説明

組換えクラミジア及びその製造方法

【課題】 本発明は、ゲノム配列中に外来DNAを有する組換えクラミジア、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 5’→3’エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNAアニーリングタンパクの組み合わせを用いて、クラミジアゲノム上の塩基配列と相同な領域を両端に含む二本鎖DNAを相同組換えによりクラミジアゲノムに組み換えることにより、上記課題を達成することが出来た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノム配列中に外来DNAを有する組換えクラミジア、及びその製造方法に関する内容である。
【背景技術】
【0002】
クラミジア感染は主に粘膜表面上に起こり、結膜、生殖器、呼吸器および新生児感染などの種々のグループがある。感染の病原体は真核細胞の偏性細胞内細菌性寄生をおこすクラミジアである。クラミジア属の細菌は、Chlamydia trachomatis、Chlamydia psittaci、Chlamydia pneumoniae等の種が知られている。クラミジアの分類については、1999年にEvarettらによって新しい分類が提唱され、C. pneumoniaeとC. psittaciが従来のChlamydia属から分けられてChlamydophila属とされた(非特許文献1)。
【0003】
C. trachomatisは、トラコーマ、性病性リンパ肉芽腫、泌尿生殖器感染症、封入体結膜炎、新生児肺炎等を引き起こす原因菌であり、クラミジア・シッタシは、オウム病等の原因菌であり、またC.ニューモニエは、呼吸器感染症、異形肺炎等の原因菌である。
【0004】
性器クラミジア感染症の原因菌であるC. trachomatisは、主に男性では尿道炎、女性では子宮頚管炎を発症する。特に女性では、容易に腹腔内に浸透し、卵管妊娠や卵管性不妊の原因となる。さらに、上腹部へ広がると劇症の肝臓周囲炎(Fitz-Hugh Curtis症候群)を発症し、臨床的にも問題の多い疾患である。C. trachomatisは主外膜蛋白質(MOMP)の抗原的変異に基づいて15の血液型亜型(serovar)に区別されている。この疾患には非淋菌性尿道炎、粘膜膿性子宮頸管炎、急性副睾丸炎、異所性妊娠および骨盤炎症性疾患(PID、子宮内膜炎、卵管炎、子宮傍組織炎および/または腹膜炎)が含まれる。女性への感染は不妊症の原因となり社会衛生上極めて深刻な問題となっている。また、クラミジア感染した母親から生まれた幼児は封入性結膜炎および肺炎を発症する高い危険率を持っている。さらにC. trachomatis血液型亜型A、B、BaおよびCは、結膜上皮細胞の感染であるトラコーマを引き起こし、慢性および二次感染は上皮下リンパ球の浸潤を誘導して濾胞を形成し、角膜への腺維芽細胞および血管の浸襲により失明を導くことになる。全世界に約5億人のトラコーマ患者がいて、その併発症のため700〜900万人が盲目になっている。トラコーマの罹患率は低年齢で高く、8千万人の子供が治療を必要としている。
【0005】
クラミジア感染予防用のワクチンとしては、40KDaの主要外部膜たんぱく質(MOMP)に存する血清型化抗原を用いたもの(特許文献1、特許文献2)や、クラミジア糖脂質エキソ抗原GLXA(特許文献3)を用いたものが知られている。これらは不活化ワクチンであり、液性免疫は獲得されるものの、細胞性免疫までは獲得されず、弱毒化ワクチンの開発が望まれているが、現状、クラミジアゲノムの組換え技術は確立されておらず(非特許文献2)、弱毒化ワクチンの開発は実現が困難な状況である。
【0006】
また、クラミジアは偏性細胞内寄生性という生物学的に珍しい性質から、ゲノム解析は精力的に行われており、C. pneumoniae、C. trachomatis、C. psittaciともにゲノムプロジェクトにより全塩基配列決定がされたが(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)、機能未知遺伝子は未だ多く、今後これらの遺伝子の機能解明のためのツールとしても、クラミジア組換え技術による遺伝子破壊や遺伝子導入方法の開発が求められている。
【0007】
