説明

組成物及び方法

【課題】犬や猫のような乳類において、飢餓を使用することでケトーシスの状態を作り出す方法の提供。
【解決手段】全て乾物ベースで、可溶性無窒素物(無窒素エキス(extract))として測定して食餌の約0〜約20重量%の炭水化物、食餌の約25〜約70重量%のタンパク質、及び食餌の約20〜約70重量%の脂肪を含有する食餌とする。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
食餌は、ヒトにおける状態を管理しようとして長年にわたって使用されてきた。肥満症はしばしば、所定の期間におけるヒトのカロリー摂取量の合計及びタイプに直接に関連している。糖尿病に関して最初に行う制御は通常、食餌によって管理しようという試みである。同様に、高コレステロール値、高血圧、及び尿路結石の形成を抑えようという試みはしばしば、食餌によって行われる。加えてヒトにおいては、ケトーシスの状態(state of ketosis)すなわちケトン体の増加を引き起こす食餌は、てんかんに関連する発作の制御においてある程度の成果を上げたことが観察されている。
【0002】
犬のような下等哺乳類においては、飢餓を使用することでケトーシスの状態を作り出す実験の達成は、限定されたものでしかない(J.J. de Bruijne, International Journal of Obesity (1979) 3, 239-247、犬における長時間にわたる絶食に関するJ.J. de Bruijne, Metabolism (1981) Vol. 30, no. 2, 190-194によるさらなる研究を参照されたい。)。比較的に低い炭水化物レベルと組み合わせて比較的に高い脂肪レベルを使用する設計された食餌を使用することで、犬に関してケトン性状態(ketotic state)が実現したという報告はなされていない。また、同じく、猫に関する情報が欠如しており、全ての栄養素の点で完全な食餌を使用することでケトーシスを達成することができない。
【0003】
食餌、一般に、比較的に高脂肪でありかつ比較的に低炭水化物である食餌を使用することで、下等哺乳類においてケトーシスの状態を実現できることが今や発見された。代謝のこの変更(ケトーシス)は、発作、特に特発性てんかんに関連した発作;体重調節;行動上の問題;筋肉代謝;炭水化物不耐症;インスリン分泌若しくはインスリン欠乏の障害;筋疲労;準最適運動耐性(suboptimal exercise tolerance)及びこうした状態の任意のものの組合せが挙げられるがこれらに限定されるものではない様々な医学的状態または行動状態の管理において有用となり得る。加えて、代謝の変更及びケトーシスは、運動能力を向上させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.J. de Bruijne, International Journal of Obesity (1979) 3, 239-247
【非特許文献2】J.J. de Bruijne, Metabolism (1981) Vol. 30, no. 2, 190-194
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要約
従って、食餌を定期的に供給した場合、犬または猫においてケトーシスの状態を誘発できる該食餌が存在し、該食餌は、以下のものを含む:

全て乾物ベースで、可溶性無窒素物(無窒素エキス(extract))として測定して食餌の約0〜約20重量%の炭水化物、食餌の約25〜約70重量%のタンパク質、及び食餌の約20〜約70重量%の脂肪。

