説明

組織損傷のための幹細胞因子療法

本発明は、心臓血管疾患のような虚血性損傷組織の治療のための、幹細胞因子(SCF)の使用に関する。この方法は、SCFをコードしている核酸の投与を包含しており、該核酸は損傷部位へ送達され、その後SCFを発現する細胞内へ取り込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年11月14日出願の米国仮特許出願第60/737,058号の優先権を主張し、その全内容は参考として本明細書に含まれる。
【0002】
本発明は、虚血性の組織損傷の治療のための、ヒト幹細胞因子(SCF)の使用に関係する。本発明はまた、インビボにおいてSCFポリペプチドを発現するためのベクター及び送達法にも関係する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景についての以下の議論は、読者が本発明を理解するのを助けるべく提供されているにすぎず、本発明の先行技術を記述又は構築すると認めたものではない。
【0004】
幹細胞療法は、これらの細胞が血管新生において、またおそらくは心筋梗塞後の心機能の改善において、役割を果たしていることが証明されて以来、心臓病学の活発な研究領域となっている。幹細胞はまた、冠動脈疾患、うっ血性心不全、及び末梢動脈疾患といった、虚血性症候群の治療のための前臨床及び臨床試験においても、将来性を示している。ペリン(Perin)ら著、「サーキュレーション(Circulation)」、2003年、第107巻、p.r75−r83;ハイダー(Haider)ら著、「ジャーナル・オブ・モレキュラー・アンド・セルラー・カルディオロジー(J.Mol.Cell.Cardiol.)」、2005年、第38巻、第2号、p.225;デシャゾー(Deschaseaux)ら著、「カルディオ・バスキュラー・リサーチ(Cardiovascular Res.)」、2005年、第65巻、第2号、p.305;トンプソン(Thompson)ら著、「ジャーナル・オブ・ハート・アンド・ラング・トランスプランテーション(J.Heart Lung Transplant.)」、2005年、第24巻、第2号、p.2051;米国特許出願公開第20060008450号参照。培養における、幹細胞の効率的な拡大のための方法は記述されている。フォギエー(Feugier)ら著、「ジャーナル・オブ・ヘマトセラピー・アンド・ステム・セル・リサーチ(J.Hematotherapy and Stem Cell Res.)」、2002年、第11巻、p.127−138参照。
【0005】
これらの疾患における幹細胞由来の治療効果については、いくつかの作用機序が仮定されている;1)骨髄幹細胞の標品に存在する内皮前駆体が、虚血性組織における血管新生を誘導し、この血管新生が血流を増大し、それが損傷細胞のアポトーシスを防止しかつ組織修復を促進する。イテシュ(Itescu)ら著、「ジャーナル・オブ・モレキュラー・メディスン(J.Mol.Med.)」。2003年、第81巻、第5号、p.288;オルリック(Orlic)著、「プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Proc.Natl.Acad.Sci.(USA))」、2001年、第98巻、p.10344;2)骨髄由来幹細胞が内在性心筋細胞発生を誘導する。ヨーン(Yoon)ら著、「ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(J.Clin.Invest.)」、2005年、第115巻、p.326;3)哺乳類細胞は、幹細胞と心筋細胞との間にナノチューブ様の「ハイウェイ」を構築することができることが示されており、細胞質のオルガネラ及び液体は、心筋細胞内へ輸送される。コヤナギ(Koyanagi)ら著、「サーキュレーション・リサーチ(Circulation Res.)」、2005年、第96巻、p.1039−1041;及び、4)骨髄由来細胞によって分泌されたパラクリン(液性)因子が、心筋細胞の生存を促進する。グネッキ(Gnecchi)ら著、「ネイチャー・メディスン(Nat.Med.)」、2005年、第11巻、p.367−368参照。
【0006】
CD34骨髄幹細胞又は自己筋芽細胞の直接注入は、心筋梗塞後のような虚血性疾患において、臨床成果を改善することが見出されている。しかしながら、細胞のエキソビボプロセシングには、効率の高い適切な送達様式の欠如のような、有意な技術上の問題がある。タカギ(Takagi)ら著、「ジャージャル・オブ・バイオサイエンス・アンド・バイオエンジニアリング(J.Biosci.Bioengineer.)」、2005年、第99巻、p.189−196参照。さらに、細胞生成物の製造には、適切な無菌性の維持、コールドチェーン輸送、品質制御試験ロジスティックス、その他を含む複雑な調節ネットワークが存在する(ボッセ(Bosse)ら著、「アナルズ・オブ・ヘマトロジー(Ann Hematol)」、2005年、第79巻、p.469−476.最後に、非心臓細胞を心臓へ注入することは、生命にかかわる可能性のある不整脈を引き起すことがある。メナシェ(Menasche)ら著、「ジャーナル・オブ・ディ・アメリカン・カレッジ・オブ・カルディオロジー(J.Am.Coll.Cardiol.)」、2003年、第41巻、第7号、p.1078−1083参照。
【0007】
SCF及びG−CSFといった特定のサイトカインの投与は、急性心筋梗塞後の心機能の回復を強化することが示されている。オルリック(Orlic)著、「プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ)」、2001年、第98巻、第18号、p.10344−10349;タカノ(Takano)ら著、「カレント・ファーマシューティカル・デザイン(Current Pharmaceutical Design)」、2003年、第9巻、p.1121−1127;オーツカ(Ohtsuka)ら著、「ザ・ファセブ・ジャーナル(The FASEB J.)」、2004年、第18巻、第7号、p.851−3参照。VEGF165、VEGF189、ANG−1、又はSDF−1をコードしているアデノウイルスベクターの投与は、造血幹細胞及び内皮前駆細胞の血漿レベルを増大するべく使用されてきた。ラフィ(Rafii)ら著、「ジーン・セラピー(Gene Therapy)」、2002年、第9巻、p.631−641。
【0008】
幹細胞因子(「SCF」)は、c−kitとして知られるチロシンキナーゼ受容体のリガンドである。ゼボ(Zsebo)著、「セル(Cell)」、1990年、第63巻、第1号、p.213−24;米国特許第6,218,148号参照。SCFは、初期CD34骨髄前駆細胞の増殖を誘導する。マウス、イヌ、及びヒトにおける数多くの研究において、SCF/c−kit経路が、虚血性損傷後の正常な修復プロセスに関与していることが示されてきた。遺伝的にc−kitシグナリングに欠失のあるマウスは、心筋梗塞後の回復が、心臓におけるc−kit細胞のSCF誘導性の増殖に依存することが示されている。ファゼル(Fazel)ら著、「心筋梗塞後の幹細胞因子受容体及び心臓再生(Stem cell factor receptor and cardiac regeneration after myocardial infarction)、米国心臓協会学術集会2004年;サーキュレーション(Circulation)」、2004年10月26日、第110巻(付録17)要旨番号2182;アヤク(Ayach)ら著、「c−KitBM細胞は心筋梗塞後の心筋及び心臓機能の悪化を低減するために不可欠である(c−KitBM cells are essential for reducing deteriorating myocardial and heart function post−myocardial infarction)米国心臓協会学術集会2004年;サーキュレーション(Circulation)」、2004年10月26日、第110巻(付録17)要旨番号317参照。SCFは、イヌの心臓組織において、心筋梗塞後に誘導される。フランゴギアニス(Frangogiannis)ら、「サーキュレーション」、1998年、第98巻、p.687参照。SCF mRNAは、心筋梗塞後の再灌流の72時間以内に誘導される。フランゴギアニスら、1998年参照。梗塞した心筋からのSCF産生は、そこに定住するマクロファージのサブセット、及び虚血部位における密度の増したc−kit肥満細胞にさかのぼって追跡されている。肥満細胞は、血管再生プロセスを促進する血管内皮成長因子(VEGF)のような血管形成因子を分泌することが可能である。ハイシッヒ(Heissig)ら著、「ザ・ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディスン(J.Exp.Med.)」、2005年、第202巻、第6号、p.739−50参照。SCF発現は、心筋梗塞後の心臓において低減されることが見出された。ウォルドベク(Woldbaek)ら著、「アクタ・フィジオロジカ・スカンジナビカ(Acta Physiol Scand)」、2002年、第175巻、p.173−181参照。インビトロの研究は、SCF遺伝子発現が、TNF−αを含む前炎症性サイトカインにより抑制可能であることを示した。アンドリュース(Andrews)ら著、「ブラッド(Blood)」、1992年、第80巻、p.365A;ラングレー(Langley)、「ブラッド」、1993年、第81巻、p.656−660参照。
