させることを特徴とする細胞配列システム。
【0014】
2.前記送液機構により前記主流路の順方向への送液及び前記主流路の逆方向への送液を繰り返すことにより、前記細胞懸濁液を前記第1フィルタ上を複数回往復させることを特徴とする前記1に記載の細胞配列システム。
【0015】
3.前記送液機構は、前記主流路の順方向へ送液する第1送液ポンプと、前記主流路の逆方向へ送液する第2送液ポンプを有し、
細胞懸濁液を前記第1送液ポンプにより前記主流路の順方向に送液して前記第1フィルタ上を通過させ、通過させた細胞懸濁液を前記第2送液ポンプにより前記主流路の逆方向に送液して前記第1フィルタ上を再び通過させることにより前記第1フィルタに前記配列対象である細胞を配列させることを特徴とする前記1又は2に記載の細胞配列システム。
【0016】
4.前記送液機構は、第1送液ポンプと、前記第1送液ポンプによる送液経路を第1の経路と第2の経路とに切り換える経路切換手段とを有し、
送液経路を前記経路切換手段により第1の経路とした前記第1送液ポンプにより細胞懸濁液を前記主流路の順方向に送液して前記第1フィルタ上を通過させ、
通過させた細胞懸濁液を、送液経路を前記経路切換手段により第2の経路とした前記第1送液ポンプにより前記主流路の逆方向に送液して前記第1フィルタ上を再び通過させることにより前記第1フィルタに前記配列対象である細胞を配列させることを特徴とする前記1又は2に記載の細胞配列システム。
【0017】
5.前記送液機構は、前記副流路の下流側に接続された第3送液ポンプを有し、
該第3送液ポンプにより前記副流路内を負圧にすることを特徴とする前記1から4のいずれか一項に記載の細胞配列システム。
【0018】
6.前記送液機構は、送液方向を前記主流路の順方向と前記主流路の逆方向へ切換可能な第1送液ポンプと、前記副流路の下流側に接続された第3送液ポンプを有し、
前記第3送液ポンプによる前記副流路内を負圧にした状態で、
細胞懸濁液を前記第1送液ポンプにより前記主流路の順方向に送液して前記第1フィルタ上を通過させ、通過させた細胞懸濁液を前記第1送液ポンプにより前記主流路の逆方向に送液して前記第1フィルタ上を再び通過させることにより前記第1フィルタに前記配列対象である細胞を配列させることを特徴とする前記1又は2に記載の細胞配列システム。
【0019】
7.前記主流路であって前記主流路の順方向における前記第1フィルタよりも下流側に配置され、前記流路軸方向と交差する方向にフィルタ面が形成され、配列対象である細胞の径よりも小さい開孔を有する第2フィルタを有することを特徴とする前記1から6の何れか一項に記載の細胞配列システム。
【0020】
8.前記副流路の前記一端とは異なる他端が前記主流路に接続されており、
第3送液ポンプにより、前記副流路内に送液された細胞懸濁液を前記他端から前記主流路に送液させることを特徴とする前記5から7の何れか一項に記載の細胞配列システム。
【0021】
9.前記第3送液ポンプにより前記副流路内を正圧、負圧にし、これを交互に繰り返すことにより、前記第1フィルタに振動を付与させることを特徴とする前記5から7の何れか一項に記載の細胞配列システム。
【0022】
10.主流路と、一端が前記主流路の側面と接続する副流路と、前記主流路と前記副流路との間に設けられ配列対象である細胞の径よりも小さい開孔を有するフィルタ面が形成された第1フィルタと、を有するチップ構造体の前記第1フィルタに細胞を配列させる細胞配列方法であって、
前記主流路の順方向に血液中の細胞が含まれる細胞懸濁液を送液することにより、該細胞懸濁液を前記第1フィルタ上を通過させる第1工程と、
前記主流路の逆方向に送液することにより、前記第1フィルタ上を再び通過させる第2工程と、を有することを特徴とする細胞配列方法。
【0023】
11.前記第1工程と前記第2工程とを繰り返すことを特徴とする前記10に記載の細胞配列方法。
【0024】
12.前記副流路の内部の圧力を可変にするポンプが接続されており、
前記ポンプにより前記副流路の内部の圧力を正圧、負圧にし、これを交互に繰り返すことにより、前記第1フィルタに振動を付与させる振動工程を有することを特徴とする前記10又は11に記載の細胞配列方法。
【発明の効果】
【0025】
本願発明によれば、フィルタの上で細胞懸濁液を往復させて送液することにより、多量の細胞を凝集させずに配列することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施形態に係る細胞配列システムの概略の構成を示す図である。
