説明

経年劣化した構造物の信頼性評価方法

【課題】荷重及び強度に関する情報が完全に得られない場合でも、構造物の経年劣化を考慮しつつ構造物の信頼性の評価を行うことを可能とする。
【解決手段】経年劣化した構造物の実態の調査データ並びに専門家へのアンケート調査データを基に特性変数毎の確率密度関数を推定すると共に特性変数毎の確率密度から特性変数の値の組み合わせ毎の相対的な起こり易さを算出し、この組み合わせ毎に有限要素解析を行うと共に有限要素解析の結果得られる前記組み合わせ毎の発生応力及び組み合わせ毎の相対的な起こり易さを基に発生応力の確率密度関数を推定し、発生応力の確率密度関数と既存データから設定した強度の確率密度関数とに基づいて破壊確率と安全性指標を算出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経年劣化した構造物の信頼性評価方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、経年劣化により部材の腐食等が生じた構造物の信頼性評価方法に関する。
【0002】
本発明において、構造物の経年劣化に係る変数を特性変数と表現する。
【背景技術】
【0003】
経年化した土木構造物の合理的な維持管理計画を策定するためには、設計段階と同様に、想定される地震、風及び波浪等の外的事象並びに劣化及び操作により発生する負荷等の内的事象を考慮したリスク評価が必要である。そして、そのリスク評価においては、まず、対象構造物の現在及び将来の信頼性を定量的に把握することが必要である。土木分野における構造信頼性理論の適用については例えば非特許文献1にまとめられている。
【0004】
【非特許文献1】土木学会構造工学委員会:構造工学シリーズ2 構造物のライフタイムリスクの評価,1988年.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実構造物の中には複数の部材からなり荷重−変位関係が非線形挙動を示すものが存在する。加えて特に屋外構造物の場合は、荷重及び強度に関する情報が完全に得られることは稀である。このため、全ての確率変数の特性を把握し、その結合確率密度関数を基に破壊確率を厳密に算出することは実際上、困難である。したがって、非特許文献1の信頼性の評価は、どのような構造物に対しても広く適用することができる汎用的な方法であるとは言い難い。
【0006】
そこで、本発明は、荷重及び強度に関する情報が完全に得られない場合でも、構造物の経年劣化を考慮しつつ構造物の信頼性を評価することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の経年劣化した構造物の信頼性評価方法は、経年劣化した構造物の実態に関する調査データ並びに専門家へのアンケート調査データを基に特性変数毎の確率密度関数を推定すると共に特性変数毎の確率密度から特性変数の値の組み合わせ毎の相対的な起こり易さを算出し、この組み合わせ毎に行った有限要素解析で得られた発生応力の頻度分布を組み合わせ毎の相対的な起こり易さを用いて変換した発生応力の頻度分布から確率密度関数を推定し、この発生応力の確率密度関数と既存データから設定した強度の確率密度関数とに基づいて破壊確率と安全性指標を算出する。
【0008】
したがって、この構造物の信頼性評価方法によると、専門家へのアンケート調査を行い、そのアンケート調査データに基づいて特性変数の値の確率密度関数を推定する。また、特性変数の値の組み合わせ毎の相対的な起こり易さを算出し、その相対的な起こり易さを考慮した発生応力の値の確率密度関数を推定する。更に、発生応力の確率密度関数と強度の確率密度関数とに基づいて破壊確率と安全性指標を算出して構造物の信頼性の評価を行う。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明の構造物の信頼性評価方法によれば、専門家へのアンケート調査データに基づいて特性変数の値の確率密度関数を推定することにより、構造物の荷重に関する情報が完全に与えられない場合でも、膨大な回数の計算を行うことなく構造物の信頼性を評価することができるので、多様な構造物の評価を行うことが可能で汎用性の向上を図ることが可能である。