説明

組換え型ポリペプチドの製造方法

【課題】大腸菌等の宿主において、不溶性画分として産生された組換えポリペプチドについて、その生物活性を高い効率で回復させ、更に天然には無い優れた性質を付与する方法を提供する。
【解決手段】大腸菌等の遺伝子組換え細胞により産生されるポリペプチドの製造において、巻き戻し前のポリペプチド、巻き戻し後に形成されるポリペプチドの可溶性凝集体若しくは不溶性凝集体、又は、段階的透析過程におけるポリペプチドの巻き戻し中間体のいずれかをポリエチレングリコール等で化学修飾する、組換えポリペプチドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え型ポリペプチドの製造方法に関し、特に、大腸菌等の原核細胞を宿主に用いる遺伝子組換えにより産生される組換え型ペプチドの製造方法に関する。より具体的には、本発明は、宿主大腸菌菌体内に不溶性画分として産生されたポリペプチドを、可溶化・巻き戻し操作を施し、そのポリペプチドの生物活性を高い効率で回復させ、本来の反応性を持つ組換え型ポリペプチドを製造する方法、及び、こうして製造された組換え型ポリペプチドを有効成分として含有する生物製剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト由来の生理活性を有するポリペプチド等の生体分子を有効成分(活性成分)として含有するヒト生物製剤は、多くの疾病に対する治療薬や診断薬への応用が期待されている。これらの臨床応用を目指す研究に利用するため、天然のヒト生物製剤に換えて、遺伝子工学を応用して、動物細胞を利用した組換え型生物製剤の作製が可能となっている。また、ヒト生物製剤の生物活性をより高めること、あるいは、その反応性の選択性を増すこと、更には、安価な製造を目的とし、天然のヒト型ポリペプチドのアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する、あるいはその一部を有するポリペプチド分子を、大腸菌等の原核細胞に代表される微生物を用いて組換え型ポリペプチド分子として生産する発現系が多く報告されている。
【0003】
このような微生物を用いる発現系による組換え型ポリペプチド分子の製造方法は、不純物の混入もなく、医療用途、あるいは、免疫医学研究の用途に適するものである。
【0004】
しかしながら、このような従来の発現系においても、組換え型ポリペプチドの種類に依っては、必ずしもその生産性は高くなく、あるいは、生物活性が損なわれた細胞質封入体の形成がしばしば見られる。例えば、大腸菌を用いた分泌発現系においては、例えば、発現された組換え型ポリペプチド分子のペリプラズム域への移行、不溶性のアグリゲーションの形成に至らない事例も数少なくない。又、ペリプラズム域へは移行されても、不溶性のアグリゲーションを形成する事例が大半であると報告されている(非特許文献1)。
【0005】
他方、分泌発現に換えて、宿主大腸菌菌体内において、不溶性画分に含まれる細胞質封入体から組換え型ポリペプチド分子を回収し、これらポリペプチドの可溶化とその後の巻き戻しにより、適正な構造をとるポリペプチド分子に再生する手法も提案されている(非特許文献2)。この方法でも、巻き戻しにより、適正な構造を再構成する段階の効率は必ずしも高くなく、十分に高い巻き戻し効率が再現性よく達成できる水準にはない。例えば、水に可溶であるが非天然型構造を有する多量体である蛋白質可溶性凝集体が形成されることが多い。加えて、汎用性のある巻き戻し条件の確立はなされていない。そのため、微生物を用いる発現系を利用する組換え生物製剤分子の生産は極く限られた範囲でしか応用できないのが現状である。
【0006】
従って、遺伝子組換え微生物を利用する発現系を用い、組換え型ポリペプチド分子等を含む生物製剤を、高い生産性で製造する新たな方法が待望されている。特に、微生物を利用する発現系においてしばしば見られる、不溶性の凝集体を形成し、生物活性が損なわれた組換え型ポリペプチド分子を可溶化した後、巻き戻して、その生物活性を高い効率で回復させる方法の開発が望まれている。
【0007】
因みに、すでに、"天然構造"に巻き戻っており、かつ活性を有している蛋白質をポリエチレングリコール(PEG)化することによって、体内半減期の延長、溶解度と分散性が向上することは既に知られている(非特許文献3及び4)。
【0008】
更に、特許文献1には、組換え宿主細胞から産生される抗体ペプチドを巻き戻す際に、所定量の酸化型グルタチオンを添加した液に対して透析を行うことを特徴とする発明が記載されている。又、特許文献2には、組換え型アルギニンデイミナーゼのリフォールディングの再に、溶液中のカリウムイオンを所定濃度に調整する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−93172号公報
【特許文献2】特開2002−45180号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Strandberg, L.,Enfors, S. O., 1991. Factors influencing inclusion body formation in the production of a fused protein in Escherichia coli. Appl. Environ. Microbiol. 57, 1669-1674.
【非特許文献2】Buchner, J.,Rudolph, R., 1991. Renaturation, purification and characterization of recombinant Fab-fragments produced in Escherichia coli. Biotechnology. (N. Y). 9, 157-162.
【非特許文献3】Kubetzko, S., Sarkar, C. A.,Pluckthun, A., 2005. Protein PEGylation decreases observed target association rates via a dual blocking mechanism. Mol. Pharmacol. 68, 1439-1454.
【非特許文献4】Molineux, G., 2003. Pegylation: engineering improved biopharmaceuticals for oncology. Pharmacotherapy 23, 3S-8S.
【非特許文献5】Sato, J. D., Kawamoto, T., Le, A. D., Mendelsohn, J., Polikoff, J., Sato, G. H., 1983. Biological effects in vitro of monoclonal antibodies to human epidermal growth factor receptors. Mol. Biol. Med. 1, 511-529.