【0009】
米国特許第6,723,561号は、SCFをコードしているレトロウイルスベクター及びSCFを発現するレトロウイルスパッケージング細胞系と、患者において外来核酸を幹細胞へ送達するためのそれらの使用とを記述している。
【発明の開示】
【0010】
患者における損傷の治療のための方法について記載する。この方法は、SCFをコードしている核酸の、該核酸からSCFを発現する細胞によってそれが取り込まれる場所である、患者の損傷部位への送達を包含する。核酸によりコードされるSCFの形状は、膜結合型、分泌可能型、又はその双方であってよい。投与及び損傷部位の細胞による取込みの後、発現されたSCFは、損傷組織の修復を達成するべく、身体のc−kit発現幹細胞及び/又は肥満細胞を損傷部位へ動員することができる。
【0011】
核酸は可溶性分子として、単独で、又はタンパク質、脂質、及び他の物質と結合して、ウイルスの一部として、或いはリポソームのような人工的な粒子内に封入されて送達可能であることが理解されるべきである。核酸は、しかしながら、細胞内では送達されない。しかしながら細胞は、核酸の投与とは分離しかつ別個に投与されてもよいことが理解されるべきである。そのように投与された細胞は、肝細胞を包含してもよい。本方法はしかしながら、かかる細胞の投与を何ら必要としない。
【0012】
この治療法の対象となる損傷には、虚血性損傷が包含される。本明細書では、「虚血性損傷」は、動脈狭窄又は閉塞によって引き起こされるような、組織への不充分な血液供給の結果として生じる組織損傷を意味する。重症の虚血は、組織の壊死をもたらすことがある。本明細書において虚血性組織の治療とは、虚血性傷害から結果として生じる損傷の重さを軽減することを意味する。
【0013】
好ましくは、虚血性損傷は心臓血管系に関連する。本明細書に開示された方法により治療可能な、心臓血管系に関与する虚血性損傷は、心筋梗塞、虚血性発作、冠動脈疾患、末梢血管疾患(例えば末梢動脈疾患)、及びうっ血性心不全を包含する。治療に適用可能な他の損傷は、末梢神経障害、再建手術及び損傷治癒、及び、損傷プロセスの一部としての低減されたSCFレベルにより特徴づけられる他の疾患を包含する。本発明から除外される損傷は、患者の中枢神経系に対する神経損傷を包含する。
【0014】
投与された核酸によりコードされたSCFは、好ましくはヒトSCFである。コードされたSCFは、分泌可能型のSCFであってもよい。好ましい分泌可能型のSCFは、図1のアミノ酸26−165を含んでなる。コードされたSCFはまた、膜結合型のSCFであってもよい。好ましい膜結合型のSCFは、図1のアミノ酸25−245を含んでなる。また、膜結合型のSCF及び分泌可能型のSCFをコードする核酸の投与も包含される。当該技術分野において周知のように、それぞれの形状をコードしている核酸は、単一の核酸中に存在してよく、或いは別々の核酸中に存在してもよい。
【0015】
SCFをコードしている核酸は、発現ベクターの形状であることが可能であり、それはウイルスベクターであってもよく、又は非ウイルスベクターであってもよい。好ましいウイルスベクターは、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、又はポリオーマウイルスから由来したものを包含する。
【0016】
投与された核酸は、損傷組織に存在するリガンド用受容体を使用して、損傷部位へ送達されてもよい。標的化成分を使用したウイルスベクター媒介性の形質導入は、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、及びHSV−1アンプリコンを含む、数多くのウイルスベクター系について記述されてきた。例えば、タカダ(Takada)ら著、「レビューズ・イン・メディカル・ビロロジー(Rev.Med.Virol.)」、2003年、第13巻、p.387−398参照。別法として、又は付加的に、核酸は、操縦可能なカテーテルのような装置の助けにより損傷部位へ投与されてもよい。1つの実施態様においては、カテーテルは、核酸を虚血性の心臓組織へ送達するべく使用される。もう1つの実施態様においては、核酸は、心臓の壁に移植された装置を経由して、虚血性の心臓組織へ送達される。さらにもう1つの実施態様においては、核酸は冠動脈循環へ送達され、それにより核酸と虚血心組織との接触をもたらす。
【0017】
治療の方法はまた、肝細胞を患者へ投与することを包含してもよい。投与される幹細胞は、好ましくは造血性又は間充織性である。幹細胞は、外来性幹細胞か、又は患者の細胞供給源からエキソビボで発生された内在性幹細胞であってもよく、その後に患者へ戻される。
【0018】
治療の方法はまた、1以上のサイトカイン又はケモカインを患者に投与することを包含してもよい。サイトカイン又はケモカインは、肝細胞と組合せて投与されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書では、虚血性損傷のような損傷を患っている患者を治療するための方法であって、SCFをコードしている核酸を当該患者へ投与することを含んでなり、当該核酸が損傷部位へ送達され、かつ、SCFを発現する細胞内へ取り込まれる方法が提供される。すでに述べたように、この治療法は、患者への細胞の投与を必要としない。本発明の方法に従って損傷部位において産生されたSCFは、c−kit発現性幹細胞及び/又は肥満細胞を骨髄のような身体の部位から動員し、その後にそれらが損傷部位に居住することが信じられている。細胞は損傷部位に居住し、幹細胞及び間質上に発現されることが公知の、任意の種々の受容体/リガンド・ペアにより、その中の間質細胞へ付着してもよい。かかる受容体/リガンド・ペアは、SCF/c−kit、SDF−1/CXCR4、及びVCAM−1/VLA−4を包含してもよい。コトラー・フォックス(Cottler−Fox)ら著、「米国血液学会エデュケーションプログラムブック(Am.Soc.Hematol.Educ.Program Book)」、カリフォルニア州、サンディエゴ、2003年、p.419参照。
【0020】
本明細書に記述するように、損傷部位へのSCFの標的化された送達はまた、骨髄から動員された、血中を循環するc−kit発現細胞の数を増大し、かかる細胞の虚血性組織への標的化を補助してもよい。本明細書に記述された、損傷部位へのSCFの標的化された送達はまた、生着した細胞の増殖を増大してもよい。これらの任意の及び全ての結果が、損傷部位へのSCF核酸の標的化に続いて起きてもよい。
【0021】
本明細書では、「損傷部位への」送達は、SCFをコードしている核酸が損傷組織内に存在する細胞へ送達されることを意味する。当業者は、損傷部位への送達が、投与された核酸の全てが損傷組織部位へ送達されること、或いは、投与されたいかなる核酸も損傷部位の外の細胞へ送達されないこと、を必要とするものではないことを理解している。投与された核酸は、もし損傷組織内の細胞により発現されるSCFの量が、損傷部位へ幹細胞を動員して治療的改善を与えるべく充分であるなら、身体の損傷組織の外側の細胞によって取りまれかつ発現されてもよい。本明細書では、SCFをコードしている核酸を投与することについて言及することは、むき出しの核酸を投与することに限らず、核酸をタンパク質、脂質、及び他の物質と結合して投与することも包含することが理解されるべきである。したがって、投与された核酸は、ウイルス粒子中にパッケージされてもよいウイルスベクター、及びリポソームと結合している核酸などであることが可能である。
【0022】
本明細書に記述されたSCF療法は、独立した治療であることが可能であり、標準的な医学的管理と併用されてもよく、或いは他の特殊化された療法、例えばサイトカイン、ケモカイン、及び/又は幹細胞の投与と併用されてもよい。
【0023】
好ましいアプローチにおいては、損傷は、心臓血管系に関連した虚血性損傷である。本明細書において用いられる用語「心臓血管障害」は、心臓及び血管の異常を意味する。この用語は、制限されることなく、腎血管性高血圧、うっ血性心不全、大動脈瘤、腸骨又は大腿動脈瘤、肺動脈塞栓症、心筋梗塞、急性冠症候群、血管痛、原発性高血圧、心房細動、収縮期機能不全、拡張期機能不全、心筋炎、アテローム性動脈硬化症、心房性頻脈、心室細動、心内膜炎、及び末梢血管疾患を包含することを意図されている。冠動脈疾患、うっ血性心不全、及び末梢動脈疾患のような、虚血からの結果として生じる心臓血管症状は、本発明の方法を用いた治療に特に適している。本明細書の方法によれば、心臓又は末梢部位例えば脚を含むような、心臓血管系損傷の治療は、SCFをコードしている核酸が損傷部位へ送達されるという方法により遂行される。
【0024】
本明細書においては、「幹細胞因子」又は「SCF」又は「SCFポリペプチド」は、天然のSCF(例えば天然のヒトSCF)、並びに、天然の幹細胞因子の少なくとも1つの生物活性を保持するよう天然産幹細胞因子の充分に複製可能なアミノ酸配列及びグリコシル化を有している、非天然の(すなわち天然とは異なる)ポリペプチドを意味する。SCFの生物活性は、赤血球系、巨核球、顆粒球、リンパ球、及びマクロファージ細胞に成熟することが可能な、初期造血前駆体の増殖刺激を包含する。SCFはまた、SCF投与後の動物において、骨髄系及びリンパ系の両系列の造血細胞の数を増大するべく機能する。幹細胞の際立った特徴の1つは、骨髄系及びリンパ系の双方の細胞に分化するその能力である。スパングルード(Spangrude)ら著、「サイエンス(Science)」、1988年、第241巻、p.58−62参照。