また、特性変数の値の組み合わせ毎の相対的な起こり易さを考慮した発生応力の値の確率密度関数を推定することにより、より実際の状態に対応した発生応力を想定することができるので、構造物の信頼性評価の精度向上が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1から図6に、本発明の構造物の信頼性評価方法の実施形態の一例を示す。なお、本実施形態では、信頼性評価を行う構造物(以下、評価対象構造物と呼ぶ)として、図2に示すダム洪水吐きラジアルゲート(以下、単にラジアルゲートと表記する)1を例に挙げている。なお、本実施形態のラジアルゲートは左右対称であるので、スキンプレート4に面と向かったときのラジアルゲートの右側半分のみを信頼性評価の対象としている。
【0012】
この構造物の信頼性評価方法は、図1のフローに示すように、有限要素解析を行うための三次元有限要素解析モデルを作成する工程(S1)と、特性変数毎に頻度分布を作成する工程(S2)と、特性変数毎の確率密度関数を推定する工程(S3)と、特性変数の値の組み合わせ毎の有限要素解析を行う工程(S4)と、特性変数の値の組み合わせ毎の起こり易さを算出する工程(S5)と、有限要素解析による最小主応力の頻度分布を作成する工程(S6)と、最小主応力の確率密度関数を推定する工程(S7)と、強度の確率密度関数を設定する工程(S8)と、構造物の信頼性を評価する工程(S9)とで構成されている。
【0013】
(1)三次元有限要素解析モデルの作成(S1)
まず、有限要素解析を行うための三次元有限要素解析モデルを作成する。有限要素解析自体並びに有限要素解析を行うための解析モデルの作成は周知の技術であり、本発明の有限要素解析並びに解析モデルの作成も従来の方法と同様であるのでここでは詳細については省略する。
【0014】
なお、三次元有限要素解析モデルの要素数並びに節点数に特に制限はなく、評価対象構造物の大きさ、有限要素解析に要する作業量及び必要とされる解析結果の精度等を考慮して作業者が適当な要素数並びに節点数を設定する。具体的には例えば、要素数も節点数もそれぞれ数千のオーダーで三次元有限要素解析モデルを作成することが考えられるが、これに限られるものではなく、これより少ない要素数・節点数でも良いし又はこれより多い要素数・節点数でも良い。更に、評価対象構造物が左右対称である場合には、構造物全体を解析モデル化するようにしても良いし、又は、本実施形態のように構造物の左右いずれかの片側半分のみを解析モデル化するようにしても良い。
【0015】
本実施形態では、図2に示すように、ラジアルゲート1の主桁2、脚柱3、スキンプレート4、並びに脚柱間連結部材5及び縦桁6等の補助部材の一部は三次元薄肉シェル要素でモデル化し、その他の補助部材7は三次元梁要素でモデル化する。なお、本実施形態の三次元有限要素解析モデルの要素数は6184、節点数は5882である。
【0016】
(2)特性変数毎の頻度分布の作成(S2)
次に、特性変数の頻度分布を作成する。特性変数は、評価対象構造物を構成する部材に合わせて設定する。具体的には例えば、部材の腐食量や可動部材の摩擦係数などが考えられるが、これに限られるものではなく、経年化によって構造物の信頼性に影響を与えると考えられる要因を特性変数として設定する。
【0017】
そして、特性変数として設定した各要因の実態の調査データや文献に示されている事例データ等を収集し、それら実態の調査データ等を用いて特性変数のそれぞれについて頻度分布を作成する。
【0018】
また、特性変数として設定した要因についての実態の調査データ等が、頻度分布を作成可能な程度には十分にない場合には、いわゆるエキスパート・オピニオンを反映するため、評価対象構造物等についての研究者や技術者等の専門家に対しアンケート調査を実施し、アンケート調査結果に基づき特性変数の頻度分布を作成する。なお、この場合には、アンケート調査データのみを用いて頻度分布を作成するようにしても良いし、又はアンケート調査データと前述の実態の調査データ等を組み合わせて頻度分布を作成するようにしても良い。
【0019】