【非特許文献6】Asano, R., Watanabe, Y., Kawaguchi, H., Fukazawa, H., Nakanishi, T., Umetsu, M., Hayashi, H., Katayose, Y., Unno, M., Kudo, T., Kumagai, I., 2006. Highly effective recombinant format of a humanized IgG-like bispecific antibody for cancer immunotherapy with retargeting of lymphocytes to tumor cells. J. Biol. Chem. 282, 27659-27665.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の課題を解決することを目的とする。即ち、本発明の目的は、大腸菌等の微生物を宿主に用い、遺伝子組換えにより産生される組換え型ポリペプチドの新たな製造方法を提供すること、より具体的には、宿主大腸菌等において、不溶性画分として産生された組換えポリペプチドについて、可溶化・巻き戻し操作、又は巻き戻し操作前の過程で、化学修飾を施し、そのポリペプチドの生物活性を高い効率で回復させ、更に天然には無い優れた性質付与をする新たな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を進め、宿主大腸菌菌体内に不溶性画分として産生された組換え型ポリペプチドに、6 M塩酸グアニジンを用いて可溶化処理を施した後、精製し、次いで、精製済みのペプチド溶液中の塩酸グアニジン濃度を透析により段階的に減じ、特定の塩酸グアニジン濃度を下回った時点でポリエチレングリコール等で該ポリペプチドを化学修飾し透析緩衝液(外液)に対して透析を行ことにより、適正な巻き戻しが達成されることを見出した。加えて、前記巻き戻し操作において、L-アルギニンを透析緩衝液中に添加することで、適正な巻き戻しの収率を更に向上できることを見出した。又、巻き戻し後に形成される、天然構造を有していない可溶性凝集体若しくは不溶性凝集体に対しても同様な化学修飾を施すことにより、このような凝集体が解体し、活性を持つ単量体抗体を形成させることに成功した。更に、可溶化直後の巻き戻し前の段階においてもポリエチレングリコール等で該ポリペプチドを化学修飾することによっても同様な効果がえられることも見出した。かかる知見を基に、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下に示す各態様に係るものである。
[態様1]
遺伝子組換え細胞により産生されるポリペプチドを可溶化し、精製し、得られたポリペプチド溶液の段階的透析により巻き戻しを行なうことを含む、生物活性を有するポリペプチドを製造する方法であって、巻き戻し前のポリペプチド、巻き戻し後に形成されるポリペプチドの可溶性凝集体若しくは不溶性凝集体、又は、段階的透析過程におけるポリペプチドの巻き戻し中間体のいずれかを化学修飾することを特徴とする、前記製造方法。
[態様2]
ポリペプチドに塩酸グアニジンを作用させることで可溶化を行ない、段階的透析の開始時におけるポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度が3 Mより大であり、終了時における塩酸グアニジン濃度が0 Mであることを特徴とする、態様1記載の製造方法。
[態様3]
段階的透析におけるポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度が3 M以下の段階において、ポリペプチドの巻き戻し中間体を化学修飾することを特徴とする、態様1又は2記載の製造方法。
[態様4]
段階的透析におけるポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度が2 M以下の段階において、ポリペプチドの巻き戻し中間体を化学修飾することを特徴とする、態様3記載の製造方法。
[態様5]
段階的透析におけるポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度が0.5 M以下の段階において、ポリペプチドの巻き戻し中間体を化学修飾することを特徴とする、態様3記載の製造方法。
[態様6]
透析外液に所定量のL-アルギニンを添加することを特徴とする、態様1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
[態様7]
化学修飾がポリエチレングリコール(PEG)により行なわれることを特徴とする、態様1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
[態様8]
ポリペプチドが抗体分子又はそれを構成する一部であることを特徴とする、態様1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
[態様9]
遺伝子組換え細胞により産生されるポリペプチドが不溶性の細胞質封入体を形成していることを特徴とする、態様1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
[態様10]
遺伝子組換え細胞が大腸菌であることを特徴とする、態様1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
[態様11]
ポリペプチドがヒト由来であることを特徴とする、態様1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
[態様12]
態様1〜11のいずれか一項に記載の製造方法で得られる組換え型ポリペプチドを有効成分として含有する生物製剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によって、遺伝子組換え細胞により産生されるポリペプチドを可溶化し、得られたポリペプチド溶液の段階的透析により巻き戻しを行う方法において、巻き戻し前のポリペプチド、巻き戻し後に形成した可溶性凝集体又は不溶性凝集体を化学修飾することによって、これら凝集体を解体して分散させ、実質的に天然の構造を有し本来の生物活性を持つ単量体分子を得ることが出来る。更に、ポリペプチドを巻き戻し中に化学修飾することによって、上記の凝集体の形成を経由せずに、同様な単量体分子を調製することが出来る。
【0015】
