説明

組織の蛍光発光を用いた糖化最終産物または疾病状態の尺度の決定

個体において組織状態(たとえば、糖化最終産物または疾病状態)の尺度を決定する方法が開示される。個体の組織の一部に光源サブシステム(A)からの励起光を照射し、励起光に応答した組織内化学物質の蛍光により組織によって放出される光を検出サブシステム(C)によって検出する。検出光を、組織の状態を決定するために蛍光を組織状態の尺度と関連付ける、信号処理装置(D)中に保存されたモデルと組み合わせる。組織の反射などの蛍光以外の光の検出による誤差を低減するために、補正技術を使用できる。組織状態の尺度の決定を補助するために、蛍光特性とともに他の生物学的情報を併用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(0002)本発明は、一般的には、組織の蛍光発光から組織の状態を決定することに関する。より具体的には、本発明は、組織の蛍光発光を組織の状態に関連付けるモデルの決定、組織の蛍光特性の決定、ならびに蛍光特性および適当なモデルからの組織の状態の決定、のための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(同時係属出願への相互参照)
(0001)本願は、2002年4月4日に出願された米国特許出願第10/116,272号「個体における糖尿病を検出するために組織を分光分析するための装置および方法(Apparatus And Method For Spectroscopic Analysis Of Tissue To Detect Diabetes
In An Individual )」および2003年10月28日に出願された米国仮出願第60/515,343号「組織の蛍光発光を用いた糖化最終産物または疾病状態の尺度の決定(Determination of a Measure of a Glycation End-Product or Disease State Using Tissue Fluorescence)」(これらは本願明細書に援用する)について米国特許法第120条の下での優先権を主張する。
【0003】
(発明の背景)
(0003)糖尿病は、米国および世界中の先進国・発展途上国における主要な健康問題である。2002年に、米国糖尿病協会(ADA)は、1820万人のアメリカ人(優に市民の6.4%に当たる)が、何らかの糖尿病に冒されていると推定した。これらのうち、90〜95%は2型糖尿病に罹患しているが、35%、すなわち約600万人は診断未確定とされた。非特許文献1参照。世界保健機構(WHO)は、世界中で1億7500万人が糖尿病に罹患しており、やはり、2型糖尿病は、世界中の全診断例の90%を占めていると見積もっている。残念なことに、予測はこの厳しい状況が今後20年間に悪化することを示している。WHOは、2025年以前に糖尿病患者の総数が2倍になると予測している。同様に、ADAは2020年までに、米国人口の8.0%(約2500万人)が糖尿病になると推定している。これは、検出率が変わらないままであるとすると、20年以内に、アメリカ人100のうちの3人が「サイレント」な糖尿病患者になることを示すものである。多くの人々が糖尿病の世界的な発生を蔓延と描写したことは、驚くべきことではない。
【0004】
(0004)糖尿病は、個人の健康と国家経済に重大な影響を及ぼす。糖尿病に関連する米国の医療コストは、2002年に1320億ドルを上回った。慢性高血糖症から生じる多数の合併症のために、これらのコストは、広い範囲の保健サービスに渡っていた。たとえば、心臓血管疾患、腎臓病、内分泌系合併症および代謝系合併症、ならびに眼科疾患の分野における米国の全支出の5〜10パーセントは、糖尿病に起因していた。非特許文献1参照。このような経済的および健康上の負担は、大部分の糖尿病関連の合併症が防止できるという事実とは矛盾するものである。画期的な研究である、糖尿病の管理と合併症に関する研究(DCCT:Diabetes Control and Complications Trial)によれば、グルコースのモニタリング、運動、適切な食餌療法およびインシュリン治療といった治療法を厳格に行えば、糖尿病合併症の進行および発症リスクが著しく低減されることが確認されている。非特許文献2参照。さらにまた、現在進行中の糖尿病予防プログラム(DPP:Diabetes Prevention Program )は、減量や運動量の増加などライフスタイルの変化を実践することによって、糖尿病の危険がある人が糖尿病になる可能性を著しく低減できることを既に証明している。非特許文献3参照。ADAは、医療機関が1つまたは複数の疾病リスク要因を有する個人のスクリーニングを始めるように勧告し、「DPPにより、[試
験した]1つまたは複数の介入の結果として、2型糖尿病の発生率の低減が示されれば、より広範囲にわたるスクリーニングの正当性が認められうる」との意見を述べている。非特許文献4参照。
【0005】
(0005)空腹時血糖(FPG)試験は、糖尿病の診断またはスクリーニングのために認められた2つの臨床基準のうちの1つである。非特許文献5参照。FPG試験は、12〜14時間の絶食後に血漿グルコース濃度を測定する炭水化物代謝試験である。絶食は、ホルモンであるグルカゴンの放出を刺激し、グルカゴンは次に血漿グルコース濃度を上昇させる。糖尿病でない個体においては、身体はインシュリンを生産、加工して、グルコース濃度の上昇に対抗する。糖尿病の個体においては、血漿グルコース濃度は上昇したままである。午後のテストでは測定値が低めに出る傾向があるので、ADAは、FPG試験を朝に行うように勧めている。大部分の健康な個体においては、FPG濃度は、70〜100mg/dlまで減少する。薬物治療、運動、および最近罹患した疾病がこの試験の結果に影響を与え得るので、試験を行う前に、適当な病歴問診を行わなければならない。126mg/dl以上のFPGレベルは、その後に再試験が必要であることを示す。再試験でも同レベルに達する場合は、通常、真性糖尿病と診断される。正常範囲よりわずかに上回る測定結果の場合は、糖尿病の診断を確定するために、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)や食後血糖試験などのさらなる試験が必要となる。高値の結果を引き起こすことがあり得るその他の状態としては、膵臓炎、クッシング症候群、肝臓病または腎臓病、子癇およびその他の急性疾患(たとえば、敗血症または心筋梗塞)が挙げられる。
【0006】
(0006)実行がより簡単で患者にとっても都合がよいので、FPG試験はADAによって強く推奨されており、認められているもう1つの標準法であるOGTTより広く用いられている。OGTTは、様々な欠点にもかかわらず糖尿病の診断のための最も基準になる検査である。絶食状態を経た後に、患者はグルコース溶液(75〜100グラムのデキストロース)を経口投与されるが、該グルコース溶液により、血糖濃度は、通常、最初の1時間は上昇し、身体がグルコース濃度を正常化するためにインシュリンを生産するに従って3時間以内にベースラインに戻る。血糖濃度を、3時間のOGTT実施中4〜5回測定してもよい。平均的には、通常、経口グルコース投与後30分から1時間で濃度は160〜180mg/dlのピークに達し、その後、2〜3時間以内に140mg/dl以下の空腹時濃度に戻る。年齢、体重および人種などの要因が結果に影響することがあり、最近罹患した病気やある種の薬物も影響し得る。たとえば、高齢者では、50歳を超えると1年ごとに糖耐性の上限が1mg/dl増加する。現在のADAガイドラインは、異なる日に行った2回の別個のOGTTにおいて、投与2時間後の血糖値が200mg/dlを超える場合、糖尿病の診断をするよう規定している。
【0007】
(0007)これらの診断基準に加えて、ADAは、正常血糖からの逸脱を反映している、異常ではあるものの真性糖尿病の診断を下すには不十分であると思われる2種類の「前糖尿病」状態も認めている。1回のFPG試験で100〜126mg/dlの範囲内となった場合、「空腹時血糖異常(IFG)と言われる。同様に、OGTTで投与2時間後の血糖値が140〜200mg/dlの場合、通常、「耐糖能異常(IGT)」の診断が下される。これらの状態はいずれも糖尿病の危険因子と考えられ、IFG/IGTは糖尿病予防プログラムにおける開始基準として使われた。IFG/IGTは、心循環器疾患のリスク増大とも関連付けられている。
【0008】
(0008)試験前の絶食や侵襲的な採血が必要であり、さらには複数日程での反復試験が必要であるため、OGTT試験とFPG試験は患者にとって不都合であり実施にコストがかかる。その上、これらの試験の診断上の正確さには、かなりの改善の余地がある。たとえば、非特許文献6および非特許文献7を参照されたい。糖尿病スクリーニングにおいてFPGとOGTTの不都合な点を避けるために、これまでに様々な試みがなされてき
た。たとえば、患者の病歴および筆記試験に基づくリスク評価が試みられているが、そのような手法は通常、診断上の正確さでは精彩を欠く結果に終わっている。さらに、糖尿病スクリーニングのために、糖化ヘモグロビン(HbA1c)の使用が提案されている。しかし、HbA1cは数週間の期間にわたる平均血糖の指標であるので、HbA1cが本来変動性であることと、現在可能なHbA1cアッセイに伴う実験上の不確実性とが組み合わさって、糖尿病の指標としてはかなり劣ったものとなっている。非特許文献5参照。糖尿病患者のHbA1c濃度は糖尿病にかかっていない人のHbA1c濃度と重なり得るため、HbA1cをスクリーニング試験とするには問題がある。真性糖尿病をスクリーニングするための、信頼性があり、便利で、費用効果が良い手段が必要である。また、信頼性があり、便利で、費用効果がよい糖尿病の影響を測定するための手段があれば、この病気を治療し、この病気に起因する合併症を避ける助けとなるであろう。
【0009】
(0009)特許文献1(サミュエルズ(Samuels))は、生物組織や同様の材料の特徴を測定するための装置および方法を開示している。これらの装置および方法は、人間の眼の測定に関して記載されている。その上、これらの発明者によって記載された補正の方法論は、弾性散乱した励起光の測定しか含まない。サミュエルズ(Samuels)の文献は、単純な線形補正手法について記載している。サミュエルズの文献は、組織の疾病状態を非侵襲的な測定法を通じて識別できるようなアルゴリズムや方法を開示していない。
【0010】
(0010)特許文献2(コリアス(Kollias))は、組織グルコース濃度の非侵襲的なモニタリング装置および方法を開示している。コリアス(Kollias)の文献は、測定した蛍光を組織の吸収と散乱の影響に関して補正し得る方法は何ら記載していない。コリアスの文献は、組織の散乱を直接測定するために組織反射率の測定をなし得ることを示してはいるが、この情報を、組織蛍光スペクトルに関して情報を得るためにどのように使うかについては示していない。さらにまた、コリアスの文献は、組織の疾病状態を非侵襲的測定法から判定できるようなアルゴリズムまたは方法を開示していない。
【0011】
(0011)特許文献3(ウッツィンガー(Utzinger))は、試料に対し蛍光かつ空間分解反射分光分析を行う方法および装置を開示している。ウッツィンガー(Utzinger)の文献は、蛍光測定および反射率測定の組合せを生物組織の特性解析に用いる手法を記載しているが、該出願は皮膚の分光分析に関するものではない。さらに、ウッツィンガーの文献に記載されている反射率測定は、事実上空間分解が行われる、つまり、反射分光分析が1つまたは複数の特定の光源−受光器間距離で行われるべきものである。しかも、問題とする組織の固有蛍光スペクトルを得るか、近似するために、測定した蛍光を組織の反射率測定値を用いて補正し得るようなアルゴリズムまたは方法は何ら記載されていない。
【0012】
(0012)特許文献4(ジョーガクーディ(Georgakoudi))は、組織の特性解析のために、蛍光、反射および光散乱の分光分析を行うシステムおよび方法を開示している。ジョーガクーディ(Georgakoudi)の文献は、反射率特性を用いた固有蛍光の推定を、食道癌およびバレット食道の検出に適用して論じている。ジョーガクーディの文献は、そのような推定をするための具体的手法は何ら記載していない。
【0013】
(0013)特許文献5(イグノッツ(Ignotz))は、病状の持続期間を判定するためのシステムおよび方法を開示している。イグノッツ(Ignotz)の文献は蛍光に言及しているが、固有蛍光スペクトルを得るか推定するために反射率スペクトルを用いるものではない。その上、イグノッツの文献は疾病の持続期間の判定に関する方法を記載したものであって、疾病の存在を診断またはスクリーニングするための方法や、特定の化学検体の濃度を定量するための方法を記載してはいない。しかも、イグノッツの文献は、
有用な測定部位として皮膚を対象としたものではない。
【0014】
(0014)特許文献6(ウォン(Wong))は、誘発された蛍光によって、グルコース制御、老化、および後期メイラード反応産物を非侵襲的に定量するための装置を記載している。ウォン(Wong)の文献は、具体的には、皮膚および/またはその構造タンパク質中ではなく血中の後期糖化最終産物(Advanced Glycation Endproduct )を定量している。その上、蛍光補正の方法論には、弾性散乱した励起光の測定しか含まれていない。ウォンの文献には、単純な線形補正手法しか記載されていない。しかも、ウォンの文献は、組織の疾病状態を非侵襲的な測定法を通じて識別できるようなアルゴリズムや方法を開示していない。
【0015】
(0015)特許文献7(スミッツ(Smits))は、皮膚の自発蛍光を非侵襲的に測定するための装置を記載している。該装置は広帯域紫外線源(ブラックライト)からなり、交換式の光学的帯域通過フィルタを通して皮膚を照射する。結果として生じる皮膚の蛍光は、ファイバを通して光学的に小型分光光度計へと繋がれる。該出願は、皮膚内のAGE濃度が皮膚の自発蛍光の定性評価から推測可能であることについて述べているが、該装置と測定技術とを使用してAGE含有量を定量化しうるような手段については何も記載していない。該装置は、健康な個体における皮膚の蛍光の評価を目的としており、疾病の判定のために装置を用いようとするものではない。該出願には、個体の皮膚の色や下部構造が測定の障害になり得ることが注記されているが、これらの可変的な特徴を補償する手法や方法については何も記載されていない。
【特許文献1】米国特許第5582168号
【特許文献2】米国特許第6505059号
【特許文献3】米国特許第6571118号
【特許文献4】米国特許出願第2003−0013973号
【特許文献5】米国特許第6088606号
【特許文献6】米国特許第5601079号
【特許文献7】国際特許出願公開公報第01/22869号
【非特許文献1】ADA報告書(ADA Report)、Diabetes Care(2003年)
【非特許文献2】DCCT研究グループ(DCCT Research Group)、N Eng J Med(1993年)
