説明

細胞電気生理センサ

【課題】測定時におけるガラス管の損傷を低減することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため本発明は、貫通孔6を有する実装基板7と、貫通孔6内に挿入されたガラス管8と、このガラス管8内に挿入された細胞捕捉部(センサチップ9)とを備え、貫通孔6の内周には、ガラス管8の上端に接する、環状の突起部13が設けられ、この突起部13は、上方から下方に向けて内側へ突出する斜面または湾曲面を有するものとした。これにより本発明は、ガラス管8の上端を突起部13で保護しながら、分注器のヘッド11やプローブ形電極10を突起部13の斜面または湾曲に沿って貫通孔6の中央へと導くことができ、結果として測定時におけるガラス管8の損傷を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の薬理反応分析等に利用できる細胞電気生理センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気生理学におけるパッチクランプ法は、細胞膜に存在するイオンチャンネルを測定する方法として知られており、この自動化システムとして、細胞電気生理センサがある。
【0003】
図7に示す従来の細胞電気生理センサは、貫通孔1を有する実装基板2と、貫通孔1に挿入された管状のホルダ3(ガラス管)と、このホルダ3の下端側に挿入された細胞捕捉部、すなわちセンサチップ4とを備えている。またこのセンサチップ4は、その開口部に細胞が捕捉される導通孔5を有している。
【0004】
ここで例えばこのセンサチップ4の上方および下方を電解液で満たし、センサチップ4の導通孔5の開口部に細胞を密着させ、次にこの細胞の上から薬剤を投与し、その後細胞の上下の電位差を電極で測定すれば、細胞の薬理反応を分析することができる。
【0005】
なお、上記従来技術に関連する技術は、下記特許文献1、2に開示されている。
【特許文献1】特開2008−039624号公報
【特許文献2】特開2005−156234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の細胞電気生理センサでは、プローブ形の電極や薬液等の分注器のヘッドを貫通孔1の内部まで挿入しようとすると、電極や分注器の僅かな位置ずれにより、これらの先端がホルダに当たり、ホルダが割れることがある。
【0007】
そこで本発明は、このような測定時におけるホルダの損傷を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため本発明は、貫通孔を有する実装基板と、貫通孔内に挿入された管状のホルダと、このホルダ内に挿入された細胞捕捉部とを備え、貫通孔の内周には、ホルダの上方に、突起部が設けられ、この突起部は、上方から下方に向けて内側へ突出する斜面または湾曲面を有するものとした。
【発明の効果】
【0009】
これにより本発明は、測定時におけるホルダの損傷を低減できる。
【0010】
その理由は、ホルダの上方に上述のような突起部が設けられているからである。
【0011】
これにより本発明は、ホルダの上端面を突起部で保護しながら、分注器のヘッドやプローブ形電極を突起部の斜面または湾曲に沿って貫通孔の中央へと導くことができる。
【0012】
そしてその結果、測定時におけるガラス管の損傷を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施の形態1)
図1に示すように、本実施の形態における細胞電気生理センサは、貫通孔6を有する実装基板7と、貫通孔6の下端側に挿入されたガラス管8と、このガラス管8の下端側に挿入された細胞捕捉部、すなわちセンサチップ9とを備えている。
【0014】
なお、貫通孔6は実装基板7の上下面を垂直に貫通し、ガラス管8はこの貫通孔6に対してほぼ平行に挿入されている。そしてこのガラス管8は、センサチップ9のホルダとして機能する。
【0015】
また本実施の形態では、貫通孔6内に、上方からプローブ形電極10と細い管状の分注器のヘッド11とが挿入されている。
【0016】
プローブ形電極10は、センサチップ9上方に注入される電解液の電位、あるいは電流値や抵抗値を測定するものである。またヘッド11は、センサチップ9上方に測定液(電解液)や細胞、薬剤等を注入するためのものである。
