組成物の食品または機能性食品に対する添加剤としての使用
【課題】神経保護効能を有して、脳機能を改善する、機能性食品添加、及びその製造方法の提供。
【解決手段】シルクフィブロインの加水分解により生成された重量平均分子量200〜100,000の神経保護活性を有するシルク蛋白質とその製造方法。また、シルクペプチド及び薬剤学的に許容される担体を含む脳疾患の予防または治療用組成物、及び脳機能の改善のための組成物。
【解決手段】シルクフィブロインの加水分解により生成された重量平均分子量200〜100,000の神経保護活性を有するシルク蛋白質とその製造方法。また、シルクペプチド及び薬剤学的に許容される担体を含む脳疾患の予防または治療用組成物、及び脳機能の改善のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経保護効能を有して、脳機能を改善するシルクペプチド、及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、シルクフィブロインの加水分解により生成された重量平均分子量200〜100,000の神経保護活性を有するシルク蛋白質の製造方法;シルクペプチド及び薬剤学的に許容される担体を含む脳疾患の予防または治療用組成物;及び脳機能の改善のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は、脳血管が破れてあるいは塞がって、結果的に局所脳組織の機能異常をもたらす脳血管疾患であって、俗に中風ともいい、我が国では死亡原因の先頭を走っている。しかも、産業化と医学の発展による平均寿命の延長により、その発病率が徐々に増加している趨勢である。脳卒中は、脳のどこの部位でも発生し得るため、身体のほぼ全ての機能に障害を招来し得る。医学的に脳卒中は、脳の血管が塞がって、特定部位に血液循環障害が生じて現れる‘虚血性脳卒中’と、脳出血による‘出血性脳卒中’とに大きく分類されて、その中でも、成人病の原因として知られた高血圧、動脈硬化症と密接な連関性のある虚血性脳卒中の発生比率がもっと高い方である。
【0003】
虚血性脳卒中は、頚部にある頚動脈、椎骨脳底動脈から、脳中の細い動脈に至るまで、どこでも血管が塞がると発病する。これにより、脳梗塞が発生し、脳梗塞部位は、その機能をよみがえることができない。そのため、脳卒中治療において最も重要なのは、脳卒中の発病因子として知られた高血圧、糖尿病、高脂血症などの予防法と共に、脳虚血そのものに対する予防である。
【0004】
現在、神経細胞の保護のために使用している物質としては、興奮性アミノ酸拮抗剤であるガングリオシド(ganglioside)、ニモジピン(Nimodipine)、GABA亢進剤であるクロメチアゾールなどがあり、硫酸マグネシウムとグリシン拮抗剤は、第2相臨床研究中であり、現在、ピラセタム(piracetam)に対し大規模の臨床研究が進行中である。しかしながら、現在、試みられている各種神経細胞保護剤は、虚血進行過程のそれぞれ異なる段階に作用する製剤であって、このような様々な段階に同時に作用する複合療法の開発が必要であるが、副作用と薬物相互間の干渉の問題を解決しなければならない課題を抱えている。このため、持続的な虚血予防と、虚血後の神経細胞のアポトーシスの抑制のための機能性食品の摂取がさらに効果的であると判断されている。
【0005】
米国特許第6,245,757号は、虚血による細胞損傷を治療する用途として、プロゲスチン(progestin)を開示しており、米国特許第6,380,193号は、ポリ(アデノシン5’−ジホスホ−リボース)ポリマラーゼ抑制剤を含む脳卒中治療用組成物を開示している。また、米国特許第6,288,041号は、シアル酸誘導体を含む脳卒中治療用組成物を開示している。
【0006】
神経退行性疾患の一種類であるパーキンソン病は、運動及び認知障害を起こす退行性脳神経疾患であって、1817年ジェームズパーキンソンにより初めて報告された。この疾患の発病率は、米国で人口10万名当たり100〜150名程度であって、約75万〜100万名の患者が報告されており、毎年6万余名が新しく診断される趨勢であって、大韓民国でも人口の老齢化により、その発病率及び有病率が増加し続けると予想される。組織病理学的には、黒質(substantia nigra)に位置するドーパミン神経細胞の消失が特徴的に現れて、その神経線維の投射部位である尾状核(caudate nucleus)と被殻(putamen)のドーパミンが減少し、特徴的な振顫(tremor)、運動遅延(bradykinesia)、硬直(rigidity)姿勢の障害(disturbance of posture)など、運動及び認知機能障害が現れる。
【0007】
パーキンソン病に使用される主な治療薬物は、脳において足りなくなったドーパミンの機能を補う薬剤、またはその他の神経細胞の破壊を予防または遅延させる目的や、その他の憂鬱症などの付随的な症状を調節するための薬物治療などがある。代表的な薬物として、ドーパミン前駆物質であるレボドパ(levodopa, L-dopa)成分のマドパー(Madopar)、ドーパミン受容体作用薬(agonist)成分のブロミジン(bromidine)、リスリド(lisuride)、そして抗アセチルコリン性薬物であるアルタン(artane)、コゲンチン(cogentin)などの多様な神経薬理学的治療法が開発されている。この中で、ドーパミンの前駆体であるレボドパは、脳内の足りないドーパミンの濃度を補充することにより、パーキンソン病の症状の改善に最も効果的に使用されているが、3〜5年以上長期間投与すると、薬物効果時間がだんだん短くなるか(wearing-off)、薬物の効果に対する運動調節機能の変動が激しくなる現象(on-off現象)、異常運動症(diskinesia)などの副作用が現れる(Freed et. al., N. Engl. J. Med. 327:1549-55(1992))。
【0008】
その他にも、パーキンソン病の外科的治療法として、視床手術(thalamotomy)と、淡蒼球手術(pallidotomy)、深部脳刺激術(deep brain stimulation)、神経細胞移殖術(Neuronal cell transplantation)などが行われている。しかしながら、治療効果の持続期間が患者によって大きい差を示し、希に、手術による小声症(hypophonia)、構音障害(dysarthria)、記憶力減衰などの副作用を伴う(Ondo et. al., Neurology 50:266-270 (1998); Shannon et. al., Neurology 50:434-438(1998))。
【0009】
アルツハイマー病に対する最近治療基調は、大脳皮質(cerebral cortex)と海馬(hippocampus)で機能損傷されたコリン性シグナリング及び伝達(cholinergic signaling and transmission)によりアルツハイマー病が由来するという可能性にその中心をおいている(Bartus et al., Science. 217(4558): 408-14(1982));及びCoyle et al., Science. 219(4589):1184-90(1983))。このような脳の領域は、記憶及び知能と連結されているため、脳のこれらの部分の機能的な欠陥は、記憶及び判断に対する確かな損傷を与えて、知的能力を失わせる。神経信号伝達(neuronal signaling)に損傷が生じる正確な過程が論争対象となってはいるが、老人斑(senile plaque)及び神経原線維濃縮体(neurofibrillary tangle: NFT)が神経損傷の主原因とされている。アミロイドβ(Aβ)の蓄積による老人斑は、この病の最も大きな特徴であって、アルツハイマー病は、死後剖検により確診が可能である(Khachaturian, Arch. Neurol. 42(11):1097-105(1985))。
【0010】
アルツハイマー病の場合、コリン性シグナリングの損傷を抑制できるように、アセチルコリンの量を増加させる、またはアセチルコリンが長期間存在できるようにする、または神経細胞の伝達にアセチルコリンがさらに効果的に作用するようにする薬物と治療法が提示されており、アルツハイマー病患者のアセチルコリン活性度を高める様々なア化合物が使用されている。現在、最も効果的な接近方法は、シナプスでアセチルコリンを速く分解し神経信号伝達を防ぐアセチルコリンエステラーゼの活性を抑制する方法である。実際、このような阻害剤(例えば、tacrine、donepezil及びrivastigmine)は、現在FDAで認めたアルツハイマー病の治療薬物として市販されている。多くの場合、前記薬物は、病の破壊的な進行を防ぐに有効であるが、神経系の病の以前状態への回復には、よく適用されていない。
【0011】
ある化合物は、神経の一般的な健康状態を改善して、年をとるにおける細胞の機能を正常的に維持することにその目的をおいている。例えば、NGFとエストロゲンのような種々の薬物は、神経の退化を遅らせる神経保護の役割をして、抗酸化剤のような他の薬物は、細胞の酸化を減少し、正常的な老化の結果として現れる細胞の損傷の増加を減少する。アミロイドβペプチドが蓄積される程度が多いと、アルツハイマー病が深刻になるが、神経炎空間(neuritic space)にアミロイドβの蓄積を低下させると、アルツハイマー病の進行を遅らせることができると考えられている。アミロイド前駆体蛋白質(Amyloid precursor protein: APP)がα−、β−、γ−セクレターゼのような細胞内の蛋白質分解酵素との組み合わせにより、多様な形態に進行されると考えられる。しかしながら、アミロイドβの形成過程が実際科学的に完全に究明されていないため、アミロイドβの形成を調節することは、まだ可能ではない。
【0012】
アミロイドβの蓄積が神経信号伝達に異常を与える過程は、明確ではない。APPが異常に切断されて、アミロイドβが多く生成され神経炎に蓄積されると、プラーク形成が誘発される。したがって、このような切断反応に関与する多くの他の要因(例えば、炎症反応など)は、タウ(tau)蛋白質のリン酸化を増加させて、NFTと対螺旋状繊維(paired helical filament: PHF)の蓄積を増加させて、結局神経の損傷を増加させる。このような要因の全てが神経の機能障害を誘発して、究極的にアルツハイマー形態の痴呆に進行を加速させる。
【0013】
アルツハイマー病の影響を減らすための治療方法に対する開発が多く進行されているが、現在では、一時的な症状の改善を提供するだけである。
【0014】
米国特許第5,532,219号は、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンなどを含むアルツハイマー病治療用組成物を開示しており、米国特許第5,506,097号は、パラ−アミジノフェニルメタンスルホニルフルオリドまたはエベラクトンAを含むアルツハイマー病治療用組成物を開示しており、米国特許第6,136,861号は、ビシクロ[2.2.1]ヘプタンを含むアルツハイマー病治療用組成物を開示している。
【0015】
一方、ストレスは、現代社会人にとって重要な健康上の問題とされ、大韓民国の二十歳以上の成人の場合、1/3以上が平常時たくさんのストレスを受けており、10代の場合、男性より女性が、そして年齢が高いほどさらに多いストレスを感じている。ストレスは、個人の性格、趣味、解消法、周辺環境、統制能力などによって、その強度が異なってくるが、ほとんどが憂鬱症を伴う。憂鬱症は、ストレスによっても発病される精神疾患であって、自殺のような極端な結果を招いたりもして、高い再発率と共に、速い患者発生率により、非常に重要な疾患として認識されている。憂鬱症の原因は、アドレナリン、ドーパミンまたはセロトニンなどのような脳神経伝達物質の障害によるものとされ、海馬部位の萎縮及び成人神経生成の抑制などの脳損傷も伴う。現在知られた代表的な憂鬱症治療剤としては、三環系抗欝薬(tricyclic antidepressant: TCA)があるが、副作用が大きいという短所を有している。特に、アミトリプチリンなどは、国内で幅広く処方されているが、多様な副作用など、たくさんの問題点を有している。80年代米国で、選択的セロトニン遮断剤(selective serotonin re-uptake inhibitor: SSRI)のフルオキセチン(fluoxetine)が開発され、TCAの副作用を克服し、薬物順応度を大きく上げて、治療失敗率を低めることができて、1996年度、世界20大販売医薬品の中で7位を占める程度であった。しかしながら、SSRIは、効果の側面で、TCAと比較してあまり差がなく、また、薬物相互干渉が深刻であるという問題点がある。
【0016】
また、ストレスによる神経系撹乱は、持続的に誘発されて、現在の治療方法は、憂鬱症薬剤の処方後、再発防止のための措置が特にないため、投与薬物の含量を低めて持続的に投与する水準に止まっている。したがって、ストレスによる神経細胞アポトーシスや神経伝達物質体系の矯正に優れた効果がある物質の開発が重要である。また、ストレスによる憂鬱症の治療のために治療機関を訪問することを忌避したり、ストレスによりセロトニン神経系撹乱と脳損傷などが誘発されることなどについて看過する傾向も多くて、実際にストレス性憂鬱症治療機能を有する機能性食品の必要性は非常に大きい。
【0017】
既に、世界の数々の国では、神経退行性疾患の予防と治療剤の開発に心血を注いでいて、その代表的な例として、米国特許第6,020,127号は、ヒトの染色体5q13で神経性アポトーシス抑制蛋白質をエンコーディングする遺伝子を開示しており、米国特許第6,288,089号は、ドーパミンニューロンのアポトーシスを抑制して、神経退行性疾患を治療できるピリジルイミダゾールを開示している。
【0018】
本明細書全体にかけて多数の特許文献及び論文が参照され、その引用が表示されている。引用された特許文献及び論文の開示内容は、その全体が本明細書に参照として取り込まれ、本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明者らは、シルク蛋白質の加水分解により生成され、特定範囲の重量平均分子量を有するシルクペプチドが、脳疾患の予防または治療のような神経保護活性を有し、脳機能の多様な指標を改善することができることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
本発明の目的は、神経保護活性を有するシルクペプチドの製造方法を提供することにある。
【0021】
本発明の他の目的は、脳疾患の予防または治療をするための薬剤学的組成物を提供することにある。
【0022】
本発明のまた他の目的は、脳疾患の予防または治療をするための食品組成物を提供することにある。
【0023】
本発明の他の目的は、脳機能を改善するための薬剤学的組成物を提供することにある。
【0024】
本発明の他の目的は、脳機能を改善するための食品組成物を提供することにある。
【0025】
本発明の他の目的及び利点は、発明の詳細な説明及び図面により、さらに明確に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一様態によると、本発明は、シルク蛋白質を加水分解する段階を含み、重量平均分子量が200〜100,000である、神経細胞保護活性を有するシルクペプチドの製造方法を提供する。
【0027】
本発明の他の様態によると、本発明は、(a)シルク蛋白質の分解により生成されたシルクペプチドの薬剤学的有効量;及び(b)薬剤学的に許容される担体を含む脳疾患の予防または治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0028】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、シルク蛋白質の分解により生成されたシルクペプチドを有効成分として含む脳疾患の予防または治療用機能性食品組成物を提供する。
【0029】
本発明の他の様態によると、本発明は、(a)シルク蛋白質の分解により生成されたシルクペプチドの薬剤学的有効量;及び(b)薬剤学的に許容される担体を含む脳機能の改善のための薬剤学的組成物を提供する。
【0030】
本発明の他の様態によると、本発明は、シルク蛋白質の分解により生成されたシルクペプチドを有効成分として含む脳機能の改善のための機能性食品組成物を提供する。
【0031】
本発明において、シルク蛋白質は、出発物質として利用される。本明細書における用語‘シルク’は、絹糸昆虫が吐糸して作った繊維を意味し、好ましくは、蚕が吐糸する家蚕糸を意味する。
【0032】
本発明のペプチドの原料として利用されるシルク蛋白質は、シルクセリシンまたはシルクフィブロインである。シルク蛋白質は、フィブロイン及びセリシンからなっており、フィブロインとセリシンは、それぞれ平均75%と25%の比率で存在する。フィブロイン蛋白質は、グリシン及びアラニン含量が非常に高い反面、セリシンは、フィブロインと全く異なるアミノ酸組成を示しており、セリンが全体構成アミノ酸の1/3以上を占めている。最近の研究結果によると、シルクフィブロインは、H−鎖(350kDa)及びL−鎖(26kDa)がS−S結合をして、糖蛋白質のP25(30kDa)が前記2つの鎖と非共有結合により連結された構造をしており、それぞれ6:6:1のモル構成をしている2.3MDaの巨大蛋白質として究明されて、このような構造により、結晶領域と非結晶領域とが連続交互配列されたブロック形態の高分子性質を有するにようになる。
【0033】
本発明の好ましい具現例によると、利用されるシルク蛋白質は、シルクフィブロインである。
【0034】
本発明の好ましい具現例によると、前記加水分解は、(i)カルシウム塩溶液における加水分解、(ii)酸加水分解、(iii)蛋白質分解酵素による加水分解、及び(iv)これらの組み合せから構成された群から選択される反応により行われる。このようにして生成されたシルクペプチドは、200〜100,000の重量平均分子量を有する。
【0035】
本発明のより好ましい具現例によると、前記シルク蛋白質の分解は、(i)カルシウム塩溶液における加水分解、及び(ii)蛋白質分解酵素による加水分解を順次行って達成される。また、シルク蛋白質の分解は、好ましくは、(a)シルクフィブロインをカルシウム塩の含まれた溶液で溶解する段階;(b)前記シルクフィブロイン溶液に含まれたカルシウム塩を除去する段階;及び(c)前記シルクフィブロイン溶液に、フレーバーザイム及びスミザイム(sumizyme)が混合された蛋白質加水分解酵素を処理する段階を含み、最終的に生成されたシルクペプチドの重量平均分子量が200〜2,000である。
【0036】
前記(i)カルシウム塩溶液における分解は、通常的に、CaC12・エタノールをカルシウム塩として利用して行われる。段階(a)は、好ましくは、塩化カルシウム、水及びエタノールを含む溶液にシルクフィブロインを溶解して行われて、この場合温度は、60〜95℃、より好ましくは、70〜95℃、最も好ましくは85〜90℃である。段階(b)は、ゲル濾過クロマトグラフィのような多様な通常的な方法により行うことができる。段階(c)は、好ましくは、45〜60℃、より好ましくは、50〜60℃、最も好ましくは、約55℃で行われる。このようにして生成されたシルクペプチドは、25,000〜50,000の比較的高い重量平均分子量を有して、これは、化粧品成分としては適合しているが、生体内の吸収率が低いため、食品及び薬剤としては適合していない。
【0037】
前記(ii)酸加水分解により生成されたシルクペプチドは、200〜10,000の重量平均分子量を有する。多様な酸が使用できて、強い無機酸が好ましく、より好ましくは、塩酸が利用される。段階(ii)の反応温度は、好ましくは、70〜120℃、より好ましくは、90〜110℃、最も好ましくは、110℃である。このような分解方法は、分子量の少ないペプチドを形成させる長所はあるが、適当な分子量のペプチドを収得し難いという問題点がある。本発明の一具現例によると、前記酸加水分解方法(ii)は、(a)塩酸溶液で70〜120℃で加水分解を行う段階;(b)アルカリ性溶液を添加し、そのpHを上昇させる段階;及び(c)段階(b)で形成された塩を除去する段階を含み、最終的に生成されたシルクペプチドの重量平均分子量は、200〜3,000である。最も好ましくは、前記方法により生成されたシルクペプチドは、200〜1,500の重量平均分子量を有する。段階(b)で使用される最も適合したアルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム溶液である。段階(c)でゲル濾過クロマトグラフィのような多様な方法が利用できる。また、酸加水分解により収得された本発明のペプチドは、水に対して、実質的に100%の溶解度を示し、有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、アセトン、及びジメチルホルムアミド)に対しては、非常に低い溶解度を示す。
【0038】
前記酵素による加水分解は、蛋白質分解酵素を利用して行われる。好ましくは、前記分解酵素は、アミノ酸序列に非特異的に作用し、無作為加水分解を触媒するものである。前記分解酵素は、トリプシン、ペプシン、アルカラーゼ、サーモアーゼ(thermoase)、フレーバーザイム、スミザイム(sumizyme)、プロタメックス(protamex)、及びプロチン(protin)などを含むが、これに限定されるものではない。本発明のより好ましい具現例によると、本発明のシルクペプチドを得るために利用される酵素は、サーモアーゼ(thermoase)、フレーバーザイム、スミザイム(sumizyme)、及びこれらの組み合わせである。
【0039】
前記(iv)組み合せによる分解の場合、前記シルクフィブロインの分解は、(i)カルシウム塩による分解、または弱酸または塩基による分解段階;及び(ii)酵素による加水分解段階を順次行って達成される。好ましくは、前記シルクフィブロインの分解は、(i)カルシウム塩による加水分解、及び(ii)サーモアーゼ(thermoase)、フレーバーザイム、スミザイム(sumizyme)、またはこれらの混合物による加水分解を順次行って達成される。このようにして生成されたシルクペプチドの重量平均分子量が200〜15,000、好ましくは、200〜4,000、より好ましくは、200〜2,000、最も好ましくは、200〜1,200である。前記シルクペプチドは、水に対して実質的に100%の溶解度を示し、有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、アセトン、及びジメチルホルムアミド)に対しては、非常に低い溶解度を示す。最も好ましくは、前記シルクフィブロインの分解は、(a)シルクフィブロインをカルシウム塩の含まれた溶液で溶解する段階;(b)前記溶液に含まれたカルシウム塩を除去する段階;及び(c)前記シルクフィブロイン溶液にフレーバーザイム及びスミザイム(sumizyme)の混合物を処理する段階を含む。
【0040】
本発明における好ましいペプチドは、(a)シルクフィブロインを基質として、加水分解を通じて収得したペプチド;及び(b)シルクフィブロインを基質としてカルシウム塩分解をした後、トリプシン、ペプシン、アルカラーゼ、サーモアーゼ(thermoase)、フレーバーザイム、スミザイム(sumizyme)、またはその混合物により酵素分解する段階を通じて収得したペプチドである。より好ましいペプチドは、(c)シルクフィブロインを基質としてカルシウム塩分解をした後、サーモアーゼ(thermoase)、フレーバーザイム、スミザイム(sumizyme)、またはその混合物により酵素分解する段階を通じて収得したペプチドである。
【0041】
このようなシルクペプチドを含む本発明の組成物は、神経保護活性(即ち、神経細胞の保護活性)を通じて、脳疾患の予防または治療に効能を示す。本明細書における用語‘神経細胞’は、中枢神経系、脳、脳幹、脊髄、中枢神経系と末梢神経系の接合部分などの構造をなすニューロン、神経支持細胞、グリア、シューマン細胞などを含む。本明細書における用語‘神経保護(neuroprotective)活性’または‘神経細胞に対する保護活性’は、神経性インサルト(nervous insult)を軽減または改善(amelioration)する作用、または神経性インサルトにより損傷を受けた神経細胞の保護または回復させる作用を意味する。また、本明細書における用語‘神経性インサルト’は、様々な原因(例えば、代謝性原因、毒性原因、神経毒性原因、及び化学的原因など)により招来される神経細胞または神経組織の損傷を意味する。