一方、大腸菌においては、Racプロファージ由来の5’→3’エキソヌクレアーゼであるRecE及び一本鎖DNAアニーリングタンパク質であるRecTの組み合わせ、又は、λファージ由来の5’→3’エキソヌクレアーゼであるRedα及び一本鎖DNAアニーリングタンパク質であるRedβの組み合わせを用いることにより、大腸菌内において高効率な相同組換えが行われたことが報告されている(特許文献4、非特許文献6、非特許文献7)。しかし、クラミジアについてRecE/RecTシステム又はRedα/βシステムを用いた組換えに成功した報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-308508
【特許文献2】特開平11-123078
【特許文献3】特許第2990211号
【特許文献4】特許第4139561号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Karin D. E. Everett, Robin M. Bush and Arthur A. Andersen: Int. J. Syst. Bacteriol. 1999; 49: 415-440
【非特許文献2】BMC Microbiology 2009, 9:218
【非特許文献3】Stephens, R.S., Kalman, S., Lammel, C., Fan, J., Marathe, R., Aracind, L., Mitchell, W.,Olinger, L., Tatusov, R. L., Zhao, Q., Koonin, E. V., Davis, R. W. : Science, 282, 754-759 (1998)
【非特許文献4】Kalman, S., Mitchell, W., Marathe, R., Lammel, C., Fan, J., Hyman, R. W., Olinger, L., Davis, R. W., Stephenes, R. : Nature Genet., 21, 385-389 (1999)
【非特許文献5】Read TD, Myers GS, Brunham RC, Nelson WC, Paulsen IT, Heidelberg J, Holtzapple E, Khouri H, Federova NB, Carty HA, Umayam LA, Haft DH, Peterson J, Beanan MJ, White O, Salzberg SL, Hsia RC, McClarty G, Rank RG, Bavoil PM, Fraser CM. : Nucleic Acids Res. Apr 15;31(8):2134-47 (2003)
【非特許文献6】Richard Kolodner, Sharynn D. Hall and Cynthia Luisi-Deluca: Molecular Microbiology 11(1), 23-30 (1994)
【非特許文献7】Youming Zhang, Joep PP Muyrers, Jeanette Rientjes and A Francis Stewart: BMC Molecular Biology 4 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ゲノム配列中に外来DNAを有する組換えクラミジア、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、発明者らは、クラミジアゲノムが高効率で相同組換えされる方法について鋭意研究を重ねた結果、recE遺伝子及びrecT遺伝子をコードする塩基配列を有するプラスミドと、クラミジアゲノム上の塩基配列と相同な領域を両端に含む二本鎖DNAをクラミジアに導入し、RecEタンパク質及びRecTタンパク質が発現する条件下で培養することにより、クラミジアゲノムを組み換えることに成功した。
【0012】
すなわち本発明は、以下のクラミジアゲノム組換え用プラスミド、及び、これを用いたクラミジアゲノムの相同組換え方法を提供する。
【0013】
(1)クラミジアゲノム配列中に非クラミジア由来の外来DNA配列を有する組換えクラミジア。
(2)クラミジアゲノム配列の一部と相同な第一の領域及び第二の領域を有するとともに非クラミジア由来の外来DNA配列を前記第一の領域と第二の領域との間に含むDNA断片をクラミジア内に導入し、当該DNA断片とクラミジアゲノムの間で相同組換えを行わせることにより得られた組換えクラミジア。
(3)クラミジアゲノム配列の一部と相同な第一の領域及び第二の領域を有するとともに非クラミジア由来の外来DNA配列を前記第一の領域と第二の領域との間に含むDNA断片をクラミジア内に導入し、当該DNA断片とクラミジアゲノムの間で相同組換えを行わせる組換えクラミジアの製造方法。
