説明

組み換えリソソームα−マンノシダーゼの生産および精製のための方法

本発明は、組み換えα-マンノシダーゼの精製方法、α-マンノシダーゼの生産方法、α-マンノシダーゼを含む組成物、該組成物の医薬としての使用、α-マンノシドーシス処置用の医薬としての使用、ならびにα-マンノシドーシスを処置する方法および/またはα-マンノシドーシスの症状を軽減する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、組み換えα-マンノシダーゼの精製方法、α-マンノシダーゼの生産方法、α-マンノシダーゼを含む組成物、該組成物の医薬としての使用、α-マンノシドーシス処置用の医薬としての使用、ならびにα-マンノシドーシスの処置および/またはα-マンノシドーシスの症状の軽減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
α-マンノシドーシス
α-マンノシドーシスは、世界中で1/1,000,000〜1/500,000の頻度で起こる劣性の常染色体疾患である。マンノシドーシスは、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、そしてアジアにおけるすべての民族集団において見られる。この疾患は、リソソーム貯蔵障害に対する高品位の診断サービスを提供するすべての国において、同程度で検出されている。彼らは、見かけ上は健常者として生まれてくるが、疾患の症状が進行していく。α-マンノシドーシスは、非常に重度から非常に軽度の形態の範囲で臨床的多様性を示す。典型的な臨床症状は、精神遅滞、骨格変化、回帰感染を引き起こす免疫系の障害、聴力障害であり、この疾患は多くの場合、典型的な顔の特徴、例えば、粗な顔貌(coarse face)、突き出た額、扁平な鼻梁、小さい鼻、広い口を伴う。その最も重度の症例(マンノシドーシス1型)では、子供達は肝脾腫大症を患い、生後1年以内に死亡する。この早い死は、この疾患により引き起こされる免疫不全に起因する重度の感染により引き起こされると考えられている。それよりも軽度の症例(マンノシドーシス2型)においては、患者は通常、成人年齢に達する。患者は骨格が脆弱であるため、20歳から40歳で車椅子が必要となる。この疾患は、びまん性の脳機能不全を引き起こし、多くの場合、それによってもたらされる低い精神能力が、単純な読み書きのような最も基礎的な技能以外のあらゆるものを排除する。聴力不能およびその他の臨床兆候に関連するこれらの問題は患者の自立的生活を妨げ、その結果、一生涯の介護が必要となる。
【0003】
リソソームα-マンノシダーゼ
α-マンノシドーシスは、リソソームα-マンノシダーゼ(LAMAN、EC3.2.1.24)の活性欠損に起因する。この疾患は、マンノース高含有オリゴ糖、すなわち非還元末端にα1,2-、α1,3-およびα1,6-マンノシル残基を有するオリゴ糖の過剰な細胞内蓄積により特徴付けられる。これらのオリゴ糖は主に、N結合型オリゴ糖を含む糖タンパク質のリソソーム内分解から生じる。しかし、一部はドリコール結合型オリゴ糖の異化およびプロテアソームによる分解のためにサイトゾルに行き先変更された折りたたみ異常の糖タンパク質から生じる(Hirsch et al. EMBO J. 22, 1036-1046, 2003(非特許文献1)およびSaint-Pol et al. J. Biol. Chem. 274, 13547-13555, 1999(非特許文献2))。そのリソソーム蓄積は、全脳領域の神経細胞を含む広範囲の細胞型および組織において観察される。LAMANは、N結合型糖タンパク質の段階的分解において、α-D-マンノシド中のこれらの末端非還元α-D-マンノース残基を非還元末端から加水分解していくエキソグリコシダーゼである(Aronson and Kuranda FASEB J 3: 2615-2622. 1989(非特許文献3))。そのヒト前駆体酵素は、49残基のシグナルペプチドを含む1011アミノ酸の単鎖ポリペプチドとして合成される。この前駆体は、リソソーム中で15、42および70 kDの3つの主要な糖ペプチドにタンパク質分解処理され、成熟酵素となる。70 kDの糖ペプチドはさらに処理されて、ジスルフィド架橋により連結される3つのサブユニットとなる(Berg et al. Mol. Gen. and Metabolism 73, 18-29, 2001(非特許文献4), Nilssen et al. Hum. Mol. Genet. 6, 717-726. 1997(非特許文献5))。
【0004】
リソソームα-マンノシダーゼ遺伝子
LAMANをコードする遺伝子(MANB)は、第19染色体(19cen-q12)に位置する(Kaneda et al. Chromosoma 95: 8-12. 1987(非特許文献6))。MANBは、21.5kbにまたがる24個のエクソンからなる(GenBankアクション番号U60885-U60899; Riise et al. Genomics 42: 200-207, 1997(非特許文献7))。LAMAN転写物は、>>3,500ヌクレオチド(nts)であり、1,011アミノ酸をコードするオープンリーディングフレームを含む(GenBank U60266.1)。
【0005】
LAMANをコードするヒトcDNAのクローニングおよび配列決定は、3つの文献で発表されている(Nilssen et al. Hum. Mol. Genet. 6, 717-726. 1997(非特許文献5); Liao et al. J. Biol. Chem. 271, 28348-28358. 1996(非特許文献8); Nebes et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 200, 239-245. 1994(非特許文献9))。奇妙なことに、3つの配列は同一ではない。Nilssen et alの配列(アクセッション番号U60266.1)と比較すると、バリンからアスパラギン酸への置換をもたらす1670および1671位のTAからATへの変化がLiao et al.およびNebes et al.により見出された。また、アミノ酸配列におけるいかなる変化も生じない1152位のCからAへの変化も見出された。
【0006】
診断
α-マンノシドーシスの診断は、現時点では、臨床評価、尿中のマンノース高含有オリゴ糖の検出ならびに様々な細胞型、例えば白血球、線維芽細胞および羊膜細胞におけるα-マンノシダーゼ活性の直接測定に基づいている(Chester et al., In: Durand P, O'Brian J (eds) Genetic errors of glycoprotein metabolism. Edi-Ermes, Milan, pp 89-120. 1982(非特許文献10); Thomas and Beaudet. In: Scriver CR, Beaudet AL, Sly WA, Valle D (eds) The metabolic and molecular bases of inherited disease. Vol 5. McGraw-Hill, New York, pp 2529-2562. 1995(非特許文献11))。
【0007】
多くの場合、症状は当初穏やかであり、生化学的診断が困難であるため、診断はしばしば疾患過程の後半期に行われる。患者およびその家族が早期診断から大きな利益を享受することは明らかである。
【0008】
動物モデル
α-マンノシドーシスは、ウシ(Hocking et al. Biochem J 128: 69-78. 1972(非特許文献12))、ネコ(Walkley et al. Proc. Nat. Acad. Sci. 91: 2970-2974, 1994(非特許文献13))およびモルモット(Crawley et al. Pediatr Res 46: 501-509, 1999(非特許文献14))において述べられている。最近、α-マンノシダーゼ遺伝子の特異的破壊によりマウスモデルが作製された(Stinchi et al. Hum Mol Genet 8: 1366-72, 1999(非特許文献15))。
【0009】
ヒトの場合のように、α-マンノシダーゼは、リソソームα-マンノシダーゼをコードする遺伝子における特定の変異によって生じるようである。Berg et al.(Biochem J. 328: 863-870. 1997)(非特許文献16)は、ネコ肝臓リソソームα-マンノシダーゼの精製およびそのcDNA配列の決定を報告している。その活性酵素は3つのポリペプチドからなり、それらの分子量は72、41および12 kDと報告されている。ヒト酵素と同様に、ネコ酵素は、成熟酵素の3つのポリペプチドに切断される957アミノ酸のポリペプチド鎖が50アミノ酸の推定シグナルペプチドの後に続く単鎖前駆体として合成されることが実証された。その推定アミノ酸配列は、ヒト配列およびウシ配列と、それぞれ81.1%および83.2%同一であった。疾患を有するペルシャネコで4 bpの欠失が同定され;この欠失により、コドン583からのフレームシフトおよびコドン645での早期終結が起こっていた。このネコの肝臓では酵素活性が検出できなかった。軽度の表現型を示すペット用長毛ネコは、正常の2%の酵素活性を有し;このネコは4 bp欠失を有さなかった。Tollersrud et al.(Eur J Biochem 246: 410-419. 1997)(非特許文献17)は、ウシ腎臓酵素を均質になるまで精製し、その遺伝子をクローニングした。この遺伝子は、16 kbにまたがる24個のエクソンで構成されるものであった。その遺伝子配列に基づき、同著者らはウシにおける2つの変異を同定した。
【0010】
α-マンノシドーシスの治療に関する医学的要望
マンノース高含有オリゴ糖の蓄積に起因する臨床兆候の深刻さに鑑みて、α-マンノシドーシスに対する効果的な処置が欠如していることが十分に認識されている。現時点で、この疾患の処置における主要な治療上の選択肢は、骨髄移植であるが、将来の代替法の候補として酵素置換療法を推進することが本発明の目的である。
【0011】
骨髄移植
1996年、Walkley et al.(Proc. Nat. Acad. Sci. 91: 2970-2974, 1994(非特許文献13))は、1991年にマンノシドーシスを有する3匹の子ネコを骨髄移植(BMT)により処置したとする論文を発表した。屠殺した2匹の動物において、正常化は、身体だけでなく、より重要なことであるが、脳においても観察された。第3のネコは、6年後も良好であった。通常、未処置のネコは3〜6ヶ月以内に死亡する。1987年、マンノシドーシスを有する子供がBMT処置を受けた(Will et al. Arch Dis Child 1987 Oct; 62(10): 1044-9(非特許文献18))。彼は、18週後に手術関連合併症により死亡した。脳においては、わずかな酵素活性しか見いだされなかった。この残念な結果は、死亡前の強い免疫抑制処置、またはBMT後に脳において酵素活性が増加するまで時間がかかるということにより説明することができる。ドナーが、母親(キャリアとして50%未満の酵素活性を有していると予想されていたはずである)であったことや、または、人間におけるBMTは脳の酵素機能に対して効果を有さないということかもしれない。結果にばらつきがあるものの、数例の骨髄移植の取り組みは、生着の成功によりα-マンノシドーシスの臨床兆候が少なくとも部分的に是正できることを示している。しかし、ヒトに対する治療として骨髄移植を適用した際の深刻な手術関連合併症を減らす試みは、今なお成功に至っていない。
【0012】
酵素置換療法
リソソーム蓄積症が発見されたとき、これは酵素置換により処置できるであろうと期待されていた。酵素置換療法は、ゴーシェ病において有効であることが証明されている。外因性リソソームグルコセレブロシダーゼを患者に注射すると、この酵素は酵素欠損細胞に取り込まれる(Barton et al. N Engl J Med 324: 1464-1470(非特許文献19))。そのような取り込みは、細胞表面上の特定の受容体、例えば細胞の表面にほぼ遍在するマンノース-6-リン酸受容体ならびにその他の受容体、例えば単球/マクロファージ細胞系の細胞および肝細胞のような特定の細胞型に制限されるアシアロ糖タンパク質受容体およびマンノース受容体により制御される。したがってこの酵素の細胞取り込みは、そのグリコシル化プロフィールに大きく依存する。適切に設計された場合、この欠損酵素は、糖尿病患者にインスリンを投与するのと同じ様式の外因性酵素の定期的注射により置換され得る。精製された活性なリソソームα-マンノシダーゼを酵素欠損線維芽細胞の培地に添加するインビトロ研究は、リソソーム基質の蓄積の是正を示した。他方、インビボ処置は、部分的に、大規模生産および精製手順の困難さに起因する十分量の酵素の生産の問題、ならびに外因性酵素に対する免疫反応に起因する合併症により妨げられている。
【0013】
しかし、より重要なことは、主要な神経学的要素に関連するリソソーム蓄積症、例えば、臨床兆候が中枢神経系内でのリソソーム蓄積亢進に関連するα-マンノシドーシス、に対して特別な考慮を向けることである。というのも、酵素置換療法は、ゴーシェ病の急性神経障害性亜種に対しては有効であることが証明されていないのである(Prows et al. Am J Med Genet 71: 16-21(非特許文献20))。
【0014】
治療用酵素の脳への送達は、これらの大型分子が血液脳関門を通じて輸送されないことにより妨げられる。脳において治療剤の効果を得るためには血液脳関門を避けなければならないという一般的知見から、多種多様な送達システムの利用が検討された。これらには、浸潤性技術、例えば、例えばマンニトールを用いる血液脳関門の浸透圧による開口、および非浸潤性技術、例えばキメラ酵素の受容体を介したエンドサイトーシス、が含まれる。酵素置換法では酵素を定期的に投与する必要があると考えられるため、浸潤性技術の使用は避けた方がよい。非浸潤性技術の使用は、最近になってようやく、動物モデルにおいて期待の持てる結果が提供された(α-マンノシドーシスについて下記参照、その他のリソソーム障害については、例えば、Grubb et al. PNAS 2008, 105(7) pp.2616-2621(非特許文献21)参照)。内蔵器官および髄膜における蓄積の減少が、脳に送達されるオリゴ糖量を減少させ得ると考えられている。しかし、このような考え方は、神経学的損傷が中心的でありかつ重篤であるリソソーム障害に適用可能とは思われていない(Neufeld, E. F. Enzyme replacement therapy, in "Lysosomal disorders of the brain" (Platt, F. M. Walkley, S. V :eds Oxford University Press)(非特許文献22)。
【0015】
しかし、Roces et al. Human Molecular Genetics 2004, 13(18) pp. 1979-1988(非特許文献23)、Blanz et al. Human Molecular Genetics 2008, 17(22) pp. 3437-3445(非特許文献24)およびWO 05/094874(特許文献1)に記載されているように、動物の中枢神経系におけるLAMANレベルを、例えばα-マンノシダーゼを含む処方物の静脈内注射を用いて増大させ、それによって1つまたは複数の中枢神経系の領域内のマンノース高含有中性オリゴ糖の細胞内レベルを減少させることが可能であることが証明された。このことは、組み換えα-マンノシダーゼが、α-マンノシドーシスに罹患した患者に対する酵素置換療法において有用であることを示している。したがって、酵素置換法を用いるα-マンノシドーシスの効果的処置を提供する上で残された1つの大きなハードルは、十分量の純粋な組み換えα-マンノシダーゼを費用対効果の優れた様式で提供することである。
【0016】
α-マンノシダーゼの生産および精製
WO 02/099092(特許文献2)は、37℃で無血清培地を用いるCHO細胞におけるrhLAMANの小規模生産方法を開示している。粗酵素のダイアフィルトレーションと、DEAEセファロースFFカラムを用いる弱陰イオン交換クロマトグラフィーとを捕捉工程で行い、その後に疎水性相互作用クロマトグラフィーおよびミックスモードのクロマトグラフィーを含む多くのクロマトグラフィー精製工程を行う、小規模精製方法も記載されている。
【0017】
WO 05/094874(特許文献1)は、37℃で無血清培地を用いるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞におけるrhLAMANの小規模生産方法を開示している。WO 02/099092(特許文献2)のそれと類似の小規模精製方法も記載されている。
【0018】
WO 05/077093(特許文献3)は、高リン酸化リゾチーム酵素の製造について記載している。実施例IVには、マルチモード樹脂(ブルー-セファロース)を用いる酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の精製方法が記載されている。GAAは、リゾチーム酵素であるが、しかし、rhLAMANと大きく異なる。GAAは高度にリン酸化されているのに対して、rhLAMANはリン酸化度が低い。さらに、配列同一性スコアは、GAAとrhLAMANの間で12%未満であり、そして最後にそれらの理論上の等電点は、1 pH単位以上異なる(それぞれ、5.42および6.48)。したがって、WO 05/077093(特許文献3)に記載されているGAA精製方法は、rhLAMANには適用可能でない。
【0019】
0.25 % (V/V)血清およびDMSO添加を用いるCHO細胞におけるrhLAMANの小規模生産方法が開示されている(Berg et al. Molecular Genetics and Metabolism, 73, pp 18-29, 2001(非特許文献4))。同文献はまた、a)限外ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過を含む3工程手順またはb)1工程のイムノアフィニティークロマトグラフィーを含む2つの精製方法についても記載している。同文献にはさらに、a)130 kDaの酵素を55 kDaおよび72 kDaのフラグメントに完全に断片化する方法や、b)130 kDaの前駆体から相当量の55および72 kDaフラグメントへの部分断片化法も開示されている。
