説明

組成物およびカーボンナノチューブ含有膜

【課題】カーボンナノチューブが分散媒体中に均一に分散されており、成膜性および成形性に優れ、かつ、簡便な方法で基板に塗工することができる組成物、ならびに該組成物から形成されたカーボンナノチューブ含有膜を提供する。
【解決手段】本発明に係る組成物は (A)カーボンナノチューブと、(B)有機色素誘導体と、(C)水を含有し、前記組成物中の前記(A)成分をX線光電子分光法(ESCA)により分析した酸素含有量が5〜20原子%である組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含有する組成物、およびこれを用いて形成されたカーボンナノチューブ含有膜に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)は、一様な平面のグラファイトを丸めて円筒状にしたような構造を有している。CNTの両端は、フラーレンの半球のような構造で閉じられており、必ず5員環を6個ずつ有している。CNTは、このような独特の構造を有するため様々な特性を具備しており、広範な分野において応用が検討されている。
具体的には、CNTは電場をかけると5員環から電子が放出されるため、電子放出電極としての応用が検討されている。また、CNTは内部に筒状の中空空間を有しているため、該空間に様々な分子を内包させることにより、燃料電池用電極としての応用が検討されている。さらに、CNTを分散させた導電性コンポジットのように膜としての応用が検討されている(特許文献1参照)。
CNTを膜として用いる場合、CNTを分散媒体中に分散させた塗工液を利用することが簡便である。例えば、有機色素誘導体を用いてCNTを分散させる方法等が提案されている(特許文献2、3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−166591号公報
【特許文献2】特開2005−220245号公報
【特許文献3】特開2005−162578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CNTは、相互に凝集する性質を有するため、分散媒体中に均一に分散させることが困難であった。また、長期に亘りCNTの分散安定性を有し、かつ、塗膜形成した際に十分な強度を有するカーボンナノチューブ含有膜を得ることも困難であった。
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、上記課題を解決することで、CNTが分散媒体中に均一に分散されており、成膜性および成形性に優れ、かつ、簡便な方法で基板に塗工することができる組成物、および該組成物から形成されたカーボンナノチューブ含有膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
〔適用例1〕
本発明に係る組成物の一態様は
(A)カーボンナノチューブと、
(B)有機色素誘導体と、
(C)水
を含有する組成物であって、
前記組成物中の前記(A)成分をX線光電子分光法(ESCA)により分析した酸素含有量が5〜20原子%である組成物。
【0006】
〔適用例2〕
適用例1の組成物において、
前記組成物中の前記(A)成分の濃度M(質量%)および前記(B)成分の濃度M(質量%)がM/M=0.05〜0.3の範囲であることができる。
【0007】
〔適用例3〕
適用例1または適用例2の組成物において、
前記組成物中の前記(B)成分の濃度Mが0.0005〜3質量%であることができる。
【0008】
〔適用例4〕
適用例1〜3のいずれかに記載の組成物において、
前記(B)成分はスルホ基、水酸基、カルボキシル基及びこれらの塩から選ばれる少なくとも一種の構造を有することができる。
【0009】
〔適用例5〕
適用例1〜4のいずれかに記載の組成物から、カーボンナノチューブ含有膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る組成物は、分散媒体中にカーボンナノチューブが均一に分散されているため、長期の貯蔵安定性を確保することができる。また、本発明に係るカーボンナノチューブ含有組成物は、成膜性および成形性に優れており、基板上に簡便な方法で塗工することができる。
上述した組成物から形成されたカーボンナノチューブ含有膜は、カーボンナノチューブの特性を損なうことなく、膜強度に優れた膜となる。また、形成されたカーボンナノチューブ含有膜は塗布基板との密着性に優れた膜となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例をも含む。
【0012】
1.組成物
本実施の形態に係る組成物は、(A)カーボンナノチューブ(以下、単に「(A)成分」ともいう)と、(B)有機色素誘導体(以下、単に「(B)成分」ともいう)を含有し、前記組成物中の前記(A)成分をX線光電子分光法(ESCA)により分析した酸素含有量が5〜20原子%である、組成物である。
