説明

組織酸素化の測定

標的組織における組織酸素化、例えば酸素飽和を算出するための方法およびシステムを開示する。一部の態様において、本方法は、(a)入射放射を標的組織へ方向付け、かつ複数の放射波長で、標的組織からの反射放射の強度を測定することにより標的組織の反射スペクトルを決定する工程、(b)入射放射が中を通って伝播する皮膚層および脂肪層からの該反射スペクトルへの寄与を低減するために、該反射スペクトルの測定された強度を補正する工程、(c)補正された反射スペクトルに基づき標的組織における酸素飽和を決定する工程、ならびに(d)酸素飽和の決定された値を出力する工程を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、組織における酸素飽和のような特性の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
組織酸素飽和(SO2)は、赤血球中の酸素含量の尺度を提供する。組織内のSO2の測定値を使用し、例えば損なわれた血管血流を招く敗血症および糖尿病などのある種の病態から生じる微小血管循環および組織細胞への酸素供給を評価することができる。組織SO2測定値は、運動生理においても使用することができ、ここでは運動期間中の酸素要求と供給との間のミスマッチを使用し、対象の生理的状態の程度を決定することができる。
【0003】
赤外線反射測定は、組織内の様々な化学種の非侵襲的定量的検出に使用することができる。例えば、組織内の酸素化されたおよび酸素化されないヘモグロビンの調査は、約700〜1000nmの範囲内に収まる波長での、組織の反射測定値を介して行うことができる。この波長範囲において、組織内に存在し得る関心対象ではない多くの化学種は、入射放射と弱く相互作用するのみであり、ヘモグロビンから生じるシグナルは、他の化学成分から生じるシグナルから分離することができる。赤外放射は典型的には、組織の比較的深部まで透過し、より深部の筋肉および他の内部組織内の関心対象の分析物を測定するために、皮膚および脂肪のような表面組織の下側を探索するために使用することができる。組織内の赤外線反射測定を実行するのに適したシステムは、例えば、2006年4月25日に出願された米国公開番号US 2007/0038041号(特許文献1)の「SYSTEMS AND METHODS FOR CORRECTING OPTICAL REFLECTANCE MEASUREMENTS」に開示されている。
【0004】
【特許文献1】米国公開番号US 2007/0038041号
【発明の開示】
【0005】
概要
赤外分光測定により組織酸素飽和(SO2)および酸素分圧のような他の量を決定するためのシステムおよび方法を、本明細書で開示する。このシステムおよび方法は、少なくとも一部は、組織による光減衰に関する方程式に基づく組織内の酸素飽和を算出するためのアプローチに基づき、この方程式は、組織の成分による光吸収および散乱に対応する項を含む。光減衰方程式のひとつの形は、測定された光減衰スペクトルの級数展開(例えばテーラー級数展開)およびベールの法則に基づき、かつ組織内に存在する酸素化されたヘム(ヘモグロビンおよびミオグロビン)、酸素化されないヘム、水、および他の発色団による吸収と、組織内の散乱と、実験条件から生じる定数因子とに対応する光減衰項を含む。これらの寄与は、組織内の酸素化されたヘムおよび酸素化されないヘムの濃度を生じる二段階数値フィッティング(numerical fitting)手順により、定量的に決定することができる。その後組織酸素飽和を、酸素化されたヘムおよび酸素化されないヘムの濃度から決定することができる。他の量も、SO2の測定から決定することができる。例えば酸素分圧(PO2)は、PO2をSO2へ関連付ける数式から決定することができる。
【0006】
組織酸素飽和および/または酸素分圧は、重要な生理学的診断および/または予測インジケーターとして機能することができる。特にSO2は、毛細血管収縮の感度の良いプローブであり、脳卒中に反応した組織内の血液量もしくは血管収縮/血管拡張の変動を生じる状態の、進行および/または治療を追跡するために使用することができる。このような状態の例は、出血、敗血症、心疾患、および糖尿病である。
【0007】
概してひとつの局面において、本発明は、標的組織における酸素飽和を算出するための方法を特徴としており、この方法は、(a)入射放射を標的組織へ方向付け、かつ複数の放射波長で、標的組織からの反射放射の強度を測定することにより標的組織の反射スペクトルを決定する工程、(b)入射放射が中を通って伝播する皮膚層および脂肪層からの該反射スペクトルへの寄与を低減するために、該反射スペクトルの測定された強度を補正する工程、(c)この補正された反射スペクトルに基づき標的組織における酸素飽和を決定する工程、ならびに(d)酸素飽和の決定された値を出力する工程を含む。
【0008】
本方法の態様は、下記の特徴の1つまたは複数を含むことができる。酸素飽和を決定する工程は、補正された反射スペクトルからの光減衰スペクトルの決定、ならびに光減衰スペクトルから導かれる標的組織内の酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度に基づく酸素飽和の算出を含むことができ、ヘムは、標的組織内のヘモグロビンおよびミオグロビンを含む。酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度は、光減衰スペクトルをモデル光減衰方程式にフィッティングすることにより、光減衰スペクトルから導くことができる。この光減衰方程式は、標的組織内の酸素化されたヘム、脱酸素化されたヘム、および水による入射光吸収に対応する項を含む、ベールの法則の方程式を含むことができる。例えば本光減衰方程式は、ベールの法則の吸収項に対応する複数の項における光減衰の級数展開(例えばテーラー級数展開)を含むことができる。このフィッティングは、プロセッサにより自動的に実行することができる。
【0009】
光減衰方程式は、入射光の波長と共に線形に変動する項を含むことができ、この項は、関数形式aλを有する(式中、aは定数であり、λは入射光の波長である)。aが0未満または0と等しい値のみをとるように、フィッティング時に、aの値を制約することができる。この光減衰方程式は、入射光の波長から独立した定数項を含むことができる。
【0010】
光減衰スペクトルのモデルへのフィッティングは、第一段階で1つまたは複数のモデルパラメータの初期値が決定され、かつ第二段階で光減衰スペクトルはモデルへフィッティングされる、二段階フィッティング手順を実行することを含むことができ、このモデルは、第一段階で決定された初期パラメータ値を含む。光減衰スペクトルとモデルから決定された光減衰値との間の平方差の和を最小化することにより、光減衰スペクトルをモデルへフィッティングすることができる。
【0011】
本光減衰方程式は、光減衰方程式から決定された光減衰値と光減衰スペクトルとの間の差から導かれるベースライン関数を含むことができる。光減衰方程式は、標的組織の散乱係数と正比例しかつ標的組織の吸収係数と反比例して変動する示差路程因数(differential path length factor)を含むことができる。光減衰方程式は、標的組織における入射光の放射拡散モデルから導かれる拡散反射方程式を含むことができる。
【0012】
反射放射の強度の測定は、(a)第一の線源-検出器間隔に対応する標的組織からの反射放射を、光源から検出器までの第一の光路に沿って測定する工程、ならびに(b)第一の線源-検出器間隔とは異なる第二の線源-検出器間隔に対応する標的組織からの反射放射を、光源から検出器までの第二の光路に沿って測定する工程を含むことができる。この第一の線源-検出器間隔で測定された反射放射は、標的組織からと、光源と標的組織との間に配置された組織層からとの寄与の第一の重み付けを含み、かつ第二の線源-検出器間隔で測定された反射放射が、第一の重み付けとは異なる、標的組織からと、光源と標的組織との間に配置された組織層からとの寄与の第二の重み付けを含むことができる。この光源と標的組織との間に配置された組織層は、皮膚層および脂肪層であり得る。反射スペクトルの測定された強度の補正は、第一の線源-検出器間隔で測定された反射放射に基づき、第二の線源-検出器間隔で測定された反射放射への皮膚層および脂肪層からの寄与を低減することを含むことができる。
【0013】
本方法は、標的組織内の酸素飽和に基づき標的組織内の酸素分圧を決定することを含むことができる。この方法は、患者の標的組織内の総ヘモグロビンの測定値に基づき、患者の血管収縮のレベルを評価することを含むことができ、総ヘモグロビンは、標的組織内の酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度に基づき決定される。
【0014】
標的組織は、ヒトの内部にあり得る。標的組織は、動物の内部にあり得る。標的組織は、筋肉組織であり得る。
【0015】
複数の波長は、少なくとも100種またはそれよりも多い波長を含むことができる。複数の波長は、700nm〜1000nmの波長(例えば、725nm〜880nmの波長)を含むことができる。
【0016】
本方法の態様は、適宜、本明細書に開示するその他の方法工程のいずれかを含むこともできる。
【0017】
別の局面において、本発明は、患者の血液量をモニタリングする方法を特徴とし、本方法は、(a)入射放射を患者の標的組織へ方向付け、かつ複数の波長で、標的組織からの反射放射の強度を測定することにより標的組織の反射スペクトルを決定する工程、(b)入射放射が中を通って伝播する皮膚層および脂肪層からの該反射スペクトルへの寄与を低減するために、該反射スペクトルの測定された強度を補正する工程、(c)この補正された反射スペクトルに基づき標的組織における総ヘム濃度を決定する工程、(d)総ヘム濃度に基づき患者の血液量を評価する工程、ならびに(e)評価された血液量を出力する工程を含む。
【0018】
本方法の態様は、以下の特徴を含むことができる。
【0019】
本方法は、評価された血液量に基づき、患者における出血、敗血症、心疾患、および糖尿病の少なくとも1つの進行段階を評価することを含むことができる。本方法の態様は、適宜、本明細書に開示するその他の方法段階のいずれかを含むこともできる。
【0020】
