説明

細菌レセプター構造体

【課題】 原相互作用能力を欠失しているが、原細菌レセプターの基本構造および安定性は保持されている、新規な人工細菌レセプター構造変異体のライブラリーの提供。
【解決手段】 ぶどう球菌プロテインA由来Zドメインのアミノ酸配列の9、10、11、13、14、17、18、24、25、27、28、32および35位置から選択された位置の少なくとも1個のアミノ酸置換を有する新規で異なった人工細菌レセプター構造変異体のライブラリーを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然の細胞レセプター構造体を起源とし、そして原相互作用機能に関与するアミノ酸残基を改変することによって原相互作用機能が実質的に阻害されかつ望ましい相互作用相手に向けられた改変相互作用機能により置換されている新規の細菌レセプター構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物を侵すことが知られているいくつかの細菌は宿主特異的炭水化物およびタンパク質を含む様々な物質に結合できる表面タンパク質を進化させている。グラム陽性細菌病原体からはいくつかのその種のレセプターが単離されまた後述の如く詳細に特性評価されている。最も十分に特性評価されているのは、IgGの不変Fc部への結合能にちなんで命名
されたFcレセプターである。様々な哺乳動物給源からのIgGおよびそのサブクラスへの結
合実験に基づいて、FcレセプターはI−VIの六タイプに分けられている。タイプIレセプターを規定する黄色ぶどう球菌(S. aureus)のレセプター、プロテインA(SPA)は広範
に及ぶ研究の主題となっている。
【0003】
SPAは人間を含む大部分の哺乳動物種からのIgGを結合する。SPAは、ヒトIgGの四サブクラスのうち、IgG1とIgG4には結合するがIgG3には極めて弱い相互作用を示すかまたは
全く相互作用を示さない〔Eliasson, M. et al, 1989 J. Biol. Chem. 9:4323-4327〕。この準免疫反応は20年以上にもわたって、診断、研究および治療への応用上、抗体の精製および検出に用いられてきている。SPA遺伝子の規定された断片のクローン化、配列決定
および大腸菌(Escherichia coli)発現から五つのIgG結合ドメイン〔E-D-A-B-C〕を有する高度反復構成、細胞壁スパニング(spanning)領域および膜アンカリング(anchoring
)配列〔XM〕が明らかにされている〔Unlen, M. et al, 1984 J. Biol. Chem. 259:1695-1702; Moks,T. et al, 1986 Eur. J. Biochem. 156:637-643〕。極めて多数のプラスミドベクターが構築され、各種宿主で融合タンパク質を生産させるための各種遺伝子断片への遺伝子融合が可能となっている〔Nilsson B. and Abrahmsen, L. 1990 Meth. Enz. 185:144-161〕(Fig. 2a)。
【0004】
ヒトFc〔IgG1〕とSPAの単一ドメイン〔B〕との間の複合体の構造は2.8Å解像度でX
線結晶学的方法により決定された〔Deisenhofer,J. et al 1981 Biochemistry 20:2361-2370〕。この構造とNMR実験からの付加的情報とに基づいて、Bドメインはループに接続
された三つの逆並行α−ヘリックスより成るコンパクトな構造とみることができる。そのFc結合は静電的性質および疎水性を併有するが、それにはヘリックス1および2からの残基の側鎖だけが関与し、第三ヘリックスは結合に関与していない。このドメインBに基づいて、合成IgG−結合性ドメイン〔Z〕〔Nilsson, B. et al 1987 Prot.Eng. 1:107-113〕が構築されているが、これはIgGアフィニティークロマトグラフィーによる精製を可能にする組換えタンパク質を生産するための融合相手として適している。このZドメインの高溶解度および安定構造は、幾多の組換えタンパク質の生産、精製および復元に利用されている〔Josephsson, S. and Bishop, R. TrendsBiotechnol. 6:218-224; Samuelsson, E. et al 1991 Bio.Technol. 9:363-366〕。
【0005】
血清学的グループCおよびGの連鎖球菌株は、タイプIレセプターに対してよりも一段と広い結合レパートリーをヒトIgG3を含む哺乳動物IgGに対して示す。グループG連鎖球菌からのタイプIIIレセプターに対してはプロテインGの名称が提案されている。1986年
に、Olssonおよび共同研究者は、血清学的グループG連鎖球菌からの遺伝子〔G148〕の
クローン化および配列決定について報じている〔Guss, B. et al, 1987 EMBO J. 5:1567
-1575;Olsson, A. et al,1987 Eur. J. Biochem. 168:319-324〕。SPAと同様に、SPGはより小さなD−領域により隔てられた三つの相同ドメイン〔C1、C2、C3〕のIgG結合性ド
メインより成る反復配置分子である(Fig.2A)。SPAに比べ、SPGは様々な生物種からの免疫グロブリンおよびそれらのサブクラスに対して異なる結合スペクトルを示す。現在、プロテインGのIgG結合性ドメインは免疫学的ツールとして、すなわち、モノクローナル抗
体のアフィニティー精製に広く用いられている。DNA技術により構築された亜断片(サブフラグメント)の生産により、個々のC領域が十分なIgG結合に十分であることがわかって
いる。最近になってSPGからのC1−ドメインとヒトFcとの複合体の構造がX線結晶学的
方法により決定された(Fig.2B)。それは、SPGはCH2-CH3界面に結合するがSPAとは異なる部位に結合することを示している。その結合は、SPA-Fc相互作用にみられた疎水力の大きな寄与とは対照的に、主に静電的性質を有している。さらに、C1の3−D構造はα−ヘリックスにより接続された二つのβ−シートによって構築されている(ββ−α−ββ)点でX構造と異なっている。その構造に従って結合に関与するC1の残基はα−ヘリックス、ループおよびそれに続くβ−シートに相当する。
【0006】
SPGのさらに別の活性は血清アルブミン結合能である。その結合力は生物種依存性があ
り、そして試験された検体の中では、SPGはラット、ヒトおよびマウスからの血清アルブ
ミンに最も強く結合する。SPGの亜断片の生産および結合試験によって、それら二つの結
合活性が構造的に別なものであること、および血清アルブミン結合機能が反復性A−B領域に位置することがわかった〔Nygren et al1990 Eur. J. Biochem. 193:143-148〕。この領域はいくつかのバイオテクノロジー的諸目的に用いられている。その領域への融合体として組換えタンパク質が生産されており、それによって極めて多くの場合にヒト血清アルブミンが固定リガンドとして用いられるアフィニティークロマトグラフィーによる精製が可能となる。それぞれSPAおよびSPG由来の二つの異なるアフィニティー尾部(テイル)を隣接させた「二重アフィニティー融合物(dual affinity fusions)」として、タンパク質
分解的に敏感であることがわかっているタンパク質が生産されている。そのため、完全な標的タンパク質の回収を保証する、N−およびC−末端の両方を用いた精製スキームが可能である〔Hammarberg et al 1989 Proc. Natl. Acad. Sciences USA86:4367-4371〕。
血清アルブミンへの強力で特異的な結合も治療用タンパク質の生体内安定化目的に用いられている。
【0007】
極めて長命の血清アルブミンとの複合体形成を通してレセプターは血清アルブミンそれ自体の半減期に近い半減期で循環にのる(赤毛猿)。HIV/AIDS治療には興味深いものがあるが速やかに清浄化されるT細胞レセプターCD4を用いたマウスでの試験は、それが血清アルブミン結合性領域に融合した場合に、未融合コントロールタンパク質に比べ、実質的に安定化することを示した〔Nygren et al1991 Vaccines 91 Cold Spring Harbor Press 363-368〕。清浄化が遅くなることは、おそらく、肝臓による除去および腎臓での排泄を
かわす血清アルブミンとの複合体形成によって説明できる。
【0008】
血清アルブミンへの結合維持に必要な最小長を測定するために、A−B領域のより小さな断片がいくつか生産され分析されている。血清アルブミン結合活性を有するこれまでの最小断片は、領域B2およびSからのそれぞれBおよび9残基を隣接させた領域A3より成る46残基断片〔「B2A3」〕である。
【0009】
その他の部分断片の相同性および結合試験に基づいて、SPGは血清アルブミンへの結合
に関し、三価であると考えられる。一価のIgG結合性ドメインであるZおよびC1と同様