【図2】図2(a)はチップ構造体10の側面方向の断面図、図2(b)は上方向の断面図である。
【図3】図3(a)は第1フィルタ101の断面図である、図3(b)は上面図である。
【図4】白血球細胞cが孔hにトラップされている状態を示す図である。
【図5】チップ構造体10での配列方法を説明する図である。
【図6】第2の実施形態に係る細胞配列システムの概略の構成を示す図である。
【図7】第3の実施形態に係る細胞配列システムの概略の構成を示す図である。
【図8】図8(a)は第4の実施形態に係るチップ構造体10の側面方向の断面図、図8(b)は上方向の断面図である。
【図9】第4の実施形態に係るチップ構造体10での配列方法を説明する図である。
【図10】第5の実施形態に係る細胞配列システムの概略の構成を示す図である。
【図11】図11(a)はチップ構造体10の側面方向の断面図、図11(b)は上方向の断面図である。
【図12】変形例にかかる細胞配列システムでの各ポンプの動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。
【0028】
図1は、第1の実施形態に係る細胞配列システム1A及びこれを備えた細胞検出システムの概略の構成を示す図である。
【0029】
同図に示す細胞検出システムは、撮影部25、画像解析部20、細胞配列システム1Aから構成される。そして細胞配列システム1Aは、第1送液ポンプp1、第2送液ポンプp2、第3送液ポンプp3、チップ構造体10、制御部15、供給槽16、バルブb1、及び排出槽17を備える。制御部15により各ポンプ及びバルブb1の制御を行う。第1の実施形態における送液機構は、正の圧力を付与する第1送液ポンプp1、正の圧力を付与する第2送液ポンプp2を少なくとも備えており、更に第3送液ポンプp3を備えていてもよい。
【0030】
供給槽16に供給された血液その他の細胞懸濁液は、第1送液ポンプp1により流路r1を介してチップ構造体10に供給される。チップ構造体10の内部には第1フィルタ101が設けられており、第1フィルタ101には細胞懸濁液に含まれる血球その他の細胞を配列する。配列方法については後述する。
【0031】
第1フィルタ101に配列された細胞の撮影を撮影部25により行い、得られた画像データは画像解析部20により画像解析される。ここでいう配列とは、理想的には全ての細胞が単層かつ高密度で配置されていることであり、各細胞が重ならずに高密度で配置させることにより撮影により全て細胞の形状を確認することができる。画像解析としては例えば、血液中の含まれる稀少細胞の選別を目的とするものであれば、第1フィルタ101に配列された個々の細胞の抽出を行う。そして抽出した細胞の中からその形状に基づき、白血球細胞及び腫瘍細胞その他の稀少細胞(rare cell)の選別を行って、稀少細胞の有無もしくは個数の検出を行う。
【0032】
図2は、チップ構造体10の拡大断面図である。図2(a)は側面の断面図、図2(b)は上方向の断面図である。チップ構造体10は主流路102、副流路103、第1フィルタ101を備える。主流路102は一方の端部が流路r1を介して第1送液ポンプp1に、他方の端部が流路r2を介して第2送液ポンプp2に接続されている。副流路103はその一端が主流路102の側面に接続されており他端は流路r3に接続されている。図示矢印に示すように第1送液ポンプp1による送り方向は順方向fdであり、第2送液ポンプp2による送り方向はその反対の逆方向rdである。
【0033】
第1フィルタ101の大きさとしては例えば100mm□の0.01mであり、主流路102の流路断面積は10mm(幅100mm、高さ0.1mm)。送液する細胞懸濁液bsの液量は、2000μlで、各方向への流量は1〜1000μl/minであり、より好ましくは10〜100μl/minである。
【0034】
第1フィルタ101は、主流路102の側面に設けられており、そのフィルタ面は主流路102の流路軸方向と平行な方向であって、かつ、副流路103の流線及び流路軸方向とは直交する方向に広がっている。また図2に示すチップ構造体10の第1フィルタ101の真上には撮影部25が配置されている。チップ構造体10の筐体は、撮影部25による光学的な撮影を行うために少なくとも第1フィルタ101の上方の部位は光透過性の材料(例えばアルカリガラス、石英ガラス、透明プラスチック類)を用い光が透過するようにしている。