(4)5’→3’エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNAアニーリングタンパクの組み合わせを用いて、クラミジアゲノムを相同組換えにより組換えることを特徴とする、(3)記載の組換えクラミジアの製造方法。
(5)5’→3’エキソヌクレアーゼがRecEまたはRedαであり、一本鎖DNAアニーリングタンパクがRecTまたはRedβであることを特徴とする、(4)記載の組換えクラミジアの製造方法。
(6)プロモーター配列下流に5’→3’エキソヌクレアーゼをコードする塩基配列及び一本鎖DNAアニーリングタンパクをコードする塩基配列を、同一プラスミド上に、又は、別個のプラスミド上に含むことを特徴とする、クラミジアゲノム組換え用プラスミド。
(7)5’→3’エキソヌクレアーゼがRecEまたはRedαであり、一本鎖DNAアニーリングタンパクがRecTまたはRedβであることを特徴とする、(6)記載のクラミジアゲノム組換え用プラスミド。
(8)(6)又は(7)いずれか記載のプラスミドと、クラミジアゲノム配列の一部と相同な第一の領域及び第二の領域を有し非クラミジア由来の外来DNA配列を含むDNA断片とを、クラミジア内に導入し、前記プラスミドがコードしているタンパク質をクラミジア内で発現させることにより、前記DNA断片をクラミジアゲノムに相同組換えする、組換えクラミジアの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、クラミジアゲノム組換え用プラスミド及びこれを用いたクラミジアゲノムの相同組換え方法を提供する。本発明により、従来不可能であったクラミジアゲノムの組換えが可能となり、ゲノムプロジェクトで見出された機能未知タンパク質の機能解明や、病原遺伝子の破壊株取得によるクラミジアワクチンの製造等に大いに貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明で構築したクラミジアゲノム組換え用プラスミド(pCLfrec1)のマップを示している。温度上昇によって誘導されるPL/PR promoterと、複製起点としてpMB1 oriを有し、プロモーター領域下流にrecE/T遺伝子配列をクローニングした。
【図2】クラミジアゲノムの組換え確認の結果を示している。配列の上段は野生株の挿入部位の塩基配列、下段はnested PCRにより得られたDNA断片の塩基配列解析結果である。
【図3】クラミジアゲノムの組換え確認の結果を示している。配列の上段は野生株の挿入部位の塩基配列、下段はnested PCRにより得られたDNA断片の塩基配列解析結果である。
【図4】異なるompAプロモーターサイトをつないだクロラムフェニコール耐性遺伝子をクラミジアに組み込んだ際の、mRNA発現量をRT-PCRで比較した結果である。
【図5】lcrE遺伝子破壊株、yscC遺伝子破壊株、及び、yscN遺伝子破壊株を選択薬剤なしで継代培養し、相対存在量の比較を行った結果である。
【図6】lcrE遺伝子破壊株及び、yscN遺伝子破壊株が、選択薬剤存在下の継代培養により選別可能であることを示した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態により、本発明を説明するが、本発明の概念に属する限りにおいて、かかる項目における記載事項に本発明が限定されることはない。
【0017】
(1)本発明組換えクラミジア
本発明組換えクラミジアは、天然クラミジアゲノム配列中に非クラミジア由来の外来DNA配列を有する組換えクラミジアである。
【0018】
本発明において「外来DNA」とは、クラミジアゲノムに由来しないDNAを指し、物質生産及び機能改変又は機能分析などのために発現させることが望まれる遺伝子をコードするDNAや、クラミジア遺伝子破壊のために導入する人為的に作成されたDNAが挙げられるが、クラミジアゲノムに由来しないDNAであれば特に限定されない。
【0019】
かかる外来DNAを有するクラミジアは、たとえば以下に記載した本発明製造方法により得ることが出来る。
【0020】
(2)本発明製造方法
本発明製造方法は、クラミジアゲノム配列の一部と相同な第一の領域及び第二の領域を有するとともに非クラミジア由来の外来DNA配列を前記第一の領域と第二の領域との間に含むDNA断片をクラミジア内に導入し、当該DNA断片とクラミジアゲノムの間で相同組換えを行わせることによる組換えクラミジアの製造方法である。