全て乾物ベースで、可溶性無窒素物として測定して食餌の約0〜約20重量%の炭水化物、食餌の約25〜約70重量%のタンパク質、及び食餌の約20〜約70重量%の脂肪。
【0006】
本発明のさらなる態様は、犬または猫においてケトン性状態を誘発する方法であって、比較的に高脂肪でありかつ比較的に低炭水化物である食餌を前記犬または猫に供給することを含む方法である。
【0007】
本発明のなおさらなる態様は、発作(特発性てんかんに関連した発作)、体重調節、行動上の問題、筋肉代謝、炭水化物不耐症、インスリン分泌若しくは欠乏の障害、筋疲労及び準最適運動耐性;運動能力の向上;並びにこうした状態の任意のものの組合せからなる群から選択される医学的状態または行動状態の管理を必要とする犬または猫において、このような状態を管理するための方法であって、ケトーシスを誘発する食餌を前記犬または猫に供給することを含む方法である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
犬及び猫においてケトン性状態を誘発する食餌は、高脂肪でありかつ低炭水化物であることが見い出された。“ケトン性状態”とは、標準食を用いて実現される平均水準を有意に超えるレベルにまでケトン体の量を増加させるような哺乳類の代謝の変更を意味する。こうしたケトン体マーカーの例としては、β−ヒドロキシブチレート、アセトアセテート、及びアセトンが挙げられる。
【0009】
このようなケトン性状態誘発食は、動物の代謝を変更してより多量のケトン体の産生を達成するという利益を有する栄養価の高い維持食を犬または猫に提供する。犬用の食餌のための重要な成分の量は、全て食餌の重量%として及び乾物ベースで測定して、約0〜約20重量%の炭水化物(可溶性無窒素物として)、好ましくは0〜約10重量%;約25〜約70重量%のタンパク質、好ましくは約25〜約40重量%;及び約25〜約70重量%の脂肪、好ましくは約30〜約60重量%である。
【0010】
猫用の食餌のための重要な成分の量は、全て食餌の重量%として及び乾物ベースで測定して、約0〜約20重量%の炭水化物(可溶性無窒素物として)、好ましくは0〜約10重量%;約25〜約70重量%のタンパク質、好ましくは約30〜約60重量%;及び約20〜約70重量%の脂肪、好ましくは約30〜約60重量%である。加えて、各食餌は、栄養障害を避けるために十分なミネラル及びビタミンを含もう。
【0011】
食餌によって誘発されたケトーシスの状態は、この変更された代謝によって影響を受ける特定の状態の治療において有用となり得る。このような状態の例としては、発作、例えば特に犬において特発性てんかんに伴う発作;体重調節、例えば体重減少、増加、または維持;行動上の問題、例えば攻撃性、強迫性障害、及び分離不安;衰弱または疲労を引き起こす筋肉代謝;例えばインスリン分泌またはインスリン欠乏の障害によって明らかになる炭水化物不耐症(高血糖または低血糖)、例えばII型糖尿病、能力の向上によって示される運動能力;並びに準最適運動耐性、例えばミオパシー及び疲労が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
下記のものは本発明の実施例である。こうした実施例は、本発明の広い概念を示すことを意図したものであり、過度に限定するものではない。
【実施例】
【0013】
実施例1
12匹の犬を交差法実験(crossover design experiment)で試験した。
全ての犬に、実験期間の前に2週間、標準的な維持のための犬用の食餌を供給した。実験の初めに、全ての犬を24〜48時間食品から遠ざけてケトーシスを誘発した。この食品遮断期間に続いて、動物を2つの群に分割し、一方には標準的なドッグフードを供給し、他方には栄養的に完全な実験用ケトン食を供給した。全ての食品は、予備供給期間中に決定したカロリーの維持必要量の約75〜85%で供給された。
【0014】
実験食を3日間にわたって次の通り導入した:
1日目=1/3実験:2/3標準
2日目=2/3実験:1/3標準
3日目=100%実験食
食事介入を2週間維持した。1週間のワッシュアウト期間を許し、動物に交差法を行い(crossed over)、上記の試験方法を繰り返した。食餌に対する応答を、予備試験、食品遮断期間後、及び食品介入期間の終わりにおける血清ケトン体の測定によって評価した。応答の統計分析によると、実験食を供給した場合、対照と比較して、犬の血液中のケトン体のレベルを有意に増加させる(P<0.05)ことが示された。
【0015】
新規な食餌の1組成物は、脂肪、タンパク質、補助ミネラル及びビタミンを含み、いかなる消化可能な炭水化物も含まない。少量の繊維を、大便の硬さを維持するために加えた。食餌は、全ての栄養素に関してAAFCO勧告を満たすように配合された。標準的なペットフード食は上記の成分からなると思われるが、AAFCO勧告レベルの脂肪、タンパク質、ミネラル及びビタミンに加えて30〜60%の消化可能な炭水化物も含むと思われる。
【0016】
実験において利用したケトン食及び通常の犬用の食餌の組成物の成分は、下記の通りである。
食餌の組成−研究1
成分1 通常の犬用の食餌(%wt)2 ケトン食2
水分 12.1 3.7
タンパク質 24.9 26.5
脂肪 15.4 56.6
NFE 53.2 5.8
粗繊維 1.7 3.5
灰分 4.7 7.4
1食餌は、1日必要量を満たすのに十分なミネラル及びビタミンを含む。
2全ての重量%は、水分以外は乾物を基準としており、供給時の%である。
【0017】
両方の食餌は、処理期間中、0.75×1日エネルギー必要量であると推定される量で供給された。データは、絶食期間を応答変数の共変量(covariant)として完全無作為交差法(completely randomized crossover design)で分析された。共変的分析(covariant analysis)によると、β−ヒドロキシブチレートは、ケトン食(KD)の場合、応答期間中、標準的な犬用の食餌(CD)と比較して有意に高い(0.63mg/dl対0.18mg/dl)ことが明らかになった。BUN、クレアチニン、グルコースまたは他のパラメータに対する有害作用は認められなかった。
【0018】
結論として、健康な犬において、食餌操作によってケトン体の産生を増大させることが可能である。
実施例2
材料及び方法
32匹の肥満体の成猫を反復測定法(repeated measures design)で試験して、食餌がケトン体産生(ケトーシス)及び体重減少に及ぼす影響を評価した。
【0019】