【0025】
SCFポリペプチドは、完全長の天然ポリペプチドであるか、又はその配列の変異体であることが可能である。例えば、マーチン(Martin,FH.)著、「セル」、1990年、第63巻、p.203−211;米国特許第6,218,148号参照。SCFポリペプチドはまた、トランケート型又は分泌型のSCFポリペプチド(例えば細胞外ドメイン配列を含有する可溶性の形状)、変異型(例えばオルタナティブスプライシングされた形状)、及びSCFポリペプチドのアレル変異体を包含してもよい。
【0026】
完全長の天然のSCFポリペプチドは、273アミノ酸の前駆体として産生され、シグナル配列として残基1−25を、細胞外ドメインとして残基26−214を、潜在的膜貫通ドメインとして残基215−237を、及び潜在的細胞質ドメインとして残基238−273を含んでなる。スイスプロット(Swiss−Prot)エントリーP21583、又は図1参照。完全長の天然のヒトSCFをコードしているヌクレオチド配列は、図2において、nt(ヌクレオチド)位置41−862として示されている(ジェンバンク(GenBank)受け入れ番号BC074725も参照のこと)。SCFのスプライス変異体をコードしている核酸配列は、ジェンバンクにおいて、受け入れ番号NM_000899及びNM_003994.2で見出される。したがって、ヒトの天然のSCFは、スイスプロットエントリーP21583又は図1の、位置26−273の248アミノ酸を表す。天然のヒトSCFのより短いバージョンは、スイスプロットエントリーP21583又は図1の位置26−245を表す膜結合型、及び、スイスプロットエントリーP21583又は図1の位置26−165を表す可溶性バージョンを包含する。
【0027】
本明細書においては、「可溶性SCF」又は「分泌可能なSCF」は、c−kitに対し生物活性を有するが、機能性の膜貫通ドメインを欠く形状のSCFを意味する。機能性の膜貫通ドメインを欠く分泌可能な形状のSCFは、スイスプロットエントリーP21583又は図1の、238−273の配列の全て又はほぼ全てを欠いている。「機能性の膜貫通ドメイン」は、タンパク質に含まれた場合、該タンパク質を産生する細胞の形質膜中に該タンパク質を保持するものである。可溶性又は分泌可能なSCFは、洗剤の添加なしに水溶液中に維持されることが可能である。
【0028】
本明細書におけるSCFには、SCFポリペプチドの変異体(「変異体SCFポリペプチド」)を包含するが、それは「活性のある」SCFポリペプチドを意味し、その活性は本明細書に定義されたとおりであって、天然のヒトSCFポリペプチド配列と少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有する。かかるSCFポリペプチド変異体は、例えば、1以上のアミノ酸残基が、N−又はC−末端か、又は配列内において、付加されるか、置換されるか、又は欠失されているSCFポリペプチドを包含する。通常、変異体SCFポリペプチドは、シグナルペプチドをもつか又はもたない記述された天然のアミノ酸配列と、少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性、さらに好ましくは少なくとも約95%の配列同一性、96%、97%、98%、99%、又は99%を超える配列同一性を有することができる。天然及び非天然のSCFポリペプチドはまた、米国特許第6,759,215又は6,207,417号に記述されている。
【0029】
SCFポリペプチドはまた、プレ−又はプロ−タンパク質、或いは成熟タンパク質を包含してよく、小胞体(ER)、分泌小胞、細胞内区画、又は細胞外空間へ、典型的には、例えばシグナル配列の結果として、向けられることが可能なポリペプチド又はタンパク質を包含するが、必ずしもシグナル配列をもたずに細胞外空間へ放出されるタンパク質も包含される。一般に、ポリペプチドはプロセシング、例えばシグナル配列の切断、修飾、折りたたみ、その他を受け、結果として成熟型を生じる(例えば、アルバーツ(Alberets)ら著、「モレキュラー・バイオロジー・オブ・ザ・セル(Molecular Biology of The Cell)(細胞の分子生物学)」、ガーランド(Garland)出版、ニューヨーク州、ニューヨーク、1994年、p.557−592参照。SCFポリペプチドが細胞外空間へ放出されると、細胞外プロセシングを受けて「成熟」タンパク質を生じることが可能である。細胞外空間への放出は、例えば、エキソサイトーシス及びタンパク質分解的切断を含む、多くの機構によって起こることが可能である。
【0030】
SCFポリペプチドはまた、「改変され」てよく、結果として「変異体」を生じ、また、サイレントな変化をもたらしかつ結果として機能上同等なタンパク質を生じる、アミノ酸残基の欠失、挿入、又は置換を含有してもよい。意図的なアミノ酸置換は、SCFポリペプチドの生物学的又は免疫学的活性が保持される限り、残基の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性の性質における類似性に基づき行われてよい。例えば、負に帯電したアミノ酸は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を包含してよく、正に帯電したアミノ酸は、リジン及びアルギニンを包含してもよい。類似した親水性値を有する非荷電極性側鎖をもつアミノ酸は:アスパラギン及びグルタミン;及びセリン及びスレオニンを含有してもよい。類似した親水性値を有する非荷電側鎖をもつアミノ酸は:ロイシン、イソロイシン、及びバリン;グリシン及びアラニン;及びフェニルアラニン及びチロシンを包含してもよい。
【0031】
SCFポリペプチドは、当該技術分野において公知の任意の方法で調製可能である。例えば、天然のSCFポリペプチドを単離してもよいし、組換えにより産生してもよいし、合成により産生してもよいし、或いはこれらの方法の任意の組合せにより産生してもよい。例えば、組換え生産されるSCFポリペプチドのバージョンは、分泌ポリペプチドを含め、本明細書に記述された技術を用いて、或いは当該技術分野において公知の別の方法で、精製されることが可能である。マーチン(Martin FH)ら著、「ラット及びヒト幹細胞因子DNAの一次構造及び機能性発現(Primary structure and functional expression of rat and human stem cell factor DNAs)、セル」、1990年、第63巻、p.203参照。SCFポリペプチドはまた、天然の、合成の、又は組換えによる供給源から精製されてよく、或いは当該技術分野において公知の別の方法で、例えば、SCF又はSCFへ融合されたペプチド配列に対して生じさせた抗体を用いて精製されてもよい。例えば、米国特許第6,759,215又は6,207,417号参照。
【0032】
本明細書に記述されたSCFポリペプチド及び変異体は、核酸によりコードされる。コードしているSCFポリヌクレオチド配列、通常、SCFポリペプチド変異体は、天然のSCF核酸配列と、少なくとも約75%の核酸配列同一性、さらに好ましくは少なくとも約80%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約81%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約82%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約83%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約84%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約85%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約86%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約87%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約88%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約89%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約90%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約91%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約92%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約93%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約94%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約95%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約96%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約97%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約98%の核酸配列同一性、なおさらに好ましくは少なくとも約99%の核酸配列同一性を有することができる。