【0021】
本発明において「相同組換え」とは、1対の二本鎖DNAの相同な領域間で起こるDNA組換えを意味する。
【0022】
上記「相同な領域」とは、クラミジアゲノムDNA中の対応する領域と同一の塩基配列を有する領域、又は、該領域と相同組換えが生じる程度の配列同一性を有する領域を意味する。すなわち、前記第1の領域及び第2の領域には、クラミジアゲノムDNA中の対応する領域と同一の塩基配列を有するもののほか、該塩基配列のうち1若しくは複数の塩基が置換し及び/若しくは欠失し並びに/又は該塩基配列に1若しくは複数の塩基が挿入され及び/若しくは付加されたものであって、それらの数が相同組換え可能な程度の少数のものも包含される。具体的には、クラミジアゲノムDNA中の対応する領域と90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは100%の同一性を有していることが好ましい。ここで、塩基配列の同一性とは、両者の塩基ができるだけ多く一致するように(必要ならばギャップを挿入する)両塩基配列を整列させ、不一致の塩基数を、全塩基数(両者の配列で全塩基数が異なる場合には短い方の配列の全塩基数)で除したものを百分率で表したものであり、BLASTのような周知のソフトにより容易に算出することができる。特に、上記した置換、欠失、挿入及び/又は付加する塩基数の合計が10個未満のものが好ましい。
【0023】
相同な領域の長さとしては、第一の相同領域及び第二の相同領域ともに、少なくともそれぞれ15ヌクレオチド、さらに好ましくは少なくともそれぞれ30ヌクレオチド、最も好ましくは少なくともそれぞれ50ヌクレオチドである。
【0024】
また、第一の領域と第二の領域の間のDNA配列としては、クラミジアのゲノムDNAに挿入しようとするあらゆるDNA配列を使用することが出来るが、相同組換えが起きたことを確認することが出来るように、クロラムフェニコール耐性遺伝子やテトラサイクリン耐性遺伝子等のマーカー遺伝子を使用することが好ましい。
【0025】
DNA断片をクラミジア内に導入する方法としては、特に制限はなく、当業者に既知の任意の方法を適宜選択することができる。例えばエレクトロポレーション法、カルシウムイオンを用いる方法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0026】
相同組換えは、クラミジア内に導入したDNA断片とクラミジアゲノムとの間で相同組換えをさせることが可能であるタンパクであれば本発明製造方法に用いることが出来るが、たとえば5’→3’エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNAアニーリングタンパクの組み合わせを用いて、クラミジアゲノムを相同組換えにより組換えることが、効率性の面から極めて好ましい。
【0027】
5’→3’エキソヌクレアーゼとは、一本鎖DNAを5’末端から3’末端方向へモノヌクレオチドを遊離させる働きを有する酵素を指す。本発明においては、racプロファージ由来のRecEや、ファージλ由来のRedα等、クラミジア内で発現し機能し得るものであれば、あらゆる種類の5’→3’エキソヌクレアーゼを使用することが出来る。
【0028】
一本鎖DNAアニーリングタンパクとは、相互に相同な領域を有する一本鎖DNAに結合するタンパク質であり、これらの一本鎖DNAの相同な領域間において、相同組換えを生じさせる働きを有するタンパク質を指す。本発明においては、racプロファージ由来のRecTや、ファージλ由来のRedβ、ファージP22由来のErf等、クラミジア内で発現し機能し得るものであれば、あらゆる種類の一本鎖DNAアニーリングタンパクを使用することが出来る。
【0029】
RecTとRedβは、機能的に類似していることが公知である(Hall et al.J.Bacteriol.175(1993)277−287;Muniyappa and Radding,J.Biol.Chem.261(1986)7472−7478;Kmiec and Holloman,J.Biol.Chem.256(1981)12636−12639)。また、Erfタンパク質は、Poteete and Fenton(J Mol Biol 163(1983)257−275)およびその中の参考文献によって記載されており、RedβおよびRedTと機能的に類似することが知られている(Murphy et al.,J Mol Biol 194(1987)105−117)。
