説明

組換えAAVベクターの改良された精製方法

本明細書において、遺伝子移入のために、具体的には遺伝子治療またはワクチン接種のために使用できる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの精製のための方法を提供する。本発明の組換えAAVベクターは、細胞核酸、細胞タンパク質、ヘルパーウイルスおよび培地成分などの産生成分を含む工程内不純物を、実質的に含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年6月16日付で出願された米国仮特許出願第61/187,601号の優先権の恩典を主張するものであり、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は全体として、遺伝子移入のために使用できる、および具体的には遺伝子治療またはワクチン接種のために使用できる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの精製の分野に関する。より具体的には、本発明は、細胞核酸、細胞タンパク質、ヘルパーウイルスおよび培地成分などの工程内産生成分を実質的に含まない組換えrAAVベクターの精製のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、これらを、遺伝子治療用および遺伝子ワクチン用のベクターとして魅力的あるものにする独特の特徴を持つ。AAVによる培養細胞の感染は非細胞変性性(noncytopathic)であり、ヒトおよび他の動物の自然感染は、無症状、無症候性であり、かついずれのヒト疾患の病因にも関係していない。さらに、AAVは、多くの哺乳類細胞を含む広範囲の細胞種に感染し、かつインビボで多くの異なる組織を標的化する可能性を与える。AAVは分裂細胞および非分裂細胞にゆっくり感染し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外要素)として本質的にはこれらの細胞の寿命の間存続しうる。肝臓または筋肉などの臓器に組み込まれるrAAVベクターのコピーは非常に稀有である。眼、CNSおよび筋肉を含むいくつかの細胞腫において、効率的な長期の遺伝子移入が報告されている。例えば、X. Xiao et al., J. Virol. 70(11):8098-8108 (1996)(非特許文献1); R.R. Ali et al., Hum. Mol. Genet. 5(5):591-94 (1996) (非特許文献2)を参照されたい。現在の臨床研究では主として、血清型2型rAAVベクターの使用に焦点を当てているが、いくつかの報告から、rAAV-1、rAAV-4、rAAV-5およびrAAV-8を含む他のAAV血清型は、これらを、臨床試験において試験するのに魅力的なウイルス血清型とする独特なインビボ生体内分布を持つことが実証されている。
【0004】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は複製不全のパルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、145ヌクレオチドの逆方向末端反復(ITR)を含む長さ約4.7 kbである。AAV血清型2型(AAV2)ゲノムのヌクレオチド配列は、Srivastava et al., J. Virol., 45:555-564 (1983) (非特許文献3)に提示されており、Ruffing et al., J. Gen. Virol., 75:3385-3392 (1994) (非特許文献4)によって訂正されている。ウイルスDNA複製(rep)、キャプシド形成/パッケージングおよび宿主細胞の染色体組み込みを指令するシス作動性配列は、ITRのなかに含まれる。3つのAAVプロモーターp5、p19およびp40 (その相対的なマップ位置にちなんで名付けられている)は、rep遺伝子およびcap遺伝子をコードする2つのAAV内部読み取り枠の発現を駆動する。この2つのrepプロモーター(p5およびp19)は、ヌクレオチド番号2107および2227の位置での単一のAAVイントロンの差次的なスプライシングと連動して、rep遺伝子からの4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52およびrep40)の産生をもたらす。repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製を担う複数の酵素特性を保有する。cap遺伝子はp40プロモーターから発現され、この遺伝子は3つのキャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3をコードする。選択的スプライシングおよび非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連するキャプシドタンパク質の産生を担う。単一のコンセンサスポリアデニル化部位がAAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVの生活環および遺伝学は、Muzyczka, Current Topics in Microbiology and Immunology, 158:97-129 (1992) (非特許文献5)に概説されている。
【0005】
AAV粒子は、3つのキャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3を有するタンパク質性のキャプシドを含み、これはおよそ4.6 kbの直鎖状一本鎖DNAゲノムを内包する。個々の粒子はDNA分子鎖一本のみをパッケージングするが、このDNA鎖はプラス鎖またはマイナス鎖のどちらかでありうる。どちらかの鎖を含有する粒子は感染性であり、親の感染性一本鎖からの二重鎖形態への変換、およびその後の増幅によって複製が行われ、この増幅によって子孫の一本鎖が置換され、キャプシドへパッケージングされる。AAVゲノムの二重鎖コピーまたは一本鎖コピー(「プロウイルスDNA」または「プロウイルス」といわれることもある)は、細菌プラスミドまたはファージミドに挿入され、アデノウイルス感染細胞にトランスフェクトされうる。AAVの総説については、Carter, HANDBOOK OF PARVOVIRUSES, Vol. I, pp. 169-228 (1989) (非特許文献6)およびBerns, VIROLOGY, pp. 1743-1764, Raven Press, (1990) (非特許文献7)を参照されたい。
【0006】
rAAVベクターの産生には一般に、以下の4つの共通要素が必要とされる: (1) 複製用の許容宿主細胞; (2) アデノウイルスもしくはヘルペスウイルスなどの適したヘルパーウイルスによって、またはその代わりに最小のアデノウイルスヘルパー機能を含むプラスミド構築体によって供給されうるヘルパーウイルス機能; (3) トランスパッケージングrep-cap構築体; および(4) 適した産生培地。
【0007】
組換えAAV粒子はパッケージング細胞溶解物から産生することができる。例えば、Chirico and Trempe (1998) J. Virol. Methods 76:31-41(非特許文献8)を参照されたい。しかしながら、細胞溶解物は、インビボでの使用に適切となるその前には、rAAVベクターから分離されなければならない種々の細胞成分、例えば宿主細胞DNA、宿主細胞タンパク質、培地成分およびヘルパーウイルスまたはヘルパーウイルスプラスミドDNAを含む。rAAV産生の近年の進歩には、撹拌槽バイオリアクタ内での非接着細胞懸濁工程およびrAAVベクターが培地または上清中に放出される産生条件の使用があり、それによって産生物質中に存在する宿主細胞成分の濃度が減らされているが、それでもなお、相当量の工程内不純物が含まれている。米国特許第6,566,118号(特許文献1)およびPCT WO 99/11764(特許文献2)を参照されたい。それゆえ、rAAV粒子は培地および/または細胞溶解物から回収され、さらに精製されうる。
【0008】
rAAVベクターおよび具体的にはrAAV-2の精製に使用される密度勾配遠心分離を含む方法は、スケールアップに適していない。rAAV-2ベクターに関する最近の報告には、(陽イオンおよび陰イオンクロマトグラフィーを含む)対抗イオン交換クロマトグラフィー(opposing ion exchange chromatography)を含むイオン交換クロマトグラフィーを用いた精製法が記述されている。例えば、培養上清および/または細胞溶解物から組換えアデノ随伴ウイルスベクターを精製するために対抗イオン交換クロマトグラフィーの組み合わせを使用する方法について開示している米国特許第6,566,118号(特許文献1)およびPCT WO 99/11764(特許文献2)を参照されたい。rAAV原料調製のさらなる改善には、細胞溶解物のデオキシコレート処理、親和性クロマトグラフィーの前のイオジキサノール勾配分離の使用が含まれ、これらによって高力価rAAV2が得られている(Clark et al., Hum. Mol. Genet. 10(6):1031-39 (1999) (非特許文献9); Zolotukhin et al., Gene Therapy 6(6):973-985 (1999) (非特許文献10))。O'Riordanら(O'Riordan et al., J. Gene Med. 2:444-454 (2000) (非特許文献11); 米国特許第7,015,026号(特許文献3))はまた、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、セルファインサルフェイト親和性クロマトグラフィーおよび亜鉛キレートクロマトグラフィーを用いた組換えアデノ随伴ウイルスベクターのために、および具体的に例示されている通りの、rAAV-2ベクターのために拡張可能な精製工程について報告している。
【0009】
最近のデータから、rAAV-1、4、5および8などのrAAVキャプシド血清型は、精製されたウイルス貯蔵液として、または宿主細胞DNA、宿主細胞タンパク質、血清アルブミン、培地成分およびヘルパーウイルス成分などの工程内産生不純物の存在下で、陰イオン樹脂に弱結合することが示唆されている。それゆえ、それらのキャプシド血清型の精製は通例、イオジキサノール密度勾配遠心分離などの、他の精製法と組み合わせた陰イオン交換クロマトグラフィーを含む。例えばZolotukhin et al., Methods 28(2):158-167 (2002) (非特許文献12)およびKaludov et al., Hum. Gene Therapy 13:1235-1243 (2002) (非特許文献13); ならびに米国特許出願公開第2004/0110266 A1号(特許文献4)を参照されたい。しかしながら、それらの方法は工業規模の工程へ容易に拡張可能ではない。
【0010】
したがって、遺伝子治療および遺伝子ワクチンで用いるためのものなどの、組換えAAVベクターの開発において、ヘルパーウイルス、ならびにrAAV産生貯蔵液中に存在するヘルパーウイルスタンパク質、細胞タンパク質、宿主細胞DNAおよび培地成分を含む工程内産生成分からrAAVベクターを精製する方法が必要とされている。そのような方法は、遺伝子治療技術の実用的応用に適している規模で効果的に用いられるべきである。さらに、rAAV遺伝子治療および遺伝子ワクチンに有用な高力価、高精製度の工業的貯蔵液(commercial stock)を得るために拡張可能であるrAAVベクターの精製工程の開発が必要とされている。より詳細には、クロマトグラフィー樹脂、および具体的には陰イオン樹脂に弱結合するrAAVベクターの精製工程の開発が必要とされている。
【0011】
本明細書において引用される全ての刊行物、特許出願および特許の開示は、各個々の刊行物、特許出願または特許が参照により組み入れられるものと具体的かつ個別的に示されるかのごとく参照により本明細書に組み入れられる。具体的には、本明細書において引用される全ての刊行物は、本発明と関連して使用されうる組成物および方法について記述かつ開示する目的で参照により本明細書に明示的に組み入れられる。本明細書において提供される本発明が、理解を明確にする目的で例示および例により詳細に記述されているものの、添付されている特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく本発明に対してある種の変更および修正がなされうることは、本発明の教示に照らして当業者には容易に明らかであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6,566,118号
【特許文献2】WO 99/11764
【特許文献3】米国特許第7,015,026号
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0110266 A1号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】X. Xiao et al., J. Virol. 70(11):8098-8108 (1996)
【非特許文献2】R.R. Ali et al., Hum. Mol. Genet. 5(5):591-94 (1996)
【非特許文献3】Srivastava et al., J. Virol., 45:555-564 (1983)
【非特許文献4】Ruffing et al., J. Gen. Virol., 75:3385-3392 (1994)
【非特許文献5】Muzyczka, Current Topics in Microbiology and Immunology, 158:97-129 (1992)
【非特許文献6】Carter, HANDBOOK OF PARVOVIRUSES, Vol. I, pp. 169-228 (1989)
【非特許文献7】Berns, VIROLOGY, pp. 1743-1764, Raven Press, (1990)
【非特許文献8】Chirico and Trempe (1998) J. Virol. Methods 76:31-41
【非特許文献9】Clark et al., Hum. Mol. Genet. 10(6):1031-39 (1999)
【非特許文献10】Zolotukhin et al., Gene Therapy 6(6):973-985 (1999)
【非特許文献11】O'Riordanら(O'Riordan et al., J. Gene Med. 2:444-454 (2000)
【非特許文献12】Zolotukhin et al., Methods 28(2):158-167 (2002)
【非特許文献13】Kaludov et al., Hum. Gene Therapy 13:1235-1243 (2002)
【発明の概要】
【0014】
本発明は、ポリエチレングリコール(PEG)の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体上にrAAV粒子を捕捉することにより、工程内不純物からいずれかのキャプシド血清型の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を単離する方法を提供する。本発明の方法では、上流の処理(例えば、遠心分離、ベンゾナーゼ(登録商標)による処理、陰イオン交換ろ過および/または接線流ろ過など)、ならびに下流の処理(例えば、熱不活化、ろ過、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーおよび/または陰イオン交換クロマトグラフィーなど)を必要とする。上流および下流の方法が単独でまたはさまざまな組み合わせで使用されてもよい。
【0015】
本発明は、(a) 組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子を含有する供給流を、ポリエチレングリコール(PEG)の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる段階であって、該rAAV粒子が該アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合する段階; および(b) 該アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合した該rAAV粒子を、3% (w/v)未満のPEGを含有する溶出用緩衝液で溶出させる段階を含む、供給流中の工程内不純物から該rAAV粒子の集団を単離するための方法を提供する。ある種の態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体はセラミックハイドロキシアパタイト(CHT)またはセラミックフルオロアパタイト(CFT)である。ある種の態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合したrAAV粒子を、3% (w/v)未満のPEGを含有する溶出用緩衝液で溶出させる。ある種の態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合したrAAV粒子を、PEGの非存在下において溶出用緩衝液で溶出させる。
【0016】
いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体の特異的結合は、106〜1016個のDNase耐性粒子(DRP)/ミリリットルである。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体の特異的結合は、108〜1016個のDNase耐性粒子(DRP)/ミリリットルである。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体の特異的結合は、1010〜1016個のDNase耐性粒子(DRP)/ミリリットルである。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体の特異的結合は、1012〜1016個のDNase耐性粒子(DRP)/ミリリットルである。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体の特異的結合は、1014〜1016個のDNase耐性粒子(DRP)/ミリリットルである。
【0017】
いくつかの態様において、前記方法は、アパタイトクロマトグラフィー段階の前に陰イオン交換ろ過段階をさらに含み、ここでrAAV粒子は陰イオン交換ろ過の素通り画分中である。いくつかの態様において、前記方法は、アパタイトクロマトグラフィー段階の前に接線流ろ過によって陰イオン交換ろ過の素通り画分からrAAV粒子を濃縮する段階をさらに含む。いくつかの態様において、前記方法は、アパタイトクロマトグラフィー媒体から溶出させた供給流中のrAAV粒子を陰イオンクロマトグラフィー媒体に結合させる段階をさらに含む。いくつかの態様において、前記方法は、ヘルパーウイルスを不活化するために熱不活化の段階をさらに含む。いくつかの態様において、前記方法は、アパタイトクロマトグラフィーの後に疎水性相互作用クロマトグラフィーに供給流中のrAAV粒子を結合させる段階をさらに含む。