好ましくは、変異体は、天然のポリヌクレオチド配列に対し、少なくとも約95%の、さらに好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、99%の、又は99%を超える配列同一性をもつことができる。マーチンら著、「ラット及びヒト幹細胞因子DNAの一次構造及び機能性発現;セル(Cell)」、1990年、第63巻、p.203−211参照。当業者には、遺伝コードの縮重の結果として、SCFポリペプチドをコードしている多数のポリヌクレオチド配列(任意の公知及び天然の遺伝子のポリヌクレオチド配列に対し最小の相同性をもつものもある)が産生されてよいことを理解するであろう。したがってSCFをコードする核酸は、可能なコドンの選択に基づく選択的組合せにより作成可能であった、各々の及び全ての可能なポリヌクレオチド配列の変異体を意図している。これらの組合せは、天然のSCFのポリヌクレオチド配列へ適用された標準的なトリプレット遺伝コードに従って作成されており、かかる変異体の全てが、明確に開示されているものとみなされるべきである。天然及び非天然のSCFポリペプチドをコードしているDNA配列は、米国特許第6,759,215又は6,207,417号に記述されている。
【0033】
コードしているポリヌクレオチドは、合成化学により調製されてもよい。生成後、合成配列は単独で使用されるか、又は、多くの利用可能な発現ベクター及び細胞系内へ、当該技術分野において周知の試薬を用いて挿入されてもよい。さらに、合成化学は、SCFをコードする配列中に突然変異を導入するべく使用されてもよい。
【0034】
コードしているSCFポリヌクレオチドは、ポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドから構成されることが可能であり、それらは未修飾のRNA又はDNAか、又は修飾されたRNA又はDNAでもよい。例えばSCFポリヌクレオチドは、単鎖及び二本鎖DNA、単鎖及び二本鎖領域の混合物であるDNA、単鎖及び二本鎖RNA、及び、単鎖及び二本鎖領域の混合物であるRNA、単鎖か、又はさらに典型的には、二本鎖か又は単鎖及び二本鎖領域の混合物であってもよい、DNA及びRNAを含んでなるハイブリッド分子から構成されることが可能である。さらに、コードしているSCFポリヌクレオチドは、RNA又はDNA、又はRNA及びDNAの双方を含んでなる、三本鎖領域から構成されることが可能である。SCFポリヌクレオチドはまた、1以上の修飾された塩基か、或いは、安定性のため又は他の理由のために修飾されたDNA又はRNA主鎖を含有してもよい。「修飾された」塩基は、例えば、トリチル化された塩基、及び、イノシンのような異常塩基を包含する。DNA及びRNAに対し、多様な修飾が行われることが可能である;したがって、「ポリヌクレオチド」は、化学的、酵素的、又は代謝的に修飾された形状を含む。
【0035】
本明細書において使用される用語「類似した」又は「類似性」は、配列内の1以上のブロック又は領域における部分的な配列同一性又は配列類似性によって配列が関連づけられる、異なる核酸又はアミノ酸配列の間の関係を述べる。かかる類似したアミノ酸残基は、異なるアミノ酸配列間で同一であってもよく、或いは異なる配列間の保存的アミノ酸置換を表してもよい。したがって、用語「同一性」は、異なるアミノ酸配列間で同一であるアミノ酸残基を述べる。本明細書において同定された各SCFアミノ酸配列に関するアミノ酸配列類似性又は同一性は、配列を整列し、必要であればギャップを導入して、最大のパーセント配列類似性又は同一性を達成した後の、SCFポリペプチド配列中のアミノ酸残基と類似又は同一である、候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。本明細書に定義されたSCFアミノ酸配列に関する「パーセント(%)アミノ酸同一性」は、配列を整列し、必要であればギャップを導入して、最大のパーセント配列同一性を達成した後の、SCFポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である、候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義され、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない。同様に、本明細書において同定されたSCFポリヌクレオチド配列に関する「パーセント(%)核酸配列同一性」は、配列を整列し、必要であればギャップを導入して、最大のパーセント配列同一性を達成した後の、SCFポリヌクレオチド配列中のヌクレオチドと同一である、候補配列中のヌクレオチドのパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定するためのアライメントは、当該技術分野の技術の範囲内にある種々の方法で、例えば、公に利用可能なコンピュータソフトウエア、例えばALIGN(アライン)、ALIGN−2、Megalign(メグアライン)(DNASTAR(DNAスター))、又はBLAST(ブラスト)(例えば、Blast、Blast−2、WU−Blast−2)ソフトウエアを用いて、かつギャップペナルティその他のためのデフォルトセッティングを用いて達成され得る。当業者は、比較される配列の完全長にわたり最大アラインメントを達成するため、必要とされる任意のアルゴリズムを含め、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定することが可能である。例えば、本明細書において使用されるパーセント同一性値は、WU−BLAST−2を用いて生成される[アルチュール(Altschul)ら著、「メソズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、1996年、第266巻、p.460−80]。殆どのWU−BLAST−2検索パラメータは、デフォルト値に設定される。デフォルト値に設定されないもの、すなわち可調整パラメータは、以下の値で設定される:オーバーラップスパン=1;オーバーラップフラクション=0.125;ワード閾値(T)=11;及びスコアリングマトリックス=BLOSUM62。本明細書では、パーセントアミノ酸同一性値は、(a)興味のSCFポリペプチドのアミノ酸配列と、興味の比較アミノ酸配列(すなわち、それに対し興味のSCFポリペプチドが比較されている配列)との間の、WU−BLAST−2によって決定される、マッチしている同一アミノ酸残基数を、(b)関心のあるSCFポリペプチドの全アミノ酸残基数でそれぞれ割ることにより決定される。
【0036】
2つの核酸配列が実質的に同一であることの指標は、第1の核酸によりコードされたポリペプチドが、以下に記述されるように、第2の核酸によりコードされたポリペプチドと免疫学的に交差反応性であることである。したがって、例えば二つのポリペプチドが保存的置換によってのみ異なっている場合には、ポリペプチドは典型的に、第2のポリペプチドに対し実質的に同一である。2つの核酸配列が実質的に同一であることのもう1つの指標は、当該技術分野において周知のように、2つの分子がストリンジェントな条件下に互いにハイブリッド形成することである。代表的な高いストリンジェントな条件は、低塩濃度(例えば、<4倍のSSC緩衝液及び/又は <2倍のSSC緩衝液)、非イオン性界面活性剤(例えば、0.1%SDS)の存在、及び/又は、比較的高い温度(例えば、>55℃ 及び/又は >70℃)を包含する。
【0037】
もう1つの実施態様においては、SCF変異体ポリペプチドは、完全長SCF天然ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列に対し、好ましくはストリンジェントなハイブリッド形成及び洗浄条件下に、ハイブリッド形成することが可能な核酸分子によりコードされる。本明細書において使用される用語「成熟タンパク質」又は「成熟ポリペプチド」は、哺乳類細胞における発現により産生されたタンパク質の形状を意味する。一般的には、成長しつつあるポリペプチド鎖の粗面小胞体を横切る輸送がひとたび開始されれば、哺乳類細胞により分泌されたタンパク質はシグナルペプチド(SP)配列を有しており、それは完全なポリペプチドから切断されて、「成熟」型のタンパク質を産生すると仮定されている。分泌されたタンパク質の切断は、しばしば均一ではなく、結果として1種類以上の成熟タンパク質を生じることがある。分泌されたタンパク質の切断部位は、完全なタンパク質の一次アミノ酸配列から決定される。
【0038】