【0030】
大腸菌において、recEおよびrecT遺伝子またはredαおよびredβ遺伝子あるいはファージP22組換え系などの機能的に関連する遺伝子を発現させることにより、2つのDNA分子間での効果的な相同組換えが高頻度で生じることが報告されている(Kolodnerら、Mol.Microbiol.11(1994)23−30;Fenton.A.C.and Pottete.A.R.,Virology 134(1984)148−160;Poteete.A.R.and Fenton.A.C.,Virology 134(1984)161−167)。
【0031】
本発明はまた、RecE、RecT、Redα、RedβおよびErfとして上記で明確に同定される分子の機能的等価物でありかつ、本明細書中に記載されるような組換えを介する能力が残存するものであれば、あらゆるものを使用し得る。このような機能的等価物としては、バクテリオファージ中に存在する組換え系のエレメントのホモログ(ラージDNAファージ、T4ファージ、T7ファージ、スモールDNAファージ、異性体ファージ、フィラメントDNAファージ、RNAファージ、Muファージ、P1ファージ、誘導体ファージおよびファージ様物が挙げられるが、これらに限定されない)、ならびにウイルス中に存在する組換え系のエレメントの機能的ホモログ(以下の群のいずれかに属する任意のウイルスが挙げられるが、これらに限定されない:植物ウイルス、昆虫ウイルス、酵母ウイルス、真菌ウイルス、寄生虫性微生物ウイルス、ピコルナウイルス、エンテロウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、ライノウイルス、全ての肝炎ウイルス、カルシウイルス科、ノーウォーク群のウイルス、アストロウイルス科、アストロウイルス、トガウイルス、アルファウイルス、風疹ウイルス、フラビウイルス科、フラビウイルス、ペスチウイルス、コロナウイルス科、コロナウイルス、乳酸デヒドロゲナーゼ増大(elevating)ウイルスおよび関連ウイルス、ラブドウイルス科、ラブドウイルス、フィロウイルス科、マールブルグウイルス、エボラウイルス、パラミクソウイルス科、パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルス、オルソミクソウイルス科、オルソミクソウイルス、ブンヤウイルス科、アレナウイルス科、アレナウイルス、レオウイルス科、レオウイルス、ロタウイルス、オルビウイルス、コルチウイルス(coltivirus)、レトロウイルス、ヒトT細胞白血球ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、レンチウイルス、パポバウイルス科(papoviridae)、ポリオーマウイルス科、ポリオーマウイルス、パピローマウイルス科、パピローマウイルス、アデノウイルス科、アデノウイルス、パルボウイルス科、パルボウイルス、ヘルペスウイルス科、単純ヘルペスウイルス、エプスタイン−バーウイルス、サイトメガロウイルス、水痘‐帯状疱疹ウイルス、ヒトヘルペスウイルス、オナガザルヘルペスウイルス、Bウイルス、ポックスウイルス科、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス科、ならびに未分類の因子(例えば、δ型肝炎ウイルスおよびE型肝炎ウイルス(Fields Virology,Third Edition,edited by B.N.Fields,D.M.Knipe,P.M.Howley,et al. Lippincott−Raven Publishers,Philadelphia PA USA(1996))が挙げられる。
【0032】
上記の機能的等価物の特定の例示としては、野生型配列からのアミノ酸の置換、挿入および/または欠失を含む、RecEタンパク質、RecTタンパク質、Redαタンパク質、Redβタンパク質またはErfタンパク質であり、かつ、相同組換えの機能を正常に発揮し得るものが挙げられる。そのような機能的等価物としては、好ましくは、野生型配列と少なくとも20%以上、さらに好ましくは少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%または99%以上のアミノ酸配列同一性を有するものである。
【0033】