【0020】
そのため、組み換えα-マンノシダーゼの生産および精製のための改良された方法が有益となるであろう。特に、α-マンノシダーゼを発現することができる細胞株の大規模培養のための改良方法および細胞培養物から高い酵素活性を有する純粋なα-マンノシダーゼを単離するためのより効率的な大規模精製方法が有益となるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】WO 05/094874
【特許文献2】WO 02/099092
【特許文献3】WO 05/077093
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Hirsch et al. EMBO J. 22, 1036-1046, 2003
【非特許文献2】Saint-Pol et al. J. Biol. Chem. 274, 13547-13555, 1999
【非特許文献3】Aronson and Kuranda FASEB J 3: 2615-2622. 1989
【非特許文献4】Berg et al. Molecular Genetics and Metabolism, 73, pp 18-29, 2001
【非特許文献5】Nilssen et al. Hum. Mol. Genet. 6, 717-726. 1997
【非特許文献6】Kaneda et al. Chromosoma 95: 8-12. 1987
【非特許文献7】Riise et al. Genomics 42: 200-207, 1997
【非特許文献8】Liao et al. J. Biol. Chem. 271, 28348-28358. 1996
【非特許文献9】Nebes et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 200, 239-245. 1994
【非特許文献10】Chester et al., In: Durand P, O'Brian J (eds) Genetic errors of glycoprotein metabolism. Edi-Ermes, Milan, pp 89-120. 1982
【非特許文献11】Thomas and Beaudet. In: Scriver CR, Beaudet AL, Sly WA, Valle D (eds) The metabolic and molecular bases of inherited disease. Vol 5. McGraw-Hill, New York, pp 2529-2562. 1995
【非特許文献12】Hocking et al. Biochem J 128: 69-78. 1972
【非特許文献13】Walkley et al. Proc. Nat. Acad. Sci. 91: 2970-2974, 1994
【非特許文献14】Crawley et al. Pediatr Res 46: 501-509, 1999
【非特許文献15】Stinchi et al. Hum Mol Genet 8: 1366-72, 1999
【非特許文献16】Berg et al.(Biochem J. 328: 863-870. 1997)
【非特許文献17】Tollersrud et al.(Eur J Biochem 246: 410-419. 1997)
【非特許文献18】Will et al. Arch Dis Child 1987 Oct; 62(10): 1044-9
【非特許文献19】Barton et al. N Engl J Med 324: 1464-1470
【非特許文献20】Prows et al. Am J Med Genet 71: 16-21
【非特許文献21】Grubb et al. PNAS 2008, 105(7) pp.2616-2621
【非特許文献22】Neufeld, E. F. Enzyme replacement therapy, in "Lysosomal disorders of the brain" (Platt, F. M. Walkley, S. V :eds Oxford University Press)
【非特許文献23】Roces et al. Human Molecular Genetics 2004, 13(18) pp. 1979-1988
【非特許文献24】Blanz et al. Human Molecular Genetics 2008, 17(22) pp. 3437-3445
【発明の概要】
【0023】
したがって、本発明の目的は、組み換えα-マンノシダーゼの生産方法および精製方法に関連する。
【0024】
特に、高い酵素活性を有する十分量の高純度α-マンノシダーゼを提供することによって上述の先行技術の問題を解決する規模拡張可能な生産方法および精製方法を提供し、それによってα-マンノシドーシスに罹患した患者に対する処置を提供することが、本発明の目的である。
【0025】
したがって、本発明の一つの局面は、組み換えα-マンノシダーゼを細胞培養物から精製する方法であって、組み換えα-マンノシダーゼを含む細胞培養物のフラクションが、マルチモードリガンドを含む樹脂によるクロマトグラフィーに供される方法に関する。本発明者らは、驚くべきことに、この精製方法により、所望の130 kDa糖タンパク質種を以前に達成されたものよりも高い純度および高い比率で有する組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物が得られることを発見した。精製後の一貫して高い非断片化130 kDa糖タンパク質の比率(例えば80%以上)を達成することは、これが断片化酵素と比較してより均一な生産物を提供し、転じて医薬等級の生産物を取得する能力を向上させるという点で、有益である。
【0026】
本発明の別の局面は、組み換えα-マンノシダーゼの半回分生産方法または連続生産方法であって、以下の工程、
a. 第0日に、組み換えα-マンノシダーゼを産生することができる細胞を、ベース培地を含む生産用リアクターに接種し、細胞培養物を供給する工程、
b. 第1日から少なくとも1度、細胞培養物にフィード培地を添加する工程、
c. 第3日以降または生存細胞密度が2.1 MVC/mLを上回ったときのいずれか早い方において、細胞培養物の温度を、最高でも35℃、例えば34℃、33℃、32℃、好ましくは最高でも31℃に調節する工程、
を含む方法に関する。
【0027】
本発明者らは、驚くべきことに、上記の生産方法により組み換えα-マンノシダーゼを含む細胞培養物が高い収率で得られ、これは希釈をせずに本発明の精製カラムに直ちに移すことが可能であることを発見した。
【0028】
本発明のさらに別の局面は、精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物であって、α-マンノシダーゼの少なくとも80 %が130 kDa糖タンパク質として存在する組成物を提供することである。
【0029】
本発明の一つの他の局面は、α-マンノシドーシスの処置に使用するための精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物である。
【0030】
本発明のさらに別の局面は、α-マンノシドーシスを処置および/またはα-マンノシドーシスに関連する症状を低減もしくは軽減する方法であって、精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】α-マンノシダーゼ用に設計された本発明の好ましい精製方法の、採取から原体(drug substance)のファイリングまでの概要を示す。
【図2】α-マンノシダーゼのCapto(商標)MMCカラムクロマトグラムの例を示す。
【図3】α-マンノシダーゼのbutyl Sepharose(商標)FFカラムクロマトグラムの例を示す。
【図4】α-マンノシダーゼのCHTタイプ1カラムクロマトグラムの例を示す。
【図5】α-マンノシダーゼのQ sepharose(商標)HPカラムクロマトグラムの例を示す。
【図6】130 kDa、75 kDaおよび55 kDa糖タンパク質種の分布を示す、精製α-マンノシダーゼ組成物のSDS-pageクロマトグラムを示す。
【図7】精製α-マンノシダーゼに関する3つのHPLCダイアグラムを示し、この中で、130 kDa種の量が55および75 kDa種との比較で示されている。左側から見て最初のピークは55 kDa種であり、130 kDaおよび75 kDa種のそれぞれが続く。2工程方法ではマルチモードリガンドクロマトグラフィー工程を用いていないが、3工程方法および4工程方法ではマルチモードリガンドクロマトグラフィー工程を用いている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、本発明をより詳細に説明する。
【0033】
発明の詳細な説明
定義
本発明についてさらに詳細に考察する前に、まず以下の用語および慣例について定義する。
【0034】
組み換えα-マンノシダーゼ
本発明の文脈において、組み換えα-マンノシダーゼは、その起源または操作により自然界で見い出される野生型α-マンノシダーゼのすべてまたは一部と等しくないα-マンノシダーゼと定義される。したがって、それは、少なくとも2つの融合されたDNA配列であってその第1の配列は自然界では通常、第2の配列と融合されていない配列を含むハイブリッドDNA配列である組み換えDNA分子に関連する組み換え技術を用いて構築される。組み換えα-マンノシダーゼタンパク質は、ヒト起源であっても非ヒト起源であってもよい。特に、それは、組み換えヒトリソソームα-マンノシダーゼ(rhLAMAN)であり得る。α-マンノシダーゼ産物は、単一ポリペプチドまたは単一ポリペプチドおよびそのフラクションの混合物であり得る。また、α-マンノシダーゼは、翻訳後修飾に供され、したがって糖タンパク質の形態であり得る。
【0035】
細胞培養
細胞培養は、細胞を管理された条件下で成長させる方法である。本発明の文脈においては、細胞培養物中の細胞が関心対象のタンパク質、例えば組み換えα-マンノシダーゼを発現するよう特別に設計されている。細胞培養は、化学的条件および物理的条件の管理を実現するよう特別に設計されているバイオリアクターにおいて行われ得る。
【0036】
フラクション
本発明の文脈において、フラクションは、細胞培養物のフラクションを意味する。フラクションは、全細胞培養物を構成するものであり得るが、多くの場合は、培養物の処理されたフラクション、例えば清澄化された、ろ過された、濃縮された、希釈された、または部分精製されたフラクションである。
【0037】
樹脂
本発明の文脈において、樹脂は、クロマトグラフィーシステムにおける固定相の基礎を構成するものであり、該システムには、関心対象の特定の分子またはタンパク質に対する一定量の親和性を提供するよう様々な化学基または物質が付加される。樹脂は、多くの場合、リガンドが共有結合的に付加されたポリマービーズであり、使用される液体移動相に対して不溶性のものである。
【0038】
マルチモードリガンド
マルチモードリガンドは、少なくとも2つの様式で関心対象の分子またはタンパク質と相互作用するよう設計された任意のリガンドを意味する。個々の相互作用は、非依存的に、疎水性、親水性、イオン性、ファンデルワールス相互作用、水素結合または任意のその他の分子間の化学的もしくは物理的相互作用であり得る。本発明の文脈において、リガンドは、上記のような樹脂に付加された有機化学物質である。マルチモードリガンドは、移動相に溶解されてクロマトグラフィーカラムを通過する異なる物質に対して異なる親和性を有する。親和性の違いにより、異なる物質のクロマトグラフィーカラムにおける保持時間にばらつきが生じ、それによりそれらの物質の分離が実現する。保持時間はまた、その他の因子、例えば、移動相の構成成分、pHおよび温度にも依存する。マルチモードリガンドを含む樹脂は、ときには、「ミックスモード」樹脂とも称されるが、本発明の文脈においては、マルチモードリガンドを含む樹脂は、同一樹脂上に数種の異なる「リガンド」を含み、セラミックヒドロキシアパタイト樹脂(CHT)の場合は反対の電荷、例えば-OH、-Ca+および-PO42-を有し得る、いわゆる「ミックスモードイオン交換樹脂」と混同されるべきではない。
【0039】
ロード
本発明の文脈において、ロードは、採取物、溶出液またはその他の溶液をクロマトグラフィーシステム、例えば、固定相として樹脂を含むクロマトグラフィーカラムに移すことを意味する。
【0040】
バッファー
バッファーという用語は、弱酸および/もしくはそれに対応する塩または弱塩基および/もしくはそれに対応する塩のいずれかを含み、pHの変化に抗する溶液の一般的表現として周知である。本発明の文脈において、使用されるバッファーは、クロマトグラフィーシステムにおける使用に適したものであり、そのようなバッファーとして、リン酸バッファー、例えばリン酸二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸ナトリウムもしくはリン酸カリウム、酢酸バッファー、例えば酢酸ナトリウムもしくは酢酸カリウム、硫酸バッファー、例えば硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウム、硫酸アンモニウムもしくはHepes、またはその他のバッファー、例えばホウ酸ナトリウムもしくはtris-HClバッファーが含まれるがこれらに限定されない。
【0041】
限外ろ過
限外ろ過は、水圧を利用してカットオフサイズまたはカットオフ値としても知られる特定サイズの孔を含む膜の向こう側に分子および溶媒を通過させる分離方法である。膜のカットオフ値よりも小さい分子量を有する分子のみが膜を通過することができ、それよりも大きな分子量を有する分子は膜を通過せずいわゆる非透過液(retentate)を形成する。したがって、非透過液中に存在する分子は、溶媒が膜を通過して流れ出るため、濃縮され得る。
【0042】
特定の態様において、ポリペプチド、例えばα-マンノシダーゼを含む溶液または組成物の濃縮は、タンジェンシャルフローろ過(TFF)により実施され得る。この方法は、大規模濃縮に、すなわち、1リットルから数百リットルの容量の溶液の濃縮に特に有用である。したがってこの方法は、産業規模での関心対象のポリペプチドの濃縮溶液の生産に特に有用である。
【0043】
TFF技術は、ろ過したい溶液を半透膜を通じて流し;膜孔より小さい分子のみ膜を通過させて、回収したい大きな物質を保持するろ液(非透過液)を形成させる特定装置の使用に基づく。TFF法では、2つの異なる圧が適用される;1つは溶液をシステムにポンプ供給しシステム中で循環させるためのものであり(流入圧)、もう一方の圧は小分子および溶媒に膜を通過させるよう膜をまたいで適用されるものである(膜圧)。流入圧は、典型的には、1〜3バールの範囲、例えば1.5〜2バールの間であり得る。膜間圧(TMP)は、典型的には、1バール超であり得る。関心対象のポリペプチドの濃縮組成物は、その組成物の濃縮にTFFが使用される場合、非透過液として回収され得る。TFFに有用な膜は、典型的には、再生セルロースまたはポリエーテルスルホン(PES)製であり得る。
【0044】
ダイアフィルトレーション
本発明の文脈において、ダイアフィルトレーションは、関心対象の種を非透過液中に残し、すなわちフィルターを通過させず、その他の成分、例えばバッファーおよび塩はフィルターを通過させるろ過方法である。したがってダイアフィルトレーションは、例えば、あるバッファーを別のバッファーと交換するのに、または関心対象の種、例えば組み換えα-マンノシダーゼを含む溶液を濃縮するのに使用され得る。
【0045】
本発明の第1の局面は、組み換えα-マンノシダーゼを細胞培養物から精製する方法であって、組み換えα-マンノシダーゼを含む細胞培養物のフラクションが、マルチモードリガンドを含む樹脂によるクロマトグラフィーに供される方法、を提供することである。本発明においてマルチモードリガンドを含む樹脂を使用する利点は、これらの樹脂が高い導電レベルを有する溶液中でα-マンノシダーゼ種に結合することができる点にある。これは、高い導電レベルを有する未希釈の採取物を使用することができ、採取バッファーの交換が必要とならないという利点を有する。したがって、マルチモードリガンドを含むクロマトグラフィー工程は、好ましくは、細胞培養物からフラクションを単離した後の最初のクロマトグラフィー工程であり得る。マルチモードリガンドを含むクロマトグラフィー工程は、多くの場合、関心対象のタンパク質は当初はカラムに保持され(すなわち捕捉され)るのに対し、多くの不純物は洗浄工程の間にカラムを通過することから、「捕捉工程」と称されることがある。タンパク質はその後、特定の溶出バッファーを用いて溶出させる。
【0046】
したがって、本発明の一つの態様では、組み換えα-マンノシダーゼを含む細胞培養物のフラクションが清澄化された未希釈の採取物である方法が提供される。本発明の文脈において、「清澄化された未希釈の採取物」という用語は、非溶解物または固形物を含まない、すなわち、清澄な溶液である、細胞培養の採取物を意味する。この採取物は、それを清澄な溶液に変換するための処理に供されている場合がある。そのような処理には、ろ過および遠心分離が含まれ得るがこれらに限定されない。さらに、この採取物は、クロマトグラフィー工程に供される前に大きくは希釈されていない。したがってこの採取物は、10 %未満、例えば7 %未満、5 %未満、2 %未満、1 %未満、0.5 %未満、たとえば0.1 %未満希釈される。最も好ましい態様において、この採取物は希釈されない。
【0047】
別の態様では、清澄化された未希釈の採取物が10〜20 mS/cm、例えば12〜17 mS/cm、好ましくは15 mS/cmの導電率を有する方法が提供される。導電率は、採取物をクロマトグラフィーシステムにロードする前に測定される。
【0048】
一つの態様において、クロマトグラフィーは、カルボン酸基またはスルホン酸基を有するマルチモードリガンドを含む樹脂により行われる。これらのリガンドに含まれるカルボン酸および/またはスルホン酸は、クロマトグラフィーシステムの条件により、特に移動相のpHにより、プロトン化形態または脱プロトン化(塩)形態であり得る。
【0049】
さらに別の態様では、樹脂に結合されているマルチモードリガンドが、式(I)、(II)または(III):