更に、上記により作成した頻度分布も考慮して特性変数のそれぞれについて取り得る値の範囲を設定する。取り得る値の範囲の設定方法は特に限定されるものではなく、作業者が適宜設定する。具体的には例えば、特性変数の値別の頻度が0より大きくなっている値の最小値と最大値とから設定することが考えられるが、前述の通りこの方法に限定されるものではない。
【0020】
本実施形態では、経年化によってラジアルゲート1の構造信頼性に影響を与える要因としてラジアルゲート1を構成する部材の腐食及びラジアルゲート支承部のトラニオンピン9の滑り摩擦抵抗の変化を考慮する。そして、ラジアルゲート1を構成する部材の平均腐食量(以下、単に平均腐食量と表記する)及びトラニオンピンの摩擦係数(以下、単に摩擦係数と表記する)の頻度分布を作成する。
【0021】
平均腐食量については、ラジアルゲート1のスキンプレート4、主桁2、脚柱3及び主桁補剛材8の四部材の腐食について考慮する。そして、これら部材の平均腐食量の頻度分布は、水力構造物の腐食実態を反映するため、水力構造物の腐食の実態の調査データや文献に示されている事例データ等を収集し、それら実態の調査データ等を用いて平均腐食量の頻度分布を作成する。
【0022】
本実施形態では、水圧鉄管62箇所の調査データ(沼崎吉次:既設水圧鉄管の腐食・強度に関する調査,電力土木,No.151,pp.37−40,54,1977年.)、並びにゲート71箇所及び水圧鉄管37箇所の調査データ(田口泰明 等:水圧鉄管健全性調査手法調査研究報告−特殊超音波による水圧鉄管小支台部の腐食量調査−,水門鉄管,No.211,pp.54−59,2002年6月.)を用いて平均腐食量の頻度分布を作成する。
【0023】
そして、平均腐食量が取り得る値の範囲は、頻度分布も考慮して0.0mm〜2.0mmとする。
【0024】
また、摩擦係数の頻度分布は、いわゆるエキスパート・オピニオンを反映するため、実際の水力構造物におけるピン摩擦係数の値の範囲を聞くアンケート調査を専門家に対して実施し、そのアンケート調査データを用いて摩擦係数の頻度分布を作成する。
【0025】
本実施形態では、水力構造物の専門家である電力会社技術者、メーカー技術者、コンサルタント会社技術者及び研究所研究者等合計30名に対してアンケート調査を行い、そのアンケート調査データを用いて摩擦係数の頻度分布を作成する(図3)。
【0026】
そして、摩擦係数が取り得る値の範囲は、頻度分布も考慮して0.0〜1.0とする。
【0027】
(3)特性変数毎の確率密度関数の推定(S3)
次に、S2で作成した頻度分布を対象に非線形最小二乗法を用いて確率密度関数を推定する。特性変数の確率密度関数の分布形は特に限定されるものではなく、いずれの分布形を用いても良い。具体的には例えば、対数正規分布、指数分布、Rayleigh分布、Frechet分布、Weibull分布等が考えられるが、前述の通りこれらの分布形に限定されるものではない。
【0028】
本実施形態では、平均腐食量並びに摩擦係数は対数正規分布でモデル化する(図4、図5)。
【0029】
(4)特性変数の値の組み合わせ毎の有限要素解析(S4)
次に、S1で作成した三次元有限要素解析モデルを用いてS2で設定した特性変数をパラメータとした有限要素解析を行い、評価対象構造物の応力評価箇所における最小主応力(圧縮応力)を算出する。そして、算出した最小主応力の値のうち絶対値が最大の最小主応力の値を抽出する。なお、前述の通り、有限要素解析自体は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する。
【0030】
ここで、応力評価箇所の設定については、本実施形態では、ラジアルゲート1の非線形構造解析を行うことで破壊モード及び応力が最大となる箇所を特定すると共に、過去に起こったラジアルゲートの破損事例(川村幸司・中野俊次:和知ダムゲートの事故原因調査報告の概要,土木技術資料,Vol.10,No.9,pp.26−32,1968年9月.、U.S. Department of the Interior, Bureau of Reclamation, Mid Pacific Region:Forensic Report Excerpt Spillway Tainter Gate3 Failure, Folsom Dam, CA, USA,1996年.