【0042】
本発明の組成物を適用できる疾患の具体的な例は、退行性神経疾患、虚血または再潅流による疾患及び精神疾患などを含むが、これに限定されるものではない。より具体的には、前記疾患は、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症のような神経退行性疾患; 脳卒中(特に、虚血性脳卒中)のような虚血または再潅流損傷;そして憂鬱症、精神分裂症及び心的外傷後ストレス障害を含む。本発明の組成物は、虚血または再潅流による神経細胞の損傷による疾患(例えば、脳卒中)の予防または治療に特に有用である。
【0043】
本発明の組成物の上記のような効能は、主に、本発明のシルクペプチドの神経細胞保護作用を通じて現れる。本発明のシルクペプチドによる神経細胞の保護作用は、多様なメカニズムを通じて発揮でき、例えば、神経細胞の死滅を抑制することにより発揮されて、このような神経細胞の死滅は、神経細胞の壊死(necrosis)及びアポトーシス(apotosis)を含む。神経細胞のアポトーシスを抑制する場合、本発明のシルクペプチドのターゲットの1つは、カスパーゼ(caspase, Guy et. al., Cell 91:443-446(1987))であって、前記酵素の活性を抑制し、アポトーシスを抑制するようになる。
【0044】
本発明のシルクペプチドは、脳機能または認知機能(cognitive function)の改善にも優れた効能を示す。下記の実施例に記載のように、本発明のシルクペプチドは、認知機能の増進を裏付ける多様な指標、例えば、記憶指数(MQ)、学習スロープ(Learning slope)、記憶維持度、想起効率性(Recall efficiency)、描き/記憶一致度、言語/視覚一致度、知能/記憶一致度、そして短期記憶と注意集中力の全てにおいて、優れた効能を発揮する。
【0045】
また、本発明のシルクペプチドは、上記の脳疾患に伴われる頭脳機能の悪化を改善または予防するに優れた効能を示す。特に、本発明のシルクペプチドは、脳におけるアセチルコリン量の減少を抑制して、認知機能の増進を達成する。また、本発明のシルクペプチドは、神経細胞の死滅を抑制して頭脳機能の損傷を防止する。本発明の好ましい具現例によると、本発明のシルクペプチドが発揮する頭脳機能の増進は、学習能力及び/または記憶能力の増進である。
【0046】
アセチルコリンは、脳の基底核から大脳皮質と海馬に投射され、正常的な知識機能に非常に重要に作用する神経伝達物質である(Richter et. al., Life Sci. 19;26(20):1683-9(1980))。特に、学習と記憶は、アセチルコリン系に作用する薬物により変化され得るということが知られている。アルツハイマー型痴呆で死亡した例を検査した結果、全ての場合において、大脳皮質に投射する基底核のアセチルコリン性神経細胞が多量損傷されていることが発見されている。最近、アセチルコリンの濃度を増加させて認知能力の向上と痴呆の進行を防ぎ、痴呆治療及び予防に卓越な効果があることが知られ、患者を対象にコリン活性剤(agonist)やコリンエステラーゼ抑制剤を使用している。現在まで開発された薬物は、アセチルコリン前駆体(acetylcholine precursor)としてレシチン(Lecithin)、受容体活性剤(Receptor agonist)としてRS−86及びニコチンなどがあり、アセチルコリン分解抑制剤(acetylcholinesterase inhibitor)として、KFDAの承認を受けて国内でも市販中であるタクリン(Tacrine)と、最近承認されたアリセプト(Aricept)などがあるが、効果が一時的で微弱であり、深刻な毒性のため、使用に論難の余地が多い状態である。しかし、本発明のシルクペプチドは、人体に対する毒性がごくわずかであるため、頭脳機能を増進するための医薬または機能性食品として非常に有用である。
【0047】
本明細書における用語‘予防’は、疾患または疾病を保有していると診断されたことはないが、このような疾患または疾病にかかり易い傾向のある動物において、疾患または疾病の発生を抑制することを意味する。本明細書において、用語‘治療’は、(a)疾患または疾病の発展の抑制;(b)疾患または疾病の軽減;及び(c)疾患または疾患の除去を意味する。
【0048】
本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常的に利用されるものであって、炭水化物類化合物(例えば、ラクトース、アミロース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、セルロースなど)、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、塩溶液、アルコール、アラビアゴム、植物性オイル(例えば、玉蜀黍油、綿種油、大豆油、オリーブ油、ココナット油)、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むが、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明の薬剤学的組成物は、経口または非経口投与が可能であり、非経口投与の場合は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などが可能である。
【0050】
本発明の薬剤学的組成物の適合した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因により様々であり、普通に熟練した医者は、所望の治療または予防に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。本発明の好ましい具現例によると、適合した投与量は、成人基準に、一日一回、0.05〜10gである。
【0051】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できる方法に従って、薬剤学的に許容される担体及び/または賦形剤を利用して製剤化することにより、単位容量形態で製造するか、または多用量容器内に入れて製造できる。この際、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含むことができる。
【0052】
一方、本発明の食品組成物は、食品製造時に通常的に添加される成分を含むが、例えば、蛋白質、炭水化物、脂肪、栄養素及び調味剤を含む。例えば、ドリンク剤に製造する場合は、本発明のシルクペプチドの他に、クエン酸、液状果糖、砂糖、ブドウ糖、酢酸、リンゴ酸、果汁、杜仲抽出液、棗抽出液、甘草抽出液などをさらに含むことができる。食品に対する容易な接近性を考慮すると、本発明の食品は、神経性疾患の治療または予防、酸化ストレスにより招来される疾患の治療または予防、及び認知機能の改善に非常に有用である。
【0053】
本発明の組成物は、上述のように、多様な効能を示すだけではなく、天然物のシルクペプチドを有効成分として含んでいるため、人体に対する副作用が、化学的合成医薬に比べ、ごく少ない。
【0054】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないことは、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者にとって自明なことであろう。
【発明の効果】
【0055】
上述のように、本発明は、神経保護活性を有して、且つ体内吸収を促進できるよう低い分子量を有するシルクペプチドを効率的に製造する方法を提供する。
【0056】
また、本発明は、脳疾患を治療または予防する、または脳機能を改善するための、シルクペプチドを含む組成物を提供する。本発明の組成物は、発明の詳細な説明に記載された活性または効能を発揮して、天然物質のシルクペプチドを有効成分として含むため、人体に対する副作用が非常に少ない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のシルクペプチドの一種類が神経細胞の死滅に及ぼす影響を確認するためのMTT還元実験結果を示すグラフである。
【図2】本発明のシルクペプチドの、他の一種類が神経細胞の死滅に及ぼす影響を確認するためのMTT還元実験結果を示すグラフである。
【図3】本発明のシルクペプチドの一種類が神経細胞のアポトーシスを抑制することを示すヘキスト染色結果写真である。
【図4】本発明のシルクペプチドの、他の一種類が神経細胞のアポトーシスを抑制することを示すヘキスト染色結果写真である。
【図5】本発明のシルクペプチドの一種類がカスパーゼ活性を抑制することを示すグラフである。
【図6】本発明のシルクペプチドの、他の一種類がカスパーゼ活性を抑制することを示すグラフである。
【図7】本発明のシルクペプチドの一種類が細胞内活性酸素の生成を抑制することを示す写真である。
【図8】本発明のシルクペプチドの、他の一種類が細胞内活性酸素の生成を抑制することを示す写真である。
【図9】虚血による脳梗塞部位に対する本発明のシルクペプチドの効果を示す写真である。
【図10】虚血による脳梗塞部位に対する本発明のシルクペプチドの効果を示すグラフである。
【図11】虚血による脳梗塞部位に対する本発明のシルクペプチドの効果を示すグラフである。
【図12】虚血による脳梗塞部位に対する本発明のシルクペプチドの効果を示す写真である。
【図13】虚血−再潅流による認知機能損傷を防止する本発明のシルクペプチドの効能を示す受動回避テスト結果グラフである。
【図14】虚血−再潅流による認知機能損傷を防止する本発明のシルクペプチドの効能を示す8アーム迷路測定に対する結果グラフである。
【図15】虚血による認知機能損傷を防止する本発明のシルクペプチドの効能を示す海馬のH&E染色結果写真である。
【図16】パーキンソン病動物モデルを利用したアポモルフィンによる一側性回転反応実験結果を示すグラフである。
【図17】本発明のシルクペプチドのドーパミン神経細胞に対する保護効果を示すグラフである。
【図18】本発明のシルクペプチドが抗酸化作用をして、パーキンソン病に効能があることを示すマロンジアルデヒド実験結果グラフである。
【図19】本発明のシルクペプチドがパーキンソン病に効能があることを示すチロシンヒドロキシラーゼ染色結果グラフである。
【図20】本発明のシルクペプチドがパーキンソン病に効能があることを示すチロシンヒドロキシラーゼ染色結果グラフである。
【図21】本発明のシルクペプチドが、脳におけるアセチルコリンの濃度減少を抑制することを示すグラフである。
【図22】本発明のシルクペプチドを1回急性処置した場合の抗憂鬱効果を示すグラフである。
【図23】本発明のシルクペプチドを長期間繰り返し処置した場合の抗憂鬱効果を示すグラフである。
【図24】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の記憶指数(MQ)増進効果を示すグラフである。
【図25】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の記憶指数(MQ)増進効果を示すグラフである。
【図26】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の想起効率性増進効果を示すグラフである。
【図27】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の描き/記憶一致度向上効果を示すグラフである。
【図28】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の知能/記憶一致度向上効果を示すグラフである。
【図29】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の記憶維持度増進効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
実施例I:機能性シルクペプチドBG201及びBG101の製造
実施例I−1:純粋シルクフィブロインの精製
本発明に使用した絹蛋白質は、家蚕(Bombyx mori)を全齢桑葉で飼育して得た蚕繭を精練して使用した。まず、セリシンを除去するために繭内に残っている蛹を除去して、水8l、炭酸ナトリウム0.45g及びマルセル石鹸0.75gを混合した溶液に蚕繭150gを入れて、40分間ずつ2回沸騰処理した。その後、適量の水でさらに20分間ずつ2回沸騰処理した後、3回水洗して乾燥すると、水溶性のセリシンが溶解されて除去される。この時の減少重量は、37g(約25%減少)であった。水洗後、自然乾燥して、純粋なフィブロイン蛋白質を得た。
【0059】
実施例I−2:シルクペプチドBG101の製造
前記実施例I−1の方法により得られたフィブロイン35gを基準に、塩化カルシウム(CaCl2、1級、Mw=110.99)・H2O・エタノール(1:8:2モル含量)を添加し、90℃で5時間反応して溶解した後、ガーゼ及び不織布で異物を完全に濾過した後、蒸留水で2倍希釈した。直径10cm、長さ1mのGradiFacシステム(Pharmacia Biotech, Sephadex G-25 Media, HiLoad P-50 Pump UV-1 Monitor, スウェーデン)を使用したゲル濾過装置で中性塩を除去した。その後、得られたフィブロイン溶液に対し、フレーバーザイム及びスミザイム(sumizyme;NOVA、米国)が混合(1:1)された蛋白質加水分解酵素を1%加えて、55℃で5時間加水分解を行った。その後、100℃で5〜10分間熱処理して酵素の活性をなくし、凍結乾燥により粉末を製造して、これを‘BG101’と命名した。
【0060】
実施例I−3:シルクペプチドBG201の製造
前記実施例I−1の方法により得られたフィブロイン113gを基準に、25%の塩酸水溶液3,400mlを添加して、110℃で12時間加水分解を行った。これを4M水酸化ナトリウム水溶液でpH5.0〜5.5に調節した。次いで、紙濾過により残留物を除去した後、活性炭で充填されたフィルターを通過させた後、電気透析装置内のサンプル槽に1,000mlを入れて、15V、20mAの電圧及び電流が自動に調節される装置を利用して、電気脱塩を行った。その後、スプレードライヤーにより粉末を製造して、これを‘BG201’と命名した。
【0061】
実施例II:シルクペプチドの分析
実施例II−1:分子量分析
前記実施例Iで製造されたBG101及びBG201に対して、ゲル透過クロマトグラフィにより絶対分子量を計算した。0.2N NaNO3を緩衝溶液として、約0.5%に濃度を調節した水溶液状態の試料を屈折率(RI)、光散乱(LS)、回折圧及び紫外線(280nm)吸光度値から絶対分子量の分布が自動に計算されるGPCシステム(Viscoteck、米国)装置を使用した。標準試料としてポリエチレンオキシド(PEO、Mw=110,000)を使用して、再現性を確認した。実験結果、BG101の重量平均分子量(weight average molecular weight, Mw)は、1070であって、BG201は、850であった。
【0062】
実施例II−2:溶媒による溶解度分析
前記実施例Iで製造したBG101とBG201の溶解度を幾つかの溶媒を使用して測定した。0.1gのシルクペプチド粉末を10mlの蒸留水、エタノール、メタノール、アセトン及びジメチルホルムアミドに溶解して、溶解度(単位%)を測定して、その結果は、表1に示した。表1から確認できるように、溶解度は、BG101粉末とBG201粉末の両方とも、蒸留水では完全に溶解されたが、エタノール、メタノールなどの有機溶媒では、溶解度が著しく低下した。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例II−3:pHによる溶解度分析
前記実施例Iで製造したBG101とBG201の溶解度をpHを変化させながら測定した。0.1gのシルクペプチド粉末を10mlの蒸留水に溶解して、溶解度を測定した。蒸留水のpHは、0.1N塩酸と水酸化ナトリウムでpH3、5、7、9及び11に調節した。実験結果、表2から分かるように、溶媒のpHに関係なく、シルクペプチドはよく溶解された。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例II−4:アミノ酸組成分析
前記実施例Iで製造したBG101とBG201のアミノ酸組成分析を行った。各サンプル0.05%を取って、6N塩酸水溶液1mlに入れて窒素処理した後、110℃で18時間加水分解を行った。塩酸を完全に蒸発させた後、pH2.2のローディング緩衝液に希釈した後、全自動アミノ酸機械装置(Amersham Pharmacia Biotech、モデル:Biochrom 20 Plus、スウェーデン)を利用してアミノ酸分析を行った。得られたアミノ酸組成(単位:mol%)は、表3に示した。
【0067】
【表3】
【0068】
表3の結果から分かるように、両方の試料ともアミノ酸の含量では大きい差を示していない。しかしながら、以下に記載のように、BG201とBG101は、インビボまたはインビトロで現れる効果及び効能にある程度の差があって、このような結果は、シルクペプチドを製造する方法により最終的に形成されたシルクペプチドの構造が、互いに相異なっていることを意味する。
【0069】
実験例I:脳神経細胞保護作用及び抗酸化作用の確認
前記実施例で製造されたシルクペプチドが脳神経細胞に及ぼす影響を調べるために、以下のような実験を行った。
【0070】
実験例I−1:神経細胞の選別及び細胞培養
神経細胞の一次培養は、Okudaらの方法(Okuda S. et al., Neuroscience 63(3):691-9(1994))を利用して、妊娠15日(E15)目のラット胎児の線状体(striatum)を分取して、0.25%トリプシンと0.01%DNase I酵素を処理して、個別細胞に分離した後、ピペットでさらに分離し、PEI−コーティングプレートに1×105細胞/cm2の密度で敷いて、三日後、ara−Cで神経膠細胞の培養を抑制し、純粋神経細胞を得た。また、必要に応じて、神経幹細胞株であるSK−N−SHまたはSHS−Y5Y(ATCC、米国)をPEI−コーティングプレートに80%密度で敷いて、DMEMまたはRPMIに10%FBSを補充した培養液で培養した。下記実験例のように、アミロイドβ(Aβ)、6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)、セラミド、H2O2または3−ヒドロキシキヌレニン(3−HK)を処理する時は、2時間低血清培地(1%FBS含有)で前処理した後、適合した時間処置した。
【0071】
実験例I−2:MTT還元実験(細胞生存性の確認)
BG101及びBG201が神経細胞の細胞死滅に及ぼす影響を調べるために、既存報告された方法(Shearman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 91(4):1470-4(1994), Shearman et al., J. Neurochem. 65(1):218-27(1995),及びKaneko et al., J. Neurochem. 65(6):2585-93(1995))を少々変形して、次のようにMTT還元実験を行った:BG101またはBG201の10pMを前記実験例で選別及び培養された神経細胞に6時間処理した後、10μMのAβ、10μMの6−OHDA、10μMのセラミド、300μMのH2O2、または250μMの3−HKを添加した。前記添加される物質は、細胞毒性により細胞死滅を誘導するようになるが、前記表示された濃度で36時間以内に50%程度の細胞死滅を誘導する。
【0072】
次いで、37℃及び5%CO2恒温器で48時間培養した後、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT:Sigma,米国)溶液を、最終濃度が0.5mg/mlとなるように各容器に添加した後、4時間30分間さらに培養した。
【0073】
MTTの還元により形成されたホルマザン(formazan)沈殿物を溶解溶液(無水イソプロパノール内の0.1N HCl)に溶解した後、ELISA判読器(Molecular Devices、米国)を利用して、570nmでの吸光度を測定した。各試料の値は、使用された溶媒のみを添加した対照群値を生存度100%として、0.9%トリトンX−100により細胞が完全に破壊された時の値を生存度0%として、相対的な値で表した(参照:図1及び図2)。図1及び図2において、各測定値は、平均(mean)±標準偏差(SD)で示したものである。図1及び図2から分かるように、本発明のBG101及びBG201は、神経細胞の細胞死滅を効果的に抑制することが分かった(P<0.05)。
【0074】
一方、上記の結果を追加的に確認するために、トリパンブルーまたはクリスタルバイオレット染色を通じて、アポトーシスが生じた細胞数と総細胞数を血球計数板で測定し、総細胞数に対する生存細胞の数として細胞生存性を測定し、その結果、図1a及び図1bの結果とほぼ等しい程度のBG101及びBG201の細胞死滅抑制効果を確認することができた。また、この細胞死滅は、細胞の自殺過程といえるアポトーシスの形を取っており、これは、次の実験例である、細胞膜の堅固性と細胞の形態を観察するヘキスト染色(Hoechst staining)を利用したDNA形状を観察することにより、再確認することができた。
【0075】
実験例I−3:ヘキスト染色(Hoechst staining)
前記実施例I−2と同様な方法によりBG101またはBG201を6時間処理して、培養された細胞に、前記実施例I−2と同一な濃度のAβ、セラミド、H2O2、6−OHDAまたは3−HKを処理した。次いで、4%パラホルムアルデヒド(in PBS, pH 7.4)で15分間固定し、PBSで洗浄した後、8μg/mlヘキスト33258溶液(Sigma,米国)で5分間それぞれの処理細胞を染色した。その後、蒸留水で2回洗浄して、グリセロール/PBS(9:1)でマウントした後、蛍光顕微鏡(Olympus Microscope、日本)で観察した(図3及び図4参照)。その結果、図3及び図4において、アポトーシス誘発物質(insult)のみを処理した細胞は、染色体の凝縮や核酸断片化(nuclear fragmentation)のような典型的なアポトーシス形状(morphology)を確認することができた。反面、BG101とBG201を前処理してインサルトを処理した場合、インサルトを単独処理した実験群に比べ、染色体凝縮や核酸断片化が効果的に阻害されていることを確認した。モック(mock)で表示されたものは、対照群であって、正常的な核の成長を示している。図2から分かるように、本発明のBG101及びBG201は、アポトーシスを効果的に抑制することが分かって、前記実験例I−2の結果の信頼性を再確認することができた。
【0076】
実験例I−4:カスパーゼ活性実験
前記実験例I−2及びI−3の結果において、BG101またはBG201がアポトーシスを抑制する効果が、カスパーゼ活性抑制によるものであるかどうかを調べるために、次のような実験を行った:まず、前記実験例I−2と同一な方法により、BG101またはBG201を6時間処理して、培養された細胞に、前記実験例I−2と同一な濃度のアミロイドβ、6−OHDA、セラミド、H2O2、FeSO4または3−HKを処理した。P100プレート当たり10×106細胞を1mlの細胞溶解緩衝液(50mM Tris-Hcl, 0.03% IGEPAL, 1mM DTT, pH 7.5)で破壊して細胞溶解液を得た。その後、細胞溶解液50μlにHEPES緩衝液(40mM HEPES, pH 7.5, 20%グリセロール, 4 mM DTT)内にあるカスパーゼの蛍光生成基質であるAc−DEVD−AMC(Enzyme Systems Products, カナダ)を500μM添加して、1時間37℃で反応させた。また、カスパーゼ活性抑制に対する陽性対照群として活用するために、広範囲(Pan)−カスパーゼ抑制剤であるzVAD−FMK(Enzyme Systems Products, ESP, カナダ)を10μM前処理した試料を用意した。