【0018】
いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、ポリエチレングリコール(PEG)および塩基性緩衝液の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、塩基性緩衝液はpH 7.2〜10、pH 7.4〜10、pH 7.6〜10、pH 7.8〜10、pH 8.0〜10.0、pH 8.2〜10.0、pH 8.4〜10.0、pH 8.6〜10.0、pH 8.8〜10、pH 9.0〜10.0、pH 9.2〜10、pH 9.4〜10.0、pH 9.6〜10.0、またはpH 9.8〜10.0である。いくつかの態様において、塩基性緩衝液は7.2、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8および10.0のほぼいずれかのpHを有する。当技術分野において公知の任意の塩基性緩衝液を用いることができる。いくつかの態様において、塩基性緩衝液はボラートを含む。いくつかの態様において、塩基性緩衝液はボラートである。
【0019】
いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、ポリエチレングリコール(PEG)の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。例えば、約3% (w/v)〜約10% (w/v)のPEGを用いることができる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約3% (w/v)、約3.5% (w/v)、約4% (w/v)、約4.5% (w/v)、約5% (w/v)、約5.5% (w/v)、約6% (w/v)、約6.5% (w/v)、約7% (w/v)、約7.5% (w/v)、約8% (w/v)、約8.5% (w/v)、約9% (w/v)、約9.5% (w/v)または約10% (w/v)のPEGの存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。
【0020】
いくつかの態様において、PEGは、例えば、1モルあたり約5,000 (PEG5000)グラム、1モルあたり約6,000 (PEG6000)グラム、1モルあたり約7,000 (PEG7000)グラム、1モルあたり約8,000 (PEG8000)グラム、1モルあたり約9,000 (PEG9000)グラム、1モルあたり約10,000 (PEG10000)グラム、1モルあたり約11,000 (PEG11000)グラム、1モルあたり約12,000 (PEG12000)グラム、1モルあたり約13,000 (PEG13000)グラム、1モルあたり約14,000 (PEG14000)グラムおよび1モルあたり約15,000 (PEG15000)グラムなど、1モルあたり約5,000 (PEG5000)グラム〜1モルあたり約15,000 (PEG15000)グラムの平均分子量を有する。ある種の態様において、PEGは、1モルあたり約5,000 (PEG5000)グラムの平均分子量を有する。ある種の態様において、PEGは、1モルあたり約6,000 (PEG6000)グラムの平均分子量を有する。ある種の態様において、PEGは、1モルあたり約8,000 (PEG8000)グラムの平均分子量を有する。ある種の態様において、PEGは、1モルあたり約10,000 (PEG10000)グラムの平均分子量を有する。ある種の態様において、PEGは、1モルあたり約15,000 (PEG15000)グラムの平均分子量を有する。
【0021】
いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約3% (w/v)〜約10% (w/v)のPEG6000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約3% (w/v)のPEG6000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約4% (w/v)のPEG6000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約5% (w/v)のPEG6000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約6% (w/v)のPEG6000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約7% (w/v)のPEG6000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約8% (w/v)のPEG6000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約9% (w/v)のPEG6000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約10% (w/v)のPEG6000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。
【0022】
いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約3% (w/v)〜約10% (w/v)のPEG8000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約3% (w/v)のPEG8000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約4% (w/v)のPEG8000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約5% (w/v)のPEG8000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約6% (w/v)のPEG8000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約7% (w/v)のPEG8000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約8% (w/v)のPEG8000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約9% (w/v)のPEG8000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約10% (w/v)のPEG8000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。
【0023】
いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約3% (w/v)〜約10% (w/v)のPEG10000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約3% (w/v)のPEG10000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約4% (w/v)のPEG10000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約5% (w/v)のPEG10000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約6% (w/v)のPEG10000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約7% (w/v)のPEG10000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約8% (w/v)のPEG10000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約9% (w/v)のPEG10000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約10% (w/v)のPEG10000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。
【0024】
いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約3% (w/v)〜約10% (w/v)のPEG15000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約3% (w/v)のPEG15000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約4% (w/v)のPEG15000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約5% (w/v)のPEG15000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約6% (w/v)のPEG15000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約7% (w/v)のPEG15000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約8% (w/v)のPEG15000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約9% (w/v)のPEG15000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約10% (w/v)のPEG15000の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。
【0025】
いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する供給流を、約20 mMボラートpH 9.0および約5% PEG (PEG6000など)を含む緩衝液中でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる。いくつかの態様において、供給流は、約40 mMボラートpH 9.0および約10% PEGを含む緩衝液の等量とインラインで混合して、約20 mMボラートpH 9.0および約5% PEGの終濃度を得る。
【0026】
いくつかの態様において、rAAV粒子が結合したアパタイトクロマトグラフィー媒体を、rAAV粒子を溶出させる前に工程内不純物を除去するために洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、工程内不純物を除去するために逓減濃度のPEGを含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約3% (w/v)〜約10% (w/v) PEGを含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は10% (w/v)、9.5% (w/v)、9% (w/v)、8.5% (w/v)、8% (w/v)、7.5% (w/v)、7% (w/v)、6.5% (w/v)、6% (w/v)、5.5% (w/v)、5% (w/v)、4.5% (w/v)、4% (w/v)、3.5% (w/v)および3% (w/v) PEGのほぼいずれかを含有する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、7.5% (w/v) PEG6000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、7.5% (w/v) PEG8000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、7.5% (w/v) PEG10000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、7.5% (w/v) PEG15000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約5% (w/v) PEG6000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約5% (w/v) PEG8000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約5% (w/v) PEG10000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約5% (w/v) PEG15000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約3% (w/v)未満のPEG6000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約3% (w/v)未満のPEG8000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約3% (w/v)未満のPEG10000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約3% (w/v)未満のPEG15000を含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、PEGを含有しない洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。
【0027】
いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は当技術分野において公知の緩衝液を含有する。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は、ボラート、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸(HEPES)およびTris-HClからなる群より選択される緩衝液を含む。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はボラートを含むか、またはボラートである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はHEPESを含むか、またはHEPESである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はTris-HClを含むか、またはTris-HClである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は塩基性pHである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 7.0〜pH 10.0、pH 7.2〜pH 10.0、pH 7.4〜pH 10.0、pH 7.6〜pH 10.0、pH 7.8〜pH 10.0、pH 8.0〜pH 10.0、pH 8.2〜pH 10.0、pH 8.4〜pH 10.0、pH 8.6〜pH 10.0、pH 8.8〜pH 10.0、pH 9.0〜pH 10.0、pH 9.2〜pH 10.0、pH 9.4〜pH 10.0、pH 9.6〜pH 10.0またはpH 9.8〜pH 10.0のpHを有する。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8または10.0のpHを有する。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 8.0〜10.0のボラートを含むか、またはpH 8.0〜10.0のボラートである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 8.0のボラートを含むか、またはpH 8.0のボラートである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 9.0のボラートを含むか、またはpH 9.0のボラートである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 10.0のボラートを含むか、またはpH 10.0のボラートである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 7.0〜10.0のHEPESを含むか、またはpH 7.0〜10.0のHEPESである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 7.0のHEPESを含むか、またはpH 7.0のHEPESである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 8.0のHEPESを含むか、またはpH 8.0のHEPESである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 9.0のHEPESを含むか、またはpH 9.0のHEPESである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 10.0のHEPESを含むか、またはpH 10.0のHEPESである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 7.0〜10.0のTris-HClを含むか、またはpH 7.0〜10.0のTris-HClである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 7.0のTris-HClを含むか、またはpH 7.0のTris-HClである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 8.0のTris-HClを含むか、またはpH 8.0のTris-HClである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 9.0のTris-HClを含むか、またはpH 9.0のTris-HClである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 10.0のTris-HClを含むか、またはpH 10.0のTris-HClである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は100〜500 mMホスフェートをさらに含む。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は50〜250 mM NaClをさらに含む。