及び Fosker. H. et al.:Improved Diagnostics for Detecting Friction on Dam Gates,Water Power & Dam Construction,pp.39−41,2001年8月.)についても考慮した。そして、非線形構造解析結果及び過去の事故例から、ラジアルゲートの場合、巻き上げ時に起こるラジアルゲートの脚柱基部の座屈が最も問題となることを考慮し、ラジアルゲート1の脚柱3の基部を応力評価箇所Oとして設定した。なお、三次元有限要素解析モデル上では、応力評価箇所Oとして複数の要素を指定している。
【0031】
続いて、S1で作成した三次元有限要素解析モデルを用いて平均腐食量及び摩擦係数をパラメータとした有限要素解析を行い、ラジアルゲート1の応力評価箇所Oにおける最小主応力を算出する。そして、算出した最小主応力の値のうち絶対値が最大の最小主応力の値を抽出する。
【0032】
本実施形態のラジアルゲート1についての有限要素解析は以下の手順で行った。
(ステップ1)自重解析:ラジアルゲート1の鋼材の体積と単位重量とから各部に作用する自重を求めてこれに対する応力解析を行う。
【0033】
(ステップ2)設計洪水位負荷時の解析:ラジアルゲート1に設計洪水位を静的に作用させて応力解析を行う。
【0034】
(ステップ3)巻き上げ荷重を負荷した解析:トラニオンピン9の摩擦に起因する巻き上げ荷重を巻き上げワイヤー取り付け部10に静的に作用させて応力解析を行う。
【0035】
本実施形態の有限要素解析の境界条件は、ステップ1及びステップ2ではラジアルゲート接地面11或いは巻き上げワイヤー取り付け部10で水平方向にローラー支持されていると共にトラニオンピン9で回転のみ自由であるとする。また、ステップ3では境界条件を変更してトラニオンピン9で剛結され、巻き上げワイヤー取り付け部10を自由にすると共に巻き上げワイヤー取り付け部10にトラニオンピン摩擦に伴う巻き上げ荷重を作用させる。
【0036】
ここで、S4の目的は、特性変数の値を変化させた状態毎に有限要素解析を行い、その状態毎の応力評価箇所における最小主応力を算出することである。この際、特性変数はS2で設定した値の範囲で変化させる。具体的には、S2で設定した値の範囲をいくつかに区分し、値の範囲の両端の値と区分の境界の値毎に有限要素解析を行う。ここで、特性変数の値の範囲の区分数は特に限定されるものではなく、解析に要する作業量と必要とされる解析精度を考慮して作業者が適宜設定する。具体的には例えば10区分(この場合、特性変数の値を変化させたケース数は11ケース)程度とすることが考えられるが、前述の通りこれに限定されるものではない。また、特性変数の値の範囲を区分する際には範囲全体を等分するようにしても良いし又は不等分でも良い。
【0037】
そして、有限要素解析は、各特性変数の値を変化させたケースの組み合わせ毎に行う。したがって、有限要素解析を行う全ケース数は各特性変数のケース数を乗じた数となる。なお、以降では、S2で設定した特性変数を特性変数Aと特性変数Bとし、特性変数Aの値のケースをケースi(i=1,2,…)、特性変数Bの値のケースをケースj(j=1,2,…)とし、更にこれらの組み合わせのケースをケース(i,j)とする。そして、ケース(i,j)毎に有限要素解析を行って評価対象構造物の応力評価箇所における最小主応力(圧縮応力)を算出し、算出した最小主応力の値のうち絶対値が最大の最小主応力の値を抽出する。
【0038】
本実施形態では、平均腐食量の値と摩擦係数の値の組み合わせ毎に有限要素解析を行う。本実施形態については、平均腐食量の値のケースをケースi(i=1,2,…)、摩擦係数の値のケースをケースj(j=1,2,…)とし、更にこれらの組み合わせのケースをケース(i,j)とする。そして、ケース(i,j)毎に有限要素解析を行ってラジアルゲート1の応力評価箇所Oにおける最小主応力を算出し、算出した最小主応力の値のうち絶対値が最大の最小主応力の値を抽出する。
【0039】