これらの結果、体内半減期、溶解度及び分散性等の点で優れた性質を有する組換え型ポリペプチド分子を高い効率で巻き戻し、その本来の生物活性を高い効率で回復させ、更に天然には無い優れた性質付与をすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】h528 scFv(cys+)の発現ベクターpRA-h528 scFv(cys+)の構成を示す。
【図2】h528 scFv(cys+)に関するゲルろ過による分子量測定及びDLSによる粒子測定の結果を示す。
【図3】h528 scFv(cys+)に関するCDスペクトルによる構造解析、及びA431細胞に対する結合評価の結果を示す。
【図4】可溶性凝集体を形成しているh528 scFv(cys+) をPEG20(20 kDa)及びPEG5(5 kDa)で化学修飾したものに関するSDS-PAGE及びウエスタンブロティングの結果、並びに、TFK−1細胞及びA431細胞に対する結合評価の結果を示す。
【図5】可溶性凝集体を形成しているh528 scFv(cys+) をPEG20(20 kDa)で化学修飾したものに関するゲルろ過による分子量測定及びウエスタンブロティング、並びに、PEG化h528 scFv(cys+)画分に関するA431細胞に対する結合評価の結果を示す。
【図6】巻き戻し中間体であるh528 scFv(cys+)をPEG20(20 kDa)及びPEG5(5 kDa)で化学修飾したものに関するSDS-PAGE及びウエスタンブロティングの結果を示す。
【図7】巻き戻し中間体であるh528 scFv(cys+)をPEG20(20 kDa)及びPEG5(5 kDa)で化学修飾したものに関するゲルろ過による分子量測定の結果を示す。
【図8】実施例1、比較例、及び実施例2で得られたゲルろ過の結果を示す。
【図9】OH5L、5HOL、OH5L(cys+)及び5HOL(cys+)の夫々を発現させる各ベクターの構成を示す。
【図10】PEG化Ex3ダイアボディをゲル濾過クロマトグラフィーとウエスタンブロティングにかけた結果を示す。
【図11】PEG化Ex3ダイアボディのT-LAK(CD3+)及びTFK-1(EGFR+)細胞を用いたフローサイトメトリーによる評価を示す。
【図12】PEG化Ex3ダイアボディのT-LAK(CD3+)及びTFK-1(EGFR+)細胞を用いたフローサイトメトリーによる評価を示す。
【図13】Ex3タンデムscFv(cys+)の発現ベクターの構成を示す。
【図14】PEG化処理後のEx3タンデムscFv(cys+)のSDS-PAGEとウェスタンブロッティング結果を示す。
【図15】ゲル濾過クロマトグラフィー精製後のPEG化Ex3タンデムscFvのSDS-PAGE結果を示す。
【図16】PEG化Ex3タンデムscFvのフローサイトメトリーによる結合活性評価を示す。
【図17】h528 scFv-p53 (cys+)の発現ベクターの構成を示す。
【図18】PEG化処理後のh528 scFv-p53 (cys+)のSDS-PAGEとウェスタンブロッティング結果を示す。
【図19】PEG化h528 scFv-p53 (cys+)のSDS-PAGE、 DLS測定、CD測定(下側のグラフ)、及びフローサイトメトリーによる結合活性評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、遺伝子組換え細胞を用いた、生物活性を有するポリペプチドを製造する方法に関する。本発明方法は、主に、(1)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド分子(DNA配列)を含む適当なベクターで宿主細胞を形質転換する段階、(2)遺伝子組換え細胞を培養してポリペプチドを産生させる段階、(3)産生されたポリペプチドを可溶化する段階、(4)可溶化されたポリペプチドを精製する段階、及び(5)精製されたポリペプチドの溶液を段階的透析にかけ、該ポリペプチドの巻き戻しを行う段階を含む従来の方法において、巻き戻し前のポリペプチド、巻き戻し後に形成される可溶性凝集体若しくは不溶性凝集体、又は、段階的透析過程におけるポリペプチドの巻き戻し中間体のいずれかを化学修飾することを特徴とする。上記の各段階自体は、当業者に公知の任意の方法・手段で行なうことが出来る。
【0018】
ここで、「ポリペプチド」とはアミノ酸の重合体である分子を意味し、それに含まれるアミノ酸の数に特に制限はない。例えば、分子量が数万ないし数十万にも及ぶ蛋白質、及び、「オリゴペプチド」と呼ばれる、十数乃至数十個のアミノ酸から成る重合体も本発明のポリペプチドに含まれる。
【0019】
又、本発明方法で製造されるポリペプチドは、実質的に天然の構造を有するものであるが、天然のポリペプチドと全く同一のアミノ酸配列を有する必要はなく、生物活性を有するものである限り、当業者に公知の任意の方法で変異を受けたポリヌクレオチド分子によってコードされた、天然のポリペプチドのアミノ酸配列の一部が改変されたポリペプチド、例えば、ポリペプチドの生物活性に直接の影響を及ぼさない領域において、数個のアミノ酸が置換、欠失、又は挿入されたアミノ酸配列を有するポリペプチドでも良い。このような欠失、置換又は付加されるアミノ酸を有するポリペプチドは、例えば、部位特異的変異導入法(点突然変異導入及びカセット式変異導入等)、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法、及びPCR法等の当業者に周知の方法を適宜組み合わせて、容易に作製することが可能である。尚、本明細書において、「生物活性を有するポリペプチド」とは、該ポリペプチドが天然状態で有する本来の生物活性(インビボ又はインビトロで示す生理的活性・機能等)と実質的に同一の活性を有していることを意味し、上記のアミノ酸配列の改変等によって、本質的機能が損なわれない範囲で、該生物活性が増加・減少されているものも含まれる。更に、本発明方法における化学修飾によって、該ポリペプチドの体内半減期、溶解度及び分散性等は有意に向上する。
【0020】
本発明方法で製造されるポリペプチドは任意の生物活性を有するものであり、その種類及び由来生物種に特に制約はない。非限定的な例として、各種の酵素、各種インターロイキン等のサイトカイン、ホルモン、増殖・成長因子、及び、抗体分子又はそれを構成するその一部を挙げることが出来る。由来としては、ヒトを含む哺乳類を挙げることができる。
【0021】
抗体分子又はそれを構成するその一部としては、通常の天然型抗体を構成する重鎖(H鎖)及び軽鎖(L鎖)分子又はそれらに含まれる各領域、H鎖及びL鎖の夫々の可変領域を含む1本鎖抗体(scFv)を例示することが出来る。尚、scFvについては、Rosenburg and Moore (Ed.), “The Pharmacology of Monoclonal Antibodies", Vol. 113, Springer-Verlag, New York, pp.269-315 (1994)等を参照することができる。