本明細書においては、用語「ベクター」は、インタクトなレプリコンを含んでなり、細胞内におかれたとき、例えば形質転換のプロセスにより、ベクターが複製されてよいようにする、非染色体核酸を意味する。ウイルスベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、パポウイルス、又は他の方法で修飾された天然のウイルスを包含する。ベクターはまた、細胞による取込みを可能にする化学物質又は物質を用いた、核酸の製剤も意味する。近年の生化学及び分子生物学の進歩は、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、及びプラスミドが、それぞれ外来性のRNA又はDNAを含有するべく製された、組換えベクターの構築をもたらした。特に、組換えベクターの例には非相同のRNA又はDNAを包含する。
【0039】
核酸を送達するためのベクターは、ウイルス性、非ウイルス性、又は物理的であることが可能である。例えば、ローゼンバーグ(Rosenberg)ら著、「サイエンス」、1988年、第242巻、p.1575−1578、及びウォルフ(Wolff)ら著、「プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ」、1989年、第86巻、p.9011−9014参照。遺伝子療法における使用のための方法及び組成物を議論している最近の総説は、エック(Eck)ら著、「グッドマン及びギルマンの治療の薬理学的基礎(Goodman&Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics)」第9版、ハードマン(Hardman)ら編、マグレーヒル(McGray−Hill)、ニューヨーク、1996年、第5章、p.77−101;ウイルソン(Wilson)著、「クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・イムノロジー(Clin.Exp.Immunol.)」、1997年、第107巻(付録1)、p.31−32;ウイベル(Wivel)ら著、「ヘマトロジー/オンコロジー・クリニックス・オブ・ノース・アメリカ(Hematology/Oncology Clinics of North America)、遺伝子療法(Gene Therapy」、エック(S.L.Eck)ら編、第12巻、第3号、p.483−501;ロマーノ(Romano)ら著「ステム・セルズ(Stem Cells)」、2000年、第18巻、p.19−39、及びそれらに引用された参考文献を包含する。米国特許第6,080,728号もまた、多様な遺伝子送達法及び組成物について議論を提供している。送達の経路は、例えば、全身投与及びIn situの投与を包含する。周知のウイルス送達技術は、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、フォーミーウイルス、単純ヘルペスウイルス、及びアデノ随伴ウイルスベクターの使用を包含する。
【0040】
核酸を送達するための代表的な非ウイルスベクターは、むき出しのDNA;単独で又はカチオン性ポリマーと一緒に、カチオン性脂質と複合されたDNA;アニオン性及びカチオン性リポソーム;DNA−タンパク質複合体、及び、カチオン性ポリマー例えば不均質ポリリジン、規定された長さのオリゴペプチド、及び、ある場合にはリポソーム中に含有されたポリエチレンイミンと共に凝縮された、DNAを含んでなる粒子;及び、ウイルス及びポリリジン−DNAを含んでなる三重複合体の使用を包含する。多様な異なる標的部位に対するインビボのDNA媒介遺伝子移入は、広範に研究されてきた。むき出しのDNAは、筋肉内で長期間の発現を提供することが可能である。ウォルフ(Wolff)ら著、「ヒューマン・モレキュラー・ジェネティクス(Human Mol.Genet.)」、1992年、第1巻、p.363−369;ウォルフら著、「サイエンス」、1990年、第247巻、p.1465−1468参照。DNA媒介遺伝子移入はまた、肝臓、心臓、肺、脳、及び内皮細胞において述べられている。ズー(Zhu)ら著、「サイエンス」、1993年、第261巻、p.209−211;ナベル(Nabel)ら著、「サイエンス」、1989年、第244巻、p.1342−1344参照。遺伝子移入用のDNAはまた、種々のカチオン性脂質、ポリカチオン、及び他のコンジュゲート物質と結合して使用されてもよい。例えば、プシビルスカ(Przybylska)ら著、「ザ・ジャーナル・オブ・ジーン・メディスン(J.Gene Med.)」、2004年、第6巻、p.85−92;スバーン(Svahn)ら著、「ザ・ジャーナル・オブ・ジーン・メディスン」、2004年、第6巻、p.S36−S44;参照。
【0041】
核酸は、もう1つの核酸配列と機能的な関係におかれたとき「オペラブルに連結され(operably linked)」ている。例えば、プレ配列又は分泌リーダー用のDNAは、もしそれがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現されるなら、該ポリペプチドのDNAに対しオペラブルに連結されており;プロモーター又はエンハンサーは、もしそれが配列の転写に影響を及ぼすなら、該コーディング配列に対しオペラブルに連結されており;或いは、リボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を促進するように位置しているなら、コーディング配列に対しオペラブルに連結されている。一般に、「オペラブルに連結された」は、DNA配列が機能性に連結されており、ある場合には分泌リーダーのように隣接し、それはまたリーディングフレーム内でも隣接していることを意味する。しかしながらエンハンサーは、近接していなければならないことはない。連結は、便利な制限部位におけるライゲーションにより遂行される。かかる部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーが、通常のプラクティスに従って使用される。
【0042】
細胞内へ核酸を導入するための技術は、核酸が培養細胞内へインビトロで移入されるか、又は意図された宿主の細胞内へインビボで移入されるかに依存して変わる。インビトロで哺乳類細胞内へ核酸を移入するために適した技術は、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAEデキストラン、及びリン酸カルシウム沈澱法などの使用を包含する。好ましいインビボの遺伝子移入技術は、ウイルス性(典型的にはレトロウイルス性、又はアデノウイルス性)ベクターを用いたトランスフェクション、及びウイスルコートタンパク質−リポソーム媒介性のトランスフェクションを包含する(ザウ(Dzau)ら著、「トレンズ・イン・バイオテクノロジー(Trends in Biotechnolgy)」、1993年、第11巻、第5号、p.205−10参照)。好適なベクターは、当該技術分野において周知の任意の方法を用いて構築可能である。例えば、サンブルック(Sambrook)ら著、「分子クローニング・実験室マニュアル(Molecular Cloning,A Laboratory Manual)」、第2版、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)出版、1989年、及びアズベル(Ausubel)ら編、「分子生物学における最新のプロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley&Sons)、ニューヨーク州、(1987年及び最新版);ムーア(Moore)ら著、「アナルズ・オブ・ザ・ニューヨーク・アカデミー・オブ・サイエンセズ(Ann N Y Acad Sci)」、2001年、第938巻、p.36−45−47参照。カチオン性リポソーム、例えばCD−Chol/DOPEリポソームの使用は、DNA/カチオン性リポソーム複合体の静脈内注射によってDNAを広範囲の組織へ送達するための、好適なビヒクルとして広く記録されてきた。例えば、カプレン(Caplen)ら著、「ネイチャー・メディスン(Nature Med.)」、1995年、第1巻、p.39−46;ズー(Zhu)ら著、「サイエンス」、1993年、第261巻、p.209−211参照。標的細胞に対する遺伝子のリポソーム移入は、形質膜との融合により( )。リポソーム複合体の好首尾の適用の実例は、レッスンーウッド(Lesson−Wood)ら著、「ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)」、1995年、第6巻、p.395−405、及びシュー(Xu)ら著、「モレキュラー・ジェネティクス・アンド・メタボリズム(Molecular Genetics and Metabolism)」、1998年、第63巻、p.103−109、のものを包含する。
【0043】
核酸は、当該技術分野において公知の種々の手段のいずれかにより、患者の損傷部位へ送達される。ある部位への送達は、受容体/リガンド仲介性のアプローチ、例えば細胞表面膜タンパク質又は標的細胞に特異的な抗体、及び標的細胞上の受容体用のリガンドなどにより達成されてもよい。リポソームが使用される場合、エンドサイトーシスに関連して細胞表面膜タンパクに結合するタンパク質、例えば、特定の細胞タイプに向性をもつカプシドタンパク質又はそのフラグメント、サイクル中にインターナリゼーションを受けるタンパク質用の抗体、細胞内局在化を標的としかつ細胞内の半減期を増すタンパク質が、標的化のため、及び/又は、取込みを促進するべく使用されてもよい。受容体仲介エンドサイトーシスの技術は、例えば、ウー(Wu)ら著、「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)」、1987年、第262巻、第10号、p.4429−32;及びワグナー(Wagner)ら著、「プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ」、1990年、第87巻、第9号、p.3410−4、に記述されている。遺伝子作成及び遺伝子療法プロトコールの総説については、アンダーソン(Anderson)著、「サイエンス」、1992年、第256巻、第5058号、808−13参照。