、B2A3は比較的小さくまた高い溶解度および安定性を示し、従って改変にふさわしい候補である。
【0010】
発明の概要
本発明の主な目的は、天然細菌レセプターの原相互作用機能を改変することにより改変相互作用機能を有する新規細菌レセプター構造体を提供することにある。
【0011】
本発明のもう一つの目的は、様々な条件、例えば高温などに対して安定であってかつより抵抗性のある人工細菌レセプター構造体を提供することにある。
【0012】
本発明のもう一つの目的は、その相互作用機能が他の望ましい相互作用相手にそれを向けるように改変された人工細菌レセプター構造体を提供することにある。
【0013】
これらの目的および以下の開示から明らかとなろう他の目的を念頭に置きつつ、本発明は、天然細菌レセプターのドメインの表面露出アミノ酸の変異誘発により得ることができ、そして該天然細菌レセプターの基本構造および安定性を実質的に失うことなく得られる新規タンパク質を提供するものである。前記タンパク質は、好ましくは、前記新規タンパク質のレパートリーを具現化したタンパク質ライブラリーから選択される。かかる新規細菌レセプター構造体において、原細菌レセプターの相互作用機能に関与する少なくとも一つのアミノ酸残基が別のアミノ酸残基による置換を受けることとなり、その結果改変された相互作用能力が生じると共に原相互作用能力が実質的に失われるのであるが、前記置換は原細菌レセプターの基本構造および安定性を実質的に失うことなく行われる。
【0014】
前記細菌構造体はグラム陽性細菌を起源とするが好ましい。そのような細菌としては、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)
〔グループA〕、連鎖球菌グループC、G、L、ウシグループG連鎖球菌、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)〔グループC〕、ストレプトコッカス・ズーエピデミカスS212、化膿連鎖球菌〔グループA〕、連鎖球菌グループA、C、G、ペプトストレプトコッカス・マグナス(Streptococcus magnus)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)〔グループB〕などが挙げられる。
【0015】
特に興味深いのは、高温環境中で存続するように進化した好熱性細菌である。例えばバチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillusstearothermophilus)、サーマス・アクアテ
ィカス(Thermus aqua-ticus)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis
)およびパイロコッカス(Pyrococcus)などの生物種からのレセプターは当然ながらとりわけ安定である潜在能力を有し、従って本発明によるタンパク質エンジニアリングのための構造枠組を与えるのにふさわしい。
【0016】
相互作用機能改変のための出発材料としては、ぶどう球菌プロテインAまたは連鎖球菌プロテインG由来の細菌レセプター構造体を用いるのが特に好ましい。
【0017】
好ましいレセプターとしては、Fc〔IgG〕レセプター タイプI、タイプII、タイプIII
、タイプIV、タイプVおよびタイプVI、フィブロネクチンレセプター、Mプロテイン、プラスミンレセプター、コラーゲンレセプター、フィブリノーゲンレセプターまたはプロテインL〔K軽鎖〕、プロテインH〔ヒトIgG〕、プロテインB〔ヒトIgA、A1〕、プロテインArp〔ヒトIgA〕に由来する細菌レセプターなどが挙げられる。
【0018】
特に好ましい細菌レセプターは、ぶどう球菌プロテインAのFc〔IgG〕レセプタータイ
プIまたは連鎖球菌プロテインGの血清アルブミンレセプターに由来するものである。
【0019】
本発明によれば、原細菌レセプター構造体の安定性および諸性質を維持するために、原細菌レセプターの相互作用機能に参加するアミノ酸残基に関与する置換が原細菌レセプターのアミノ酸残基の約50%を超えて及ばないようにするのが好ましい。原細菌レセプター
のアミノ酸残基の約25%を超えない範囲で置換を受けるようにするのが特に好ましい。
【0020】
それらの相互作用機能の改変に選択される原細菌レセプター構造体については、IgG結
合性ドメインZ、C1、および血清アルブミン結合性ドメインB2A3に由来するレセプターを用いるのが特に好ましい。
【0021】
本発明による改変を受ける原レセプター構造体の安定性および諸性質をできるだけ維持するために、その置換が原細菌レセプターの相互作用機能に参加するアミノ酸残基の実質的に全部を限度として及ぶようにするのが好ましい。
【0022】
各種条件に対する安定性および抵抗性に関する好ましい性質を得るには、本発明による細菌レセプターが約100を超えないアミノ酸残基より成るのが好ましい。学術報告書から
、比較的小サイズのタンパク質は高温に対し、また低pHおよびある種の化学物質に対してもかなり抵抗性があることが知られている。温度抵抗性に関する詳細についてはBiochemistry 1992, 31, pp.3597-3603にあるAlexanderらの文献を参照されたい。
【0023】
天然細菌レセプター構造体の改変に関しては、その置換を遺伝子工学、例えば部位特異的変異誘発により行うのが好ましい。
【0024】
改変された天然細菌レセプターの相互作用相手については、多くの物質、例えばタンパク質、脂質、炭水化物および無機物質などが考えられる。炭水化物の例としては、血液型決定因子および病原体特異的オリゴ糖が挙げられる。
【0025】
タンパク質について考え得る相手は、相互作用相手としてのIGF−I、IGF−II、hGH、
第VIII因子、インスリンおよびアポリポタンパク質、およびそれらのそれぞれの受容体である。更にまた、様々な折りたたみ形態のタンパク質に対する特異性を有する新規レセプター変種を選択することによって、正しく折りたたまれた分子の単離を容易にするアフィニティー樹脂または分析ツールを生産することができる。更なる例は、ウイルスコートタンパク質、細菌抗原、ビオチンおよび細胞マーカー、例えばCD34およびCD4である。
【0026】
本発明は様々な天然細菌レセプターに適用可能であるが、以下の本発明のより詳細な説明はIgG結合性ドメインZ、C1およびB2A3の使用に向けられている。天然細菌レセ
プターの天然構造体に基づいた人工細菌レセプターの使用にある本発明概念にはいくつかの長所が伴う。すなわち本発明により、強く、安定した、高溶解性の、そして分泌能のあるレセプターを用いることが可能になる。このことは、貯蔵、条件変動例えば温度変動などに関しさほど安定でないポリクローナル体およびモノクローナル体の、例えば診断目的のための、使用に基づく従来技術とは対照的である。更にまた、本発明により、天然細菌レセプターを改変して特定目的に望ましい相互作用能力を獲得することができるようになる。
【0027】
大きなレパートリー中で、かかる機能的変種を選抜するには、強力な選抜システムを採用しなければならない。この分野における最近の発展は様々な方法の選択肢を提供してくれる。この数年の間に出現したタンパク質エンジニアリングのための最も重要なツールの一つは、タンパク質のファージディスプレイである。組換えDNA法によって、それらの表
面にタンパク質をファージコートタンパク質に融合した形で相持する個々のファージ粒子を調製することができる。様々なタンパク質または特異タンパク質の変種を有するファージの大プールからパンニング(panning)することによってある結合特徴を示す特定のフ
ァージクローンを選抜することができる〔WinterらへのWO 92/20791〕。ファージ粒子はファージタンパク質成分をコードする詰込みDNAを含んでいるので、ディスプレイされた
タンパク質の特定変種と対応する遺伝情報との間のカップリングが得られる。この方法を
用いて、典型的には109ファージクローンを同時的に生成させそして所望の特徴の選抜の
ためのパンニングにかけることができる。ファージディスプレイ法は小タンパク質のほか、より複雑なタンパク質、例えば抗体、レセプターおよびホルモンなどの選抜にも用いることができる。ファージディスプレイの前提要件となる分泌が不可能なタンパク質の選抜には、細胞内システムが開発されていて、その場合、タンパク質のライブラリーが特定プラスミド担持オペレーター領域に対する親和性を有するレプレッサータンパク質に融合される結果、特定タンパク質変種とそれをコードするプラスミドとの間のカップリングが得られる。タンパク質ライブラリーの担持体としてのファージの代替物の一つは、細菌細胞の使用であろう。最近、細胞壁アンカリングドメインへの融合に基づくスタフィロコッカス・キシロサス(Staphylococcus xylosus)の表面への組換えタンパク質のディスプレイが実証されたが、このことは、特定変種のアフィニティー選抜のためのタンパク質のレパートリーのディスプレイについても可能性を開くものである〔Hansson, M. et al 1992 J. Bacteriology 174:4239-4245〕。更にまた、コンピューターグラフィックシミュレー