【0028】
いくつかの態様において、洗浄段階は、pH 約9.0の約30 mMボラートおよび約7.5% PEGを含む洗浄用緩衝液による1回目の洗浄; 約150リン酸カリウム、pH 約9.0の約20 mMボラートおよび約5% PEGを含む洗浄用緩衝液による2回目の洗浄; pH 約9.0の約20 mMボラートおよび約5% PEGを含む洗浄用緩衝液による3回目の洗浄; ならびにpH 約7.0の約20 mM HEPESおよび150 mM NaClを含む洗浄用緩衝液による4回目の洗浄を含む。
【0029】
いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合したrAAV粒子を、低濃度のPEGを含有する溶出用緩衝液で、またはPEGの非存在下において溶出用緩衝液で溶出させる。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は約3% (w/v)未満のPEG、約2% (w/v)未満のPEGまたは約1% (w/v)未満のPEGを含有する。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は約2.5% (w/v)、約2% (w/v)、約1.5% (w/v)、約1% (w/v)もしくは約0.5% (w/v) PEGを含有する、またはPEGを含有しない。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は約3% (w/v)未満のPEG6000を含有する。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は約3% (w/v)未満のPEG8000を含有する。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は約3% (w/v)未満のPEG10000を含有する。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は約3% (w/v)未満のPEG15000を含有する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合したrAAV粒子を、PEGの非存在下において溶出用緩衝液で溶出させる。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は、ボラート、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸(HEPES)およびTris-HClからなる群より選択される緩衝液を含む。いくつかの態様において、溶出用緩衝液はボラートを含むか、またはボラートである。いくつかの態様において、溶出用緩衝液はHEPESを含むか、またはHEPESである。いくつかの態様において、溶出用緩衝液はTris-HClを含むか、またはTris-HClである。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は中性pHである。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は、中性pHのHEPESを含むか、または中性pHのHEPESである。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は中性pHのTris-HClを含むか、または中性pHのTris-HClである。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は100 mM未満のホスフェートをさらに含む。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は50 mM未満のホスフェートをさらに含む。いくつかの態様において、溶出用緩衝液は50〜250 mM NaClをさらに含む。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合したrAAV粒子を、約50 mMリン酸カリウム、pH 約7.0の約20 mM HEPESおよび約150 mM NaClを含む溶出用緩衝液で溶出させる。
【0030】
いくつかの態様において、供給流中の工程内不純物からrAAV粒子を単離する方法は、(a) 該rAAV粒子を含有する供給流を、pH 約9.0の塩基性緩衝液中の約5% (w/v)のPEGの存在下で、アパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる段階であって、該rAAV粒子が該アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合する段階; (b) pH 約9.0の約30 mMボラートおよび約7.5% PEGを含む第1の洗浄用緩衝液で該アパタイトクロマトグラフィー媒体を洗浄する段階; (c) 約150リン酸カリウム、pH 約9.0の約20 mMボラートおよび約5% PEGを含む第2の洗浄用緩衝液で該アパタイトクロマトグラフィー媒体を洗浄する段階; (d) pH 約9.0の約20 mMボラートおよび約5% PEGを含む第3の洗浄用緩衝液で該アパタイトクロマトグラフィー媒体を洗浄する段階; (e) pH 約7.0の約20 mM HEPESおよび150 mM NaClを含む第4の洗浄用緩衝液で該アパタイトクロマトグラフィー媒体を洗浄する段階; ならびに(f) 該アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合した該rAAV粒子を、約50 mMリン酸カリウム、pH 約7.0の約20 mM HEPESおよび約150 mM NaClを含む溶出用緩衝液で溶出させる段階を含む。
【0031】
本明細書において同様に提供されるのは、(a) 組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子を含有する供給流を、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体と、高塩緩衝液中で接触させる段階であって、該rAAV粒子および工程内不純物が該HIC媒体に結合する段階; ならびに(b) 該HIC媒体に結合した該rAAV粒子を中塩緩衝液(medium salt buffer)で溶出させる段階を含む、供給流中の該工程内不純物から該rAAV粒子の集団を単離するための方法である。いくつかの態様において、HIC媒体は、Tosoh Butyl 650M、Tosoh SuperButyl 650C、Tosoh Phenyl 650C、EMD Fractogel PhenylおよびTosoh Has(ブチル)樹脂からなる群より選択される。いくつかの態様において、高塩緩衝液は0.5 M〜2.0 Mシトラート(例えば、クエン酸ナトリウム)を含むか、または0.5 M〜2.0 Mシトラート(例えば、クエン酸ナトリウム)である。いくつかの態様において、高塩緩衝液は0.5 M、0.75 M、1.0 M、1.25 M、1.5 M、1.75 Mおよび2.0 Mシトラートのほぼいずれかを含む。いくつかの態様において、中塩緩衝液は0.5 M未満のシトラート(例えば、クエン酸ナトリウム)を含むか、または0.5 M未満のシトラート(例えば、クエン酸ナトリウム)である。いくつかの態様において、中塩緩衝液は0.5 M〜約0.3 Mシトラートを含む。いくつかの態様において、中塩緩衝液は0.45 M、0.4 M、0.35 M、0.3 Mおよび0.25 Mのシトラートのほぼいずれかを含む。いくつかの態様において、高塩緩衝液は1〜100 mMホスフェートをさらに含む。いくつかの態様において、中塩緩衝液は1〜100 mMホスフェートをさらに含む。いくつかの態様において、中塩緩衝液は、空のキャプシド、部分的に変性したキャプシド、感染力が低いキャプシド、および/または部分的に完全なキャプシドを有するrAAV粒子を溶出させずに、rAAV粒子を溶出させる。
【0032】
本明細書において記述される態様のいずれかにおいて、rAAV粒子は、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV-14、AAV-15およびAAV-16からなる群より選択されるAAVキャプシド血清型を有する。いくつかの態様において、rAAV粒子は、AAV-1、AAV-4、AAV-5およびAAV-8からなる群より選択されるAAVキャプシド血清型を有する。いくつかの態様において、rAAV粒子は、AAV-1のAAVキャプシド血清型を有する。いくつかの態様において、rAAV粒子は、AAV-4のAAVキャプシド血清型を有する。いくつかの態様において、rAAV粒子は、AAV-5のAAVキャプシド血清型を有する。いくつかの態様において、rAAV粒子は、AAV-8のAAVキャプシド血清型を有する。いくつかの態様において、rAAV粒子は、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV-14、AAV-15およびAAV-16からなる群より選択されるAAV血清型由来のAAVキャプシドタンパク質を含む。いくつかの態様において、rAAV粒子は、弱陰イオン結合物質であるAAVキャプシド血清型を有する。いくつかの態様において、弱陰イオン結合性であるAAVキャプシド血清型は、AAV-1、AAV-4、AAV-5およびAAV-8からなる群より選択される。いくつかの態様において、rAAV粒子を含有する組成物は産生培養夾雑物をさらに含む。いくつかの態様において、産生培養夾雑物は、損傷したrAAV粒子、宿主細胞夾雑物、ヘルパーウイルス夾雑物および/または細胞培養夾雑物を含む。いくつかの態様において、宿主細胞夾雑物は、宿主細胞DNA、プラスミドまたは宿主細胞タンパク質を含む。いくつかの態様において、ヘルパーウイルス夾雑物はアデノウイルス粒子、アデノウイルスDNAまたはアデノウイルスタンパク質を含む。いくつかの態様において、細胞培養夾雑物は培地成分、血清アルブミンまたは他の血清タンパク質を含む。いくつかの態様において、細胞培養夾雑物は培地成分を含む。いくつかの態様において、細胞培養夾雑物は血清アルブミンまたは他の血清タンパク質を含まない。
【0033】
本明細書において記述されるさまざまな態様の特性の一つ、一部または全部を組み合わせて、本発明の他の態様を形成できることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】rAAV産生培養収集物から清澄化された上清のベンゾナーゼ(登録商標)消化の結果を示す。この結果は、ベンゾナーゼ(登録商標)消化後に高分子量DNAが存在していなかったことを実証している。
【図2】実施例4に記述の通りrAAV結合親和性についてスクリーニングした典型的樹脂の典型的な分光学的追跡を示す。吸光度(AU)および伝導度(mS/cm)を示した。
【図3】PEG有りまたはPEG無しでの破過容量分析を示す。モデルとなる二つのrAAV産生培養物を用いてアパタイト樹脂(CFT I型)の容量を評価した。上パネル: 負荷液中およそ5% (w/v)のPEG6000の存在下または非存在下での含血清または無血清供給流の負荷中の破過。負荷量は1:1オンライン希釈前の、開始時の供給流をいい、樹脂容量1 mLあたりで規準化された。下パネル: 1%の破過が認められた時点の負荷量(ml)、および溶出画分における回収。実験において用いられたTFF収集物は、rAAVベクターに対しておよそ1016個のDRP/mlの濃度であった。約5% (w/v) PEG6000の存在下において、TFF収集物150 mLが破過なしで1.2 mL CFT樹脂上に負荷された。これは、1.8×1014個の総rAAV DRPの負荷に対応する、カラム素通り画分中、>1% rAAVの存在と規定された。
【図4】典型的なCHT Iクロマトグラムを示す。示されるのはAmersham 3 mm Skidによるインラインの、UV吸光度A280 (AU、吸光度単位)および伝導度(mS/cm)の測定結果である。括弧は実施例7において記述したプログラムの主要セグメントに印を付けたものである。「NaOH」はカラム浄化段階に印を付けたものである。
【図5】アパタイト樹脂から溶出されたrAAVベクターの相対純度を示す。パネルAは、素通り/追跡(FT)、高ホスフェート/5% (w/v) PEG6000洗浄(PO4)、ホスフェートおよびPEG6000を除去するための洗浄(WII/WIII)ならびに溶出中のベクターの分布を示す。事例間の差異はどれも分析の精度の範囲内で有意ではなく、物質バランスの欠如が典型的である。パネルBは、アパタイトカラムからの溶出画分を用いたシプロオレンジ染色SDS PAGEの該当レーンを示す。各試料を2×1011個のDRP/レーンで負荷した; レーン間の見掛け上の移動差異は、蒸発によってCFT溶出液を、ゲルに適合しうる容量に濃縮しなければならないという理由からの塩による不自然な結果である。唯一の主たるバンドがAAVキャプシドタンパク質であると考えられる。パネルCは、明確にするためにレーンを並べ換えたAd5ウエスタンブロットの該当レーンを示し、Ad5タンパク質の同程度の排除を実証している。
【図6】SDS-PAGEによる全工程にわたる精製の評価を示す。代表的な産生培養収集物に由来する工程内試料を変性/還元10%ポリアクリルアミドゲル上に流し、シプロオレンジで染色した。全ての収集後試料を1×1010個のDRP/レーンで負荷した。TFF濃縮段階の前の二つの上流試料(最初の清澄化段階およびAEX素通りの試料)は、ゲル上での容量の制約のため、1×109個のDRP/レーンでしか負荷することができなかった。β-ガラクトシダーゼ(B-Gal)を50 ng/レーンで負荷し、ゲル全体の染色の感受性および一致性を評価した。三つのAAV1キャプシッドタンパク質(VP1、2および3)が示されている。
【図7】実施例1〜12に記述のrAAV精製の段階的回収率を示す。収集前の上清中に存在する総DRPを100%と定義した。各段階の回収率は、その段階にわたって処理された総DRPに対して回収された総DRPである。工程全体の全回収率はおよそ28%であった。D4上清: 産生培養物; AEX FT: 陰イオン交換(Mustang(登録商標) Q)素通り; 捕捉: アパタイトクロマトグラフィー; 熱: 熱不活化または熱殺処理; HIC: 疎水性相互作用クロマトグラフィー; SEC: サイズ排除クロマトグラフィー; AEX: 陰イオン交換。
【発明を実施するための形態】
【0035】
詳細な説明
損傷したrAAV粒子、ヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質、プラスミド、細胞タンパク質およびDNA、培地成分、血清タンパク質などのような、産生培養夾雑物からいずれかのAAVキャプシド血清型の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を単離するための方法を提供することが本発明の目的である。さらに、本発明の方法は、高力価rAAV産生培養収集物または供給流からのrAAV粒子の集団の単離のための調節的要件に一致する工業的に拡張可能な、直交工程(orthogonal process)を提供する。本発明の方法によって単離されたrAAV粒子の集団は、損傷したrAAV粒子、ヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質、プラスミド、細胞タンパク質およびDNA、培地成分、血清タンパク質ならびにグルカンなどの、産生培養夾雑物および/または工程内夾雑物を含む、夾雑物を実質的に含まない。本発明の方法は、例えば、rAAV-1、rAAV-4、rAAV-5およびrAAV-8などの弱陰イオン結合物質であるrAAVベクター血清型に特に適している。本発明はさらに、密度勾配遠心分離を行う必要のない遺伝子治療用途で用いるのに適した、産生培養夾雑物および/または工程内夾雑物を含む、夾雑物を実質的に含まないrAAV粒子の高力価集団を単離するための方法を企図する。
【0036】
定義
本明細書において用いられる「単離された」または「精製された」という用語は、rAAV粒子が天然に存在するか、またはもともとそこから調製されるところに同じく存在しうる他の成分の少なくともいくつかを欠くrAAV粒子の調製物をいう。したがって、例えば、単離されたrAAV粒子は、これを、培養溶解物または産生培養上清などの、供給源混合物から濃縮するための精製技術を用いて調製することができる。濃縮は、例えば、溶液中に存在するDNase耐性粒子(DRP)の割合による、または感染性によるような、種々の方法で測定されてもよく、あるいは、以下に定義される通り、ヘルパーウイルス、培地成分などを含む、産生培養夾雑物または工程内夾雑物を含む、夾雑物などの、供給源混合物中に存在する第2の、潜在的に干渉性の物質に関して測定されてもよい。
【0037】
rAAVの調製物は、感染性AAV粒子と感染性ヘルパーウイルス粒子との比が少なくとも約102:1; 好ましくは、少なくとも約104:1、より好ましくは、少なくとも約106:1; なおより好ましくは、少なくとも約108:1であれば、ヘルパーウイルスを「実質的に含まない」といわれる。調製物はまた、好ましくは、等量のヘルパーウイルスタンパク質を含まない(すなわち、上記のヘルパーウイルス粒子不純物が破壊された形態で存在するなら、タンパク質はヘルパーウイルスのそのようなレベルの結果と同程度に存在する)。ウイルスおよび/または細胞タンパク質の夾雑物は一般に、SDSゲル上のクマシー染色バンドの存在(例えば、AAVキャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3に対応するバンド以外のバンドの出現)として観察することができる。
【0038】
本明細書において用いられる「弱陰イオン結合物質」または「低親和性陰イオン結合物質」という用語は、夾雑物(産生培養夾雑物または工程内夾雑物を含む)の存在下において、他のrAAV産生培養夾雑物からのrAAV粒子の単離を可能とするのに十分な親和性で結合しないキャプシド血清型を有するrAAV粒子を互換的にいう。そのようなキャプシド血清型は当技術分野において公知であり、非限定的に、AAV-1、AAV-5、AAV-8およびAAV-4を含む。当技術分野において記述されている通り、そのような弱陰イオン結合物質は、イオジキサノール(商品名Optiprep(登録商標)で販売されている)または塩化セシウム勾配遠心分離を含めて少なくとも1つの密度遠心分離段階を含む方法によって一般に精製される。
【0039】
本明細書において用いられる場合、「ヘルパーウイルス」または「夾雑ヘルパーウイルス」という用語は、それだけでは複製する能力を持たない、アデノ随伴ウイルスなどの、ヘルパーウイルス依存ウイルスベクターのコピーを産生する場合に用いられるウイルスをいう。ヘルパーウイルスは、ウイルスベクターと一緒に細胞を同時感染させるために用いられ、ウイルスベクターのゲノムの複製に必要なタンパク質を提供する。これらの用語は、無傷のウイルス粒子、空のキャプシド、ウイルスDNAなどを包含する。rAAV粒子を産生するためによく用いられるヘルパーウイルスには、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルスおよびワクシニアウイルスが含まれる。