実験の前に、猫を、ボディコンディションスコア及び性別に基づいて乱塊法によって(blocked randomly)2つの群にした。全ての猫に、第1の実験期間の前に2週間、標準的な猫用の維持食品を供給した。第1の期間の初めに、一方の群には標準的な体重低減食(ヒルズ(登録商標)・プレスクリプション・ダイエット(登録商標)・フィーラインw/d(登録商標))(Hill's(登録商標) Prescription Diet(登録商標) Feline w/d(登録商標))を供給し、他方の群には栄養的に完全なケトン食を供給した。この食餌試験において、両方の食餌のタイプは缶入りタイプだった。全ての食品を、期間1の間は自由供給し、続いて期間2の間は、期間1中に測定した自由摂取量の80%に制限した(制限供給期間)。
【0020】
食事介入を、自由供給として4週間の期間1の間維持した。これに続いて直ちに4週間の期間2の制限供給処理に入った。
様々な被検体の血液を、研究の初めに及び2週間毎に研究の初めから期間2の終わりまで集めた。二重エネルギーX線吸収法を、各供給方法の期間の初め及び終わりに実行した。
【0021】
食餌の組成(供給時ベース)
成分 ケトン食 体重低減食
水分 75% 78%(最高)
タンパク質 9.7% 10.4%
粗繊維 0.5% 3.1%
粗脂肪 12% 4.2%
1日必要量を満たすのに十分なミネラル及びビタミン
結果
β−ヒドロキシブチレート
ケトン食を供給された猫は、予備供給期間中に猫用維持食を摂取した猫と比較して、自由期間中(P<0.001)及び供給制限期間中(P<0.0001)の両方で有意に高い量のケトーシスを有した。加えて、ケトン食を供給された猫は、標準的な体重低減食と比較して、両方の期間中、同様に、有意に高い量のケトーシスを有した(P<0.02)。標準的な体重低減食は、予備供給値と比較して、制限供給期間中には有意な程度のケトーシスを確かに実現したが、自由供給期間中(P=0.15)にはそうではなかった。
【0022】
β−ヒドロキシブチレートのレベル(mg/dl)
食餌 予備 期間1の終わり/ 期間2の終わり
期間2の初め
体重低減食 0.39±0.33 1.06±0.33 2.1±0.33
ケトン食 0.31±0.33 2.64±0.33 3.2±0.33
ボディマス
どちらの食餌を供給された猫も、予備供給期間と比較して、どちらの期間中にも有意な量の体重減少を実現した。自由供給期間中には食餌同士の間に有意な差はなかったが、ケトン食は、制限供給期間中に有意に大きな体重減少を生じた(P<0.04)。
【0023】
猫のボディマス(kg)
食餌 予備 期間1の終わり/ 期間2の終わり
期間2の初め
体重低減食 6.3±.08 6±.08 5.5±.08
ケトン食 6.1±.08 5.8±.08 5.3±.08
血中グルコース
ケトン食を供給された猫は、予備供給濃度と比較して、期間1中に有意に低下した濃度のグルコースを有した。期間1の終わりに観察された濃度は、猫にとって正常な範囲内であり、但し先に述べたように予備供給値と比較して有意に低下していた。食餌の影響を期間1の終わり及び期間2の終わりで比較すると、食餌同士の間に有意な差は測定されなかった。
【0024】
血中グルコース(mg/dl)
食餌 予備 期間1の終わり/ 期間2の終わり
期間2の初め
体重低減食 112.5±4.7 103±4.7 106±4.7
ケトン食 126±4.7 108±4.7 104±4.9
結論
高脂肪で低炭水化物の食餌を猫に供給することで、肥満体の成猫におけるケトン性状態、体重減少、及び血中グルコース濃度の正常化を達成することができた。ケトン食は、体重減少食に関して先に報告されたものと同等のグルコース調節の改良を証明した。達成されたケトーシスは、同様の猫が標準的な体重低減食を摂取した場合を有意に超えた。加えて、達成された体重減少は、猫用に配合された標準的な体重制御食を供給された猫におけるものと同様だった。この実験計画において、食餌の有害作用は認められなかった。ケトン食は、標準的な体重減少食を使用して先に報告された結果と比較して、同等のグルコース調節の改良を証明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
犬においてケトーシスの状態を誘発するための方法であって、ケトーシスの状態の誘発を必要とする犬に定期的に食餌を供給することを含み、前記食餌が、乾物ベースで、可溶性無窒素物として測定して食餌の約0〜約20重量%の炭水化物、食餌の約25〜約70重量%のタンパク質、及び食餌の約20〜約70重量%の脂肪を含む、方法。
【請求項2】
炭水化物は食餌の約0〜約10重量%であり、タンパク質は食餌の約25〜約40重量%であり、脂肪は食餌の約30〜約60重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
発作、体重調節、攻撃性、強迫性障害、分離不安、衰弱又は疲労を引き起こす筋肉代謝、炭水化物不耐症、インスリン分泌若しくは欠乏の障害、並びにこうした状態の組合せからなる群から選択される医学的状態または行動状態の管理を必要とする犬において、前記状態を管理するための方法であって、請求項1に記載の食餌を前記犬に供給することを含む方法。
【請求項4】
前記状態が発作である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記状態が体重調節である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記状態が攻撃性である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記状態が強迫性障害である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記状態が分離不安である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記状態が衰弱又は疲労を引き起こす筋肉代謝である、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記状態が炭水化物不耐症である、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記状態がインスリン分泌若しくは欠乏の障害である、請求項3に記載の方法。

【公開番号】特開2012−228250(P2012−228250A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−140995(P2012−140995)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【分割の表示】特願2002−509935(P2002−509935)の分割
【原出願日】平成13年6月11日(2001.6.11)
【出願人】(502329223)ヒルズ・ペット・ニュートリシャン・インコーポレーテッド (138)
【Fターム(参考)】