ションを用いて構造モデル化を行うことにより、あるタンパク質の変えられた変種の結合および機能を、該タンパク質をコードする遺伝子を構築する前に理論的に予測できる。
【0028】
前述のとおり、本発明は、殺菌レセプター由来のドメインの表面露出アミノ酸の変異誘発に基づく新規タンパク質の構築を記述するものである。これらの人工細菌レセプターはファージディスプレイシステムを用いて様々な応用目的のために選抜することができる。細菌レセプターを構造枠組として用いることから来る利点にはいくつかがある。それらは、全体構造を乱すことなく結合機能を発現するように進化している。それらは、当然ながら、易溶性で、非生理学的条件例えばpHおよび熱に対して強く、折りたたみ効率がよく、また加えて分泌能がある。
【0029】
本発明は、いくつかの様々な分野で有用である。前述の特許明細書WO 92/20791の導入部は抗体およびそれらの構造に関する優れた調査結果を記載している。特にその第1頁が参考となる。
【0030】
細菌レセプターSPAおよびSPGは、例えばハイブリドーマ上清および腹水液などからの抗体を検出および精製する目的で抗体技術に広く用いられている。しかしながら、生物種およびサブクラスによっては、すべての抗体がこれらのレセプターによって認識されるわけではない。抗体のより小さい亜断片に対しては(Fig.4)、SPAおよびSPGは限られた結合
しか示さず、また一般的精製スキームのための効率的ツールが欠如している。しかしながら、SPAおよびSPGを含む変異レセプターのレパートリーからは、抗体およびそれらの亜断片に対するより広い親和性を示す形態のものを可能性として選抜することができる。
【0031】
抗体の複雑な構造組織は、様々な応用目的に用いる上で、また組換え誘導体を生産する上で多くの重要性を有する。免疫収着剤に用いる場合、ジスルフィド結合により接合されたサブユニットの配置は、遊離重軽鎖のカラムからの漏れを招くことがある。抗原結合部位に寄与する二つのサブユニットをうまくドッキングさせなければならないために、会合度の低い小さな亜断片を細菌内生産させることは困難になる。抗体の折りたたみは、鎖内および鎖間ジスルフィド結合の形成に依存するが、それら結合は細菌細胞の細胞内環境中では形成し得ない。組換え抗体用の高水準細胞内発現系は封入小体形成を招き、そしてその封入小体は生物学的活性の獲得のためには復元されなければならない。これらの制約のために、広範多岐にわたる応用において抗体に代えて、特異的結合可能なタンパク質ドメインとして用いるための代替物を探索することには価値がある。
【0032】
抗体の抗原結合部を形成するCDR領域は、約800Å2の抗原利用可能総面積を形成し、抗
体からの典型的な10〜20残基が結合に関与する。出発点としてSPAの一つのドメインBと
ヒトfc〔IgGI〕との間のX線結晶学的方法により決定された複合体の構造を用いて、こ
の結合に関与する前記ドメインの約15アミノ酸を決定または仮定することができる。約600Å2の結合面積は抗体とその抗原との間と同程度の大きさである。これらの位置の任意の試験管内変異誘発により、同時に、改変された機能性質を有するZ変種の大ライブラリーが得られる。極めて安定したいわゆる三ヘリックス束(three-helixbundle)を構成するZドメインの領域がその天然型のままに維持されることから、「人工抗体」と考え得る、また期待される易溶性および多数の新リガンドに結合できる優れた折りたたみ特性を有する、様々な範囲のタンパク質が生成する。不変領域へのこれら人工レセプターの融合体を、エフェクター機能、例えば補体結合またはADCC(抗体依存性細胞性細胞傷害作用)のトリガリングといった機能を新規導入するために構築することができる。
【0033】
このような「人工抗体」または人工細菌レセプターの出発点としてSPA構造〔D〕を利
用することにはいくつかの潜在的長所がある。約10年にわたって、多くのタンパク質がSPAへの融合体として生産されているが、その場合には融合相手の発現、再折りたたみおよび精製上の独特な性質が利用されている。これらの応用例において、Zドメインは極めて安定であって、プロテアーゼに対して安定であり、大量に生産しやすく、そして細胞内的にも大腸菌内で正しい構造に折りたたみ可能(システインなし)であることがわかっている。免疫グロブリン(Ig:S)は、実質的に、抗原結合性ループ(こちらの方は連続ペプチド配列で構成されている)の配向を安定させるいわゆるβ−シート構造から構築されたテトラマーである。これと比較すべきは、三つの密に充填されたα−ヘリックス構造より成るいわゆる三ヘリックス束から構築されるモノマーZドメインであって、その場合には、Fc結合性アミノ酸は配列中に非連続的に認められるが折りたたまれたタンパク質中では一つの同じ結合表面に位置している。結合表面の形成に寄与する構造要素に関するこの相違は、天然抗体では得ることのできない新しい可能性としてのコンホメーションを可能にするものである。細胞質部位に普通にみられる条件下においても天然構造に折りたたまれるZの能力は、それらの誘導体の臨床使用の可能性を開くものである。例えばウイルス中和能を有する人工抗体をコードする遺伝子をいわゆる遺伝子療法を通して細胞に分布させて感染を初期段階で阻止することができる。
【0034】
SPGの一つのIg結合性ドメイン〔C1〕とヒトFcとの間の複合体の構造データから結合
表面を調べることができる。本質的に静電的性質を有するその結合には、α−ヘリックスからの、および後に続くβ−シート〔#3〕からのアミノ酸からの側鎖が関与する。Zドメインと比較した場合のこれらの相違から、人工抗体の結合パターン上の相違が結合表面のトポロジーに関する様々な条件に依存して観察され得るかどうかを調べるためにC1変種のライブラリーを作ることも有用となる。従ってこれらの、およびその他のレセプターの構造に基づくレパートリーは、新機能を有する人工形態を創製する上で様々な可能性を提供する。
【0035】
組換えタンパク質を生産する際に生産物の精製が主な問題となることがしばしばである。標的タンパク質をいわゆるアフィニティーテイルへの融合体として発現することによって、そのハイブリッド生産物を細胞溶解液から、または場合によっては培地から、固定リガンド含有カラムを通して効果的かつ選択的に回収することができる。あるタンパク質とリガンドとの相互作用に基づくいくつかのそのような遺伝子融合系が報告されている。工業的応用の場合は、当局による純度要件を満たすべく作業間にカラムを効果的に清浄化することがしばしば望ましい。タンパク質の性質によるが、しばしば有機または物理的マトリックスに対して、例えばイオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過などに用いられる比較的過酷な条件(NaOH、酸、熱)は通常用い得ない。ここに細菌レセプター由来の安定構造体に基づく新リガンドを用いることの大きな重要性がある。これに関して、SPAからのZドメインは優れた例である。なぜなら該ドメインは、pH1あるいは80℃への加熱などといった困難な条件に、非可逆的に変性することなく、付すことができるからである(後記実施例2参照)。例えばZ変種のライブラリーからは、アフィニティークロマトグラ
フィー用固相に固定して用いるための興味深いタンパク質生産物を選抜することができる。これらのタンパク質リガンドは効果的精製条件に対して抵抗性があり、またそれ故に大規模に反復使用できる。固定モノクローナル抗体がある生産物の選択的精製に用いられる伝統的免疫アフィニティークロマトグラフィーにおいては、抗体がシステイン橋により連結された四つのポリペプチド鎖から構成されていることから、そのサブユニット(重および軽鎖)がカラムから漏れるという問題がある。本発明の人工細菌レセプターは一つのポリペプチド鎖だけで構成されているのでこの問題は回避される。興味深い一つの特別の分野は、炭水化物への結合のための選抜である。この大きなそして重要なバイオ分子群に対する天然バインダーであるレクチンは精製しにくくまた安定性に限界があることがわかっている。炭水化物に対する抗体の発生は極めて複雑であることがわかっていることから、新しい人工レクチンの選抜は、研究、診断および治療にとって極めて重要になる。
【0036】
細菌宿主中で組換えタンパク質を生産すると、遺伝子生産物の沈殿、いわゆる封入小体がしばしば形成される。タンパク質の天然構造体を得るにはこれを試験管内復元にかける必要がある。かかる方法においてしばしば直面する一つの制約は、物質の大部分が手順の中で沈殿してしまうため歩留りが低下することである。短い親水性ペプチドまたは易溶性完全ドメインのいずれかの形の鎖長のタンパク質を生産することにより〔Samuelsson, E.