【0077】
その後、カスパーゼにより前記基質が切断される時に生成される蛍光程度を蛍光測定器(Perkin-Elmer Luminometer: 励起波長380nm, 放射波長420-460 nm)で測定した。また、切断されたFMKが蛍光程度を用いて標準曲線を得て、前記蛍光測定値を相対的に定量化した(図5、図6参照)。図5及び図6において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである(P<0.05)。図から確認できるように、本発明のBG101またはBG201は、アポトーシスを招来する物質により誘導されるカスパーゼ活性を抑制するということが分かる。つまり、本発明のBG101またはBG201のアポトーシス抑制効果は、カスパーゼ活性抑制と係っていることが分かる。
【0078】
実験例I−5:細胞内活性酸素の定量的検出
活性酸素は、老化の最も主要な原因であるばかりか、各種疾患の直・間接的な原因でもある。そこで、本発明のシルクペプチドが活性酸素に及ぼす影響を以下のように調査した。
【0079】
前記実施例I−2と同様な方法により、BG101またはBG201を6時間処理して、培養された細胞に前記実験例I−2と同一な濃度のAβ、6−OHDA、セラミド、H2O2,FeSO4または3−HKを処理した。次いで、培養した細胞に、HCSS緩衝液(20 mM HEPES, 2.3 mM CaCl2, 120 mM NaCl, 10 mM NaOH, 5 mM KCl, 1.6 mM MgCl2, 15 mM グルコース)に溶解させた10μMのDCFDA(6-carboxy-2',7'-dichloro-dihydrofluoresceine diacetate, dicarboxym- ethylester)と懸濁補助剤である2%プルロニックF−127とを37℃で30分間処理した。細胞内活性酸素によるDCF蛍光は、室温で、水銀ランプ蛍光付属を備えたOlympus IX70倒立顕微鏡上で観察し(励起波長488nm、放射波長510nm)、CCDカメラで画像を捉えた後、NIH Image 1.65プログラムを利用して、映像分析した(図7及び8参照)。
【0080】
図7及び図8でモックで表示されたものは、使用された溶媒のみを処理したものである。図7、8から分かるように、Aβ、6−OHDA、セラミド、H2O2,FeSO4または3−HKにより活性酸素が発生することを確認することができる。その反面、BG101またはBG201が前処理された場合、それぞれのアポトーシス誘発物質により増加される活性酸素を著しく抑制していることが分かる。
【0081】
したがって、本発明の BG101またはEDは、Aβ、6−OHDA、セラミド、H2O2,FeSO4または3−HKにより招来される活性酸素の形成を抑制する作用により、生体内で抗酸化作用をすることができるということが分かる。
【0082】
実験例II:虚血動物モデル実験
前記実施例で製造された本発明のシルクペプチドBG101またはBG201が虚血による脳梗塞面積に及ぼす影響を調べるために、次のような実験を行った。
【0083】
実験例II−1:局部的虚血誘導動物モデル
A.薬物処理及び局部的虚血誘導動物モデルの製作
体重200〜250gの雄性白鼠(Sprague-Dawley rat)を利用して局部的虚血誘導動物モデルを製作した。薬物は、1g/kgのBG101を、虚血誘導の1時間前に1回または虚血誘導の1時間後に1回口腔投与して(口腔投与群、n=6)、虚血対照群(n=6)は、薬物処理群と同じ容量の生理食塩水を投与した。実験動物にケタミン(ketamine)30〜40mg/kgを筋肉注射して麻酔した後、仰臥位で頚部に皮膚切開を加え、頚動脈(common carotid artery)、外頚動脈(external carotid artery)、及び内頚動脈(internal carotid artery)を探して、周囲組織と分離させた。まず、外頚動脈の分枝である上部甲状腺動脈と後頭動脈を電気焼灼して、内頚動脈の分枝である翼口蓋窩(pterygopalatine)動脈を電気焼灼して、外頚動脈を切断し、4−0ナイロン糸(ETHICON, INC, 米国)を外頚動脈を通じて内頚動脈に挿入した後、頚動脈分枝からナイロン糸の16〜18mmが入るように位置させて、中大脳動脈(Middle Cerebral Artery)基始部を閉塞した。
【0084】
B.虚血による脳梗塞部位減少効果の実験
虚血誘導6時間後、動物を断頭して脳を摘出した。摘出された脳は、前極(anterior pole)から2mm間隔で切片して、2%トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC、Sigma、米国)溶液で37℃で30分間反応した後、4%パラホルムアルデヒド(Sigma、米国)溶液に入れて固定した。染色された組織切片を撮影した後、写真(図9及び12参照)を、MCID image processing system (Imaging Research Inc., カナダ)を利用して、赤色に染色された正常部位と違って、脳梗塞が発生し白色に変わった部位の面積を測定し、全体脳切片の面積に対する脳梗塞面積の比率を求めた後、平均値を計算した(図10)。
【0085】
図9から分かるように、本発明のシルクペプチドは、虚血による脳梗塞部位を、対照群に対し、有意性のある水準に減少させている(P<0.05)。脳梗塞減少効果が特定部位に偏ることなく、全般的に現れていることを観察した(図10)。また、図10及び11から分かるように、全体脳切片の体積に対する脳梗塞体積の比率を測定した結果、BG101前処理が、局部的虚血による脳梗塞部位の減少に有意な効果を示した(平均±標準偏差)。
【0086】
また、図12から分かるように、虚血誘発後に処置された本発明のシルクペプチドは、脳梗塞による損傷部位を有意に減少させた。
【0087】
したがって、本発明のシルクペプチドは、虚血性脳卒中の予防と治療に係る機能性食品及び薬物に有用に使用できることが分かる。
【0088】
実験例II−2:局部的虚血−再潅流誘導動物モデル
A.薬物処理及び局部的虚血−再潅流誘導動物モデルの製作
200〜250gの雄性白鼠にケタミン30〜40mg/kgを筋肉注射して麻酔させた。 頚動脈、外頚動脈、及び内頚動脈を周囲組織と分離させた。まず、外頚動脈の分枝である上部甲状腺動脈と後頭動脈を電気焼灼して、内頚動脈の分枝である翼口蓋窩(pterygopalatine)動脈を電気焼灼して、外頚動脈を切断し、4−0ナイロン糸を外頚動脈を通じて内頚動脈に挿入した後、頚動脈分枝からナイロン糸の16〜18mmが入るようにして位置させた。皮膚切開を復元させた後、麻酔から自然回復させて、1時間後、挿入されたナイロン糸を除去し、再び血液を再潅流させた。
【0089】
BG101またはBG201の投薬は、それぞれ1g/kg容量で虚血−再潅流後、翌日から6日間、1日1回ずつ、総7日間、7回口腔投与した。実験対照群としては、虚血を誘導していない正常対照群と、薬物処理群と同じ回数、同じ容量の生理食塩水を投与した虚血対照群とを使用した。局部的虚血−再潅流誘導7日後、受動回避測定(Passive avoidance test)と、8方迷路測定(8-arm maze test)を実施した。
【0090】
B.学習及び記憶検査
B−1.受動回避テスト(Passive avoidance test)
実験装置としては、自動化されたシャトルボックス(Model PACS-30, Columbus Instruments International Company)を利用した。シャトルボックスは、仕切り戸(3″L x 2.625″W)により同じ大きさ(19″L x 9″W x 10.875″H)の2つの部屋に分かれており、部屋の床は、電流を流し得るように装備されている。ヒンジプレキシガラスリッド(hinged plexiglass lid)に載せておいた20W電球により各ルームを照明できるようにした。白鼠は、仕切り戸を通って暗い部屋に入ることができる。騒音が60dB以下であり、照明を暗くしたルームで実験を行った。白鼠を、最初は明りのある部屋に入れて、仕切り戸を開けると、部屋の中をあちこち見回しながら、暗い部屋に入るようになるが、この時、仕切り戸が自動に閉まって照明が消えるようになる。このような訓練課程を、白鼠が20秒内に暗い部屋に入れるようになるまで行い続ける。訓練課程を終えた24時間後、再び白鼠を照明のある部屋に入れて、白鼠が暗い部屋に入ると、仕切り戸が閉まって、シャトルボックスの床に3秒間電流(1mA)が流れるようにした。局部的虚血−再潅流誘導7日後、再びこの白鼠をシャトルボックスの照明のある部屋に入れた後、暗い部屋に移動するまでの時間を測定した。最大に暗い部屋に入らない時間を5分として行った(図13)。
【0091】
図13において、潜伏時間(Latency time)の変化は、記憶力の減退と回復を示すが、この時間が長くなるほど、記憶力が上昇されたことを意味する。正常対照群(sham operated control group)では、潜伏時間の変化がなく、溶媒のみを投与した虚血対照群では、潜伏時間が、シャム対照群に比べ、有意に減少した(P<0.05)。一方、BG101またはBG201を繰り返し投与した群では、潜伏期間がほぼ正常水準に有意に回復される傾向を示した(P<0.05)。特に、BG101投与群での潜伏時間の回復が、BG201投与群よりさらに大きいことから、BG101の効能がさらに優れていることが判明された。
【0092】
B−2.8方迷路測定(8-arm radial maze test)
実験装置として8方放射形迷路(Etho Vision, オランダ)を使用した。床から45cm離れており、8角状の中央(半径34cm)から8個のアーム(長さ60cm及び幅12cm)が延出されており、アームと中央部位は、壁(高さ40cm)からなっている。各アームの末端は、餌コップが設けられている。補償としてヒマワリの種を使用した。迷路の周りを暗くして50Wの光を照らし、ビデオカメラでモニターした。学習訓練の1週間前から餌を80%に減少させて供給した。雄性のラットを迷路に、1日3回、30分間ずつ放置して、三日間適応させた後、一匹ずつ迷路に入れて、餌コップにあるヒマワリの種を食べきれるまでの各アームを訪問する回数と時間を測定して、2分内にエラー数が2回以内になるまで訓練をさせた。一度入ったアームに再び入る回数をエラー数とした。
【0093】
訓練された雄性のラットを、下記の方法により脳虚血動物モデルにして、BG101またはBG201を1g/kg容量で、経口で一日一回ずつ、七日間投与して、その後から5日間のエラー数とlatency timeを対照群と比較した。
【0094】
受動回避測定では検索できない脳虚血による空間記憶力損傷(spatial memory)を、BG101またはBG201が保護する効能があるかどうかを調べるために、中脳動脈(MCA)を一時的に塞いで作った脳虚血動物モデルを利用して、8方迷路測定を行った。投与1週間後から五日間迷路テストを行った結果、投与1日後から五日目までのエラー数が、対照群では、手術前とほぼ変わりがなかった(図14)。三日目からBG101またはBG201投与群のエラー数が有意に減少して、特にBG101投与群のエラー数がBG201投与群のエラー数に比べさらに減少する傾向を示した。測定の最後の日まで、BG101またはBG201投与群のエラー数は、対照群のエラー数の水準に減少した反面、溶媒だけを投与した群のエラー数は、回復されなかった(*P<0.05)。
【0095】
以上の結果から、中脳動脈の一時的閉塞により空間記憶力が減退するようになるが、BG101またはBG201の繰り返し投与により、このような空間記憶力の減退が抑制されたため、BG101またはBG201が脳虚血による学習と記憶力の減退に対し抑制効能を有することが確認された。図14において、各測定値は、平均(mean)±標準偏差(SD)を示す。
【0096】
C.海馬(hippocampus)におけるヘマトキシリン及びエオシン(Hematoxylin & Eosin: H&E)染色
実験動物において、脳虚血による記憶と学習能力の低下現象が海馬の損傷と密接な関連があるという研究結果がたくさん報告されている(Hodges et al., Neuroscience, 72(4), 959-88, 1996)。したがって、海馬の特定部位(CA1, CA2, DG)において、本発明の効能を測定した。
【0097】
C−1.組織準備
前記実験例II−2Bの測定を済ませた実験動物をクロラル水化物(chloral hydrate: 400 mg/ml)で麻酔した後、心臓を通じて0.1Mリン酸塩緩衝塩水(PBS, pH 7.4)200mlを潅流させて血管内の血液成分を除去し、固定液(4% paraformaldehyde/PBS)250〜300mlを潅流させた。脳を摘出して同一固定液で15〜24時間4℃で後固定(post-fixation)を行った。PBSで固定液をきれいに洗浄した後、10%、20%及び30%スクロース(sucrose)溶液を順に浸透させて、凍結時に生じる結氷顆粒(ice crystal)を防止した。脳組織を包埋液で包埋して、液体窒素で予め冷却させたイソペンタンに入れて急速冷凍させた後、、ミクロトーム(Cryostat; Reichert Frigocut model 2000)を使用して10μm厚に連続冠状切片を行って、ゼラチンでコーティングされたスライドガラスに直に付着し、1時間室温で乾燥した後、−70℃で保管した。
【0098】
C−2.H&E染色
保管されたスライドガラスを取り出して、蒸留水で洗浄し、ヘマトキシリンで10分間反応した。反応後、スライドガラスを、1%HClを含む70%エタノールで処理し剰余のヘマトキシリンを除去して、アンモニアを処理して固定する。再び組織を、エオシンを利用して約20秒間染色した後、蒸留水で洗浄する。その後、70%、90%及び100%エタノールを利用して脱水して、キシレンで処理した後、カバーガラスとカナディアンバルサム(Canadian balsam)で封入して、光学顕微鏡で観察した。
【0099】
C−3.H&E染色分析結果
BG101による海馬におけるH&E染色結果、虚血のみを誘発した実験対照群において、細胞死滅過程で典型的に現れる、細胞核に沈着されたエオシンが固まっている様相(eosinophilic)が海馬の全般的な部分(CA1, CA2, DG)で発現されることが確認された(図15、矢印)。反面、本発明のシルクペプチドを投与した実験群(BG101処置群)では、実験対照群に比べ、正常形態の細胞が有意に増加されていることが観察された。
【0100】
正確な作用メカニズムについては、さらなる研究が必要であるが、BG101またはBG201は、神経細胞のアポトーシスと認知機能の損傷を防止して、新しい脳虚血治療剤として利用可能であることが分かる。
【0101】
実験例III:パーキンソン病の動物モデル実験
パーキンソン病の誘発薬物として広く使用されている水酸化ドーパミン(6-hydroxydopamine, 6-OHDA)は、カテコールアミン性神経細胞の細胞膜を通じて吸収されて、選択低にカテコールアミン性神経細胞に毒性を示す。水酸化ドーパミンを片側の脳に注入してドーパミン神経細胞を破壊した動物モデルは、その反対側の脳を対照群として使用することができて、自発的な運動及び薬物により誘発される回転運動を比較することができ、非常に広く使用されている。
【0102】
本発明の蚕シルクペプチドであるBG101及びBG201がパーキンソン病に及ぼす影響を調べるために、次のような実験を行った。
【0103】
実験例III−1:進行性パーキンソン病の動物モデルの構築
水酸化ドーパミンを白鼠の脳の片側線状体(striatum)に注入して、ドーパミン神経細胞の漸進的退行変性を起こすJooらの方法(Joo WS et al., Neuroreport, 9(18), 4123-4126, 1998)の方法を利用して、動物モデルを次のように製作した。
【0104】
まず、体重200〜250gの雄性白鼠(Sprague-Dawley rat;大韓バイオリンク、大韓民国)にエキテシン(equithesin)3ml/kgを腹腔に注射して麻酔した。麻酔動物を脳定位手術器具(stereotaxic frame, David Kopf, 米国)を利用して頭蓋骨を穿孔して、対照群(sham group)には、0.2mg/mlアスコルビン酸を使用して、病変群(lesioned group)とBG101またはBG201口腔投与群(treated group)は、水酸化ドーパミン(20μg/5μl free base in 0.2 mg/mlアスコルビン酸)を右側線状体に、ハミルトン注射器(10μl、26G針)を使用して、分当たり1μlの速度で注入した(Paxinos et al., J. Neurosci. Methods. 3(2), 129-149, 1980)。薬物注入後5分間は針をそのままおいてから、分当たり1mmの速度で針を抜いた後、切開部位を縫合した。一方、BG101またはBG201は、1g/kg及び5g/kgの二種類の容量で口腔投与した。
【0105】
進行性パーキンソン病動物モデルにおいて、水酸化ドーパミンの効果判定は、病変製作14日後、アポモルフィン(apomorphine)を利用した行動分析を通じて、行動学的変化を先に確認して、翌日動物を頚椎脱臼させた後、脳を摘出して実験に使用した。ドーパミン神経細胞に対するBG101とBG201の保護効果を判定するために、脂質過酸化度測定、HPLCを利用した線状体内のドーパミン濃度測定及びチロシンヒドロキシラーゼに対する免疫組織化学染色法を行った。
【0106】
実験例III−2:アポモルフィンによる一側性回転反応実験
水酸化ドーパミンを利用して製作したパーキンソン病動物モデルにおいて、時間経過による行動学的変化を、病変製作後14日目にアポモルフィン(0.5mg/kg)を後頚に皮下注射して、60分間一側性回転反応を測定した(図16)。本実験は、ドーパミン性神経細胞が死滅され、線状体内のドーパミンの濃度が減少すると、線状体内のドーパミン受容体の過敏性が誘発されて、アポモルフィンはドーパミン受容体に活性剤として作用し、過敏性の誘発された線状体を過度に興奮させ、動物は、損傷側と反対方向に回転運動をするようになる原理を利用したものである(Ungerstedt, Brain Res. 24, 485-493, 1970)。回転運動は、Ungerstedtの前記論文に記載の自動化された回転運動測定器(rotometer)を利用して、各回転数は、[純回転数(net turns)=非病変側回転数(contralateral)−病変側回転数(ipsilateral)]で算出した。
【0107】
図16から分かるように、0.2mg/mlアスコルビン酸を線状体に投与した正常対照群の一側性純回転数は、大きい変化を示さなかったが、水酸化ドーパミンのみを投与した病変対照群では、一側性純回転数は、有意に増加した(P<0.05)。一方、本発明のシルクペプチドを投与した実験群では、対照群に比べ、一側性純回転数が有意に減少して、投与量が増加するにつれてその効果も増加することが分かる(P<0.05)。図6において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0108】
実験例III−3:線状体内のドーパミン及びその代謝産物の含量測定
本発明のBG101及びBG201が、パーキンソン病の重要な原因であるドーパミン神経伝達物質の濃度に及ぼす影響を調べるために、前記実験例III−2と同様にBG101またはBG201を投与して病変を製作し、2週間後、線状体でドーパミン(DA)と3,4−ジヒドロキシフェニルアセト酸(3,4-dihydroxyphenylacetic acid: DOPAC)濃度を高性能液体クロマトグラフィ(HPLC, Gilson, フランス)を利用して測定した。
【0109】
A.組織準備
白鼠を頚椎脱臼して犠牲させた後、直に脳組織を摘出して、脳切片器(brain slicer; ZIVIC MILLER、米国)を利用して視神経交叉(optic chiasma)から2mm間隔の切片を取って、組織穿孔器(tissue punch)を利用して黒質を分離した。黒質分離後、残りの前(anterior)部の脳を、冷却されたガラス板上で大脳正中裂に沿って左右大脳半球を分離した後、脳梁(corpus callosum)を境として、視床及び大脳皮質から線状体のみを分離した。これをドライアイスを利用して急速凍結させた後、−70℃で保管した。
【0110】
B.分析方法
凍結された検体に、冷却された0.1M過塩素酸(perchloric acid)と1mMEDTAを加えて、超音波破砕器で組織均等液を製造した後、12,500gで20分間遠心分離し、その上層液を取った。上層液をニトロセルロース膜濾紙(孔大きさ0.2μm)で濾過して、HPLCに注入した。分離条件は、WATERS uBondapakTM C18 3.9×300mmカラム(粒子大きさ10μm)を使用して、移動相は、0.07M リン酸ナトリウムモノベーシック、1mM オクタンスルホン酸ナトリウム、0.1mM EDTA及び8%アセトニトリル(pH4.0)溶液を流速0.7ml/分として使用した。各物質の濃度測定のために、組織均等液の製造時、一定量のジヒドロキシベンジルアミンを添加して、内部標準物質として使用して、分離された物質は、電気化学検出器で検出した。
【0111】
C.HPLC測定結果
図17から分かるように、線状体内のドーパミン比率(病変側/非病変側、%)は、シャム対照群に比べ、水酸化ドーパミンのみを投与した対照群で有意に減少した(P<0.05)。一方、本発明のシルクペプチドを投与した実験群では、水酸化ドーパミンのみを処理した対照群に比べ、ドーパミン濃度が有意に増加したことが分かり、投与量が増加するにつれて、その効果も増加することが分かる(P<0.05)。図17において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0112】
パーキンソン病は、黒質に位置したドーパミン神経細胞の消失により、これらの神経細胞が投射(innervation)されている線状体内にドーパミンの濃度が減少して現れる疾患であって、6−OHDAによるドーパミン濃度の減少は、黒質に位置したドーパミン神経細胞の消失及び線状体内におけるドーパミン神経線維末端の消失を表す重要な尺度である。実際、パーキンソン病末期患者において、線状体内のドーパミン含量は、正常人に比べ、約10%程度しか存在しない。したがって、本発明のシルクペプチドによりドーパミン濃度の減少が抑制される本実験の結果は、ドーパミン神経細胞に対する保護効果を生理的及び生化学的に立証する。
【0113】
実験例III−4:線状体における脂質過酸化の測定(マロンジアルデヒド実験)
前記実験例III−2で口腔投与した本発明のBG101またはBG201が脂質過酸化を抑制するかどうかを調べるために、前記実験例III−2と同様にBG101またはBG201を投与して病変を製作した後、2週間後に線状体内のマロンジアルデヒド(MDA)の量を測定した。
【0114】
A.組織準備
上述の方法により線状体を取って、クレブスーリンゲル緩衝溶液(Krebs-Ringer Buffer, NaCl 120mM, KCl 4.8mM, CaCl2 1.3mM, MgSO4 1.2mM, NaHCO3 25mM, Glucose 6mM, pH 7.6)を添加して、超音波破砕器(sonicator)で組織均等液を製造して実験に使用した。
【0115】
B.脂質過酸化測定
脂質過酸化度合いの尺度であるTBARS(Thiobarbituric acid reactive substances)の濃度測定は、Ohkawaら(Anal Biochem. 95(2):351-8(1979))の方法に従って測定した。一定量の組織均等液に8.1% SDS, 20% acetic acid (pH 2.5), 0.8% Thiobarbituric acid (TBA)を加えて、自己酸化を抑制するために、BHT(2,6-di-t-butyl-p-cresol, 200uM)を加えた後、100℃で30分間反応した。反応後、氷水に容器を浸して、急速に温度を下げ、反応を中断した後、吸光光度計により532nmの波長で試料を測定し、TBARSの濃度を計算した。