【0044】
核酸は、カテーテルのような機械的装置の助けにより、患者の損傷部位へ送達されてよい。例えば心臓が損傷された場合、核酸は、アルトマン(Altman)ら(米国特許公開第20020010462号)により記述されたように、心筋間質領域へ送達されてもよい。事実上、可動型(steerable)カテーテルは、心腔内の局在化に向けて改善されており、心臓壁に隣接して設置される。薬物送達カテーテルは、心臓壁を貫通し、所望の体積の粒子送達スラリー又は懸濁物(0.05ml−2.0ml)が注入されるよう、改善されている。貫通構造は外されるものであって、薬物送達カテーテルは、送達カテーテル内の短い距離を引き戻される。可動型カテーテルの位置が変えられ、このプロセスが必要な回数だけ繰り返される。この方法では、送達は、SCFポリペプチドを発現するためのベクターを含有する安定なリポソーム標品を送達するカテーテル系を介している。このアプローチはまた、SCFをコードする核酸を、心臓血管系へ又は心臓血管系の他の領域への標的化に使用されてよい。
【0045】
ストロイカー−ブディエ(Struijker−Boudier)ら、米国特許公開第20030009145号、により記述されたような、ミニチュアポンプの形状、及び/又は、デポー剤及び移植片の形状での徐放性送達は、SCFをコードしている核酸を、心臓又は心臓血管系の他の領域へ送達するべく使用可能である。この方法によれば、ポンプは一般に、例えば胸壁又は脇の下の皮下に移植され、かつベクターを送達するためのカテーテルへ接続されており、カテーテルの遠位端は心臓組織内へ挿入され、縫合によりその場に保持される。さらに、ベクターの持続放出を局所的に達成するため、全身への薬物投与の望ましくない副作用なしに高度に有効なベクターの局所濃度を生じる、非ポリマー性のデポー剤が組織内へ注射可能である。所望の期間にわたりベクターを放出してきた非ポリマー性デポー剤は、身体により徐々に分解され、送達装置を除去する必要性を克服している。
【0046】
SCFをコードしている核酸は、冠動脈循環における直接的な心外膜注入により、損傷心臓組織へ送達可能である。この研究は、2006年7月25日出願の、「遺伝子療法用アデノ随伴ウイルスベクターの延長された順行性心外膜冠動脈注入(Extended antegrade epicardial coronary infusion of adeno−associated viral vectors for gene therapy)」と題する米国仮出願番号60/833,324に記述されている。手短に言えば、核酸、例えば本明細書にさらに詳細に記述されるポリヌクレオチド/ウイルスベクターは、特定の血管における少なくとも約3分間にわたる、インビボの拍動中の心臓の冠動脈循環の血管内への注入により、患者へ投与される。心臓組織全体への分配のためには、酸化された血液を心臓へ供給している4つの主要な冠動脈(すなわち、左主及び右冠動脈、左前下行枝、及び左回旋枝)のうち、1以上に核酸を注入してよく、例えば左右の冠動脈の注入できる。注入の期間は、8分間、10分間、又はさらに長くてもよい。好ましくは、順行性の、左右の主要な冠動脈の心外膜注入が使用される。冠動脈の逆行性の注入、或いは、1以上の順行性及び逆行性の冠動脈及び静脈の組合せもまた意図されている。注入の流速は、約0.1mL/分から10mL/分まで可変である。好ましい実施態様においては、流速は、約0.2mL/分と約6.0mL/分の間であり、さらに好ましくは約0.2mL/分と約2.5mL/分の間であり、さらに好ましくは約0.2mL/分と約2.0mL/分の間である。冠血管の注入は、標準的なガイドワイヤ、カテーテル、及び輸液ポンプを用いて行われる。好ましい実施態様においては、注入カテーテルは、X線透視法によるガイダンスのもとに、大腿動脈経由で冠動脈へ向けられる。本明細書に用いたように、「冠循環の血管」、「冠血管」、又は「心臓の血管」は、冠血管上の移植片、例えばバイパス手術から結果として生じるものを包含する。本明細書に用いたように、「心外膜の」は、心臓の外側の部分に位置する血管、例えば左又は右の冠動脈を意味する。このアプローチが、冠循環内の圧力を増すため又は、核酸の滞留時間を増すための手段として、全身循環からの冠循環の分離又は、別の方法で核酸を再循環すること、或いは冠静脈循環を人為的に制限することを必要としないことが注目される。
【0047】
SCFをコードしている核酸は、特殊なカテーテルと、酸素供給装器と、輸液ポンプとを装備したV−フォーカス(V−Focus)心臓循環装置を用いて、冠静脈、すなわち冠静脈循環を、実質的に又は完全に、全身循環から分離することにより、心臓組織へ送達可能である。この研究及び関連する研究は、2004年2月26日出願の、「治療薬を心臓組織へ送達するための方法(Methods for delivering therapeutic agents to heart tissue)」と題する米国仮出願番号60/548,038;2004年9月24日出願の、「心臓循環の分離(Isolating cardiac circulation)」と題する米国仮出願番号60/612,846;及び、2005年5月31日出願の、「心臓組織へのポリヌクレオチド送達(Polynucleotide delivery to cardiac tissue)」と題する米国仮出願番号60/685,913、並びに2005年8月25日出願のPCT/AU2005/000237に記述されている。これらの方法により、冠動脈内へ投入されたポリヌクレオチドは、これにより選択的に心臓組織へ送達される。ポリヌクレオチドは、冠静脈から冠動脈へ再循環されてもよく、されなくてもよい。好ましくは、ポリヌクレオチドは再循環される。有利なことに、冠静脈循環の、全身循環からの実質的な分離は、心臓組織へのポリヌクレオチドの優先的な送達を提供すると同時に、非心臓組織のポリヌクレオチドへの暴露を最小限にする。好ましくは、冠静脈循環は、冠静脈洞と全身循環との間の血流を閉鎖することにより、全身循環から分離される。それゆえ、冠静脈循環を出るいかなるポリヌクレオチドも、身体の他の部位への輸送のための全身循環(例えば、大静脈又は右心房)に入ることを制限される。この方法は、心臓組織からポリヌクレオチドを排出させるための、静脈採血装置の使用を包含してもよい。静脈採血装置は、そこからの液体の採取の間の冠静脈洞の開存性を維持するべく、支持体を包含してもよい。静脈採血装置と1以上の冠動脈との間には、人為的な流路が確立され、ポリヌクレオチドは心臓への送達のため、人為的な流路へ添加される。好ましくは、支持体構造は、圧縮された状態で冠静脈洞へ送達されることが可能な、二次元又は三次元のフレーム構造を含んでなる。フレーム構造は、冠静脈洞内の開存性を維持するべく、送達用内腔からの圧縮構造の放出時に拡張可能である。そこからの液体の採取の間に冠静脈洞の開存性を維持するための支持体構造は、好ましくは経皮的に送達可能である。もう1つの実施態様においては、支持体構造は2つの連続的に膨張可能な領域を含んでなってもよい。第1の領域は、膨張したとき、冠静脈洞を取り囲む右心房壁の部分に隣接して停止する構造となっている。第2の領域は、膨張したとき、冠静脈洞の開存性を維持すると同時に、冠静脈洞と右心房との間の血流が閉鎖される構造となっている。これらのバルーン領域は、上述のフレーム構造のような、圧縮可能な支持体構造を用いて、又は用いずに使用されてよい。V−フォーカス系は、虚血性心臓疾患、非虚血性心筋症、末梢血管疾患、及び加齢の治療のため、SCFポリペプチド及びポリヌクレオチドを送達するべく使用可能である。
【0048】
心臓組織へ治療薬を送達するために開発された、種々の他の方法及び装置が、患者の損傷部位へSCFをコードする核酸を送達するべく使用可能である。例えば、米国特許第5,387,419;5,931,810;5,827,216;5,900,433;5,681,278;及び5,634,895号、及びPCT公開第WO97/16170号は、例えば、心膜内送達により、心臓へ薬剤を送達する種々の装置及び/又は方法を記述している。また、米国特許第5,387,419及び5,797,870号も、薬剤を、装置からの薬剤の持続放出又は制御放出を促進するための物質と混合することによる、或いは、薬剤を、長期の高い細胞周囲薬剤濃度を維持するための増粘剤と混合することによる、心臓への薬剤送達のための方法を記述している。
【0049】
部位特異的な核酸送達のための方法はまた、動脈壁内への核酸の直接的な付着も包含する。例えば、米国特許第6,251,418号は、心筋組織内への固形ポリマーペレットの移植のための方法であって、ペレットが薬物でコートされるか、又は薬物を含有している方法を開示している。米国特許第6,258,119号は、心臓壁の心筋内血管形成(TMR)用の、心臓壁への挿入のための心筋移植片を記述している。移植片は、血管形成を促進するための手段を提供し、可撓性の長い本体を有しており、それは腔と、腔から可撓性の長い本体を経た開口とを含有する。TMR移植片は、心臓壁内にTMR移植片を固定するため、一方の端に一体形成された同軸の固定(アンカリング)エレメントを包含する。