【0022】
更に、Fab抗体分子、各種の二重特異性抗体(BsAb)、及びBsAbの一種であるダイアボディ抗体(WO2007/108152号パンフレット、特開2004−242638号公報(特許第3803790号明細書)等参照)、並びに、これらを構成する1本鎖分子等も本発明におけるポリペプチドに含まれる。
【0023】
尚、ポリペプチドは、アフィニティクロマトグラフィを用いて効率的に精製できるように、当業者に公知の任意のペプチドタグ(例えば、c−mycタグ及びHis−tag)を付加して改変されたものでも良い。更に、ポリエチレングリコール(PEG)等の化合物により化学修飾するために、該化合物との反応部位、例えば、「GlyGlyCys」をポリペプチドの末端に付加されるようにポリペプチドを改変することも出来る。その他、必要に応じて、シグナルぺプチド及びリンカーペプチド等の任意の構造を付加することも可能である。
【0024】
巻き戻し後に形成される「可溶性凝集体」とは、水に可溶であるが非天然型構造をもち多量体を形成しているポリペプチド(蛋白質)であって、ゲル濾過クロマトグラフィで非常に大きい分子量画分として確認できる物質である。一方、「不溶性凝集体」は、水に不溶であり非天然型構造をもち多量体を形成している蛋白質である。
【0025】
化学修飾は、例えば、任意の適当な分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)及びデキストラン等の多糖分子を用いて当業者に公知の任意の反応を利用して実施することが出来る。
【0026】
宿主細胞としては、特に制限はないが、宿主細胞の細胞質内において、高発現が達成される発現系例えば、大腸菌等の任意の原核細胞を利用するのが望ましい。特に、宿主細胞培養物から分離の容易さをも考慮すると、不溶性画分に回収される封入体を形成する発現系が却って好適である。
【0027】
ベクターは、適切な宿主細胞中で DNA配列を発現するように、適切な制御配列(control sequence)とそれが機能するように(operably)(即ち、外来DNAが発現できるように)連結せしめられたDNA配列を含有する DNA構築物(DNA construct) を意味している。そうした制御配列としては、転写(transcription) させるためのプロモーター、そうした転写を制御するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードしている配列、ポリアデニル化配列、及び転写や翻訳(translation) の終了を制御する配列等が挙げられる。更にベクターは、当業者に公知の各種の配列、例えば、制限酵素切断部位、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子(選択遺伝子)、シグナル配列、リーダー配列等を必要に応じて適宜含むことが出来る。これらの各種配列又は要素は、外来DNAの種類、使用する宿主細胞、培養培地等の条件に応じて、当業者が適宜選択して使用することが出来る。
【0028】
例えば、遺伝子組換え細胞により産生される不溶性の細胞質封入体を形成しているポリペプチドは、6M程度の適当な濃度の塩酸グアニジン(GdnHCl)を含む適当な緩衝液を用いて、当業者に公知の適当な条件下で可溶化を行なうことが出来る。可溶化されたポリペプチドは、ポリペプチドの構造に応じて、当業者に公知の任意の方法、例えば、各種のアフィニティクロマトグラフィ、ゲルろ過等により精製することが出来る。
【0029】
ポリペプチドの巻き戻しを行なう段階的透析の開始時におけるポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度は、好ましくは3 Mより大であり、終了時における塩酸グアニジン濃度が0 Mである。段階的透析は、段階的に減少された濃度の塩酸グアニジン濃度を含むPBS(pH 8.0)等の適当な緩衝液、又は、塩酸グアニジンを含まない緩衝液を透析外液として使用し、通常、4℃で数時間〜10時間程度の条件下で各回の透析を行なう。各透析段階において、ポリペプチド溶液に対して50倍の容量の透析外液を使用した場合には、6Mの塩酸グアニジンを含む適当な緩衝液で可溶化を行ない、第1〜4回目の透析後のポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度は、凡そ、0.12M、2.3 mM、45 μM、及び0.89 μMとなる。
【0030】
段階的透析過程におけるポリペプチドの巻き戻し中間体を化学修飾する場合には、段階的透析過程における任意の段階、例えば、段階的透析におけるポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度が例えば、3 M以下の段階、より好ましくは2 M以下の段階、更に好ましくは0.5 M以下の段階において、巻き戻し中間体にあるポリペプチドを化学修飾する。
【0031】
尚、このような巻き戻し中間体の段階で使用する透析外液には、蛋白質間(もしくは内部に含まれる)の疎水的相互作用を阻害する作用を有するL−Argを適当な濃度で添加することによって、ポリペプチドの変性状態を維持することが好ましい(J Biol Chem. 2003 Mar 14;278(11):8979-87)。更に、当業者に公知の適当な凝集抑制剤、及び酸化剤を段階的透析過程で適宜添加することが出来る。
【0032】
又、巻き戻し後に形成される可溶性凝集体若しくは可溶性凝集体であるポリペプチド、又は、段階的透析過程における巻き戻し中間体であるポリペプチドのいずれかを化学修飾する前に、ジスレイトール(DTT)及びトリス2-カルボキシエチルホスフィン(TCEP)等の適当な還元剤を適当量ポリペプチド溶液に添加し、その後、これらを除去することにより、ポリペプチド分子内に天然型に見られるS−S結合の形成を維持したまま、化学修飾を促進させることが出来る。しかしながら、巻き戻し工程において、天然型のS-S結合を形成させるための酸化剤を使用しない場合には、このような還元剤を使用する必要がない場合もある。
【0033】
尚、通常の巻き戻し過程では、不溶性画分から蛋白質を6M塩酸グアニジン溶液にて可溶化後DTT等の還元剤を用いてシステイン残基のチオール基を完全還元状態にして活性型に変換している。しかしながら、ポリペプチドが抗体分子又はそれを構成する一部である場合には、それらが有する免疫イムノグロブリン構造は不溶性画分において天然型のS-S結合を保持している可能性があるため、可溶化直後(巻き戻し前の段階)に還元剤処理を行わずポリペプチド末端へのPEG化操作を行うことも可能である。