【0116】
MDA−TBA(Malonaldehyde-thiobarbituric acid)complexの濃度は、Lazzarinoら(Lazzarino et al., Free. Radic. Biol. Med. 13(5), 489-98, 1992)とChirico(1987)の方法に従ってHPLCで測定した。前記試料を5uM Lichrosper 100 RP18 column(4.6×250mm)に注入して、65%KH2PO4(50mM)/15%メタノール/20%アセトニトリルで0.9ml/minの速度で溶出し、UV/visible検出器(Hewlett-Packard, Series 1050)で検出して、BG101A−TBA complexのピーク確認のために、標準試料として1,1,3,3-tetramethoxypropane(prepared in ethanol/water 40:60, v/v)を使用した。
【0117】
C.測定結果
線状体内におけるMDA生成比率((病変側/非病変側、%)は、TBARSの濃度に対するMDA−TBA complexの相対的な濃度(%)で表示して、その値は、図18に示されている。図18から分かるように、線状体内の脂質過酸化度合いは、シャム対照群に比べ、水酸化ドーパミンのみを投与した対照群で有意に増加した(P<0.05)。一方、本発明のシルクペプチドを投与した実験群では、対照群に比べ、脂質過酸化度合いが有意に減少したことが分かり、投与量が増加するにつれて、その効果も増加することが分かる(P<0.05)。図18において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0118】
老化及び退行性疾患の最も大きい原因は、活性酸素であって、活性酸素は、蛋白質と脂質の過酸化を誘発し、過酸化された脂質及び蛋白質が正常的な機能を失って、細胞が弱化され、老化が起こるようになる。また、DNAに対しても酸化的損傷を起こし、突然変異を誘発したりもする。最近、パーキンソン病患者において、グルタチオンペロキシダーゼ、カタラーゼなどのような抗酸化酵素の減少と第1鉄イオンの増加により、非正常的にヒドロキシルラジカルの量が増加されるという報告は、酸化的ストレスがパーキンソン病の重要な発病因子であることを示唆している(Ogawa, Eur. Neurol. 34(suppl), 20-28, 1994)。したがって、脂質の過酸化を減少させる本発明のシルクペプチドは、抗老化効果を有するということが分かる。
【0119】
実験例III−5:黒質におけるTH免疫陽性細胞比率測定(TH免疫組織化学実験)
本発明のBG101またはBG201がパーキンソン病動物モデルに及ぼす影響を組織学的変化により確認するために、TH免疫組織化学法を行った。前記実験例III−2と同様にBG101またはBG201を投与して病変を製作し、2週間後、黒質切片にチロシンヒドロキシラーゼ(TH)に対する免疫組織化学染色を施して、高倍率で観察し、染色されたTH免疫陽性細胞を計数した。
【0120】
A.組織準備
前記実験例II−2と同様にBG101またはBG201を投与して病変を製作した動物をクロラル水化物(chloral hydrate, 400mg/ml)で麻酔した後、心臓を通じて0.1M PBS(pH7.4)200mlを潅流させて血管内の血液成分を除去し、固定液(4%パラホルムアルデヒド/PBS)250〜300mlを潅流させた。次いで、脳を摘出して、同一固定液で15〜24時間4℃で後固定を行った。その後、PBSで固定液をきれいに洗浄した後、10%、20%及び30%スクロース溶液を順に浸透させて、凍結時に生じる結氷顆粒(ice crystal)を防止した。その後、脳組織を包埋液で包埋して、液体窒素で予め冷却させたイソペンタンに入れて急速冷凍させた後、ミクロトーム(Cryostat; Reichert Frigocut model 2000)を使用して40μm厚に連続冠状切片を行って、30%グリセロール、30%エチレングリコール及び10%リン酸塩緩衝液(PB)が含有された保存液に保管した。
【0121】
B.免疫組織化学分析
保存液に入っている組織を取り出して、PBSで10分間ずつ3回洗浄して、5%過酸化水素で10分間反応した。次いで、10%ヤギ血清(normal goat serum; NGS)、3%牛血清アルブミン(BSA, Sigma)及び3%Triton X-100で30分間反応した。第1抗体としてラットαTH(希釈倍数1:500, Boehringer Mannheim)を使用し一晩中反応して、翌日バイオチン化(biotinylation)された2次抗体(Vector laboratories、米国)で室温で1時間反応した。30分前に予め1:100で希釈混合したアビジン−バイオチン−ペロキシダーゼ複合体(ABC, Vector laboratories、米国)で室温で1時間反応した。その後、DAB(diaminobenzidine 0.05%, H2O2 0.003%)に入れて5分間発色させて、ゼラチンでコーティングされたスライドに組織を付けて乾燥させた。その後、70%、90%、及び100%エタノールを利用して脱水させて、キシレンで処理した後、カバーガラスとカナディアンバルサム(Canadian balsam)で封入して、光学顕微鏡で観察した。以上の各培養段階で、過剰の試薬はPBSで10分間ずつ3回洗浄して、対照染色のために、第1抗体または第2抗体の代わりに、血清(normal serum)を入れて、他の組織と共に処理した。
【0122】
C.免疫組織化学分析結果
BG101またはBG201による線状体及び黒質におけるTH免疫組織化学染色結果と、黒質におけるTH免疫陽性細胞比率(病変側/非病変側、%)の変化は、それぞれ図19と図20に示されている。
【0123】
図19から分かるように、正常対照群のTH免疫染色は、全体線状体で明らかに発現されており、黒質に位置したドーパミン神経細胞も大部分発現されることを確認した。反面、病変対照群の線状体は、上肢(upper limb)運動支配地域としてよく知られた背側面部位(Doso-lateral area)が染色されていないことが確認できて、この地域を神経支配する黒質密集部(par compacta)のドーパミン神経細胞が大部分消失されていることが観察された。一方、本発明のシルクペプチドを投与した実験群では、病変対照群に比べ、線状体と黒質においてドーパミン神経線維末端と神経細胞体が有意に保護されていることが確認できる。
【0124】
図20から分かるように、黒質におけるドーパミン神経細胞の保護効果を測定するために計数(count)してみた結果、TH免疫陽性細胞比率が、正常対照群に比べ、水酸化ドーパミンのみを投与した病変対照群で有意に減少した(P<0.05)。一方、本発明のシルクペプチドを投与した実験群では、対照群に比べ、TH免疫陽性細胞比率が有意に増加したことが分かり、投与量が増加するにつれて、その効果も増加することが分かる(P<0.05)。図20において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0125】
チロシンヒドロキシラーゼ(TH)は、チロシンからドーパミンを生成する代謝過程の核心的な酵素である。即ち、THにより染色されるドーパミン神経細胞と神経末端は、ドーパミンを生成することができて、ドーパミン性神経回路網(Dopaminergic neural network)を構築することができるため、上述の実験結果は、本発明のシルクペプチドによるドーパミン神経細胞の保護効果を立証するものである。したがって、本発明のシルクペプチドは、退行性脳疾患であるパーキンソン病の予防と治療に係る機能性食品及び薬物に有用に使用できることが分かる。
【0126】
実験例IV:アセチルコリン濃度に対する影響
アミロイドβ処理により脳損傷を被り、アセチルコリンの量が減少された実験動物のラットにおいて、本発明のBG101またはBG201がアセチルコリン量の減少を抑制することにより、認知機能向上及び退行性脳疾患抑制機能を果たすことができるのかを検査した。
【0127】
実験例IV−1:実験動物の準備
実験動物は、雄性白鼠(Sprague Dawley、140-180g、大韓実験動物センター)であって、一定な環境(室内温度25±1℃、相対湿度60±10%)下で一週間、1つの飼育箱当たり4匹ずつ入れて、水と餌を制限無く摂取するようにして環境に適応させた後、実験に使用した。
【0128】
実験例IV−2:アセチルコリン濃度の測定
アセチルコリンの濃度変化に及ぼす影響を確認するために、IslaelとLesbatsの方法(J Neurochem. 37(6):1475-83(1981))により、化学発光(chemiluminescence)を利用してアセチルコリンの濃度を測定した。前記測定法は、アセチルコリンがアセチルコリンエステラーゼによりコリンに加水分解されて、再びコリン酸化剤(oxidase)によりベスタイン(bestaine)と過酸化水素に変化される反応を利用する方法である。過酸化水素は、化学的にルミノール(5-amino-1,2,3,4-tetrahydro-1,4-phthalazinedione, luminol; Merck, Darmstadt, Germany)とペロキシダーゼ(Sigma, USA)と反応すると、光を発散するため、化学発光を利用して光の量を測定すると、間接的にアセチルコリンの濃度を測定することができる。
【0129】
このような方法により、Aβを処理した実験対照群と、BG101またはBG201を1g/kgで一週間以上投与した薬物実験群において、Aβによるアセチルコリンの量を分析してみた結果、Aβを処理した実験対照群では、正常対照群に比べ、約75%程度の減少を示した反面、BG101を持続的に投与した群のラットでは、統計的に有意にアセチルコリンの減少を抑制していた(P<0.05)。図21において、各測定値は、平均(mean)±標準偏差(SD)を示したものである。
【0130】
アセチルコリンは、脳の基底核から大脳皮質と海馬に投射されて、正常的な知識機能に非常に重要に作用する神経伝達物質である(Richter et al., Life Sci. 19;26(20):1683-9(1980))。特に、学習と記憶は、Ach系に作用する薬物により変化され得ると知られている。アルツハイマー型痴呆で死亡した例を検査した結果、全ての場合において、大脳皮質に投射される基底核のアセチルコリン性神経細胞が多量損傷されていることが発見されている。最近、アセチルコリンの濃度を増加させることが、認知能力を向上し且つ痴呆進行を防いで、痴呆の治療及び予防に卓越な効果があると知られ、患者を対象にコリン活性剤やコリンエステラーゼ抑制剤を使用している。現在まで開発された薬物は、アセチルコリン合成前駆体(acetylcholine precursor)としてレシチン、受容体活性剤(receptor agonist)としてRS−86、ニコチンなどがあり、アセチルコリン分解抑制剤(Acetylcholinesterase inhibitor)として、FDAの承認を受けて国内でも市販使用中のタクリン(Tacrine)と、最近承認されたアリセプト(Aricept)などがあるが、効果が一時的で微弱であり、深刻な毒性のため、使用に論難の余地が多い状態である。
【0131】
前記の実験結果から、本発明のシルクペプチドが脳においてアセチルコリン量を減少させる老化及び退行性疾患からアセチルコリン量の減少を抑制することにより、認知機能の向上及び老化と退行性疾患の抑制効果があることが分かる。
【0132】
実験例V:憂鬱症動物モデル実験
実権例V−1:実験動物の準備
実験動物は、雄性白鼠(Sprague Dawley、140-180g、大韓実験動物センター)であって、一定な環境(室内温度25±1℃、相対湿度60±10%)下で一週間、1つの飼育箱当たり4匹ずつ入れて、水と餌を制限無く摂取するようにして環境に適応させた後、実験に使用した。白鼠の中で、一般飼育状態で動きが少なく、発育状況が劣り、強制水泳で非正常的な常同症的行動を示すか、水泳能力が著しく劣る場合は、除外させて、本実験では総50匹を使用した。
【0133】
実験例V−2:憂鬱症動物モデル実験
本実験では、絶望行動検査(behavioral despair test)とも言われる、標準化された検査法の強制水泳検査(forced swimming test: FST)を利用した。強制水泳検査法は、薬物開発時の抗鬱効果を検査する基本的な実験として知られている。FSTの過程は、最初の提案者であるPorsoltら(Porsolt et al., Eur. J. Pharmacol. 51(3), 291-294, 1978)の方法に従って、次のように行った。
【0134】
まず、高さ40cm及び直径18cmの透明なアクリル円筒形水槽に25℃の水を15cmの高さまで満たして、これに前記実験例V−1の白鼠を強制的に入れて、15分間放置した。最初の数分間は、これから逃れるために白鼠が激しい抵抗を示すが、時間が経つほど、段々不動時間(immobilization time)を示す時間が増えて、最後の数分間はほぼ不動状態に体を維持した。典型的な不動状態とは、白鼠が顔の一部のみを水面に露出したまま、体の均衡を維持するために若干の動きを示すだけで、水上に浮かんでいる状態である。強制水泳を終えた白鼠は、体の水気を拭き取った後、37℃乾燥器で30分間体を乾燥して、再び飼育箱に戻した。
【0135】
一次の強制水泳後、二次の強制水泳は、24時間後に行った。本実験において、二次強制水泳は、一次強制水泳と同じ条件で5分間だけ水槽に放置して、この期間中の総不動時間を測定した。二次強制水泳時、白鼠は、学習された絶望(immobilization time)の結果、大部分が一次強制水泳時よりさらに多い時間不動状態を示す。強制水泳モデルにおいて、憂鬱症の症状指標と見なされる不動状態の増加は、抗鬱剤の処置により再び減少されるため、このような不動状態の減少が抗鬱剤の作用と関連があると考えられている。強制水泳検査において、幾つかの薬物の場合、薬物の急性処置時にはその効果が現れないが、長期処置時に効果を示す場合があるため、本実験では、7日間薬物処置をした後、二次強制水泳を試みた。一般に、抗鬱剤の抗憂鬱効果は、少なくとも2週間の薬物投与後に得られるため、この方法は、強制水泳検査でよく使用されている。不動状態の計測は、二次強制水泳時の全過程をビデオ撮影しておいて、不動時間を測定し、対照群と実験群間の不動時間を比較評価した。ビデオ画面分析を通じて、訓練された三人の評価者が不動時間を秒時計で計測し、評価者間の平均値を求めて分析資料として利用した。
【0136】
A.投与方法
本発明のBG101またはBG201を100mg/mlの溶液に製造して、口腔投与した。全ての試料は、蒸留水に溶解して口腔投与して、1回投与時には、二次強制水泳の1時間前に投与して、7日間繰り返し投与する場合は、一次強制水泳の30分後に投与して、7日間繰り返し投与した。
【0137】
B.1回急性処置時の抗鬱効果
本発明のBG101またはBG201の1回急性処置時(1g/kg)の抗鬱効果を確認した。陽性対照群としての既存抗鬱剤としては、三環系抗鬱剤の基本とされる薬物のイミプラミン((Sigma、米国)を使用して、投与量は、既存研究結果(Eur. J. Pharmacol. 138(3), 413-416, 1987; Neuropharmacology 28(3), 229-233, 1989)を参照して、1回投与時、20mg/kgとした。実験結果は、図22に示した。
【0138】
急性処置による平均不動時間は、対照群に比べ、イミプラミンの投与により有意に短縮された(*、P<0.05)。また、本発明のBG101またはBG201を投与した実験群でも不動時間が有意に短縮されたことが分かる(**、P<0.05)。図22において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0139】
C.長期繰り返し処置時(7日間)の抗鬱効果
本発明のBG101またはBG201の長期繰り返し処置時の抗鬱効果を確認した。BG101またはBG201を50mg/kgで一日一回、7日間口腔投与して、1回処置時と同様な実験を行った。実験結果は、図23に示されている。
【0140】
長期処置による平均不動時間は、対照群に比べ、イミプラミン投与により有意に短縮された(p<0.05)。また、BG101またはBG201を投与した実験群でも不動時間が有意に短縮されたことが分かる(P<0.05)。図23において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0141】
上記の実験結果から、イミプラミンの投与時、対照群に比べ不動時間が大幅に減少されて、BG101またはBG201の急性及び長期処理群は、イミプラミン投与時くらいは不動時間が減っていないが、統計的に有意な抗鬱効果を有することが分かる。イミプラミンは、副作用がありえるため、長期服用が困難であるが、本発明のBG101またはBG201は、効果の側面ではイミプラミンに多少劣るが、長期的に多量服用できる長所があって、憂鬱症の予防及び治療剤として優れた効果が期待できる。
【0142】
実験例VI:脳機能増進に対する臨床試験
臨床研究対象者は、本発明のシルクペプチドBG−101が100mg内包されたカプセル(以下、BF-7という)を服用する群の67名(BF-7 200mg/day群の33名及び400 mg/day群の34名)と、偽薬を服用する群の32名とに分けて、朝/夕の食後に一回ずつ、1日2回、3週間服用させた。
【0143】
テスト方法は、Rey-Kimテストを使用して、実験が始まる前にテストを行って、服用の終わった3週後に再びテストを行って、服用前後の変化を測定した。
【0144】
Rey-Kim検査法は、国内最初に標準化された記憶検査法であって、Rey-Kim検査法の換算尺度は、被検者のテスト別遂行を詳しく分析できるという長所を有している。検査は、Auditory Verbal Learning Test (AVLT)とComplex Figure test (CFT)とで構成されている。
【0145】
A.AVLT
(1)繰り返し試験
単語を1秒当たり1つずつ聞かせた後、被検者に単語を言わせて、試験は、5回繰り返した。
【0146】
(2)遅延想起
20分の遅延時間後、被検者に聞かせた単語を言わせた。
【0147】
(3)遅延再認
遅延想起の実施後、被検者に紙を渡し、聞かせた単語のみに丸を付けるように指示した。
【0148】
B.CFT
(1)描きテスト
検査の前にCFT図形と反応紙を被検者に渡し、CFT図形を描くように指示した。被検者が描き終えると、CFT図形と反応紙を被検者が見られない位置においた。
(2)即時想起テスト
描きテストの終結後、CFT図形を描くように指示した。
(3)遅延想起テスト
20分の遅延時間後、被検者にCFT図形を描くように指示した。
(4)CFTの評価
各18個の項目を形態と位置を考慮して、CFT採点基準表により、最高2点から最低0点として採点した。各テスト当たり最高点数は、36点であり、最低点数は、0点となる。
【0149】
C.評価項目
1.記憶指数(MQ):記憶力の度合いに対する最も直接的な指標となる記憶指数である。
2.記憶維持度:被検者の記憶がどれくらいよく維持されるかに係る能力を測定する。
3.想起効率性:被検者の記憶がどれくらい正確且つ効率的に活用されるかに係る能力を測定する。
4.描き/記憶一致度:被検者の認知能力の向上が記憶力の増進によるものであるかを測定する。
5.知能/記憶一致度:被検者の認知能力の向上が記憶力の増進によるものであるかを測定する。
【0150】
D.資料の統計学的解析方法
服用前と服用後の記憶指数の差異をpaired t-testを使用して検証し、偽薬群とBF−7容量群別(BF-7 200mg及びBF-7 400mg)記憶指数の変化幅の有意な差が存在するかをANOVAを使用して検証した。
【0151】
E.結果
(1)BF−7の記憶指数の改善効果
記憶力の度合いに対する最も直接的な指標とされる記憶指数(MQ)の各服用群別の差異値を算出した結果、服用前と服用後の記憶指数の差が、偽薬服用群の場合は、3.1、BF−7 200mg服用群は、11.6、400mg服用群は、20.6であって、各服用群の記憶指数改善値の差異は、どれも有意な差異を示した(図24)。これは、BF−7が容量依存的に有意な記憶指数の改善効果を示すことを意味するものである。また、各服用群の服用前と服用後の記憶指数の値を比較してみると、偽薬服用群は、106から110に、BF−7 200mg服用群は、106.5から118に、BF−7 400mg服用群は、106から126に向上した(図25)。
【0152】
(2)BF−7の想起効率性の増進効果
百分率が高いほど、想起効率性が高いことを意味する。偽薬服用群の場合、服用前と服用後の想起効率性に有意な差がなかった反面、BF−7 200mg服用群の場合は、31%から58.9%に、400mg服用群の場合は、41.5%から66.5%に向上されて、より正確且つ効率的な記憶の活用がなされることを確認した(図26)。
【0153】
(3)BF−7の描き/記憶一致度の増進効果
百分率が低いほど、記憶力の低下がその原因であることを意味する。偽薬服用群の場合、服用前の38%から40%に、有意な変化を示さなかった反面(P<0.05)、200mg服用群は、36.8%から56.5%に、400mg服用群は、24.7%から65.2%に有意に増加されて、認知能力の向上が、描きの能力によるものではなく、記憶力の向上によるものであることが分かった(図27)。
【0154】
(4)BF−7の知能/記憶一致度の向上効果
百分率が高いほど、ほぼ等しいIQを有する同一年齢代より記憶力がさらに高いことを示す。図28から分かるように、偽薬服用群の場合、55.5%から63.4%に、BF−7 200mg服用群の場合は、52.9%から78.9%に、有意な増加を示した(P<0.05)。BF−7 400mg服用群の場合、52.5%から91.1%に、知能記憶一致度が非常に向上されたことが分かる(P<0.05)。
【0155】
(5)BF−7の記憶維持度の増進効果
百分率が低いほど、時間が経つにつれて忘れる量が多いことを意味する。BF−7 400mg服用群の場合、53.2%から61.3%に、記憶維持度指数が増加したが、統計的に、偽薬服用群とBF−7服用群では、有意な変化を示さなかった(P>0.05)(図29)。
【0156】
上述のように、三つの場合とも、即ち、偽薬群、BF−7 200mg服用群、及びBF−7 400mg服用群において、服用前と後のMQに差異があって、これは、記憶能力が向上したことを意味する。偽薬群における記憶指数の改善は、標準誤差の偏差が非常に大きいことにもよるが、ある程度、心理的な要因によるものでもある。したがって、BF−7は、記憶能力を改善する活性を有するという結論を出すことができる。
【0157】
BF−7が想起効率性及び描き/記憶一致度のような他の尺度も向上させるという実験結果から、BF−7が想起能力、記憶力及び学習能力を改善して、これにより、痴呆のような退行性神経疾患に有効に作用できるという結論を出すことができ、且つBF−7が科学的、産業的に非常に価値のある新物質であることが分かる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経保護効能を有して、脳機能を改善するシルクペプチド、及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、シルクフィブロインの加水分解により生成された重量平均分子量200〜100,000の神経保護活性を有するシルク蛋白質の製造方法;シルクペプチド及び薬剤学的に許容される担体を含む脳疾患の予防または治療用組成物;及び脳機能の改善のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は、脳血管が破れてあるいは塞がって、結果的に局所脳組織の機能異常をもたらす脳血管疾患であって、俗に中風ともいい、我が国では死亡原因の先頭を走っている。しかも、産業化と医学の発展による平均寿命の延長により、その発病率が徐々に増加している趨勢である。脳卒中は、脳のどこの部位でも発生し得るため、身体のほぼ全ての機能に障害を招来し得る。医学的に脳卒中は、脳の血管が塞がって、特定部位に血液循環障害が生じて現れる‘虚血性脳卒中’と、脳出血による‘出血性脳卒中’とに大きく分類されて、その中でも、成人病の原因として知られた高血圧、動脈硬化症と密接な連関性のある虚血性脳卒中の発生比率がもっと高い方である。