さらなる局面において、本発明は、標的組織内の酸素飽和を算出するための方法を特徴とし、本方法は、(a)入射放射を標的組織へ方向付け、かつ複数の放射波長で、標的組織からの反射放射の強度を測定することにより標的組織の反射スペクトルを決定する工程、(b)この反射スペクトルから標的組織の光減衰スペクトルを決定し、かつこの光減衰スペクトルをモデル光減衰方程式へフィッティングする工程、ならびに(c)この光減衰スペクトルのフィッティングに基づき標的組織内の酸素飽和を決定する工程を含む。この光減衰スペクトルのモデルへのフィッティングは、第一段階で1つまたは複数のモデルパラメータの初期値が決定され、かつ第二段階で光減衰スペクトルはモデルへフィッティングされる、二段階フィッティング手順を実行することを含むことができ、このモデルは、第一段階で決定された初期パラメータ値を含む。
【0021】
本方法の態様は、以下の特徴を含むことができる。
【0022】
本モデルは、関数形式aλを有する項を含むことができ、a値はフィッティング時に、0未満または0と等しいように制約される。本方法の態様は、適宜、本明細書に開示するその他の方法段階のいずれかを含むこともできる。
【0023】
別の局面において、本発明は、入射放射を標的組織へ方向付けるように構成された光源と、検出器と、検出器へ連結され、かつ(a)標的組織の反射スペクトルを決定し、(b)入射放射が中を通って伝播する皮膚層および脂肪層からの該反射スペクトルへの寄与を低減するために、該反射スペクトルを補正し、かつ(c)補正された反射スペクトルに基づき標的組織における酸素飽和を決定するように構成されたプロセッサとを備えるシステムを特徴とする。
【0024】
本システムの態様は、以下の特徴の1つまたは複数を含むことができる。
【0025】
複数の放射波長で標的組織からの反射放射の強度を測定するように検出器を方向付けることにより、標的組織の反射スペクトルを決定するように、本プロセッサを構成することができる。補正された反射スペクトルから光減衰スペクトルを算出すること、および光減衰スペクトルから導かれる標的組織内の酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度に基づき酸素飽和を算出することにより、酸素飽和を決定するように、本プロセッサを構成することができ、ヘムは標的組織内のヘモグロビンおよびミオグロビンを含む。
【0026】
本システムは、(a)光源と検出器との間にあり、かつ光源と検出器との間の第一の距離に対応する第一の放射経路、および(b)光源と検出器との間にあり、かつ第一の距離とは異なる光源と検出器との間の第二の距離に対応する第二の放射経路も備えることができる。光源からの入射放射は、第一および第二の放射経路の各々に沿って標的組織へ方向付けられ、標的組織からの反射放射は、第一および第二の放射経路の各々に沿って検出器へ方向付けることができる。第一および第二の光路の各々に沿って反射スペクトルを測定すること、および補正された反射スペクトルを生成するためにこれらの反射スペクトルを組み合わせることにより、測定された反射スペクトルへの皮膚層および脂肪層からの寄与を低減するように、本プロセッサを構成することができる。第一および第二の放射経路の各々は、光ファイバーを含むことができる。
【0027】
光減衰スペクトルをモデル光減衰方程式にフィッティングすることにより、標的組織内の酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度を導くように、本プロセッサを構成することができる。このモデル光減衰方程式は、標的組織内の酸素化されたヘム、脱酸素化されたヘム、および水による入射放射の吸収に対応する項を含む、ベールの法則の方程式を含むことができる。
【0028】
酸素飽和から標的組織内の酸素分圧を決定するように、本プロセッサを構成することができる。標的組織内の酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度から、標的組織内の総ヘム濃度を決定するように、本プロセッサを構成することができる。総ヘム濃度に基づき、標的組織内の血液量を評価するように、本プロセッサを構成することができる。
【0029】
本プロセッサは、適宜、本明細書に開示するその他の方法段階のいずれかを実行するために構成することもできる。
【0030】
態様は、以下の利点を1つまたは複数含むことができる。
【0031】
酸素飽和および/または酸素分圧は、電磁スペクトルの赤外域において実行された光減衰測定に基づき決定される。ヘム以外の分析物に起因した吸収および散乱の作用は、この領域では他のスペクトル領域よりもより小さい。結果的に、ヘム吸収は、他の組織成分に起因した吸収および散乱プロセスから定量的に分離することができる。
【0032】
さらに赤外線放射は、患者へ比較的深く透過し、皮膚および脂肪の下側層に位置した組織(例えば筋肉組織)を調べることができる。赤外線放射の透過深度は、例えば、典型的に、比較的深い皮膚および脂肪の下側層に位置する筋肉組織内の酸素飽和の測定を可能にする。赤外線スペクトルデータは、皮膚色素による光吸収および脂肪による光散乱に関して補正することができ、これによりそうではなくてそのような補正を伴わずに可能なものよりも、ヘム吸収のさらにより正確な定量決定が可能である。患者の組織内の水吸収の作用も、定量的に決定し、ヘム吸収から分離することができる。
【0033】
測定は、比較的大きい数の波長チャネル、例えば100種またはそれよりも多い波長チャネル(例えば、150種またはそれよりも多い波長チャネル、200種またはそれよりも多い波長チャネル、400種またはそれよりも多い波長チャネル、600種またはそれよりも多い波長チャネル、1000種またはそれよりも多い波長チャネル)にわたって行われる。この比較的大きい数の測定は、例えば2〜6波長チャネル間からのデータを記録する装置と比べ、測定されたデータのシグナル対ノイズ比を改善する。
【0034】
本明細書に開示する測定は、低コストの携帯式測定システムを用い、非侵襲的に行われる。結果は、リアルタイムまたはほぼリアルタイムで表示することができ、このことは酸素飽和および/または酸素分圧の連続モニタリングを可能にする。これらのパラメータが、患者の特定の医学的状態と相関された場合、その状態の進行は、リアルタイムで評価することができる。これらの装置は、手動の介入により、またはオペレーターの介入なしで完全な自動モードで操作することができる。
【0035】
フィッティングパラメータは、散乱および吸収プロセスのより正確な定量的分離が可能であるように、適宜制約され得る。例えばある波長依存型散乱の項の係数は、光波長の関数としての組織散乱における典型的変動と相関するために、減衰方程式の測定された光減衰データへのフィッティング時に、非正値(non-positive value)のみを採用するように制約することができる。好適なフィッティング制約の選択は、酸素化されたヘムによるインビボ組織散乱および吸収の作用の改善された定量的分離を可能にすることができる。
【0036】
この光減衰方程式は、二段階フィッティング手順において測定されたデータにフィッティングすることができる。このフィッティング手順の第一段階は、ある種のフィッティングパラメータの初期値を決定し、かつフィッティング手順の第二段階は、第一段階で決定された初期値から始まる、測定されたデータの減衰方程式への最小誤差(lowest-error)のフィッティングを決定する。この二段階フィッティング手順は、オペレーターによる介入を伴わずに測定されたスペクトルデータのフィッティングを可能にし、フィッティング手順の実行に必要な全体の時間を短縮する。ある態様において、二段階フィッティング手順は、一工程フィッティングアルゴリズムと比べて、フィッティング結果の精度を改善することもできる。
【0037】
別に規定しない限りは、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に説明するものに類似したまたは同等の方法および材料を、本発明の実践または試験において使用することができるが、好適な方法および材料を以下に説明する。本明細書において言及する任意の刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献と矛盾する場合は、定義を含む本明細書を優先する。加えて、材料、方法、および実施例は、単なる例示であり、限定を意図するものではない。
【0038】
本発明の1つまたは複数の態様の詳細を、添付図面および以下の説明において記載する。本発明の他の特徴および利点は、これらの説明、図面、および特許請求の範囲から明らかであろう。
【0039】
詳細な説明
標的組織(例えば、ヒトまたは動物の組織)の赤外線反射スペクトルからの組織酸素飽和の測定値および酸素分圧のような他の生理的量を得るための方法およびシステムを、本明細書において開示する。これらの量の値は、組織吸収および散乱を説明する光減衰モデルの解析により導かれる。標的組織の反射スペクトルが最初に好適に構成された分光計システムにより測定され、次にこのスペクトルが、例えば、分光計システムに連結されたプロセッサにより解析される。
【0040】
測定システム
様々な測定システムを使用し、電磁スペクトルの赤外域の入射光の標的組織による減衰を測定することができる。図1は、そのような測定システムのひとつの態様の概略図を示している。測定システム10は、光源12、プローブヘッド14、検出器16、プロセッサ18、およびディスプレイ19を備える。光源12は、光路20へ連結されており、かつ光源12からプローブヘッド14まで光路20に沿って伝播する放射を提供する。この放射は、光路20から出現し、プローブヘッド14に隣接する標的組織30の表面32に入射する。この入射放射の一部は、標的組織30により反射され、光路22に侵入する。この反射放射は、光路22に沿って検出器16まで伝播する。検出器16は、波長の関数として、反射放射の強度を測定するように、構成されている。例えば独立型プロセッサまたは外部コンピュータシステムの一部のようなプロセッサ18は、通信回路24を介して、検出器16へ連結されており、検出器16へ構成シグナルを提供する。加えてプロセッサ18は、通信回路25を介して、検出器16により記録されたスペクトルの反射強度データを受け取るように構成されている。プロセッサ18は、スペクトルの反射データを、例えば標的組織30による入射放射の波長依存型減衰を測定する光減衰データに変換するように、構成することもできる。図1に示したように、プロセッサ18は、ディスプレイ19とは電気通信内にある。スペクトルの反射データ、波長依存型光減衰データ、および/または他のデータもしくは測定されたデータから決定された生理的量は、プロセッサ18からディスプレイ19へ出力することができる。代替としてまたは加えて、測定されたおよび/または算出されたデータは、プロセッサ18から、さらなる処理のために別のプロセッサ(図示せず)へ、保存媒体へ、または別の装置(例えば、コンピュータおよび/または無線通信装置)へ出力することができる。