et al 1991 Bio/Technol. 9:363-366〕復元中に沈殿が起きることなく、実質的により高濃度のタンパク質が得られる。例えば、前記ドメインの高溶解度は、タンパク質の増大した溶解度を封入体からの再折りたたみあるいはジスルフィド橋のいわゆるリシャッフリングに用いることを可能にする。人工レセプターのライブラリーからは、組換えタンパク質の再折りたたみを容易にしそして可能にさえもする改良された性質を有する新しい形態を選抜することができる(シス−作用性シャペロン)。
【0037】
最近、いわゆる膨張床(expanded bed)でのイオン交換クロマトグラフィーに基づく組換えタンパク質精製のための新しい単位操作が報告されている〔Hansson, M. et al 1994
Bio/Technol. inpress〕。これに関し、正荷電イオン交換マトリックスでの選択的濃縮には、標的タンパク質と宿主細胞のタンパク質との間の等電点の差が利用される。酸性Zドメイン(pI 4.7)への融合により、イオン交換段階は大部分の汚染物質が融合タンパク質とは反対電荷を有するpHで行うことができる。選択されたアミノ酸が酸性アミノ酸であるアスパルテートおよびグルタメートにより置換されている細菌レセプターのライブラリーを構築することにより、組換えタンパク質生産における融合相手として用いるための、同じく極めて酸性がある溶解度増大ドメインを生産することができる。
【0038】
前述のとおり、タンパク質リガンドに基づくアフィニティー系はカラムの清浄化に過酷な条件が必要とされることから、工業目的には全面的に適しているわけではない。それ故、簡単で安価な有機リガンドに対して特異的親和性を有する融合相手が必要とされている。かかるリガンドに対する様々な細菌レセプターのファージディスプレイライブラリーのパンニングにより、組換えタンパク質の生産精製のための融合相手として用いるのに適した新しいアフィニティーテイルが提供される。
【0039】
本発明は新しい機能を有するタンパク質を生産および選抜するための手段を提供する。本発明により、これは細菌レセプターの安定ドメインの規定された残基に広範な変異誘発を行うことによって達成される。本発明の人工細菌レセプターはその新しい機能の故に治療、診断、バイオテクノロジーのための、あるいは研究用の特異的バインダーとして用いることができる。
【0040】
以下、本発明を添付図面を参照しつつ特定の実施例により詳述する。図面中、
図1.A.シグナルペプチド(S)、五つのIgG結合性領域〔E-D-A-B-C〕、次いで細胞壁
アンカリング領域〔X-M〕を示すぶどう球菌プロテインAの概略図。
B.X線結晶学的方法によって決定されたSPAからのドメインBとヒトFc1との複合体
のコンピューターグラフィック図。本図にはSPAの第三ヘリックスが見られない点に留意

図2. A.シグナルペプチド(Ss)、領域E(E)、反復性血清アルブミン結合性A−B領
域、スペーサー領域(S)、次いでD領域により隔てられたIgG結合性ドメインC1〜C3、そして最後に細胞壁アンカリング領域W−Mを示す、G148株からの連鎖球菌プロテインGの
概略図。
B.X線結晶学的方法により決定された、SPGのドメインC1とヒトFc1との複合体のコンピューターグラフィック図。
図3.58残基SPAアナローグZの三ヘリックス束構造の概略図。ヘリックス−ヘリック
ス詰込みを安定化させるF30を除いてFcへの結合に関与するとされている側鎖の一部が示されている。
図4.各種亜断片であるFab、Fd、Fcおよび、短い(約15aaの)リンカーにより接続されたVHとVLとで構成されるscFvを示す、IgG抗体構造。
図5.A.Z遺伝子ライブラリーの作成に用いられる遺伝子組立て手法の一般的考え方。酸性Z誘導体のライブラリーを構築するには、縮退オリゴヌクレオチドであるACID-1、ACID-2を用いて残基9、11、14、32および35だけを変える。組立て後のライブラリーの増幅に用いられるPCRプライマーはZLIB-3(PCRプライマー5′)およびZLIB-5(PCRプライマー3′)とした。
B.Z−ドメインの58残基のうち46個をコードする組立て後のライブラリーを増幅して得られるPCR生産物は、Zの残りのC−末端部を取り込んだファージミドDNA中にクローン化することができる。この遺伝子はM13ファミリーの大腸菌バクテリオファージのプロテインIII遺伝子とフレームをあわせて融合される。これによって酸性Z変種のレパートリ
ーをファージ表面にディスプレイすることができる。
図6.Zライブラリーの構築に用いられるオリゴヌクレオチド。実施例2に記載の酸性Z−変種のライブラリーにはオリゴヌクレオチドZLIB-1、2、3、4、5、LONGBRIDGE、ACID-1およびACID-2だけを用いた。
図7.酸性Zタンパク質ライブラリーに由来するクローンのDNA配列。肉太数字はZ−
ドメインにおけるアミノ酸位置を示している。明確にするために、制限部位AccIおよびNhe1の位置が示されている。
図8.pH2.9における一つのZドメインの温度安定性の分析結果。検体中のα−ヘリッ
クス含量は、温度スキャン中、s222nmにおいて楕円率を測定することにより監視した。
図9.ファージミドベクターpKN1。斑入り(variegated)ヘリックス1および2をコードするライブラリーPCR生産物(酸性および広範(extensive)ライブラリーの両方)を、野生型Zドメインの残基44−58(本質的にヘリックス3)の遺伝子とその後に続く、M13ファージコートタンパク質3遺伝子の端部切除体とフレームをあわせて連結されたぶどう球菌プロテインGに由来する46残基血清アルブミン結合性領域(ABP)の遺伝子にサブクロ
ーン化した。このファージミドはプラスミドpBR322に由来する複製開始点およびファージ粒子への詰込みに必要な遺伝子間領域(fl ori)を含有する。
図10.SDS-PAGE。それぞれのファージミドベクターからコードされたABP融合タンパク
質として野生型Zドメインおよび二つの異なる酸性Z−変種を産生する大腸菌細胞のペリプラズムから得られたHSA−アフィニティー精製タンパク質をSDS/PAGEにより分析した。M、分子量マーカー;レーン1、野生型Zドメイン;レーン2、クローン10;レーン3、クローン12。
図11.CD−データ。Z−タンパク質ライブラリーの野生型Zドメインと二つの変種について得られたCDスペクトルの重ね合わせプロット。タンパク質の信号は、分析中に共存するABPテイルのCD信号寄与を差し引いた後に得られた。
図12.イオン交換クロマトグラフィー。二つの酸性Z−変種タンパク質No.10およびNo.12、および野生型Z−ドメイン(ABP融合タンパク質として生産)を各々陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを用い、pH5.5で分析にかけた。カラムからのタンパク質溶出はNaC
l勾配によって得た。上位:酸性Z変種No.12;中位、酸性Z変種No.10;下位、Z(野生型)。野生型Z−タンパク質はこのpHにおいてカラムで遅延しなかった点に留意。
図13.Z−ドメイン構造。天然Z−ドメイン構造モデルの主鎖トレース図。ヘリックス1および2の構造はSPAのドメインBとFcとの間の共結晶構造からのものである(Deisenhofer,(1981) Biochemistry, 20, 2361-2370)。第三ヘリックスはNMR分光法からの二次的構造帰属に基づいて作成された(Gouda et al., (1992) Biochemistry, 31, 9665-9672)。組合せライブラリー(combinatorial library)構築の際に変異された残基の側鎖の非水素原子が玉−棒モデルとして表示されている。このディスプレイはプログラムMOLSCRIPTによって作成された(Kraulis (1991) J. Appl. Cryst., 24, 946-950)。
図14.アミノ酸配列。ライブラリーから無作為抽出された31個のZ−変種のDNA配列決
定結果。変異誘発を受けた残基は枠で囲んである。水平線は最上位に掲げた野生型Z配列と同じヌクレオチドであることを示している。示されているのはABP−テイルへの融合タ
ンパク質として発現され特性評価されたクローンである。
図15.アミノ酸分布。変異位置における推定アミノ酸の統計的解析結果。全部で、31クローンからの13残基(403コドン)を計算に含めた。20個すべてのアミノ酸のほか、NNG/
T縮退プロフィールに含められた単なる停止信号(TAG)についても実測頻度と予測頻度の割合が示されている。
図16.SDS−PAGE分析。それぞれのファージミドベクターからコードされたABP融合タンパク質として野生型Zドメインと四つの異なるZ−変種を産生する大腸菌細胞のペリプラズムから得られたHSA−アフィニティー精製タンパク質をSDS/PAGEにより分析した。レーン1−5:還元条件。レーン6および7:非還元条件。レーン1、野生型Zドメイン;レーン2、クローン16、レーン3、クローン21;レーン4、クローン22;レーン5、クローン24;M、分子量マーカー;レーン6、クローン16およびレーン7、クローン22。
図17.CD−データ。α−ヘリックスタンパク質表面ライブラリーの野生型Zドメインと四つの変種について得られたCDスペクトルの重ね合わせプロット。それら変種の信号は分析中に共存するABPテイルのCD信号寄与を差し引いた後に得られた。
図18.バイオセンサーアッセイ。ABPテイルに融合された四つの異なる変種(No.16、21
、22、24;図14)と野生型ZドメインのBIA-coreTM分析から得られたセンサーグラムの重ね合わせプロット。それら各種タンパク質のIgG結合活性は、約5000RUヒトポリクローナ