【0017】
このプローブ形電極10およびヘッド11の先端は、それぞれガラス管8の内部にまで挿入され、センサチップ9の僅か上方に到達している。
【0018】
また本実施の形態では、実装基板7の下面にも電極12を設けている。この電極12は、センサチップ9の下方に充填される電解液の電位(あるいは電流値や抵抗値)を測定できればよく、位置や形状は適宜変更可能であり、例えばプローブ形でセンサチップ9の下方の空間に挿入されていてもよい。
【0019】
そして貫通孔6内周には、この貫通孔6の内壁によって構成された環状の突起部13が設けられ、この突起部13は、上方から下方に向けて内側に突出する斜面14を有している。
【0020】
またこの突起部13の下面15は、ガラス管8の上端に当接している。
【0021】
本実施の形態では、この突起部13の下面15は、貫通孔6の貫通方向に対してほぼ垂直であり、同じく貫通孔6の貫通方向に対してほぼ垂直に切断されたガラス管8の上端と密着して接触している。
【0022】
また本実施の形態では、突起部13の先端における貫通孔6の水平断面の断面積は、突起部13の下方、すなわちガラス管8が挿入された領域における貫通孔6の水平断面積よりも小さい。そして突起部13の先端は、貫通孔6内において、ガラス管8よりも僅かに内側(貫通孔6の中央側)へ突出している。つまりガラス管8は突起部13の先端より外側にはめ込まれている構成である。これによりガラス管8の上端全体が突起部13で覆われるため、このガラス管8の上端にはプローブ形電極10や分注器のヘッド11が接触しにくくなり、ガラス管8の上端における損傷をより確実に低減できる。
【0023】
さらに本実施の形態では、図2に示すように、貫通孔6の水平断面、すなわち貫通孔6の貫通方向に対して垂直な断面は領域によって異なる形状に形成されており、例えばガラス管8が挿入される領域における貫通孔6の水平断面は円形とした。これは、本実施の形態のように、ガラス管8が円筒状の場合、貫通孔6の水平断面も円形にしておくことによって、ガラス管8との密着性が高まるとともに、ガラス管8への応力負荷が均一になり、ガラス管8の損傷を抑制することができるからである。なお、ガラス管8の水平断面が四角形の場合は、その形状に合わせて貫通孔6の水平断面も四角形としてもよい。また環状の突起部13は、ループになっていれば良く、断面が円形以外に四角形でもよい。
【0024】
また突起部13の上方における貫通孔6の水平断面は、四角形である。このように四角形とすることにより、貫通孔6内の容量を大きくすることができ、実装基板7の小型化、または薄型化、あるいはセンサチップ9の実装数を増やすことができる。
【0025】
ところで、この実装基板7は突起部13の有無にかかわらず、本実施の形態の細胞電気生理センサやその他DNAセンサや糖質センサ、タンパク質センサなど各種センサに有用である。すなわち、図2に示すように、実装基板7に、その水平断面が円形の領域6Aと、この領域6A上に設けられるとともに、その水平断面が四角形の領域6Bとを有する貫通孔6を形成し、この貫通孔6の領域6Aに細胞電気生理センサやその他DNAセンサ等各種センサのセンサチップを挿入すれば、センサチップへの応力負荷を低減するとともに、センサチップの方向を考慮することなく貫通孔6に挿入することができ、生産性にも優れる。また領域6Bの水平断面を四角形とすることにより、上述のように領域6B内の容量を増やすことが出来、溶媒やガスなどを効率よく充填することができる。また溶媒を充填する場合は、貫通孔6の断面を大きくすることができるため、気泡の低減にも寄与する。なお、この場合のセンサチップとは、その表面に細胞やDNA等の被検体を保持する機能を有するものである。
【0026】
さらに本実施の形態における突起部13の水平断面は円形である。水平断面が円形であれば、角部が無いため、図1のプローブ形電極10や分注器のヘッド11が引っ掛かりにくく、滑らかに貫通孔6中央側へと導くことが出来る。また角部が無いと、気泡の発生も抑制できる。
【0027】
また本実施の形態では、図3に示すように、センサチップ9は薄板16と、この薄板16上に設けられた枠体17とからなり、薄板16にはその上面から下面までを貫通する導通孔18が形成されている。センサチップ9は、薄板16単体でもよいが、この薄板16と枠体17とを一体成形しておくことによって、薄板16の膜厚が薄くても実装しやすく、ガラス管8との接着も容易となる。