【0034】
このような本発明の製造方法で得られる組換え型ポリペプチドは、各種の生理活性を有する生物製剤(医薬組成物)の有効成分として有用である。かかる生物製剤は、組換え型ポリペプチドはその活性及び目的等に応じた薬学的に許容される量が含まれ、更に、他の活性成分、並びに、添加剤、補助剤、及び緩衝剤等の当業者に公知の薬学的に許容されるその他の成分を適当量含むことが出来る。
【0035】
以下に実施例及び比較例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。 以下の全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとって周知で慣用的なものである。
【0036】
尚、以下の実施例等における、ゲルろ過による分子量測定、DLSによる粒子測定、CDスペクトルによる構造解析、及び細胞に対する結合評価は夫々、以下の通り、実施した。
ゲルろ過クロマトグラフィによる分子量測定:
GE Healthcar社製Hiload Superdex 200-pg 10/300カラムを用いて、流速0.5mL/min、4℃、サンプル量300 μLでGE Healthcare社製AKTA explorer 10Sにて行った。
DLSによる粒子測定:
試料は、ポリスチレン製セルに入れ、Malvern Instruments 社製 Zetasizer Nano 装置を用いて測定。屈折率はwaterを使用。
CDスペクトルによる構造解析:
試料は、光路長 1.0 mmのセルに入れ、Proterion社製のAVIV- CD装置を用いて測定。分解能0.2 nm,平均時間 4 s, 積算回数1回のパラメータにて測定。
細胞に対する結合評価:
標的細胞に対しサンプルを添加後30分、4℃で静置後、0.1%NaN3/PBSで2回Washし、続いて検出抗体としてanti-c-myc抗体を加え同様の操作を行い蛍光を測定した。ネガティブコントロール(N.C.)は検出抗体以降の操作を行い、ポジティブコントロール(P.C.)には、抗EGFR IgG抗体、あるいはFvを用いた。測定は、Becton Dickinson 社製FACSCaliburを用いて行った。尚、これに用いた各種細胞は当業者に公知のものであり、ATCC等から容易に入手可能である。
【実施例1】
【0037】
がん細胞増殖阻害活性を有する抗EGFR抗体528(非特許文献5)をヒト型化したH鎖及びL鎖の可変領域を含む1本鎖抗体であるh528 scFv(cys+)の発現ベクターpRA-h528 scFv(cys+)(図1)を作成し(非特許文献6)、大腸菌BL21(DE3)を形質転換後、2xYT培地中、28 ℃で2日間培養した。尚、抗EGFR抗体産生マウスB細胞ハイブリドーマ528は東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターに保存され(ID:TKG0555)、又は、ATCCにおいて、抗EGFR抗体528を産生するハイブリドーマは「ATCC No.HB−8509」として保管されており、これらの寄託機関から容易に入手可能である。
【0038】
菌体を集菌した後、PBSに懸濁して超音波破砕し、9000 rpmで30分間遠心し、沈殿を得た。こうして得られたh528 scFv(cys+)を含む菌体内不溶性画分を6 M GdnHCl/PBS(5 ml、pH=8.0、室温.)により暗所で静置し可溶化した。遠心分離により不溶性画分を除去し、上清を金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(Ni Sepharose)にかけ、室温でh528 scFv(cys+)を精製した。
【0039】
次に、溶出画分(6 M GdnHCl/PBS(50 mM Im+))を、7.5 μM 5 mlに調製した後、6 M GdnHCl/PBSに6 hr 、4 ℃で透析し、次いで0 M GdnHCl/PBS(0.4 M L-Arg+)の透析外液に対して4 ℃で6 時間の透析を2回実施した。その後、再び0 M GdnHCl/PBS (L-Arg非含有) の透析外液に対して4 ℃で6 時間の透析を2回実施した。これにジチオスレイトール(DTT、終濃度 3 mM)を添加し、37 ℃で30 分間インキュベートし、HiPrep 26/10 Desalting カラムを用いてDTT を除去し、透析(12hr、4 ℃)によりbuffer交換(100 mM クエン酸、100 mM NH4Ac、2 mM EDTA、pH=6.0)を行なった。こうして精製されたポリペプチドの濃度の10倍のPEG20(20 kDa)、及びPEG5(5 kDa)と混合し、2 hr、37 ℃で静置し、化学修飾反応を行なわせた。
【0040】
まず、比較例として、上記の方法で精製しただけのh528 scFv(cys+)に関して、ゲルろ過による分子量測定及びDLSによる粒子測定の結果を図2に示す。その結果、ゲルろ過による分子量測定では、h528 scFv(cys+)の理論分子量である29kDaではなく、ボイド画分への溶出が見られ、DLSによる粒子測定では、scFv単量体の粒子径(2nm)の10倍以上の粒子径が観察された。これらの結果から、上記の段階的透析によって得られたh528 scFv(cys+)が可溶性凝集体を形成していることが示された。
【0041】
更に、上記のh528 scFv(cys+)のCDスペクトルによる構造解析、及びA431細胞(ヒト扁平上皮がん細胞株)に対する結合評価(2次抗体:抗c-myc-FITC)を行なった結果を図3に示す。構造解析の結果によれば、可溶性凝集体であるh528 scFv(cys+)においてイムノグロブリンフォールドに特異的なβシート構造が確認され、又、A431細胞上に発現しているEGFR抗原に対する結合が確認された。
【0042】
次に、実施例1により得られた、PEG20(20 kDa)、およびPEG5(5 kDa)により化学修飾されたh528 scFv(cys+)をSDS-PAGE及びウエスタンブロティングにかけ、更に、TFK−1(ヒト胆管がん細胞株)及びA431に対する結合評価(2次抗体:抗c-myc-FITC)を行なった(図4)。これらの結果から、h528 scFv(cys+)がPEG化されていることが確認され、これが上記細胞に対して結合活性を有していることが示された。
【0043】