【0003】
虚血性脳卒中は、頚部にある頚動脈、椎骨脳底動脈から、脳中の細い動脈に至るまで、どこでも血管が塞がると発病する。これにより、脳梗塞が発生し、脳梗塞部位は、その機能をよみがえることができない。そのため、脳卒中治療において最も重要なのは、脳卒中の発病因子として知られた高血圧、糖尿病、高脂血症などの予防法と共に、脳虚血そのものに対する予防である。
【0004】
現在、神経細胞の保護のために使用している物質としては、興奮性アミノ酸拮抗剤であるガングリオシド(ganglioside)、ニモジピン(Nimodipine)、GABA亢進剤であるクロメチアゾールなどがあり、硫酸マグネシウムとグリシン拮抗剤は、第2相臨床研究中であり、現在、ピラセタム(piracetam)に対し大規模の臨床研究が進行中である。しかしながら、現在、試みられている各種神経細胞保護剤は、虚血進行過程のそれぞれ異なる段階に作用する製剤であって、このような様々な段階に同時に作用する複合療法の開発が必要であるが、副作用と薬物相互間の干渉の問題を解決しなければならない課題を抱えている。このため、持続的な虚血予防と、虚血後の神経細胞のアポトーシスの抑制のための機能性食品の摂取がさらに効果的であると判断されている。
【0005】
米国特許第6,245,757号は、虚血による細胞損傷を治療する用途として、プロゲスチン(progestin)を開示しており、米国特許第6,380,193号は、ポリ(アデノシン5’−ジホスホ−リボース)ポリマラーゼ抑制剤を含む脳卒中治療用組成物を開示している。また、米国特許第6,288,041号は、シアル酸誘導体を含む脳卒中治療用組成物を開示している。
【0006】
神経退行性疾患の一種類であるパーキンソン病は、運動及び認知障害を起こす退行性脳神経疾患であって、1817年ジェームズパーキンソンにより初めて報告された。この疾患の発病率は、米国で人口10万名当たり100〜150名程度であって、約75万〜100万名の患者が報告されており、毎年6万余名が新しく診断される趨勢であって、大韓民国でも人口の老齢化により、その発病率及び有病率が増加し続けると予想される。組織病理学的には、黒質(substantia nigra)に位置するドーパミン神経細胞の消失が特徴的に現れて、その神経線維の投射部位である尾状核(caudate nucleus)と被殻(putamen)のドーパミンが減少し、特徴的な振顫(tremor)、運動遅延(bradykinesia)、硬直(rigidity)姿勢の障害(disturbance of posture)など、運動及び認知機能障害が現れる。
【0007】
パーキンソン病に使用される主な治療薬物は、脳において足りなくなったドーパミンの機能を補う薬剤、またはその他の神経細胞の破壊を予防または遅延させる目的や、その他の憂鬱症などの付随的な症状を調節するための薬物治療などがある。代表的な薬物として、ドーパミン前駆物質であるレボドパ(levodopa, L-dopa)成分のマドパー(Madopar)、ドーパミン受容体作用薬(agonist)成分のブロミジン(bromidine)、リスリド(lisuride)、そして抗アセチルコリン性薬物であるアルタン(artane)、コゲンチン(cogentin)などの多様な神経薬理学的治療法が開発されている。この中で、ドーパミンの前駆体であるレボドパは、脳内の足りないドーパミンの濃度を補充することにより、パーキンソン病の症状の改善に最も効果的に使用されているが、3〜5年以上長期間投与すると、薬物効果時間がだんだん短くなるか(wearing-off)、薬物の効果に対する運動調節機能の変動が激しくなる現象(on-off現象)、異常運動症(diskinesia)などの副作用が現れる(Freed et. al., N. Engl. J. Med. 327:1549-55(1992))。
【0008】
その他にも、パーキンソン病の外科的治療法として、視床手術(thalamotomy)と、淡蒼球手術(pallidotomy)、深部脳刺激術(deep brain stimulation)、神経細胞移殖術(Neuronal cell transplantation)などが行われている。しかしながら、治療効果の持続期間が患者によって大きい差を示し、希に、手術による小声症(hypophonia)、構音障害(dysarthria)、記憶力減衰などの副作用を伴う(Ondo et. al., Neurology 50:266-270 (1998); Shannon et. al., Neurology 50:434-438(1998))。
【0009】
アルツハイマー病に対する最近治療基調は、大脳皮質(cerebral cortex)と海馬(hippocampus)で機能損傷されたコリン性シグナリング及び伝達(cholinergic signaling and transmission)によりアルツハイマー病が由来するという可能性にその中心をおいている(Bartus et al., Science. 217(4558): 408-14(1982));及びCoyle et al., Science. 219(4589):1184-90(1983))。このような脳の領域は、記憶及び知能と連結されているため、脳のこれらの部分の機能的な欠陥は、記憶及び判断に対する確かな損傷を与えて、知的能力を失わせる。神経信号伝達(neuronal signaling)に損傷が生じる正確な過程が論争対象となってはいるが、老人斑(senile plaque)及び神経原線維濃縮体(neurofibrillary tangle: NFT)が神経損傷の主原因とされている。アミロイドβ(Aβ)の蓄積による老人斑は、この病の最も大きな特徴であって、アルツハイマー病は、死後剖検により確診が可能である(Khachaturian, Arch. Neurol. 42(11):1097-105(1985))。
【0010】
アルツハイマー病の場合、コリン性シグナリングの損傷を抑制できるように、アセチルコリンの量を増加させる、またはアセチルコリンが長期間存在できるようにする、または神経細胞の伝達にアセチルコリンがさらに効果的に作用するようにする薬物と治療法が提示されており、アルツハイマー病患者のアセチルコリン活性度を高める様々なア化合物が使用されている。現在、最も効果的な接近方法は、シナプスでアセチルコリンを速く分解し神経信号伝達を防ぐアセチルコリンエステラーゼの活性を抑制する方法である。実際、このような阻害剤(例えば、tacrine、donepezil及びrivastigmine)は、現在FDAで認めたアルツハイマー病の治療薬物として市販されている。多くの場合、前記薬物は、病の破壊的な進行を防ぐに有効であるが、神経系の病の以前状態への回復には、よく適用されていない。
【0011】
ある化合物は、神経の一般的な健康状態を改善して、年をとるにおける細胞の機能を正常的に維持することにその目的をおいている。例えば、NGFとエストロゲンのような種々の薬物は、神経の退化を遅らせる神経保護の役割をして、抗酸化剤のような他の薬物は、細胞の酸化を減少し、正常的な老化の結果として現れる細胞の損傷の増加を減少する。アミロイドβペプチドが蓄積される程度が多いと、アルツハイマー病が深刻になるが、神経炎空間(neuritic space)にアミロイドβの蓄積を低下させると、アルツハイマー病の進行を遅らせることができると考えられている。アミロイド前駆体蛋白質(Amyloid precursor protein: APP)がα−、β−、γ−セクレターゼのような細胞内の蛋白質分解酵素との組み合わせにより、多様な形態に進行されると考えられる。しかしながら、アミロイドβの形成過程が実際科学的に完全に究明されていないため、アミロイドβの形成を調節することは、まだ可能ではない。
【0012】
アミロイドβの蓄積が神経信号伝達に異常を与える過程は、明確ではない。APPが異常に切断されて、アミロイドβが多く生成され神経炎に蓄積されると、プラーク形成が誘発される。したがって、このような切断反応に関与する多くの他の要因(例えば、炎症反応など)は、タウ(tau)蛋白質のリン酸化を増加させて、NFTと対螺旋状繊維(paired helical filament: PHF)の蓄積を増加させて、結局神経の損傷を増加させる。このような要因の全てが神経の機能障害を誘発して、究極的にアルツハイマー形態の痴呆に進行を加速させる。
【0013】
アルツハイマー病の影響を減らすための治療方法に対する開発が多く進行されているが、現在では、一時的な症状の改善を提供するだけである。
【0014】
米国特許第5,532,219号は、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンなどを含むアルツハイマー病治療用組成物を開示しており、米国特許第5,506,097号は、パラ−アミジノフェニルメタンスルホニルフルオリドまたはエベラクトンAを含むアルツハイマー病治療用組成物を開示しており、米国特許第6,136,861号は、ビシクロ[2.2.1]ヘプタンを含むアルツハイマー病治療用組成物を開示している。
【0015】
一方、ストレスは、現代社会人にとって重要な健康上の問題とされ、大韓民国の二十歳以上の成人の場合、1/3以上が平常時たくさんのストレスを受けており、10代の場合、男性より女性が、そして年齢が高いほどさらに多いストレスを感じている。ストレスは、個人の性格、趣味、解消法、周辺環境、統制能力などによって、その強度が異なってくるが、ほとんどが憂鬱症を伴う。憂鬱症は、ストレスによっても発病される精神疾患であって、自殺のような極端な結果を招いたりもして、高い再発率と共に、速い患者発生率により、非常に重要な疾患として認識されている。憂鬱症の原因は、アドレナリン、ドーパミンまたはセロトニンなどのような脳神経伝達物質の障害によるものとされ、海馬部位の萎縮及び成人神経生成の抑制などの脳損傷も伴う。現在知られた代表的な憂鬱症治療剤としては、三環系抗欝薬(tricyclic antidepressant: TCA)があるが、副作用が大きいという短所を有している。特に、アミトリプチリンなどは、国内で幅広く処方されているが、多様な副作用など、たくさんの問題点を有している。80年代米国で、選択的セロトニン遮断剤(selective serotonin re-uptake inhibitor: SSRI)のフルオキセチン(fluoxetine)が開発され、TCAの副作用を克服し、薬物順応度を大きく上げて、治療失敗率を低めることができて、1996年度、世界20大販売医薬品の中で7位を占める程度であった。しかしながら、SSRIは、効果の側面で、TCAと比較してあまり差がなく、また、薬物相互干渉が深刻であるという問題点がある。
【0016】
また、ストレスによる神経系撹乱は、持続的に誘発されて、現在の治療方法は、憂鬱症薬剤の処方後、再発防止のための措置が特にないため、投与薬物の含量を低めて持続的に投与する水準に止まっている。したがって、ストレスによる神経細胞アポトーシスや神経伝達物質体系の矯正に優れた効果がある物質の開発が重要である。また、ストレスによる憂鬱症の治療のために治療機関を訪問することを忌避したり、ストレスによりセロトニン神経系撹乱と脳損傷などが誘発されることなどについて看過する傾向も多くて、実際にストレス性憂鬱症治療機能を有する機能性食品の必要性は非常に大きい。
【0017】
既に、世界の数々の国では、神経退行性疾患の予防と治療剤の開発に心血を注いでいて、その代表的な例として、米国特許第6,020,127号は、ヒトの染色体5q13で神経性アポトーシス抑制蛋白質をエンコーディングする遺伝子を開示しており、米国特許第6,288,089号は、ドーパミンニューロンのアポトーシスを抑制して、神経退行性疾患を治療できるピリジルイミダゾールを開示している。
【0018】
本明細書全体にかけて多数の特許文献及び論文が参照され、その引用が表示されている。引用された特許文献及び論文の開示内容は、その全体が本明細書に参照として取り込まれ、本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明者らは、シルク蛋白質の加水分解により生成され、特定範囲の重量平均分子量を有するシルクペプチドが、脳疾患の予防または治療のような神経保護活性を有し、脳機能の多様な指標を改善することができることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
本発明の目的は、神経保護活性を有するシルクペプチドの製造方法を提供することにある。
【0021】
本発明の他の目的は、脳疾患の予防または治療をするための薬剤学的組成物を提供することにある。
【0022】
本発明のまた他の目的は、脳疾患の予防または治療をするための食品組成物を提供することにある。
【0023】
本発明の他の目的は、脳機能を改善するための薬剤学的組成物を提供することにある。
【0024】
本発明の他の目的は、脳機能を改善するための食品組成物を提供することにある。
【0025】
本発明の他の目的及び利点は、発明の詳細な説明及び図面により、さらに明確に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一様態によると、本発明は、シルク蛋白質を加水分解する段階を含み、重量平均分子量が200〜100,000である、神経細胞保護活性を有するシルクペプチドの製造方法を提供する。
【0027】
本発明の他の様態によると、本発明は、(a)シルク蛋白質の分解により生成されたシルクペプチドの薬剤学的有効量;及び(b)薬剤学的に許容される担体を含む脳疾患の予防または治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0028】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、シルク蛋白質の分解により生成されたシルクペプチドを有効成分として含む脳疾患の予防または治療用機能性食品組成物を提供する。
【0029】
本発明の他の様態によると、本発明は、(a)シルク蛋白質の分解により生成されたシルクペプチドの薬剤学的有効量;及び(b)薬剤学的に許容される担体を含む脳機能の改善のための薬剤学的組成物を提供する。
【0030】
本発明の他の様態によると、本発明は、シルク蛋白質の分解により生成されたシルクペプチドを有効成分として含む脳機能の改善のための機能性食品組成物を提供する。
【0031】
本発明において、シルク蛋白質は、出発物質として利用される。本明細書における用語‘シルク’は、絹糸昆虫が吐糸して作った繊維を意味し、好ましくは、蚕が吐糸する家蚕糸を意味する。
【0032】
本発明のペプチドの原料として利用されるシルク蛋白質は、シルクセリシンまたはシルクフィブロインである。シルク蛋白質は、フィブロイン及びセリシンからなっており、フィブロインとセリシンは、それぞれ平均75%と25%の比率で存在する。フィブロイン蛋白質は、グリシン及びアラニン含量が非常に高い反面、セリシンは、フィブロインと全く異なるアミノ酸組成を示しており、セリンが全体構成アミノ酸の1/3以上を占めている。最近の研究結果によると、シルクフィブロインは、H−鎖(350kDa)及びL−鎖(26kDa)がS−S結合をして、糖蛋白質のP25(30kDa)が前記2つの鎖と非共有結合により連結された構造をしており、それぞれ6:6:1のモル構成をしている2.3MDaの巨大蛋白質として究明されて、このような構造により、結晶領域と非結晶領域とが連続交互配列されたブロック形態の高分子性質を有するにようになる。
【0033】
本発明の好ましい具現例によると、利用されるシルク蛋白質は、シルクフィブロインである。
【0034】
本発明の好ましい具現例によると、前記加水分解は、(i)カルシウム塩溶液における加水分解、(ii)酸加水分解、(iii)蛋白質分解酵素による加水分解、及び(iv)これらの組み合せから構成された群から選択される反応により行われる。このようにして生成されたシルクペプチドは、200〜100,000の重量平均分子量を有する。
【0035】
本発明のより好ましい具現例によると、前記シルク蛋白質の分解は、(i)カルシウム塩溶液における加水分解、及び(ii)蛋白質分解酵素による加水分解を順次行って達成される。また、シルク蛋白質の分解は、好ましくは、(a)シルクフィブロインをカルシウム塩の含まれた溶液で溶解する段階;(b)前記シルクフィブロイン溶液に含まれたカルシウム塩を除去する段階;及び(c)前記シルクフィブロイン溶液に、フレーバーザイム及びスミザイム(sumizyme)が混合された蛋白質加水分解酵素を処理する段階を含み、最終的に生成されたシルクペプチドの重量平均分子量が200〜2,000である。
【0036】
前記(i)カルシウム塩溶液における分解は、通常的に、CaC12・エタノールをカルシウム塩として利用して行われる。段階(a)は、好ましくは、塩化カルシウム、水及びエタノールを含む溶液にシルクフィブロインを溶解して行われて、この場合温度は、60〜95℃、より好ましくは、70〜95℃、最も好ましくは85〜90℃である。段階(b)は、ゲル濾過クロマトグラフィのような多様な通常的な方法により行うことができる。段階(c)は、好ましくは、45〜60℃、より好ましくは、50〜60℃、最も好ましくは、約55℃で行われる。このようにして生成されたシルクペプチドは、25,000〜50,000の比較的高い重量平均分子量を有して、これは、化粧品成分としては適合しているが、生体内の吸収率が低いため、食品及び薬剤としては適合していない。
【0037】
前記(ii)酸加水分解により生成されたシルクペプチドは、200〜10,000の重量平均分子量を有する。多様な酸が使用できて、強い無機酸が好ましく、より好ましくは、塩酸が利用される。段階(ii)の反応温度は、好ましくは、70〜120℃、より好ましくは、90〜110℃、最も好ましくは、110℃である。このような分解方法は、分子量の少ないペプチドを形成させる長所はあるが、適当な分子量のペプチドを収得し難いという問題点がある。本発明の一具現例によると、前記酸加水分解方法(ii)は、(a)塩酸溶液で70〜120℃で加水分解を行う段階;(b)アルカリ性溶液を添加し、そのpHを上昇させる段階;及び(c)段階(b)で形成された塩を除去する段階を含み、最終的に生成されたシルクペプチドの重量平均分子量は、200〜3,000である。最も好ましくは、前記方法により生成されたシルクペプチドは、200〜1,500の重量平均分子量を有する。段階(b)で使用される最も適合したアルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム溶液である。段階(c)でゲル濾過クロマトグラフィのような多様な方法が利用できる。また、酸加水分解により収得された本発明のペプチドは、水に対して、実質的に100%の溶解度を示し、有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、アセトン、及びジメチルホルムアミド)に対しては、非常に低い溶解度を示す。
【0038】
前記酵素による加水分解は、蛋白質分解酵素を利用して行われる。好ましくは、前記分解酵素は、アミノ酸序列に非特異的に作用し、無作為加水分解を触媒するものである。前記分解酵素は、トリプシン、ペプシン、アルカラーゼ、サーモアーゼ(thermoase)、フレーバーザイム、スミザイム(sumizyme)、プロタメックス(protamex)、及びプロチン(protin)などを含むが、これに限定されるものではない。本発明のより好ましい具現例によると、本発明のシルクペプチドを得るために利用される酵素は、サーモアーゼ(thermoase)、フレーバーザイム、スミザイム(sumizyme)、及びこれらの組み合わせである。
【0039】
前記(iv)組み合せによる分解の場合、前記シルクフィブロインの分解は、(i)カルシウム塩による分解、または弱酸または塩基による分解段階;及び(ii)酵素による加水分解段階を順次行って達成される。好ましくは、前記シルクフィブロインの分解は、(i)カルシウム塩による加水分解、及び(ii)サーモアーゼ(thermoase)、フレーバーザイム、スミザイム(sumizyme)、またはこれらの混合物による加水分解を順次行って達成される。このようにして生成されたシルクペプチドの重量平均分子量が200〜15,000、好ましくは、200〜4,000、より好ましくは、200〜2,000、最も好ましくは、200〜1,200である。前記シルクペプチドは、水に対して実質的に100%の溶解度を示し、有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、アセトン、及びジメチルホルムアミド)に対しては、非常に低い溶解度を示す。最も好ましくは、前記シルクフィブロインの分解は、(a)シルクフィブロインをカルシウム塩の含まれた溶液で溶解する段階;(b)前記溶液に含まれたカルシウム塩を除去する段階;及び(c)前記シルクフィブロイン溶液にフレーバーザイム及びスミザイム(sumizyme)の混合物を処理する段階を含む。
【0040】
本発明における好ましいペプチドは、(a)シルクフィブロインを基質として、加水分解を通じて収得したペプチド;及び(b)シルクフィブロインを基質としてカルシウム塩分解をした後、トリプシン、ペプシン、アルカラーゼ、サーモアーゼ(thermoase)、フレーバーザイム、スミザイム(sumizyme)、またはその混合物により酵素分解する段階を通じて収得したペプチドである。より好ましいペプチドは、(c)シルクフィブロインを基質としてカルシウム塩分解をした後、サーモアーゼ(thermoase)、フレーバーザイム、スミザイム(sumizyme)、またはその混合物により酵素分解する段階を通じて収得したペプチドである。
【0041】
このようなシルクペプチドを含む本発明の組成物は、神経保護活性(即ち、神経細胞の保護活性)を通じて、脳疾患の予防または治療に効能を示す。本明細書における用語‘神経細胞’は、中枢神経系、脳、脳幹、脊髄、中枢神経系と末梢神経系の接合部分などの構造をなすニューロン、神経支持細胞、グリア、シューマン細胞などを含む。本明細書における用語‘神経保護(neuroprotective)活性’または‘神経細胞に対する保護活性’は、神経性インサルト(nervous insult)を軽減または改善(amelioration)する作用、または神経性インサルトにより損傷を受けた神経細胞の保護または回復させる作用を意味する。また、本明細書における用語‘神経性インサルト’は、様々な原因(例えば、代謝性原因、毒性原因、神経毒性原因、及び化学的原因など)により招来される神経細胞または神経組織の損傷を意味する。
【0042】
本発明の組成物を適用できる疾患の具体的な例は、退行性神経疾患、虚血または再潅流による疾患及び精神疾患などを含むが、これに限定されるものではない。より具体的には、前記疾患は、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症のような神経退行性疾患; 脳卒中(特に、虚血性脳卒中)のような虚血または再潅流損傷;そして憂鬱症、精神分裂症及び心的外傷後ストレス障害を含む。本発明の組成物は、虚血または再潅流による神経細胞の損傷による疾患(例えば、脳卒中)の予防または治療に特に有用である。
【0043】
本発明の組成物の上記のような効能は、主に、本発明のシルクペプチドの神経細胞保護作用を通じて現れる。本発明のシルクペプチドによる神経細胞の保護作用は、多様なメカニズムを通じて発揮でき、例えば、神経細胞の死滅を抑制することにより発揮されて、このような神経細胞の死滅は、神経細胞の壊死(necrosis)及びアポトーシス(apotosis)を含む。神経細胞のアポトーシスを抑制する場合、本発明のシルクペプチドのターゲットの1つは、カスパーゼ(caspase, Guy et. al., Cell 91:443-446(1987))であって、前記酵素の活性を抑制し、アポトーシスを抑制するようになる。
【0044】