【0041】
光路20および22の末端は、プローブヘッド14において距離dにより隔てられている。一部の態様において、距離dは、約5mmまたはそれ未満(例えば、約4mmまたはそれ未満、約3mmまたはそれ未満、約2mmまたはそれ未満、もしくは約1mmまたはそれ未満)のように、比較的短いことが可能である。別の態様において、距離dは、約20mmまたはそれよりも長い(例えば、約25mmまたはそれよりも長い、約30mmまたはそれよりも長い、約35mmまたはそれよりも長い)のように、比較的長いことが可能である。ある態様において、プローブヘッド14は、システムオペレーターにより距離dの調節を可能にするように構成される。例えば距離dは、プローブヘッド14に隣接する標的組織30の表面32のある深度t以内の組織からの寄与を含むスペクトルデータを得るように、調節することができる。概して、距離dが大きければ、測定された光減衰データに寄与する組織の深度tはより大きい。
【0042】
光源12は一般に、多種多様な光源を含む。例えば光源12は、白熱光源、1つまたは複数の発光ダイオード、レーザーベースの光源、または他の種類の光源を含むことができる。光源12は、紫外域、可視域、赤外域、または他の領域のような、電磁スペクトルの1つまたは複数の選択された領域内に放射を提供することができる。一部の態様において、例えば光源12は、電磁スペクトルの赤外域で放射を提供するように構成される。この放射は、例えば約700nm〜約1000nmの波長を含むことができる。
【0043】
ある態様において、光源12により提供された放射は、複数の波長を含むことができる。例えば放射の波長分布の半値全幅は、約10nmまたはそれよりも大きい(例えば、約20nmまたはそれよりも大きい、約50nmまたはそれよりも大きい、約100nmまたはそれよりも大きい、約150nmまたはそれよりも大きい、約200nmまたはそれよりも大きい、約250nmまたはそれよりも大きい)ことができる。放射の波長分布は、例えば白熱要素または広幅発光ダイオードのような単独の光源要素から、または同時もしくは逐次操作する複数の光源要素(例えば、複数の発光ダイオード)から生成することができる。
【0044】
光路20および22は、光源12により提供される放射を方向付けるのに適した材料で形成することができる。ある態様において、例えば光路2Oおよび22の一方または両方は、1つまたは複数の光ファイバーにより形成された導波管であり得る。一部の態様においては、光路20および22の一方または両方は、プローブヘッド14内に形成されかつ放射が通り抜けることができるサイズである開放通路であり得る。ある態様においては、例えば光源12および検出器16のいずれかまたは両方が、患者の皮膚と直接接触するか、または標的組織と直接接触する(例えば重なっている皮膚層および/または脂肪層なしで)ように配置することができ、その結果光路20および/または22は、開放通路を含まないが、代わりにそれに沿って標的組織内を入射放射および反射放射が伝播する光軌跡を含む。一部の態様において、光路2Oおよび22の一方または両方は、フォトニック結晶ファイバーおよび/または光伝達性の(light transmitting)高分子材料のような、他の種類の導波管を含むことができる。
【0045】
検出器16は、標的組織30からの反射放射の波長依存型強度を測定するように構成される。典型的には、検出器16は、光源12により提供される放射の波長を含む波長域で使用するために構成されている回折格子のような波長-分散要素を備える、分光計などのスペクトル検出器である。好適な分光計は、例えばOcean Optics Inc.(Dunedin, FL)から入手可能である。検出器16は、複数の波長で放射の強度を測定することができる。例えば一部の態様において、検出器16は、約50種またはそれよりも多い個別の波長(例えば、約100種またはそれよりも多い個別の波長、約150種またはそれよりも多い個別の波長、約200種またはそれよりも多い個別の波長、約400種またはそれよりも多い個別の波長、約600種またはそれよりも多い個別の波長、約1000種またはそれよりも多い個別の波長)で、光放射の強度を測定するように構成される。
【0046】
検出器16により測定されたスペクトル強度データは、典型的には標的組織30からの波長依存型反射データであるが、これは、周知の方法を用いてプロセッサ18により、波長依存型光減衰データ(例えば、標的組織30の光減衰スペクトル)へ変換することができる。後続の考察において、標的組織30の光減衰スペクトルについて言及するが、光減衰データおよびスペクトル反射データは、簡単な数学的変換により関連付けられるので、本明細書に開示する方法およびシステムは、スペクトル反射データを直接処理するためにも使用することができる(例えば、次項で考察する式(2)を参照のこと)。
【0047】
スペクトル反射データの光減衰データへの変換に加え、以下に詳細に考察する、光減衰データを解析して酸素飽和および酸素分圧のような生理学的に重要な量の測定値を得るように、プロセッサ18を構成することができる。概してプロセッサ18は、本明細書で考察する任意の解析工程を実行するために構成することができる。
【0048】
一部の態様において、光反射スペクトルは、2種以上の線源-検出器間隔dで測定することができる。例えば図2は、各々が固定されるかまたはオペレーターにより調節される2種の異なる線源-検出器間隔を含む測定システム50の態様の概略図である。測定システム50の多くの構成部品は、測定システム10の構成部品に類似しており、さらには論じない。測定システム50は、プローブヘッド14内の光路20から距離daの間隔にある第一の検出光路22aと、プローブヘッド14内の光路20からdaよりも大きい距離dbの間隔にある第二の検出光路22bとを備える。
【0049】
関心対象の組織の下側のスペクトルから、重なっている組織層のスペクトル吸収および/または散乱作用を低減および/または除去するために、スペクトル反射測定は、複数の線源-検出器距離で検出器16により記録することができる。例えば短い線源-検出器距離daで記録された反射スペクトルは、典型的には、組織近傍の表面32からと、標的組織のより深い内部30からとの(例えば主に標的組織30の表面32近傍の組織からの)寄与の第一の重み付けを含む。より長い線源-検出器距離dbで記録された反射スペクトルは、典型的には、組織近傍表面32からと、標的組織のより深い内部30からとの寄与の、第一の重み付けとは異なる、第二の重み付けを含む(例えば、より長い線源-検出器距離でのスペクトルは、典型的には、組織近傍表面32からと、表面32の下側の組織からとの両方の重大な寄与を含む)。2種の異なる線源-検出器距離で記録された反射データは、表面32に隣接する重なっている組織層に起因したスペクトル寄与を除去するのに適したアルゴリズムを用いて、処理することができ、下側の(例えばより深部の)組織層にのみに起因したスペクトル寄与を主に維持する。加えて一部の態様において、線源-検出器距離は、スペクトル反射測定の選択性を改善するために(例えば、患者の皮膚の表面下の特定の深度での組織を選択的に調べるために)、オペレーターにより調節することができる。
【0050】
例として一部の態様において、標的組織30は、プローブヘッド14に隣接する皮膚層および脂肪層、ならびに皮膚層および脂肪層の下側にある(例えば、プローブヘッド14からより大きい距離の)関心対象の筋肉組織の層を含むことができる。皮膚層(皮膚色素を含む)および脂肪層による光吸収および/または散乱から生じる光減衰データへの寄与は、関心対象の筋肉組織を選択的に調べる精度を改善するために、光減衰データから低減または除去することができる。好適な測定システムおよび処理アルゴリズムは、例えば、米国公開番号US 2007/0038041号「SYSTEMS AND METHODS FOR CORRECTING OPTICAL REFLECTANCE MEASUREMENTS」に開示されている。
【0051】
一部の態様において、複数の線源-検出器距離でのスペクトル反射データは、単独の検出光路および複数の光源光路(例えば、1個または複数の放射線源からプローブヘッド14までの光の組み合わせのための複数の経路)を有するシステムにより測定することができる。一般に本測定システムの特定の構成は、重なっている組織層のスペクトル作用を除去するために使用される処理アルゴリズムを実質的に変更せず、光減衰スペクトルから酸素飽和および酸素分圧のような量を決定するために使用される分析アルゴリズムも変更しない。
【0052】
標的組織30からスペクトル反射データを測定し、かつこのデータを標的組織に対応する波長依存型光減衰データへ変換したならば、プロセッサ18は、標的組織に関する関心対象の量の値を得るために、光減衰データを分析するように構成される。これらの量を得るためにプロセッサ18内で実行される様々な分析アルゴリズムを、以下に明らかにする。
【0053】
酸素飽和の決定
組織酸素測定法において、赤外線放射を使用し、血液中のヘム成分を測定することができる。電磁スペクトルの可視部分の放射線も、血液ヘムにより吸収されるが、赤外光は典型的には、組織へより深く透過し、光散乱の作用は典型的には、赤外波長でのほうが、可視波長でよりもより小さい。筋肉細胞において、例えばミオグロビンおよびヘモグロビンは、各々入射放射経路に存在し、各々赤外線放射を吸収する。小さい血管(例えば、細動脈、毛細管、および小静脈)において、赤外線吸収の変化は、主に酸素化されたヘムおよび酸素化されないヘムの濃度の変化を反映している。結果的に組織酸素飽和(SO2)は、下記式により規定され:

式中、c(HbO2+MbO2)は、組織内の酸素化されたヘムの総濃度(Hb=ヘモグロビン、Mb=ミオグロビン)であり、かつc(Hb+Mb)は、組織内の脱酸素化されたヘムの総濃度である。合計cHb+Mb+cHbO2+MbO2は、組織内ヘムの総濃度である。ヘモグロビンおよびミオグロビンは、スペクトルの赤外域の大部分に同様の吸収プロファイルを有し、本明細書において開示する赤外線反射測定技術は、ヘモグロビンおよびミオグロビンの両方に感度がある。
【0054】
入射光に曝された標的組織のモデル光減衰スペクトル(Aモデル(λ))は、一般に入射光強度と反射光強度の比の対数として定義される。標的組織の光減衰スペクトルを説明するために、様々な異なるモデルを使用することができる。一部の態様において、例えばStratonnikov, A.A.およびLoschenov, V.B.の論文「Evaluation of blood oxygen saturation in vivo from diffuse reflectance spectra」(Journal of Biomedical Optics 6: 457-467 (2001))に説明されたように、テーラー級数展開法を使用し、光減衰スペクトルを1つまたは複数の吸収項の関数として表すことができる。Aモデル(λ)に適したテーラー級数展開は下記式であり:

式中、I0(λ)は、入射光強度(例えば、光源強度)であり、I(λ)は組織からの反射光強度であり、λは光波長であり、c0およびc1は定数であり、<L>は組織を通る反射光の平均経路長であり、εHb(λ)は脱酸素化されたヘモグロビンに関する波長依存型吸光係数であり、εHbO2(λ)は酸素化されたヘモグロビンに関する波長依存型吸光係数であり、cwatは組織内の水の濃度であり、かつεwat(λ)は水の波長依存型吸光係数である。ヘモグロビンおよびミオグロビンは、スペクトルの赤外域における類似した吸光係数を有し、そのため酸素化されたおよび脱酸素化されたヘモグロビンの吸光係数は、式(2)におけるミオグロビン吸収のモデルにも使用される。式(2)の様々なパラメータ値の決定は、以下にさらに詳細に論ずる。
【0055】
典型的には、実験条件下で絶対光源強度I0(λ)を決定することは困難であり得る。従って一部の態様では、光減衰をモデル化する場合、99%反射標準からの反射光強度Iref(λ)を、I0(λ)の代わりに使用する。好適な99%反射標準は、例えばLabsphere, Inc.(North Sutton, NH)から入手可能なモデルSRT-99-050がある。I0(λ)の代わりに測定された実験的参照光強度Iref(λ)により、測定された光減衰スペクトルAexp(λ)は、下記式である。

【0056】
参照光強度Iref(λ)は、典型的には標的組織の実験的に測定された光減衰スペクトルに対する一定の加法的寄与(constant additive contribution)として現れる波長独立型定数因子(constant factor)だけ、I0(λ)とは異なる。式(2)における定数c0は、光減衰スペクトルへのこの加法的寄与を説明している。加えてc0は、ヘモグロビン、ミオグロビン、および水以外の標的組織内の発色団および他の種による波長独立型の吸収および/または散乱も説明している。同様に定数c1は、ヘモグロビン、ミオグロビン、および水以外の標的組織内の発色団および他の種による波長依存型光吸収および/または散乱を説明している。<L>により積算される式(2)の右辺の項は、標的組織内のヘモグロビン、ミオグロビン、および水による入射光の減衰を説明している。
【0057】
典型的には、標的組織内の光減衰は、光吸収および光散乱の両プロセスから生じ得る。例えば光は、小血管内のヘモグロビンおよび細胞内のミオグロビンにより、血管内および血管外の両方の水により、ならびに皮膚のメラニン色素により吸収される。光は、血管および筋線維のような物理的構造により、ならびに関心対象の筋肉組織に積層している脂肪(例えば測定システムのプローブヘッドと筋肉組織との間に配置された脂肪)により、散乱され得る。
【0058】
本明細書に開示するシステムおよび方法は一般に、筋肉組織および非-筋肉組織を含む多種多様な組織型における酸素飽和および他の生理学的量の算出に適用することができ、SO2の決定に関連して考察した任意の工程は、筋肉組織および非筋肉組織の両方におけるSO2を算出するために実行することもできる。筋肉組織における酸素飽和の測定は、例えば血管収縮/血管拡張の特に感度の良い診断インジケーターを提供する。
【0059】
図3は、標的組織の光減衰スペクトルAexp(λ)から標的組織内の酸素飽和を算出する連続工程を示すフローチャート100である。第一の工程102において、1つまたは複数の光反射スペクトルが、標的組織から収集され、式(3)により光減衰スペクトルが算出される。
【0060】
任意の工程104において、モデルAモデル(λ)は、標的組織内の光減衰を説明するために選択することができる。一部の態様において例えば、選択されたモデルは、標的組織における光吸収および光散乱の両方を説明する。ある態様において、このモデルは、酸素化されたヘモグロビンおよびミオグロビン、脱酸素化されたヘモグロビンおよびミオグロビン、水、ならびに標的組織中に存在する他の種の1つまたは複数に対応する項を含む。選択することができる好適なモデルは、例えば式(2)によりもたらされる。一般に本明細書に開示するシステムは、標的組織における光減衰を説明する1つまたは複数のモデルを含むことができる。一部の態様において、これらのシステムは、単独のモデルのみを含む。ある態様において、これらのシステムは、複数のモデルを含み、かつモデルAモデル(λ)の選択は、例えばヒトオペレーターからの入力に基づくことができる。
【0061】
工程106において、工程104で選択されたモデルを使用し、標的組織内の光減衰の計算値を決定し、様々なモデルパラメータは、光減衰の計算値と測定された光減衰スペクトルとの間の平方差の和を最小化するように調節される。光減衰の計算値と測定された光減衰スペクトルとの間の平方差の和χ2は、下記式として記すことができ:

式中、光減衰スペクトル(および算出された理論的光減衰値)は、λminとλmaxとの間の一連の波長λiで測定される。Aモデル(λ)のある調節可能なパラメータの値を得るために、χ2値は最小化される。例えば式(2)により与えられたモデルが選択される場合、パラメータc0、c1、cHb+Mb、cHbO2+MbO2、cwat、および<L>の値を得るために、関数χ2は最小化される。
【0062】
モデルパラメータの正確な値を得るために、非線形最小二乗フィッティングアルゴリズムを使用し、式(4)のχ2を最小化した。一部の態様において、あるモデルパラメータに対するフィッティング制約条件(constraint)を使用し、得られるパラメータ値の精度を改善することもできる。例えば波長光がより短くなると、典型的にはより長い波長光よりも組織構造からより効率的に散乱し、その結果波長依存型散乱効率曲線は、非正の勾配を持つ線形関数形式により説明することができる。組織構造に関して低下した散乱係数μs'は、下記のような関数により、一般に説明することができ:
μs'=a+bλ (5)
式中、aおよびbは定数であり、但しb0である。典型的には、酸素化されたヘモグロビンに起因する測定された光減衰スペクトルの部分は、スペクトルの赤外域に正の勾配を有する。従って式(2)によりもたらされたモデルが選択される場合、パラメータc1は、c10であるようにフィッティング時に制約され得る。この制約条件は、酸素化されたヘムからの光減衰スペクトルへの寄与、散乱、および比較的滑らかなバックグラウンドの間のクロストークを排除することにより、改善されたパラメータ値の決定を可能にする。
【0063】
ある組織に関して、パラメータcHb+Mb、cHbO2+MbO2、およびcwat値に関する良好な初期推定値の生成が可能である場合もある(例えば健常ヒト患者において)。他の組織に関して、これらのパラメータの良好な初期推定値に達することがより困難である場合もある。パラメータ値の初期推定値の生成は、典型的にはオペレーターの介入に関連するが、しかしヒトオペレーターの技術レベルの差が原因で生じる変動に支配される。典型的には例えば健常ヒト患者において、cHb+Mb値は約40μmol/Lであり得、cHbO2+MbO2値は約60μmol/Lであり得、かつcwat値は約60%であり得る。これらの値は、パラメータcHb+Mb、cHbO2+MbO2、およびcwatの初期推定値として使用することができる。
【0064】
ヒトオペレーターによる入力に頼る代わりに、本明細書に開示するシステムおよび方法は、二段階フィッティング手順を使用し、自動化された様式で(例えば、オペレーターの入力を伴わず)モデルパラメータの初期値および最終値の両方を決定することもできる。この二段階フィッティング手順は概して、モデルパラメータの一部または全ての良好な初期値を自動的に決定し、次に式(4)のχ2値を最小化することにより最終パラメータ値を決定するために、本明細書に開示するモデルのいずれかに適用することができる。
【0065】
例として、式(2)により与えられたモデルが工程104において選択される場合、c0、c1、および<L>の良好な初期値は、パラメータcHb+Mb、cHbO2+MbO2、およびcwatの値を固定することによる掃引法を使用し、かつパラメータc0、c1、および<L>の値を変動するために最小二乗最小化手法を使用し、決定することができる。この技術は、調節可能なパラメータとしてc0、c1、および<L>のみにより、式(4)のχ2値を最小化することに対応する。c0、c1、および<L>の良好な初期値がχ2の最小化により決定される場合、これらの値は固定され、かつ式(4)のχ2値は、パラメータcHb+Mb、cHbO2+MbO2、およびcwatを変動させることにより、掃引法により、再度最小化される。最小化手順から得られたこれらのパラメータの値は、良好な初期値に対応する。
【0066】
二段階フィッティング手順の第二段階は、変動させることができる6種のパラメータc0、c1、<L>、cHb+Mb、cHbO2+MbO2、およびcwatの各々により、式(4)のχ2値を最小化する(前述のように、課されたあらゆるフィッティング制約条件に従う)こと、およびこの手順の第一段階において決定されたこれらの6種のパラメータの良好な初期値から開始することを含む。この手順の第二段階後に得られたこれらのパラメータの値は、これらのパラメータの最終値である。一般に任意の適用された制約条件に従う式(4)のχ2値を最小化することが可能である任意のフィッティングアルゴリズムは、本明細書に開示するシステムおよび方法において使用することができる。式(4)のχ2値を最小化するために使用することができるフィッティングアルゴリズムの一例は、レベンバーグ-マーカード(Levenberg-Marquardt)アルゴリズムである。
【0067】
先に考察した二段階フィッティング手順は、多くの利点を提供することができる。特にこれらのパラメータの良好な初期値でフィッティング手順の第二段階を開始することにより、この第二段階は、収束がそうでない場合よりもより迅速に進行する。同じく非線形最小二乗フィッティングアルゴリズムは、局所(必ずしも大域ではない)極小で生き詰まる(get stuck)可能性が低いので、フィッティングの結果は、典型的にはより正確である。
【0068】
開示するシステムおよび方法において選択された光減衰モデルへ光減衰スペクトルをフィッティングするために使用することができるひとつのアルゴリズムは、微分展開(Differential Evolution)(DE)法と称される遺伝的アルゴリズム型であり、これはPrice, K.V.の論文「Differential Evolution: A practical approach to global optimization」(Germany:Springer-Verlag, 2005)に説明されている。本DEアルゴリズムは、その初期集団に関わりない関数の極値に収束する大域的最適化アルゴリズムである。DEアルゴリズムは典型的には、他の大域的最適化アルゴリズムよりもより迅速に収束し、かつより少ない制御変数を使用する。DEアルゴリズムは、大域最小へ収束するので、このDEアルゴリズムは、一部の態様において、前述のフィッティング手順の第一段階を実行することなく使用することができる。すなわち、モデルパラメータの初期推定値を決定するために掃引法によりスペクトルを最初にフィッティングすることなく、DEアルゴリズムが光減衰スペクトルを光減衰モデルへフィッティングするために使用される一段階フィッティング手順を、使用することができる。
【0069】
モデルパラメータの最終値が決定される場合、標的組織内の酸素飽和は、工程108において算出される。酸素飽和は、式(1)に従い算出され;その結果、工程104で選択されたモデルは、パラメータcHb+MbおよびcHbO2+MbO2を含む。これらのパラメータの値は、工程106において決定され、その後SO2は、工程108のこれらのパラメータの値から算出される。
【0070】
酸素分圧の決定
フローチャート100において任意である工程110において、標的組織内の酸素分圧は、工程108において決定された酸素飽和の値から算出される。酸素分圧は、様々なアルゴリズムを使用し、酸素飽和から算出することができる。例えば、酸素分圧は、Severinghaus, J.W.の論文「Simple, accurate equations for human blood O2 dissociation computations」 J. Appl. Physiol.: Respirat. Environ. Exercise Physiol., 46:599-602(1979)に説明された、下記の関係を用い、算出することができる:

式(6)は、フローチャート100の工程110における標準の生理的条件下での酸素飽和からの酸素分圧の正攻法的算出を可能にする。
【0071】
適用
本明細書に開示するシステムおよび方法により測定される酸素飽和および/または酸素分圧は、患者における毛細血管収縮の感度の良い診断インジケーターを提供する。出血および内出血の過程の初期に、筋肉組織内の毛細管は、血液が最も必要とされる心臓および脳へと血液を方向付けるために血管収縮する。血管収縮は、相対的正常レベルでの血圧の維持も補助し、結果的に、血圧は典型的に、出血性ショックの遅い段階のインジケーターのみを提供する。
【0072】
本明細書に開示するシステムおよび方法の感度を評価するために、10名の試験対象セットは、下半身陰圧(LBNP)の大きさの漸増を含む試験プロトコールを受けた。LBNPプロトコールは、5分間のベースライン期間、それに続く5分間隔の-15、-30、-45、および-60mmHgへのチャンバー減圧、それに続く心臓血管系虚脱の開始または-100mmHgで5分間の完了のいずれかまでの、5分毎の-10mmHgの追加の増分からなった。短距離および長距離の両光源-検出器間隔の光ファイバーセンサーを使用し、赤外線反射スペクトルを、プロトコールの期間中連続して記録した。このセンサーは、前腕の深指屈筋上に配置した。
【0073】
筋肉組織内の酸素飽和および酸素分圧は、前述の方法を使用し、反射スペクトルから生成した光減衰スペクトルから算出した。反射スペクトルは、光減衰スペクトルを生成する前に、皮膚色素および脂肪による光吸収および/または散乱からの寄与を除去するように補正した。血液試料は、LBNPプロトコールの各段階の最後の1分間に各被験対象から採取した。各対象に関する酸素飽和は、コ-オキシメーター装置を用い血液試料から測定し、酸素分圧は、血中ガス分析装置を用い測定した。
【0074】
加えてLBNPプロトコールの各レベルで各対象について、一回拍出量(SV)、全末梢血管抵抗(TPR)、および総ヘモグロビン(HbT)(筋肉組織内の酸素化されたおよび脱酸素化されたヘモグロビンおよびミオグロビンの合計)の変化を、これらのパラメータのベースライン値に対して決定した。心拍間隔の一回拍出量は、HIC-2000 Bio-Electric Impedance Cardiograph(Bio-Impedance Technology, Chapel Hill, NCより入手可能)による、胸郭電気的生体インピーダンスを用い、非侵襲的に測定した。この胸郭電気的生体インピーダンス技術は、腋窩中線で剣状突起に配置された2個の外側表面電極により胸郭へ印加される低い強度(例えば4mA)、高周波数(例えば70kHz)の交流に対する胸郭内の抵抗の変化に基づいている。心室SV(mL/心拍の単位)が、下記部分的経験式から決定され:

式中、p(単位ohm-cm)は、血液抵抗であり(典型的には約135ohm-cm)、f(単位cm)は、2本の内部ピックアップ電極の間の平均距離であり、Z0(単位ohm)は、平均ベースライン胸郭インピーダンスであり、LVET(単位秒)は、左心室駆出時間であり、および(dZ/dt)minは、測定された胸郭インピーダンスの高さ 対 ゼロラインからの時間ピーク(例えばZ-点)である。心拍出量(Q)は、心拍数(HR)およびSVの積として算出し、TPRは、動脈圧の平均値をQで除算することにより概算した。
【0075】
図4は、総ヘモグロビンの測定された変化率%を一回拍出量の測定された変化率%の関数として示している。総ヘモグロビンの変化と一回拍出量の変化の間の関係は、図4において実線で示すように、ほぼ線形である。理論で縛ることは望まないが、図4に示す関係のひとつの可能性のある説明は、一回拍出量が、血液量の減少とともに下落することである。図5において、総ヘモグロビンの変化率%は、全末梢血管抵抗の変化率%の関数としてプロットされる。この関係は、再度実線により示すように、ほぼ線形である。しかし図5は、総ヘモグロビンの変化は、全末梢血管抵抗の変化と逆相関していることを示している。典型的に、全末梢血管抵抗は、血管収縮が生じた場合に増加する。従って筋肉組織内の総ヘモグロビンの測定(前述のように、酸素化されたおよび脱酸素化されたヘモグロビンの濃度の決定による)は、患者における血管収縮の発症および進行の正確な診断を提供する。
【0076】
より一般的には、血管収縮および/または血管拡張は、標的組織内の血液量の変化を生じ、総ヘモグロビンのモニタリングにより、この組織内の血液量(例えば患者における経時的血液量の変化)を評価することができる。本明細書で明らかにする方法により決定されたSO2およびPO2値は、標的組織内の血液量の感度の良いプローブも提供し、かつモニタリングおよび評価を目的に使用することができる。一般にHbT、SO2、およびPO2などの量の測定は、組織内の血液量の変動を生じる任意の疾患もしくは状態、および/または傷害に反応した血管収縮/血管拡張の進行および治療の追跡に有用である。進行を追跡することができる状態の例は、出血および敗血症の診断および治療の評価;心疾患および糖尿病を随伴する微小血管の異常;ならびに、血管収縮および/または血管拡張を介し血圧を上昇する薬物の作用を含む。患畜では、特定の臓器に対する薬物の局部的作用を、追跡することができる。
【0077】
例として、患者が出血を経験する場合、ある患者組織における血液量の喪失は、総ヘモグロビンの測定により、モニタリングすることができる。さらに図4および5に示すように、総ヘモグロビンは、血液量と共に直線的に増える。従ってHbTを経時的にモニタリングすることにより、出血の進行段階を評価することができる。HbTの変化を使用し、出血が例えば停止されるかまたは制御下にあるかどうか、または出血状態は増悪しているかどうかを評価することができる。
【0078】
別の例のように、患者が敗血症(微小循環疾患)に罹患した場合、患者のある組織内の小型血管が詰まり始め、結果的に患者の組織内に存在する血液量(および酸素枯渇血液)がより少なくなる。一般に敗血症は持続するので、血液組織中の酸素枯渇レベルは増大する。灌流が回復する場合、敗血症状態は緩和され、血液酸素化および血液量の両方が患者組織内で増大する。本明細書で明らかにするように患者組織内のHbTおよび/またはSO2および/またはPO2をモニタリングすることにより、敗血症の進行速度を評価することができる。例えば、標的組織内の敗血症状態が悪化する場合、その組織内のHbT値は、血液量の減少と共に低下する。その組織内の敗血症が緩和される場合、組織内のHbT値は、血液量の増加と共に増大する。同様の相関を適用し、標的組織内のSO2およびPO2の測定から決定された血液量に基づき敗血症を評価する。
【0079】
第三の例として、患者が心疾患または糖尿病に罹患した場合、これらの状態から生じるアテローム性動脈硬化症は、負荷(challenge)に反応して血管収縮を防止する。対照的に、健常患者において、負荷に反応した血管収縮は、血圧の維持をもたらす。従って心疾患または糖尿病のような状態の進行は、患者のHbTおよび/またはSO2および/またはPO2をモニタリングすることにより評価することができる。典型的には例えば、これらの状態のひとつに罹患した患者は、チルト検査されるか(tilt)または負荷を表す運動プロトコールが施されるかのいずれかであり、SO2および/またはPO2および/またはHbTの値は、患者の選択された標的組織から決定される。患者の血管は血管収縮することができないため、その患者についてSO2および/またはPO2および/またはHbTの測定された変化は、より健常な患者についてのこれらのパラメータの測定された変化よりも小さくなるであろう。罹患した患者組織のSO2および/またはPO2および/またはHbTの健常患者組織の標準値に対する(または疾患のより早い段階に同じ患者から測定されたこれらのパラメータの値に対する)差を測定することにより、このような心疾患および糖尿病の状態の進行を評価することができる。
【0080】
一般に前述のように、様々な状態の評価および追跡のためのHbT、SO2、およびPO2などの量の測定は、血圧を維持するための血管収縮および/または血流を改善するための血管拡張を刺激する介入時に行われる。このような介入の例は、1本または複数の血管の閉塞、対象の運動、および対象のチルトを含む。
【0081】
インプリメンテーション
本明細書に開示する方程式およびアルゴリズムは、ハードウェアまたはソフトウェアにおいて、または両方の組み合わせにおいてインプリメントすることができる。本明細書に開示する方法工程および図面は、標準のプログラミング技術を用い、コンピュータプログラムにおいてインプリメントすることができる。これらのプログラムは、プログラム可能なプロセッサ(例えばプロセッサ18)またはコンピュータ、例えばマイクロコンピュータ上で実行するようにデザインすることができ、各々少なくとも1個のプロセッサ、少なくとも1個のデータ保存システム(揮発性メモリーおよび非揮発性メモリーおよび/または保存要素を含む)、キーボードまたは押しボタンアレイなどの少なくとも1個の入力装置、ならびにCRT、LCD、またはプリンタなどの少なくとも1個の出力装置を備える。プログラムコードは、入力データに適用され、本明細書で説明する関数を実行する。出力情報は、プリンタ、またはCRTもしくは他のモニター、または例えば遠隔モニタリングのためのウェブサイトにアクセスしているコンピュータモニター上のウェブページなどの、1つまたは複数の出力装置に適用される。
【0082】
本明細書に開示するシステムで使用される各プログラムは、コンピュータシステムとコミュニケートするために、高レベルの手続き型またはオブジェクト指向型プログラム言語でインプリメントされることが好ましい。しかしこれらのプログラムは、望ましいならば、アッセンブリー言語またはマシン言語においてインプリメントされ得る。いずれの場合においても、言語はコンパイル式およびインタプリタ式の言語である。
【0083】
そのようなコンピュータプログラムの各々は、本明細書で説明する手順を実行するために保存媒体または装置がコンピュータにより読みとられる場合に、コンピュータを構成および操作するための、一般的または特別な目的でプログラム可能なコンピュータにより読み出し可能である保存媒体または装置(例えば、ROMまたは磁気ディスク)上に保存することができる。これらのプログラムは、コンピュータプログラムと共に構成された、コンピュータが読み取り可能な保存媒体としてインプリメントされるとみなすこともでき、そのように構成された保存媒体は、コンピュータ内のプロセッサを、本明細書で説明する関数を実行するために、特定の予め規定された様式で操作させる。
【0084】
任意のコミュニケーションネットワークを使用し、遠隔地のモニタリングから結果を得ることができるが、インターネットまたは無線システムは、データを送信する有用な選択肢を提供する。
【0085】
実施例
本発明を下記実施例でさらに説明するが、これらは特許請求の範囲で説明する本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0086】
実施例1
本明細書において開示するシステムおよび方法の精度を評価するために、シミュレートされた組織減衰スペクトルを、標的組織における4種の異なる光散乱条件について算出し、図3の方法工程を、これらの4種の光散乱条件の各々からのデータに適用し、酸素飽和値を決定した。4種の光散乱条件は、4種の異なる関心対象の標的組織に対応している。各標的組織について、シミュレーションされた光減衰スペクトルは、8種の異なる理論的SO2値の各々について算出した:0%、10%、20%、40%、50%、60%、80%、および100%。
【0087】
非散乱の吸収する標的組織に対応した光減衰スペクトルを生成するために、ヘモグロビンからの寄与のみに対応する項を有するランベルト-ベールの方程式を使用した:
Aexp(λ)=ln(10)・L・[cHbεHb+cHbO2εHbO2+cwatεwat] (8)
式中、Lは、標的組織を通り減衰された光の経路長であり、cHb、cHbO2、およびcwatは、各々標的組織内の脱酸素化されたヘモグロビン、酸素化されたヘモグロビン、および水の濃度であり、かつεHb(λ)、εHbO2(λ)、およびεwat(λ)は、脱酸素化されたヘモグロビン、酸素化されたヘモグロビン、および水の吸光係数であり、これらのパラメータの波長λ値の関数は、非散乱の吸収する標的組織についての光減衰スペクトルを生成するように選択された。
【0088】
その中で光散乱が生じた3種の異なる標的組織についても、光減衰スペクトルを算出した。単層無限平板拡散モデルを使用し、下記関数形式を伴うモデルからの、組織吸収係数μa(λ)、減少した散乱係数μs'(λ)、および光源-プローブ間隔dの選択された値に関する光減衰スペクトルを生成し:

式中、量σ(λ)は、下記式に従い算出される。

【0089】
3種の異なる光散乱標的組織に関する光減衰スペクトルを算出するために、酸素化されたおよび脱酸素化されたヘモグロビンの濃度に関する値を選択し、SO2の理論値を固定し、かつ吸収係数の値μa(λ)を選択した。加えて光散乱標的組織の各々に関する低下した光散乱係数μs'(λ)の値を選択した。これら3種の異なる光散乱標的組織は、患者の前腕、ふくらはぎ、および無傷の頭部の組織に対応していた。これらの各組織に関する低下した散乱係数μs'(λ)を、各々、式(11)、(12)、および(13)に従い算出した。

【0090】
式(11)〜(13)は、Matcher, S.J.らの論文「In vivo measurements of the wavelength dependence of tissue-scattering coefficients between 760 and 900nm measured with time-rcsolved spectroscopy」Applied Optics, 36:386-396 (1997)に説明されている。式(11)〜(13)において、μs'(λ)の単位はcm-1であり、λの単位はnmである。式(11)〜(13)に対応する3種の異なる標的組織に関する光減衰スペクトルは、725nm〜880nmの間の一連の波長ポイントで算出した。
【0091】
算出された光減衰データを光減衰モデルへフィッティングすることにより決定されたSO2値の精度を評価するために、各組織に関するSO2の測定値と理論値との間の決定係数R2を算出した。加えて推定された測定誤差を説明する、予測の平均二乗誤差(RMSEP)を、下記式に従い算出し:

式中、Nは光減衰スペクトルの数であり、かつ

およびyiは、各々SO2の理論値および実験的に決定された値である。比較的大きいR2値(例えば1(unity)に近づく値)および比較的小さいRMSEP値は、実験的に決定されたSO2値は正確である(例えば理論的SO2値に密に合致する)ことを示している。
【0092】
式(8)を用いて算出されたシミュレーションされた光減衰スペクトルは、一連のSO2理論値に関して、図6に示されている。図6の光減衰スペクトルは、入射光を散乱しない標的組織に対応している(例えば、光減衰は吸収によってのみ生じる)。患者の前腕に対応する光散乱標的組織に関して算出されたシミュレーションされた光減衰スペクトルは、一連のSO2理論値について図7に示している。図6および7の各々において、60%の水濃度cwatおよび3cmの光源-検出器間隔を、この計算において使用した。
【0093】
図8は、図3に示す手順に従い式(2)によりもたらされたモデルに対し、式(8)〜(13)を使用し算出された光減衰スペクトルの4種のセットをフィッティングすることにより決定された、SO2の実際値(理論値)および推定値(測定値)を示すプロットである。使用したフィッティングアルゴリズムは、前述の掃引技術から得られた初期パラメータ値による、レベンバーグ-マーカード最適化法であった。0.99〜1の間のR2値は、5%未満のSO2の最大RMSEPで、減衰スペクトルの4種のセットの各々について(例えば4種の異なる標的組織の各々について)得た。R2の比較的高い値および比較的低いRMSEP値は、4種の標的組織の各々におけるSO2の正確な測定が達成されたことを示している。比較のために、理論的光減衰スペクトルは、DEアルゴリズムを用い、式(2)にもフィッティングし、このフィッティング手順から得られたモデルパラメータの値は、SO2値を算出するために使用した。これらの結果を、下記表1に示している。4種の標的組織のうちの3種に関して、DEアルゴリズムにより決定されたSO2のRMSEPは、レベンバーグ-マーカードアルゴリズムにより決定されたSO2のRMSEPよりも低かった。
【0094】
【表1】

【0095】
実施例2
ヒト患者における出血性ショックの早期段階をシミュレーションするために、5名のヒト被験対象において下半身陰圧(LBNP)を漸増することを含む試験プロトコールを実施した。LBNPプロトコールは、5分間のベースライン期間、それに続く5分間間隔の-15、-30、-45および-60mmHgへのチャンバー減圧、それに続く心臓血管系虚脱の開始または-100mmHgで5分間の完了のいずれかまでの、5分毎の-10mmHgの追加増分からなった。短-距離および長-距離の光源-検出器間隔の両方の光ファイバーセンサーを使用し、赤外線反射スペクトルを、プロトコールの期間中連続して記録した。このセンサーは、前腕の深指屈筋上に配置した。
【0096】
筋肉組織内の酸素飽和および酸素分圧は、前述の方法を使用し、反射スペクトルから生成した光減衰スペクトルから算出した。反射スペクトルは、光減衰スペクトルを生成する前に、皮膚色素および脂肪による光吸収および/または散乱からの寄与を除去するように補正した。血液試料は、LBNPプロトコールの各段階の最後の1分間に各被験対象から採取した。各対象に関する酸素飽和は、コ-オキシメーター装置を用い血液試料から測定し、および酸素分圧は、血中ガス分析装置を用い測定した。
【0097】
図9は、5名の被験対象の各々に関するLNBPプロトコールの様々な段階での、採取した血液試料から測定した酸素飽和(O2Hb(%)血液)と赤外線反射測定により測定した酸素飽和(NIRS SO2(%))との間の相関を示している。図10は、5名の被験対象の各々に関するLNBPプロトコール間、採取した血液試料から測定された酸素分圧(Venous PO2)と赤外線反射測定により測定した酸素飽和(NIRS PO2)との間の相関を示している。図9において、SO2のRMSEPは約8%であり、図10において、PO2のRMSEPは約3.3mmHgである。これらの比較的低い予測誤差は、赤外線反射測定により決定されたSO2値およびPO2値が、標的組織内の実際のSO2値およびPO2値に正確に対応していることを示している。SO2値およびPO2値の精度はさらに、本明細書に開示するシステムおよび方法は、患者の出血性ショックのような状態の正確で感度の良い診断を提供することを示す。
【0098】
他の態様
本明細書に開示するシステムおよび方法は、標的組織内のSO2およびPO2のような他の生理学的量を決定するために、他の光減衰モデル(例えば、式(2)以外のモデル)を使用することができる。3種の異なる代替モデルを考察する:その他のモデルも可能である。以下の代替モデルは、これらのモデルの各々に対し、式(8)〜(13)から生成された理論的光減衰スペクトルのセットをフィッティングし、4種の異なる標的組織(例えば、非散乱組織、前腕組織、ふくらはぎ組織、および無傷の頭部組織)に対応し、かつ各モデルを使用し各標的組織に関して決定されたSO2値に関する決定係数およびRMSEP値を算出することにより、精度に関して調べた。
【0099】
モデル2
前述のように、測定された光減衰スペクトルは、式(2)により示されたモデルにフィッティングすることができる。このフィッティング手順後、パラメータc0、c1、<L>、cHb+Mb、cHbO2+MbO2、およびcwatの値が得られる。これらのパラメータの値を用い、波長依存型ベースラインスペクトルを、これらのパラメータのフィッティングされた値で式(2)により示されたモデルと、測定された光減衰スペクトルとの間の差から算出する。このベースラインスペクトルは、下記式に従い算出することができ:

式中、

は、ベストフィッティングパラメータ値で式(2)により示された光減衰モデル関数である。
【0100】
その後、後続の工程において、初期パラメータ値としてフィッティングされたパラメータ値c0、c1、<L>、cHb+Mb、cHbO2+MbO2、およびcwatにより、測定された光減衰スペクトルを、下記モデル方程式にフィッティングする。

式(16)に示すモデルにおいて、c2は、別のフィッティングパラメータと共に変動するスケール因子である。測定された光減衰スペクトルに対する式(16)のフィッティングにより得られるcHb+MbおよびcHbO2+MbO2の改良値(refined value)から、SO2およびPO2の値が算出される。
【0101】
この多工程フィッティング手順(最初にベースラインスペクトルbspect(λ)を決定し、および二番目に式(16)のパラメータのフィッティングされた値からSO2およびPO2を決定する)は、式(16)のパラメータのより正確な決定を提供し、その結果、より正確なSO2およびPO2値を提供する。下記表2は、光減衰スペクトルが式(8)〜(13)を用いてシミュレーションされた4種の異なる理論的標的組織の各々について算出されたR2値およびRMSEP値を示す。前述の多工程フィッティング手順を用いて理論的光減衰スペクトルをフィッティングすることから決定されたSO2値を、SO2理論値と比較し、これはこれらの組織の各々について0.99のR2値、および6%未満SO2のRMSEP値を生じた。比較的大きいR2値および比較的低いRMSEP値は、モデル2が標的組織内のSO2の正確な決定を提供したことを示した。
【0102】
【表2】

【0103】
モデル3
このモデルにおいて、吸収によるおよび散乱による光減衰は、類似した関数形式を有する。このモデル式は、以下であり:
Aモデル(λ)=[μa(λ)+μs(λ)]・d・dpf(λ)
=[μa(λ)+c1・μs'(λ)]・d・dpf(λ) (17)
式中、μa(λ)およびμs(λ)は、各々、標的組織の波長依存型の吸収係数および散乱係数であり、c1は定数であり、dは光源-検出器距離であり、かつdpf(λ)は組織に関する示差路程因数である。散乱係数μs(λ)は、μs'(λ)=(1-g) μs(λ)に従い、低下した散乱係数μs'(λ)に関連しており、式中、gは、散乱角の平均余弦に対応する異方性因子である。
【0104】
前述のように、絶対光強度I0(λ)と99%の反射標準からの参照光強度Iref(λ)との間の差を補償するために、定数項coを式(17)に加え、下記モデル方程式を得る。
Aモデル(λ)=[μa(λ)+μs(λ)]・L・dpf(λ)+c0
=[μa(λ)+c1・μs'(λ)]・L・dpf(λ)+c0 (18)
式(18)において、吸収係数μa(λ)は、下記式(19)に従う、標的組織内の吸収成分の濃度に関連している。
μa(λ)=cHb+MbεHb(λ)+cHbO2+MbO2εHbO2(λ)+cwatεwat(λ) (19)
【0105】
低下した散乱係数μs'(λ)は、下記式のふたつの定数c2およびc3の関数である:
μs'(λ)=c2+c3λ (20)
フィッティング手順の間に、c3<0であるように制約条件が、c3へ課せられる。
【0106】
示差路程因数は、下記式に従い、低下した散乱係数および吸収係数の関数として表される。

【0107】
非線形レベンバーグ-マーカード最小二乗フィッティング手順を使用し、理論的(例えばシミュレーションされた)光減衰スペクトルを、式(18)〜(21)により示されたモデルへフィッティングすることにより、様々なモデルパラメータの値を決定した。その後SO2値を、式(19)のパラメータのフィッティングされた値から算出した。下記表3は、実験的に決定されたSO2値と理論的SO2値の比較からのR2およびRMSEP結果を示している。この表に示されるように、R2値は、4種標的組織全てについて0.97またはそれよりも大きく、RMSEP値は、10%SO2未満であった。これらの統計的測定は、モデル3は、標的組織内のSO2の正確な決定をもたらしたことを示している。
【0108】
モデル2の結果と比較し、モデル3は、ここで評価された試験データの平均についてわずかに精度の低い結果をもたらすように見える。しかし、ある種の組織に関して、モデル3は、より正確なSO2決定(例えば、無傷の頭部標的組織の結果と比較)を提供することができる。
【0109】
【表3】

【0110】
モデル4
拡散理論に基づくモデルも、本明細書において開示するシステムおよび方法において使用することができる。拡散理論に従い、約2cmよりも大きい光源-検出器の間隔dで半無限散乱媒体から放出された連続波光放射の拡散反射R(d,λ)は、下記式で与えられ:

式中、Cは、dと無関係の定数であり、および内部正反射パラメータに関連している。C値は、標的組織および周囲の媒体の屈折率に左右される。μeff(λ)の値は、下記式に従い算出される。

【0111】
吸収係数μa(λ)は、式(19)として算出され、低下した散乱係数μs'(λ)は、式(20)として算出される。定数項c0も、前述のように、I0(λ)とIref(λ)との間の差を補正するために追加され、その結果モデル光減衰方程式は、以下となる。

【0112】
二段階非線形最小二乗フィッティング手順を使用し、式(19)、(20)、および(22)〜(24)によりもたらされたモデルのパラメータを、これらの方程式の4種の異なる標的組織の各々に関する理論的データへフィッティングすることにより、決定した。フィッティング手順の第一段階において、全てのモデルパラメータのデータへのフィッティングを行う前に、パラメータCの良好な初期値が、掃引法を用い得られた。パラメータc0、c2、c3、cHb+Mb、cHbO2+MbO2、およびcwatの値は、一定に留められ、かつ理論的光減衰スペクトルが式(24)にフィッティングされ、Cのみがモデルパラメータ間で変動することができる。式(24)へのデータのフィッティングは、式(4)との連結において考察されるように、このモデルと理論的データとの間の平方差の和χ2の最小化を含む。掃引法から得られたC値は、パラメータCに関する良好な概算に対応した。
【0113】
フィッティング手順の第二段階では、第一段階で決定されたC値を、式(22)のCの最終値として使用することができ(例えば定数として固定した)、かつ理論的光減衰スペクトルは再度式(24)へフィッティングし、パラメータc0、c2、c3、cHb+Mb、cHbO2+MbO2、およびcwatの各々は、フィッティング時に変動することが可能である。この様式で、これら6種のパラメータの正確な値を得、かつ各標的組織におけるSO2を、フィッティング手順からのcHb+MbおよびcHbO2+MbO2の値に基づき算出した。下記表4は、実験的に決定されたSO2値と理論的SO2値の比較からのR2およびRMSEPの結果を示す。この表に示したように、R2値は、4種の標的組織全てに関して0.99であり、RMSEP値は、7%未満SO2であった。これらの統計学的測定は、モデル4は、4種の標的組織におけるSO2の正確な決定を提供したことを示している。R2およびRMSEP値に基づき、モデル2、3および4の各々に関する結果は、同等の精度を実現した。
【0114】
【表4】