以下、本実施の形態に係る組成物を構成する各成分について説明する。
【0013】
1.1.(A)成分
本実施の形態で用いられる(A)成分であるカーボンナノチューブ(CNT)は、X線光電子分光法(ESCA)により分析した酸素含有量が1〜30原子%であり、5〜20であることが好ましい。CNTをESCA分析することにより、CNT表面の酸素原子量を測定することができる。CNT表面の酸素原子含有量が前記範囲であると、CNT表面が適度な極性を有し、水中での分散性が良好となる。
【0014】
CNTに含まれる酸素原子量は、以下のように測定することができる。すなわち、本願組成物をシリコン基板上へ塗布し、得られた塗膜を加熱乾燥して水分を除去する。このようにして得られた塗膜表面を市販のX線光電子分光測定装置(アルバックファイ製、型番「Quantum2000」など)で酸素原子含有量を測定することにより、CNTに含まれる酸素原子含有量を算出することができる。
【0015】
(A)成分であるカーボンナノチューブ(CNT)は、カルボキシル基および水酸基から選択される少なくとも一種の官能基を有することが好ましい。カルボキシル基や水酸基は親水性の官能基であるため、(A)成分がこのような官能基を有することにより、さらに水中でのCNTの分散安定性を高めることが可能となる。
【0016】
CNTに含まれるカルボキシル基量は、以下のように測定することができる。すなわち、CNTの水分散液をシリコン基板上へ塗布し、得られた塗膜をトリフルオロエタノール、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ピリジンに暴露して加熱する。この工程によりCNTに含有されるカルボキシル基(−COOH)とトリフルオロエタノール(CFCHOH)が反応しエステル化(−COOCHCF)される。このように処理した塗膜表面を市販のX線光電子分光測定装置でフッ素量を測定する。測定結果を基に、フッ素3原子が水酸基一つに相当すると換算し、CNTに含まれるカルボキシル基量を算出することができる。
【0017】
CNTに含まれる水酸基量は、以下のように測定することができる。すなわち、CNTの水分散液をシリコン基板上へ塗布し、得られた塗膜をトリフルオロ無水酢酸に暴露して加熱する。この工程によりCNTに含有される水酸基(−OH)とトリフルオロ無水酢酸(CFCOOH)が反応しエステル化(−OCOCF)される。このように処理した塗膜表面を市販のX線光電子分光測定装置によりフッ素量を測定する。測定結果を基に、フッ素3原子が水酸基一つに相当すると換算し、CNTに含まれる水酸基量を算出することができる。なお、このような手法の詳細はChilkoti,Ratner and Briggs,Chem.Mbterl.,3(1),51(1991)、Nakayama,Takahagi and Soeda,J.Poly.Sci.:Poly.Chem.,26,559(1988)、Everhart and Reilley,Anal.Chem,53(4),665(1981)に詳細に説明されている。
【0018】
(A)成分は、市販のCNTへ、酸化処理を施す公知の方法を用いて作製することができる。たとえば、CNTを塩酸や硝酸などの強酸と混合し、加熱処理を行うことにより作製することができる。また、市販のCNTを酸素プラズマに暴露し、表面を酸化することによっても作製することができる。このように、前記(A)成分が得られる方法であれば、その作製方法は特に限定されない。
【0019】
本願発明で使用することのできるCNTとしては、炭素によって作られる1枚の六員環ネットワーク(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層のシングルウォールカーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」という。)、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれたダブルウォールカーボンナノチューブ(以下、「DWCNT」という。)、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれたマルチウォールカーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」という。)等が挙げられる。本実施の形態では、SWCNT、DWCNT、MWCNTをそれぞれ単独で使用してもよいし、複数種組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、導電性および半導体特性において優れた性質を有する観点から、SWCNTおよびDWCNTがより好ましく、SWCNTが特に好ましい。
【0020】
上記のようなCNTは、例えばアーク放電法、レーザーアブレーション法、化学気相成長法(以下、「CVD法」ともいう。)等によって好ましいサイズに作製される。本実施の形態で用いられるCNTは、いずれの方法を用いて作製されたものであってもよい。