【0040】
本明細書において用いられる「産生培養物」という用語は、rAAVベクター粒子の産生に必要な成分を含有する容器をいう。産生培養物には、非限定的に、以下の成分が含まれる: (1) 適切な宿主細胞; (2) ヘルパーウイルス機能; (3) AAV repおよびcap遺伝子ならびに遺伝子産物; (4) AAV ITR配列が隣接する治療用導入遺伝子; かつ(5) 非限定的に血清、血清由来のタンパク質、ビタミン、必須および非必須アミノ酸、ならびにrAAV産生を支持することが公知のグルコースを含む、適切な培地、培地成分および培地補充物。
【0041】
本明細書において用いられる場合、本明細書において互換的に用いられる「夾雑物」、「産生培養夾雑物」、「工程内夾雑物」、「工程内不純物」、「不純物」または「夾雑物」という用語は、非限定的に、rAAVベクターの産生を支持することが当技術分野において公知の培地配合物; 培地補充物、例えば塩、仔牛血清、アミノ酸補充物、ビタミン補充物、増殖因子、血清アルブミンおよび当技術分野において公知の培地配合物中に存在する他の低分子量タンパク質など; 許容される宿主細胞、宿主細胞タンパク質または宿主細胞DNA; ヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質またはヘルパーウイルスDNA、例えば野生型アデノウイルスまたはヘルペスウイルスタンパク質など; ならびに精製工程中に導入される他の非rAAVベクターまたはrAAVベクター産生培養物質、例えばグルカンまたは供給流からのrAAVベクターの精製において用いられるクロマトグラフィー緩衝液をいう。
【0042】
本明細書において用いられる「産生培養収集物」という用語は、非限定的にトランスフェクション工程、安定細胞株産生、Ad-ハイブリッド産生システムまたはバキュロウイルス産生システムを含む、当技術分野において公知の手段によってrAAVベクター産生培養物から産生されるrAAVベクター粒子を含む溶液と定義される。さらに、本明細書において用いられる「産生培養収集物」という用語は、産生培養容器から単離される物質をいい、当技術分野において公知の手段によるrAAVプロデューサー細胞の溶解によって単離される物質も、無傷細胞から培地中へ放出されるrAAV粒子を得るように当技術分野において公知の培養条件下で維持されるrAAV産生培養物から単離される物質も含む。産生培養収集物は、非限定的に、以下の一部または全部を含むことができる: rAAVベクター粒子、産生培養成分、例えば、培地成分、宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA、宿主細胞、ヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質、ヘルパーウイルスDNA、プラスミドDNA、キャリアウイルスDNA、血清、血清由来のタンパク質および培地補充物など。
【0043】
本明細書において用いられる「供給流」という用語は、クロマトグラフィー基材に負荷され、クロマトグラフィー基材を流れ、またはクロマトグラフィー基材にアプライされるrAAVベクター粒子の供給源をいう。本発明の供給流には、産生培養収集物、および前段階からの素通りとして存在するか、前段階において結合されかつ溶出されるか、前段階の空隙容量中に存在するか、またはrAAV粒子の精製中に得られる任意の画分中に存在するかにかかわらず、本発明の前クロマトグラフィー段階から単離される物質が含まれる。そのような供給流は、1つまたは複数の「夾雑物」、「産生培養夾雑物」、「工程内夾雑物」、「工程内不純物」もしくは「不純物」または本明細書において定義される「夾雑物」を含むことができる。
【0044】
本明細書において互換的に用いられる「捕捉する」、「結合した」、「結合する」または「結合させる」という用語は、クロマトグラフィー媒体への供給流の成分の結合、接着または付着をいう。成分は、非限定的に疎水性、イオン性(陰イオン性および陽イオン性を含む)、親和性、金属キレート化およびキレート化を含む、当技術分野において公知の任意の力または化学的性質によりクロマトグラフィー媒体に結合されていてもよい。成分は、アパタイトクロマトグラフィー媒体におけるような、二種以上の化学的性質によりクロマトグラフィー媒体に結合されていてもよい。
【0045】
本明細書において互換的に用いられる「アパタイト樹脂」、「アパタイトクロマトグラフィー媒体」、「アパタイト基材」または「アパタイト媒体」という用語は、リン酸カルシウムの無機物で構成されるクロマトグラフィー媒体をいい、非限定的にセラミックハイドロキシアパタイト(CHT)およびセラミックフルオロアパタイト(CFT)クロマトグラフィー媒体を含む。
【0046】
「混合モード」または「多モードの」という用語は、二種以上の結合化学的性質の能力を有するクロマトグラフィー媒体をいう。混合モードクロマトグラフィー媒体には、非限定的に、カルシウム部分を介した金属親和性結合、骨格に存在するヒドロキシル基を介した水素結合、カルシウム部分を介した正電荷斥力および負電荷引力、ならびに媒体に存在するリン酸部分を介した負電荷斥力および正電荷引力を示すことが可能な、アパタイトクロマトグラフィー媒体が含まれる。
【0047】
「組成物」の一般的な言及は、本発明の組成物を含み、かつ本発明の組成物に適用可能である。
【0048】
本明細書において用いられる場合、物品の単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、他に指定のない限り、複数形の言及を含む。例えば、「1つのウイルス粒子(a virus particle)」という語句は、1つまたは複数のウイルス粒子を含む。
【0049】
本明細書において値またはパラメータに前置する「約」の言及は、その値またはパラメータそれ自体に向けられる態様を含む(および記述する)。例えば、「約X」を言及する記述は「X」の記述を含む。
【0050】
本明細書において記述される本発明の局面および態様には、局面および態様からなることならびに/または局面および態様から本質的になることが含まれるものと理解される。
【0051】
rAAVベクターの産生
rAAVベクターの産生のためには、トランスフェクション、安定細胞株産生、ならびにアデノウイルス-AAVハイブリッド、ヘルペスウイルス-AAVハイブリッドおよびバキュロウイルス-AAVハイブリッドを含む感染性ハイブリッドウイルス産生システムを含む、多数の方法が当技術分野において公知である。rAAVウイルス粒子の産生用のrAAV産生培養物には、(1) 例えば、HeLa細胞、A549細胞もしくは293細胞などのヒト由来の細胞株、またはバキュロウイルス産生システムの場合、SF-9などの昆虫由来の細胞株を含む、適切な宿主細胞; (2) 野生型アデノウイルスもしくは変異アデノウイルス(温度感受性アデノウイルスなど)、ヘルペスウイルス、バキュロウイルスまたはヘルパー機能を提供するプラスミド構築体によって提供される、適切なヘルパーウイルス機能; (3) AAV repおよびcap遺伝子ならびに遺伝子産物; (4) AAV ITR配列が隣接する導入遺伝子(治療用導入遺伝子など); かつ(5) rAAV産生を支持するための適切な培地および培地成分が全て必要になる。rAAVベクターの産生には、当技術分野において公知の適切な培地が用いられてもよい。これらの培地には、非限定的に、改変イーグル培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、米国特許第6,566,118号に記述されているものなどの特別注文の配合物および米国特許第6,723,551号に記述されているSf-900 II SFM培地を含む、Hyclone LaboratoriesおよびJRHによって製造された培地が含まれ、これらはそれぞれ、組換えAAVベクターの産生で用いるための特別注文の培地配合物に関して特に、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0052】
本発明の適切なrAAV産生培地には、0.5%〜20% (v/vまたはw/v)のレベルで血清または血清由来の組換えタンパク質を補充することができる。あるいは、当技術分野において公知である通り、rAAVベクターは、動物由来の産物を含まない培地ということもできる無血清条件において産生されてもよい。当業者は、産生培養物におけるrAAVの力価を高めるため、非限定的にグルコース、ビタミン、アミノ酸およびまたは増殖因子を含む、当技術分野において公知の1つまたは複数の細胞培養成分を、rAAVベクターの産生を支持するためにデザインされた市販のまたは特別注文の培地に補充してもよいことを理解しうる。
【0053】
rAAV産生培養物は、用いられる特定の宿主細胞に適した種々の条件の下で(広い温度範囲にわたって、さまざまな長さの時間にわたって、など)増殖させることができる。当技術分野において公知である通り、rAAV産生培養物には、例えばローラーボトル、中空糸フィルタ、マイクロキャリア、および充填層または流動層バイオリアクタなどの適切な接着依存性容器の中で培養されうる接着依存性の培養物が含まれる。rAAVベクター産生培養物には、例えば、スピナーフラスコ、撹拌槽バイオリアクタおよびWaveバッグ方式などの使い捨て方式を含む種々の方法で培養されうるHeLa細胞、293細胞およびSF-9細胞などの、懸濁に適合した宿主細胞も含まれうる。
【0054】
本発明のrAAVベクター粒子は、産生培養物の宿主細胞の溶解によって、または米国特許第6,566,118号にさらに十分に記述されている通り、無傷細胞から培地中へのrAAV粒子の放出を引き起こすことが当技術分野において公知の条件の下で細胞が培養されるなら、産生培養物由来の使用済み培地の収集によってrAAV産生培養物から収集することができる。細胞を溶解する適切な方法はまた、当技術分野において公知であり、例えば、複数回の凍結/融解サイクル、超音波処理、顕微溶液化、ならびに界面活性剤および/またはプロテアーゼなどの、化学物質による処理を含む。
【0055】
rAAVベクターの精製
収集時、本発明のrAAV産生培養物は以下の1つまたは複数を含みうる: (1) 宿主細胞タンパク質; (2) 宿主細胞DNA; (3) プラスミドDNA; (4) ヘルパーウイルス; (5) ヘルパーウイルスタンパク質; (6) ヘルパーウイルスDNA; ならびに(7) 例えば、血清タンパク質、アミノ酸、トランスフェリンおよび他の低分子量タンパク質を含む培地成分。加えて、rAAV産生培養物は、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV-14、AAV-15およびAAV-16からなる群より選択されるAAVキャプシド血清型を有するrAAV粒子をさらに含む。いくつかの態様において、rAAV粒子は、AAV-1、AAV-4、AAV-5およびAAV-8からなる群より選択されるAAVキャプシド血清型を有する。
【0056】
いくつかの態様において、rAAV産生培養収集物は、宿主細胞残屑を除去するために清澄化される。いくつかの態様において、産生培養収集物は、例えば、D0HC等級Millipore Millistak+ HC Pod Filter、A1HC等級Millipore Millistak+ HC Pod Filter、および0.2 μm Filter Opticap XL10 Millipore Express SHC Hydrophilic Membraneフィルタを含む一連のデプスフィルタを通じてろ過により清澄化される。清澄化は、遠心分離または当技術分野において公知の0.2 μmまたはそれ以上の孔径の任意の酢酸セルロースフィルタを通じたろ過などの、当技術分野において公知の種々の他の標準的技術によって達成することもできる。
【0057】
いくつかの態様において、rAAV産生培養収集物は、産生培養物に存在する任意の高分子量DNAを消化するためにベンゾナーゼ(登録商標)でさらに処理される。いくつかの態様において、ベンゾナーゼ(登録商標)消化は、例えば、30分〜数時間の間、常温から37℃に及ぶ温度にて1〜2.5単位/mlのベンゾナーゼ(登録商標)の終濃度を含む当技術分野において公知の標準的な条件の下で行われる。
【0058】
rAAV粒子は、以下の精製段階の1つまたは複数を用いて単離または精製されうる: 素通り画分陰イオン交換ろ過、rAAV粒子を濃縮するための接線流ろ過(TFF)、アパタイトクロマトグラフィーによるrAAV捕捉、ヘルパーウイルスの熱不活化、疎水性相互作用クロマトグラフィーによるrAAV捕捉、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による緩衝液交換、ナノろ過、および陰イオン交換クロマトグラフィーによるrAAV捕捉。これらの段階は単独で、さまざまな組み合わせで、または異なる順序で用いられてもよい。いくつかの態様において、本方法は下記の順序で全ての段階を含む。
【0059】
陰イオン交換ろ過
任意でいくつかの態様において、清澄化されかつベンゾナーゼ(登録商標)処理された産生培養収集物は、rAAVベクターが素通り画分中に存在し、かつ夾雑しているヘルパーウイルスが帯電フィルタ上に保持される条件の下で陰イオン交換ろ過に供される。rAAV産生培養収集物のイオン強度にて、rAAV粒子はMustang(登録商標) Qフィルタ(Pall Corp., East Hills, NY)などの陰イオンフィルタの通過によってヘルパーウイルス、例えば、アデノウイルスと識別することができる。当業者は、清澄化され、ベンゾナーゼ(登録商標)処理されかつ陰イオンろ過された産生培養物中に存在するアデノウイルスタンパク質およびアデノウイルスの至適対数減少(LRV)を達成するのに必要なフィルタのサイズおよび数を判定することができる。いくつかの態様において、LRVは少なくとも1 logであり、10 log超である。好ましい態様において、LRVは少なくとも2 logであり、8 log超である。より好ましい態様において、LRVは少なくとも6 logである。
【0060】
接線流ろ過(TFF)濃縮
いくつかの態様において、清澄化され、ベンゾナーゼ(登録商標)処理された供給流の陰イオンろ過由来の素通り画分は、アパタイトクロマトグラフィー媒体に適用される前に接線流ろ過(「TFF」)を介して濃縮される。TFF限外ろ過を用いたウイルスの大規模濃縮がR. Paul et al., HUMAN GENE THERAPY, 4:609-615 (1993)によって記述されている。供給流のTFF濃縮によって、技術的に管理可能な容量の供給流を本発明のクロマトグラフィー段階に供することが可能となり、長時間の再循環時間を必要とせずにカラムに関するさらに合理的なサイズ決定が可能となる。いくつかの態様において、rAAV供給流は少なくとも2倍から少なくとも10倍の間で濃縮される。いくつかの態様において、供給流は少なくとも10倍から少なくとも20倍の間で濃縮される。いくつかの態様において、供給流は少なくとも20倍から少なくとも50倍の間で濃縮される。当業者は、精製工程中の次の段階を行う前に緩衝液を交換することが望ましいような、精製工程中の任意の段階でTFFが用いられてもよいことも認識するであろう。
【0061】
ポリエチレングリコール(PEG)の存在下でのアパタイトクロマトグラフィーによるrAAVの捕捉
ヒト臨床試験および薬学的製剤で用いるのに適したタンパク質および他の生物学的製剤の精製でFDAが認可した工程は、工業規模の直交工程に依る。多段階精製スキームは、各段階が直交座標空間の軸に相当する、互いに異なる分離機構を用いるなら、直交工程を含むものと考えられる。例えば、陰イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いる2段階工程は直交であると考えられる。本明細書において記述される産生培養収集物または供給流から、産生培養夾雑物または工程内夾雑物などの、夾雑物を除去するための工程は、最終産物(すなわち、rAAVベクター)用の種々のクロマトグラフィー媒体に対する捕捉および素通りの両段階を含む直交工程である。rAAVベクター(具体的にはrAAV-2)は、当技術分野において陰イオン樹脂に結合することが実証されている。rAAV-1、rAAV-5およびrAAV-8などのrAAVベクターは、血清アルブミン、ヘルパーウイルス成分、産生培地成分および宿主細胞DNAなどの産生成分の存在下でrAAV-2よりもはるかに弱く陰イオン交換媒体に結合するため、より低効率かつ低品質の精製スキームをもたらすことが実証されている。
【0062】
AAV-1などの、より低親和性の陰イオン結合物質に対する当技術分野において記述の以前の精製戦略には陰イオン交換体へのrAAVベクターのさらに強い結合を達成するために、産生培養夾雑物および工程内不純物などの、夾雑物の相対濃度を低減するイオジキサノールによる段階的勾配が含まれていた。イオジキサノールによる段階的勾配は、本明細書において記述されている工業規模の工程には容易に拡張可能でない。
【0063】
本出願の本発明者らは、アパタイト樹脂上での捕捉およびアパタイト樹脂からの溶出により、rAAVベクター粒子を産生培養夾雑物または工程内夾雑物などの、夾雑物から単離できることを発見した。このように、アパタイトカラムは未精製の供給流から産物を捕捉することに加えて、宿主細胞およびアデノウイルスタンパク質、グルカンならびに血清タンパク質を含む、工程に関連した種々の不純物を排除し、かつ(Ad5ヘルパーウイルスなどの)ヘルパーウイルスに対してさらなる排除因子となる。
【0064】
アパタイト樹脂は、非限定的にセラミックハイドロキシアパタイト(CHT)およびセラミックフルオロアパタイト(CFT)を含む、リン酸カルシウムの無機物で構成されるクロマトグラフィー媒体である。アパタイトクロマトグラフィー媒体は、アパタイトが二種以上の結合化学的性質を提供する官能基を有するので、混合モードまたは多モード媒体ともいわれる。理論によって束縛されることを望むわけではないが、アパタイト媒体は、骨格上に存在するヒドロキシル残基、樹脂上に存在する正に帯電したカルシウム部分および負に帯電したリン酸部分を含む、多くの異なる化学基を介してカルシウム金属親和性結合、水素結合、正電荷斥力、正電荷引力、負電荷斥力および負電荷引力の機会を提供する。各結合の化学的性質は、単一モードのクロマトグラフィーに役立つ時にだけ混合モードの結合に適用される。しかしながら、単一モードのクロマトグラフィーと違って、各種の結合および溶出の化学的性質は、無関係ではなく、反対の方向に働くこともある。例えば、イオン強度を増大させることで、疎水性結合を駆動することができる(T. Kawasaki, M. Niikura, and Y. Kobayashi, J. Chrom. 515:125-148 (1990)およびP.S. Gagnon, P. Ng, J. Zhen, C. Aberin, and J. He, BioProcess Int'l 4:50-60 (2006))。具体的には、CHTおよびCFTは、鉱物を結晶形態からセラミック形態に変換するために高温で焼結されたハイドロキシアパタイト(Ca5(PO4)3OH)2の球状、マクロ多孔性の形態である。これにより、広い表面積、限られた物質移動抵抗、高い機械的強度およびベース抵抗を提供するマクロ多孔性の構造を有するクロマトグラフィー媒体が得られる。異なる温度および時間で焼結することにより、異なる物理的構造、つまりI型およびII型が得られるが、これらの構造は化学的には同一であるものの、異なるクラスの分子には異なる能力を示す。CFTは、ヒドロキシル基をフッ素基で化学的に置換して酸性条件に対する安定性を高めることにより調製されるフルオロアパタイトおよびハイドロキシアパタイトの複合体であるという点でCHTとは異なる。CFTおよびCHT樹脂は市販されている(例えば、Bio-Rad Laboratories, Inc.から)。