【0035】
図3は、第1フィルタ101の構造を説明する模式図である。図3(a)は第1フィルタ101の断面図である、図3(b)は上面図である。図4は、図3(a)に対応する図であり、第1フィルタ101により白血球細胞cが孔hにトラップされている状態を示す図である。
【0036】
これらの図に示す、第1フィルタ101では、多数の孔hが、所定の孔密度で例えば0.01m2の面積に渡って配置されている。孔密度としては例えば、1×1011/m〜6×1012/mである。それぞれの孔hは貫通孔であり、孔hの直径は、白血球細胞c及び稀少細胞の直径よりも小さく、例えば0.5μmである。なお図3に示す実施形態においてはフィルタの貫通孔を平面方向で均等配置としているが特にこれに限定されず、ランダムな配置であってもよい。例えば、焼結金属メッシュフィルタ(富士フィルター工業(株))、ニュークリポア(Nuclepore)メンブレン(GEヘルスケア・ジャパン(株)販売元)である。
【0037】
図5は、本実施形態におけるチップ構造体10での配列方法を説明する図であり、図5(a)から図5(e)まで時系列的に表示したものである。
【0038】
図5(a)から図5(c)は第1工程を示す図である。第1工程では、細胞懸濁液bsを順方向fd(図5(a)参照)に送液して第1フィルタ101を通過させる。
【0039】
図5(a)では、供給槽16から供給された細胞懸濁液bsを第1送液ポンプp1により、流路r1を経由してチップ構造体10の主流路102に送液した状態を示している。
【0040】
なお各図においては細胞懸濁液bsの前後には空気或いは不活性ガス等の気体が存在しており、気体を間に介して各ポンプから細胞懸濁液bsに送液圧力が付与される。また、ここで用いる細胞懸濁液としては被験者から採取した血液に前処理を行ったものを用いている。前処理としては血液に対して、安定化剤を入れたり、所定の濃度に希釈したり、赤血球と血小板等を除いたりする。例えば採取した血液を安定化剤と混ぜ合わせて、その後に1500rpmで5分間遠心後に、上澄みを取り除いて、残った沈澱物を用いる。なお細胞懸濁液bsには少なくとも白血球細胞c(場合によっては白血球細胞及び稀少細胞)が含まれている。
【0041】
図5(b)では、第1フィルタ101上を細胞懸濁液bsが通過している状態を示している。副流路103は主流路102の下方に設けられているので、重力を受けて細胞懸濁液bsの一部が分岐して副流路103に流れる。この際、第1フィルタ101の孔hの径は白血球細胞cの径よりも小さいので、白血球細胞cは第1フィルタ101でトラップ(捕捉)されることになる。
【0042】
図5(c)では、上流側から送液された細胞懸濁液bsは第1フィルタ101よりも下流側で主流路102と副流路103に分岐して送液された状態を示している。
【0043】
図5(c)に示す状態において細胞懸濁液bsの主流路102を流れる液量M2に対する副流路103を流れる液量M3の割合R(R=M3/M2)は、2%〜50%に設定している。割合Rは細胞懸濁液bsの流動性や第1フィルタ101の抵抗により異なる値となる。
【0044】
第3送液ポンプp3は必ずしも必要ではないが、割合Rを増加させたい場合あるいはコントロールしたい場合には有用である。本実施形態では、第3送液ポンプp3により、副流路103の内部を主流路102に対して負圧にすることにより割合Rを所定の範囲内に設定している。
【0045】
図5(d)、図5(e)は、第2工程を示す図である。第2工程では、図5(c)に示す状態で第1フィルタ101を通り過ぎて主流路102にある細胞懸濁液bsを、第2送液ポンプp2により逆方向rdに送液する。図5(c)では、第1工程で第1フィルタ101を通過した細胞懸濁液bsが第2送液ポンプp2により逆方向に送液されて、再び第1フィルタ101上を通過している状態を示している。細胞を配列するためには、第1フィルタ101の孔hにそれぞれ1個の白血球細胞cがトラップされていることが、望ましい。このように整列されている状態では白血球細胞c同士は重ならずに比較的高密度で配置させることができるからである。
【0046】