上記の方法でCNTを作製する際には、フラーレンやグラファイト、非晶性炭素が同時に副生成物として生成される場合があり、またニッケル、鉄、コバルト、イットリウム等の触媒金属が残存する場合があるので、これらの不純物をできるだけ精製して除去することが好ましい。不純物を除去する方法としては、硝酸、硫酸、フッ酸等による酸処理またはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、アンモニア、水酸化カリウム等による塩基処理と共に超音波処理を行う方法が有効であり、さらにフィルターによる分離または遠心分離による分離操作を併用することが純度を向上させる観点から好ましい。
【0021】
本願発明で使用することのできるCNTは、米国特許2006/0204427A1号等に記載されているような精製を行って使用してもよい。たとえば、塗工膜(カーボンナノチューブ含有膜)が半導体として利用される場合には素子電極間の短絡を防ぐために、素子電極間の距離よりも短いCNTを使用することが好ましい。通常CNTは、紐状で形成されているため、短繊維状で使用するにはあらかじめカットしておくことが望ましい。CNTを短繊維状にカットするには、硝酸、硫酸等による酸処理と共に超音波処理する方法が有効であり、さらにフィルターによる分離操作を併用することにより純度を向上させることができる。なお、本実施の形態においては、カットした短繊維状CNTだけではなく、あらかじめ短繊維状に作製されたCNTを用いてもよい。
【0022】
上述したような短繊維状CNTは、例えば以下のようにして作製することができる。まず、基板を用意し、該基板上に鉄、コバルト等の触媒金属を形成させる。次いで、その基板の表面にCVD法を用いて700〜900℃で炭素化合物を熱分解して気相成長させる。これにより、前記基板表面に垂直方向に配向した形状のCNTが形成される。得られた短繊維状のCNTは、基板から剥ぎ取る等の方法で取り出すことができる。また、短繊維状CNTは、ポーラスシリコンのようなポーラスな支持体またはアルミナの陽極酸化膜上に触媒金属を担持させ、それらの表面にCVD法にて成長させて得ることもできる。また、触媒金属を分子内に含む鉄フタロシアニンのような分子を原料とし、アルゴン/水素のガス流中でCVD法を用いることによって基板上にCNTを作製する方法でも、配向された短繊維状CNTを作製することができる。さらには、SiC単結晶表面にエピタキシャル成長法によって配向させた短繊維状CNTを得ることもできる。
【0023】
カーボンナノチューブ含有膜が半導体として利用される場合には、CNTの平均長さは、電極間距離にもよるが、好ましくは0.1μm以上2μm以下、より好ましくは0.5μm以上1.5μm以下である。CNTの平均長さが前記範囲内であると、素子電極間の短絡を防ぐことができる。なお、CNTの平均長さは、CNTを含有する水分散液をシリコンウエハー上に塗布した後に乾燥させて、シリコンウエハー上のCNTをSEM(走査型電子顕微鏡)により観察し、画像解析により50点の計測を行い長さの平均値を算出した値である。
【0024】
CNTの平均直径は、特に限定されないが、好ましくは0.8nm以上100nm以下、より好ましくは50nm以下、特に好ましくは15nm以下である。CNTの平均直径が前記範囲内であると、CNTの分散安定性に優れた組成物を得ることができ、該組成物を用いて形成されたカーボンナノチューブ含有膜の成膜性が良好となる。なお、CNTの平均直径は、CNTを含有する水分散液をシリコンウエハー上に塗布した後に乾燥させて、シリコンウエハー上のCNTをAFM(原子間力顕微鏡)により観察し、画像解析により50点の計測を行い長さの平均値を算出した値である。
【0025】
本実施の形態に係る組成物中における本願組成物中の(A)成分の濃度M(質量%)は、必要に応じて設定できるが、好ましくは0.00001〜10質量%、より好ましくは0.0001〜1質量%である。(A)成分が上記の濃度範囲にあると、CNTは水中で良好に分散することが出来る。
なお、本実施の形態において、CNTは、組成物中に添加される前に、あらかじめ表面処理を行ってもよい。表面処理としては、例えばイオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理等が挙げられる。
【0026】
1.2.(B)成分
本実施の形態で用いられる(B)成分である有機色素誘導体は、目的に応じて適時選択することができる。一般的に有機色素誘導体は、芳香属性の骨格を有する。このため、芳香族的特徴を有するCNT表面との親和性が良好である。その結果、CNT表面を界面活性剤のように吸着することができ、CNTが互いに凝集して二次凝集の発生を抑制することができる。
【0027】
(B)成分は、イオン性の官能基を有することが好ましく、スルホ基、水酸基、カルボキシル基およびこれらの塩から選ばれる少なくとも一種の構造を有することがさらに好ましく、スルホ基及びその塩から選ばれる少なくとも一種の構造を有することが特に好ましい。