本発明のシルクペプチドは、脳機能または認知機能(cognitive function)の改善にも優れた効能を示す。下記の実施例に記載のように、本発明のシルクペプチドは、認知機能の増進を裏付ける多様な指標、例えば、記憶指数(MQ)、学習スロープ(Learning slope)、記憶維持度、想起効率性(Recall efficiency)、描き/記憶一致度、言語/視覚一致度、知能/記憶一致度、そして短期記憶と注意集中力の全てにおいて、優れた効能を発揮する。
【0045】
また、本発明のシルクペプチドは、上記の脳疾患に伴われる頭脳機能の悪化を改善または予防するに優れた効能を示す。特に、本発明のシルクペプチドは、脳におけるアセチルコリン量の減少を抑制して、認知機能の増進を達成する。また、本発明のシルクペプチドは、神経細胞の死滅を抑制して頭脳機能の損傷を防止する。本発明の好ましい具現例によると、本発明のシルクペプチドが発揮する頭脳機能の増進は、学習能力及び/または記憶能力の増進である。
【0046】
アセチルコリンは、脳の基底核から大脳皮質と海馬に投射され、正常的な知識機能に非常に重要に作用する神経伝達物質である(Richter et. al., Life Sci. 19;26(20):1683-9(1980))。特に、学習と記憶は、アセチルコリン系に作用する薬物により変化され得るということが知られている。アルツハイマー型痴呆で死亡した例を検査した結果、全ての場合において、大脳皮質に投射する基底核のアセチルコリン性神経細胞が多量損傷されていることが発見されている。最近、アセチルコリンの濃度を増加させて認知能力の向上と痴呆の進行を防ぎ、痴呆治療及び予防に卓越な効果があることが知られ、患者を対象にコリン活性剤(agonist)やコリンエステラーゼ抑制剤を使用している。現在まで開発された薬物は、アセチルコリン前駆体(acetylcholine precursor)としてレシチン(Lecithin)、受容体活性剤(Receptor agonist)としてRS−86及びニコチンなどがあり、アセチルコリン分解抑制剤(acetylcholinesterase inhibitor)として、KFDAの承認を受けて国内でも市販中であるタクリン(Tacrine)と、最近承認されたアリセプト(Aricept)などがあるが、効果が一時的で微弱であり、深刻な毒性のため、使用に論難の余地が多い状態である。しかし、本発明のシルクペプチドは、人体に対する毒性がごくわずかであるため、頭脳機能を増進するための医薬または機能性食品として非常に有用である。
【0047】
本明細書における用語‘予防’は、疾患または疾病を保有していると診断されたことはないが、このような疾患または疾病にかかり易い傾向のある動物において、疾患または疾病の発生を抑制することを意味する。本明細書において、用語‘治療’は、(a)疾患または疾病の発展の抑制;(b)疾患または疾病の軽減;及び(c)疾患または疾患の除去を意味する。
【0048】
本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常的に利用されるものであって、炭水化物類化合物(例えば、ラクトース、アミロース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、セルロースなど)、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、塩溶液、アルコール、アラビアゴム、植物性オイル(例えば、玉蜀黍油、綿種油、大豆油、オリーブ油、ココナット油)、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むが、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明の薬剤学的組成物は、経口または非経口投与が可能であり、非経口投与の場合は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などが可能である。
【0050】
本発明の薬剤学的組成物の適合した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因により様々であり、普通に熟練した医者は、所望の治療または予防に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。本発明の好ましい具現例によると、適合した投与量は、成人基準に、一日一回、0.05〜10gである。
【0051】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できる方法に従って、薬剤学的に許容される担体及び/または賦形剤を利用して製剤化することにより、単位容量形態で製造するか、または多用量容器内に入れて製造できる。この際、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含むことができる。
【0052】
一方、本発明の食品組成物は、食品製造時に通常的に添加される成分を含むが、例えば、蛋白質、炭水化物、脂肪、栄養素及び調味剤を含む。例えば、ドリンク剤に製造する場合は、本発明のシルクペプチドの他に、クエン酸、液状果糖、砂糖、ブドウ糖、酢酸、リンゴ酸、果汁、杜仲抽出液、棗抽出液、甘草抽出液などをさらに含むことができる。食品に対する容易な接近性を考慮すると、本発明の食品は、神経性疾患の治療または予防、酸化ストレスにより招来される疾患の治療または予防、及び認知機能の改善に非常に有用である。
【0053】
本発明の組成物は、上述のように、多様な効能を示すだけではなく、天然物のシルクペプチドを有効成分として含んでいるため、人体に対する副作用が、化学的合成医薬に比べ、ごく少ない。
【0054】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないことは、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者にとって自明なことであろう。
【発明の効果】
【0055】
上述のように、本発明は、神経保護活性を有して、且つ体内吸収を促進できるよう低い分子量を有するシルクペプチドを効率的に製造する方法を提供する。
【0056】
また、本発明は、脳疾患を治療または予防する、または脳機能を改善するための、シルクペプチドを含む組成物を提供する。本発明の組成物は、発明の詳細な説明に記載された活性または効能を発揮して、天然物質のシルクペプチドを有効成分として含むため、人体に対する副作用が非常に少ない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のシルクペプチドの一種類が神経細胞の死滅に及ぼす影響を確認するためのMTT還元実験結果を示すグラフである。
【図2】本発明のシルクペプチドの、他の一種類が神経細胞の死滅に及ぼす影響を確認するためのMTT還元実験結果を示すグラフである。
【図3】本発明のシルクペプチドの一種類が神経細胞のアポトーシスを抑制することを示すヘキスト染色結果写真である。
【図4】本発明のシルクペプチドの、他の一種類が神経細胞のアポトーシスを抑制することを示すヘキスト染色結果写真である。
【図5】本発明のシルクペプチドの一種類がカスパーゼ活性を抑制することを示すグラフである。
【図6】本発明のシルクペプチドの、他の一種類がカスパーゼ活性を抑制することを示すグラフである。
【図7】本発明のシルクペプチドの一種類が細胞内活性酸素の生成を抑制することを示す写真である。
【図8】本発明のシルクペプチドの、他の一種類が細胞内活性酸素の生成を抑制することを示す写真である。
【図9】虚血による脳梗塞部位に対する本発明のシルクペプチドの効果を示す写真である。
【図10】虚血による脳梗塞部位に対する本発明のシルクペプチドの効果を示すグラフである。
【図11】虚血による脳梗塞部位に対する本発明のシルクペプチドの効果を示すグラフである。
【図12】虚血による脳梗塞部位に対する本発明のシルクペプチドの効果を示す写真である。
【図13】虚血−再潅流による認知機能損傷を防止する本発明のシルクペプチドの効能を示す受動回避テスト結果グラフである。
【図14】虚血−再潅流による認知機能損傷を防止する本発明のシルクペプチドの効能を示す8アーム迷路測定に対する結果グラフである。
【図15】虚血による認知機能損傷を防止する本発明のシルクペプチドの効能を示す海馬のH&E染色結果写真である。
【図16】パーキンソン病動物モデルを利用したアポモルフィンによる一側性回転反応実験結果を示すグラフである。
【図17】本発明のシルクペプチドのドーパミン神経細胞に対する保護効果を示すグラフである。
【図18】本発明のシルクペプチドが抗酸化作用をして、パーキンソン病に効能があることを示すマロンジアルデヒド実験結果グラフである。
【図19】本発明のシルクペプチドがパーキンソン病に効能があることを示すチロシンヒドロキシラーゼ染色結果グラフである。
【図20】本発明のシルクペプチドがパーキンソン病に効能があることを示すチロシンヒドロキシラーゼ染色結果グラフである。
【図21】本発明のシルクペプチドが、脳におけるアセチルコリンの濃度減少を抑制することを示すグラフである。
【図22】本発明のシルクペプチドを1回急性処置した場合の抗憂鬱効果を示すグラフである。
【図23】本発明のシルクペプチドを長期間繰り返し処置した場合の抗憂鬱効果を示すグラフである。
【図24】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の記憶指数(MQ)増進効果を示すグラフである。
【図25】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の記憶指数(MQ)増進効果を示すグラフである。
【図26】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の想起効率性増進効果を示すグラフである。
【図27】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の描き/記憶一致度向上効果を示すグラフである。
【図28】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の知能/記憶一致度向上効果を示すグラフである。
【図29】本発明のシルクペプチドの含まれたカプセル剤(BF−7)の記憶維持度増進効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
実施例I:機能性シルクペプチドBG201及びBG101の製造
実施例I−1:純粋シルクフィブロインの精製
本発明に使用した絹蛋白質は、家蚕(Bombyx mori)を全齢桑葉で飼育して得た蚕繭を精練して使用した。まず、セリシンを除去するために繭内に残っている蛹を除去して、水8l、炭酸ナトリウム0.45g及びマルセル石鹸0.75gを混合した溶液に蚕繭150gを入れて、40分間ずつ2回沸騰処理した。その後、適量の水でさらに20分間ずつ2回沸騰処理した後、3回水洗して乾燥すると、水溶性のセリシンが溶解されて除去される。この時の減少重量は、37g(約25%減少)であった。水洗後、自然乾燥して、純粋なフィブロイン蛋白質を得た。
【0059】
実施例I−2:シルクペプチドBG101の製造
前記実施例I−1の方法により得られたフィブロイン35gを基準に、塩化カルシウム(CaCl2、1級、Mw=110.99)・H2O・エタノール(1:8:2モル含量)を添加し、90℃で5時間反応して溶解した後、ガーゼ及び不織布で異物を完全に濾過した後、蒸留水で2倍希釈した。直径10cm、長さ1mのGradiFacシステム(Pharmacia Biotech, Sephadex G-25 Media, HiLoad P-50 Pump UV-1 Monitor, スウェーデン)を使用したゲル濾過装置で中性塩を除去した。その後、得られたフィブロイン溶液に対し、フレーバーザイム及びスミザイム(sumizyme;NOVA、米国)が混合(1:1)された蛋白質加水分解酵素を1%加えて、55℃で5時間加水分解を行った。その後、100℃で5〜10分間熱処理して酵素の活性をなくし、凍結乾燥により粉末を製造して、これを‘BG101’と命名した。
【0060】
実施例I−3:シルクペプチドBG201の製造
前記実施例I−1の方法により得られたフィブロイン113gを基準に、25%の塩酸水溶液3,400mlを添加して、110℃で12時間加水分解を行った。これを4M水酸化ナトリウム水溶液でpH5.0〜5.5に調節した。次いで、紙濾過により残留物を除去した後、活性炭で充填されたフィルターを通過させた後、電気透析装置内のサンプル槽に1,000mlを入れて、15V、20mAの電圧及び電流が自動に調節される装置を利用して、電気脱塩を行った。その後、スプレードライヤーにより粉末を製造して、これを‘BG201’と命名した。
【0061】
実施例II:シルクペプチドの分析
実施例II−1:分子量分析
前記実施例Iで製造されたBG101及びBG201に対して、ゲル透過クロマトグラフィにより絶対分子量を計算した。0.2N NaNO3を緩衝溶液として、約0.5%に濃度を調節した水溶液状態の試料を屈折率(RI)、光散乱(LS)、回折圧及び紫外線(280nm)吸光度値から絶対分子量の分布が自動に計算されるGPCシステム(Viscoteck、米国)装置を使用した。標準試料としてポリエチレンオキシド(PEO、Mw=110,000)を使用して、再現性を確認した。実験結果、BG101の重量平均分子量(weight average molecular weight, Mw)は、1070であって、BG201は、850であった。
【0062】
実施例II−2:溶媒による溶解度分析
前記実施例Iで製造したBG101とBG201の溶解度を幾つかの溶媒を使用して測定した。0.1gのシルクペプチド粉末を10mlの蒸留水、エタノール、メタノール、アセトン及びジメチルホルムアミドに溶解して、溶解度(単位%)を測定して、その結果は、表1に示した。表1から確認できるように、溶解度は、BG101粉末とBG201粉末の両方とも、蒸留水では完全に溶解されたが、エタノール、メタノールなどの有機溶媒では、溶解度が著しく低下した。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例II−3:pHによる溶解度分析
前記実施例Iで製造したBG101とBG201の溶解度をpHを変化させながら測定した。0.1gのシルクペプチド粉末を10mlの蒸留水に溶解して、溶解度を測定した。蒸留水のpHは、0.1N塩酸と水酸化ナトリウムでpH3、5、7、9及び11に調節した。実験結果、表2から分かるように、溶媒のpHに関係なく、シルクペプチドはよく溶解された。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例II−4:アミノ酸組成分析
前記実施例Iで製造したBG101とBG201のアミノ酸組成分析を行った。各サンプル0.05%を取って、6N塩酸水溶液1mlに入れて窒素処理した後、110℃で18時間加水分解を行った。塩酸を完全に蒸発させた後、pH2.2のローディング緩衝液に希釈した後、全自動アミノ酸機械装置(Amersham Pharmacia Biotech、モデル:Biochrom 20 Plus、スウェーデン)を利用してアミノ酸分析を行った。得られたアミノ酸組成(単位:mol%)は、表3に示した。
【0067】
【表3】
【0068】
表3の結果から分かるように、両方の試料ともアミノ酸の含量では大きい差を示していない。しかしながら、以下に記載のように、BG201とBG101は、インビボまたはインビトロで現れる効果及び効能にある程度の差があって、このような結果は、シルクペプチドを製造する方法により最終的に形成されたシルクペプチドの構造が、互いに相異なっていることを意味する。
【0069】
実験例I:脳神経細胞保護作用及び抗酸化作用の確認
前記実施例で製造されたシルクペプチドが脳神経細胞に及ぼす影響を調べるために、以下のような実験を行った。
【0070】
実験例I−1:神経細胞の選別及び細胞培養
神経細胞の一次培養は、Okudaらの方法(Okuda S. et al., Neuroscience 63(3):691-9(1994))を利用して、妊娠15日(E15)目のラット胎児の線状体(striatum)を分取して、0.25%トリプシンと0.01%DNase I酵素を処理して、個別細胞に分離した後、ピペットでさらに分離し、PEI−コーティングプレートに1×105細胞/cm2の密度で敷いて、三日後、ara−Cで神経膠細胞の培養を抑制し、純粋神経細胞を得た。また、必要に応じて、神経幹細胞株であるSK−N−SHまたはSHS−Y5Y(ATCC、米国)をPEI−コーティングプレートに80%密度で敷いて、DMEMまたはRPMIに10%FBSを補充した培養液で培養した。下記実験例のように、アミロイドβ(Aβ)、6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)、セラミド、H2O2または3−ヒドロキシキヌレニン(3−HK)を処理する時は、2時間低血清培地(1%FBS含有)で前処理した後、適合した時間処置した。
【0071】
実験例I−2:MTT還元実験(細胞生存性の確認)
BG101及びBG201が神経細胞の細胞死滅に及ぼす影響を調べるために、既存報告された方法(Shearman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 91(4):1470-4(1994), Shearman et al., J. Neurochem. 65(1):218-27(1995),及びKaneko et al., J. Neurochem. 65(6):2585-93(1995))を少々変形して、次のようにMTT還元実験を行った:BG101またはBG201の10pMを前記実験例で選別及び培養された神経細胞に6時間処理した後、10μMのAβ、10μMの6−OHDA、10μMのセラミド、300μMのH2O2、または250μMの3−HKを添加した。前記添加される物質は、細胞毒性により細胞死滅を誘導するようになるが、前記表示された濃度で36時間以内に50%程度の細胞死滅を誘導する。
【0072】
次いで、37℃及び5%CO2恒温器で48時間培養した後、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT:Sigma,米国)溶液を、最終濃度が0.5mg/mlとなるように各容器に添加した後、4時間30分間さらに培養した。
【0073】
MTTの還元により形成されたホルマザン(formazan)沈殿物を溶解溶液(無水イソプロパノール内の0.1N HCl)に溶解した後、ELISA判読器(Molecular Devices、米国)を利用して、570nmでの吸光度を測定した。各試料の値は、使用された溶媒のみを添加した対照群値を生存度100%として、0.9%トリトンX−100により細胞が完全に破壊された時の値を生存度0%として、相対的な値で表した(参照:図1及び図2)。図1及び図2において、各測定値は、平均(mean)±標準偏差(SD)で示したものである。図1及び図2から分かるように、本発明のBG101及びBG201は、神経細胞の細胞死滅を効果的に抑制することが分かった(P<0.05)。
【0074】
一方、上記の結果を追加的に確認するために、トリパンブルーまたはクリスタルバイオレット染色を通じて、アポトーシスが生じた細胞数と総細胞数を血球計数板で測定し、総細胞数に対する生存細胞の数として細胞生存性を測定し、その結果、図1a及び図1bの結果とほぼ等しい程度のBG101及びBG201の細胞死滅抑制効果を確認することができた。また、この細胞死滅は、細胞の自殺過程といえるアポトーシスの形を取っており、これは、次の実験例である、細胞膜の堅固性と細胞の形態を観察するヘキスト染色(Hoechst staining)を利用したDNA形状を観察することにより、再確認することができた。
【0075】
実験例I−3:ヘキスト染色(Hoechst staining)
前記実施例I−2と同様な方法によりBG101またはBG201を6時間処理して、培養された細胞に、前記実施例I−2と同一な濃度のAβ、セラミド、H2O2、6−OHDAまたは3−HKを処理した。次いで、4%パラホルムアルデヒド(in PBS, pH 7.4)で15分間固定し、PBSで洗浄した後、8μg/mlヘキスト33258溶液(Sigma,米国)で5分間それぞれの処理細胞を染色した。その後、蒸留水で2回洗浄して、グリセロール/PBS(9:1)でマウントした後、蛍光顕微鏡(Olympus Microscope、日本)で観察した(図3及び図4参照)。その結果、図3及び図4において、アポトーシス誘発物質(insult)のみを処理した細胞は、染色体の凝縮や核酸断片化(nuclear fragmentation)のような典型的なアポトーシス形状(morphology)を確認することができた。反面、BG101とBG201を前処理してインサルトを処理した場合、インサルトを単独処理した実験群に比べ、染色体凝縮や核酸断片化が効果的に阻害されていることを確認した。モック(mock)で表示されたものは、対照群であって、正常的な核の成長を示している。図2から分かるように、本発明のBG101及びBG201は、アポトーシスを効果的に抑制することが分かって、前記実験例I−2の結果の信頼性を再確認することができた。
【0076】
実験例I−4:カスパーゼ活性実験
前記実験例I−2及びI−3の結果において、BG101またはBG201がアポトーシスを抑制する効果が、カスパーゼ活性抑制によるものであるかどうかを調べるために、次のような実験を行った:まず、前記実験例I−2と同一な方法により、BG101またはBG201を6時間処理して、培養された細胞に、前記実験例I−2と同一な濃度のアミロイドβ、6−OHDA、セラミド、H2O2、FeSO4または3−HKを処理した。P100プレート当たり10×106細胞を1mlの細胞溶解緩衝液(50mM Tris-Hcl, 0.03% IGEPAL, 1mM DTT, pH 7.5)で破壊して細胞溶解液を得た。その後、細胞溶解液50μlにHEPES緩衝液(40mM HEPES, pH 7.5, 20%グリセロール, 4 mM DTT)内にあるカスパーゼの蛍光生成基質であるAc−DEVD−AMC(Enzyme Systems Products, カナダ)を500μM添加して、1時間37℃で反応させた。また、カスパーゼ活性抑制に対する陽性対照群として活用するために、広範囲(Pan)−カスパーゼ抑制剤であるzVAD−FMK(Enzyme Systems Products, ESP, カナダ)を10μM前処理した試料を用意した。
【0077】
その後、カスパーゼにより前記基質が切断される時に生成される蛍光程度を蛍光測定器(Perkin-Elmer Luminometer: 励起波長380nm, 放射波長420-460 nm)で測定した。また、切断されたFMKが蛍光程度を用いて標準曲線を得て、前記蛍光測定値を相対的に定量化した(図5、図6参照)。図5及び図6において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである(P<0.05)。図から確認できるように、本発明のBG101またはBG201は、アポトーシスを招来する物質により誘導されるカスパーゼ活性を抑制するということが分かる。つまり、本発明のBG101またはBG201のアポトーシス抑制効果は、カスパーゼ活性抑制と係っていることが分かる。
【0078】
実験例I−5:細胞内活性酸素の定量的検出
活性酸素は、老化の最も主要な原因であるばかりか、各種疾患の直・間接的な原因でもある。そこで、本発明のシルクペプチドが活性酸素に及ぼす影響を以下のように調査した。
【0079】
前記実施例I−2と同様な方法により、BG101またはBG201を6時間処理して、培養された細胞に前記実験例I−2と同一な濃度のAβ、6−OHDA、セラミド、H2O2,FeSO4または3−HKを処理した。次いで、培養した細胞に、HCSS緩衝液(20 mM HEPES, 2.3 mM CaCl2, 120 mM NaCl, 10 mM NaOH, 5 mM KCl, 1.6 mM MgCl2, 15 mM グルコース)に溶解させた10μMのDCFDA(6-carboxy-2',7'-dichloro-dihydrofluoresceine diacetate, dicarboxym- ethylester)と懸濁補助剤である2%プルロニックF−127とを37℃で30分間処理した。細胞内活性酸素によるDCF蛍光は、室温で、水銀ランプ蛍光付属を備えたOlympus IX70倒立顕微鏡上で観察し(励起波長488nm、放射波長510nm)、CCDカメラで画像を捉えた後、NIH Image 1.65プログラムを利用して、映像分析した(図7及び8参照)。