本実施形態では、S2で設定した通り平均腐食量の値の範囲は0.0mm〜2.0mmであり、この値の範囲を10等分して11個のケースについて有限要素解析を行う。また、摩擦係数の値の範囲は0.0〜1.0であり、この値の範囲を5等分して6個のケースについて有限要素解析を行う。したがって、本実施形態では、全部で66個(=11×6)のケースについて有限要素解析を行い、ケース毎のラジアルゲート1の応力評価箇所Oにおける最小主応力の値のうち絶対値が最大の最小主応力の値を抽出する。
【0040】
(5)特性変数の値の組み合わせ毎の起こり易さの算出(S5)
次に、特性変数の値の組み合わせ毎の相対的な起こり易さを算出する。特性変数の値の組み合わせ毎の相対的な起こり易さは、S3で推定した特性変数毎の確率密度関数に基づく確率密度を用いて算出する。具体的には、特性変数Aの値と特性変数Bの値の組み合わせのケース(i,j)間の相対的な起こり易さを(数1)で表す。
【0041】
(数1)wi,j=f(a)×f(b)
ここに、wi,j:ケース(i,j)の相対的な起こり易さ、f(a):特性変数Aの値がa(特性変数Aのケースi)のときの確率密度、f(b):特性変数Bの値がb(特性変数Bのケースj)のときの確率密度。
【0042】
(6)最小主応力の頻度分布の作成(S6)
次に、S4で算出した特性変数の値の組み合わせのケース(i,j)毎の評価対象構造物の応力評価箇所における最小主応力の絶対値最大とS5で算出した特性変数の値の組み合わせのケース(i,j)毎の相対的な起こり易さwi,jを用いて最小主応力の頻度分布を作成する。具体的には、有限要素解析の結果算出されたケース(i,j)の最小主応力の頻度としてケース(i,j)の相対的な起こり易さwi,jの値を積み上げる。このようにすることにより、この頻度分布は、ケース(i,j)間の相対的な起こり易さの大小が考慮されたより現実的な頻度分布となる。
【0043】
(7)最小主応力の確率密度関数の推定(S7)
次に、S6で作成した最小主応力の頻度分布を対象に非線形最小二乗法を用いて確率分布の形を推定する。最小主応力の確率密度関数の分布形は特に限定されるものではなく、いずれの分布形を用いても良い。具体的には例えば、対数正規分布、指数分布、Rayleigh分布、Frechet分布、Weibull分布等が考えられるが、前述の通りこれらの分布形に限定されるものではない。
【0044】
本実施形態では、対数正規分布を用いて最小主応力の確率密度関数を推定する。
【0045】
(8)強度の確率密度関数の設定(S8)
降伏強度を確率変数として扱う場合、その分布形は、評価対象構造物の降伏強度の実態の調査データや文献に示されている事例データ等を収集し、それら実態の調査データ等に基づき設定することが可能である。
【0046】
本実施形態では、経年化した水力鋼構造物の実態を反映すると共に経年化した水力鋼構造物の維持管理として厳しい材料条件を課すため、水力鋼構造物の降伏強度の実態の調査データや文献に示されている事例データ等を収集し、それら実態の調査データ等を用いて強度の確率密度関数を設定する。具体的には、昭和20年代に設置された水圧鉄管の降伏強度の実績値(沼崎吉次:昭和20年代の溶接管の強度について,電力土木,No.167,pp.76−79,1980年.)を用い、確率密度関数の分布形を正規分布として強度の確率密度関数を設定する。
【0047】
以上により算出した本実施形態の応力の確率密度関数(S7)と強度の確率密度関数(S8)は図6に示す通りとなる。
【0048】
(9)構造物の信頼性の評価(S9)
本手法では、1次ガウス2次モーメント法を用いて、構造物の破壊確率及び安全性指標βを算出する。なお、1次ガウス近似法自体は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する(例えば、Hasofer,A.M. and N.C.Lind:Exact Invariant Second-Moment Code Format,J. Eng. Mech. Div.,ASCE,Vol.100,No.EM1,pp.111−121,1974年.)。
【0049】
具体的には、まず、(数2)に示すように、性能関数Z=g(X,…,X)を限界状態表面g(X,…,X)=0上の点x=(x,…,x)周りにTaylor展開する。
【0050】
【数2】

【0051】
(数2)の右辺の級数を一次項で打ち切ると(数3)が得られる。