【0028】
ここで、センサチップ9は、その導通孔18に細胞を捕捉するためのものであると共に、このセンサチップ9の上下領域の境界として機能し、この導通孔18以外の領域でセンサチップ9の上下間が電気的に導通するのを抑えるものである。したがって、この機能を有していれば図3に示す形態以外でもよい。
【0029】
また本実施の形態では、センサチップ9側面とガラス管8とはガラス溶着している。これは、例えばガラス管8の下端側にセンサチップ9を挿入後、ガラス管8の側面外方からバーナー等で加熱することによって、図3に示すようにガラス管8の下端が内側へ湾曲し、センサチップ9と溶着することができる。このようにセンサチップ9とガラス管8とをガラス溶着する場合も、本実施の形態のようにセンサチップ9が枠体17を有する形態をしていると、接合面積が大きくなり、接着強度も高まる。
【0030】
なお、本実施の形態では、センサチップ9はシリコン単結晶基板、あるいはSOI基板、ガラス基板、水晶基板等をエッチングすることにより形成でき、薄板16の膜厚は、厚み10μm〜100μm、導通孔18は開口径1μm〜3μmφとした。この導通孔18の開口径は5μm以下が細胞19を保持するために適している。本実施の形態では、ドライエッチングにより微細な導通孔18を形成した。
【0031】
また本実施の形態では、センサチップ9を保持するホルダとして、ガラス管8を用いた。このガラス管8は、気泡低減の観点から、水との接触角が0度以上10度以下の親水性の高いガラスで形成されていることが望ましい。したがって、ガラス管8の材料としては、二酸化ケイ素を含むガラスであることが好ましく、例えばホウケイ酸ガラス(コーニング;#7052、#7056)、アルミノケイ酸塩ガラスまたはホウケイ酸鉛ガラス(コーニング;#8161)などが挙げられる。
【0032】
なお、水との接触角とは、固体表面の上に純水などの液滴を乗せ,平衡になった状態で、液滴表面と固体表面のなす角度をいう。そして、その測定方法は一般的にθ/2法を用いることができる。その方法は液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から接触角を求めることができる。または分度器などを用いて測ることも可能である。
【0033】
さらに図3に示すように、ガラス管8の湾曲していない部分の内径d1は、センサチップ9の外径d2よりも大きく、約1400μmとした。またガラス管8の外径d3は、約2000μmとした。そして本実施の形態では、ガラス管8の内側面とセンサチップ9の外側面との距離d4が50μmから400μm程度とした。このようにガラス管8とセンサチップ9との間に隙間を設けることにより、これらを溶着する前段階でセンサチップ9とガラス管8とが接触し、これらが破損するのを抑制することができる。
【0034】
さらにガラス管8の長さd5はセンサチップ9の高さd6よりも長く、2000μmとした。
【0035】
またガラスの軟化点は作業性の観点から重要な要素である。ガラス管8をセンサチップ9側面にガラス溶着するために都合の良い温度は、ガラスの軟化点以上であり、そしてより好ましくは500〜900℃の範囲である。500℃より低いガラスを用いると強度が不十分であり、900℃を越えると作業性が悪くなるからである。
【0036】
また実装基板7の材料としては、ガラス管8よりも弾性の小さい(軟らかい)材料が好ましく、例えば熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂材料は射出成型などの手段を用いることによって、生産性良く、高均質な成形体を得ることができる。
【0037】
さらに、図1に示すように、ガラス管8を接着剤20でガラス管8の貫通孔6内に固定する場合は、実装基板7の材料は、熱可塑性樹脂の中でもポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、オレフィンポリマー、ポリメタクリル酸メチルアセテート(PMMA)のいずれか、またはこれらの組み合わせが好ましい。
【0038】
これらの材料からなる実装基板7は、紫外線硬化型の接着剤20を用いることによって、容易に親水性に優れたガラス管8と接合することができる。さらに好ましくは、これらの熱可塑性樹脂として、環状オレフィンポリマー、線状オレフィンポリマー、またはこれらが重合した環状オレフィンコポリマー、またはポリエチレン(PE)とすることが作業性、製造コストおよび材料の入手性の観点から好ましい。