(B)成分は前述のようにCNTの凝集を抑制することができるが、このようなイオン性の官能基は本願組成物の分散媒体である水との親和性が良好である。このため、イオン性の官能基を有する(B)成分を含有することにより、CNTの二次凝集を抑制するだけでなく、このようにして分散した(B)成分が配位して安定化したCNTをさらに水和させることができ、水を媒体とする本願組成物の安定性をより高めることができる。
また、(B)成分は一種類である必要はなく、複数種組み合わせて使用してもよい。
【0028】
(B)成分は、例えば、アゾ、アゾベンゼン、アリールメタン、イソインドリノン、インジゴ、カロテノイド、キサンテン、キナクリドン、キノン、シアニン、ジオキサジン、スクアリリウム、スチリル、トリフェニルメタン、フタロシアニン、ペリノン、ペリレン、ポリフェノール、ポルフィリンなどの骨格を有するものであることが好ましい。
【0029】
(B)成分は、市販の色素化合物を使用することができる。たとえば、青色205号(アルファズリンFG)、青色1号(ブリリアントブルーFCF)、赤色106号(アシッドレッド)、青色2号(インジゴカルミン)、赤色2号(アマランス)などを使用することができる。
【0030】
(B)成分は、精製してナトリウム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛などの金属元素や陽イオン、塩素、ヨウ素、臭素、硫酸などの陰イオンを500ppb以下に取り除いた高純度のものを用いることがより好ましい。このよう金属元素や陽イオン、陰イオンを除去した(B)成分を使用することにより、半導体素子を構成するために原料として本願組成物を利用することができる。
(B)成分を精製する方法としては一般的な公知の方法を利用することができ、例えば蒸留、イオン交換、再結晶、再沈殿、昇華、クロマトグラフィー等などにより精製することができる。
【0031】
本願組成物中の組成物中の(B)成分の濃度Mは、0.0005〜3質量%であることが好ましい。(B)成分が上記の濃度範囲にあると、(B)成分はCNTに好適に配位することができ、CNTは水中で良好に分散することが出来る。
【0032】
本願組成物中の組成物中の(A)成分の濃度M(質量%)および(B)成分の濃度M(質量%)は、M/M=0.05〜0.3であることが好ましい。M/Mの値が前記範囲であると、本願組成物より作製したカーボンナノチューブ含有膜の電気特性を悪化させることがないため、電子素子などに好適に利用することができる。
【0033】
1.3.添加剤
本実施の形態に係る組成物は、必要に応じて以下に示すような添加剤を加えてもよい。
【0034】
1.3.2.pH調整剤
本実施の形態に係る組成物は、pH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、アンモニア等の塩基性物質が挙げられる。本実施の形態に係る組成物においては、分解性または揮発性を有する塩基性物質であって、窒素雰囲気下において30〜250℃での示差熱熱重量分析による重量減少率が好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上のものを用いるとよい。重量減少率が90%未満であると、カーボンナノチューブ含有膜を250℃以上の温度で加熱した場合に多量の分解物(残渣)が残留するので、良好な成膜性が得られない場合がある。なお、重量減少率は、窒素雰囲気下30℃で1時間乾燥させた試料を、TG−DTA(示差熱熱重量同時測定)により、30℃から250℃まで10℃/分の条件で昇温させ、試料の重量変化を追跡し、((30℃の試料重量)−(250℃の試料重量))/(30℃の試料重量)×100で計算される値である。
【0035】
1.3.3.その他の添加剤
本実施の形態に係る組成物には、必要に応じて、さらに粘度調整剤、塗面調整剤、保存剤、界面活性剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0036】
1.4.組成物の製造方法
本実施の形態に係る組成物は、前記(A)成分、前記(B)成分、必要に応じて添加剤を混合することにより製造することができる。さらに、本実施の形態に係る組成物が(C)分散媒体を含有する場合には(C)分散媒体中に前記(A)成分、前記(B)成分、必要に応じて添加剤を混合し、均一に分散させることによって得ることができる。添加する順序は、特に限定されず、全ての原料を一括して混合してもよいし、各成分を所望の順に混合してもよい。分散させる方法についても、特に限定されず、均一に分散させることができればどのような方法でも構わない。
各成分を均一に分散させる方法としては、前記(A)成分を分散媒体中で超音波照射により予備分散した後超音波照射により分散する方法等が好ましい。ここで、超音波照射は、超音波洗浄機、超音波破砕機等を用いて行うことができる。
【0037】