【非特許文献3】DPP研究グループ(DPP Research Group)、 N Eng J Med(2002年)
【非特許文献4】ADA見解表明書(ADA Position Statement)、Diabetes Care(2003年)
【非特許文献5】ADA委員会報告書(ADA Committee Report)、Diabetes Care(2003年)
【非特許文献6】M.P.スターンら(M.P.Stern et al.)、Ann Intern Med(2002年)
【非特許文献7】J.S.ヤドキンら(J.S.Yudkin et al.)、BMJ(1990年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
真性糖尿病をスクリーニングするための、信頼性があり、便利で、費用効果が良い手段が必要である。また、信頼性があり、便利で、費用効果がよい糖尿病の影響を測定するための手段があれば、この病気を治療し、この病気に起因する合併症を避ける助けとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(0016)本発明は、個体における組織の状態を決定するための方法を提供する。個体の組織の一部に励起光を照射し、次いで、励起光に応答した組織中の化学物質の蛍光により組織が放出する光を検出する。検出した光を、該個体の疾病状態を決定するために、蛍光と疾病状態とを関連づけるモデルと組み合わせることができる。本発明は、単一波長の励起光、励起光の走査(複数の波長で組織を照射)、単一波長での検出、検出波長の走査(複数の波長で発光を検出)、ならびにこれらの組合せを含み得る。本発明はまた、組織中の化学物質の蛍光以外の光の検出による測定誤差を低減する、補正技術を含み得る。たとえば、適切な補正法を用いなければ、組織による反射が誤りをもたらすこともある。本発明はまた、蛍光を疾病状態と関連づける様々なモデル、例えばそのようなモデルを生成する様々な方法も含み得る。組織の状態の決定において、決定を助けるために、他の生物学的情報(たとえば、個体の年齢、個体の身長、個体の体重、個体の家族の病歴、民族性、皮膚メラニン含有量またはこれらの組合せ)を蛍光特性と組み合わせて用いることができる。たとえば、2002年4月4日に出願された米国特許出願第10/116,272号「個体における糖尿病検出のための組織の分光分析装置および方法(Apparatus And Method For Spectroscopic Analysis Of Tissue To Detect Diabetes In An Individual )」で論じられたように、ラマン分光試験または近赤外分光試験も、さらなる情報をもたらすのに用いることができる。本発明はまた、適当な光源、組織サンプリング装置、検出器、および検出した蛍光と疾病状態を関連づけるのに用いるモデル(たとえば、コンピュータに実装されたもの)を含む、前記方法を実行するのに適した装置も含む。
【0018】
(0017)本願で用いる場合、「疾病状態の決定」は、糖尿病の存在または可能性;糖尿病の進行の程度;糖尿病の存在、可能性または進行における変化;糖尿病であるか否か、糖尿病を発症するか否かの確率;糖尿病由来の合併症の有無、進行または可能性、を決定することを含む。「糖尿病」は、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠性糖尿病、米国糖尿病協会(ADA)によって認められている他のタイプの糖尿病(ADA委員会報告書(ADA Committee Report)、Diabetes Care(2003年)参照。)、高血糖症、空腹時血糖異常、耐糖能異常および糖尿病前症を含む、多数の血中グルコース調節異常の状態を含む。「組織の反射率特性」は、検出光の補正に役立つ任意の組織反射率を含み、例としては、蛍光励起波長における組織反射率、蛍光放出波長における組織反射率、および組織の固有の蛍光スペクトルを推定するのに役立つと判明した他の波長における組織反射率が挙げられる。「血糖コントロールに起因する化学変化の尺度」は、血糖コントロールに起因する組織の化学的特性の任意の変化を意味し、例としては、組織中の糖化最終産物の濃度、組織中の糖化最終産物の存在、濃度または濃度変化の測定値;そのような最終産物の蓄積率または蓄積率変化の測定値;組織膜の厚さまたはその変化、そのような厚さの変化率または変化の方向の測定値;引っ張り強さ、歪みまたは圧縮性などの組織の特性、またはそれらの特性の変化、変化率もしくは変化の方向が挙げられる。「糖化最終産物の尺度」は、高血糖に伴う組織の存在、時間、程度または状態の任意の尺度を意味し、例としては、組織中の糖化最終産物の存在、濃度または濃度変化の測定値;そのような最終産物の蓄積率または蓄積率変化の測定値;糖化最終産物と関係していることが知られている波長における蛍光の存在、強度または強度変化の測定値;および、そのような蛍光の蓄積率または蓄積率変化の測定値が挙げられる。「組織状態の決定」は、疾病状態の決定、血糖コントロールに起因する化学変化の尺度の決定、組織中の糖化最終産物の尺度の決定またはそれらの組合せを含む。光が「単一波長」を有すると言うときは、実際には光は複数の波長の光を含み得るが、その光のエネルギーのかなりの部分が単一波長、または、単一波長に近い範囲の波長で伝播されると理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(0018)図面は必ずしも一定の比率であるというわけではない。図面は例示的実施形態を表しており、本発明の範囲を制限することを目的とするものではない。
(0020)タンパク質がグルコースに晒されると、一般に非酵素的な糖化と糖化酸化反応に至る。これはメイラード反応として知られているプロセスである。メイラード反応の安定な最終産物は、包括的に糖化最終産物(AGE)と呼ばれている。有意な除去がなされない場合、これらのAGEは、血糖の平均濃度と比例した速度で蓄積する。メイラード反応は、健康体では通常起こる老化現象として見ることができるが、糖尿病患者では、慢性的な高血糖の存在ゆえにその速度が加速される。皮膚において、コラーゲンは最も豊富なタンパク質であって、容易に糖化される。皮膚コラーゲンAGEは、一般に蛍光性架橋体および付加物の形をとり、ペントシジン(架橋体)とカルボキシメチルリジン(CML、付加物)とは、皮膚コラーゲンAGEの2つのよく研究されている例である。AGEの他の例としては、フルオロリンク(fluorolink)、ピラリン(pyrraline)、クロスリン(crossline)、Nε−(2−カルボキシエチル)リジン(CEL)、グリオキサールリジン二量体(GOLD)、メチルグリオキサールリジン二量体(MOLD)、3DG−ARGイミダゾロン、ベスパーリジン(vesperlysine)A、B、Cおよびスレオシジン(threosidine)が挙げられる。総AGE生産およびこれに付随するコラーゲン架橋の1つの一般的尺度は、コラーゲンに関連する蛍光(CLF)のレベルである。CLFは、通常、化学的に単離したコラーゲンについて、370nmまたはその近傍での励起後、蛍光放出を400〜500nmの領域でモニタリングすることによりin vitroで測定される。モニエ(Monnier)、NEJM(1986年)参照。
【0020】
(0021)皮膚コラーゲンは比較的半減期が長く(t1/2≒15年)、皮膚コラーゲン関連AGEの多くが蛍光性であるため、これらの化学分子は、累積的な組織血糖の潜在的な指標になる。特定の皮膚AGEのCLF強度とレベルは、末端器官の糖尿病合併症(たとえば、関節硬直、網膜症、腎症および動脈壁硬化)の存在および重症度と相関している。バッキンガム(Buckingham)、Diabetes Care(1984年);バッキンガム(Buckingham)、J Clin Invest(1990年);モニエ(Monnier)、NEJM(1986年);モニエ(Monnier)、J Clin Invest(1986年);セル(Sell)、Diabetes(1992年)参照。現在までで最も大規模なそのような研究において、DCCT皮膚コラーゲン補助研究グループ(DCCT Skin Collagen Ancillary
Study Group)は、研究参加者の大部分によって提供されたパンチ生検から、多くの皮膚コラーゲン変化物を評価した。これらの研究者は、皮膚AGEが、糖尿病性のニューロパシー、腎症および網膜症の存在および臨床段階と有意に相関していることを見出した。モニエら(Monnier et al.)、Diabetes(1999年)参照。
【0021】
(0022)本発明は、1つまたは複数の非侵襲的な蛍光測定値を用いて被験者の糖尿病状態を判定することができる。本発明は、個体の組織の一部(たとえば、皮膚の一部)に励起光を照射し、該組織から放出される蛍光を検出する。蛍光測定値は、上述の尺度CLFに対応する少なくとも1セットの励起波長および放出波長を含むことができる。蛍光の特性は、調べようとする組織の疾病状態に関する情報を伝える。本発明は、光学情報を疾病状態に関連づける単一の数値的な閾値またはより詳細な数学的なモデルを課す前に、測定した蛍光にさらなる処理アルゴリズムを適用することができる。他の実施形態においては、閾値化処理または数学的なモデルの出力は、個体の糖尿病の状態に拘らず示される、測定対象の個体組織の糖尿病によって誘発された化学変化の定量的尺度でもよい。さらに別の実施形態においては、本発明は、測定対象の個体の糖尿病の状態をさらに推定または分類するために、糖尿病によって誘発された化学変化の定量的尺度を利用することができる。
【0022】
組織の蛍光特性の決定
(0023)様々な分子の電子を励起して励起エネルギー準位にする光を組織に照射すると、組織蛍光が発せられる。励起された分子のいくつかは放射減衰し、電子が下位のエネルギー状態に戻るにつれて光を発する。この再放出された蛍光は、常に、励起波長より長波長(より低い光子エネルギー)である。生体分子の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルは一般に広く、重なっている。大部分の組織は、広範囲にわたる波長を吸収する。所定の励起波長について見れば、再放出される蛍光スペクトルも同様に広いことが多い。いくつかの要因が、励起波長と放出波長の有効範囲に影響を与えている。蛍光性の化合物種(たとえば、ペントシジン)は、通常、UVA(315〜400nm)を最も強く吸収し、UVAから短波長の可視域(340〜500nm)を再放出する。励起波長範囲と放出波長範囲の長波長側の限界は、通常、その蛍光発光成分の電子構造によって決まる。光学的な安全性を考慮すると、実際的な最も短い励起波長はUVAまたはこれより長い波長に制限されうる。光学的暴露の閾限界値は、315nm未満の波長では劇的に減少する。したがって、UVB(280〜315nm)内の波長についての安全な暴露時間は、効果的な分光データ収集のためには短すぎる場合があり得る。
【0023】
(0024)蛍光計の励起部または発光部のいずれかのスペクトル選択性が比較的粗い場合、大雑把な生化学的および形態学的組織情報しか得られない。より有用な手法は、単一波長または狭い範囲の波長の光による励起に応答する特定の波長(または狭い範囲の波長)の発光、すなわち励起/発光対を考えることである。実際には、特定の波長対での蛍光信号をモニタリングすることもできるし、あるいは、励起/発光対の集合に対応する複数の信号を得ることもできる。光源波長が固定され、発光波長の範囲全体にわたって蛍光信号が得られるならば、発光スペクトル(または発光スキャン)が形成される。同様に、光源波長を変化させて検出される発光蛍光の波長を固定することによって、励起スペクトルを得ることができる。蛍光信号を励起波長と発光波長の範囲を網羅する地形図表面として表わすのに、励起−発光マップを用いることができる。発光スペクトルと励起スペクトルは、そのようなマップの直交断面に対応する。励起−発光マップの対角線上の点(すなわち、そこでは励起波長と発光波長が等しい)は、組織によって反射されて検出システムに戻る弾性散乱光子の強度を示す。これらの「反射率」測定値は、蛍光計において励起モノクロメータと発光モノクロメータとの両方を同期走査することによって、または、別々の専用の装置によって得ることができる。蛍光測定値と反射率測定値の両方を用いることで、生物組織などの光学的に濁った媒体の真の、すなわち「固有の」蛍光特性が確かめられる。
【0024】
(0025)励起光が組織内に発射されると、該励起光は散乱過程および吸収過程を経るが、これらの過程は、調べようとする部位の光学的性質、励起波長および光学プローブの形状によって変化する。放出される蛍光も、表に現れて回収される前に、組織を通して伝播する間に波長と場所に依存する吸収および散乱を受ける。多くの場合、関心の対象である組織の特性はその「固有」蛍光であるが、「固有」蛍光は、均質かつ非散乱性で、光学的に希薄な標本によって発せられる蛍光として定義される。関心の対象である組織固有の蛍光スペクトルを正確に特徴づけるために、励起光と放出光に影響を及ぼしスペクトルを変化させる散乱効果および吸収効果を取り除くことが可能である。被験者間および部位間の差異による変動は、組織状態を示す微妙なスペクトル変化を圧倒してしまう可能性がある。各被験者の組織(蛍光測定と同じ部位、または、当該部位との関係が予想できる異なる部位)の光学的特性に基づくスペクトル補正によって、関心の対象である分子の固有蛍光スペクトルを明らかにすることができる。この本質的な補正により、被験者間および被験者内の変動が軽減され、疾病の存在と状態に関係するスペクトル上の特徴が明確になる。
【0025】
(0026)本実施例で記載されるデータは、SkinSkan(商標)蛍光計(米国ニュージャージー州エジソン所在のジョバン−イボン(Jobin−Yvon)から市販
されている)により収集された。SkinSkanシステムの励起側と発光側は、二重走査型1/8−m回折格子モノクロメータ(〜5nmシステム帯域付属)を有する。励起光は100WのXeアーク灯によりもたらされ、31の光源ファイバと31の検出ファイバとを含む2分岐ファイバ・プローブとf/値が適合している。ファイバはコア直径が200ミクロンであり、フェルール内に直径6mmの円形の束の中でランダムに配置されており、該フェルールの末端部が皮膚との接触部として用いられる。検出ファイバの出力端は入力フェルール内で束ねられ、該ファイバ群の幅が最初の入力モノクロメータへの入射スリットを形成する。光学的検出は光電子増倍管で達成され、その増幅率はソフトウェアによってコントロールできる。非侵襲的な分光分析を行うときは常に、一様な反射性の材料(2%Spectralon(商標)、米国ニューハンプシャー州ノースサットン所在のラブスフィア(LabSphere))のバックグラウンド測定値も得て測定器の線形の除去を容易にする。また、SkinSkanシステムは独立して励起ランプをモニタリングするシリコン光検出器を備え、ランプ強度の変動を補正する。このように「測定された」皮膚蛍光値(Fmeas)は、以下のように報告される:
【0026】
【数1】