すなわち、本発明において使用し得る5’→3’エキソヌクレアーゼをコードする塩基配列及び一本鎖DNAアニーリングタンパクをコードする塩基配列としては、例えばRecE及びRecTをコードする塩基配列が挙げられ、具体的にはrecE遺伝子塩基配列とrecT遺伝子塩基配列が一部重複した配列番号1の配列が挙げられるが、これとストリンジェント条件下でハイブリダイズする塩基配列も含まれる。ストリンジェント条件下とは、0.1×SSC、0.5%SDS中、好ましくは55℃、より好ましくは62℃、さらに好ましくは68℃で30分の洗浄することを言い、具体的には、ストリンジェント条件下でハイブリダイズする塩基配列としては、配列番号1と少なくとも60%以上相同の塩基配列であり、好ましくは少なくとも70%以上、さらに好ましくは少なくとも80%以上相同の塩基配列である。
【0034】
Redα及びRedβをコードする塩基配列としては、例えば配列番号2及び配列番号3の配列が挙げられるが、これとストリンジェント条件下でハイブリダイズする塩基配列も含まれる。ストリンジェント条件下とは、0.1×SSC、0.5%SDS中、好ましくは55℃、より好ましくは62℃、さらに好ましくは68℃で30分の洗浄することを言い、具体的には、ストリンジェント条件下でハイブリダイズする塩基配列としては、配列番号1と少なくとも60%以上相同の塩基配列であり、好ましくは少なくとも70%以上、さらに好ましくは少なくとも80%以上相同の塩基配列である。
【0035】
本発明におけるクラミジアゲノム組換え用プラスミドとしては、以下に挙げる本発明プラスミドを用いることが出来る。
【0036】
(3)本発明プラスミド
本発明プラスミドは、プロモーター配列下流に5’→3’エキソヌクレアーゼをコードする塩基配列又は一本鎖DNAアニーリングタンパクをコードする塩基配列を含むことを特徴とするプラスミドである。
【0037】
本発明プラスミドは、上述したように本発明方法により本発明クラミジアを調製するために用いることが出来るプラスミドである。
【0038】
かかる用途に用いることが出来る限りにおいて、本発明プラスミドは、5’→3’エキソヌクレアーゼをコードする塩基配列又は一本鎖DNAアニーリングタンパクをコードする塩基配列のいずれかを有するが、取り扱いの利便性を考慮すると、両者をともに同一プラスミド中に有していることが好ましい。
【0039】
本発明プラスミドは、5’→3’エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNAアニーリングタンパクを発現するように、これらの遺伝子配列の上流にプロモーター配列を有している。かかる本発明プラスミドに使用することが出来るプロモーター配列としてはlacプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、cspAプロモーター、talプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、araBADプロモーター、又はgal1プロモーター等、クラミジア内で遺伝子の転写を誘導することが出来うるあらゆる種類のプロモーターを使用することが出来るが、好ましくは温度感受性プロモーターであり、λファージのPL、PRプロモーターが例示される。かかるプロモーターと、5’→3’エキソヌクレアーゼをコードする塩基配列及び一本鎖DNAアニーリングタンパクをコードする塩基配列とが適切に転写されタンパク質を発現するように配置することは、プラスミド構成を行うに際して当業者であれば比較的身近に使用する方法を適宜選択の上行うことが可能である。
【0040】
また、さらに本発明プラスミドは、本発明プラスミドの導入が適切にされていることを確認するためのマーカー遺伝子として、クロラムフェニコール耐性遺伝子やテトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子をプラスミド上に配置しておくことも当業者であれば可能である。
【0041】
以下に具体的な実施例を述べるが、本発明は以下の実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0042】
大腸菌K12株由来のXL-1blueのゲノムを鋳型として、recE遺伝子及びrecT遺伝子を増幅させるために、5’末端に制限酵素サイトsalIサイト、3’末端に制限酵素サイトXbaIサイトを付加したプライマー配列(配列番号4、配列番号5)を用いてPCR法によりDNA断片を増幅した。得られたDNA断片を、pMB1 oriを持つpCL476プラスミドのmulti-cloning siteに組み込んで、発現プラスミドを構築した。構築したプラスミドをpCLfrec1と命名する(図1)。