2.カーボンナノチューブ含有膜およびその製造方法
本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜の製造方法は、(a)基板の少なくとも一方の面に、上述した組成物を塗工して塗膜を形成する工程と、(b)前記塗膜を乾燥させる工程と、を含む。
以下、本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜の製造方法の一例について具体的に説明する。
【0038】
まず、上述した組成物を基板上に塗工して塗膜を形成する(工程(a))。基板としては、ガラス、シリコンウエハー、構造材等の無機物のみならず、フィルム、繊維、織物膜、板、紙等の種々の材質が挙げられる。塗膜の形成方法としては、キャスト法、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ブレードコート法、ディップ法、バーコーター法、滴下法等の一般的な方法を使用することができる。
【0039】
次に、前記塗膜中に残存する分散媒体等を揮発させて、前記塗膜を乾燥させることにより、基板上にカーボンナノチューブ含有膜を作製する(工程(b))。本工程では、室温で放置して自然乾燥させてもよいが、加熱処理することが好ましい。加熱処理としては、例えば50〜150℃の温度で0.5〜2分間塗膜を予備乾燥させた後、250〜400℃の温度で5〜20分間本乾燥させるとよい。基板上にカーボンナノチューブ含有膜を形成することで、導電性や半導体特性等の機能を付与することができるようになる。
【0040】
本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜を電界効果型トランジスタの半導体層として用いる場合には、以下のようにして作製するとよい。まず、絶縁層で覆われたゲート電極上に上述した組成物をスピンコートして塗膜を形成し、該塗膜中に残存する分散媒体等を揮発させることによってゲート電極上にCNTが均一に分散された半導体層を形成する。この半導体層の上にソース電極とドレイン電極とを対峙させて形成することによって、電界効果型トランジスタ構造が作製される。また、上述した組成物をスピンコートして形成された塗膜を加熱焼成することで得られた多孔質膜をスイッチング素子として用いることもできる。また、基板上にカーボンナノチューブ含有膜のパターンを形成する場合には、感光性レジストを用いてフォトリソグラフィー法によってパターンを形成することができる。
【0041】
上述した組成物からカーボンナノチューブ含有膜を得る他の方法としては、ある支持体の上に一旦カーボンナノチューブ含有膜を形成し、得られたカーボンナノチューブ含有膜を他の支持体に写して形成する方法を用いることもできる。例えば、上記組成物をフィルターに通過させて、該フィルター上に堆積したCNTを別の基板上に写し取る方法、またはフィルム上に塗布して得られたカーボンナノチューブ含有膜を別の基板上に写し取る方法等がある。これらの方法を採用する場合、カーボンナノチューブ含有膜の付着したフィルターやフィルムをそのカーボンナノチューブ含有膜が別の基板上に付着するように接触させることで、カーボンナノチューブ含有膜を別の基板上に写し取るができる。この際使用するフィルターやフィルムは、カーボンナノチューブ含有膜の剥離性が良好なものが好ましい。カーボンナノチューブ含有膜の剥離性が良好なフィルターやフィルムの材質としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ナイロン、PP(ポリプロピレン)、PTFE(ポリテトラフロオロエチレン)等が挙げられる。さらに、フィルターやフィルムのカーボンナノチューブ含有膜が形成されていない方の面から圧力を加えたり、少量の溶媒で湿潤させたりすることで、カーボンナノチューブ含有膜を良好に写し取ることができる。
【0042】
また、上記のようなカーボンナノチューブ含有膜を写し取る方法においては、あらかじめ必要なパターンを支持体に施しておくことでパターン形成をすることができる。例えばフィルター上にカーボンナノチューブ含有膜を形成する場合には、フィルターの上面にパターンの型を抜いたフィルム等を重ねておくことで、所望のパターンを得ることができる。また、フィルム上にカーボンナノチューブ含有膜を形成する場合には、別の支持体との間にパターンの型を抜いたフィルムを挟んだり、または上記組成物と親和性の異なる材料を用いてパターン形成しておくなどして、所望のパターンを得ることができる。
【0043】
本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜は、その膜厚が好ましくは1〜10000nm、より好ましくは2nm〜200nmであるとよい。特に膜厚が2nm〜200nmである場合には透明性に優れている。膜厚が2nm〜200nmであれば可視光透過率が50%T以上となり、膜厚が2nm〜100nmであれば可視光透過率は80%Tを超える。カーボンナノチューブ含有膜は、膜厚が厚いほど抵抗を小さくできるが、同時に光の透過率が小さくなるので、目的に応じた膜厚を調製するとよい。より低抵抗で、かつ高透過率の透明導電体を得るためには、1本の長さがより長いCNTを用いたり、より細いCNTを用いたり、CNT分散時に用いる撹拌や超音波照射などの条件をより強力にする方法などが好ましく用いられる。