しかし、第1工程でトラップされた第1フィルタ101上の白血球細胞cは、孔hにトラップされている白血球細胞cだけでなく、これらの孔hの間に存在したりトラップされている白血球細胞cに重なって凝集したりしている白血球細胞cも存在する。図5(d)から図5(e)のように再び細胞懸濁液bsを通過させることにより、これらのトラップされている白血球細胞c以外の白血球細胞cの状態を変化させることができ、第1フィルタ101でのトラップ率を向上させることができる。なお第1工程で既にトラップされている白血球細胞cは、孔hに引っ掛かっているので比較的移動されにくく、そのためトラップ状態が維持されることになる。このように第1工程に引き続いて、第2工程を行うことによりトラップ率を向上させることができるので、細胞懸濁液に含まれる細胞を配列させることが可能となる。
【0047】
なお、第2工程に引き続いて、再び第1工程、第2工程を繰り返して細胞懸濁液bsの第1フィルタ101上の往復運動を複数回行うようにしてもよい。往復運動の回数は、前述の割合Rの値や供給した細胞懸濁液bsの液量に応じて適宜選択することができる。複数回往復運動させることによりトラップ率をより向上させることができ、多くの細胞を重ならずに高密度で配置させることができるので高いレベルの配列を行うことができる。
【0048】
更に以下に説明する細胞の固定と染色を行うことにより、より正確に細胞を観察することができる。細胞の固定と染色などの液交換における操作も本発明のチップ構造体を使用して行うと、反応後の細胞を配列し、かつ往復送液により細胞と反応液中の物質との接触回数が増えるため、反応効率を上げることが可能である。
【0049】
細胞の固定方法としては、例えばホルマリン法、メタノール法などが行われる。細胞の染色方法としては、例えば核内のDNAを染色するDAPI染色やヘキスト染色、細胞種に特異的な抗体を用いる免疫染色が行われる。免疫染色としては、例えば白血球共通抗原CD45、腫瘍マーカーCK(サイトケラチン)が行われる。液交換の対象となる液体としては、細胞を固定するPFAなどの液体、検体を希釈するための溶解液または希釈液、特定の細胞を検出するための各種反応試薬および洗浄試薬、抗体に蛍光色素等を固定化するための各種試薬(例えば、水溶性カルボジイミド(EDC等)、N−ヒドロキシコハク酸イミド〔NHS〕等)などがある。
【0050】
第1フィルタ101に配列された細胞の撮影を撮影部25により行い、得られた画像データを解析することにより稀少細胞の検出を行う。なお、撮影の際には第1フィルタ101の上には細部懸濁液bsが残らないように、主流路102の順方向下流側や、副流路103に送液してから観察することが好ましい。
【0051】
[第2、第3の実施形態]
次に第2、第3の実施形態について説明する。以降において第1の実施形態と異なるものとして記載された実施態様においては、同一構成部分には同一符号を付し、説明に換える。なお図6、図7においては、制御部15及び、撮影部25、画像解析部20の記載は省略している。
【0052】
図6は、第2の実施形態における細胞配列システム1Bの概略構成を示す図である。第2の実施形態においては、第1送液ポンプp1bは、正の圧力を付与することにより接続している管の内部を正圧にして液体あるいは空気を送り出す突出方向の送液とこれとは逆に負の圧力を付与することにより管の内部を負圧にする吸引方向への送液とを切り換えて行うことが可能である。第2の実施形態における送液機構は、正及び負の圧力を付与する第1送液ポンプp1b、及び負の圧力を付与する第3送液ポンプp3を少なくとも備えている。
【0053】
第2の実施形態においても、図5に示すと同様の配列方法を実行する。その際に同図における順方向fdと逆方向rdへの細胞懸濁液bsの送液を、第1送液ポンプp1bにより行う。具体的には第1工程での順方向fdへの送りは第1送液ポンプp1bにより正の圧力を付与することにより行い、第2工程での逆方向rdへの送りは同ポンプにより負の圧力を付与することにより行う。なお、その際に第3送液ポンプp3は第2工程の間、若しくは第1工程及び第2工程の間に駆動させておき、副流路103内部の圧力を主流路102に対して負圧にしておくことが好ましい。
【0054】
図7は、第3の実施形態における細胞配列システム1Cの概略構成を示す図である。同図に示す例では、第1送液ポンプp1cとチップ構造体10との間の流路は、第1の経路である流路r1と第2の経路である流路r2に分岐しており、分岐部分には三方弁b10が設けられている。三方弁b10は、経路切換手段として機能し、第1送液ポンプp1cによる送液経路を流路r1、r2の何れかの方向に切り換え可能である。第3の実施形態における送液機構は、正の圧力を付与する第1送液ポンプp1c、三方弁その他の経路切換手段を少なくとも備えており、更に第3送液ポンプp3を備えていてもよい。