【0080】
図7及び図8でモックで表示されたものは、使用された溶媒のみを処理したものである。図7、8から分かるように、Aβ、6−OHDA、セラミド、H2O2,FeSO4または3−HKにより活性酸素が発生することを確認することができる。その反面、BG101またはBG201が前処理された場合、それぞれのアポトーシス誘発物質により増加される活性酸素を著しく抑制していることが分かる。
【0081】
したがって、本発明の BG101またはEDは、Aβ、6−OHDA、セラミド、H2O2,FeSO4または3−HKにより招来される活性酸素の形成を抑制する作用により、生体内で抗酸化作用をすることができるということが分かる。
【0082】
実験例II:虚血動物モデル実験
前記実施例で製造された本発明のシルクペプチドBG101またはBG201が虚血による脳梗塞面積に及ぼす影響を調べるために、次のような実験を行った。
【0083】
実験例II−1:局部的虚血誘導動物モデル
A.薬物処理及び局部的虚血誘導動物モデルの製作
体重200〜250gの雄性白鼠(Sprague-Dawley rat)を利用して局部的虚血誘導動物モデルを製作した。薬物は、1g/kgのBG101を、虚血誘導の1時間前に1回または虚血誘導の1時間後に1回口腔投与して(口腔投与群、n=6)、虚血対照群(n=6)は、薬物処理群と同じ容量の生理食塩水を投与した。実験動物にケタミン(ketamine)30〜40mg/kgを筋肉注射して麻酔した後、仰臥位で頚部に皮膚切開を加え、頚動脈(common carotid artery)、外頚動脈(external carotid artery)、及び内頚動脈(internal carotid artery)を探して、周囲組織と分離させた。まず、外頚動脈の分枝である上部甲状腺動脈と後頭動脈を電気焼灼して、内頚動脈の分枝である翼口蓋窩(pterygopalatine)動脈を電気焼灼して、外頚動脈を切断し、4−0ナイロン糸(ETHICON, INC, 米国)を外頚動脈を通じて内頚動脈に挿入した後、頚動脈分枝からナイロン糸の16〜18mmが入るように位置させて、中大脳動脈(Middle Cerebral Artery)基始部を閉塞した。
【0084】
B.虚血による脳梗塞部位減少効果の実験
虚血誘導6時間後、動物を断頭して脳を摘出した。摘出された脳は、前極(anterior pole)から2mm間隔で切片して、2%トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC、Sigma、米国)溶液で37℃で30分間反応した後、4%パラホルムアルデヒド(Sigma、米国)溶液に入れて固定した。染色された組織切片を撮影した後、写真(図9及び12参照)を、MCID image processing system (Imaging Research Inc., カナダ)を利用して、赤色に染色された正常部位と違って、脳梗塞が発生し白色に変わった部位の面積を測定し、全体脳切片の面積に対する脳梗塞面積の比率を求めた後、平均値を計算した(図10)。
【0085】
図9から分かるように、本発明のシルクペプチドは、虚血による脳梗塞部位を、対照群に対し、有意性のある水準に減少させている(P<0.05)。脳梗塞減少効果が特定部位に偏ることなく、全般的に現れていることを観察した(図10)。また、図10及び11から分かるように、全体脳切片の体積に対する脳梗塞体積の比率を測定した結果、BG101前処理が、局部的虚血による脳梗塞部位の減少に有意な効果を示した(平均±標準偏差)。
【0086】
また、図12から分かるように、虚血誘発後に処置された本発明のシルクペプチドは、脳梗塞による損傷部位を有意に減少させた。
【0087】
したがって、本発明のシルクペプチドは、虚血性脳卒中の予防と治療に係る機能性食品及び薬物に有用に使用できることが分かる。
【0088】
実験例II−2:局部的虚血−再潅流誘導動物モデル
A.薬物処理及び局部的虚血−再潅流誘導動物モデルの製作
200〜250gの雄性白鼠にケタミン30〜40mg/kgを筋肉注射して麻酔させた。 頚動脈、外頚動脈、及び内頚動脈を周囲組織と分離させた。まず、外頚動脈の分枝である上部甲状腺動脈と後頭動脈を電気焼灼して、内頚動脈の分枝である翼口蓋窩(pterygopalatine)動脈を電気焼灼して、外頚動脈を切断し、4−0ナイロン糸を外頚動脈を通じて内頚動脈に挿入した後、頚動脈分枝からナイロン糸の16〜18mmが入るようにして位置させた。皮膚切開を復元させた後、麻酔から自然回復させて、1時間後、挿入されたナイロン糸を除去し、再び血液を再潅流させた。
【0089】
BG101またはBG201の投薬は、それぞれ1g/kg容量で虚血−再潅流後、翌日から6日間、1日1回ずつ、総7日間、7回口腔投与した。実験対照群としては、虚血を誘導していない正常対照群と、薬物処理群と同じ回数、同じ容量の生理食塩水を投与した虚血対照群とを使用した。局部的虚血−再潅流誘導7日後、受動回避測定(Passive avoidance test)と、8方迷路測定(8-arm maze test)を実施した。
【0090】
B.学習及び記憶検査
B−1.受動回避テスト(Passive avoidance test)
実験装置としては、自動化されたシャトルボックス(Model PACS-30, Columbus Instruments International Company)を利用した。シャトルボックスは、仕切り戸(3″L x 2.625″W)により同じ大きさ(19″L x 9″W x 10.875″H)の2つの部屋に分かれており、部屋の床は、電流を流し得るように装備されている。ヒンジプレキシガラスリッド(hinged plexiglass lid)に載せておいた20W電球により各ルームを照明できるようにした。白鼠は、仕切り戸を通って暗い部屋に入ることができる。騒音が60dB以下であり、照明を暗くしたルームで実験を行った。白鼠を、最初は明りのある部屋に入れて、仕切り戸を開けると、部屋の中をあちこち見回しながら、暗い部屋に入るようになるが、この時、仕切り戸が自動に閉まって照明が消えるようになる。このような訓練課程を、白鼠が20秒内に暗い部屋に入れるようになるまで行い続ける。訓練課程を終えた24時間後、再び白鼠を照明のある部屋に入れて、白鼠が暗い部屋に入ると、仕切り戸が閉まって、シャトルボックスの床に3秒間電流(1mA)が流れるようにした。局部的虚血−再潅流誘導7日後、再びこの白鼠をシャトルボックスの照明のある部屋に入れた後、暗い部屋に移動するまでの時間を測定した。最大に暗い部屋に入らない時間を5分として行った(図13)。
【0091】
図13において、潜伏時間(Latency time)の変化は、記憶力の減退と回復を示すが、この時間が長くなるほど、記憶力が上昇されたことを意味する。正常対照群(sham operated control group)では、潜伏時間の変化がなく、溶媒のみを投与した虚血対照群では、潜伏時間が、シャム対照群に比べ、有意に減少した(P<0.05)。一方、BG101またはBG201を繰り返し投与した群では、潜伏期間がほぼ正常水準に有意に回復される傾向を示した(P<0.05)。特に、BG101投与群での潜伏時間の回復が、BG201投与群よりさらに大きいことから、BG101の効能がさらに優れていることが判明された。
【0092】
B−2.8方迷路測定(8-arm radial maze test)
実験装置として8方放射形迷路(Etho Vision, オランダ)を使用した。床から45cm離れており、8角状の中央(半径34cm)から8個のアーム(長さ60cm及び幅12cm)が延出されており、アームと中央部位は、壁(高さ40cm)からなっている。各アームの末端は、餌コップが設けられている。補償としてヒマワリの種を使用した。迷路の周りを暗くして50Wの光を照らし、ビデオカメラでモニターした。学習訓練の1週間前から餌を80%に減少させて供給した。雄性のラットを迷路に、1日3回、30分間ずつ放置して、三日間適応させた後、一匹ずつ迷路に入れて、餌コップにあるヒマワリの種を食べきれるまでの各アームを訪問する回数と時間を測定して、2分内にエラー数が2回以内になるまで訓練をさせた。一度入ったアームに再び入る回数をエラー数とした。
【0093】
訓練された雄性のラットを、下記の方法により脳虚血動物モデルにして、BG101またはBG201を1g/kg容量で、経口で一日一回ずつ、七日間投与して、その後から5日間のエラー数とlatency timeを対照群と比較した。
【0094】
受動回避測定では検索できない脳虚血による空間記憶力損傷(spatial memory)を、BG101またはBG201が保護する効能があるかどうかを調べるために、中脳動脈(MCA)を一時的に塞いで作った脳虚血動物モデルを利用して、8方迷路測定を行った。投与1週間後から五日間迷路テストを行った結果、投与1日後から五日目までのエラー数が、対照群では、手術前とほぼ変わりがなかった(図14)。三日目からBG101またはBG201投与群のエラー数が有意に減少して、特にBG101投与群のエラー数がBG201投与群のエラー数に比べさらに減少する傾向を示した。測定の最後の日まで、BG101またはBG201投与群のエラー数は、対照群のエラー数の水準に減少した反面、溶媒だけを投与した群のエラー数は、回復されなかった(*P<0.05)。
【0095】
以上の結果から、中脳動脈の一時的閉塞により空間記憶力が減退するようになるが、BG101またはBG201の繰り返し投与により、このような空間記憶力の減退が抑制されたため、BG101またはBG201が脳虚血による学習と記憶力の減退に対し抑制効能を有することが確認された。図14において、各測定値は、平均(mean)±標準偏差(SD)を示す。
【0096】
C.海馬(hippocampus)におけるヘマトキシリン及びエオシン(Hematoxylin & Eosin: H&E)染色
実験動物において、脳虚血による記憶と学習能力の低下現象が海馬の損傷と密接な関連があるという研究結果がたくさん報告されている(Hodges et al., Neuroscience, 72(4), 959-88, 1996)。したがって、海馬の特定部位(CA1, CA2, DG)において、本発明の効能を測定した。
【0097】
C−1.組織準備
前記実験例II−2Bの測定を済ませた実験動物をクロラル水化物(chloral hydrate: 400 mg/ml)で麻酔した後、心臓を通じて0.1Mリン酸塩緩衝塩水(PBS, pH 7.4)200mlを潅流させて血管内の血液成分を除去し、固定液(4% paraformaldehyde/PBS)250〜300mlを潅流させた。脳を摘出して同一固定液で15〜24時間4℃で後固定(post-fixation)を行った。PBSで固定液をきれいに洗浄した後、10%、20%及び30%スクロース(sucrose)溶液を順に浸透させて、凍結時に生じる結氷顆粒(ice crystal)を防止した。脳組織を包埋液で包埋して、液体窒素で予め冷却させたイソペンタンに入れて急速冷凍させた後、、ミクロトーム(Cryostat; Reichert Frigocut model 2000)を使用して10μm厚に連続冠状切片を行って、ゼラチンでコーティングされたスライドガラスに直に付着し、1時間室温で乾燥した後、−70℃で保管した。
【0098】
C−2.H&E染色
保管されたスライドガラスを取り出して、蒸留水で洗浄し、ヘマトキシリンで10分間反応した。反応後、スライドガラスを、1%HClを含む70%エタノールで処理し剰余のヘマトキシリンを除去して、アンモニアを処理して固定する。再び組織を、エオシンを利用して約20秒間染色した後、蒸留水で洗浄する。その後、70%、90%及び100%エタノールを利用して脱水して、キシレンで処理した後、カバーガラスとカナディアンバルサム(Canadian balsam)で封入して、光学顕微鏡で観察した。
【0099】
C−3.H&E染色分析結果
BG101による海馬におけるH&E染色結果、虚血のみを誘発した実験対照群において、細胞死滅過程で典型的に現れる、細胞核に沈着されたエオシンが固まっている様相(eosinophilic)が海馬の全般的な部分(CA1, CA2, DG)で発現されることが確認された(図15、矢印)。反面、本発明のシルクペプチドを投与した実験群(BG101処置群)では、実験対照群に比べ、正常形態の細胞が有意に増加されていることが観察された。
【0100】
正確な作用メカニズムについては、さらなる研究が必要であるが、BG101またはBG201は、神経細胞のアポトーシスと認知機能の損傷を防止して、新しい脳虚血治療剤として利用可能であることが分かる。
【0101】
実験例III:パーキンソン病の動物モデル実験
パーキンソン病の誘発薬物として広く使用されている水酸化ドーパミン(6-hydroxydopamine, 6-OHDA)は、カテコールアミン性神経細胞の細胞膜を通じて吸収されて、選択低にカテコールアミン性神経細胞に毒性を示す。水酸化ドーパミンを片側の脳に注入してドーパミン神経細胞を破壊した動物モデルは、その反対側の脳を対照群として使用することができて、自発的な運動及び薬物により誘発される回転運動を比較することができ、非常に広く使用されている。
【0102】
本発明の蚕シルクペプチドであるBG101及びBG201がパーキンソン病に及ぼす影響を調べるために、次のような実験を行った。
【0103】
実験例III−1:進行性パーキンソン病の動物モデルの構築
水酸化ドーパミンを白鼠の脳の片側線状体(striatum)に注入して、ドーパミン神経細胞の漸進的退行変性を起こすJooらの方法(Joo WS et al., Neuroreport, 9(18), 4123-4126, 1998)の方法を利用して、動物モデルを次のように製作した。
【0104】
まず、体重200〜250gの雄性白鼠(Sprague-Dawley rat;大韓バイオリンク、大韓民国)にエキテシン(equithesin)3ml/kgを腹腔に注射して麻酔した。麻酔動物を脳定位手術器具(stereotaxic frame, David Kopf, 米国)を利用して頭蓋骨を穿孔して、対照群(sham group)には、0.2mg/mlアスコルビン酸を使用して、病変群(lesioned group)とBG101またはBG201口腔投与群(treated group)は、水酸化ドーパミン(20μg/5μl free base in 0.2 mg/mlアスコルビン酸)を右側線状体に、ハミルトン注射器(10μl、26G針)を使用して、分当たり1μlの速度で注入した(Paxinos et al., J. Neurosci. Methods. 3(2), 129-149, 1980)。薬物注入後5分間は針をそのままおいてから、分当たり1mmの速度で針を抜いた後、切開部位を縫合した。一方、BG101またはBG201は、1g/kg及び5g/kgの二種類の容量で口腔投与した。
【0105】
進行性パーキンソン病動物モデルにおいて、水酸化ドーパミンの効果判定は、病変製作14日後、アポモルフィン(apomorphine)を利用した行動分析を通じて、行動学的変化を先に確認して、翌日動物を頚椎脱臼させた後、脳を摘出して実験に使用した。ドーパミン神経細胞に対するBG101とBG201の保護効果を判定するために、脂質過酸化度測定、HPLCを利用した線状体内のドーパミン濃度測定及びチロシンヒドロキシラーゼに対する免疫組織化学染色法を行った。
【0106】
実験例III−2:アポモルフィンによる一側性回転反応実験
水酸化ドーパミンを利用して製作したパーキンソン病動物モデルにおいて、時間経過による行動学的変化を、病変製作後14日目にアポモルフィン(0.5mg/kg)を後頚に皮下注射して、60分間一側性回転反応を測定した(図16)。本実験は、ドーパミン性神経細胞が死滅され、線状体内のドーパミンの濃度が減少すると、線状体内のドーパミン受容体の過敏性が誘発されて、アポモルフィンはドーパミン受容体に活性剤として作用し、過敏性の誘発された線状体を過度に興奮させ、動物は、損傷側と反対方向に回転運動をするようになる原理を利用したものである(Ungerstedt, Brain Res. 24, 485-493, 1970)。回転運動は、Ungerstedtの前記論文に記載の自動化された回転運動測定器(rotometer)を利用して、各回転数は、[純回転数(net turns)=非病変側回転数(contralateral)−病変側回転数(ipsilateral)]で算出した。
【0107】
図16から分かるように、0.2mg/mlアスコルビン酸を線状体に投与した正常対照群の一側性純回転数は、大きい変化を示さなかったが、水酸化ドーパミンのみを投与した病変対照群では、一側性純回転数は、有意に増加した(P<0.05)。一方、本発明のシルクペプチドを投与した実験群では、対照群に比べ、一側性純回転数が有意に減少して、投与量が増加するにつれてその効果も増加することが分かる(P<0.05)。図6において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0108】
実験例III−3:線状体内のドーパミン及びその代謝産物の含量測定
本発明のBG101及びBG201が、パーキンソン病の重要な原因であるドーパミン神経伝達物質の濃度に及ぼす影響を調べるために、前記実験例III−2と同様にBG101またはBG201を投与して病変を製作し、2週間後、線状体でドーパミン(DA)と3,4−ジヒドロキシフェニルアセト酸(3,4-dihydroxyphenylacetic acid: DOPAC)濃度を高性能液体クロマトグラフィ(HPLC, Gilson, フランス)を利用して測定した。
【0109】
A.組織準備
白鼠を頚椎脱臼して犠牲させた後、直に脳組織を摘出して、脳切片器(brain slicer; ZIVIC MILLER、米国)を利用して視神経交叉(optic chiasma)から2mm間隔の切片を取って、組織穿孔器(tissue punch)を利用して黒質を分離した。黒質分離後、残りの前(anterior)部の脳を、冷却されたガラス板上で大脳正中裂に沿って左右大脳半球を分離した後、脳梁(corpus callosum)を境として、視床及び大脳皮質から線状体のみを分離した。これをドライアイスを利用して急速凍結させた後、−70℃で保管した。
【0110】
B.分析方法
凍結された検体に、冷却された0.1M過塩素酸(perchloric acid)と1mMEDTAを加えて、超音波破砕器で組織均等液を製造した後、12,500gで20分間遠心分離し、その上層液を取った。上層液をニトロセルロース膜濾紙(孔大きさ0.2μm)で濾過して、HPLCに注入した。分離条件は、WATERS uBondapakTM C18 3.9×300mmカラム(粒子大きさ10μm)を使用して、移動相は、0.07M リン酸ナトリウムモノベーシック、1mM オクタンスルホン酸ナトリウム、0.1mM EDTA及び8%アセトニトリル(pH4.0)溶液を流速0.7ml/分として使用した。各物質の濃度測定のために、組織均等液の製造時、一定量のジヒドロキシベンジルアミンを添加して、内部標準物質として使用して、分離された物質は、電気化学検出器で検出した。
【0111】
C.HPLC測定結果
図17から分かるように、線状体内のドーパミン比率(病変側/非病変側、%)は、シャム対照群に比べ、水酸化ドーパミンのみを投与した対照群で有意に減少した(P<0.05)。一方、本発明のシルクペプチドを投与した実験群では、水酸化ドーパミンのみを処理した対照群に比べ、ドーパミン濃度が有意に増加したことが分かり、投与量が増加するにつれて、その効果も増加することが分かる(P<0.05)。図17において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0112】
パーキンソン病は、黒質に位置したドーパミン神経細胞の消失により、これらの神経細胞が投射(innervation)されている線状体内にドーパミンの濃度が減少して現れる疾患であって、6−OHDAによるドーパミン濃度の減少は、黒質に位置したドーパミン神経細胞の消失及び線状体内におけるドーパミン神経線維末端の消失を表す重要な尺度である。実際、パーキンソン病末期患者において、線状体内のドーパミン含量は、正常人に比べ、約10%程度しか存在しない。したがって、本発明のシルクペプチドによりドーパミン濃度の減少が抑制される本実験の結果は、ドーパミン神経細胞に対する保護効果を生理的及び生化学的に立証する。
【0113】
実験例III−4:線状体における脂質過酸化の測定(マロンジアルデヒド実験)
前記実験例III−2で口腔投与した本発明のBG101またはBG201が脂質過酸化を抑制するかどうかを調べるために、前記実験例III−2と同様にBG101またはBG201を投与して病変を製作した後、2週間後に線状体内のマロンジアルデヒド(MDA)の量を測定した。
【0114】
A.組織準備
上述の方法により線状体を取って、クレブスーリンゲル緩衝溶液(Krebs-Ringer Buffer, NaCl 120mM, KCl 4.8mM, CaCl2 1.3mM, MgSO4 1.2mM, NaHCO3 25mM, Glucose 6mM, pH 7.6)を添加して、超音波破砕器(sonicator)で組織均等液を製造して実験に使用した。
【0115】
B.脂質過酸化測定
脂質過酸化度合いの尺度であるTBARS(Thiobarbituric acid reactive substances)の濃度測定は、Ohkawaら(Anal Biochem. 95(2):351-8(1979))の方法に従って測定した。一定量の組織均等液に8.1% SDS, 20% acetic acid (pH 2.5), 0.8% Thiobarbituric acid (TBA)を加えて、自己酸化を抑制するために、BHT(2,6-di-t-butyl-p-cresol, 200uM)を加えた後、100℃で30分間反応した。反応後、氷水に容器を浸して、急速に温度を下げ、反応を中断した後、吸光光度計により532nmの波長で試料を測定し、TBARSの濃度を計算した。
【0116】
MDA−TBA(Malonaldehyde-thiobarbituric acid)complexの濃度は、Lazzarinoら(Lazzarino et al., Free. Radic. Biol. Med. 13(5), 489-98, 1992)とChirico(1987)の方法に従ってHPLCで測定した。前記試料を5uM Lichrosper 100 RP18 column(4.6×250mm)に注入して、65%KH2PO4(50mM)/15%メタノール/20%アセトニトリルで0.9ml/minの速度で溶出し、UV/visible検出器(Hewlett-Packard, Series 1050)で検出して、BG101A−TBA complexのピーク確認のために、標準試料として1,1,3,3-tetramethoxypropane(prepared in ethanol/water 40:60, v/v)を使用した。
【0117】
C.測定結果
線状体内におけるMDA生成比率((病変側/非病変側、%)は、TBARSの濃度に対するMDA−TBA complexの相対的な濃度(%)で表示して、その値は、図18に示されている。図18から分かるように、線状体内の脂質過酸化度合いは、シャム対照群に比べ、水酸化ドーパミンのみを投与した対照群で有意に増加した(P<0.05)。一方、本発明のシルクペプチドを投与した実験群では、対照群に比べ、脂質過酸化度合いが有意に減少したことが分かり、投与量が増加するにつれて、その効果も増加することが分かる(P<0.05)。図18において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0118】