の物質であって、式(II)および(III)の物質のRが式(IV):

の官能基である物質である方法が提供される。
【0050】
式(IV)の官能基により表されるマルチモードリガンドは、一般に「Cibracon Blue 3G」と呼ばれ、式(I)、(II)および(III)の物質により表される市販品の例は、それぞれ、「Capto(商標)MMC」、「Capto(商標)Blue」および「Blue sepharose(商標) fast flow」である。他の有用なマルチモード型の樹脂には、Capto(商標)Adhere、MEP HyperCel(商標)、HEA HyperCel(商標)およびPPA HyperCel(商標)が含まれる。本発明の文脈において、そのような樹脂は、組み換えα-マンノシダーゼを含む未希釈採取物の初期精製に特に効果的であることが証明されている。
【0051】
本発明のさらなる態様は、マルチモードリガンドを含む樹脂にロードされた細胞培養物のフラクションが、イソプロパノール、好ましくは少なくとも1 %(V:V)のイソプロパノール、例えば少なくとも2 %、3 %、4 %、4.5 %(V:V)のイソプロパノール、好ましくは少なくとも5 %(V:V)のイソプロパノールを含む溶液を用いる少なくとも1回の洗浄工程に供される方法を提供する。イソプロパノールを含む溶液を用いる利点は、それが望ましくない宿主細胞タンパク質(HCP's)の十分な除去を提供する点、特に、それが所望の130 kDa rhLAMAN種のタンパク質分解を担うプロテアーゼの除去を助ける点にある。HCP'sは、生産時の細胞培養において使用される宿主細胞に関して内因的であるタンパク質と理解されたい。イソプロパノールが好ましいが、この方法において有用なその他のアルコールには、エタノール、n-プロパノールおよびn-ブタノールが含まれる。
【0052】
さらに別の態様では、洗浄工程で使用される溶液のpHがpH 3.5〜6.5、例えばpH 4.0〜6.0、pH 4.5〜5.5、好ましくはpH 4.7〜5.0の範囲である方法が提供される。
【0053】
別の態様は、洗浄工程で使用される溶液が酢酸バッファー、好ましくは0.05〜1.6 M、例えば0.1〜1.5 M、0.5〜1.4 M、0.7〜1.3 M、0.8〜1.2 M、0.9〜1.1 Mの範囲、好ましくは0.95 Mの濃度の酢酸バッファーを含む方法を提供する。酢酸バッファーは、好ましくは、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸アンモニウムからなる群より選択され得る。
【0054】
さらに別の態様は、組み換えα-マンノシダーゼを含む第1の溶出液がエチレングリコールまたはプロピレングリコールを含む水溶液を用いてマルチモードリガンドを含む樹脂から溶出される方法を提供する。溶出バッファーへのエチレングリコールの添加は、溶出させる組み換えα-マンノシダーゼの収率を大きく向上させることが見出された。プロピレングリコールも収率を向上させるが、エチレングリコールが好ましい。
【0055】
一つの態様は、水溶液中のエチレングリコールまたはプロピレングリコールの濃度が20〜60 %、20〜50 %、25〜50 %、30〜50 %、35〜45 %、例えば40 %である方法を提供する。
【0056】
好ましい態様では、エチレングリコールまたはプロピレングリコールを含む水溶液が塩化ナトリウムを含む方法が提供される。この溶液への塩化ナトリウムの添加は、rhLAMAN酵素の溶出を促進することにより収率を大きく向上させることが見出された。
【0057】
別の態様において、エチレングリコールまたはプロピレングリコールを含む水溶液中の塩化ナトリウムの濃度は0.2〜2.4 Mの範囲、例えば0.4〜2.2 M、0.6〜2.0 M、0.8〜1.9 M、1.0〜1.8 M、1.2〜1.7 M、1.4〜1.6 Mの範囲、好ましくは1.5Mである。あるいは、塩化ナトリウムの濃度は、0.2〜1.6 Mの範囲または1.4〜2.4 Mの範囲であり得る。
【0058】
好ましい態様において、エチレングリコールまたはプロピレングリコールを含む水溶液は、バッファーを含む。バッファーは、好ましくはリン酸バッファー、例えばリン酸ナトリウムまたはリン酸カリウムであり得る。リン酸バッファーが好ましいが、この水溶液に有用なさらなるバッファーには、クエン酸バッファーおよびホウ酸バッファー、Tris、MES、MOPSおよびHepesバッファーが含まれる。
【0059】
別の好ましい態様において、エチレングリコールまたはプロピレングリコールを含む水溶液中のバッファー塩の濃度は、50〜350 mM、55〜300 mM、65〜280 mM、70〜250 mM、75〜200、80〜200 mM、85〜150 mM、好ましくは90 mMである。
【0060】
さらに別の好ましい態様において、エチレングリコールまたはプロピレングリコールを含む水溶液のpHは、pH 7.0〜9.0、例えばpH 7.1〜8.5、pH 7.2〜8.3、pH 7.5〜8.0、好ましくはpH 7.7である。
【0061】
一つの態様では、マルチモードリガンドを含む樹脂から得られるα-マンノシダーゼを含む第1の溶出液がさらに以下の工程を含む方法に供される方法が提供される:
(i) α-マンノシダーゼを含むフラクションを疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂に適用して、組み換えα-マンノシダーゼを含む溶出液を供給する工程、
(ii) α-マンノシダーゼを含むフラクションをミックスモードイオン交換樹脂に通して混入物質を保持させ、組み換えα-マンノシダーゼを含むフロースルー液を供給する工程、および
(iii) α-マンノシダーゼを含むフラクションを陰イオン交換樹脂によるクロマトグラフィーに供して、組み換えα-マンノシダーゼを含む溶出液を供給する工程。
【0062】
一つの態様では、上記の工程(i)〜(iii)を含み、工程(i)のフラクションはマルチモードリガンドを含む樹脂による精製に供されたものであり、工程(ii)のフラクションは工程(i)の溶出液由来であり、そして工程(iii)のフラクションは工程(ii)のフロースルー液由来である方法が提供される。換言すると、工程(i)から(iii)は列挙されている順に実施される。しかし、工程(i)から(iii)の間の中間工程は排除されない。これらは、中間精製工程および/またはウイルス削減もしくは除去工程であり得る。
【0063】
好ましい態様において、工程(i)の疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂は、アルキル置換樹脂、好ましくはブチルセファロース樹脂である。アルキル置換樹脂には、エチル、ブチルおよびオクチルセファロース樹脂が含まれ得る。さらに、フェニルセファロース樹脂もまた適用可能である。そのような樹脂の例は、Butyl-S Sepharose(商標)6 Fast Flow、Butyl Sepharose(商標)4 Fast Flow、Octyl Sepharose(商標)4 Fast Flow、Phenyl Sepharose(商標)6 Fast Flow (high sub)およびPhenyl Sepharose(商標)6 Fast Flow (low sub)、Butyl Sepharose(商標)High Performance、Phenyl Sepharose(商標) High Performanceである。疎水性相互作用樹脂、特にブチルセファロース樹脂を用いる精製工程の利点は、rhLAMAN酵素の収率の良さを維持しつつ宿主細胞タンパク質、特にDNA残留物を効率的に除去する点にある。
【0064】
さらに別の態様において、工程(i)は、少なくとも1回の洗浄工程を含み、洗浄に使用される溶液は、リン酸バッファーおよび酢酸バッファー、好ましくはリン酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムを含む。このデュアルバッファー洗浄工程は、宿主細胞タンパク質およびDNA残留物等の不純物の除去に特に効果的であることが証明された。
【0065】
さらに別の態様において、工程(i)のデュアルバッファー洗浄におけるリン酸バッファーの濃度は、5〜40 mM、例えば10〜30 mM、15〜25 mMの範囲、好ましくは20 mMであり、酢酸バッファーの濃度は、0.9〜1.5 M、例えば1.0〜1.4 M、1.1〜1.3 Mの範囲であり、好ましくは1.2 Mである。
【0066】
別の態様において、工程(i)は、少なくとも1回の洗浄工程を含み、洗浄に使用される溶液は、1種類のバッファーのみ、好ましくはリン酸バッファー、好ましくはリン酸ナトリウムを含む。
【0067】
別の態様において、1種類のバッファーのみを含む少なくとも1回の洗浄工程の1種類のバッファーは、0.4〜0.8 M、例えば0.5〜0-7 Mの範囲、好ましくは0.6 Mの濃度で存在する。
【0068】
一つの態様では、工程(ii)のミックスモードイオン交換樹脂が、セラミックヒドロキシアパタイトまたはフルオロアパタイト樹脂、好ましくはセラミックヒドロキシアパタイトI型(CHT I)樹脂である方法が提供される。このクロマトグラフィー工程を適用することにより、組み換えα-マンノシダーゼ組成物から相当量のDNA不純物が効果的に分離されること、および宿主細胞タンパク質は結合するがrhLAMAN酵素産物はカラムに結合せずに通過することが示された。
【0069】
別の態様において、工程(iii)の陰イオン交換樹脂は、強陰イオン交換樹脂、例えば第4級アンモニウム強陰イオン交換樹脂である。そのような樹脂には以下の例が含まれるがこれらに制限されない:Q-sepharose(商標)HP、Q-sepharose(商標)FF、DEAE-sepharose(商標)、Capto(商標)Q、Uno(商標)Q、ANX sepharose(商標)。
【0070】
さらに別の態様では、ウイルス不活性化工程が好ましくは工程(ii)と工程(iii)の間に行われる方法が提供される。
【0071】
好ましい態様において、ウイルス不活性化工程は、工程(ii)のフロースルー液とイソプロパノールの水溶液の少なくとも2時間の混合(フロースルー液/イソプロパノール水溶液の1:1 V/V)を含み、好ましくはその後に限外ろ過による濃縮およびダイアフィルトレーションを用いるイソプロパノールの除去を含む。不活性化中のイソプロパノール水溶液は、10〜50 %のイソプロパノール、例えば20〜40 %、25〜35 %、28〜32 %の範囲、好ましくは30 %のイソプロパノールであり得る。したがってフロースルー液およびイソプロパノール水溶液の1:1 V/V溶液は、15 %のイソプロパノール終濃度を有する。
【0072】
別の好ましい態様は、ウイルス削減工程が好ましくはクロマトグラフィー工程(iii)の後に行われる方法である。
【0073】
一つの態様において、ウイルス削減工程は、フィルター、好ましくはウイルス除去用フィルター、例えばultipor(商標)VF grade DV20フィルターまたはplanova(商標)15Nもしくは20Nフィルターを通じた組み換えα-マンノシダーゼを含む溶液、好ましくは工程(iii)の溶出液のろ過を含む。好ましくは、Planova(商標)15Nフィルターが使用される。
【0074】
本発明の精製方法は、大規模で実施され得る点で有利であり、したがって好ましい態様において、この方法は、少なくとも0.5 L、例えば少なくとも1.0 L、2.0 L、5.0 L、10 L、好ましくは少なくとも13.0 Lのカラム容量を有するクロマトグラフィーカラム上で実施される。
【0075】
本発明の別の態様では、α-マンノシダーゼが、
(A) SEQ ID NO 2で示される配列
(B) Aの配列のアナログ
(C) (A)または(B)の配列の部分配列
から選択される配列を有する上記の精製方法が提供される。
【0076】
ここで、SEQ ID NO 2により示される配列は、WO 02/099092に提供される組み換えヒトリソソームα-マンノシダーゼ(rhLAMAN)のアミノ酸配列を表す。
【0077】
「部分配列」は、親配列の50%以上、例えば親配列の55 %、60 %、65 %、70 %、75 %、80 %、85 %、90 %以上または95 %以上のサイズを有する親配列のフラグメントを意味する。したがって、関心対象の部分配列は、505〜1009連続アミノ酸残基、例えば、525〜1009、550〜1009、575〜1009、600〜1009、625〜1009. 650〜1009、675〜1009、700〜1009、725〜1009、750〜1009、775〜1009、800〜1009、825〜1009. 850〜1009、875〜1009、900〜1009、925〜1009、950〜1009、975〜1009、980〜1009、990〜1009または例えば1000〜1009連続アミノ酸残基の長さを有し得る。さらに、SEQ ID NO: 2またはそのアナログの関連部分配列は、触媒部位を保持していなければならない。ヒトLAMANの3D構造は知られていないが、ウシLAMANの3D構造は報告されており、そのデータに基づいて、以下のアミノ酸がヒトLAMANにおいても活性部位に関与しているおよび/または活性に必要なZn2+原子の配位を担っていると結論付けられている:AA 72 = H、AA 74 = D、AA 196 = D、AA 446 = H(UniProtKB/Swiss〜Protデータベース:O00754, MA2B1_HUMAN_, Heikinheimo et al. J. Mol. Biol. 327, 631〜644, 2003)。ヒトLAMANにおけるAA 72および196の変異は酵素活性をほぼ完全に消失させることが示されている(Hansen et al., Biochem. J. (2004), 381, pp. 537〜567)。活性を発揮するために、rhLAMANの部分配列は、少なくとも上記の4つのアミノ酸を含む領域を保持しているのがよい。
【0078】