【0043】
クラミジアゲノム上の3型分泌装置コンポーネントyscC遺伝子を相同組換えにより破壊するために、クラミジアゲノム上の3型分泌装置コンポーネントyscC遺伝子の部分配列50ベースとクラミジアompA遺伝子(MOMPをコードする遺伝子)プロモーター配列を5’末端に付け加えたプライマー(配列番号6、7)を用いて、薬剤耐性遺伝子としてテトラサイクリンないしクロラムフェニコール耐性遺伝子をテンプレートとしたPCRを行うことで取得した。同様に、3型分泌装置コンポーネントlcrE遺伝子、yscN遺伝子についても実施した。
【0044】
Hela細胞にクラミジアを感染させて2日後、セルスクレイパーを用いて2%グリセロール250μl中に細胞浮遊液を回収し、超音波破砕機でクラミジアを遊離した。Hela細胞の核を遠心で除去した後に、BioRad社Micropulserを用いて、エレクトロポレーション法により、pCLfrec1 10.4μgと、上記PCR産物0.1μgを導入した。パルスはエクスポネンシャル波形1.5kV1回を2mmギャップのキュベットに時定数なしで加えた。DNA導入後、即座にSPG溶液(0.22M sucrose, 3.8mM KH2PO4, 8.6mM NaHPO4, 4.9mM Na glutamate)500μlを加えて44℃で20分培養後、37℃で2時間培養し再度Hela細胞に感染させた。
【0045】
クラミジアゲノムの組み換えは、yscC遺伝子の組み換え位置より上流の配列(配列番号8)と、テトラサイクリンないしクロラムフェニコール耐性遺伝子に相補的な配列(配列番号9)をそれぞれフォワードプライマー・リバースプライマーとして用いたPCRを行い、その産物をさらに(配列番号10、配列番号11)を用いたnested PCRを行って、遺伝子配列を決定することで確認した(図2)。同様にlcrE遺伝子、yscN遺伝子についても実施した。
【実施例2】
【0046】
Glycogen hydrolase遺伝子(glgX)の破壊株の取得
Glycogen hydrolase遺伝子の部分配列50ベースを5’末端に付け加えたプライマー(配列番号12,13)を用いて、マーカーとしてのクロラムフェニコール耐性遺伝子をテンプレートとしたPCRを行うことで、挿入DNA断片を取得した点以外は、実施例1と同様の方法によりクラミジア内に当該DNA断片を導入し、組換えを行った。
【0047】
組換えの確認は、glgX遺伝子の上流の配列(配列番号14)と、クロラムフェニコール耐性遺伝子に相補的な配列(配列番号9)をそれぞれフォワードプライマー・リバースプライマーとして用いたPCRを行い、その産物をさらに(配列番号15、配列番号11)を用いたnested PCRを行って、遺伝子配列を決定することで確認した(図3)。
【実施例3】
【0048】
クラミジアの主要外膜タンパクMOMPをコードするompA遺伝子のプロモーター配列(図4、P1、P2、及びP2b)をつないだクロラムフェニコール耐性遺伝子をクラミジアに導入し、mRNAの転写量を測定した。すなわち、実施例1と同様の方法により、クラミジアゲノムのlcrE遺伝子の3’末端の位置に、図4に示したプロモーター配列P1、P2、又はP2bを上流に持つクロラムフェニコール耐性遺伝子を組み換えた変異株を作成し、Hela細胞への感染2日後のmRNA発現量をRT-PCRで検討した。RNAは感染細胞全体からTrizol(Invitrogen)を用いて調整し、DNAase IでDNAを切断した後、クロラムフェニコール耐性遺伝子に相補的なプライマー(配列番号16、17)を用いてRT-PCRを行った。
【実施例4】
【0049】
実施例1の方法によりlcrE遺伝子破壊株(配列番号18、19を用いて作成した挿入DNA断片)、yscC遺伝子破壊株、及び、yscN遺伝子破壊株(配列番号20、21を用いて作成した挿入DNA断片)を取得し、継代培養による相対存在量の比較を行った(図5)。相対存在量は、クラミジアを感染させたHela細胞ごとゲノムDNAを調整し、そのDNAをテンプレートして、Real Time PCRを行うことにより定量した。感染させたクラミジアは、遺伝子変異体と野生株の混合になるので、変異体の相対的存在量を定量して比較した。すなわち、変異体の量を、組み換え部分の5’隣接部分に相補的なフォワードプライマー(配列番号22、配列番号8、配列番号23)と挿入したクロラムフェニコール耐性遺伝子に相補的なリバースプライマー(配列番号9)、増幅される配列に相補的なTaqMan probe(配列番号24)を用いて定量した。感染しているクラミジア全体のゲノムコピー数をGroEL遺伝子のReal time PCR(配列番号25、配列番号26)によって定量して、クラミジア全体の内の変異体の相対存在量を測定した。図5の結果から、これら3型分泌装置欠損株は再感染能が低いことが示され、これらの変異株のワクチンとしての使用可能性が示唆された。