【0055】
第3の実施形態においても図5に示すと同様の配列方法を実行する。その際に同図における細胞懸濁液bsの順方向fdと逆方向rdへの送液は、制御部15が三方弁b10を制御することにより第1送液ポンプp1cによる送液方向を切り換えることにより行う。具体的には第1工程での順方向fdへの送りは、三方弁b10を制御することにより細胞懸濁液bcへの第1送液ポンプp1cによる正の圧力の付与が流路r1側から行われるようにし、第2工程での逆方向rdへの送りは正の圧力の付与が流路r2側から行われるようにする。
【0056】
図7に示す例では流路r3の下流側は、開放された状態を示しているが、図6と同様に第3送液ポンプp3を接続し、これにより第1、第2工程の間、副流路103の内部を負圧にするようにしてもよい。
【0057】
第2、第3の実施形態の構成においても、第1の実施形態と同様に、第1工程、第2工程を行うことによりトラップ率を向上させることができるので、細胞懸濁液に含まれる細胞を配列させることが可能となる。また第1工程、第2工程を複数回繰り返すようにしてもよい。これにより更なるトラップ率の向上を図ることが可能となる。
【0058】
[第4の実施形態]
図8は第4の実施形態におけるチップ構造体10の構造を説明する図であり、図8(a)は側面方向の断面図、図8(b)は上方向の断面図である。第4の実施形態に係る細胞配列システムの構成は、第1〜第3の実施形態の細胞配列システムに適用可能である。
【0059】
同図に示すように第4の実施形態におけるチップ構造体10では、第2フィルタ106が設けられている。第2フィルタ106は、主流路102の内部で、順方向fdにおける第1フィルタ101よりも下流側に配置されており、そのフィルタ面は主流路102の流路軸方向と交差する方向に形成されている。同図においては、主流路102の流路軸方向と直交する方向にフィルタ面を形成した例を示している。
【0060】
第2フィルタ106の構成は、第1フィルタ101と同様であり説明は省略する。第2フィルタ106でも細胞の径よりも小さい径の孔が多数設けられているので、白血球細胞cをトラップすることができる。
【0061】
なお、同図においては主流路102は直線状であり、主流路102の流路軸方向に平行な第1フィルタ101と流路軸方向に直交するな第2フィルタ106とは互いに直交する配置関係となっているが、これに限られず、主流路102を第1フィルタ101の順方向fdの下流側で折り曲げる構成として、第1フィルタ101と第2フィルタ106とが平行となるようにしてもよい。図8において主流路102が下流側で下方向に曲がる構成であれば、第2フィルタ106の重力方向で上側に白血球細胞cがトラップされることになるので、第2フィルタ106を撮影部25により撮影することにより第1フィルタ101と同様に第2フィルタ106も観察領域として用いることができる。
【0062】
図9は、第4の実施形態に係るチップ構造体10での配列方法を説明する図である。同図の図9(a)から図9(d)は、図5(a)から図5(d)に対応している。
【0063】
第4の実施形態においては第2フィルタ106が設けられているので、図9(a)から図9(c)に示す第1工程において順方向fdに細胞懸濁液bsを送液した際に、白血球細胞cは第2フィルタ106でトラップされることになる(図9(c)参照)。第2フィルタ106にトラップされていた白血球細胞cは図9(d)に示す第2工程においては、逆方向rdへの送液により送液開始時に一度にトラップ状態から開放されるので、細胞懸濁液bsの流れの先頭では、開放された多くの白血球細胞cが細胞懸濁液bsに含まれていることになり、より高密度に第1フィルタ101に白血球細胞cを配列させることができる。
【0064】
またこのようなことから、図9(d)に示すように第2工程で逆方向rdへ送液した細胞懸濁液bsの前方ではこれに含まれる白血球細胞cの割合が高く、後方では低くなり場合によってはほとんど含まれないことになる。このことから図9(e)に示すように、全ての細胞懸濁液bsが通過する前に、可動させているポンプを第1送液ポンプp1に切り換えて送り方向を逆方向にすることができるので、より短時間で第1フィルタ101上への白血球細胞cの配列を行うことが可能となる。