好ましくは、rhLAMANの部分配列はまた、例えば結合部位、βターン、ジスルフィド架橋、停止コドン等を含む1つまたは複数の追加の立体配座部分を含む。LAMANのヒト形態にはいくつかの疾患誘発変異が存在し、これが特定のアミノ酸、例えばAA 53、72、77、188、200、355、356、359、402、453、461、518、563、639、714、750、760、801、809、916(ヒト遺伝子変異データベース, HMDG(登録商標)professional, Cardiff University, 2009)の重要性を示しており、かつAA 133、310、367、497、645、651、692、766、832、930および989を含むグリコシル化に重要なアミノ酸ならびにジスルフィド架橋に関与するアミノ酸、例えばAA 55 + 358、268 + 273、412 + 472および493 + 501も存在する。
【0079】
「アナログ」は、親配列に対して特定比率の配列同一性を有する配列を意味し、これは少なくとも60 %の配列同一性、例えば少なくとも70 %、80 %、85 %、90 %、95 %、98 %または好ましくは99 %の配列同一性であり得る。アナログおよび上記の部分配列は、好ましくは、SEQ ID NO: 2で示されるアミノ酸配列を有するα-マンノシダーゼと、それらが実質的に同じ酵素活性を発揮できるという意味において機能的に等価であることが理解されるであろう。
【0080】
「実質的に同じ酵素活性」という用語は、天然酵素の活性の少なくとも50 %、好ましくは少なくとも60 %、より好ましくは少なくとも70 %、より好ましくは少なくとも75 %、より好ましくは少なくとも80 %、より好ましくは少なくとも85 %、より好ましくは少なくとも90 %、より好ましくは少なくとも95 %およびより好ましくは少なくとも97 %、少なくとも98 %または少なくとも99 %を有する等価部分またはアナログを意味する。その酵素と機能的に等価なアナログの例は、その酵素の触媒部位を機能的な形態で含む融合タンパク質であり得るが、それは、別の種由来の酵素の相同性のあるバリアントでもあり得る。また、関連酵素の特定の酵素活性を模倣する完全合成分子も、「機能的に等価なアナログ」となり得る。LAMANの非ヒトアナログは、一般的には、患者の中で抗体形成を誘導し疾患を引き起こす可能性があるため、治療に適用できない。しかし、ヒトアナログは、変異が疾患誘発性でなくかつ所望の酵素活性を大きく低下させない場合、酵素置換療法において有用であり得る。そのような変異の例は、His70Leu、Gln240Arg、Ser250Ala、Leu278Val、Ser282Pro、Thr312Ile、Ala337Arg、Ser413Asn、Ser481Ala、Gln582Glu、Arg741Gly、Thr873Proである(情報源:http://www.ensembl.org;記録ID ENST00000456935)。また、Pro669LeuおよびAsp402Lysは、本発明者らにより疾患を引き起こさないことが確認されている。
【0081】
一般に、当業者は、酵素活性の決定のために適当なアッセイを容易に構築することができると思われる。LAMANについては、適当な酵素活性アッセイは、WO 02/099092の26ページ、8〜28行に開示されている。簡単に説明すると、以下の手順が、スクリーニングの目的で、平底96ウェルプレートを用いて実施され得る:75μlの4Xアッセイバッファー(8 mM p-ニトロフェニル-α-D-マンノピラノシド、2 mg/mL BSA、0.4 M 酢酸Na(pH 4.5))を75μlのサンプルまたは(150 mM NaCl + 10 %スーパーブロックを含む10 mM Tris pH 7.4中の)その適当な希釈物に添加する。このプレートを37℃で30分間インキュベートし、75μlの1.8 M Na2CO3で停止し、そしてプレートリーダーにおいて405 nmでの吸光度を記録する。96ウェルプレートを分光光度計において読み取る。比活性は、1分間、1 mgタンパク質あたりの加水分解されたp-ニトロフェニル-α-D-マンノピラノシドのμmolと定義する。
【0082】
一般的な定義と同様、「同一性」は、本明細書中で、遺伝子間またはタンパク質間の、それぞれ、ヌクレオチドまたはアミノ酸レベルでの配列同一性と定義される。したがって、本発明の文脈において、「配列同一性」は、タンパク質間のアミノ酸レベルでの同一性の尺度および核酸間のヌクレオチドレベルでの同一性の尺度である。タンパク質配列の同一性は、それらの配列のアラインメントを行った際の各配列の所定位置のアミノ酸配列を比較することによって決定され得る。同様に、核酸配列の同一性は、それらの配列のアラインメントを行った際の各配列の所定位置のヌクレオチド配列を比較することによって決定され得る。
【0083】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸のパーセント同一性を決定するために、それらの配列のアラインメントは、最適な比較の目的で行う(例えば、第2のアミノ酸または核酸配列との最適なアラインメントのために、第1のアミノ酸または核酸配列の配列にギャップが挿入される場合がある)。次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列のある位置が、第2の配列における対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドで占有されている場合、その分子は、その位置で同一とする。2つの配列間のパーセント同一性は、それらの配列によって共有される同一位置数の関数である(すなわち、%同一性 = 同一位置の#/位置の合計#(例えば重ね合わせた位置) x 100)。一つの態様において、2つの配列は同じ長さである。
【0084】
配列のアラインメントを手作業で行い、同一アミノ酸数を数えてもよい。あるいは、パーセント同一性を決定するための2つの配列のアラインメントは、数学的アルゴリズムを用いてなされてもよい。そのようなアルゴリズムは、NBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれている。本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得るために、BLASTヌクレオチドサーチが、NBLASTプログラム、スコア = 100、ワード長 = 12の下で実行され得る。本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るために、BLASTタンパク質サーチが、XBLASTプログラム、スコア = 50、ワード長 = 3の下で実行され得る。比較目的でギャップ有りのアラインメントを行うために、Gapped BLASTが利用され得る。あるいは、分子間の距離的関係を検出するPSI-Blastを使用して反復的サーチが実行され得る。NBLAST、XBLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラムの初期設定パラメータが使用され得る。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照のこと。あるいは、配列同一性は、例えばEMBLデータベースにおいてBLASTプログラムにより配列のアラインメントを行った後に算出され得る(www.ncbi.nlm.gov/cgi-bin/BLAST)。一般に、初期設定、例えば「スコアリングマトリクス」および「ギャップペナルティ」に関する初期設定が、アラインメントに使用され得る。本発明の文脈においては、BLASTNおよびPSI BLASTの初期設定が有用であり得る。
【0085】
2つの配列間のパーセント同一性は、上記と同様の技術を用い、ギャップを利用してまたは利用しないで、決定され得る。パーセント同一性の算出においては、正確な一致のみが考慮される。
【0086】
本発明の別の態様は、上記の精製方法により得ることができるα-マンノシダーゼを含む組成物である。
【0087】
本発明の第2の局面において、以下の工程を含む、組み換えα-マンノシダーゼの半回分生産方法または連続生産方法が提供される:
a. 第0日に、組み換えα-マンノシダーゼを産生することができる細胞を、ベース培地を含む生産用リアクターに接種し、細胞培養物を供給する工程、
b. 第1日から少なくとも1度、細胞培養物にフィード培地を添加する工程、
c. 第3日以降または生存細胞密度が2.1 MVC/mLを上回ったときのいずれか早い方において、細胞培養物の温度を、最高でも35℃、例えば34℃、33℃、32℃、好ましくは最高でも31℃に調節する工程。
【0088】
上記の方法において、接種日は第0日と定義され、その次の日が第1日等とされる。第0日からc項に記載される調節までに使用される開始温度は、36〜37℃の範囲、好ましくは36.5℃である。上記の温度は実測温度であり、設定点ではない、すなわち、本発明で使用されるバイオリアクターの設定において、上記の31℃の温度は32℃の温度設定点を必要とすることを理解されたい。同様に、36.5℃の温度は37℃の設定温度点を必要とする。
【0089】
組み換えα-マンノシダーゼの発現および生産に適した宿主細胞は、多細胞生物、好ましくは哺乳動物から得られる。特に、組み換えα-マンノシダーゼを生産するのに使用される細胞は、SV40により形質転換されたサル腎臓CVI系(COS-7);ヒト胎児腎臓系(293細胞または懸濁培養成長用にサブクローニングされた293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);チャイニーズハムスター卵巣細胞/ -DHFR(CHO);マウスセルトリ細胞(TM4);サル腎臓細胞(CVI);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76);ヒト子宮頸癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562);TRI細胞;MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト肝癌系(Hep G2)からなる群より選択され得る。昆虫細胞系またはヒト線維芽細胞もまた、適当な宿主細胞として利用可能である。
【0090】
組み換えα-マンノシダーゼの生産は、当業者に公知の技術を用いて適当な核酸コンストラクトによりトランスフェクトした細胞を用いて行われる。特に、この核酸コンストラクトは、
(i) SEQ ID NO: 1で示される核酸配列、および
(ii) 上記のSEQ ID NO 2で示される配列の部分配列またはアナログをコードする核酸配列、
からなる群より選択される核酸配列を含み得る。
【0091】
細胞は、好ましくは、WO 02/099092に記載されるような、組み換え酵素を生産する目的のために特別に構築されたrLAMANチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系であり得る。この細胞系の培養物DSM ACC2549は、2002年6月6日に、ブタペスト条約に基づく特許寄託の目的で、DSMZ GmbH, Maschroderweg 1b, D-38124, Braunschweig, Germanyに寄託されている。この細胞は、SEQ ID NO 1で示される配列を有する発現プラスミドpLamanExp1を用いて得ることもできる。
【0092】
工程a〜cの方法はさらに、以下の工程、
d. 細胞培養物から組み換えα-マンノシダーゼを精製する方法であって、組み換えα-マンノシダーゼを含む細胞培養物のフラクションを上記のカルボン酸基またはスルホン酸基を有するマルチモードリガンドを含む樹脂によるクロマトグラフィーに供する、方法、
を含み得る。
【0093】
さらに別の態様において、生産方法において使用される細胞培養物は、動物由来の任意の補助成分、例えばタラ肝油補助成分を本質的に含まない。そのような補助成分の使用を回避することで、最終酵素生産物へのウイルスの混入の危険性が低下する。
【0094】
生産方法の一つの好ましい態様において、半回分生産または連続生産の未希釈採取物は、少なくとも0.1 g/L、例えば少なくとも0.2 g/L、0.3 g/L、0.4 g/L、好ましくは少なくとも0.5 g/Lのα-マンノシダーゼ濃度を有する。
【0095】
別の態様において、半回分生産または連続生産の未希釈採取物は、3〜35 U/mL、例えば5〜35 U/mL、7〜35 U/mLの範囲、好ましくは10〜35 U/mLの範囲の酵素活性を有する。さらなる方法の最適化により、採取物の酵素活性は35 U/mLよりもさらに高くなり得ることを理解されたい。
【0096】
この生産方法は、大規模に実施され得る点で有利である。したがって一つの態様において、半回分生産または連続生産のための方法は、少なくとも30 L、例えば少なくとも50 L、75 L、100 L、150 L、200 L、好ましくは少なくとも250 Lの容量で実施される。
【0097】
本発明の別の態様では、α-マンノシダーゼが、
(A) SEQ ID NO 2で示される配列
(B) Aの配列のアナログ
(C) (A)または(B)の配列の部分配列
から選択される配列を有する上記の生産方法が提供される。
【0098】
本発明の別の態様は、上記の生産方法により得ることができるα-マンノシダーゼを含む組成物である。そのような組成物は、好ましい態様において、追加の有効生産物成分(active product ingredients; API)、アジュバントおよび/または賦形剤を含み得る。
【0099】
本発明の第3の局面では、精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物であって、α-マンノシダーゼの少なくとも80 %が130 kDa糖タンパク質として存在する組成物が提供される。
【0100】
好ましい態様では、精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物であって、組み換えα-マンノシダーゼが、+5℃で保存される場合は少なくとも4日間、または-20℃で保存される場合は少なくとも24ヶ月間、溶液中で安定性を維持する、組成物が提供される。
【0101】
rhLAMAN酵素生産物用の処方バッファー溶液に関する本発明の好ましい組成が以下に記載され、それにより達成される安定性も列挙されている。
Na2HPO4 3.50 mM(二塩基リン酸ナトリウム)
NaH2PO4 0.17 mM(一塩基リン酸ナトリウム)
グリシン 27 mM
マンニトール 250 mM
pH 7.70、290 mOsm/kg(等張液)