【0027】
式中、λは励起波長、λは発光(放出)波長、Ftissは検出器で測定された「生の」蛍光値、IDCはPMT暗電流、Lは励起ランプ強度であり、tは時間を意味し、「back」はSpectralon(商標)のバックグラウンドを指し、RbackはSpectralonのバックグラウンド反射率である。同様に、測定された皮膚反射率の値、Rmeasは、以下のように報告される:
【0028】
【数2】

【0029】
式中、Rtissは検出器で測定された「生の」組織の反射率の信号である。SkinSkanシステムを蛍光測定と反射率測定の両方に用いる場合、検出器の飽和を避けるために、各測定方式に対して異なるPMTバイアス電圧を用いる必要がある。
【0030】
(0027)測定される典型的な皮膚の蛍光スペクトルを、図1および2の左のパネルに示す。これらの図面は、異なる収集方式の下で2つの異なる波長範囲で得られたスペクトルを例示している。図1は、励起波長を315nmから385nmまで走査し、同時に放出された蛍光を400nmの一定波長で測定した励起スペクトルを示す。図2は、励起を325nmに固定し、340nmから500nmまで検出サブシステムを走査することによって蛍光をモニタリングした発光走査データを示す。全てのスペクトルは、40〜60歳の、17人の糖尿病患者と17人の糖尿病ではない(糖尿病非罹患者である)被験者の掌側の前腕から得た。これらの図の中央パネルは、測定された反射率スペクトルを表わす。各反射率スペクトルは特定の蛍光スペクトルに対応するものであり、同じ被験者の同じ部位で得た。蛍光スペクトルおよび反射率スペクトルは、不完全なプローブの位置決め、環境の変化、および被験者間の生理的差異から生じる典型的な変動を示す。これらの変動は疾病状態に起因するスペクトル変動を上回ることがあり、測定されたスペクトルの診断上の有用性を妨げる可能性がある。疾病状態を正確に区別し、あるいは定量化するため
に、追加として組織特異的スペクトル補正を行って組織固有の蛍光を得ることができる。固有の蛍光スペクトルFcorrを推定するための1つの近似は、励起波長および/または発光波長で測定した反射率の累乗根の積で、測定した蛍光スペクトルを割ることによって得られる(たとえば、フィンレーら(Finlay et al.)、Photochem Photobiol(2001年)、ならびにウーら(Wu et al.)、Appl Opt(1993年)参照):
【0031】
【数3】