ルIgGで被覆されたセンサーチップを用いそして各種タンパク質の1500nM溶液を2μl/
分で45μlパルス注入して分析した。変種No.16、21、22および24を注入中の信号のプラ
トー値の相違は、駆動緩衝液中への希釈度が様々であることによる点に留意。
【0041】
すべての試薬およびDNA構築物はスエーデン国ストックホルムの王立技術研究所、生化
学・生命工学部(The department forBiochemistry and Biochemistry, Royal Institute
of Technology,Stockholm, Sweden)で入手可能である。
【0042】
材料
オリゴヌクレオチド(図6)をスカンジナビアン・ジーン・シンセシス(Scandinavian Gene Synthesis)(スエーデン)から購入し、そして指示されている場合には〔Maniatis et al (1988) Molecular cloning. A laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press〕に従ってリン酸化した。ZLIB-1は5′−末端でビオチン化され、ダイナール(Dynal)A/S(ノルウェイ)から購入した常磁性ビーズM-280ストレプトアビジンへの固定化が可能となる。洗浄/結合緩衝液は1M NaCl、10mM Tris-HCl、pH7.5、1mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)とした。アニーリング/連結緩衝液は30mM Tris-HCl、pH7.5、10mM
MgCl2、0.2mM ATP、1mM 1.4ジチオトレイトール(DTT)とした。DNAリガーゼはベーリンガー・マンハイム(BoehringerMannheim)(ドイツ)から入手した。10×PCR緩衝液は20mM MgCl2、2mM dNTP、100mM Tris-HCl、pH8.3、50mM KCl、1%Tween 20を含有した。Taq DNAポリメラーゼはシータス社(Cetus Inc.)(米国)から入手した。サーマルサイクラーはパーキン−エルマー(Perkin-Elmer)9600とした。温度/安定性スキャニングに
はJ-720分光偏光計(JASCO、日本)を用いた。適格性(competence)を有するように調製された〔Maniatis et al (1988) Molecular cloning. Alaboratory manual. Cold Spring
Harbor Laboratory Press〕大腸菌株RR1△M15〔Ruether, U. (1982) Nucl. Acids Res. 10: 5765-5772〕を形質転換用宿主として用いた。寒天プレートは100μg/mlのアンピシリンを含有した。
【実施例】
【0043】
実施例1
酸性Z−ライブラリーの構築
イオン交換クロマトグラフィーによって精製すべき組換えタンパク質のための融合相手を生産するために、合成58残基SPAアナローグZ〔Nilsson et al, Prot. Eng〕を変異誘
発アプローチにかけてpIが変化した新変種を構築した。SPAのB−ドメインとヒトFc1と
の複合体の結晶構造に基づいて〔Deisenhofer, J. et al 1981,Biochemistry 20: 2361-2370〕、結合に参加するB−ドメインからの5残基を変異誘発の標的として選択した。ヘ
リックス1および2に位置するZ−残基No. 9、11、14、27および35に対応するこれら五つのコドンを、縮退オリゴヌクレオチドを用いて同時的に変えると、これらの位置におけるトリプレット配列G(C/A)(C/A)はアミノ酸であるアラニンのコドン(50%)、アスパラギン酸のコドン(25%)およびグルタミン酸のコドン(25%)をそれぞれ生じる。固相遺伝子組立て手法〔Stahl et al, Biotechniques 14: 424-434〕を用いて、合成IgG結合性
Z−ドメインの35(243)の酸性変種をコードする遺伝子のライブラリーを創製した(図5
)。20μl(200μg)の常磁性ストレプトアビシン−被覆ビーズを洗浄/結合緩衝液で
洗浄し、そして15pmoleのプレハイブリダイズされたZLIB-1(ビオチン化されている)およびZLIB-2と共に、洗浄/結合緩衝液の最終容量を40μlとしてRTで15分間インキュベートした。連結および洗浄の後、各々約15pmoleのオリゴヌクレオチドACID-1(縮退)、LONGBRIDGEおよびACID-2(縮退)およびプレアニールされたリンカー対ZLIB-4/ZLIB-5を、Stahl et al〔Biotechniques 14: 424-434〕に従って洗浄段階をはさみながら、くり返し添加した。組立て完了後、様々な断片を37℃で15分間連結した。ビーズ上に依然として同定されているZ(酸性)−ライブラリーをコードするDNA量を増幅するために、一部を抜出してPCRにかけた。そのPCR混合物(50μl)は各々1pmoleのPCRプライマーZLIB-3およびZLIB-5、各々5μlの連結混合物、10×PCR緩衝液および10×CHASE、1単位のTaqポリメラーゼおよび全量を50μlにするだけの滅菌水を含有した。温度循環プログラムは次のとおりとした:96℃、1分、60℃、1分および72℃、2分を35サイクル反復した。1%アガロースゲル電気泳動による分析は179bpという予測されたバンドを示し、前述の組立ての考え方が実施可能であることがわかる。Z(酸性)−ライブラリーのPCRからの179bpバンドをゲルから切り出し、そして粗製(GenecleanTM、Bio 101、Inc. 米国)後に固相DNA配列決定〔Hultmanet al, 1988〕に適したプラスミドベクター(TA-cloningTMキット、Invitrogen, Inc. 米国)に挿入した。形質転換を行い、そしてアンピシリン含有寒天プレートに塗布した後得られた配列の分析のために二つのコロニーを選択した。その結果(図6)は、所望の位置に予測された縮退がみられることを示している。
【0044】
実施例2
Zコンホメーションの温度安定性の測定
Zコンホメーションの温度安定性は、温度スキャンを通して円二色性(CD)分光法によ
り222nmでの楕円率を追跡することによって測定した。この波長はZのα−ヘリックス度
の存在を監視するために用いられる〔Cedergren et al. 1993, Prot. Eng. 6: 441-448〕。分子を不安定化するためにどちらかというと低いpH(約2.9)で実験が行われた。何故なら、温度変性の中間点(Tm)は中性pHにあっては〜95℃であり(データは示していない)、これは正常大気圧下においてトランジションを通過する完全なスキャンにより測定できる範囲の外にあるからである。この実験は、Zドメインの(温度スキャンの変曲点により規定される)TmがpH2.9において71℃もの高さであることを示している(図8)。このこと
はZ分子のα−ヘリックスの温度安定性が極めて高いことを実証している。
【0045】
実験はJ-720分光偏光計(JASCO、日本)で行われ、そして温度は、NESLAB水浴からキュベットホルダーを通して水を循環することにより調節した。温度はキュベット中でマイクロセンサーデバイス(JASCO、日本)を通して監視した。緩衝液は50mM酢酸、pH2.9とした。タンパク質はドメインZ〔Cedergren et al, 1993, Prot. Eng. 6:441-448〕を50μg/
mlのタンパク質濃度で用い、そしてキュベットセル通路長は1cmとした。実験における温度スキャン速度は50℃/時とした。
【0046】
実施例3
酸性Z−ライブラリー由来タンパク質の特性評価
酸性Z−ライブラリーに由来する二つのタンパク質変種を大腸菌で発現させ、精製しそしてSDS-PAGE、円二色性およびイオン交換クロマトグラフィーを用いて特性評価した。固相遺伝子組立てで得られたPCR生産物(実施例1参照)を、200μlの緩衝液(33mM Tris
−アセテート、pH7.9、10mM酢酸マグネシウム、66mM酢酸カリウム、0.5mM DTTおよび0.1
mg/ml BSA)中で45U Esp3I(Labassco AB、スエーデン)および50U Nhe I(Pharmacia・スエーデン)を用いて制限した。この混合物に鉱油を重層しそして37℃で一夜インキュベートした。制限断片(約5μg)をフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール抽出に続いてクロロホルムを用いた付加的洗浄を行うことにより精製し、次いでエタノール沈殿させてからMlu I-Nhe I切断pKN1ベクター(1μg)(後記参照)に13.5Weiss単位のT4DNAリガーゼを用いて15℃で一夜連結させた。その連結混合物を70℃で20分間熱処理し、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールで抽出した後クロロホルムで洗浄し、エタノール沈殿させそして20μlの滅菌水に再溶解した。
【0047】
前記ファージミドベクターpKN1(図9)をいくつかの段階を踏んで次のようにして構築した。Z−ドメインの不変残基44-58をコードする二本鎖リンカーをオリゴヌクレオチドZLIB-6およびZLIB-7から形成しそしてファージミドpKP 986(Dr. Lars Abrahmsen, Phar-macia Bioscience Center, スエーデンの好意による寄贈品)中のMlu I-Xho I断片として
クローン化し、その結果pKNを得た。プラスミドPkp 986は大腸菌OmpAリーダーペプチド