更に、PEG20(20 kDa) により化学修飾されたh528 scFv(cys+)をゲルろ過により単離し、各画分をウエスタンブロティングにかけた。又、PEG化h528 scFv(cys+)画分に関して、A431細胞を用いた結合活性を評価した(図5)。これらの結果から、可溶性凝集体を形成していたh528 scFv(cys+)の少なくとも一部がPEG化によって単量体され、これが上記細胞に対して結合活性を有していることが確認された。
【実施例2】
【0044】
実施例1において、巻き戻し後に形成される可溶性凝集体ポリペプチドにPEG化を施すことで、分散性を良くすること出来、また機能を保持していることも確認された。一方で、抗体等のポリペプチドは巻き戻し時に、途中のL-Argを抜く段階で凝集し、沈殿してしまうということがしばしばみられる。そこで、PEGの親水性を利用した収量向上を目指し、巻き戻し操作中でのPEG化を検討した。
【0045】
即ち、実施例1と同様な操作で0 M GdnHCl/PBS(0.4 M L-Arg+)の透析外液に対して4 ℃で6 時間の透析を2回実施した後、ポリペプチド溶液を回収し、これにジチオスレイトール(DTT、終濃度 3 mM)を添加し、37 ℃で30 分間インキュベートし、HiPrep 26/10 Desalting カラム又はオープンカラムを用いてDTT を除去し、透析(12hr、4 ℃)によりbuffer交換(100 mM クエン酸、100 mM NH4Ac、2 mM EDTA、pH=6.0)を行なった。こうして精製されたポリペプチドの濃度の10倍のPEG20(20 kDa)、及びPEG5(5 kDa)と混合し、2 hr、37 ℃で静置し、化学修飾反応を行なわせた。
【0046】
こうして得られた、巻き戻し中間体であるh528 scFv(cys+)をPEG20(20 kDa)及びPEG5(5 kDa)で化学修飾したものを、実施例1と同様に、SDS-PAGE及びウエスタンブロティングにかけ、PEG化されていることを確認した(図6)。 更に、これらのPEG化されたh528 scFv(cys+)をゲルろ過により単離した。PEG20(20 kDa)による化学修飾では理論分子量(約35kDa)付近に溶出が確認され、PEG5(5 kDa) による化学修飾では理論分子量(約50kDa)より大きい200kDa付近に溶出が確認されPEG化により分子半径が大幅に増加したことが示唆された(図7)。
【0047】
以上の実施例1、比較例、及び実施例2で得られたゲルろ過の結果をまとめて図8に示す。
【実施例3】
【0048】
更に、特開2004−242638号公報(特許第3803790号明細書)に記載されている、ヒト型化抗EGFR抗体(h528)と活性リンパ球に発現するCD3を認識する抗CD3抗体(OKT3)の各々の可変領域断片Fvを組み合わせたダイアボディ型の二重特異性抗体Ex3 ダイアボディを対象に、大腸菌不溶性画分からの巻き戻し操作中で、ポリエチレングリコール(PEG)分子が部位特異的に修飾したPEG化低分子抗体の調製を試みた。
【0049】
尚、抗CD3抗体OKT3を産生するハイブリドーマは東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターに寄託されている(ID:TKG0235)他、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)においてもATCC No.CRL-8001 として保管されており、かかる寄託機関から容易に入手可能である。
【0050】
Ex3ダイアボディは、G1リンカー(GGGGS)を介してOKT3のVH鎖 と528のVL鎖を融合した断片 (OH5L)と、h528 VH鎖とOKT3 VL鎖を融合した断片(5HOL)が会合して構造が形成される。各々の断片の発現ベクター、および、各々の断片のC末端にシステインを導入したOH5L(cys+)と5HOL(cys+)の発現させるベクターを構築し(図9)、大腸菌BL21(DE3)を形質転換後、2xYT培地中、28 ℃で2日間培養した。
【0051】
菌体を集菌した後、PBSに懸濁して超音波破砕し、9000 rpmで30分間遠心し、沈殿を得た。こうして得られた各々の断片を含む菌体内不溶性画分を、別々に6 M GdnHCl/PBS(5 ml、pH=8.0、室温)により暗所で可溶化し、遠心分離により不溶性画分を除去し、上清を金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(Ni Sepharose)にかけ、室温で精製した。そして、タンパク質量の50倍量のDTTを加え暗所で12時間静置することによって、システイン残基中のチオール基を完全還元状態にし、その後、6 M GdnHCl/PBSで透析をすることによって、DTTを除去した。
【0052】
次に、溶出画分(6 M GdnHCl/PBS)を、7.5 μM 5 mlに調製した後、6 M GdnHCl/PBSに6 hr 、4 ℃で透析し、5HOL(cys+) 断片を含む溶液とOH5L断片を含む溶液を各断片の最終濃度が3.75μMとなるように混合した。その混合溶液を3 M GdnHCl/PBS, 2 M GdnHCl/PBSの外液へと6 時間間隔で段階的に透析し、その後、0.4 M アルギニン塩酸塩, 375μM酸化型グルタチオン(天然構造におけるポリペプチド内部のS−S結合を形成させる目的)を含む1 M GdnHCl/PBS, 0.5 M GdnHCl/PBSへ12時間間隔で透析した。そして、0.4 M アルギニン塩酸塩を含むPBS透析外液に12時間透析した後、透析後の内液を取り出し、そこへトリス2-カルボキシエチルホスフィン(TCEP, 終濃度5mM)を添加し、37 ℃で30 分間インキュベートし、HiPrep 26/10 Desalting カラムを用いてTCEPを除去し、透析(12hr、4 ℃)によりbuffer交換(100 mM クエン酸、100 mM NH4Ac、2 mM EDTA、pH=6.0)を行なった。こうして精製されたポリペプチドの濃度のPEG5と混合し、2 hr、37 ℃で静置し、化学修飾反応を行なわせた。その後、反応液を、アルギニン塩酸塩を含まないPBS溶液へ12時間間隔で2回透析を行い、PEG化Ex3ダイアボディを調製した。
【0053】
PEG化Ex3ダイアボディをゲル濾過クロマトグラフィーとウエスタンブロティングにかけた結果、システインのみを導入した5HOL側分子量がPEG5 の1分子分だけ増加したEx3ダイアボディが単離調製されていることがわかった(図10)。そして、その精製画分の活性をT-LAK(CD3+)及びTFK-1(EGFR+)細胞を用いたフローサイトメトリーによって評価したところ、上記細胞に対して結合活性を有していることが確認された。PEG化されていないEx3 diabodyと比較すると、PEGによる立体障害のためPEG化を設計したOKT3側の結合活性が低下していたが、TFK-1への結合活性量は維持されていた(図11)。