【0032】
Nおよびkの最適値は、光源ファイバと検出器ファイバの配置に依存し、実験的に決定することができる。k=0.5およびn=0.7として式3の補正関数を使用して図1〜2のスペクトルから得られる固有蛍光スペクトルを、図1〜2の右側パネルに示す。この本質的な補正により患者間の変動の多くが取り除かれ、この段階では、疾病状態に対応するスペクトルについて粗く分類されたグループを視覚的に解明可能である点に注意されたい。
【0033】
(0028)図1および図2において例示する本質的な補正において用いたnとkの値は、試験参加者の前腕を測定装置に繰り返し挿入することに伴う分光学的変動を最小にするために選択した。患者訪問に際して各参加者から複数のスペクトルを収集する場合、被験者jのi番目のスペクトルの、挿入に伴う分光学的変動Sinsertは、該被験者の中央値(median)からのそのスペクトルの絶対偏差として表わすことができる:
【0034】
【数4】

【0035】
この場合、挿入に伴う変動の集計値は、Sinsertの分散:
νinsert(λ,n,k)=var(Sinsert(λ,n,k)) 式5である。
【0036】
(0029)図3は、図1と2において、測定したスペクトル(実線、「未補正」)および本質的な補正を行ったスペクトル(点線、k=0.5、n=0.7)の挿入の分散を表わす。本質的な補正処理が、波長範囲全体にわたってほぼ4倍、挿入の分散を低減することが分かる。組織の固有蛍光が挿入と挿入との間で変わらないと仮定すると、この手順は、組織の光学的性質において変動により誤りを生じる効果の一部を軽減する。
【0037】
(0030)様々な他の手順で本質的な蛍光補正を達成することができる。たとえば、測定した反射率、組織の光学的性質およびプローブに依存するパラメータについての知識を用いる、測定した蛍光を補正可能とするいくつかの方法が記載されている。たとえば、ガードナーら(Gardner et al.)、Appl Opt(1996年)、チャンら(Zhang et al.)、Opt Lett(2000年);ミュラーら(Muller et al.)、Appl Opt(2001年)参照。さらに、蛍光特性、吸収特性および散乱特性がよく特徴づけられている1つまたは複数の仮想組織(組織ファントム)を測定することにより、与えられた蛍光プローブについての補正パラメータ
を形成する手順を用いて、本質的な蛍光補正を行うことができる。この手順は、既知の光学的性質を備えた媒体への光学プローブの反応に関するモンテカルロ法その他のコンピュータシミュレーションを介して達成することもできる。これらの処理法のいずれも、非侵襲的な皮膚蛍光測定において組織の光学的性質の影響を補正するのに用いることができる。本明細書に記載するような多チャンネルの光学プローブは、組織の光学的性質の測定を可能にする。光学的性質は、多チャンネルの蛍光および/または反射率の測定を前提として分析式を解くことによって決定できる。あるいは、測定値を所定の光学的性質の値に関連づける参照表との対比により、分光法による測定値から光学的性質を推定することができる。そのような参照表は、シミュレーションされる光学的性質の範囲について多チャンネルの強度測定値をシミュレートする数値モデルから作成することができる。参照表は、ある範囲の光学的性質について組織ファントムを走査する実験的な測定値から構築することもできる。次いで、測定あるいは推定された光学的性質を適用して、該性質が入射光および蛍光に対して誘発するスペクトルの歪みを補正することができる。数値計算または実験のいずれかによって作成されたプローブ較正表との比較により、補正を達成できる。測定または推定された組織の光学的性質がひとたび決定されれば、固有の皮膚蛍光を抽出するために蛍光分光法の逆のアルゴリズムを適用することもできる。組織の蛍光の多チャンネル光学的補正のための別法としては、たとえば上述の(式3)ソフトモデル技法が挙げられる。多チャンネルの測定は、表皮の色素沈着や表面の血液含有量の影響を軽減するのに用いることもできる。たとえば、隣接したチャンネルで反射率測定の比をとることによって(式6)、表皮のフィルタ効果は基本的に取り除かれ、2つのチャンネルの伝達関数の比、したがって該チャンネルが調べる組織層を与える。
【0038】
【数5】

【0039】
式6による技法をそれぞれのチャンネルの蛍光信号に適用することにより、表皮および真皮上層のマスキング効果を概ね消去した有用な蛍光情報を与え得る蛍光伝達関数が得られる。個々のチャンネルからの分光学的データを融合および/または組み合わせることにより、多変量法に、より正確かつ/または頑強な定量モデルおよび分類モデルを与え得る追加のスペクトル情報を与えることが可能である。
【0040】
(0031)本明細書で述べる例は、概して偏光を考慮しない定常状態の蛍光測定値に関するが、これらの方法を他の蛍光測定方式に適用することは可能である。たとえば、励起光をRF周波数で振幅変調して放出光の位相と変調をモニタリングする周波数領域蛍光分光法も適用可能である。別の適当な手法は時間分解手法を含み、この時間分解手法では、励起光の短いバーストを組織に適用した後、結果として生じる蛍光発光の経時変遷をサンプリングする。周波数領域蛍光分光法および時間分解手法のいずれによっても、たとえば、さらなる識別力をもたらし得るパラメータである蛍光寿命をモニタリングする能力が付加される。さらに、偏光した励起光と偏光を感知する検出を用いて、r=(I−I)/(I+2I)によって定義される蛍光異方性を決定することが可能である(前記式中、IおよびIは、線形偏光した励起光線の偏光に対して平行または垂直な偏光を有する蛍光強度である。蛍光異方性測定値は、スペクトルは重なり合うが回転相関時間または分子配向が異なる蛍光体からの信号を分離することができる。さらに、これらの手法のいずれも、蛍光体の空間分布に関する情報を得るために、顕微鏡検査または肉眼による励起光線の走査などの画像化方法とともに用いることができる。上記の方法のいずれも、
組織表面下の深さに関する蛍光体の分布情報を加えるため、共焦点検出システムまたは光コヒーレンス断層撮影法など、深さの識別が可能な測定技法とともに用いることができる。
【0041】
蛍光特性を疾病状態または化学変化に関連付けるモデルの決定
(0032)1つまたは複数の波長における組織の蛍光特性と糖尿病の状態との関係は、一般的にスペクトルデータの目視検査では明瞭でない。そうした状況のため、通常は、固有蛍光スペクトルを用いて組織の疾病状態を分類したり、化学変化を定量化したりするための、多変量の数学的な関係、すなわちモデルを構築する必要がある。そのようなモデルの構築は、一般に2段階、すなわち、(i)「較正」データまたは「訓練」データを収集する段階、および(ii)訓練データと疾病状態との数学的な関係または訓練データ中で用いられる参照濃度を確立する段階、で行う。
【0042】
(0033)訓練データの収集の間は、構築しようとするモデルで特徴づけたい全ての疾病状態または参照値を表わす多くの個体から蛍光データを収集することが望ましいであろう。たとえば、糖尿病患者を糖尿病非罹患者から分離するモデルを構築したいのであれば、両方の多種多様な個体から代表スペクトルを収集することが望ましいであろう。疾病状態と蛍光変化をもたらし得る他のパラメータとの間の相関関係を最小にするような方法で、これらのデータを収集することが重要であろう。たとえば、健康体でのコラーゲンAGEの自然な形成は、皮膚AGE含有量と暦年齢との間の相関関係をもたらす。したがって、分類モデルの適用が望まれる年齢全体にわたって糖尿病患者および糖尿病非罹患者からスペクトルを得ることが重要となり得る。あるいは、特定の皮膚コラーゲンAGEのレベルを定量化したモデルを構築したいのであれば、研究初期にAGE濃度が最も少ない個体全てについて測定し、研究後期にAGE濃度のより高い個体全てについて測定を行うよりは、毎日、広範囲にわたるAGE参照値について分光学的データを集める方が望ましいと言える。前者の場合、AGE濃度と時間との間で偽の相関関係が発生し、また研究の過程で機器が傾向を示す場合、結果として生じるモデルは検体濃度よりむしろ機器の状態に対して較正されたものとなりかねない。
【0043】
(0034)訓練データを収集するに際し、後で適当な分類モデルを構築するためにさらなる参照情報を収集してもよい。たとえば、分類モデルが糖尿病の状態を予測するものであれば、訓練グループ内の個体の一部または全員の糖尿病状態について収集し、対応する分光学的訓練データと関連付けてもよい。あるいは、分類モデルは、糖化コラーゲン、糖化エラスチン、ペントシジンもしくはCMLなどの特定のAGE、または真性糖尿病に伴う高血糖症状によって修飾された他のタンパク質など、皮膚中の特定の化学分子種のレベルを予測するものでもよい。この場合、訓練データの収集の際に個体から皮膚生検材料を収集すればよい。さらに、年齢、肥満度指数、血圧、HbA1cなどの他の補助情報を、後の疾病状態評価の際に使うことになっているならば、訓練グループ内の一部または全部のスペクトルについてこうした情報を収集してもよい。
【0044】
(0035)訓練データを収集したあと、訓練データに関連する疾病状態を対応する分光学的情報と関連づけるために多変量のモデルを構築することができる。的確なモデルを、訓練段階の最終目標に基づいて選択できる。構築し得る少なくとも2種類の多変量モデルがある。第1のモデルでは、訓練過程の目標は、測定した組織の疾病状態を正しく分類するモデルを作製することである。この場合、モデルの出力は、1つまたは複数の個別の群またはグループへの割り当てである。これらの群またはグループは、特定の疾病の異なる悪性度または徴候を表すことになるかもしれない。また、特定の疾病に冒される様々な危険度、または問題の疾病状態に関係する集団の他のサブグループを表すこともありうる。第2の種類のモデルでは、目標は、その系において糖尿病により誘発された何らかの化学変化の定量的推定を提供することである。このモデルの出力は、関連する変動の幅全体
にわたって連続的に変化し得るが、必ずしも疾病の状態を示すわけではない。
【0045】
[組織の疾病状態の分類]
(0036)概して最終目標が組織の疾病状態を評価するためのモデルを使用することである場合のモデル構築工程を図4に模式的に表わす。第1工程(スペクトルの前処理)は、たとえば、先に述べたようにバックグラウンド補正および本質的な蛍光補正の工程を含むスペクトルデータがあるならばその前処理を含む。第2工程では、因子分析方法を使用することによってデータセットの次元を低減させ得る。因子分析方法は、個々のスペクトルを、各々の収集した波長でのスペクトル強度ではなく、一組の因子に関するスコアによって記述できるようにする。この工程では様々な手法を利用することができる。主成分分析(PCA)は、1つの適当な方法である。たとえば、疾病状態と関連する参照変数への部分最小二乗(PLS)回帰によって得られる因子を使うこともできる。複数の因子を作製した後、分類に最も役立つ因子を選ぶことができる。有用な因子は、通常、低い群内変動を有しつつ群の間で大きな分離を示すものである。因子は、分離能(Separability)指数によって選ぶことができる。因子fについて分離能指数を計算する1つの考えられる方法は、
【数6】