、それに続くfd繊維状ファージコートタンパク質3(Lowman et al. (1991) Biochomistry,30, 10832-10844)の残基249-406をlacプロモーターのコンロール下にコードしている。連鎖球菌プロテインGに由来する一価血清アルブミン結合性領域をコードする遺伝子断片を、プライマーABP-1およびABP-2(それぞれXhoIおよびSalI認識部位を含有)を用いてプラスミドpB2T(Eliasson et al, Molecular Immunol., 28, 1055-1061)からPCRにより増幅し、そしてXho制限プラスミドpKNにクローン化し、pKN1を得た。従ってそのファージミドベクターは、OmpAシグナルペプチド、野生型Zドメインの第三ヘリックス、それに続くfdファージタンパク質IIIの残基249-406に連結された46残基アルブミン結合性タンパク質(ABP)をコードしており、またZドメインの斑入りヘリックス1および2をコードするEsp 3I/NheI−消化PCR生産物の挿入に適合している。
【0048】
凍結応答性の大腸菌RR1△M15(supE44 lacY1 lacZ ara-14 galK2xyl-5 mil 1 leuB6 proA2△(mrcC-mrr)recA+ rpsL20 thi-1 lambda-F〔lac/q lacZ△M15〕)(Ruether, (1982) Nucleic Acids Research, 10,5766-5772)細胞をManiatisおよび共同研究者(Maniatis et al,(1982) Molecular cloning: A Laboratory Manual, Cold SpringHarbor, Cold Spring
Harbor Laboratory Press)に従って連結混合物で形質転換し、そして100μg/mlアンピシリン(Sigma、米国)および1%グルコースを含む寒天プートに塗布した。無作為に採取したコロニーからの少量の細胞を、20mM TAPS(pH9.3)、2mM MgCl2、50mM KCl、0.1% Tween 20、0.02mMデオキシリボヌクレオシドトリホスフェート(dNTP)および1.0UのTaq DNAポリメラーゼ(Perkin-Elmer)中の5pmoleのプライマーRIT-27およびNOKA-2(ビオチン化されている)を用いて、Gene Amp PCR System 9600 (Perkin Elmer、米国)での
2−段階PCR増幅(30サイクル:96℃、15秒間;72℃2分間)に別々に付した。PCR生産物の固相DNA配列決定は、ロボットワークステーション(BiomekTM 1000,Beckman Instruments,Fullerton, CA)とのFITC標識配列決定用プライマー NOKA-3(固定化らせん用)およびABP-2(溶出らせん用)およびAutomated Laser Fluoreseent(A.L.F.)DNA SequencerTM (Pharmacia Biotech, スエーデン)を用いてHultmanおよび共同研究者(Hultman et al.,(1989) Nucleic acids Research, 17, 4937-4946)の記載の如く行った。
【0049】
表1のようにZ−ドメインの9、11、14、27および35位に様々なコードされた酸性アミノ酸置換を有する二つのクローンを更なる分析のために選抜した。野生型Zドメインと二つの異なる酸性Z−変種タンパク質(クローンNo.10および12)をそれぞれのファージミドベクターから血清アルブミン結合性テイル(ABP)への融合体として発現させそしてヒト血清アルブミン−アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0050】
【表1】

【0051】
対応するファージミドベクターを取込んだ大腸菌RR1△M15細胞を用いてアンピシリン(100μg/ml)を補った100mlのTryptic Soy Broth(Difco)に接種した。それら培養
物を37℃でOD600nm=1となるまで増殖させた後、最終濃度1mMのIPTGで誘導しそして30
℃で一夜インキュベートした。約5000gで10分間の遠心分離により細胞収集しそしてペリプラズム内タンパク質を浸透圧ショック法により遊離させた。細菌からのペリプラズム成分をNygrenおよび共同研究者(Nygren et al., (1988) J. Mol. Recognit., 1, 69-74)の記載するところに従ってアフィニティークロマトグラフィーにかけ、そして均質12%スラブゲル(BioRad Inc., 米国)でのSDS/PAGE(その染色はCoomassie Brilliant Blue R-250を用いて行った)により分析した。すべてのタンパク質について、1.5〜2.5mg/l培養液を回収することができたが、このことは変種および野生型ドメインについて産生および分泌効率が同様であることを示している。更に、精製タンパク質のSDS-PAFE分析(図10)結果は分析された維持Z変種が大腸菌内で安定的発現されることを示唆している。
【0052】
表面変異誘発後に誘導体の二次構造成分が保存されているかどうかを調べるために、差し引き円二色性分析を行った。IgG−またはHSA−アフィニティークロマトグラフィー精製タンパク質Z、Z-ABP、ABPテイルに融合された酸性誘導体No.10および12およびABP−テイルそれ自体を、J-720分光偏光計装置(JASCO、日本)を用いて室温で250〜184nm(遠紫外)円二色性分析にかけた。スキャン速度は10nm/分とした。セル通路長は1mmとした。各種タンパク質の溶液(約0.1mg/ml)を0.05%Tween 20(Kebo AB、スエーデン)を補った20mMリン酸緩衝液pH6.5中で調製した。正確なタンパク質濃度はSystem Goldデータ処理システムを備えた。Beckman 6300アミノ酸分析機でのアミノ酸分析により測定した。誘
導体のCD信号は、タンパク質濃度差を調整し次いでアミノ酸含量について規格化した後、ABPテイルについて得られる信号を差し引くことによって得られた。
【0053】
ABP−テイルに融合した野生型Zドメインおよび酸性変種について250〜184nmより得ら
れる信号の比較をそのABP−テイルそれ自体よりの寄与を差し引いた後に行った。この結
果は、それら二つの酸性Z−誘導体について、208nmに特徴的極小値および222nmに変曲点(Johnson、1990)を持つ野生型Zドメインと同様のスペクトルが得られたことを示している(図11)。このことは三ヘリックス束の枠組がこれらの変異体においても保存されていることを示唆している。
【0054】
前記の二つのZ−変種、No.10および12は天然Z−ドメインと比較するとそれぞれ四つ
および三つの導入酸性アミノ酸を含有している。その導入された酸性が等電点の差に反映されているかどうかを調べるためにそれらを陰イオン交換カラムからの勾配溶出に付した。(すべてABP融合タンパク質として生産された)タンパク質Z(野生型)および酸性変種No.10および12を各々(5μgずつ)300μlの20mM Piperazine緩衝液(pH5.5)に溶解しそして別々にMonoQ、PC1.6/5カラム(Phamacia、スエーデン)に100μl/分でかけた。タンパク質の溶出は20分間で0〜50%NaClという範囲に及ぶPiperazine緩衝液(pH5.5)(Sigma、米国)中のNaCl勾配をかけることによって行った。この分析からの結果(図12)は、それら二つの酸性Z−変種タンパク質が異なるNaCl濃度で溶出され、等電点の明らかな相違を示唆しているを示している。これに対し、実験中に選択されたpHでは、野生型Z−ドメインは前記樹脂と相互作用せず、従ってフロースルー中に見られた。
【0055】
すなわち、前記二つの酸性Z−変種タンパク質について行われた一連の実験は、それら変種の発現挙動、タンパク分解安定性および二次構造成分が天然Z−ドメインと比較した場合に変化しなかったことを示している。更に、それら二つのZ−変種には表面所在位置を酸性アミノ酸で置換することにより新しい機能が導入された。それら二つの酸性変種は、例えば、低pHでのイオン交換クロマトグラィーによる組換えタンパク質の精製を容易にするために融合相手として用いることができる。すなわち、酸性Z−ライブラリーのメンバーの中から新しい機能を持つ変種を単離できることが示される。
【0056】
実施例4
Z−変種の組合せライブラリーの構築および特性評価
固相遺伝子組立て手法を用いてZ−変種のライブラリーを構築した(実施例1参照)。Fcへの結合に参加するものと示唆されている(Deisenhofer, (1981) Biochemistry, 20, 2361-2370)アミノ酸残基の大部分は分子表面にある(Q9、Q10、N11、F13、Y14、L17、N28、Q32およびK35)ことが認められ、従って変異誘導に含まれる。加えて、それらの表面局在に基づき、他の残基(H18、E24、E25およびR27)も含まれるものと決定された。このように全部でZ骨格中の13残基が同等的かつ無作為変異誘発に選択された。Zと記される58−残基一価IgG−結合性ドメインの表面変異体のライブラリーを構築するために一組のオリゴヌクレオチド(図6)を合成した。このライブラリーにおいて、Z−ドメインの第一α−ヘリックスに位置するQ9、Q10、N11、F13、Y14、L17およびH18のコドンと第二α−ヘリックスにあるE24、E25、R27、N28、Q32およびK35のコドン(図13)を、構築用の一本鎖縮退オリゴヌクレオチドを用いた固相法により縮退NNK(K=GまたはT)コドンで置換した。選択されたNNK縮退はTAG(アンバー)停止信号を含む全20個のアミノ酸をカバーする32コドンを含む。