【0044】
本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜の密度は、好ましくは0.5〜3.0g/cm、より好ましくは0.7〜2.0g/cmである。上記のような密度を有するカーボンナノチューブ含有膜を作製するために、必要に応じて加熱処理等の工程を別途設けてもよい。
本実施の形態に係る組成物から形成されるカーボンナノチューブ含有膜およびそれを加熱焼成した多孔質膜は、CNT本来の導電性(例えば、スイッチング素子など)や半導体特性に近い特性(例えば電界効果型トランジスタに使用した場合には高いキャリア移動度)を備えており、かつ、面内均一性が高いため、例えば電子放出素子の電子放出源として好ましく用いることができる。以上のように、本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜およびそれを加熱焼成した多孔質膜は、面内均一性を高くすることができるので面内いずれの箇所においても均一に電界を印加することができ、スイッチング素子として利用する場合には安定したスイッチング性能を発現することができる。
【0045】
3.実施例
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0046】
3.1.カーボンナノチューブの酸化処理
カーボンナノチューブ(DWCNT、nanocyl社製、 NANOCYLTM NC2100、純度90%)1gを蒸留水125g、15M硝酸水溶液125mLと混合し、攪拌しながら125℃に加熱した。得られた混合液を12時間後、室温まで冷却したあと、1.8Lの脱イオン水を加え、さらに混合液のpHが1.6になるように35%水酸化アンモニムを加え、さらに超音波破砕機(東京理化器械社製 「VCX−502」、出力250W、直接照射)で60分間分散処理した。その後、反応溶液を0.5μm孔径のセラミックフィルターでろ過し、フィルターより排出された廃水のpHが4.0以上になるまで反応溶液に脱イオン水を加えてろ過を繰り返した。
【0047】
その後、フィルターに残った混合液を回収し、pHが7.1になるように0.1質量%の水酸化アンモニウム水溶液を加えた。次にこの混合液を再度、超音波破砕機で2時間分散処理した。
【0048】
3.2.カーボンナノチューブの酸素原子含有量の測定
前記「3.1.カーボンナノチューブの酸化処理」により得られたCNT水分散液を
シリコン基板上へ1cc滴下して乾燥させ、得られた塗膜をX線光電子分光装置(ESCA、アルバックファイ製、型番「Quantum2000」)により測定して、カーボンナノチューブの酸素原子含有量を測定した。
【0049】
3.3.カーボンナノチューブのカルボキシル基量の測定
前記「3.1.カーボンナノチューブの酸化処理」により得られたCNT水分散液をシリコン基板上へ1cc滴下して乾燥させ、得られた塗膜をトリフルオロエタノール、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ピリジン蒸気に暴露して、24時間室温にて反応させた。その後、塗膜表面をX線光電子分光測定装置(ESCA、アルバックファイ製、型番「Quantum2000」)により測定し、フッ素量をカルボキシル基量の指標(FCOOH)とした。
【0050】
3.4.カーボンナノチューブの水酸基量の測定
前記「3.1.カーボンナノチューブの酸化処理」により得られたCNT水分散液をシリコン基板上へ1cc滴下して乾燥させ、得られた塗膜をトリフルオロ無水酢酸(CFCOOH)蒸気に暴露して、1時間室温にて反応させた。その後、塗膜表面をX線光電子分光測定装置(ESCA、アルバックファイ製、型番「Quantum2000」)により測定し、フッ素量を水酸基量の指標(FOH)とした。
【0051】
3.5.有機色素誘導体の精製
赤色2号(保土谷化学工業製、純度95%)をイオン交換樹脂、再結晶によって精製することで、ナトリウム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛などの金属元素や陽イオン、塩素、ヨウ素、臭素、硫酸などの陰イオンを500ppb以下に取り除いた高純度の精製色素Aを得た。
【0052】
3.6.組成物の調製
[実施例1]
上記「3.1.カーボンナノチューブの酸化処理」にて作製した(A)成分を0.1質量%含有するCNT水分散体を10g、(B)成分として赤色2号(保土谷化学工業製、純度95%)の1質量%水溶液0.15gを混合し、40kHz、1hの超音波処理を行い、組成物を調製した。
【0053】
[実施例2〜11、比較例1〜5]