であり、上記式中、
【数7】

は群1の平均スコアであり、
【数8】

は群2の平均スコアであり、sは群内でのスコアの分散を表す。
【0046】
(0037)最後に、データを分離して様々な群にする手法を選択することができる。様々なアルゴリズムが適用可能であり、最適のアルゴリズムは訓練データの構造によって選ぶことができる。線形判別分析(LDA:Linear Discriminant Analysis)では、多次元の分光学的データを訓練期間に観察された参照群に最も適切に分離する単一の一次関数が構築される。二次判別分析(Quadratic Discriminants Analysis)では、二次判別関数が構築される。図5は、判別関数が2つのグループの間で最高の分離を見出し得る方法(データの構造に依存する)を例示する。ある場合には(図5(a))、群を分離するのに線形判別関数で十分である。しかし、群の多次元構造がより複雑になるにつれ、二次関数のようなより高度な分類機構が必要となる(図5(b))。場合によっては(図5(c))、二次判別分析でも難しいデータ構造であり、他の分類法がより適切である。
【0047】
(0038)いくつかの適当な分類アルゴリズムが存在する。たとえば、k−最近傍法、ロジスティック回帰、分類ツリーおよび回帰ツリー(CART:Classification and Regression Trees)などの階層的クラスタリング・アルゴリズム、ならびにニューラル・ネットワークなどの機械学習手法は、いずれも適切
であり有用な手法であり得る。これらの手法に関する詳細な議論はユベルティ(Huberty)、Applied Discriminant Anaylsis、ワイリー・アンド・サンズ社(Wiley & Sons)(1994年)、ならびにドゥダ、ハートおよびストーク(Duda,Hart,and Stork)、Pattern Classification、ワイリー・アンド・サンズ社(Wiley & Sons)(2001年)に見ることができる。
【0048】
[糖尿病によって誘発された化学修飾の定量]
(0039)最終目標が検体または組織に埋め込まれている検体もしくは検体群の濃度の定量である場合、モデル構築過程において異なる手法を採ることができる。この場合、問題の検体(群)についての一組の(典型的には連続的な)参照値を訓練グループの一部または全てのスペクトルに対して得ることができる。たとえば、モデルが皮膚コラーゲン中のペントシジンのレベルを定量するものである場合には、訓練グループ中の各スペクトルに関する参照濃度は、較正の際に得た皮膚パンチ生検標本に対して行ったペントシジン分析評価に由来するものとすることができる。生検方法の侵襲性が試験参加者にとって高過ぎる場合には、代替としてAGEに伴う何らかの化学変化を用いることもできる。たとえば、糖尿病進行の程度が増加するにつれてFPG値が増大するという前提の下では、合理的妥協策として、皮膚AGE濃度の代わりにFPGデータを収集することができる。同様に、HbA1cおよびOGTTの情報を用いることもできる。
【0049】
(0040)試験セットに関する定量値を予測するために用いる較正モデルは、参照値と関連スペクトルデータとの数学的な関係を築くことによって構築できる。様々なアルゴリズムを適用可能である。たとえば、主成分回帰(PCR)において、較正データは最初に一組の直交性スコアと負荷量とに分解され、次いで、参照値を最初のN個のPCA因子のスコア上に回帰させる。別の適当な方法は部分最小二乗(PLS)回帰であり、この場合、参照値と一連の各PLS負荷ベクトル上のスコアとの間の共分散の二乗が最大になるように、一組の因子を構築する。これらの手順その他は、マルテンスとネス(Martens and Naes)によってMultivariate Calibration(ワイリー・アンド・サンズ社(Wiley & Sons)(1989年)にまとめられている。
【0050】
(0041)定量的較正モデルは、もちろん本明細書で記載した回帰手法に限定されるものではない。他の回帰手法、ニューラル・ネットワークおよび他の非線形手法を含む他の多様な手法が利用可能であるということを当業者は認識するであろう。
【0051】
蛍光特性からの疾病状態または化学変化の決定
(0042)モデル構築後、疾病状態または糖尿病関連の化学変化について未知である新たな標本に対して蛍光の測定を行うことができる。この新たな標本の疾病状態または化学的性質を決定する方法は、訓練段階で構築されたモデルのタイプによって変わりうる。
【0052】
[組織の疾病状態の分類]
(0043)上述の通り、測定した蛍光特性から様々な糖尿病の状態を識別するために様々なモデルを使用することができる。たとえば、二乗判別分析の方法を用いる場合、新たな蛍光スペクトルを、分類モデルの構築の際に訓練データによって作成された因子上に投影して、試験スペクトルについての新たなスコア・ベクトルxを作成する。予め選択した因子について訓練グループにおけるスコアの平均:
【数9】

および共分散行列Sを各群jについて計算する。たとえば、2群(たとえば、糖尿病患者と糖尿病非罹患者)の問題についてはj=1,2である。次いで、各スコア・ベクトル(x)について試料iから群jへのマハラノビス距離Di,j
【数10】

により計算する。
【0053】
(0044)試験試料iが群jのメンバーである事後確率p(i∈j)は、式8を用いて計算できる。全ての確率と同様に、この数は0と1の間で変動し、確率が1近傍であれば観察結果が糖尿病群に近いことを示し、確率が0近傍であれば観察結果が糖尿病非罹患者の群に近いことを示す。試料iが群jのメンバーである確率は
【数11】

によって与えられる。上記式中、πijは、他の知見(たとえば、危険因子など)に基づいて試料iが群jのメンバーである事前確率である。この事前確率は、部分的には、分類アルゴリズムの診断用途に応じて予測段階において調整可能なパラメータである。
【0054】
(0045)最後に、新たな蛍光測定値を組織の特定の疾病状態に割り当てる閾値を適用することができる。たとえば、0.75より大きい糖尿病の事後確率を与える全ての蛍光測定値を糖尿病群に割り当てると決定してもよいであろう。事前確率と同様に、バリデーションにおいて適用される正確な閾値は、用途、疾病の罹患率、正および負の検査成績の社会経済効果を含む様々な要因に依存し得る。
【0055】
[糖尿病によって誘発された化学修飾の定量化]
(0046)定量的較正モデルの出力は、補正された蛍光スペクトルを内積により定量的な検体の予測へと変換する回帰ベクトル:
【数12】