使用時安全性: 安定溶液 +5℃ - 4日
+20℃ - 6時間
-20℃ - 24ヶ月
凍結乾燥 +5℃ - 24ヶ月
【0102】
本発明の別の態様では、α-マンノシダーゼが、
(A) SEQ ID NO 2で示される配列
(B) Aの配列のアナログ
(C) (A)または(B)の配列の部分配列
から選択される配列を有する上記の組成物が提供される。
【0103】
別の好ましい態様は、医薬として使用するための、上記の精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物である。
【0104】
さらなる態様において、上記の精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物は、α-マンノシドーシスの処置において使用するためのものである。
【0105】
さらに別の態様は、α-マンノシドーシス処置用の医薬の調製のための、上記の精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物の使用である。
【0106】
別の態様は、α-マンノシドーシスを処置するおよび/またはα-マンノシドーシスに関連する症状を低減もしくは軽減する方法であって、上記の精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法である。
【0107】
本発明の局面の一つの文脈において記載される態様および特徴は、本発明の他の局面にも適用されることに留意されたい。
【0108】
本願において引用されているすべての特許文献および非特許文献は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0109】
ここからは、以下の非限定的な実施例により本発明をさらに詳細に記載する。
【実施例】
【0110】
使用される略語:
CIP: 定置洗浄(Clean In Place)
CV: カラム容量
Cv: 生存細胞密度
DF: ダイアフィルトレーション
DO: 溶存酸素
IPA: イソプロパノール
MVC/mL:106生存細胞/mL
NaPi: リン酸ナトリウム
NaAc: 酢酸ナトリウム
OD: 光学密度
EG: エチレングリコール
TFF: タンジェンシャルフローろ過
TMP: 膜間圧
UF: 限外ろ過
【0111】
実施例1 - 本発明の好ましい精製手順全般
α-マンノシダーゼを最適な収率および純度で得るための本発明の精製手順を以下に記載する。個々の樹脂について定められた標準的な樹脂再生・クリーニング条件を使用する(実施例2〜5を参照)。使用する樹脂は、GE healthcare life sciencesおよびBioRadから入手できる。
【0112】
・α-マンノシダーゼの生産物から採取物のフラクションを供給し、このフラクションを大きく希釈せずに清澄化する。好ましくは希釈を全く行わない。
【0113】
・上記のフラクションについて、マルチモードリガンドを含む樹脂によるカラムクロマトグラフィーを含む捕捉工程を実施する。これらの樹脂は、Capto(商標)MMC、Capto(商標)Adhere、PlasmidSelect(商標)Xtra、Capto(商標)Blue、Blue Sepharose(商標)Fast Flow樹脂、MEP HyperCel(商標)、HEA HyperCel(商標)およびPPA HyperCel(商標)からなる群より選択する。
【0114】
pH 4.5〜8.5で数回の洗浄を行い、その洗浄バッファーを、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、MES、MOPS、Hepes、ホウ酸ナトリウム、tris-HCl、クエン酸バッファーまたはそれらの組み合わせ(以下、バッファーグループA)からなる群より選択する。しかし、少なくとも1回の洗浄において、洗浄溶液はイソプロパノールを含み、pHはpH 4〜6の間とする。溶出バッファーはバッファーグループAから選択され、溶出溶液はエチレングリコールを含む。溶出pHをpH 7.0〜8.5に維持する。
【0115】
・α-マンノシダーゼを含む組成物について、疎水性相互作用樹脂によるカラムクロマトグラフィーを含む能動中間工程を実施する。これらの樹脂は、Butyl-S Sepharose(商標)6 Fast Flow、Butyl Sepharose(商標)4 Fast Flow、Octyl Sepharose(商標)4 Fast Flow、Phenyl Sepharose(商標)6 Fast Flow (high sub)およびPhenyl Sepharose(商標)6 Fast Flow (low sub)、Butyl Sepharose(商標)High Performance、Phenyl Sepharose(商標)High Performanceからなる群より選択する。
【0116】
pH 7〜8で数回の洗浄を行う。洗浄バッファーを、バッファーグループAから選択する。溶出バッファーもバッファーグループAから選択し、溶出pHはpH 7〜8の間とする。
【0117】
・α-マンノシダーゼを含む組成物について、ミックスモードイオン交換樹脂によるカラムクロマトグラフィーを含む受動中間工程を実施し、フロースルー液を供給する。これらの樹脂は、セラミックヒドロキシアパタイトI型もしくはII型(好ましくはI型)樹脂またはフルオロアパタイトからなる群より選択する。pH 7〜8で1回の洗浄を行い、フロースルー液を供給する。洗浄バッファーを、バッファーグループAから選択する。
【0118】
・α-マンノシダーゼを含む組成物について、陰イオン交換樹脂によるカラムクロマトグラフィーを含む洗練(polishing)工程を実施する。これらの樹脂は、Q-sepharose(商標)HP、Q-sepharose(商標)FF、DEAE-sepharose(商標)、Capto(商標)Q、Uno(商標)Q、ANX sepharose(商標)からなる群より選択する。
【0119】
pH 7〜8で数回の洗浄を行う。洗浄バッファーを、バッファーグループAおよびTRIS-HClバッファーから選択する。溶出バッファーもバッファーグループAから選択し、溶出pHはpH 7〜8の間で維持する。
【0120】
・α-マンノシダーゼの溶液をイソプロパノールと接触させることによって、ウイルス不活性化工程を実施する。
【0121】
・ナノろ過を用いてウイルス除去工程を実施する。
【0122】
本発明にしたがうα-マンノシダーゼを含む精製組成物の収率および生産物の成分比を、従来法との比較と共に、以下の表1に示す。同表において:
方法1は、本発明にしたがう好ましい方法である。
方法2は、方法1と同様であるが洗練工程がない。同法は、捕捉工程についてのイソプロパノールを含む洗浄工程もなく、能動中間工程において数回の洗浄が行われ、そして最後にウイルス不活性化/除去工程がない。
方法3は、WO 02/099092に記載されているものである(マルチモードリガンドを使用しない)。
【0123】
(表1)従来および本発明の精製手順により得られる収率および純度