【0115】
本発明は、その詳細な説明と結びつけて説明されているが、前記説明は例示を意図するものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって規定されることは理解されるべきである。その他の局面、利点および変更は、特許請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
様々な図面の同様の参照記号は、同様の要素を示す。
【0117】
【図1】標的組織内の酸素飽和を測定する分光計システムのひとつの可能な態様の概略図である。
【図2】標的組織内の酸素飽和を測定する分光計システムの別の態様の概略図である。
【図3】標的組織の光減衰スペクトルから標的組織内の酸素飽和を決定する例示的連続工程を示すフローチャートである。
【図4】下半身陰圧試験プロトコールを受ける患者に関する一回拍出量の測定された変化率%の関数として、総ヘモグロビンの測定された変化率%を示すプロットである。
【図5】下半身陰圧試験プロトコールを受ける患者に関する全末梢血管抵抗の測定された変化率%の関数として、総ヘモグロビンの測定された変化率%を示すプロットである。
【図6】一連の様々な組織の酸素飽和値での非-散乱標的組織について算出された理論的光減衰スペクトルを示すプロットである。
【図7】一連の様々な組織の酸素飽和値での散乱標的組織について算出された理論的光減衰スペクトルを示すプロットである。
【図8】様々な標的組織における酸素飽和の実際値および推定値を比較するプロットである。
【図9】下半身陰圧試験プロトコールの様々な段階の患者について、採血試料から測定された酸素飽和値と、非侵襲的赤外線反射測定から測定された酸素飽和値を比較するプロットである。
【図10】下半身陰圧試験プロトコールの様々な段階の患者について、採血試料から測定された酸素分圧値と、非侵襲的赤外線反射測定からの測定された酸素分圧値を比較するプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射放射を標的組織へ方向付け、かつ複数の放射波長で標的組織からの反射放射の強度を測定することにより標的組織の反射スペクトルを決定する工程;
入射放射が中を通って伝播する皮膚層および脂肪層からの該反射スペクトルへの寄与を低減するために、該反射スペクトルの測定された強度を補正する工程;
該補正された反射スペクトルに基づき標的組織における酸素飽和を決定する工程;ならびに
酸素飽和の決定された値を出力する工程
を含む、標的組織における酸素飽和を算出するための方法。
【請求項2】
酸素飽和を決定する工程が、補正された反射スペクトルからの光減衰スペクトルの決定、ならびに光減衰スペクトルから導かれる標的組織内の酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度に基づく酸素飽和の算出を含み、ヘムが、標的組織内のヘモグロビンおよびミオグロビンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度が、光減衰スペクトルをモデル光減衰方程式にフィッティングすることにより、光減衰スペクトルから導かれる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
光減衰方程式が、標的組織内の酸素化されたヘム、脱酸素化されたヘム、および水による入射光吸収に対応する項を含むベールの法則の方程式を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
光減衰方程式が、ベールの法則の吸収項に対応する複数の項における光減衰の級数展開を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
光減衰の級数展開が、光減衰のテーラー級数展開を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
光減衰方程式が、入射光の波長と共に線形に変動する項を含み、該項が関数形式aλを有し、式中aが定数でありかつλが入射光の波長である、請求項3記載の方法。
【請求項8】
光減衰方程式が、入射光の波長から独立した定数項を含む、請求項3記載の方法。
【請求項9】
光減衰スペクトルのモデルへのフィッティングが、第一段階で1つまたは複数のモデルパラメータの初期値が決定され、かつ第二段階で光減衰スペクトルがモデルへフィッティングされる、二段階フィッティング手順を実行することを含み、該モデルが、第一段階で決定された初期パラメータ値を含む、請求項3記載の方法。
【請求項10】
光減衰スペクトルとモデルから決定された光減衰値との間の平方差の和を最小化することにより、光減衰スペクトルがモデルへフィッティングされる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
フィッティングが、プロセッサにより自動的に実行される、請求項3記載の方法。
【請求項12】
aが0未満または0と等しい値のみをとるように、フィッティング時に、aの値が制約される、請求項7記載の方法。
【請求項13】
光減衰方程式が、光減衰方程式から決定された光減衰値と光減衰スペクトルとの間の差から導かれるベースライン関数をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項14】
光減衰方程式が、標的組織の散乱係数と正比例しかつ標的組織の吸収係数と反比例して変動する示差路程因数(differential path length factor)をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項15】
光減衰方程式が、標的組織における入射光の放射拡散モデルから導かれる拡散反射方程式を含む、請求項3記載の方法。
【請求項16】
反射放射の強度の測定が、
第一の線源-検出器間隔に対応する標的組織からの反射放射を、光源から検出器までの第一の光路に沿って測定する工程;ならびに
第一の線源-検出器間隔とは異なる第二の線源-検出器間隔に対応する標的組織からの反射放射を、光源から検出器までの第二の光路に沿って測定する工程
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
第一の線源-検出器間隔で測定された反射放射が、標的組織からおよび光源と標的組織との間に配置された組織層からの寄与の第一の重み付けを含み、かつ第二の線源-検出器間隔で測定された反射放射が、第一の重み付けとは異なる、標的組織からおよび光源と標的組織との間に配置された組織層からの寄与の第二の重み付けを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
光源と標的組織との間に配置された組織層が、皮膚層および脂肪層である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
反射スペクトルの測定された強度を補正する工程が、第一の線源-検出器間隔で測定された反射放射に基づき、第二の線源-検出器間隔で測定された反射放射への皮膚層および脂肪層からの寄与を低減することを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
標的組織内の酸素飽和に基づき標的組織内の酸素分圧を決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
患者の標的組織内の総ヘモグロビンの測定値に基づき、患者の血管収縮レベルを評価する工程をさらに含む方法であって、総ヘモグロビンが、標的組織内の酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度に基づき決定される、請求項2記載の方法。
【請求項22】
標的組織が、ヒトの内部にある、請求項1記載の方法。
【請求項23】
標的組織が、動物の内部にある、請求項1記載の方法。
【請求項24】
複数の波長が、少なくとも100種またはそれよりも多い波長を含む、請求項1記載の方法。
【請求項25】
複数の波長が、700nm〜1000nmの波長を含む、請求項1記載の方法。
【請求項26】
複数の波長が、725nm〜880nmの波長を含む、請求項22記載の方法。
【請求項27】
標的組織が、筋肉組織である、請求項1記載の方法。
【請求項28】
入射放射を患者の標的組織へ方向付け、かつ複数の波長で、標的組織からの反射放射の強度を測定することにより標的組織の反射スペクトルを決定する工程;
入射放射が中を通って伝播する皮膚層および脂肪層からの該反射スペクトルへの寄与を低減するために、該反射スペクトルの測定された強度を補正する工程;
該補正された反射スペクトルに基づき、標的組織における総ヘム濃度を決定する工程;
総ヘム濃度に基づき患者の血液量を評価する工程;ならびに
評価された血液量を出力する工程
を含む、患者の血液量をモニタリングする方法。
【請求項29】
評価された血液量に基づき、患者の出血、敗血症、心疾患、および糖尿病の少なくとも1つの進行段階を評価する工程をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
入射放射を標的組織へ方向付け、かつ複数の放射波長で標的組織からの反射放射の強度を測定することにより標的組織の反射スペクトルを決定する工程;
該反射スペクトルから標的組織の光減衰スペクトルを決定し、かつ該光減衰スペクトルをモデル光減衰方程式へフィッティングする工程;ならびに
該光減衰スペクトルのフィッティングに基づき、標的組織内の酸素飽和を決定する工程
を含む、標的組織内の酸素飽和を算出するための方法であって、
光減衰スペクトルのモデルへのフィッティングが、第一段階で1つまたは複数のモデルパラメータの初期値が決定され、かつ第二段階で光減衰スペクトルがモデルへフィッティングされる、二段階フィッティング手順を実行することを含み、該モデルが、第一段階で決定された初期パラメータ値を含む、方法。
【請求項31】
モデルが、関数形式aλを有する項を含み、a値が、フィッティング時に、0未満または0と等しいように制約される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
入射放射を標的組織へ方向付けるように構成された光源と、
検出器と、
検出器へ連結され、かつ
標的組織の反射スペクトルを決定し、
入射放射が中を通って伝播する皮膚層および脂肪層からの該反射スペクトルへの寄与を低減するために、該反射スペクトルを補正し、かつ
該補正された反射スペクトルに基づき、標的組織における酸素飽和を決定するように構成された、プロセッサと
を備える、システム。
【請求項33】
複数の放射波長で標的組織からの反射放射の強度を測定するように検出器を方向付けることにより、プロセッサが標的組織の反射スペクトルを決定するように構成される、請求項32記載のシステム。
【請求項34】
補正された反射スペクトルから光減衰スペクトルを算出すること、および光減衰スペクトルから導かれる標的組織内の酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度に基づき酸素飽和を算出することにより、プロセッサが酸素飽和を決定するように構成され、ヘムが標的組織内のヘモグロビンおよびミオグロビンを含む、請求項32記載のシステム。
【請求項35】
光源と検出器との間にあり、かつ光源と検出器との間の第一の距離に対応する、第一の放射経路;ならびに、
光源と検出器との間にあり、かつ第一の距離とは異なる光源と検出器との間の第二の距離に対応する、第二の放射経路
をさらに備えるシステムであって、
光源からの入射放射が、第一および第二の放射経路の各々に沿って標的組織へ方向付けられ、かつ標的組織からの反射放射が、第一および第二の放射経路の各々に沿って検出器へ方向付けられる、請求項32記載のシステム。
【請求項36】
第一および第二の光路の各々に沿って反射スペクトルを測定すること、および補正された反射スペクトルを生成するために該反射スペクトルを組み合わせることにより、測定された反射スペクトルへの皮膚層および脂肪層からの寄与を低減するように、プロセッサが構成される、請求項35記載のシステム。
【請求項37】
第一および第二の放射経路が各々、光ファイバーを含む、請求項35記載のシステム。
【請求項38】
光減衰スペクトルをモデル光減衰方程式にフィッティングすることにより、標的組織内の酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度を導くように、プロセッサが構成される、請求項34記載のシステム。
【請求項39】
モデル光減衰方程式が、標的組織内の酸素化されたヘム、脱酸素化されたヘム、および水による入射放射の吸収に対応する項を含むベールの法則の方程式を含む、請求項38記載のシステム。
【請求項40】
プロセッサが、酸素飽和から標的組織内の酸素分圧を決定するようにさらに構成される、請求項32記載のシステム。
【請求項41】
プロセッサが、標的組織内の酸素化されたヘムおよび脱酸素化されたヘムの濃度から、標的組織内の総ヘム濃度を決定するようにさらに構成される、請求項34記載のシステム。
【請求項42】
プロセッサが、総ヘム濃度に基づき、標的組織内の血液量を評価するようにさらに構成される、請求項41記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−527635(P2010−527635A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513436(P2009−513436)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/069997
【国際公開番号】WO2007/140422
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(505231659)ユニバーシティ オブ マサチューセッツ (23)
【Fターム(参考)】