上記「3.1.カーボンナノチューブの酸化処理」において、125℃での加熱時間を変更し、酸化度の異なるカーボンナノチューブ分散液を作製し、表1〜2に記載の酸素含有量のカーボンナノチューブを作製した。これを(A)成分として、(B)成分の種類と添加量を表1〜2に示すものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0054】
3.7.評価方法
3.7.1.カーボンナノチューブ含有膜の成膜
4インチのSiO膜付きシリコンウエハーをホットプレートで250℃/30分間焼成後、アルミ製バットに置き30秒間除熱した後、スピンコーター(ミカサ社製、SPINCOATER1H−7D)の回転台座に固定した。ウェハー上に上記「3.1.組成物の調製」で得られた組成物3mLを滴下し、回転数60rpm、5分間回転させて組成物を乾燥させた。その後、ホットプレートで250℃/2分間焼成することにより水分を完全に除去し、ウェハー表面にカーボンナノチューブ含有膜を形成した。
【0055】
3.7.2.組成物の貯蔵安定性評価
上記「3.5.組成物の調製」で得られた組成物を25ccのスチロール管瓶に10cc入れ、25℃で1日静置保管した後、目視で沈殿物の有無を確認した。
【0056】
3.7.3.組成物の振とう安定性評価
得られた組成物10gを30ccのPPボトルに入れ、ペイントシェーカー(東洋精機社製、C−591801202)により15分間振とう処理を行った。振とう前後の組成物について、液中粒子計測器(RION社製、型番「KL-11」)を用いて1.3μm以上の粒子径を持つ粒子数を計測した。振とう前の粒子数をX、振とう後の粒子数をYとしたとき、Y/Xの値が5未満の場合を「A」、5以上1000未満の場合を「B」、1000以上の場合を「C」として評価した。
なお、ペイントシェーカーによる15分間の振とうは、25℃で1年以上静置保管した場合と同等の粒子数の増加効果がある。
【0057】
3.7.4.カーボンナノチューブ含有膜のシート抵抗値評価
「3.6.1.カーボンナノチューブ含有膜の成膜」で得られたウェハーを用い、抵抗率測定器(NPS社製、Σ−5)によりCNT含有膜のシート抵抗値を測定した。酸素元素含有量21%、色素未添加のCNT組成物(比較例1)を用いて作製した塗膜のシート抵抗値を基準にし、有意差が認められなかった場合は「A」、シート抵抗値変化が20%未満の場合は「B」、シート抵抗値変化が20%以上の場合は「C」と判断した。

【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
3.8.評価結果
実施例1〜11の結果より、本発明の組成物は、振とうによるCNT凝集粒子の発生が抑制されており、分散安定性が良好である。また、CNT含有膜のシート抵抗値評価でもシート抵抗値の変化は確認されず、良好であった。
一方、比較例1〜2、比較例5に係る組成物は、(B)成分を添加していないため、振とう安定性評価によるCNT凝集粒子が大幅に増加し、分散安定性の不良が確認された。
比較例2に係る組成物は、(A)成分の酸素元素含有量が0.7原子%であるため、分散安定性が悪化し、沈殿物が認められ不良であった。
比較例3に係る組成物は、(A)成分の酸素元素含有量が0.7原子%であるが、特定の(B)成分を含有することにより分散安定性は良好である。しかし、シート抵抗値の変化が確認され不良であった。
比較例4に係る組成物は、(A)成分の酸素元素量が50原子%であるため分散安定性は良好であるが、シート抵抗値の変化が確認され不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カーボンナノチューブと、
(B)有機色素誘導体と、
(C)水
を含有する組成物であって、
前記組成物中の前記(A)成分をX線光電子分光法(ESCA)により分析した酸素原子含有量が5〜20原子%である、組成物。
【請求項2】
前記組成物中の前記(A)成分の濃度M(質量%)および前記(B)成分の濃度M(質量%)がM/M=0.05〜0.3の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物中の前記(B)成分の濃度Mが0.0005〜3質量%である、請求項1〜2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
前記(B)成分はスルホ基、水酸基、カルボキシル基およびこれらの塩から選ばれる少なくとも一種の構造を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物から形成された、カーボンナノチューブ含有膜。

【公開番号】特開2012−131655(P2012−131655A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283422(P2010−283422)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】