【実施例5】
【0050】
実施例1の方法によりテトラサイクリン耐性遺伝子を組み込んだlcrE遺伝子破壊株(配列番号27、28を用いて作成した挿入DNA断片)、及び、yscN遺伝子破壊株(配列番号29、30を用いて作成した挿入DNA断片)を取得し、0.1μg/mlのテトラサイクリン存在下で数代継代培養して、テトラサイクリンによる選別ができることを確認した。(図6)。遺伝子破壊株の確認は、glgXの場合と同様にnested PCRによって行った。すなわち、組み換え部分の5’隣接部分に相補的なフォワードプライマー(配列番号22又は配列番号23)と挿入したテトラサイクリン耐性遺伝子に相補的なリバースプライマー(配列番号31)を用いてPCRを行い、その産物をさらに配列番号32と、配列番号33又は配列番号34とを用いてnested PCRを行った。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によるクラミジアゲノムの組換えにより、ゲノムプロジェクトで見出された機能未知タンパク質の機能解明に基づくクラミジアの病原遺伝子の同定が可能となる。さらに、病原遺伝子の破壊株取得による弱毒化クラミジアワクチンの製造等、医療分野において大きく貢献することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラミジアゲノム配列中に非クラミジア由来の外来DNA配列を有する組換えクラミジア。
【請求項2】
クラミジアゲノム配列の一部と相同な第一の領域及び第二の領域を有するとともに非クラミジア由来の外来DNA配列を前記第一の領域と第二の領域との間に含むDNA断片をクラミジア内に導入し、当該DNA断片とクラミジアゲノムの間で相同組換えを行わせることにより得られた組換えクラミジア。
【請求項3】
クラミジアゲノム配列の一部と相同な第一の領域及び第二の領域を有するとともに非クラミジア由来の外来DNA配列を前記第一の領域と第二の領域との間に含むDNA断片をクラミジア内に導入し、当該DNA断片とクラミジアゲノムの間で相同組換えを行わせる組換えクラミジアの製造方法。
【請求項4】
5’→3’エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNAアニーリングタンパクの組み合わせを用いて、クラミジアゲノムを相同組換えにより組換えることを特徴とする、請求項3記載の組換えクラミジアの製造方法。
【請求項5】
5’→3’エキソヌクレアーゼがRecEまたはRedαであり、一本鎖DNAアニーリングタンパクがRecTまたはRedβであることを特徴とする、請求項4記載の組換えクラミジアの製造方法。
【請求項6】
プロモーター配列下流に5’→3’エキソヌクレアーゼをコードする塩基配列及び一本鎖DNAアニーリングタンパクをコードする塩基配列を、同一プラスミド上に、又は、別個のプラスミド上に含むことを特徴とする、クラミジアゲノム組換え用プラスミド。
【請求項7】
5’→3’エキソヌクレアーゼがRecEまたはRedαであり、一本鎖DNAアニーリングタンパクがRecTまたはRedβであることを特徴とする、請求項6記載のクラミジアゲノム組換え用プラスミド。
【請求項8】
請求項6又は請求項7いずれか1項記載のプラスミドと、クラミジアゲノム配列の一部と相同な第一の領域及び第二の領域を有し非クラミジア由来の外来DNA配列を含むDNA断片とを、クラミジア内に導入し、前記プラスミドがコードしているタンパク質をクラミジア内で発現させることにより、前記DNA断片をクラミジアゲノムに相同組換えする、組換えクラミジアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−217736(P2011−217736A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58884(P2011−58884)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(506111240)学校法人 愛知医科大学 (6)
【Fターム(参考)】