【0039】
特に、環状オレフィンコポリマーは透明性、アルカリ・酸などの無機系薬剤に対する耐性が強く、本発明の製造方法もしくは使用環境に適している。またこれらの材料は紫外線を透過させることができることから、紫外線硬化型の接着剤20を用いる時に効果を発揮する。
【0040】
また本実施の形態では、突起部13は実装基板7と一体成形されているため、突起部13の材料は実装基板7と同じである。突起部13を、ガラス管8よりも弾性が小さい(軟らかい)材料で構成することによって、この突起部13にプローブ形電極10や分注器のヘッド11が当たっても、これらの損傷を抑制することができる。
【0041】
なお、本実施の形態のように、センサチップ9を実装基板7に実装する方法は、実装基板7全体をシリコン基板で形成し、実装基板7に導通孔18を直接形成した場合と比較してコストも下がり、歩留まりも向上するとともに、一部に不良の導通孔18が存在した場合においてリペア性を有する。
【0042】
次に本実施の形態における細胞電気生理センサを用いた測定方法について説明する。
【0043】
図1に示すように貫通孔6の上方から分注器のヘッド11を挿入し、センサチップ9の上方に細胞外液(電解液)を注入する。このとき、ヘッド11はできるだけセンサチップ9に近づけるよう、貫通孔6の奥深く(下方)まで挿入することが好ましい。センサチップ9と離れた位置から液体を注入すると、気泡が発生しやすくなり、気泡が導通を阻害したり、細胞を捕捉する際、邪魔になったりすることがあるからである。本実施の形態では、ヘッド11は、その先端がガラス管8内部であってセンサチップ9のすぐ近傍に到達するまで挿入させている。
【0044】
なお、本実施の形態では、ガラス管8内部を含み実装基板7の貫通孔6内部は、電解液を貯留する電解槽として機能する。
【0045】
またセンサチップ9の下方には、細胞内液を注入する。ここで実装基板7の下方の空間21は、電解液を貯留する電解槽として機能する。
【0046】
ここで細胞外液とは例えば哺乳類筋細胞の場合、代表的にはK+イオンが4mM程度、Na+イオンが145mM程度、Cl-イオンが123mM程度添加された電解液であって、細胞内液とは、K+イオンが155mM、Na+イオンが12mM程度、Cl-イオンが4.2mM程度添加された電解液である。
【0047】
そして次に、貫通孔6の上方からプローブ形電極10を挿入する。この時、プローブ形電極10は、できるだけセンサチップ9に近づけるよう、貫通孔6の奥深くまで挿入することが好ましい。センサチップ9とプローブ形電極10との距離が長いと、貫通孔6内において、電解液の水位が低い場合に測定が出来ないからである。
【0048】
すなわち、例えば電解液を注入後、細胞を溶媒と共に注入し、最後に薬液を注入する場合、電解液のみが注入された段階では水位が低い。したがって本実施の形態のように、プローブ形電極10はできるだけ奥深くまで(下方まで)挿入することによって、この電解液のみが注入された段階でも電位を測定することができる。
【0049】
またプローブ形電極10とセンサチップ9との間の距離が長いと、この間の電気的パスにおいて気泡やゴミなどが介在しやすく、測定が不能になったりノイズが発生したりする場合があり、細胞電気生理センサの測定精度が低下してしまう。これに対し本実施の形態では、プローブ形電極10をできるだけセンサチップ9に近づけているため、ノイズを低減し、測定精度を向上させることができる。なお本実施の形態では、プローブ形電極10は、その先端がガラス管8内に到達するまで挿入している。
【0050】
そしてこのように細胞外液と電気的に接続されたプローブ形電極10と、細胞内液と電気的に接続された電極12との間では、100kΩ〜10MΩ程度の導通抵抗値を観測することができる。これは導通孔18を介して細胞内液あるいは細胞外液が浸透し、プローブ形電極10と電極間で電気回路が形成されるからである。
【0051】
次に、センサチップ9上方から分注器のヘッド11を介して細胞を投入する。
【0052】