【0065】
[第5の実施形態]
図10、図11は、第5の実施形態に係る細胞配列システム1Eの概略の構成を示す図である。同図においては図1から図9に示す実施形態と同一の構成部材については同一符号を付すことにより説明に換える。同図に示す実施形態においては、副流路103bはその一端が主流路102に接続されており、他端はバルブb2及び流路r1を介して主流路102に接続されている。
【0066】
副流路103に送られた細胞懸濁液bsは、副流路103の他端側から主流路102に環流させる。このようにすることにより副流路103に送液した細胞懸濁液を再利用できるので、往復回数により徐々に主流路102の内部を流れる細胞懸濁液が減少するということがなく、常に同じ状態で往復運動させるという効果がある。特に細胞懸濁液bsの主流路102を流れる液量M2に対する副流路を流れる液量M3の割合Rを高くした場合に有効である。
【0067】
[変形例]
図12は、本実施形態の変形例にかかる細胞配列システムでの各ポンプの動作を示すタイムチャートである。変形例においては、第1工程、第2工程を行って細胞懸濁液の送液を行った後に、振動工程を行うものである。同図に示すタイムチャートでは、第1工程、第2工程をそれぞれ一回ずつ行ってから振動工程を実行しているが、第1工程、第2工程を複数回行ってから振動工程を行うようにしてもよく、また振動工程の後に第1工程、第2工程を行うようにしてもよい。更に振動工程を行うタイミングは、図5(b)、図5(d)のように細胞懸濁液bsが、第1フィルタ101上を通過している途中で、第1送液ポンプp1あるいは第2送液ポンプp2による送液を中断して、振動工程を実行するようにしてもよい。
【0068】
振動工程においては、第3送液ポンプp3による圧力付与方向を図5に示すような順方向からこれと反対方向の逆方向に順次切り換えることにより、副流路103の内部の圧力を正圧、負圧にして、第1フィルタ101上に存在する白血球細胞cあるいはこれが含まれる細胞懸濁液bsに振動を与える。第3送液ポンプp3の圧力付与方向を変える周波数としては適宜選択することができる。
【0069】
白血球細胞cあるいはこれが含まれる細胞懸濁液bsに振動を与えることにより、第1フィルタ101上で孔hにトラップされている白血球細胞cに重なって凝集したりしている白血球細胞cを引き離す効果が期待できる。これにより白血球細胞c同士を重ならないように配列させることが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
1A、1B、1C、1E 細胞配列システム
15 制御部
16 供給槽
17 排出槽
20 画像解析部
25 撮影部
p1、p1b、p1c 第1送液ポンプ
p2 第2送液ポンプ
p3 第3送液ポンプ
b1、b2 バルブ
r1、r2、r3 流路
10 チップ構造体
101 第1フィルタ
102 主流路
103、103b 副流路
106 第2フィルタ
h 孔
bs 細胞懸濁液
c 白血球細胞(腫瘍細胞)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液中の細胞を配列する細胞配列システムであって、
血液中の細胞が含まれる細胞懸濁液を流す主流路と、
一端が前記主流路の側面と接続する副流路と、
前記主流路と前記副流路との間に設けられ、配列対象である細胞の径よりも小さい開孔を有するフィルタ面が形成された第1フィルタと、
前記主流路の順方向及び逆方向への送液を行う送液機構と、
を有し、
前記送液機構によって、細胞懸濁液を前記主流路の順方向に送液して前記第1フィルタ上を通過させ、その後細胞懸濁液を前記主流路の逆方向に送液して前記第1フィルタ上を再び通過させることにより、前記第1フィルタに前記配列対象である細胞を配列させることを特徴とする細胞配列システム。
【請求項2】
前記送液機構により前記主流路の順方向への送液及び前記主流路の逆方向への送液を繰り返すことにより、前記細胞懸濁液を前記第1フィルタ上を複数回往復させることを特徴とする請求項1に記載の細胞配列システム。
【請求項3】
前記送液機構は、前記主流路の順方向へ送液する第1送液ポンプと、前記主流路の逆方向へ送液する第2送液ポンプを有し、