【0065】
本発明の本発明者らは驚くべきことに、負荷用緩衝液中のポリエチレングリコール(PEG)の存在が、アパタイト樹脂に結合するrAAVベクター粒子の容量および再現性を(素通り画分におけるrAAV粒子の可変的な破過を低減することにより)劇的に高めることを発見した。理論によって束縛されることを望むわけではないが、rAAVベクターを、工程に関連した不純物の大部分のものと識別するrAAVベクターの特質の一つが粒子の大きな物理的サイズである。このサイズの違いは、クロマトグラフィーの結合用緩衝液および洗浄用緩衝液の中にポリエチレングリコール(PEG)を含めて、より大きな分子の分配係数を、エネルギー的に起こりやすい水和殻共有に基づく結合状態にまで選択的に増大することにより捕捉および洗浄の段階において使用されている。ウイルスベクターおよびバクテリオファージベクターを精製する際にPEGを用いることが当技術分野において記述されているが、本発明とは異なり、それはウイルス粒子を物理的に凝集させ、ウイルス粒子を溶液から除去するための沈殿剤として主に用いられている。PEGはウイルス粒子の凝集および沈殿を促進させることが当技術分野において公知であり、rAAVは200 mM未満のイオン強度で凝集体を形成することが当技術分野において記述されているので(Wright et al., Molecular Therapy 12:171-178 (2005))、アパタイト樹脂へのrAAVベクターの結合に及ぼすPEGの効果は予測不可能であった。PEGはイオン交換樹脂への免疫グロブリン分子の結合を促進することが、例えば、Gagnon, J. Chromtogr. 743A:51-55 (1996)に記述されている通り、および帯電した疎水性の混合モード樹脂の場合、例えば、Gagnon et al., 22nd International IBC Conference on Antibody Production and Development, March 4-6, 2009に記述されている通り、当技術分野において公知であった。
【0066】
本出願の本発明者らは、供給流中3〜10% (w/v)の濃度範囲にわたってPEG6000を用いた実験に基づき、相対濃度約5% (w/v)のPEG6000が最適であるものと判定した。当業者は、非限定的にPEG8000、PEG10000およびPEG15000を含めて他の種および分子量のPEGを使用できること、ならびにPEGの適切な濃度で、溶液中のrAAVベクター粒子がアパタイト樹脂に結合するように駆動されるが、凝集体を形成しないようなまたは物理的に沈殿しないような、rAAVベクター溶液中の終濃度でのPEGの相対濃度を実験的に判定できることを理解するであろう。
【0067】
いくつかの態様において、rAAVベクター粒子を、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉およびリン酸緩衝液中でのアパタイト樹脂からの結合rAAV粒子の溶出により産生培養夾雑物から単離する。好ましい態様において、rAAVベクター粒子を、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉およびPEGなしの緩衝液中でのアパタイト樹脂からの結合rAAV粒子の溶出により産生培養夾雑物から単離する。いくつかの態様において、弱陰イオン結合物質であるキャプシドを含むrAAV粒子を、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉により産生培養夾雑物から単離し、かつ結合したrAAV粒子を、PEGなしの緩衝液中でアパタイト樹脂から溶出させる。より好ましい態様において、血清型1型(rAAV-1血清型)のキャプシドを含むrAAV粒子を、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉により産生培養夾雑物から単離し、かつ樹脂に結合したrAAV-1血清型キャプシドを含有する粒子を、PEGなしの緩衝液中で溶出させる。いくつかの態様において、ホスフェートの非存在下であるがPEGの存在下で負荷用緩衝液中において供給流を負荷する段階、およびホスフェートを含みかつPEGを欠く溶出用緩衝液中にてアパタイト樹脂から結合したrAAVを溶出させる段階を含む方法によって、rAAVベクター粒子を産生培養夾雑物から単離する。
【0068】
PEGの存在下でのアパタイトクロマトグラフィーはrAAVベクターの精製に向けた効率的な捕捉または結合の戦略となるが、pH 7.0でアパタイト樹脂により多くの工程内不純物も保持された。理論によって束縛されることを望むわけではないが、塩基性pH (7.0を超えるpH)で供給流中に存在するタンパク質は、正味の負電荷を有する可能性がもっと高く、アパタイト樹脂上に存在する負のリン酸結合部位により反発され、それにより、クロマトグラフィー樹脂の全体的な陽イオン交換結合能を低減すると考えられる。しかし、アパタイト樹脂の混合モード性を考慮すると、正電荷引力および金属親和性を介した結合がそれでも、起こりうる。
【0069】
ホウ酸緩衝液は、非限定的に調製の容易さ、最適な溶解性、優れた緩衝能および低費用を含むその望ましい製造特性のため、塩基性の緩衝系として当技術分野において日常的に用いられている。それゆえ、モデルとなる塩基性の緩衝系としてのホウ酸緩衝液をアパタイト樹脂上でのrAAVの捕捉について評価した。当業者は、他の塩基性緩衝液を、それらがPEGの存在下、アパタイト樹脂への工程内不純物の結合のレベルを低減したかどうか判定するように評価できることを理解しうる。他の塩基性緩衝液が試験され、rAAVの捕捉のために使用されてもよい。いくつかの態様において、PEGなしのアパタイト負荷用緩衝液はホウ酸緩衝液を含む。好ましい態様において、ホウ酸緩衝液は約8.0〜約pH 9.9のpHで配合される。好ましい態様において、ホウ酸緩衝液は約9.0のpHで配合される。いくつかの態様において、ホウ酸緩衝液は約5 mM〜約500 mMの濃度である。より好ましい態様において、ホウ酸緩衝液は約20 mMボラート、pH 9.0で配合される。いくつかの態様において、pH 9.0の20 mMホウ酸緩衝液は、アパタイト樹脂上での小分子工程内不純物の捕捉を特に低減する。
【0070】
いくつかの態様において、供給流は、PEGの終濃度の2倍でPEGを含むリン酸緩衝液との供給流のオンライン混合によりPEGの存在下にてホスフェートを含む緩衝液中でアパタイト樹脂上に負荷される。いくつかの態様において、リン酸緩衝液のpHはpH 6.5〜pH 7.0である。いくつかの態様において、PEGはPEG6000である。いくつかの態様において、負荷用緩衝液中のPEG6000の濃度は約3% (w/v)〜約10% (w/v)である。より好ましい態様において、負荷用緩衝液中のPEG6000の濃度は約5% (w/v)である。いくつかの態様において、アパタイト樹脂用の負荷用緩衝液中のホスフェートの濃度は5 mM〜500 mMである。
【0071】
いくつかの態様において、PEGの存在下でのアパタイト樹脂の結合能は、PEGの非存在下でのアパタイト樹脂の結合能に対して増強される。いくつかの態様において、PEGの存在下での供給流中のrAAVベクター粒子に対するアパタイト樹脂の結合能は、PEGの非存在下でのアパタイト樹脂の結合能に対して約2分の1 logから約10 logまで増強される。好ましい態様において、PEGの存在下での供給流中に存在するrAAV粒子に対するアパタイト樹脂の結合能は、8 log増強される。いくつかの態様において、PEGの存在下での供給流中のrAAVベクター粒子に対するアパタイト樹脂の結合能は、少なくとも約106粒子のrAAV/ml樹脂から約1016粒子/ml樹脂(例えば106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016粒子/ml樹脂のほぼいずれかなど)である。いくつかの態様において、PEGの存在下でのアパタイト樹脂の結合能は、約1014粒子/ml樹脂である。
【0072】
PEGの存在下でのおよそ1012〜1014個のDRPのrAAV-1/mlアパタイト樹脂の、この驚くべき結合能は工業的rAAV-1精製の高効率で、費用効果的な規模拡張を可能にするが、結合能は、樹脂1 mlあたりに結合しうるrAAV-1の最大数を表し、本発明の範囲を操作上、限定するよう意図するものではないことを当業者は理解するであろう。実際に、本発明者らは、1014〜1016個のDRP/ml未満のrAAV-1を含有するrAAV-1ベクター収集培養物を本発明によって精製できることを認めた。
【0073】
いくつかの態様において、アパタイト媒体に結合したrAAV粒子を、rAAV粒子を樹脂から溶出させる前に洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、工程内不純物を除去するために逓減濃度のPEGを含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約3% (w/v)〜約10% (w/v) PEGを含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は10% (w/v)、9.5% (w/v)、9% (w/v)、8.5% (w/v)、8% (w/v)、7.5% (w/v)、7% (w/v)、6.5% (w/v)、6% (w/v)、5.5% (w/v)、5% (w/v)、4.5% (w/v)、4% (w/v)、3.5% (w/v)および3% (w/v) PEGのほぼいずれかを含有する。いくつかの態様において、アパタイト媒体を、アパタイト媒体へのrAAV粒子の結合を可能とするために用いられるPEG濃度よりも高い濃度でPEGを含有する洗浄用緩衝液で洗浄する。いくつかの態様において、アパタイト媒体を、逓減濃度のPEGでさらに洗浄する。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は当技術分野において公知の緩衝液を含有する。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は、ボラート、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸(HEPES)およびTris-HClからなる群より選択される緩衝液を含む。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は塩基性pHである。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液はpH 7.0〜pH 10.0、pH 7.2〜pH 10.0、pH 7.4〜pH 10.0、pH 7.6〜pH 10.0、pH 7.8〜pH 10.0、pH 8.0〜pH 10.0、pH 8.2〜pH 10.0、pH 8.4〜pH 10.0、pH 8.6〜pH 10.0、pH 8.8〜pH 10.0、pH 9.0〜pH 10.0、pH 9.2〜pH 10.0、pH 9.4〜pH 10.0、pH 9.6〜pH 10.0またはpH 9.8〜pH 10.0のpHを有する。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8または10.0のpHを有する。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は100〜500 mMホスフェートをさらに含む。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は50〜250 mM NaClをさらに含む。
【0074】
いくつかの態様において、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉により供給流から単離されたrAAVベクターを、低濃度PEGの緩衝液中に溶出させる。いくつかの態様において、低濃度PEGは約2.9% (w/v)〜約0.1% (w/v) PEGである。いくつかの態様において、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉により供給流から単離されたrAAVベクターを、PEGなしの緩衝液中に溶出させる。好ましい態様において、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉により供給流から単離されたrAAVベクターを、PEGなしのホスフェートを含む緩衝液中に溶出させる。
【0075】
いくつかの態様において、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉により供給流から単離されたrAAVベクターを、ホスフェートを含む緩衝液中に溶出させる。いくつかの態様において、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉により供給流から単離されたrAAVベクターを、約0.1 mM〜約500 mM (例えば、約1 mM〜約250 mM、約10 mM〜約100 mMなど)の濃度でホスフェートを含有する緩衝液中に溶出させる。好ましい態様において、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉により供給流から単離されたrAAVベクターを、50 mMリン酸緩衝液中に溶出させる。
【0076】
本出願の本発明者らは、供給流中に存在するrAAVベクターを、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉により単離できることを発見した。しかし、産生培養物において用いられる(アデノウイルスなど)ヘルパーウイルスが、アパタイト樹脂にアプライされる供給流中に存在すれば、それらはPEGの存在下でアパタイト樹脂により捕捉される。PEGの存在下でアパタイト樹脂により捕捉されたrAAVベクター粒子は、リン酸緩衝液中でのその溶出プロファイルによってアデノウイルスから容易に単離することができる。PEGの存在下でアパタイト樹脂に結合したrAAVベクター粒子はPEGの非存在下、0 mMほどの低濃度のホスフェートを含有する緩衝液中に溶出するのに対し、ヘルパーウイルスのアデノウイルス粒子は、rAAVベクター粒子を溶出するために用いられるホスフェートの濃度の下でアパタイト樹脂上に保持される。実験的に、rAAVベクターはPEGの非存在下、わずか50 mMのホスフェートにて単一の鋭いピークで溶出することが分かったのに対し、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスは、存在する場合、樹脂上に保持された。rAAV供給流に89個のDNase耐性粒子(DRP)の感染性アデノウイルスをスパイクし、これをPEGの存在下でアパタイト樹脂に対するクロマトグラフィーに供したスパイクイン試験で、rAAVベクターはアパタイト樹脂上に捕捉され、PEGなしの50 mMリン酸緩衝液中に溶出されたが、およそ4 logのアデノウイルスタンパク質がアパタイト樹脂上に保持された。したがって、いくつかの態様において、供給流中に存在するrAAVベクターを、PEGの存在下におけるアパタイト樹脂上での捕捉およびPEGの非存在下におけるリン酸緩衝液中での溶出によって夾雑ヘルパーウイルスから単離する。いくつかの態様において、リン酸緩衝液は、アパタイト樹脂に結合された夾雑ヘルパーウイルスを保持する濃度で配合される。いくつかの態様において、2〜8 logのアデノウイルスがアパタイト樹脂1 mlあたりに保持される。いくつかの態様において、供給流中に存在するrAAVベクターを、アパタイト樹脂に結合されたヘルパーウイルスを保持する条件の下、(0〜400 mM、0〜300 mM、0〜200 mM、0〜100 mM、0〜50 mMなどの) 0〜500 mMリン酸緩衝液中でのアパタイト樹脂からの溶出によって単離する。
【0077】
rAAVベクターを産生するための当技術分野において公知の産生システムは、0.5%〜20% (v/v)の範囲内で血清を含有する産生培地を含むことがあり、または全く血清を含まないこともある。さらに、当技術分野において記述されている精製スキームは、アパタイト樹脂にアプライされる供給流中の血清タンパク質および他の血清成分の増加をもたらしうる1つまたは複数の濃縮段階を含むこともある。例えば、1% (v/v)血清を配合した本明細書において記述の産生培養上清は、TFF段階でおよそ20倍濃縮され、その結果、アパタイト樹脂上に負荷される供給流には血清を配合されなかった産生培養物由来の供給流濃縮物と比べて20%もの血清タンパク質夾雑物が含まれていた。本出願の本発明者らは、血清の存在下または非存在下で配合された産生培養物由来の供給流濃縮物を用い本明細書において提供されるアパタイト捕捉法を試験した。供給流中の血清タンパク質の存在は、アパタイトクロマトグラフィー段階の性能に影響を与えないことが分かった。
【0078】
ヘルパーウイルスの熱不活化(熱殺処理)
感染性アデノウイルスがrAAV産生用の産生培養物におけるヘルパーウイルスの供給源として用いられるなら、任意の熱不活化(熱殺処理)段階を組み入れて、供給流中に存在しうるすべての残存アデノウイルス粒子を不活化することができる。熱殺処理段階ではAAVとアデノウイルスとの間の大きな違いの一つを活用する。つまりアデノウイルス粒子はおよそ54〜56℃の温度で不活化されるが、AAVおよびrAAVウイルス粒子は安定であり、それらの温度の影響を受けない。本発明において、本発明者らは、熱不活化段階を調整して、本明細書において実施される250 L規模の産生培養などの、より大規模な工程の最適化に適応した。具体的には、アパタイト溶出液は、無菌、使い捨ての5 Lバイオ処理用バッグの中で、53℃に設定された温度制御揺動台上、40 RPMの揺動速度で、混合のために12°の角度を用いて熱不活化された(20 Lの電波加熱鍋)。アパタイト溶出液は、52℃に達するまで台上でインキュベートされ、その後、さらに10分間その温度で保持された。MgCl2を2 mMの終濃度でアパタイト溶出液に加えて、加熱中にrAAVベクターを安定化した。当業者は、規模、最終の加熱設定点および加熱時間を実験的に試験して、rAAV粒子の感染性および完全性を維持しながらアデノウイルス粒子を不活化するのに最適な条件を見つけられることを理解しうる。熱不活化段階は、プラスミド構築体を用いてヘルパー機能を提供する産生培養物からのrAAV粒子の精製のために除外されてもよい。