【0052】
【数3】

【0053】
(数3)中の確率変数が全て正規確率変数で近似されると仮定した場合、(数3)は正規確率変数の線形一次関数となるのでZも正規確率変数となる。つまり、Zの平均値μZiと標準偏差σZiを求めることができれば、破壊確率Pは(数3)を使わずに(数4)により計算することができる。
【0054】
【数4】

【0055】
本発明では、正規確率変数としてみなせない変数については非正規確率変数として扱って安全性指標を計算する。ここで、(数3)を各確率変数の平均値μxjで書き直すと(数5)の通りとなる。
【0056】
【数5】

【0057】
ここで、ある任意の点xを性能関数Z=0上の点とすると(数6)が成り立つ。
【0058】
【数6】

【0059】
(数7)によりZの平均値μを求め、(数8)によりZの分散σを求める。
【0060】
【数7】

【0061】
【数8】

【0062】
ただし、(数8)のαは(数9)の通りである。
【0063】
【数9】

【0064】
そして、安全性指標βを(数10)により算出する。
【0065】
(数10)β=μ/σ
【0066】
以上により算出した破壊確率Pが小さいほど、また安全性指標βが大きいほどラジアルゲート1の構造信頼性は高いと評価する。
【0067】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。本実施形態では、特性変数の数を二つとしているが、これに限られず、三つ以上の特性変数を設定するようにしても良い。この場合には、特性変数の値の組み合わせ毎の相対的な起こり易さを多次元確率分布から算出する。
【0068】
また、本実施形態では、ダムの静水圧荷重として設計洪水位の場合の荷重を負荷しているが、ダムの静水圧荷重はこれに限られるものではなく、構造信頼性評価の目的に合わせてダムの水位を設定して構造信頼性の評価を行うようにすれば良い。更に、地震動による荷重を考慮するようにしても良く、この場合には震度に基づいて地震動による荷重を負荷する。この場合も、構造信頼性評価の目的に合わせて震度を設定して地震動による荷重を負荷し、構造信頼性の評価を行うようにすれば良い。
【0069】
更に、本実施形態では、強度の経年による変化は考慮していないが、これに限られず、経過年数により強度が低下するような経過期間別の確率密度関数を推定するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の構造物の信頼性評価方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
【図2】本実施形態のラジアルゲートの全体概要と共に三次元有限要素解析モデル(要素分割図)を示す斜視図である。
【図3】本実施形態のトラニオンピン摩擦係数の頻度分布図である。
【図4】本実施形態のラジアルゲートの平均腐食量の確率密度関数を示す図である。
【図5】本実施形態のトラニオンピン摩擦係数の確率密度関数を示す図である。
【図6】本実施形態の応力評価箇所Oにおける応力と強度の確率密度関数を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 ラジアルゲート
2 主桁
3 脚柱
9 トラニオンピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経年劣化した構造物の実態に関する調査データ並びに専門家へのアンケート調査データを基に特性変数毎の確率密度関数を推定すると共に前記特性変数毎の確率密度から前記特性変数の値の組み合わせ毎の相対的な起こり易さを算出し、前記組み合わせ毎に行った有限要素解析で得られた発生応力の頻度分布を前記組み合わせ毎の相対的な起こり易さを用いて変換した前記発生応力の頻度分布から確率密度関数を推定し、該発生応力の確率密度関数と既存データから設定した強度の確率密度関数とに基づいて破壊確率と安全性指標を算出する経年劣化した構造物の信頼性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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