そして、その後貫通孔6下方の空間21を減圧すると、図3に示すように細胞19は導通孔18の開口部に引き付けられる。このように細胞19が導通孔18の開口部を塞ぐことによって、細胞外液と細胞内液との間の電気抵抗が1GΩ以上の十分に高い状態となる(ギガシールと呼ぶ)。このギガシール状態では、細胞19の電気生理活動によって細胞内外の電位が変化すれば、わずかな電位差あるいは電流であっても高精度に測定できる。
【0053】
次に図1の貫通孔6の下方の空間21にナイスタチンなどの薬剤を注入するか、あるいは吸引(減圧)によって導通孔18を塞いでいる細胞膜に穴を開ける(ホールセルと呼ぶ)。
【0054】
その後センサチップ9上方から分注器のヘッド11を介して薬液を注入し、細胞(図3の19)を刺激する。この時、細胞19を刺激する方法としては、本実施の形態のように薬液などの化学的刺激でもよく、その他電気信号などの物理的刺激でも良い。そしてこれらの化学的あるいは物理的刺激によって、細胞19のイオンチャネルが反応した場合は、その反応をプローブ形電極10と電極12間における電位差(あるいは電流値変化や抵抗値変化)によって検出することができる。
【0055】
以下本実施の形態における効果を説明する。
【0056】
本実施の形態では測定時におけるガラス管8の損傷を低減することができる。その理由を以下に説明する。
【0057】
すなわち、測定精度を向上させるためには、プローブ形電極10や分注器のヘッド11の先端を出来るだけセンサチップ9に近づけることが好ましく、したがってこれらのプローブ形電極10やヘッド11は貫通孔6の奥深くにまで挿入することになる。特にガラス管8の下端部側にセンサチップ9を挿入した場合は、ガラス管8内にまでプローブ形電極10やヘッド11を挿入することが好ましい。
【0058】
このようにプローブ形電極10やヘッド11を貫通孔6の下方まで挿入すると、これらのプローブ形電極10やヘッド11の僅かな位置ずれによって、これらがガラス管8に接触し、ガラス管8が損傷してしまうことがある。
【0059】
これに対し本実施の形態では、ガラス管8の上端に上述のような軟らかい突起部13を設けている為、測定時におけるガラス管8の損傷を低減することができる。
【0060】
すなわち本実施の形態では、ガラス管8の上端を突起部13で保護しながら、分注器のヘッド11やプローブ形電極10を突起部13の斜面または湾曲に沿って貫通孔6の中央側へと導くことができる。
【0061】
そしてその結果、測定時におけるガラス管8の損傷を低減できる。
【0062】
なお、本実施の形態では、貫通孔6の水平断面形状は、上方の開口部側が四角形で、ガラス管8が挿入されている領域よりも断面積が大きくなっている。このような構造の場合、プローブ形電極10や分注器のヘッド11が貫通孔6の上方に配置された段階で、これらが端の方へ位置ずれしていると、これらが下方へと挿入される際にガラス管8に接触し、ガラス管8を損傷することがある。したがって本実施の形態のように、貫通孔6の水平断面形状を変化させる場合は、突起部13を設けることによってガラス管8の損傷を抑制することが有用である。
【0063】
また本実施の形態では、貫通孔6の内部に突起部13を設けたため、ガラス管8の位置決めが容易になる。
【0064】
さらに本実施の形態では、センサチップ9の外周および上方を、親水性のガラス管8で囲っている為、気泡の発生を低減することができ、細胞電気生理センサの測定精度を向上させることができる。
【0065】
さらにガラス管8とセンサチップ9とはガラス溶着により接合されているため、接合強度が高く、気密性に優れている。したがって、ガラス管8とセンサチップ9との隙間に電解液が流れ込むのを抑制することができ、リーク電流の低減に寄与する。
【0066】
また本実施の形態では、隙間があると気泡が発生しやすいため、突起部13の下面とガラス管8の上端面とを密着して接触させた。
【0067】
なお、本実施の形態では、図1に示すように、突起部13は上方から下方に向けて内側に突出する斜面14で形成したが、例えば図4に示すように内側へ湾曲する湾曲面22や、あるいは図5に示すように、外側へ湾曲する湾曲面23で形成してもよい。
【0068】
また本実施の形態では、突起部13の下面15は貫通孔6の貫通方向に対してほぼ垂直としたが、ガラス管8を挿入する前の突起部13の下面15は、図6に示すように上方から下方に向って内側へ突出する斜面であってもよい。このように突起部13をやや斜め下向きに形成しておくことによって、ガラス管8を挿入すれば、この突起部13に上向きの力が掛かり、弾性変形してガラス管8上端を密着して接合させることが出来る。