【0079】
疎水性相互作用クロマトグラフィー
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)は、生体分子を、その表面疎水性の違いに基づき、分離するための技術である。したがって、HICはAAV工程における他の精製段階に対して直交の方法と考えられる。HICクロマトグラフィー媒体は直鎖炭化水素(例えば、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ヘキシル(C6)もしくはオクチル(C8))または芳香族化合物(例えば、フェニル)などの疎水性リガンドを含有する。純水中で、疎水性効果はリガンドとタンパク質との間、またはタンパク質それら自体との間の機能的相互作用には弱すぎる。しかし、離液性塩は疎水性相互作用を増強し、塩の添加がHIC媒体へのタンパク質の捕捉を駆動する。このため、HIC樹脂は、通常、高塩濃度の下で負荷され、より低塩濃度で溶出される。当業者なら理解する通り、硫酸アンモニウム[(NH4)2SO4]は、ホフマイスター系列でのアンモニウムイオンおよび硫酸イオンの両方の高い離液順位、およびその塩の高い溶解性のため、HICクロマトグラフィーを介したタンパク質の捕捉を制御するために最も多く使用されている塩である。本発明において、供給流中に存在するrAAV粒子は、2 M硫酸アンモニウム + 50 mMビストリス緩衝液(pH 7.0):供給流、それぞれ、75:25 (容量:容量)の比率でのインライン混合によりHIC樹脂上に負荷された。供給流と負荷用緩衝液とのインライン混合により、緩衝液中に存在する高濃度の硫酸アンモニウムによるいかなるrAAVベクターの沈殿のリスクも回避される。当業者なら理解しうる通り、塩(硫酸アンモニウム)の濃度を操作して、rAAV結合に最適な濃度を達成することができる。したがって、いくつかの態様において、硫酸アンモニウム濃度は1 M〜3 Mである。いくつかの好ましい態様において、負荷用緩衝液中の硫酸アンモニウム濃度は2 mMである。当業者なら理解しうる通り、硫酸アンモニウムおよび供給流のインライン混合は便宜のため、単位操作の流れで行われるが、容易に、供給流を適切な濃度の負荷用緩衝液と、当技術分野において公知の任意の手段によって混合し、その後、供給流 + 負荷用緩衝溶液をHICクロマトグラフィー媒体上に負荷することができる。
【0080】
共溶媒も疎水性相互作用に影響を与えうる。例えば、エチレングリコールまたはプロピレングリコールは、タンパク質と固定化リガンドとの間の相互作用を低減し、かくして溶出プロファイルを改善するのに有用でありうる。したがって、HICカラムを2 M硫酸アンモニウム + 50 mMビストリス緩衝液(pH 7.0):50 mMビストリス(pH 7.0) + 10%プロピレングリコール(v:v)緩衝液(EMD BioSciences)の75:25 (v:v)混合液で洗浄し、低塩緩衝液に加えてプロピレングリコール(800 mM硫酸アンモニウム + 50 mMビストリス緩衝液(pH 7.0) + 4%プロピレングリコール)中にrAAVが溶出された。それらの溶出条件の下で、カラムに負荷される供給流中に存在するすべての残存ヘルパーウイルスおよびタンパク質はカラムに結合したままであると考えられる。この例ではプロピレングリコールを緩衝液に添加し、プロピレングリコールなしの緩衝液の広範な溶出プロファイルと比べて、溶出プロファイルを鋭くさせたが、これは工程において任意である。
【0081】
適切な疎水性樹脂の例としては非限定的にTosoh Butyl 650M、Tosoh SuperButyl 650C、Tosoh Phenyl 650CおよびEMD Fractogel Phenyl (Tosoh Bioscience LLC, PA)が挙げられる。
【0082】
rAAV産生工程由来の不要物(waste)には少なくとも次の2つの理由で処分の前にストリンジェントな夾雑物除去が必要になる: (1) 産物にはウイルスベクターが含まれること; および(2) 産生培養物にはrAAV産生用のヘルパーウイルスとして生菌アデノウイルス5型(Ad5)がよく用いられること。クロマトグラフィー操作由来の液状不要物は、典型的には、使用時に漂白剤で最初に夾雑物除去され、その後、中和および処分の前に高いpHで保持することによってさらなる夾雑物除去が行われる。
【0083】
HIC緩衝液中に存在する硫酸アンモニウムは漂白剤とも水酸化ナトリウムとも反応して、それぞれ、有害な塩素ガスおよびアンモニアガスを放出する。それゆえ、HICクロマトグラフィー段階の工程最適化のために主に考慮されるものは、当技術分野において公知の方法によって安全に夾雑物除去されうる適切な緩衝系の開発であった。
【0084】
当業者なら理解しうる通り、疎水性相互作用クロマトグラフィーで用いられる高塩濃度の緩衝液は、流速を制限するかまたは混合の問題を引き起こし、それによって貯蔵または操作に使われる温度で起こる緩衝液中での塩結晶化による産物の沈殿のリスクを増大しうる高い背圧をもたらす可能性のある粘性の問題についてさらにスクリーニングされねばならない。疎水性相互作用クロマトグラフィーには0.5 Mから2.0 Mに及ぶ濃度でクエン酸緩衝液を用いることができるが、下記表6中のデータおよび上記の要因の考慮に基づき、本発明者らは、HICクロマトグラフィー媒体へのrAAVベクターの結合のために最適な緩衝液として1 Mクエン酸ナトリウム(pH 7.0)を選択した。
【0085】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による緩衝液交換
TFFおよび透析を含む、本明細書において記述される緩衝液交換を行うために多数の方法が当技術分野において公知である。サイズ排除クロマトグラフィーの使用は、樹脂中の細孔を通過するようにサイズ分類されたタンパク質のさらなるタンパク質排除を提供するという、および緩衝液を交換するのに必要な時間に関して比較的速いというさらなる利点を有する。緩衝液交換をこの段階で行って、前段階のHIC溶出液が工程中の最終の陰イオン交換クロマトグラフィー段階に適したrAAV結合用の緩衝液に交換されることを確実にした。
【0086】
外来性因子(ウイルス排除)
任意で、供給流中に存在しうる外来性ウイルスなどの、微量夾雑物を排除するためのさらなる段階を工程の中に組み入れて、それにより工業的に合理的な直交工程を生み出してもよい。したがって、いくつかの態様において、該工程はウイルス排除フィルタをさらに含む。このようなフィルタの例は当技術分野において公知であり、Millipore Viresolve NFR (50 nm)、Pall Ultipore VF (50 nm)およびAsahi 70 nmを含む。
【0087】
陰イオン交換クロマトグラフィー
アパタイトクロマトグラフィーに供されるrAAVベクターに対する陰イオン交換捕捉段階は、最終の濃縮および洗練の段階として実施された。適した陰イオン交換クロマトグラフィー媒体は当技術分野において公知であり、非限定的に、Unosphere Q (Biorad, Hercules, California)、およびN荷電アミノもしくはイミノ樹脂、例えば、POROS 50 PI、または任意のDEAE、TMAE、三級もしくは四級アミン、あるいは当技術分野において公知のPEIに基づく樹脂が含まれる(米国特許第6,989,264号; N. Brument et al., Mol. Therapy 6(5):678-686 (2002); G. Gao et al., Hum. Gene Therapy 11:2079-2091 (2000))。当業者は、rAAVが樹脂に結合したままである一方で、精製段階において用いられるさまざまなフィルタからの浸出により導入されうるグルカンを非限定的に含む他の工程内不純物が取り除かれるような、適切なイオン強度の洗浄用緩衝液を特定できることを理解しうる。いくつかの態様において、洗浄用緩衝液は60 mM NaClであり、rAAVベクターは130 mM NaClでカラムから溶出され、その結果、存在している、血清アルブミンまたはヘルパーウイルスなどの、残存するすべての微量工程内不純物がカラム上に保持される。
【実施例】
【0088】
実施例1: 培地清澄化およびベンゾナーゼ(登録商標)消化由来のrAAV-1の収集
rAAV-1ベクターを含有する、当技術分野において公知の任意の方法により産生された250 LのrAAV-1ウイルス産生培養物由来の使用済みのrAAV-1産生培地(上清)を清澄化して、上清中に含有されるいかなる細胞も除去した。 (1) Millipore Millistak+(登録商標) HC Pod Filter、D0HC等級(Millipore Corp., Bedford, MA)(4回); (2) Millipore Millistak+(登録商標) HC Pod Filter、A1HC等級; および(3) Opticap(登録商標) XL10 Millipore Express SHC Hydrophilic Membrane 0.2 μm Filterを含む、直列につながれた一連のフィルタに、4 LPMまで段階的に低下させた5リットル/分(LPM)の速度で、上清を通した。
【0089】
全てのフィルタは製造元の仕様書によって逆浸透/脱イオン(「RO/DI」)水中で予洗された。素通り画分をベンゾナーゼ(登録商標)消化のためのバイオ処理用バッグの中に回収した。終濃度2単位/mlのベンゾナーゼ(登録商標) (EM Industriesカタログ番号1.01695.0002)をrAAV-1産生培地に溶解し、清澄化済みのウイルス上清に添加して終濃度2.5単位/mlを達成した。上清に加えてベンゾナーゼ(登録商標)を4 LPMの一定の再循環で常温にてインキュベートし、DNA消化を可能にした。ベンゾナーゼ(登録商標)消化のデータを図1に示すが、これは、ベンゾナーゼ(登録商標)消化後には高分子量DNAが存在していなかったことを実証する。
【0090】
実施例2: 陰イオン交換を介した産生夾雑物の除去
実施例1由来のrAAV-1の清澄化およびベンゾナーゼ(登録商標)消化済みの上清を、直列につながれた一連の2インチ×22インチのPall Mustang(登録商標) Q (「MQ」)フィルタ(Pall Corp., カタログ番号NP6MSTGQP1)に通した。rAAV-1ウイルス上清の負荷の前に、フィルタを15分の保持時間で15 Lの0.5 M NaOHにより0.5 LPMで無菌化し、15 L TMEG + 2 M NaCl (TMEG: 0.05 M Tris-HCl, pH 7.5、1 mM 2-メルカプトエタノール、1 mM Na2EDTA、10% (v/v)グリセロール)により6 LPMの速度ですすぐことによって帯電させ、15 Lのベクター産生培地により6 LPMで平衡化した。上清を次いで、一連の該フィルタを通じておよそ6 LPMの速度で汲み出し、バイオ処理用バッグの中に回収した。産生培地のイオン強度で、陰イオン交換MQフィルタは、帯電した膜への夾雑物の結合によってrAAV-1上清から、数ある不純物の中でも特に、ヘルパーウイルスおよび残存DNAを清澄化することが実証された。しかし、産生培養物のイオン強度で、上清中に存在するrAAV-1ベクターは、陰イオン交換膜中を流れた。工程最適化の間に、単一のMQフィルタを用いてAd5ヘルパーウイルスを含む、工程中の夾雑物の破過が生じたことが実験的に確認された。その結果、第2のフィルタを該工程において直列にまたは縦並びに付加した。
【0091】
実施例3: rAAV-1ベクター上清の濃縮
実施例1および2において処理された完全なrAAV-1ベクター産生上清を接線流ろ過(「TFF」)によっておよそ250 Lの初期容量からおよそ12.5 Lの容量までおよそ20倍に濃縮した。100 kDの分子量カットオフ値、C型の篩および5 m2の全表面積を有する接線流ポリエーテルスルホンフィルタカートリッジ(Millipore Pellicon(登録商標) 2 Biomax, カタログ番号P2B100C05)を50 LのRO/DI水で洗い流し、15分の保持段階で15 Lの0.5 M NaOHにより無菌化し、100 LのWIFI (HyPure(商標) WFI精製水; HyClone, Logan, UT)で再び洗い流し、15 L TMEG + 2 M NaClで洗い流し、15 LのrAAV-1産生培地で最後に平衡化した。上清を16 LPMの再循環率にておよそ3 LPMの流速でTFFカートリッジに通した。フィルタ上に保持されたTFF物質(「残余分」)をおよそ10.5 Lまで濃縮し、貯蔵器に移し入れた。フィルタをおよそ2 Lの産生培地で洗い流した。洗浄液および濃縮液を次いで、プールしておよそ12.5 Lの終容量を得た。
【0092】
TFFによる12.5 Lの容量へのrAAV-1の濃縮はまた、およそ20倍まで溶液中に残存するrAAV-1産生夾雑物を濃縮した。したがって、製造保持段階をTFF段階の後に導入し、その間に、TFF濃縮液を4インチのOpticap 0.22 μMフィルタ膜(Millipore Opticap(登録商標)カタログ番号KVSC04HB3)に通してろ過した。この追加のろ過段階は、rAAV-1を含有するTFF濃縮液が、透析ろ過および緩衝液交換を必要としない工程における次の段階に進行できるようにする。TFF後の物質は、当技術分野において公知のアッセイ法により評価されるベクター収量または感染性によって測定されるような安定性を消失させずにさらに処理する前に、わずか24時間から3ヶ月またはそれ以上もの期間を含む、任意の期間にわたり2〜8℃で貯蔵されなければならない。あるいは、本明細書において記述される通りに行われるTFFを精製工程中の任意の段階で用いて、rAAV-1ベクターを濃縮または緩衝液交換することもできる。
【0093】
実施例4: rAAV-1ベクター対工程不純物の結合のための樹脂スクリーニング
タンパク質および他の生物学的製剤の精製のための工業的FDA認可工程は、工業規模の組み入れ直交工程に依る。直交工程は、例えば、rAAV-1ベクターなどの、最終産物に対する捕捉および素通りの両段階を含む、工程内不純物の除去のための二つ以上の段階または工程を有する工程である。rAAVベクター(具体的にはrAAV-2)は、当技術分野において陰イオン樹脂に結合することが実証されている。rAAV-1、rAAV-5およびrAAV-8などのrAAVベクターは、血清アルブミン、ヘルパーウイルス成分、産生培地成分および宿主細胞DNAなどの産生成分の存在下でrAAV-2よりもはるかに弱く陰イオン交換体に結合するため、より低効率かつ低品質の精製スキームをもたらすことが実証されている。
【0094】
AAV-1などのより低親和性の陰イオン結合物質に対する当技術分野において記述された以前の精製戦略には、陰イオン交換体へのrAAVベクターのさらに強い結合を達成するために、産生成分の相対濃度を低減するイオジキサノールによる段階的勾配が含まれていた。イオジキサノールによる段階的勾配は、本明細書において記述されるものなどの工業規模の工程には容易に拡張可能でない。それゆえ、超遠心分離および段階的勾配を行う必要なしにrAAV-1などの低親和性陰イオン結合物質に対するrAAVベクターの精製を最適化するために、宿主細胞DNA、ヘルパーウイルス、血清アルブミン、血清タンパク質(産生培地に血清が含まれるなら)、および工業的に拡張可能な、直交の、かつ効率的なrAAV精製工程を開発するように、産生培養物において見出される他の低分子量タンパク質を含むよく見られる工程不純物を結合する能力または素通りさせる能力と比べて、rAAVベクターを結合するまたは素通り画分中のrAAVベクターを除外する能力について、いくつかの樹脂をスクリーニングした。
【0095】
樹脂のスクリーニングは、製造元の推奨と比べてかなりの過少負荷能で、樹脂ごとに業者が推奨する線流速により1 ml (5 cmのベッド高)のカラムを用いて行った。各樹脂への結合および各樹脂からの溶出について280ナノメートルの紫外吸光度(A280)の分光光度追跡結果を集めた。rAAV-1ベクターおよび代表的な工程不純物の両方について適切なアッセイ法によりピークを分析した。図2に示したデータは一覧表中の典型的な樹脂に対する典型的な分光光度追跡結果を表す。表2にはスクリーニングされた樹脂のいくつか、ならびにrAAV-1ベクターおよびさまざまな工程不純物に対する樹脂の相対的な結合親和性が記載されている。
【0096】
(表2)工程夾雑物の結合と比較したrAAV-1の結合に対する樹脂のスクリーニング

略語一覧: (-) = 素通り画分中に存在(結合なし); + = 弱結合(勾配のごく初期に溶出); ++ 〜 ++++ = より強い結合(勾配に沿ってさらに溶出)。
【0097】
実施例5: rAAV-1の捕捉のためのポリエチレングリコール(「PEG」)の存在下でのアパタイトクロマトグラフィーの開発
実施例4で行った樹脂スクリーニングの結果に基づき、rAAV-1の捕捉樹脂の一つとしてアパタイト樹脂またはセラミックアパタイト樹脂を選択した。初期の実験はCFT II樹脂を用いて行ったが、以下で詳細に論じられる通り、後の精製のため、樹脂をCHT Iに変えた。データから、どちらのクロマトグラフィー樹脂も等しく働くことが示された。さらにアパタイト樹脂のrAAV-1結合能を増大するためにおよびrAAV-1粒子と他の工程内不純物とを識別する樹脂の能力を改善するために、実験を行った。アパタイト樹脂の機能に対する二つの鍵となる改善点を、本明細書において記述される通りにさらに開発した: (1) PEGの添加; および(2) 負荷用緩衝液の条件の開発。
【0098】
工業的に合理的なカラムサイズでの容量の問題に起因したアパタイトカラムの多様な進展に基づき、実施例4におけるカラムへの結合で、rAAV-1ベクターに競合で勝っていた血清アルブミン、ヘルパーウイルスおよび他のタンパク質不純物などの他の工程内不純物と比べてrAAV-1ベクターの結合を増大するようにアパタイト樹脂に負荷する前にPEGをTFF濃縮液と混合した(上記の実施例3参照)。
【0099】
多くの工程内不純物もpH 7.0でアパタイト樹脂により保持されたが、PEGの存在下でのアパタイトクロマトグラフィーはrAAV-1ベクターの精製のための効率的な捕捉または結合の戦略となる。
【0100】
緩衝条件を変化させることで他の工程内不純物からのrAAV-1の分割を改善できるかどうか判定するために、実験を行った。CFT樹脂を6 cmのベッド高に充填した1.2 mL Tricorn 5カラム(GE Healthcare)を装着したAKTAexplorer FPLC System (GE Healthcare, Piscataway, NJ)を用い、150 cm/時間の流速で流して小規模の実験を行った。それらのカラムを5% PEG6000の存在下または非存在下でのさまざまな緩衝系において、rAAV-1ベクターの捕捉対ウシ血清アルブミン(「BSA」)、つまりモデルとなる小分子工程内不純物の結合について評価した。
【0101】