【0057】
遺伝子組立て中の固体支持体として用いられるストレプトアビジン−被覆常磁性ビーズへの強いアンカリングを可能にする5′ビオチン基を有するオリゴヌクレオチドZLIB-1を
合成した。このZLIB-1オリゴヌクレオチドはその相補配列(ZLIB-2)と共に、Z−ドメインの残基1−8、およびそれに先行するZ変種の大腸菌分泌を容易にするために含められ
たプロティンAの領域Eの最初の6残基(Abrahmsen et al., (1986) EMBO J., 4, 3901-3906)をコードしている。オリゴヌクレオチドDEGEN-1およびDEGEN-2(図6)は、通常Fc−結合に関与するZドメインの二つの変異ヘリックスをコードする。理論的には、前記の13個の選定位置で完全かつ同時にNNK縮退があれば、3.7・1019の異なるDNA配列によりコ
ードされた約8・1016タンパク質変種の組合せライブラリーが得られることになる。しか
し、ここではライブラリー構築は約15pmoleのプレハイブリダイズされたオリゴヌクレオ
チドZLIB-1およびZLIB-2(図6)の固定化から開始されており、そのためにZ−ライブラリーの理論的サイズは、約2・1010Z変種をコードする約0.9・1013の各種DNA配列に制限
される。この組立てに続いて、架橋オリゴヌクレオチドBRIDGE(図6)により容易化された等モル量のオリゴヌクレオチドDEGEN-1およびDEGEN-2の連結により得られる前形成構築物の添加および連結を行った。
【0058】
この組立てを完了させるために、プレハイブリダイズされたオリゴヌクレオチドZLIB-4およびZLIB-5より成る断片を連結目的でビーズに添加した。この断片はZドメインの第2ループと不変第三ヘリックスの最初の6残基をコードする。組立て完了後、それぞれエンドヌクレアーゼEsp 3およびNhe Iの認識配列を含むヌクレオチドZLIB-3およびZLIB-5をビーズ−固定化ssDNAの10分の1を鋳型(理論的に2・109タンパク質変種に相当する)として用いた組立て構築物のPCR増幅のためのプライマーとして用いた。増幅中の望ましくない干渉を避けるために、オリゴヌクレオチドZLIB-2、BRIDGEおよびZLIB-5をアルカリでまず溶出させた。得られたPCR生成物をアガロースゲル電気泳動により分析したところ均質でありかつ予測された179bpサイズであることが判明した。
【0059】
そのPCR生産物を、ファージミド形質転換大腸菌細胞のヘルパーファージ重感染でファ
ージ粒子上に表面ディスプレイされるために、fdファージコートタンパク質3遺伝子の端部切除体とフレームを合わせて野生型Zドメインの残基44-58の遺伝子を含有するpKN1ファージミドベクター中にサブクローン化した(Lowman et al., (1991)Biochemistry, 30, 10832-10844)(図9)。更に、そのファージミドベクターは連鎖球菌プロテインG(Nygren et al., (1988) J.Mol. Recognit., 1, 69-74;Nilsson et al., (1994) Eur. J.Biochem., 224, 103-108)に由来する5kDa(46aa)血清アルブミン結合性領域(ABPと記す)をコードするフレームを合わせて介在させたカセットを含有するが、これは天然Fc−結合性を欠く生成Z変種の効率的アフィニティー精製を可能にする。更にまた、その血清アルブミン結合活性は潜在的に、新しい結合機能を有するZ変種を求めてパンニングする前に組換え分子を有するファージ粒子を予め選抜して非特異的に結合した非組換ファージ粒子に由来するバックグラウンドを減少させるために用いることができる。
【0060】
形質転換後、25クローンを(オリゴヌクレオチドRIT-27およびNOKA-2を用いて)PCRスクリーニングをしたところ、それらクローンの95%以上(24/25)が予測長を有する挿入物を含有することが示されたが、このことは前記遺伝子組立て手順が高効率で行われたことを示唆している。そのライブラリーの品質と不均質性を更に分析するために、45個の形質転換体を無作為に選択しそして直接固相DNA配列決定(実施例3参照)にかけた。それらクローンの約69%が正しいものであり、予測された位置に野生型および縮退コドンを含有した。残りのクローンには偽りの不一致を有したが、これは部分的にはPCR中に導入された
エラーまたはオリゴヌクレオチド合成によるものとすることができる。それら正確なクローン(31クローン)(図14)を13個の縮退位置におけるコドン表現について更に分析した。NKK縮退プロフィールに含まれる32コドンから得られる全部で403個の推定アミノ酸の分布は、これら未だ選抜されていないクローンについての予測された頻度と密接な相関を示している(図15)。Z−変種の発現および安定性を調べるために、様々な置換度を有する四つのクローン(No.16、21、22、24;図14)および野生型ZドメインをそれぞれのファージミドベクターからコードされたABP融合体として生産した。IPTG−誘導培養物のペリプラズムからの可溶性タンパク質を一般的および効率的回収のためにABP−テイルを用いたHSA
−アフィニティークロマトグラフィーにかけた(Nygren etal.,(1988) J. Mol. Recognit., 1, 69-74)。すべてのタンパク質について約1.5〜2.5mg/l培養液を回収できたが、このことは前記変種および野生型ドメインについて同様の生産および分泌効率であることを示している。精製タンパク質のSDS-PAGE分析結果(図16)は分析された四つのZ変種が大腸菌内で安定的に発現されることを示している。異なる強度をもってみられるHSA−結合活性を有するより小さなバンドは、Z変種とABP−テイルとの間のタンパク質分解的切断から得られるABP−テイルそれ自体(5kDa)に相当する確率が極めて高い。興味深いことに、導入システイン残基を有するいずれのZ−変種(No.16および22)もダイマーを形成したが、これはSDS−PAGE中に非還元性条件下で認められた(図16;レーン6および7)。
【0061】
広範な表面変異誘導後に誘導体の二次構造成分が保存されているかどうかを調べるために差し引き円二色性分析を行った(実施例3参照)。ABP−テイルに融合させた野生型Zドメインおよび四つの変種についての250〜184nmより得られた信号の比較をABP−テイルそ
れ自体からの寄与を差し引いた後行った。その結果は、四つのうち三つの誘導体について、208nmに特徴的極小値および222nmに変曲点を有する野生型Zドメインに類似したスペクトルが得られたことを示した(Johnson, (1990) Prot. Struct. Funct. Genet., 7, 205-224)(図17)。このことは三ヘリックス束枠組がこれらの変異体中でおそらく保存されていることを示唆している。しかしながら第四の誘導体(No.24)についてはランダムコイルに見られるスペクトルに類似するスペクトルが得られたが、このことは二次構造要素の含量が低いことを示唆している(Johnson, 1990)。この誘導体はヘリックス2の32位においてグルタミンからプロリンへの置換を含んでおり、脱安定化が生じてヘリックス束枠組の崩壊を招いたことが示唆される。
【0062】
前記の四つのZ−変種を更に調べるために、ABP−テイルに融合された野生型Zおよび
四つの異なるZ変種クローン(No.16、21、22、24;図14)についてのポリクローナルヒトIgG(hIgG)(Pharmacia AB)との相互作用をバイオセンサー技術(BIAcoreTM, PharmaciaBiosensor AB, スエーデン)を用いて比較した。CM-5センサーチップのカルボキシ化デキストラン層を製造元の推めるところに従ってN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)およびN−エチル−N′−〔3−ジエチルアミノプロピル〕−カルボジイミド(EDC)化学を用いて活性化した。hIgGを固定化するために、50mMアセテート中の500nM hIgG溶液20μlを活性化表面上に5μl/分の流速で注入した結果約5000共鳴単位(RU)が固定化された。NaCl/Hepes(10mM Hepes、pH7.4、150mM NaCl、3.4mM FDTA、0.5%界面活性剤P-20)中1500nMの近似濃度となるように溶解した前記五つの融合タンパク質の45μl検体を別々の実験として2μl/分の流速で注入した。各検体注入後、hIgG表面を20mM HClで再生させた。予測されたとおり、野生型Z−ドメインだけがなにがしかの検出可能なFc−結合活性を示した(図18)。
【0063】
結論として、それらの結果は、α−ヘリックスに位置する13残基で構成される置換表面を有するSPA変種のライブラリーを構築できることを示している。天然Z−ドメインの全
体的枠組が高度に保存されるということは、安定性ある可溶性骨格にグラフトされた新機能を有する誘導体を、生化学、免疫学およびバイオテクノロジーにおいて人工抗体として用いるために単離し得たことを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】Aはシグナルペプチド(S)、五つのIgG結合性領域〔E-D-A-B-C〕、次いで細胞壁アンカリング領域〔X-M〕を示すぶどう球菌プロテインAの概略図であり、BはX線結晶学的方法によって決定されたSPAからのドメインBとヒトFc1との複合体のコンピューターグラフィック図である。本図にはSPAの第三ヘリックスが見られない点に留意。