【0050】
SCFをコードしている核酸の送達のための物理的方法は、無針インジェクター、例えば「遺伝子銃」装置、間質空間内への送達のための高圧下の液体を用いる装置、及びエレクトロポレーションによるものの使用を包含する。別の組織への、SCFをコードしている核酸の投与は、筋肉注射、及び末梢静脈内注射を包含する。
【0051】
SCFをコードしている核酸は、クサノ(Kusano)ら、「ネイチャー・メディスン」、2005年、第11巻、第11号、p.1197−204により報告されたように、ソニックヘッジホッグをコードしている核酸の送達のために記述されたように調製され、かつ心筋内へ投与されてもよい。
【0052】
損傷心臓血管組織部位へ核酸を送達するべく使用されてもよい周知の薬物送達装置は、機械的又は電気機械的な輸液ポンプ、例えば米国特許第4,692,147;4,360,019;4,487,603;4,360,019;及び4,725,852号などに記述されたものを包含する。浸透圧駆動型ポンプ(例えばデュロスト(DUROST)浸透圧ポンプ)は、米国特許第3,760,984;3,845,770;3,916,899;3,923,426;3,987,790;3,995,631;3,916,899;4,016,880;4,036,228;4,111,202;4,111,203;4,203,440;4,203,442;4,210,139;4,327,725;4,627,850;4,865,845;5,057,318;5,095,423;5,112,614;5,137,727;5,234,692;5,234,693、5,278,396;5,985、305;5,728,396号、及びWO97/27840に記述されている。
【0053】
SCFをコードしている核酸は、血管再生を最適に増強するべく、好ましくは虚血性傷害の後、できるだけ早く投与される。
【0054】
疾患の予防又は治療のためには、活性薬剤の好適な用量は、前文に定義されたように、治療されるべき疾患のタイプ、疾患の重さ及び過程、薬剤が予防を目的として投与されるのか、又は治療を目的として投与されるのか、前の治療、患者の病歴及び薬剤に対する応答、及び受持ち医師の自由裁量に依存することができる。薬剤は、患者に対し、単回で、又は一連の治療にわたり適宜投与される。医薬組成物の投薬量及び所望の薬物濃度は、思い描かれた特定の用途に依存してさまざまであってよい。好適な適用量の投与又は投与経路の決定は、充分に当業者の熟練の範囲内にある。動物実験は、ヒトの療法用の有効投与量の決定のための、信頼できる手引きを提供する。
【0055】
本明細書に用いた通り、本明細書に使用した用語「治療する」、「治療」、及び「療法」は、治癒的療法、予防的療法、及び予防的療法を意味する。「予防的療法」の実例は、標的とされた病理学的症状又は障害の予防又は低減である。治療を必要とするものは、すでに障害をもつもの、並びに障害をもつ傾向があるもの、又は、その障害が予防されるべきであるものを包含する。「慢性」投与は、急性方式とは対照的に、連続的な方式での、最初の治療効果(活性)を長期間維持するようにする薬剤の投与を意味する。「断続的な」投与は、間断なく連続して行われるのではないが、本質的には周期的である治療である。1以上のさらなる治療薬と「組合せた」投与は、同時の(併用の)、及び任意の順序での連続した投与を包含する。
【0056】
この方法によれば、SCFをコードしている核酸は、1回投与され、治療効果を達成してもよい。核酸の投与は、必要に応じて1回以上反復されてもよい。
【0057】
本明細書に用いたように、「治療上有効な量」は、哺乳類に治療的恩恵を与えるために必要な、活性薬剤(例えば、SCFポリペプチド(又はコードしている核酸)の最少量である。例えば、患っているか又は患う傾向がある哺乳類に対しての、或いは患うことから予防するための「治療上有効な量」は、病理学的徴候、疾病の進行、関連する生理学的状態、又は上記の障害に負けることに対する抵抗性における改善を、誘導するか、回復するか、又は別の方法で引き起すような量である。
【0058】
本明細書において、本明細書で使用した「担体」は、医薬的に許容される担体、賦形剤、又は安定化剤を包含し、それらは、用いた投薬量及び濃度において、それに対し暴露されている細胞又は哺乳類に対し非毒性である。しばしば、生理学的に許容される担体は、pH緩衝水溶液である。生理学的に許容される担体の実例は、緩衝液、例えばリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、及び他の有機酸緩衝液;アスコルビン酸を包含する酸化防止剤;低分子(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、又はリジン;単糖類、二糖類、及び、グルコース、マンノース、又はデキストリンを含めた他の炭水化物;キレート剤、例えばEDTA;糖アルコール、例えばマンニトール又はソルビトール;塩形成性対イオン、例えばナトリウム;及び/又は非イオン性界面活性剤、例えばツイーン(TWEEN),ポリエチレングリコール(PEG)、及びプルロニック(PLURONIC)を包含する。
【0059】
本発明のもう1つの実施態様においては、上述の障害に治療のために有用な物質を含有する製品が提供される。該製品は、容器及びラベルを含んでなる。好適な容器は、例えばボトル、バイアル、シリンジ、及び試験管を包含する。容器は、ガラス又はプラスチックのような多様な材料から形成されてよい。容器は、症状を治療するために有効な組成物を保持し、かつ無菌のアクセスポートを有してもよい(例えば、容器は、皮下注射針により穿孔可能なストッパーを備えた静脈内用溶液バッグ又はバイアルでもよい)。組成物中の活性薬剤は、典型的にはSCFポリペプチド(又はコードしている核酸)である。容器上の、又は付属のラベルは、組成物が選択された症状の治療のために有用であることを示す。製品はさらに、医薬的に許容される緩衝液、例えばリン酸緩衝食塩水、リンガー液、及びデキストロース溶液を含んでなる、第2の容器を含んでなってもよい。それはさらに、他の緩衝液、希釈剤、フィルタ―、ニードル、シリンジ、及び使用説明書つきのパッケージインサートを含めた、商業上の及びユーザーの観点から望ましい他の物質を包含してもよい。
【0060】
SCFをコードしている核酸を投与することによる、本明細書に記述された虚血性障害を治療する方法は、幹細胞のような細胞の投与と組合されてもよい。細胞は、核酸投与の前、投与中、又は投与後に与えられてよい。好ましくは、細胞は核酸投与の2週間以内に投与される。
【0061】
投与された細胞は、患者にとり外来性であり、かつインビトロで産生されてもよい。もう1つのアプローチにおいては、細胞は、患者から採取された組織からエキソビボで産生され、その後に、治療を通じ患者へ戻されてもよい。エキソビボで幹細胞を産生する方法は、当該技術分野において周知であり、米国特許第6,326,198;6,261,549;6,093,531;5,935,565;5,670,351;5,670,147;5,646,043;5,437,994号を包含する。これらの方法は、造血幹細胞を産生するために特に適している。幹細胞は、遺伝的に修飾された細胞と一緒に、またフォギエ(Feugier)ら、「ジャーナル・オブ・ヘマトセラピー・アンド・ステム・セル・リサーチ(J.Hematotherapy and Stem Cell Res.)」、2002年、第11巻、p.127−138により記述された、特定のサイトカイン及びケモカインを用いて、培養及び拡大されてよい。
【0062】
本明細書に記述された、SCFをコードしている核酸を用いた虚血性損傷の治療はまた、間充織幹細胞の投与を包含してもよい。かかる幹細胞は、ファイゼル(Faizel)ら、「ジャーナル・オブ・ソラシック・アンド・カルディオバスキュラー・サージェリー(J Thorac Cardiovasc Surg.)」、2005年、第130巻、第5号、p.1310により記述されたように、SCFのようなサイトカインを発現するべく、遺伝的に修飾されてもよい。
【0063】
本明細書に記述された、SCFをコードしている核酸を用いた虚血性損傷の治療はまた、1以上のサイトカイン又はケモカインの投与を包含してもよい。サイトカイン又はケモカインは、精製されたタンパク質として、又は精製されたタンパク質の医薬製剤として投与されてもよい。サイトカイン又はケモカインはまた、サイトカインをコードするものの発現を投与することにより、それが患者の細胞にとりこまれ、かつサイトカイン又はケモカインがそこから発現されるようにしてもよい。タンパク質及びコードされた核酸の組合せもまた投与されてよい。2以上のサイトカイン又はケモカインが投与されてよく、或いは、サイトカイン及びケモカインの双方の組合せが投与されてもよい。
【0064】