rAAV-1またはBSAを5% (w/v) PEG6000の存在下または非存在下、試験される緩衝系中にてCFTカラムに少量(<5%の全量)で注入した。試料の緩衝液交換の必要性を取り除くために少量を用いた。500 mM PO4の勾配に沿って産物が溶出された。50 mM 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(「MES」)を用いてpH=6.50で系を緩衝化し、20 mMボラートを用いてpH 9.0で系を緩衝化した。
【0102】
表3に示されたデータから、分光光度追跡結果(データ不掲載)によって示される通り、アパタイト樹脂へのrAAV-1ベクターの結合は5% (w/v) PEG6000の存在下にてpH 6.5またはpH 9.0で本質的に同じであったが、BSA、つまりモデルとなる小分子工程内不純物の結合は5% (w/v) PEG6000の存在下または非存在下にてpH 9.0で劇的に低減されたことが実証される。酵素結合免疫吸着アッセイ法(「ELISA」)による、塩基性緩衝液負荷条件(すなわち、pH=9.0)でアパタイトカラムに結合するBSAの容量の低下に関するさらなる分析から、大部分のBSA (およそ78%)はpH 9.0の緩衝液条件で素通り画分中に存在していたが、その後の洗浄段階中にBSA結合のさらなるレベルの排除または低下が達成され(およそ19%)、カラム上に負荷されたBSAのおよそ0.1%しか、アパタイト樹脂に実際に結合したままとせず、rAAV-1ベクターと同時に溶出させない可能性のあることが実証された。rAAV-1粒子は、感染性の喪失または溶出されるDNase耐性粒子(「DRP」)の数の減少がないことによって示される通り、pH=9.0で安定であった。
【0103】
(表3)5% (w/v) PEG6000有りまたは5% (w/v) PEG6000無しでの、pH=6.5またはpH=9.0におけるアパタイト樹脂へのrAAV-1およびBSAの結合の相対的強度

略語一覧: + = 弱い結合; ++ = 中間の結合; ++++ = 強い結合。
【0104】
実施例6: PEGの存在下でのアパタイトクロマトグラフィーを介したrAAV-1の捕捉に及ぼすrAAV-1収集培養物における血清の影響
本明細書において記述される方法によって精製されるrAAV-1ベクター産生培養物またはrAAV-1を含有する供給流は、血清を含有する培地中で産生培養物が増殖されたなら血清および血清タンパク質を含みうる。非常に低濃度(すなわち、1%またはそれ以下)の血清を用いるrAAV-1ベクターの産生(例えば、米国特許第6,995,006号を参照のこと)が記述されているが、実施例3に記述されている濃度の産生培養物または供給流は、20倍濃度の産生培養収集物の結果として20%血清および血清タンパク質を効果的に含有する供給流を産生しうる。アパタイトクロマトグラフィーの性能に及ぼす血清成分の影響を評価するために、血清の存在下または非存在下で、PEG6000の存在下または非存在下で産生された産生培養物に対して実験を行った。
【0105】
モデルとなる二つのrAAV-1産生培養物を用いて計4種のカラム負荷実験での伝統的な破過分析によりアパタイト樹脂(CFT I型)の容量を評価した。一つの実験では、産生培養物に血清を含めた。別の実験では、産生培養物に血清を含めなかった。どちらの供給流も5% (w/v) PEG6000の存在下でまたはPEGの非存在下で試験した。供給流は収集工程の代表であり、陰イオン交換フィルタに通され、本明細書において記述の接線流ろ過により20倍に濃縮された清澄化済みの培養上清であった。CFT I型カラムに供給流の1 : 1オンライン混合によってpH=9.0のホウ酸緩衝液を負荷した。緩衝液には0%または(5% (w/v) PEG6000の終濃度を達成するために) 10% (w/v) PEG6000のいずれかが含まれた。カラムに負荷したときに、素通り画分を一連の画分中に集め、これをDRP-PCRにより産物について分析した。機能的能力は、カラム流出時の産物濃度が、オンライン希釈の考慮後、カラムに流入する濃度の1%にちょうど到達した時点と定義された。PEGを含んだカラム負荷の場合、クロマトグラフィー工程の残りを次に流して、溶出画分中のベクターの回収率を評価した。
【0106】
図3に提示されたデータから、血清が産生培養物に存在していたかどうかにかかわらず、PEG6000の添加がrAAV-1ベクターの結合に向けたアパタイト樹脂の容量を増大することが実証される。理論によって束縛されることを望むわけではないが、PEGの存在下でのTFF後の上清は、溶出用緩衝液中のホスフェートの存在が競合で勝る可能性のあるホスフェート部分との陰イオン相互作用により他の工程内不純物に比べてrAAV-1をアパタイト樹脂に選択的に結合させる。加えて、アパタイト樹脂へのrAAV-1の結合は、塩の存在が競合で勝る可能性のある金属相互作用により工程内不純物とはさらに区別される。捕捉および溶出用の緩衝液が主にイオン性であるように配合されるので、ホスフェート部分へのrAAV-1の結合は、主に疎水性によって駆動されることはない(すなわち、主に疎水性相互作用によって結合された組成物の溶出でよく用いられる150 mMまたはそれ以上のホスフェートを含有する溶出用緩衝液と比べて、溶出用緩衝液には50 mMホスフェートが含まれる)。これらの高い塩、低いホスフェートの溶出条件の下で、産生培養物の上清中に含まれた、残存するヘルパーウイルス、宿主細胞DNAおよび他の低分子量タンパク質は、存在するなら、樹脂上に保持されると考えられる。驚くべきことに、データから、PEG6000の存在下で、含血清培地または無血清培地中のいずれかで産生されたrAAV-1ベクターは、少なくとも1.2×1012個のDRP/mL樹脂(1 mLの負荷)から1.5×1014個のDRP/mL樹脂(150 mL)超のアパタイト樹脂に対する結合能を示すことが実証される。5% (w/v) PEG6000の非存在下で、TFF収集物に対するアパタイト樹脂の結合能は、rAAV-1ベクターがCFT溶出液中に回収されなかったことから、含血清培地で産生されたベクターの場合2.4×1012個のDRP/mLおよび無血清培地中で産生されたベクターの場合7.2×1012個のDRP/ml未満であった。
【0107】
実施例7: アパタイトクロマトグラフィーを介したrAAV-1の精製
CHT I型カラムを2 M NaClで充填し、1 M NaOHで無菌化した。負荷の前に、カラムを6カラム容量(「CV」)の20 mMボラート(pH = 9) + 5% (w/v) PEG6000で平衡化した。TFF供給流濃縮液を、96 cm/時間の流速で既述の通りに調製された923 ml (直径14 cm × ベッド高6 cm)のCHTカラム上に3 mm BioProcess Skid (GE Healthcare)を介して負荷した。TFF供給流濃縮液を等量の40 mMボラート(pH = 9) + 10% (w/v) PEG6000緩衝液とインラインで混合して、20 mMボラート(pH = 9) + 5% (w/v) PEG6000の終濃度を得た。
【0108】
一連の4回の連続洗浄を行ってカラム上にrAAV-1ベクターを保持しながら工程内不純物を除去した。洗浄1 (「追跡(chase)」)を5 CVの50:50 (容量:容量) 20 mMボラート(pH = 9.0) + 5% (w/v) PEG6000:40 mMボラート(pH = 9.0) + 10% (w/v) PEG6000のインライン混合によって行い、全ての負荷ライン(loading line)をPEG6000で追跡した。さらに、この段階はrAAV-1ベクターの結合親和性を選択的に増大することが分かった。洗浄2を15 CVの150 mMリン酸カリウム + 20 mMボラート(pH = 9) + 5% (w/v) PEG6000で行って、カラム上にrAAV-1を保持しながら血清アルブミンおよび他の低分子量タンパク質の工程内不純物の大部分を除去した。洗浄3 (図5中の「WII」)を15 CVの20 mMボラート(pH = 9) + 5% (w/v) PEG6000で行って、PEG6000が除去されたら、rAAV-1がカラムに結合したままであるように残存するすべてのホスフェートを除去した。洗浄4 (図5中の「WIII」)を5 CVの20 mM HEPES (pH = 7.0) + 150 mM NaCl緩衝液で行って、PEG6000を除去し、塩濃度を調整し、それによってrAAV-1と、残存するすべてのヘルパーウイルスまたはカラムに結合したままでありうる、タンパク質夾雑物などの、他の工程内不純物との識別を可能にした。
【0109】
rAAV-1ベクターは6 CVの50 mMリン酸カリウム + 20 mM HEPES (pH = 7.0) + 150 mM NaCl緩衝液によってカラムから溶出された。図4は、CHT Iクロマトグラフィー手順に対する伝導度および280 nmでのUV吸光度(A280)の典型的な分光光度追跡を示す。図5は、アパタイト樹脂から溶出されたrAAVベクターの相対純度を示す。
【0110】
アパタイトクロマトグラフィーによるグルカン排除
グルカンはセルロースに類似した炭水化物であり、これは、rAAV-1粒子を産生培養物から収集するために用いられるセルロースに基づくデプスフィルタから工程中に浸出する。およそ1 ng/mLを上回る濃度のグルカンは、細菌内毒素混入に関する標準的なカブトガニアメーバ様細胞(Limulus amoebocyte)溶解物(「LAL」)試験を妨げうる。下記表4で実証される通り、アパタイトCHT I型カラムはおよそ2.5 logのグルカンを産生培養物から排除した。本明細書において記述される緩衝液条件の下で、グルカンの大部分は素通り画分中に存在しており、カラムに結合しなかった。
【0111】
(表4)工程中のグルカン排除

グルカンに特異的なLALに基づく動的比色アッセイ(Glucatell(登録商標), Cape Cod, MA)を用いグルカンについて試料をアッセイした。
【0112】
アパタイトクロマトグラフィーによるAd5ヘルパーウイルス排除
CHTクロマトグラフィーによって供給流からAd5が排除されたことを確認するために、最終の上流工程由来の供給流を用いて予備的なスパイクイン試験を行った。Ad5スパイクレベルは、CFT II樹脂を用いた第I相ウイルス排除試験から得たデータに基づいて設定し、異なる3種の負荷比率の供給流を用いた: 6.6 mL; 13.5 mL; および33 mLのTFF後の供給流/mL CHT樹脂。
【0113】
表5に提示されたデータ、つまりCHTによるAd5の排除が4 LRVの排除に匹敵していたことから、およそ4 logのAd5ウイルス排除が実証され、評価した5倍の範囲内で、負荷した供給流の容量と無関係であると考えられた。低いAd5回収率は、用いた緩衝液条件の下で、Ad5がrAAV-1よりも強固にアパタイト樹脂に結合することを示唆する過去のデータと一致している。
【0114】
(表5)CHTカラム画分中のAd5の全感染単位

【0115】
計8×109感染粒子のAd5 (すなわち、およそ10のP:Iを有する全粒子)を異なる容量のTFF後の供給流の中にスパイクして1.2 mLのCHTカラムに流した。100 cm/時間でカラムに流し、画分を集めて、感染力価アッセイ法によりDRPおよびAd5でのベクターのアッセイを行った。高濃度の負荷およびCHT溶出試料のどちらも細胞に基づくアッセイ法において干渉することが公知であるので、スパイク制御型のAd5感染性アッセイ法を用いた。Ad5排除を対数減少値(「LRV」)として判定し、溶出画分中に回収されたAd5の総量で割った負荷Ad5の総量の対数(対数減少値)として計算した。
【0116】
実施例8: 残存ヘルパーウイルスの熱不活化
CHT I溶出液中に存在するすべての残存ヘルパーウイルスを不活化かつ除去するために、熱不活化段階を行った。より小規模の実験の場合、CHT I溶出液を二つの1 L PETG (Nalgene(登録商標))ボトルに分け、rAAV-1ベクターの安定性を高めるためにMgCl2を2 mMの終濃度まで添加した。ボトル内の温度がおよそ52℃に達するまで、ボトルを混合しながら53.5℃の水浴中でインキュベートした。次いでボトルを常温の水浴への移入によって冷却し、ボトル内の温度が常温を5℃以下上回るまで混合した。熱殺処理された混合物を4インチのOpticap(登録商標) 0.22 μMフィルタ膜(Millipore Opticap(登録商標)カタログ番号KVSC04HB3)に通してろ過した。あるいは、より大規模の実験の場合、CHT I溶出液を無菌、使い捨てのバイオ処理用バッグ(Custom Hyclone 5 Lバッグ、CX5-14フィルム)の中で、温度制御揺動台上、53℃の温度設定点で40 RPMの揺動速度および12°の混合角度にて熱不活化された(20 Lの電波加熱鍋)。CHT I溶出液を、温度が52℃に達するまで台上でインキュベートし、その後、さらに10分間保持した。加熱中rAAV-1を安定化するために、MgCl2を2 mMの終濃度まで加えた。加熱後、産物を0.2 μmのフィルタに通してろ過し、常温で終夜保持して、その後の疎水性相互作用カラムに及ぼす可能性がある温度の影響を最小限に抑えた。
【0117】
実施例9: 疎水性相互作用クロマトグラフィー(「HIC」)を介したrAAV-1の捕捉
HICは、生体分子を、その表面疎水性の違いに基づき、分離するための技術である。したがって、HICはrAAV-1工程における他の精製段階に対して直交の方法と考えられる。HIC媒体は直鎖炭化水素(例えば、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ヘキシル(C6)もしくはオクチル(C8)))または芳香族炭化水素(例えば、フェニル)などの疎水性リガンドを含有する。純水中で、疎水性効果はリガンドとタンパク質との間、またはタンパク質それら自体との間の機能的相互作用には弱すぎる。しかし、離液性塩は疎水性相互作用を増強し、このような塩の添加がHIC媒体へのタンパク質の吸着を駆動する。このため、HIC樹脂は、通常、高塩濃度の下で負荷され、より低塩濃度で溶出される。
【0118】
硫酸アンモニウム緩衝液を用いたHICクロマトグラフィー
手短に言えば、170 mlの(直径6 cm×ベッド高6 cm) HICブチルカラム(Toyopearl(登録商標) Butyl 650 M; Tosoh Biosciences, Montgomeryville, PA; カタログ番号14702)を数カラム容量の0.5 M NaOHで無菌化し、2 M硫酸アンモニウム + 50 mMビストリス(pH = 7.0):50 mMビストリス(pH = 7.0)の75:25 (容量:容量)混合液で平衡化した。熱殺処理されたrAAV-1ベクターアパタイト溶出液を2 M硫酸アンモニウム + 50 mMビストリス(pH = 7.0):rAAV-1アパタイト溶出液の75:25 (容量:容量)の比率でのインライン混合により3.3 L/時間の速度で負荷した。インライン混合により、緩衝液中に存在する硫酸アンモニウムによるいかなるrAAVベクター-1の沈殿のリスクも回避される。カラムを1つまたは複数のカラム容量の75:25 (容量:容量)の2 M硫酸アンモニウム + 50 mMビストリス pH = 7.0緩衝液:50 mMビストリス pH = 7.0 + 10%プロピレングリコール(容量:容量) (EMD Biosciences)緩衝液で洗浄した。本実施例ではプロピレングリコールを緩衝液に添加し、プロピレングリコールなしの緩衝液の広範な溶出プロファイルと比べて、溶出プロファイルを鋭くさせたが、これは工程において任意である。rAAV-1ベクターは800 mM硫酸アンモニウム + 50 mMビストリス (pH = 7.0)緩衝液 + 4%プロピレングリコールによりカラムから溶出された。用いた溶出条件で、負荷液中に存在するすべての残存ヘルパーウイルスおよびタンパク質はカラムに結合したままであると考えられる。
【0119】
rAAV-1産生工程由来の不要物には、産物がウイルスベクターであることおよび産生用のヘルパーウイルスとしての生菌アデノウイルス5型(Ad5)の使用の両方の理由で、処分の前にストリンジェントな夾雑物除去が必要になる。クロマトグラフィー操作由来の液状不要物は、典型的には、使用時に漂白剤で最初に夾雑物除去され、その後、中和および処分の前に高いpHで保持することによってさらに夾雑物除去される。HIC緩衝液中に存在する硫酸アンモニウムは漂白剤とも水酸化ナトリウムとも反応して、それぞれ、有害な塩素ガスおよびアンモニアガスを放出する。それゆえ、HICクロマトグラフィー段階の工程最適化のために主に考慮されるものは、当技術分野において公知の方法によって安全に夾雑物除去されうる適した緩衝系の開発であった。
【0120】
HICカラムへのrAAV-1の結合に適した緩衝液のスクリーニング
rAAV-1ベクターを種々の異なる緩衝液条件でカラム上に負荷し、素通り画分中に存在するrAAV-1ベクターの量を測定することによって相対的な結合効率を判定した(表6)。評価した緩衝液には、HICクロマトグラフィー工程で伝統的に用いられる高濃度の離液性塩と、いくつかの低pH緩衝液の両方を含め、この場合には、混合モード相互作用(HIC/陽イオン交換)が潜在的に起こりえた。Tosoh Butyl 650 M樹脂もEMD Phenyl樹脂も代替的な緩衝液のいくつかでベクターを結合した。
【0121】
疎水性相互作用クロマトグラフィーにおいて用いられる高塩濃度を有する緩衝液は、流速を制限するかまたは混合の問題を引き起こし、緩衝液の貯蔵もしくは操作の温度での塩結晶化による産物の沈殿のリスクを引き起こしうる高い背圧をもたらす可能性のある粘性の問題についてさらにスクリーニングされねばならない。下記表6中のデータに基づいて、および上記の要因を考慮した上で、HICクロマトグラフィー媒体へのrAAV-1ベクターの結合のために最適な緩衝液として1 Mクエン酸ナトリウム, pH = 7.0を選択した。
【0122】
(表6)代替的な緩衝液中でのAAV1結合のスクリーニング

【0123】
精製されたrAAV-1ベクターを用いTricorn 5/50カラム(ベッド高6 cm、カラム容量1.2 mL)に対して常温で実験を行った。カラムを記載の緩衝液で平衡化し、およそ2×1011個のDRPまたはrAAV-1をカラム上に負荷した。rAAV-1を145 mMビストリス(pH = 7.0), 10% (v/v)プロピレングリコールからの20 CVの直線勾配で溶出させた。素通りを回収し、カラムにアプライされ、素通りしたまたは結合しなかった、rAAV-1の画分に対してDRP分析によりアッセイした。
【0124】
さまざまな緩衝液中でのHICカラムに対する工程内不純物の排除に関してさらなる特徴付けを行い、前の実験でのrAAV-1の良好な結合を実証した。モデルとなる夾雑物結合に対する下記表7中のデータから、供給流中のアデノウイルスも、存在するならDNAもHICクロマトグラフィー段階によって効果的に識別されることが実証される。
【0125】
(表7)異なるHIC緩衝液中でのrAAV-1対モデルとなる工程内不純物の相対的結合

略語一覧: 「0」 = 素通り画分中に存在する結合物質なし; 「-」 = 「非常に弱い結合物質」; 「+」 = 強い結合物質; 「++」 = より強い結合物質。
【0126】