【0069】
また本実施の形態では、プローブ形電極10および分注器のヘッド11をいずれも貫通孔6の下方にまで挿入したが、いずれか一方でも挿入する形態であれば、突起部13によってガラス管8の損傷を抑制する効果を利用することができる。
【0070】
なお、突起部13は貫通孔6の内周の一部にのみ形成してもよいが、本実施の形態では、突起部13を環状とすることによって、プローブ形電極10および分注器のヘッド11がどの方向に位置ずれしてもガラス管8の損傷を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、例えば高精度かつ高速の薬品スクリーニングシステムにかかる細胞電気生理センサに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態1における細胞電気生理センサの断面図
【図2】同細胞電気生理センサの要部を拡大した分解斜視図
【図3】同細胞電気生理センサの要部を拡大した断面図
【図4】本発明の実施の形態1における別の例の細胞電気生理センサの要部断面図
【図5】本発明の実施の形態1における別の例の細胞電気生理センサの要部断面図
【図6】本発明の実施の形態1における別の例の細胞電気生理センサの断面図
【図7】従来の細胞電気生理センサの断面図
【符号の説明】
【0073】
6 貫通孔
6A 領域
6B 領域
7 実装基板
8 ガラス管
9 センサチップ(細胞捕捉部)
10 プローブ形電極
11 ヘッド
12 電極
13 突起部
14 斜面
15 下面
16 薄板
17 枠体
18 導通孔
19 細胞
20 接着剤
21 空間
22 湾曲面
23 湾曲面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する実装基板と、
前記貫通孔内に挿入された管状のホルダと、
このホルダ内に挿入された細胞捕捉部とを備え、
前記貫通孔の内周には、
前記ホルダの上方に、突起部が設けられ、
この突起部は、上方から下方に向けて内側へ突出する斜面または湾曲面を有する細胞電気生理センサ。
【請求項2】
前記突起部は、環状である請求項1に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項3】
前記突起部は、
前記ホルダよりも弾性の小さい材料で形成されている請求項1に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項4】
前記ホルダはガラス管とした請求項1に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項5】
前記突起部の下方における前記貫通孔の水平断面は、円形である請求項1に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項6】
前記突起部の上方における前記貫通孔の水平断面は、四角形である請求項1に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項7】
前記突起部の先端における前記貫通孔の水平断面は、
前記突起部の下方における前記貫通孔の水平断面よりも面積が小さい請求項1に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項8】
前記突起部における前記貫通孔の水平断面は、
円形である請求項1に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項9】
前記突起部の先端は、
前記ホルダよりも前記貫通孔の内側へ突出している請求項1に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項10】
前記突起部の下面は、
前記貫通孔の貫通方向に対して垂直な平面である請求項1に記載の細胞電気生理センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−99038(P2010−99038A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275114(P2008−275114)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】