とすることができる。上記式中、
【数13】

は検体の予測、bは回帰ベクトルである。
【0056】
(0047)定量的出力を生成する方法は、訓練段階において構築されるモデルによって変わり得る。たとえば、ニューラル・ネットワークを用いた最終的な検体の定量化は、異なる過程で進行するが、同様の出力を与える。
【0057】
(0048)いずれかのタイプの多変量モデル(すなわち、化学変化の定量モデルまたは組織の疾病状態の分類モデル)の構築後、モデルの正確さを、よく特徴づけられた「バリデーション」スペクトルに伴う疾病状態を予測することによって試験することができる
。この作業を達成する上でも様々な手法が存在する。リーブ・ワン・アウト(leave−one−out)クロスバリデーション法では、訓練グループ由来の単一または一組のスペクトルをモデル構築過程から除き、次いで、結果として生じるモデルを、モデルから除外されたスペクトルに伴う疾病状態を予測するのに用いる。この過程を十分な回数繰り返すことによって、新たな条件下でのモデルの成績を数学的に評価することができる。新たに構築したモデルのより厳しい試験は、モデルをまったく新しいデータセット、すなわち「試験」セットに適用することである。この場合、各々のスペクトルに伴う疾病状態は既知であるが、「試験」スペクトルは訓練データとは異なる時間(たとえば、モデルの構築後)に収集する。「試験」データ上の予測をこれらのデータに関連する参照値と比較することによって、問題のモデルの診断上の正確さを、訓練データから独立して評価できる。
【実施例】
【0058】
実施態様
(0049)図6〜10は、3カ月の期間にわたって行った大規模な較正実験の結果を表わす。これらの実験では、市販の蛍光計(SkinSkan、米国ニュージャージー州エジソン所在のジョバン−イボン(Jobin−Yvon))を用いて、試験参加者の掌側の前腕皮膚から非侵襲的に蛍光スペクトルと反射率スペクトルとを得た。訓練段階では、57人の2型糖尿病患者と148人の糖尿病非罹患者について蛍光分光法で測定した。試験参加者は、年齢および自己申告による糖尿病の状態に基づいて選択した。被験者自身による疾病状態の報告に加えて、本実験においては、FPGおよびOGTTの参照情報についても全ての糖尿病患者と一部の糖尿病非罹患者について収集した。これらの人々については、FPG値および2時間OGTT値を、2日おきに収集した。分光分析測定値は3日目に収集したが、特定の絶食条件も他の試験前の準備も試験参加者に課さなかった。
【0059】
(0050)本実験では、いくつかの蛍光データセットを獲得した。異なる3セットの発光スキャンを、2.5nmのデータ間隔で収集した。すなわち、(1)λ=325nm、λ=340〜500nm、(2)λ=370nm、λ=385〜500nm、および(3)λ=460nm、λ=475〜550nmである。さらに、異なる3セットの励起スキャン(2.5nmのデータ間隔)も収集した。すなわち、(1)λ=460nm、λ=325〜445nm、(2)λ=520nm、λ=325〜500nm、および(3)λ=345nm、λ=315〜330nmである。蛍光データ収集で用いた励起および発光の波長範囲にわたる皮膚反射率データに加え、より低解像度(10nm間隔のデータ)の励起−発光マップ(EEM)も収集した。これらのデータセットとその対応する波長域を図6に図式的に表す。図6において、白抜きの円は励起スキャンを、灰色で塗りつぶされた円は発光スキャンを意味し、灰色の×符号はEEMを意味し、黒い×符号は反射率スキャンを意味する。これらのデータセットを各試験参加者についてそれぞれ2回ずつ得た。この反復させた分光学的データセットの各々は、掌側前腕の異なる身体領域から得た。
【0060】
(0051)これらの訓練データを用いて、2つの異なる多変量モデルを構築した。第1のモデルは、その明白な糖尿病状態により新たな測定値を分類する。第2のモデルは、皮膚コラーゲンAGE含有量の代わりにFPG参照値を用いて、糖尿病によって誘発された化学変化を定量する。
【0061】
[組織の疾病状態の分類]
(0052)訓練データ収集の完了後、非侵襲的測定値の全てを参照情報(自己申告による糖尿病状態、FPGおよびOGTT参照値)とともにプールした。後処理(式3で記述される方法でk=0.5およびn=0.7を用いる本質的な蛍光補正など)を、全ての蛍光データについて最初に実行した。ここに示す結果は、上述の3つの励起スキャンを組
み合わせて1つの大きな蛍光スペクトルにすることによって得られた。このデータセットの次元を下げるためにPCA因子分析法を用い、それらのPCA因子のうち群の識別に最も有用なものを同定するため、式6で示す分離能指数を使用して最初の25の主成分のうちの5つに対するスコアを用いて分類機構を構築するのにQDAを用いた。QDA分類機構の診断上の正確さは、リーブ・ワン・アウト・クロスバリデーション法を使用して評価した。この場合、1人の患者についての分光学的データを全て訓練データから除き、独立したQDAモデルを構築し、各スペクトルが糖尿病群のメンバーである事後確率を計算する。図7は、全ての試験参加者について糖尿病群のメンバーであるか否かの事後確率をクロスバリデーションする箱髭図である。概して、糖尿病であることがわかっている個体が、糖尿病非罹患者よりも糖尿病について高い確率を示していることが分かる。診断検査でよくあることだが、例示データでは、どの単一の試験閾値も、全ての糖尿病患者を全ての糖尿病非罹患者から完全に分離してはいない。
【0062】
(0053)QDA分類機構の診断上の正確さをまとめる1つの方法は、試験閾値の範囲について、真陽性率(すなわち、感度)を偽陽性率(すなわち、1−特異度)に対してプロットすることである。結果として生じる受診者動作特性(ROC)曲線の曲線下面積は、完全な分類試験については1に近づくが、無作為と同然の試験については0.5に近づく。上述のQDAクロスバリデーション手法由来のROC曲線を図8に実線として示す。このROC曲線の曲線下面積は0.82であり、曲線の屈折部では、偽陽性率がおよそ20%であるとき、およそ70%の感度が実現されている。これに伴う等価誤差率(感度と偽陽性率が等しい点)は、およそ25%である。これらのROCパラメータは全て、比較のために点線で示したFPGのROC曲線由来の比較値と比較しても遜色がない。このFPG試験についてのROC曲線は、1988〜1994年に行われた第3回全米健康栄養検査調査(National Health and Nutrition Examination Survey)に参加した16,000人超のデータベースから計算された。この曲線は、研究参加者が自己申告した糖尿病状態が真実であるとして用いて、FPG検査値に様々な試験閾値を適用することによって作製された。
【0063】
[糖尿病により誘発された化学修飾の定量]
(0054)蛍光測定値を用いて未知の標本に糖尿病状態を直接割り当てるよりも、糖尿病の存在または進行に関連がある化学変化の定量的尺度を作成する方が有用である場合もある。たとえば、皮膚生検について、ペントシジン、CML、または別の皮膚コラーゲンAGEの濃度を分析することができる。それらの参照値は、先に述べたように多変量モデルの構築に用いることができる。本実施例においては、そのような参照データは利用できなかったが、訓練段階で収集したFPG値をこの化学的情報の代わりとして用いた。
【0064】
(0055)定量的PLS較正モデルを、上述の同じ補正蛍光データから構築した。本明細書に示す結果は、上述の3つの励起スキャンを組み合わせて1つの大きな蛍光スペクトルにすることによって得た。合計3つの潜在的な変数またはPLS因子を、非侵襲的な蛍光データから構築して、FPG参照値における変動をモデル化するのに用いた。大部分の蛍光波長が尺度CLFに集中するので、分光学的変化は、少なくとも部分的には、コラーゲンの架橋および付随する糖尿病の進行に起因すると推定される。結果的に、FPG検査値は疾病進行の完全な代用になるとは期待されない。
【0065】
(0056)1人の研究参加者由来の全てのデータを繰り返しごとに外側へ回転したクロスバリデーションの結果を図9に示す。3つのモデル因子におけるPLS推定値は、y軸で表される(蛍光変化はAGEの化学的性質に由来すると推定されるので、この軸を「化学的進行」と呼び、次元は任意のままである)。対応するFPG値は、横座標上に示される。糖尿病の被験者由来の値は塗りつぶした灰色の円、糖尿病非罹患者は白抜きの円で表されている。概して、比較的大きい参照値は比較的大きな化学的進行のPLS推定値に
対応することが分かるが、予想のとおり関係は完全に線形ではない。さらに、糖尿病患者が、平均して、糖尿病非罹患者より大きな化学的進行の推定値を示すことが分かる。1または複数の皮膚コラーゲンAGEなど、真の疾病の進行とより密接に整合している参照値であれば、より直線的な関係を有するモデルを作製できるであろう。
【0066】
(0057)糖尿病に関連する化学変化の定量的モデルは、検査値しか報告しない(すなわち、組織の疾病状態に関する分類は行わない)かもしれないが、分類の目的にそのようなモデルの出力を使うことも可能である。そのような手順の1つの例を図10に例示する。図10は、研究参加者の自己申告による糖尿病の状態を真実として利用して、図9に表される化学的進行のPLS推定値から作成されたROC曲線である。図8由来のFPGのROC曲線を、比較のために図10に再現して示す。このROC曲線の曲線下面積は0.81であり、曲線の屈折部において、65%の感度が20%の偽陽性率で成し遂げられる。付随する等価誤差率(感度と偽陽性率が等しい点)は、およそ25%である。これらのROCパラメータは、ここでも、全て、FPGのROC曲線由来の比較値と遜色がない。
【0067】
装置例
(0058)組織の蛍光によって疾病状態の特徴づけおよび/または定量を行う装置の構成要素またはサブシステムを、図11に例示する。照明サブシステムは、組織を照射し、それによって組織内の内因性の発色団を電子的に励起するための適当な光源Aを含んでなる。照明サブシステムは、光源Aによって生成される光を組織に伝えて、組織試料から結果として生じる蛍光を集め、収集した蛍光を検出サブシステムCに伝える光学系Bを含む。検出サブシステムにおいて、蛍光は通常、電気信号に変換される。組織の蛍光に対応する信号は、分析またはデータ処理および制御システムDによって測定され、特徴づけられる。処理/コントロールシステムは、他のサブシステムの動作を制御または修正することもできる。
【0068】
(0059)そのようなシステムの実施例Iは、光源の中心的な要素として、高輝度のアーク灯、シャッター、モノクロメータおよびコリメータを実装する。光結合サブシステムは、励起光を組織に伝え、組織から放射される蛍光を収集する2分岐ファイバ束からなる。2分岐束の第2の脚部は、収集した蛍光を検出サブシステムに伝える。検出システムは、モノクロメータ(構成要素Aのモノクロメータからは分離している)と光電子増倍管などの検出器を含む。組織の蛍光に対応する電気信号はデジタル化され、処理されて、コンピュータ(構成要素D)に保存される。コンピュータは、モノクロメータの調整やシャッターの開閉などの他のサブシステムの機能制御も行う。
【0069】
(0060)実施例IIでは、実施例Iの2分岐光ファイバ束が、光源から組織まで励起光を伝え、次いで組織から発せられた蛍光を収集して検出サブシステムへと中継するためのレンズおよび鏡のシステムに置き替えられている。
【0070】
(0061)実施例IIIでは、高輝度アーク灯とモノクロメータから構成されている実施例Iの広帯域光源が、LEDまたはレーザダイオードなどの1または複数の個別の光源に置き替えられている。LEDは、十分に狭い波長の励起光を生じるように適当な光帯域通過フィルタを必要とするものでもよい。LEDまたはレーザダイオードは、連続波で動作させてもよいし、変調してもパルスとしてもよい。これらの光源の出力は、実施例Iの光ファイバ束または実施例IIについて述べたような鏡および/またはレンズの集まりのような光学サブシステムによって組織へと伝えられる。
【0071】
(0062)実施例IVでは、モノクロメータと単一の検出器からなる実施例Iの検出システムが、分光器および配列された検出器または配列されたCCDに置き替えられてい