Tricorn 5/50カラム(ベッド高6 cm、カラム容量1.2 mL)に対して常温で実験を行った。カラムを記載の緩衝液で平衡化し、表示した試料をカラム上に負荷した。各試料を20 CVの直線勾配で溶出させた。試料を回収し、関連する負荷物質についてアッセイした。
【0127】
クエン酸ナトリウム緩衝液を用いたHICクロマトグラフィー
残存するすべての工程不純物をさらに低減するために、かつ濃縮および脱塩の段階として、熱殺処理されたrAAV-1ベクターアパタイト溶出液を次に、HICブチルカラム上に負荷した。373 mlの(直径6 cm × ベッド高8.9 cm) HICブチルカラム(Tosoh Biosciences Toyopearl(登録商標) Butyl 650 M カタログ番号14702)を数カラム容量の0.5 M NaOHで無菌化し、1 Mシトラート + 20 mMリン酸ナトリウム:20 mMリン酸ナトリウムの75:25 (容量:容量)混合液の5 CVで平衡化した。熱殺処理されたrAAV-1ベクターCHT I溶出液を1 Mシトラート + 20 mMリン酸ナトリウム:CHT I溶出液の75:25 (容量:容量)の比率でのインライン混合により106 cm/時間の速度で負荷した。インライン混合により、いかなるrAAV-1ベクターの沈殿のリスクも回避される。カラムを1 Mシトラート + 20 mMリン酸ナトリウム:20 mMリン酸ナトリウム緩衝液の75:25 (容量:容量)混合液の5 CVで洗浄した。rAAV-1ベクターを6 CVの0.35 Mシトラート + 20 mMリン酸ナトリウムでカラムから溶出させた。カラムを次に、3.5 CVの20 mMリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄した。この低塩洗浄液(20 mMナトリウム)は、もっと高塩の溶出用緩衝液中で溶出するrAAV-1ベクター粒子とは溶出プロファイルが疎水的に異なるrAAV-1ベクター粒子の画分を溶出させる。実際に、低塩で溶出された画分を単離し、記述した条件の下でHICカラムに再びアプライした場合、そのベクター集団は依然として、低塩画分中でのみ溶出し、この画分がカラムの容量の破過の結果ではないことを示唆していた。感染性の分析から、このrAAV-1画分が、空のキャプシド、部分的に変性したキャプシド、感染力が低いキャプシド物質および部分的に完全なキャプシドを含む集団に相当する可能性が高いことが示唆される。それゆえ、この所見は、感染性が低い、それゆえ、生成物としてあまり望ましくないrAAV-1粒子の分離の改善をもたらしうる。用いた溶出条件で、負荷液中に存在するすべての残存ヘルパーウイルスおよびタンパク質はカラムに結合したままであるものと考えられ、したがって、低塩のストリップ液中に存在するはずである。
【0128】
実施例10: サイズ排除クロマトグラフィー(「SEC」)による緩衝液交換
サイズ排除クロマトグラフィーによる緩衝液交換は、樹脂中の細孔を通過するようにサイズ分類されたタンパク質のさらなるタンパク質排除を提供し、緩衝液を交換するのに必要な時間に関して比較的速い。この段階で行った緩衝液交換は、前段階のHIC溶出液が工程中の最終の陰イオン交換クロマトグラフィー段階に適したrAAV-1結合用の緩衝液に交換されたことを確実にするためであった。3.2 Lの(直径14 cm × ベッド高21 cm) Amersham Superdex(登録商標) 200分取用樹脂(Amersham/GE Healthcare, Piscataway, NJ; カタログ番号17-1043-04)を充填し、2 M NaCl + 1 M NaOHで無菌化することによって調製し、2.8 CVの20 mM NaCl + 20 mM Tris (pH = 8.0)で平衡化した。HIC溶出液を各およそ400 mlの3回の連続サイクルでSECにかけるように細分し、サイクルごとにSECカラム容量の12.5%以下を負荷した。3回のSECサイクルからの産物のピーク(空隙容量に含まれる)を単一のバイオ処理用バッグの中に集めた。HIC溶出液を49 cm/時間の流速でカラム上に負荷した。カラムを追跡し、1.4 CVの20 mM NaCl + 20 mM Tris (pH = 8.0)で洗い流し、HIC溶出液中に存在するrAAV-1ベクターはカラムの空隙容量中に存在していた。記述の空隙容量の回収後、第2および第3の画分を負荷し、第1の画分について既述した通りに同じカラム上で連続的に回収した。
【0129】
実施例11: 外来性因子(ウイルス排除)
微量夾雑物として存在しうる外来性ウイルスを排除するための、かくして工業的に合理的な直交工程をもたらすための任意の工程として、ウイルス排除フィルタを工程の中に導入した。このようなフィルタの例は当技術分野において公知であり、Millipore Viresolve(登録商標) NFR (50 nm)、Pall Ultipore(登録商標) VF (50 nm)およびAsahi 70 nmを含む。Millipore Viresolve(登録商標) NFR (Millipore 4" Virosolve NFRフィルタ カタログ番号KZRV 04T C3)ウイルス排除フィルタを製造元の使用説明書にしたがって調製し、20 mM NaCl + 20 mM Tris (pH = 8.0)で洗い流し、SEC溶出液を膜に通してろ過した。フィルタを数容量の20 mM NaCl + 20 mM Tris-HCl (pH 8.0)で洗い流し、ろ過済みのSEC溶出液とプールした。
【0130】
実施例12: 陰イオン交換クロマトグラフィー
rAAV-1ベクターのための第2の陰イオン交換捕捉段階を最終の濃縮および洗練の段階としてUnosphere(登録商標) Q樹脂(Biorad, Hercules, CA)に対し行った。373 mlの(直径8.9 cm × ベッド高6 cm)カラムを数カラム容量の0.5 M NaOHで無菌化し、7 CVの20 mM NaCl + 20 mM Tris (pH = 8.0)緩衝液で平衡化した。SEC空隙容量画分または任意でウイルスろ過済み溶出液を309 cm/時間の速度で負荷した。カラムを10 CVの60 mM NaClで洗浄した。洗浄溶液のイオン強度は、精製段階において用いたさまざまなフィルタからの浸出によって導入されうるグルカンなどの、その他任意の工程内不純物を取り除きながらも、樹脂に結合したrAAV-1を保持するように選択した。rAAV-1ベクターを6 CVの130 mM NaClでカラムから溶出させた。130 mM NaCl塩溶出のイオン強度によって、血清アルブミンまたはヘルパーウイルスなどの、残存するすべての微量工程内不純物は結合したままであるのに対し、rAAV-1はカラムから取り除かれると考えられる。
【0131】
図6ではSDS-PAGEによって精製度をさまざまな工程段階にわたり比較している。代表的な産生培養収集物に由来する工程内試料を変性/還元10%ポリアクリルアミドゲル上に流し、シプロオレンジで染色した。全ての収集後試料を1×1010個のDRP/レーンで負荷した。TFF濃縮段階の前の二つの上流試料(最初の清澄化段階および陰イオン交換(「AEX」)素通りの試料)は、ゲル上での容量の制約のため、1×109個のDRP/レーンでしか負荷することができなかった。β-ガラクトシダーゼ(B-Gal)を50 ng/レーンで負荷し、ゲル全体の染色の感受性および一致性を評価した。三つのAAV1キャプシッドタンパク質(VP1、2および3)が示されている。
【0132】
実施例13: 精製中のrAAVの回収率
図7に提示したデータは、rAAV-1ベクターの代表的な産生培養物からの、精製スキームの各工程段階後の感染性rAAV粒子の回収率を示す。回収率は、各工程段階から回収されたrAAV-1ベクターの総DRPを、その精製段階に供されまたは負荷されたDRPの総数で割ったものに基づいて計算された。データから、精製工程中の各段階で、およそ60%またはそれ以上の回収が達成されたことが実証される。多数の実験において、各工程段階からの回収の範囲は少なくとも60%〜90%であった。特筆すべきなのは、個々の実験における捕捉段階(すなわち、アパタイトクロマトグラフィー段階)での回収の範囲は、57%から90%超に及んだ。さらに、HIC段階での回収の範囲は、60%から80%に及んだ。
【0133】
理解の明確化のために例示および例により少し詳しく上記の発明を記述してきたが、ある種の小さな変更および修正が実践されることは当業者には明らかである。それゆえ、その記述および例は本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子を含有する供給流を、ポリエチレングリコール(PEG)の存在下で、アパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる段階であって、該rAAV粒子が該アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合する段階;および
(b) 該アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合した該rAAV粒子を、3% (w/v)未満のPEGを含有する溶出用緩衝液で溶出させる段階
を含む、供給流中の工程内不純物から該rAAV粒子の集団を単離するための方法。
【請求項2】
前記アパタイトクロマトグラフィー媒体がセラミックハイドロキシアパタイト(CHT)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アパタイトクロマトグラフィー媒体がセラミックフルオロアパタイト(CFT)である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記rAAV粒子への前記アパタイトクロマトグラフィー媒体の特異的結合が、1014〜1016個のDNase耐性粒子/ミリリットル (DRP/mL)である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記アパタイトクロマトグラフィー媒体から溶出させた前記供給流中の前記rAAV粒子を陰イオンクロマトグラフィー媒体に結合させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
段階(a)におけるrAAV粒子を含有する供給流を、ポリエチレングリコール(PEG)および塩基性緩衝液の存在下でアパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記塩基性緩衝液がpH 7.6〜10である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記塩基性緩衝液がpH 8.0〜10.0である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記塩基性緩衝液がpH 9.0〜10.0である、請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記塩基性緩衝液がボラートを含む、請求項6記載の方法。
【請求項11】
前記PEGが、1モルあたり約5,000 (PEG5000)グラム〜1モルあたり約15,000 (PEG15000)グラムの平均分子量を有する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記PEGが、1モルあたり約6,000 (PEG6000)グラムの平均分子量を有する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
段階(a)におけるrAAV粒子を含有する供給流を、約3% (w/v)〜約10% (w/v) PEGの存在下で前記アパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記供給流を、約5% (w/v) PEG6000の存在下で前記アパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記供給流を、約10% (w/v) PEG6000の存在下で前記アパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させる、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記供給流を前記アパタイトクロマトグラフィー媒体と接触させた後であるが、前記rAAV粒子を該アパタイトクロマトグラフィー媒体から溶出させる前に、該アパタイトクロマトグラフィー媒体を洗浄用緩衝液で洗浄する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約7.5% (w/v) PEGを含有する洗浄用緩衝液および/または約5% (w/v) PEGを含有する洗浄用緩衝液で、1回または複数回洗浄する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記アパタイトクロマトグラフィー媒体を、約3% (w/v)未満のPEGを含有する洗浄用緩衝液および/またはPEGを含有しない洗浄用緩衝液でさらに洗浄する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記洗浄用緩衝液が、ボラート、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸(HEPES)およびTris-HClからなる群より選択される緩衝液を含む、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記洗浄用緩衝液が塩基性pHを有する、請求項16記載の方法。
【請求項21】
前記洗浄用緩衝液がpH 約8.0〜約10.0のボラートを含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記洗浄用緩衝液がpH 約8.0のボラートを含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記洗浄用緩衝液がpH 約9.0のボラートを含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
前記洗浄用緩衝液がpH 約10.0のボラートを含む、請求項21記載の方法。
【請求項25】
前記洗浄用緩衝液が100〜500 mMのホスフェートをさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項26】
前記洗浄用緩衝液が50〜250 mM NaClをさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項27】
前記アパタイトクロマトグラフィー媒体に結合した前記rAAV粒子を、低濃度のPEGを含有する溶出用緩衝液で、またはPEGの非存在下において溶出用緩衝液で溶出させる、請求項1記載の方法。
【請求項28】
前記溶出用緩衝液が、中性pHの、ボラート、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸(HEPES)およびTris-HClからなる群より選択される緩衝液を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記溶出用緩衝液が約3% (w/v)未満のPEG6000を含有する、請求項27記載の方法。
【請求項30】
前記溶出用緩衝液が100 mM未満のホスフェートをさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記溶出用緩衝液が50 mMのホスフェートをさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記溶出用緩衝液が50〜250 mM NaClをさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
(a) 組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子を含有する供給流を、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体と、高塩緩衝液中で接触させる段階であって、該rAAV粒子および工程内不純物が該HIC媒体に結合する段階; ならびに
(b) 該HIC媒体に結合した該rAAV粒子を中塩緩衝液(medium salt buffer)で溶出させる段階
を含む、供給流中の該工程内不純物から該rAAV粒子の集団を単離するための方法。
【請求項34】
前記HIC媒体が、Tosoh Butyl 650M、Tosoh SuperButyl 650C、Tosoh Phenyl 650C、EMD Fractogel PhenylおよびTosoh Has(ブチル)樹脂からなる群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記高塩緩衝液が約0.5 M〜約2.0 Mシトラートを含む、請求項33記載の方法。
【請求項36】
前記高塩緩衝液が約1〜約100 mMホスフェートをさらに含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記中塩緩衝液が0.5 M未満のシトラートを含む、請求項33記載の方法。
【請求項38】
前記中塩緩衝液が約1〜約100 mMホスフェートをさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記中塩緩衝液が0.2 M〜0.5 Mシトラートを含む、請求項37記載の方法。
【請求項40】
空のキャプシド、部分的に変性したキャプシド、感染力が低いキャプシド物質および/または部分的に完全なキャプシドを有するrAAV粒子の集団が、前記中塩緩衝液による溶出の後、前記HIC媒体に結合されている、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記rAAV粒子が、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV-14、AAV-15およびAAV-16からなる群より選択されるAAVキャプシド血清型由来のAAVキャプシドタンパク質を含む、請求項1または請求項33記載の方法。
【請求項42】
前記rAAV粒子が、AAV-1、AAV-4、AAV-5およびAAV-8からなる群より選択されるAAVキャプシド血清型由来のAAVキャプシドタンパク質を含む、請求項41記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−529917(P2012−529917A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516278(P2012−516278)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/038897
【国際公開番号】WO2010/148143
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(500034653)ジェンザイム・コーポレーション (37)
【Fターム(参考)】