【0054】
5HOL(cys+) 断片とOH5L断片からのPEG化Ex3ダイアボディと同様な方法で、5HOL断片とOH5L(cys+)断片からのPEG化Ex3ダイアボディの調製も行った。その結果、5HOL(cys+) 断片とOH5L断片からのPEG化Ex3ダイアボディと同様に、T-LAK(CD3+)及びTFK-1(EGFR+)細胞に対して結合活性を有していることが確認された。また、5HOL断片とOH5L(cys+)断片からの調製されたPEG化Ex3ダイアボディは、PEGによる立体障害のためPEG化を設計した528側の結合活性が低下していたが、T-LAKへの結合活性量は維持されていた(図12)。
【実施例4】
【0055】
更に、上記のPEG化を取り入れた巻き戻し工程において、TCEP還元を利用したPEG化を行う際のGdnHCl濃度について検討した。即ち、6 M GdnHCl段階, 2M GdnHCl段階、1 M GdnHCl段階(0.4 M アルギニン塩酸塩含), 0.5 M GdnHCl段階(0.4 M アルギニン塩酸塩含)においてTCEP還元を利用したPEG化を行った。その結果、0.5 M よりもGdnHClの濃度が高い段階では、複数のPEG分子が5HOL(cys+)断片及びOH5L断片に修飾してしまうことがわかった。つまり、0.5 M GdnHCl段階(0.4 M アルギニン塩酸塩含)および0 M GdnHCl(0.4 M アルギニン塩酸塩含)段階でTCEP還元を利用したPEG化操作を行うことが、PEG化Ex3ダイアボディの作製に好適であった。
【0056】
また、PEG化を取り入れた巻き戻し工程において、1M及び0.5 M GdnHCl段階で酸化型グルタチオンを使わずに、その結果、1M、0.5 M、0 M GdnHCl段階(0.4 M アルギニン塩酸塩含)でTCEPなどの還元剤も用いずにPEG化操作を行ったところ、残存する活性型しステインを利用したPEG化に成功し、PEG化Ex3ダイアボディを作製することにも成功した。
【実施例5】
【0057】
通常の巻き戻し過程では、不溶性画分から蛋白質を6M GdnHCl溶液にて可溶化後DTT等の還元剤を用いてシステイン残基のチオール基を完全還元状態にして活性型に変換している。しかし、免疫イムノグロブリン構造は不溶性画分において天然型のS-S結合を保持している可能性があるため、可溶化直後に還元剤処理を行わずPEG化操作を行った。具体的には、不不溶性画分からOH5L(cys+)断片又は5HOL(cys+)断片を6M GdnHCl溶液(100 mM クエン酸、100 mM NH4Ac、2 mM EDTA、pH=6.0、室温)にて可溶化直後に可溶化されたタンパク質の100倍量 のPEG5を加えることによって、還元剤を用いずに活性型のシステイン残基を利用した可溶化タンパク質のPEG化を行い、各々の断片へのPEG化を確認した。そして、PEG化後、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(Ni Sepharose)で精製し、相補関係にある5HOL断片又はOH5L断片とそれぞれ混合し段階的透析法で巻き戻すことによって、PEG化Ex3ダイアボディを調製することができた。
【実施例6】
【0058】
更に、国際公開第WO2007/108152号パンフレットに記載されている、ヒト型化抗EGFR抗体h528と抗CD3抗体(OKT3)の各々の可変領域断片Fvを組み合わせたタンデム型の二重特異性抗体Ex3 タンデムscFvを対象に、大腸菌不溶性画分からの巻き戻し操作中で、ポリエチレングリコール(PEG)分子が部位特異的に修飾したPEG化低分子抗体の調製を試みた。
【0059】
還元剤を用いずに528 抗体scFv断片とOKT3 scFv断片が、G3リンカー (GGGGS)3)を介して融合したポリペプチドのC末端にシステインを導入したEx3タンデムscFv(cys+)の発現ベクターを構築し(図13)、大腸菌BL21(DE3)を形質転換後、2xYT培地中、28 ℃で2日間培養した。
【0060】
菌体を集菌した後、PBSに懸濁して超音波破砕し、9000 rpmで30分間遠心し、沈殿を得た。こうして得られた各々の断片を含む菌体内不溶性画分を、6 M GdnHCl溶液(100 mM クエン酸、100 mM NH4Ac、2 mM EDTA、pH=6.0、室温)により暗所で可溶化し、遠心分離により不溶性画分を除去した。そして、DTTによる還元処理を行わずに可溶化されたタンパク質の100倍量のPEG5を添加し12時間暗所で静置することによって、活性型のシステイン残基を利用した可溶化タンパク質のPEG化を行った。PEGとの反応後、SDS電気泳動とウエスタンブロティングにかけた結果、可溶化したEx3タンデムscFv(cys+)のポリペプチドの3分の1量程度は一分子のPEGが修飾された分子量をもつことがわかった(図14)。
【0061】
次に、PEG化処理したEx3タンデムscFv(cys+)を7.5 μM 5 mlに調製した後、6 M GdnHCl/PBSに6 hr 、4 ℃で透析し、次に、3 M GdnHCl/PBS, 2 M GdnHCl/PBSの外液 へと6 時間間隔で段階的に透析した。その後、0.4 M アルギニン塩酸塩, 375μM酸化型グルタチオンを含む1 M GdnHCl/PBS, 0.5 M GdnHCl/PBSへ12時間間隔で透析した。そして、0.4 M アルギニン塩酸塩を含むPBS、アルギニン塩酸塩を含まないPBSの外液に12時間間隔で透析し、ゲル濾過クロマトグラフィーによりPEG化Ex3タンデムscFvを単離した。
【0062】
単離したPEG化Ex3タンデムscFv(cys+)をSDS電気泳動にかけた結果、PEGが1分子修飾したscFv(cys+)の分子量をもつポリペプチドが主成分として調製されていることがわかった(図15)。そして、その精製画分の活性をT-LAK(CD3+)及びTFK-1(EGFR+)細胞を用いたフローサイトメトリーによって評価したところ、上記細胞に対して結合活性を有していることが確認された(図16)。
【実施例7】
【0063】
更に、C末端にp53ペプチドを融合したscFv-p53は、p53が4量体を形成する自己組織化を利用いて、4量体化scFvを作成することができる(非特許文献 J. Biol. Chem. 278, 2327-2332 (2003))。そこで、p53ペプチド融合4量体化h528 scFvを対象に、大腸菌不溶性画分からの巻き戻し操作中でポリエチレングリコール(PEG)分子が部位特異的に修飾したPEG化低分子抗体の調製を試みた。