本明細書において、「サイトカイン」は、インターロイキン及びリンホカインのような、いくつかの調節タンパク質のいずれかを意味し、それらは免疫系の細胞から放出され、免疫応答の発生における細胞間メディエイターとして作用する。本明細書において、「ケモカイン」は、強力な白血球活性化及び/又は化学走性活性をもつ、構造的に関連した糖タンパク質のファミリーを意味する。それらは70−90アミノ酸長であり、分子量は約8−10kDaである。それらの殆どは、4つのシステイン残基をもつ2つのサブファミリーに当てはまる。これらのサブファミリーは、2つのアミノ末端システイン残基が直に隣接しているか、又は1つのアミノ酸によって隔てられているかに基づいている。αケモカインは、またCXCケモカインとしても公知であって、第1と第2のシステイン残基の間に単一のアミノ酸を含有しており;β、又はCCケモカインは、隣接するシステイン残基を有する。殆どのCXCケモカインは、好中球に対し化学誘引性であるのに対し、CCケモカインは、一般に単球、リンパ球、好塩基球、及び好酸球を誘引する。
【0065】
本明細書に記述された治療法において有用なサイトカイン及びケモカインは、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、SCF、血管内皮成長因子ファミリーメンバー(VEGF−A〜VEGF−E)、線維芽細胞成長因子(FGF)、アンギオポエチン1(AdAng1)、間質細胞由来因子1(SDF1)を包含する。これらの種々のポリペプチドは、当該技術分野において周知のように産生及び投与されることが可能であり、コードしている核酸として投入され、かつインビボで発現されてよい。オルリック(Orlic)ら著、「プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ」、2001年、第98巻、第18号、p.10344−10349;タカノ(Takano)ら著、「カレント・ファーマシューティカル・デザイン」、2003年、第9巻、p.1121−1127;オーツカ(Ohtsuka)ら著、「ザ・ファセブ・ジャーナル」、2004年、第18巻、第7号、p.851−3;ラフィ(Rafii)ら著、「ジーン・セラピー」、2002年、第9巻、p.631−641参照。これらのポリペプチド因子の多くはまた、商業的に認可されている医薬品として入手可能である(例えば、G−CSFは、フィルグラスチム又はニューポゲン(Neupogen(登録商標)(アムジェン(Amgen)、カリフォルニア州、サザンオークス)、レノグラスチム又はグラノサイト(Granocyte(登録商標)(中外製薬株式会社))、又はPEG付加されたフィルグラスチム又はニューラスタ(Neulasta)(登録商標)(アムジェン、カリフォルニア州、サザンオークス))。
【0066】
当業者には、置換及び修飾の改変が、本発明の範囲及び精神から離れることなく、本明細書に開示された発明に対し行われてよいことが、容易に明らかであろう。本明細書において例証として適宜記述された本発明は、本明細書において具体的に開示されていない任意の要素又は複数の要素、制限又は複数の制限なしに、実施されてよい。使用されてきた用語及び表現は、記述のための用語として使用されるものであって、制限のためではなく、かかる用語及び表現の使用において、示されかつ記述された特徴又はその一部についてのいかなる同等物も何ら排除するつもりはないが、本発明の範囲内で種々の修飾が可能であることが認識される。したがって、本発明は特定の実施態様及び任意の特徴により例示されてきたが、当業者により、本明細書に開示された概念の修飾及び/又は変形が求められてよいこと、及びかかる修飾及び変形が本発明の範囲内にあると考えられることが理解されるべきである。
【0067】
さらに、本発明の特徴及び観点がマーカッシュグループ又は他の代替えのグルーピングで表記されている場合、当業者は、それにより本発明が、マーカッシュグループ又は他のグループの、任意の個々のメンバー又はメンバーのサブグループでも表記されることを認識するであろう。
【0068】
また、逆に示されない限り、実施態様について種々の数値が提供されている場合、任意の2つの異なる値をある範囲の端点として理解することにより、付加的な実施態様が記述される。かかる範囲もまた、記述された発明の範囲内にある。
【0069】
本明細書に引用された全ての参考文献、特許、及び/又は出願は、各々の引例がその記載全体が個別に参考として組み入れられたかのごとく同程度に、任意の表及び図面を含め、その記載全体が参考として組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】完全長ヒトSCFの天然のアミノ酸配列を示す図である。
【図2】完全長ヒトSCFをコードする核酸配列を示す図である。メチオニン開始コドンは、ヌクレオチド位置41で始まることを強調して示されており、停止コドンTAAは、ヌクレオチド860位で始まることを強調して示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血性損傷を患っている患者を治療するための方法であって、幹細胞因子(SCF)をコードしている核酸を前記患者へ投与することを含んでなり、前記核酸が損傷部位へ送達され、そこで細胞により取り込まれかつSCFが発現される方法。
【請求項2】
前記SCFが、分泌可能型のSCFである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記SCFが、図1のアミノ酸26−165を含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記SCFが、膜結合型のSCFである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記SCFが、図1のアミノ酸25−245を含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記SCFが、膜結合型及び分泌可能型双方のSCFである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記SCFが、ヒトSCFである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸がベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスベクターが、感染性のウイルス粒子内にパッケージされている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、又はポリオーマウイルスからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記損傷が心臓血管系に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記損傷が、心筋梗塞、虚血性発作、末梢血管疾患、及び心不全からなる群より選択される症状に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記核酸が、カテーテルを用いて損傷部位へ送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
送達が、虚血心組織に対するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記核酸が、虚血心組織への送達のため冠動脈循環へ送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記核酸が、心臓壁に移植された装置を用いて虚血心組織へ送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
損傷部位におけるSCFの発現が、修復をもたらすべき部位へ細胞を動員するべく作用する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
1以上のサイトカイン又はケモカインを投与する工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記サイトカインが、G−CSF及びGM−CSFからなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記患者が細胞を投与されない、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
細胞を投与する工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が幹細胞である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記幹細胞が、患者から採取された組織からエキソビボで産生される、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−517343(P2009−517343A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540240(P2008−540240)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/043937
【国際公開番号】WO2007/059010
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(508143580)エンタープライズ パートナーズ ベンチャー キャピタル (1)
【Fターム(参考)】