実施例10および図7も参照のこと。
【0124】
実施例2 - マルチモードリガンドを用いるクロマトグラフィー捕捉工程
α-マンノシダーゼを含む清澄化された未希釈の採取物は、ミックスモードの相互作用により、マルチモードリガンド型の樹脂、例えばこの実施例で使用するCapto(商標)MMCに結合する。塩を増やしエチレングリコールを添加することにより生産物が溶出する。Capto(商標)MMCのキャパシティは、260 U/ml樹脂であった。捕捉段階は、以下の工程を用いて実施した。
【0125】
・1〜2カラム容量(CV)の3 M NaCl、pH 10〜12を300 cm/hrで用いてカラムを再生する。
・5CVの50 mMリン酸ナトリウムバッファー(NaPi)、0.15 M NaCl pH 7.5を300 cm/hrで用いて平衡化する。
・清澄化された未希釈の採取物(導電率は約15 mS/cm)を300 cm/hrでロードする。
・洗浄1:4 CVの平衡化バッファー。
・洗浄2:3 CVの0.95 M NaAc、5 % (v:v)イソプロパノール、pH 4.9を300 cm/hr。
・洗浄3:4 CVの平衡化バッファー(安定なベースラインまで、すなわち5 mmフローセルについて約0.06 Auまで)を300 cm/hr。
・6 CVの1.5 M NaCl、40 %エチレングリコールを含有する90 mM NaPi、pH 7.7を用いて最大120 cm/hrで生産物を溶出させる。吸光度が上昇(新しいベースラインからおよそ10 mAu)したら回収を開始する。約4 CV回収する。
・上記のように、3 CV、下降流方向、最大120 cm/hrにてカラムを再生する。
・好ましくは上昇流方向にて、3 CVのH2O、3 CVの1 M NaOH(約60分の接触時間)、2〜3 CVのリン酸バッファー、pH 約7、3 CVの20 mMリン酸ナトリウム + 20 %エタノールを用いて定置洗浄(CIP)および浄化処理を行う。20 mMリン酸ナトリウム + 20 %エタノール中で保存する。
【0126】
表2は、精製スキームの例を示す。表3は、その工程の概要である。図2は、この工程におけるクロマトグラムの例を示す。
【0127】
(表2)捕捉段階の精製スキーム:13.5 x 2 ml(27 ml)XK 16カラムにCapto(商標)MMCを充填(次ページに続く)