【0064】
h528 scFv断片のC末端にp53ペプチド、c-mycタグ、ポリヒスチヂンシタグ、システインを融合したポリペプチドh528scFv-p53(cys+)の発現ベクターを構築し(図17)、大腸菌BL21(DE3)を形質転換後、2xYT培地中、28 ℃で2日間培養した。
【0065】
菌体を集菌した後、PBSに懸濁して超音波破砕し、9000 rpmで30分間遠心し、沈殿を得た。こうして得られた各々の断片を含む菌体内不溶性画分を、6 M GdnHCl溶液(100 mM クエン酸、100 mM NH4Ac、2 mM EDTA、pH=6.0、室温)により暗所で可溶化し、遠心分離により不溶性画分を除去した。そして、DTTによる還元処理を行わずに可溶化されたタンパク質の100倍量のPEG5を添加し12時間暗所で静置することによって、活性型のシステイン残基を利用した可溶化タンパク質のPEG化を行った。PEGとの反応後、SDS電気泳動とウエスタンブロティングにかけた結果、可溶化したh528scFv-p53(cys+)のポリペプチドの半量以上は一分子のPEGが修飾された分子量をもつことがわかった(図18)。
【0066】
次に、PEG化処理したh528scFv-p53(cys+)を7.5 μM 5 mlに調製した後、6 M GdnHCl/PBSに6 hr 、4 ℃で透析し、次に、3 M GdnHCl/PBS, 2 M GdnHCl/PBSの外液 へと6 時間間隔で段階的に透析した。その後、0.4 M アルギニン塩酸塩, 375μM酸化型グルタチオンを含む1 M GdnHCl/PBS, 0.5 M GdnHCl/PBSへ12時間間隔で透析した。そして、0.4 M アルギニン塩酸塩を含むPBS、アルギニン塩酸塩を含まないPBSの外液に12時間間隔で透析し、ゲル濾過クロマトグラフィーによりPEG化h528scFv-p53を精製した。
【0067】
精製したPEG化h528scFv-p53scFvをSDS電気泳動にかけた結果、PEGが1分子修飾したh528scFv-p53(cys+)が含まれていることがわかった。そして、DLSによる粒子測定から、会合体数は4量体程度、CDスペクトルによる構造解析より、scFvはβ構造リッチでありp53ペプチド相当分のαへリックス構造の存在が確認された。そして、A431細胞を用いて結合活性を評価したところ、上記細胞に対して結合活性を有していることが確認された(図19)。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によって、生理活性を有するポリペプチド等の生体分子を有効成分(活性成分)として含有する生物製剤は、多くの疾病に対する治療薬や診断薬への応用が期待されている。これらポリペプチド等の生体分子を微生物を用いて組換え型ポリペプチド分子として高い効率で生産することができる優れた発現系の開発・研究が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組換え細胞により産生されるポリペプチドを可溶化し、精製し、得られたポリペプチド溶液の段階的透析により巻き戻しを行なうことを含む、生物活性を有するポリペプチドを製造する方法であって、巻き戻し前のポリペプチド、巻き戻し後に形成されるポリペプチドの可溶性凝集体若しくは不溶性凝集体、又は、段階的透析過程におけるポリペプチドの巻き戻し中間体のいずれかを化学修飾することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
ポリペプチドに塩酸グアニジンを作用させることで可溶化を行ない、段階的透析の開始時におけるポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度が3 Mより大であり、終了時における塩酸グアニジン濃度が0 Mであることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
段階的透析におけるポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度が3 M以下の段階において、ポリペプチドの巻き戻し中間体を化学修飾することを特徴とする、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
段階的透析におけるポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度が2 M以下の段階において、ポリペプチドの巻き戻し中間体を化学修飾することを特徴とする、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
段階的透析におけるポリペプチド溶液の塩酸グアニジン濃度が0.5 M以下の段階において、ポリペプチドの巻き戻し中間体を化学修飾することを特徴とする、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
透析外液に所定量のL-アルギニンを添加することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
化学修飾がポリエチレングリコール(PEG)により行なわれることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
ポリペプチドが抗体分子又はそれを構成する一部であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
遺伝子組換え細胞により産生されるポリペプチドが不溶性の細胞質封入体を形成していることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
遺伝子組換え細胞が大腸菌であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
ポリペプチドがヒト由来であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法で得られる組換え型ポリペプチドを有効成分として含有する生物製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−297022(P2009−297022A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117036(P2009−117036)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】