細胞懸濁液を前記第1送液ポンプにより前記主流路の順方向に送液して前記第1フィルタ上を通過させ、通過させた細胞懸濁液を前記第2送液ポンプにより前記主流路の逆方向に送液して前記第1フィルタ上を再び通過させることにより前記第1フィルタに前記配列対象である細胞を配列させることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞配列システム。
【請求項4】
前記送液機構は、第1送液ポンプと、前記第1送液ポンプによる送液経路を第1の経路と第2の経路とに切り換える経路切換手段とを有し、
送液経路を前記経路切換手段により第1の経路とした前記第1送液ポンプにより細胞懸濁液を前記主流路の順方向に送液して前記第1フィルタ上を通過させ、
通過させた細胞懸濁液を、送液経路を前記経路切換手段により第2の経路とした前記第1送液ポンプにより前記主流路の逆方向に送液して前記第1フィルタ上を再び通過させることにより前記第1フィルタに前記配列対象である細胞を配列させることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞配列システム。
【請求項5】
前記送液機構は、前記副流路の下流側に接続された第3送液ポンプを有し、
該第3送液ポンプにより前記副流路内を負圧にすることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞配列システム。
【請求項6】
前記送液機構は、送液方向を前記主流路の順方向と前記主流路の逆方向へ切換可能な第1送液ポンプと、前記副流路の下流側に接続された第3送液ポンプを有し、
前記第3送液ポンプによる前記副流路内を負圧にした状態で、
細胞懸濁液を前記第1送液ポンプにより前記主流路の順方向に送液して前記第1フィルタ上を通過させ、通過させた細胞懸濁液を前記第1送液ポンプにより前記主流路の逆方向に送液して前記第1フィルタ上を再び通過させることにより前記第1フィルタに前記配列対象である細胞を配列させることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞配列システム。
【請求項7】
前記主流路であって前記主流路の順方向における前記第1フィルタよりも下流側に配置され、前記流路軸方向と交差する方向にフィルタ面が形成され、配列対象である細胞の径よりも小さい開孔を有する第2フィルタを有することを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の細胞配列システム。
【請求項8】
前記副流路の前記一端とは異なる他端が前記主流路に接続されており、
第3送液ポンプにより、前記副流路内に送液された細胞懸濁液を前記他端から前記主流路に送液させることを特徴とする請求項5から7の何れか一項に記載の細胞配列システム。
【請求項9】
前記第3送液ポンプにより前記副流路内を正圧、負圧にし、これを交互に繰り返すことにより、前記第1フィルタに振動を付与させることを特徴とする請求項5から7の何れか一項に記載の細胞配列システム。
【請求項10】
主流路と、一端が前記主流路の側面と接続する副流路と、前記主流路と前記副流路との間に設けられ配列対象である細胞の径よりも小さい開孔を有するフィルタ面が形成された第1フィルタと、を有するチップ構造体の前記第1フィルタに細胞を配列させる細胞配列方法であって、
前記主流路の順方向に血液中の細胞が含まれる細胞懸濁液を送液することにより、該細胞懸濁液を前記第1フィルタ上を通過させる第1工程と、
前記主流路の逆方向に送液することにより、前記第1フィルタ上を再び通過させる第2工程と、を有することを特徴とする細胞配列方法。
【請求項11】
前記第1工程と前記第2工程とを繰り返すことを特徴とする請求項10に記載の細胞配列方法。
【請求項12】
前記副流路の内部の圧力を可変にするポンプが接続されており、
前記ポンプにより前記副流路の内部の圧力を正圧、負圧にし、これを交互に繰り返すことにより、前記第1フィルタに振動を付与させる振動工程を有することを特徴とする請求項10又は11に記載の細胞配列方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−65(P2012−65A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139130(P2010−139130)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】