【0128】
(表3)Capto(商標)MMC捕捉段階における条件の概要

【0129】
実施例3 - 疎水性相互作用を使用するクロマトグラフィー中間能動工程
α-マンノシダーゼを含む捕捉段階由来の生産物は、硫酸ナトリウムの添加後に、疎水性相互作用により、疎水性相互作用型の樹脂、例えばこの実施例で使用するButyl Sepharose(商標)4 FFに結合する。塩濃度を下げると生産物が溶出する。そのキャパシティは195 U/ml樹脂であった。中間能動段階では以下の工程を用いた。
【0130】
・1 CVの20 mMリン酸ナトリウム(NaPi)バッファー、pH 7.5を用いて100 cm/hrでカラムを再生する。
・5 CVの0.5 M Na2SO4、20 mM NaPi、pH 7.5を用いて150 cm/hrでカラムを平衡化する。
・工程1由来の生産物のプールを同容量の20 mM NaPi、0.8 M Na2SO4、pH 7.5と混合し、それを70 cm/hrでカラムにロードする。混合はインラインでまたはロード開始の最大3時間前に実施することができる。1:1 容量:容量(v:v)の混合物は、およそ1.11:1 重量:重量(w:w)に相当する(溶出液:硫酸ナトリウムバッファー)。必要な場合、調整済のロード液を、ロードの前に0.45μmフィルター(親水性PESまたはPVDF)を通してろ過してもよい。
・3CVの平衡化バッファーを用いて70 cm/hrでカラムを洗浄し、前の工程由来の宿主細胞タンパク質と共にエチレングリコールを除去する。
・3.5 CVの20 mM NaPi、1.2 M NaAc、pH 7.5を用いて100 cm/hrで洗浄する。
・3.5 CVの0.6 M NaPi、pH 7.0を用いて150 cm/hrで洗浄する。
・4 CVの60 mM NaPi、pH 7.5を用いて150 cm/hrで生産物を溶出する。吸光度の最初の上昇からベースラインに到達するまでの約2 CVのピークを回収する。
・2 CVの20 mM NaPi、pH 7.5、続いて3 CVのH2Oを用いて150 cm/hrでカラムを再生する。
・3 CVの1M NaOH(60分の接触時間)、1 CVのH2O、1〜3 CVのリン酸バッファー、および2 CVの20 mMリン酸ナトリウム + 20 %エタノールを用いて、クリーニングおよび浄化処理を行う。20 mMリン酸ナトリウム + 20 %エタノール中で保存する。
【0131】
表4は、精製スキームの例を示す。表5は、その工程の概要である。図3は、この工程におけるクロマトグラムの例を示す。
【0132】
(表4)13.5 cm x 2 cm2(27 ml)XK 16カラムに充填したButyl Sepharose(商標)4FFを用いる中間能動精製スキーム(次ページに続く)

【0133】
(表5)Butyl Sepharose(商標)4FF工程における条件の概要

【0134】
実施例4 - ミックスモードイオン交換を使用するクロマトグラフィー中間受動工程
中間能動工程由来のα-マンノシダーゼを含む2つの溶出液をプールし、水と1:1(重量:重量)で混合して導電率を低下させ、これをミックスモードイオン交換樹脂、例えばこの実施例においてはセラミックヒドロキシアパタイトI(CHT I)樹脂にロードした。生産物は結合せずに通過し、宿主細胞タンパク質はカラムに結合する。生産物を含むフロースルー液を回収した。そのキャパシティは550 U/ml樹脂であった。この中間受動段階の実施例においては以下の工程を用いた。
【0135】
・2 CVの0.6 M NaPi、pH 7.0を用いて300 cm/hrでカラムを再生する。
・5 CVの60 mM NaPi、pH 7.5を用いて300 cm/hrでカラムを平衡化する。
・工程2由来の調整済の溶出液を300 cm/hrでロードし、生産物を含むフロースルー液を回収する。ロード液の導電率およびpHは、それぞれ約10 mS/cmおよび7.3であろう。ODが20 mAuに上昇してからODが20 mAuに戻るまでの、おおよそロード液容量分および2 CV洗浄分の生産物を含むフロースルー液を回収する。工程の最後に生産物プールを0.45μm親水性PESまたはPVDFフィルターでろ過する。
・4CVの平衡化バッファーを用いて300 cm/hrでカラムを洗浄する。
・3 CVの0.6 M NaPi、pH 7.0を用いて300 cm/hrで再生する。
・3 CVの1M NaOH(60分の接触時間)、1 CVの60 mM NaPi、pH 7.5および2 CVの20 mMリン酸ナトリウム + 20 %エタノールを用いてクリーニングおよび浄化処理を行う。20 mMリン酸ナトリウム + 20 %エタノール中で保存する。
【0136】
表6は、精製スキームの例を示す。表7は、その工程の概要である。図4は、この工程におけるクロマトグラムの例を示す。
【0137】
(表6)10 cm x 2 cm2 (20 ml) XK 16カラムに充填したCHT Iを用いる中間受動段階の精製スキーム

【0138】
(表7)CHT I工程における条件の概要(次ページに続く)

【0139】
実施例5 - ウイルス不活性化工程
ウイルスの不活性化は、この方法の異なる段階で実施され得る。この実施例では、ウイルスの不活性化を、中間受動工程後かつ洗練工程前に実施した。α-マンノシダーゼを含む中間受動プールのウイルス不活性化は、21±5℃で15 %イソプロパノール(30 %イソプロパノール水溶液との1:1混合物)を用いる135±15分間のインキュベーションにより行う。タンクを+4℃の冷却ジャケットにより冷却し、プロセスを21±5℃で維持した。100 kDaポリエーテルスルホン膜Screen A(MilliporeまたはSartorius製)を用いるタンジェンシャルフローろ過(TFF)を用いてイソプロパノールを除去し、リン酸ナトリウムバッファーに交換した。この実施例においては、以下の工程をウイルスの不活性化に用いた。
【0140】
・中間受動工程由来の生産物(フロースルー液)を、30 %イソプロパノールを1:0:94(w/w)相当の1:1(v:v)で含有する60 mMリン酸ナトリウムと混合する。例えば、再循環ポンプ供給により混合する。生産物のタンパク質濃度は、約0.3〜1 mg/mlとなろう。
・溶媒/生産物プールを室温で135±15分間インキュベートする。
・TFF膜を60 mMリン酸ナトリウムバッファーで平衡化する。
・膜間圧(TMP)1.1バール、21±5℃、流入圧=約1.4〜1.5バールおよび流出圧=約0.7〜0.8バールの限外ろ過によりこのプールを目標濃度2 mg/ml(0.5〜3 mg/ml)まで濃縮する。
・60 mMリン酸ナトリウムバッファーに対するダイアフィルトレーションにより約6容量分を交換する。TMP 1バール(流入1.4バール/流出0.6バール)で開始する。1容量分が交換された後、TMPを1.1に上げることができる。
・非透過液を回収する。膜を2〜3システム容量の希釈バッファーでリンスし、緩やかに結合している生産物を取り除く。このリンス液を非透過液と共に回収する。最終目標タンパク質濃度は、2 mg/ml(0.5〜3 mg/ml)である。
・膜をH2O、続いて0.5 M NaOH(60分間の接触時間)でクリーニングする。0.1 M NaOH中で保存する。
【0141】
表10は、ウイルス不活性化/TFF工程における条件を示す。
【0142】
(表10)ウイルス不活性化/TFF工程における条件の概要

NaPi = 60 mMリン酸ナトリウム、pH 7.5
【0143】
実施例6 - 陰イオン交換を用いるクロマトグラフィー洗練工程
陰イオン交換樹脂、例えばこの実施例では第4級アンモニウム高性能強陰イオン交換樹脂(Q Sepharose(商標)HP樹脂)に対してイオン性相互作用により結合させるため、中間受動工程由来のα-マンノシダーゼを含む非透過液の導電率を、調整バッファー(20 mM Tris-HCl、10 mM NaCl、75 mMマンニトール、0.005 % tween(商標)80、pH 7.5)による6倍希釈により低下させた。非透過液は、ロードする前に直接希釈するかまたはインライン希釈した。生産物は、塩化ナトリウムの添加により、予め1CVの溶出バッファーで満たしておいた容器に溶出させた。そのキャパシティは400 U/ml樹脂である。この実施例における洗練段階では以下の工程を用いた。
【0144】
・1 CVの50 mM NaPi、1 M塩化ナトリウム、pH 7.5を用いて、120 cm/hrでカラムを再生する。
・5 CVの20 mM Tris-HCl、10 mM塩化ナトリウム、pH 7.5を用いて、120 cm/hrでカラムを平衡化する。
・工程4由来の希釈した非透過液を、120 cm/hrでロードする。
・5 CVの平衡化バッファーおよび1 CVの20 mMリン酸ナトリウム、pH 7.5を用いて、120 cm/hrでカラムを洗浄する。
・(1CVの溶出バッファーで)予め満たしておいた容器に、4 CVの50 mMリン酸ナトリウム、0.2 M塩化ナトリウム、pH 7.5を用いて120 cm/hrで生産物を溶出する。吸光度の最初の上昇(10〜20 mAuで回収開始)から30〜50 mAu(2 mmフローセル)までのピーク、0.5〜1.5 CV分を回収する。
・3 CVの50 mM NaPi、1 M塩化ナトリウム、pH 7.5を用いて120 cm/hrでカラムを再生する。
・3 CVの1 M NaOH(60分間の接触時間)および3 CVの10 mM NaOHを用いてクリーニングおよび浄化処理を行う。10 mM NaOH中で保存する。
【0145】
表8は、精製スキームの例を示す。表9は、その工程の概要である。図5は、クロマトグラムの例を示す。
【0146】
(表8)Q Sepharose(商標)HP樹脂19 cm x 2 cm2(38 ml)を用いる洗練工程の精製スキームの例(次ページに続く)

【0147】
(表9)Q Sepharose(商標)HP工程における条件の概要(次ページに続く)