【図2】Aはシグナルペプチド(Ss)、領域E(E)、反復性血清アルブミン結合性A−B領域、スペーサー領域(S)、次いでD領域により隔てられたIgG結合性ドメインC1〜C3、そして最後に細胞壁アンカリング領域W−Mを示す、G148株からの連鎖球菌プロテインGの概略図であり、BはX線結晶学的方法により決定された、SPGのドメインC1とヒトFc1との複合体のコンピューターグラフィック図である。
【図3】58残基SPAアナローグZの三ヘリックス束構造の概略図である。ヘリックス−ヘリックス詰込みを安定化させるF30を除いてFcへの結合に関与するとされている側鎖の一部が示されている。
【図4】各種亜断片であるFab、Fd、Fcおよび、短い(約15aaの)リンカーにより接続されたVHとVLとで構成されるscFvを示す、IgG抗体構造である。
【図5】AはZ遺伝子ライブラリーの作成に用いられる遺伝子組立て手法の一般的考え方であり、酸性Z誘導体のライブラリーを構築するには、縮退オリゴヌクレオチドであるACID-1、ACID-2を用いて残基9、11、14、32および35だけを変え、組立て後のライブラリーの増幅に用いられるPCRプライマーはZLIB-3(PCRプライマー5′)およびZLIB-5(PCRプライマー3′)としてあり、BではZ−ドメインの58残基のうち46個をコードする組立て後のライブラリーを増幅して得られるPCR生産物は、Zの残りのC−末端部を取り込んだファージミドDNA中にクローン化することができ、この遺伝子はM13ファミリーの大腸菌バクテリオファージのプロテインIII遺伝子とフレームをあわせて融合され、これによって酸性Z変種のレパートリーをファージ表面にディスプレイすることができる。
【図6】Zライブラリーの構築に用いられるオリゴヌクレオチドである。実施例2に記載の酸性Z−変種のライブラリーにはオリゴヌクレオチドZLIB-1、2、3、4、5、LONGBRIDGE、ACID-1およびACID-2だけを用いた。
【図7】酸性Zタンパク質ライブラリーに由来するクローンのDNA配列である。肉太数字はZ−ドメインにおけるアミノ酸位置を示している。明確にするために、制限部位AccIおよびNhe1の位置が示されている。
【図8】pH2.9における一つのZドメインの温度安定性の分析結果である。検体中のα−ヘリックス含量は、温度スキャン中、s222nmにおいて楕円率を測定することにより監視した。
【図9】ファージミドベクターpKN1である。斑入り(variegated)ヘリックス1および2をコードするライブラリーPCR生産物(酸性および広範(extensive)ライブラリーの両方)を、野生型Zドメインの残基44−58(本質的にヘリックス3)の遺伝子とその後に続く、M13ファージコートタンパク質3遺伝子の端部切除体とフレームをあわせて連結されたぶどう球菌プロテインGに由来する46残基血清アルブミン結合性領域(ABP)の遺伝子にサブクローン化した。このファージミドはプラスミドpBR322に由来する複製開始点およびファージ粒子への詰込みに必要な遺伝子間領域(fl ori)を含有する。
【図10】SDS-PAGEである。それぞれのファージミドベクターからコードされたABP融合タンパク質として野生型Zドメインおよび二つの異なる酸性Z−変種を産生する大腸菌細胞のペリプラズムから得られたHSA−アフィニティー精製タンパク質をSDS/PAGEにより分析した。M、分子量マーカー;レーン1、野生型Zドメイン;レーン2、クローン10;レーン3、クローン12。
【図11】CD−データである。Z−タンパク質ライブラリーの野生型Zドメインと二つの変種について得られたCDスペクトルの重ね合わせプロット。タンパク質の信号は、分析中に共存するABPテイルのCD信号寄与を差し引いた後に得られた。
【図12】イオン交換クロマトグラフィーである。二つの酸性Z−変種タンパク質No.10およびNo.12、および野生型Z−ドメイン(ABP融合タンパク質として生産)を各々陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを用い、pH5.5で分析にかけた。カラムからのタンパク質溶出はNaCl勾配によって得た。上位:酸性Z変種No.12;中位、酸性Z変種No.10;下位、Z(野生型)。野生型Z−タンパク質はこのpHにおいてカラムで遅延しなかった点に留意。
【図13】Z−ドメイン構造である。天然Z−ドメイン構造モデルの主鎖トレース図。ヘリックス1および2の構造はSPAのドメインBとFcとの間の共結晶構造からのものである(Deisenhofer,(1981) Biochemistry, 20, 2361-2370)。第三ヘリックスはNMR分光法からの二次的構造帰属に基づいて作成された(Gouda et al., (1992) Biochemistry, 31, 9665-9672)。組合せライブラリー(combinatorial library)構築の際に変異された残基の側鎖の非水素原子が玉−棒モデルとして表示されている。このディスプレイはプログラムMOLSCRIPTによって作成された(Kraulis (1991) J. Appl. Cryst., 24, 946-950)。
【図14】アミノ酸配列である。ライブラリーから無作為抽出された31個のZ−変種のDNA配列決定結果。変異誘発を受けた残基は枠で囲んである。水平線は最上位に掲げた野生型Z配列と同じヌクレオチドであることを示している。示されているのはABP−テイルへの融合タンパク質として発現され特性評価されたクローンである。
【図15】アミノ酸分布である。変異位置における推定アミノ酸の統計的解析結果。全部で、31クローンからの13残基(403コドン)を計算に含めた。20個すべてのアミノ酸のほか、NNG/T縮退プロフィールに含められた単なる停止信号(TAG)についても実測頻度と予測頻度の割合が示されている。
【図16】SDS−PAGE分析である。それぞれのファージミドベクターからコードされたABP融合タンパク質として野生型Zドメインと四つの異なるZ−変種を産生する大腸菌細胞のペリプラズムから得られたHSA−アフィニティー精製タンパク質をSDS/PAGEにより分析した。レーン1−5:還元条件。レーン6および7:非還元条件。レーン1、野生型Zドメイン;レーン2、クローン16、レーン3、クローン21;レーン4、クローン22;レーン5、クローン24;M、分子量マーカー;レーン6、クローン16およびレーン7、クローン22。
【図17】CD−データである。α−ヘリックスタンパク質表面ライブラリーの野生型Zドメインと四つの変種について得られたCDスペクトルの重ね合わせプロット。それら変種の信号は分析中に共存するABPテイルのCD信号寄与を差し引いた後に得られた。
【図18】バイオセンサーアッセイである。ABPテイルに融合された四つの異なる変種(No.16、21、22、24;図14)と野生型ZドメインのBIA-coreTM分析から得られたセンサーグラムの重ね合わせプロット。それら各種タンパク質のIgG結合活性は、約5000RUヒトポリクローナルIgGで被覆されたセンサーチップを用いそして各種タンパク質の1500nM溶液を2μl/分で45μlパルス注入して分析した。変種No.16、21、22および24を注入中の信号のプラトー値の相違は、駆動緩衝液中への希釈度が様々であることによる点に留意。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なった人工細菌レセプター構造変異体のライブラリーであって、それぞれの人工細菌レセプター構造変異体のアミノ酸配列が、Zドメイン配列の9、10、11、13、14、17、18、24、25、27、28、32および35位置から選択された位置の少なくとも1個のアミノ酸置換を有するぶどう球菌プロテインA由来Zドメインのアミノ酸配列に対応し、該ライブラリーはZドメインの基本構造や安定性を保持し、そしてZドメインの相互作用能力を欠失している、少なくとも1個の人工細菌レセプター構造変異体を含んでいる、ライブラリー。
【請求項2】
それぞれの変異体がファージ−コートタンパク質に融合されている、請求項1に記載のライブラリー。
【請求項3】
前記置換が部位特異的変異誘発により得られたものである、請求項1または2に記載のライブラリー。
【請求項4】
それぞれの人工細菌レセプター構造変異体のアミノ酸配列が、Zドメイン配列の9、11、14、27、および35位置のアミノ酸の置換を有するぶどう球菌プロテインA由来Zドメインのアミノ酸配列に対応する、請求項1〜3のいずれかに記載のライブラリー。
【請求項5】
それぞれの人工細菌レセプター構造変異体のアミノ酸配列が、さらにZドメイン配列の10、13、17、18、24、25、28および32位置のアミノ酸の置換を有するぶどう球菌プロテインA由来Zドメインのアミノ酸配列に対応する、請求項4に記載のライブラリー。
【請求項6】
約2×1010個の異なった人工細菌レセプター構造変異体を含む、請求項1〜5のいずれかに記載のライブラリー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−308509(P2007−308509A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195296(P2007−195296)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【分割の表示】特願2005−138021(P2005−138021)の分割
【原出願日】平成7年1月16日(1995.1.16)
【出願人】(307015286)アフィボディ・アーベー (9)
【Fターム(参考)】