る。
【0072】
(0063)図12に皮膚蛍光計の例を示す。照明サブシステムは、ダブルモノクロメータに接続されたキセノンアーク灯から構成されている。モノクロメータからの狭いスペクトルの出力は、2分岐ファイバ束へと伝えられる。組織と接触しているフェルール中のファイバは、図13に示すようにランダムに配置することができるが、図14に示すように光源ファイバと検出器ファイバとが特定の間隔になるよう設計して構築されてもよい。ファイバ束を被験者の皮膚と接触した状態に保持する固定具(この例では、前腕用の置き台である)を図15に示す。この置き台は、前腕下側の皮膚がファイバ束の送達/収集端と接触している間、被験者が快適にその腕を載せておく手段を提供する。置き台により、光ファイバ束に対して掌側前腕の部位を再現性よく位置決めすることも容易になる。2分岐束内で検出器ファイバによって収集された蛍光は、図12に示す蛍光計の第2のモノクロメータへの入射スリットを形成する。モノクロメータは入って来る蛍光に対しフィルタとして働いて、狭帯域を検出器、光電子増倍管(PMT)またはチャンネル光電子増倍管へと送る。PMTは、十分に高感度なシリコンアバランシェフォトダイオードまたは通常のシリコンフォトダイオードに置き替えてもよい。光源モノクロメータおよび検出器モノクロメータのいずれの内部の調整可能な格子対も、各部の波長を独立して調整できるようにする。PMTからの信号は、コンピュータによりデジタル化および記録されるが、該コンピュータは格子の調整も、検出器の調節も、モノクロメータのシャッターの制御も行う。
【0073】
(0064)真皮からの情報を選択的に収集することが有用な場合がある。図14は、本発明において使用するのに適した組織接触部の具体例である。組織接触部は、光源と光学的に連絡し、励起光を組織に送達するのに適した複数の励起ファイバを含んでなる。該組織接触部はさらに、検出器と光学的に連絡し、励起光に応答して組織から発せられた光を受信するのに適した複数の受光ファイバを含んでなる。受光ファイバ間の間隔は空いており、真皮を物理的に露出させる必要なく蛍光情報を皮膚の真皮層から選択的に収集できるように、励起ファイバに対して配置される。
【0074】
(0065)前に論じたように、組織の光学的性質の測定を可能にするために複数のチャンネルを通して真皮から選択的に情報を収集することが有用な場合がある。図16は、本発明において使用するのに適した組織接触部の具体例である。該組織接触部は、光源と光学的に連絡し、励起光を組織に送達するのに適した複数の励起ファイバ(たとえば、塗りつぶし円で示す)を含む。該組織接触部はさらに、検出器と光学的に連絡し、励起光に応答して組織から発せられた光を受信するのに適した複数の受光ファイバ(たとえば、白抜きの円および横線入りの円の両者で示す)を含んでなる。図中、白抜きの円は受光ファイバの第1のチャンネルを構成し、横線入りの円は受光ファイバの第2のチャンネルを構成する。各々のチャンネルにおいて、受光ファイバ間の間隔は空いており、真皮を物理的に露出させる必要なく蛍光情報を皮膚の真皮層から選択的に収集できるように、励起ファイバに対して配置される。各々の受光チャンネルによって皮膚から収集された光は、複数の検出器によって、または、単一の検出器に対してチャンネル間の切り替えを行うことによって、個別に検出される。
【0075】
(0066)図17および18は、複数のチャンネルの情報収集を可能にする励起ファイバおよび受光ファイバの他の構成を示す。図17はファイバの円形配置を示し、該配置では、励起光を送達する中心ファイバ(塗りつぶし円)が受光ファイバの第1チャンネル(白抜き円)で囲まれ、第1チャンネルはさらに受光ファイバの第2チャンネル(線入りの円)に囲まれている。図18は複数の励起ファイバ(塗りつぶし円)が一列に整列する線形配置のファイバを示す。受光ファイバ(白抜きの円)の第1チャンネルは、励起ファイバの列に対して平行に、かつ若干の距離をおいて一列に配置されている。受光ファイバ
(線入りの円)の第2チャンネルも、励起ファイバに対し平行に、さらに若干の距離をおいて一列に配置されている。
【0076】
(0067)図19〜22は、多チャンネルの光ファイバ組織プローブの、サンプリング面に対する可能な配置を様々に示したものである。図19は、垂直に配置する多チャンネルの光ファイバ組織プローブの部分断面の模式図であり、塗りつぶされたファイバは励起ファイバを表し、白抜きのファイバは第1の受光チャンネル、線入りのファイバは第2受光チャンネルを表す。この配置では、励起ファイバと第1および第2の受光チャンネルとの間隔は、組織の光学的性質の決定に役立つ望ましい情報が得られるように選ぶことができる。図20は、傾斜させた配置の、多チャンネルの光ファイバ組織プローブの部分断面の模式図である。法線からの励起ファイバの傾斜角(α)は、0〜60度とすることができる。同様に、第1および第2の受光チャンネル(それぞれ白抜きおよび線入りのファイバ)は励起ファイバとは逆向きに0〜60度傾けることができるが、必ずしも逆向きに等量傾斜させる必要はない。図21は、傾斜させた配置の多チャンネルの光ファイバ組織プローブの部分断面の模式図である。ここでは、第1および第2の受光チャンネルが、励起ファイバを中央として両側に配置されている。図22は、光の容量を増大させるために、傾斜させた数本のファイバをどのように配置しうるかについて示している等角図である。
【0077】
(0068)図23は、励起部と受光部との様々な間隔で組織の体積を調べる多チャンネルの光ファイバ組織プローブの実例である。4つの具体例の各々において、黒色で示す組織体積に向かう下向き矢印で示された単一の傾斜した励起ファイバがある。該励起ファイバと対向して4つの受光ファイバチャンネルがあり、それぞれ励起ファイバから距離をおいて分離されている。図は左から右に、励起ファイバと受光チャンネルとの間隔の関数として調べられる組織の領域を示している。これらの個別の受光チャンネルにより、組織の光学的性質の測定に有用であり得る真皮からの情報を選択的に収集することが可能になる。
【0078】
(0069)当業者は、本明細書に記載および意図されている特定の実施態様以外の様々な形態で本発明を実現し得ることを認識するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲および思想から逸脱することなく、形態および細部の変更をなすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】放出される蛍光を400nmの固定波長で測定しつつ、励起波長を315nmから385nmまで走査した励起スペクトルのグラフ。
【図2】励起を325nmに固定し、蛍光を340nmから500nmまで検出サブシステムを走査することによってモニタリングした発光走査データのグラフ。
【図3】図1および2のスペクトルに関し、決定されたスペクトル(実線、「未補正」)と本質的補正を行ったスペクトル(点線、k=0.5、n=0.7)の挿入による変動を示すグラフ。
【図4】最終目標が組織の疾病状態を評価するためにモデルを使用することであるとき、通常用いられる典型的なモデル構築工程のダイヤグラム。
【図5】判別関数により2つのグループ間の最高の分離を見つけ得る方法の例を示す図。
【図6】データセットとそれに対応する波長域を例示する図。
【図7】全ての試験参加者について、糖尿病群のメンバーであることについての事後確率をクロスバリデーションする箱髭図。
【図8】本発明による受診者動作特性曲線および空腹時血漿グルコース試験による受診者動作特性曲線を示すグラフ。
【図9】1人の研究参加者からの全てのデータを反復回ごとに外側へ回転したクロスバリデーションの結果を示すグラフ。
【図10】本発明による受診者動作特性曲線および空腹時血漿グルコース試験による受診者動作特性曲線を示すグラフ。
【図11】本発明の装置の構成要素またはサブシステムを示す模式図。
【図12】皮膚蛍光計の一例を示す図。
【図13】本発明による装置の一部を示す模式図。
【図14】本発明による装置の一部を示す模式図。
【図15】本発明における使用に適した組織接触部を示す外観図。
【図16】幾何学的に配置した多チャンネルの光ファイバ組織プローブの模式図。
【図17】円形に配置した多チャンネルの光ファイバ組織プローブの模式図。
【図18】線形に配置した多チャンネルの光ファイバ組織プローブの模式図。
【図19】垂直に配置した多チャンネルの光ファイバ組織プローブの部分断面を示す模式図。
【図20】傾斜させて配置した多チャンネルの光ファイバ組織プローブの部分断面を示す模式図。
【図21】傾斜させて配置した多チャンネルの光ファイバ組織プローブの部分断面を示す模式図。
【図22】光ファイバ組織プローブの等角図である模式図。
【図23】励起部および受光部の間隔を様々にして組織体積を調べる多チャンネルの光ファイバ組織プローブの模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体の組織の組織状態を決定する方法であって、
a.個体の組織の一部に励起光を照射することと、
b.組織内の化学物質の蛍光によって組織から放出される光を検出することと、
c.検出光および蛍光と組織状態とを関連付けるモデルから、化学変化の尺度を決定することと
を含む方法。
【請求項2】
励起光の波長が280nmから500nmまでの範囲内にある請求項1に記載の方法。
【請求項3】
励起光の波長が315nmから500nmまでの範囲内にある請求項2に記載の方法。
【請求項4】
励起光が1度目は第1の波長を有し、2度目は第1の波長と異なる第2の波長を有する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
組織から放出される光の検出が、励起光の波長より長波長で光を検出することからなる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
組織から放出される光の検出が、250nm〜850nmの波長で光を検出することからなる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
組織から放出される光の検出が、複数の波長の各々で光を検出することからなる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
励起光が単一の波長を有し、組織から放出される光の検出が複数の波長で光を検出することからなる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
励起光の波長が時間とともに変化し、組織から放出される光の検出が第一の波長で光を検出することからなる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
組織から放出される光の検出が、
a.励起光の波長で組織の反射率特性を決定することと、
b.励起波長での照射に応答して組織から戻った光を検出することと、
c.検出光および組織の反射率特性から補正された蛍光測定値を決定することと
を含み、
d.組織状態の決定が、補正された蛍光測定値および蛍光と組織状態とを関連付けるモデルから組織状態を決定することからなることを特徴とする
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
組織から放出される光の検出が、
a.検出波長で組織の反射率特性を決定することと、
b.照射に応答して組織から戻った光を検出波長で検出することと、
c.検出光および組織の反射率特性から補正された蛍光測定値を決定することと
を含み、
d.組織状態の決定が、補正された蛍光測定値および蛍光と組織状態とを関連付けるモデルから組織状態を決定することからなることを特徴とする
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
組織から放出される光の検出が、
a.励起光の波長で組織の第1の反射率特性を決定することと、
b.検出波長で組織の第2の反射率特性を決定することと、
c.励起波長での照射に応答して皮膚から戻った光を検出波長で検出することと、