老化及び退行性疾患の最も大きい原因は、活性酸素であって、活性酸素は、蛋白質と脂質の過酸化を誘発し、過酸化された脂質及び蛋白質が正常的な機能を失って、細胞が弱化され、老化が起こるようになる。また、DNAに対しても酸化的損傷を起こし、突然変異を誘発したりもする。最近、パーキンソン病患者において、グルタチオンペロキシダーゼ、カタラーゼなどのような抗酸化酵素の減少と第1鉄イオンの増加により、非正常的にヒドロキシルラジカルの量が増加されるという報告は、酸化的ストレスがパーキンソン病の重要な発病因子であることを示唆している(Ogawa, Eur. Neurol. 34(suppl), 20-28, 1994)。したがって、脂質の過酸化を減少させる本発明のシルクペプチドは、抗老化効果を有するということが分かる。
【0119】
実験例III−5:黒質におけるTH免疫陽性細胞比率測定(TH免疫組織化学実験)
本発明のBG101またはBG201がパーキンソン病動物モデルに及ぼす影響を組織学的変化により確認するために、TH免疫組織化学法を行った。前記実験例III−2と同様にBG101またはBG201を投与して病変を製作し、2週間後、黒質切片にチロシンヒドロキシラーゼ(TH)に対する免疫組織化学染色を施して、高倍率で観察し、染色されたTH免疫陽性細胞を計数した。
【0120】
A.組織準備
前記実験例II−2と同様にBG101またはBG201を投与して病変を製作した動物をクロラル水化物(chloral hydrate, 400mg/ml)で麻酔した後、心臓を通じて0.1M PBS(pH7.4)200mlを潅流させて血管内の血液成分を除去し、固定液(4%パラホルムアルデヒド/PBS)250〜300mlを潅流させた。次いで、脳を摘出して、同一固定液で15〜24時間4℃で後固定を行った。その後、PBSで固定液をきれいに洗浄した後、10%、20%及び30%スクロース溶液を順に浸透させて、凍結時に生じる結氷顆粒(ice crystal)を防止した。その後、脳組織を包埋液で包埋して、液体窒素で予め冷却させたイソペンタンに入れて急速冷凍させた後、ミクロトーム(Cryostat; Reichert Frigocut model 2000)を使用して40μm厚に連続冠状切片を行って、30%グリセロール、30%エチレングリコール及び10%リン酸塩緩衝液(PB)が含有された保存液に保管した。
【0121】
B.免疫組織化学分析
保存液に入っている組織を取り出して、PBSで10分間ずつ3回洗浄して、5%過酸化水素で10分間反応した。次いで、10%ヤギ血清(normal goat serum; NGS)、3%牛血清アルブミン(BSA, Sigma)及び3%Triton X-100で30分間反応した。第1抗体としてラットαTH(希釈倍数1:500, Boehringer Mannheim)を使用し一晩中反応して、翌日バイオチン化(biotinylation)された2次抗体(Vector laboratories、米国)で室温で1時間反応した。30分前に予め1:100で希釈混合したアビジン−バイオチン−ペロキシダーゼ複合体(ABC, Vector laboratories、米国)で室温で1時間反応した。その後、DAB(diaminobenzidine 0.05%, H2O2 0.003%)に入れて5分間発色させて、ゼラチンでコーティングされたスライドに組織を付けて乾燥させた。その後、70%、90%、及び100%エタノールを利用して脱水させて、キシレンで処理した後、カバーガラスとカナディアンバルサム(Canadian balsam)で封入して、光学顕微鏡で観察した。以上の各培養段階で、過剰の試薬はPBSで10分間ずつ3回洗浄して、対照染色のために、第1抗体または第2抗体の代わりに、血清(normal serum)を入れて、他の組織と共に処理した。
【0122】
C.免疫組織化学分析結果
BG101またはBG201による線状体及び黒質におけるTH免疫組織化学染色結果と、黒質におけるTH免疫陽性細胞比率(病変側/非病変側、%)の変化は、それぞれ図19と図20に示されている。
【0123】
図19から分かるように、正常対照群のTH免疫染色は、全体線状体で明らかに発現されており、黒質に位置したドーパミン神経細胞も大部分発現されることを確認した。反面、病変対照群の線状体は、上肢(upper limb)運動支配地域としてよく知られた背側面部位(Doso-lateral area)が染色されていないことが確認できて、この地域を神経支配する黒質密集部(par compacta)のドーパミン神経細胞が大部分消失されていることが観察された。一方、本発明のシルクペプチドを投与した実験群では、病変対照群に比べ、線状体と黒質においてドーパミン神経線維末端と神経細胞体が有意に保護されていることが確認できる。
【0124】
図20から分かるように、黒質におけるドーパミン神経細胞の保護効果を測定するために計数(count)してみた結果、TH免疫陽性細胞比率が、正常対照群に比べ、水酸化ドーパミンのみを投与した病変対照群で有意に減少した(P<0.05)。一方、本発明のシルクペプチドを投与した実験群では、対照群に比べ、TH免疫陽性細胞比率が有意に増加したことが分かり、投与量が増加するにつれて、その効果も増加することが分かる(P<0.05)。図20において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0125】
チロシンヒドロキシラーゼ(TH)は、チロシンからドーパミンを生成する代謝過程の核心的な酵素である。即ち、THにより染色されるドーパミン神経細胞と神経末端は、ドーパミンを生成することができて、ドーパミン性神経回路網(Dopaminergic neural network)を構築することができるため、上述の実験結果は、本発明のシルクペプチドによるドーパミン神経細胞の保護効果を立証するものである。したがって、本発明のシルクペプチドは、退行性脳疾患であるパーキンソン病の予防と治療に係る機能性食品及び薬物に有用に使用できることが分かる。
【0126】
実験例IV:アセチルコリン濃度に対する影響
アミロイドβ処理により脳損傷を被り、アセチルコリンの量が減少された実験動物のラットにおいて、本発明のBG101またはBG201がアセチルコリン量の減少を抑制することにより、認知機能向上及び退行性脳疾患抑制機能を果たすことができるのかを検査した。
【0127】
実験例IV−1:実験動物の準備
実験動物は、雄性白鼠(Sprague Dawley、140-180g、大韓実験動物センター)であって、一定な環境(室内温度25±1℃、相対湿度60±10%)下で一週間、1つの飼育箱当たり4匹ずつ入れて、水と餌を制限無く摂取するようにして環境に適応させた後、実験に使用した。
【0128】
実験例IV−2:アセチルコリン濃度の測定
アセチルコリンの濃度変化に及ぼす影響を確認するために、IslaelとLesbatsの方法(J Neurochem. 37(6):1475-83(1981))により、化学発光(chemiluminescence)を利用してアセチルコリンの濃度を測定した。前記測定法は、アセチルコリンがアセチルコリンエステラーゼによりコリンに加水分解されて、再びコリン酸化剤(oxidase)によりベスタイン(bestaine)と過酸化水素に変化される反応を利用する方法である。過酸化水素は、化学的にルミノール(5-amino-1,2,3,4-tetrahydro-1,4-phthalazinedione, luminol; Merck, Darmstadt, Germany)とペロキシダーゼ(Sigma, USA)と反応すると、光を発散するため、化学発光を利用して光の量を測定すると、間接的にアセチルコリンの濃度を測定することができる。
【0129】
このような方法により、Aβを処理した実験対照群と、BG101またはBG201を1g/kgで一週間以上投与した薬物実験群において、Aβによるアセチルコリンの量を分析してみた結果、Aβを処理した実験対照群では、正常対照群に比べ、約75%程度の減少を示した反面、BG101を持続的に投与した群のラットでは、統計的に有意にアセチルコリンの減少を抑制していた(P<0.05)。図21において、各測定値は、平均(mean)±標準偏差(SD)を示したものである。
【0130】
アセチルコリンは、脳の基底核から大脳皮質と海馬に投射されて、正常的な知識機能に非常に重要に作用する神経伝達物質である(Richter et al., Life Sci. 19;26(20):1683-9(1980))。特に、学習と記憶は、Ach系に作用する薬物により変化され得ると知られている。アルツハイマー型痴呆で死亡した例を検査した結果、全ての場合において、大脳皮質に投射される基底核のアセチルコリン性神経細胞が多量損傷されていることが発見されている。最近、アセチルコリンの濃度を増加させることが、認知能力を向上し且つ痴呆進行を防いで、痴呆の治療及び予防に卓越な効果があると知られ、患者を対象にコリン活性剤やコリンエステラーゼ抑制剤を使用している。現在まで開発された薬物は、アセチルコリン合成前駆体(acetylcholine precursor)としてレシチン、受容体活性剤(receptor agonist)としてRS−86、ニコチンなどがあり、アセチルコリン分解抑制剤(Acetylcholinesterase inhibitor)として、FDAの承認を受けて国内でも市販使用中のタクリン(Tacrine)と、最近承認されたアリセプト(Aricept)などがあるが、効果が一時的で微弱であり、深刻な毒性のため、使用に論難の余地が多い状態である。
【0131】
前記の実験結果から、本発明のシルクペプチドが脳においてアセチルコリン量を減少させる老化及び退行性疾患からアセチルコリン量の減少を抑制することにより、認知機能の向上及び老化と退行性疾患の抑制効果があることが分かる。
【0132】
実験例V:憂鬱症動物モデル実験
実権例V−1:実験動物の準備
実験動物は、雄性白鼠(Sprague Dawley、140-180g、大韓実験動物センター)であって、一定な環境(室内温度25±1℃、相対湿度60±10%)下で一週間、1つの飼育箱当たり4匹ずつ入れて、水と餌を制限無く摂取するようにして環境に適応させた後、実験に使用した。白鼠の中で、一般飼育状態で動きが少なく、発育状況が劣り、強制水泳で非正常的な常同症的行動を示すか、水泳能力が著しく劣る場合は、除外させて、本実験では総50匹を使用した。
【0133】
実験例V−2:憂鬱症動物モデル実験
本実験では、絶望行動検査(behavioral despair test)とも言われる、標準化された検査法の強制水泳検査(forced swimming test: FST)を利用した。強制水泳検査法は、薬物開発時の抗鬱効果を検査する基本的な実験として知られている。FSTの過程は、最初の提案者であるPorsoltら(Porsolt et al., Eur. J. Pharmacol. 51(3), 291-294, 1978)の方法に従って、次のように行った。
【0134】
まず、高さ40cm及び直径18cmの透明なアクリル円筒形水槽に25℃の水を15cmの高さまで満たして、これに前記実験例V−1の白鼠を強制的に入れて、15分間放置した。最初の数分間は、これから逃れるために白鼠が激しい抵抗を示すが、時間が経つほど、段々不動時間(immobilization time)を示す時間が増えて、最後の数分間はほぼ不動状態に体を維持した。典型的な不動状態とは、白鼠が顔の一部のみを水面に露出したまま、体の均衡を維持するために若干の動きを示すだけで、水上に浮かんでいる状態である。強制水泳を終えた白鼠は、体の水気を拭き取った後、37℃乾燥器で30分間体を乾燥して、再び飼育箱に戻した。
【0135】
一次の強制水泳後、二次の強制水泳は、24時間後に行った。本実験において、二次強制水泳は、一次強制水泳と同じ条件で5分間だけ水槽に放置して、この期間中の総不動時間を測定した。二次強制水泳時、白鼠は、学習された絶望(immobilization time)の結果、大部分が一次強制水泳時よりさらに多い時間不動状態を示す。強制水泳モデルにおいて、憂鬱症の症状指標と見なされる不動状態の増加は、抗鬱剤の処置により再び減少されるため、このような不動状態の減少が抗鬱剤の作用と関連があると考えられている。強制水泳検査において、幾つかの薬物の場合、薬物の急性処置時にはその効果が現れないが、長期処置時に効果を示す場合があるため、本実験では、7日間薬物処置をした後、二次強制水泳を試みた。一般に、抗鬱剤の抗憂鬱効果は、少なくとも2週間の薬物投与後に得られるため、この方法は、強制水泳検査でよく使用されている。不動状態の計測は、二次強制水泳時の全過程をビデオ撮影しておいて、不動時間を測定し、対照群と実験群間の不動時間を比較評価した。ビデオ画面分析を通じて、訓練された三人の評価者が不動時間を秒時計で計測し、評価者間の平均値を求めて分析資料として利用した。
【0136】
A.投与方法
本発明のBG101またはBG201を100mg/mlの溶液に製造して、口腔投与した。全ての試料は、蒸留水に溶解して口腔投与して、1回投与時には、二次強制水泳の1時間前に投与して、7日間繰り返し投与する場合は、一次強制水泳の30分後に投与して、7日間繰り返し投与した。
【0137】
B.1回急性処置時の抗鬱効果
本発明のBG101またはBG201の1回急性処置時(1g/kg)の抗鬱効果を確認した。陽性対照群としての既存抗鬱剤としては、三環系抗鬱剤の基本とされる薬物のイミプラミン((Sigma、米国)を使用して、投与量は、既存研究結果(Eur. J. Pharmacol. 138(3), 413-416, 1987; Neuropharmacology 28(3), 229-233, 1989)を参照して、1回投与時、20mg/kgとした。実験結果は、図22に示した。
【0138】
急性処置による平均不動時間は、対照群に比べ、イミプラミンの投与により有意に短縮された(*、P<0.05)。また、本発明のBG101またはBG201を投与した実験群でも不動時間が有意に短縮されたことが分かる(**、P<0.05)。図22において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0139】
C.長期繰り返し処置時(7日間)の抗鬱効果
本発明のBG101またはBG201の長期繰り返し処置時の抗鬱効果を確認した。BG101またはBG201を50mg/kgで一日一回、7日間口腔投与して、1回処置時と同様な実験を行った。実験結果は、図23に示されている。
【0140】
長期処置による平均不動時間は、対照群に比べ、イミプラミン投与により有意に短縮された(p<0.05)。また、BG101またはBG201を投与した実験群でも不動時間が有意に短縮されたことが分かる(P<0.05)。図23において、各測定値は、平均±標準偏差を示したものである。
【0141】
上記の実験結果から、イミプラミンの投与時、対照群に比べ不動時間が大幅に減少されて、BG101またはBG201の急性及び長期処理群は、イミプラミン投与時くらいは不動時間が減っていないが、統計的に有意な抗鬱効果を有することが分かる。イミプラミンは、副作用がありえるため、長期服用が困難であるが、本発明のBG101またはBG201は、効果の側面ではイミプラミンに多少劣るが、長期的に多量服用できる長所があって、憂鬱症の予防及び治療剤として優れた効果が期待できる。
【0142】
実験例VI:脳機能増進に対する臨床試験
臨床研究対象者は、本発明のシルクペプチドBG−101が100mg内包されたカプセル(以下、BF-7という)を服用する群の67名(BF-7 200mg/day群の33名及び400 mg/day群の34名)と、偽薬を服用する群の32名とに分けて、朝/夕の食後に一回ずつ、1日2回、3週間服用させた。
【0143】
テスト方法は、Rey-Kimテストを使用して、実験が始まる前にテストを行って、服用の終わった3週後に再びテストを行って、服用前後の変化を測定した。
【0144】
Rey-Kim検査法は、国内最初に標準化された記憶検査法であって、Rey-Kim検査法の換算尺度は、被検者のテスト別遂行を詳しく分析できるという長所を有している。検査は、Auditory Verbal Learning Test (AVLT)とComplex Figure test (CFT)とで構成されている。
【0145】
A.AVLT
(1)繰り返し試験
単語を1秒当たり1つずつ聞かせた後、被検者に単語を言わせて、試験は、5回繰り返した。
【0146】
(2)遅延想起
20分の遅延時間後、被検者に聞かせた単語を言わせた。
【0147】
(3)遅延再認
遅延想起の実施後、被検者に紙を渡し、聞かせた単語のみに丸を付けるように指示した。
【0148】
B.CFT
(1)描きテスト
検査の前にCFT図形と反応紙を被検者に渡し、CFT図形を描くように指示した。被検者が描き終えると、CFT図形と反応紙を被検者が見られない位置においた。
(2)即時想起テスト
描きテストの終結後、CFT図形を描くように指示した。
(3)遅延想起テスト
20分の遅延時間後、被検者にCFT図形を描くように指示した。
(4)CFTの評価
各18個の項目を形態と位置を考慮して、CFT採点基準表により、最高2点から最低0点として採点した。各テスト当たり最高点数は、36点であり、最低点数は、0点となる。
【0149】
C.評価項目
1.記憶指数(MQ):記憶力の度合いに対する最も直接的な指標となる記憶指数である。
2.記憶維持度:被検者の記憶がどれくらいよく維持されるかに係る能力を測定する。
3.想起効率性:被検者の記憶がどれくらい正確且つ効率的に活用されるかに係る能力を測定する。
4.描き/記憶一致度:被検者の認知能力の向上が記憶力の増進によるものであるかを測定する。
5.知能/記憶一致度:被検者の認知能力の向上が記憶力の増進によるものであるかを測定する。
【0150】
D.資料の統計学的解析方法
服用前と服用後の記憶指数の差異をpaired t-testを使用して検証し、偽薬群とBF−7容量群別(BF-7 200mg及びBF-7 400mg)記憶指数の変化幅の有意な差が存在するかをANOVAを使用して検証した。
【0151】
E.結果
(1)BF−7の記憶指数の改善効果
記憶力の度合いに対する最も直接的な指標とされる記憶指数(MQ)の各服用群別の差異値を算出した結果、服用前と服用後の記憶指数の差が、偽薬服用群の場合は、3.1、BF−7 200mg服用群は、11.6、400mg服用群は、20.6であって、各服用群の記憶指数改善値の差異は、どれも有意な差異を示した(図24)。これは、BF−7が容量依存的に有意な記憶指数の改善効果を示すことを意味するものである。また、各服用群の服用前と服用後の記憶指数の値を比較してみると、偽薬服用群は、106から110に、BF−7 200mg服用群は、106.5から118に、BF−7 400mg服用群は、106から126に向上した(図25)。
【0152】
(2)BF−7の想起効率性の増進効果
百分率が高いほど、想起効率性が高いことを意味する。偽薬服用群の場合、服用前と服用後の想起効率性に有意な差がなかった反面、BF−7 200mg服用群の場合は、31%から58.9%に、400mg服用群の場合は、41.5%から66.5%に向上されて、より正確且つ効率的な記憶の活用がなされることを確認した(図26)。
【0153】
(3)BF−7の描き/記憶一致度の増進効果
百分率が低いほど、記憶力の低下がその原因であることを意味する。偽薬服用群の場合、服用前の38%から40%に、有意な変化を示さなかった反面(P<0.05)、200mg服用群は、36.8%から56.5%に、400mg服用群は、24.7%から65.2%に有意に増加されて、認知能力の向上が、描きの能力によるものではなく、記憶力の向上によるものであることが分かった(図27)。
【0154】
(4)BF−7の知能/記憶一致度の向上効果
百分率が高いほど、ほぼ等しいIQを有する同一年齢代より記憶力がさらに高いことを示す。図28から分かるように、偽薬服用群の場合、55.5%から63.4%に、BF−7 200mg服用群の場合は、52.9%から78.9%に、有意な増加を示した(P<0.05)。BF−7 400mg服用群の場合、52.5%から91.1%に、知能記憶一致度が非常に向上されたことが分かる(P<0.05)。
【0155】
(5)BF−7の記憶維持度の増進効果
百分率が低いほど、時間が経つにつれて忘れる量が多いことを意味する。BF−7 400mg服用群の場合、53.2%から61.3%に、記憶維持度指数が増加したが、統計的に、偽薬服用群とBF−7服用群では、有意な変化を示さなかった(P>0.05)(図29)。
【0156】
上述のように、三つの場合とも、即ち、偽薬群、BF−7 200mg服用群、及びBF−7 400mg服用群において、服用前と後のMQに差異があって、これは、記憶能力が向上したことを意味する。偽薬群における記憶指数の改善は、標準誤差の偏差が非常に大きいことにもよるが、ある程度、心理的な要因によるものでもある。したがって、BF−7は、記憶能力を改善する活性を有するという結論を出すことができる。
【0157】
BF−7が想起効率性及び描き/記憶一致度のような他の尺度も向上させるという実験結果から、BF−7が想起能力、記憶力及び学習能力を改善して、これにより、痴呆のような退行性神経疾患に有効に作用できるという結論を出すことができ、且つBF−7が科学的、産業的に非常に価値のある新物質であることが分かる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルク蛋白質から分解された200〜100,000の重量平均分子量を有するシルクペプチドを有効成分として含む、パーキンソン病、憂鬱症、または虚血性脳卒中の脳疾患を改善するための組成物の食品または機能性食品に対する添加剤としての使用。
【請求項2】
シルク蛋白質から分解された200〜100,000の重量平均分子量を有するシルクペプチドを有効成分として含み、パーキンソン病または虚血性脳卒中により損傷した頭脳機能または正常人の頭脳機能を改善するための組成物の食品または機能性食品に対する添加剤としての使用。
【請求項3】
前記頭脳機能は、記憶力および学習能力であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物の食品または機能性食品に対する添加剤としての使用。
【請求項1】
シルク蛋白質から分解された200〜100,000の重量平均分子量を有するシルクペプチドを有効成分として含む、パーキンソン病、憂鬱症、または虚血性脳卒中の脳疾患を改善するための組成物の食品または機能性食品に対する添加剤としての使用。
【請求項2】
シルク蛋白質から分解された200〜100,000の重量平均分子量を有するシルクペプチドを有効成分として含み、パーキンソン病または虚血性脳卒中により損傷した頭脳機能または正常人の頭脳機能を改善するための組成物の食品または機能性食品に対する添加剤としての使用。
【請求項3】
前記頭脳機能は、記憶力および学習能力であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物の食品または機能性食品に対する添加剤としての使用。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図15】
【図19】
【図2】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図15】
【図19】
【公開番号】特開2012−40010(P2012−40010A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200831(P2011−200831)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【分割の表示】特願2007−524730(P2007−524730)の分割
【原出願日】平成16年7月31日(2004.7.31)
【出願人】(507034218)バイオグランド シーオー エル ティー ディー (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【分割の表示】特願2007−524730(P2007−524730)の分割
【原出願日】平成16年7月31日(2004.7.31)
【出願人】(507034218)バイオグランド シーオー エル ティー ディー (2)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]