【0148】
実施例7 - ウイルス削減工程
ウイルスの削減は、この方法の異なる段階で実施され得る。この実施例では、ウイルスの削減を、洗練工程の後で実施した。洗練工程由来の溶出液を、0.1μmの事前ろ過の後に、Planova(商標)15Nフィルターを通じてナノろ過する。以下の工程を用いた。
【0149】
・洗練工程由来の溶出液を0.1μmフィルターを通じて事前ろ過する。このフィルターを少量の50 mMリン酸ナトリウム、0.2 M塩化ナトリウム、pH 7.5でリンスし、緩やかに結合している生産物を取り除く。
・溶出液を、0.8バール圧、室温でろ過する。このろ過の後に、50 mMリン酸ナトリウム、0.2 M塩化ナトリウム、pH 7.5を用いてPlanova 15システムのおよそ3容量分の事後洗浄を行う。
【0150】
実施例8 - 処方および保存
100 kDa、Screen A、ポリエーテルスルホン膜(Sartorius(商標)またはMillipore(商標))を用いるタンジェンシャルフローろ過(TFF)によりバッファーを処方バッファーに交換する。タンクを+4℃の冷却ジャケットにより冷却することで、方法を21±5℃で維持することができる。概算キャパシティは100 l/m2である。以下の工程を処方および保存に使用した。
【0151】
・膜を3.5 mM Na2HPO4、0.17 mM NaHPO4、250 mMマンニトール、27 mMグリシン、pH 7.7(処方バッファー)により平衡化する。
・α-マンノシダーゼを含む精製生産物を、およそ1容量の処方バッファーを用いて目標濃度2〜3 mg/mlに希釈する。生産物中のタンパク質濃度が低い場合は、処方バッファーによる希釈前の容量を減らし、4〜6 mg/mlに濃縮することが可能である(しかしそれは必須ではない)。
・TMP 0.8および21±5℃での限外ろ過により目標濃度6 mg/mlまで約2倍濃縮する。
・TMP 0.8、21±5℃での処方バッファーに対するダイアフィルトレーションにより、6容量分交換する。
・限外ろ過により約1.5倍濃縮し、非透過液を回収する。膜を1システム容量の処方バッファーでリンスし、緩やかに結合している生産物を取り除く。このリンス液を非透過液と共に回収する。代替法は、リンス液をOD 280で測定し、それが生産物を含む場合のみプールすることである。最終目標タンパク質濃度は、7±2 mg/mlである。
・膜をH2O、その後に0.5 M NaOH(60分の接触時間)によりクリーニングする。0.1 M NaOH中で保存する。
【0152】
(表11)処方用TFF工程における条件の概要(次ページに続く)

【0153】
生産物を5 mg/mlに希釈し、無菌ろ過した。ろ過した原体でボトルを充填し、凍結する。
【0154】
実施例9 - αマンノシダーゼ用の半回分培養方法
細胞を解凍した後、その細胞を震盪フラスコ、10 Lシードバイオリアクターおよび50 Lシードバイオリアクター中で増殖させ、その後にそれらを生産用バイオリアクター(250 L)に移した。生産用バイオリアクターの接種日における、50 Lシードバイオリアクター中の細胞密度は2から2.5 MVC/mLの間であった。細胞は、接種完了時の細胞懸濁物の容量が100 Lとなるように、0.5 MVC/mLの細胞密度でシードバイオリアクターから生産用リアクターに接種した。接種日を第0日と呼び、その次の日を第1日と呼び、以下同様とする。第1日から実験最終日まで、既定の割合でブースト中、毎日、フィード培地を添加した(以下参照)。第1日から実験最終日まで、既定の割合およびルールでブースト中、毎日、グルタミンおよびグルコースを添加した(以下参照)。生存細胞密度が≧2.2 MVC/mLになる日または第3日のいずれか早い方において、温度を生産温度に下げた。
【0155】
(表12)実際の温度および実験条件

*)第0日から第2日の間、pH制御のためにCO2のみを自動添加した。アルカリは、pHが < 6.60になるまで添加しなかった。
【0156】
・ベース培地
2 mMグルタミンが補充された、11.1 mM(2 g/L)グルコースを含むACF培地(ExCell302、SAFC)。最大3日間、すなわちバイオリアクターの無菌試験の間、グルタミンを含まないベース培地を生産用バイオリアクターに移して36.5℃で保存することができる。それ以外の場合は、培地を4℃で保存する。
【0157】
・フィード培地
フィード培地E35は、グルタミンを含まず11.1 mMグルコースを含むACF培地で希釈した35 % CHO CD Efficient Feed B(InVitrogenカタログ番号SKU# A10240-01)フィード濃縮物とした。フィード培地は、4℃の暗所で保存した。フィード培地は、培養中室温で最大96時間、すなわち4日間、暗所で維持できる。
【0158】
(表13)1日あたりの添加したフィード培地の容量

【0159】
・添加物
a) 2500 mMグルコースのストック溶液。b) 200 mMグルタミンのストック溶液。c) アルカリ0.5 M Na2CO3
【0160】
・フィード培地、グルコースおよびグルタミンの送達
ブースト中、フィード培地は毎日ポンプ供給した。ブースト中、グルコースおよびグルタミンは、グルコースおよびグルタミンのストック溶液を以下の量で毎日添加し、それらの濃度を所定の目標範囲内で維持した。
【0161】
グルタミン添加ルール:
・第1日から第3日:バイオリアクター中のグルタミン濃度が2 mMとなる容量のグルタミンストック溶液を添加する。
・第4日以降:バイオリアクター中のグルタミン濃度が1 mMとなる容量のグルタミンストック溶液を添加する。
【0162】
グルコース添加ルール:
・第0日から第8日:グルコースストック溶液を添加しない。
・第9日以降:生産用バイオリアクター中のグルコース濃度が≦ 8 mMとなった場合、バイオリアクター中のグルコース濃度が8 mMとなる容量のグルコースストック溶液を添加する。
【0163】
方法の全体像:
(表15)培養方法の日単位の全体像

【0164】
実施例10 - α-マンノシダーゼを含む精製生産物の特徴付け
以下の表16は、本発明の精製スキームが、130 kDa糖タンパク質種の比率がそれぞれ75および55 kDaの分解産物と比較して高い割合でα-マンノシダーゼを提供したことを示している。同表はまた、マルチモードリガンドを含む捕捉工程および中間能動工程の両方における改良された洗浄工程ならびにQ sepharose HP洗練工程を含む4工程精製方法を用いる250 L方法が、収率、全体純度および130 kDa種の収率のすべてに関して3工程方法を用いる30 L方法よりも良い結果をもたらしたことを示している。
【0165】
(表16)精製生産物におけるα-マンノシダーゼ種の収率

【0166】
種の分布は、3つの方法についての図7のHPLCダイヤグラムで確認され、上表はそれぞれ4工程方法および3工程方法を表している。示されている2工程方法は、マルチモードリガンド工程を用いないものである。左側から見て最初のピークは55 kDa種であり、続いて、それぞれ130 kDa種および75 kDa種である。
【0167】
参考文献


【0168】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換えα-マンノシダーゼを含む細胞培養物のフラクションが、マルチモードリガンドを含む樹脂によるクロマトグラフィーに供される、組み換えα-マンノシダーゼを細胞培養物から精製するための方法。
【請求項2】
組み換えα-マンノシダーゼを含む細胞培養物のフラクションが、清澄化された未希釈の採取物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
樹脂に結合されているマルチモードリガンドが、カルボン酸基またはスルホン酸基を有する物質である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
樹脂に結合されているマルチモードリガンドが、式(I)、(II)または(III)の物質:

であり、ここで、式(II)および(III)の物質のRは式(IV)の官能基:

である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
マルチモードリガンドを含む樹脂にロードされた細胞培養物のフラクションが、イソプロパノール、好ましくは少なくとも1 % (V:V)のイソプロパノール、例えば少なくとも2 %、3 %、4 %、4.5 % (V:V)のイソプロパノール、好ましくは少なくとも5 % (V:V)のイソプロパノールを含む溶液を用いる少なくとも1回の洗浄工程に供される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
組み換えα-マンノシダーゼを含む第1の溶出液が、エチレングリコールまたはプロピレングリコールを含む水溶液を用いてマルチモードリガンドを含む樹脂から溶出される、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
マルチモードリガンドを含む樹脂から得られるα-マンノシダーゼを含む第1の溶出液が、
(i) α-マンノシダーゼを含むフラクションを疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂に適用して、組み換えα-マンノシダーゼを含む溶出液を供給する工程、
(ii) α-マンノシダーゼを含むフラクションをミックスモードイオン交換樹脂に通して混入物質を保持させ、組み換えα-マンノシダーゼを含むフロースルー液を供給する工程、および
(iii) α-マンノシダーゼを含むフラクションを陰イオン交換樹脂によるクロマトグラフィーに供して、組み換えα-マンノシダーゼを含む溶出液を供給する工程
を含む方法にさらに供される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
α-マンノシダーゼが、
(A) SEQ ID NO 2で示される配列
(B) (A)の配列のアナログ
(C) (A)または(B)の配列の部分配列
から選択される配列を有する、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項記載の精製方法により得ることができるα-マンノシダーゼを含む組成物。
【請求項10】
a. 第0日に、組み換えα-マンノシダーゼを産生することができる細胞を、ベース培地を含む生産用リアクターに接種し、細胞培養物を供給する工程、
b. 第1日から少なくとも1度、細胞培養物にフィード培地を添加する工程、
c. 第3日以降または生存細胞密度が2.1 MVC/mLを上回ったときのいずれか早い方において、細胞培養物の温度を、最高でも35℃、例えば34℃、33℃、32℃、好ましくは最高でも31℃に調節する工程
を含む、組み換えα-マンノシダーゼの半回分生産または連続生産のための方法。
【請求項11】
d. 請求項1〜8のいずれか一項記載の精製方法
をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
細胞培養物が、動物由来の任意の補助成分、例えばタラ肝油補助成分を本質的に含まない、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
少なくとも30 L、例えば少なくとも50 L、75 L、100 L、150 L、200 L、好ましくは少なくとも250 Lの容量で実施される、請求項10〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
α-マンノシダーゼが、
(A) SEQ ID NO 2で示される配列
(B) (A)の配列のアナログ
(C) (A)または(B)の配列の部分配列
から選択される配列を有する、請求項10〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか一項記載の生産方法により得ることができる、α-マンノシダーゼを含む組成物。
【請求項16】
精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物であって、該α-マンノシダーゼの少なくとも80 %が130 kDa糖タンパク質として存在する、組成物。
【請求項17】
組み換えα-マンノシダーゼが、+5℃で保存される場合は少なくとも4日間、または-20℃で保存される場合は少なくとも24ヶ月間、溶液中で安定性を維持する、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
α-マンノシダーゼが、
(A) SEQ ID NO 2で示される配列
(B) (A)の配列のアナログ
(C) (A)または(B)の配列の部分配列
から選択される配列を有する、請求項16または17記載の組成物。
【請求項19】
医薬として使用するための、請求項9および15〜18のいずれか一項記載の組成物。
【請求項20】
α-マンノシドーシスの処置において使用するための、請求項9および15〜18のいずれか一項記載の組成物。
【請求項21】
α-マンノシドーシス処置用の医薬の調製のための、請求項9および15〜18のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項22】
α-マンノシドーシスを処置する、および/または、α-マンノシドーシスに関連する症状を低減もしくは軽減する方法であって、請求項9および15〜18のいずれか一項記載の精製された組み換えα-マンノシダーゼを含む組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−520184(P2013−520184A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554217(P2012−554217)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【国際出願番号】PCT/DK2011/050054
【国際公開番号】WO2011/103877
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(512219839)
【Fターム(参考)】