d.検出光ならびに組織の第1および第2の反射率特性から補正された蛍光測定値を決定することと
を含み、
e.組織状態の決定が、補正された蛍光測定値および蛍光と組織状態とを関連付けるモデルから組織状態を決定することからなることを特徴とする
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
組織の反射率特性の決定が、
a.励起波長を有する反射率の照射光で組織を照射することと、
b.組織から戻った光の検出に使用した検出器と同じ検出器を使用して、皮膚から反射した励起波長を有する反射光を検出することと、
c.反射率の照射光と反射光との関係から組織の反射率特性を確立することと
を含む請求項10に記載の方法。
【請求項14】
組織の反射率特性の決定が、
a.励起波長を有する反射率の照射光で組織の一部を照射することと、
b.皮膚の一部から反射した、励起波長を有する反射光を検出することと、
c.反射率の照射光と反射光との関係から組織の反射率特性を確立することと
を含む請求項10に記載の方法。
【請求項15】
組織の反射率特性の決定が、
a.検出波長と同じ波長を有する反射率の照射光で組織を照射することと、
b.組織から戻った光の検出に使用した検出器と同じ検出器を使用して、皮膚から反射した検出波長を有する反射光を検出することと、
c.反射率の照射光と反射光との関係から組織の反射率特性を確立することと
を含む請求項11に記載の方法。
【請求項16】
組織の反射率特性の決定が、
a.検出波長と同じ波長を有する反射率の照射光で組織の一部を照射することと、
b.皮膚の一部から反射した検出波長を有する反射光を検出することと、
c.反射率の照射光と反射光との関係から組織の反射率特性を確立することと
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
光の検出が、励起波長と検出波長の蛍光との関係を決定することを含み、血糖コントロールに起因する化学変化の尺度の決定が、前記関係を、励起波長と検出波長の蛍光との関係と化学変化の尺度との関係を規定するモデルと比較することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項18】
光の検出が、複数の励起波長における照射と検出波長における蛍光との関係を決定することを含み、血糖コントロールに起因する化学変化の尺度の決定が、前記関係を、複数の励起波長と検出波長における蛍光との関係と化学変化の尺度との関係を規定するモデルと比較することを含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
光の検出が、励起波長における照射と複数の検出波長における蛍光との関係を決定することを含み、血糖コントロールに起因する化学変化の尺度の決定が、前記関係を、励起波長と複数の検出波長における蛍光との関係と化学変化の尺度との関係を規定するモデルと比較することを含む請求項17に記載の方法。
【請求項20】
光の検出が、複数の励起波長における照射と複数の検出波長における蛍光との関係を決定することを含み、血糖コントロールに起因する化学変化の尺度の決定が、前記関係を、複数の励起波長と複数の検出波長における蛍光との関係と化学変化の尺度との関係を規定するモデルと比較することを含む請求項17に記載の方法。
【請求項21】
個体に関する生物学的情報を得ることをさらに含み、組織状態の決定が、前記情報、検出光、および生物学的情報と蛍光と組織状態とを関連付けるモデルから組織状態を決定することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項22】
生物学的情報が、個体の年齢、個体の身長、個体の体重、個体の家族の病歴、民族性、皮膚メラニン含有量、またはこれらの組合せを含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
組織が個体の皮膚を含む請求項1に記載の方法。
【請求項24】
モデルが、
a.複数の被験者の各々について
i.被験者の組織の一部の蛍光特性を決定することと、
ii.被験者の組織状態を決定することと、
b.複数の蛍光特性の決定値と関連する組織状態の決定値とに多変量法を適用することによって、蛍光特性を組織状態に関連付けるモデルを作成することと
により決定される請求項1に記載の方法。
【請求項25】
個体の組織状態を決定する方法であって、
a.光学系と個体の皮膚の一部とを接触させることと、
b.励起波長と検出波長の複数の対の各々について、励起波長での照射と検出波長での皮膚の応答との関係を決定することと、
c.各照射波長および各検出波長で皮膚について組織の反射率特性を決定することと、
d.照射光および検出光と組織の反射率特性との関係から皮膚の固有蛍光の尺度を決定することと、
e.固有蛍光と組織状態とを関連付けるモデルを用いて、固有蛍光から個体の組織状態を決定することと
を含む方法。
【請求項26】
被験者に関する生物学的情報を得ることをさらに含み、組織状態の決定が、前記情報、検出光、および生物学的情報と蛍光と組織状態とを関連付けるモデルから組織状態を決定することを含む請求項25に記載の方法。
【請求項27】
生物学的情報が被験者のラマン分光学的調査による情報を含む請求項26に記載の方法。
【請求項28】
生物学的情報が、個体の年齢、個体の身長、個体の体重、個体の家族の病歴、民族性、皮膚メラニン含有量、被験者の血中HDLコレステロール濃度、被験者の血中LDLコレステロール濃度、被験者の血中トリグリセリド濃度、被験者の組織からのレーザードップラー情報、またはこれらの組合せを含む請求項26に記載の方法。
【請求項29】
蛍光と組織状態とを関連付けるモデルを決定する方法であって、
a.複数の被験者の各々について
i.被験者の組織の一部について蛍光特性を決定することと、
ii.被験者の組織状態を決定することと、
b.多変量法を複数の蛍光特性の決定値および関連する組織状態の決定値に適用することによって、蛍光特性を組織状態に関連付けるモデルを作成することと
を含む方法。
【請求項30】
蛍光特性の決定が、組織の一部の固有蛍光を決定することを含む請求項29に記載の方法。
【請求項31】
蛍光特性の決定が、励起波長を有する励起光に応答する複数の検出波長の各々について組織の一部の固有蛍光を決定することを含む請求項29に記載の方法。
【請求項32】
蛍光特性の決定が、複数の励起波長の励起光に応答する検出波長について組織の一部の固有蛍光を決定することを含む請求項29に記載の方法。
【請求項33】
蛍光特性の決定が、複数の検出波長と複数の励起波長との対について組織の一部の固有蛍光を決定することを含む請求項29に記載の方法。
【請求項34】
被験者の組織の一部についての蛍光特性の決定が、
a.個体の組織の一部を励起光で照射することと、
b.組織内の化学物質の蛍光によって組織から放出される光を検出することと
を含む請求項29に記載の方法。
【請求項35】
組織から放出される光の検出が、
a.励起光の波長で組織の反射率特性を決定することと、
b.励起波長での照射に応答して組織から戻った光を検出することと、
c.検出光および組織の反射率特性から補正された蛍光測定値を決定することと
を含む請求項34に記載の方法。
【請求項36】
組織から放出される光の検出が、
a.検出波長で組織の反射率特性を決定することと、
b.照射に応じて組織から戻った光を検出波長で検出することと、
c.検出光および組織の反射率特性から補正された蛍光測定値を決定することと
を含む請求項34に記載の方法。
【請求項37】
組織から放出される光の検出が、
a.励起光の波長で組織の第1の反射率特性を決定することと、
b.検出波長で組織の第2の反射率特性を決定することと、
c.励起波長での照射に応答して皮膚から戻った光を検出波長で検出することと、
d.検出光ならびに組織の第1および第2の反射率特性から補正された蛍光測定値を決定することと
を含む請求項34に記載の方法。
【請求項38】
組織状態の決定が、
a.OGTTによって被験者を評価すること、
b.FPGによって被験者を評価すること、
c.HbA1c試験によって被験者を評価すること、
d.観察された疾病状態の徴候によって被験者を評価すること、
e.疾病状態に伴う合併症の存在または程度を決定すること、
f.以前の疾病状態の決定値を決定すること、
g.被験者の組織中の糖化最終産物のレベルを決定すること
のうち少なくとも1つを含む請求項29に記載の方法。
【請求項39】
多変量法の適用が、部分最小二乗法、主成分回帰、古典的最小二乗法、多重線形回帰、リッジ回帰アルゴリズムまたはこれらの組合せによって構築された多変量のモデルを適用することを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項40】
組織の一部が被験者の皮膚を含む請求項29に記載の方法。
【請求項41】
個体の組織状態を決定するための装置であって、
a.照射サブシステムと、
b.検出サブシステムと、
c.個体の皮膚の蛍光特性を組織状態と関連付けるモデルを含む分析サブシステムと
を含んでなる装置。
【請求項42】
モデルが、
a.複数の被験者の各々について、
i.被験者の組織の一部について蛍光特性を決定することと、
ii.被験者の組織状態を決定することと、
b.多変量法を複数の蛍光特性の決定値と関連する組織状態の決定値とに適用することによって、蛍光特性を組織状態に関連付けるモデルを作成することと
により決定されることを特徴とする、請求項41に記載の装置。
【請求項43】
個体の組織状態を決定する方法であって、
a.個体の皮膚の一部の蛍光特性を決定することと、
b.蛍光特性から個体の組織状態を決定するために多変量法を使用することと
を含む方法。
【請求項44】
a.蛍光特性が、皮膚の一部の固有蛍光を含むことと、
b.組織状態は、糖化最終産物の濃度を含むことと、
c.多変量法の使用は、皮膚の固有蛍光を糖化最終産物の濃度と関連付ける多変量モデルの適用を含むことと
を特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項45】
蛍光特性の決定が、振幅変調された励起光、短パルスの励起光、もしくは偏光された励起光、またはこれらの組合せに対する組織の応答を決定することを含む請求項43に記載の方法。
【請求項46】
組織状態が、糖化最終産物の存在、糖化最終産物の濃度、糖化最終産物の濃度変化、糖化コラーゲンの存在、糖化コラーゲンの濃度、糖化コラーゲンの濃度変化、個体の疾病状態、またはこれらの組合せを含む請求項1に記載の方法。
【請求項47】
蛍光特性の決定が、蛍光特性源の組織深度を識別するために、共焦点検出または光コヒーレンス断層撮影法を用いることを含む請求項43に記載の方法。
【請求項48】
蛍光特性の決定が、蛍光特性の空間分布に関する情報を得るために、ラスター走査または結像光学系を用いることを含む請求項43に記載の方法。
【請求項49】
蛍光特性の決定が、蛍光特性源の組織深度を識別するために最適化された光学プローブを用いることを含む請求項43に記載の方法。
【請求項50】
蛍光特性の決定が、蛍光特性源の組織深度を識別する空間的パターンに配置された光源
ファイバと受光ファイバとを備えた光ファイバ・プローブを用いることを含む請求項43に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2007−510159(P2007−510159A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538173(P2006−538173)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/035462
【国際公開番号】WO2005/045393
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(506148729)ベラライト,インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】VeraLight,Inc.
【Fターム(参考)】